「視覚障害者が日常生活を送る上で必要な支援に関する調査研究事業」報告書
本連合は、厚生労働省平成29年度障害者総合福祉推進事業「視覚障害者が日常生活を送る上で必要な支援に関する調査研究」を受託し、平成29年度事業として調査を実施しました。
本事業は、視覚障害者が日常生活を送る上で必要な支援である生活訓練(歩行訓練)に関する調査で、全国の関係機関等に協力を頂き、全国調査を実施しました。調査では、次の論点整理を行い、視覚障害者に対して望ましい生活訓練(歩行訓練)のあり方を研究しました。
論点① 訓練を受ける視覚障害者への効果的な訓練体制のあり方
論点② 視覚障害者を訓練に効果的につなげる支援体制のあり方
そして、この度、調査結果を取りまとめた報告書が完成しましたので、公開をいたします。ご活用の程、よろしくお願いいたします。
なお、調査にご協力をいただきました皆様には御礼を申し上げます。
1.調査報告書のデータ
報告書は下記よりダウンロードができます。
(1)全体版
①墨字版(PDF形式/44MB)
②墨字版(DOC形式/5.99MB)
※注意 DOC形式では、以下の内容を割愛しています。
・ページ番号
・資料集
(2)概要版
①墨字版(PDF形式/11.2MB)
②墨字版(DOC形式/959KB)
※注意 DOC形式では、以下の内容を割愛しています。
・ページ番号
③テキスト版(TXT形式/71KB)
④点字版(BES形式/67KB)
⑤DAISY版(DAISY形式/59.1KB)
⑥MP3版(MP3形式/63.6KB)
墨字版の報告書
2.調査結果(まとめ)
調査のまとめとなる「第7章 考察」「第8章 まとめ」を抜粋して紹介します。
第7章 考察
1.視覚障害者の日常生活や社会参加での困難さと訓練による効果
今回の調査2-2では、訓練を終了した(見込み含む)視覚障害当事者に対し、①訓練前後の用具・機器などの使用状況の変化、②訓練前後の技術面・満足度の変化、③訓練前後の自覚的な生活の変化の3つについて調査をした。
②では、「(単独で)できるか、できないか」とその状況に対する「満足度(納得度)」という2つの指標で日常生活や社会生活のおける困難度を評価した。
その結果、以下の移動に関する6項目、読み書きおよびパソコンなど機器の操作に関する5項目、参加などに関する4項目において、視覚障害による困難度が高く、現状への不満も強い傾向にあることが確認された。
A 移動に関する項目
・屋外のよく知っている場所への移動
・初めての場所や不慣れな場所への移動
・交差点横断や信号判断
・公共交通機関の利用
・混雑した場所への移動
・夜間の移動
B 読み書きおよびパソコンなど機器の操作に関する項目
・書類を読む
・新聞、雑誌、書籍を読む
・メモを取る
・メールを書く
・ホームページを見る、検索する
C 参加などに関する項目
・料理をする
・趣味・余暇活動を楽しむ
・仕事をする
・他の視覚障害者との交流
実施した訓練では、歩行が8割以上、パソコンが約6割、機器の訓練が約5割となり、上記の15項目に概ね対応した内容となっていた。
これら15項目について、訓練を受けた後の単独での可否、満足度において、ほとんどの項目で改善が見られる結果となっており、訓練の有効性が示されたと考える。特に歩行訓練については、歩行訓練を受けた回答者の割合が高かったことも影響しているだろうが、訓練全体の振り返りの中でも、訓練前と比べ「移動の安全性が向上した」「外出の頻度があがった」「一人で歩ける場所ができた・増えた」「行動範囲が広がった」など移動と外出に関する回答をした者の割合が6割以上であった。
また、「余暇・趣味活動を楽しむ」や「他の視覚障害者との交流」が他の項目同様に改善していることや、全体の振り返りの中で、「定期的な外出先ができた」と回答した者も6割を超えていることから、訓練後の生活を豊かにするための支援についても貢献できていると言えるのではないだろうか。
一方、15項目の中で、訓練終了後も「できる」「満足」の割合が5割を切っていたのは「書類を読む」「新聞、雑誌、書籍を読む」「仕事をする」であった。
「書類を読む」「新聞、雑誌、書籍を読む」については、訓練メニューにもある内容であるため、そこが十分改善されていないのは訓練実施側の課題であると言える。医療機関でのロービジョンケアとの連携も含め、改善を図る必要がある。また、「仕事をする」についても、就労支援については、視覚リハが十分対応できていない長年の課題である。まずは新規就労よりハードルの低い復職が確実にできるよう、離職前の早いタイミングで訓練機関につながる流れを作ることが重要であると考える。
さらに、全体の振り返りの中で、「できないことに対する考え方や工夫の仕方が身に付いた」「気持ちが前向きになった」「視覚障害に対する受け止め方が変わった」などの回答率が6割以上あったことは、訓練による効果は、技術的な面だけでなく、精神面の変化にも影響を与えることを示唆している。これは、多くの歩行訓練士が視覚障害者の支援をする上で、特に重要と考えている部分ではないだろうか。
そして、白杖をはじめとした用具や機器、福祉サービスの利用状況についても、訓練を受けた後は大きく改善していた。使用法や利用法の訓練を含めた訓練施設のサービスは、視覚障害者の生活状況に大きく影響を与えている結果となっていた。ただ、白杖や遮光レンズのような補装具、拡大読書器や音声時計のような日常生活用具については、本来は訓練施設につながるより前にもっと情報提供が受けられていてもおかしくないものではないだろうか。
以上のことから、視覚障害者リハビリテーションは、生活技術の向上、精神的課題の改善・克服、用具や機器、サービスの利用、地域生活の充実など、視覚障害者の日常生活・社会生活に関する幅広い領域について貢献できていると言える。
2.訓練の実施状況と障害福祉サービスとして求められる訓練内容
(1)機能訓練事業所と非機能訓練事業所の比較
結果および分析からは、機能訓練事業所と非機能訓練事業所の特徴は以下のように言える。
- 機能訓練事業所
・職員体制は比較的充実しており、1日の受け入れ人数が多く、利用できる頻度も高い。
・通所と入所が中心のため、複数同時の訓練が可能。
・一定回数以上の訓練が訓練効果を高める結果も出ている。
・通所や入所により、「困ったときに相談できる仲間ができた」という点は大きい。結果として、「視覚障害に対する受け止め方が変わった」や「気持ちが前向きになった」などの精神面での変化は、機能訓練事業所で訓練を受けた視覚障害者の方が回答率も高くなっていた。
・定員はあるものの、利用人数や回数は(法定期間以外の)制約はない。
・手続きが煩雑で開始までに時間がかかること、制度上の縛りがあり、対応できない条件が複数あること、通所が中心のため交通機関の乏しい地域では利用者を集めにくいなどの課題がある。
・急激な視力低下で生活全般に支障をきたしている視覚障害者や、復職や盲学校進学の準備など、期間やメニューの上で集中的な訓練を必要とする視覚障害者に適した訓練と言える。
- 非機能訓練事業所
・今回の調査では、盲導犬協会、視聴覚障害者情報提供施設、民間企業など、様々な形態の施設への調査を行ったが、概ね傾向は似ていた。
・職員数は全般的に少なく、訪問中心で対応しているため、1日に対応できる人数は少なく、利用できる頻度は低い。
・利用条件については、機能訓練事業所よりも制約が少なく、視覚障害者にとって移動面・金銭面の負担がない(少ない)訪問で対応していることなどから、対応している実人数は機能訓練事業所よりも大きく上回っている。
・利用開始までにかかる期間は、機能訓練事業所よりも全体的に短い。
・緊急性の高い訓練希望者や高齢視覚障害者、公共交通機関が発達しておらず地域に点在している視覚障害者に対応するには、このスタイルでないと難しい。
また、今回の調査では、機能訓練事業所と非機能訓練事業所が両方ある地域や、機能訓練事業所の中で機能訓練以外の方法で訓練を行っている事業所についても分析を行った。
地域差は多少あるものの、対象者やサービス内容が被る部分はあっても、機能訓練事業所は集中的な訓練を必要とする視覚障害者に対して訓練を行い、非機能訓練事業所は訪問での訓練や柔軟な対応を行うことで、ある程度の住み分けができているように見える。機能訓練事業所に視覚障害者のニーズに応えられない利用上の制約がある以上、機能訓練事業所と非機能訓練事業所が各地域にあること、もしくは機能訓練事業所が非機能型の訓練も実施していることが理想である。
ただし、現状では全国で視覚リハを実施している事業所・機関は約70か所しかなく、さらに機能訓練事業所と非機能訓練事業所が両方ともあるのは11都道府県のみである(*1)。そのため、現状では、サービス内容として重複せざるを得なくなっている。この原因は、そもそもの絶対数が足らず、地域では訓練を必要とする視覚障害者が、必要な内容・量の訓練が受けられない状況にあると考えられる。さらに、全く訓練施設がない都道府県が7ヶ所もある(*2)。特に訓練施設がない都道府県の視覚障害者が視覚リハを受ける権利の保障は急務である。
(*1)視覚障害者の生活訓練実施機関の現状(日本ライトハウス/2017年)
(*2)青森県、岩手県、山形県、新潟県、群馬県、和歌山県、奈良県
(2)視覚障害者のニーズと機能訓練のサービス上の制約
今回設問に挙げた利用条件の中で、機能訓練事業所が対応不可・困難としている条件は以下の7項目があった。
①15歳未満
②身体障害者手帳未所持
③2年半を超える訓練
④2週間以内に訓練開始を希望
⑤片道50km以上または1時間半以上かかる者への訓練
⑥フルタイムで就労中
⑦高校・大学・盲学校在学中
数の多寡はあるものの、いずれも非機能訓練事業所では対応実績がある利用条件である。機能訓練事業所で対応できておらず、非機能訓練事業所で対応できている条件が、制度上の課題や他の障害とは違う視覚障害者のリハビリテーションのニーズを表しているのではないだろうか。これらの項目は、以下で詳しく考えてみたい。
①15歳未満
本来は視覚特別支援学校が対応すべきであろう。ただ、歩行訓練の専門家がいない視覚特別支援学校、自立活動の時間の制約で自宅周辺や通学など必要な内容の訓練ができない視覚特別支援学校では、訓練施設との連携が必要なのではないだろうか。
②身体障害者手帳未所持(指定難病除く)
急激な視力低下などにより、すでに生活上の困りごとが生じている場合には、申請段階であっても訓練を受けられる体制が必要なのではないだろうか。手帳に該当するかどうかというロービジョン者の場合は、ロービジョンケアのできる医療機関との連携も必要となるだろう。
③2年半を超える訓練
動機付けや習得に時間のかかる高齢者や心身の状態が安定しない者などが対象だろうか。機能訓練で規定された期間内の目標達成ができなかった場合は、地域の別の機関(サービス)で継続できることが望ましい。
④2週間以内に訓練開始を希望
受給者証の準備ができれば可と回答している機能訓練事業所は複数あったが、その実績はゼロであった。すでに受給者証を所持している利用希望者であれば間に合う可能性があるが、新規で取得する者では難しい。緊急性の高い視覚障害者については、後追いの発行を認めるなどの柔軟な対応が求められる。
⑤片道50km以上または1時間半以上かかる者への訓練
遠距離の訪問訓練については、採算性の問題で実施しづらくなっている。都市部から離れれば離れるほど、訪問訓練のニーズは高くなっていく。今後、新規参入の促進や既存の施設の経営安定により視覚リハが全国どこに住んでいても受けられるようにするためには、施設数を増やすか、訪問訓練に対する単価の上乗せもしくは加算は必要である。
⑥フルタイム就労中
⑦高校・大学・盲学校在学中
市町村判断によりこれらの条件で訓練ができない場合がある。日中参加している場所があるならば、そこでの合理的配慮の中で対応ということが理由であろうが、訓練で自身のできることを増やすことと合理的配慮は全く別のことである。特に進行性の眼疾患を抱えている視覚障害者においては、相当きつい思いをしながら無理をして職業生活や学校生活を続けている者も多いのではないかと考える。在職中・在学中であっても、必要な訓練を受けられる制度設計となることが望ましい。
⑧その他(備考)
非機能訓練事業所では、「2週間以内に訓練開始」と併せて「数回で終了する訓練」の実績の多さが際立っていた。これも機能訓練事業所で対応できない内容ではないが、数回の訓練のために煩雑な手続きをしてもらうのは躊躇われる。そのニーズが機能訓練の中で対応すべきものかどうかも含め、さらに詳細な訓練内容の調査が必要である。
3.訓練に効果的につなげる支援体制のあり方
(1)視覚障害者から見た「つなぎ」に関する現状と課題
調査2-1において、現在訓練を受けており、比較的最近になり訓練施設につながった視覚障害者を対象に、主に医療機関や役所からの情報提供や関係機関の紹介状況などの現状や要望に関する調査を行った。その結果から、視覚障害者側から見た「訓練へのつなぎ」に関する現状と課題について考察する。
①医療機関からの「つなぎ」
今回調査対象とした施設では、約9割が「ロービジョンケア実施医療機関」が地域にあると回答し、約8割が「医療機関・従事者向けの研修・講習会の実施」をしていると回答しており、医療機関との連携状況では比較的恵まれた地域と言える。
それにもかかわらず、調査2-1の結果からは、「身体障害者手帳の申請方法」の情報提供を約5割の者のみが受け、それに関連して、役所を紹介されるケースが約4割であったものの、何も情報をもらえなかった者が約3割、関係機関を全く紹介してもらえなかった者が約4割という結果となっていた。また、訓練施設や生活上の困りごとに関する相談窓口には2割弱の者しか紹介をしてもらえていなかった。それ以外の「視覚特別支援学校」「当事者団体」「用具の販売業者」「介護保険関係機関」「相談支援事業所」については、さらに直接的な紹介は少ない結果となっていた。
一方で、多くの視覚障害者は「医療機関(眼科)で見え方の改善が見込めないと言われたとき」に情報提供して欲しいと考えている。また、紹介を受けた者は、実際にその関係機関に行っている割合は高く、適切な情報提供があればつながる可能性は高くなっていた。
全国から毎年100名を超える眼科医が「視覚障害者用補装具適合判定医師研修会」を受講し、ロービジョンケアを実施する眼科医が増えたり、地域ごとのスマートサイトができ始めるなど、医療機関と訓練施設との連携は年々強化されてきているはずだが、まだ広がりに欠けるのか、あるいは上手く機能していないのか、今回の結果からみると、現状では医療機関からは役所への流れが主流となっていた。
②役所からの「つなぎ」
役所については、医療機関からは「制度やサービスの相談窓口」として期待されていた。そして、視覚障害者からは「行政機関で身体障害者手帳の申請をしたときに情報提供が欲しい」との回答が4割を超えており、医療機関と同じく、紹介を受けた視覚障害者の多くは、実際にその関係機関に行っていた。
ただ、調査結果からは、役所が窓口である「受けられるサービス」についての情報提供が5割以下、「補装具や日常生活用具」についても約3割程度しか情報提供されていなかった。さらに、「何も情報をもらえなかった」という者も約2割いた。そして、関係機関の紹介については、半数以上の者が「どこも紹介してもらえていない」という結果となっていた。
この結果からは、役所が「生活上の困りごとに対する相談窓口」としては機能していないこと、情報が受け取りにくい障害である視覚障害者に対して、合理的配慮のもとの情報提供がなされていないことが疑われる。
結果として、訓練の必要性がある視覚障害者で、手帳取得から1年以内に訓練につながった者は2割以下になり、訓練施設につながるまでにかなりの時間を要する現状となっていた。
(2)相談を受ける側から見た「つなぎ」に関する現状と課題
調査3では、医療機関(眼科)、相談支援事業所、視覚障害者の当事者団体、視覚障害者向け情報提供施設、視覚特別支援学校など、相談を受ける側から見た現在の対応状況についての調査を行った。その結果から、訓練へのつなぎに関する現状と課題について考察する。
①医療機関(眼科)
視覚障害者から「日常生活の改善」「読み書き」「福祉制度の利用」など、生活上の困りごとに対する相談を受けているという回答が7割を超えていた。また、対応できる支援では、主たる業務である「眼の治療」や「ロービジョンケア」以外に、「補装具や日常生活用具の紹介」や「福祉制度・サービスの紹介」も8割以上が対応していると回答していた。なお、訓練を直接実施している機関も1割弱あった。また、紹介先については、当事者団体へは紹介率5割とやや低めとなっていたが、その他の関係機関へは概ね紹介率7割となっていた。
ただし、今回の調査対象は「視覚障害者用補装具適合判定医師研修会」を受講された眼科医で、さらにアンケート自体に協力をしたことを考えると、眼科医の全国平均と比べ、視覚障害者の支援に対する意識の高い集団であったとも言える。この点を考慮して分析する必要はある。
②相談支援事業所
視覚障害者からの相談を受けることが「ある」と回答した割合は約8割であった。そのうち、業務の中心である「福祉制度の利用」については9割が相談を受けていると回答していたが、「日常生活の改善」は4割強、「歩行手段」「読み書き」「仕事」については2割前後となり、生活上の困りごとの相談については回答率が低くなっていた。対応できる支援では、「福祉制度・サービスの紹介」が9割以上である一方、「補装具・日常生活用具の紹介」は4割以下となっていた。紹介先については、全般的に概ね紹介率4割から5割で、視覚特別支援学校へは紹介率3割弱と低めであり、視覚障害者系機関とのつながりは弱い結果となっていた。また、「視覚障害者への対応に慣れた職員がいない」との回答も4割あった。
③視覚障害者の当事者団体
視覚障害者からの生活上の困りごとの相談は、「福祉制度の利用」と「日常生活の改善」は9割以上、「歩行手段」と「読み書き」は7割以上の団体が相談を受けていた。対応できる支援でも、「補装具や日常生活用具の紹介」と「福祉制度・サービスの紹介」は9割以上など、今回の調査対象の中で最も支援の対応率が高かった。なお、歩行訓練以外の訓練も6割以上が直接実施していた。そして、紹介先については、概ね紹介率7割以上だが、医療機関への紹介は他と比べ低めになっていた。
④視覚障害者向け情報提供施設
生活上の困りごとの相談については、情報提供施設という施設の業務と関係の深い「福祉制度の利用」と「読み書き」が7割以上と高くなっていた。「日常生活の改善」についても6割以上になっていた。
対応できる内容でも、「補装具や日常生活用具の紹介」と「福祉制度・サービスの紹介」は8割以上と高くなっていた。歩行以外の訓練を実施している施設も7割以上あった。紹介先については、概ね紹介率6割以上であり、やや低めだった。これは、自施設で訓練を行っていることの影響もあるだろう。なお、医療機関への紹介は3割弱と低くなっていた。
⑤視覚特別支援学校
本業である「教育」についての相談が9割以上であった。ただ、生活上の困りごとについても、「日常生活の改善」と「読み書き」などの相談を7割以上が受けていた。対応できる支援としては、「補装具や日常生活用具の紹介」と「福祉制度・サービスの紹介」は9割前後、「歩行以外の訓練」を実施しているとの回答も7割弱あった。紹介先については、概ね紹介率7割以上で、当事者団体への紹介はやや低めとなっていた。
今回の調査対象の中では、概ねどの機関も自機関だけでできることは限られており、他機関との連携は重要だと考えていた。ただ、自由記述の中では、「身近な地域にあって欲しい」という回答が多く含まれており、物理的な距離がある=絶対数が少ない現状を表している。
相談支援事業所のみは、視覚障害者支援の専門機関ではないため他機関とは状況が違うが、概ねどの機関でも、視覚障害者の生活上の困りごとに関する相談を高い割合で受けており、それに合わせた対応もしている現状が伺える。
また、③④⑤の視覚障害者系機関は相互の情報を持っている。そのため、どこかにつながれば、それぞれの機能に対して必要な対応が期待できたり、適切な別の機関を紹介してもらうことができるのではないだろうか。ただ、視覚障害の専門支援機関ということを考えると、相談対応や他機関への紹介がもっと高い回答率でもおかしくはない。
また、調査3の調査対象となった機関のほとんどが、訓練施設に対して「広報啓発の強化」を一番に求めていた。それだけ訓練施設の情報が、これらの機関を含む一般の人たちへは伝わりにくい状況があるということだろう。
(3)まとめ
視覚障害者にとって、医療機関や役所は一次的な相談窓口と認知されており、最も身近でつながりやすい所と言えるだろう。そのため医療機関から役所という流れは作りやすく、視覚障害者を訓練に抵抗感なく導きやすい。ただ、現状では、役所において、視覚障害者個々の生活相談にまでは対応できておらず、そこから適切な機関につなげていくことは難しい。スマートサイトなどにより、医療機関から直接関係機関につなぐ流れも出てきているが、現状では、十分機能している地域は少ない。そこで課題になっているのは専門性を求められる視覚障害者のアセスメントを「どこで誰がするか」ではないだろうか。
他の障害分野では生活全般のアセスメントを相談支援事業所が行っている。一方で視覚障害者の支援や連携を行うことは、そもそもの絶対数が少なく、サービス等利用計画に落とし込む必要のない非機能訓練で行われていることもあり、相談支援事業所と視覚障害の専門機関はやや遠い存在となっていると言える。特に相談支援事業所のサービス提供エリアに訓練施設などがない場合には、さらに遠い存在になっているだろう。ただ、一度でも視覚リハの対象者やその効果が認知されれば、相談支援事業所がアセスメントなどを行いやすくなり、地域で埋もれている視覚障害者の掘り起こしの役割を担うことが期待できる。
一方で、視覚障害者系機関同士は連携がとれており、高い割合でそれぞれの機関・団体が専門的な相談にのれているという結果ではあったが、実態はどうであろうか。ここでもアセスメントの力量は求められる。また、各機関からの情報(広報)不足もあり、視覚障害者にとっても、医療機関・役所からも、視覚障害者系機関は少し遠い存在となっている現状が伺える。
【視覚障害者と各関係機関の相関図(現状)】
第8章 まとめ
1.視覚障害者へのリハビリテーションの実施体制のあり方
地域で生活している視覚障害者は、移動や外出、文字処理、情報収集や発信、社会参加など、社会生活上の多くの困難や受障をしたことに対する精神的な課題を抱えており、それを解決したいと願っている。訓練をはじめとした、視覚障害者へのリハビリテーションは、それら幅広い領域の課題克服に大きな貢献をしていることが今回の調査で明らかとなった。
機能訓練事業所と非機能訓練事業所では、実施している訓練内容に大きな違いがあるわけではなく、その提供方法、提供回数、利用の制約の有無の違いが大きい。今回の調査結果からは、訓練は、一定回数以上あると、より技術的・精神的に与える影響は大きく、また、他の視覚障害者と訓練を通して時間を共有することで精神面に与える影響は大きくなっていた。そうした意味では、特に急激に視力低下が進行した視覚障害者、就労や進学を目指す視覚障害者、重度の視覚障害者など、生活全般にわたって困難を抱えている者にとっては、通所・入所で行っている機能訓練事業所の存在意義が大きい。ただ、移動することに支障が出てくる視覚障害者にとっては、公共交通機関の発達していない地域だと、身近な地域に施設がなければ、通所すること自体が困難である。一方で、現状ではそこまでの数の施設はないため、多くの地域の非機能訓練事業所では訪問を中心とする訓練が行われている。生活空間や実際に使用する場所での訓練の必要性については、知的障害や発達障害、高次脳機能障害などでも謳われている。機能訓練においても、訪問訓練に対する加算は検討されてもよいのではないだろうか。
そして、機能訓練事業所と非機能訓練事業所が両方ある、あるいは機能訓練事業所でそれ以外のサービスを行っている施設では、主に利用の制約に当てはまる視覚障害者への対応や、経営的な問題から訪問を機能訓練以外で行うといった「使い分け」を行っている。非機能訓練事業所では数回で終わる訓練も多数行っているなど、人生のライフステージの様々な局面で視覚障害になった者は、それだけ訓練に対するニーズも幅広いと言えるのではないだろうか。そこに対応するには、本来は機能訓練事業所と非機能訓練事業所が役割分担をしながら地域に共存するのが理想と言える。例えば、機能訓練の制約上対応できないニーズは非機能訓練事業所で対応するなどが考えられる。
平成30年度施行の障害福祉サービスの報酬改定では、「生活訓練」でも視覚障害者への訓練が行えることとなった。これにより、機能訓練(視覚障害)の現場で、実際にはその本来の業務を行っていない看護師・セラピストの必置が免除されるなど、専門職の人員配置基準の課題はクリアされた。ただし、経営面・利用者確保の面では、安定的に運営するための条件はクリアされていない。例えば、実際の視覚障害者向け訓練の実態に合わせた職員配置基準(職員:利用者=1:2.5以下)と実態に見合った報酬の上乗せがないこと、居住地による格差が出ないよう同行援護での通所を可能にすること、訪問訓練が可能となるよう中山間地以外でも距離に応じた訪問訓練加算を付けることなどについては、未解決のままである。この状況で、果たして新たに視覚リハを行うと手をあげる機関は出てくるだろうか。
障害者総合支援法において、他の障害に対するリハビリテーションサービスはすべて訓練等給付の中に入っている。視覚障害者向け訓練においても、他の障害とこの点を共通にしておくことは、次のような重要な意味があると考える。それは、今後の制度改革の際に検討の土俵に必然的に上がるようになること、請求実績という形で実績(ニーズ)が厚生労働省に伝わること、サービス提供やそこに至るプロセスが他の障害とかけ離れないこと、一定の基準以上の訓練計画や記録の作成を求められることなどにより、サービスの質を保たれることである。
ただ、もし視覚障害者向けの機能訓練・生活訓練の制度設計において、上述の条件が他の障害との兼ね合いの中でクリアできないのであれば、特に交通機関の発達していない地域では、民間施設で視覚リハを実施していくことは経営的に難しいだろう。そうなると、公的機関でサービス報酬によって一部経費を賄いつつ、都道府県等の委託事業として助成金を受けて運営する以外は難しいのではないだろうか。
つまり、視覚障害者へのリハビリテーションの実施体制において、望ましいあり方は、住んでいる地域に関係なく、訓練が必要な者に視覚リハを受けられる権利を保障することではないだろうか。少なくとも、現在訓練施設が存在しない都道府県に対しては、訓練施設等が設置されるよう、国からの行政指導を行うべきである。
2.訓練施設につなぐための支援体制のあり方
多くの視覚障害者にとって、最もつながりやすい存在は「医療機関」と「役所」であり、ここでは、補装具や日常生活用具、障害福祉サービス、訓練施設などの情報提供が行われることが望ましい。ただ、そのためには、十分な時間をとって聞き取りを行うアセスメントが必要だが、専門性が求められ、日常業務の中で対応することは時間的にも難しいのが現状であろう。さらに医療機関・役所と訓練施設・視覚障害者系機関とのつながりが弱いことも今回の調査で明らかとなった。
このつながりの弱さを解決するため、各地で様々な試みが行われている。
医療従事者や役所では、アセスメントの時間をとることやその専門性の確保が難しくなっている。相談に来た視覚障害者に必要な情報が何かを調べるために、簡単な聞き取りを行うことで最低限必要な情報提供の内容が分かる「簡易アセスメントツール」を使用することは有効かもしれない。また、視覚障害者やその家族などが必要な情報を分かりやすくするため、視覚障害者に関係する内容だけを集めた「福祉のしおり(簡易版)」を役所に置くことも有効かもしれない。
そして、医療ソーシャルワーカーがいない、または関係が薄い眼科において直接相談を受けようとするならば、相談にのれる視能訓練士の育成が鍵となるだろう。中間型アウトリーチとして、歩行訓練士や当事者団体が医療機関に出向いて相談に応じている地域も出てきており、その有効性は認められているが、効率的な運用方法の検討やその人件費をどこから捻出するかは課題である。
また、スマートサイトとして、その地域の相談機関の配布用リストを作成したり、ワンストップの相談窓口を指定している地域も出てきている。相談機関のリストは、多すぎると結局どこにつなげばいいのかという声が多いため、ワンストップの相談窓口を作ることが望ましいだろう。それをどこが担うか、その人件費をどう確保するかは課題である。
相談支援事業所を持っている訓練施設もある。実際に相談支援専門員からつながっているケースは他地域と比べかなり多くなっている。
各地の視覚障害者をとりまく環境は、医療機関や訓練施設の配置状況、地形や交通網など地域特性がある。そのため、上記のような先駆的な取り組みをしている地域への調査を行い、その課題と解決策を考え、様々な状況に対応出来るよう、複数のモデルを作っていくことが必要となるのではないだろうか。
訓練施設・視覚障害者系機関側の課題としては、今以上に関係機関同士の連携や相互の情報提供を強化し、どこかにつながったら、必ずアセスメントを行い、適切な機関につなげるようになることは必須である。ただし、視覚障害者系機関の職員や当事者が必ずしも相談支援のスキルを勉強しているわけではない。全国視覚障害者情報提供施設協会がその研修を始めたように、職員の相談対応やアセスメント能力に対するスキルアップは必要である。
また、相談支援事業所や介護保険の包括支援センターを積極的に活用し、ケースを通した連携によって視覚障害者支援の輪を広げていくことも大事ではないだろうか。社会資源がないことや連携がとれていないことを「地域の課題」として挙げていくこと、医療機関や相談支援事業所からの紹介があったときに適切に対応すること、その結果をきちんとフィードバックすることなどを通して、次の紹介につなげていくことが求められる。
【訓練施設につなぐための望ましい体制(イメージ図)】