読み書きが困難な弱視(ロービジョン)者の支援の在り方に関する調査研究事業 報告書

2017年3月27日

 本連合では、埼玉県民共済生活協同組合、大阪府民共済生活協同組合の助成を受け、「読み書きが困難な弱視(ロービジョン)者の支援の在り方に関する調査研究事業」を実施し、報告書をとりまとめました。報告書は、全国の自治体、視覚障害者情報提供施設、視覚障害者福祉団体等へ配布をしました。  アンケート、ヒアリング等にご協力いただきました皆様ありがとうございました。

1.調査報告書のデータ

 報告書は下記よりダウンロードができます。

(1)墨字版(PDF形式/16.4MB)

(2)墨字版(word形式/12.5MB)
   ※word形式は、文章の下にページ番号を記載していません。

(3)点字版(bes形式/39.4KB)

(4)DAISY版(daisy形式/91.7MB)

調査報告書の写真

調査報告書(墨字版、点字版、DAISY版)の写真

2.シンポジウム

 本事業で実施したアンケート調査並びに、ヒアリングの結果から見えた課題を検証する、「弱視者の読み書きの支援の在り方に関するシンポジウム」を平成28年11月2日(水)、すみだ産業会館サンライズホールで開催しました。本調査の基調報告と、パネルディスカッションを実施し、参加者は約100人でした。  下記の写真をクリックすると、当日の内容(動画)を見ることができます。

(1)シンポジウムの動画(ショートカットバージョン:10分/クリックすると再生します)

(福)日本盲人会連合 竹下義樹会長 挨拶

(福)日本盲人会連合 竹下義樹会長挨拶

(2)シンポジウムの動画(ロングバージョン:120分/クリックすると再生します)

中野泰志委員長 基調報告

中野泰志委員長 基調報告

3.調査結果の提言

 調査報告書から、第4章の提言を抜粋し下記に掲載します。

4.1 調査結果のまとめ

 本調査は、読み書きに困難を抱えている弱視(ロービジョン)者の現状と課題を把握し、弱視(ロービジョン)者が真に求める支援や必要な配慮は何かを明らかにすることを目的に、日本盲人会連合加盟団体620人、日本網膜色素変性症協会(JRPS)500人、弱視者問題研究会80人の合計1,200人に対する大規模な調査を実施し、704人(58.7%)から有効回答を得た。回答は、石川県を除くすべての都道府県からあり、男女はほぼ同数(男性53.7%、女性46.0%)で、年齢は51~64歳が最も多かった。回答者は、視力が0.1以下の人が多く、視力低下以外に、視野狭窄、夜盲、羞明等の見えにくさを持っている人が多かった。
 読みで困っている場面は、「本・雑誌」、「商品の値段や表示」、「家電製品等のマニュアル」、「役所や公共機関等の行政手続き書類」等で、その原因は「文字が見えにくい」、「疲れる」、「検索するのが大変」等であり、「文字などを読みやすくする」、「データで提供する」、「補助具を利用できるようにする」等の配慮が必要であることがわかった。書きで困っている場面は、「金融機関、役所、公共機関での手続き」、「イベント等の申込み」、「業務上の書類・資料」等で、その原因は「書き込む場所がわからない」、「代筆や補助具が使用できない」等で、「書き込む場所をわかりやすくする」、「代筆など書く際の人的支援」、「拡大読書器などの補助具の設置」等の配慮が必要であることが明らかになった。
 弱視者の読み書きの問題では、読みの困難さに注目が集まる傾向がある。今回の調査の結果でも読みに困難を感じている人は約86%と多かったが、書くことに困難を感じている人も約78%に達していることがわかった。
 今回、読み書きの困難さだけでなく、相談・支援に関しても調査を行った。その結果、困ったときに相談する場所の問題。相談していない人の内、約50%は相談先がわからないことが原因だった。相談したい場所としては、 「当事者団体」、「福祉団体」、「障害福祉課」が多かった。なお、相談先がある人は半数程度に留まっていることがわかった。相談先は、「当事者団体」、「福祉団体」、「障害福祉課」が多く、「眼科」は約15%程度と少なかった。
 今回の調査で最も衝撃的だったのは、福祉制度を知るまでに 5年以上かかった人が25%いたという結果であった。福祉制度を知った場所は、「視覚障害者の当事者団体」、「視覚障害者の福祉団体及び施設」、「自治体の障害福祉課」等で、視覚障害者の誰もが訪れる「眼科医」は約13%しかなかった。

4.2 課題のまとめ

 弱視(ロービジョン)児には、拡大教科書が提供され、視覚支援学校(盲学校)以外に、弱視特別支援学級や弱視通級指導教室等で読み書きの技術や補助具の使い方等に関する指導が行われている。しかし、調査の結果、大人の弱視(ロービジョン)者にとっての読み書きの環境は、整っているとは言えないという課題があることがわかった。
 また、弱視(ロービジョン)者の読み書きの問題を議論する際、「読み」の困難さに注目が集まることが多いが、書き込む場所がわかりにくかったり、拡大読書器等の補助具が用意されていない等、「書き」の場面での困難が多いという課題も明らかになった。さらに、読み書きに困難を抱えているにもかかわらず、「相談窓口がどこにあるのかわからない」「どの相談窓口に相談したらいいのかわからない」等、相談できる場所が少ないという課題も明らかになった。そして、最も大きな課題として浮かび上がったのは、福祉制度と出会うまでに5年以上かかった人が25%も存在することであった。
 これらの課題の根底には、弱視(ロービジョン)という障害が適切に理解されていない点や弱視(ロービジョン)という障害が世の中に知られていないという理解・啓発の問題があると考えられる。また、弱視(ロービジョン)者の見え方・見えにくさには多様性があり、環境整備や支援の在り方も多様にならざるを得ないわけであるが、その必要性が十分に理解されてこなかったため、人的支援を含めて、環境整備が遅れている理由だと考えられる。加えて、弱視(ロービジョン)者は、外見上では、障害があることがわからないことが多いため、人的な支援を受けにくいし、援助依頼も行いにくいという問題も抱えている。
 私たちは、「弱視(ロービジョン)」という障害は軽度の「盲」ではないという認識に基づき、弱視(ロービジョン)者が遭遇している困難を独自の課題として捉える必要がある。また、見え方・見えにくさの多様性があることを知り、環境整備や支援に個別性があることを認識しておく必要がある。そして、外見上わかりにくいが故に支援の必要性を理解してもらいにくいし、福祉制度等のサービスに繋がるまでにも長い時間がかかっていることを忘れてはならない。

4.3 課題に基づく提言

 以上の弱視(ロービジョン)者が抱える独自の諸課題を解決するためには、以下に示すように弱視(ロービジョン)者の理解の促進と普及・啓発、読み書きの環境整備、制度や支援との出会いの促進、さらなる調査とスパイラルアップが必要である。

4.3.1 弱視(ロービジョン)者の理解の促進と普及・啓発に関する提言

(1)「弱視(ロービジョン)」に対する理解をより促進すること
 弱視(ロービジョン)の見え方・見えにくさは多様であり、それ故に、遭遇している困難も様々である。そのため、環境整備等の配慮の在り方も多様にならざるを得ない。弱視(ロービジョン)の見え方・見えにくさ、困難さ、配慮の多様性やその関係性については、まだ、解明されていないことも多い。特に、遭遇している困難さや環境整備の在り方については、見え方・見えにくさとの関係で整理する必要がある。
 また、弱視(ロービジョン)者の中には、自分の見え方・見えにくさを自覚したり、必要な配慮に気づくことができていないケースもあるため、当事者の自己理解を促進する取り組みも必要である。さらに、弱視(ロービジョン)者は、晴眼者と盲人の間の境界的存在であると言われることがあるが、それ故に感じる孤立感等の精神的な状態も理解する必要がある。本研究は、これら弱視(ロービジョン)者の実態に迫るための調査であったが、今後、さらに調査・研究・実践が必要である。

(2)「弱視(ロービジョン)」に対する適切な理解を世の中に普及・啓発すること
 世の中には、「視覚障害=盲」というイメージが強く、「弱視(ロービジョン)」の見え方・見えにくさ、困難さ、必要な配慮等は適切に理解されていない。弱視(ロービジョン)は外見上、わかりにくい障害であることも、理解を阻んでいる要因だと考えられる。そのため、「弱視(ロービジョン)」の見え方・見えにくさ、困難さ、必要な配慮等を社会に啓発していく必要がある。

(3)弱視(ロービジョン)者が活動しやすい当事者活動の場の整備とその周知をすること
 弱視(ロービジョン)者が安心して、必要な配慮を要望できるようにするためには、当事者団体の存在は必須である。しかし、現在、障害者団体と出会えるチャンスが少ないと考えられる。そこで、弱視(ロービジョン)者が活動しやすい当事者活動の場を整備する必要がある。また、当事者団体と出会えるチャンスを増やす必要がある。

(4)多様な弱視(ロービジョン)者のニーズを集約する仕組みを構築すること
 弱視(ロービジョン)の見え方・見えにくさが多様であるために、そのニーズも多様である。そのため、弱視(ロービジョン)者の実態を明らかにしたり、環境整備や配慮等を行ったりする際、多様なニーズを集約できる仕組みを構築する必要がある。特に、当事者参加の際に、多様性を考慮して代表者が選出される必要がある。

4.3.2 読み書きの環境整備に関する提言

(1)読み書きに関する情報保障に関する理念を普及・啓発すること
 「障害者権利条約」の二十一条「表現及び意見の自由並びに情報の利用の機会」には、(b)項「公的な活動において、手話、点字、補助的及び代替的な意思疎通並びに障害者が自ら選択する他のすべての利用可能な意思疎通の手段、形態及び様式を用いることを受け入れ、及び容易にすること。」並びに、(c)項「一般公衆に対してサービス(インターネットによるものを含む。)を提供する民間の団体が情報及びサービスを障害者にとって利用可能又は使用可能な様式で提供するよう要請すること。」が定められている。
 また、「障害者差別解消法」の基本方針の第5「その他障害を理由とする差別の解消の推進に関する施策に関する重要事項ー1 環境の整備」には、「不特定多数の障害者を主な対象として行われる事前的改善措置(いわゆるバリアフリー法に基づく公共施設や交通機関におけるバリアフリー化、意思表示やコミュニケーションを支援するためのサービス・介助者等の人的支援、障害者による円滑な情報の取得・利用・発信のための情報アクセシビリティの向上等)については、個別の場面において、個々の障害者に対して行われる合理的配慮を的確に行うための環境の整備として実施に努めること」と定められている。
 読み書きに関する情報保障の権利を実現するためには、まず、国が「弱視(ロービジョン)者のための情報保障及び情報提供に関するガイドライン」(仮称)を、当事者参加によって、策定するとともに、インフラや人的支援体制等を整備するための財源の措置、制度の周知・徹底を行う必要がある。
 また、自治体は、国が定めるガイドラインに準拠し、各自治体において「弱視(ロービジョン)者の情報保障及び情報提供のガイドライン」(仮称)を策定することが必要である。拡大読書器、ルーペ、サインガイド等の基礎的環境を整備するとともに、拡大文字版やテキスト版の媒体等を作成するボランティア等の人材の育成をすることも重要な役割だと考えられる。
 そして、視覚障害当事者団体は、国と自治体が定めるガイドラインの作成に、計画段階から積極的に参画するとともに、適切に実施・スパイラルアップされるように監視する必要がある。

(2)物理的環境(ハード面)の整備を行うこと ・拡大読書器等の基礎的環境整備をすること
 病院や銀行、役所等の受付窓口や記載台には、高齢者向けの配慮として老眼鏡が置いてある。その老眼鏡を置く配慮と同様に、弱視(ロービジョン)者が読み書きするための拡大読書器、ルーペ等の補助具を設置するとともに、書類の記入欄に合わせたサインガイドを用意するなどの工夫が必要である。

・日常生活用具及び補装具の地域間格差の解消をすること
 弱視(ロービジョン)者がどこに居住していても、安心し自立した生活を送るためには、日常生活用具・補装具の給付等について自治体間での格差があることは不適切であり、解消する必要がある。例えば、日常生活用具に関しては、支給限度額や耐応年数、指定対象品目の違い等が、補装具に関して言えば、遮光眼鏡や弱視眼鏡の給付本数等に地域間格差がある。
 弱視者のニーズが地域によって大きく異なるわけではないので、これらの支給等に地域間の格差があるのは合理的とは言えないと考えられる。そこで、これらの地域間格差を解消し、誰でも同じ条件で受けられるようにしていくことが求められている。そのためには、自治体は、地域に居住する視覚障害者数を把握し、日常生活用具等の給付の予算を確保する必要がある。また、弱視(ロービジョン)者に対して、これら福祉制度が利用できることを周知徹底する必要がある。そして、当事者団体は、地域の自治体に対して、日常生活用具及び補装具の予算確保の必要性を訴えていかなければならない。

・新たに日常生活用具の給付品目を追加すること
 タブレット端末やスマートフォン等で、写真を撮って拡大して見る、電子データを読み書きする、読むことを支援する便利なアプリを使う等によって、弱視(ロービジョン)者の読み書きの環境は大きく改善すると考えられる。そのため、自治体はタブレット端末等を日常生活用具の品目に指定するとともに、当事者のニーズに応じて、時代にあった日常生活用具の品目を指定するよう、定期的な見直しが必要である。

(3)制度や人的支援体制(ソフト面)の整備を行うこと ・デジタルデータの提供やICT機器を学ぶ場を提供すること
 弱視(ロービジョン)者のニーズに応じて、文字の大きさ、書体、色、コントラスト、行間、文字間隔等の読書条件を変更できるようにするためには、アクセシブルなデジタルデータの提供は極めて重要である。また、申請書類等のように、必要事項を書き込まなければならない書類の場合には、ワードファイルやテキストファイルのように編集可能なデータ形式で提供され、デジタルデータで提出できる仕組みが必要不可欠である。なお、誰もがデジタルデータの恩恵を受けられるように、ICT機器の活用方法を学べる場を提供することも大切である。

・ボランティア等による情報保障支援を行いやすくすること
 書籍、手続きのための書類等、弱視(ロービジョン)者が必要とする全ての情報がアクセシブルな形式(拡大図書やアクセシブルなデジタルデータ等)で提供される社会システムを構築することは必須である。しかし、弱視(ロービジョン)者が読みやすい文字の大きさ、書体、色、コントラスト、行間、文字間隔等の読書条件はそれぞれ異なるため、個々の当事者のニーズに応じる必要性があり、その全てをあらかじめ用意することが困難な場合がある。
 そのため、個別のニーズに応じて拡大等を行う拡大写本ボランティア等が必要な場合がある。ボランティア等が、弱視(ロービジョン)者にとって読み書きし易い書籍等を作成する際に、必要となる著作権の処理や、必要経費等が迅速に行える社会システムの整備が必要である。

・代読・代筆を受けられる体制を用意すること
 すべての弱視(ロービジョン)者が、すべての書類を自筆することは困難なため、代読・代筆を受けられる環境が求められている。代読・代筆の専門者を育成するとともに、支援する制度を利用できない場面においても、窓口等で代読・代筆を受けられる環境整備が必要である。窓口等での代読・代筆の環境を整備した例として、金融庁が金融機関に「主要行等向けの総合監督指針」を出し、ほとんどの金融機関の預貯金の取引等において代読・代筆が可能になったことがあげられる。同様に国や自治体が、当事者参加によって「代読・代筆に関するガイドライン」(仮称)を策定し、現在認められていない場面においても、代読・代筆を認めるべきである。

4.3.3 制度や支援との出会いの促進に関する提言

(1)福祉等の制度や人的支援に関する情報を迅速に伝える社会システムを構築すること
 本調査の結果で、最も大きな課題だったのが、福祉制度や支援と出会うまでに5年以上の時間を要した人が4分の1に達していたことである。福祉を含め様々な支援制度、ボランティア等の支援者、そして、当事者団体と出会い、必要な配慮が迅速に受けられるようにするための、社会システムを構築する必要がある。

(2)眼科医が福祉制度や支援等に関する情報提供を担えるようにすること
 弱視(ロービジョン)者は、必ず医療機関で診察を受けるため、眼科医の役割は大きいと考えられる。そこで、福祉制度や支援等に関する情報を眼科医が提供できるようにする必要がある。

(3)ロービジョンケアを提供する専門家や専門機関を増やすこと
 弱視(ロービジョン)者が視機能や補助具等を上手に活用して、読み書きを効率的に行い、QOLを向上させるためには、ロービジョンケアが重要な役割を果たす。しかし、ロービジョンケアを提供できる専門家や専門機関は必ずしも多いわけではない。そこで、ロービジョンケアを提供する専門家や専門機関を増やす必要がある。

(4)ロービジョンケアに関する保険医療制度を充実させ、ロービジョンケアが提供できる医療機関(ロービジョンクリニック)を増やすこと
 ロービジョンケアを効果的に実施するためには、ロービジョンクリニックの役割が大きい。また、病院でロービジョンケアを受ける際、ロービジョンケア診療における、診療報酬制度を利用できることも重要である。そのためには、保険医療制度を充実させ、「視覚障害者用補装具適合判定医師研修会」を修了した医師を増やし、ロービジョンクリニックを設置できる病院を増やしていく必要がある。

(5)スマートサイト等を活用し、弱視(ロービジョン)者を支援団体等に繋げる活動を全国各地で推進すること
 弱視(ロービジョン)者がロービジョンケアを受けたり、福祉制度や人的支援を受けられるようにするためには、ロービジョンクリニックだけでなく、より多くの眼科医が、ユーザと当事者団体や支援団体等をつなぐ、ハブとしての役割を果たす必要がある。そのために有効な方法の一つとしてスマートサイト(注)を普及させる必要がある。

注:「スマートサイトとは、2005年より米国眼科学会(AAO)がはじめたロービジョンケア推進プロジェクトです。その概要は、ロービジョンケアの存在を知らせる啓発用資料を作成し、それを眼科医が視覚障害のある患者に渡すことを推奨するものです。患者は資料からロービジョンケアの概要を知ることができ、そこに掲載されたホームページにアクセスすることで、より詳細な情報を得ることが可能となります。ロービジョンケアの知識が乏しい眼科医であっても、実行可能な情報提供手段を公的に提供していること、情報提供を眼科医の責務と位置付けていることが画期的といえます。」 (http://sasadangonet.at.webry.info/201306/article_12.html

(6)福祉制度をすべての弱視(ロービジョン)者に周知すると同時に利用しやすい仕組みを構築すること
 日本の福祉制度は、申請主義であるため、弱視(ロービジョン)者が自ら情報を集め、主体的に申請する必要がある。しかし、本団体が昨年度、実施した調査から、福祉制度を説明した資料が、視覚障害者にアクセシブルな形式で提供されていないことがわかっている。そのため、自治体は、すべての弱視(ロービジョン)者に対して、利用可能な制度や情報(「障害者福祉のしおり」や、「日常生活用具・補装具のカタログ」等)をわかりやすく提供する必要がある。例えば、身体障害者手帳や年金の手続きの際に、拡大文字版や電子データ版等の弱視(ロービジョン)者に配慮した媒体で「障害者福祉のしおり」や「日常生活用具・補装具のカタログ」等を配布する必要がある。また、弱視(ロービジョン)者は、読み書きに困難があるわけなので、窓口でわかりやすく説明したり、申請書類等を電子データで提供したり、代筆・代読をしたり等の利用しやすい仕組みを構築する必要がある。

4.3.4 さらなる調査とスパイラルアップの必要性に関する提言

 本調査の結果、弱視(ロービジョン)者が遭遇している読み書きの困難さの実態や課題が明らかになった。弱視(ロービジョン)者の読み書きの困難さは、見え方・見えにくさの多様性に起因しており、環境整備や人的支援の在り方にも多様性があることが明らかになった。また、読みの困難さと書きの困難さは、独立の問題ではなく、所定の書式に必要事項を書き込まなければならない場面のように、相互に関係している問題であることが明らかになった。そのため、視認性を向上させるだけでなく、代読や代筆等の人的支援を組み合わせなければ解決しない問題もあることが明らかになった。さらに、弱視(ロービジョン)者が遭遇している困難さの根底に、弱視(ロービジョン)という障害が理解されていなかったり、外見上わかりにくいこともあり、福祉制度や支援団体等と出会うことが困難であるという問題点も明らかになった。これらの諸問題を解決するためには、個々の見え方・見えにくさに応じた環境整備、補助具の活用、人的支援等に関するさらに詳細な調査が必要である。また、調査結果に基づいて制度や環境を整備する際には、多様な見え方・見えにくさのある当事者に対応できるようにスパイラルアップしていく必要がある。