ホームドア・ホーム柵

1.ホームドアとは

 2014年(平成26年)に日本盲人福祉委員会が発行した『日本の視覚障害者』には、ホームドアを、次のように説明しています。

 「ホームからの転落や列車との接触事故防止等の安全対策として、プラットホームを壁面で囲い、ドアを取りつけて、列車の乗降に合わせて開閉させるもの。ホーム構造や列車車両編成の違い等により、天井までを完全にホームを覆う「フルスクリーンタイプ」、高さが腰高以下の「可動式ホーム柵」が、日本では一般的だが、海外では、ロープが上下に動く仕組みの「ロープ式スクリーンドア」などのタイプもある」

 最近ではあちこちの駅ホームで見かけるようになりましたが、可動式ホーム柵は、車両ドア部分に設けられた可動柵部が、車両ドアと連動して開閉することにより、乗客と進入する列車とを安全に区画する安全装置のひとつです。

 狭義のホームドアはフルスクリーンタイプのことで、天井まで工事が必要なため、新設の地下鉄などにみられ、ほぼ密閉されているので、安全面では高い評価を受けていますが、施工に費用がかさむという難点もあります。

2.ホームドアの必要性

 1973年(昭和48年)に全盲の上野孝司さんが、東京・高田馬場駅ホームから転落し、即死する事件がおこりました。この事故の責任を問う裁判がきっかけとなり、点字ブロックをはじめ、電車連結部分の転落防止ガードや警告装置の設置が進みました。視覚障害者の間でよく知られている、「上野訴訟」と総称して呼ばれる死傷事故のことです。しかし、残念ながらその後も、転落事故は減少していません。

 また、2001年(平成13年)1月に、山手線・新大久保駅で、泥酔した男性がプラットホームから線路に転落し、男性を救助するため線路に飛び降りた日本人カメラマンと韓国人も電車にはねられ、3人とも死亡した事故は、人命救助の悲劇として日韓両国で大きく報道されました。

 この事故をきっかけに、関東圏ではプラットホーム床下に、転落時に逃げ込むための空間を設けるなど、視覚障害者のみならず、一般の乗降客にとってもホーム柵・ホームドアの安全装置の設置の必要性が認知されるようになりました。

3.ホームドアの種類

 現在日本で設置されているホームドアには、大きく2つのタイプがあります。ひとつは、「フルスクリーン」というドアタイプで、人の背丈より高く、上部の構造体に支えられているものです。厳密には、この形式を「ホームドア」と呼びます。もう1つは、「可動式ホーム柵」というもので、腰高までで床面のみで支えられている柵タイプです。「ホームゲート」とも言われていましたが、最近では聞かなくなりました。
 ただし、新聞・テレビなどでは、両者を総称して「ホームドア」と呼んでいるようです。

 なお、柵タイプには、ホームドア等とは別に、乗降口が開閉せず開口部が残ったままになる「固定式ホーム柵」もあります。

4.新しいホームドアの開発

 2013年(平成25年)からおよそ1年間、国土交通省が進める新型ホームドア・可動式ホーム柵の実証実験が各路線ホームで暫定的にテスト運用(フィールドテスト)されています。これら新型ホームドア・ホーム柵の共通点は、従来のホームドアとは違い、設置がしやすい点です。

(1)乗降位置可変型ホーム柵「どこでも柵」

 実証実験は、西武新宿線新所沢駅のプラットホームで実施されていました(2013年8月~2014年2月)。
 このタイプは、ホームドアやホーム柵が、車両のドア数や位置が複数ある路線などでは設置できないという問題を解決するために開発されたものです。扉だけでなく戸袋も移動することで、あらゆる車両のドア位置に対応できるという点が特長ですが、工事が大掛かりで、費用が嵩むという課題もあります。

(2)昇降ロープ式ホームドア

 実証実験は、東急電鉄の田園都市線つきみ野駅で行われています(2014年4月現在)。
 このタイプは、ホーム上に柱を約10メートル間隔で設置して、その柱と柱の間に28本の細いワイヤーロープを柵として張り、列車の到着と出発に合わせて上下に昇降する、という仕組みの安全性を確かめています。横に長いロープを柵とするため、三つドアも四つドアにも対応できる上に、軽量化と設置コストの低減が利点なのですが、繰り返し安全性の検証が必要です。

(3)昇降バー式ホームドア

 相模鉄道・いずみ野線の弥生台駅に実験設備が設置されています。(2014年4月現在)。
 このタイプは、従来のホームドアの開口部分を3本の太い横長の棒とすることで、軽量化とコストダウンを図り、安全性との兼ね合いを検証しています。既存のホームドアがホームと線路を壁として完全に分断しているのに対し、隙間が多いため、設置コストが抑えられる上に、圧迫感が少ないと説明されています。

5.ホームドア・可動式ホーム柵の歴史

 ホームドア等の歴史は意外と古く、日本においては1981年(昭和56年)に開業した、新交通システム「神戸ポートライナー」までさかのぼります。新交通システムは、都市の水平エレベータとして、無人自動運転を行うもので、乗務員もホーム係員もいない状況で乗客の安全を確保するために、必要な設備として導入されました。

 鉄軌道では、1991年(平成3年)の営団地下鉄南北線のホームドア全駅設置が、その後の新規路線におけるフルスクリーンタイプの導入促進の引き金となりました。JRでは、1977年(昭和52年)に、新幹線の新横浜・熱海・新神戸の3駅が、通過列車の風圧事故対策として可動式ホーム柵を設置してから、既存のホーム改良によって、ホームドアよりもはるかに安価で設置が可能なため、徐々に広がっていきました。

6.日盲連の取り組み

 新しいホームドアの実証実験も進んでいますが、日盲連は、実際に運行している電車に対応できる技術レベルまでに至っている事実に注目しています。当事者の意見を述べるとともに、多くの駅にホームドア・可動式ホーム柵が設置されるよう、なお一層の開発と実用化を要望していきます。さらに、国土交通省の交通バリアフリーに関する安全対策の検討委員会などに、これからも参加協力していきます。

 私たち視覚障害者だけでなく、一般の酔客の安全対策や衝動的な自殺予防にも寄与できますので、ホームドア・可動式ホーム柵の普及にご理解とご支援をお願いいたします。