視覚障害者のあはきによる就労
1.あはき師とは
「あはき」というのは、あん摩マッサージ指圧、はり、きゅうの略称で、1970年(昭和45年)の法改正前後から役所でもこの呼称を使うようになってきました。これらは、従来、「理療」や「三療」と呼んでいたのとほぼ同義語です。
あはき業は日本の視覚障害者にとっても伝統的な仕事で、明治期には盲学校等で教育するようになりました。あはき師は、あん摩マッサージ指圧師・はり師・きゅう師の3つの国家資格免許である為、一定期間のカリキュラムを修了した後、毎年2月に実施される国家試験に合格しなければなりません。この条件は晴眼者も同じですが、試験の際には、視覚障害者のハンディに対する配慮もなされています。とはいえ、合格率は晴眼者より2割程度低いのが現状です。
あはき師になろうとする人は、文科省管轄の盲学校または厚労省管轄の養成施設で3年または5年の教育を受けなければなりません。法律では資格を得るのは高卒以上となっていますが、視覚障害者に限り、中卒者でも5年の教育を受ければ、国家試験の受験資格が得られます。
従来は、先天的な視覚障害者は盲学校、中途視覚障害者は厚労省管轄の養成施設で学ぶ傾向がありましたが、現在はどこを選ぶかは全くの自由です。例えば、高齢者が経済的な面から、就学奨励費をもらえる盲学校に行く事も少なくありません。
2.免許取得後の就労
免許取得後の就労は、大まかに言って5つです。
(1)自営開業
1つ目は、自営開業ですが、これには3つの形態が考えられます。
(ア)自宅開業…自宅で看板を掲げる形態で、比較的多いです。
(イ)自宅開業(出張専門)…自宅開業の中にも、出張を専門とする業者もあります。この場合は、ベット等の設備投資がいらないことから、自営が容易な半面、移動に不自由な全盲者には不向きです。
(ウ)賃貸店舗…店舗等を借り受けて開業するケースです。これは家賃というコストがかかる為、かなり慎重に採算を検討しなければなりません。
上のいずれの場合でも、保健所への開業届けが必要です。また、必要な資金を貸し出す公的制度もあります。福祉事務所に問い合わせると教えてもらえますし、「生業資金」または「生活福祉資金」とも呼ばれ、自治体毎に少しずつ内容や条件も異なっています。
(2)治療院・接骨院への就職
2つ目は、既に開業している、あはき治療院や柔道整復師が営む接骨院への就職です。
この形態では、将来の自営開業を目指す人にとっては、施術技術を磨くことができるので、ステップアップの一手段となるのです。
ただし、ほとんどが歩合給ですが、時折、障害者雇用助成制度を利用して固定給で雇用されることもあります。このケースでは、最近、出張して施術する事例が増えているようなので、ハローワークに問い合わせるのも一つの方法でしょう。
(3)医療機関への就職
3つ目は、病院等の医療機関への就職ですが、最近はこの就労がめっきり減ってきています。それは、マッサージの保険点数(診療報酬)が極めて低い水準のまま改定されていないことに加え、点数の高い理学療法士の増加によるためだと思われます。
(4)ヘルスキーパー
4つ目は、会社等の従業員を対象にマッサージを行うヘルスキーパーをあげる事ができます。これは、産業衛生や福利厚生の観点から、主に大企業を中心に雇用が広がってきた分野です。
企業は障害者雇用促進法により、一定数の障害者を雇用する義務があるので、その一環として視覚障害マッサージ師を雇用します。業務内容や勤務先の安定感から、近年はこの方面への就職希望者が増えています。
(5)介護保険施設
就労先の5つ目として、介護保険施設をあげることができます。
もっとも多いのは、特別養護老人ホーム(特養)と呼ばれる老人福祉施設の職員です。正確にいえば、あはき師の資格により就職できる職種、「機能訓練指導員」と呼ばれる仕事になります。
これは実際には入所している高齢者にマッサージをするのが主で、マッサージ師免許さえあれば、充分通用する職種です。他に看護師や理学療法士も、介護保険法によってこの仕事ができると定められています。雇用形態はほとんどが正規雇用のため、比較的安定した職域といえます。