弱視者教育の課題

 弱視者の見え方は一人ひとり異なります。
弱視児童・生徒が必要とする支援も個々に違いますが、その見えにくさが理解されにくいため周囲から誤解を受けたり、どう支援したらよいのか分からないという声もしばしば聞かれます。
ここでは、弱視児童・生徒にとって必要不可欠な教科書や教材を中心に現状と課題について解説します。

1.拡大教科書

 弱視児童・生徒の中には、通常の検定教科書に目を近づけたり、ルーペや拡大読書器を使用しながら教科書を読んでいる児童・生徒もいます。
しかし、およそ半数の弱視児童・生徒は、文字を太く大きくし、図形なども見やすく書き直した拡大教科書を必要としています。
 拡大教科書の製作は、長年全国各地の拡大写本ボランティアが手書きなどの方法により担ってきました。

(1)教科書バリアフリー法

2008年に「障害のある児童及び生徒のための教科用特定図書等の普及の促進等に関する法律」、いわゆる教科書バリアフリー法の成立以来、義務教育段階の拡大教科書の供給体制は大きく改善されました。
特に、2011年の小学校教科書の全面改定時、及び2012年の中学校教科書の全面改定時を機に、教科書出版社から義務教育段階の全ての科目の拡大教科書が発行されるようになりました。
現在は弱視児童・生徒が盲学校だけでなく、地域の小・中学校に就学したとしても、確実に拡大教科書が使えるようになっています。

(2)拡大文字の多様性

教科書出版社から発行される拡大教科書とは、おおむね文部科学省が定めた標準的な規格に準じて作成されます。弱視児の一人ひとりの見えにくさに対応するため、(ア)18ポイントのA5判、(イ)22ポイントのB5判、(ウ)26ポイントのA4判の3種類から選べるようになっています。
しかし、この18~26ポイントの拡大文字は大多数の弱視児童・生徒のニーズはカバーしますが、すべての弱視児童・生徒のニーズをカバーしているわけではありません。「26ポイントよりもっと大きな文字の拡大教科書がほしい」「白黒反転した拡大教科書の方が見やすい」などのニーズもあります。このようなニーズには、引き続き全国拡大教材製作協議会をはじめとする拡大写本ボランティアグループの支援が必要です。

(3)高校の教科書

 高校の拡大教科書供給にはいくつかの大きな課題が残されています。
盲学校(視覚障害特別支援学校)でさえ、高等部となると標準的な規格に基づく3種類の拡大教科書は一部の科目でしか発行されていません。
 また、盲学校では、拡大教科書や点字教科書は就学奨励費の対象になっているため無償で与えられます。しかし、通常の高等学校の場合は鳥取県と島根県を除き、高額な拡大教科書を全額自己負担する必要があります。拡大写本ボランティアに製作してもらったとしても、実にその額は数万円から数十万円に及びます。
日本国憲法にある法の下の平等や教育の機会均等という精神を踏まえ、障害者差別解消法に基づく合理的な配慮として、検定教科書と拡大教科書の価格差を公費で補償するような制度が必要です。

2.電子教科書

 近年、タブレット型情報端末を用いた電子教科書の研究が進んでいます。紙の教科書と違い、音声や画像を再生することができ、瞬時に文字の色や背景色を変えられるなどのメリットもあります。
一方、液晶画面を見続けることで眼精疲労の問題などが起こることも懸念されます。一人ひとりのニーズに応え、学習効率が向上するような媒体を目指し、弱視児童・生徒の視点に立った研究開発を期待します。

3.副教材など

 副教材や参考書、問題集などの教材、絵本、児童文学などの拡大版の供給は、点字や録音に比べても圧倒的に少なく、まだまだ足りていないのが現状です。
このような拡大図書も日々の学習では必要です。子どもが言葉を学び、感性を磨き、表現力を高め、創造力を豊かなものにし、人生をより深く生きる力を身に付けていく上でも欠くことのできない図書と言えます。
著作権法に関する問題を解決し、目が見えにくい弱視の子どもたちにも、あらゆる機会とあらゆる場所において自主的に読書活動が行えるよう学習環境を整備していくことが求められます。