視覚障害者と高等教育

現在、視覚障害者のための唯一の専門高等教育機関として筑波技術大学があります。茨城県にある同大学には保健学科(鍼灸学専攻、理学療法学専攻)と情報システム学科があります。
一般の大学も視覚障害者に門戸を開いています。しかし、今でもごく一部の学部で視覚障害者の受験が断られることがあります。例えば、史学科に入学しても「古文書が読めないので単位が取れないでしょう」というようなケースです。
 ここでは、視覚障害者が大学等の高等教育機関に就学した場合の課題について解説します。

1.教材の確保

 視覚障害者が一般の大学に入学した場合、最初にぶつかるのが教科書などの教材を自分の読める媒体でどう確保するかという問題です。

(1)全盲の場合

 事前に教科書を入手し、点訳ボランティアに点訳してもらったり、テキストをデータ化してもらいます。教科書の著者が大学の先生の場合、元のテキストデータを直接いただけることもあります。

(2)弱視の場合

 拡大図書にしてもらっているケースはほとんどありません。原本の教科書をルーペや拡大読書器で読むか、データを自分で拡大して印刷したり、パソコンやタブレット端末で拡大して読むことが多いです。

2.アクセシブルな教材の共有

 アクセシブルな教材の共有も今後の課題です。
 関西の大学では、視覚障害学生を中心に「関西SL(Student Library)」を組織し、点訳された教材を共有したり、先輩から後輩へと譲ったりしていました。
 本来、このような取り組みは全国規模で求められるところです。しかも、今はインターネットを介してデータベース化することも技術的には可能です。
 しかし、各大学の障害学生支援室がネットワークを構築し、アクセシブルなデータを全国の視覚障害学生で共有しようとすると、点字データであれば可能ですが、テキストデータとなると著作権法の問題でできません。大学図書館であれば合法ですが、図書館業務を行わない障害学生支援室は違法となります。
 大学図書館がネットワーク化に取り組むか、障害学生支援室も大学図書館と同じようにテキストデータをインターネットで配信できるように著作権法を改正する必要があります。

3.その他の課題と対策

 視覚障害学生の大学生活には、ほかにもいくつか課題があります。
 入学前に構内を移動する練習は、盲学校の先生がサポートしている場合もありますが、保護者などに頼らざるを得ないこともあります。
 体育などの実技については、夏に視覚障害者でもできるスポーツで集中講義を行い、単位を取得させている大学もあります。
 講義の臨時休講などの連絡は掲示板に張り出される為、視覚障害学生が連絡事項を知るのは困難でしたが、最近はメールなどで情報を受け取ることができるようになってきています。

4.支援体制の例

(ア)筑波技術大学・独立行政法人日本学生支援機構

 筑波技術大学の障害者高等教育研究支援センターは、他の大学のために、点訳サポートや入試に関わる受験生および受け入れ側大学に対する事前指導・準備などを実施して支援しています。
 独立行政法人日本学生支援機構では、セミナーの開催、障害学生への支援の実態調査などを行っています。

(イ)各大学の障害学生支援室

 近年、いくつかの大学が障害学生支援室を設置しています。
残念ながらまだすべての大学で障害学生支援室が設置されているわけではなく、このような動きを点から線へ、そして線から面へと広げていく必要があります。