踏切と道路を安全かつ安心して横断できることを実現するための奈良宣言

2023年6月6日

【画像】シンポジウムの様子

 第76回全国視覚障害者福祉大会(奈良大会)1日目の5月21日、奈良県橿原市のDAIWA ROYAL HOTEL THE KASHIHARAにおいて「踏切と横断歩道の安全を考えるシンポジウム」を開催しました。

 シンポジウムの締めくくりとして、奈良県視覚障害者福祉協会辰已壽啓会長より「踏切と道路を安全かつ安心して横断できることを実現するための奈良宣言」が発表され、採択されました。

 

【画像】シンポジウムの様子

採択された奈良宣言は以下のとおりです。

踏切と道路を安全かつ安心して横断できることを実現するための奈良宣言

 令和3年8月には静岡県三島市で、令和4年4月には奈良県大和郡山市で、踏切内において視覚障害者が列車と接触し死亡する事故が発生した。また、平成30年12月には東京都豊島区で、早朝の横断歩道において通勤途上の視覚障害者が自動車と接触し死亡する事故も発生している。

 これらの死亡事故以外にも、ニアミスやヒヤリ・ハットを経験した視覚障害者は数え切れず、視覚障害者にとって、踏切や横断歩道は、危険な場所となっている。踏切や横断歩道は全国各地にあるため、安全性が確保されなければ、視覚障害者の日常生活・社会生活に大きな影響を及ぼす。

 私たちはこのような痛ましい事故が二度と起こらないようにすると同時に、視覚障害者が踏切や横断歩道を安全に安心して利用できるような社会が1日も早く実現できることを求める。特に、国や道路管理者、鉄道事業者等に対して必要な安全対策を早急に実現することを強く求める。

  まず、視覚障害のある人は、安全に安心して踏切を横断する権利を有する。しかし、現状では、音響や触覚的な手掛かりがないため、踏切がどこに設置されているかが分からない。近くに踏切があることが分かったとしても、踏切がどこから始まり、どこで渡り終えたのかを知るための手掛かりがない。また、踏切を横断する際、歩行導線を示す誘導路が存在していないため、線路内に立ち入ってしまう等の危険性がある。さらに、もし万が一、踏切内に立ち入った直後に、遮断機が閉じ、踏切内に閉じ込められてしまった際、安全に安心して退避する方法が分からない。そのため、音サイン等で踏切の場所を示したり、踏切の始まりと終わりが分かるような触覚的な手掛かりを設置したり、踏切内の誘導路を示したり、緊急時の避難方法を示したりする等の対策が急務である。これらの安全対策について可及的速やかに、実証実験等を実施した上で、ガイドラインに盛り込み、全国に普及させることを強く求める。

  次に視覚障害のある人は、いつでも、安全に安心して横断歩道を横断する権利を有する。しかし、現状では、「視覚障害者誘導用ブロック(点字ブロック)」が敷設されていなかったり、敷設方法が不適切だったり、老朽化していて機能していなかったりする場合があり、横断歩道の場所を知ることが困難な場合がある。また、国のガイドラインにも記載されている歩車道の境界を示す「2cmの段差」がないために、間違って車道に出てしまう危険性のある場所もある。さらに、道路を横断する際に必要な「音響式信号機」や「エスコートゾーン」が設置されていなかったり、老朽化して機能していなかったり、時間によって音が止まっているために、車道に迷い出て事故に遭遇する危険性の高い場所もある。そのため、横断歩道の場所が分かるように点字ブロックを適切に敷設・保守点検したり、車歩道の境界を示す「2cmの段差」を確保したり、車道に逸れることなく道路を横断するために必要な「音響式信号機」や「エスコートゾーン」を全ての横断歩道に設置する等の対策が急務である。特に、「音響式信号機」の運用に際しては、時間制限等によって停止する場合でも、視覚障害者の安全が脅かされないように留意する必要がある。これらの安全対策について可及的速やかに、ガイドラインに盛り込み、全国に普及させることを強く求める。なお、点字ブロックの色や敷設方法、特に、隅切りのある道路における点字ブロックの適切な敷設方法等については、早急に実証実験等を実施し、ガイドラインに反映させる必要がある。

  最後に、踏切や道路を確実に横断するためには、私たち視覚障害者も自身の歩行について確認することが必要である。また私たちも踏切や交差点の構造を知り、どこにどのような形式の踏切や交差点があるかを知っておくことも必要である。そのためには、国や関係機関が、これらの情報を私たちが理解できる形式で提供しておくことも必要である。これらの情報を踏まえた上で、歩行訓練士の協力も得ながら、自らの歩行を見直す機会を持たなければならない。また、必ずしも一人で踏切や道路を横断するのではなく、不安なときは周りの人に援助依頼をすることも必要である。

 私たちは、これら必要な対策を関係機関に求め、自らも考えることにより、踏切や道路を確実に横断できることを熱望し、ここに宣言する。

 令和5年5月21日
第76回全国視覚障害者福祉大会(奈良大会)

 

踏切と道路を安全かつ安心して横断できることを実現するための奈良宣言
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