「視覚障害者への代筆・代読支援に関する調査研究」 報告書

2019年4月10日

 日本盲人会連合は、厚生労働省平成30年度障害者総合福祉推進事業「視覚障害者への代筆・代読支援に関する調査研究」を受託し、平成30年度事業として調査を実施しました。

 本事業は、視覚障害者が日常生活を送る上で必要な支援である代筆・代読支援について、障害者総合支援法の意思疎通支援事業として代筆・代読支援の実施が自治体において積極的に行われることを目指し、調査等を実施しました。

 そして、この度、調査結果を取りまとめた報告書が完成しましたので、公開をいたします。ご活用の程、よろしくお願いいたします。

 なお、調査にご協力をいただきました皆様には御礼を申し上げます。

1.調査報告書のデータ

  報告書は下記よりダウンロードができます。

(1)全体版
   ①墨字版(PDF形式/3MB) 
   ②テキスト版(TXT形式/130KB  

(2)概要版
   ①墨字版(PDF形式/881KB)  
   ②テキスト版(TXT形式/35KB) 
   ③点字版(BES形式/13KB)
   ④DAISY版 (DAISY形式/14MB)
   ⑤MP3版(MP3形式/30MB)
  

 

【右写真の説明】
「視覚障害者への代筆・代読支援に関する調査研究」報告書表紙

2.調査結果(まとめ)

 調査のまとめとなる「第8章 まとめ」を抜粋して掲載します。


1 代筆・代読支援に関わる実態とニーズの整理

 調査結果や検討委員会での意見などを踏まえ、第7章では代筆・代読支援に関する実態やニーズについて多角的な考察を行った。本章では、その実態やニーズを改めてまとめ、全体像について考えてみたい。

 まず、視覚障害当事者は、日常生活での読み書きに困っており、代筆・代読支援は生活になくてはならない存在となっている。そして、その困っている状況を少しでも改善させるため、利用しやすい公的な福祉サービスの充実した支援を求めている。つまり、視覚障害者の代筆・代読支援のニーズは非常に高いと言える。

 しかし、現在、公的な福祉サービスとして代筆・代読支援を実施している同行援護と居宅介護は、支援の質や制度面に問題があり、結果的に十分な支援を提供していない状況にある。そのため、視覚障害当事者からは、支援の質や支援を支える制度を改善してほしいとの要望が出ており、もっと代筆・代読支援を安心・安全に利用したいというニーズに直結している。

 一方で、自治体では、視覚障害者のニーズに応えるため、公的な福祉サービスの中で代筆・代読の支援が用意されている。しかし、実態は、そのニーズに対応した支援が実施されていない。

 まず、意思疎通支援事業「代筆・代読支援」については、全国での実施率は1.4%と低調になっている。視覚障害者からのニーズが高いことを踏まえると、自治体に対してそのニーズが届いていない現状がある。また、同行援護・居宅介護での代筆・代読支援については、前述した制度面の問題により支援自体に限界があること、自治体自体が視覚障害者のニーズを上手く把握できていないことが現状の課題である。つまり、公的な代筆・代読支援の問題点の解決、自治体がニーズを上手く吸収できない問題の解決が求められている。

 しかし、自治体自体は、障害者に対する支援は前向きに考えている部分もある。そのため、もし、意思疎通支援事業「代筆・代読支援」を新たに開始するのであれば、円滑にサービスを実施するための支援体制などの条件面の整理を求めている。

 このような背景があり、視覚障害者が公的な福祉サービスでの代筆・代読支援に満足をしていない状況が生まれている。

【8-1】代筆・代読支援に関わる実態とニーズの整理 イメージ図

 

2 目指すべき代筆・代読の支援体制

 前ページでは、実態調査で見えてきた代筆・代読支援に関わる実態とニーズを整理した。そして、改めて、現在の視覚障害者が置かれている現実に戻った上で、どのようにしたら全国の自治体で意思疎通支援事業「代筆・代読支援」を活発に取り組ませることができるかをまとめてみたい。

 まず、視覚障害者が代筆・代読支援を利用する「場所」において、最も利用の要望が高いのは「自宅(居宅)」である。そして、現状の公的な福祉サービスで代筆・代読支援が受けられる同行援護や居宅介護は、この自宅(居宅)での代筆・代読支援が実施しづらい。つまり、この「自宅(居宅)」での代筆・代読支援が、公的な福祉サービスの中で大きな穴になっており、この穴を埋めることが自治体の支援に求められている。

 その穴を埋める方策の一つとして、意思疎通支援事業「代筆・代読支援」を、居宅専門のサービスとして実施することが有効と考える。この点は、視覚障害当事者、自治体、そして支援者にとってメリットがある。

(1)視覚障害当事者のメリット

 自宅での代筆・代読支援が行われれば、既存の同行援護や居宅介護の一部で実施していた代筆・代読支援を、専門的に受けることができ、ある程度は支援に与えられる時間と質が担保される。

 また、意思疎通支援事業であれば、他のサービスとの組み合わせも可能となり、同行援護を利用して買い物をした場合、帰宅後に購入した商品の表示などの読み上げも可能となる。これは視覚障害者にとっては、切れ目のない支援を受けることができ、大きなメリットがある。

(2)自治体のメリット

 自治体は、福祉サービスを実施するにあたり、受け皿となる支援者の確保が大事だと考えている。もし、居宅で意思疎通支援事業「代筆・代読支援」を行うのであれば、その支援者は同行援護の従事者を即効性のある支援者として活用できる。また、同行援護の従事者は、ある程度、情報提供の技術があることから、支援の質を保つことができる。また、意思疎通支援事業は他の障害福祉サービスとの組み合わせも可能としていることから、自治体が求める条件面が揃えば、すぐにでも意思疎通支援事業で「代筆・代読支援」が実施できる可能性は高い。

(3)支援者のメリット

 居宅で代筆・代読支援ができるのであれば、同行援護や居宅介護の追加サービスとして支援が実施できるので、仕事の効率が良い。特に同行援護においては、支援者の確保が重要な課題となっていることから、仕事の幅を広げ、収入の確保につながる特効薬になる可能性もある。

 これらのメリットを踏まえると、居宅で意思疎通支援事業「代筆・代読支援」を行うことは、視覚障害者のニーズを満たす効果がある。そして、自治体でも比較的条件が揃っていることから、サービスは開始しやすく、代筆・代読支援の実施率の改善につながることが期待できる。

【8-2 居宅で意思疎通支援事業「代筆・代読支援」を行うメリット】

3 調査目的の確認、今後の目標

 本調査は、意思疎通支援事業「代筆・代読支援」の実施が自治体において積極的に行われることを目指し、予め設定した論点について、調査を通して課題整理を行うものであった。

 論点①とした「視覚障害者に対する代筆・代読支援の提供方法・体制の在り方」については、実態やニーズの確認を行い、現状の提供方法・体制には不満があり、支援の抜け穴になっている居宅での代筆・代読支援の実現、更には支援の質の向上が課題となっていることが整理できた。ただし、多様な見え方や行動がある視覚障害者の個別特性については、未整理な部分が多く、今後の課題となっている。また、視覚障害者自身が、代筆・代読支援のニーズを自治体に的確に伝えることも課題となっている。

 そして、論点②とした「自治体における代筆・代読支援の実施体制の在り方」については、更なる調査や課題整理が必要と考えている。特に、今回の調査で分かった自治体がサービスを開始するための条件については、まだまだ不明確な点が多い。更に、自治体の実施体制を考えると、今年度調査ができなかった支援者側の実態やニーズなどの課題整理も必要になっている。

 今年度は、代筆・代読支援の実態やニーズの課題整理はできたものの、支援の実施に向けた課題整理はまだまだ多い。今後は、視覚障害者の実態やニーズの更なる整理、自治体が実施するために必要な条件の整理を行い、意思疎通支援事業「代筆・代読支援」を活性化させるための明確な支援体制などを立案することが必要である。

 近い将来に、意思疎通支援事業「代筆・代読支援」が、どこでも、誰でも受けられることを、社会全体で目指す必要がある。

【8-3 意思疎通支援事業「代筆・代読支援」を開始するための条件】

(1)支援を行うための受け皿

  ・支援者の確保

  ・支援手法の整理(的確な支援、情報漏洩対策など)

  ・支援者の養成(養成カリキュラムの確立)

(2)明確な支援体制

  ・支援体制の整備

  ・他の福祉サービスとの差別化

  ・法制度の整理や予算の確保

(3)その他

  ・利用者からのニーズの把握  ・サービスの周知