各種試験の受験環境

 試験の環境を整えることは、障害者の自立と社会参加を目指すうえでもとても重要な課題です。進学先を決定する入学試験、就職先を決定する就職試験、資格を得るための国家試験、さまざまな能力を試す検定試験など人生の岐路において試験が人生を決めると言っても過言ではありません。

 試験を公平に受けるにあたり、見えない・見えにくいという障害がハンディとなることはあってはならず、すべての試験で障害の有無や程度に関わらず、個人の能力が十二分に発揮できるような試験環境を整備していくことが求められます。

1.拡大文字による試験

 弱視者は視覚障害者の約7割とも言われています。その弱視者のための拡大文字による試験ですが、見えにくさが一人ひとり異なるため、試験における配慮も一律というわけにはいきません。
 本来は個別のニーズに対応するというのが理想的ではありますが、不特定多数の弱視者が受験するような試験では、現実的に数種類の試験問題を作成するのも難しいと思われます。
 そこで、当分の間、これまでの先行調査を基に作成された文部科学省の拡大教科書に関する標準的な規格に基づき、拡大文字による試験問題が作成されるのが合理的であると言えます。

 例えば、A4判で22ポイント、ゴシック体の問題を作成し、それをB5判に縮小すれば約18ポイントの文字になります。またA4判をB4判に拡大コピーすれば約26ポイントの大きさになります。こうすれば1種類の試験問題を作ることにより、事実上18~26ポイントという弱視者の多くのニーズに対応する試験問題が作成できることになります。
 しかし、現在入学試験のスタンダードとなっている大学入試センター試験では、通常の10ポイント程度の文字をゴシック体に変え、それを単純に1.4倍に拡大コピーしているだけですので、14ポイント程度の文字しか提供されていません。
 よって、センター試験に準じるその他の大学入試や高校入試でも適切な配慮はなされていません。

 弱視の受験生にも見えにくさがハンディとならないよう、適切な拡大試験問題が用意されることが求められます。

2.点字による試験

 点字試験問題は大学入試センター試験などの入試においては概ね作成されていますが、地方公務員の採用試験など、就職試験においては作成されていないという現状があります。
 そもそも一部の地方公務員の受験資格に「活字印刷文による出題に対応できる人」という条件があり、点字使用者の受験を実質的に禁止している自治体も見受けられます。
 これは事実上の欠格条項であり、障害者差別解消法の基本理念から考えても大きな問題と言えます。職務遂行が不可能な職種を除き、障害者の職域を拡大するという視点も含め、点字使用者を排除するような受験資格は撤廃することが求められます。

3.音声(デイジーや代読)による試験

 音声(デイジーや代読)による試験はあまり普及していないというのが現状です。鍼灸などの国家試験において、デイジーを墨字や点字の補助手段として併用することは認められていますが、その他の資格試験ではほとんど認められていません。
 パソコンによる受験も交渉の末、ごく一部の入試や就職試験において認められた例があるというのが実情です。

4.試験時間の延長・解答方法について

 試験時間の延長は、試験によってバラバラな対応になっています。
 大学入試センターは、視力0.15以下の弱視者には1.3倍の時間延長、点字受験の場合は1.5倍の時間延長を認めています。また、司法試験は2倍の時間延長を認めていて、逆に公立高校入試を実施している自治体の中には、時間延長を全く認めていないところもあります。
 解答方法についても、拡大読書器を使用している弱視者に対し、問題用紙への書き込み解答を認めている実用英語技能検定(英検)のような資格試験もありますが、一方でマークシート方式の回答に弱視者が苦慮しているというケースもあります。

5.今後の課題

 今後、あらゆる試験において障害者に対する合理的な配慮が求められていく中で、障害の程度に対応した試験媒体の準備、適切な時間延長、解答方法などについて視覚障害者の視点に立った抜本的な検討が必要です。
 また、国として障害者の受験については何をどう配慮すべきなのか、全省庁で統一的な基準を設けることが求められます。