厚生労働省で第72回雇用分科会を開催(※11月29日更新、要望書全文を追加しました)

2016年11月29日

 11月21日、厚生労働省において、第72回労働政策審議会障害者雇用分科会が開催され、日本盲人会連合から、工藤正一総合相談室長が竹下義樹会長の代理で出席しました。

 今回は、「障害者雇用制度及び支援策の現状等について」と題して事務局より説明が行われ、それを受けて自由に意見交換が行われました。日盲連からは、同分科会会長山川隆一氏(東京大学大学院法学政治学研究科教授)に対して、事前に意見書を提出し、これに基づき意見を述べました。

 意見書では、依然厳しい視覚障害者の雇用状況を改善するためには、抜本的な特別対策が必要であることを強調するとともに、特に中途視覚障害者の雇用継続など、8項目にわたる要望を行いました。この中で、納付金財源から雇用保険2事業へ財源が移行されたことに伴い、新しく創設された「障害者職場復帰支援助成金」について、事業主支援だけでなく、本人給付という一定の新たな枠組みを検討することや、地域障害者職業センターに視覚障害に精通したジョブコーチとして、国立リハビリテーションセンター学院の修了生を登用することなどを提言しました。

 さらに、今回の意見書にはないが、障害のある公務員も民間と同じような支援が受けられる仕組みを検討することや、就労移行支援事業の柔軟な運用についても要望しました。

【以下、意見書全文】

日盲連発第107号
平成28年11月21日

労働政策審議会障害者雇用分科会
分科会長 山川 隆一 殿

社会福祉法人 日本盲人会連合
会長 竹下 義樹
(公印省略)

第72回労働政策審議会障害者雇用分科会に係る意見書

 平素は視覚障害者に対する福祉の増進に対し、弛まざるご努力を頂き心より敬意を表します。この度、表記の分科会にて審議される議題について、下記の意見を提出します。

 視覚障害者の雇用状況については、身体障害者の部位別の雇用状況が未公表であることから、明らかにはなっていないものの、視覚障害者ならば誰もがその厳しさを実感している。これまでのハローワークにおける障害者の就職状況から、視覚障害者の就職状況を見ても分かる。ハローワークにおける平成27年度の障害者の就職件数は90,191件で、6年連続で過去最高を更新という中、視覚障害者にあっては2,283件で、前年度よりやや減少するという結果になっている。ちなみに、職業別内訳を見ると、専門的・技術的職業が1,206件(52.8%)、運搬・清掃等の職業が376件(16.5%)、事務的職業が307件(13.4%)、サービスの職業が190件(8.3%)などと続く。専門的技術的職業が過半数を占め、その中身が三療(あんまマッサージ指圧・はり・きゅう)に基づく職業であり、三療に依存している実態を浮き彫りにしている。しかし、事務的職業がほぼこれに続くことは、注目すべきであり、重要である。つまり、視覚障害者、とりわけ重度の視覚障害者の職業といえば、今や三療を除けば事務的職業といっても過言ではない。今日のICT技術の発展や、合理的配慮の具体化として、一定のリハビリテーションが保障されるなら、その実現可能性は高いと考える。

  一方、視覚障害者の多くは働き盛りの40代、50代の人生半ばにして視覚障害となった中途視覚障害者であり、職業生活を維持・継続できるかどうかは、重大な問題である。いったん退職すると、再就職は容易ではなく、それ故に、退職することなく働きつづけられるようにすることが肝要である。その場合、本人の職業に対する不安や自信喪失、障害の受容面での問題から職業リハビリテーション実施のタイミングを逸する場合もある。そのため、早期に関係機関との適切な連携を図り、仕事への意欲を喚起し、職業の継続を図る必要がある。言うまでもなく、そのためには、医療機関(特にロービジョンケアを実施している医療施設)、職場の産業医、訓練施設などとの連携の下に、在職中に支援を開始することが重要となる。

  このような中、近年の障害者雇用政策の動向を見ると、精神・発達・難病など、新たな重要課題に対処しなければならず、ともすれば、身体障害者が置き去りにされかねないことが危惧される。とりわけ、数の少ない視覚障害者にあってはその数の少なさに鑑み、特別対策をもってしなければ、この厳しい現状を乗り越えることはできないと考える。

 ところが、視覚障害者のための訓練施設や、相談・支援のできる専門家が少なく、支援体制が極めて不十分である。そこで、現状の各種支援制度を視覚障害者の特性を踏まえて見直し、視覚障害者にも使える制度となるように抜本的な改善を図る必要がある。

  以上のことから、次のことを検討するよう要望する。

 1 障害者職場復帰支援助成金について、視覚障害者が使える具体例を、分かり易く示して欲しい。2015年4月10日の予算成立時点から、納付金制度に基づく助成金から雇用保険二事業へ財源が移行されたことに伴い、「重度中途障害者職場適応助成金」が「障害者職場復帰支援助成金」に制度変更が行われた。そのことにより、対象障害者の範囲、支給要件、助成額・率がどのように変更されたのか。視覚障害者の場合、どのような場合に活用できるのか。それらについて、視覚障害者にも分かるような形で情報提供されたい。ちなみに、図表やPDFデータでは確認が困難であることに留意されたい。

 2 障害者職場復帰支援助成金について、納付金制度に基づく助成金から雇用保険二事業へ財源が移行されたことに伴い、一定の本人給付という新たな枠組みを検討して欲しい。つまり、障害によるディスアビリティーを克服する訓練として、復職までの期間内に、復職する手立てとして、移動の能力確保、コミュケーションとしての点字、パソコンスキルの獲得等は元の職場への復帰へ不可欠である。これらは、職場への支援と本人支援とが一体的に必要であることとともに、失業防止の観点からも合理性がある。この考えは、難病・がん等、病気治療をしながら復職する場合にも共通すると考える。

 3 地域障害者職業センターが行ってきたリワーク事業は、精神障害者にとって大きな成果を上げてきた。このノウハウを基盤として、視覚障害者をはじめ、難病やがん患者の職場復帰支援の新たな枠組みを検討して欲しい。

 4 視覚障害者を対象とした職業訓練施設が極めて限定的で少ない。国立職業リハビリテーションの訓練指導員を全国に派遣できるような、新たな枠組みを検討されたい。

 5 視覚障害を支援できるジョブコーチが極めて限定的で少ない。各地域障害者職業センターに視覚障害に精通したジョブコーチとして、国立リハビリテーションセンター学院の修了生などを登用することを検討されたい。

 6 今後の新たな施策を策定するためにも、障害の種類毎のデータが不可欠である。61調査における身体障害者の部位別雇用実態や、障害者就業・生活支援センターの利用者の、障害の種類・部位別のデータも必要である。

 7 「ニッポン一億総活躍プラン」【平成28年6月2日閣議決定】に基づく具体的な施策として、視覚障害者の希望や治療状況、疾病の特性等を踏まえた就労支援を実施するため、労働局がロービジョンケア医療施設、産業保健総合支援センター(産業医)等と連携し、視覚障害者のモデル事業を全国複数個所で実施することを要望する。

8 合理的配慮事例集について、公務員版についても作成して欲しい。

以上