表紙 社会福祉法人日本視覚障害者団体連合 将来ビジョン推進委員会 総括所見に関する検討 最終報告書 目次 はじめに 1ページ 第1章 自立した生活及び地域社会への包容 (第19条) 2ページ 第2章 教育(第24条) 9ページ 第3章 労働及び雇用(第27条) 14ページ おわりに 22ページ 第4章 ヒアリング記録 23ページ 第5章 参考資料 32ページ 第6章 将来ビジョン推進委員会について 41ページ 1ページ はじめに  2006年に障害者の権利に関する条約(以下、障害者権利条約)が国連で採択され、我が国はこれを2014年に批准した。  国連の人権条約には、条約の規定の実施状況を監視するため、いずれの国家の立場からも独立である専門家からなる委員会が、それぞれの国の条約の履行状況を審査する仕組みが設けられており、2022年8月、障害者権利委員会と日本政府との最初の審査(建設的対話)が行われた。  そして、これを踏まえ、今後の障害者施策の推進において重要な「日本の第1回政府報告に関する総括所見」(concluding observations)(以下、総括所見)の確定版が2022年10月7日に公表された。  総括所見の内容は多岐にわたるが、本委員会は、その中でも我々視覚障害者の生活に密接に関連する「自立した生活及び地域社会への包容(19条)」、「教育(24条)」、「労働及び雇用(27条)」について、総括所見の内容を分析し、今後、これを受けて日視連が取り組むべき施策の方向性について検討した。  本報告書は、かかる検討の状況について、まとめたものである。 2ページ 第1章 自立した生活及び地域社会への包容(第19条) 1.総括所見の内容  障害者権利条約第19条「自立した生活及び地域社会への包容」に関する総括所見において、障害者権利委員会は、「urge(強い要請)」という表現で、我が国に対して次の6点を勧告した。 (a)障害者の施設収容をなくすため、予算を入所施設から障害者が地域社会で障害のない人と平等に自立して生活するために配分しなおすこと。 (b)精神科病院に入院している障害者のすべてのケースを見直し、無期限の入院をやめること。地域社会での必要な精神保健支援とともに自立した生活をできるようにすること。 (c)障害者が地域で誰と暮らすかを選択でき、特定の生活形態に住むことを義務づけられないこと、障害者が自分の生活をコントロールできるようにすること。 (d)障害者団体と話し合いをしながら、障害者が施設から障害のない人と平等な地域社会での自立生活に移行することを目指す、期限付きの目標を設定し、財政的資源などを伴う法律や国家の戦略をつくること。このような戦略などの実施を都道府県の義務とすること。 (e)障害者が地域で自立して生活するため、集合施設の外にある自立したアクセス可能で安い住宅、パーソナルアシスタンスや地域の社会サービスへのアクセスなどの支援体制を強化すること。 (f)障害者の支援については、その決定の仕組みを障害者の人権モデルに基づいたものにすること。  障害者権利委員会は、障害者の入居型施設を否定的に評価し、我が国に対しいわゆる「脱施設化」を強く要請しているのである。  このような要請の背景には、精神障害者が長期間の精神科病院への入院を強いられている現状や、社会から隔絶された大規模施設で生涯を送ることを余儀なくされている知的障害者の存在がある。  一方で、我が国において、多くの視覚障害者は、施設に入所するのではなく地域で生活している。しかし、生活の中で、視覚障害があるために自由や選択肢を制限されることは少なくない。  そのため、本委員会としては、この総括所見を受け、視覚障害者の施設入所についても改めて関心を持つとともに、施設入所の場面に限定せず、生活全般にわたり、  ・障害者が自分の生活をコントロールできるようにすること(c項)。  ・集合施設の外にある自立したアクセス可能で安い住宅への入居を可能にすること(e項)。  ・パーソナルアシスタンスや地域の社会サービスへのアクセスなどの支援体制を強化すること(e項)。  などの点について改めて検討することとした。  本章では、地域生活において、視覚障害者が健常者と等しい事由を享受するために必要なことについて、主に制度面から考察し、加えて、視覚障害者の入居型施設の状況を概観するとともに、施設での生活に関して改善すべき点を検討する。 2.視覚障害者の地域生活の現状について  多くの視覚障害者は施設ではなく地域の中で生活している。しかし、視覚障害があるために様々な自由や選択肢を制限されることは少なくなく、自らの望む生活スタイルを選び、自身でそれをコントロールできている者ばかりではない。  そこで、総括所見で指摘された諸点について、現状を概観する。 (1)障害者が自分の生活をコントロールできるようにすること(c項)  視覚障害者が地域で生活するためには、地域生活を支える十分な制度上の裏付けがあることに加え、視覚障害者自身が、自分が望む生活スタイルを創造し、それに合わせて周囲の人間関係や支援制度を組み立てていくいわばセルフマネージメントの能力を身に着けること、また、権利擁護の仕組みを整えることが必要である。  この点、セルフマネージメントの能力を身に着けるためには、様々な社会経験を積み、自身の権利や支援制度について情報を獲得する機会が必要であるが、視覚障害があることで、失敗することも含め、社会的な経験を積む機会が限られる場合がある。なお、現在の教育制度の下では、自身の権利や使える支援制度などについて知る機会も限定的である。  また、地域の相談支援事業所は、担当者によっては、視覚障害への理解が十分ではないために適切なアドバイスが受けられないこともある。  さらに、視覚障害者が差別や虐待を受けた場合に、身近に相談できる権利擁護機関がないという問題もある。 (2)集合施設の外にある自立したアクセス可能で安い住宅への入居を可能にすること(e項)  賃貸住宅の確保は視覚障害者にとって大きな課題である。未だに不動産業者や賃貸人の無理解のために視覚障害者がなかなか賃貸住宅を借りることができないという事態が多発している。 (3)パーソナルアシスタンスや地域の社会サービスへのアクセスなどの支援体制を強化すること(e項)  同行援護については、十分な支給量が確保されない場合があることに加え、同行援護などの支給時間が十分だったとしても、長時間、遠方への外出などにガイドヘルパーを派遣してくれる事業所が少ないこと、同行援護を多く利用すると、自己負担額も相当額になるので負担が重いなどの問題がある。  家事援助については、健常者の家族が同居していると利用できない、あるいは利用できても極めて短時間しか利用できないという問題がある。  その他、居宅内での代筆・代読サービスを公費で提供している自治体が極めて少ないことなどの問題もある。 3.自立した地域生活のために取り組むべき事項  上記のような現状を改善するため、今後、日視連は次のような取り組みを行っていく必要があるものと考える。  ・視覚障害を持つ子供が、健常な子供と同等の社会経験を積み、権利や支援制度について知識を得られるよう、教育機関や地域の当事者団体と連携した取り組みを行うこと。  ・中途失明者が、社会との接点を維持しつつ、視覚障害者としての知識やスキルを身に着けられるよう、社会のあらゆる場面をインクルーシブにするとともに、日視連や地域の当事者団体がピアカウンセリング機能を強化すること。  ・地域の相談支援事業所の担当者に視覚障害に関する理解を深める研修を実施するよう求めること。  ・視覚障害者が差別や虐待を受けた場合などにその権利を擁護するため、日視連ないし地域の当事者団体がアドボカシー機能を持つこと。  ・韓国の国家人権委員会のように、国レベルで調査・勧告権限を持つ専門の権利擁護機関の設立を求めること。  ・行政が民間の賃貸住宅への入居を支援するとともに、公営住宅への視覚障害者の優先的な入居をさらに推し進めるよう求めること。  ・全国どこに居住していても、十分な同行援護の支給時間が受けられるようにすること。  ・視覚障害者の生活のニーズを満たすだけのガイドヘルパー及びヘルパー事業所を確保するよう積極的な施策を講ずるよう求めること。  ・健常者の同居人がいる場合、家事援助を使えないあるいは極めて短い時間しか使えないということとならないよう、制度と運営の両面を見直すよう求めること。  ・全国どこに居住していても代筆・代読サービスを受けられるよう求めること。 4.視覚障害者の入居型施設の現状について (1)総論  盲老人ホームを別にすれば、視覚障害者のうち、何らかの施設に入所して生活している人の数は必ずしも多くない。しかし、全国には、主に盲重複障害のある人の生活の場としての比較的規模の大きな施設、視覚障害者を対象としたグループホーム、マッサージなどの資格を保有している視覚障害者を対象とする盲人ホームなどの入居型施設がある。 (2)ヒアリングの実施  そこで、本委員会では、比較的規模の大きな施設の現状を把握すべく社会福祉法人東京光の家の担当者にヒアリングを実施した。また、グループホームの現状を把握するために特定非営利活動法人ヒューマンライツライフビリーフ、株式会社ぽりにの担当者に対してヒアリングを実施した。このうち、株式会社ぽりにでは、現状、まだグループホームの運用前であるとのことだったため、前2者についてのヒアリングの概要を第4章の23ページ以降に記載する。  その中で、大規模施設の利用者には盲重複障害者が多いことや、地域では利用者が組み合わせて使うことになるそれぞれの支援を、施設では総合的に提供できることなどが指摘されていた。大規模施設での生活の課題としては、入居していると同行援護が利用できない、生活介護を休日に提供できないなどが挙げられた。  一方で、グループホームの利点としては、自己の生活を自身で管理できることと、各自の持病にも対応した食事のサービスなどの支援を受けることの両立が可能であることが挙げられていた。グループホームの生活の課題としては、共同生活援助だけでは、設備の修繕に対応できないなどが挙げられていた。 5.今後の方向性  上記及び第4章で記載する施設生活の現状を踏まえ、今後、日視連は次のような取り組みを行う必要があるものと考える。  ・65歳を過ぎても障害者総合支援法の共同生活援助(グループホーム)を利用できるように制度改正を求めること。  ・施設入居支援を受けている場合も同行援護を利用できるよう制度改正を求めること。  ・施設入居支援を受けている場合、休日であっても生活介護を利用できるよう制度改正を求めること。  ・障害の状態の変化など、必要に応じ、地域生活、グループホームや入居施設を行き来することができる制度設計を求めること。 6.おわりに  総括所見を受け、我々は「障害者が地域で誰と暮らすかを選択でき、特定の生活形態に住むことを義務づけられないこと、障害者が自分の生活をコントロールできるようにすること。」が社会のあるべき状態であり、我々の目指すべきゴールであることを改めて強く認識するに至った。  今後、日視連は、地域で視覚障害者の生活を支える人的・物的資源を充実させ、誰もが自らの選択によってどこで誰と暮らすかを選べるようにすること、どこで生活する場合にも日々の活動や人間関係において社会との接点を確保できるようにすること、一度定めた場に固定化されず、本人の意思により、自由に生活の場を変更できるようにすることを目標に、さらに活動を盛り上げていかなければならない。  そして、日視連及び各地の当事者団体は、この目標達成のため、政府や国会、地方自治体に働きかけを続けるとともに、日視連及び各地の当事者団体が、視覚障害者のために果たすべき役割についても改めて議論を深め、具体的な活動を始めなければならないと考える。 9ページ 第2章 教育(第24条) 1.総括所見の内容  障害者権利委員会は、我が国の障害者権利条約の進捗状況を審査(建設的対話)し、2022年10月に総括所見の確定版を公表した。その中で、我が国が継続している障害者教育に対し、大きく2点について指摘が成されたところである。また、教育に関しては第19条の「自立した生活及び地域社会への包容」と共に「urge(強い要請)」という文言が使われており、大きな関心を持っていることを示している。その内容は、次の通りである。 51.委員会は、以下を懸念する。 (a)医療に基づく評価を通じて、障害のある児童への分離された特別教育が永続していること。障害のある児童、特に知的障害、精神障害、又はより多くの支援を必要とする児童を、通常環境での教育を利用しにくくしていること。また、通常の学校に特別支援学級があること。 52.障害者を包容する教育(インクルーシブ教育)に対する権利に関する一般的意見第4号(2016年)及び持続可能な開発目標のターゲット4.5及び4(a)を想起して、委員会は以下を締約国に要請する。 (a)国の教育政策、法律及び行政上の取り決めの中で、分離特別教育を終わらせることを目的として、障害のある児童が障害者を包容する教育(インクルーシブ教育)を受ける権利があることを認識すること。また、特定の目標、期間及び十分な予算を伴い、全ての障害のある生徒にあらゆる教育段階において必要とされる合理的配慮及び個別の支援が提供されることを確保するために、質の高い障害者を包容する教育(インクルーシブ教育)に関する国家の行動計画を採択すること。  この指摘では、懸念事項として、「障害のある児童への分離された特別教育が永続していること」「障害のある児童が、通常環境での教育を利用しにくくしていること」「通常の学校に特別支援学級があること」の3点が指摘されている。  さらに、障害者権利委員会は、締約国に要請する内容として、「分離特別教育を終わらせることを目的とし、障害のある児童がインクルーシブ教育を受ける権利があることを認識すること。全ての障害のある生徒にあらゆる教育段階において必要とされる合理的配慮及び個別の支援が提供されること。その他のインクルーシブ教育に関する国家の行動計画を採択すること」と述べている。  本委員会では、この総括所見を踏まえ、2019年までにまとめた「わが国の視覚障害者の将来 〜将来ビジョン検討委員会 報告書〜」の内容を見直し、今後の障害者教育に関わることを検討した。 2.現状  1947年に制定された「学校教育法」の第8章「特別支援教育」(参考資料2)の定めにより、我が国では障害の種類に応じた特別支援学校を設置し、その教育目的は、幼稚園、小学校、中学校又は高等学校に準ずる教育を施すとともに、障害による学習上又は生活上の困難を克服し自立を図るために必要な知識技能を授けることと定められている。  これまでに、障害者の就学決定の流れや特別支援学級の設置など、法的定めが何度か改正されているものの、この75年以上、基本的には、政令で定められた障害を持つ場合は、特別支援学校での教育が推進されている。  しかし、国連からは、我が国に対して、「質の高い障害者を包容する教育(インクルーシブ教育)に関する国家の行動計画を採択すること」とする総括所見が出されたところである。この総括所見に対し、永岡文部科学大臣は、「特別支援学級への理解の深まりなどによりまして、特別支援学校ですとか特別支援学級に在籍するお子様が増えている中で、現在は多様な学びの場において行われます特別支援教育を中止することは考えてはおりませんが・・・」(参考資料3)と述べており、現時点では、インクルーシブ教育への大きな舵取りは行う考えが無いように思われる。また、障害者権利委員会では、少子化が進んでいるにも関わらず、特別支援学校や特別支援学級に在籍する障害のある子供の数が増えていることに対して懸念を示しているにも関わらず、大臣のコメントでは、特別支援学級への理解の深まりなどによる結果、在籍者数が増加していると理解しているようである。しかし、障害種別を見てみると、圧倒的に増加しているのは、知的障害や情緒障害の児童生徒であって、盲学校(視覚特別支援学校など)の在籍者はここ10年あまりで激減しており、2023年5月1日の状況は全国67校に、幼稚部163人、小学部510人、中学部417人、高等部1,095人、合計2,185人(全国盲学校校長会調べ)となっている。  このような児童生徒の少子化と障害の重複化により、集団の中で培われる豊かな人間性が育まれにくくなっている。さらに、各地の盲学校(視覚特別支援学校など)が視覚障害者の児童や生徒の自宅の近くに存在していることが多いとはいえず、そのため、小学低学年から自宅を離れ、寄宿舎で生活することとなり、学習の場に加えて、家族からも分離して生活を送ることとなる。このような成長は通常な環境とはいいがたい。  従って、以前から政府の見解に対して、障害当事者やその家族または支援者からは障害者権利委員会の総括所見を支持し、インクルーシブ教育の構築を望む声も聞かれるところである。 3.今後の方向性  本委員会は総括所見の内容を支持し、我が国がインクルーシブ教育の構築を進めていくことを望んでいる。  前提として、障害者が、どこでどのような教育を受けるかは、本人とその家族の自由選択と自由決定によることを基本とし、全ての教育段階において、等しく平等に教育を受ける権利があることを認識しなければならない。  具体的には、通常の学校、特別支援学級、通級による指導、特別支援学校という現在の枠組みを基本とする。障害者とその家族が自らの選択により就学場所を決定し、障害者を受け入れた学校においては、必要とされる合理的配慮及び個別の支援が提供されることが大変重要である。  インクルーシブ教育を実現するためには、今まで、各地の盲学校(視覚特別支援学校など)で培われてきた、視覚障害教育の専門性を大いに活用し、通常の学校で学ぶ視覚障害児童生徒とその担当教員を積極的に支援することが必要となる。さらに障害者権利条約では「手話又は点字について能力を有する教員(障害のある教員を含む。)を雇用し、並びに教育に従事する専門家及び職員(教育のいずれの段階において従事するかを問わない。)に対する研修を行うための適当な措置をとる。この研修には、障害についての意識の向上を組み入れ、また、適当な意思疎通の補助的及び代替的な形態、手段及び様式の使用並びに障害者を支援するための教育技法及び教材の使用を組み入れるものとする。」と定めており、特に視覚障害と聴覚障害のような、いわゆる感覚障害の教育は高い専門性が必要であることを認めており、その担当は障害を持った教員も当たることが望ましいとしている。  このように、条約と総括所見の要請に応えるために、我が国では、インクルーシブ教育の実現に向けて、国として行動計画を採択することが求められており、その行動計画の策定においては、日視連をはじめとする、障害者団体や当事者を交えて、これらの十分な意見や願いを組み込んだものになるようにしなければならない。  しかしながら、文部科学省では、「インクルーシブ教育システム」と称し、特別支援学級の設置やその在籍者の増加が、あたかもインクルーシブ教育であるかのように、捉えているのではないかと思わせるような動きが見られる。  そのような動きにおいて、日視連には上記の行動計画策定に向けて中心的に運動していくことが求められている。そのため、「インクルーシブ教育推進会議(仮称)」を設置するなど、具体的な方策を打ち出し、活動を進めることが必要である。  「インクルーシブ教育推進会議(仮称)」では、具体的に、通常の学校に視覚障害者が就学した場合を想定し、環境的、人的、経済的などあらゆる面からの基礎的環境整備と合理的配慮の提供を十分勘案した、障害者が不利益を被らないような方策を検討する。特に教育に携わる教員の人材確保にはある程度の時間を要することから、早期に人材育成に関するプログラムや処遇を考える必要がある。また、全国にある現在の盲学校(視覚特別支援学校など)の枠組みやその機能について、今後の社会的情勢を見据えた検討が必要である。  いずれにしても、日視連は、早期にインクルーシブ教育の推進のために、具体的に動き出すことが必要である。 14ページ 第3章 労働及び雇用(第27条) 1.総括所見の内容  総括所見では、雇用問題についても言及されている。そこでは、「低賃金で、開かれた労働市場への移行機会が限定的な作業所及び雇用に関連した福祉サービスにおける、障害者、特に知的障害者及び精神障害者の分離」という状況が懸念事項として挙げられている。その上で、「障害者を包容する労働環境で、同一価値の労働についての同一報酬を伴う形で、作業所及び雇用に関連した福祉サービスから、民間及び公的部門における開かれた労働市場への障害者の移行の迅速化のための努力を強化すること」が求められた。  ここでいう「開かれた労働市場への移行機会が限定的な作業所及び雇用に関連した福祉サービス」が何を指すのかについては、議論があるところだろう。月額平均17,000円程の工賃がサービス利用者としての障害者に支払われるだけの就労継続支援B型事業所(以下、B型事業所)は、総括所見がいう「作業所及び雇用に関連した福祉サービス」に位置づけられると考えられる。その他、就労継続支援A型事業所や特例子会社も、(障害者が雇用契約を結ぶことはできているとしても)他の企業とは異なる条件で障害者を雇用しているという点で、総括所見が問題視している対象になりうるかもしれない。  ただ本委員会では、より厳しい経済状況に置かれていると考えられるB型事業所の利用者にまず注目し、現状把握を試みた。そしてそれを受けて、総括所見による就労関連の指摘に対する日視連としての基本的考え方を検討した。その上で今後に向けて、視覚障害者とB型事業所を巡る課題と求められる対策について整理した。以下は、その暫定的な結果である。 2.現状  B型事業所を利用する人の数は、全障害者で合わせれば、約30万人いるといわれている(視覚障害者のみの数は不明)。問題点として、工賃の平均が月額17,000円であること、また世帯収入によってはサービス利用料がここから差し引かれるため、実際の手取りはさらに目減りすることさえある、という現状がある。  視覚障害者を主な対象としたB型事業所としては、静岡県浜松市の特定非営利活動法人六星(盲人福祉研究会)が運営する「ウイズ」や、宮城県仙台市の特定非営利活動法人ばざーる太白社会事業センターが運営する「希望の星」などが知られているが、視覚障害者に特化した事業所はあまり数がなく、他の障害者がマジョリティである作業所に通っているケースが多いと考えられる。そのため、視覚障害者特有のニーズに対応した配慮と支援(※1)が十分に提供されていないケースがあることが懸念される。 (※1)配慮と支援:B型事業所をはじめとした就労系支援機関では、企業での雇用場面における合理的配慮よりも手厚いサポートが行われている。本章と第4章では、支援機関におけるサポートを「配慮と支援」として通常の合理的配慮と区別して表現することとした。 (2)ヒアリングの実施  本委員会では、視覚障害者が通所するB型事業所の現状を把握するため、2つのB型事業所の担当者にヒアリングを実施した。その概要については、第4章の27ページ以降に記載する。  1番目の事業所は、日本視覚障害者職能開発センターが運営する「東京ワークショップ」であった。同事業所は議事録や速記録の作成を受注しており、視覚障害者がパソコン入力の技術を駆使して、その作成に従事している。長年にわたり比較的高い工賃が維持されてきたが、近年ではAIを活用した音声認識技術の精度向上の影響により受注量の減少に直面しているという。  2番目の事業所は、ミュージックサークルLABO「オトラボ」であった。同事業所は2022年に設立されたばかりであるが、古い点字教科書や点字雑誌を素材として、袋や封筒などを作る作業を視覚障害者が行っている。将来的には、パソコンで音楽を作成するデスクトップミュージックを取り扱えるようになることを掲げており、そのための最初のステップとして、パソコンを使いこなすための基礎的練習を行っている。  ヒアリング内容から、両事業所の通所者が、作業や事業所に通所する生活そのものにやりがいや充実感を感じている様子が伝わってきた。そして、両事業所では視覚障害の特性を踏まえた配慮と支援が行われていることも把握できた。  一方で、工賃を生み出す作業の確保については、いずれの事業所でも課題があるようだった。作業の確保の問題は、工賃の低下(または低工賃の固定化)に直結する。居場所としてのB型事業所の意義を認めた上で、通所者の経済的自立に向けては、依然として大きな課題があるといえるだろう。 3.今後の方向性 (1)総括所見の就労関連の指摘に対する日視連としての考え方  総括所見が指摘している、一般労働市場への移行が目指されるべきとの趣旨には、賛同すべきと考える。特に問題と考えられるのは、B型事業所への通所が本人の意思に反して押し付けられることや、一旦B型事業所に通所するようになると他の選択肢を目指しにくくなるといった状況である。すなわち、B型事業所の存在が、一般就労を目指すことや、そうした努力を支援する営みを妨げたり努力しないことの免罪符として機能させてはならないということだ。  しかしながら、障害の状況や本人ができることは多様であり、一般労働市場への移行という目標に向けた取り組みを、一様に論ずることはできない。大切なことは、全ての人が、障害の有無に関わらず、各自の状況に適した形で就労して収入を得たり、社会と関わったりする権利があると考える。そうした権利を守るために、進路選択、能力開発やスキルアップ、就職、そして就労定着といった各場面において、適切なサポートを受けられるべきであり、同時に当事者も努力していく必要がある。  その中で、B型事業所は視覚障害者の活躍の場として、一定の役割を果たしているといえるだろう。ただ、後述するように、B型事業所に通所する視覚障害者を巡っては課題があることも事実である。それらの課題を解決しつつ、B型事業所が有意義な役割を果たすことが期待される。  それと同時に、就職を希望する視覚障害者には、それを後押しする情報提供や訓練といった支援が求められる。そうした各場面では、視覚障害の特性が十分考慮されるべきであろう。  つまり、現状におけるB型事業所の有用性を認識した上で、そのことが一般の労働市場への障害者の参加を妨げる要因になってはならないことを強調したい。その上で、B型事業所の通所者や、一般就職を目指す人などの多様な立場の視覚障害者が、その障害特性に応じたサポートを受けつつ活躍できる場を見つけられるべきと考える。 (2)B型事業所に関する課題と改善点  以上が総括所見の就労に関する指摘に対する基本的な考え方である。ここからは、視覚障害者に各自の能力や特性に応じた活躍の機会が与えられるべきという目標を踏まえ、B型事業所の視覚障害のある通所者や、企業などへの就職を目指す視覚障害者が直面する課題とそれらへの対応策を示しておきたい。 @視覚障害者特有の配慮と支援の必要性  視覚障害者は他の障害者とも異なる特有のニーズを有していることが、ヒアリング対象者からも指摘された。その内容は、「多様な障害種の通所者が通う事業所に通所している視覚障害者がなかなか適応できずにいるという話をよく聞く。特有のニーズに答えられるという意味でも、視覚障害に特化した(B型事業所を含めた)支援機関の必要性は強調されるべきである。」というものだった。  本委員会の議論では、盲学校(視覚特別支援学校など)を卒業した者の中で一般就職が難しい学生はB型事業所に進むが、なかなか環境に馴染めないという声を聞くとの意見があり、その背景として、視覚障害の特性に適した配慮と支援を受けられないケースがあることが指摘された。また、知的障害者向けの作業所に行く者もいるが、軽作業に対する適応能力が異なるため、受け持っている作業終了後に時間をもてあますケースについても報告された。  B型事業所が視覚障害者を含めた障害者の居場所・活躍の場となっている現状の中で、各作業所においてマイノリティになるケースが多い視覚障害者にとっては、障害特性に適した作業内容及び配慮と支援が提供されるべきと考える。事業所の支援者には、視覚障害を含めた通所者の障害特性を把握し、それを踏まえた配慮と支援を行うことが望まれる。  また、ヒアリングにおいて、「事業所の通所者は一人では外出できない人も多いため、同行援護を通所に使えるようになれば、通所にかかる当事者の負担は軽減されると考える。このことを要望として訴えてほしい。」との指摘がなされたが、これも視覚障害特有のニーズであるといえるだろう。 A適切な作業内容の確保の必要性  視覚障害者が能力を生かして活躍できる作業内容を、維持、拡大することが重要である。ヒアリングで示された内容はその一例である。  事業所での作業内容の拡大が期待される一方、マッサージを行うB型事業所があることについては、懸念事項も存在する。マッサージは平均より高い工賃が得られるものであることや、そうした事業所が免許取得後に就職できずにいる有資格者の活躍の場になりうることが評価される一方で、国家資格の価値や権威を低下させることに繋がるとの指摘が本委員会でなされた。いずれにしても、視覚障害者それぞれの能力が最大限生かされる形で、適切な工賃が得られる作業内容の確保が望まれる。 B進路選択における個人の意思の尊重  本委員会の議論では、視覚障害者に対する就職・進路指導などについては、視力などの障害状況によって支援者や教職員などが方向性を限定するなど、本人の意思尊重という面での課題が依然として存在しているとの指摘もあった。B型事業所が視覚障害者の居場所として機能していることを確認した上でも、その通所はあくまで本人の意思によるべきというのが大前提である。  就職、進路指導においては、当事者が自己の意思で選択できるよう、視覚障害者が活躍しているケース(業種・職種・仕事内容)や、就職やその後の職業生活において利用可能な公的サービスなどについて十分な情報提供が行われる必要がある。この点では当事者団体が果たす役割も大きいと考える。就労事例に関するデータベースの充実、各職種でのノウハウの蓄積、アップデートのために、当事者や関係者を巻き込んだ情報交換の継続が必要だろう。  さらに、一旦企業への就職や事業所への通所を選択したとしても、そこで進路が固定化され、進路変更の可能性が閉ざされるべきではないということも指摘しておきたい。各自の疾病の状況、体力や技能は変化していくし、支援技術や社会情勢も変化していく。そうした中で、状況に応じた進路変更が行えるべきであり、そのための情報提供などのサポートも行われるべきだろう。技術革新が以前は困難と思われた職種での就職を後押しする可能性もあり、他方で加齢に伴う体力低下により一般雇用の継続が難しくなったとしても、事業所が受け皿となって居場所の確保に成功することもあるだろう。企業や事業所などの多様な活躍の場の存在は、状況変化に合わせた進路変更を可能にするという意味で、互いに補完し合う関係にあるといえよう。 C能力開発やスキルアップの機会の充実  進路選択における視覚障害者の選択を尊重し、それを後押しするためには、能力開発やスキルアップの機会が適切に与えられることが必要だろう。  視覚障害者に対する職業準備プログラムについては、盲学校(視覚特別支援学校など)でのあはきの専門課程を除き、全国各地で平等に機会が確保されているとはいえない。後天的視覚障害者の比率が高まる中で、ICTトレーニングを受けられる施設が大都市圏に集中していることや、能力開発のプログラムを受けるために家族から離れて生活する必要が生じるなどの現状には、課題があると考えられる。  在住地域に関わらず能力開発やスキルアップの機会が提供されるために、オンラインを活用したICTトレーニングが広がることも期待される。また本委員会では、ICTトレーニングの機会確保の観点から、一つの可能性として、AIを応用した支援ソフト(スクリーンリーダーや画面拡大などの使い方をコンピュータの支援によりトレーニングするソフト)のICTトレーニングへの活用も検討すべきとの意見もあった。  また、依然として就労の前提としての歩行などの自立活動支援の重要性は変わっていない。この点についても、全国で機会が平等に確保されること、また、そうした情報が当事者に届くための仕組の充実が求められる。 4.おわりに  全ての障害者が、各自の障害特性と能力に応じて働き方や働く場所を選択する権利があると考える。その選択肢の一つとして、B型事業所は現状貴重な役割を担っている。  一方で総括所見が指摘するように、一般労働市場への移行を進めるための努力は、さらに力強く進められるべきであろう。そのために、進路選択における個人の意思の尊重や、能力開発やスキルアップの充実といった対策が求められる。障害者がどのような選択をしたとしても、各自がその力を発揮し、生きがいを持って社会と関われるようにすべきという目標に向けて、教育機関、企業、(B型事業所を含めた)支援機関などはそれぞれ力を尽くすべきであり、当事者団体としての日視連にも、情報提供などの役割を担うことが期待されている。 22ページ おわりに  我が国は障害者権利条約の加盟国として、その内容を遵守し、そこに掲げられた理想の実現に向けた努力を重ねなくてはならない。その中で、総括所見を真摯に受け止め、修正すべき法制度や政策は修正し、さらなる取組が必要な分野については、予算的裏付を伴った対応がなされるべきと考える。  日視連も主要な当事者団体の1つとして、総括所見の内容を深めるとともに、それを日本社会の現実に落とし込むための方法について議論し、活動に反映させていきたいと考える。その際、視覚障害当事者としての問題意識に根差した発信を行うのみならず、他の障害当事者との連携、協力を念頭に置いた活動を展開すべきである。  本報告書では、「自立した生活及び地域社会への包容(19条)」、「教育(24条)」、「労働及び雇用(27条)」について、総括所見の内容を受けて日視連が取り組むべき施策の方向性について検討した。この3条を含め、障害者の人権を包括的に対象とする、国レベルで調査・勧告権限を持つ専門の人権機関(その設立自体が総括所見で求められている)の設立の必要性が改めて浮き彫りとなった。  こうした検討を具体的な活動に結び付け、総括所見を生かし、権利条約の理念実現に少しでも貢献できるよう努めていきたい。 23ページ 第4章 ヒアリング記録 1.第1章関連のヒアリング結果  以下では、第1章に関連して行った大規模な入居施設及びグループホームの担当者へのヒアリング結果の概要を記載する。 (1)大規模施設の現状について @はじめに  障害者総合支援法の施設入所支援は、50歳未満の場合障害支援区分4以上、50歳以上の場合区分3以上が必要であり、現在は、視覚障害単一の者の利用は少なく、盲重複障害者の利用が多い。  そのため、現在運営されている視覚障害者対象の入居施設は、基本的に盲重複障害者を対象としている。 A東京光の家の担当者へのヒアリングの概要 ア 法人が運営する施設の概要  社会福祉法人東京光の家では、長年にわたり障害者総合支援法の施設入居支援を中心に、比較的規模の大きな施設型のサービス提供を行っている。  同法人には、新生園、栄光園、神愛園の3つの入所型施設がある。  新生園は、定員57名、施設入居支援に加え、日中は自立生活訓練などを実施する。  栄光園は、定員60名、施設入居支援に加え、日中は文房具の製造、点字出版、店舗運営などの活動を行う。  神愛園は、定員80名、生活保護法に基づく施設であり、経済的に困窮した視覚障害者を対象としている。  新生園→栄光園→神愛園と移り、生涯を通じて支援することができるのも同法人の特徴である。 イ 施設での生活の良い点  ヒアリングでは、同法人の施設での生活の良い点として、次のような点が挙げられた。  ・他の施設では、視覚障害があると利用できない場合が多いが、光の家では、視覚障害を対象とした支援が提供できるというのが大きな特徴である。  ・また、視覚障害のみならず、自閉症や発達障害についても専門的な支援を受けることができる。  ・地域では、それぞれの支援を利用者が組み合わせて利用しなければならないが、施設では、支援を総合的に提供できる。  ・安定して衣食住の提供を受けられ、生活の基盤が確保される。  ・友人や、自分のことをわかってくれている支援者が身近にいる。 ウ 施設生活の課題  一方、施設での生活の課題として、次のような点が指摘された。  ・集団生活ゆえに、生活のルールや制約がある。  ・プライバシーが限られている。  ・集団生活ゆえのストレスがある。  ・余暇時間の希望をかなえられない場合がある(施設に入居していると同行援護が使えない。生活介護は休日に提供できないなど)。 エ 施設の必要性・有用性について  同法人の担当者は、施設の必要性・有用性について、次のように述べる。  ・現状で、特に盲重複障害者が地域で生活することは、社会資源が少ないため困難だといわざるを得ない。  身近に支援者や仲間がいて、安定して生活できる施設の必要性は依然として高いと考えている。 (2)視覚障害者対象のグループホームの現状について @はじめに  障害者総合支援法上、グループホーム(共同生活援助)には障害支援区分の制限はなく、視覚障害単一でも利用可能である。もっとも、全国におよそ7,000か所以上あるとされているグループホームのうち、視覚障害者を対象としているものは極めてわずかである。  そのような中、特定非営利活動法人ヒューマンライツライフビリーフでは、2011年より、視覚障害者を対象とするグループホームの設置・運営を行っている。同法人の運営するグループホームについて概要を聞いた。 Aヒューマンライツライフビリーフの担当者へのヒアリングの概要 ア 同法人が運営するグループホームの概要  同法人では、一軒家を改装した1号棟と、建売住宅を改装した2号棟の2棟のグループホームを運営している。利用者の居室は6畳の個室で、食堂や風呂、洗濯機などは共用である。  現在、利用者は9名おり、視覚障害単一の利用者が6名、視覚障害と精神障害を併せ持つ利用者が3名いる。年齢層は40代から70代である。この利用者を、10名ほどの世話人がシフトを組んで支援している。  同法人が運営するグループホームでの1日の生活は次のようなものである。  ・朝7時から8時、食堂にて朝食。  ・日中は、就労先に通勤する人、就労継続支援B型事業所や地活センターに通所する人、就労に就けない方はコーラスや散歩など、ご自身の趣味などを活かした生活をする人がいる。その他、買い物、掃除や洗濯なども利用者自身が行う。  ・15時30分から19時、入浴タイム。  ・17時30分から18時30分まで食堂で夕食。  ・20時までリビング開放時間。  ・その他として月2回1号棟・2号棟交流会、季節ごとの行事(クリスマス、花見)、利用者の誕生会、バス旅行なども企画されている。  毎月の費用は、家賃、食費、水道光熱費を合わせて7万5000円程度だが、国から1万円の家賃補助があり、その他、自治体からの補助を受けられる場合もある。  施設入居支援の場合とは異なり、グループホームの場合は、入居中も同行援護が使えるので、自由に外出することができる。  利用者の中には、グループホームが終の棲家になる人もいれば、アパートを借りて一人暮らしを始める人もいる。一人暮らしを始めてからも、同法人が居宅介護や同行援護を提供してサポートしている。 イ グループホームでの生活の良い点  同法人の担当者は、グループホームの利点として、@同じ障害を持つ仲間が身近にいること、世話人がいつでも生活を支援できること、生活の基盤ができ、自分の生活を自分で生きているという実感を持てること、A各自の持病に対し食事面での支援があり持病が改善されること、Bターミナルケア、精神面、食事面で対応してもらえることを挙げる。 ウ グループホームの生活の課題  一方、課題としては、グループホームの中が楽しくて外の社会に関心を持ちにくくなる人がいることを挙げる。  また、運営費用について、共同生活援助の報酬だと、職員の給与を引き上げることができないこと、施設の設備の修理代などについて、行政から費用が出ないことを挙げる。 エ グループホームの必要性・有用性について  同法人の担当者は、グループホームの必要性・有用性について、次のように述べる。  ・視覚障害者の中には直ちに独り暮らしをすることが難しい人もいる。また、病気になり家族もいないなどの場合には、安心して療養することもできない。そのような人たちにとって、グループホームのような家族的な環境で生活できる場があることは重要ではないか。  視覚障害を持ちながら生活することは決してたやすいことではない。グループホームで理解者や支援者のネットワークを作って一人暮らしに乗り出していく人がいても良いし、グループホームの仲間のいる環境を選んで、そこで安心して生活する人がいても良いと考えている。 オ その他  別の機会にヒアリングを実施した東京光の家の担当者からは、グループホームについて、次のような指摘があったので付記する。  ・施設では複数のスタッフが支援に当たれるが、一般にグループホームでは、スタッフ1名が4人から6人のケアを行うため、手厚い支援を提供することは難しい。  ・また、そのスタッフの力量によって利用者の生活の質が大きく左右されてしまう。 2.第3章関連のヒアリング結果  以下では、第3章に関連して行った2つのB型事業所へのヒアリングの概要を記載する。 (1)東京ワークショップ  1番目の事業所は、日本視覚障害者職能開発センターが運営する「東京ワークショップ」であり、その担当者にお話を伺った。  日本視覚障害者職能開発センターは、視覚障害者がパソコンを使って職業的自立を果たすことを目的として各種訓練や支援事業を展開している。東京ワークショップはその一環として、議事録や速記録の作成を受注し、視覚障害者がその作成に従事している。  事業所のスタートは40年ほど前に遡り、カナタイプで速記録を作る作業を受注したことが端緒となっている。カナタイプからワープロ、そしてスクリーンリーダーを用いたパソコンへと使用する道具は変わってきた。パソコンでは、独自の入力方法を採用している。六点漢字を改良する形で生み出されたこの入力方法は、キーボードを3回もしくは4回タッチすることで漢字入力を行うことができる。漢字の音読みと訓読み、時には部首名を組み合わせることで、漢字の特定が可能になる。漢字を目で読んだ経験がなかった人でも、各漢字の音読みと訓読みについての知識がある人は多く、訓練することでこの入力方法での漢字かな交じり文の入力をマスターできる。個人差はあるが、1年ほどで常用漢字の入力を習得できる人が多い。  具体的な作業は、厚労省の審議会の記録をはじめ、各種講演会、会議などの記録の作成となる。視覚障害のある通所者は、録音を聞き、その内容を書き起こしていく。速さについては個人差が大きいが、1日(5時間ほど)で録音1時間の会議などを書き起こす人もいる。  工賃の平均は77,000円である。以前、受注量が今よりも多かった時期があり、そのころには10万円以上の工賃を得る人もいた。また作業のやりがいとして、会議などの記録を取る際に最新の情報に触れられることを挙げる人も多い。  スタッフの役割としては、会議の現場での録音、またどの発言がどの話者によるものかを確認して通所者に伝えること、そして通所者が書き起こした原稿の校正やチェックなどがある。また、作業スピードは通所者によって異なるため、毎朝の作業分担を決める際は、スタッフが各自に応じた量を割り当てている。  通所者は、重度の視覚障害者が多い。従って、スクリーンリーダー利用者が大半である。世代バランスについては、40代以上の中高年層が多く、70歳以上の高齢者も少なくない。中には何十年も継続して通所している人もおり、そうした通所者は、東京ワークショップでの作業に通うことが生活の一部となっていて、できるだけ続けたいとの希望を持っている人が多い。  東京ワークショップの近年の課題は、受注量の低下である。受注量は、多かった時期に比べると半減している。その要因としては、AIを活用した音声認識技術の進化がある。音声認識技術の精度向上により、会議録などの作成にAIを用いることが増えている。それが同作業所の受注量減少に繋がっていると考えられるという。受注量減少は、通所者の工賃確保を困難にするほか、結果として通所者の新規登録の停止という事態を招いている。  そうした中で、企業研修の運営、協力など、受注分野の拡大を図っている。ここでいう企業研修とは、コミュニケーションゲームに視覚障害のある当事者が参加することで、参加した企業の社員に様々な気付きを促すもので、今後伸ばしていきたい分野だという。  東京ワークショップは、長年にわたり視覚障害者が会得した技術を使って活躍し、一定以上の工賃を得られる場として機能してきた。そして長年活躍を続け、高齢となった通所者のかけがえのない居場所として存在し続けている。受注作業量が減少している現在も、視覚障害者を対象としたB型事業所の先駆者としての東京ワークショップの存在感は変わっていない。 (2)ミュージックサークルLABO「オトラボ」  2番目の事業所は、ミュージックサークルLABO「オトラボ」(以下、オトラボ)であり、その担当者にお話を伺った。  オトラボの設立は2022年で、現在1年数か月が経過した段階である。設立の動機は、担当者の甥が視覚障害者であり、学校卒業後の居場所がなかなかないという現状を知り、甥や同じ状況にある視覚障害者の活動の場を作りたいというものだった。その準備として担当者は、事前に1年間他のB型事業所に勤務し、福祉就労分野での経験を積んでいる。また、事業所立ち上げに当たっては、盲学校(視覚特別支援学校など)の元教諭がスタッフとして参加するようになり、視覚障害者の特性を踏まえた配慮と支援の面で、知見を提供してもらうことができた。  担当者はミュージシャンとして活動していた経験があり、事業所の活動において「音楽」をキーワードとすることとした。通所者の大きな目標として、パソコンで音楽を作成するデスクトップミュージックを取り扱えるようになることを提示しており、そのための最初のステップとして、パソコンを使いこなすための基礎的練習を行っている。もちろんパソコンの習熟度は通所者によって異なるが、スクリーンリーダーを使った入力、ショートカットキーの活用などの習熟を目指している。将来的には、作成した音楽のネット上での配信、販売の実現を見据えている。もちろんそれは容易なことではないが、その困難に挑戦し続けられるのも、B型事業所であればこそできることと、担当者は捉えている。  一方、現在、オトラボの工賃を生み出しているのは、古い点字教科書や点字雑誌を素材として、袋や封筒などを作る作業である。制作したものは、大阪市や大阪府のイベントなどで販売している。作成作業については、盲学校(視覚特別支援学校など)の元教諭であるスタッフが手順のパターンをいくつも作り、どのパターンが誰にとってやりやすいか、試行錯誤しながら改善を続けている。  通所者は現在19人であり、ほとんどが視覚障害者である。知的障害との重複障害がある人も少なくない。20代も多く、比較的若い構成となっている。それは、盲学校(視覚特別支援学校など)を卒業した直後の人や、卒業後自宅にいた人などが、オトラボ立ち上げを機に通所を決めたためである。  その中には、就職できないが他の居場所を見つけることもできないという人が多く、オトラボを良き居場所として受け止めている人は多いようだ。特に保護者からの反応が良く、オトラボの立ち上げを歓迎する声が多く寄せられた。オトラボの作業スペースは日当たりが良く、明るいところで作業できるようになっている。また、通所者はお話し好きで元気な人が多い。こうした明るい雰囲気も、当事者や保護者から歓迎される要因かもしれない。  点字用紙から作成した袋などの販売の機会を広げるため、オトラボとして大阪市や大阪府の主催するイベントなどに参加している。イベントではオトラボとして演奏を披露する機会もあった。その際、半数の通所者が打楽器などを持って演奏に参加してくれた。そのような積極性を見せてくれたことは、担当者にとってとても嬉しいことだった。  平均工賃は11,000円と高くはない。担当者は、就職できる人は就職して収入を得ていってもらえれば良いと考えており、オトラボに参加する人には、どうやったら工賃が上げられるか、そのことに共に努力するスタンスを持ってほしいという。  オトラボは事業所としてスタートしたばかりであり、その実績をまさにこれから積み重ねようとしている段階である。テーマである「音楽」から、いかに生産性のある作業を生み出せるかなど、課題はあるだろう。しかしながら、視覚障害者の居場所づくりという点において、オトラボは確かな貢献を示しているといえるだろう。 32ページ 第5章 参考資料 1.障害者権利条約 条文(抜粋) (1)第19条 自立した生活及び地域社会への包容  この条約の締約国は、全ての障害者が他の者と平等の選択の機会をもって地域社会で生活する平等の権利を有することを認めるものとし、障害者が、この権利を完全に享受し、並びに地域社会に完全に包容され、及び参加することを容易にするための効果的かつ適当な措置をとる。この措置には、次のことを確保することによるものを含む。 (a)障害者が、他の者との平等を基礎として、居住地を選択し、及びどこで誰と生活するかを選択する機会を有すること並びに特定の生活施設で生活する義務を負わないこと。 (b)地域社会における生活及び地域社会への包容を支援し、並びに地域社会からの孤立及び隔離を防止するために必要な在宅サービス、居住サービスその他の地域社会支援サービス(個別の支援を含む。)を障害者が利用する機会を有すること。 (c)一般住民向けの地域社会サービス及び施設が、障害者にとって他の者との平等を基礎として利用可能であり、かつ、障害者のニーズに対応していること。 (2)第24条 教育 1 締約国は、教育についての障害者の権利を認める。締約国は、この権利を差別なしに、かつ、機会の均等を基礎として実現するため、障害者を包容するあらゆる段階の教育制度及び生涯学習を確保する。当該教育制度及び生涯学習は、次のことを目的とする。 (a)人間の潜在能力並びに尊厳及び自己の価値についての意識を十分に発達させ、並びに人権、基本的自由及び人間の多様性の尊重を強化すること。 (b)障害者が、その人格、才能及び創造力並びに精神的及び身体的な能力をその可能な最大限度まで発達させること。 (c)障害者が自由な社会に効果的に参加することを可能とすること。 2 締約国は、1の権利の実現に当たり、次のことを確保する。 (a)障害者が障害に基づいて一般的な教育制度から排除されないこと及び障害のある児童が障害に基づいて無償のかつ義務的な初等教育から又は中等教育から排除されないこと。 (b)障害者が、他の者との平等を基礎として、自己の生活する地域社会において、障害者を包容し、質が高く、かつ、無償の初等教育を享受することができること及び中等教育を享受することができること。 (c)個人に必要とされる合理的配慮が提供されること。 (d)障害者が、その効果的な教育を容易にするために必要な支援を一般的な教育制度の下で受けること。 (e)学問的及び社会的な発達を最大にする環境において、完全な包容という目標に合致する効果的で個別化された支援措置がとられること。 3 締約国は、障害者が教育に完全かつ平等に参加し、及び地域社会の構成員として完全かつ平等に参加することを容易にするため、障害者が生活する上での技能及び社会的な発達のための技能を習得することを可能とする。このため、締約国は、次のことを含む適当な措置をとる。 (a)点字、代替的な文字、意思疎通の補助的及び代替的な形態、手段及び様式並びに定位及び移動のための技能の習得並びに障害者相互による支援及び助言を容易にすること。 (b)手話の習得及び聾社会の言語的な同一性の促進を容易にすること。 (c)盲人、聾者又は盲聾者(特に盲人、聾者又は盲聾者である児童)の教育が、その個人にとって最も適当な言語並びに意思疎通の形態及び手段で、かつ、学問的及び社会的な発達を最大にする環境において行われることを確保すること。 4 締約国は、1の権利の実現の確保を助長することを目的として、手話又は点字について能力を有する教員(障害のある教員を含む。)を雇用し、並びに教育に従事する専門家及び職員(教育のいずれの段階において従事するかを問わない。)に対する研修を行うための適当な措置をとる。この研修には、障害についての意識の向上を組み入れ、また、適当な意思疎通の補助的及び代替的な形態、手段及び様式の使用並びに障害者を支援するための教育技法及び教材の使用を組み入れるものとする。 5 締約国は、障害者が、差別なしに、かつ、他の者との平等を基礎として、一般的な高等教育、職業訓練、成人教育及び生涯学習を享受することができることを確保する。このため、締約国は、合理的配慮が障害者に提供されることを確保する。 (3)第27条 労働及び雇用 1 締約国は、障害者が他の者との平等を基礎として労働についての権利を有することを認める。この権利には、障害者に対して開放され、障害者を包容し、及び障害者にとって利用しやすい労働市場及び労働環境において、障害者が自由に選択し、又は承諾する労働によって生計を立てる機会を有する権利を含む。締約国は、特に次のことのための適当な措置(立法によるものを含む。)をとることにより、労働についての障害者(雇用の過程で障害を有することとなった者を含む。)の権利が実現されることを保障し、及び促進する。 (a)あらゆる形態の雇用に係る全ての事項(募集、採用及び雇用の条件、雇用の継続、昇進並びに安全かつ健康的な作業条件を含む。)に関し、障害に基づく差別を禁止すること。 (b)他の者との平等を基礎として、公正かつ良好な労働条件(均等な機会及び同一価値の労働についての同一報酬を含む。)、安全かつ健康的な作業条件(嫌がらせからの保護を含む。)及び苦情に対する救済についての障害者の権利を保護すること。 (c)障害者が他の者との平等を基礎として労働及び労働組合についての権利を行使することができることを確保すること。 (d)障害者が技術及び職業の指導に関する一般的な計画、職業紹介サービス並びに職業訓練及び継続的な訓練を利用する効果的な機会を有することを可能とすること。 (e)労働市場において障害者の雇用機会の増大を図り、及びその昇進を促進すること並びに職業を求め、これに就き、これを継続し、及びこれに復帰する際の支援を促進すること。 (f)自営活動の機会、起業家精神、協同組合の発展及び自己の事業の開始を促進すること。 (g)公的部門において障害者を雇用すること。 (h)適当な政策及び措置(積極的差別是正措置、奨励措置その他の措置を含めることができる。)を通じて、民間部門における障害者の雇用を促進すること。 (i)職場において合理的配慮が障害者に提供されることを確保すること。 (j)開かれた労働市場において障害者が職業経験を得ることを促進すること。 (k)障害者の職業リハビリテーション、職業の保持及び職場復帰計画を促進すること。 2 締約国は、障害者が、奴隷の状態又は隷属状態に置かれないこと及び他の者との平等を基礎として強制労働から保護されることを確保する。 2.学校教育法(抜粋) 第8章 特別支援教育 第72条 特別支援学校は、視覚障害者、聴覚障害者、知的障害者、肢体不自由者又は病弱者(身体虚弱者を含む。以下同じ。)に対して、幼稚園、小学校、中学校又は高等学校に準ずる教育を施すとともに、障害による学習上又は生活上の困難を克服し自立を図るために必要な知識技能を授けることを目的とする。 第73条 特別支援学校においては、文部科学大臣の定めるところにより、前条に規定する者に対する教育のうち当該学校が行うものを明らかにするものとする。 第74条 特別支援学校においては、第72条に規定する目的を実現するための教育を行うほか、幼稚園、小学校、中学校、義務教育学校、高等学校又は中等教育学校の要請に応じて、第81条第1項に規定する幼児、児童又は生徒の教育に関し必要な助言又は援助を行うよう努めるものとする。 第75条 第72条に規定する視覚障害者、聴覚障害者、知的障害者、肢体不自由者又は病弱者の障害の程度は、政令で定める。 第76条 特別支援学校には、小学部及び中学部を置かなければならない。ただし、特別の必要のある場合においては、そのいずれかのみを置くことができる。 2 特別支援学校には、小学部及び中学部のほか、幼稚部又は高等部を置くことができ、また、特別の必要のある場合においては、前項の規定にかかわらず、小学部及び中学部を置かないで幼稚部又は高等部のみを置くことができる。 第77条 特別支援学校の幼稚部の教育課程その他の保育内容、小学部及び中学部の教育課程又は高等部の学科及び教育課程に関する事項は、幼稚園、小学校、中学校又は高等学校に準じて、文部科学大臣が定める。 第78条 特別支援学校には、寄宿舎を設けなければならない。ただし、特別の事情のあるときは、これを設けないことができる。 第79条 寄宿舎を設ける特別支援学校には、寄宿舎指導員を置かなければならない。 2 寄宿舎指導員は、寄宿舎における幼児、児童又は生徒の日常生活上の世話及び生活指導に従事する。 第80条 都道府県は、その区域内にある学齢児童及び学齢生徒のうち、視覚障害者、聴覚障害者、知的障害者、肢体不自由者又は病弱者で、その障害が第75条の政令で定める程度のものを就学させるに必要な特別支援学校を設置しなければならない。 第81条 幼稚園、小学校、中学校、義務教育学校、高等学校及び中等教育学校においては、次項各号のいずれかに該当する幼児、児童及び生徒その他教育上特別の支援を必要とする幼児、児童及び生徒に対し、文部科学大臣の定めるところにより、障害による学習上又は生活上の困難を克服するための教育を行うものとする。 2 小学校、中学校、義務教育学校、高等学校及び中等教育学校には、次の各号のいずれかに該当する児童及び生徒のために、特別支援学級を置くことができる。 一 知的障害者 二 肢体不自由者 三 身体虚弱者 四 弱視者 五 難聴者 六 その他障害のある者で、特別支援学級において教育を行うことが適当なもの 3 前項に規定する学校においては、疾病により療養中の児童及び生徒に対して、特別支援学級を設け、又は教員を派遣して、教育を行うことができる。 第82条 第26条、第27条、第31条(第49条及び第62条において読み替えて準用する場合を含む。)、第32条、第34条(第49条及び第62条において準用する場合を含む。)、第36条、第37条(第28条、第49条及び第62条において準用する場合を含む。)、第42条から第44条まで、第47条及び第56条から第60条までの規定は特別支援学校に、第84条の規定は特別支援学校の高等部に、それぞれ準用する。 3.2023年9月13日永岡桂子文部科学大臣記者会見 (記者) 先週、国連の障害者権利委員会が日本に関する報告書を発表しまして、日本の特別支援教育が障害児を分ける分離教育だというふうに捉えた上で、この教育体制を見直すように強く要請をしました。十分な予算の確保も含めてインクルーシブ教育について捉えなおしていくようにということが盛り込まれていましたが、この報告書を受けて、永岡大臣の受け止めや今後の文科省としての対応を教えてください。また、報告書の中に、2022年4月に文科省が出した特別支援教育に関する通知を撤回するようにという要請も盛り込まれていました。この通知を出された趣旨を改めて教えていただきたいというのと、この報告書に盛り込まれている撤回という要請を受けてどのように対応されていくかというのを教えていただければと思います。 (大臣) 8月22日から23日に、スイスのジュネーブにおきまして、障害者権利条約の対日審査が行われました。文部科学省も、政府代表団の一員として審査に対応をいたしました。この審査を受けまして、9月9日になります、障害者権利委員会の総括所見が公表されまして、障害のある子供の教育につきましては、個々の教育上の要請を充たす合理的配慮の保障、そしてもう一つ、インクルーシブ教育に関する研修の確実な実施などが勧告されました。文部科学省では、これまでもですね、障害のある子供と障害のない子供が可能な限り共に過ごせるように、通級によります指導の担当教員の基礎定数化ですとか、また、通常級に在籍いたします障害のある子供のサポートなどを行います「特別支援教育支援員」に対します財政支援や、また、法令上の位置付けなどに取り組んでまいりました。引き続きまして、勧告の趣旨を踏まえまして、インクルーシブ教育システムの推進に向けた取り組みを進めていきたいと考えているところでございます。あとは、やはり、障害者権利条約に規定されておりますインクルーシブ教育システムというのは、障害者の精神的、また、身体的な能力を可能な限り発達させるといった目的の下に障害者を包容する教育制度であると、そういう認識をしております。これまでの文部科学省では、このインクルーシブ教育システムの実現に向けまして、障害のある子供と障害のない子供が可能な限り共に過ごす条件整備と、それから、一人一人の教育的ニーズに応じた学びの場の整備、これらを両輪として取り組んでまいりました。特別支援学級への理解の深まりなどによりまして、特別支援学校ですとか特別支援学級に在籍するお子様が増えている中で、現在は多様な学びの場において行われます特別支援教育を中止することは考えてはおりませんが、引き続きまして、勧告の趣旨も踏まえて、通級によります指導の担当教員の、先ほどもお話し申し上げましたけれども、基礎定数化の着実な実施などを通しまして、インクルーシブ教育システムの推進に努めてまいる所存でございます。そうですね、通知の撤回がありました、お答えいたします。昨年度、文部科学省が、特別支援学級の在籍児童生徒の割合が高い自治体を対象に行いました実態調査におきまして、特別支援学級に在籍いたします児童生徒が、大半の時間を通常の学級、普通学級でございますが、通常の学級で学び特別支援学級において障害の状態等に応じた指導を十分に受けていない、また、個々の児童生徒の状況を踏まえずに、特別支援学級では自立活動に加えまして算数や国語の指導のみを行うといった不適切な事例が散見をされたところでございます。こうした実態も踏まえまして、ご指摘の通知は、特別支援学級で半分以上過ごす必要のない子供については、やはり、通常の学級に在籍を変更することを促すとともに、特別支援学級の在籍者の範囲を、そこでの授業が半分以上必要な子供に限ることをですね、目的としたものでございまして、むしろインクルーシブを推進するものでございます。勧告で撤回を求められたのは大変遺憾であると思っております。引き続きまして、通知の趣旨を正しく理解をしていただけるように、周知徹底に努めてまいりたいと思っております。以上です。 41ページ 第6章 将来ビジョン推進委員会について        1.委員名簿(2024年7月31日現在) 委員長 大胡田誠 副委員長 舟崎隆 伊藤丈人 委員 阿部央美 江見英一 片平考美 岸本将志 鈴木祐花 長瀬修 永野仁美 西村秀樹 福地健太郎 三宅隆 2.総括所見に関する委員会の開催状況 (1)第5回委員会(2023年8月3日)  議題 委員長・副委員長の選任、総括所見に関する検討の進め方について (2)小委員会(2023年9月〜10月) @地域生活小委員会 第1回(2023年9月4日)  議題 視覚障害者が入所する施設に関する意見交換 第2回(2023年9月28日)  議題 入所施設に関するヒアリング 社会福祉法人東京光の家 A教育小委員会 第1回(2023年9月29日)  議題 視覚障害者の教育に関する意見交換 B就労小委員会 第1回(2023年9月2日)  議題 視覚障害者の就労に関する意見交換 第2回(2023年9月28日)  議題 各論点の検討 第3回(2023年10月3日)  議題 小委員会報告の検討 (3)第6回委員会(2023年10月17日)  議題 各小委員会からの報告 (4)第7回委員会(2023年11月20日)  議題 グループホームに関するヒアリング 特定非営利活動法人ヒューマンライツライフビリーフ、株式会社ぽりに (5)第8回委員会(2023年12月20日)  議題 就労継続支援B型事業所に関するヒアリング 社会福祉法人日本視覚障害者職能開発センター、一般社団法人ミュージックサークルLABO (6)第9回委員会(2024年1月9日)  議題 報告書の掲載内容の検討 (7)第10回委員会(2024年1月22日)  議題 報告書の掲載内容の検討 (8)第11回委員会(2024年2月1日)  議題 中間報告書(案)の検討 (9)第12回委員会(2024年3月6日)  議題 中間報告書の検討 (10)第13回委員会(2024年4月22日)  議題 最終報告書の掲載内容の検討 (11)第14回委員会(2024年7月31日)  議題 最終報告書の検討 裏表紙 【発行】 社会福祉法人日本視覚障害者団体連合 将来ビジョン推進委員会 〒169−8664 東京都新宿区西早稲田2−18−2 TEL 03−3200−0011 FAX 03−3200−7755 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