盲学校教育の課題
全国には盲学校(視覚障害特別支援学校)が国・公・私立合わせて約70校あります。
我が国では、1878年(明治11年)に京都盲唖院(現京都府立盲学校)が創立されて以来、盲学校は百数十年にわたり全国各地で地域の視覚障害教育の専門機関として盲教育・弱視教育の中核的な役割を果たしてきました。
その盲学校教育にも次のような課題があります。
1.学生の減少、障害の重複化・多様化
多くの盲学校が直面している課題は、幼児・児童・生徒・学生の減少と障害の重複化・多様化という問題です。
国全体として少子化の傾向にあることに加え、医学の進歩による視覚障害児の発生率の低下やインクルーシブ教育の進展などが児童・生徒の減少の要因として考えられます。学校の教員数も児童・生徒数によって決まりますので、児童・生徒が減少すれば教員も減ります。
重複化・多様化については、視覚障害だけでなく、知的障害や発達障害などの障害を合わせ有する児童・生徒の割合も増えてきています。
2.専門性の維持
教員の視覚障害教育に関する専門性の維持も大変深刻な問題です。
(1)教員の異動
教員の異動を機械的かつ定期的に行う自治体が増えてきました。せっかく視覚障害教育に慣れてきても、一般校に異動になることが起きています。
異動が多く盲学校での在職年数が少ない問題は、教員だけでなく学校をリードする校長の多くにも当てはまります。
結果として、盲学校の教員の中に蓄積されてきた専門性が維持できず、児童・生徒の能力を十分に引き出せないことも懸念されるところです。
そのため、現行の機械的な人事異動の仕組みを改める必要があります。一定のキャリアを持ち視覚障害教育に精通した教員が、盲学校の教員としてある程度長く勤務し続けられるような改善策が求められます。
または、弱視学級や視覚に障害のある児童・生徒が在籍する学校に異動し、引き続き培った専門性を生かし、教育に携わること等が可能な人事制度の工夫も求められます。
(2)教員のスキルアップ
視覚障害に関する研修の機会を確保し、視覚障害特別支援学校教員免許状の保有率を高める必要があります。
一方、障害の重複化・多様化に対応するため、教員も視覚障害だけでなく、幅広い障害児教育に関する知識が求められるようになりました。例えば、盲ろう児に対する盲ろう教育、知的障害教育、学習障害をはじめとする発達障害教育などです。
3.インクルーシブ教育への対応
2006年(平成18年)に学校教育法の一部が改正され、第七十四条に「幼稚園、小学校、中学校、高等学校又は中等教育学校の要請に応じて、第八十一条第1項に規定する幼児、児童又は生徒の教育に関し必要な助言又は援助を行うよう努めるものとする。」という内容が盛り込まれました。
これは盲学校が地域のセンター的な役割を果たすために教育支援担当者を派遣し、地域の学校に在籍する視覚に障害のある幼児・児童・生徒の学習を支援するよう求めるものです。
(1)教育支援担当者
教育支援担当者は、学校教育法や教職員の定数に関する規定では何ら定められていません。したがって盲学校教員は盲学校に在籍している児童・生徒の教育と、教育支援担当者として地域の学校に在籍する視覚障害児の支援を担うという重い負担を負うことになります。
より質の高い教育とインクルーシブ教育を支える十分な支援を行っていくためには、教職員の定数を教育支援担当者も加えた数にするなど、必要な人材を確保するための施策が必要です。
(2)学校名の問題
文部科学省は2006年に盲・聾・養護学校を特別支援学校と改めました。
しかし、この中の「特別」という文言に違和感を持つ人もいます。
共生社会を目指す上での大切な理念はノーマライゼーションです。障害児への支援は「必要な」支援であって、それを特別と表現するのは、差別を解消していくという考え方に逆行していると見る向きもあるのです。
全国の盲学校の中には、特別支援学校と名称を改めた所もありますが、従来通り盲学校の名称を使っている学校もありますし、特別という言葉を避け、視覚支援学校という名称を用いている学校もあります。
特別支援教育や特別支援学校という名前は改め、ノーマライゼーションや共生の理念にふさわしい教育理念を掲げることが、今後必要になってくると思われます。