厚生労働省へ「改正障害者雇用促進法に基づく差別禁止・合理的配慮の提供の指針の在り方に関する研究会」の報告書に対する要望書を提出

2014年10月28日

 2014年10月14日に、全日本ろうあ連盟と全日本難聴者・中途失聴者団体連合会、日本盲人会連合、全国盲ろう者協会は、厚生労働省へ、「改正障害者雇用促進法に基づく差別禁止・合理的配慮の提供の指針の在り方に関する研究会」の報告書に対する要望書を提出しました。
 この要望書は、10月23日に行われた「第64回労働政策審議会障害者雇用分科会」において配布されました。

 

平成26年10月14日

要 望 書

厚生労働大臣
 塩崎 恭久 殿

一般財団法人全日本ろうあ連盟
理事長 石野富志三郎

一般社団法人全日本難聴者・
中途失聴者団体連合会
理事長 新谷友良

社会福祉法人全国盲ろう者協会
理事長 阪田雅裕

社会福祉法人日本盲人会連合
会長 竹下義樹

以上4団体代表
竹下義樹

 

 国は、障害者の職場における差別の禁止と合理的配慮の提供を義務付けるため、平成25年6月に障害者の雇用の促進等に関する法律を改正した。そして、本年1月には障害者の権利に関する条約の批准手続を行い、2月19日をもってわが国も世界で141カ国目の締約国となった。
 厚生労働省は、平成26年6月6日に、「改正障害者雇用促進法に基づく差別禁止・合理的配慮の提供の指針の在り方に関する研究会」の報告書を取りまとめ、公表した。この研究会では、「障害者の雇用の促進等に関する法律の一部を改正する法律」に基づき、「差別の禁止に関する指針」と「均等な機会の確保等に関する指針(以下「 合理的配慮の提供に関する指針」 )」に盛り込むことが必要な事項に関して、平成25年9月から議論を重ねてきた。しかし、報告書には、感覚に機能障害を有する障害者に対する十分な理解がされていないきらいがあり、さらにはこれまでに実現ないし確立されつつある支援策、とりわけ人的支援に関する事項が盛り込まれていない。
 私たち4団体は、これまで感覚機能障害という共通する障害を克服するためのコミュニケーション支援のあり方に関する検討を重ねてきた。今般、貴省が改正障害者雇用促進法に基づく差別の禁止と合理的配慮に関する指針を策定するにあたり、私たち4団体として、ぜひとも指針に盛り込んでいただきたい内容を要望する次第である。

 

 

「改正障害者雇用促進法に基づく差別禁止・合理的配慮の提供の指針の
在り方に関する研究会」報告書に対する問題点・意見について

(要 望)

一般財団法人 全日本ろうあ連盟
理事長 石野 富志三郎

①「合理的配慮の提供が円滑になされる観点から、障害者も共に働く一人の労働者であり、事業主や同じ職場で働く者が障害特性に関する正しい知識の取得や理解を深めることが重要であること。」について
 13ページ 別表「聴覚・言語障害」について、企業側の理解をより促進するために、聴覚障害の特性を明確にするため、下記の記述を加えてください。

 原文  修正文
 【募集及び採用時】
面接時に、就労支援機関の職員の同席を認めること。
 「面接時に、就労支援機関の職員等、及び意思疎通支援者(手話通訳者、要約筆記者)等の同席を認めること」(追記)
 【採用後】
面接を筆談等により行うこと。
  「面接を手話、要約筆記等により行うこと」
業務指導や相談に関し、担当者を定めること。   「また、人事、採用担当や研修担当者の研修を設けること。」(追記)
 業務指示・連絡に際して、筆談やメール等を利用すること。  「業務指示・連絡に際して、手話や筆談やメール等を利用すること。」
 出退勤時刻・休暇・休憩に関し、通院・体調に配慮すること。  「聴覚障害者の中には、突発性難聴やメニエル病など、身体的、精神的に不調が出ることがある。」(追記)

②「合理的配慮の内容」における、「中途障害により、配慮をしても重要な職務遂行に支障を来すことが合理的配慮の手続の中で判断される場合に、当該職務を継続させることなどが合理的配慮として事業主に求められるものではない」について

 合理的配慮の提供は、事業主の義務となっておりますが、中途障害に対する合理的配慮の提供について、その配慮の内容が適切かどうか、職務遂行に支障を来すかどうか、この判断を誰が行うのかが明確になっていません。また、障害当事者がその判断に納得できるのかどうか、障害当事者の納得を踏まえての判断なのか、もし、障害当事者が納得できない場合の相談や問題を解決するための独立した第三者機関についても明確な規定がありません。
 障害者、中途障害者に関わらず、障害により支障をきたす事項について合理的配慮の提供を受けることは障害者の権利であり、また事業主の義務となっています。その権利行使について、いつ障害を負ったかによって労働者に不利益が生じないよう、合理的配慮の提供内容及び不提供の際の相談窓口について、企業や行政から独立した第三者機関の設置を早急に行ってください。
 また、この記述では、仮に事業主が、「中途障害により当該職務を継続させられない」と判断した場合、解雇されることになっても、やむを得ないという解釈にも受け取られかねません。
 労働者が中途で障害を負ったとしても、仕事を続けられる別の業務に配置転換を行う等、合理的配慮が必要です。
 「中途障害者は、障害を理由に解雇されてもやむを得ない」と取られかねない文章を報告書に記載するべきではないと考えます。この部分の修正を行ってください。
③「我が国において、障害者の差別の禁止、合理的配慮の提供等が円滑になされていくためには、事業主に対する指針の策定に加え、行政による様々な取り組みが重要となる。」について

 聴覚障害者に対する国の制度は少ないので、法律の施行と並行し現行制度の一層の拡充を行ってください。
1)「手話協力員制度」
手話協力員は、職安窓口での職業紹介の通訳と職場適応指導の同行通訳を行っていますが、稼働時間が非常に少なく、聴覚障害者の就労支援として不十分な面があります。手話協力員の稼働時間を拡大し、面接場面での通訳など行えるようにしてください。

2)「手話通訳担当者の委嘱助成金」
手話通訳に限らず要約筆記も助成金の対象としてください。
また、時間の長い会議や研修への情報保障を考える場合、事業所が負担する通訳料が事業所にとって「過度の負担」とならないよう、合理的配慮の提供が損なわれないよう、助成金の拡充を検討してください。

④ 聴覚障害者の職場定着や労働能力の向上のために

 聴覚障害者の職場定着や労働力の向上のためには、自由にコミュニケーションでき、自由に情報にアクセスできることが必要不可欠な条件となります。
 聴覚障害者の聞こえの程度が千差万別であるように、情報保障・意思疎通支援についても1対1の場面と、1対複数の場面(会議、研修等)でのあり方は異なります。
 情報保障・意思疎通支援は、合理的配慮の提供に加え、福祉サービス事業の利用等、現在、下記のような選択肢がありますが、どの方法であったとしても、聴覚障害者にとって必要な支援が得られるように、的確な意思疎通支援者の配置について報告書に記載してください。

 

【手話通訳者の派遣(設置)形態】
1)事業所による、手話通訳者の雇用
2)事業所による、手話通訳者の派遣
  (事業所が費用を負担して手話通訳者の派遣を、手話通訳者派遣事業所に依頼する)
3)高齢・障害者支援機構の障害者介助等助成金制度における手話通訳担当の委嘱制度を活用した、事業所による手話通訳者の派遣 (事業所から手話通訳派遣の依頼をする)
4)障害者総合支援法の意思疎通支援事業を利用した手話通訳者等の派遣

(労働者から行政等へ手話通訳派遣の依頼する)
(事業所から行政等へ手話通訳派遣の依頼をする)

 

 

 

厚生労働省の「改正障害者雇用促進法に基づく差別禁止・合理的配慮の提供の指針の在り方に関する研究会」報告書に対する要望

一般社団法人全日本難聴者・中途失聴者団体連合会
理事長 新谷 友良

1. 合理的配慮の例示について

 厚生労働省は、6月6日、「改正障害者雇用促進法に基づく差別禁止・合理的配慮の提供の指針の在り方に関する研究会」の報告書を公表しました。
 いろいろな問題点がありますが合理的配慮の例に、全難聴がヒアリングで示した手話通訳、要約筆記者の配置、補聴援助システム、電話リレーサービスなどが例示されなかったことは大きな問題です。筆談は話す人と相手が直接やり取りする方法であり、人の話を聴覚障害の持つ人に伝える方法ではありません。話す人が複数いる会議の場では適当な方法でもありません。聴覚障害者が筆談できるとは限りません。
 手話通訳、要約筆記者は障害者総合支援法で、全国の市町村が派遣を義務つけられ、都道府県は所定のカリキュラムで養成することが義務付けられている意思疎通支援従事者です。社会的資源として存在する手話通訳者、要約筆記者が現に企業等に多数派遣されている実態があります。
手話通訳者、要約筆記者が派遣されないということになれば、障害者基本法第3条の意思疎通の手段の選択の機会が与えられていないことになります。

【要望事項】
1.聴覚障害者の合理的配慮は、障害特性に合わせ、手話通訳、要約筆記、補聴援助システム、電話リレーサービスの利用等多様な手段、方法を提示するとともに、当事者の意見を最大限尊重して下さい。
2.聴覚・言語障害者への合理的配慮として、【募集及び採用時】の面接時の筆談等、【採用後】の業務指示・連絡に筆談あるいはメール等が例示されていますが、面接時には、適切な就労支援者と要約筆記者と手話通訳者を配置するとともに、採用後にも必要に応じて配置すべきです。
3.高齢・障害・求職者雇用支援機構の助成制度に、要約筆記者の派遣を取り入れること。聴覚障害者当事者の求めに応じて、制度の利用ができるようにすること。
4.聴覚障害者自身が就労支援機関と相談、支援を受ける保障をとること。

2.中途失聴者への合理的配慮義務
 「合理的配慮の内容」における、「中途障害により、配慮をしても重要な職務遂行に支障を来すことが合理的配慮の手続の中で判断される場合に、当該職務を継続させることなどが合理的配慮として事業主に求められるものではない」について
 事業主が、「重要な職務遂行に支障を来す」ことで「中途障害により当該職務を継続させられない」と判断した場合、解雇はやむを得ないという解釈にも受け取られかねません。
 「重要な職務」を遂行する労働者が中途で障害を負ったとしても、新たな意思疎通、情報収集、コミュニケーション方法、技術、知識の習得など最大限合理的配慮を提供する義務が事業主にあります。最悪、仕事を続けられる別の業務に配置転換を行う等、合理的配慮が必要です。障害の有無により労働権を奪うことは出来ません。
 中途失聴者、難聴者の障害の態様は一様ではなく、障害の受容に時間的経過も必要です。中途失聴者、難聴者の専門的支援が受けられる機関との相談を義務付けて下さい。

【要望事項】
1.「中途障害者は、障害を理由に解雇されてもやむを得ない」と取られかねない文章を削除して下さい。
2.企業、行政と別の第三者機関を中途失聴、難聴者の相談窓口として下さい。

 

 

 

「改正障害者雇用促進法に基づく差別禁止・合理的配慮の提供の
指針の在り方に関する研究会報告書」についての意見

社会福祉法人全国盲ろう者協会
理事長 阪田雅裕

○ 全般的な事項として、「障害特性を踏まえた情報・コミュニケーション保障や移動保障などが必要である」ことについて、何らかの形で、指針に記載されることを要望する。

○ 禁止される差別の具体例として、「自力(単独)での通勤が可能であること」を募集・採用の条件とすることは差別にあたることを挙げるよう要望する。また、これに関連して、通勤時の移動支援提供の必要性について、指針に記載されることを要望する。

○ 合理的配慮の具体例について、障害種別ごとに記載する場合には、「視覚障害」や「聴覚障害」とは別に、「盲ろう」についても独自の障害種別として明示されることを要望する。

○ 合理的配慮の具体例として、ホームページ上に募集案内を掲載する際に、PDFファイルだけでなく、テキストデータをつけることや、職場での会議の際に、情報・コミュニケーション保障をきちんと行うことなどについて記載されることを要望する。

○ 合理的配慮の中で、盲ろう者に対する相談体制の整備にあたっては、盲ろう者向け通訳・介助員の配置など、個々の障害特性を踏まえた対応とすることについて記載されることを要望する。

 

 

『改正障害者雇用促進法に基づく差別禁止・合理的配慮の提供の
指針の在り方に関する研究会報告書』に対する意見

社会福祉法人日本盲人会連合
 会長 竹下義樹

 厚生労働省は、平成26年6月6日に、「改正障害者雇用促進法に基づく差別禁止・合理的配慮の提供の指針の在り方に関する研究会」の報告書を取りまとめ、公表した。この研究会では、「障害者の雇用の促進等に関する法律の一部を改正する法律」に基づき、「差別の禁止に関する指針」と「均等な機会の確保等に関する指針(以下「 合理的配慮の提供に関する指針」 )」に盛り込むことが必要な事項に関して、平成25年9月から議論を重ねてきた。本連合は「報告書」に沿って、改めて意見を述べるものである。
 厚生労働省では、今後、労働政策審議会 障害者雇用分科会で、この報告書を基に、指針策定に向けた議論を行う予定であり、そうした場において本連合の意見を反映されるよう、委員各位のご理解とご支援を期待するものである。

1,『報告書』2 の(3)について(3ページ)
 指針には、「『募集に際して、一定の能力を有することを条件とすることについては、その条件が当該企業において業務遂行上特に必要なものと認められる場合は、障害者であることを理由とする差別に該当しない』と記載することが適当である。」とあるが、当該「条件」が、「業務遂行上必要」か否かの判断を誰が行うのかが不明確であり、第三者による判定機関の設置を検討すべきである。

2,『報告書』3の(3)について(5、6ページ)
(1)「募集及び採用時における合理的配慮」について、それを必要な障害者は、事業主に「支障となっている事情及びその改善のために希望する措置の内容を申し出ること」」と記載されているが、新卒障害者にとっては経験が不足しているため、自らが必要とする配慮事項を申し出ることは困難であり、負担としても大きすぎるので、障害特性を理解した第三者(ハローワーク職員・ジョブコーチ、特別支援学校教員など)を交えて協議する場を設定するよう明記すべきである。
(2)「合理的配慮に係る措置の内容に関する話合い」については、前記1と同様に、就労支援機関の職員など、第三者を交えた協議の場が準備されるべきである。
(3)勤務中に障害者となった者に対して、「事業主は障害者に対して遅滞なく職場において支障となっている事情の有無を確認すること」とあるが、中途障害者は、障害を補償する福祉制度や情報処理機器などの知識が乏しいため、退職に追い込まれることが多い。したがって、中途障害者に対しては、必要な配慮事項を確認する場合は障害特性を理解したハローワーク職員・ジョブコーチなど、就労支援機関の助言を求めることを規定すべきである。

3,『報告書』3の(4)について(7ページ)
 募集及び採用時に「均等な機会の確保」と記載されているが、企業の入社試験において高頻度で利用されるSPI総合検査は、絵や図形などを用いて性格も含めた人物の把握に用いられているが、視覚障害者にとっては対応不可能な形式であり、代替試験の実施を明記すべきである。

4,『報告書』4について(12ページ)
 「移動支援の在り方」については、今後取り組むべき課題とされている。この点は、民間事業主に対しても合理的配慮の提供の内容として検討されるべきであるが、地方公務員試験の募集要項の中に、「自力通勤可能な者」との記載がある点との関係でも問題となる。
 今回の改正法の合理的配慮に関する規定は、地方公務員にも適用されるため、「自力通勤」が差別となるかの議論のほかに、中途視覚障害者の職場復帰及び入社直後の視覚障害者に対し、短期間に限定した同行援護を認めるよう、制度の見直しを示唆すべきである。

5,別表【視覚障害】(12ページ)の項に以下の内容を追加してください。
(1)「採用試験について、点字や音声等による実施や、試験時間の延長を行うこと」とあるが、視覚障害者のうち弱視者の閉める割合が多い現状から、「拡大文字」による実施を加える必要がある。
(2)採用後について
・事業所内のランシステムなどを音声化対応にすること。
・職場での会議の資料などについて、極力視覚障害当事者が読めるような媒体(テキストデータ・拡大文字)を準備すること。
・ 個々の弱視者に対応した照明器具の設置などに配慮すること。
・健康診断や避難訓練など、通常業務以外の社内行事の実施に当たっては、障害当事者と話し合っ たうえで、複数の担当者を定めておくこと。
(3)「別表」の項目に、人的サポート(パーソナルアシスタント)に関する記載がなされていないことから、現在、制度化されている職場介助者(ヒューマンアシスタント)制度の活用が規定されていない。職場介助者制度の利用を促すような記述が必要である。

 

 

 

以上