失明の可能性の告知を受けた人の早期相談支援体制の構築に向けた調査研究 ― 報告書 ― 2023年(令和5年)3月  社会福祉法人 日本視覚障害者団体連合 本事業は、全国生活協同組合連合会、埼玉県民共済生活協同組合、大阪府民共済生活協同組合の助成により実施されたものである。 目 次 第1章 事業概要・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・1 第2章 調査結果・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・7  研究1 英国のECLO制度に関する調査研究・・・・・・・・8  研究2 日本における失明の可能性の告知を受けた人々の      相談支援体制に関する調査研究・・・・・・・・・・17  研究3 日本版ECLOの資質能力に関する調査研究・・・・・59  研究4 視覚障害当事者が日本版ECLO業務を担う      意義や課題に関する調査研究・・・・・・・・・・・69 第3章 考察と提言・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・95 第4章 おわりに・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・113 巻末資料・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・115 第1章 事業概要 1.調査背景  失明の可能性の告知を受けた視覚障害者及びその家族に対する早期の相談支援体制の構築は、急務の課題である。具体的には、眼科の医学的治療に限界があり、医療機関において失明の可能性の告知を受けた人々の多くは精神的に大きく落胆してしまい、引きこもりや精神疾患を発症するケースが少なくない。日本眼科医会が行った調査1)によれば、日本の視覚障害者は164万人、うち全盲は18.8万人、145万人がロービジョン(弱視)と言われており、視覚障害による社会的損失は日本で年間8.8兆円と試算されている。  一方で、日本視覚障害者団体連合(以下 日視連)の過去の調査2)3)や広島大学と共同で行った調査4)では、視覚障害者(以下 当事者)が日常生活や社会生活に必要な福祉情報等を得るまでの間に、5年以上を要していることが明らかになっている。  そのため日本眼科医会では、この期間をできるだけ短くし、医療機関から福祉施設へスムーズな連携を行うための試みとして、視覚障害リハビリテーションに関する施設や相談先を紹介するリーフレット「スマートサイト」を都道府県ごとに眼科医に対して提供している。  しかし、「スマートサイト」は、情報提供として一定の役割を果たすものの、告知を受けた人が自ら施設や団体等へ連絡をする必要があり、時宜を得た支援を受けて、障害を受容したり、視覚障害リハビリテーションを受けることに繋がりにくいことが課題として挙げられている。  告知を受けた当事者が、障害に向き合い、生活を再構築するためには、彼らの精神面でのケアやフォローを行いながら、福祉、教育、労働(就労移行支援等を含む)等への移行を手助けする専門家とそれを支える支援システムの構築が欠かせない。  英国においては、失明の可能性を告知する際に、ECLO(眼科連携職員;Eye Clinic Liaison Officer)が同席し、当事者の心のケアと福祉、教育、就労支援への移行を手助けする制度が確立されている。ECLOとは、相談業務とリンカー業務(専門家に繋げる役割)の2つをこなす専門家であり、ECLOとして活躍する約半数は視覚障害当事者である。これは視覚障害者の職域拡大の観点からも意義深い。  また、広島大学と共同で行った調査4)においても、気軽に相談できる医療福祉従事者がいた場合に相談だけでなく、定期的に連絡を取って、必要に応じて視覚障害リハビリテーションの提案をしてほしいといった回答が59%あったことからも、移動障害のある視覚障害者にとって、身近な環境のひとつである医療機関で相談支援や視覚障害リハビリテーションを受けられる体制が望まれている。  しかし、日本において同様の制度を導入する場合には、日本と英国とで医療や福祉の制度、文化的文脈が異なることから、英国のECLO制度をそのまま導入することは困難であると予想される。そこで本研究では、ECLOと同様の仕組みを日本で構築するため、英国のECLOの果たしている役割やECLOの資格を取得するための研修プログラム、ECLOの活動を支えている環境等を整理しながら、日本の実情に合った早期支援体制の充実を図るべく調査を行った。 ■参考 1)日本における視覚障害の社会的コスト (日本眼科医会研究班, 2006-2008年,日本の眼科) http://www.gankaikai.or.jp/info/kenkyu/2006-2008kenkyu.pdf 2)読み書きが困難な弱視(ロービジョン)者の支援の在り方に関する調査研究事業 (日本視覚障害者団体連合,2016;橋井・中野 他) ○福祉制度を知るまでの期間 5年以上 159人(24.5%) http://nichimou.org/all/news/secretariat-news/170327-jimu/ 3)視覚障害者のための日常生活用具と補装具の給付及び貸与の実態調査事業 (日本視覚障害者団体連合,2017;三宅・中野 他) ○身体障害者手帳の交付を受けてから補装具費支給制度を知るまでにかかった期間 5年以上 173人(23.7%) ○身体障害者手帳の交付を受けてから日常生活用具給付事業を知るまでにかかった期間 5年以上 216人(29.4%) http://nichimou.org/all/news/secretariat-news/0702-jimu/ 4)視覚障害者の社会参加を促す視覚リハビリテーション・マネージメント・パスの構築 (文部科学省科学研究 基盤研究(B) , 2020-2023;木内・仲泊 他) ○視覚リハビリテーションを開始するまでに要した期間 1年以上 75%(1年以上の内訳:5年未満 37%、5-10年 21%、 10-15年 18%、15-20年 7%、20-30年 7%、30年以上 4%) ○気軽に相談できる医療福祉従事者(守秘義務をもったソーシャルワーカー等)が居た場合にどこまで支援をしてほしいか(「こちらから相談しない限りは何もしなくてよい」20%、「相談と定期的な連絡も希望だが、こちらから相談しない限り提案はしなくてよい」13%、「相談と定期連絡、必要な視覚リハビリテーションの提案をしてほしい」59%、「未回答」8%) 2.目的  本研究の目的は、英国におけるECLO制度を参考に、日本において、失明の告知を受けた人が障害を受容し、前向きに新しい生活を送るための視覚障害リハビリテーションを含む福祉、特別支援教育、就労支援等に早期に繋がるための相談支援体制の在り方を明らかにすることである。同時に、日本において視覚障害当事者がECLOを担当する際の環境整備の在り方についても検討する。 3.事業内容 (1)検討委員会の設置 課題の整理を行うために検討委員会を設置し、以下の事項について検討を行う。 @医療および福祉で行われている相談支援に関わる現状の整理 A実態調査の実施内容 B調査結果のまとめ (2)調査の実施 検討委員会の検討内容に基づき、以下の方法で調査を実施する。 @勉強会 ・ECLOの概要 (桜花学園大学 柏倉秀克教授) ・ECLOの役割と養成 (甲府共立病院眼科 加茂純子先生) Aヒアリング調査 ・先駆的な実践を実施している眼科病院 (広島大学病院、井上眼科病院グループ、田辺眼科) ・日本でECLOのように病院内で相談支援の役割を担っている専門家 ・公認心理師資格等を有するピアカウンセラー ・医療従事者として勤務している視覚障害当事者 Bアンケート調査 ・相談支援の専門職を病院内に配置することに対するニーズ等 ・視覚障害当事者団体における相談事業実施状況 (3)報告書の作成  実態調査と検討委員会での意見を踏まえ、本調査のとりまとめとして報告書を作成する。なお、報告書の作成後は、全国の視覚障害関係団体や関係機関等に報告書を配布するとともに、各学会等でも発表を行い調査結果の周知を行う。 4.検討委員会の概要 (1)名簿(順不同、敬称略) ○委員 中野泰志 慶應義塾大学経済学部 教授 【委員長】 柏倉秀克 桜花学園大学保育学部 教授 宮内久絵 筑波大学人間系障害科学域 准教授 平塚義宗 順天堂大学病院 准教授 奈良井章人 奈良井眼科 院長 清水朋美 国立障害者リハビリテーションセンター病院 第二診療部長 別府あかね 岡本石井病院眼科 視能訓練士・歩行訓練士 永沼加代子 井上眼科病院 社会福祉士・精神保健福祉士 山口義之 日本盲導犬協会 神奈川県訓練センター センター長 久保弘司 京都府視覚障害者協会 会長 高間恵子 京都府視覚障害者協会 社会福祉士 竹下義樹 日本視覚障害者団体連合 会長 【副委員長】 橋井正喜 日本視覚障害者団体連合 常務理事 工藤正一 日本視覚障害者団体連合 総合相談室 室長 三宅 隆 日本視覚障害者団体連合 組織部 部長 吉泉豊晴 日本視覚障害者団体連合 情報部 部長 ○作業部会 藤田利恵 広島大学 大学院医系科学研究科 金澤悠人 慶應義塾大学総合政策学部 学生 (2)委員会および作業部会の実施報告 第1回委員会 期日:2022年1月22日 方式:ハイブリッド 議事:事業内容の検討、ECLO勉強会1(桜花学園大学 柏倉秀克教授)、各委員の取り組みの報告と意見交換 第2回委員会 期日:2022年3月26日 方式:ハイブリッド 議事: ECLO勉強会2(甲府共立病院眼科 加茂純子先生)、ヒアリング先の検討 第3回委員会 期日:2022年7月29日 方式:ハイブリッド 議事:ヒアリング先およびアンケート調査実施の検討 第4回委員会 期日:2023年2月1日 方式:ハイブリッド 議事:調査結果のとりまとめの検討、報告書の検討 作業部会※ 期日:2022年6月15日 方式:ハイブリッド 議事:ヒアリング先およびアンケート調査実施の検討  ※作業部会は、委員数名と作業部会および事務局の参加により少人数で実施 [写真]第4回委員会の様子 第2章 調査結果 研究1 英国のECLO制度に関する調査研究 目的  本研究の委員は、本研究の予備調査として、英国の福祉制度やECLOの役割等に関する文献調査等を実施してきた。その結果、日本と英国では医療・福祉制度等が異なるため、ECLOの内容をそのまま導入することは難しいことが指摘された。  一方で、ECLOと同様の仕組みを日本に構築するためには、ECLOの果たしている役割、ECLOの資格を取得するための研修プログラム、ECLOの活動を支えている環境(人的支援環境を含む)等を日本で実現させるための方法と関連させながら整理する必要がある。  そこで、研究1では、ECLOに知見を持つ有識者を講師に招いた勉強会を開催するとともに、ECLOに関する最新の情報について文献等を用いて調査し、その現状と課題を整理した。 1-1 英国の医療・障害福祉制度とECLOの誕生  英国の医療制度は、税金を財源とした国民保健サービス(以下 NHS:National Health Service)で運営され、全住民を対象に原則無料で提供されている。英国では、医療機関にかかりたい場合には、必ず最初に居住地に基づき登録した一般家庭医(以下 GP:General Practitioner)の診察を受けなくてはならないというルールがある。GPは必要に応じて検査および専門医への紹介、薬の処方を行うことが、英国の医療の基本的な流れとなっている。  一方、福祉制度においては、自治体が現金給付を行い、本人が必要とする福祉サービスとそれに伴う経費を自ら管理するダイレクト・ペイメントと呼ばれる形が取られている。対象となるのは、アシスタントのサポートを含めて自己決定ができる16歳以上の障害者、疾病(HIV・AIDS)のある者、高齢者で、障害児の親権を持つ者や同居する16〜18歳も含まれる。当事者は、給付された現金の中からパーソナル・アシスタントと呼ばれる当事者のニーズと主導の下に、信任されたアシスタントを自ら雇用することで、個人のライフスタイルに合った支援が受けられるようになっている。  こうした当事者が主体となり、自立に向けた数々の支援制度が用意されているのは、社会福祉の起源ともなった、働けない高齢者や障害者にお金を支給し、救貧院(プアハウス)で保護したエリザベス救貧法(1601年)等の制度やケースワークを生み出した福祉国家としての歴史があるからである。  また、近年、英国では高齢化の進展や疾病構造の変化、社会経済情勢の変化により、複数の疾患や障害を抱えながら生きる人々、複合的な支援を必要とする人々が増加してきている。このような背景から、地域の活動やボランティアグループ等の地域資源に橋渡しをして、当事者が主体的に自立して生きていけるよう支援し、ケアの持続可能性を高める仕組みとしての社会的処方に注目が集まり、英国全土に広がりを見せている。1)この橋渡しの役割をリンクワークといい、このリンクワークを果たすのが、リンクワーカーと呼ばれる専門職で英国国民にも認知されている。  視覚障害分野においては、失明宣告を受けた直後から多方面にわたり相談や支援を行う失明時アドバイザー(Sight Loss Adviser)が、医療機関に配置されている。この専門職は、ECLO(眼科連携職員;Eye Clinic Liaison Officer)と呼ばれ、英国王立盲人協会(以下 RNIB;Royal National Institute of Blind People)により1994年に誕生し、医療機関においてリンクワークを実践している。2022年3月には、100人目のECLOが誕生し、英国国内で確実に根づきつつある。 [図]英国の地図。英国は4つの非独立国であるイングランド、スコットランド、ウェールズ、北アイルランドよりなる。 コラム  英国王立盲人協会(RNIB;Royal National Institute of Blind People)  1868年に設立されたチャリティ団体で、英国最大級の視覚障害者の当事者団体。職員は、約2,000人(2018年)、寄付金額は108億円(2019年)にも上る。本部は、ロンドンのハリー・ポッターシリーズで有名なキングスクロス駅近く、駅から歩いて10分程度の便利な場所にある。  RNIBの事業はすべての世代の視覚障害者を対象としており、拡大文字や点字の書籍出版、Talking Books(録音図書)作成、学校経営、教育支援、就労支援、リソースセンター(福祉用具の開発・販売)、視覚障害予防、ピアサポート、ICT機器の使い方支援、電話相談等を行っている。 [写真]RNIB本部 1-2 ECLOの概要  英国のイングランド、ウェールズ、北アイルランド、スコットランドには、病気や事故が原因で治療をしても視機能の回復が望めないことを告げる時から患者に寄り添う失明時アドバイザー(Sight Loss Adviser)と呼ばれる専門家がいる。この専門家はECLOと呼ばれ、医療機関の職員として配置され、基本的には常駐している。その配置方法はさまざまで、1つの医療機関に複数のECLOが配置されている場合や複数の医療機関に派遣される場合等がある。  ECLOの主な役割には、@ 医師の診断内容を平易な言葉に変えて患者に伝えること、A 患者が求める社会資源に結びつけること、B 患者の感情的な支援を行うこと、C患者が治療を受けながら自己管理できるよう支援すること、D患者が地域で自立した生活を送ることができるように必要な情報提供を行うとともに、自分で選択し決断できるよう後押しすること等が挙げられている。2)3)4)  ECLOは、2022年4月現在で英国国内の276病院に配置されている。RNIBは、NHSの上位150病院にECLOを配置することを目標としており、この目標が達成できれば、国内の眼科の95%をカバーすることができるとしている。  一方で、ECLOを医療機関に配置するための財源確保はRNIBにおいても課題となっている。ECLOの配置を促進するためにRNIBでは、初年度のECLO配置にかかる人件費をRNIBが全額負担している。2年目以降は、ECLOの有用性を医療機関に理解してもらうことにより、医療機関とRNIBとで人件費を折半している。  例えば、2年目は医療機関が20%負担、3年目は医療機関が50%負担するといった形が取られている。医療機関の理解を得ながら、徐々に医療機関の負担割合を増やすことで、継続してECLOを雇用してもらうとともにECLOが眼科医療に定着する工夫が取られている。  ECLOの人件費の財源となるRNIBの運営費の多くは、チャリティ(寄付)等による収入となっている。これは英国国民が習慣的にチャリティ活動を行うといった社会文化的文脈や寄付をした人が税金還付として恩恵を受ける仕組みが日本よりも整えられているといった違いがあるためである。日本において同様の制度を導入する際に、同じ方法を取ることは難しいが大いに参考になる。 [図]≪棒グラフ≫ECLOの人件費負担割合のイメージ 1-3 英国における告知後の早期支援  英国では、患者が現在の医療では視機能の回復が望めないと医師が診断した場合に医療機関に在籍するECLOがその場に同席し、患者とともに医師の説明を聞く。その後、ECLOは患者と別室に移動し、医師が話した内容を患者が理解しやすい言葉に変えてあらためて説明する。これは、宣告の直後の患者の多くが心理的に動揺しているためである。  別室に移動したECLOは患者に寄り添いながら、患者の目の状態や日本の身体障害者手帳にあたるCVI(視覚障害証明書; Certificate of Vision Impairment)登録のメリット等について説明するとともに、個々に合った必要な情報の提供が行われる。ECLOは、医師に代わってCVI取得のための各種支援を行うことができることから、説明や記入に時間をかけることが難しい医師や医療従事者の負担軽減に繋がっている。  CVIへの登録に患者が同意した場合には、2週間以内にROVI(視覚障害の専門の行政職員; Rehabilitation Officer Visual Impairment)は患者宅を訪問するようになっている。その場で視覚の評価とリハビリテーションやケアの必要性についての評価が行われ、評価を基に視覚障害リハビリテーションプログラムが組まれる。  このROVIは、視覚障害に関する知識を持つ理学療法士や作業療法士で、役所に勤務している。ROVIは、評価を行うだけでなく、自立した生活を可能にするための訓練(日常生活訓練、コミュニケーション訓練、歩行訓練)や精神的ケア、保有視覚を最大限に活かすための助言を行う。  あわせてROVIによる各種サービスの紹介やソーシャルワーカーによるコミュニティーに関する評価を基にした必要な社会的資源の紹介が行われることで、患者は早期に自立した社会生活を送れるようになっている。  以上のような流れで、患者は社会復帰を果たしていくわけだが、CVI取得をしていない場合においても、ECLOはRNIBを通して患者と向き合いながら患者の生活の質(QOL)向上に寄与しており、英国の視覚障害者にとって、ECLOが道標の役割を果たしている。  これらプロセスは、2013年に発表された英国視覚戦略(UK Vision Strategy)に示されており、「英国の成人の視覚喪失のための自立更生プログラムThe Adult UK sight loss pathway(以下パスウェイ)」と呼ばれる。5)  パスウェイは、視機能を失ったすべての人が医療と福祉の両面でケアとサービスが早期に適切に行われるようにするための明確な道筋である。このパスウェイは、英国視覚戦略のアドバイスグループによって承認されたもので、パスウェイが地方自治体、GP、オプトメトリスト(検眼医)、眼科医、すべての目の専門家が連携して実施されることを強く求めている。  また、パスウェイは「seeing it my way(私のやり方)」を達成する際の手助けとなることを目的の1つとしている。seeing it my way自体は、年齢、民族、視覚障害の程度、そのほかの障害、地域に関係なく、英国の視機能を失ったすべての人が平等に情報や支援を享受できるようにするための自発的な取り組みで、2011年に1000人を超える当事者との協議を通じてつくられた。6)  このseeing it my wayには、10項目のアウトカム(成果)が掲げられており、次の10項目を実現することが最終的なゴールとしている。    @自分の目の状態と登録の過程を理解している  A話し相手がいる  B私は自分自身、自分の健康、自分の家、自分の家族を世話することができる  C私は必要な恩恵と情報および支援を受けることができる  D私は自分のもっている視覚を最大限活用できる  Eテクノロジーを最大限活用して、情報にアクセスできる  F外出し、あちこち歩くことができる  Gコミュニケーションするための道具、技術と自信を持っている  H私には教育と生涯学習への平等なアクセスがある  I私は仕事とボランティアもすることができる [表]英国の成人の視覚喪失のための自立更生プログラム ---ここから 〈プロセス〉 紹介 〈システムと構造〉 GP(家庭医)、救急病院サービス、自己紹介 ↓↑ オプトメトリスト(検眼医)、オプティシャン(眼鏡技術者) ロービジョンサービス ↓ 〈プロセス〉 診断 〈システムと構造〉 眼科医 Certificate of Vision Impairment(CVI) Certification of Blindness or Defective Vision(BP1)(スコットランド) ↓ 〈プロセス〉 早期介入(アドバイス、情報、心理的サポート) 〈システムと構造〉 情報とアドバイス  例:ECLO、ビジョンサポートサービスなど ↓ 〈プロセス〉 登録と評価(法定の要件) 〈システムと構造〉 盲およびロービジョン(弱視)の成人の登録 ↓ ソーシャルケアの必要性を示す視覚障害の専門的な評価 ↓ 〈プロセス〉 早期介入(再自立) 〈システムと構造〉 視覚障害リハビリテーションプログラム ↓ 〈プロセス〉 対象ニーズの評価 〈システムと構造〉 ソーシャルケア評価 ↓ 該当する ↓ 〈プロセス〉 社会福祉支援 〈システムと構造〉 地域の社会福祉支援(法的援助あり) ↓ すべて自分で選択し、コントロールできる自立した生活 〈プロセス〉 対象ニーズの評価 〈システムと構造〉 ソーシャルケア評価 ↓ 該当しない ↓ 〈プロセス〉 社会福祉支援 〈システムと構造〉 地域のサービス(法的援助なし) ↓ すべて自分で選択し、コントロールできる自立した生活 ---ここまで  コラム  視覚障害証明書(CVI; Certificate of Vision Impairment)  視覚障害証明書(以下 CVI)は、日本でいう身体障害者手帳にあたり、申請によって認定を受けた患者は視覚障害者として登録することができる。日本と同様にCVIを登録することで公的な障害福祉サービスを受給することができる。英国においては、CVIの受給資格を得なければ、メディカルソーシャルワーカー(MSW)による福祉支援を開始することができない。2) CVIは、Part1からPart4に別れており、以下のような内容で構成されている。 ● Part1 ・患者の詳細な情報(氏名・住所・電話番号・生年月日) ・ECLOとすでに会っているのか ・部分的に見えている成人(partially sighted)と重度の視覚障害(blind)のどちらなのか ● Part2 ・最良の矯正視力(右眼・左眼・両眼) ・広範な周辺視野の損失の有無 ・ロービジョンサービスへの紹介の有無 ・原因となる疾患 ● Part3 ・難聴や学習障害、難聴等の重複障害の情報 ・一人暮らし、支援者の有無といった行政において重要になる付加的な情報 ● Part4 ・CVIの情報をGP(家庭医)、行政、眼科  医会と情報共有することへの承諾  医師が記入する項目は、Part1とPart2のみであり、日本のように細かい検査結果等を書く必要がないことが特徴である。また、Part2の原因となる疾患には、ICD(国際疾病分類)のコードが書かれており、英国眼科医会ではこのICDコードの統計をとることで、データを失明予防に活かす努力をしている。 [図]視覚障害証明書(CVI)のPart2のシート。チェック項目が多く、シンプルな構造になっている 1-4 ECLOの養成  ECLOは、英国眼科同盟(UKOA;UK Ophthalmology Alliance)によって認められた資格で、RNIBとロンドン大学シティ校(City, University London)が提供している眼科サポート研究コース(Eye Clinic Support Studies Course)を受講することが資格取得の要件となっている。年に3〜4回開催され、4日間にわたり行われる。どの回も15名程度の少人数制で、きめ細やかな指導を受けられるようになっている。費用は、昼食・軽食付で10万円。対象は、医師、看護師、視能訓練士、行政職員、弁護士、盲導犬協会職員、視覚障害当事者等のECLOになりたい者なら誰でも受講可能となっている。  講習では、ECLOの役割のほかに、眼の病理学・生理学・心理学に関する専門知識、ロービジョンケア、視覚障害リハビリテーション、ロービジョンエイド等の支援機器、障害者認定にかかる申請手続き、福祉サービス受給のための法的手続き、社会資源との連携業務(リンクワーク)、カウンセリングをはじめとする精神面の支援、特別支援教育(インクルーシブ教育)等、幅広い分野を学ぶことができる。2)  講習から約6〜8週間後には、受講者は試験を受けることになっている。試験は3時間にも及ぶもので、ペーパーテストと2,000語のレポートが用意されている。この試験に合格することができれば、資格を取得することができるようになっている。このようにあえて厳しい課題を課すことが、専門性の高いECLOの養成に繋がっているともいえる。  現在、活躍しているECLOのうち約半数が視覚障害当事者であるとされている。もちろん、視覚障害当事者であっても、晴眼の受講者と同様に講習や試験を受ける必要がある。そのためRNIBは、当事者が安心して講習や試験を受けることができるようにサポートを行っている。  また、入職後も現場の実務を通して仕事を教える研修方法であるOJTだけでなく、スキルアップの機会が設けられており、ECLOの質を担保するための体制が整えられている。 コラム  日本人で初めてECLOの資格を取得した眼科医  日本で初めて、英国のECLOの資格を取得した眼科医 加茂純子氏(甲府共立病院)は、日本ロービジョン学会 理事、山梨県視覚障害を考える会 代表を務めるとともに視覚障害当事者のイベントに参加する等、日ごろより視覚障害者支援に精力的に活動している。  同氏は、2016年にRNIBとロンドン大学シティ校が主催する眼科サポート研究コースを受講。試験に合格し、日本人として初めてECLOの資格を取得した。  ECLO資格取得後は、学会や講習会において、英国のECLOを紹介している。 ■参考文献 1)英国における社会的処方 澤 憲明(リバーサイドメディカルセンター),堀田 聰子(慶應義塾大学大学院健康マネジメント研究科)「ジェネラリスト教育コンソーシアム」(consortium vol.10) 2)英国における中途視覚障害者支援の動向―RNIBが推進するECLOの役割を中心に― 柏倉秀克 日本福祉大学社会福祉学部『日本福祉大学社会福祉論集』第136号, 2017 3)英国の視覚喪失アドバイザー4日間の講習に参加して 加茂純子(甲府共立病院 眼科),日本ロービジョン学会誌17:64-66, 2017 4)視覚喪失患者を眼科からリハビリテーションや福祉とつなぐ英国の視覚喪失アドバイザーEye Clinic Liaison Officer(ECLO)について 加茂純子(甲府共立病院 眼科),平塚義宗(順天堂大学眼科学教室)日本ロービジョン学会誌22:53-58, 2022 5)Appendix C of the UK Vision Strategy 2013 Adult UK sight loss pathway(the UK Vision Strategy) 6)http://www.pocklington-trust.org.uk/wp-content/uploads/2020/10/Chapter-2-Policies-final.pdf(閲覧日:2023年2月3日) 研究2 日本における失明の可能性の告知を受けた人々の相談支援体制に関する調査研究 目的  英国において、ECLOは医療機関のスタッフとして、病院内で相談支援を実施しており、医師が失明の可能性を告知する際から患者やその家族の精神的なサポートや教育・福祉の専門機関等へ繋げる役割を果たしている。日本にも、メディカルソーシャルワーカー(MSW)等のソーシャルワーカーが病院に配置されているが、ECLOのように、視覚障害(特に、進行性の遺伝疾患等)に関する医学的知識を有し、失明の可能性の告知を受けた人々の気持ちに寄り添うためのカウンセリングの知識・スキルを身につけ、歩行訓練・生活訓練・特別支援教育等の視覚障害リハビリテーションや特別支援教育の内容に精通し、視覚障害教育や歩行訓練士等の福祉機関の専門家等と人的ネットワークを活用できる人材が配置されているわけではない。  日本には、ECLOに相当するリンクワーカー制度はないが、失明の可能性の告知を受けた人々の相談支援を先駆的に実施している眼科病院は存在している。そこで、研究2-1では、これら先駆的な実践を実施している眼科病院に対してヒアリング調査を実施する。また、研究2-2では、相談支援の専門職を病院内に配置することに対するニーズ等に関するアンケート調査を実施する。 研究2-1 先駆的な実践を実施している眼科病院に対するヒアリング調査 1.実施概要 調査方法 訪問およびWEB会議によるハイブリット方式で聞き取り調査を実施した 調査対象と実施時期 1-1.国立大学法人 広島大学病院・広島市視覚障害者福祉協会(広島県広島市) 実施日:2022年8月10日 1-2.広島市視覚障害者福祉協会(広島県広島市) 実施日:2022年8月11日 2.医療法人社団 済安堂 井上眼科病院グループ(東京都千代田区) 実施日:2022年10月16日 3.医療法人アウゲン 田辺眼科(山梨県甲斐市) 実施日:2022年11月19日 主なヒアリング項目 ●相談体制を実現するまでの経緯・道のり ●相談体制の概要 ○相談室に繋げる基準や過程 ○支援後の相談内容の情報共有 ○資金面での現状と課題    等 ●相談体制の影響と今後の課題 ●日本版ECLOについて 2.調査結果 1-1.国立大学法人 広島大学病院(広島県広島市) [カテゴリー] 特定機能病院/政令指定都市 [実施日] 2022年8月10日 [出席者]  ■広島大学病院  眼科医 3名、診療講師 1名、研究員 1名  ■広島市視覚障害者情報センター  視覚障害当事者 1名、歩行訓練士 1名 [病院内相談室の設置] 2021年7月 [相談形態] 開設日:毎月第2・4水曜日 13:30〜15:30(予約優先) 場所:広島大学病院外来棟2階 健康情報プラザ 費用:無料 担当:広島市視覚障害者情報センター 職員 2名 [相談実績] 全体相談件数:42件 相談室を経由しての身体障害者手帳取得1):7件(2022年3月末時点であり4月以降は含まない) [註]1)県全体の身体障害者手帳の発行数は、年間で280件程度であり、そのうちの3分の1は広島大学病院で行われている [写真]患者さんやご家族が、病気に関する一般的な情報を自由に閲覧したり、検索したりできる「健康情報プラザ」の奥に福祉相談室が設けられている。プライバシー保護のため、パーテーションで区切られている (1)福祉との連携のきっかけ ●医療  2011年に眼科医(現 広島大学教授)よりロービジョン専門の眼科医に対し、ロービジョン外来をやってくれないかと声がかかる。同じ頃にスマートサイトが全国に広まり始めていたことから、広島県でもスマートサイトを作るため、広島視覚障がい者の問題を考える会を立ち上げた。スマートサイトを作る過程で福祉や教育と医療が連携できるよう準備をしてきたが、準備の中で患者が福祉に繋がるまでには深い谷があることに気がついた。 同時期に医療においても、地域連携パスの仕組みが使えることに気づき、この仕組みを活用できないかと模索していたところ、科学研究費 基盤研究(B)のアイディアとして承認された。この研究で日本視覚障害者団体連合(以下 日視連)と合同で視覚障害リハビリテーションの意識調査を進めていく中で、某国立大学病院で行われている病院内での福祉相談について話を聞いたのが、病院内に相談室を設置した大きなきっかけだった。 ●福祉  日視連会長と当時の組織部長の声掛けにより、広島県眼科医会との懇談会が行われることになった。当時の広島市視覚障害者福祉協会の会長と事務局長、広島県視覚障害者団体連合会の会長らが出席し、眼科医と意見交換をすることができた。中途失明者の点字教室の講師をする中で、医療との連携の必要性を感じてきたことや全国でスマートサイトが広がりをみせていること、なにより眼科医からの熱意に押されて連携を始めることになった。 (2)相談事業を実現するまでの経緯と道のり ●医療  整形外科等では治療後に行うリハビリテーションへの道筋が整っているにも関わらず、眼科においては白杖歩行訓練をはじめとするリハビリテーションの多くが福祉で行われている。そのため、視覚障害当事者が自ら行動を起こさなければ、福祉やリハビリテーションに繋がらないこと自体が問題であると感じた研究員が、眼科医や広島大学大学院准教授に相談し、診療講師の協力を得て科学研究費の申請を行い、採択されたことでプロジェクトが開始した。  このプロジェクトの中で得た、某国立大学病院で第三者機関の職員として院内で相談業務が実施できなかった事例から問題点を洗い出し、個人情報の取り扱いと雇用形態が問題であったことを明らかにした。その上で、個人情報保護と中間型アウトリーチを円滑に行うために、院内で行われていた長期療養者就職支援事業からヒントを得て、広島市視覚障害者福祉協会(広島市視覚障害者情報センター)と大学とで協定を結び、院内に福祉相談室を開設し、広島市視覚障害者情報センターとの連携の下で事業を開始した。  病院内の福祉相談室開設においては、眼科診療科長が働き方改革の一環(病院勤務医負担軽減策3))として、福祉相談事業の実施に関する要望書を病院長に提出し、承認されたことで実現している。 [註]3)病院勤務医負担軽減策:厚労省からの通達事項 ●福祉  広島市視覚障害者情報センター(以下 情報センター)の利用者には、県外や市外の利用者もいるが、絶対数は広島市内が多い。そのため広島市も今のところは、認めてくれている。情報センターが市の委託事業を中心に運営しているため、職員が大学病院に行く際の時間給をどこが出すのか、職員を派遣してどうするのか(目的外使用)といったことが、市の障害福祉課と問題になった。市に交渉し、現在のところ問題なく派遣できている。結果的に情報センターの利用者も増えている。 (3)福祉相談室の運営 ●病院内で福祉に繋げる過程 ○眼科外来 (STEP1)  医師が福祉との連携が望ましい患者に院内相談室を紹介し、予約票を渡す。 ○院内相談室 (STEP2)  医師が患者を相談室まで案内する。相談室に入ると福祉相談サポート4)が個人情報提供に関するインフォームドコンセントを実施。患者の同意を得た上で同意書を作成する(必要があれば代筆・代読)。必要に応じて福祉相談サポートがパーテーションの奥に誘導を行う。 [註]4)院内相談室において、相談室利用に関する同意および説明等を行う大学所属の職員。福祉相談サポートには、簡単な誘導と代筆・代読の技術、コミュニケーション技術が求められる。  ― パーテーション(パーテーション奥は形式上、情報センターになっている)― ○広島市視覚障害者情報センター (STEP3)  情報センターより派遣された相談員による福祉相談が行われる。相談後は、相談受付シート(資料@)を作成し、原本は情報センターで保管。コピーしたものを病院のファイルと電子カルテに保管する。 [図]福祉相談の流れ ---ここから 広島大学病院 @眼科外来 医師が福祉緒介入が望ましい患者に院内相談室を紹介 予約表を渡す 福祉相談ファイル ・相談予約 ・同意書の原本 ・相談記録コピー 眼科外来に保管(眼科医が管理)施錠 眼科専用電子カルテ ↓ 院内福祉相談室 サポートがセンターへの個人情報提供に関するインフォームドコンセントを実施 A患者は直接相談室へ 説明と同意 ・同意書を作成してファイルと電子カルテに保管 ・相談受付シートのコピーをファイルと電子カルテに保管 ↓ 必要に応じてサポートが誘導 B同意されたら福祉相談を利用 広島市視覚障害者情報センター 情報センターより派遣された相談員による福祉相談 ・相談受付シートを作成して、原本は情報センターで保管 後日の相談に使用可 ---ここまで ●責任の分担  福祉相談が望ましい医学的根拠の説明は「医師の責任」とし、院内相談室を利用するか否かは、「患者本人の責任」で、患者自身が自分の意思で相談室を利用する形となる。相談内容の管理については「情報センター福祉相談員の責任」であり、情報センターへの個人情報提供に関するインフォームドコンセント実施については「福祉相談サポートの責任」として、責任の所在を明確にしている。 ●両者間での契約 [広島大学病院、広島市視覚障害者福祉協会間の契約] ・視覚リハビリテーション連携支援事業実施に係る協定書  業務概要、情報共有、秘密保持 の3項目で協定を締結 [患者本人、広島大学病院長・広島市視覚障害者福祉協会間の契約] ・同意書 1.病院からの紹介によって視覚障害者福祉協会による視覚に関する福祉相談を受けること 2.個人情報を病院から視覚障害者福祉協会に提供すること 3.相談開始後の個人情報を福祉支援に必要な範囲で病院及び視覚障害者福祉協会の間で相互に提供すること ※このほか相談に従事する情報センター職員は、別途誓約書を病院に提出している ●視力や視野の情報提供の有無  視力や視野の情報提供を義務化してしまうと医師の紹介しようとする気持ちが薄らぐので、現在のところ視力や視野の情報は提供しないことになっている。 ●福祉相談室の位置  物理的にも距離が近く、医師が診察室から患者を連れて相談室に案内し、患者が相談の予約を済ませて診察室に戻ることが可能な距離であり、この距離のお蔭で医師の手で医療から福祉にバトンを渡すことができている [図・写真]福祉相談室の位置関係 ●資金面での現状と課題 国・県・市の補助 ・病院  現在は、科学研究費 基盤研究(B)の中で運営している。この先をどうするかは、知恵を絞っていく必要がある。 ・福祉  歩行訓練の相談事業として運営しているため、経費はかかっていない。広島大学病院と情報センター間の距離だけならば、交通費に関しても問題はない。 診療報酬の加算等 ・病院  患者サポート体制充実加算、療養・就労両立支援指導料の点数はとっていない。 (4)福祉相談について ●相談を行う上で心がけていること  患者が自分の意思で一歩を踏み出すことが大切だと思っているので、なるべく1回の相談で終らすのではなく、必ず次に繋がるように心がけている。相談時間は、相談の入り口として30分が丁度よい。   ●広島市市外の施設との連携  なるべく地域にいる歩行訓練士に繋ぐようにしている。地域に歩行訓練士がいない場合には、情報センターに来てもらうよう声かけをして、センターに足を運んでもらっている。   ●子どもの相談について  支援学校と普通学校のどちらに進むのが適切かといった就学時の相談が一番多い。福祉相談室を開設するまでは、広島県立広島中央特別支援学校の先生に対応してもらっていたが、今は最初に福祉相談室を案内するようにしている。 (5)影響と課題 ●相談者の満足度について  良かったという患者の話を聞くが、全体の中でどのくらいという数は把握していない。   ●好事例  長い間、手帳は嫌だと言っていた網膜色素変性症で緑内障、網膜剥離という患者が、福祉相談室で説明を受けて福祉に繋がったことで表情が明るくなった。 ●連携前後の変化 ○医師の仕事量の減少、医師のロービジョンに対する意識の変化 ・連携前から情報センターを案内していたが、アクセス方法を診察で説明するのは時間的に難しく困っていた。福祉相談室は、曜日も時間も決まっているため、説明しやすく、負担なく福祉に繋ぐことができている。 ・フィードバックシートがあることで、患者が有益な話をできたのか、できなかったのかといったことが読み取れる。患者のニーズ等、自分自身の反省にも繋がっている。 ○視能訓練士、看護師のロービジョンに対する意識の変化 ・ロービジョンケアに関心を持つようになった視能訓練士がいると感じている。それが、福祉相談室ができたことによるものかは分からない。 ●他病院で福祉相談室を広めていくためのポイント  日本ロービジョン学会において、院内の福祉相談室を発表したところ、興味を示した他大学の先生から問い合わせがあった。医師の負担軽減をというところから始め、費用をかけないで、既存の施設に繋げるということを様々な場で紹介していくことがポイントではないかと思う。ただし、福祉相談自体が医師の負担軽減(働き方改革)の根本的な解決になるわけではなく、すこし楽になる程度ということを念頭においておく必要がある。   ●医療と福祉の連携を強化していく上での課題  福祉相談室を継続していくためには、熱意のある者がいることが必須条件となる。福祉と医療どちらにおいても、人材育成は課題である。若手を見つけて、次世代の事業の核として育てていくことが重要になる。現在は、個人の努力と熱意でなんとかなっているが、今後、組織的に機能させていくためには、医師が高い知識を持って患者全体を診るようにするための教育づくり、研修医が視覚障害者用補装具適合判定医師研修会に参加できるような環境づくりが必要になってくると思う。 (6)その他 ●発展に向けて行っていること  福祉相談室への紹介における、医師の裁量のばらつきを解消するため2022年8月よりクリニカルパスの運用を開始している。クリニカルパスでは、緑内障の入院患者に対し、入院時の矯正視力が良い方の目で0.2以下の場合は、福祉相談室の案内(資料A)を看護師が手渡すことになっている。最終的な判断は患者の意思決定によるが、電子カルテにも組み込まれているので、医師の裁量に関係なく、福祉への橋渡しができる。 ※2023年3月をもって院内の福祉相談室は閉められたが、広島大学病院では、眼科から一定の緑内障疾患の患者を広島市視覚障害者情報センターに紹介する目的で、クリニカルパスを利用した基盤を構築した。 資料@相談受付シート (提供:広島市視覚障害者情報センター) ---ここから 相談日時 令和4年 月 日( 曜日) : 〜 担当主治医 本人情報 住所 電話・携帯・FAX 男女 手帳 級 無 申請中 通院歴 初診 年 月〜 家族 相談内容 主訴 □白杖種類、使い方の説明 □日常生活用具の紹介、申請方法の案内 □白杖歩行訓練、補装具等申請代行 □便利グッズの紹介、購入方法の案内、代行発注 □ICT(音声ソフト搭載PC・スマホ)の紹介 □公的な制度・サービスの説明 □障害者手帳の取得 □保健・医療 □年金・手当 □障害福祉サービス(自立訓練・同行援護・居宅介護〈家事援助等〉) □障害サービス以外の在宅サービス(補装具・日生具の申請給付) □学ぶ(広大附属特別支援教育センター、中央特別支援学校等) □働く(広島障害者職業センター・広島障害者職業能力開発校等) □料金の減免 □社会資源への減免 □その他 状況報告 ---ここまで 資料A ≪パンフレット≫ (提供:広島大学病院) ---ここから 広島市視覚障害者情報センターの福祉相談が大学病院内に開設 広島市視覚障害者情報センターとは 見えにくくてお困りの方が、ICT等を活用して、より豊かで質の高い生活を送れるよう、視覚障害者向けの情報通信機器や日常生活用具に関する情報提供を行っています。 お気楽にご相談ください 開設日:毎月第2・4水曜日 13:30〜15:30(予約優先) 場所:広島大学病院外来棟2階 健康情報プラザ 費用:無料 ご不明な点は眼科外来まで 広島市視覚障害者情報センターでは次のようなことを行っております。 ・白杖種類、使い方の説明・白杖歩行訓練、補装具等 ・日常生活用具の紹介、申請方法の案内・便利グッズの紹介、購入方法の案内、代行発注 ・ICT(音声ソフト搭載PC・スマホ)の紹介 ・公的な制度・サービスの説明  障害者手帳の取得  保健・医療  年金・手当  障害福祉サービス  補装具・日生具の申請給付  学ぶ(就学相談)働く(職業センター等)  料金の減免 ・社会資源への調整、紹介 ・その他 【広島市視覚障害者情報センター】 〒730-0043広島市中区富士見町11番27号(広島市保健所2階) 電話・FAX082-240-1220(平日(月〜金)9:00〜17:00) ---ここまで 1-2.広島市視覚障害者福祉協会(広島市視覚障害者情報センター) [カテゴリー] 公益社団法人/当事者団体 [実施日] 2022年8月11日 [管理機関] 広島市(政令指定都市) [主な事業] ・歩行訓練事業 ・福祉用具事業 ・身体障害者パソコン等給付事業 ・ICTボランティア派遣事業 ・社会参加促進事業 ・情報提供事業 ・同行援護従業者養成研修 ○このほかNPO法人として同行援護事業も行っている(NPO法人さんぽ) (1)他機関との連携・地域資源 ●管理機関(広島市)との繋がり  市から依頼があれば協力するようにいつも心がけている。また、用があってもなくても役所に出向いて、職員とコミュニケーションを取り、お互い顔が見える関係になるようにしている。おかげで良好な関係が築けている。 ●特別支援学校(盲学校)との連携  盲学校を通じて、盲学校内にある視覚障害教育相談支援センターと連携できている。   ●広島県内での地域資源の格差  広島市内には同行援護事業所があるが、東広島市や福山市にも事業所はあるものの、その数は少なく、広島市以外の22市町においては同行援護が利用しにくいのが現状で、NPO法人さんぽでは、呉市、三原市、安芸高田市、熊野町、府中町、廿日市市といった市町とも契約している。しかしながら、広島県内全域の同行援護をカバーすることになると現実的には難しい。また、県内には同行援護だけでなく、日常生活用具においても困っている方がたくさんいる。 (2)福祉相談室について ●相談室について  診察室から相談室までの距離はちょうどよいと思う。相談室の環境については、パーテーションで区切られているだけなので、相談内容が他の人の耳に入ってしまう可能性があるため気になる。できれば診察室のような個室のほうが理想ではある。 ●派遣している相談員について  情報センター勤務の歩行訓練士と職員の2名で、交代で行っている。相談内容は必ず広島市視覚障害者福祉協会の会長(当事者)に報告し、分からないことがあれば相談という形をとっている。相談員はカウンセリングといった専門的な研修を受けずに、経験を活かして相談対応を行っているのが現状で、視覚障害リハビリテーションに関する知識や経験だけでいいわけではないとは思っている。いずれは研修に行かせたい。   ●紹介後のフィードバック  相談受付シートの内容を広島市視覚障害者福祉協会の会長が確認し、職員に助言している(当事者がスーパーバイザーとしての役割を果たしている)。その後、広島大学病院の福祉相談サポートに相談受付シートを渡している。病院内での主治医の先生へのフィードバックは病院側に任せているが、当事者本人が通院時に情報センターでのことを主治医の先生に伝えられるのが理想だと思う。 ●福祉協会の入会についての考え  広島大学病院の福祉相談から福祉に繋がる方が増えることは、本当に嬉しい。いずれ会員の増加に繋がればいいとは思っている。無理やり会員を増やすのではなく、気持ちを持って接することが入会に繋がると考えている。 (3)影響と課題  次を誰に担ってもらうか、誰を派遣するか。そして、どんな人材をどのように育てていくかが課題として挙げられる。  研修の必要性を感じている一方で、資格を取得しても十分な相談対応ができるかといった心配もある。今後、社会福祉法人となれば相談支援事業を堂々と運営できるが、あわせて部署づくりや相談員の育成といった新たな課題もでてくると思っている。   (4)当事者によるピアサポートについて ●相談の多い内容  失明を宣告されたときの辛い気持ちを相談される方が多い。ポイントとなるのは、本人がどこで踏ん切りがつくかで、障害者手帳をもらう頃には多くの方が一皮むけている。障害者手帳への抵抗感をフィードバックする必要があると思っているが、今のところできていない。   ●当事者が相談業務を担うことについて  視覚障害になろうとしている方の気持ちを理解してあげられるのは、当事者でないかと思っている。当事者団体だからこそ、気持ちを受け止めてあげないといけない。当事者でないと分からないことはたくさんあり、それらを当事者が伝えることは一番説得力がある。相談員に当事者を雇えばいいのかもしれないが、自治体との問題や同行援護等の制度の問題も生じてくる。いろいろな問題を解決しないといけないが、サポートをするのは視覚障害当事者の役割だと思っている。 [写真]ヒアリングの様子 2.医療法人社団 済安堂 井上眼科病院グループ  井上眼科病院、お茶の水・井上眼科クリニック(東京都)のほかに西葛西・井上眼科病院(東京都)、大宮・井上眼科クリニック(埼玉県)、札幌・井上眼科クリニック(北海道)の3つの分院がある [カテゴリー] 一般病院(20床以上)/特別区 [実施日]2022年10月16日 [出席者]  ■井上眼科病院 眼科医 2名 看護師 1名 ITサポート・当事者1) 1名 視能訓練士 1名 メディカルソーシャルワーカー(以下 MSW) 1名 [註]1)看護師の資格あり、院内では事務職員として勤務 [病院内相談室の設置] 1999年〜 [相談形態] 場所:相談内容により相談室(井上眼科病院内)、予診室・医療相談コーナー(御茶ノ水・井上眼科クリニック内)、検査室、診察室、病室等状況に応じて適切な場所で実施 費用:無料(診療報酬上、患者負担となる場合もあり) 担当:医師・看護師・視能訓練士・MSW・ITサポートのいずれかが相談対応2) [註]2)MSWとITサポートは、要予約 [相談実績] ロービジョン外来受診患者(2020年1月〜12月:56例) ロービジョンエイド選定(2020年度:372例) 看護師による医療相談(2020年度:551件) MSWとの面談実績(2020年度:1,654件、そのうち面接729件、電話806件、文書119件) ITサポート実績(2014年11月〜2021年10月:278名に対し合計526回実施) [その他] 「見えにくさ相談会」(日本点字図書館と連携)、「見え方と進学相談会」(東京都の盲学校5校・弱視学級の教職員等と連携)を開催 ○井上眼科病院グループ全体で連携がとられており、西葛西・井上眼科病院(東京都)においては、看護師とMSWによる相談室が開設されている。 (1)「目の相談室」を立ち上げた経緯と道のり ●経緯・道のり  井上眼科病院は1996年ごろからロービジョンケアの必要性を認識し、医師、視能訓練士、看護師、非常勤MSWによる勉強会を開始した。1999年には、全職員を対象に講習会を開き、ロービジョン患者のためのケアシステム「目の相談室」を開設している。この「目の相談室」は、2002年に現理事長である井上賢治先生(以下 井上先生)が当院に戻って以降、さらなる充実が図られることになった。  井上先生の専門である緑内障は、手術をしても予後が良くないケースも多く、井上先生は敗北感を感じていた。2008年に当院の名誉看護部長が日本ロービジョン学会会長として開催した第9回日本ロービジョン学会学術総会をきっかけに、井上先生はロービジョンケアの可能性を感じるとともに、自分も患者のために何かできることはないかと考え始めるようになった。  同年には、西葛西において月1度のロービジョン外来を開設し、2010年には本院においてもロービジョン外来を開設している。当初は、視能訓練士による補助具の選定、非常勤MSWによる福祉相談と看護師による医療相談が行われていたが、2013年に視覚障害当事者によるITサポート、2017年に常勤MSWによる福祉相談も加わり、医療分野のみならず、福祉分野においても常に相談対応できる体制が整えられている。   ●現在の相談体制になるまでの体制について  1996年以前については、視覚障害についての相談等を受け付ける窓口はなかった。手帳の申請等の相談を患者が申し出た場合は、書類係が手続き等を説明していた。  1996年以降は、ロービジョンケアを担当している視能訓練士や看護師に相談が集約するようになっていき、ケア体制が整えられていったが、2017年までは多職種での連携体制は不十分であった。   ●視覚障害当事者を雇用した経緯  井上眼科病院では障害者雇用促進法を受け、かねてより障害者を雇用していた。しかし、眼科専門病院であるにもかかわらず、視覚障害者を雇用していないことに矛盾を感じていた。眼科病院自らが視覚障害者を雇用することにより職員の視覚障害に対する理解が深まり、また視覚障害者の就労上の課題をロービジョンケアに活かすことができるのではないかと考え、視覚障害者当事者の雇用について検討を開始した。  当時、三宅琢先生(Studio Gift Hands代表取締役、NEXT VISION理事)がiPad・iPhoneの視覚障害者向けセミナーを開いていることを知り、これを視覚障害者の職員に担当してもらうことで当事者であることが強みとなるような仕事ができるのではないかと考えた。そこで、障害者人材を紹介する(株)ユニバーサルスタイル(初瀬勇輔代表)に依頼し、ITサポートができる人材として視覚障害者を紹介してもらい雇用に至った。 ●ソーシャルワーカー(MSW)を雇用した経緯  医師・看護師・視能訓練士が日ごろより専門的な知識がないと的確なアドバイスができないことがあり、福祉職の必要性を感じていた。医師・看護師・視能訓練士が直接、福祉施設に繋ぐことも可能ではあるが、一度、福祉相談を挟んでから福祉施設に繋ぐべきであると判断し、眼科分野の対応ができるMSWを探し始め、10年前から非常勤で勤務していたMSWに紹介してもらい常勤のMSWを雇用するに至った。 (2)「目の相談室」の概要 ●「目の相談室」に繋がるまでの過程と内容 ○眼科外来  ロービジョンケアや福祉による支援が必要な患者がいる場合には、まず自身の担当医師に相談する。医師は個別に患者の話を聴き取り、「目の相談室」を利用するための依頼書(資料@)を作成。チェック項目を基に視能訓練士がニーズを聴き取り相談の予約を取り、必要なケア・支援に繋げていく。 〇目の相談室 (1)ロービジョン外来 ロービジョン専門医による診察 (2)補助具の選定 視能訓練士による補助具(ロービジョンエイド)の選定 (3)医療相談 看護師が疾患に対する疑問や質問を受けるとともに生活面、将来的な不安を聴き取ることで心のケアを行う (4)ソーシャルワーカー面談 MSWによる心理的・社会的問題、経済的な問題の解決および調整援助、就労援助、受診援助等 (5)ITサポート 当事者スタッフがIT機器の視覚補助機能を紹介するとともに日常生活に役立つグッズの紹介や日常生活訓練、社会資源活用の情報提供を行う [写真]各種相談室の画像。状況や相談内容に応じて、相談室を選択し使用している。時には診察室を使用することもあり、プライバシーを守る工夫がされている @ 病院 1階 予診室  主に病棟看護師による入院前の聴き取りに使用している A 病院 1階 目の相談室   ロービジョンケアグッズや拡大読書器を備えている。病棟看護師、MSW、薬剤師が交代で常駐している。患者の相談内容に応じて、適切な職種が相談対応を行う B クリニック 19階 コンサルテーションルーム  初診時の問診で使用するほか、MSWによる面接やITサポートで使用している C クリニック 19階 医療相談コーナー  相談は外来看護師が担当している。帰院の際に立ち寄りやすくするため、自動会計機の横に設置している ●不利益なく相談室を利用するための工夫  医師が迷った場合や分からない場合には、まずはロービジョン外来に相談する体制になっている。ロービジョン外来 担当医の考えにより次にどこに繋げるのが適切か判断し、それぞれの専門職種に紹介している。   ●各職種の役割 ○看護師  主に視機能障害が生じている患者・家族の不安等に対応している。特に生活面を中心に不安なこと、期待する視力が得られないことから就労継続、学業継続等の不安に対して傾聴し、医療の連携を行う。  また、入院中の患者には担当看護師が中心となり、継続看護を行い、退院以降の生活面の相談等は医療関係者でカンファレンスを開催。通院時での医療相談はMSWに繋ぐなどしてコーディネーターを担う。 ○視能訓練士  担当医師が作成した「目の相談室」依頼書(資料@)のチェック項目を基に患者に問診し、ニーズを再度確認する。様々あるニーズの中から優先順位、予約状況をみて「目の相談室」の予約をコントロールする。  補助具の選定では、患者のニーズと視機能にあわせて、視能訓練士が光学的補助具、非光学的補助具、遮光眼鏡の選定と、効果的な使用方法を指導する。拡大読書器、日常生活用具の紹介も行う。また、保有視機能による見えにくさについての解説も行う。 ○ソーシャルワーカー(MSW)  担当医師及びロービジョン外来医師の指示により福祉的支援を行う。  ロービジョンケアはリハビリテーションの一領域であり、リハビリテーションを行うには日常生活が送れる程度の所得保障が前提となる。日本の社会保障制度は雇用と一体となっており、所得と就労の課題に対する対応を同時に行うことが多い。近年の非正規雇用者の増加やコロナ禍の影響により患者が突然貧困の状態に陥ることも少なくない。ロービジョンケアに繋げる必要があっても目の前の生活の課題を解決するのが先決で、すぐに福祉施設等に繋げられるわけではなく苦慮している。  当院では就労に関しては、難病の有無に関わらず「療養・就労両立支援に関する勤務情報提供書」(資料A)を基に就業状態を把握し「病状、治療計画、就労上の措置に関する意見書」(資料B)を記載している。会社の上司や人事担当者、保健師とロービジョン外来で面接してもらい事業所の理解を促すこともある。就労継続支援だけでなく、ロービジョンケアや生活機能訓練、職業訓練を安心してできるような環境調整を行っている。 (3)運営上の工夫 ●院内での多職種連携(IPW)  電子カルテに音声パソコンが導入されていないこと、それぞれの専門職種のみでは判断することができないことも多々あるため、月に一度、情報共有部会を開催して多職種間の情報共有を図っている。例えば、患者の支援計画を立てるためには視能訓練士による視機能の評価、ロービジョン外来医からの障害者手帳の取得や障害年金申請のタイミングについての見解等それぞれの専門性からの情報は必要不可欠である。そのためロービジョン外来医、視能訓練士、外来看護師・病棟看護師、MSW、ITサポートが患者の今後の支援の方針について情報共有する形をとっている。 ●資金面  難病外来指導管理料やロービジョン検査判断料のほかに、2020年より指定難病の患者に対しては療養・就労両立支援指導料として報酬を得ることができるようになっているが、ロービジョン部門は、不採算部門であり、保険点数だけで一人の職員を雇うことは難しい。だからこそ、大きな規模の病院がやらないといけないという使命感があってやっている。ただ、これはある程度の規模があるからできることなので、地域の拠点となる病院で同様の取り組みが進んでいけばいいと思う。 ●個人情報保護や契約について  「見えにくさ相談会」、「見え方と進学相談会」を外部施設と連携して行っている。施設側と誓約書を取り交わし、患者には個人情報に関する同意書に記入していただき、当院で保管している。また、誓約書に加えて「SNS等上で発信しない」といった約束事も記載した同意書を別途記載してもらった上で、相談会に参加してもらっている。 ●新しい取り組みに対する職員の反応や工夫  新入社員のオリエンテーションには、特に力を入れている。オリエンテーションの段階で眼科の患者の特徴や心構えといった話を行うほか、盲導犬の体験やシュミレーションゴーグルを使用し、移動や食事の場面での介助を患者役・介助者役になって疑似体験を行う。このような体験を通して、入社直後からロービジョンに対する理解やロービジョンマインドの育成を行うよう心掛けている。これが問題なく運営が行えている理由のひとつかもしれない。 (4)ITサポートについて ●相談を行う上で心がけていること  相談対象の患者は、全盲より保有視力のある弱視者のほうが多い。初めから音声ありきで紹介してしまうと、患者は引いてしまう。できるだけ「見たい」というニーズを大切にして、一文字でも二文字でも見えるような状況を作るようにしている。 ●ITサポートのゴール・工夫していること  遠方から通院される患者が多い傾向で、当院のITサポートだけではIT機器を活用できるまでには至らない。できるだけ地元で教えてもらえる施設や団体を紹介している。  また、ITサポートのゴールをどこにするかについては、現在、模索しているところで、現段階ではカリキュラムを作成し、患者と確認しながら、ゴールを設定していくのが良いのではないかと考えている。今後はどこまで到達すればゴールかを「見える化」することを検討している。   ●視覚障害当事者が働く上で工夫していること  新入社員のオリエンテーションで新入社員の方に当事者である職員が自分の見え方やロービジョンとはどういうことかといったことを話している。その上で、業務上で困ったことがあれば、「ここが見えないので手伝って欲しい」といったように、積極的に周りの職員に声をかけるようにしている。  また、「見えにくさ相談会」の際には、いろいろな職員に関わってもらうことでロービジョンやロービジョンケアについて学んでもらっている。患者のために始めた会が職員にとっても有意義な会になっている。 ●紹介先について  積極的に情報を収集し、直接団体とコンタクトを取り訪問する等、自分の肌感覚で信頼できるところかどうかを見極め紹介している。できるだけ金銭的負担が少ないものを紹介し、場合によっては有償の団体も紹介している。 ●紹介先を探す方法  最も多いのはSNSで認定NPO法人タートル等の複数のメーリングリストに登録して情報収集をしている。コロナ禍前は当事者の集まりに顔を出してネットワーク作りをしていた。 ●子どもの相談  20歳以上の大人がほとんどだが、見えにくさで学業に支障をきたしている学生の対応をすることもある。   ●精神的なサポート  IT機器の活用を紹介するにあたり、普段の生活の様子や環境、関心のあること等を伺う中で、困っていることや不安について表出があるため、IT機器の話題に留まらず精神的な相談もある。 ●患者の満足度  病院でこのようなサポートがあるのはありがたい、見えにくさを理解してもらえ気持ちが楽になった、前向きになった等、好意的な感想があり、満足度は高いものと推測される。 (5)影響と課題 ●視覚障害当事者・ソーシャルワーカー(MSW)雇用後の変化 ○医師の変化  MSWがいることで、医師の働き方について改善がみられた。福祉に関する相談を専門職が担うことで適切な社会資源に繋げることができるようになり非常に助かっている。視覚障害当事者が患者対応の一翼を担うことにより患者からの率直な意見を聞くことができるようになった。 ○視能訓練士、看護師等の職員の変化  MSWやITサポートを雇用する前は、視能訓練士が相談事を抱え込んでいることが多かった。情報や知識はあっても、中途半端な情報である場合もあるのでほんとうは良くないと思っていたが、専門職が入ったことでそれがより鮮明になった。今ではそれぞれの専門職の役割をよく分かった上で連携できるようになっており、プラスの面が大きい。  ITサポートが所属する事務室は、患者に関わる機会は少ないが、視覚に障害のあるITサポートが身近にいることで、どのようなことで困るのかを理解することができている。また、ITサポートの直属の上司は、職場適応援助者(ジョブコーチ)の資格を取得している。 ●相談室を持続していく上での必要なこと、今後の課題  病院としては診療報酬のほうが成果を把握しやすいので、相談支援に対して診療報酬がとれるようになればソーシャルワーカーを雇う眼科病院が増えてくると思う。普及させるのであれば、診療報酬がないと残念ながら広がらない。ロービジョン検査判断料や相談支援で保険点数がとれるようになることが重要だと思う。 (6)その他 ●相談会について  見えにくさがあると、福祉施設の紹介をしても足を運ぶのは大変で、情報提供をしても繋がれずそのまま経過してしまうケースがある。通い慣れた病院で、様々な情報に触れることができれば患者のメリットになると考え、日本点字図書館に打診して「見えにくさ相談会」を実施することになった。また、ロービジョンの子ども達と保護者においても盲学校の説明を聞きに行くのはハードルが高いので、盲学校・弱視学級教職員にご協力いただき「見え方と進学相談会」を開催している。  相談会等の開催を通じて、医療と福祉、医療と教育でお互いの顔が見える関係を築くことは大事であり、スマートサイト活用により医療と福祉の連携がより円滑に行われるようになったと感じている。 資料@ 目の相談室 依頼書(医師)(提供:医療法人社団 済安堂 お茶の水・井上眼科クリニック) ---ここから 患者氏名    様( 歳) 日付 (西暦) 年 月 日 登録番号 依頼医師名 主病名 Gla RP BS AMD DMR ※A 【依頼項目】 □補助具の選定  □遮光眼鏡 □クラッチ □拡大鏡 □オクルア □オクルーダー □LV外来 ※VFQが必要な場合はPtへの説明、同意書へのサインをお願いいたします  □初回(VFQあり)※B □再来 □ソーシャルワーカー面談  □ITサポート □iPhone/iPadの紹介 □アプリ紹介、設定確認 □PC活用方法 身障手帳  級 □該当なし VA 級  VF 級  □等級変更 障害年金 級  □申請希望 ※A Gla:緑内障/RP:網膜色素変性症/BS:眼瞼痙攣/AMD:加齢黄斑変性/DMR:糖尿病網膜症 ※B VFQ:視覚に関連した健康関連QOL(Health-related Quality of Life)を測定する尺度。 眼科疾患が日常生活に与える影響を評価したり、治療やケアの結果を評価したりするのに広く 使用されている。(出典:Qualitest株式会社https://www.qualitest.jp/qol/vfq25.html) ---ここまで 資料A 勤務情報を主治医に提供する際の様式例(提供:医療法人社団 済安堂 お茶の水・井上眼科クリニック) ---ここから (主治医所属・氏名)先生  今後の就業継続の可否、業務の内容について職場で配慮したほうがよいことなどについて、先生にご意見をいただくための従業員の勤務に関する情報です。  どうぞよろしくお願い申し上げます。 従業員氏名 生年月日 年 月 日 住所 職種 ※事務職、自動車の運転手、建設作業員など 職務内容(作業場所・作業内容) □体を使う作業(重作業) □体を使う作業(軽作業) □長時間立位 □暑熱場所での作業 □寒冷場所での作業 □高所作業 □車の運転 □機械の運転・操作 □対人業務 □遠隔地出張(国内) □海外出張 □単身赴任 勤務形態 □常昼勤務 □二交替勤務 □三交替勤務 □その他( ) 勤務時間  時 分 〜 時 分(休憩 時間。週 日間。) (時間外・休日労働の状況: ) (国内・海外出張の状況: ) 通勤方法 通勤時間 □徒歩 □公共交通機関(着座可能) □公共交通機関(着座不可能) □自動車 □その他( ) 通勤時間:( )分 休業可能期間  年 月 日まで( 日間) (給与支給 □有り □無し 傷病手当金●% ) 有給休暇日数  残 日間 その他特記事項 利用可能な制度 □時間単位の年次有給休暇 □傷病休暇・病気休暇 □時差出勤制度 □短時間勤務制度 □在宅勤務(テレワーク) □試し出勤制度 □その他( ) 上記内容を確認しました。 平成 年 月 日 (本人署名) 平成 年 月 日 (会社名) ---ここまで 資料B 治療の状況や就業継続の可否等について主治医の意見を求める際の様式例(診断書と兼用) (提供:医療法人社団 済安堂 お茶の水・井上眼科クリニック) ---ここから 患者氏名 生年月日 年 月 日 住所 病名 現在の症状 (通勤や業務遂行に影響を及ぼし得る症状や薬の副作用等) 治療の予定 (入院治療・通院治療の必要性、今後のスケジュール(半年間、月1回の通院が必要、等)) 退院後/治療中の就業継続の可否 □可(職務の健康への悪影響は見込まれない) □条件付きで可(就業上の措置があれば可能) □現時点で不可(療養の継続が望ましい) 業務の内容について職場で配慮したほうがよいこと(望ましい就業上の措置) 例:重いものを持たない、暑い場所での作業は避ける、車の運転は不可、残業を避ける、長期の出張や海外出張は避ける など 注)提供された勤務情報を踏まえて、医学的見地から必要と考えられる配慮等の記載をお願いします。 その他配慮事項 例:通院時間を確保する、休憩場所を確保する など 注)治療のために必要と考えられる配慮等の記載をお願いします。 上記の措置期間 年 月 日 〜 年 月 日 上記内容を確認しました。 令和 年 月 日 (本人署名) 上記のとおり、診断し、就業継続の可否等に関する意見を提出します。  令和 年 月 日 (主治医署名) (注)この様式は、患者が病状を悪化させることなく治療と就労を両立できるよう、職場での対応を検討するために使用するものです。この書類は、患者本人から会社に提供され、プライバシーに十分配慮して管理されます。 ---ここまで 3.医療法人アウゲン 田辺眼科 (山梨県甲斐市) [カテゴリー] 一般病院(0〜19床) [実施日] 2022年11月19日 [出席者] 眼科医 1名 視能訓練士 1名 歩行訓練士 2名1) [註]1)歩行訓練士のうち1名は元行政機関職員、もう1名は臨床心理士・公認心理師でもあり、特別支援視覚障害領域免許を有しているため教育分野にも明るい [病院内相談室の設置] 2013年〜 [相談形態] 場所: 相談内容に応じて、検査室の一角、診察室、院長室のいずれかの部屋で行う 費用: 無料 担当: 医師・視能訓練士・歩行訓練士・盲学校教諭 (1)相談室を立ち上げた経緯と道のり ●経緯・道のり  2012年に総合病院で勤務していた際に女性の患者から職場を解雇されたので、なんとかして欲しいとの相談を受けた。初めは、医師に相談する話ではないと話をしたが、大学病院でも相談して既に断られているので、ここで断られたら死ぬしかないと訴えられた。外来を止めてまで話を続けるわけにはいかず、どこかに相談しておくからと伝えてその日は帰ってもらうことにした。  さっそく、山梨県内外の視覚障害者の就労を支援する施設等50件にメールを送信してみたものの、手ごたえのある返事を得られなかった。女性は既に盲学校、山梨ライトハウスにも相談に行っていたが、独身であることや両親の存在を理由に、生活保護を受けて3年間かけてまで三療の資格を取得するわけにもいかないとして、三療以外の道に進みたいと希望していた。  困り果てていた頃に認定NPO法人タートルで視覚障害者の就労を支援していた工藤さんから「話を聞いたところ、仕事はできるはずだ」とのメールをもらい、相談にのってもらうことになった。当時は、視覚障害者との親交がなかったことから、視覚障害のある工藤さんがパソコンを使ってメールができることに驚くとともに希望も感じていた。  その後、半年くらい九州地方の眼科医、工藤さんと連絡を取り合い、最終的に女性は4級の障害者手帳を取得し、障害者就労で山梨県の一部上場企業に入職することができた。  女性のケースを通して、医師の診断書が就労や障害者手帳の取得において大事なものであると気づかされるとともに、治療ができなくなった場合であっても、医師がまだ出来ることはあると感じたのが原点となった。 ●視能訓練士と連携した経緯  2013年に父の病院で勤務することを機に、これまでの経験を父に話したところ、院内に相談体制をつくることに対して賛成してくれた。実際に始めたものの、当時は1人で相談を行っていたので、診察が長引いてしまうこともあった。そんな状況から父にこれ以上の継続は難しいと告げられた。  同じ頃に参加した日本ロービジョン学会学術総会で、偶然、知り合いの視能訓練士とすれ違った。それまでその視能訓練士がロービジョン分野をやっていることを知らなかったが、その時に声をかけたことで、院内での相談体制に協力してもらえることになった。   ●歩行訓練士と連携した経緯  はじめは、視能訓練士と2人で相談を行っていたが、次第に子どもの支援において限界を感じるようになっていた。当時は、盲学校と連携していなかったため、学校生活で拡大鏡やiPadを使ったほうがいいとは思っていても、学校に持ち込めずに支援に行き詰ってしまうことがあった。  同じ頃に参加した日本ロービジョン学会学術総会で、この困りごとを相談した岐阜県の視能訓練士から歩行訓練士を紹介してもらうことになった。その時に初めて歩行訓練士という存在を知ることになったが、当時は山梨県に歩行訓練士はいなかった。  時を同じくして自宅から電車で通学し、盲学校へ通学したいという親子からの相談を受けた。2013年末には、紹介してもらった歩行訓練士にお願いして山梨に来てもらい、歩行訓練をしてもらうことになった。この歩行訓練には、山梨ライトハウスの歩行訓練士2)も同席して行われた。この訓練を機に2人の歩行訓練士と連携できることになった。 [註]2)当時は、日本ライトハウス(大阪府大阪市)で歩行訓練士の養成を受けていた。その後、山梨県初の歩行訓練士となっている ●他施設との連携  全盲になると方向や時間の感覚が鈍るといった福祉の専門家からすれば当たり前の常識も医療では初めて耳にすることがたくさんあることを知り、山梨ライトハウスや山梨県立盲学校に連携を依頼した。  しかし、どちらも患者を紹介してもらうのは構わないが、病院に出向くことに関しては断られた。そのため最初は、患者にライトハウスや盲学校を紹介し行くように促すしか方法がなかったが、紹介状を渡しても患者が一向にライトハウスや盲学校に行かないので、時間だけが過ぎていくばかりだった。  そんな時に、ライトハウスの歩行訓練士から病院に出向くことが出来るようになったとの連絡を受けた。そして、盲学校からも、依頼状がしっかりしていれば、盲学校の先生を派遣することができるとの話をもらい、現在のような形で院内での相談体制を構築することができた。 (2)相談体制の概要 ●相談室に行くまでの過程 ○眼科外来  医師が診察室で困りごとを聴き取り、内容に応じてどの専門家のカウンセリングが必要か振り分けて、看護師が相談の予約をとる。時に視能訓練士が振り分けることもあるが、聴き取って振り分けるにはある程度の知識がないと判断はできないと考えている。 ○相談室 (1)視能訓練士(ロービジョンエイドの処方、見え方の工夫) (2)歩行訓練士(各種訓練・日常生活用具及び補装具・就労等の相談) (3)盲学校教諭(就学の相談) (4)看護師(日常生活の相談) [写真]相談に使用される部屋。個室になっており、プライバシーが保たれている。診察室の隣にあるためアクセスもよい ●盲学校との連携  過去の経緯から盲学校と医療側に深い溝ができてしまっており、協力してほしいとお願いをしても、なかなか深い溝を埋めることができずにいた。  数年前に盲学校の校医に就任したことをきっかけに、お互い理解し合うことができ、次第にわだかまりが解けていった。現在では、校医を手伝うといった形で盲学校と緊密な連携がとれている。  さらに3年前から盲学校では、外部専門家という枠でライトハウスの歩行訓練士が盲学校に月2回勤務している。歩行訓練士が児童・生徒の見え方や学校生活での工夫を担任教諭に助言する形ができており、医療・盲学校・視覚障害者支援施設の3者で良好な関係を築けている。 ●精神的なサポートについて  初期の段階での視覚的なアプローチはとても重要である。また、精神面でのケアを含めた視覚障害リハビリテーションは、その後の生活の質(QOL)に大きく影響すると思っている。 ●資金面  人件費として歩行訓練士と視能訓練士に給与と交通費を支払っている。患者は、医師や歩行訓練士、視能訓練士が話を聴いてくれるので数カ月に1度受診してくれている。その度にロービジョン検査判断料やその他検査の診療報酬を算定しているが、月1回のロービジョン検査判断料だけでなく、何か視覚ケアを行うたびに診療報酬を算定できたらと思う。 (3)影響と課題 ●連携後の変化  これ以上の治療が難しくなった患者に対する申し訳ないという医師としての気持ちが、次に繋ぐ道筋をつくることで軽くなるという側面がある。連携することで気持ち的な部分に変化はあったように思う。  また、歩行訓練士と医療が連携したことにより行政においても変化がみられている。歩行訓練士が山梨県にいなかった頃は、白杖の支給を受ける際に、折り畳みか直杖かのどちらかを選ばなければならない上に、次の支給までの2年間は選んだ白杖を使うことになっていた。歩行訓練士からすればそれはおかしいことなのでと役所に交渉して、今では折り畳みと直杖それぞれ1本ずつ支給されるようになった。この白杖の支給は、A市で支給なら、B市でも支給という形で、他の自治体にも広がっている。   ●就労における課題・歩行訓練士の業務における課題  運転をしないと生活できない県においては、目が見えなくなると人生おしまいと言われることが多い。患者の意識もそこにある。そのため、運転できなくなったら仕事もできない、死んでしまうしかないと思い込んでしまう方も少なくない。就労に繋がる道筋があれば、希望を持って歩行訓練やパソコン訓練に励み、本人も習練されるのだが、最後に繋がるべき就労に橋が架けられていないことが山梨県において喫緊の課題となっている。  実際に、山梨県においては、就労支援を1本でやっている機関はない。そのため、就労の相談はまず盲学校にいくが、事務職を希望の場合には独自にいろいろな場所に相談するしかないのが現状になっている。  障害者就業・生活支援センターと連携し就労支援に繋ごうとするが、担当者によっては諦めてしまい、先に進まないことがある。以前は、障害者職業センターが事例を探して、実働部隊である就労・生活支援センターに繋ぐことをしてくれていたが、人事により変わってしまい、その流れは無くなってしまっている。施設や公的な機関も盲学校も人事により人が入れ替わると、前は前、今は今になってしまい困ることも多い。歩行訓練士の立場を越えてやっていることも多く、もどかしく思うことがある。現状では、歩行訓練士が計画相談員や職業相談員の役割を兼ねなくてはいけない状態になっているが、企業との間に入れるわけでもなく、歩行訓練士がそこまでやるという用務でもないが、本来なら障害者職業センターの業務であるところまで歩行訓練士が踏み込まざるを得ないというのが、地方における就労の現状かと思う。  歩行訓練においても、地方ではどの地域も歩行訓練士の数が少なく、実際に歩行訓練が実施できるのは1年後ということも少なくない。また、歩行訓練のほかに中途失明者生活訓練事業、自立訓練事業、中間型アウトリーチによる相談事業等の仕事も、少ない人数の歩行訓練士が支えており、業務量が増えてしまっている。そういう意味でもECLOのような存在がいることで、歩行訓練士が本業である自立訓練事業に専念できたらいいと思う。 ●他病院で相談体制を構築するためのポイント  開業医でやるのが一番上手くいくと思っているが、他の地域で広げるためには地域の中核となる病院で始めるのが効果的だと思う。海外に比べて日本は、眼科へのアクセスがそれほど悪くない。そのため、一度は大きな病院を受診する機会がある。そこで1回でも情報に触れられるといいと思う。  現在、全国の80ある大学病院(眼科)のうち50大学にロービジョン外来があるとされている。つまり、半数以上の大学病院にロービジョン外来があることになる。この大学病院にロービジョン外来はないのですかといったことを患者から言うことがロービジョン外来開設において、効果的かもしれない。それが日視連の役割ではないかと思う。  山梨大学病院にはロービジョン外来があるが、ロービジョン外来が開設されたのは緑内障が専門の医師が新しい教授になってからのこと。日本人の失明原因として一番多い疾患は緑内障である。山梨大学病院では、緑内障で見えにくさに困っている患者がたくさんいることを日々感じているからこそ、教授就任を機にロービジョン外来を開設することになった。  大学病院においては新しく教授が就任するたびに新しいことをやることになるので、そこがアプローチのタイミングとなる。ただし、教授が辞めると同時に止めてしまう場合もあるので、それが大学病院で継続するのに一番ネックとなる。そのため継続するという意味では、開業医のほうが理想的である。 (4)日本版ECLOについて ●ライフステージごとのECLOについて  子どもと高齢者は、視能訓練士がある程度対応できるが、中間層である働き盛りの世代に関しては、就労が絡むため歩行訓練士等の専門家でないと対応が難しい。そのため1人のECLOが全ての世代の相談を受けるのは難しいように思う。  しかしながら、山梨県のような地方においては1人のECLOが何でも知っていないといけない環境にある。都会は人材面でも財政的にも豊かなので、世代別、必要な支援によってより専門性の高いECLOを分けることができると思うが、地方においてそれは現実的ではない。地方には、地方なりの支援方法や工夫があるので、その地域の特性を熟知した者が携わる必要があると思う。   ●日本版ECLOを導入するために必要なこと  ECLOを導入する場合には、誰が責任をとるのかを明らかにする必要がある。ECLOが全ての責任をもつことやクレーム・アクシデントがあった場合に対応するのは、難しく現実的ではない。責任の所在の多くは医者になるだろうが、ECLOの導入にあたってはロービジョン外来の枠組みが必要でないかと思う。   ●日本版ECLO導入における懸念事項  ECLOのような役割を医師である自分が1人でやっているので、ECLOがいたら医師としては楽になる。山梨県には、81の眼科医療施設があるが、うち51施設に常勤の眼科医がいる。そのため山梨県のような規模であっても3人や4人のECLOがいてくれないとパンクしてしまうと思う。そういう意味では、ロービジョンに関心のある視能訓練士もいるので、視能訓練士に本人が何を希望しているのかを聴き取りしてもらい、顔が利く医師が依頼するというのが現実的でないかと思う。   ●当事者によるピアサポート  歩行訓練士、視能訓練士との連携による相談体制前は、網膜色素変性症協会(JRPS)山梨の会長(当事者)に相談を受けてもらっていた。そういった経緯から当事者による相談は、いい相談ができるケースと相談者とフィットできないケースがあると思っている。  例えば網膜色素変性症60代男性と網膜色素変性症30代女性では、全く話が合わない。そのため、いい相談をすることは難しいが、同世代や同性だと話が合うこともある。また、医師に話さない話を沢山話してくれることもある。当事者だからこそ理解できる話は確実にあるので、相談をコーディネートする時にはマッチングを意識した配慮をする必要がある。  一方で、自身の眼疾患しか理解していない場合には問題が生じるケースもある。糖尿病網膜症の患者と緑内障の患者を会わせた際に、他の疾患に対する理解不足で喧嘩になってしまったことがあった。そのため、自身の眼疾患以外の疾患に対しても、ある程度知識をつけておく必要がある。 研究2-2 相談支援の専門職を病院内に配置することに対するニーズ等に関するアンケート調査 1.実施概要 目的 日本において医療と福祉の連携を円滑に行うための相談支援を各地域で進める場合にどのような課題があるかをみる目的で、視覚障害者用補装具適合判定医師研修会を修了した眼科医にアンケートを行い、眼科医と福祉施設とが連携した相談支援がどれくらい実施されているか、また、それに関連する課題は何かを調査した 調査対象 視覚障害者用補装具適合判定医師研修会を修了し、関連する情報交換等のためのメーリングリストに登録している眼科医 約700名を対象にアンケートを実施した 調査方法 Google formを活用して回答用のホームページを設け、メーリングリストにおいてアンケートへの協力を依頼 調査実施期間 2022年11月16日〜12月31日 回収結果 159名より回答を得た。回収率は約23% 2.アンケート調査の結果 以下では、アンケート調査票の設問ごとに集計結果を示し、その特徴と傾向をみる。  なお、設問の前に調査への回答に同意するかどうかを確認したところ、回答者159名全員から同意を得た。 (ア) 中間型アウトリーチを知っているか否か 設問1 中間型アウトリーチをご存じですか。(単一回答) 表1 中間型アウトリーチの認識 選択肢・回答数・構成比(%)の順 初めて聞いた 73名 45.9% 知っている 49名 30.8% 聞いたことはあるが、よく知らない 37名 23.3% 無回答 0名 0.0% 全体 159名 100.0% ○中間型アウトリーチを知っていると答えたのは30.8%(49名)で少数 ○最多は「初めて聞いた」(45.9%)で、「聞いたことはあるが、よく知らない」(23.3%)と合わせると70%近くになる (イ) 福祉職による院内相談支援実施の有無 設問2 医療機関に非医療者が出向いて患者の相談業務対応を行うことを中間型アウトリーチといいますが、貴医院において視覚障害者もしくは視覚障害者を支援する福祉職による院内での相談支援を実施していますか。(単一回答 表2 院内相談支援実施の有無 選択肢・回答数・構成比(%)の順 実施していない 120名 75.5% 実施している 32名 20.1% 知らない 7名 4.4% 無回答 0名 0.0% 全体 159名 100.0% ○実際に院内での相談支援を実施している医院は20.1%にとどまっている ○実施していないとの回答は75.5%を占めた 《参考》中間型アウトリーチの既知と実施の関係 中間型アウトリーチを知っているかどうかとそれを実施しているかどうかをクロス集計した結果は次のとおり。 参考 表1 中間型アウトリーチの既知と実施の関係(名、%) ●知っている 実施している 25名(51.0%) 実施していない 24名(49.0%) 知らない 0名(0.0%) 総数 49名(100.0%) ●知らない 実施している 4名(5.5%) 実施していない 65名(89.0%) 知らない 4名(5.5%) 総数 73名(100.0%) ●聞いたことあるだけ 実施している 3名(8.1%) 実施していない 31名(83.8%) 知らない 3名(8.1%) 総数 37名(100.0%) ●総数 実施している 32名(20.1%) 実施していない 120名(75.5%) 知らない 7名(4.4%) 総数 159名(100.0%) ○中間型アウトリーチについて知らないと答えたところでは、中間型アウトリーチ方式の相談支援を実施していないところが多く80%以上を占める ○ただ、「知っている」と答えたところでも実施していると回答したのは約半数      (ウ) 福祉職による院内相談支援の今後の実施に関する意向 設問3 設問2で「2.実施していない」を選択された方にお尋ねいたします。貴医院において視覚障害者もしくは視覚障害者を支援する福祉職による院内での相談支援ができれば実施したいですか。(単一回答) 表3 院内相談支援に対する意向 選択肢・回答数・構成比(%)の順 実施したい 69名 57.5% 実施は特に考えていない 40名 33.3% わからない 10名 8.3% 無回答 1名 0.8% 全体 120名 100.0% 非該当 39名 ○院内相談支援を実施していない120名のうち、「実施したい」は57.5%と半数を超えているが、「実施は特に考えていない」も33.3%と3分の1を占めている (エ) 福祉職による院内相談支援を実施している医院 設問4 視覚障害者もしくは視覚障害者を支援する福祉職による院内での相談支援を実施している医院をご存じですか。(単一回答) ※知っている場合は、医院名をご記入ください。 表4 院内相談支援実施医院に関する認識 選択肢・回答数・構成比(%)の順 知らない 127名 79.9% 知っている 32名 20.1% 無回答 0名 0.0% 全体 159名 100.0% ○福祉職による院内相談支援を実施している医院について 「知っている」は20.1%にとどまり、「知らない」が79.9%と大半を占める ○「知っている」場合の具体的医院名として29件の記述があった。重複するものを一つにまとめて次に列挙する ・東京女子医科大学病院(東京都新宿区) ・井上眼科病院(東京都千代田区) ・国立成育医療研究センター(東京都世田谷区) ・横浜市立大学附属福浦病院(神奈川県横浜市) ・上岡眼科医院(神奈川県秦野市) ・いけがみ眼科整形外科(神奈川県横須賀市) ・甲府共立病院・甲府共立診療所(山梨県甲府市) ・田辺眼科(山梨県甲斐市) ・浜松医科大学医学部附属病院(静岡県浜松市) ・眼科三宅病院(愛知県名古屋市) ・コスモス眼科(愛知県丹羽郡) ・市立福知山市民病院(京都府福知山市) ・天理よろづ相談所病院(奈良県天理市) ・むさしドリーム眼科(大阪府大阪市) ・大阪医科薬科大学病院(大阪府高槻市) ・神戸市立 神戸アイセンター病院(兵庫県神戸市) ・広島大学病院(広島県広島市) ・小郡第一総合病院(山口県山口市) ・島根大学病院(島根県出雲市) ・すぎもと眼科(高知県安芸市) ・国立高知病院(高知県高知市) ・さが駅前眼科(佐賀県佐賀市) ・いなば眼科クリニック ・さくら眼科 (オ) 福祉職による院内相談支援に関する懸念事項 設問5 視覚障害者もしくは視覚障害者を支援する福祉職による院内での相談支援に関して、気になることを選んでください。(複数回答可) 表5 院内相談支援に関する懸念事項 選択肢・回答数・構成比(%)の順 相談支援に当たる人の人件費の問題 135名 84.9% 相談支援に当たる人の資質及びその確保の問題 130名 81.8% 患者の個人情報保護の問題 68名 42.8% その他 15名 9.4% 無回答 0名 0.0% 全体 159名 100.0% ○福祉職による院内相談支援に関して、気になる事柄を多い順にみると、人件費(84.9%)、相談支援員の資質とその確保(81.8%)の二つが非常に高い ○患者の個人情報の保護も42.8%を占める ○気になる事柄の「その他」として具体的な記述があったのは18件。なお、場所の確保を挙げた記述が5件あり比較的多かった。既に支援を行っているとの記述、必要となる移動や交通の課題の指摘、相談支援を行うための体制や手続きを指摘する記述も複数みられた。重複する内容を一つにまとめて示すと次のとおり ・診療時間には別に個室を設けられない。診療時間外であればクリニック外での相談が適していると考えられる ・相談に使用する部屋や場所の問題 ・自院の交通アクセスが悪いため、自院を提供するメリットを感じない ・医院までの移動時の安全確保 ・中間型アウトリーチでは移動を伴うのでその予算も必要かと思う ・内容によっては院外の専門機関に相談した方が早いことがあるのではないか。系統だった対応をしてくれるのかどうか。相談支援の体制をだれがどのように整えるのか ・そもそもどこへ、誰へ、どのように依頼するのがよいか分からない ・他職員からの理解(仕事量の差・相談にかかる時間等に理解が必要) ・国公立大学病院でも契約可能か(眼鏡店職員は勤務不可) ・相談支援にあたる方の診療参加にあたっての院内手続き ・依頼したり、フォローするための手間や時間の問題 《参考》 中間型アウトリーチの実施の有無と懸念事項の関係 中間型アウトリーチの相談支援を実施している・実施していない・知らないの3グループ別に懸念事項をみると次のとおり。 参考表2 院内相談支援の実施の有無と懸念事項の関係(名、%) ●個人情報保護 全体 68名(42.8%) 実施している 10名(31.2%) 実施していない 54名(45.0%) 知らない 4名(57.1%) ●相談員の資質・確保 全体 130名(81.8%) 実施している 22名(68.8%) 実施していない 102名(85.0%) 知らない 6名(85.7%) ●相談員の人件費 全体 135名(84.9%) 実施している 24名(75.0%) 実施していない 105名(87.5%) 知らない 6名(85.7%) ●その他 全体 15名(9.4%) 実施している 3名(9.4%) 実施していない 12名(10.0%) 知らない 0名(0.0%) ●該当数 全体 159名(100.0%) 実施している 32名(100.0%) 実施していない 120名(100.0%) 知らない 7名(100.0%) ○割合に着目すると、いずれの懸念事項においても「実施している」の割合が「実施していない」に比べて相対的に低い傾向にある ○とはいえ、「実施している」においても相談員の人件費が75.0%、相談員の資質・確保が68.8%と高い割合を占めている   (カ) 視覚障害者団体との交流 設問6 地域の視覚障害者で構成されている団体と日常的に交流がありますか。(単一回答) ※交流している場合は、団体名をご記入ください。 表6 視覚障害者団体との交流 選択肢・回答数・構成比(%)の順 名前は知っているが、交流まではしていない 75名 47.2% まったくわからない 46名 28.9% 交流している 38名 23.9% 無回答 0名 0.0% 全体 159名 100.0% ○視覚障害者団体と交流していると答えたのは23.9%で少数 ○最多は「名前は知っているが、交流まではしていない」の47.2%。「まったくわからない」も28.9%で「交流している」を上回っている ○交流している視覚障害者団体として具体的記述があったものは37件。なお、日視連およびその加盟団体を上げた記述が10件、日本網膜色素変性症協会という記述が9件あった。重複するものを一つにまとめて示すと次のとおり ・日本視覚障害者団体連合 ・日視連加盟団体(山梨県視覚障がい者福祉協会、京都府視覚障害者協会、広島市視覚障害者福祉協会、岡山県視覚障害者協会、北九州市視覚障害者自立推進協会あいず、佐賀県視覚障害者団体連合会) ・日本弱視者ネットワーク(旧 弱視問題研究会) ・日本網膜色素変性症協会(JRPS) ・視覚障害者の横の会(網膜色素変性症患者会) ・黄斑変性友の会 ・静岡視覚障害福祉推進協議会 ・広島視覚障がい者の問題を考える会 ・NPO法人 愛知視覚障害者援護促進協議会 ・NPO法人 タートル ・NPO法人 視覚障がい者支援協会・ひかりの森 ・NPO法人 アイサイトさいたま ・NPO法人 視覚障害者支援ネット・チームまなざし ・ロービジョンラボ ・心眼ハートあいず ・かがやきの会 ・静岡県視覚障害者情報支援センター ・ルミエールサロン(視覚障害者向け機器展示室) ・チャレンジド・ヨガ(視覚障害者のためのヨガクラス) コラム  中間型アウトリーチ  中間型アウトリーチとは、支援者が眼科等視覚障害者と接点がある場所に出向いて、相談支援や情報提供を行うこと。  従来型アウトリーチでは、支援者が視覚障害者の自宅を訪問して支援を行うが、中間型アウトリーチでは日常よく訪れる場所で行うことができるので、困り感を感じていない、感じにくい状況にある場合には、気軽に相談支援や情報提供を受けることができる。 [図]中間型アウトリーチでの視覚障害者、支援者、病院の関係図 支援者 ↓ 病院 ↑ 患者 3.アンケート調査の結果にみられる現状と課題  眼科医と福祉職との連携による相談支援を広げていくとの観点から、今回の眼科医に対するアンケート調査結果にみられる現状と課題を概観する。  なお、今回、回答した眼科医は比較的ロービジョンケアに関心のある眼科医であると思われる。そのため、眼科医全体の特徴や傾向を示すものとは言えない。 ● 連携した相談支援に関する広報 1 「中間型アウトリーチを知っている」と答えたのは30.8%と少数だが、眼科医全体ではさらに低いと推測される。 [図]≪円グラフ≫ 問1 中間型アウトリーチの認識 初めて聞いた 45.9% 知っている 30.8% 聞いたことはあるが、よく知らない 23.3% 2 まずは福祉側と連携した相談支援について知ってもらうための広報が必要。その際、次の二面が手がかりとなる。 (a) 既に連携した相談支援を行っている医院を知ってもらうこと (b) 地域における視覚障害関係団体と交流すること  二面に関する現状は次のとおりで、広報の難しさを感じさせる結果だが、医院相互の情報交換、また、医院と視覚障害者関係団体との情報交換の機会を設け、それを広げていくための工夫が必要といえる。 (a) 「既に行っている医院を知っている」のは20.1%、「知らない」との回答が79.9% (b) 「交流している」23.9%、「名前は知っているが、交流まではしていない」47.2%、「まったくわからない」28.9% [図]≪円グラフ≫ 問4 院内で相談支援を実施している医院 知っている 20.1% 知らない 79.9% ● 連携した相談支援の実施に向けた取り組み 1  院内での福祉職による相談支援を実施している医院は20.1%。一方、研究4の全国の視覚障害当事者団体に対して行った相談事業のアンケートからは、日視連加盟団体のうち病院訪問型相談を実施している団体は全体の23.3%であった。  どちらもまだ低い割合で、既に実施しているところを参考に、一つずつ実施事例を増やしていく方策が現実的である。また、既に実施しているところで課題となっている事柄の解決策を検討することも必要である。 2  相談支援を行うに際しての懸念事項としては、相談員の人件費(84.9%)、相談員の資質とその確保(81.8%)が高い。 3  相談員の人件費については、(a)医療側の診療報酬、(b)福祉側の相談事業への公的補助の両面から検討することが必要。また、既存の制度のフル活用、制度的改善の要求の両面が必要。  相談員の資質とその確保については、養成研修のカリキュラム等と合わせて、研修の実施方法を示して実践に繋げていくことが必要。その際、英国のECLOおよび日本の相談事例を参考にする。  その他、相談のための場所の確保等についても先行事例を参考にしつつ検討。 [図]≪棒グラフ≫ 表5 院内での相談支援に関して気になること 相談支援に当たる人の人件費の問題 84.9% 相談支援に当たる人の資質及びその確保の問題 81.8% 患者さんの個人情報保護の問題 42.8% その他 9.4% 研究3 日本版ECLOの資質能力に関する調査研究 目的  英国では、ECLO は相談業務とリンカー業務の2つをこなす専門家であり、彼らに必要な資質能力はある程度明示されており、研修のためのカリキュラムや現任者の情報交換の場等も構築されている。しかし、日本と英国では、医療・福祉・特別支援教育制度や文化的な文脈が異なるため、そのまま適応可能なわけではない。また、ECLOではないが、日本の眼科病院の中にも、医療スタッフとは別に、相談支援の専門家を配置している機関が存在している。本調査では、日本でECLOのように病院内で相談支援の役割を担っている専門家に対しヒアリングを行い、彼らが相談支援活動を行う上で、必要だと考えている資質およびスキルについて明らかにする。 1.実施概要 調査対象 Aさん(歩行訓練士・視能訓練士、病院勤務) Bさん(心理カウンセラー・産業カウンセラー・公認心理師、病院勤務)1) Cさん(社会福祉士、元大学附属病院眼科 相談員) Dさん(相談員・当事者、情報提供施設勤務)2) [註] 1)医師の診察に同席した方法で相談支援を行っている 2)視覚障害になる前は障害児教育の免許を取得し、公立学校で教員をしていた 調査方法 WEB会議による聞き取り調査を実施した 調査実施期間 2022年12月19日、12月23日 主なヒアリング項目 (1)現状と課題 (2)日本におけるECLOの資質・スキル (3)ECLO制度運営にあたって必要なこと (4)ライフステージごとのECLOの必要性 (5)診察に同席することのメリット・デメリット (6)地域を理解したECLOの必要性 (7)視覚障害当事者ECLOやピアカウンセリングの可能性 ●当事者による情報提供・精神的ケア ●当事者の相談員として注意していること ●当事者の会やピアカウンセリングの紹介について 2.ヒアリング結果 (1)現状と課題  現場での現状と課題を尋ねた。 ●時間に関すること Aさん ・福祉では1回の訪問で2時間、面談でも1時間位は確保することが多いが、医療機関においては長くても30分程度しか時間を確保できない。これまでの辛い思いやもどかしい思いを吐き出さないと、情報提供を行っても相談者の耳に入らないことがあるので十分な時間の確保が必要。 Bさん ・担当している外来の勤務が、月1回となっているため、勤務日に必ずしも心理支援や詳細な情報提供が必要な患者さんがいるとは限らない。そのため対応すべきタイミングで不在となってしまい必要な支援が受診日にできないという問題が生じている。 ●場所に関すること Aさん ・メディカルソーシャルワーカー(MSW)が在籍している病院では相談のための部屋が確保されているが、検査機器が多い眼科においては、場所の確保は難しい問題である。 ・診察室から離れた場所に相談室がある場合には、移動による時間的ロスが生じてしまう。 ・障害年金や各種制度を使う際には、課税世帯・非課税世帯といった個人情報に関わる話をする必要があるため、プライバシーを確保できる環境が理想だと思う。 ●早期の情報提供の必要性 Cさん ・医療現場に身を置いて一番に驚いたのが、手帳未取得の基準該当者と就労している手帳該当者の数。就労している方の多くは手帳を取得したら職場に知られるのではないかと思い込んで、手帳取得を拒む。他にも手帳取得を拒む理由として、「困り感がない」「手帳に対するネガティブな意識がある」といったことが聞かれる。医師から手帳に該当することを告げられていないことや見え方に関する説明がないこと、医師が説明していても本人の理解に繋がっていないということが原因として考えられるが、患者さんも見えにくさに慣れてしまうため、困っていても困り感を感じることもなく、時間だけが過ぎていってしまう。 ・担当医師に障害年金の該当者をピックアップしてもらい、該当患者と障害年金の話をしてきたが、手帳は拒んでも年金を拒む方はほとんどいなかった。就労している場合には、あとどれくらい勤められるかといった不安を抱えていることが多いが、具体的な障害年金の金額を計算し提示しながら、年金があれば生活設計が成り立つことを提案すると、多くの方が障害年金の申請をされる。 ●育児・教育に関する相談支援 Aさん ・相談者が泣いてしまった時に「泣かせてくれてありがとう」と相談者から声をかけてもらったことがあった。それ以降は、泣くことは大事なことで人の前で泣けることは大切なことだと思えるようになった。お母さんも言葉にすることで気持ちを整理され、会う度に表情が変わっていくような感じがしている。教育の専門家ではないが、話を聞いたほうがいいと思う時には聞くように心がけている。 ・最初から盲学校の話をしてしまうと、親御さんも抵抗があるので、下話をしてから盲学校の先生に面談に来てもらうことが多い。ご家族やご本人の様子を見ながら必要な情報提供をするようにしている。 Bさん ・お子さんが視覚障害という親御さんはいろいろな葛藤を抱えている。母親からすればなおさらで、障害や病気を子どもに負わせてしまったという罪悪感を、意識していない深いレベルで抱えている。その反動から「一生私が面倒を看る」「私の生活を犠牲にしても一人前にしなければ」といった悲壮な決意をされてしまっていることもあるが、支援施設や相談する場所、補装具・日常生活用具を紹介しながら、決して一人で抱えることはしないでと伝えるようにしている。 ・保護者の相談の場合に「お母さんはこうですよね、お父さんはこうですよね」となりがちだが、心理の世界においては、あくまで目の前に相談に来た人がクライアントという原則がある。お子さんの話をしていても、常に目の前にいるクライアントというイメージで話をしている。視覚障害では、本人は何も話さずに家族がたくさん話をするパターンが多いが、その場合には周りの家族が何か困っているのだと思う。可能であれば、本人と家族を別にして話を聞くようにしている。 (2)日本におけるECLOの資質・スキル  現場目線で考えられるECLOの資質やスキルについて尋ねた。 ●医学・心理学に関する知識 ・障害に繋がるような眼科疾患の特徴や進行の様子などの知識 ・視力や視野等の検査結果の書き方 ・検査結果から見え方や困っていることを読み取る力 ・専門用語を使わずに検査結果を相手が理解しやすい言葉で伝える力 ・カウンセリングに必要な心理学やカウンセリング方法に関する知識 ●福祉に関する知識 ・身体障害者手帳や障害年金を十分に理解していること ・国の制度、各自治体によって異なる制度があることを念頭に置いて説明できること ・障害者が生活する上で必要な福祉制度や法律の知識 ●視覚障害リハビリテーションに関する知識 ・視覚障害リハビリテーションでできること・できないことの理解 ・ライフステージを見据えた支援先及び相談先 ・補装具および日常生活用具に関する知識 ・歩行訓練士が在宅で指導するような生活上のちょっとした工夫 ●教育・就労 ・教育や就労の支援先及び相談先 ・視覚障害児教育や視覚障害者就労の現状の理解 ・視覚障害のある児童や生徒の進路 ・視覚障害者就労の制度 ・優先順位を整理しながら学校や職場に対して必要な支援を的確に助言できる力 ●必要な能力・資質 ・コミュニケーション力 ・相談者が自宅でどのような生活を送っているのかを想像する力 ・質問の内容の変え方や聞き方 ・スキルアップやブラッシュアップを厭わない態度 ・患者さんと支援者・関係者を調整しコーディネートする力 ・患者の心理に応じた対応力があり、押し付けずに寄り添えること ・自分の能力で足りるか、上級者や専門心理職へリファーすべきかを見極められる能力 ・客観的に自分を観察・分析できる能力 (3)ECLO制度運営にあたって必要なこと  ECLO制度の運営にあたって考えられる養成時や資格取得後の必要事項について尋ねた。 ●今ある社会資源を活かす Aさん ・歩行訓練士や視能訓練士など既に視覚障害リハビリテーションやロービジョンケアに携わっている者に携わってもらうのが、社会資源を活かす意味でも理想である。 Bさん ・日本において現状では、病院内で活動する者は基本的に医療職で、国家資格のような法律での縛りを受ける職種である。そのため基本資格が必要になる可能性がある。 ●心理的なケアの必要性 Aさん ・周りの職員や仲間とその日にあった出来事を共有したり、同じ認識をもって話を聞いてもらうことはとても大切だと思う。 Bさん ・他者の支援をするには、自分自身をある程度、心身ともに満足できる状態に保っておく必要がある。良いコンディションに保つためには、時には自分がカウンセリングやコンサルテーションを受けることも大事。また、どこかに所在や居場所があること、10から100まで説明しなくても、代名詞で説明しても通じるような仲間がいることが力を与えてくれる。このような体制を構築することも大切に思う。 ●資格取得後のフォローアップ Aさん ・資格取得後も質を担保するための定期的な研修の機会が必要だと思う。 Bさん ・英国のECLOは、入職後にOJT3)やスキルアップの機会が保障されている。日本においても同様の機会が設けられるのであれば、養成時に必ずしも資格要件は必要ないと思う。OJTや研修の機会が難しい場合には、募集の時点である程度の資格要件は必要に思う。 [註]3)現場の実務を通して仕事を教える研修方法 ●身分保障・給与について Aさん ・身分保障と対価に合った給与がもらえることは、仕事を続けていく上で重要。非常勤と正職員とでは、社会的な信用面でも大きな違いがある。ECLOが活躍するためには最低限の給与と身分保障は、重要な問題になると思う。 (4)ライフステージごとのECLOの必要性  英国では、QTVI(Qualified Teacher of the Visually Impaired)と呼ばれる視覚障害の専門教員としての資格を有する者がECLOと連携しながら学齢期の子ども達の教育・生活支援を行っている。また、視覚障害者の就労においてもECLOを通じてRNIBと連携した就労支援が行われている。日本にECLOを導入する場合においても、相談者のライフステージに合った支援が必要になるが、教育や就労に特化したECLOは必要になるのか、現場での経験を含めて意見を求めた。 ○教育 必要である Cさん ・子どもの支援においては、教育委員会の理解をはじめ様々な課題が挙がっている。全国的にも視覚障害児支援は、大変な状況にあると感じている。教育版ECLOも必要ではないかと思う。 Dさん ・地域の学校で教育を受けているロービジョン者もいるが、特別支援学校による地域の学校への支援が上手くいっていないという話も聞く。教育分野においても組織的な支援を行えることが、見えにくさを抱える地域の子ども達にとって必要なことである。そのような意味でも教育に特化した存在は必要だと考えている。 ○就労 必要である Cさん ・就労においては就労支援施設との関わりが大きいが、視覚障害について詳しくないことが多い。そのため支援施設から会社に対して助言することは難しい。また、障害者に対して否定的な会社や理解を示していても支援機器の購入までは至らないといったケースもよく見られる。そこを動かすためには、医療との連携が不可欠で医師からの意見書がないと突破口は開けない。そのため、就労において医療との連携のキーマンとなる人が必要と考える。 Dさん ・重度の視覚障害者になると就労の機会は少ないように思う。視覚障害者の雇用のためにも就労に特化したECLOはあってもいいと思う。 ○必要でない Aさん ・入口のところは年齢を分けずにECLOが対応しても、年齢に応じた支援機関先や社会資源を知っているようであれば問題はないように思う。 Bさん ・ECLOはそれぞれの専門特化されたところに仕分けして、的確な支援先に繋ぐことができる能力があれば問題ないと認識している。ECLOが何もかも抱え込む必要はなく、むしろ抱えてはいけないと思っている。ECLOにおいては専門特化しないほうがいいように思う。 (5)診察に同席することのメリット・デメリット  英国のECLOは、失明の可能性の告知をする際に診察に同席している。ヒアリング対象者の中にも、診察室に同席して支援を行ってきた者もいることから、診察に同席することのメリット、デメリット(診察に同席しないことのメリット)を尋ねた。 ●メリット Aさん ・先生から「相談室に寄って帰ってね」と言われて、患者さんひとりで相談室に来るのと、診察の中でこの後話す担当者を紹介してもらうのでは印象が違う。目の前で先生から紹介してもらえると患者さんの信頼が得られる。 Bさん ・診察前に医師と一緒に紹介状や検査データを確認できることがメリットのひとつだと思う。最初は無理だったが徐々に眼科のデータも読めるようになって、今はOCT(眼底三次元画像解析)などの画像結果もある程度分かるようになった。検査結果を客観的に見つつ、医師を交えてディスカッションしながら患者に接していくことができるという意味で診察に同席する価値はあると感じている。 ●デメリット(診察に同席しないことのメリット) Bさん ・先入観を持たずに相談者の話を聞けることが挙げられると思う。 (6)地域を理解したECLOの必要性  日本の視覚障害者の支援においては、地域の支援機関や盲学校、当事者団体、情報提供施設がそれぞれ熱意をもって支援してきた歴史がある。2010年以降は、スマートサイトをきっかけに医療・福祉・教育が連携を始めており、地域を主体とした視覚障害者支援は高まりつつある。このような背景を踏まえ、地域を理解したECLO養成の必要性を尋ねた。 ●必要である Aさん ・身体障害者手帳1級・2級の場合には医療費免除があるが、地域によっては3級であっても医療費免除になることもある。細かい部分が市町村ごとで異なることから、地域をよく理解した方がECLOになるメリットはある ・地域によって家屋の特徴も異なるので、その地域のことをある程度は分かっている必要がある。 Cさん ・相談者の思いを受けとめて情報提供するという意味では、地域性はなくてもいいように思うが、地域で相談できる場所のほうが、正しい情報を提供できる。また、私は当事者同士の集まりに参加して、自分も明るく生きていけるようになれたと実感することが最終的なゴールだと思っているので、そこに辿り着くためには地域性が必要になると思っている。 Dさん ・支援者に相談したいとなった時に、すぐに会えるという意味では地域性はあったほうがいいように思う。 ●必要でない Aさん ・電話相談専門員を担当しているが、表情は見えなくても声のトーンで分かることもあると思っている。また、見えないからこそ相手も話をしやすいといった、電話相談ならではのメリットもある。事前に居住地域や主訴が分かりさえすれば十分対応できる。そのためには、全国の社会資源との繋がりや各県の歩行訓練士を知っていることが前提となる。 Bさん ・理想は、その地方に生まれ育った方だと思う。視覚障害リハビリテーションには地域独特のルールがある。例えば、大都市ではガイドヘルパーは固定しないとか指名しないことがあるが、地方においてはお抱えのガイドヘルパーがいて、直接連絡を取っているところもある。そのため地域でやっていくためには、実際に地域に行って教えてもらう必要がある。おそらく経験を積めばできるようになるし、その地域の文化や歴史を大事にしようという心があればどんな人でもやっていけると思う。 (7)視覚障害当事者ECLOやピアカウンセリングの可能性  英国のECLOのうち、5割は視覚障害当事者だと言われている。院内での相談支援の経験を踏まえて、日本においても当事者のECLOが活躍する可能性について意見を求めた。 ●当事者による情報提供・精神的ケア Aさん ・視覚障害者の中には、自分の経験を語り、無意識にこうあるべきと押し付けてしまう方が見られる。一方で当事者のメリットもあるので、晴眼者と当事者のそれぞれがメリットを活かしていければいいと思う。 Bさん ・障害の有無に関わらず人によって向き不向きがある。また、当事者だからこそ巻き込まれやすいといったケースも多いと思う。 ・自己開示の技術を習得しておかないと、自分の経験を熱く語ってしまったり、無意識に圧をかけたりということが起こりがちになる。そのため相談者に「この人の体験が唯一の正しい生き方」のように受け取られやすくなる。 ・当事者としての生の体験が生きるし、当事者だからこそ伝えられることがある。相談者の安心感も大きいと思う。 Cさん ・患者さんが受け入れられるしっかりとした情報を提供できるのであれば、当事者であっても問題ないかと思う。 ●当事者の相談員として注意していること Dさん ・中途失明のためロービジョンの時期と全く見えなくなった時期の両方を経験してきているので、ある程度は同じ場面を共有できている。視覚障害者は、見え方の段階で必要とする情報は異なるため、情報の出し方やタイミングが求められる。相談員は強要せずに、相談者が自発的に一歩を踏み出すことができるようなきっかけを作ってあげることが大切なように思う。 ・当事者であることをはじめに出すと引かれる方もいるので、当事者であることを伝えずに相談に入るようにしている。会話の中で当事者だと気づかれることもあれば、相談の途中や最後に自分が同じ当事者だと明かすこともある。打ち明けるタイミングがあるように思う。 ・ピアカウンセリングの講習会で聞いた「当事者に寄り添って力になれるのもピアだが、一番傷つけるのもピアである」という言葉を大切に相談に臨んでいる。相談者にとって、晴眼者の話は「自分の気持ちは分からない!」と跳ねのけることができるけれども、同じ当事者の話は「自分の気持ちは分からない!」とは言えないので逃げ場がない。場合によっては相談者を追い詰めてしまうことになるので、相談を行う時にはいつも心がけている。 ●当事者の会やピアカウンセリングの紹介について Aさん ・病院施設内にピアカウンセラーがいるので、他の見えない人はどんなふうに生活しているのだろうと尋ねられた場合や身体障害者手帳の説明をした後に手帳を活用されている方の話を聞いてみませんかと声を掛ける時には、ピアカウンセラーと話をしてみませんかと提案するが、半分以上は断られる。また、地元の当事者の会を案内することもあるが、年寄りばかりでみんな杖を持っていたので、自分の行く末が不安になり落ち込んでしまったという話も聞く。当事者同士だから会えばみんなが元気になれるというわけではないのかと思う。 Bさん ・他の視覚障害当事者に会いたいという方には、何らかの形で紹介できたらいいと思っているが、マッチングは非常に大事だと思う。以前、患者会を紹介された方が、落ち込んでいる時期に急に元気な会に放り込まれてしまい、自分は絶対こんな風にはなれないと、かえって辛い思いをされた方がいた。何らかの会に案内する時には、どなたか1人でもいいから新しく紹介する方と合いそうな人をまず紹介し、その方と関係ができた状態で会に行ってもらうのが理想だと思う。 研究4 視覚障害当事者が日本版ECLO業務を担う意義や課題に関する調査研究 目的  英国では、視覚障害者当事者がECLOとして活躍しており、ピアサポートを行っている。日本でも、患者と同じ立場の障害のある専門家がピアサポートやピアカウンセリングを行うことが評価されており、福祉制度の中にも位置づけられている。日本版ECLO制度を検討する際、制度設計の段階から障害当事者参加の意義や可能性等を検討することは、共生社会を考える上でも重要である。また、視覚障害者の職域拡大の観点からも意義深いと考えられる。そこで、視覚障害当事者が医療機関において相談業務を行うことの意義や課題を、ヒアリング調査やアンケート調査を通して、明らかにする。研究4-1では、公認心理師資格等を有するピアカウンセラーに対して、研究4-2では、医療従事者として勤務している視覚障害当事者に対して、ヒアリング調査を実施する。また、研究4-3では、全国の視覚障害当事者団体に対して、相談事業実施状況を調査する。 研究4-1 公認心理師資格等を有するピアカウンセラーに対するヒアリング調査 1.実施概要 調査対象 Aさん(障害者職業カウンセラー、ロービジョン・中途) Bさん(元 特別支援学校教諭、全盲・先天) Cさん(スクールカウンセラー、全盲・中途) Dさん(視覚障害者入所施設 社会福祉士、全盲・先天) Eさん(情報提供施設 看護師、ロービジョン・中途) Fさん(相談支援センター 社会福祉士・看護師、ロービジョン・中途) 調査方法 WEB会議による聞き取り調査を実施した 調査実施期間 2022年11月24日〜12月9日 主なヒアリング項目 (1)当事者が相談に携わるメリット (2)当事者が相談に携わる上で必要なスキル・知識 (3)当事者が相談に携わる時に注意すべきこと・心がけていること (4)現在受けている支援や工夫 (5)必要な支援や訓練について 2.ヒアリング結果 (1)当事者が相談に携わるメリット ・自分の経験を基に同じ立場で共感できる ・一緒に悲しむことができる ・相談者の心理状態をより正確にとらえることができる ・相談者の感覚や悩みが理解できる ・親近感や安心感が湧く ・様々な場で活躍している視覚障害者の情報を提供できる ・視覚障害者の生活上の工夫を話すことができる ・相談者が必要とする情報を提供できる ・視覚障害があっても働いている人がいることを知ってもらえる ・視覚情報に頼らずに相手の声の抑揚で気持ちを把握するので、見た目による先入観がない分、相談内容に集中できる (2)当事者が相談に携わる上で必要なスキル・知識 ・周りにサポートを依頼する方法 ・糖尿病網膜症、緑内障、網膜色素変性症等の眼科疾患に関する知識 ・視覚障害(先天・中途、全盲・ロービジョン、見えにくさ等)に関する知識 ・精神障害、発達障害、知的障害に関する知識 ・眼科以外の代表的な疾患の知識 ・障害福祉サービスや福祉制度に関する知識 ・心理に関する知識やカウンセリングの技法 ・相談者に合わせてわかりやすく話す力 ・中途失明の心理的反応に関する知識 ・白杖等の補装具や日常生活用具に関する知識 ・視覚障害者支援機関との情報と繋がり ・相談者のライフステージやニーズ、社会的状況を把握し、適切な情報提供及び專門機関へ繋ぐ力 (3)当事者が相談に携わる時に注意すべきこと・心がけていること ・自分の経験を話しすぎないこと ・相談者の話を傾聴すること ・視覚障害であることを全面に出さずに相談員として関わる ・先天性と中途で考え方や価値観が違うことや個人によって見え方が異なることを念頭において携わる ・一度で終わらせずに何度か相談を行うことでお互いの信頼関係が生まれると思っている ・見えなくなることを自分で受け止めるだけでも時間が相当かかる。そんな時に相談員が視覚障害者であることを伝えてしまうと、怒りや悔しい気持ちを吐き出すことができなくなってしまうだけでなく、より傷つけてしまう可能性もある。そのため相談者から聞かれるまでは視覚障害者であることを伝えないようにしている ・自分の経験や知識を相談者に押し付けるのではなく、相談者の話を聞いて気持ちを整理してもらうことを大切にしている ・8割一緒に悲しみ、2割で視覚障害があっても働くこと、学ぶこと、日常生活を楽しく過ごすことができることを伝えるようにしている ・相談の間はメモをとらないようにして、相手の相談に集中している (4)現在受けている支援や工夫 ●移動 ・会議等で部屋を移動する際は職員に移動の補助をお願いしている ・視覚障害者歩行誘導ソフトマット「歩導くん」の設置 ●パソコン・事務作業 ・相談記録の代筆・代読や書式のあてはめ ・紙書類の代筆・代読のサポート ・書類の誤字脱字の確認及び修正 ・相談スケジュールの管理 ・音声読み上げスクリーンリーダー「PC-Talker」「JAWS」の導入 ・業務用パソコンとメモ用パソコンの支給 ●相談体制 ・利用者の自宅へ訪問する時は、2人1組で行っている ・担当の先生が同席して一緒にカウンセリングを行っている ●その他 ・3年毎に他県への異動があるが、本部に配慮してもらい12年間異動していない (5)必要な支援や訓練について ●必要な訓練 ・歩行訓練 ・コミュニケーション訓練(ICT訓練) ●必要な支援 ・業務用システムのアクセシビリティー及びサポート体制の構築 ・職場適応援助者(ジョブコーチ)支援 ・代筆・代読支援 ・書類作成のサポート(レイアウト調整、誤字脱字の確認) ●その他 ・相談対応している時は、自分でメモを取ることができるので、サポートは必要時のみで十分 コラム  公認心理師  公認心理師とは、保健医療、福祉、教育、その他の分野において、心理学に関する専門的知識および技術をもって、助言や指導、援助、分析等を業とする専門職である。  心理系の資格といえばこれまで民間資格である「臨床心理士」が代表的だったが、国民の心の健康を保持し増進をはかることを目的に2015年9月9日に公認心理師法が成立し、2017年9月15日に同法が施行されたことで、国内で初めてとなる、心理職の国家資格「公認心理師」が誕生した。2022年12月末時点で69,229名の公認心理師が登録されている。 日本公認心理師協会ホームページアドレス:https://jacpp.or.jp/index.php 研究4-2 医療従事者として勤務している視覚障害当事者に対するヒアリング調査 1.実施概要 調査対象 視覚障害をもつ医療従事者の会(ゆいまーる)  Aさん(医師免許、精神科専門医、全盲・中途)  Bさん(医師免許、精神科専門医、全盲・中途) 調査方法 WEB会議による聞き取り調査を実施した 調査実施期間 2022年12月1日 主なヒアリング項目 (1)当事者が相談に携わるメリット (2)中途で視覚障害となった時の精神的なケアの重要性について (3)心理ケアの早期介入による精神疾患の予防効果について (4)当事者に出会うべきタイミング・出会うべきでないタイミング (5)自分の障害を患者に伝えることについて (6)視覚障害者が医療機関で働く上での困難・必要な支援 (7)視覚障害者が相談に携わる際に注意すべきこと・必要なスキル (8)ECLOの取り組みに精神科医が関わる意義 2.ヒアリング結果 (1)当事者が相談に携わるメリット ・自身の体験を通して共感ができるとともに、その共感を相手に伝えることができる ・福祉制度や補装具・日常生活用具を紹介しやすい ・視覚障害者のネットワークに案内しやすい ・看護師等の医療資格を有する視覚障害者1)が意欲を持って取り組める新たな仕事になる可能性がある [註]1)現在、会に所属する看護師12名のうち、医療機関で従事している者は1名のみで、視覚に障害のある看護師が看護師として医療機関に復職するのは難しい現状にある (2)中途で視覚障害となった時の精神的なケアの重要性について ・通常の精神科医は、視覚障害となった時の辛さやケアに慣れていない場合が多いと思われるが、精神的ケアは大切になる。 ・精神科でのケアで一番できるのが不眠で、薬でカバーすることができるが、気持ちが沈んでいる場合には抗鬱剤を使ったとしても目の悩みに対しての気持ちの整理や新たな対処法を見つけない限りはなかなか薬では治らないのが現状である。 ・目が悪くなっている時には、今までは目立たずにいた問題(家族や経済的な問題等)が急に表立ってくることがある。その場合には福祉やネットワーク等の繋がりによる支援を精神科のケアと同時進行でやっていく必要があると思っている。 ・誰でも通るような大きなストレスを抱えて気持ちが沈む方と治療しなければならないくらいの方と2つに分かれる。原因は同じであってもそのペースは、個人によって異なる。必要に応じて精神科の受診や入院することも大切である。 コラム 視覚障害をもつ医療従事者の会(ゆいまーる)  見えない、見えにくいというハンデを持ちながら様々な医療資格を有する者が集い、情報交換や親睦を深めることを目的に2008年6月8日に発足。会員は100名余りで、そのうち医療資格を持つ会員は55名(医師22名、看護師12名、理学療法士12名、作業療法士1名、言語聴覚士2名、社会福祉士のみ1名、社会福祉士・精神保健福祉士3名、臨床検査技師2名)となっている2)。  コロナ禍以降は、オンラインやメールを使っての交流が中心となっている。 [註]2)資格を使って現在も仕事をしている会員、現在は別の仕事をしている会員、資格を使っての仕事をしていない会員を含んでいる。複数資格を所持している会員は、主に仕事で使っている資格、自身が大事にしている資格で集計 視覚障害をもつ医療従事者の会ホームページアドレス:http://yuimaal.org/ (3)心理ケアの早期介入による精神疾患の予防効果について ・自分が思い描いていたことができないまたは叶わないとなった時に、自分が願っていることと実際のギャップが大きければ大きいほど落ち込みは激しくなるのではないかと考えている。自分は目が見えるようになって医師になりたいという願いだったが、目が悪くてもいいから医師になりたいと願いが変わったときに気持ち的にも変化があったように思う。医師免許において障害者に係る欠格条項の見直しもあり、国家試験を受験できる可能性が出てきた頃には、元気になっていた。 ・国家試験前に弁護士の竹下義樹氏(日視連会長)と当時高齢・障害者雇用支援機構に研究員として勤めていた指田忠司氏(日本盲人福祉委員会常務理事)の社会で活躍する視覚障害当事者と話す機会があり、その時に自分がこうなりたいと思っていることが実現可能であることを知った。それが気持ちの落ち込みを改善するためによかったと思う。ただ、調子が悪くて何もしたくない場合やしたいことがないといった場合には、難しいように思う。 ・辛いことがあると誰もが将来の不安に悩むもので、自分も19歳の時に気持ちが沈み、まったく外に出られなくなってしまった。今思えば当たり前の反応ではあったが、そのストレスがその人の在り方さえも変えてしまうようなこともあるので、その場合には専門家の介入が必要になってくる。 ・自分は28歳の時に盲学校に行ったことで、周囲のいろいろな姿を見て、できることや可能性を知った。そのおかげで気持ちが楽になった。個人の基準をどこに置くかは意識的にはできないが、周囲の影響を受けて価値や基準が変わっていくのだと思う。 ・失明直後だけでなく、状況によって気持ちは大きく揺れ動く。自分は、目が悪くなった時、なんらかの理由で仕事が続けられなくなった時、仕事を頑張っているけれども同僚とのコミュニケーションが上手くいかない時に気持ちが沈んだことがあった。そういう意味では仕事をしている視覚障害者のネットワークや同じような仕事をしている方、同様の悩みを持っている方のネットワークのほうが精神科に行くよりかは元気になるのではないかと個人的には思う。 (4)当事者に出会うべきタイミング・出会うべきでないタイミング ・ギランバレー症候群で手足が不自由になり、自分は一生懸命リハビリして元に戻そうと思っていたが、発症から1年半くらいした時に医師から障害者手帳の取得を勧められた際には当面治らないと言われているような気がしてショックだった。手帳取得後は、車椅子や装具等も制度が使えたので結果的には良かったと思っている。はじめの頃に、医師からライトハウスに行くよう言われた時は抵抗感があり、ずっと行けていなかった。勉強が忙しかったこともあり、結局ライトハウスに行ったのは国家試験が終わってからで、病気を発症してから4年くらい経過していた。 ・ライトハウスという施設の存在を医師から聞いただけでは、記憶から抜け落ちてしまうが、障害者手帳と同じでECLOのような存在と繋がりを持てていることで、自身の心が変わる時にいろいろな情報に繋がりやすいのではないかと思う。 ・元気な同級生は、かつて自分が目標にしていた生き方なので一番辛い。逆に同じ当事者の後ろ姿のほうがすごく親近感を感じる。導いてくれることがあると、気持ちも移って頼るようになる。 (5)自分の障害を患者に伝えることについて ・自分は初診の時に目が見えていないので言葉で伝えて欲しいと伝えている。全盲になってから手探りで仕事を始めたので、周囲に見えていないことをアピールした方がいいと思って伝えているのかもしれない。ただ、当事者ECLOの場合には、ピアカウンセラー(当事者)として最初に近づいていくよりもソーシャルワーカーのような専門家の立場として関りが始まって、必要に応じてピアカウンセリングもするというのが理想の形かと思う。 ・普段から伊達眼鏡をかけていることもあって、周りには見えているように見えるらしい。視覚障害であることを隠していたかったのかもしれないが、自分からは視覚に障害があることを患者には言わない。 (6)視覚障害者が医療機関で働く上での困難・必要な支援 ・ロービジョン者の場合には、何らかの方法で患者の医療情報を見ることが可能だが、全盲だとセキュリティーの関係で音声ソフトが入らないので、電子カルテを読むことができない。ECLOが医師からどの程度の情報を得て仕事をするかによるが、医療情報を目で見るあるいは目以外の方法で取り入れるかにもよる。また、情報共有や相談内容のフィードバックをどのように行うか問題になるが、いずれにせよICTの技術は必須になる。→ コミュニケーション訓練(ICT訓練) ・院内での移動における事故は、1つの医療事故になる。そのため、院内を移動する際の安全性について気にする病院もあると思う。院内にはいろいろな患者さんがいるので本人の歩行技術と周囲の歩行支援が必要になると思う。→歩行訓練・移動支援 ・診察室で予約の管理、紹介状の読み上げ、診断書の記入、血液データを事前にテキストデータでもらったり、必要に応じて書類をテキスト化してもらったりしている。診断書は、自分がテキストデータで書いたものを電子カルテに貼り付けて、手書きのものは代筆してもらっている。→ 代筆・代読支援 (7)視覚障害者が院内で相談に携わる際に注意すべきこと・必要なスキル ・自身の疾患以外の医療的知識や背景を知っていること ・地域ごとの利用可能な福祉制度・福祉施設に精通していること ・傾聴できるスキル ・どの情報をどのタイミングで提供するのが適切か見極められる力 ・相手に理解してもらえるように分かりやすく伝えるスキル ・自身の障害に対して受け入れや折り合いがついていること ・全国ネットの視覚障害者社会と地域ごとの視覚障害者社会の両方のネットワークに精通していることが好ましい ・ある程度スキルや見識が必要だが、一方でそれらにとらわれすぎないことも大切 (8)ECLOの取り組みに精神科医が関わる意義 ・精神科医が関わる意義は大きいと思う。精神科の観点から診ることができること、精神科医が眼疾患や視覚障害について知ることができる両方のメリットがある。 コラム 障害者に係る欠格条項の見直しについて  医師、歯科医師等の免許制度等においては、「目が見えない者、耳が聞こえない者、口がきけない者には免許を与えない」等、このような障害がある者には一律に免許等を与えないこととする規定(絶対的欠格条項)が設けられていた。  1999年に障害者が社会活動に参加することを不当に阻む要因とならないようにするといった観点から、この欠格条項の見直しが決定。2001年6月には国会で見直しのための法案が可決成立し、同年7月16日から施行された。この改正により絶対的欠格条項は、「免許を与えないことがある」(相対的欠格条項)に変わり、障害がある場合であっても厚生労働省の裁量により免許が与えられることになった。 ● 障害者に係る欠格条項の見直しについて(内閣府ホームページ内) https://www8.cao.go.jp/shougai/honbu/jyoukou.html 研究4-3 視覚障害当事者団体における相談事業実施状況アンケート調査 1.実施概要 目的 日本において医療と福祉の連携を円滑に行うための相談支援を各地域で進める場合にどのような課題があるかをみる目的で、日本視覚障害者団体連合(以下 日視連)の加盟団体にアンケートを行い、相談支援の現状と課題を調査した 調査対象 日視連に加盟している視覚障害者団体60団体を対象とした。加盟している団体は、47都道府県のほか、13政令市(札幌市、仙台市、さいたま市、千葉市、横浜市、川崎市、名古屋市、大阪市、堺市、神戸市、広島市、福岡市、北九州市)にある 調査方法 調査票を郵送およびメールにて送付し、郵送あるいはメールにより回答を回収した 調査実施期間 2022年10月5日〜11月31日 回収結果 60団体すべてから回答を得た。回収率は100% 2.調査結果 以下では、アンケート調査票の設問ごとに集計結果を示し、その特徴と傾向をみる。 (ア)  相談事業の実施の有無 設問1 貴団体において相談事業を実施していますか。(単一回答) 表1 相談事業の実施の有無 選択肢・回答数・構成比(%)の順 実施している 43団体 71.7% 実施していない 14団体 23.3% その他 3団体 5.0% 無回答 0団体 0.0% 全体 60団体 100.0% ○実施している団体が43団体(71.7%)と多数を占めた。実施していない団体は14団体(23.3%)あったが、その多くは地域に中核となる視覚障害者支援施設がある団体あるいは事業を行っていない団体であった ○「その他」の記述としては次のものがあった ・事務所に訪問してきた人には対応している ・事業としては行っていないが相談を受けている 設問2〜6は相談事業を「実施している」と回答した43団体に回答を求めた (イ) 相談担当者の種類(視覚障害や資格の有無) 設問2 相談事業には、視覚障害当事者が行っていますか(資格の所持も問う)。(複数回答可) 表2 相談担当者の種類(視覚障害や資格の有無) 選択肢・回答数・構成比(%)の順 視覚障害当事者 33団体 76.7% 歩行訓練士 21団体 48.8% 社会福祉士 11団体 25.6% その他 20団体 46.5% 無回答 0団体 0.0% 全体 43団体 100.0% ○視覚障害当事者が相談に当たる団体が33団体(76.7%)と多い ○「その他」の記述として次のものがあった ・相談支援専門員 ・中途失明者生活訓練指導員 ・生活指導員 ・精神保健福祉士、介護支援専門員 ・サービス管理責任者 ・眼科医、視能訓練士、視覚支援学校教員 ・点字技能士 ・資格所持者ではない事務局職員(晴眼者) ・当事者役員等の家族、協力者(晴眼者) ・視覚障がい者専門指導員1) [註]1)愛媛県独自のもので生活アドバイス、歩行の練習、点字の学習、 福祉サービスの利用等のあらゆる相談の窓口となっている ○視覚障害当事者と社会福祉士の両方を選択したのは7団体、視覚障害当事者と歩行訓練士の両方を選択したのは14団体であった。団体の相談員が晴眼者を含む複数である可能性を念頭に置く必要がある ○なお、視覚障害当事者だけを選択したのは11団体 (ウ) 相談方法 設問3 相談の方法を教えてください。(複数回答可) 表3 相談の方法 選択肢・回答数・構成比(%)の順 電話による相談 42団体 97.7% 貴団体施設内で対面相談 39団体 90.7% 自宅に訪問し対面相談 23団体 53.5% 外部施設に訪問し対面相談 21団体 48.8% オンラインによる相談 10団体 23.3% その他 6団体 14.0% 無回答 0団体 0.0% 全体 43団体 100.0% ○電話の相談と団体施設での対面相談がそれぞれ90%以上と高い割合 ○相談者の自宅と外部施設は各々50%前後 ○「その他」の記述としては次のものがあった ・眼科医会と共催で「中途視覚障害者緊急生活支援相談会」を年2回実施 ・メール、ファックス、手紙等での回答 (エ) 相談の訪問先 設問4 訪問先を教えてください。(複数回答可) (設問3で「外部施設に訪問し対面相談」を回答した21団体に回答を求めた) 表4 相談の訪問先 選択肢・回答数・構成比(%)の順 病院・医療施設 14団体 66.7% 福祉施設(盲養護老人ホーム等) 10団体 47.6% 保健所などの地域の公共施設 8団体 38.1% 自治体 6団体 28.6% 特別支援学校 5団体 23.8% その他 3団体 14.3% 無回答 0団体 0.0% 全体 21団体 100.0% 非該当 39団体 ○この設問に回答した21団体のうち、最多は病院・医療施設の14団体(66.7%) 相談事業を行っている43団体中に占める割合は32.6%(14/43)、全加盟団体(60団体)に占める割合でいうと23.3%となる ○「その他」の記述としては次のものがあった ・市町村福祉センター等の公共施設 ・県、市、社会福祉協議会の施設、有料会議室等 《参考》視覚障害当事者による相談と病院訪問型相談との関連性 設問2の相談担当者の種類(視覚障害や資格の有無)の選択肢ごとに、病院・医療施設に訪問して対面相談を行っている団体の数と割合をみると次のとおり。 参考表1 視覚障害当事者の相談と病院訪問型の関係(団体、%) 選択肢・@回答数・A病院訪問型の数・A/@(%)の順 視覚障害当事者 @33 A11団体 33.3% 社会福祉士 @11 A7団体 63.6% 歩行訓練士 @21 A13団体 61.9% その他 @20 A5団体 25.0% 該当数 @43 A14団体 32.6% ○割合に着目すると社会福祉士、歩行訓練士の割合が高い ○設問2で視覚障害当事者だけを選択した11団体のうち、病院訪問型の相談を行っているのは1団体のみだった ○視覚障害当事者が病院訪問型相談に当たる場合、社会福祉士等の資格取得、あるいは、晴眼者との同行が一定の効果を生んでいる可能性が考えられる (オ) 相談員の雇用形態 設問5 相談員の雇用形態を教えてください。(複数回答可) 表5 相談員の雇用形態 選択肢・回答数・構成比(%)の順 貴団体役員・職員 39団体 90.7% 外部委託 5団体 11.6% ボランティア 4団体 9.3% その他 4団体 9.3% 無回答 0団体 0.0% 全体 43団体 100.0% ○団体役員・職員が39団体(90.7%)を占めており、他の選択肢(10%程度)に比べて非常に高い割合 ○「その他」の記述としては次のものがあった ・本会役員が市委嘱の障害者相談員として相談を受けている ・県の委託事業 ・団体、当該事業に登録 ・障害者相談員 (カ) 相談事業の財源 設問6 相談事業の財源はありますか。(複数回答可) 表6 相談事業の財源 選択肢・回答数・構成比(%)の順 団体負担 21団体 48.8% 地域生活支援事業(相談支援事業) 13団体 30.2% 中途失明者緊急生活訓練事業 12団体 27.9% その他 13団体 30.2% 無回答 0団体 0.0% 全体 43団体 100.0% ○最も多いのが団体負担の21団体(48.8%)で団体の持ち出しが半数近くを占める。なお、団体負担だけを選択したのは13団体(30.2%)だった ○地域生活支援事業(相談支援事業)と中途失明者緊急生活訓練事業をみるとそれぞれ30%程度を占めている。両者のどちらかの選択(両方ともを含む)を合わせると22団体(51.2%)。なお、両方とも選択したのは3団体のみだった ○「その他」も30.2%程度を占めるが、その記述回答は次のとおり ・職員派遣に対する人件費を病院からいただいています ・視覚障害者情報センター指定管理事業において相談を受けています ・県からの委託事業として ・県の指定管理事業として位置付けられているが、予算化はされていない ・役員個人が謝金を受け取っており、会としての補助金はなし ・市町村の生活相談・訓練事業 ・共同募金 《参考》相談事業の財源と病院訪問型相談との関連性 設問4において「病院・医療施設に訪問して対面相談」を選択したか否かと相談事業の財源を問う選択肢との関係をみるため下のクロス集計を行った。 参考表2 相談事業の財源と病院訪問型の有無の関係(件、%) ●地域生活支援事業 全体 13団体(30.2%) 病院訪問・有 5団体(35.7%) 病院訪問・無 8団体(27.6%) ●中途失明者緊急生活訓練事業 全体 12団体(27.9%) 病院訪問・有 6団体(42.9%) 病院訪問・無 6団体(20.7%) ●団体負担 全体 21団体(48.8%) 病院訪問・有 9団体(64.3%) 病院訪問・無 12団体(41.4%) ●その他 全体 13団体(30.2%) 病院訪問・有 3団体(21.4%) 病院訪問・無 10団体(34.5%) ●該当数 全体 43団体(100%) 病院訪問・有 14団体(100%) 病院訪問・無 29団体(100%) ○割合に着目すると、病院訪問型を行っている団体の場合、中途失明者緊急生活訓練事業と地域生活支援事業の割合が相対的に高いものの、団体負担の割合も高く64.3%となっている ○眼科医と連携した相談支援を維持・継続するためには安定した財源を確保し、団体負担の割合を抑える工夫が課題といえる (キ) 相談支援事業を行っていない理由 設問7 貴団体が相談支援事業を行っていない理由を教えてください。(複数回答可)(設問1で「相談事業を実施していない」「その他」に回答した17団体に回答を求めた) 表7 相談支援事業を行っていない理由 選択肢・回答数・構成比(%)の順 資金不足 10団体 58.8% 相談スキル不足のため相談に応じる自信がない 10団体 58.8% 相談に対応できる視覚障害当事者はいるが移動や代筆・代読を支援する職員が不足している 8団体 47.1% 相談案件が把握できない 8団体 47.1% 相談に応じる場所がない 4団体 23.5% その他 2団体 11.8% 無回答 0団体 0.0% 全体 17団体 100.0% ○資金不足と相談スキルの不足がそれぞれ60%近い ○視覚障害相談員の支援職員の不足、相談案件の把握困難もそれぞれ47.1%を占める ○「その他」の記述としては次の2つがあった ・地域活動支援センターとして実施している ・相談対応できる者が確保できるか不明である ○選択肢の選択個数をみると、1個:4件、2個:6件、3個:4件、4個:1件、5個:2件。選択個数の平均値は2.47個となる (ク) 眼科医会や医療機関、視覚障害者支援施設との連携 設問8 貴団体は地域の眼科医会や医療機関、視覚障害者支援施設と連携し、活動をしていますか。(単一回答) 表8 眼科医会や視覚障害者支援施設との連携 選択肢・回答数・構成比(%)の順 活動している 46団体 76.7% 活動していない 12団体 20.0% わからない 1団体 1.7% その他 1団体 1.7% 無回答 0団体 0.0% 全体 60団体 100.0% ○活動しているとの回答が46団体(76.7%)を占めた ○設問1で相談事業を実施しているとした43団体の回答をみると、「活動している」が39団体(90.7%)で大半を占めるが、「活動していない」が3団体、「わからない」が1団体であった ○一方、設問1で相談事業を実施していないとした14団体とその他と回答した3団体の回答をみると、「活動していない」が9団体(52.9%)で最多だが、「活動している」が7団体(41.2%)、「その他」が1団体であった ○「その他」は「歩行訓練事業として眼科医会とのつながりをもっている」だった (ケ) 連携先 設問9 連携先を詳しく教えてください。(設問8で「活動している」を回答した46団体に回答を求めた) 表9 連携先 選択肢・回答数・構成比(%)の順 視覚障害者支援施設 22団体 47.8% 医療機関 19団体 41.3% その他 25団体 54.3% 無回答 0団体 0.0% 全体 46団体 100.0% ○視覚障害者支援施設と医療機関がそれぞれ40%台。どちらも突出して多いというわけではない。ちなみに、両方とも選択したのは10団体だった ○「その他」が54.3%を占めるが、内容をみると、他の選択肢に該当しないものではなく補足的な意味合いのものであったり、複数の機関と連携するため「その他」を選択したものが多い ○「その他」の主な記述は次のとおり ・県の医師会、眼科医会 ・県のロービジョンネットワーク ・ロービジョン研究会 ・県の身体障害者連合会 ・相談支援事業所や障害者支援施設、介護サービス事業所等 ・健康福祉プラザ ・視覚補助具取り扱い業者 ・視覚障害者福祉推進協議会 (コ) 眼科医と連携した相談支援に対する意見 設問10 今後、地域の眼科医と連携し、視覚障害のある患者さんの早期相談支援等を行っていきたいと思いますか。(単一回答) 表10 眼科医と連携した相談支援に対する意見 選択肢・回答数・構成比(%)の順 今後も連携していきたいと思う 35団体 58.3% これから連携をはじめたいと思う 13団体 21.7% 特に連携していく必要性を感じない 1団体 1.7% どちらともいえない 7団体 11.7% わからない 4団体 6.7% 無回答 0団体 0.0% 全体 60団体 100.0% ○「今後も連携していきたいと思う」と「これから連携をはじめたいと思う」が上位を占め、両者を合わせると48団体(80.0%)となる ○設問1で相談事業を実施しているとした43団体の回答をみると、「今後も連携していきたいと思う」が31団体(72.1%)、「これから連携をはじめたいと思う」が5団体(11.6%)で合わせると36団体(83.7%)。一方、「どちらともいえない」が3団体、「わからない」が4団体あった (サ) スマートサイトの認識 設問11 視覚に障害のある患者さんが、それぞれの悩みに応じた訓練や支援を受けられるように相談先を紹介したリーフレット「スマートサイト」をご存じですか。(単一回答) 表11 スマートサイトの認識 選択肢・回答数・構成比(%)の順 知っている 54団体 90.0% 知らない 6団体 10.0% 無回答 0団体 0.0% 全体 60団体 100.0% ○「知っている」が54団体(90.0%)と大半を占めた 3.調査結果にみられる現状と課題 眼科医との連携による相談支援を広げていくとの観点から、今回の調査結果を外観する。 ● 相談事業を展開するための素地について 1  60団体のうち、何らかの相談事業を行っている団体が43団体と71.7%を占める。眼科医との連携による相談支援を進める上で、少なくとも足がかりを持つ団体が比較的多いといえる。 [図]≪棒グラフ≫ 問1 相談事業の実施 している 71.7% していない 23.3% その他 5.0% 2  眼科医会や医療機関、視覚障害者支援施設との連携についてみると、60団体のうち連携の活動を行っているとの回答が46団体(76.7%)を占めた。その中で医療機関との連携を行っているのは19団体と少数ではあるものの、眼科医と連携した相談支援を進める素地となりうる。 [図]≪円グラフ≫ 問8 地域施設との連携について 活動している 76.7% 活動していない 20.0% わからない 1.7% その他 1.7% 3  眼科医との連携に対する意識では、「今後も連携していきたいと思う」と「これから連携を始めたいと思う」が上位を占め、両者を合わせると48団体(80.0%)となり、連携に対する意識は高いといえる。  その一方で、相談事業を行っている43団体の中に「どちらともいえない」が3団体、「わからない」が4団体あったのは、少数ではあるが気になる点である。 [図]≪棒グラフ≫ 問10 眼科医との連携について 今後も連携していきたいと思う 58.3% これから連携をはじめたいと思う 21.7% どちらともいえない 11.7% 特に連携していく必要性を感じない 1.7% わからない 6.7% 4  「スマートサイトを知っている」と答えたのは、60団体中54団体(90.0%)と大半を占めており、眼科医との連携を模索する手がかりの一つにはなると考えられうる。 [図]≪円グラフ≫ 問11 スマートサイトについて 知っている 90% 知らない 10% 5  相談事業を行っている43団体のうち、病院・医療施設を訪問して相談を行っているのは14団体(32.6%)と少数である。  とはいえ、「外部施設に訪問し対面相談」(21団体)の中では病院・医療施設(14団体)が最多だった。この14団体は先行事例として参考になると思われる。 [図]≪棒グラフ≫ 問4外部施設の詳細 病院・医療施設 14団体 66.7% 福祉施設(盲養護老人ホーム等) 10団体 47.6% 保健所などの地域の公共施設 8団体 38.1% 自治体 6団体 28.6% 特別支援学校 5団体 23.8% その他 3団体 14.3% ● 視覚障害当事者が相談に当たる素地について 1  視覚障害当事者が相談に当たっている団体が、43団体のうち33団体(76.7%)と多いが、その33団体のうち視覚障害当事者だけを選択したのは11団体で、他の22団体は社会福祉士や歩行訓練士と合わせて選択しており、晴眼者も相談に当たっている可能性がうかがえる。  視覚障害当事者を選択しなかった10団体では晴眼者が相談に当たっていると考えられる。 [図]≪円グラフ≫ 問2 相談員について 視覚障害当事者 33団体 76.7% 歩行訓練士 21団体 48.8% 社会福祉士 11団体 25.6% その他 20団体 46.5% 2  病院訪問型の相談を行っている14団体に絞ってみると、相談に当たっている人材として視覚障害当事者を選択したのが11団体と、78.6%と高い割合を占めたが、視覚障害当事者だけを選択したのは1団体のみであった。視覚障害当事者が病院訪問型相談を担う場合、資格取得や晴眼者と協力する体制を模索する必要があるかもしれない。 ●相談事業の財源について 1  地域生活支援事業(相談支援事業)と中途失明者緊急生活訓練事業について、両者のどちらかの選択(両方ともを含む)を合わせると22団体(51.2%)と半数を超える。  とはいえ、最も多いのが団体負担の21団体(48.8%)。団体の持ち出しが半数近くを占める。また、団体負担だけを選択した団体も13団体(30.2%)を占めており、相談事業の財政基盤が必ずしも強固とはいえない状況がうかがえる。 [図]≪棒グラフ≫ 問6 相談事業の財源 団体負担 21団体 48.8% 地域生活支援事業(相談支援事業) 13団体 30.2% 中途失明者緊急生活訓練事業 12団体 27.9% その他 13団体 30.2% 2  病院訪問型の相談を行っていない団体に比べると行っている団体の場合、中途失明者緊急生活訓練事業と地域生活支援事業の割合が相対的に高いものの、団体負担の割合も高く64.3%となっている。  以上のことからも眼科医と連携した相談支援を維持・継続するためには、安定した財源の確保が課題といえる。 ● 相談事業を行っていない団体の「行っていない理由」について  何らかの相談事業を行うことが眼科医と連携した相談支援の実施の第一歩になりうる。その意味で相談事業を行っていない理由から対応策を考えることにする。 1  相談支援事業を行っていない17団体に、行っていない理由を尋ねた結果では資金不足と相談スキルの不足がそれぞれ60%近くを占めている。  資金の問題は相談事業を行っている団体にとっても課題であった。それに加え、相談員として活動する際の研修が重要な課題の一つであることが分かる。  視覚障害相談員の支援職員の不足、相談案件の把握困難もそれぞれ47%を占めた。 [図]≪棒グラフ≫ 資金不足 58.8% 相談に応じる自信がない 58.8% 相談案件が把握できない 47.1% 移動や代筆・代読を支援する職員が不足している 47.1% 相談に応じる場所がない 23.5% 2  選択肢の選択個数をみると、1つだけ選択したのは4団体で、他は複数を選択している。3個以上を選択したのが合計7団体あり、課題が複合的である様子がうかがわれる。 第3章 考察と提言  日本において医療と福祉の連携を実現するための早期相談支援体制の構築の課題を整理する。ここでは、日本においてECLOのようにリンクワークや精神的支援を担う専門職を「視覚障害支援ワーカー(仮称)」とし、研究を通して明らかになった院内における早期相談支援※体制における現状と課題を踏まえて方策を提案する。 ※ここでいう相談支援とは、病院やリハビリテーション施設内で職員や外部支援者がロービジョンの相談を受けることを指しており、相談支援事業所の相談支援員が行う相談支援とは異なり法制的な意味合いは持っていない。 1.調査結果からみえてきた現状と課題  はじめに、日本における眼科医療と福祉が連携した相談支援の現状を概観したい。今回実施したアンケート調査の結果を振り返ると次のことが確認できる。  視覚障害者用補装具適合判定医師研修会を修了した眼科医(約700名)を対象とするアンケートの結果(159名回答)では、中間型アウトリーチを「知っている」ケースは30.8%で、院内相談支援を実施しているのは20.1%であった(病院数は32)。院内相談を実施していない者にニーズを質問した結果、57.5%が院内相談を実施したいと考えていることがわかった。  院内相談を行う場合の懸念事項としては、相談員の人件費が84.9%、相談員の資質とその確保が81.8%、患者の個人情報の保護が42.8%であった。院内相談支援を実施している病院はあるものの、相談員の人件費や資質、個人情報の取り扱いが問題となることがわかった。  一方、日本視覚障害者団体連合に加盟している当事者団体(60団体)に対するアンケートの結果(60団体回答)では、相談支援を実施している団体は43団体(71.7%)であり、それら団体が実施している相談方法は、電話が97.7%、団体内での対面が90.7%、外部施設訪問による対面が48.8%であった。施設に訪問している団体のうち、病院に訪問しているのは23.3%で、定期的に医療と連携して相談事業を行っているのは5.0%だった。  眼科医と連携した相談支援については、「今後も連携していきたい」が58.3%、「これから連携を始めたい」が21.7%であった。  視覚障害者団体のうち、病院に訪問して相談支援を行っているケースはまだ少数だが、約8割が眼科医と連携した相談支援を望んでおり、病院での相談支援に当事者団体が関わる可能性があることが示唆された。  次に、ヒアリング調査の結果および検討委員会における議論からみえてきた現状と課題を(1)患者が前向きに福祉に繋がる上での課題と(2)相談支援が継続的に行われるようにする上での課題に分けて整理したい。 (1)患者が前向きに福祉に繋がる上での課題 ・日々の忙しい診療の中で、医師が患者の精神的なケアや身体障害者手帳・障害年金等の福祉制度について説明する時間的な余裕はない。 ・整形外科や脳外科等の科においてはリハビリテーションへの道筋が整っているが、眼科にはリハビリテーションの道筋が確立されていないことが多い。 ・ロービジョンケアや視覚障害リハビリテーション(歩行訓練、日常生活訓練、コミュニケーション訓練等)が、医療においてリハビリテーションの1つとして位置づけられていない。リハビリテーション医学においても、眼科におけるロービジョンケアや視覚障害リハビリテーションがリハビリテーションの1つとして位置づけられるような取り組みが必要。 ・治療に目を向けている眼科医が多く、ロービジョンに関心のある眼科医が少ない。ロービジョンを適正に認識する眼科医や医療従事者を増やすことが必要。 ・ロービジョン外来を設置している医療機関が少ない。 ・院内においてメディカルソーシャルワーカー(MSW)と関わる機会が少ない。診療所などの規模の小さな眼科においては、メディカルソーシャルワーカーが配置されていない。 ・福祉制度を利用するためには、患者が自ら利用のための申請をする必要があり、行政からの積極的な情報提供や支援がないことが多い。 ・行政の障害福祉担当職員の人事異動といった事情から、視覚障害の専門性を担保するものになっておらず、行政窓口で適切な情報提供が行われていない。 ・行政や基幹支援センターに相談に行っても視覚障害に関する知識のある職員が少ない。 ・福祉施設の中には受け身な施設もある。 [図]患者が前向きに福祉に繋がる上での課題 ●行政 ・積極的な福祉制度の情報提供がない ・行政職員の異動の問題 ・行政や基幹支援センターに視覚障害に詳しい職員がいない ・当事者本人が申請しなければ制度の利用ができない ●医療 ・ロービジョン外来のある病院が少ない ・心理的なケアをする時間的な余裕がない ・眼科においてリハビリへの道筋が確立されていない ・治療に目を向けている医師が多い ・他科にくらべてMSWと関わることが少ない ・リハビリテーション医学におけるロービジョンケア・視覚リハの位置づけがない ●福祉 ・福祉施設の中には受け身な施設がある (2)相談支援が継続的に行われるようにする上での課題 ・英国のECLOのような医療と福祉を繋ぐ専門職や職種が日本にはない。一部の医療機関では、福祉に繋ぐための取り組みや相談支援が院内で行われているが、その数は少ない。 ・ECLOのような役割を果たす人材の養成研修はなく、資質やスキルは明確でない。 ・医療資格を持っていないという専門性の問題や個人情報の取り扱いの問題から、院内で医療従事者以外が支援を行うことに高いハードルがある。 ・院内において相談できるような場所を確保することが難しい。 ・検査、診察、その後に面談となるので、患者の拘束時間が長くなる。 ・相談支援を行うための安定的な財源がない。 ・視覚障害当事者が院内で相談支援を担う際の支援体制が不十分である。  ここからはアンケート調査により確認できた事柄のうち、特に注目される課題についてより詳しく整理したい。  視覚障害当事者団体におけるアンケートのスマートサイトの認知度に関する設問から、当事者のスマートサイトの認知度が高いことがわかった。  認知度が高い理由としては、スマートサイトの相談先に視覚障害者団体として掲載されている加盟団体が多いことや、数ヶ月に1度、医療機関およびスマートサイトに掲載されている団体での意見交換が行われている地域(ロービジョンネットワーク等)があることが挙げられる。以上のことからも、スマートサイトが医療と福祉の連携において大きな役割を果たしていることがうかがえる。 [図]≪円グラフ≫ 研究4‐3 視覚障害当事者団体における相談事業実施状況アンケート 問11 スマートサイトについて 知っている 90% 知らない 10%  また、相談支援事業の実施に関する設問からは、相談支援事業を行っている43団体のうち、病院・医療施設へ訪問している団体が14団体(32.6%)あることがわかった。この14団体の中で、定期的に訪問している団体は、千葉県、兵庫県、広島市の3団体のみであった。  病院・医療機関への訪問の形態については、団体に所属する歩行訓練士や社会福祉士が主に担当する団体が多く、視覚障害当事者が訪問する団体も若干数みられた。  視覚障害当事者団体における相談事業実施状況アンケートの眼科医との連携についての設問に対しては、「今後も連携していきたいと思う」と「これから連携をはじめたいと思う」の両者を合わせると48団体(80.0%)と、連携に対する意識・ニーズが高いことがうかがえる。 [図]≪棒グラフ≫ 研究4ー3 視覚障害当事者団体における相談事業実施状況アンケート 問10 眼科医との連携について 今後も連携していきたいと思う 58.3% これから連携をはじめたいと思う 21.7% どちらともいえない 11.7% 特に連携していく必要性を感じない 1.7% わからない 6.7%  一方、視覚障害者用補装具適合判定医師研修会を修了し、関連する情報交換等のためのメーリングリストに登録している眼科医を対象に行ったアンケートの福祉職による院内相談支援実施の有無の設問において、「実施していない」120名のうち、69名(57.5%)から「実施したいと思う」との回答が得られた。以上のことから、一定数の医療機関が福祉職による院内での相談支援に興味を示していることが明らかとなった。 [図]≪円グラフ≫ 研究2ー2 相談支援の専門職を病院内に配置することに対するニーズ等に関するアンケート 問3 福祉職による院内での相談支援の実施意向 実施したい 57.5% 実施は特に考えていない 33.3% わからない 8.3% 無回答 0.8%  院内での相談支援に対して気になることについての回答を求めたところ、相談支援に当たる人の人件費の問題(84.9%)と相談支援に当たる人の資質およびその確保の問題(81.8%)が多くを占めており、人件費および相談員の質に対する不安が多かった。次いで患者の個人情報保護の問題(42.8%)が懸念事項として挙げられていた。その他の回答としては、診療時間には個室を設けられないといった場所や時間に関する問題があった。 [図]≪棒グラフ≫ 研究2ー2 相談支援の専門職を病院内に配置することに対するニーズ等に関するアンケート 問5 院内での相談支援に関して気になること 相談支援に当たる人の人件費の問題 84.9% 相談支援に当たる人の資質及びその確保の問題 81.8% 患者さんの個人情報保護の問題 42.8% その他 9.4%  一方、相談支援事業を実施していない視覚障害当事者団体17団体を対象にした相談支援事業を行っていない理由の設問では、資金不足と相談スキルの不足がそれぞれ60%近くを占めており、資金の問題と相談支援にあたる人の質の問題が、医療機関と当事者団体に共通する課題であることがわかった。  以上のことから、これら共通する問題に加え、相談に応じる場所や時間の問題を解決することが、視覚障害者もしくは視覚障害者を支援する福祉職が院内において相談支援を行うための足がかりになると考えられる。 [図]≪棒グラフ≫ 研究4ー3 視覚障害当事者団体における相談事業実施状況アンケート 問7 相談事業を行っていない理由 資金不足 58.8% 相談に応じる自信がない 58.8% 相談案件が把握できない 47.1% 移動や代筆・代読を支援する職員の不足 47.1% 相談に応じる場所がない 23.5% その他 11.8%  アンケート調査によって明らかとなった視覚障害者もしくは視覚障害者を支援する福祉職が院内において相談支援を行うためのキーワードとなる 人材 資金 場所 時間の4つに焦点を当て、ヒアリング調査の結果を交えながらさらに課題を整理したい。 (A)人材  1.視覚障害支援ワーカーの資質・能力と必要なスキル  本研究では、英国のECLOのようにリンクワークや精神的支援を担う専門職が日本において活躍する場合に求められる資質や能力、必要なスキルに関して、病院内で視覚障害リハビリテーションに関する情報提供や相談支援の役割を担っている専門家および公認心理師資格等を有するピアカウンセラー、精神科医として勤務している視覚障害当事者に尋ねた。  視覚障害支援ワーカーに求められる資質・能力としては、@自分の考えや経験を押し付けずに患者の心に寄り添えること、A患者の生活の実態や困りごとを想像する力、B情報をどのタイミングで提供するべきかを見極められる力、Cライフステージに合った支援先や専門家に繋ぐ力、D患者と支援先・専門家とをコーディネートする力、E客観的な視点でものごとをみる力(巻き込まれないこと)、F最新の情報提供をするためのブラッシュアップを厭わない態度が挙げられた。 [図]視覚障がい支援ワーカーに求められる資質・能力 ●自分の考えや経験を押し付けずに患者の心に寄り添えること ●患者の生活の実態や困りごとを想像する力 ●情報をどのタイミングで提供するべきかを見極められる力 ●ライフステージに合った支援先や専門家に繋ぐ力 ●患者と支援先・専門家とをコーディネートする力 ●客観的な視点でものごとをみる力 ●最新の情報提供をするためのブラッシュアップに厭わない態度  ヒアリングでは、これら資質・能力を育成していく際の留意点・スキルを尋ねた。  必要なスキルは、大きく「医学・心理学」「福祉」「教育・就労」「視覚障害リハビリテーション」の4分野に分かれる。  「医学・心理学」では、眼科疾患に関する病理学や生理学の理解、眼科検査の検査方法や結果の読み方、糖尿病や脳卒中などの眼科以外の代表的な疾患に関する理解、心理学やカウンセリングに関する基本的知識や技術を身につけておく必要があること。  「福祉」においては、障害者手帳および障害年金の手続きができることや、障害福祉サービスや地域生活支援事業の理解、障害者情報アクセシビリティ・コミュニケーション施策推進法や障害者差別解消法などの視覚障害者を取り巻く法律、生活保護などの生活基盤を整えるための各種制度を知っていることが望まれる。  「教育・就労」においては、視覚障害者の教育や就労の現状を理解した上で、児童生徒の進路や支援先、視覚障害者の就労における各種制度および支援先を知っていることも求められる。  「視覚障害リハビリテーション」では、生活における簡単な工夫や対処法、補装具および日常生活用具の種類や申請方法、歩行訓練やコミュニケーション訓練(点字、パソコン、スマートフォン等)の知識などの自立した生活を送るために必要な情報や訓練先・支援先を知っていること、視覚障害者を取り巻く諸問題(交通、買い物等)を理解していることも必要になる。  以上の4分野を横断しながら、患者のニーズを捉えるためのスキルや知識が必要であることが、ヒアリングを通してわかった。 [図]視覚障がい支援ワーカーに必要なスキル ●医学 心理学 ・眼科疾患の特徴 ・検査結果を読み取る力 ・眼科以外の代表的な疾患 ・心理学 ・カウンセリングの知識技術 ●福祉 ・障害者手帳や障害年金 ・障害福祉サービス(全国一律) ・地域生活支援事業(自治体ごと) ・障害者を取り巻く各種法律 ・生活基盤を整えるための各種制度 ●視覚リハ ・生活場面での簡単な工夫や対処法 ・補装具および日常生活用具の種類や申請方法 ・歩行訓練やコミュニケーション訓練(点字、パソコン、スマートフォン等)の知識 ・視覚障害者を取り巻く諸問題(交通、買い物等)の理解 ●教育 就労 ・視覚障害児教育の現状理解 ・視覚障害児童生徒の進路 ・教育関係の支援先 ・視覚障害者就労の現状理解 ・視覚障害者就労の制度 ・就労関係の支援先  また、早期に視覚障害支援ワーカーの配置を実現するためには、医療や福祉の現場で視覚障害リハビリテーションを実践してきた看護師、視能訓練士、歩行訓練士、社会福祉士、公認心理師等の有資格者の活用が必要であることがヒアリングや委員会を通して明らかになっている。しかし、これら有資格者の中には、専門性に富んでいても他領域についての研修を受ける機会がなかった者や、個人の学習や経験を通して他領域のスキルや知識を積んでいる者もいるため、個々人でスキルや知識にばらつきがある。したがって、視覚障害支援ワーカーの役割である患者に均一に質の高い情報提供や精神的ケアを行うためには、個々の資格に応じた必要分野の研修が必須となると考えられる。  同時に弁護士や教諭、スクールカウンセラー、社会保険労務士、介護士など、さまざまなキャリアを持ちながら医療と福祉の橋渡しを志す者に対して、視覚障害支援ワーカーとして活躍してもらうための方法についても、あわせて検討していく必要がある。これは、地域資源の少ない地域で視覚障害支援ワーカーの活動を広めていくための重要な視点となる。  今回の調査で明らかになった視覚障害支援ワーカー像を踏まえ、さらにヒアリングを重ねながら、今後、視覚障害支援ワーカーの養成カリキュラムや養成方法について掘り下げて検討していく必要がある。 2.視覚障害のある視覚障害支援ワーカーへの期待  英国のECLOは、約半数が視覚障害当事者であるとされている。日本においても視覚障害当事者がECLOのように活躍することは、当事者性のある精神面でのサポートが行われるだけでなく、視覚障害者の職域拡大に繋がるという点でも期待されている。第5次障害者基本計画においても、ピアサポーターの育成、ピアカウンセリング、ピアサポート体制の強化が組み込まれており、障害者の相談支援において、当事者性の要素がますます重要になると考えられる。  視覚障害当事者が相談支援を行うメリット・デメリットについては、今回の調査から以下のようなことが明らかになった。  視覚障害当事者が相談支援を行うメリットとしては、第一に当事者としての経験を基に共感できることで、相談者の悩みや心情を理解できることが挙げられた。それによって、不安を抱える患者に対し、安心感や親近感を与えられるといったことが考えられる。また、普段から福祉制度を利用し、用具を使って生活していることから、日常生活上の工夫を具体的に話せるだけでなく、補装具・日常生活用具を使っている姿を見せながら、障害福祉制度をより具体的に提案することができるといったことがメリットとして挙げられた。  一方、デメリット(注意すること)としては、自分の話ばかりをしてしまい、患者に無意識に圧をかけてしまうことや、患者の直面している問題が自身の問題と重なることが多いことから相談員が巻き込まれることが挙げられた。また、当事者であるために患者が自分の気持ちをぶつけることができない、当事者としての経験談に患者がプレッシャーを感じる、一方的な励ましに逆に傷つくことがあるといったことが挙げられた。  しかし、これらデメリットの多くは自己開示技術の習得や晴眼者とペアを組むこと、事前にマッチングを行うことなど、訓練や方法次第で解決できる問題ばかりである。したがって、これら問題を解決さえすれば、視覚障害者による相談支援はメリットのほうが大きいと考えられる。 [図]視覚障害当事者が相談支援を行うメリット・デメリット ●メリット ・当事者としての経験を基に共感できる ・相談者の悩みや心情を理解できる ・日常生活上の工夫を具体的に話せる ・補装具・日常生活用具を使っている様子を見せたり、障害福祉制度をより具体的に提案できる ・安心感・親近感が湧く ●デメリット(注意すること) ・傷つけたり、追い詰めることもある ・相談者が気持ちをぶつけることができないこともある ・自分の話ばかりしてしまう ・無意識に圧をかけたりということが起こりがち ・相談員自身が巻き込まれやすい    また、ヒアリングでは障害を受容したきっかけについても尋ねた。ヒアリング対象者の話からは、入院時に病棟で当事者と出会ったことをきっかけに、訓練に繋がったエピソードや社会で活躍する当事者と話をしたことで元気になり、その後訓練を始めたといったエピソードを聞くことができた。中途と先天、年齢によって異なるものの、障害の受容のきっかけに同じ障害を持つ先輩との出会いがあったことが共通していた。  以上のことからも、障害を受傷したばかりの早い時期、そして適切な時期にロールモデルの存在に出会うことは、前を向いて生きていくために必要だということがわかる。  よって、視覚に障害を持つ視覚障害支援ワーカーを視野に入れながら、資格取得における支援や資格取得後の支援についても、今後検討していく必要がある。 (B)資金  アンケート調査から、相談事業を実施している加盟団体の資金源の多くが団体負担で、半数近くを占めていること、次いで地域生活支援事業(相談支援事業)と中途失明者緊急生活訓練事業が多くを占めていることがわかった。  医療機関においては、相談事業のための明確な資金源はなく、メディカルソーシャルワーカーや視能訓練士などの相談を担当する職員の人件費が、相談事業の主な必要経費として挙げられる。これら必要経費は、病院全体の収入となる診療報酬により賄われることが多い。  主な診療報酬としては、患者サポート体制充実加算、難病外来指導管理料、療養・就労両立支援指導料(指定難病患者に対して)、ロービジョン検査判断料が挙げられ、これらから算定していることが、研究2の先駆的な実践を実施している眼科病院に対するヒアリング調査からも明らかになっている。ただ、診療報酬の中には算定のための要件を設けているものもあり、全ての医療機関で必ずしも算定できるというわけではないというのが現状である。  視覚障害支援ワーカーによる相談支援が多くの病院で導入され、英国のECLOのように全国展開していくためには、病院の運営に係る資金源の確保は不可欠である。それには、視覚障害支援ワーカーが院内で相談を行った際にも診療報酬の算定ができるような診療報酬内容の一部を改訂すること、ロービジョン検査判断料の充実を図るといったことが必要になると考えられる。  一方、福祉(加盟団体)においては、現在、精神障害者が中心となっているピアサポート体制加算を視覚障害者においても導入することや、英国のECLOの資金源の多くがチャリティーや寄付で賄われていることを参考に、日本においても募金活動を含めて資金調達ができる仕組みを構築していくことを検討する必要がある。また、加盟団体の財政基盤の充実は、眼科医と連携した相談支援を維持するだけでなく、関係施設との連携を継続していく上でも重要である。したがって、現在、加盟団体において相談事業の費用の多くを占めている団体負担の割合を抑えることも課題といえる。 [図]英国のECLO制度と現在日本において医療と福祉(加盟団体)で行われている相談に係る資金面での比較、日本において同様の制度が導入された場合に想定される運営資金源 [現状] ●英国 ECLOの人件費となるRNIBの運営費の多くは、寄付等による収入となっている。初年度はRNIBが全額を支払い、2年目以降は医療機関とRNIBが折半し、医療機関が一定の有用性を理解した場合には、徐々に医療機関の割合を増やす形がとられている ●日本 医療 ・診療報酬の算定 ・患者サポート体制充実加算、難病外来指導管理料、ロービジョン検査判断料、療養就労両立支援指導料(指定難病患者に対して)といった診療報酬を算定 福祉(加盟団体) ・自治体の補助金の活用(地位生活支援事業、中途失明者緊急生活訓練事業) ・募金の活用 [想定される運営資金源] 医療 ・診療報酬内容の改訂:現行の診療報酬の内容を一部改訂 ・ロービジョン算定料の充実:1月に1回に限りの算定をケアを行う度に算定へ 福祉 ・ピアサポート体制加算の導入 ・自治体の補助金や募金の拡充 (C)場所(D)時間  アンケート調査およびヒアリング調査からは、時間や場所に関する課題についても明らかになった。  眼科において、まず問題となるのが場所の問題である。他科に比べて検査機器が多いことに加え、診療所においては相談のためのスペースを設けていないことも多く、これらがハードルとなっていることが考えられる。一方、大規模な病院の場合には、眼科から離れた場所に相談室が設けられることも少なくない。そのため、距離的な理由や時間的な理由から医師や看護師などの医療従事者が、患者の手を引いて相談室に連れてくるということは難しい。したがって、患者はひとりで相談室に向かうことになるが、患者の心理的な負担が大きい上に困り感のない場合や障害という言葉に嫌悪感がある場合においては、相談室に寄らずに帰ってしまうこともあり、なかなか相談室に足が向かない場合も多い。  また、日々の忙しい診療の中においては、医療従事者が精神的なケアあるいは身体障害者手帳や障害年金等の福祉制度について説明をする時間的な余裕がないのが現状である。患者においても、検査と診察の後に相談となると、時間的な拘束が大きく、患者が高齢の場合には、体力的にも難しい。  以上が医療における時間や場所の面で次のステップへ繋ぐ機会を阻む要因だが、福祉(加盟団体)においては時間や場所に関して、医療との連携に一歩踏み込んだ課題が聞かれた。  まず、第一に団体施設と病院が距離的に遠くないことが、病院に出向いて相談支援を行う際の交通費や時間の面でも理想的であるとしている。距離的に遠くないことは、患者が通い慣れた病院を軸に考えた際にアクセスしやすいという点で相談支援後に団体施設に足が向かいやすく、団体施設と病院間の距離が近いことは大切な視点とも言える。  また、加盟団体によっては、県や市町村の委託事業として実施していることから、対象範囲を圏域内に限るなど公的な規定の下で運営することとなり、支援を必要とする人への弾力的な対応が難しい場合があるとの指摘がヒアリングにおいて聞かれた。そのため、患者が他県や他市町村に在住している場合には、施設職員による情報提供や施設利用が難しいといったことも予想される。よって、地域を越えた十分な相談支援を行う体制についても、今後検討していく必要がある。 [図]相談事業における場所・時間の問題 ●医療 ・眼科は検査機器が多いので、場所の確保が難しい ・福祉制度を利用する際には、個人情報に係る話が出てくるので、プライバシーを確保できる部屋が理想的である ・診察室や眼科から離れた場所に相談室がある場合には、移動に時間のロスが生じてしまうだけでなく、患者ひとりで相談室に向かうことは心理的負担となる ・忙しい外来の中で、相談の時間を確保することは難しく、医療従事者の負担になる ・検査、診察、その後に面談となるので患者の拘束時間が長くなる ・地方になると、電車やバスの本数が少ない。そのため患者の時間の確保が難しい ●福祉(加盟団体) ・定期的に出向いている施設の交通費は、施設によって病院負担、福祉負担のどちらもある。施設から病院までの距離が離れているとお互い負担が大きくなってしまう ・患者が他県や他市町村の場合には、相談対応が難しくなってしまうこともある 2.提言 提言1:医療と福祉を繋ぐ精神的支援・リンクワークを担う専門職の養成とリハビリテーションへの道筋の確立  早期に専門家と繋がることは、患者の生活の質の向上において非常に重要であるが、患者が障害に対して折り合いがついていない場合には、福祉に自ら向かうことは難しい。  日本視覚障害者団体連合の過去の調査や広島大学と共同で行った調査からは、視覚障害者が日常生活や社会生活に必要な福祉情報等を得るまでの間に5年以上を要していることが明らかになっている。これは、眼科において整形外科や脳外科のようなリハビリテーションへの道筋が整っていないことが一因である。  眼科においても他科のように院内で治療からリハビリテーションへと患者を導いていく仕組みが必要であり、そのキーマンとなる精神的支援とリンクワークを担う専門職(視覚障害支援ワーカー)を早急に配置することが望まれる。 【主な取り組み】 (1)視覚障害支援ワーカーの養成  早期に視覚障害支援ワーカーの配置を実現するためには、現在、医療や福祉の現場で視覚障害リハビリテーションを実践している看護師、視能訓練士、歩行訓練士、社会福祉士、公認心理師等の資格を有する人材を活かすことが必要である。加えて、上記のような資格を有する視覚障害当事者においても、これまでのキャリアや経験を活かしながらワーカーとしてだけでなく、ピアカウンセラーとしての要素を担いながら活躍できる場を作ることも検討していく。 (2)養成カリキュラムの検討および資格取得後のサポート  医学・心理学・福祉・視覚障害リハビリテーション・教育・就労に関する基本的知識やカウンセリング技術だけでなく、地域資源や重複障害に対応した支援先など、患者のニーズに合わせた情報提供ができるような人材育成のための実践的で質の高い養成カリキュラムを検討する。  資格取得後においても、フォローアップのための研修の機会を設けるだけでなく、心身ともに健康で十分な支援が行えるように、ワーカーのためのコンサルテーションの機会や当事者ワーカーが働きやすい環境整備、当事者ワーカーが晴眼者ワーカーとペアを組んで活動できる仕組みなど、視覚障害支援ワーカーの活動を支える体制を整える。 (3)リハビリテーションへの道筋の確立  医療や福祉における視覚障害支援ワーカーの位置づけを明確にした上で、眼科でのリハビリテーションへの道筋と早期相談支援の重要性を全国の眼科医をはじめとする医療従事者や関係省庁、関係施設に理解を求めるとともに、社会全体に啓発していくことが必要である。 提言2:院内における相談支援を支えるための財政基盤の整備  医療と福祉が両輪となって、院内で早期相談支援を安定的かつ永続的に行っていくためには、強い財政基盤が重要となる。  現状において、眼科では診療報酬が中心となるが、福祉においては決まった財源がない団体がほとんどである。  アンケート調査では、医療と福祉ともに相談支援に係る財源を問題視しており、両者において財源的な裏付けのための方策を考えていく必要がある。 【主な取り組み】 (1)医療側の財政基盤の強化  医療側における財政基盤の強化については、診療報酬が中心となる。例えばロービジョン検査判断料の見直しやロービジョンケアを積極的に行えるような診療報酬の改定といったことが必要になると考えられるが、そのためには日本眼科医会や日本ロービジョン学会と当事者団体が連携しながら、国に対して働きかけていくことが重要になる。 (2)福祉側の財政基盤の強化  福祉側の相談事業の多くが中途失明者緊急生活訓練事業、地域生活支援事業(相談支援)等により運営が行われている。また、今回の調査からは団体負担によって事業が行われている場合が多いことも明らかになっており、相談事業に係る資金の調達が望まれる。  具体的には、民間企業や団体からの寄付金やピアサポート体制加算の導入が挙げられるが、これらを含めて検討していく必要がある。 提言3:院内で相談支援を行うための環境づくりを目指す  アンケート調査およびヒアリング調査からは、医療・福祉ともに人材と財源だけでなく、場所や時間の問題が明らかになっている。  院内における相談支援の実現には、導入しやすい環境に整備する必要がある。そのためにはロービジョンに関心のある人材を医療と福祉どちらにも増やすことが第一条件となると考えられる。ロービジョンに対する理解を得られない限りは、場所や時間の問題を解決するばかりか、相談支援の実施さえも実現することが難しくなる。これらを総合的に解決していくためにも、先ずは当事者団体が声を上げていくことが重要である。 【主な取り組み】 (1)ロービジョンに関心のある眼科医や視能訓練士を増やす  院内に相談支援が導入しやすい環境を整えるためには、ロービジョンに関心のある眼科医や視能訓練士などの医療従事者を増やすことが必要であると考えられる。これには、当事者団体が先陣を切って、関係団体が一丸となり、学会などの場やメディアなどを通じて、広く社会に問題提起することが重要である。  その結果として、医師を対象とした視覚障害者用補装具適合判定医師研修会の受講者をさらに増やすとともに、継続してロービジョンケアを学ぶ環境を整えることができれば、ロービジョン外来の開設や継続に繋がるとも考えられる。 (2)視覚障害当事者や福祉関係者、盲学校関係者の医療との連携に対する意識改革  福祉側における医療との連携に対する意識改革もまた必要であり、そのためには当事者団体が率先して、医療との連携の重要性を訴えていく必要がある。  具体的には、当事者団体主催によるシンポジウムや研修会を開催することや、福祉関係者・盲学校関係者が多く参加する視覚障害リハビリテーション研究発表大会などで発表することで、全国的に医療との連携を推し進め、連携を強固なものにしていく。 (3)相談のための場所や時間の確保  今回の調査から検査機器の多い眼科の限られたスペースにおいて、できる限り診察室に近い位置に相談場所を確保すること、そして様々な理由から相談のための時間を確保することの難しい現状が明らかになっている。  このような医療現場での事情も念頭に置きながら、プライバシー保護が可能な相談場所を確保できるよう、時間を含めて多角的に検討するとともに、患者や医療従事者に過度な負担をかけずに円滑な支援が行えるようなノウハウを蓄積していくことも必要であると考える。 提言4:関連機関とその関係者との効果的な連携と支援先の強化  患者のライフステージに合った支援先や専門家が効果的に連携できるようネットワークを強化するとともに、繋いだ先である支援施設等において、患者のニーズに合った十分な支援ができるよう、患者の自立や生活の質の向上、社会参加に向けた切れ目のない支援を目指す。 【主な取り組み】 (1)医療と福祉のネットワークの有効活用とさらなる連携  スマートサイトを機に全国各地に立ち上がったロービジョンネットワークをきっかけに医療と福祉が「顔の見える関係」になったことが、アンケート調査からもうかがえた。  一方で、スマートサイト等で福祉に繋がったとしても、その先の教育や就労支援の場面において、問題にぶつかるケースが多いといった声がヒアリングからは聞かれている。  これには既に構築されたネットワークを活かしながら盲学校・特別支援学校や教育委員会、就労支援機関(障害者職業センター、障害者就業・生活支援センター等)、当事者団体、基幹相談支援センター等といった機関と今後幅広く連携を展開していくことが必要であると考えられる。 (2)患者とその家族に対する心理的支援の強化  患者のみならず、家族への心理的なケアは喫緊の課題である。特に視覚に障害のある子どもの支援には、両親の支援が不可欠である。  両親が抱える心理的な不安は、子どもの心身の成長にも影響を与えるといった理由からも、早期に適切な支援者に繋がることが、家族の不安の軽減と子どもの将来の可能性を広げるためにも重要である。 (3)支援先の強化  英国のような早期の相談支援のシステムが日本において構築され、運用されたとしても患者のニーズに合った支援先がない、支援者不足から支援やサービスを受けるまでに時間がかかるといったことでは問題がある。これらの問題は、既に直面している問題であり、早急に問題が解消される必要がある。  当事者団体としても視覚障害支援ワーカーが繋ぐ先である支援施設や日本歩行訓練士会などの関係団体と一緒になって問題解決に取り組むことで、支援先の強化を図っていく。 第4章 おわりに  障害者福祉の分野においては、近年相談支援が最も重要であることが意識され、国においても「寄り添い型支援」や「ワンストップ型相談の体制の整備」が強調されるとともに、昨年末の障害者総合支援法の改正によって、そのような相談体制の強化を打ち出している。  人生の半ばにおける視力の低下や失明は、その人にとって大きな衝撃であり、多くの人は喪失感に苛まれる。その結果、離職、引きこもり、そして自死へと向かう例は数えきれない。これまでにも、中途視覚障害者を含めた視覚障害者に対する相談は、訪問相談や巡回相談を含めて広く行われてきたが、失明や視力低下に直面した視覚障害者に対する早期の相談体制が確立されるまでには至っていない。また、中途視覚障害となり社会から一旦離脱した者に対し、補装具・日常生活用具の利用や歩行訓練等の障害者福祉サービスの利用を紹介しても拒絶されることも珍しくない。ところが、治療の過程や医療機関において、あるいは失明前に、視覚障害者の生活や就労状況を知ることによって将来への不安を軽減できる場合がある。そして、歩行訓練や補助機器の利用によって、離職せずに就労が継続でき、社会から離脱することなく再出発できるのである。  わが国においても、スマートサイトが全国に広がり、医療・福祉・教育及び当事者団体のネットワーク化が広がりつつあることは注目すべきである。また、特定の診療機関においては、院内職員として歩行訓練士やメディカルソーシャルワーカーを配置し、医療から福祉の利用に向けたスムーズな流れを作り出している。  本連合は、わが国における医療と福祉の連携の実態を調査し、そうした体制ができている医療機関の有用性を確認することが必要であると考え、さらにはイギリスにおける医療と福祉の連携としての「ECLO」を学び、わが国に導入することの可能性を模索することにした。そして、大阪府民共済生活協同組合、埼玉県民共済生活協同組合、全国生活協同組合連合会の助成金をいただくことにより、「失明の可能性の告知を受けた人の早期相談支援体制の構築に向けた調査研究検討委員会」を立ち上げ、1年間にわたりアンケート調査や問題点の把握に努めてきた。上記検討委員会にご参加いただいたすべての関係者に心からお礼を申し上げたい。今後は、この報告書をどのように活かして、新たな制度作りに向けて活動するかが問われることになる。引き続き検討会にご参加いただいた方々のご協力をいただきながら、日本における福祉と医療の連携を確立していきたい。 日本視覚障害者団体連合 会長 竹下義樹 巻末資料 1.アンケート調査票 2.用語集(報告書掲載分) 3.関連診療報酬 4.関連障害福祉サービス費等報酬 1. アンケート調査票 研究2-2 相談支援専門職の病院内配置に対するアンケート調査 アンケート調査票 ---ここから 眼科医に対するアンケート調査 アンケートにご協力いただきありがとうございます。 視覚障害の患者さん(以下 視覚障害者)への相談支援および視覚障害者で構成されている団体や視覚障害者を支援する施設との連携の実態について調査をしています。 回答は、2022年12月31日(土)までにお願いいたします。 ※このアンケートは、日本視覚障害者団体連合が慶應義塾大学(受理番号:22-005)、国立障害者リハビリテーションセンター(研究実施許可番号:2022-108)での倫理審査を受けたうえで「失明の可能性の告知を受けた人の早期相談支援体制の構築に向けた調査研究」の一環で実施しています。調査研究の概要は、アンケート末尾をご参照ください。 【お問い合わせ】日本視覚障害者団体連合 情報部 電話:03-3200-6169 E-mail:ecloresearch@jfb.jp  URL:http:// nichimou.org 本調査への回答にご同意いただけますか。 〇はい 〇いいえ → 以下の質問への回答は不要です。ありがとうございました。 ★設問1  中間型アウトリーチをご存じですか。 〇1.知っている 〇2.初めて聞いた 〇3.聞いたことはあるが、よく知らない ★ 設問2  医療機関に非医療者が出向いて患者さんの相談業務対応を行うことを中間型アウトリーチといいますが、貴医院において視覚障害者もしくは視覚障害者を支援する福祉職による院内での相談支援を実施していますか。 〇1.実施している 〇2.実施していない → ★設問3にご回答ください 〇3.知らない ★設問3 設問2で「2.実施していない」を選択された方にお尋ねいたします。 貴医院において視覚障害者もしくは視覚障害者を支援する福祉職による院内での相談支援ができれば実施したいですか。 〇1.実施したい 〇2.実施は特に考えていない 〇3.わからない ★設問4 視覚障害者もしくは視覚障害者を支援する福祉職による院内での相談支援を実施している医院をご存じですか。 〇1.知っている → 下の(※)に医院名をご記載ください 〇2.知らない (※)上記 設問4 で知っている場合は、医院名をご記入ください。 回答を記入               ★設問5  視覚障害者もしくは視覚障害者を支援する福祉職による院内での相談支援に関して、気になることを選んでください。(複数回答可) 〇1.患者さんの個人情報保護の問題 〇2.相談支援に当たる人の資質及びその確保の問題 〇3.相談支援に当たる人の人件費の問題 〇その他 ★設問6 地域の視覚障害者で構成されている団体と日常的に交流がありますか。 〇1.交流している → 下の(※)に団体名をご記載ください 〇2.名前は知っているが、交流まではしていない 〇3.まったくわからない (※)上記 設問6で交流している場合は、 団体名をご記入ください。 回答を記入               回答をありがとうございました。 ---ここまで 研究4-3視覚障害当事者団体における相談事業実施状況アンケート調査 アンケート調査票 ---ここから 失明の可能性の告知を受けた人の早期相談支援体制の構築に向けた調査研究アンケート調査票(日視連加盟団体) (設問1)貴団体において相談事業を実施していますか。 1.している 2.していない 3.その他(               ) 設問1で「1.している」を回答した団体は設問2にお進みください。「2.していない」「3その他」と回答した団体は設問7にお進みください。 (設問2)相談事業には、視覚障害当事者が行っていますか。(複数回答可※) ※1人が複数の資格を所持している場合にはそれぞれ〇をつけてください(例)社会福祉士と歩行訓練士の資格を所持している場合 →2.と3.に〇をつける 1.視覚障害当事者 2.社会福祉士 3.歩行訓練士 4.その他(               ) (設問3)相談の方法を教えてください。(複数回答可) 1.貴団体施設内で対面相談 2.外部施設に訪問し対面相談 3.自宅に訪問し対面相談 4.電話による相談 5.オンラインによる相談 6.その他(               ) (設問4)設問3で「2.外部施設に訪問し対面相談」を回答した団体のみご回答ください。訪問先を教えてください。(複数回答可) 1.病院・医療施設 2.福祉施設(盲養護老人ホーム等) 3.特別支援学校 4.自治体 5.保健所などの地域の公共施設 6.その他(               ) (設問5)相談員の雇用形態を教えてください。(複数回答可) 1.貴団体役員・職員 2.外部委託 3.ボランティア 4.その他(               ) (設問6)相談事業の財源はありますか。(複数回答可) 1.地域生活支援事業(相談支援事業) 2.中途失明者緊急生活訓練事業 3.団体負担 4. その他(               ) (設問7)貴団体が相談支援事業を行っていない理由を教えてください。(複数回答可) 1.相談に対応できる視覚障害当事者はいるが移動や代筆・代読を支援する職員が不足している 2.資金不足 3.相談に応じる場所がない 4.相談スキル不足のため相談に応じる自信がない 5.相談案件が把握できない 6.その他(               ) (設問8)貴団体は地域の眼科医会や医療機関、視覚障害者支援施設と連携し、活動をしていますか。 1.活動している 2.活動していない 3. わからない (設問9)設問8で「1.活動している」を回答した団体のみご回答ください。連携先を詳しく教えてください。 1.医療機関(医院名:           ) 2.視覚障害者支援施設(施設名:          ) 3. その他(             )    (設問10)今後、地域の眼科医と連携し、視覚障害のある患者さんの早期相談支援等を行っていきたいと思いますか。 1.今後も連携していきたいと思う 2.これから連携をはじめたいと思う 3.特に連携していく必要性を感じない 4.どちらともいえない 5.わからない (設問11)視覚に障害のある患者さんが、それぞれの悩みに応じた訓練や支援を受けられるように相談先を紹介したリーフレット「スマートサイト」(※)をご存じですか。 1.知っている 2.知らない (※)「スマートサイト」は代表名で地域によってその名称は異なります。 例… 兵庫県「つばさ」  新潟県「ささだんごネット」 京都府「さくら」 以上 アンケートにご協力いただきありがとうございました。 ---ここまで 2.用語集(報告書掲載分) (1)医療関連 ●視能訓練士(CO、ORT)  1971年に誕生した子どもの弱視や斜視の視能矯正、視機能の検査をおこなう国家資格を持つ専門技術職である。  医師の指示のもと、精密光学機器を使って目の構造や機能を調べ、視力や視野、眼球運動、色覚等を評価し、医師が診療を行うためのデータを提供するだけでなく、弱視や斜視により発達が滞ってしまった子どもの視機能回復のための訓練を行うことが主な仕事である。  そのほか目の病気を早期発見する就学前健診等での視機能検査や加齢や生活習慣病等の疾患により視機能が低下した患者の支援を行うロービジョンケアも視能訓練士の仕事である。 日本視能訓練士協会ホームページ: https://www.jaco.or.jp/ ●メディカルソーシャルワーカー(MSW)  病気や障害などによって生活に問題を抱える人に対して社会福祉支援(医療や介護・福祉に関する相談・援助・調整)を行う専門職のことをソーシャルワーカー1)といい、病院、保健所などの保健医療機関の場におけるソーシャルワーカーのことをメディカルソーシャルワーカーという。  メディカルソーシャルワーカーは、保健医療機関等において患者やその家族の相談を受けるとともに、社会福祉の立場から経済的、心理的、社会的問題の解決と調整をしながら、患者が社会復帰できるように支援する。 [註] 1)一般的には社会福祉士や児童福祉司など社会福祉支援活動を行う人の総称としてソーシャルワーカーというが、社会福祉士や精神保健福祉士の国家資格を持つ者に限定して、ソーシャルワーカーという場合もある。 日本医療ソーシャルワーカー協会ホームページ: https://www.jaswhs.or.jp/ ●スマートサイト  スマートサイトは、ロービジョンケア推進プロジェクトを意味し、ロービジョンケア関連施設やロービジョンについての情報が掲載された啓発用パンフレットを医師が必要とする患者に提供することを指す。また、パンフレットそのものを指すこともある。  2005年にアメリカ眼科学会が、連携の入り口を担うべきすべての眼科医が容易にその役割を果たせるように開始したのがスマートサイトのはじまりである。日本においては、2010年に兵庫県版スマートサイト「つばさ」が作られ、2021年3月をもって47都道府県全てでスマートサイトが運用されている。  スマートサイトには、地域のロービジョンクリニック、情報提供施設、盲学校・視覚特別支援学校、障害者自立支援センター、当事者団体・患者会、訓練施設等に関する情報が掲載されている。 スマートサイト関連情報: https://www.gankaikai.or.jp/info/detail/SmartSight.html(日本眼科医会ホームページ内)  [写真]東京都ロービジョンケアネットワークのスマートサイトのリーフレット ●OCT(眼底三次元画像解析)  光の特性(干渉)を利用して眼底を測定して撮影する眼科の精密光学機器である。赤外線を利用して、網膜の断面を画像化することで、三次元的にとらえることができる。患者に負担をかけることなく、網膜のむくみの程度や出血の範囲や深さなどを簡単に観察できるため、緑内障や加齢黄斑変性をはじめとした多くの眼科疾患の精密な検査が可能になっている。 (2)福祉関連 ●歩行訓練士  視覚に障害のある方が安全に歩行できるよう歩行の訓練をするほか、点字やパソコンを使ったコミュニケーションの訓練、日常生活における工夫や動作を指導する専門職である。歩行訓練士は、別名 視覚障害生活訓練等指導者とも呼ばれる。  歩行訓練士の多くは、点字図書館などの情報提供施設、視覚障害リハビリテーションセンター、視覚障害者入所・通所施設、視覚障害当事者団体で勤務していることが多い。最近では、行政や病院でも勤務しているケースもあり、活躍の場を広げている。  歩行訓練士の養成は、国立障害者リハビリテーションセンター学院視覚障害学科(埼玉県所沢市)と社会福祉法人日本ライトハウス養成部(大阪府大阪市)の2か所で行われており、いずれも大卒者が対象となる。履修期間は2年間になっているが、日本ライトハウス養成部においては、視覚障害リハビリテーション関連施設の職員を対象に分割履修等の特別措置が設けられている。 日本歩行訓練士会ホームページ:https://nippokai.jp/wp/ ●補装具  補装具は、障害者総合支援法において自立支援給付に位置づけられ、障害者等の身体機能を保管し、又は代替し、かつ、長期間に渡り継続して使用されるものその他の厚生労働省で定める基準に該当するものとして、義肢、装具、車いす、その他の厚生労働大臣が定めるものと定義している。  視覚障害者の補装具としては、視覚障害者安全つえ(普通用・携帯用・身体支持併用)、義眼、眼鏡(矯正用・遮光用・コンタクトレンズ・弱視用)がある。  支給限度額や耐用年数は、自立支援給付であるため全国一律ではあるが、修理や再支給に関しては実情に沿って自治体が対応するため、居住する地域によって異なる場合がある。 [写真]白杖の種類 普通用(直杖) 携帯用(折りたたみ杖) 身体支持併用 ●日常生活用具(日生具)  日常生活用具は、障害者総合支援法の地域生活支援事業に位置づけられている、障害者等の日常生活がより円滑に行われ、福祉の増進に資することを目的として給付又は貸与される用具である。 日常生活用具は、地域生活支援事業で行われており、給付用具は各自治体の裁量で決まるため、居住する地域によって対象用具や条件(障害者手帳の等級等)、限度額、耐用年数が異なる。 [写真]日常生活用具の一例 視覚障害者用拡大読書器(据置型)(携帯型) ポータブルレコーダー(DAISY再生機器) 時計(音声式)(触読式) [図]障害者総合支援法等における給付・事業(令和4年版障害者白書資料 内閣府より)※図の中のテキストボックスは、視覚障害に関することを追記しています ---ここから 障害者総合支援法等における給付・事業 ★市町村 自立支援給付〈国負担二分の一〉 @介護給付(障害福祉サービス) ・居宅介護 ・重度訪問介護 ・同行援護 ・行動援護 ・療養介護 ・生活介護 ・短期入所 ・重度障害者等包括支援 ・施設入所支援 A訓練等給付(障害福祉サービス) ・自立訓練(機能訓練※・生活訓練) ※機能訓練(歩行訓練・日常生活訓練・コミュニケーション訓練) B自立支援医療 ・更生医療 ・成育医療 C補装具 ・義肢 ・装具 ・車椅子 等 ※白杖、義眼、眼鏡が含まれる D相談支援 ・基本相談支援 ・地域相談支援(地域移行支援・地域定着支援) ・計画相談支援(サービス利用支援・継続サービス利用支援) E障害児相談支援(児童福祉法〈国負担二分の一〉) F障害児通所支援(児童福祉法〈国負担二分の一〉) ・児童発達支援 ・医療型児童発達支援 ・居宅訪問型児童発達支援 ・放課後等デイサービス ・保育所等訪問支援 G地域生活支援事業〈国補助二分の一以内〉 ・相談支援 ・意思疎通支援 ※代筆・代読も含まれる ・日常生活用具 ・地域活動支援センター ・福祉ホーム 等 ↑支援 ★都道府県 B自立支援医療 ・精神通院医療 G地域生活支援事業〈国補助二分の一以内〉 ・広域支援 ・人材育成 等 H障害児入所支援〈国負担二分の一〉 ---ここまで ●歩行訓練  歩行訓練では、視力・視野の状態に合わせて保有している感覚を使いながら、空間内の自分の位置や物の位置、自分と物との位置関係などを認識しながら、自分で判断して安全に歩く能力を身に付けることを目標としている。訓練には、白杖を使う場合と使わない場合の訓練があり、@白杖歩行、Aガイド歩行、B盲導犬歩行の3種類に分かれる。  @白杖歩行は、補装具の1つである白杖を使用した単独の歩行技術であり、交差点横断、階段昇降、空間歩行、交通機関の利用も含めた歩行の技術を習得する。Aガイド歩行は、介助者とともに安全に効率的に歩く方法であり、Bの盲導犬歩行は、盲導犬とともに安全に歩く方法である。 ●日常生活訓練  朝起きてから寝るまでの間に必要な生活に係る訓練であり、身辺動作(着席、食事動作、トイレの利用、整容、金銭管理、電話の利用、時計等の利用など)や家事動作(掃除、洗濯、裁縫、調理など)について、安全に効率よく行うための技術や工夫を学ぶ。 コミュニケーション訓練  コミュニケーション訓練では、視力・視野の状態に合わせて保有している感覚を使いながら、読み書きを自由にできるようにするための訓練である。  訓練には、拡大読書器やルーペを活用した訓練、ハンドライティング、録音再生機器の訓練(ポータブルレコーダー、ICレコーダー)、パソコンの訓練(音声読み上げソフトや画面拡大ソフトの活用)、携帯電話・スマートフォン・タブレットの基本的な操作法の訓練、点字の訓練がある。 [写真]コミュニケーション訓練の一例 スマートフォン、拡大読書器、点字、ハンドライティング 日本視覚障害者団体連合「視覚障害者のニーズに対応した機能訓練事業所の効果的・効率的な運営の在り方に関する調査研究事業 報告書」(厚生労働省平成28年度障害者総合福祉推進事業):http://nichimou.org/all/news/secretariat-news/170406-jimu/ 生活訓練(自立訓練の機能訓練)を実施している機関 日本ライトハウス養成部「視覚障害者の生活訓練実施機関の現状(2022)」:http://www.lighthouse.or.jp/yosei/pdf/sisetsu2022-2.pdf ●同行援護  同行援護は、視覚障害により、移動に著しい困難を有する障害者等につき、外出時において、当該障害者等に同行し、移動に必要な情報を提供するとともに、移動の援護その他の当該障害者等が外出する際の必要な援助を行うとされている。  同行援護は、障害福祉サービスの介護給付に位置づけられており、同行援護アセスメント調査票による、調査項目中「視力障害」、「視野障害」及び「夜盲」のいずれかが1点以上、かつ「移動障害」の点数が1点以上の者が対象となっている。  同行援護における問題には、サービスの細かい内容が自治体によって異なることや、障害児の場合に通学にサービスが利用できない、車を利用した同行援護はできないといった問題が挙げられており、地域によるサービスに差があることが問題となっている。 ●代筆・代読支援  視覚に障害があると、どこからの郵便物なのか、内容が読めないので重要な郵便物なのか分からない、子育て世代の視覚障害者においては子どもが通う学校からの便りやお知らせが読めないといった読み書きに関する困難が生じてくる。  代筆・代読支援とは、そんな読み書きが困難な本人に代わって、書類等の読み書きを行う代筆・代読支援員を派遣し、視覚障害者の自立と社会参加を促進する支援である。  現在は、地域生活支援事業の意思疎通支援事業による代筆・代読支援、障害福祉サービスの介護給付の居宅介護(自宅内に限定)や同行援護(外出先に限定)において代筆・代読の支援を受けることができるとしているが、居宅介護や同行援護による代筆・代読支援では、時間数やプライバシー保護の問題から自由にサービスの利用ができない、利用に制限があるといった課題が浮き彫りになっている。また、意思疎通支援事業による代筆・代読支援においては、実施している自治体が少ないのが現状で、代筆・代読支援がどの地域でも受けられることが望まれている。 日本視覚障害者団体連合「視覚障害者の代筆・代読の効果的な支援方法に関する調査研究事業 報告書」(厚生労働省令和4年度障害者総合福祉推進事業):http://nichimou.org/all/news/other/230410-jouhou-1/ (3)就労関連 ●職場適応援助者(ジョブコーチ)  障害者が就業するに当たり、職場に定着して長く働けるように支援する援助者のことをジョブコーチという。  ジョブコーチは、障害者職業カウンセラーが策定した支援計画に基づき、職場に出向いて直接支援を行うとともに、事業主や一緒に働く社員に対しても、障害特性に配慮した雇用管理や障害のある人との関わり方などの助言を行う。また、障害者が新たに就職するに際しての支援だけでなく、雇用後の職場適応支援も行う。  支援期間は、一般的には2〜4ヶ月だが、必要に応じて1ヶ月〜8ヶ月の範囲で個別に期間を設定することもある。ジョブコーチによる支援は、支援を通じて適切な支援方法を職場に伝えることで支援体制を整備し、障害者の職場定着を図ることを目的としており、永続的に実施するものではないとされている。 職場適応援助者(ジョブコーチ)関連情報:https://www.jeed.go.jp/disability/person/job01.html(高齢・障害・求職者雇用支援機構ホームページ内) ●障害者就業・生活支援センター  障害者の職業生活における自立を図るため、ハローワークをはじめ、行政機関、就労移行支援事業所等の福祉施設、区市町村障害者就労支援センター、障害者職業センター、医療機関、特別支援学校といった関係機関と連携しながら、障害者の身近な地域において就業面および生活面における一体的な支援を行うことで、障害者の雇用の促進と安定を図ることを目的としている。2022年4月1日時点で全国に338箇所設置されている。 障害者就業・生活支援センターについて:https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_18012.html(厚生労働省ホームページ内) ●障害者職業センター  障害者職業センターは、障害者雇用促進法において専門的な職業リハビリテーションを実施する機関として位置づけられており、職業リハビリテーションの専門家として障害者職業カウンセラーが配置されている。この障害者職業カウンセラーにより、障害者一人ひとりのニーズに沿った職業評価、職業指導、職業準備訓練および職場適応援助等の職業リハビリテーションが実施されるだけでなく、事業主に対しても、雇用管理上の課題を分析しながら、雇用管理に関する専門的な助言や支援を実施している。  地域の障害者職業センターでは、公共職業安定所との密接な連携のもと、障害者に対する専門的な職業リハビリテーションを提供する施設として、全国47都道府県に設置されている。 地域の障害者職業センターホームページ一覧:https://www.jeed.go.jp/location/chiiki/(高齢・障害・求職者雇用支援機構ホームページ内) ●認定NPO法人タートル  1992年に視覚障害のある3人の国家公務員を中心に、「視覚障害国家公務員の会」として立ち上がり、1995年に中途視覚障害者の復職を考える会(通称:タートルの会)を設立した。タートルは、視覚障害というハンディキャップを乗り越えて働く、働き続けることを目標として設立された団体で、視覚障害者が晴眼者のように見えなくても働けることを社会に広めるとともに、中途視覚障害者や視覚障害リハビリテーションを必要とする人が継続就労をするためには、どうしたらいいのかを一緒に考えながら支援をしている。  タートルでは、電話やメールによる相談、ロービジョン就労相談会等の各種相談、同じ悩みをもつ仲間と繋がり、情報を交換するタートルサロンや交流会などの活動が行われている。 認定NPO法人タートルホームページ:http://turtle.gr.jp/ (4)その他 ●長期療養者就職支援事業  がんや肝炎、糖尿病等により長期療養(経過観察・通院等)が必要な患者の就職支援相談員をハローワークに配置し、医療機関などと連携しながら、個々の希望や治療状況を踏まえた職業相談・職業紹介等を実施する事業のこと。 [図]長期療養者就職支援事業の仕組み ---ここから 長期療養者就職支援事業 ○平成25年度から、ハローワークに専門相談員(就労支援ナビゲーター)を配置し、がん診療連携拠点病院等と連携したがん患者等に対する就職支援モデル事業を開始。 ○平成28年度からは、3年間モデル事業で蓄積した就職支援ノウハウや知見を幅広く共有し、全国に展開。 ○がん診療連携拠点病院などへの出張相談も実施。がん相談支援センターと治療状況等を共有しながら、病院での職業相談・職業紹介も実施しています。 就職率(H29年度)55.4% @がん診療連携拠点病院等とAハローワーク(全国47都道府県)で協定締結 @がん診療連携拠点病院等 ↓就職希望者の誘導(リファー)、本人の医療関係情報の提供 Aハローワーク(全国47都道府県) Aハローワーク(全国47都道府県) ↓相談支援センターへ出張相談(院内での職業相談・職業紹介が可能に)★求人情報等、労働市場情報の提供 @がん診療連携拠点病院等 @がん診療連携拠点病院等 長期療養者 ↓相談 院内での出張相談 ↓↑ 相談支援センター(医師・看護師・MSW等) 相談支援センターハローワークによる協同支援を実施 ↑相談 長期療養者 Aハローワーク(全国47都道府県) 専門相談員をハローワークに配置(治療状況・希望に添った職業相談、職業紹介等を実施) ○個々の長期療養者の希望や治療状況等を踏まえた職業相談、職業紹介 ○長期療養者の希望する労働条件に応じた求人の開拓、求人条件の緩和指導 ○長期療養者の就職後の職場定着の支援 ○連携先拠点病院等と連携した事業主等向けセミナー 専任の就職支援ナビゲーターが連携体制を構築 ★MSW・医師・看護師と日常的にコミュニケーションをとり、就労支援への理解促進とともに信頼関係を構築 ★連携先拠点病院側とともに、就労支援に係る広報やセミナーを企画、実行 ★連携先拠点病院が実施する研修会(医師・MSW・看護師等向け)の講師として参加 ---ここまで 長期療養者就職支援事業(がん患者等就職支援対策事業)https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000065173.html(厚生労働省ホームページ内) 3.関連診療報酬 ●ロービジョン検査判断料  250点 [注] 別に厚生労働大臣が定める施設基準に適合しているものとして地方厚生局長等に届け出た保険医療機関において行われる場合に1月に1回に限り算定する。 [留意] (1)身体障害者福祉法別表に定める障害程度の視覚障害を有するもの(ただし身体障害者手帳の所持の有無を問わない)に対して、眼科学的検査(コンタクトレンズ検査料を除く)を行い、その結果を踏まえ、患者の保有視機能を評価し、それに応じた適切な視覚的補助具(補装具を含む)の選定と、生活訓練・職業訓練を行っている施設等との連携を含め、療養上の指導管理を行った場合に限り算定する。 (2)当該判断料は、厚生労働省主催視覚障害者用補装具適合判定医師研修会(眼鏡等適合判定医師研修会)を修了した医師が、眼科学的検査(コンタクトレンズ検査料を除く)を行い、その結果を判断した際に、月に1回に限り算定する。 [通知] (1)ロービジョン検査判断料に関する施設基準 眼科を標榜している保険医療機関であり、厚生労働省主催視覚障害者用補装具適合判定医師研修会(眼鏡等適合判定医師研修会)(以下「視覚障害者用補装具適合判定医師研修会」という)を修了した眼科を担当する常勤の医師が1名以上配置されていること。なお、週3日以上常態として勤務しており、かつ、所定労働時間が週22時間以上の勤務を行っている非常勤医師(視覚障害者用補装具適合判定医師研修会を修了した医師に限る)を2名以上組み合わせることにより、常勤医師の勤務時間帯と同じ時間帯にこれらの非常勤医師が配置されている場合には、当該基準を満たしていることとみなすことができる。 (2)届出に関する事項 ロービジョン検査判断料の施設基準に係る届出は、別添2の様式29の2に準ずる様式を用いること。 ●患者サポート体制充実加算  (入院初日)70点 [注] 患者に対する支援体制につき別に厚生労働大臣が定める施設基準に適合しているものとして地方厚生局長等に届け出た保険医療機関に入院している患者(第1節の入院基本料(特別入院基本料等を除く。)、第3節の特定入院料又は第4節の短期滞在手術等基本料のうち、患者サポート体制充実加算を算定できるものを現に算定している患者に限る。)について、入院初日に限り所定点数に加算する。 ●療養・就労両立支援指導料 1.初回・・・・・・ 800点 2.2回目以降・・・ 400点 [注] 1 1については、別に厚生労働大臣が定める疾患に罹患している患者に対して、当該患者と当該患者を使用する事業者が共同して作成した勤務情報を記載した文書の内容を踏まえ、就労の状況を考慮して療養上の指導を行うとともに、当該患者の同意を得て、当該患者が勤務する事業場において選任されている労働安全衛生法(昭和47年法律第57号)第13条第1項に規定する産業医、同法第10条第1項に規定する総括安全衛生管理者、同法第12条に規定する衛生管理者若しくは同法第12条の2に規定する安全衛生推進者若しくは衛生推進者又は同法第13条の2の規定により労働者の健康管理等を行う保健師(以下「産業医等」という。)に対し、病状、治療計画、就労上の措置に関する意見等当該患者の就労と療養の両立に必要な情報を提供した場合に、月1回に限り算定する。 出所)厚生労働省「令和4年度診療報酬改定説明資料」 2 2については、当該保険医療機関において1を算定した患者について、就労の状況を考慮して療養上の指導を行った場合に、1を算定した日の属する月又はその翌月から起算して3月を限度として、月1回に限り算定する。 3 別に厚生労働大臣が定める施設基準に適合しているものとして地方厚生局長等に届け出た保険医療機関において、当該患者に対して、看護師、社会福祉士、精神保健福祉士又は公認心理師が相談支援を行った場合に、相談支援加算として、50点を所定点数に加算する。 4 注1の規定に基づく産業医等への文書の提供に係る区分番号B009に掲げる診療情報提供料(T)又は区分番号B010に掲げる診療情報提供料(U)の費用は、所定点数に含まれるものとする。 5 別に厚生労働大臣が定める施設基準に適合しているものとして地方厚生局長等に届け出た保険医療機関において、療養・就労両立支援指導料を算定すべき医学管理を情報通信機器を用いて行った場合は、1又は2の所定点数に代えて、それぞれ696点又は348点を算定する。 4.関連障害福祉サービス費等報酬 ●ピアサポート体制加算  100単位/月 【自立生活援助、計画相談支援、障害児相談支援、地域移行支援、地域定着支援】 [算定要件] (1)「障害者ピアサポート研修(基礎研修及び専門研修)」を修了した次の者をそれぞれ常勤換算方法で0.5人以上配置していること(併設する事業所(計画相談支援・障害児相談支援・自立生活援助・地域移行支援・地域定着支援に限る。)の職員を兼務する場合は兼務先を含む業務時間の合計が0.5人以上の場合も算定可。)。 @障害者又は障害者であったと都道府県又は市町村が認める者※ ※「都道府県又は市町村」は、自立生活援助、地域移行支援及び地域定着支援は都道府県、指定都市又は中核市、計画相談支援及び障害児相談支援は市町村。 A管理者又は@の者と協働して支援を行う者 なお、令和6年3月31日までの間は、経過措置として、都道府県又は市町村が上記研修に準ずると認める研修を修了した@の者を常勤換算方法で0.5人以上配置する場合についても本要件を満たすものとする。(Aの者の配置がない場合も算定可。) (2)(1)の者により、事業所の従業員に対し、障害者に対する配慮等に関する研修が年1回以上行われていること。 (3)(1)の者を配置していることを公表していること。 【就労継続支援B型】 「利用者の就労や生産活動等への参加等」をもって一律に評価する報酬体系において、各利用者に対し、一定の支援体制(※)のもと、就労や生産活動等への参加等に係るピアサポートを実施した場合に、当該支援を受けた利用者の数に応じ、各月単位で所定単位数を加算する。 (※)「障害者ピアサポート研修(基礎研修及び専門研修)」を修了した障害者(障害者であったと都道府県、指定都市又は中核市が認める者を含む。)と管理者等を配置し、これらの者により各事業所の従業員に対し、障害者に対する配慮等に関する研修が年1回以上行われていること。 * 令和6年3月31日までの間は、都道府県、指定都市又は中核市が上記研修に準ずると認める研修でも可とするなどの経過措置を設ける。詳しくは、厚生労働省の報酬に関する告示や、報酬の算定に関する留意事項通知等を参照してください。