2024年10月31日 障害者基本法の改正に向けた検討 社会福祉法人日本視覚障害者団体連合  2022年10月7日に公表された国連障害者権利委員会による「日本の第1回政府報告に関する総括所見」では、日本の「障害者の権利に関する条約」に関する国内実施状況が検討され、今後改善を要する事項が懸念事項、勧告事項として示されたところである。  本連合では、この総括所見を踏まえて、視覚障害の当事者団体の立場から、今後、法整備が必要な事項、運用改善が必要な事項その他の必要な制度改革を検討し、関係各機関に対して、改善の働きかけを行うこととしている。この検討の内容の一環として、2011年に制定され、施行されている障害者基本法の改正について、以下の通り、本連合の検討結果をとりまとめることとした。なお、以下の項目は、障害者全般に関わる改善事項として取りまとめたものとなっているが、視覚障害者の立場から改善を要する項目(移動の安全の確保、情報バリアフリー、同行援護等の支援者の確保等々)についても十分に検討を行い、同法の改正案条項として明記すべきとの結論に至った項目については、その内容として掲載することとしている。 第1 「第一章 総則」関係 1 第1条(目的)  「障害者権利条約の理念にのっとり」等の文言を挿入し、障害者基本法の目的として、障害者権利条約の内容の履行を明記する。 2 第2条(定義)  「障害者」の定義規定に「断続的」との文言を挿入し、現行法よりも広い定義規定とする。  「合理的配慮」の定義規定を挿入する。 3 第3条(地域社会における共生等)  第2号の「可能な限り」との文言を削除し、「どこで誰と生活するかについての選択の機会が確保される」ことを原則とする。  第3号の「可能な限り」との文言を削除し、「言語(手話を含む。)その他の意思疎通のための手段についての選択の機会が確保される」ことを原則とすること、及び、「情報の取得」に例示を加え「点字、代読代筆その他の情報の取得」との文言とする。 4 第4条(差別の禁止)  間接差別、関連差別、合理的配慮の否定、ハラスメントの他、複合的かつ交差的な差別形態が「差別」に含まれること等、「あらゆる差別」が差別として禁止されることを文言上明確にする。 5 第7条(国民の理解)  「障害者に対する否定的な定型化された観念、偏見及び有害な慣習を排除するための国家戦略を採用すること」(総括所見第20項)を踏まえ、第7条に必要な措置を講じる旨を明記する。 6 障害のある女子(新設)  総括所見における懸念・勧告事項及び障害者制度改革の推進のための第二次意見における指摘を踏まえ、障害のある女子が複合的かつ交差的な差別の対象となっている実態を把握し、国の責務として基本的な施策を実施することを明記する(新設)。  また、障害のある女子が虐待を受けた場合、違法行為による被害を受けた場合の対策については、虐待防止条項を総則に新設するとともに、相談等(第23条)に1項を新設する。 7 障害のある児童(新設)  障害のある子どもが障害のない子どもと差別されず、障害のない子どもと同等の権利を有すること、障害のある子どもがその年齢と理解度に応じて、十分な情報の提供を受けた上で、その意見表明権が保障されること、そして、その表明した意見が尊重されることについて、基本的な施策を実施することを明記する。 8 虐待防止(新設)  障害者に対する虐待防止に関する施策についての規定を新設する。また、障害のある女子、障害のある児童が虐待を受けた場合及びハラスメントを受けた場合の対策については例示として文言上明記する(緊急避難場所のバリアフリー等)。 第2 「第二章 障害者の自立及び社会参加の支援等のための基本的施策」関係 (基本的な方針)  現行法の第14条から第30条までを以下の節に分けた上で、新設規定を含めて整備を行う。 1 障害者の自立及び社会参加の基盤整備等のための基本的施策(第1節として改正する・節は仮称) (1)第22条(情報の利用におけるバリアフリー化等)  昨今のICT技術の導入の広がりから視覚障害者が取り残されないために、情報の提供に係る役務の提供を行う事業者及び情報通信機器の製造等を行う事業者に対して「障害者の利用の便宜を図るよう努めなければならない」と定めているところを「障害者の利用の便宜を図らなければならない」とすることを含めて、必要な改正を行う。 (2)移動の円滑化(新設)  視覚障害者が移動したいと思った時に移動したい場所に移動できるような基本的施策を実施するよう、基本法の改正(新設)を行う。具体的には、支援者の確保、移動補助具・補装具・支援機器の提供、移動に関する情報の提供を内容とする。 (3)第20条(住宅の確保)  住宅を提供する事業者に対して、障害者に対する合理的配慮の提供を行うこと、及び、必要な環境整備を計画的に行うよう務めること等の基本的施策を規定する(第2項として新設)。  また、総括所見の勧告事項及び障害者制度改革の推進のための第二次意見で指摘されている「精神障害者に係る地域移行の促進」を図るため、その内容を実現するために必要となる基本施策に関する事項を明記する(第3項として新設)。 (4)第15条(年金等) (5)第24条(経済的負担の軽減)  年金等及び経済的負担の軽減に関しては、総括所見第60項で指摘されている「障害者、特により多くの支援を必要とする者に対して、相当な生活水準を保障し、障害に関連する追加費用を負担するために、社会保障制度を強化すること」、「障害者団体と協議の上で、障害年金の額に関する規定を見直すこと」との勧告事項を踏まえ、必要な改正を検討する。  また、第24条における「障害者及び障害者を扶養する者の経済的負担の軽減を図り」との文言は「障害があることに基づいて必要となる費用の軽減を図り」等の文言に改正する。 (6)支援者の確保(新設)  日本においては「親なきあと」の問題が指摘されているとおり、障害者に対しては家族が中心的役割を担ってきた。しかし、障害者権利条約が採用する社会モデル・人権モデルの考え方を踏まえれば、家族ではなく、社会が障害者を支える体制を整える必要がある。家族支援から社会支援への転換を図る必要性は大きく、この点を障害者基本法に明記し、基本的な施策を実施することが必要である。  具体的には、子育て、介護に関する支援者の確保、支援者の選択(異性介助の回避のため)、支援時間の確保等を例示として明記する。 (7)第23条(相談等)  障害のある女子・児童の相談体制については、適切な相談員が確保されることその他必要な相談体制の整備が図られることを明記する(第3項として新設)。 2 障害者の自立及び社会参加の促進等のための基本的施策(第2節として改正・節名は仮称) (1)第14条(医療、介護等)  障害者が、それぞれの障害特性に応じた十分な情報提供を受けた上で、医療を受けるに際しての適切な自己決定を行うことができるようにするため、その基本的な施策を明記する(新設)。  また、総括所見の勧告事項及び障害者制度改革の推進のための第二次意見における「精神障害者に係る・・・医療における適正手続の確保」の指摘を踏まえ、これらの内容を実現するために必要となる基本施策に関する事項を明記する(新設)。 (2)第16条(教育)  インクルーシブ教育を原則として位置づけること、「可能な限り」との文言を削除することに加えて、高等教育・成人教育に関する事項を明記すること等、必要な改正を行う。 (3)第17条(療育)  条文のタイトルを「保育及び療育」とした上で、「可能な限り」との文言の削除(第1項)、「保育・療育その他これに関連する支援」との文言修正(第1項)、「障害者である子どもの保育、療育に関し」との文言修正(第2項)を含めて、必要な改正を行う。 (4)第18条(職業相談等) (5)第19条(雇用の促進等)  雇用主の合理的配慮義務を明記すること、自営業で働く障害者への支援を明記すること、「障害者の雇用のための経済的負担を軽減し」(第3項)との文言を「援助を行う者の配置その他の障害者の雇用のために必要となる費用を軽減し」との文言に修正すること等、実態を踏まえた上で必要な改正を行う。 (6)第21条(公共的施設のバリアフリー化)  第21条第2項が事業者に対して「計画的推進に努めなければならない。」と定めているところを「計画的推進を図らなければならない」とすることを含めて、必要な改正を行う。 (7)第25条(文化的諸条件の整備等) (8)第30条(国際協力) 3 障害者の自立及び社会参加の保障等のための基本的施策(第3節として改正・節名は仮称) (1)第26条(防災及び防犯)  犯罪防止のための支援機器の開発を促進すること、犯罪の被害者となった場合の相談体制を整備することについて、基本的な施策を定めることを明記する(第2項として新設)。 (2)第27条(消費者としての障害者の保護) (3)第28条(選挙等における配慮)  障害者が自らが選択する形式で、かつ、適切な時期に選挙に関する情報を取得することを可能とすること、障害者が選択した者によって自らの意思を表明し投票することを可能とするための基本的施策について、明記する。  また、障害者が被選挙権を障壁なく行使するために必要な基本的施策を明記する。 (4)第29条(司法手続における配慮等)  障害者が司法手続きを利用するに際しては、国により「手続上の配慮」が提供されることを明記する。 第3 「第三章 障害の原因となる傷病の予防に関する基本的施策」関係 (方針) @医療の発展に伴う機能障害の回復及び拡大の防止 A既に有する機能障害を原因として発生する二次障害の防止 B機能障害の早期発見と早期関与の充実 (改正方針)  第3章のタイトルの「の予防」との文言を削除する。  第1項の「及びその予防」との文言を削除する。  第2項の「の予防のため、」との文言を「に関する」との文言に修正する。  第2項の「早期治療」との文言を「早期関与」との文言に修正する。  第3項の「予防及び」との文言を削除する。 第4 「第四章 障害者政策委員会等」関係  現行法第32条第2項に「障害者の権利に関する条約の国内実施状況を監視し、必要があると認めるときは、内閣総理大臣又は内閣総理大臣を通じて関係各大臣に勧告すること」(新設・第4号)、「前項第三号及び第四号の規定による勧告」(現行法第3項改正)との修正を加えることを含めて、必要な改正を行う。