視覚障害者の早期相談支援のためのリンクワーカー育成に係るガイドライン作成事業 報告書 2024年(令和6年)3月 社会福祉法人 日本視覚障害者団体連合 本事業は、全国生活協同組合連合会、全国労働者共済生活協同組合連合会、大阪府民共済生活協同組合の助成により実施されたものである。 目次 1.はじめに 2.第1章 事業概要 3.第2章 英国現地調査の報告 4.第3章 シンポジウム 5.第4章 視覚障害リンクワーカーの手引き 6.おわりに  *見出しの頭には「--(半角で2つ)」の記号が挿入されているので、検索機能を使って頭出しをする際にご利用下さい。  また検索の際、目次でご紹介した数字を続けて半角で入力すると、その項目に直接移動することができます。  (例)1をご希望のときは、「--1(すべて半角)」と入力。 --1.はじめに  わが国においては、医療と福祉の連携は、ごく当然のこととして制度化され発展してきた。また、医学的リハビリテーションは、治療、社会復帰、患者の自立、生活の質の向上などにとって重要な位置づけをされていることも周知のとおりである。ところが、わが国においては、眼科医療におけるリハビリテーションの重要性が最近になり強調され、その一部が医療として位置づけられるようになってきたものの、「視覚リハビリテーション」ないし「ロービジョンリハビリテーション」が眼科治療と一体のものとして位置づけられるまでには至っていないように思う。  さらに重要なことは、視力低下や視野狭窄などの視覚障害を発症し、回復が困難となった患者が自己喪失や極度な精神的不安に陥り、あるいは将来への展望を失いそうになった時に、補装具や日常生活用具を活用して生活の質を維持したり、社会生活、とりわけ仕事を継続することが十分に可能であることを伝え、それらを活用するための訓練に結びつけるシステムは未だ確立されていないということである。  わが国の福祉制度は十分なものとは言えないとしても、現行制度を活用すれば、社会から離脱せず、日常生活を快適に過ごすことは十分に可能である。残念ながら、人生の途中で視覚障害を有するに至ったとしても、それらの福祉制度を活用して豊かな人生を全うし、自己実現を図っている仲間がたくさんいる。それらの体験者と交流することによって、自己喪失感から一日も早く脱することもできるのである。  これまでにも、視覚障害者に対する相談支援は様々な場面において充実してきたし、ごく一部ではあるが眼科医療を担う病院やクリニックにおいて回復が困難となった患者に対する相談も実施されるようになってきたものの、患者をリハビリテーション、福祉、教育、職業訓練などに結びつけるための相談支援は制度化されていないし、安定して継続的に行う状況にはなっていない。この点、英国においては、眼科クリニックにおいて、専門の相談員が患者の相談を継続的に行う制度が確立されている。本連合は、英国の係る制度がどのような仕組みで、どのような財源で行われているか、専門員の養成などを学び、わが国における「眼科医療と福祉の連携」を確立する上で参考にしたいと考えた。  そこで、本連合は、全国生活協同組合連合会、全国労働者共済生活協同組合連合会及び大阪府民共済生活協同組合から助成を受けて、「視覚障害者の早期相談支援のためのリンクワーカー育成に係るガイドライン作成事業検討委員会」を立ち上げ、中野委員長をはじめとする委員のみなさんの意欲的なご協力によって、大きな成果である報告書をまとめ発表することができたことに感謝し、助成団体及び委員のみなさんに心からお礼申し上げる。  今後は、本連合自身がこの報告書を基礎として専門相談員の養成を行い、全国の眼科医に連携を働きかけるとともに、国に対しては眼科における相談支援の制度化を働きかける決意である。 日本視覚障害者団体連合 会長 竹下義樹 --2.第1章 事業概要 1.調査背景  眼科での医学的治療に限界があり、医療機関において視覚障害の可能性の告知を受けた人々の多くは精神的に大きく落胆してしまい、引きこもりや精神疾患を発症するケースが少なくない。  日本眼科医会が行った調査1)2)によれば、日本の視覚障害者は164万人、うち全盲は18.8万人、145万人がロービジョン(弱視)と言われており、視覚障害による社会的損失は年間8.8兆円と試算されており、その社会的な影響は大きい。 英国においては、医療機関を拠点に患者とその家族らに対して、早期から気持ちに寄り添った支援やすぐに活用できる支援を行うとともに、福祉・教育・就労等の社会資源へ橋渡しを担う専門家であるECLO【エクロ】(Eye Clinic Liaison Officer)のシステムが確立されている。また、ECLOの養成や活動に際し、視覚障害当事者団体である英国王立盲人協会(RNIB)が大きな役割を果たしている。3)4)  その取り組みを学び、日本に合った形で早期の支援体制を構築するため、日本視覚障害者団体連合(以下、日視連)は、昨年、全国生活協同組合連合会、埼玉県民共済生活協同組合及び大阪府民共済生活協同組合の助成を受け、「失明の可能性の告知を受けた人の早期相談支援体制の構築に向けた調査研究」(以下、令和4年度調査)を実施した。  具体的には、日本人で初めてECLOの資格を取得した甲府共立病院 眼科医 加茂純子先生と長年にわたりECLOを研究している桜花学園大学の柏倉秀克教授のお二人に英国のECLOシステムについて話を伺うとともに、日本において院内で先駆的に早期相談支援を実施している眼科病院への現地調査、病院内で視覚障害者の相談にあたっている方および視覚障害者で相談にあたっている方への聞き取り調査、眼科医※1と日視連に加盟する団体※2に対してアンケート調査を実施した。  令和5年度調査は、令和4年度調査を踏まえながら、さらに英国のECLOシステムの理解を深めるために実施した。 ※1:国立障害者リハビリテーションセンター学院が実施する視覚障害者用補装具適合判定医師研修会を修了し、メーリングリストに登録している眼科医 ※2:日本視覚障害者団体連合に加盟している47都道府県と13政令指定都市の計60団体 2.目的  中途視覚障害者の引きこもりや自殺を防ぎ、福祉や各種リハビリテーションにつなげて生活の質を損なわないようにするためには、早期に相談に応じる必要がある。そして、精神面で支えるとともに関係支援機関につなげることが重要である。  そこで、本調査では、眼科医療の段階から早期に専門性の高い相談と支援が行われるよう、医療と福祉をつなぐ視覚障害リンクワーカーの育成に関するポイントや留意事項について手引き(ガイドライン)を作成した。 3.事業内容 (1)検討委員会の設置  調査事業の専門性と客観性を確保するために検討委員会を設置した。委員は、学識経験者、眼科医、精神科医、看護師、視能訓練士、歩行訓練士、社会福祉士、公認心理士、視覚障害者で構成した。 (2)英国での現地調査の実施  ECLOのサポート体制等を明らかにするために、ECLOの設立から運営にかかわってきたRNIBのキーパーソンに対して、本研究の目的を伝えた上で、訪問先とインタビューの対象者の選定を依頼し、ヒアリングおよび見学を行った。 【日程および場所】 8月14日(月) Central Middlesex Hospital(London) 8月15日(火) RNIB Office(London) 8月16日(水) Childrens Hospital(Birmingham) 8月17日(木) RNIB Office(London) 8月18日(金) Queens Hospital(London) 【メンバー】(順不同、敬称略) 中野泰志 慶應義塾大学経済学部 教授 宮内久絵※ 筑波大学人間系障害科学域 准教授 平塚義宗 順天堂大学眼科学教室 先任准教授 青木千帆子 筑波技術大学 特任助教 吉泉豊晴※ 日本視覚障害者団体連合 情報部 部長 遠藤 剛※ 日本視覚障害者団体連合 情報部 課長(事務局) ※本調査の助成により渡航 (3)フォーラムの実施  英国での現地調査を報告するとともにフォーラムを通して全国の視覚障害当事者や医療関係者、福祉・教育・就労等の各種支援機関の支援者らと日本における医療から患者を社会参加へつなげるシステムを一緒に考えることを目的に実施した。 (4)手引き(ガイドライン)および報告書の作成  英国での現地調査と検討委員会での意見を踏まえ、本調査のとりまとめとして、手引き(ガイドライン)および報告書を作成する。なお、報告書の作成後は、全国の視覚障害関係団体や関係機関等に報告書を配布するとともに、各学会等でも発表を行い調査結果の周知を行う。 4.検討委員会の概要 (1)名簿(順不同、敬称略) ○委員 中野泰志 慶應義塾大学経済学部 教授【委員長】 柏倉秀克 桜花学園大学保育学部 教授 宮内久絵 筑波大学人間系障害科学域 准教授 平塚義宗 順天堂大学眼科学教室 先任准教授 別府あかね 岡本石井病院眼科 視能訓練士・歩行訓練士 永沼加代子 井上眼科病院 社会福祉士・精神保健福祉士 横田 聡 神戸アイセンター病院 診療部 医長 守田 稔 かわたペインクリニック心療内科 精神科医 視覚障害をもつ医療従事者の会(ゆいまーる)代表 田中 桂子 神戸アイセンター病院 公認心理師 中野 規公美 神戸アイライト協会 相談員・看護師 竹下義樹 日本視覚障害者団体連合 会長 【副委員長】 橋井正喜 日本視覚障害者団体連合 副会長 工藤正一 日本視覚障害者団体連合 総合相談室 室長 三宅 隆 日本視覚障害者団体連合 常務理事・組織部 部長 吉泉豊晴 日本視覚障害者団体連合 情報部 部長 (2)委員会および視察、フォーラムの実施報告 第1回委員会 期日:2023年5月24日 方式:ハイブリッド 議事:令和4年度調査結果報告および令和5年度の調査事業内容の検討、各委員の取り組みの報告と意見交換 英国現地調査 期間:2023年8月14日〜18日 場所:英国(ロンドン、バーミンガム) 第2回委員会 期日:2023年11月29日 方式:オンライン 議事:英国現地調査の報告 フォーラム 日時:2023年12月9日 場所:日本視覚障害者センター(東京都新宿区) 第3回委員会 期日:2024年1月23日 方式:オンライン 議事:手引き(ガイドライン)の検討 第4回委員会 期日:2024年3月26日 方式:オンライン 議事:手引き(ガイドライン)の検討、報告書の検討 ■参考文献 1)Yamada M, Hiratsuka Y, Roberts CB, Pezzullo ML, Yates K, Takano S, Miyake K, Taylor HR:Prevalence of visual impairment in the Japanese population by cause and severity and future projections. Ophthalmic Epidemiology 17:50-57, 2010 2)Roberts CB, Hiratsuka Y, Yamada M, Pezzullo ML, Yates K, Takano S, Miyake K, Taylor HR:The economic cost of visual impairment in Japan. Archives of Ophthalmology 128:766-771, 2010 3)加茂 純子,平塚 義宗(2022):視覚喪失患者を眼科からリハビリテーションや福祉とつなぐ英国の視覚喪失アドバイザーEye Clinic Liaison Officer(ECLO)について,日本ロービジョン学会誌,22,53-58 4)柏倉 秀克(2017):イギリスにおける中途視覚障害者支援の動向 -RNIBが推進するECLOの役割を中心に-日本福祉大学社会福祉論集,136,1-14 --3.第2章 英国現地調査の報告 現地調査 実施概要 ●1日目 8月14日 場所:Central Middlesex Hospital(London)  ロンドンのブレント区とイーリング区の境界にある大規模な病院でECLOをされている2名のECLOに話を伺った。 Aさん(視覚障害なし、Locum ECLO) Bさん(重度視覚障害者、病院ECLO) 【写真】病院外観 【写真】ヒアリングの様子 ●2日目 8月15日 場所:RNIB Office(London)  スコットランドの北部エリアを担当しているECLO1名に話を伺った。  Cさん(視覚障害なし、Locum ECLO) 【写真】ヒアリングの様子 ●3日目 8月16日 場所:Childrens Hospital(Birmingham)  バーミンガムにある子ども専門の病院に勤務するECLO1名と病院に同行いただいたRNIB ECLO Leadership Teamのメンバー1名に話を伺った。  Dさん(軽度視覚障害者、病院ECLO)  Eさん(視覚障害なし、RNIB ECLO Leadership Team 会計および連絡調整担当) 【写真】病院外観 【写真】ロンドンとバーミンガムの位置関係 【写真】ヒアリングの様子 ●4日目 8月17日 場所:RNIB Office(London)  ECLOシステムを運営するRNIB ECLO Leadership Teamのメンバー5名に話を伺った。 Fさん(視覚障害なし、サービス主任、眼科医) Gさん(視覚障害なし、品質継続および教育担当、視能訓練士・ECLO) Hさん(視覚障害なし、サービスマネージャー、ECLO) Iさん(視覚障害なし、パートナーシップマネージャーおよび財務担当)Eさん(視覚障害なし、会計および連絡調整担当) 【写真】ヒアリング後の記念撮影 ★ワード:英国王立盲人協会(RNIB)  英国王立盲人協会(RNIB;Royal National Institute of Blind People)は、1868年にロービジョンの医師 トーマス・アーミテージによって設立されたチャリティー団体である。RNIBは、英国の当事者団体の中で最も古い団体の1つで、英国における最大級の障害者支援機関となっている。1)全盲やロービジョンのご本人だけでなく、その家族や介護者に対しても実践的および感情的なサポートを提供している。  主な事業として、拡大文字や点字の書籍出版、Talking Books(録音図書)作成、教育支援、就労支援、リソースセンター(福祉用具の開発・販売)、視覚障害予防、ピアサポート、ICT機器の使い方支援、電話相談等を行っている。 【写真】RNIB外観 【QRコード】RNIBホームページ https://www.rnib.org.uk/ ●5日目 8月18日 場所:Queens Hospital(London)  ロンドンのヘイバリング区のロムフォードにある大規模な病院に勤務する眼科医のトップ(テクニカルリード)、ECLOと病院エリアを担当するROVIに話を伺った。  Jさん(視覚障害なし、テクニカルリード 眼科医)  Kさん(軽度視覚障害者、病院ECLO)  Lさん(重度視覚障害者、ROVI) 【写真】ヒアリング後の記念撮影 ★ワード:ROVI(Rehabilitation Officer for Visual Impairment)  歩行訓練(OAM)、日常生活動作(ADL)のアセスメントとその支援を行う専門家であり、日本で言えば歩行訓練士にあたる。  ROVIは、基本的には自治体に雇用されており、対象者は成人である。子どもの訓練に関しては、ROVIでなく、子どもの訓練の専門家であるハビリテーションワーカー(Habilitation Worker)が担当する。 【写真】ロンドンの地図と訪問先の位置関係 1.ECLOのはじまり  英国では、ECLO(Eye Clinic Liaison Officer)という職種が、医療機関において視覚障害のある患者やその家族等に対して、実践的および感情的なサポート(エモーショナルサポート&プラクティカルサポート)を行い、リハビリテーションの専門家等に橋渡しをする役割を担っている。1)2)  英国でECLOが誕生したのは、1994年のことで、英国北部のサウスヨークシャー州のロザラム病院で採用された。このECLOの誕生は、EU(欧州連合)が資金提供した実験的な取り組みがきっかけであったが、現在もECLOの役割は続いている。2)3)  英国初のECLOが誕生して以降、この取り組みは北アイルランド、イングランド北西部と広がっていった。2007年までに、RNIBは9人のECLOを1年契約で雇用し、2016年には36名のECLOを雇用。2022年3月には、100人目のECLOが誕生し、ECLOは英国国内で確実に根づきつつある。2)3) 2.患者との対話から  2000年に入ると、RNIBは「Patient Talking」と呼ばれる研究を実施した。この研究でRNIBは、英国全土の視覚障害者に対して大規模な聞き取り調査を行った。  「Patient Talking」には、眼科クリニックを受診した視覚障害者の経験がまとめられている。この調査からは、眼科クリニックでの治療やスタッフに対して満足している一方で、2つの課題があることが明らかになった。2)  1つ目の課題は、患者は視覚障害や視覚障害が生活に与える影響について理解している人と話をすることを求めているということ。そして、課題の2つ目が、眼科以外で提供しているサービスや支援について多くの情報を求めているということだった。  また、これら2つの課題は、より多くの眼科にECLOを配置する必要があるという、RNIBの考えを裏付ける根拠になった。 【写真】RNIB ECLO Leadership Teamへのヒアリングの様子 3.ECLOの人数と種類  2023年8月現在で、177名のECLOが活躍している。そのうちの約半数が視覚障害のあるECLOである。  ECLOの多くは、RNIBが雇用しており132名に上る。残りの45名のECLOは、国民保健サービス(NHS)に雇用されている。  ECLOは、業務形態により、大きく2種類のECLOに分かれる。  1つは、病院に勤務するECLOである(以下、病院ECLO)。医療機関を拠点として活動しており、数は少ないが小児病院に小児を専門とするECLOが勤務していることもある。  2つ目が、在宅勤務を基本とし、地域内の複数の病院を担当するECLOである(以下、Locum ECLO)。Locum ECLOは、病院ECLOが休暇を取る際にサポートするなど、常に連携しながら活動を行っている。  この病院ECLOとLocum ECLOの連携が、ECLOの活動の幅を広げることを可能にしているといえる。 【写真】小児専門のECLO 4.ECLOの役割と仕事  ECLOの役割は、見えにくさで困っている患者とその家族にすぐに活用できる支援の情報提供と気持ちに寄り添った支援を行い、個々人のライフステージに合った社会資源(リソース)や支援先等に橋渡し(リンク)することである。  ECLOの中には、リハビリテーションの専門家や心理の専門家として活躍していた経歴がある者もいるが、ECLOとして活動している限りは、知識や技術があろうとも、リンクワークに徹し、専門的なことはリンク先の専門家にお願いする。決して、ほかの職種の領域に踏み込まないように徹底している。  ECLOが役割を果たすために行っている仕事は、主に4つある。 (1)エモーショナルサポート&プラクティカルサポート  エモーショナルサポートは、患者やその家族、支援者に対し、傾聴・共感を行いながら感情や気持ちに寄り添うこと(気持ちに寄り添うサポート)である。一方、プラクティカルサポートは、日常生活を送る上での困りごとを解消するためのちょっとした工夫を提供すること(すぐに役立つサポート)で、エモーショナルサポートとプラクティカルサポートは、双方向にうまく影響し合いながら行う支援である。  具体的に言えば、見えにくくなって、テレビのリモコンの操作がしづらくなったのであれば、ボタンの大きなリモコンを紹介する。見えにくいので、野菜を切るのが怖いのであれば、カット野菜や黒いまな板を紹介するといった情報をECLOは提供する。このちょっとした支援を通じて、困りごとを解消することにより、患者の気持ちの整理につながることがある。 (2)リンクワーク  ECLOには、患者本位の考え方に基づきながら、患者やその家族のライフステージに応じた必要な社会資源(リソース)に橋渡し(リンク)する役割がある。この橋渡しの役割は、リンクワークと呼ばれ、日本においても認知症リンクワーカーと呼ばれるリンクワークの専門家が、認知症患者に対し、本人の希望する地域の社会資源に橋渡しをすることを行っている。5)  ECLOが橋渡しをするリンク先としては、大人のリハビリテーションを担当する専門職のROVIや子どものハビリテーションを担当する専門職のハビリテーションワーカー、地域の学校で視覚障害のある子どもが学ぶ際の視覚障害教育専門教員であるQTVIといったリハビリテーションや教育の専門家だけでなく、ソーシャルワーカーやRNIBの専門家チーム、当事者団体・患者会、地域のボランティアグループなど多岐にわたる。ECLOは、患者や家族の話に耳を傾けながら、患者本位の考え方に基づき、これらリンク先を紹介する。 ★ワード:QTVI(Qualified Teacher of Children and Young People with Vision Impairment)  視覚障害教育の専門家であり、日本で言えば視覚障害の特別支援学校に勤める先生、つまり視覚特別支援学校(盲学校)の先生が非常に近い立場となる。  英国では、1980年代から90年代にかけてインクルーシブ教育の進展に伴って多くの盲学校が廃校となっており、現在では2校しかない。そのため、知的障害を伴わない単一の視覚障害のある子どもの場合には、基本的に地域の通常学校に通って学んでいる。  英国では、盲学校がない代わりに地方教育当局教育センター(sensory Centre)に所属しているQTVIがセンターを拠点にして、地域の視覚障害のある児童・生徒がいる場所に出向いて支援をしていくという形を取っている。  QTVIの対象は、0歳から25歳までとされている。また、支援内容も幅広く、点字や触察の指導、視覚障害のある子どもたちを支援している学校スタッフへのトレーニング、ハビリテーショントレーニング(歩行訓練、日常生活スキル)、試験問題などの点字版や拡大文字版の作成、機能的視覚(Functional Vision)の評価、両親への支援などが挙げられる。4) 【図】ECLOの役割のイメージ 〈病院〉 医師 ⇒(紹介)病院ECLO ⇔(連携) Locum ECLO 病院ECLO、Locum ECLO⇒(紹介)ソーシャルワーカー、ハビリテーションワーカー(子どもを対象に歩行訓練や生活訓練を行う)、ROVI(大人を対象に歩行訓練や生活訓練を行う)、QTVI(視覚障害教育の専門家)、当事者団体・患者会、ボランティアグループ (3)アドボカシー  ECLOは、患者らを力づけるように努め、患者の意見や要望を聞き出して代弁したり、自己決定ができるようサポートに努める。  具体的には、3つに分けられる。1つ目は、患者が診察室に入る際のサポートである。患者は緊張や不安感のあまり、医師から病状や検査結果、手術などの説明があっても聞き逃してしまったり、正しく理解できない場合も少なくない。このような場合にECLOは、診察に同席し、医師の説明を平易な言葉で患者に伝える。これにより患者は、自分の目の状態を冷静な気持ちになって理解することができる。  2つ目としては、日本の身体障害者手帳にあたるCVI(視覚障害証明書)についてである。英国では、CVIを申請し、認定されることで視覚障害者として登録される。この登録を行うことで、患者は公的な障害福祉サービスを受給することができる。また、患者はこの受給資格を得なければ、ソーシャルワーカーによる福祉サービスを開始することができない。1)ECLOは、CVI登録のメリットと概要を説明するとともに、患者が提供された情報を理解して決断するまでの時間を確保する。  最後、3つ目は、ECLOは患者らの声を院内に届けることである。ECLOは、カンファレンスに参加して患者の意見をフィードバックすることや院内の安全対策、案内表示等の改善に努めている。 (4)CVI(視覚障害証明書)登録のメリットの説明と登録に係る事務作業  ECLOは、患者の検査結果をカルテから読み取り、CVIの登録の取得を患者に提案したり、CVIの取得条件に該当する患者がいた場合には、医師にCVI取得を提案する。また、ECLOは、CVIの取得条件に該当する患者に対し、CVIの登録や登録することのメリットを説明する。  ECLOは、CVIの記入の手伝いやCVI登録作業を手伝うこともある(勤務形態や所属している病院によって異なる)。英国のCVIは、4つのパートに別れており、ECLO等の医療従事者や医療事務は「パート3:重複障害の情報、一人暮らし、支援者の有無といった行政において重要になる付加的な情報」「パート4: かかりつけ医(GP)、行政、眼科医会と情報共有することへの承諾」記入が可能である。医師は、「パート1:患者の個人情報」と「パート2:最良の矯正視力(右眼・左眼・両眼)、広範な周辺視野の損失の有無など」の部分を記入し、医師のサインと患者のサインをもって書類が完成する。  完成した書類のコピーは、1.国民保健サービス(NHS)、2.患者、3.かかりつけ医(GP)、王立眼科学会(The Royal College of Ophthalmologists)、5.患者の自治体のセンサリーチームの5か所に送られる。この送るまでの作業の一部をECLOが担うことで、医師や医療従事者らの負担を軽減している。 【写真】CVI(視覚障害証明書)のパート1 5.ECLOの仕事の流れ  患者とのコンサルテーションが始まるきっかけとしては、見えにくさで困っている患者本人や家族から直接連絡がある場合と勤務先の医師や病院関係者、かかりつけ医(GP)、地域の眼科クリニック、オプトメトリスト(検眼士)などから紹介される場合がある。  ECLOのコンサルテーションは、ECLOが勤務している病院の相談スペースで対面で行われることもあれば、電話やメールで行うこともある。  コンサルテーションでECLOは、「4.ECLOの役割と仕事」で述べたような、患者へのエモーショナルサポート(気持ちに寄り添うサポート)&プラクティカルサポート(すぐに役立つサポート)に努めるとともに、CVI(視覚障害証明書)登録のメリットや受けられる福祉サービス等の情報提供も行う。  情報提供に際しては、RNIBが作成しているパンフレットやリーフレット類を渡すことになっており、電話やメールでのコンサルテーションであっても、郵送で送るようになっている。また、パンフレットやリーフレットは、拡大文字版、点字版、音声版で提供されており、患者の希望する媒体で提供している。  なお、ECLOは、患者へ一度に多くの情報を渡すことはしない。常に患者の気持ちの整理や理解度を見ながら、患者が希望している情報を渡すようにしている。 【写真】RNIBが提供しているパンフレットやリーフレット  また、ECLOが行うコンサルテーションは、決まった回数や期限を定めていない。これは、本人が抱えている問題の複雑さや本人が自分の置かれている状況をどれだけ理解しているかによって変わるためである。そのため、患者や家族に困りごとが生じた時には、ECLOがいつでも支援を行うようになっている。  コンサルテーション後に、ECLOはデータベース上に、コンサルテーションから得られた氏名や連絡先、家族関係などの基本的情報や、ECLOにリファーラル(紹介)された理由、コンサルテーションの内容とその結果、渡した資料の種類など細かく記録する。なお、これら一連の作業は、コンサルテーション前に自分の所属を説明し、患者の承諾を取ったうえで行われる。  記録するデータベースは、2種類あり、1つは国民保健サービス(NHS)のメディサイト(Medisite)、もう1つがRINBのビューポイント(Viewpoint)である。  メディサイトは、基本的に病院関係者しかアクセスできないようになっているため、Locum ECLOが自宅でコンサルテーションをした時には、病院ECLOにそのコンサルテーション記録を伝えて、病院ECLOがメディサイトにアップロードする体制がとられている。かかりつけ医(GP)も患者の病院に連絡をすることで、メディサイトにアクセスすることができる。  また、RNIBもビューポイントから同様の内容を閲覧することができるので、ECLOをマネージメントする際やECLOから紹介された患者を支援する際などに活用されている。 6.ECLOの存在を知ってもらうために  ECLOは、病院内外でその存在を知ってもらうために様々な努力をしている。  病院ECLOは、拠点病院の医師や医療従事者に対して、ECLOの役割を伝えるだけでなく、普段からコミュニケーションを取り、病院に溶け込むようにしている。院内には、大きなポスターが置かれており、患者や家族の目に留まるような工夫がされている。  また、ECLOは病院内のカンファレンスに積極的に参加したり、医師や医療従事者に向けて、機能的視覚(Functional Vision)についての理解を深めるためのプレゼンテーションを実施することもある。この機能的視覚は、視力、視野、明暗順応、眼球運動などを表す視覚機能(Visual Function)とは異なり、日常で実際に機能している視覚である。そのため、患者の機能的視覚を理解することが、患者の生活のしづらさへの理解につながる。したがって、この機能的視覚を多くの人に理解してもらうこともまた、ECLOの重要な仕事の1つであるといえる。 【写真】院内の廊下に置かれた大きなポスター  一方、Locum ECLOは、かかりつけ医や地域の眼科クリニックの医師、地域のオプトメトリスト(検眼士)を回り、ポスターや名刺等を配ることで、地域にECLOがいることを知ってもらうようにしている。また、地元新聞へ寄稿したり、ローカルラジオに出演することで、地域に住む人たちや患者にECLOの仕事を知ってもらうようにしている。  これらの地道な努力が、ECLOの認知度を向上させるのに一役買っているともいえる。 【写真】ECLOのポスター(左)と名刺(右)。名刺は、A5サイズでとても大きい 7.相談スペースの問題  今回、訪問した病院のECLOの相談スペースは様々で、個室を得ている場合もあれば、ある程度スペースを確保している場合や病院の待合室の廊下の隅という場合もあった。相談スペースの確保は患者のプライバシーを保護する上で重要な要素である。英国においても日本と同様に相談スペースの確保が課題であるということがうかがえた。 【写真】スペースをある程度得ている事例(左)とスペースが狭い事例(右) 8.ECLOの質を確保するために  RNIBでは、ECLOの役割を明確にし、ECLOの質を確保するために「ECLOのサービスの質を確保するための枠組みと実践のためのガイドライン(ECLO Quality Framework and Practice guidelines)(以下、ガイドライン)」とよばれるフレームワーク(枠組み)を作成している。  このガイドラインは、ECLOが行っていることは何なのかを当時の法律に基づきながら調査したもので、2014年に第1版が発行された。2019年には、GDP(General Data Protection Regulation)とよばれる、欧州連合(EU)のデータの保護規則が改正したことに伴い、第2版を作成した。なお、この第2版は、王立眼科学会の監修を受けているだけでなく、発表時には、英国眼科同盟の協力を得ており、眼科医らからも認められたフレームワークである。  ECLOになるために受講する眼科クリニック・サポート研修コース(Eye Clinic Support Studies Course)のカリキュラムは、ガイドラインを基に作成されており、英国全土のECLOは、このフレームワークに基づき、活動している。  また、このガイドラインは、ECLOの業務評価にも使用されており、1年目のECLOがフレームワークに沿って業務をこなしているかどうかをRNIBが判断する基準にもなっている。 【写真】ECLOのサービスの質を確保するための枠組みと実践のためのガイドライン 9.ECLOの養成  ECLOとして働くためには、4日間にわたり行われる眼科クリニック・サポート研修コース(Eye Clinic Support Studies Course)を受講したうえで、試験に合格する必要がある。  研修の内容は、ガイドラインを基にRNIBが開発し、ロンドン大学シティ校から認定を受けて実施している。また、この研修コースは、王立眼科学会、英国眼科同盟の2つの眼科医の組織の認定を受けている。  この研修コースでは、ECLOの役割、眼疾患および眼科検査、ロービジョン、視覚リハビリテーション、福祉サービス、患者の精神的影響、雇用、法的な権利サービス等の幅広い内容を学ぶ。また、小児を専門とするECLOになるには、これらのほかに小児専門のモジュール(授業)を別に受講する必要がある。  眼科クリニック・サポート研修コースを受講し、合格した新人ECLOは、担当する病院が決まった後に先輩ECLOによる指導を受ける。新人ECLOは、先輩ECLOと一緒に地域の資源(リソース)や支援先のサービス、その担当者等をリストアップしたディレクトリー(アドレス帳)を作成する機会や先輩ECLOの後ろを影のようについて同行し、ECLOの役割やコンサルテーションの方法等を学ぶ機会(シャドーイング)が設けられている。このシャドーイングは、期限を設けておらず、本人の自信がついたところで修了となることも特徴である。  新人ECLOは、これらの指導を先輩ECLOから受け、経験を積むことで、6〜9ヶ月の試用期間を経て、正式に雇用されることになる。 10.ECLOを支えるRNIBのしくみ  RNIBには、ECLOを支えるきめ細かい支援体制が構築されている。主な支援体制として、次の6つを挙げる。 (1)ECLOをマネージメントする「サービスマネージャー」  普段、1人職場であるECLOもどこかのチームに属して活動をしている。チームは、エリアで区切られ、1チームあたり8名程度のECLOがいる。チームは、サービスマネージャーと呼ばれるチームリーダーがエリア内のECLOを束ねており、その数は、英国全土で14名である(2023年8月現在)。  サービスマネージャーは、ECLOのスーパービジョン(監督)のほか、様々な契約や報告書の確認、成果や結果の管理、財政面の確認、ECLOの能力開発のための支援、ECLO業務の品質のモニタリングを行っている。  また、サービスマネージャーは、月に1度、対面でのチームミーティングを開催し、エリアレベルで情報の共有やECLOに対してマンツーマンの指導を行っている。  このほか、サービスマネージャーには、スーパーバイザーとしてECLOの話を聴くというピアサポートを提供する役割も担っており、日々奮闘しているECLOの心の拠り所になっている。 ★コラム:サービスマネージャーの誕生  サービスマネージャーが誕生した背景には、RNIBの調査の存在があった。それまでECLOのサービスは、地域レベルで提供しており、サービス内容や雇用形態などが全国で統一されていなかったが、同じころにRNIBが実施していた調査で、有償で働くECLOのほうが無償で働くECLOと比較して、質の高い支援を行っていたことが明らかになった。これをきっかけとし、RNIBは英国全土のECLOサービスを統一することにした。その統一したサービスを維持・管理するために、サービスマネージャーが誕生し、指揮を執ることになった。このサービスマネージャーの誕生により、個々のECLOの能力が向上し、全国でどこでも質の高いサービスが受けられるようになった。 (2)情報交換体制  RNIBでは、隔月に1度、サービス、テクノロジー、助成金等の最新情報を共有する場を、オンラインで提供している。  また、RNIBでは、オンラインでの情報共有のほかに、メーリングリストの運営やニュースレターも発行している。 (3)情報共有支援  「5.ECLOの仕事の流れ」で述べたように、ECLOが対応した患者の情報は、ビューポイント(Viewpoint)と呼ばれるRNIB独自のデータベース上で共有されている。氏名、連絡先、視力や視野などの情報、CVIの認定日、障害程度や重複障害の有無などの情報等の基本情報のほか、ECLOにリファーラル(紹介)された理由やコンサルテーションの内容とその結果(次にどういう行動をしたらいいか、患者と話し合って決めた内容)等をRNIBの関係者と共有している。  患者の中には、動揺しすぎていて自分の診断を受け入れきれていない場合や自殺願望、ネグレクトがあるなどの危険性が高いと考えられる場合がある。そのような場合には、すぐにRNIBがサポートするという体制が取られている。 (4)ECLOを支える専門家チーム  RNIBには、様々な分野の専門家チームがある。医学的な専門家チームである「アイヘルスインフォメーションチーム(Eye Health Information Team)」、育児や教育など子どもに関する専門家チーム「チルドレンヤングピープルアンドファミリーズチーム(Children Young People and Families Team)、雇用・就労に関する専門家チーム「エンプロイメントチーム(Employment Team)」等がある。  例えば、ECLOが患者の目の状態を説明しても説明が不十分だと感じたら、「アイヘルスインフォメーションチーム(Eye Health Information Team)」にコンタクトをとって、専門家から患者に丁寧な説明をすることがある。  これらの専門家チームは、ECLOが困った時にはいつでも相談できるような体制になっており、患者のライフステージに応じたバックアップ体制の存在がECLOの活動の支えになっている。 (5)フォローアップ体制とECLOの評価  RNIBのペーシェントサポートレビューという部門では、コンサルテーション後の患者のフォローアップを行っている。この患者へのアンケートは、PEQ(Patient Experience Questionnaire)と呼ばれる。PEQ では、患者に承諾を得たうえで、ECLOのコンサルテーションから6〜8週間経過した後に、RNIBの担当者が患者に電話をかける。電話でRNIB担当者は、患者を担当したECLOの支援の感想とその評価を患者から聞き取る。なお、この過程において、ECLOは全く関与しない。  また、アンケートは、ECLOが働く病院の医師や医療従事者に対しても行われる。このアンケートでは、ECLOがいることに病院でメリットがあったかや患者をどのようにECLOに紹介したか等をアンケートで評価している。アンケートは、CEQ(Clinician Experience Questionnaire)と呼ばれ、年に1度、実施される。  これらのアンケートから得られた結果は、ECLOの質の向上や養成研修の内容に活かされる。 (6)メンタルケア  ECLOは、患者やその家族の気持ちに寄り添いながら、話を聴くという仕事柄、患者が非常につらい状態に直面してしまった場合に、ECLOもつらい気持ちになり、影響を受けてしまうことも少なくない。  このような場合には、RNIBに所属しているクリニカルスーパーバイザーと呼ばれる心理系資格を有するカウンセラーに相談することができる。なお、このクリニカルスーパーバイザーは、ECLOを統括しているサービスマネージャーによるスーパーバイズとは異なり、仕事とは直接関係しないことも相談することができるため、ECLOの心の安定につながっている。 【図】RNIBによるECLOへの支援 ECLO⇒≪情報共有≫View point(ビューポイント)⇒≪情報共有≫ペーシェントサポートレビュー⇒≪フォローアップ支援≫ECLO ≪情報交換≫オンラインミーティング、メーリングリスト、ニュースレターなど⇒ECLO ≪交流≫チームの仲間⇒ECLO ≪相談、支援、評価≫サービスマネージャー⇒ECLO ≪連携≫LocumECLO⇔ECLO ≪カウンセリング≫クリニカルスーパーバイザー⇒ECLO ≪相談、支援≫専門家チーム⇒ECLO 11.視覚障害者がECLOとして活動する際に利用できる支援  視覚障害者がECLOとして活動する際に利用できる支援には大きく分けて2つある。。  1つは、英国政府が実施している障害者への公的な支援制度である。主な制度としてパーソナルアシスタント(Personal Assistant)制度とアクセストゥーワーク(Access To Work)が挙げられる。  パーソナルアシスタント制度は、高齢者や障害者などの対象者に対し、個人予算を提供する制度で、この個人予算を使って、介護事業者からサービスを購入したり、パーソナルアシスタントと呼ばれる独自のサポートワーカーを雇用したりできる。また、食事の準備や掃除、洗濯などの家事全般だけでなく、書類作成の多いECLOの場合には事務処理のサポートなどをお願いしている。  一方、アクセストゥーワークでは、仕事をしている重度障害者に対し、政府と雇用主が分担する形で職場の環境整備の費用を支払うことができる。この環境整備の中には、仕事で使う拡大読書器等の支援機器(テキスト読み上げソフトも含む)も含まれる。また、公共交通機関を利用出来ない場合に職場までの移動に使用した料金の負担やサポートワーカー、ジョブコーチなどのサポートを受けることができる。  2つ目としては、晴眼者のECLOとペアになることで受けられる支援である。視覚障害のあるECLOの中には、近隣にいるもう1人のECLO(主にLocum ECLO)とペアを組むことで、フォローを受けながら一緒になって働いている。  視覚障害のあるECLOは、これらの支援を上手く組み合わせながら仕事を行っている。 【写真】アクセストゥーワークのパンフレット 12.ECLOとして働く視覚障害者のやりがい  今回実施した現地調査では、6名のECLOに話を伺うことができた。6名のうち、3名は視覚障害のあるECLOであった。  ヒアリングでは、3名の視覚障害のあるECLOに対し、視覚障害のあるECLOだからできることやECLOの仕事のやりがいについて尋ねた。  視覚障害のあるECLOだからできることとしては、3つ挙げられた。1つ目は、視覚障害を負った経験や実体験を患者支援に活かすことができるということ。2つ目が障害認定の際に、生活面の困難を医師及び患者に対して、実体験に基づいて説明することができること。そして、最後3つ目が視覚障害者の働く姿を見せることで理解が促進されることであった。これら3つからも、視覚障害者がECLOとして活動する意義は大きく、それは日本においても同様と考えられる。  一方で、ECLOの仕事は、視覚障害者としての経験の生かし方に留意する必要があるとの意見があった。これは、自分が視覚障害のことを全て知っていると思い込んでしまうと、患者に寄り添うことができないというものである。このような懸念は、日本においても同様であると考えられる。英国においては、これらの懸念事項を念頭に置き、ECLOの養成研修である眼科クリニック・サポート研修コースで、ECLO候補一人ひとりが患者に寄り添うことができるよう、しっかり指導されている。  ECLOの仕事のやりがいについては、視覚障害のあるECLO全員が「ECLOはやりがいのある仕事である」と答えており、日本においてもECLOのような役割を担う専門家に視覚障害者が就くことの意義が十分あると考えられる。 ■参考文献 1)柏倉 秀克(2017):イギリスにおける中途視覚障害者支援の動向ーーRNIBが推進するECLOの役割を中心にーー日本福祉大学社会福祉論集,136,1-14 2)Johnson,S.(2023):ECLO's -what they do, how they do it, and how RNIB trains and equips them,第24回日本ロービジョン学会学術総会抄録集,36 3)How RNIB's ECLO service is becoming increasingly vital to hospital eye clinics,https://www.rnib.org.uk/news/how-rnibs-eclo-service-is-becoming-increasingly-vital-to-hospital-eye-clinics/(閲覧日:2024年2月12日) 4)Hannah,Bら.(2023):Inclusive education in England and partnerships between education, medicine and welfare-from a QTVI perspective,第24回日本ロービジョン学会学術総会抄録集,38-39 5)きょうと認知症あんしんナビ「認知症リンクワーカー」,https://www.kyoto-ninchisho.org/?page_id=3486(閲覧日:2024年2月15日) --4.第3章 シンポジウム 1.実施概要 イベント名称 眼科からはじまる社会参加への道しるべ 英国の取り組みから考えるフォーラム ≪開催日時≫ 2023年12月9日(土)13時00分〜15時30分 ≪開催場所および実施方法≫ 日本視覚障害者センター(東京都新宿区西早稲田2-18-2)をメイン会場(定員40名)とし、YouTubeでのライブ配信を交え開催した ≪ライブ配信URL≫ https://youtube.com/live/ugDKxIBCFfs ≪開催趣旨≫ 英国での現地調査を報告するとともに英国の取り組みを参考にしながら、日本における医療から患者を社会参加へつなげるシステムを考える。 ≪プログラム≫  第1部 基調報告 「現地調査から見えた英国の取り組み」 1.吉泉豊晴(日本視覚障害者団体連合 情報部長) 2.平塚義宗(順天堂大学眼科学教室 先任准教授 眼科医) 3.宮内久絵(筑波大学 人間系障害科学域 准教授)  第2部 ディスカッション 「患者を医療から社会参加へつなげるシステムを英国の取り組みから考える」 ファシリテーター: 中野泰志(慶應義塾大学 経済学部 教授) コメンテーター: 竹下義樹(日本視覚障害者団体連合 会長) ※基調報告の報告者3名も登壇した 2.開催報告  日本視覚障害者団体連合(以下、日視連)は、2023年8月14日から5日間にわたり実施した英国での現地調査を踏まえ、日本における医療から患者を社会参加へつなげるシステムを考えるためのフォーラムを開催した。  フォーラムには、メイン会場に48名、YouTube上で168名(ライブ配信時の視聴者数)もの参加があった。視覚障害当事者とその家族だけでなく、医療関係者、教育関係者、福祉施設の関係者など、様々な立場の方の参加があり、多くの意見交換がなされた。  フォーラムの総括の中で日視連 竹下義樹会長は、スマートサイトとECLOの違いを“患者と障害者の違い”とし、視覚に障害のある患者が障害者と呼ばれることへの嫌悪感を抱きやすいことや支援施設を紹介しても足を運ばないことが多いことに触れたうえで、「自分は患者である」という認識の間に福祉にどう結びつけるかが重要であると述べた。そして、その役割を担う者がECLOであるとした。また、スマートサイトの価値と活性化の必要性についても触れた。  日視連の役割として、竹下会長は2つを挙げた。  1つ目は、「人材の養成」とし、日本に英国のECLOを持ち込むことは難しいとしたうえで、まずやるべきは日本国内でECLOのような能力や役割を身につけた人材を養成し、その人たちの働く場を提供していくことであると述べた。  また、2つ目として「病院との懇談の場を設けること」を挙げた。47都道府県すべてにスマートサイトを含めて、ネットワークができたことに触れ、眼科医会と当事者団体、現場で相談にあたっている人たちとの間で、各都道府県単位でECLOの良さやECLOの持っている役割によって救われている部分を皆で学ぶ場を作る必要があると述べた。  これら2つを近い将来に実現することで、医療と福祉の間にある空気も流れも大きく変わるところまでは動いていきたいと決意を語り、フォーラムを締めくくった。 【写真】フォーラムの様子 3.資料(基調報告スライド) 基調報告1:英国訪問 調査報告 医療から患者を社会参加へつなぐ架け橋 (福)日本視覚障害者団体連合 情報部 部長 吉泉豊晴 スライド1-- RNIBとは ○英国王立盲人協会(Royal National Institute of Blind People) ○英国最大の視覚障害者の当事者団体 ○職員:約2000人(2018年) ○寄付金額:108億円(2019年) ○本部:ロンドンのハリー・ポッターシリーズで有名なキングスクロス駅の近く ○対象:すべての世代の視覚障害者 ○事業:拡大文字や点字の書籍出版、Talking Books(録音図書)作成、学校経営、教育支援、就労支援、リソースセンター(福祉用具の開発・販売)、視覚障害予防、ピアサポート、ICT機器の使い方支援、電話相談等を行っている スライド2-- 1.英国訪問メンバー 令和5年 生協助成事業による助成対象者=○ 中野泰志:慶應義塾大学経済学部 教授 平塚義宗:順天堂大学医学部眼科学教室 先任准教授 日本眼科医会 理 ○宮内久絵:筑波大学人間系障害科学域 准教授 青木千帆子:筑波技術大学 特任助教 ○吉泉豊晴:日本視覚障害者団体連合 情報部 部長 ○遠藤剛:日本視覚障害者団体連合 情報部(調査担当) スライド3-- 2.訪問先および対応してくれた人々 1日目8月14日(月)Central Middlesex Hospital(London) ・病院内見学と意見交換 ・Aさん(ECLO)2022.11月より病院に勤務 ・Bさん(Locum ECLO)自宅を拠点に複数の病院を巡回している ・病院に勤務しているECLO1名、Locum ECLO5名が、チームで活動している スライド4-- 2日目8月15日(火)Scotland ECLO at RNIB Office(London) ・Cさん(Locum ECLO)との意見交換 ・スコットランドには5名のECLOがいる ・Cさんは北部の田舎を担当で、4名が南部を担当 ・ECLOの内の1名は、視覚障害のあるECLOで、盲導犬ユーザーである。晴眼者のECLOとともに活動している 3日目8月16日(水)Childrens Hospital(Birmingham) ・病院見学と意見交換 ・Dさん(ECLO)小児を専門とするECLO ・Eさん(RNIB ECLO Leadership Teamで、会計および連絡調整担当) スライド5-- 4日目8月17日(木)RNIB Office(London) ・ECLO Leadership Teamとの意見交換とLow Vision serviceの見学 ・Fさん(ECLOサービス主任、眼科医) ・Gさん(ECLO品質継続および教育担当、視能訓練士・ECLO) ・Eさん(会計および連絡調整担当) ・Hさん(ECLOのサービスマネージャー) ・Iさん(パートナーシップマネージャーおよび財務担当) スライド6-- 5日目8月18日(金)Queens Hospital(London) ・病院見学と意見交換 ・Jさん(Clinical Lead:眼科医のトップ) ・Kさん(ECLO) ・Lさん(ROVI) スライド7-- 3.ECLOとは ○Eye Care Liason Officerの略 ○眼科を拠点とし、視覚障害のある人々をサポートする 4.ECLOの種類 ○病院に勤務するECLO ○Locum ECLO ○小児を専門とするECLO 5.ECLOの人数 RNIBの雇用しているECLO:132名 NHS(国民保健サービス)に雇用されているECLO:45名 ○英国で177名のECLOが活躍している。そのうちの約50パーセントが視覚障害のあるECLOである (2023年8月現在) スライド8-- 6.ECLOの支援対象者と関わる期間 【対象者】 見えにくさで困っている全ての人とその家族やケアラー 【患者と関わる期間】 期限はない。患者に困りごとが生じた時には、いつでも支援を行う 7.ECLOの仕事 (1)エモーショナルサポート(気持ちに寄り添った支援)とプラクティカルサポート(日常生活ですぐに役立つさまざまな工夫)の提供 (2)各種サポートへつなぐ(リンクワーク) 主なつなぐ先として… ○ROVI(Rehabilitation officer for Visual Impairment) ○Habilitation Worker ○QTVI(Qualified Teacher of Children and Young People with Vision Impairment) ○ 当事者団体や患者会 ○ソーシャルワーカー などが挙げられる スライド9-- 【図表】ECLOの役割のイメージ(慶應義塾大学経済学部中野泰志教授2023) スライド10-- (3)CVI(Certificate of Vision Impairment)を登録する (=自治体に視覚障害者として登録)ことのメリットの説明  税額控除やブルーバッチ(駐車場)、公共交通機関の割引、シネマパス、障害者給付金などの説明を対面もしくは電話で説明する (4)CVI登録に係る事務作業の補助  勤務形態や所属している病院によって異なるが、CVIの記入の手伝いやCVI登録作業を手伝う CVIは、Part1〜Part4の4つのパートに分かれている Part1 患者の詳細な情報、障害の分類 Part2 視力や視野の結果、原因疾患 Part3 重複障害や社会的側面 Part4 GP(家庭医)、行政、眼科医会と情報共有することへの承諾 Part3Part4は、ECLO等の医療従事者や医療事務が記入することもできる スライド11-- (5)自分たちの存在を知らせるための努力 ○病院の医師や医療従事者等に対して ・拠点病院の眼科医や医療従事者に対して、自分の存在や役割をしっかり伝える ・日頃からコミュニケーションを取るようにして、病院に溶け込む ・院内カンファレンスへの参加 ・眼科医や医療従事者に向けて、ファンクショナルビジョン(見えにくさが日常生活に与える影響)についての理解を深めるためのプレゼンテーションの実施 ・かかりつけ医(GP)や地域の眼科クリニック、オプトメトリスト(検眼士、検眼医)にポスターや名刺等を配ってPRする ○地域に住む人たちや患者さんに対して ・ローカルラジオに出演して、ECLOの存在をPRする ・新聞に寄稿して、ECLOの仕事を多くの人に知ってもらう ・患者さんにいつでもどんな時でも電話をしてくださいと、伝えて名刺を渡す 【写真】ECLOのPRポスターとECLOの名刺 スライド12-- 事例紹介 【ケース1】高齢者、女性、黄斑変性、重度視覚障害  最初の所見で聞いた彼女の1つ目の問題は、テレビのリモコンがうまく使えないこと。そして、2つ目の問題は、毎日野菜スープをつくるということを日課にしていたが見えにくくなってしまったために、包丁で野菜を切ることができなくなってしまったということだった。  彼女が住む地域のROVIのウェイティングタイムは、比較的短い地域だったので、患者にに連絡していいか許可をとって、ROVIに来てもらった。ROVIのアドバイスによって、1つ目の問題は、文字が拡大されているシンプルなリモコンに変えること。2つ目の問題は、キッチンで使いやすい道具、視覚障害者も利用しやすいものに変えることで解消した。 【ケース2】男性、脳卒中、半盲  脳卒中によって視野障害だけでなく、歩行障害を抱えていた患者で、半分見えていたためにCVIの判定では軽い方に分類されていた。そのため、障害者が優先して駐車ができるブルーパーキングには、駐車することができなかった。このことで彼の奥さんは、病院に送るときに困っていた。  彼の自治体に連絡したが、ブルーバッチを発行することを拒んだ。そこで、脳卒中を専門にする看護師と斜視訓練をする視能訓練士に連絡した。私とその2人とでタッグを組んで、彼が抱えている困難さをレポートにして、自治体に提出した。その結果、ブルーバッチが必要だということを自治体に認めてもらうことができた。 スライド13-- 8.ECLOをめぐる歴史的な背景 1994年 イングランドではじめてのRNIB ECLOが誕生 EUが資金を提供した、実験的な取り組みだった 〜1990年代 RNIB ECLOの特別なトレーニング(眼科クリニックサポート研修コース)開発 2000年 「Patient Talking」と呼ばれる研究を受託 眼科クリニックを受診した患者の経験がまとめられている 2007年 9名のECLOを雇用するが、1年ごとの更新契約で、雇用を守るため必死 2008年 Vision 2020 UK Ltdが提案した「英国視覚戦略(UK Vision Strategy)」が開始 2011年 「英国視覚戦略(UK Vision Strategy)」の構成要素の1つである「Seeing it my way」は、1000人を超える当事者との協議を経てつくられた 2013年 2018年をカバーするため「英国視覚戦略(UK Vision Strategy)」を更新した「英国視覚戦略(UK Vision Strategy)2013-2018」がスタートする 2014年 「ECLO Quality Framework and Practice Guidelines(ECLOのサービスの質を確保するための枠組みと実践のためのガイドライン)」を策定 2016年 36名のECLOを雇用(1年ごとの更新契約に変わりないが、人数が増えた) 2017年 各地域ごとに採用されていたECLOをつのチームにまとめ、英国全土をカバーするECLOサービスを開始した 英国のECLOに関する主な流れ(RNIB ECLO Leadership Team Stevie 2023) スライド14-- Seeing it my way(自分のやり方で見る)  英国の目の健康と視覚障害に関連するすべての問題に対する統一的な行動計画を定める「英国ビジョン戦略(UK Vision Strategy)」の構成要素の1つである「Seeing it my way」は、1000人を超える当事者との協議を経て、2011年につくられた。 Seeing it my wayでは、10項目のアウトカム(成果)を掲げており、これらを実現することが最終的なゴールとしている。 【10項目のアウトカム(成果)】 @私の目の状態と登録の過程を理解する A誰か話す人がいる B私は自分、自分の健康、自分の家、自分の家族を世話することができる C私は必要なベネフィット、情報とサポートを受けることができる D私は自分のもっている視覚を最大限活用できる Eテクノロジーを最大限活用して、情報にアクセスできる F外出し、あちこち歩くことができる Gコミュニケートするツールと、技術と、自信を持っている H私には教育と生涯学習への平等なアクセスがある I私は仕事とボランティアもすることができる スライド15-- RNIB ECLO Quality Framework and Practice guidelines (ECLOのサービスの質を確保するための枠組みと実践のためのガイドライン) ○2014年に英国のNHSが財源を出して行った事業の一環で作成 ○ECLOが行っていることは何なのかを当時の法律に基づきながら調査し、作成した枠組みで、全てのECLOがこのフレームワークに基いて活動している ○2019年に改訂し、現在は第2版にあたる ○第2版は、英国王立眼科学会が監修 ○第2版を発表する際には、英国眼科同盟にも協力してもらった ○ECLOの業務評価にもフレームワークが使用されており、1年目のECLOがこの枠組みに沿って業務をこなしているかどうか評価する基準になる スライド16-- 9.一人のECLOが一人前になるまでの支援 (1)ロンドン大学シティー校における養成研修 「眼科クリニック・サポート研修コース(ECLOになるために実施する研修)」 ○4日間にわたり行われる ○研修内容はRNIBが開発、ロンドン大学シティー校が認定している ○英国王立眼科学会、英国眼科同盟の認定を受けている ○小児を専門とするECLOは、この研修コースの中で、2時間45分の小児専門のモジュール(授業)を別に受講する (2)シャドーイング ○新人ECLOは、しばらくの間、先輩ECLOと一緒に業務を行い、先輩ECLOから仕事を学ぶ ○シャドーイングの期間は決まっていない。 本人の自信がついたところで修了となる スライド17-- 【図表】ECLOの支援体制(慶應義塾大学 経済学部 中野泰志教授2023) スライド18-- 10.RNIBが行うECLOへの支援 (1)スーパーバイザー(サービスマネージャー) ○ECLOは、それぞれチームに所属している ○チームのリーダーとして、サービスマネージャーが各ECLOの管理をしている ○英国全土で14名のサービスマネージャーがいる(2023年8月現在) ○サービスマネージャーが、ECLOのスーパーバイザーとしての役割を担っており、の話を聴いてくれるだけでなく、ECLOが仕事しやすい環境を整えている サービスマネージャーが出来た背景  ECLOは、かつて地域レベルで提供していた。そのため、サービスや雇用形態などが全国で統一されていなかった。RNIBの調査により、有償のECLOのほうが無料ボランティアで働くECLOと比較して質の高い支援を行っていたことから、英国全土のECLOサービスを統一することになった。この統一したサービスを維持・管理するために、サービスマネージャーが誕生し、指揮をとることになった。サービスマネージャーがいなかった頃と比較すると、サービスの質が向上し、全国でどこでも同じようなサービスが受けられるようになった スライド19-- (2)クリニカルスーパーバイザー ○患者が非常につらい状態に直面してしまった場合に、ECLOもつらい気持ちになり影響を受けることがある。そんな時には、RNIBに所属しているクリニカルスーパーバイザーと呼ばれる心理系資格をもったカウンセラーが話を聴いてくれる。 ○サービスマネージャーによるスーパーバイサーとは、異なる ○守秘義務があるため、話が外に漏れることはない ○私生活でのストレスや相談したいことがあったら、いつでも電話で話を聴いてくれる (3)ECLOを支える専門家 ○RNIBには、さまざまな分野の専門家チームがあり、ECLOが困った時には相談できる @Eye Health Information Team(医学的な知識の相談) AChildren Young People and Families Team(育児や教育など子どもの相談) BEmployment Team(雇用・就労に関する相談)等 ○ECLOが患者と面談し、緊急性をともなう(自殺願望、ネグレクトなど)がみられる場合には、すぐにRNIBの専門家チームに連絡するような体制がとられている。連絡後は、担当したECLOは身を引いて、RNIBの専門家が引き継ぐ スライド20-- (4)View Point(データベース) ○RNIBが独自に開発したWebベースのデータベース ○氏名、住所、連絡先、患者の視力や視野などの情報、CVIの認定日、障害程度や重複障害の有無などの情報等の基本情報が記録されている ○ECLOとの面談から分かった、次の情報も記録されている @誰からECLOに紹介されたか A面談内容の詳細 B面談の結果(次の行動、患者と話し合って決めた内容など) C面談時に渡したパンフレットの種類 ○View Pointは、担当するECLOやRNIB関係者が閲覧できる ○RNIB関係者が常にView Pointを確認して、自殺願望などのリスクが高い患者の把握に努めている スライド21-- (5)ECLOへの情報提供と他のECLOとの交流 ○隔月にオンラインで、情報共有の場が提供されている。そこでは、新しいサービスやテクノロジー、助成金など、最新情報を共有することができる ○各チームレベルで月に1度のミーティングにおいて、ピアサポート(サービスマネージャーがスーパーバイザーとしてECLOの話を聴く)をするとともに、新しい情報の共有や仕事上での話をECLO同士で、対面で話すことができる ○ECLOのメーリングリスト(RNIBが運営)において、ECLOが疑問に思ったことを投稿することができる。RNIB側から回答を得ることができ、業務に役立てることができるだけでなく、スキルアップにもつながっている スライド22-- 11.RNIBが行うECLOの業務評価 (1)ECLOの業務を評価する仕組み(ECLOサービスの評価)  RNIBでは、ECLOをサポートするとともに、ECLOの業務の品質と向上を目的として、ECLOサービスの評価をしている @PEQ(Patient Experience Questionnaire:患者体験アンケート) ○ECLOのサポートを受けた患者を対象に行う電話での聞き取り調査 ○サポートを受けた6週間後にRNIBから患者に電話があり、ECLOが提供した支援ができているか、担当したECLOの支援の感想とその評価を聞き取る ACEQ(Clinician Experience Questionnaire:医療従事者体験アンケート) ○ECLO自身が病院の同僚らにアンケートを送り、アンケートの回答を担当するサービスマネージャーが受け取ることで評価する(回答の内容はECLOには知らされない) ○ECLOがいることに病院内でメリットがあったか(時間の節約を含む)、患者をどのようにECLOに紹介したか等をアンケートで評価する ○アンケートは年に1度実施されている スライド23-- 12.RNIBにおけるECLOの年間予算 (1)ECLOの予算総額 ○ECLOの運営をしていく予算 年間 約500万ポンド(約9億200万円) (内訳) 政府からの補助金も含めた収入:220万ポンド(約3億9700万) RNIBのECLOにかかる年間支出が:280万ポンド(約5億500万円) (2)ECLOの人件費の支出 ○医療機関にECLOが雇われた場合には、初年度の人件費はRNIBが全額負担する。2年目以降は、医療機関とRNIBが折半しており、ECLOの評価により、その割合は変化する (例) 1年目 RNIB 100パーセント負担 2年目 RNIB 80パーセント負担 / 医療機関 20パーセント負担 3年目 RNIB 50パーセント負担 / 医療機関 50パーセント負担 スライド24-- 13.ECLOに向いている人(求められること) 1 共感できる 2 思いやりがある 3 時間がある 4 辛抱強い 5 傾聴のスキルを持っている 6 眼科医に対してひるまずに話(交渉)ができる 「ECLOは、視覚障害の有無に関わらずできる仕事である」 スライド25-- 4.ラストクエスチョン ○Aさん  ECLOの仕事は給与以上に価値のある仕事だと思っています。ECLOは、最前線で患者さんの支援をする特殊な職業です。患者さんやソーシャルワーカー、眼科医から連絡がくる現場の最前線に立って、働いているので患者さんの役に立っていることを実感しています。私たちが実際やっているのは、患者の人生をちょっと幸せにするお手伝いです。 ○Bさん  支援が必要な人たちにアセスメントをして、必要な時にすぐに支援が入るのはすごく大事なことだと思っているので、この仕事をしていることは、すごく意味のあることだと思っています。RNIBの支援体制は充実していますし、移動するときの交通費もすべてRNIBが負担してくれるので、働きやすい環境というのも整っています。 ○Cさん  ECLOの仕事をしていて幸せです。1日が終わった後に達成感があります。患者さんの人生を少しでも良くしたという実感があるので、ECLO以外にやりたいという仕事に出会えていません。 ○Dさん  ECLOの仕事に100%満足しています。まだ、自分の足跡をほとんど残せていませんが、ECLOの仕事をとても楽しんでいますし、大変気に入っています。 ○Kさん  RNIBは非常にいい雇用主だと思っています。私たちのサポートもしてくれますし、視覚障害がある中でこの役割ができることは素晴らしいことだと思います。かつて、自分が診断を受けたときには、いろんなことが出来なくなるような話をされたのですが、今、こうして仕事をすることができるということは、すごく幸せです。 基調報告2:現地調査から見えた英国の取り組みー医療とのつながりー 順天堂大学眼科学教室 平塚義宗 スライド1-- 【写真】調査メンバーとの記念撮影 スライド2-- 本日のお話 ECLOと眼科のつながりにおける ・ECLOの実際 ・ECLOの現実 【写真】ホワイトボードにカタカナで書かれた「ウエルカム」の文字 スライド3-- ECLOの実際 1. 医療と福祉をつなぐ役割 (practical support) ・Certificate of Vision Impairment (CVI)の記入  ・最終的なサインは医師が行う ・自治体サービスへの橋渡し  ・Rehabilitation Officer Visual Impairment (ROVI)への紹介 ・ちょっとした工夫・アドバイス  ・「野菜が切れなくて困ってるのなら、カット野菜があります」  ・「TVリモコンのボタン間違うなら、ボタンの大きいのがあります」 2. 患者の感情サポート (emotional support) スライド4-- Emotional support (感情サポート) ・感情的になりがちな、受容の悲しみの過程を手助けする役割  ・あくまでlow levelのサポート   ・話を聞いてあげて、こんな支援がありますよ   ・Be friendly service  ・カウンセリングは決して行わない ・担当医:時間をかけてサポートすることは困難 ・困っている人に対してインパクトを与える、やりがいのある(rewarding)専門職として捉えられている スライド5-- ECLOの現実 (眼科との関わり) ・導入当初は、眼科医はその存在に懐疑的だったが… ・ECLOのサービスが拡大することで、眼科医が不得意な業務を自律的に進めてくれるECLOの存在が手放せなくなり、導入が進んでいる ・NHS*上位100の有力トラストのうち82%にECLOが在籍 *UKの医療サービスはNational health service(NHS)トラストや財団トラストなどを通じて提供される ・「5年前は半分以下、今は85%程度ではないか、学会などで紹介もあり増えてきている印象」Dr Ayman Khaier (Queens Hospital) スライド6-- ECLOの現実 (眼科との関わり) ・限られた眼科スペースの中でのECLO駐在場所 ・*耳鼻科受付の奥に一時的に借りた小さなスペース  ・Central Middlesex Hospital, London ・**病院の廊下をパーテーションで仕切った狭い空間  ・Queens Hospital, London スライド7-- CVI(眼科医の書くこと) ・視覚障害の程度(partially sightedかblindかの2択) ・冊子“Sight Loss: What we needed to know”の存在を知らせたか(yes/no) ・ECLOに会ったか ・矯正視力(左右と両眼) ・視野広範な周辺視野障害あるか(yes/no) ・ロービジョンサービスへの紹介したか ・病名(ICD10)チェック ・最終的なSignature スライド8-- CVI(それ以外の項目) ・地方自治体が必要な情報  ・一人暮らし、支援者の有無  ・身体活動能力、難聴、学習障害、痴呆の有無  ・雇用、在学中の有無… ・情報を家庭医、行政、眼科学会*と共有することの承諾  ・Copyの送付  ・5カ所   ・本人、病院(NHS)、GP、学会、自治体 【写真】Moorfields Eye Hospital スライド9-- ECLOに向いている人(求められること) 1.共感できる 2.思いやりがある 3.時間がある 4.辛抱強い 5.傾聴スキルを持っている 6.眼科医に対してひるまずに話(交渉)ができる スライド10-- ECLO何人必要? 眼科医数 イギリス 3200人  日本 13911人 眼科医数/100万pop イギリス 49人  日本 109人 人口 イギリス 6733万人  日本 1243万人 オプトメトリスト イギリス 14000人  日本 0人 視能訓練士 イギリス 1500人  日本 19000人 ECLO イギリス 120人  日本 ?人 スライド10-- まとめ ・ECLOの実際  ・Practical supportだけでなく、Emotional supportがポイント ・ECLOの現実  ・導入は進んできているが、都市部では駐在場所確保が困難 基調報告3:眼科からはじまる社会参加への道しるべ:英国の取り組みから考えるフォーラム 宮内久絵(筑波大学)hmiyauch@human.tsukuba.ac.jp 【専門】 視覚障害教育、インクルーシブ教育 【イギリスとの接点】 これまでに訪問した公文書館・資料室 ロンドン:@大英図書館A国立公文書館B王立盲人協会Cロンドン大学図書館 ブライトン:Dブライトン市立公文書館Eブライトン盲人協会資料室 バーミンガム:Fバーミンガム市立図書館Gバーミンガム大学視覚障害教育研究センター マンチェスター:Hヘンシャー盲人協会資料室I王立盲人協会(マンチェスター支部) ニューカッスル・アポン・タイン:Jニューカッスル市立公文書館 イギリス視覚障害教育史 イギリスにおける大規模寄宿制盲学校の実現とインテグレーションへの胎動ー1930年代から1980年代初頭を中心に スライド1-- QTVIとは ECLOと教育との接点 教育の観点から見たイギリスのECLOの意義 スライド2-- イギリスの視覚障害児童生徒を取り巻く環境ー日本との比較から 日本 教育の場: 1.通常の学校 2.弱視学級 3.通級による指導 4.視覚特別支援学校(盲学校) 視覚障害教育の専門家:特別支援学校教諭 専門家の拠点:視覚特別支援学校(盲学校) 支援対象となる年齢:0〜60歳+ イギリス 教育の場: 1.通常の学校 2.特別ユニット付き通常の学校 3.視覚特別支援学校(盲学校) 視覚障害教育の専門家:Qualified Teacher of students with visual impairment (QTVI) 専門家の拠点:地方教育当局教育センター(sensory Centre) 支援対象となる年齢:0〜25歳 イギリスにおける152の地方当局(Local Authority) スライド3-- 【写真】英国のインクルーシブ教育の様子。 板書しながら読み上げる担任 小規模クラス、柔軟な時間割 障害について理解のあるクラスメイト 視覚障害児の隣には、QUVI 視覚障害児の手元には触察教材 視覚障害児自身の力(アクセス・スキル) スライド4-- イギリスのインクルーシブ教育を支える要素 1.視覚障害教育専門資格を有する専門家(QTVI)が必ず支援に携わること ≪人≫≪お金≫ 2.全盲児童生徒には補助員(TA)が必ず付くこと ≪人≫≪お金≫ 3.通常の学校の学級担任やクラスメイトも視覚障害について一定の理解があること ≪人≫≪お金≫ 4.少人数制、柔軟な学級運営、時間割、カリキュラム ≪物・空間≫≪お金≫ 5.インクルーシブな教材教具、指導法の採用(例:対話を主体とした、板書は最低限の授業など) ≪物・空間≫≪お金≫ 6.視覚障害児童生徒自身のアクセス・スキル スライド5-- 視覚障害児童生徒が見える子どもと同等の学びを得るために必要な2つのアクセス・スキル(McLinden et al., 2016) 「学習へのアクセス(access to learning)」の提供 視覚障害児童生徒が平等に、また最大限に教育・カリキュラムにアクセスできるよう環境を整えること 例:学級環境の調整、点字・拡大資料、模型等の教材教具の提供、インクルーシブな授業の導入、学級担任等を対象とした視覚障害に関する研修会の実施など 子どもの自立して学習できるレベル(低) 子どもの年齢・発達レベル(低) 「アクセスのための学習(learning to access)」の指導 視覚障害児童生徒が教育・カリキュラムに自立して参加できるように、彼らに必要となる知識やスキルを指導すること 例:視点字の読み書き、白杖をつかった単独歩行、弱視レンズの使い方、触察スキル 子どもの自立して学習できるレベル(高) 子どもの年齢・発達レベル(高) ●意思の疎通ができる ●机に座ることができる ●指先に集中できる、指の分化や統制ができる ●好奇心があり、何でも触れられる指をもっている ●適切な自己理解・セルフコンセプトを有している McLinden et al.,(2023)、P38より抜粋。翻訳。 スライド6-- 教育の観点からみたECLOの意義 ・視覚障害教育やハビリテーションなどの専門家が早期から介入できる(@自宅で) ・保護者による視覚障害に対する理解と、子どもの発達を促すための環境づくりが可能 【写真】おもちゃに手を伸ばす赤ちゃん スライド7-- イギリスの事例 事例@ロンドン・バーミンガム 状況:病院にて視覚障害と診断された乳幼児とその保護者がECLOを訪ねてくる ECLOの対応:即、同伴する両親の心に寄り添った支援を実施。以下の組織につなぐ。 RNIBのチャイルド・ヤング・ファミリーチーム:同じ状況に置かれた家族同士が情報交換できる場を紹介 ROVI:ROVIによる家庭への支援を開始。家庭で全盲の乳児が安心して自由に遊びまわれる環境を両親とともに構築 QTVI:教育の観点から家庭環境・子育てのヒントなどを聞けるよう環境を整える スライド8-- 事例A資源が限られる地域(ルーラル・スコットランド)の例 状況:アイルランドの9か月の全盲の乳児の母親からECLOに相談がくる。母親は何をしていいのか、どのように乳児と関わったらよいのかわからず、情報もなく困り果てていた。 ECLOの対応:5歳からであれば地域の視覚障害教育センターにつなぐことができることを理解していた。しかし、5歳前である。母親の心に寄り添いながら、母親の困り感を理解し、地域で担当しているROVI自身、全盲で子育て経験をした当事者であったため、相談役としてROVIを紹介。その他、全国組織RNIBが有しているサービスなどにつなげる。 https://www.rnib.org.uk/nations/scotland/children-young-people-and-families-in-scotland/ --5.第4章 視覚障害リンクワーカーの手引き ≪視覚障害リンクワーカーの手引き≫ 1 はじめに  医療機関において、視覚障害になる可能性の告知を受けた患者は精神的に大きく落胆してしまい、引きこもりや精神疾患を発症するケースが少なくありません。また、最悪のケースでは、自殺に追い込まれることもあります(山田・小野,1989)。こうした事態を回避する上で、できるだけ早期に、患者の気持ちに寄り添いながら適切なタイミングで情報提供を行うとともに支援機関への橋渡しをする専門家が有効であると考えられます。  障害の告知後、できるだけ早期に介入するための先駆的な取り組みは、長年、様々な地域で、草の根的に行われてきました。近年では、病院内から早期介入を行うための取り組みがシステム化されてきており、スマートサイト(※1)や中間型アウトリーチ(※2)、個人や当事者団体による支援などの取り組みが精力的に行われています。こうした支援の成果もあり、多くの中途視覚障害者が社会復帰を果たしています。しかしながら、日本視覚障害者団体連合(以下、日視連)が実施した調査(日視連,2016;日視連,2017;三宅・中野ら,2018;橋井・中野ら,2018)では、視覚障害を受障してから日常生活や社会生活に必要な福祉の情報を得るまでの間に、5年以上の時間がかかっているケースが少なくないこともわかっています。その背景には、患者の揺れ動く気持ちに寄り添うような支援が十分にないことや、適切なタイミングで患者が必要とする情報や支援機関につなぐような人材の不足が挙げられます。視覚障害になる可能性の告知を受けた患者が早期から適切な支援が受けられるよう、既存のリンクワークに関する日本の支援体制をさらに強化していくような取り組みが求められます。  それを進めるためには、患者本人を主体として考えながら橋渡しをする専門家が必要です。この橋渡しを担う専門家をここでは、視覚障害リンクワーカーといいます。  英国では、1990年代から眼科病院を拠点として、早い段階から患者とその家族らに寄り添いながら支援を行うとともに、福祉・教育・就労等の社会資源(リソース)へ橋渡しを担う専門家であるECLO(Eye Clinic Liaison Officer)のシステムが確立されています。ECLOとは、英国の視覚障害者の当事者団体であるRNIB(The Royal National Institute of Blind People:英国王立盲人協会)が主催する研修を受け、ロンドン大学シティ校が認定した専門家であり、2023年8月の時点で177名がECLOとして活躍しています。また、そのうち、約半数が視覚障害になる可能性を告知された経験を有する視覚障害当事者である点も注目に値します。ECLOとなるための研修を受けた者が、障害の有無にかかわらず、視覚障害になる可能性の告知を受けた患者の早期支援・社会復帰に重要な役割を担っているのです。  日視連の調査(吉泉・中野ら,2022)で、日本においても、ECLOと同様の機能を果たす先駆的な実践が草の根的に行われていることがわかっています。各地域などで提供されているサービスの質は高いものの、日本全国で実施されているわけではありません。また、これらのサービスは、担当者個人の類い希な熱意、知識・技術、努力に支えられています。各地で実施されている早期支援に関する質の高い実践を全国的に提供していくためには、まず各地からノウハウを集約し、整理する必要があります。そこで、本手引きを作成することにしました。この手引きは、患者を必要なリソースにつなぐ専門家(視覚障害リンクワーカー)を増やすことと視覚障害リンクワーカーの支援の質を保つことを目的に作成しました。既にリンクワークを実践されている方々やこれから視覚障害リンクワーカーになる方々、医療機関および支援機関の方々に向けて取りまとめました。なお、この手引きを作成するにあたっては、英国のECLOのシステムおよびガイドライン(ECLO Quality Framework and Practice Guidelines)を参考にしました。 (※1)スマートサイト:ロービジョンケア関連施設やロービジョンについての情報が掲載された啓発用リーフレットを医師が必要とする患者に提供することを指します。また、リーフレットそのものを指すこともあります。2005年にアメリカ眼科学会が、連携の入り口を担うべきすべての眼科医が容易にその役割を果たせるように開始したのがスマートサイトのはじまりで、日本においては2010年に兵庫県版スマートサイト「つばさ」が作られ、2021年5月をもって47都道府県全てでスマートサイトが運用されています。スマートサイトには、地域のロービジョンクリニック、情報提供施設、盲学校・視覚特別支援学校、障害者自立支援センター、当事者団体・患者会、訓練施設等に関する情報が掲載されています。 スマートサイト関連情報 https://www.gankaikai.or.jp/info/detail/SmartSight.html (日本眼科医会ホームページ内) (※2)中間型アウトリーチ:支援者が眼科等視覚障害者と接点がある場所に出向いて、相談支援や情報提供を行うことです。従来型アウトリーチでは、支援者が視覚障害者の自宅を訪問して支援を行いますが、中間型アウトリーチでは日常よく訪れる場所で行うことができるので、困り感を感じていない、感じにくい状況にある場合には、気軽に相談支援や情報提供を受けることができます。 2 この手引きの目的  この手引きの目的は、視覚障害リンクワーカーが、患者本人を主体としながら、患者にとって適切な場所とタイミングで必要なリソース(各種の情報、様々な専門機関やサービス等)を提供する等のサポートをする役割を果たすことができるようにすることです。日本における既存のリンクワークに関する実践と英国のECLOのシステムおよびガイドライン(ECLO Quality Framework and Practice Guidelines)に基づいて作成しました。以下に手引きの主な目標を示します。 【目標1】 視覚障害リンクワーカーの役割に関する共通の枠組みを明らかにする 【目標2】 視覚障害リンクワーカーの適切な養成に資するため、その養成・研修を実施する上で指針となるポイントを提示する 【目標3】 視覚障害リンクワーカーの実践的取り組みをワーカー自身または患者本人や医療従事者が評価するための基準を示し、更なる支援の質の向上につなげる 【目標4】 視覚障害リンクワーカーが果たす役割について広く理解してもらうための参考資料とする。その対象は、患者やその家族、医療従事者、福祉・教育・就労等の各種支援機関の関係者等とする 3 視覚障害リンクワーカーの役割 1)気持ちに寄り添うサポート(エモーショナルサポート)  患者中心の精神に基づき、患者やその家族を対象として、傾聴・共感・承認等を行いつつ、その時々の感情や気持ちなどに共感的に寄り添います。 2)すぐに役立つサポート(プラクティカルサポート)  生活の質を保つための実用的な情報やアドバイス等を行い、患者が安心して日常を送るためのサポートをするとともに、必要なリソースを患者と一緒に確認します。  すぐに役立つサポート(プラクティカルサポート)は、気持ちの整理につながることがあるため、気持ちに寄り添ったサポート(エモーショナルサポート)と一体的に行うことが望まれます。 3)リンクワーク  患者のニーズに基づいて、患者やその家族を福祉・教育・就労等の各種支援機関に橋渡しすることに徹します。また、精神的な支援が必要な場合には、精神科医、公認心理師、臨床心理士などの専門家に患者を紹介します。 4)患者の意思決定支援  患者が、自分自身の利益や欲求、意思、権利を自ら主張できるようにサポートすることを重視しつつ、なんらかの理由で自身の権利を行使するのが困難な状況にある場合、その声を届けられるよう、また、権利が守られるようサポートします。 5)早期相談支援の意義に関する関係者への理解促進  患者が早期に視覚障害リンクワーカーにつながることができるよう、医療従事者に対して理解促進のための広報活動を行います。また、リンク先である各種支援機関などに対しても同様に広報を行い、密接に連携できるようにします。さらに、すべての国民に対して、リンクワークの必要性や障害の社会モデル・人権モデルの視点を普及する役割を果たします。 4 視覚障害リンクワーカーの活動 1)気持ちに寄り添うサポート(エモーショナルサポート)  患者の立場になって共感しながら、患者の話に耳を傾けることで、気持ちの整理につなげるための支援のことです。  このサポートは、精神科医、公認心理師、臨床心理士等の有資格者が行うような心理療法やカウンセリングではありません。そのため心理学系の資格を保有していることが条件とはなりませんが、視覚障害リンクワーカーは対人援助の場面において基本となるコミュニケーションを円滑にするための技法、心構えなどを事前に体得する必要があります。  なお、視覚障害リンクワーカーは、患者に自殺願望やセルフネグレクト等の兆候が見受けられる場合には、精神科医、公認心理師、臨床心理士などの専門家に患者をつなげる必要があります。  患者は同じ経験を持つ人の話を聞くことで気持ちの整理につながることがあります。そのため視覚障害のある視覚障害リンクワーカーが自らの経験を活かして、エモーショナルサポートにあたることは意味があります。ただし、自分の経験、体験、考え方などを強要することで、患者を追い込んでしまう場合もありますので、視覚障害当事者であっても、研修は必要不可欠です。 2)すぐに役立つサポート(プラクティカルサポート)  日常生活を送る上での困りごとを解消するためのちょっとした工夫を提供することです。シールを貼って物を区別したり、お湯をわかすために電子レンジを使うといった簡単な工夫によって、特別な支援を受けなくても、簡単に解決することがあります。  視覚障害リンクワーカーが、患者の日常生活を送る上での困りごとを聞き取り、プラクティカルな(実用的な)ちょっとした工夫を提供することはとても重要です。このサポートによって、患者は困難さを少しずつ解消し、それにつれて患者の気持ちも安定してきます。 3)情報収集・提供・紹介 (1)情報の把握  視覚障害リンクワーカーは、常に患者を中心に考え、患者の意向を尊重しながら、適切な時期に患者が必要とする正しい情報を提供したり、支援先へうまくつなげることが求められます。  そのために視覚障害リンクワーカーは、患者に活用できる福祉制度等の情報や既存の地域のリソース、各支援機関が提供しているサービスなどについて、十分把握し、関係づくりをしておく必要があります。 (2)ディレクトリー(アドレス帳)の作成  視覚障害リンクワーカーは、知り得る限りの地域のリソースや、各支援機関が提供しているサービス、その担当者および福祉制度を利用するための具体的な手順などを記録したディレクトリーを作成する必要があります。視覚障害リンクワーカーは、このディレクトリーを活用しながら、患者の支援にあたります。  また、ディレクトリーは、活動を通して把握した情報を追加し、絶えず更新していくことが大切です。そうすることで患者を確実に最適な支援につなげることができるとともに地域のネットワークを構築する上でも役立ちます。 (3)勉強会・研修会への参加とネットワークの構築・強化  視覚障害リンクワーカーは、福祉・教育・就労分野だけでなく、眼科などの医療分野を始め関連すると考えられる様々な勉強会や研修会に積極的に参加し、自己研鑽することが求められます。視覚障害リンクワーカーが勉強会や研修会に参加し、参加者との交流することは、新たなネットワークを構築するとともにネットワークを強化するのに役立ちます。 4)患者の意思決定支援  患者が社会生活を送る上で自己決定は必要不可欠ですが、精神的に不安定だったり、自信が持てなかったりなどの理由で患者が自らの意思を表し、それを行動に移すことが難しい場合があります。このような場合に視覚障害リンクワーカーは、患者の自己選択・自己決定を後押しするような情報を提供し、必要に応じて患者の意思表明を手助けします。その際、あくまでも患者主体であることを念頭におく必要があります。 (1)診察に同席し、眼科医と情報交換や情報提供を行う  患者や家族が精神的に不安定な時には、医師の説明を正しく理解することが難しく、話をそのまま聞き流してしまうこともあります。  このような場合を想定し、視覚障害リンクワーカーは可能であれば診察に同席し、医師の説明を平易な言葉で患者に伝えます。患者が疑問に思っていることや不安を感じていることを聞き取り、整理し、患者が医師の説明を理解したり、医師に確認したりする手助けをします。 (2)自己決定プロセスのサポート  視覚障害リンクワーカーは、患者が生活を維持するのに必要な各種福祉制度を利用するための情報を提供し、患者の自己決定を後押しします。また、申請手続きの際に同席し、必要に応じて書類の書き方を助言することもあります。 (3)教育・就労支援機関との面談に同席し、適切な支援を受けられるよう後押しする  患者がそのライフステージに応じて教育や就労等の支援を必要とする場合、視覚障害リンクワーカーは、予め支援制度に関する情報を提供し、患者やその家族の意思決定を後押しします。また、患者やその家族の求めに応じて支援機関との面談に同席し、支援機関の担当者の説明について患者や家族が疑問に思っていることや不安を感じていることを聞き取ります。それらを整理することで、患者や家族が支援制度を理解する手助けをします。これにより、適切な支援を受けることができるようになります。 (4)院内の安全対策および案内表示等の改善  患者が通院または入院している際の院内での移動の安全確保や部屋の入口などの位置をわかりやすくするといった、患者のニーズに応じた対策を医療機関に提案します。 5)患者のニーズの把握(ニーズ・アセスメント)  視覚障害リンクワーカーは、患者が明日への希望を持って社会参加をするために、患者や家族がどのようなことに困っていて、どのような支援や情報を求めているのかなどのニーズを丁寧に聞き取ります。ニーズを聞き取る際には、日常生活や社会生活、居住環境、教育・就労の状況、生計、日中活動・仲間づくり・社会参加等、幅広く聞き取ることが必要です。  視覚障害リンクワーカーは、患者の自己決定・意思決定を重視しながら、この聞き取ったニーズに基づいて、目標とするゴールを定めます。また、患者や家族と一緒に優先順位をつけて、アクションプランを策定します。このアクションプランは、必要に応じて専門家にも相談しながら作っていきます。 6)支援機関への紹介およびネットワークの構築、個人情報の保護  視覚障害リンクワーカーは、聞き取った患者のニーズを基に、福祉・教育・就労などと連携するわけですが、その際、個人情報の保護に留意する必要があります。日本では、医療機関と福祉・教育などの関連機関との間で個人情報をやり取りするためには、個人の同意が必要不可欠です。そのため、患者やその家族に関する個人情報を関連機関とやり取りする際には、個人情報保護法に基づいたルールづくりが必要です。例えば、患者の同意に基づいて機関間で個人情報保護に関する契約を結んだり、患者を介して個人情報をやり取りするために日本ロービジョン学会が発行しているロービジョン連携手帳を使用するなどの配慮を行う必要があります。  そのほかにも視覚障害リンクワーカーは、ロービジョンネットワーク等の既存のネットワークを活用しながら、日常的に医療機関や各支援機関とコミュニケーションを図ります。これにより一層の連携が期待できます。 7)障害者手帳、障害年金、就労支援、特別支援教育などに関すること  視覚障害リンクワーカーは、福祉手当や補装具・日常生活用具を受けるための基盤となる障害者手帳、同行援護や居宅介護を受けるための障害認定および障害年金などの福祉制度、就労移行支援や障害雇用率等の障害者就労に纏わる制度、障害のある子どもの学びの場に関する特別支援教育制度などをライフステージに応じて説明するとともにこれらを利用するメリットを説明します。そのために視覚障害リンクワーカーは、各種福祉制度とその制度上の注意点(障害福祉サービスと介護保険サービスとの関係等)を理解している必要があります。なお、これらの手続きは、より専門的な知識が必要となるので、医師や視能訓練士、相談支援専門員、社会福祉士、歩行訓練士、社会保険労務士、ジョブコーチ、障害者職業カウンセラー、特別支援教育コーディネーターなどと連携をしながら丁寧に進めていきます。 8)フォローアップ  視覚障害リンクワーカーは、情報提供や支援先につなげて終わりではなく、患者や家族が話したいことがある場合には、いつでも対応します。また、患者の意思を尊重し策定したアクションプランを基に進捗状況を確認するとともに患者のフォローアップをします。このフォローアップは1年以内に行うことが望ましく、患者がフォローアップを求めない場合には無理に行ないません。あくまで患者の意思を尊重します。 9)活動記録の共有  「6)支援機関への紹介およびネットワークの構築、個人情報の保護」にあることに留意しながら、医療機関、視覚障害リンクワーカー、支援機関の3者間で情報共有を行うことが重要です。  3者が患者の情報を共有するためには2つの方法が考えられます。1つは、患者の同意を得た上で、個人情報保護に関する契約を締結し情報共有を行うことです。2つ目が、日本ロービジョン学会の「ロービジョン連携手帳」や京都ロービジョンネットワーク「支援依頼書」、神戸アイセンター病院の「連携シート」などを活用する方法です。これらは、患者が各機関を行き来する際に携帯することで、患者の意思によって個人情報(医療情報や支援状況等)を提供するシステムで、他機関での情報共有において有効です。視覚障害リンクワーカーは、情報共有の方法を参考にしながら、医療機関や支援機関と連携し、地域の実情に沿った情報共有方法を模索する必要があります。 5 視覚障害リンクワーカーの評価と分析  視覚障害リンクワーカーが、実際に支援した患者・家族、医療機関、支援機関の役に立っていたのか、今後どのような方向性が求められるのかを総合的に評価する仕組みを作り上げることは、今後、視覚障害リンクワーカーの支援をより一層充実させるために極めて重要です。  具体的には、患者や家族に対して、同意を得た上で、必要としていた情報を適切なタイミングで得ることができたか、ライフステージに応じた支援先につながることができたかなどを確認する(評価を受ける)必要があります。  一方、医療機関や支援機関に対しては、視覚障害リンクワーカーが患者を支援したことで、メリット(業務の負担が減ったなど)があったか、今後の課題はなにか等を評価してもらいます。  これらの評価から得られた情報は、日視連が取りまとめ、PDCAサイクル(※3)を回すことで、研修や視覚障害リンクワーカーの提供するサービスの質の継続的な改善に活かします。 (※3)PDCAサイクル:Plan(計画)、Do(実行)、Check(評価)、Action(対策・改善)の4つのプロセスを繰り返し、目標達成や業務改善を行うフレームワークのこと。 6 さいごに  視覚障害リンクワーカーは、相談の中で、患者やその家族の不安や怒りなどの複雑な感情に共感したり、寄り添ったりすることから、ストレスを抱えることになりがちです。また、一人職場の場合、ともすれば孤立し、一人で悩みを抱えてしまう可能性があります。そのため、視覚障害リンクワーカーのメンタルケアは必要不可欠です。視覚障害リンクワーカーの様々な相談に対応できるスーパーバイザーが必要であり、併せて、視覚障害リンクワーカーが孤立しないように、情報交換・意見交換できる交流の場を設けることも求められます。視覚障害リンクワーカーによる支援を事業として継続させ、発展・充実させるためには、今後、視覚障害リンクワーカー自身をケアするフォローアップの体制の整備を検討する必要があります。 --6.おわりに  本調査研究を実施する直接のきっかけは、日本視覚障害者団体連合(当時の日本盲人会連合)が2016年度に実施した「読み書きが困難な弱視(ロービジョン)者の支援の在り方に関する調査研究事業」であった。この研究は、日本視覚障害者団体連合が弱視(ロービジョン)者の日常生活や社会生活上の困難さを本格的に取り上げた最初の取り組みの一つであったと同時に、医療から福祉や教育等への橋渡し(リンク)の重要性を浮き彫りにした全国調査であった。この調査の結果、福祉制度や支援と出会うまでに5年以上の時間を要している人が24.5%にも上っていたことと困った時に相談先があると回答した人は47.4%に留まっていることが明らかになった。つまり、医療機関での早期介入と適切な相談機関へのリンクが課題であることが明らかになったのであった。翌2017年度に実施された「視覚障害者のための日常生活用具と補装具の給付及び貸与の実態調査事業」においても、補装具や日常生活用具を知るまでに5年以上かかった人が、補装具で23.7%、日常生活用具においては29.4%に至ることが明らかになり、早期の介入や相談支援が視覚障害者全体の急務の課題であることが明確になった。  医療から福祉や教育等への橋渡しや多職種連携の必要性は古くから指摘されており、日本でも、ロービジョンクリニックによる取り組み、ロービジョン検査判断料に基づく診療、スマートサイト等、様々な取り組みがなされてきたにもかかわらず、これほど多くの視覚障害者が適切な相談先とつながるまでに長い時間を要していることは、関係者に大きなショックを与えた。そして、この状況を打開する方法として、日本視覚障害者団体連合が着目したのが、英国のECLOであった。ECLOと同様なシステムを日本に導入する可能性について2021年度から議論や勉強会等を行い、2022年度の「失明の可能性の告知を受けた人の早期相談支援体制の構築に向けた調査研究」を経て、本調査研究へと展開された。  本調査研究で、英国を訪問し、ECLOやECLOを支えるRNIBの専門家と議論を重ねる中で、視覚障害を告知された時の気持ちに寄り添い、すぐに活用できる実用的なサポートを提供しながら、適切な専門家に確実に橋渡しをするというECLOの役割は、日本にも必要不可欠であることを確信した。また、日本と英国では、制度、文化、価値観、法律、経済等の社会システムは異なっているが、英国のRNIBがそうしたように、患者中心の理念に基づき、障害当事者団体が中心となって、システムの設計から運用までを行うことの重要性も確信した。日本には、RNIBのような大きな組織はないが、障害者権利条約でスローガンとして掲げられた”Nothing about us without us” (私たち抜きに私たちのことを決めるな)の精神に基づき、日本視覚障害者団体連合を中心に、医療・福祉・教育等の専門家が一致団結して、視覚障害者が誰一人取り残されないようなリンク・システムを目指していく必要があると考えられる。本調査研究が、そのための大きなきっかけの一つになることを期待する。 委員長 中野泰志