著作権問題の今

 視覚障害者の読書の問題は、著作権法上の著作権の制限と表裏一体のような関係があります。具体的には、著作権法第三十七条において「視覚障害者等のための複製等」という条文があり、通常の活字図書を視覚障害者が読める媒体に変換する際の著作権の制限が次のように規定されています。

1.点訳

 点訳は従来から「公表された著作物は、点字により複製することができる。」と規定されていますので、著作権者に許諾を得なくてもだれでも活字の本を点訳することができます。

2.音訳

 音訳については、2009年(平成21年)までは、点字図書館(視覚障害者情報提供施設)などの限られた施設で貸し出す場合に限り、著作権者の許諾を得なくても音訳することが認められていました。
 2009年(平成21年)の著作権法改正により、点字図書館だけでなく、学校図書館、大学図書館、国会図書館、養護老人ホームなどの施設も対象に加えられました。また、その目的も貸し出しだけでなく、自動公衆送信、つまり音訳図書データをインターネットからダウンロードにより譲渡することもできるようになりました。

3.拡大写本

 拡大写本については、2009年(平成21年)までは教科書を除き、著作権法には拡大に関する著作権の制限は何もありませんでしたが、2009年(平成21年)の著作権法改正により、ようやく拡大も音訳と並び、著作権の制限が著作権法第37条第3項に盛り込まれました。具体的には「視覚障害者等が利用するために必要な方式」という文言が盛り込まれ、拡大や電子データ化も音訳と同様に著作権の制限が規定されました。

著作権法の課題

 このように改正されてきた著作権法ですが、いくつかの課題が残されています。

 まず、点訳を除き、音訳や拡大写本、電子データ化の場合、著作権者に許諾を得なくても活動に取り掛かれるのは点字図書館、学校図書館、大学図書館、国会図書館などの施設に限られています。
 よって、図書館に関与していない地域のボランティアや社会福祉協議会、大学の障害学生支援室などは、音訳や拡大写本、電子データ化に取り組む前に全ての著作権者に許諾を得なければなりません。
 しかし、実際は著作権者の連絡先が分からなかったり、複数の著作権者の許諾を得なければならなかったりと、なかなかスムーズに許諾が得られないのが現状です。文化庁長官が団体を指定するという仕組みもありますが、実際はいくつかの条件と複雑な手続きがあり、現にボランティアグループの申請が却下されているケースも出ています。

 他にも、地域の拡大写本ボランティアが視覚障害児の副教材を拡大写本にすることは私的利用として可能ですが、それを他の視覚障害児に渡すことは違法になります。
 また、著作権法第37条では自動公衆送信は認められていますが、公衆送信は認められていません。よって、図書データをダウンロードすることはできてもメールサービスなどで視覚障害者に発信することはできません。
 上記のような課題があるため、視覚障害者が入手できる音訳図書や拡大図書の数は、地域の図書館で借りられる通常の活字図書よりも圧倒的に少ないのが実情です。これらの課題は、視覚障害児の学習に必要な副教材や参考書、問題集にも当てはまるので、結果的に障害児の学習保障の足かせにもなっています。

 視覚障害児の学習環境を整え、障害者の読書環境を良くしていくためにも、著作権法上の不合理は早急に解消する必要があります。そして、地域ボランティアや社会福祉協議会、障害学生支援室、障害当事者も著作権許諾や文化庁の複雑な指定手続きという問題に悩まされることなく、図書のバリアフリー化に専念できるような法制度が求められます。