視覚障害者の情報機器の活用に関する実態調査 ―― 報告書 ―― 令和4年(2022年)3月 社会福祉法人日本視覚障害者団体連合 ―― 目 次 ―― はじめに 1章 事業概要 第2章 アンケート調査結果  1 自治体アンケート調査の概要  2 視覚障害当事者アンケート調査の概要  3 アンケート調査結果のまとめ  4 アンケート結果の詳細(クロス集計)  5 各種手続きのデジタル化において要望すること  6 使用しているICT機器   7 困りごと   8 サポートを受けた経験  9 サポートを受けるときの課題  10 デジタル化に際して必要な取り組み 第3章 ヒアリング調査結果   1 ヒアリング実施報告   2 ヒアリングのまとめ   3 視覚障害当事者団体ヒアリング 結果   4 視覚障害者サポート団体   ・企業ヒアリング 結果   5 スクリーンリーダー開発企業   ・団体ヒアリング 結果   6 日本版VPAT主管機関ヒアリング 結果    1 取り組みの説明    2 主な意見交換 内容   7 情報アクセシビリティ支援ナビ主管機関   ヒアリング 結果    1 取り組みの説明    2 主な意見交換 内容   8 スマートフォン講習会受託団体   ヒアリング 結果   9 ICTサポートセンターヒアリング 結果  第4章 提言 はじめに  日本視覚障害者団体連合は、都道府県・政令指定都市における60の加盟団体の連合体であり、視覚障害当事者団体として国や地方自治体の政策に視覚障害者のニーズを反映させるため陳情や要求運動をはじめとする様々な活動を行っている。  視覚障害者のニーズの集約にあたっては、日常生活や就労等の社会生活で直面する具体的課題を取り上げるとともに、科学的根拠に基づく提言を行うよう、データの収集及び調査研究を実施しているところである。その成果は報告書等の形で取りまとめ、各種情報誌やホームページに掲載して広く提供している。  さて、この調査研究報告書は、本連合が実施した「視覚障害者の情報機器の活用に関する実態調査」に係る研究結果をとりまとめたものである。  自治体及び視覚障害当事者を対象とするアンケート調査、並びに視覚障害当事者や支援団体、あるいは各種開発メーカーなどに対するヒアリング調査を行うことにより、パソコン・スマートフォン・タブレット(以後ICT機器)を活用している視覚障害者及び活用することが困難な視覚障害者の実態・課題・ニーズを考察した。デジタル化が進展する中にあって視覚障害者が取り残されないようにするための支援策を考えるための参考資料として活用していただければ幸甚である。  この研究を進めるに際しては、埼玉県民共済生活協同組合、東京都民共済生活協同組合及び全国労働者共済生活協同組合連合会より助成をいただいた。  また、アンケート並びにヒアリングについて多くの方々にご協力をいただいたところであり、この場を借りて関係各位に感謝申し上げたい。 第1章 事業概要 1 事業名  視覚障害者の情報機器の活用に関する実態調査 2 調査研究期間 令和3年1月1日〜令和4年3月31日 3 助成団体  埼玉県民共済生活協同組合、東京都民共済生活協同組合、全国労働者共済生活協同組合連合会 4 調査目的  本事業は、ICT機器を利用している視覚障害者及び利用することが困難な視覚障害者の現状と課題を把握し、社会全体がデジタル化へ進む中で視覚障害者が取り残されることの無いよう、「誰一人取り残されない」の実現に向けての方策を検討する。 5 調査体制  学識経験者、視覚障害当事者、視覚障害者情報提供施設の代表、視覚障害者のICT機器のサポーター等の有識者が集まり、委員会及び作業部会を開催した。  社会がデジタル化していく中で、視覚障害者が取り残されない方策。また、機器を利用している視覚障害者がICT機器をより活用しやすくすることの2つのテーマについて議論をした。 (1)委員名簿(順不同・敬省略) 中野泰志 慶應義塾大学経済学部 教授 渡辺哲也 国立大学法人新潟大学工学部工学科 教授 姉崎久志 社会福祉法人ほくてん 北海点字図書館 情報支援部長 山賀信行 特定非営利活動法人スラッシュ 副理事長 竹下義樹 社会福祉法人日本視覚障害者団体連合 会長 橋井正喜 社会福祉法人日本視覚障害者団体連合 常務理事 三宅 隆 社会福祉法人日本視覚障害者団体連合 組織部長 吉泉豊晴 社会福祉法人日本視覚障害者団体連合 情報部長 片平考美 社会福祉法人日本視覚障害者団体連合 青年協議会 会長 静岡県立静岡視覚特別支援学校 教諭 (2)委員会・作業部会の開催  令和3年4月から令和4年3月末までに下記のとおり検討委員会を3回開催、作業部会を1回開催した。 第1回委員会 期日:令和3年4月5日(月) 場所:日本視覚障害者センター・オンライン 議事:事業概要(案)の確認    視覚障害者のICT機器の活用に関する意見交換 第2回委員会 期日:令和3年6月8日(火) 場所:日本視覚障害者センター・オンライン 議事:アンケート調査(案)の確認    ヒアリング調査(案)の確認 第3回委員会 期日:令和4年3月17日(木) 場所:日本視覚障害者センター・オンライン 議事:アンケート及びヒアリング結果の報告    考察と提言(案)の確認    報告書(案)の確認 第1回作業部会 期日:令和3年4月28日(水) 場所:日本視覚障害者センター・オンライン 議事:アンケート(案)の確認 6 調査方法  視覚障害者のICT機器の利用状況及び課題やニーズを把握することを目的とした「視覚障害当事者調査」。 地域生活支援事業の「障害者ICTサポート総合推進事業」の対象である都道府県、政令指定都市、中核市を対象に、「ICTサポートセンター」等のサポート体制の実態、課題等を把握することを目的とした「自治体アンケート調査」。  また、視覚障害者のサポート体制・支援状況やICT機器のアクセシビリティの現状等を把握することを目的とした「ヒアリング調査」を行った。 第2章 アンケート調査結果 1 自治体アンケート調査の概要 (1)調査の目的  自治体のICTサポート事業の現状と課題を考察するためアンケート方式で調査を実施。 (2)調査対象  都道府県(47件)、政令指定都市(20件)、中核市(62件)の計129件に調査票を送付。 (3)調査方法  郵送によるアンケート調査 (4)調査時期(2022年)  第1段 1月17日〜2月21日  第2段 2月16日〜2月28日(再依頼) (5)回答件数・回収率  全体で124件(96.1%)  都道府県45件(95.7%)、政令指定都市18件(90.0%)、  中核市61件(98.4%) <表1-1 回答状況> 回答件数 回収率の順 都道府県(47)45 95.7 政令指定都市(20)18 90.0 中核市(62) 61 98.4 総数(129) 124 96.1 (6)調査項目  自治体名と部署名を尋ねる問1を別にすると、設問は次の7問。 1.障害者ICTサポート総合推進事業の実施状況 2.独自のICTサポート事業の実施状況 3.視覚障害者に対する事業の周知方法 4.必要に応じた事業の見直しの有無 5.障害者のICT関連支援事業における視覚障害者の支援事例 6.障害者のICT関連支援事業の実施に係る課題 7.障害者のICT関連支援事業における課題及び意見  なお、以降において、自治体数を表記する際の単位を「件」とした。   2 視覚障害当事者アンケート調査の概要            (1)調査の目的  視覚障害者に必要な情報保障の在り方を考察するためアンケート方式で調査を実施。 (2)調査方法  点字版・拡大文字版、メール、Webフォームを利用してアンケート調査を実施。本連合の加盟団体、(特)タートル、日本視覚障害者ICTネットワーク、ブラインドパソコンサポートに協力を依頼したほか、電子媒体により広く協力を求めた。 (3)調査期間(2022年)  1月20日〜2月18日 (4)有効回答者数  853人 (5)標本に関する制約  全数調査または偏りのないサンプリング調査ではないため、視覚障害者全体の特徴・傾向を推測する素材としては制約がある。 (6)回答方法  Web333人(39.0%)、メール222人(26.0%)、紙194人(22.7%)、点字104人(12.2%)とWebでの回答が最も多かった。 (7)調査項目  視覚障害当事者調査における設問項目を列記すると次のとおり。 1.回答者の属性(年齢及び視覚障害の程度) 2.デジタル化の中で困ることの度合 3.各種手続きのデジタル化において要望すること 4.使用しているICT機器 5.利用していて困ることの具体的な内容 6.サポートを受けた経験 7.サポートを受けるときの課題 8.デジタル化に際して必要な取り組み (8)有意性の検証方法  主に年齢階層に着目してクロス集計を行い、その結果をX2(カイ2乗)検定にかけて有意性を検証した。複数回答の設問の場合は、選択肢ごとに「○」を付けたか否かの2択と考えてクロス集計を行い、それをX2(カイ2乗)検定にかけた。 3 アンケート調査結果のまとめ  視覚障害当事者853人のアンケート回答及び124件の自治体アンケートの結果から見られた主な課題を取りまとめた。 (1)当事者のICT機器利用の困りごと          視覚障害当事者のアンケート調査によると、困りごとにおいて「困っている」と「やや困っている」を合計した場合、次の順で回答が多かった。 @ホームページの読みにくさや手続きの難しさなど環境面:83.0% グラフ1:ホームページの読みにくさや手続き等で困ること 困っている41.9% やや困っている41.1% 困っていない5.0% どちらともいえない6.4% わからない4.3% 無回答1.2% AICT機器やソフトウェアを使いこなすスキル:68.4% グラフ2:ICT機器の利用を前提にした手続きや情報で困ること 困っている26.8% やや困っている41.6% 困っていない15.7% どちらともいえない10.1% わからない4.3% 無回答1.4% BICT機器やソフトウェアの購入についての経済的な問題:54.8% グラフ3:ICT機器やソフトウェア購入の経済的な困りごと 困っている21.2% やや困っている33.6% 困っていない26.7% どちらともいえない13.0% わからない4.2% 無回答1.2% Cデジタル化において誰も取り残さないために必要な取り組み グラフ4:デジタル化において必要な取り込み ICT機器を行政の補助で購入できる仕組み 577件 67.6% お住いの地域で機器の操作を学べる環境整備 653件 76.6% ICT機器の端末の操作の簡素化 540件 63.3% アプリ等の使用しやすさ 649件 76.1% 特にない 12件 1.4% 無回答 22件 2.6%  相対的には低い割合の経済的な問題でも約55%が「○」をつけており、多くの視覚障害者が困りごとに直面していることが分かる。  また、【誰一人取り残さない必要な取り組み】には何が必要だと思うかとの設問については、次の順で回答が多かった。 1.お住いの地域で機器の操作を学べる環境整備:76.6% 2.アプリ等の使用しやすさ:76.1% 3.ICT機器を行政の補助で購入できる仕組み:67.6% 4.ICT機器の端末の操作の簡素化:63.3% 5.特にない:1.4%  上記のうち、アクセシビリティに関連する「アプリ等の使用しやすさ」または「ICT機器の端末の操作の簡素化」のどちらかに「○」を付けた回答者を合わせると83.2%になり大きな割合を占める。  アクセシビリティの確保・改善には8割を超える視覚障害者が困りごとを抱えると同時に、やはり8割以上が取り組みを求めていることが分かる。  以下ではアクセシビリティの問題、スキル向上等の人的支援の問題、ICT関連製品の購入等に係る経済的な問題、その他についてアンケート調査及びヒアリング調査の結果から読み取れることを整理したい。 (2)アクセシビリティ(使いやすさ)の問題  視覚障害当事者のアンケート調査において、ICT機器等を利用していて困ることの具体的な内容をみると、「ICT機器やソフトウェアを使い始めるための初期設定が難しい」(62.1%)、「音声出力が不十分(必要な情報を読み上げないなど)」(61.2%)、「画面表示の調整が思うようにできない(拡大率、白黒反転等)」(13.7%)であり、記述式回答としては、オンラインでの手続きにおける画像認証などのやりにくさ、タッチパネル方式の利用困難、PDFの読みにくさ(特に公的機関には配慮を求める)といった内容がみられた。  初期設定が難しい背景には、スクリーンリーダーの導入・調整が済んでいない状態では音声案内がないため、視覚障害者が独力で行うことが難しいこと、設定に必要な知識が分かりにくいことなどがあると思われる。  なお、画面調整が思うようにできないとの回答割合が低いが、今回の調査の回答者が障害等級1級に大きく偏っていることを勘案すると、視覚障害者全体ではもっと高い割合になると思われる。  ヒアリング調査ではアクセシビリティの問題に関連して多様な実態の報告や意見が述べられたが、概ね次のような内容に整理できる。 グラフ5:ICT機器を利用していて困ること ICT機器やソフトウェアあるいは通信料が高額 337件 42.7% インターネットなどを利用するための契約(書類の読み書きなど)が難しい 431件 54.6% ICT機器やソフトウェアを使い始めるための初期設定が難しい 490件 62.1% ICT機器を利用するためのサポートが不十分 384件 48.7% 音声出力が不十分(必要な情報を読み上げないなど) 483件 61.2% 画面表示の調整が思うようにできない(拡大率、白黒反転等) 108件 13.7% 入力操作が難しい(キーボード、マウス、タッチパッドなど) 275件 34.9% その他 84件 10.6% 困ると感じることはない 18件 2.3% 無回答 52件 6.6% @アクセシビリティの必要性の理解・啓発  視覚障害者向けの製品やサービスを提供する企業・団体、あるいは一部の欧米資本の企業を別にすると、アクセシビリティに関する要望を伝えても、窓口の担当者が要望を理解できないことが多く、また、要望を開発や改善に反映させようとする姿勢が希薄である。アクセシビリティの理解・意識向上を高める必要がある。 Aアクセシビリティに関する意見交換の機会  製品やサービスの開発段階からアクセシビリティに配慮することが重要。そのためには開発者がアクセシビリティを理解するとともに、障害当事者が早期から意見を述べる機会を持つことが肝要(開発メーカーが視覚障害者を雇用し、その意見を反映させるなど)。  視覚障害当事者の意見・要望を精査・集約した上で、開発メーカーなどに伝える必要がある。たとえば、Webやアプリケーションが思うように扱えない場合、スクリーンリーダーに対する不満や改善要求につながりやすいが、Webやアプリケーションの改善が必要なケース、視覚障害者のスキルアップが必要なケースなどもあり、要望の内容を精査し、適切な形で伝える必要がある。  そのためには障害者相談事業にICTの専門的知見を持つ人材を配置するとともに、その専門的人材が連携できる協議の場を設けるといった方策が考えられる。 B公共調達等におけるアクセシビリティの確保  日本版VPATなどのアクセシビリティ基準を周知徹底させるだけでなく、公共調達においてはその基準の順守を義務化することにより、開発メーカーのインセンティヴを高める必要がある(米国では公共調達においてアクセシビリティ基準の順守が義務化されている)。  関連して、日本では国が主導して開発した新型コロナ感染症対策アプリがアクセシビリティに配慮していないほか、日本で開発された物流管理・人事管理・会計管理のシステムがアクセシビリティに配慮されておらず、視覚障害者の就労の阻害要因の一つとなっているとの指摘があった。  スクリーンリーダーなどの視覚障害者専用の製品(オーファンテクノロジー)がアクセシビリティ確保にとって重要であり、それが今後も継続して開発・普及するよう公的な助成が求められる。 Cデジタル化における困りごと  視覚障害者にとって困難な具体例として、次のものが比較的多くあげられていた。  ATMやセルフレジあるいは自動販売機などにおけるタッチパネル方式の操作、ネットバンキングなどにおける画像認証やワンタイムパスワードの処理等の認証システムの操作、QRコードの読み取りを前提とした手続き、PDFの読み取りなどが多く上げられており、視覚障害者が利用しやすい方式にすることが求められる。とりわけ、公的機関の手続きや情報提供の在り方が扱いやすい形になっておらず、まずはそこから改善してほしいとの意見があった。 (3)視覚障害者のICTスキルの向上に関する支援の問題  視覚障害当事者のアンケート調査において、ICT機器等を利用していて困ることの具体的な内容をみると、「ICT機器やソフトウェアの操作方法を習得するのが難しい」(53.5%)、「ICT機器を利用するためのサポートが不十分」(48.7%)といった結果であり、使いこなせるようになるための支援を望む人が50%前後いることが分かる。  また、「インターネットなどを利用するための契約(書類の読み書きなど)が難しい」(54.6%)も比較的高い割合だが、これはスキル向上ではなく手続きを代行する代読・代筆の人的支援の必要性が高いことをうかがわせる。  なお、スキルの問題で困っていると回答した人には70歳以上の人、あるいは、ICT機器を使っていない人が多い傾向がみられた。  一方、自治体対象の調査によると、規模の小さい自治体ほど障害者ICTサポート総合推進事業等のICT関連支援事業を実施しているところが少なく、身近な地域で支援を受けることが難しいこと、支援を受けることができるかどうかに地域間格差があることが分かる。  また、支援事業を実施する予定がないとの回答が多く、現状が改善される見通しは厳しいといえる。 グラフ6:自治体の障害者ICTサポート総合推進事業の実施状況 実施している 34.7% 実施に向けて作業中 1.6% 実施にむけて検討中 4.0% 実施の予定はない 55.6% その他 4.0% 無回答 0.0%  視覚障害者に対する支援事業の周知方法では、ホームページへの情報掲載が多く、ICT機器を使っていない人には伝わりにくい。かつ、高齢になってから視覚障害者になった人には点字版・録音版・拡大文字版の利用も難しい人がいると考えられるため、身体障害者手帳を交付する際に本人に伝えるといった取り組みが必要となる。  自治体が支援事業を実施する際の課題としては、支援に当たる人材の育成及びそのスキル向上、関係団体との連携・調整が比較的多かった。支援事業の基盤である安定した支援者の育成及びその活動機会の確保が必要である。 4 アンケート結果の詳細(クロス集計) (1)自治体アンケート  アンケートの結果を都道府県、政令指定都市、中核市でクロス集計・分析をした。 @障害者ICTサポート総合推進事業の実施状況 + 問2.地域生活支援事業の「障害者ICTサポート総合推進事業」の実施の有無と延べ人数。 <表1-2 事業の実施状況 件(%)>    都道府県  政令指定都市 中核市 総数(計) 実施  36(80.0) 6(33.3)   1(1.6)  43(34.7) 作業中 1(2.2)  1(5.6)   0(0.0)   2(1.6) 検討中 0(0.0)  3(16.7)   2(3.3)   5(4.0) 予定なし 7(15.6) 6(33.3)  56(91.8)  69(55.6) その他 1(2.2)  2(11.1)   2(3.3)  5(4.0) 総数  45(100.0) 18(100.0) 61(100.0) 124(100.0) <結果及び分析>  都道府県では80.0%が実施しているものの、政令指定都市では実施しているのが3分の1、中核市ではほとんど実施されていないことが分かる。また、今後の実施予定のない自治体が中核市では91.8%以上で、身近な地域でサポートを受けたいと望む障害者からすると厳しい実態といえる。  一方、サポートした視覚障害者の延べ人数(令和2年度実績)に回答があった自治体をみると次のとおり。 <表1-3 視覚障害利用者数(人)>      全体 都道府県 政令指定市 中核市 回答件数  33   27     5     1 最小値   3    3    66     58 中央値 102.0   89.0   200.0   58.0 最大値 2375   2375    1500    58 平均値 362.88  332.22  589.40   58.00 標準偏差 605.89 613.13 632.14    none <結果と分析>  視覚障害者のサポート実績のある自治体は、都道府県75.0%(27件/36件)、政令指定都市83.3%(5件/6件)、中核市100%(1件/1件)であった。  また、視覚障害者のサポート実績の延べ人数の最小値と最大値をみると、都道府県(3人・2,375人)、政令指定都市(66人・1,500人)、中核市(58人・58人)。  事業を実施している自治体では、視覚障害者を対象にサポートを行っているところの割合が高い。ただ、都道府県と政令指定都市では最小値と最大値の間に大きな差があり、視覚障害者のサポートを行っている場合であっても対応の度合に大きな差がみられる。  障害者ICTサポート総合推進事業を実施しているかどうか、また、実施している場合でも視覚障害者をどの程度サポートしているかに違いがあり、地域によってサポートの受けやすさにかなり格差があるものと推測される。  なお、「その他」の記述回答としては次のような内容のものがあった。 〇点字図書館で当該事業に相当する内容を直営で実施している。 〇令和2年度までは地域生活支援事業として実施していたが、令和3年度からは指定管理者制度で同様の事業を実施している。 〇地域生活支援事業「自発的活動支援事業」として実施している。 A独自のICTサポート事業の実施状況  問3.問2の「推進事業」とは別に、独自に民間団体に障害者のICT関連支援事業の委託の有無と延べ人数。 <表1-4 独自事業の実施状況 件(%)>     都道府県 政令指定都市 中核市 総数(計) 実施  3(6.7)   5(27.8)   3(4.9)  11(8.9) 作業中 1(2.2)   0(0.0)   1(1.6)   2(1.6) 検討中 0(0.0)   0(0.0)   2(3.3)   2(1.6) 予定なし 36(80.0) 11(61.1) 49(80.3)  96(77.4) その他  4(8.9)  2(11.1)  4(6.6)   10(8.1) 無効回答 1(2.2)  0(0.0)  2(3.3)    3(2.4) 総数  45(100.0) 18(100.0) 61(100.0) 124(100.0) <結果及び分析>  実施している自治体は全体で8.9%(11件)。その内訳は、都道府県6.7%(3件)、政令指定都市27.8%(5件)、中核市4.9%(3件)であった。なお、「障害者ICTサポート総合推進事業」と独自事業の両方を実施している自治体は全体で5件だった。  「障害者ICTサポート総合推進事業」に比べると実施している自治体が少ない。特に都道府県でそれが顕著である。それに比べると、政令指定都市と中核市では独自事業を行っているところが相対的に少し多い。実施の予定がない自治体の割合は、都道府県・政令指定都市・中核市のいずれでも高く、今後、実施する自治体が増える見通しは厳しいといえる。 <表1-5 独自事業の視覚障害利用者数(人)>       全体 都道府県 政令指定都市 中核市 回答件数  11    3    5      3 最小値   10   10    15     11 中央値  39.0  70.0    27.0    39.0 最大値  192   95    192     70 平均値 54.55  58.33    61.00   40.00 標準偏差 53.33 43.68   74.16    29.51  その中で、視覚障害者のサポート実績のある自治体は、都道府県3件、政令指定都市5件、中核市3件である。  また、視覚障害者延べ人数の最小値と最大値をみると、都道府県(10人・95人)、政令指定都市(15人・192人)、中核市(11人・70人)となっている。  「障害者ICTサポート総合推進事業」と比較した場合、最大値がかなり小さい。とはいえ、最小値と最大値に差があり、実施している自治体の間でも視覚障害者のサポートへの取り組み状況に温度差があるといえる。  「その他」の記述回答としては次のような内容のものがあった。 〇各事業で個別に実施している例はある。  例:音声でのパソコン操作訓練。 〇地域生活支援事業の視覚障害者生活訓練事業の中で、視覚障害者を対象として講座を実施。 〇指定管理施設において、ITサポートボランティアの養成を行っている。 〇視聴覚障害者情報提供施設を直営で運営。同センターにてパソコン、個別相談対応等のICT関連支援事業を実施している。 B視覚障害者に対する事業の周知方法  問4.地域に住む視覚障害者への情報提供の方法(複数回答) <表1-6 周知方法 件(%)>         全体   都道府県  政令指定都市  中核市 福祉のしおり 15(30.6)  9(25.0)   5(55.6)   1(25.0) 広報紙    6(12.2)   1(2.8)   3(33.3)   2(50.0) ホームページ 19(38.8)  15(41.7)  4(44.4)    0(0.0) リーフレット 15(30.6)  10(27.8)  3(33.3)   2(50.0) 本人に    3(6.1)   1(2.8)   1(11.1)   1(25.0) その他   19(38.8)   14(38.9)  5(55.6)   0(0.0) 選択なし   1(2.0)   1(2.8)   0(0.0)   0(0.0) 該当数   49(100.0)  36(100.0)  9(100.0)  4(100.0) <結果及び分析>  選択の多い順に列記すると下のとおり(100%=49件)。 1.自治体のホームページに掲載している 38.8%(19件) 2.障害者福祉のしおりに掲載している 30.6%(15件) 3.事業のリーフレットを作成して配布している 30.6%(15件) 4.自治体の広報紙に定期的に掲載している 12.2%(6件) 5.身体障害者手帳を交付する際にご本人にお伝えしている  6.1%(3件)  自治体の種別で、多い選択の1番と2番をみると次のとおり。 都道府県  ホームページ 41.7%(15件/36件)  リーフレット 27.8%(10件/36件) 政令指定都市  福祉のしおり 55.6%(5件/9件)  ホームページ 44.4%(4件/9件) 中核市  広報紙とリーフレットが同率 50.0%(2件/4件)  なお、「その他」の記述回答としては次のような内容のものがあった。 〇事業の委託先で周知を行っている。ホームページ掲載、チラシ配布、会報誌での周知。(この回答が多く見られた) 〇メーリングリストを活用した周知を実施している。 〇福祉サービス等を紹介する冊子や、障害のある人やその家族を対象とした情報誌等に掲載している。 〇講座やイベントの開催時にチラシを区役所等に配架している。 〇県広報ラジオ番組で不定期放送。 〇拡大読書器用アプリ・タブレットの申請希望者へ案内を配布。  広報紙は点字や録音物等で視覚障害者に提供されている場合が少なくないが、福祉のしおりやリーフレットがどうなのか気になるところである。  ICT機器を使っていない視覚障害者が少なからずいること、なおかつ、高齢になってから視覚障害者になった人には点字版・録音物・拡大文字版の利用も難しい人がいると推測されることから、身体障害者手帳を交付する際に本人に伝えるといった取り組みが、より一層必要と考えられる。 C必要に応じた事業の見直し  問5.障害者のICT関連支援事業の実施内容(要領)を必要に応じて見直しているか。 【この設問は、障害者ICTサポート総合推進事業または独自事業を実施しているところに回答を求めた】 <表1-7 事業の見直し 件(%)>        都道府県 政令指定都市 中核市 総数(計) あり    18(50.0)   5(55.6)  1(25.0)   24(49.0) なし    17(47.2)   4(44.4)  2(50.0)   23(46.9) その他   0(0.0)    0(0.0)   1(25.0)   1(2.0) 無効回答  1(2.8)    0(0.0)   0(0.0)   1(2.0) 総数   36(100.0)   9(100.0)  4(100.0)  49(100.0) <結果及び分析>  見直しを実施している自治体は、全体で49.0%(24件/49件)、都道府県50.0%(18件/36件)、政令指定都市55.6%(5件/9件)、中核市25.0%(1件/4件)であった。  「その他」の記述式回答は中核市1件のみで、「要領はない」であった。  ICTの急速な技術的進展に支援事業が対応できるかが一つの課題である。そこで、支援事業の実施内容(要領)の見直しについて尋ねたものだが、全体として約半数が見直しを行っているという結果だった。  実施要領の見直しと、新たな機器・ソフトウェアに対応する講座等の実施とが直結するとは限らないが、状況の変化に対応するためには、障害者側の意見に留意しながら必要に応じて見直す姿勢が求められる。 D障害者のICT関連支援事業における視覚障害者支援の有無  問6.問2または問3で障害者のICT関連支援事業を行っている場合、視覚障害者に対する支援の有無。 【この設問は、障害者ICTサポート総合推進事業または独自事業を実施しているところに回答を求めた】 <表1-8 視覚障害者の支援事例 件(%)>     都道府県  政令指定都市  中核市   総数(計) ある  31(86.1)    8(88.9)  1(25.0)    40(81.6) ない  1(2.8)     0(0.0)   0(0.0) 1(2.0) わからない 2(5.6) 1(11.1) 3(75.0) 6(12.2) 無効回答 2(5.6) 0(0.0) 0(0.0) 2(4.1) 総数 36(100.0) 9(100.0) 4(100.0) 49(100.0) <結果及び分析>  視覚障害者の支援の事例があると回答した自治体は、全体で81.6%(40件/49件)、都道府県86.1%(31件/36件)、政令指定都市88.9%(8件/9件)、中核市25.0%(1件/4件)であった。  事例がないとの回答は都道府県で1件のみ、「わからない」は都道府県2件、政令指定都市1件、中核市3件だった。  ICT関連の支援事業を行っている自治体の多くで視覚障害者の支援事例があるが、少数ながら支援事例がない、または不明のところがある。また、中核市では事例があるところが25.0%にとどまっている。  どの地域においてもICT関連の支援を必要とする視覚障害者はいるはずであることを考えると、広報や支援体制等の在り方を工夫することにより視覚障害者も支援の対象とするよう求めたい。 E障害者のICT関連支援事業の実施に係る課題  問7.障害者のICT関連支援事業を行っていない理由、または、実施している場合の課題(複数回答可)。 <表1-9 事業実施上の課題 件(%)> 全体 都道府県 政令指定都市 中核市 予算確保 39(31.5) 13(28.9) 6(33.3) 20(32.8) 委託先確保 31(25.0) 4(8.9) 4(22.2) 23(37.7) 周知 19(15.3) 15(33.3) 0(0.0) 4(6.6) ニーズ把握 64(51.6) 22(48.9) 9(50.0) 33(54.1) 課題なし 6(4.8) 2(4.4) 1(5.6) 3(4.9) その他 25(20.2) 10(22.2) 6(33.3) 9(14.8) 選択なし 6(4.8) 4(8.9) 1(5.6) 1(1.6) 該当数 124(100.0) 45(100.0) 18(100.0) 61(100.0) <結果及び分析>  選択の多い順に列記すると次のとおり(100%=124件) 1.地域に住む視覚障害者のニーズの把握が難しい【ニーズの把握】  51.6%(64件) 2.実施する予算を十分に確保できない【予算確保】  31.5%(39件) 3.委託先の確保が難しい【委託先確保】  25.0%(31件) 4.地域に住む視覚障害者へ周知することが難しい【周知】  15.3%(19件) 5.特に課題と考える事柄はない【課題なし】   4.8%(6件)  自治体種別に選択の多い順で1番と2番をみると下のとおり。 都道府県  ニーズ把握 48.9%(22件/45件)  周知 33.3%(15件/45件) 政令指定都市  ニーズ把握 50.0%(9件/18件)  予算確保 33.3%(6件/18件) 中核市  ニーズ把握 54.1%(33件/61件)  委託先確保 37.7%(23件/61件)  自治体の種別によらず「地域に住む視覚障害者のニーズの把握が難しい」が多い。ICT関連支援事業を実施している自治体における当該割合は49.0%(24件/49件)、支援事業を実施していない自治体では53.3%(40件/75件)であった。事業実施の有無にかかわらず半数程度がニーズ把握を課題としている。  ICT関連支援事業の視覚障害者への有効な周知・広報を図るとともに、自治体及びICT関連支援事業の委託先事業者と、地域の視覚障害当事者団体または視覚障害者支援団体との連携の強化により、ニーズの把握を進める必要がある。  予算確保を課題とするところは、どの自治体種別においても30%前後で大きな違いはみられなかった。ただ、ICT関連支援事業を実施している自治体の当該割合は22.4%(11件/49件)であるのに対し、実施していない自治体のそれは37.3%(28件/75件)とやや高い。  委託先確保については、都道府県8.9%(4件/45件)、政令指定都市22.2%(4件/18件)、中核市37.7%(23件/61件)と、規模の小さい自治体ほど課題とする割合が高い。  「その他」の記述式回答の内容をみると、支援事業を実施していない理由として比較的多くみられたのは次の2つ。 〇支援に当たる人材がいない、または不足しているため。 〇地域生活支援事業または点字図書館の業務委託や補助事業によりICTの支援を行っているため。  それ以外の「実施していない理由」・「支援事業の実施にあたっての課題等」としては次の内容の回答があった。 1.実施していない理由 〇県がITサービスの拠点を設置しており、今のところ、供給不足の声がない(中核市の回答)。 〇事業として組み立てていく中で、特にICTの分野は視覚障害者等の高齢化もあり、地域における普及の度合いを見極めるのが難しいため。 〇現時点では要望等もなく、ニーズも把握していないことから、実施について検討していない。 〇登録ボランティアの高齢化。 2.支援事業の実施に当たっての課題等 〇都市圏とそれ以外に支援量の格差がある。ICT支援を活かし一般就労へ移行させることが難しい。 〇専用のソフトの使用やソフトのバージョンアップに対応するため、支援者のスキルアップが必要。 〇パソコンボランティアを障害者宅へ派遣する事業について、コロナ禍では事業を実施する際に十分な注意が必要。 〇訪問支援等のニーズに応じた支援が十分にできない。 〇現在、情報コミュニケーション条例の制定を進めており、条例に基づく施策面で必要となれば、事業実施を検討。 F障害者のICT関連支援事業における課題及び意見  問8.障害者のICT関連支援事業における課題、意見・要望(自由記述) <結果及び分析>  18の自治体から回答があったが、「特にありません」との回答(3件)を除くと、実質的には15件(12%=15件/124件)といえる。  回答の内容として比較的多かったのは、支援に当たる人材の育成及びそのスキル向上、関係団体との連携・調整であった。  以下、重複するものを整理した結果を列記する。 1.課題 (1)ボランティアに関して 〇活動機会の確保  当県のパソコンボランティアは令和3年2月時点で43名。近年ボランティアの辞退が相次いでいる。その原因として、視覚障害者に対する派遣が特定のボランティアに偏っており、活動の機会が少ないことが挙げられる。派遣ボランティアの偏りを改善し、多くのボランティアに活動の機会を確保することが課題となっている。 〇派遣に係る費用の確保  派遣事業においては、当県では予算の関係で年間100回の利用制限を設けている。しかし、利用者からの依頼が多く、現状年間の派遣回数は100回以上となっており、ボランティアへの報償費等の予算が充分に確保できていないのが課題となっている。これを改善するため、令和4年度からはスマートフォンの使い方に関する支援を追加で盛り込むことを条件に、派遣回数120回分の予算要求をしているところ。 (2)当事者のニーズ 〇当事者ニーズにあわせて、支援スキルを向上させたいと思っているが、当自治体の場合は、団体との結びつきを更に強固なものとし、より多くの意見を集約することが課題である。 〇当事者の方々の中にはご高齢であってもICT関係の機器を自身の生活に積極的に取り入れていこうという、高いニーズがあることを日々の支援で実感している。ただ、新規の導入には個別にその方の段階に応じた支援が求められ、電話対応や来館支援だけではなく訪問支援が必要な場合が多々ある。 (3)機器の整備、遠隔地のサポート 〇体験に必要な機器が十分確保できない。 〇離島等遠隔地に住む方へのサポートが難しい。 2.要望 〇読書バリアフリー計画の推進(視覚障害者のICT機器利用支援等)と関連づけて、同事業の充実が図られることを望む。 〇視覚障害者が抱える生活の困難は、読み書きと移動であり、ICT訓練と歩行訓練等が一体的に提供可能な自立訓練実施事業所の拡充が必要である。 3.意見 〇新型コロナウイルス感染症をはじめ、社会経済活動が変化する中、障害のある方の日常生活や社会活動に際して、ICTの活用はこれまでに増して重要であると考えている。県では、委託先や関係団体と連携を図りながら、障害のある方のICTを活用した社会活動等への参加を促進していきたい。 〇ICT機器の高度化・複雑化に伴い、適宜事業の見直しを進めていく必要がある。現在は、委託先を確保できているが、今後も継続して事業を行うため、関係機関と連携し、取り組んでいく。 〇支援技術向上の研修機会の確保の必要性を感じている。 〇在宅重度障害者(通常移動が困難で)IT支援機器を活用することで、意思疎通が可能となる方に向けた支援の拡充。 〇民間の就労移行支援事業所との役割分担。 (2)視覚障害当事者アンケート  各回答を年齢別でクロス集計・分析した。 @回答者の属性に関する特徴・傾向 <表2-1 年齢階層別の状況> 年齢 人数 % 〜29 21 2.5 30〜39 49 5.7 40〜49 107 12.5 50〜59 183 21.5 60〜69 228 26.7 70〜 259 30.4 無効回答 6 0.7 総数 853 100.0 <結果及び分析>  年齢階層別の構成比をみると、年齢層が高いほど構成比が高い。60歳以上を合計すると57.1%と半数を超える。回答者の年齢をみると、17歳が最も若く、最高齢は89歳であった。年齢の平均値が60.28歳、中央値は63歳、不偏標準偏差が13.59。 <表2-2 年齢の分布に関する情報(歳)> 最小値 25% 50% 75% 最大値 17 52 63 71 89  また、身体障害者手帳の障害等級は、1級が7割以上を占め、2級と合わせた重度の割合が9割を超える。3〜6級及び手帳不所持を合計しても1割に満たない。 <表2-3 障害程度別の状況> 障害程度 人数 % 1級 603 70.7 2級 187 21.9 3級 24 2.8 4級 8 0.9 5級 13 1.5 6級 3 0.4 不所持 10 1.2 無効回答 5 0.6 総数 853 100.0 A年齢階層別にみたときの特徴・傾向  回答者総数853人のうち、70歳以上が30.4%(259人)で最も高い割合。次いで60〜69歳が26.7%(228人)となっている。60歳以上を合計すると57.1%(参照:表2-1 年齢階層別の状況)。  厚生労働省の平成28(2016)年生活のしづらさなどに関する調査(全国在宅障害児・者等実態調査)(以下「厚労省2016年調査」)によると、18歳以上の在宅視覚障害者31.2万人のうち、70歳以上が56.1%(1.7万人)、60〜69歳は20.8%(6.5万人)であり、両者を合計すると76.9%となる。  厚労省2016年調査に比べると、今回の調査における回答者の高齢者比率は低い。相対的には若年層の回答が多いといえる。  なお、パソコン・スマートフォン・タブレットのいずれも使用していないと回答した人が64人いたが、その年齢階層別の状況をみると、70歳以上が60.9%(39人)、60〜69歳は23.4%(15人)で、両者を合計すると84.3%となる。  年齢構成において厚労省2016年調査よりも高齢者の割合が更に高いが、比較的近い構成である。 <表2-4 年齢階層別の状況(人、%)> 年齢 使っている 使っていない 総数(計) 〜39 70(8.9) 0(0.0) 70(8.2) 40〜49 103(13.1) 4(6.2) 107(12.5) 50〜59 177(22.4) 6(9.4) 183(21.5) 60〜69 213(27.0) 15(23.4) 228(26.7) 70〜 220(27.9) 39(60.9) 259(30.4) 無効回答 6(0.8) 0(0.0) 6(0.7) 総数 789(100.0) 64(100.0) 853(100.0) B障害程度別にみたときの特徴・傾向  身体障害者手帳の等級別の状況をみると、回答者総数853人のうち、1級が70.7%(603人)、2級は21.9%(187人)で、両者を合計すると92.6%となる。1・2級の重度障害者がほとんどを占めている(参照:表2-3 障害程度別の状況)。  厚労省2016年調査では、視覚障害者31.2万人のうち、1級が38.1%(11.9万人)、2級は34.6%(10.8万人)となっており、両者を合計すると72.7%となる。  今回の調査における回答者の特徴は、障害等級1級が突出して多い点にあるといえる。  なお、ICT機器を使っていない64人についてみると、1級が81%(52人)、2級は16%(10人)と、更に1級の割合が高い。 <表2-5 障害程度分類別の状況(人、%)> 年齢 1級 2級 3級 4級 5級 6級 不所持 総数(計) 〜29 15(71.4) 5(23.8) 1(4.8) 0(0.0) 0(0.0) 0(0.0) 0(0.0) 21(100.0) 30〜39 39(79.6) 8(16.3) 0(0.0) 1(2.0) 0(0.0) 0(0.0) 1(2.0) 49(100.0) 40〜49 76(71.0) 20(18.7) 6(5.6) 2(1.9) 2(1.9) 1(0.9) 0(0.0) 107(100.0) 50〜59 127(69.4) 37(20.2) 7(3.8) 1(0.5) 7(3.8) 1(0.5) 3(1.6) 183(100.0) 60〜69 158(69.6) 54(23.8) 5(2.2) 2(0.9) 4(1.8) 1(0.4) 3(1.3) 227(100.0) 70〜 188(72.6) 62(23.9) 5(1.9) 1(0.4) 0(0.0) 0(0.0) 3(1.2) 259(100.0) 総数(計) 603(71.3) 186(22.0) 24(2.8) 7(0.8) 13(1.5) 3(0.4) 10(1.2) 846(100.0) Cデジタル化の中で困ることの度合  問3.デジタル化が進む中でICT機器の利用を前提にした手続きや情報のやりとりで困ること。  困りごとは次の3つの項目を立てて、それぞれ困っている度合を質問した。 1.ICT機器やソフトウェアを使いこなすスキルの問題 2.ICT機器やソフトウェアの購入についての経済的な問題 3.ホームページの読みにくさや手続きの難しさなど環境面の問題 <表2-6 スキル、経済的、環境面の問題の困難度(人、%)> スキル % 経済的 % 環境面 % 困難 229 26.8 181 21.2 357 41.9 やや困難 355 41.6 287 33.6 351 41.1 曖昧 86 10.1 111 13.0 55 6.4 困難なし 134 15.7 228 26.7 43 5.0 不明 37 4.3 36 4.2 37 4.3 無効回答 12 1.4 10 1.2 10 1.2 総数(計)853 100.0 853 100.0 853 100.0 <結果及び分析> (1)全体的な傾向  最も困っているのは環境面の問題  【困難】の割合が高い順でいうと次のとおり。 <問題> 〇ホームページの読みにくさや手続きの難しさなど環境面  41.9%(357人) 〇ICT機器やソフトウェアを使いこなすスキル  26.8%(229人) 〇ICT機器やソフトウェアの購入についての経済的  21.2%(181人)  【やや困難】の割合では、スキルの問題(41.6%)と環境面の問題(41.1%)がほぼ同程度で、経済的な問題(33.6%)が相対的に低い。とはいえ、【困難】と【やや困難】を合計すると、経済的な問題も54.8%と5割を超え、スキルの問題は68.4%、環境面の問題では83.0%と8割を超えており、視覚障害者が多くの課題に直面していることがうかがえる。 (2)年齢階層別に困っている度合をみた場合の傾向  年齢階層別に困っている度合をみると、スキルの問題で違いがみられた。一方、経済的な問題及び環境面の問題では、それほど大きな違いはみられなかった。  いくつかの側面において、40歳代から60歳代が似たような傾向を示すのに対し、39歳以下と70歳以上で少し異なる傾向になるところがあった。  以下では、若年層の人数が少数であるため、39歳以下を1グループとした。  構成比(%)の値は、各年齢階層の総数に対する比率(70歳以上の場合は100%=259人)。  有意性の検証に当たり、ここでは有意水準を1%とした。 @スキルの問題(p=4.318e-12) <表2-7 スキル面の困難度(人、%)> 年齢 困難 やや困難 曖昧 困難なし 不明 無効回答 総数(計) 〜39 5(7.1) 26(37.1) 11(15.7) 23(32.9) 3(4.3) 2(2.9) 70(100.0) 40〜49 21(19.6) 49(45.8) 10(9.3) 24(22.4) 3(2.8) 0(0.0) 107(100.0) 50〜59 38(20.8) 85(46.4) 19(10.4) 35(19.1) 3(1.6) 3(1.6) 183(100.0) 60〜69 59(25.9) 108(47.4) 18(7.9) 33(14.5) 7(3.1) 3(1.3) 228(100.0) 70〜 105(40.5) 87(33.6) 26(10.0) 17(6.6) 21(8.1) 3(1.2) 259(100.0) 無効回答 1(16.7) 0(0.0) 2(33.3) 2(33.3) 0(0.0) 1(16.7) 6(100.0) 総数(計) 229(26.8) 355(41.6) 86(10.1) 134(15.7) 37(4.3) 12(1.4)853(100.0) 【有意差がみられたもの】 〇【困難】  39歳以下(7.1%)が低く、70歳以上(40.5%)が高い。 〇【やや困難】  70歳以上(33.6%)が低い。(全年齢階層では41.6%) 〇【困難なし】  39歳以下(32.9%)が高く、70歳以上(6.6%)が低い。 〇「不明」  70歳以上(8.1%)が高い。(全年齢階層では4.3%) 〇ポイント  スキルの問題で【困難】との回答は、年齢が上がるほど割合が高くなる。39歳以下(7.1%)から70歳以上(40.5%)まで上昇傾向がみられる。39歳以下が有意に低く、70歳以上が有意に高い。  【やや困難】との回答は、70歳代以下でそれほど大きな違いはみられない。70歳以上(33.6%)が有意に低いことを別にすれば、39歳以下(37.1%)から60歳代(47.4%)へと少しずつ上がる傾向にある。  70歳以上は相対的に【困難】が高く、【やや困難】が低い。その背景には、トラブル解決のようなワンポイントのスキルではなく、本格的な訓練・研修が必要との実感があるのではないかと思われる。 A経済的な問題(p=0.002641) <表2-8 経済的な困難度(人、%)> 年齢 困難 やや困難 曖昧 困難なし 不明 無効回答 総数(計) 〜39 9(12.9) 19(27.1) 10(14.3) 29(41.4) 2(2.9) 1(1.4) 70(100.0) 40〜49 25(23.4) 28(26.2) 17(15.9) 34(31.8) 3(2.8) 0(0.0) 107(100.0) 50〜59 35(19.1) 59(32.2) 30(16.4) 52(28.4) 4(2.2) 3(1.6) 183(100.0) 60〜69 48(21.1) 87(38.2) 19(8.3) 64(28.1) 9(3.9) 1(0.4) 228(100.0) 70〜 64(24.7) 91(35.1) 34(13.1) 47(18.1) 18(6.9) 5(1.9) 259(100.0) 無効回答 0(0.0) 3(50.0) 1(16.7) 2(33.3) 0(0.0) 0(0.0) 6(100.0) 総数(計) 181(21.2) 287(33.6) 111(13.0) 228(26.7) 36(4.2) 10(1.2) 853(100.0) 【有意差がみられたもの】 〇【困難なし】  39歳以下(41.4%)が高く、70歳以上(18.1%)が低い。 〇【曖昧】  60歳代(8.3%)が低い。(全年齢階層では13.0%) 〇【困難】  70歳以上(24.7%)が最も高く、39歳以下(12.9%)が最も低い。 〇【やや困難】  60歳代(38.2%)が最も高く、40歳代(26.2%)が最も低い。 〇ポイント  経済的な問題で【困難】との回答は、概ね19〜24%の範囲にあるが、39歳以下(12.9%)が有意に低かったが、70歳以上(24.7%)は有意に高かった。  【やや困難】との回答は、39歳以下と40歳代が26〜27%であるのに対し、50歳代以降は32〜38%程度で、60歳代(38.2%)が有意に高かった。 B環境面の問題(p=0.0005437) <表2-9 環境面の困難度(人、%)> 困難 やや困難 曖昧 困難なし 不明 無効回答 総数(計) 〜39 22(31.4) 36(51.4) 6(8.6) 6(8.6) 0(0.0) 0(0.0) 70(100.0) 40〜49 45(42.1) 45(42.1) 10(9.3) 6(5.6) 1(0.9) 0(0.0) 107(100.0) 50〜59 79(43.2) 80(43.7) 13(7.1) 8(4.4) 0(0.0) 3(1.6) 183(100.0) 60〜69 95(41.7) 98(43.0) 12(5.3) 10(4.4) 12(5.3) 1(0.4) 228(100.0) 70〜 114(44.0) 90(34.7) 14(5.4) 11(4.2) 24(9.3) 6(2.3) 259(100.0) 無効回答 2(33.3) 2(33.3) 0(0.0) 2(33.3) 0(0.0) 0(0.0) 6(100.0) 総数(計) 357(41.9) 351(41.1) 55(6.4) 43(5.0) 37(4.3) 10(1.2) 853(100.0) 【有意差がみられたもの】 〇【不明】  50歳代(0.0%)が低く、70歳以上(9.3%)が高い。 〇【困難】  39歳以下(31.4%)のみが30%台で、他は40%台。70歳以上(44.0%)が最も高い。 〇【やや困難】  39歳以下(51.4%)が最も高く、70歳以上(34.7%)が最も低い。 ○ポイント  環境面での問題で【困難】との回答は、39歳以下(31.4%)のみが30%台で有意に低く、他は40%台の前半。70歳以上(44.0%)が最も高く有意差が認められた。  【やや困難】との回答は「困っている」の逆の傾向を示し、39歳以下(51.4%)が最も高く、70歳以上(34.7%)が最も低い。他の年齢階層は42〜43%程度となっている。  スキルが比較的高いと思われる39歳以下は、ホームページへのアクセスなどをこなせる部分が相対的に高いものの、対処できない問題もある。環境面の問題で【困難】の割合が低いものの【やや困難】が高い背景には、このスキルとの関連性があるのではないかと考えられる。 (3)ICT機器を使っている人と使っていない人とを比較した場合の傾向  パソコン、スマートフォン、タブレットのどれも使っていない回答者が64人いるが、構成比を手がかりにして何らかの機器を使っている人(789人)と比較してみると、使っていない人は【困難】 と【不明】の割合が高い傾向がみられた。  ただし、環境面の困りごとの度合については使っている人の【困難】も高いため、両者の違いは小さい。 @スキルに関する困りごとの度合 〇【困難】  「使っていない」 46.9%  「使っている」  25.2% 〇【不明】  「使っていない」 34.4%  「使っている」   1.9% <表2-10 スキルに関する困難度(人、%)> 使っている使っていない 総数(計) 困難 199(25.2) 30(46.9) 229(26.8) やや困難 354(44.9) 1(1.6) 355(41.6) 曖昧 78(9.9) 8(12.5) 86(10.1) 困難なし 133(16.9) 1(1.6) 134(15.7) 不明 15(1.9) 22(34.4) 37(4.3) 無効回答 10(1.3) 2(3.1) 12(1.4) 総数 789(100.0) 64(100.0) 853(100.0) A経済面の困りごとの度合 〇【困難】  「使っていない」 39.1%  「使っている」  19.8% 〇【不明】  「使っていない」23.4%  「使っている」  2.7% <表2-11 経済面の困難度(人、%)> 使っている 使っていない 総数(計) 困難 156(19.8) 25(39.1) 181(21.2) やや困難 282(35.7) 5(7.8) 287(33.6) 曖昧 102(12.9) 9(14.1) 111(13.0) 困難なし 221(28.0) 7(10.9) 228(26.7) 不明 21(2.7) 15(23.4) 36(4.2) 無効回答 7(0.9) 3(4.7) 10(1.2) 総数(計) 789(100.0) 64(100.0) 853(100.0) B環境面の困りごとの度合 〇【困難】  「使っていない」 46.9%、「使っている」 41.4% 〇【不明】  「使っていない」 26.6%、「使っている」 2.5% <表2-12 環境面の困難度(人、%)> 使っている 使っていない 総数(計) 困難 327(41.4) 30(46.9) 357(41.9) やや困難 349(44.2) 2(3.1) 351(41.1) 曖昧 47(6.0) 8(12.5) 55(6.4) 困難なし 41(5.2) 2(3.1) 43(5.0) 不明 20(2.5) 17(26.6) 37(4.3) 無効回答 5(0.6) 5(7.8) 10(1.2) 総数 789(100.0) 64(100.0) 853(100.0) 5 各種手続きのデジタル化において要望すること  問4.行政手続きやお金の管理(銀行振込、買い物等)などがデジタル化されることについて、どのような形を望むか(複数回答)。 (1)全体的な傾向 <表2-13 デジタル化における要望(人、%)> 点字等 人的支援 使いやすさ 技能向上 その他 希望なし 該当数 全体 523(61.3) 520(61.0) 646(75.7) 492(57.7) 70(8.2) 14(1.6) 853(100.0) 〜39 33(47.1) 33(47.1) 60(85.7) 28(40.0) 4(5.7) 1(1.4) 70(100.0) 40〜49 63(58.9) 60(56.1) 87(81.3) 61(57.0) 8(7.5) 3(2.8) 107(100.0) 50〜59 95(51.9) 106(57.9) 150(82.0) 100(54.6) 20(10.9) 0(0.0) 183(100.0) 60〜69 152(66.7) 147(64.5) 168(73.7) 139(61.0) 15(6.6) 8(3.5) 228(100.0) 70〜 176(68.0) 172(66.4) 176(68.0) 162(62.5) 23(8.9) 2(0.8)259(100.0) 無効回答 4(66.7) 2(33.3) 5(83.3) 2(33.3) 0(0.0) 0(0.0) 6(100.0) <結果及び分析>  選択の多かった順に示すと次のとおり(100%=853人) @ICT機器・ソフトウェア・ホームページなどを利用しやすい形に設定してほしい【使いやすさ】:75.7%(646人) A点字・音声・拡大文字の媒体で行える方法を用意してほしい【点字等】:61.3%(523人) Bデジタル方式を利用するための人的な支援(代行等)を保障してほしい【人的支援】:61.0%(520人) CICT機器などのスキル向上のサポートがほしい【技術力向上】:57.7%(492人) Dその他:8.2%(70人) E特に希望することはない:1.6%(14人) (2)年齢階層別の傾向  以下において、構成比(%)の値は、各年齢階層の総数に対する比率。 @ICT機器・ソフトウェア・ホームページなどを利用しやすい形に設定してほしい【使いやすさ】(p=0.0009876) ・70歳以上(68.0%)が相対的に低い。低いといっても68%が選択していることに留意されたい(有意水準1%)。 ・39歳以下(85.7%)及び50歳代(82.0%)が高い(有意水準5%)。 ・有意差は検出されなかったが40歳代(81.3%)も高い割合。 A点字・音声・拡大文字の媒体で行える方法を用意してほしい【点字等】(p=0.0003848) ・70歳以上(68.0%)では高いが、一方、39歳以下(47.1%)及び50歳代(51.9%)では低い(有意水準1%)。 ・有意差は検出されなかったが、40歳代(58.9%)がやや低く、60歳代(66.7%)がやや高い。 Bデジタル方式を利用するための人的な支援(代行等)を保障してほしい【人的支援】(p=0.01874) ・39歳以下(47.1%)では低いが、一方、70歳以上(66.4%)では高い(有意水準5%)。 CICT機器などのスキル向上のサポートがほしい【技術力向上】(p=0.01033) ・39歳以下(40.0%)が低い(有意水準5%)。 (3)記述式回答  「その他」の記述式回答の内容を整理すると、おおよそ次のとおり。 @アクセシビリティに関する意見 ・アクセシビリティの基準化、その順守の義務化(公共調達の基準とすることを含む)。 ・スキル向上より、扱いやすい設定を考えてほしい。 ・カード決済の時などに暗証番号の入力が必要。一人でやれるようにしてほしい。 ・オンラインショッピングやネットバンキングなどの手続きがやりにくい。 ・病院の予約、レジ等のタッチパネルが使えない。 ・情報機器の開発に当たり、視覚障害者ユーザーの意見を十分に取り入れてほしい。 A指導支援に関する意見 ・外出が難しいためリモートで気軽に教えてくれる窓口を開設してほしい。 ・訪問して教えてくれる仕組みを設けてほしい。 ・支援人材の育成(特に地方で必要)。 ・困った時にタイムリーな指導支援。 ・スマホ等の使い方の指導支援は視覚障害当事者にしてほしい。 ・初歩からの講座を開設してほしい。 B代行支援に関する意見 ・代読、代筆の支援希望。 ・金融機関で入金手続をお願いしたが断られた。 ・買い物で有人レジが欲しい。 ・iPhone、ガラホで読み上げない部分があり、人の助けが必要。 C各種意見 ・デジタル方式でのアクセシビリティが不完全な場合の代替手段を設けて欲しい。 ・買い物後の支払いの際のセルフレジ(タッチパネル方式)は全盲には使えない。 ・ICTだけでなく、今までのアナログな対応をしてほしい。 ・点字・音声媒体で行える手続きの方法を用意してほしい。 ・ICT機器など環境を整えるためにも公的に経済支援を整備してほしい。・マニュアルを整備してほしい。 ・マイナンバーカードを使ったデジタル化の手続きにより、捺印や署名をなくす。 ・インターネット接続環境が整備されていない離島・半島地区がある。 ・視覚障害の状況も理解できない行政担当窓口担当者がいるのはどうかと思う。 ・現金が使えなくなるのは困る。 ・キャッシュレスで困っている(鍼灸を開業している)。 ・郵便局は手続きをする上で工程が多く使いにくい。 ・電気代等のお知らせについて、音声で分かるようにしてほしい。 ・表の読み上げがわかりにくく、記入も難しい。 ・音声読み上げが難しいPDFはやめてほしい。 ・視覚障害者同士が意見を集約・共有し、対外的に情報発信する組織を望む。 (4)ICT機器を使っている人と使っていない人とを比較した場合の傾向  パソコン、スマートフォン、タブレットのどれも使っていない回答者が64人いるが、X2(カイ2乗検定)により何らかの機器を使っている人(789人)と比較してみると、ほとんどの選択肢で有意差が認められた。 <表2-14 デジタル化における要望(人、%)>         全体     使っている  使っていない 点字等   523(61.3)    479(60.7)   44(68.8) 人的支援  520(61.0)    473(59.9)   47(73.4) 使いやすさ 646(75.7)    625(79.2)   21(32.8) 技能向上  492(57.7)    465(58.9)   27(42.2) その他    70(8.2)     65(8.2)    5(7.8) 希望なし   14(1.6)     10(1.3)    4(6.2) 該当数   853(100.0)   789(100.0)   64(100.0) @ICT機器・ソフトウェア・ホームページなどを利用しやすい形に設定してほしい【使いやすさ】(p=2.927e-16) ・使っていない(32.8%)が、使っている(79.2%)より有意に低い A点字・音声・拡大文字の媒体で行える方法を用意してほしい【点字等】(p=0.2556) ・有意差は指摘できない ・使っていない(68.8%)、使っている(60.7%) Bデジタル方式を利用するための人的な支援(代行等)を保障してほしい【人的支援】(p=0.04614) ・使っていない(73.4%)が、使っている(59.9%)より有意に高い CICT機器などのスキル向上のサポートがほしい【技術向上】(p=0.01326) ・使っていない(42.2%)が、使っている(58.9%)より有意に低い D特に希望することはない(p=0.01222) ・使っていない(6.2%)が、使っている(1.3%)より有意に高い 6 使用しているICT機器 問5.あなたのICT機器の使用状況を教えて下さい。ご自身で所有している他に、職場等で使う場合も含む(複数回答可)。 (1)パソコンの使用状況 <表2-15 パソコンの使用状況(人、%)>      WindowsPC WindowsPC以外 PC不使用 該当数 全体  710(83.2) 32(3.8) 133(15.6) 853(100.0) 〜39  61(87.1) 9(12.9)  5(7.1)  70(100.0) 40〜49 92(86.0) 8(7.5)  15(14.0) 107(100.0) 50〜59 159(86.9) 8(4.4) 22(12.0) 183(100.0) 60〜69 191(83.8) 4(1.8) 35(15.4) 228(100.0) 70〜 203(78.4) 3(1.2) 54(20.8) 259(100.0) 無効回答 4(66.7) 0(0.0) 2(33.3) 6(100.0) <結果及び分析>  全体ではWindowsパソコンの使用者が83.2%(710人)、Windowsパソコン以外が3.8%(32人)、不使用は15.6%(133人)。  Windowsパソコンの使用割合を年齢階層別にみると、70歳以上が78.4%で相対的に低かったが、他の年齢階層ではいずれも8割を超えていた。最高は39歳以下の87.1%。  Windowsパソコン以外の使用割合は、年齢が高くなるに連れて使用割合が低くなる。最低が70歳以上の1.2%、最高は39歳以下の12.9%。  パソコンを使っていない人の割合は、39歳以下が最も低く7.1%、70歳以上が最も高く20.8%、他の年齢階層では12%〜15%程度となっている。 (2)スマートフォンの使用状況 <表2-16 スマホの使用状況(人、%)>    iPhone android スマホ不使用 該当数 全体 542(63.5) 117(13.7) 227(26.6) 853(100.0) 〜39 61(87.1) 11(15.7) 4(5.7) 70(100.0) 40〜49 80(74.8) 17(15.9) 18(16.8) 107(100.0) 50〜59 136(74.3) 31(16.9) 27(14.8) 183(100.0) 60〜69 148(64.9) 28(12.3) 58(25.4) 228(100.0) 70〜 113(43.6) 28(10.8) 120(46.3) 259(100.0) 無効回答 4(66.7) 2(33.3) 0(0.0) 6(100.0) <結果及び分析>  全体でiPhoneの使用者が63.5%(542人)、androidは13.7%(117人)、不使用が26.6%(227人)。  iPhoneの使用割合を年齢階層別にみると、年齢が若いほど使用割合が高い傾向がある。39歳以下が最も高く87.1%、70歳以上は最も低く43.6%だった。40歳代と50歳代が74%台、60歳代は64.9%となっている。  androidは年齢階層による違いがそれほど見られず、いずれも10%台である。50歳代が最も高く16.9%、70歳代が最も低く10.8%。  スマートフォンを使っていない人の割合を年齢階層別にみた場合は、39歳以下が最も低く5.7%、70歳以上が最も高く46.3%だった。60歳代もやや高く25.4%、40歳代と50歳代は1割台半ば。 (3)タブレットの使用状況 <表2-17 タブレットの使用状況(人、%)>     iPad  androidPad  pad不使用  該当数 全体 200(23.4) 27(3.2)  628(73.6)  853(100.0) 〜39 22(31.4)  2(2.9)   46(65.7)  70(100.0) 40〜49 34(31.8) 2(1.9)   71(66.4)  107(100.0) 50〜59 65(35.5) 8(4.4)  112(61.2)   183(100.0) 60〜69 43(18.9) 8(3.5)  177(77.6)   228(100.0) 70〜  33(12.7) 6(2.3)  220(84.9)   259(100.0) 無効回答 3(50.0) 1(16.7) 2(33.3) 6(100.0) <結果及び分析>  全体としてタブレットの使用割合は低く、使っていない人が73.6%(628人)だった。iPadは23.4%、androidタブレットが3.2%。  iPadの使用割合を年齢階層別にみると、59歳以下で30%台であるのに対し、60歳以上では10%台となっている。50歳代が最も高く35.5%、70歳代が最も低く12.7%。androidタブレットは、どの年齢階層でも5%未満で、それほど大きな違いはみられない。  タブレットを使っていない人の割合は、59歳以下で60%台であるのに対し、60歳代が77.6%、70歳代は84.9%と高かった。  「その他」の記述式回答で比較的多かったものを列記すると次のとおり。 〇自由記述 ・音声読み上げ機器(プレクストーク等):30人 ・点字ディスプレイ(ブレイルメモ等):29人 ・AIスピーカー(アレクサ、グーグルホームなど):19人 ・ボタン式のスマートフォン(ガラホ):17人 ・ガラケー:14人 7 困りごと 問6.問5でいずれかを利用していると回答した方にお聞きします。利用していて困ることの具体的な内容として該当するものに○を付けて下さい(複数回答可)。 (1)全体的な傾向 <表2-18 困りごとの内容(人、%)> 年齢 通信料 契約 初期設定 習得 支援 読上げ 全体 337(42.7) 431(54.6) 490(62.1) 422(53.5) 384(48.7) 483(61.2) 〜39 22(31.4) 33(47.1) 24(34.3) 18(25.7) 18(25.7) 42(60.0) 40〜49 46(44.7) 54(52.4) 60(58.3) 51(49.5) 47(45.6) 71(68.9) 50〜59 70(39.5) 98(55.4) 107(60.5) 81(45.8) 81(45.8) 122(68.9) 60〜69 99(46.5) 122(57.3) 149(70.0) 131(61.5) 118(55.4) 130(61.0) 70〜 96(43.6) 123(55.9) 149(67.7) 140(63.6) 119(54.1) 118(53.6) 無効回答 4(66.7) 1(16.7) 1(16.7) 1(16.7) 1(16.7) 0(0.0) 年齢 画面調整 入力 その他 困難なし 該当数 全体 108(13.7) 275(34.9) 84(10.6) 18(2.3) 789(100.0) 〜39 8(11.4) 6(8.6) 7(10.0) 4(5.7) 70(100.0) 40〜49 13(12.6) 28(27.2) 13(12.6) 1(1.0) 103(100.0) 50〜59 18(10.2) 59(33.3) 21(11.9) 6(3.4) 177(100.0) 60〜69 33(15.5) 82(38.5) 24(11.3) 6(2.8) 213(100.0) 70〜 36(16.4) 99(45.0) 19(8.6) 1(0.5) 220(100.0) 無効回答 0(0.0) 1(16.7) 0(0.0) 0(0.0) 6(100.0) <結果及び分析> 選択肢に関する選択傾向について  選択の多かった順に示すと次のとおり。  構成比(%)は、ICT機器を使っていない64人を除く789人を100%とする値。 @ICT機器やソフトウェアを使い始めるための初期設定が難しい【初期設定】:62.1%(490人) A音声出力が不十分(必要な情報を読み上げないなど)【読み上げ】:61.2%(483人) Bインターネットなどを利用するための契約(書類の読み書きなど)が難しい【契約】:54.6%(431人) CICT機器やソフトウェアの操作方法を習得するのが難しい【習得】:53.5%(422人) DICT機器を利用するためのサポートが不十分【支援】:48.7%(384人) EICT機器やソフトウェアあるいは通信料が高額【通信料】:42.7%(337人) F入力操作が難しい(キーボード、マウス、タッチパッドなど)【入力】:34.9%(275人) G画面表示の調整が思うようにできない(拡大率、白黒反転等)【画面調整】:13.7%、108人 Hその他:10.6%(84人) I困ると感じることはない【困難なし】:2.3%(18人) 「その他」の記述式回答について  「その他」の記述式回答で比較的多かったものを上げると次のとおり。 〇自由記述 ・オンラインでの手続き(ショッピングや銀行振込等)において、画像認証などの認証方法が多くなり困っているほか、そもそも手続きの操作が分かりにくい。 ・スマートフォンの入力操作で困っている(ボタン式でないため 分かりにくいなど)。 ・アプリケーションやホームページが音声出力を手がかりにして把握しにくい。 ・困った時に迅速に解決方法を教えてもらえない。 ・自宅や職場で設定する必要がある時、訪問支援してもらえない。 ・どこに連絡すれば適切な支援を受けられるかの情報がない。 ・機器やソフトの購入への助成に関して、地域差、手続きの大変さ、更新への不対応といった課題がある。 ・視覚障害者が読みやすいマニュアルがない。 ・PDFを読むのに苦労する。特に公的機関は配慮すべき。 画面表示の調整について  画面表示の調整で困っているとの回答割合が約14%と低いが、厚労省2016年調査では障害等級1級の割合が38.1%であるのに対し当調査では当該割合が70.7%と高いことを勘案すると、視覚障害者全体を考えた場合、この画面表示の調整に係る割合が高くなる可能性がある。  なお、当調査において障害等級1級のうち、画面表示の調整に「○」を付けた割合が10.3%(57人/551人)、2級では20.9%(37人/177人)だった。1級・2級の重度視覚障害者の中に画面の利用者が一定数いることを付記しておきたい。 (2)年齢階層別にみた場合の傾向  以下において、構成比(%)の値は、各年齢階層の総数に対する比率。 @ICT機器やソフトウェアを使い始めるための初期設定が難しい【初期設定】(p=1.526e-06) ・39歳以下(34.3%)が相対的に低い。(有意水準1%) ・60歳代(70.0%)が最も高かった。(有意水準5%) ・40歳代(58.3%)は6割未満だが、50歳代と70歳以上は6割以上。 A音声出力が不十分  (必要な情報を読み上げないなど)【読上げ】(p=0.01481) ・70歳以上(53.6%)が低く、50歳代(68.9%)が高い。(有意水準5%) ・有意差は指摘できなかったが、40歳代(68.9%)が50歳代と同率。39歳以下と60歳代は60%台前半。 Bインターネットなどを利用するための契約(書類の読み書きなど)が難しい【契約】(p=0.6361) ・年齢階層別の有意差は指摘できない。 ・39歳以下(47.1%)が最も低く、60歳代(57.3%)が最も高かった。 CICT機器やソフトウェアの操作方法を習得するのが難しい【習得】(p=2.421e-08) ・年齢が高い方が選択割合は高い傾向。 ・39歳以下(25.7%)と50歳代(45.8%)が低く、60歳代(61.5%)と70歳代(63.6%)が高い。(有意水準1%) ・40歳代は49.5%(有意差は指摘できなかった)。 DICT機器を利用するためのサポートが不十分【支援】(p=0.0001854) ・年齢が高い方が選択割合は高い傾向。 ・39歳以下(25.7%)が低い。(有意水準1%) ・60歳代(55.4%)が高い。(有意水準5%)  40歳代・50歳代は約46%、70歳以上は54.1%。 EICT機器やソフトウェアあるいは通信料が高額【通信料】(p=0.2119) ・年齢階層別の有意差は指摘できない。 ・39歳以下(31.4%)が最も低く、60歳代(46.5%)が最も高い。 F入力操作が難しい(キーボード、マウス、タッチパッドなど)【入力】(p=4.047e-07) ・年齢が高いほど選択割合が高くなる傾向。 ・39歳以下(8.6%)が低く、70歳以上(45.0%)が高い。(有意水準1%) 他の年齢階層では有意差が指摘できない。40歳代(27.2%)、50歳代(33.3%)、60歳代(38.5%)。 8 サポートを受けた経験 問7.ICT機器の利用について、以下のようなサポートを受けたことがありますか(通信回線経由のリモートサポートも含む)。(複数回答可)。また、サポートしてくれた施設・団体の名称、利用サポートが有料か無料か。 <表2-19 サポートを受けた経験(人、%)> 経験なし 訓練施設 単発講習 初期設定 全体 88(11.2) 211(26.7) 298(37.8) 425(53.9) 〜39 19(27.1) 18(25.7) 15(21.4) 23(32.9) 40〜49 12(11.7) 37(35.9) 31(30.1) 55(53.4) 50〜59 24(13.6) 52(29.4) 76(42.9) 93(52.5) 60〜69 19(8.9) 55(25.8) 80(37.6) 123(57.7) 70〜 11(5.0) 49(22.3) 96(43.6) 131(59.5) 無効回答 3(50.0) 0(0.0) 0(0.0) 0(0.0) セミナー 知人 その他 該当数 全体 245(31.1) 386(48.9) 62(7.9) 789(100.0) 〜39 19(27.1) 27(38.6) 8(11.4) 70(100.0) 40〜49 29(28.2) 56(54.4) 7(6.8) 103(100.0) 50〜59 66(37.3) 90(50.8) 15(8.5) 177(100.0) 60〜69 56(26.3) 108(50.7) 16(7.5) 213(100.0) 70〜 74(33.6) 105(47.7) 16(7.3) 220(100.0) 無効回答 1(16.7) 0(0.0) 0(0.0) 6(100.0) <結果及び分析> (1)全体的な傾向  選択の多かった順に示すと次のとおり。  構成比(%)は、ICT機器を使っていない64人を除く789人を100%とする値。 @初期設定等の環境整備を手伝ってもらった【初期設定】:53.9%(425人) A個人的な知人によるサポートを受けた【知人】:48.9%(386人) B短時間・単発の講習を受けた【単発講習】:37.8%(298人) Cセミナー・学習会等に参加して必要な情報を教えてもらった【セミナー】:31.1%【245人】 D訓練施設でパソコンなどの訓練を受講した【訓練施設】:26.7%(211人) Eサポートを受けたことはない【経験なし】:11.2%(88人) Fその他:7.9%(62人)  「その他」の記述式回答で、内容的に多かった順に列記すると次のとおり。 〇自由記述 ・メーカー、販売店舗等によるサポート。 ・団体(視障協、ボランティア団体、学校等)によるサポート。 ・知人によるサポート(家族、同僚を含む)。 ・オンライン(SNS、メーリングリスト等)。 ・書籍、インターネット等を利用した独学。 ・講習、相談等を受けた。 ・ヘルパー、歩行訓練士によるサポート。 (2)年齢階層別にみた場合の傾向  以下において、構成比(%)の値は、各年齢階層の総数に対する比率。 @初期設定等の環境整備を手伝ってもらった【初期設定】 (p=0.002228) ・39歳以下(32.9%)が低い。(有意水準1%) ・有意差は指摘できなかったが、年齢階層が高いほど選択割合が高い。70歳以上が最も高く59.5%、40歳代は53.4%。 A個人的な知人によるサポートを受けた【知人】(p=0.3044) ・年齢階層による有意差は指摘できない。 ・39歳以下(38.6%)と70歳以上(47.7%)が5割未満、他は5割以上で、40歳代(54.4%)が最も高い。 B短時間・単発の講習を受けた【単発講習】(p=0.003457) ・39歳以下(21.4%)が低い。(有意水準1%) ・70歳以上(43.6%)が高い。(有意水準5%) ・40歳代(30.1%)、50歳代(42.9%)、60歳代(37.6%)。 Cセミナー・学習会等に参加して必要な情報を教えてもらった  【セミナー】(p=0.1337) ・年齢階層による有意差は指摘できない。 ・60歳代(26.3%)が最も低く、50歳代(37.3%)が最も高い。 D訓練施設でパソコンなどの訓練を受講した【訓練施設】  (p=0.1172) ・年齢階層による有意差は指摘できない。 ・40歳代(35.9%)を除くと他は20%台で、70歳以上(22.3%)が最も低い。 Eサポートを受けたことはない【経験なし】(p=7.078e-06) ・39歳以上(27.1%)が高く、70歳代(5.0%)が低い。(有意水準1%)  40歳代(11.7%)、50歳代(13.6%)、60歳代(8.9%)。 9 サポートを受けるときの課題 問8.ICT機器のサポートを受けることについての実感、または課題と思うこと(複数回答可)。サポートを受けたことがない方も対象。 <表2-20 サポートを受ける時の課題(人、%)>     必要なし 受け方不明 機会なし サポート費 全体  34(4.3) 146(18.5) 228(28.9)  93(11.8) 〜39  9(12.9) 17(24.3)  20(28.6)   9(12.9) 40〜49 7(6.8)  32(31.1) 33(32.0)   15(14.6) 50〜59 10(5.6) 31(17.5)  50(28.2)  21(11.9) 60〜69 3(1.4) 30(14.1) 59(27.7) 20(9.4) 70〜 4(1.8) 36(16.4) 64(29.1) 27(12.3) 無効回答 1(16.7) 0(0.0) 2(33.3) 1(16.7)       その他 課題なし 該当数 全体  180(22.8) 112(14.2) 789(100.0) 〜39  15(21.4)  10(14.3)  70(100.0) 40〜49 19(18.4)  14(13.6) 103(100.0) 50〜59 50(28.2)  31(17.5) 177(100.0) 60〜69 50(23.5)  30(14.1) 213(100.0) 70〜  45(20.5)  26(11.8) 220(100.0) 無効回答 1(16.7) 1(16.7) 6(100.0) <結果及び分析> (1)全体的な傾向  選択の多かった順に示すと次のとおり。  構成比(%)は、ICT機器を使っていない64人を除く789人を100%とする値。 @居住地域にサポートしてくれる施設や団体がない【機会なし】 :28.9%(228人) Aその他:22.8%(180人) Bサポートの受け方が分からない【受け方不明】:18.5%(146人) C課題と思うことはない【課題なし】:14.2%(112人) Dサポートにかかる費用が高額【サポート費】:11.8%(93人) Eサポートを受ける必要性を感じない【必要なし】:4.3%(34人)  「その他」の記述式回答は概ね下のとおり。  指導支援に関する記述が多かったが、その内容としては次のようなものがあった。 〇自由記述 @サポート体制について ・サポーターの不足(地域間格差、同じ人にお願いしがちになり遠慮など)。 ・サポーターの資質の問題(満足できる支援が受けられない)。 ・支援体制の未整備(公的財源の投入により量的・質的に充実させるべき)。 ・不具合発生時、迅速に対応してくれるサポートがほしい。 ・勤務時間以外にも支援を受けられるようにしてほしい。 ・一般の販売店や相談窓口におけるアクセシビリティへの理解が不足している。 A経済的な課題 ・支援を受けられる場所が限られており、そこまでの交通費と同行援護に係る費用が負担になる。 ・晴眼者であればかからない支援に係る費用が発生。公的助成を望む。 ・電話でサポートしてもらう場合を含め、通信費・交通費・サポートにかかる費用が負担になる。 B各種意見 ・契約書等が分かりにくい・文字が小さい。 ・視覚障害者が読めるマニュアルが不足。説明してほしい。 ・サポート団体があるのに役所の窓口で教えてもらえなかった(自分で探すのに時間がかかった)。 ・職場や学校を通して指導支援を頼む場合、依頼先の選定・スケジュール調整に時間がかかる。手続きの簡素化を望む。 ・ソフトウェア・ハードウェアとも進化が速く、常に新しい操作方法の指導支援が必要。 (2)年齢階層別にみた場合の傾向  以下において、構成比(%)の値は、各年齢階層の総数に対する比率。 @居住地域にサポートしてくれる施設や団体がない【機会なし】 (p=0.9529) ・年齢階層による有意差は指摘できない。 ・40歳代(32.0%)が最も高く、次いで70歳以上(29.1%)。他の年齢階層は約28%。 Aサポートの受け方が分からない【受け方不明】(p=0.003341) ・40歳代(31.1%)が高い。(有意水準1%) ・60歳代(14.1%)が低い。(有意水準5%)  その他、高い順に39歳以下(24.3%)、50歳代(17.5%)、70歳以上(16.4%)。 B課題と思うことはない【課題なし】(p=0.6167) ・年齢階層による有意差は指摘できない。 ・50歳代(17.5%)が最も高く、70歳代(11.8%)が最も低い。 Cサポートにかかる費用が高額【サポート費】(p=0.7223) ・年齢階層による有意差は指摘できない。 ・40歳代(14.6%)が最も高く、60歳代(9.4%)が最も低い。 Dサポートを受ける必要性を感じない【必要なし】(p=0.0001363) ・39歳以下(12.9%)が高く、60歳代(1.4%)が低い。(有意水準1%) ・70歳以上(1.8%)が低い。(有意水準5%) ・40歳代は6.8%、50歳代が5.6%。 10 デジタル化に際して必要な取り組み 問9.「誰一人取り残さない」デジタル化に必要な取り組みには何が必要か(複数回答可)。 (1)全体的な傾向 <表2-21 必要な取り組み(人、%)> 購入助成 学習機会 機器簡素化 アプリ簡易化 なし その他 該当数 全体 577(67.6) 653(76.6) 540(63.3) 649(76.1) 12(1.4) 161(18.9) 853(100.0) 〜39 48(68.6) 49(70.0) 40(57.1) 57(81.4) 2(2.9) 8(11.4) 70(100.0) 40〜49 72(67.3) 93(86.9) 65(60.7) 87(81.3) 1(0.9) 26(24.3) 107(100.0) 50〜59 117(63.9) 140(76.5) 113(61.7) 145(79.2) 1(0.5) 41(22.4) 183(100.0) 60〜69 154(67.5) 168(73.7) 142(62.3) 171(75.0) 5(2.2) 42(18.4) 228(100.0) 70〜 183(70.7) 197(76.1) 178(68.7) 185(71.4) 3(1.2) 44(17.0) 259(100.0) 無効回答 3(50.0) 6(100.0) 2(33.3) 4(66.7) 0(0.0) 0(0.0) 6(100.0) <結果及び分析>  選択の多かった順に示すと次のとおり。  構成比(%)は、回答者総数853人を100%とする値。 @居住地域で機器の操作を学べる環境整備【学習機会】:  76.6%(653人) Aアプリ等の使用しやすさ【アプリ簡易化】:76.1%(649人) BICT機器を行政の補助で購入できる仕組み【購入助成】:67.6%(577人) CICT機器の端末の操作の簡素化【機器簡素化】:63.3%(540人) Dその他:18.9%(161人) E特にない【なし】:1.4%(12人)  アクセシビリティに関連する「アプリ等の使用しやすさ」または「ICT機器の端末の操作の簡素化」のどちらかに「○」を付けた回答者は83.2%(710人/853人)で大きな割合を占める。なお、このうち両方に「○」を付けたのは56.2%(479人/853人)だった。 (2)年齢階層別の傾向  以下において、構成比(%)の値は、各年齢階層の総数に対する比率。 @お住いの地域で機器の操作を学べる環境整備【学習機会】  (p=0.02716) ・40歳代(86.9%)が高い。(有意水準5%) ・他の年齢階層には有意差が指摘できない。39歳以下(70.0%)が低い。 Aアプリ等の使用しやすさ【アプリ簡易化】(p=0.7742) ・年齢階層による有意差は指摘できない。 ・39歳以下(81.4%)が最も高く、70歳以上(71.4%)が最も低い。 BICT機器を行政の補助で購入できる仕組み【購入助成】  (p=0.5284) ・年齢階層による有意差は指摘できない。 ・70歳以上(70.7%)が最も高く、50歳代(63.9%)が最も低い。 CICT機器の端末の操作の簡素化【機器簡素化】(p=0.03334) ・70歳以上(68.7%)が高い。(有意水準5%) ・他の年齢階層に有意差は指摘できない。60歳代(62.3%)が次に高く、39歳以下(57.1%)が最も低い。 D特にない【なし】(p=0.1005) ・年齢階層による有意差は指摘できない。 ・39歳以下(2.9%)が最も高い。 (3)記述式回答  「その他」の記述式回答の内容は多岐にわたるが、内容により整理すると次のとおり。 @アクセシビリティに関する意見 ・アクセシビリティの基準を整備し、公共調達の基準として採用するなど法定化。 ・スクリーンリーダーやボイスオーバーで使えるようアプリ及びWebを整備すべき。 ・画像を文字で説明してほしい。 ・システムなどの開発者に対するアクセシビリティ教育・啓発。 ・公共サービスへのアクセシビリティの義務化。 ・当事者参加によるハードウェア・ソフトウェアの開発。 ・開発の設計段階からアクセシビリティに配慮。 ・視覚障害者が容易に文字入力できるスマホの開発(タッチパネルでなくボタン式)。 ・何もかもタッチパネルとQRコードは困る。 Aサポート支援に関する意見 ・身近に教えてくれる人がいることが望ましい(ヘルパーなど)。 ・トラブルの時にすぐに教えてもらえないと挫折する。 ・専門用語を使うのでなく分かりやすい教え方を望む。 ・地域に教えてくれるところがない。支援人材育成、リモート支援を望む。 ・出かけるのが難しいので訪問指導を希望。 ・支援体制の整備(マンツーマンで教える体制、遠距離支援への財政支援等)。 ・視覚障害になったばかりの人への指導支援が不足。 ・ロービジョンに対する指導支援が不足。 ・互いに教え合い、情報交換できる場を望む。 ・各販売店やコールセンターなど、障害者・高齢者への対応の改善。 B経済的な支援に関する意見 ・障害者用の機器やソフトは高額なので助成を望む。 ・通信費の割引を望む。 ・公的な補助により有料支援を受けられる環境。 ・ICT機器の開発への行政の補助。 ・バージョンアップの費用は自己負担になりがち、公的助成を望む。 ・日常生活用具の給付の在り方に地域間格差がある。なくしてほしい。 C代行支援に関する意見 ・デジタル化は良いことだと思うが、人が対応してくれる窓口も残すべき。 ・必ず見える人の代行支援が必要。駅員さんが減って乗車券購入を頼みにくい。 ・リモートでも代行支援を受けられる福祉制度がほしい。 D情報提供に関する意見 ・実演教材の充実や配信を望む。 ・ICT機器の最新情報や操作方法、支援団体に関する情報を入手しやすくすること。 E各種意見 ・デジタル化が全てではない。「皆が右へならえ」では良くない。 ・視覚障害者本人の意欲が重要。 ・使うことができるとどのように生活に役立つのかの情報発信&体験できる場。 ・行政や企業への視覚障害者雇用を進め、デジタル化に向けて意見を反映させる。 ・デジタル化での視覚障害者対応が遅れると就労の遅れにつながる。 ・わかりやすく動作に影響しない強固なウイルス対策アプリ。 ・誰も取り残されないと言う意味では、視覚障害者専用機器の利用が望ましい。 ・言葉で語りかけるだけで操作できるのが理想(スマートスピーカーなど)。 ・「信GO」のようなアプリがあっても対応している信号機が少ない。 ・日常生活で特に困っていないので分からない。 (4)ICT機器を使っている人と使っていない人とを比較した場合の傾向 <表2-22 必要な取り組み(人、%)>        全体 使っている 使っていない 購入助成 577(67.6) 543(68.8)  34(53.1) 学習機会 653(76.6) 615(77.9)  38(59.4) 機器簡素化 540(63.3) 508(64.4) 32(50.0) アプリ簡易化 649(76.1) 622(78.8) 27(42.2) なし 12(1.4) 6(0.8) 6(9.4) その他 161(18.9) 148(18.8) 13(20.3) 該当数 853(100.0) 789(100.0) 64(100.0)  パソコン、スマートフォン、タブレットのどれも使っていない回答者が64人いるが、X2(カイ2乗)検定によって何らかの機器を使っている人(789人)と比較してみると、いずれの選択肢でも有意差が認められた。  「特にない」を除くと、いずれも「使っていない」の選択割合が相対的に低い。  「使っている」では【アプリ簡易化】が最も高い割合であるのに対し、「使っていない」では4番目になっており、落差が大きい。 @お住いの地域で機器の操作を学べる環境整備【学習機会】  (p=0.001285) ・使っていない(59.4%)が、使っている(77.9%)より有意に低い。 AICT機器を行政の補助で購入できる仕組み【購入助成】  (p=0.01459) ・使っていない(53.1%)が、使っている(68.8%)より有意に低い。 BICT機器の端末の操作の簡素化【機器簡素化】(p=0.03065) ・使っていない(50.0%)が、使っている(64.4%)より有意に低い。 Cアプリ等の使用しやすさ【アプリ簡易化】(p=1.064e-10) ・使っていない(42.2%)が、使っている(78.8%)より有意に低い。 D特にない【なし】(p=3.852e-07) ・使っていない(9.4%)が、使っている(0.8%)より有意に高い。 (5)回答媒体別の状況  回答の媒体別(点字版、拡大文字版、メール、Webフォーム)の状況を回答者全体でみると次のとおり(100%=853人) <表2-23 回答媒体別の状況(人、%)>     点字 拡大文字 メール web 総数(計) 〜39 2(2.9)  6(8.6) 4(5.7) 58(82.9) 70(100.0) 40〜49 14(13.1) 18(16.8) 17(15.9) 58(54.2) 107(100.0) 50〜59 23(12.6) 22(12.0) 36(19.7) 102(55.7) 183(100.0) 60〜69 25(11.0) 69(30.3) 74(32.5) 60(26.3) 228(100.0) 70〜  41(15.8) 75(29.0) 91(35.1) 52(20.1) 259(100.0) 無効回答 0(0.0) 5(83.3) 0(0.0) 1(16.7) 6(100.0) 総数 105(12.3) 195(22.9) 222(26.0) 331(38.8) 853(100.0) @Webフォーム:38.8%(331人) Aメール:26.0%(222人) B拡大文字版:22.9%(195人) C点字版:12.3%(105人)  年齢階層別にみた場合に目を引くのはWebフォームで、39歳以下(82.9%)が突出して高い。40歳代(54.2%)と50歳代(55.7%)は50%台、60歳代(26.3%)と70歳以上(20.1%)が20%台となっている(100%=各年齢階層の総数)。  メールについてみると、39歳以下(5.7%)が低く、40歳代(15.9%)と50歳代(19.7%)が10%台、60歳代(32.5%)と70歳以上(35.1%)が30%台である。 <表2-24 回答媒体別の状況(人、%>       使っている 使っていない 総数(計) 点字     74(9.4)  31(48.4)  105(12.3) 拡大文字  165(20.9)  30(46.9)  195(22.9) メール   221(28.0)   1(1.6)  222(26.0) Web     329(41.7)  2(3.1)   331(38.8) 総数    789(100.0)  64(100.0)  853(100.0)  ICT機器を使っていない人(64人)の場合は、点字(48.4%)と拡大文字(46.9%)の二つを合わせると95%と大半を占めるが、少数ながらメールが1人、Webフォームは2人いる。  ICT機器を使っていない人にとって、点字や拡大文字が重要な媒体であることが分かる。また、少数ながらメールとWebフォームによる回答があり、これは他の人に回答を代行してもらったものと考えられるが、点字や拡大文字の読み書きが難しい視覚障害者への配慮が必要なこと、デジタル化が進展する中では代筆・代読の支援者にICTスキルが求められることを予見させる。 第3章 ヒアリング調査結果 1 ヒアリング実施報告                    視覚障害者のICT機器の利用の現状と課題及び今後の取り組みについて視覚障害当事者団体、視覚障害者サポート団体・会社、スクリーンリーダー開発企業・団体等にヒアリングを下記のとおり実施した。 視覚障害当事者団体 期日:1月15日(土) 方法:オンライン 対象者:A団体、B団体、C団体 視覚障害者サポート団体・会社 期日:1月22日(土)    2月18日(金) 方法:オンライン 対象:A会社、B団体、C団体、D会社 スクリーンリーダー開発企業・団体 期日:2月18日(金)    2月22日(火) 方法:オンライン 対象:A会社、B会社、C団体 日本版VPAT情報アクセシビリティ支援ナビ主管機関 期日:2月22日(火) 方法:オンライン 対象:行政、A研究所 スマートフォン講習会受託団体 期日:3月4日(金) 方法:オンライン 対象:A団体 ITサポートセンター 期日:3月30日(水) 方法:オンライン 対象:A団体 2 ヒアリングのまとめ                    ヒアリング調査では、視覚障害者に対するスキル向上等の支援の在り方について多くの指摘や意見があったが、概ね次の内容に整理できる。 (1)ICTサポート等の情報提供  どこでどのような支援を受けられるかを知らない視覚障害者が多く、情報を届ける必要がある。若年層に対してはSNSを活用する一方で、ICT機器を使っていない視覚障害者にも情報が伝わるよう工夫する必要がある。たとえば、眼科医療段階あるいは障害者手帳交付時に情報を提供するなど。  近年は若年層を中心に盲学校に関わりを持たない視覚障害者が増えている。視覚障害者同士の情報交換の場の効果的な構築を検討する必要がある。  一方、高齢になってから視覚障害者となる人も増えていると推測される。ICT機器の利用に加えて点字・録音等の媒体の利用にも困難を抱えると考えられることから、情報の提供やスキルの習得につながるようにするための工夫が必要である。 (2)サポートする人材の配置・育成  ICTサポートする場の充実と併せて必要なノウハウを修得した支援者を育成・配置する。その場合、ボランティアに頼らない公的資金に基づく支援者の育成・配置が求められる。  支援者に求められる技能は一様ではない。一対一で教える技能と集団を対象に教える技能は異なるほか、初心者向けの内容と応用コース的な内容とでも異なる。  そして、スクリーンリーダーの使い方のみならず、文字の拡大化等の弱視者向けの講習も必要である。  支援者に求められる技能を一様にとらえるのではなく、多様な支援者を育成し、視覚障害者のニーズに合わせて支援に当たることができるよう調整することが肝要である。 (3)地域でサポートが受けられる体制  身近なところで支援を受けられるようにするため、歩行訓練や同行援護の事業において、あるいは地域の図書館やスマートフォンの相談窓口において視覚障害者のICT支援が可能となるよう、それぞれに支援者を養成・配置することが求められる。  支援者が都市部に偏在する実態を踏まえて、支援者が広域で活動できるようにするための財政的支援(交通費や宿泊費の援助)、あるいは、電話やオンラインによる相談・支援を促進する必要がある。  また、視覚障害者が支援を受けるため遠方に出向いたり、リモートの支援を受ける場合は、交通費や通信費を公的に助成することが求められる。 (4)就労に関するサポート  就労支援に当たるジョブコーチ(職場適応援助者)については、視覚障害者に対応できる人材がごく少数であり、かつ、地域的に偏在しており、視覚障害者のニーズに応えきれていない。その育成を進めるとともに、限られた専門性を有する人材が広域で活動するための財政的支援を充実させる必要がある。  就労に求められるスキルの習得のための在職者訓練(民間に委託して行う訓練)についても、受講できる場が少ないほか、複数人の一括受講を前提にして助成額を設定しているため1対1の指導が必要な視覚障害者の訓練の場合は赤字になりがちであり、ICT環境の変化等に応じて弾力的に受講することができない(一度受講すると一定期間は受講不可の制約があるなど)。訓練機会の確保、柔軟な制度設定が求められる。 (5)公的なICT機器の講習会  政府の行政手続きのデジタル化促進策の一環として、高齢者・障害者を対象とするスマートフォンの講座に公的助成が行われているが、主に高齢者を想定した制度設計になっており、視覚障害者の受講に関する配慮がない(視覚障害者が講師になる場合の配慮もない)。補助金支給の要件に視覚障害者への配慮を盛り込む必要がある。 (6)人的支援と視覚障害者に配慮した情報提供  視覚障害者には困難をともなう買い物におけるセルフレジや無人店舗について、代行支援を受けられるよう人員を配置することが求められる。  また、すべてをデジタル化するのではなく、点字、音声、拡大文字等の視覚障害者に配慮した情報提供も必要である。 (7)ICT関連製品の購入等に係る経済的な問題  視覚障害者個々人に対する経済的な支援として、サポートを受ける際の交通費、通信費、あるいは有料サポートに係る費用の公的助成については既に言及した。  そのほか、ヒアリング調査においていろいろな指摘・意見が提示されたが、主には日常生活用具の給付制度に関するものであった。その内容は概ね次のとおり。 @地域における給付格差の解消  給付対象品目が地域によって異なるという実態がある。どこに住んでいても視覚障害者として必要な品目が入手できるよう、地域間格差をなくす必要がある。 A給付品目の見直し  給付対象品目を見直し、新たに開発されたICT機器・ソフトウェアを迅速に対象に加え、視覚障害者が新技術に取り残されないよう図る必要がある。 B給付上限額の見直し  給付の上限額を価格変動等に応じて見直し、視覚障害者の経済的負担を軽減する必要がある。これは、結果的に開発メーカーや販売店を経済的に支えることとなり、ICT機器・ソフトウェアの持続的開発につながる。  視覚障害者は専用のソフトウェアなどを導入することから高性能・高価格な機器が必要となるため、パソコンやスマートフォン本体も給付対象に加えて経済的負担を軽減する必要がある。 C手続きの簡素化  給付を受ける際の手続き(書類の確認・記入)を簡素化するとともに、給付までの期間を短縮することが求められる。 (8)情報の共有・発信及び関係者の連携  これまで述べてきた各種の問題のほか、ヒアリング調査において次のような指摘があった。 〇視覚障害者個人または関係団体がメーリングリストやSNSを活用して情報を相互に共有・発信し、自ら新たな技術の取り込みやトラブル解決を図ることが有効である。 〇ICTにまつわる事柄に限らず、医療・教育・福祉・就労の各関係者が連携することは重要だが、ICT関連の相談・支援の事例についても可能な範囲で共有し、より効果的な相談・支援に結びつけることが求められる。 3 視覚障害当事者団体ヒアリング 結果           1.視覚障害者がICT機器を利用することの主なニーズと直面している課題。 (1)情報(取得・提供) @ICT機器に関する情報をどこで得られるかわからない。また、どこで操作方法等を学べるのかを知らない人が多い。 A東京や大阪、名古屋などの大都市圏と比較して、中規模の市等は、視覚障害者のICTサポートをしてくれるところが少ない、またはない。 BICT機器を使えない・使わない視覚障害者が一定数いる。ICT機器を利用することによって恩恵を受けられることを知ってもらうことが重要だが、それは難しい。 C視覚障害者同士の横のつながりがあまりなく、情報交換ができていない。昔は、視覚障害者といえば、盲学校という共通のつながりがあり、情報交換ができていた。盲学校に行かない視覚障害者が増えてきているのが理由の1つだと思う。横のつながりをどうつくっていくのか考えていかなければいけない。 DICT機器・製品の開発者の方々に視覚障害者の困り事やアクセシビリティの要望を伝える手段がない。開発者に声を届けないとICT機器のアクセシビリティは向上しないように思う。 (2)ICT機器及びソフト・アプリケーションへの対応 @OSの更新等の新しい技術に対応していくため、新しいスクリーンリーダーを利用していく必要性が以前に比べて高くなっている。一方で新しい製品を利用するには、経済的な問題がある。また、使い慣れたものを変えていくことへの抵抗感もあり、視覚障害者にとっては難しい。 A国際的に使われているようなソフト・アプリケーションにおいては、アメリカの「リハビリテーション法508条」があるので、ある程度アクセスできるようになっている。一方日本で製作されたソフト・アプリケーションは、うまくアクセスできないという事例がある。アクセシビリティを確保するように訴えていかなければいけない。 (3)就労に関して @職場において、社内独自の業務システムがスクリーンリーダーで読めない。会社のシステム環境が、仮想環境になっており対応できない。 Aパスワードや認証システムで自宅から会社のネットワークにうまく接続できない。 B多くの企業で使われているデータ共有システムというようなアプリケーション、業務管理を行なうアプリ・ツールがスクリーンリーダーに対応できていない。また、一部のスクリーンリーダーだけが対応できる状況である。 Cスクリーンリーダーを新しいバージョンに更新してもらえない。古いバージョンのスクリーンリーダーなので読めない等の課題もある。 D機器の整備等についての助成金はあるものの、機器の更新についての助成金はない。そのため、機器を更新しない企業が多い。 E基幹システム、物流、会計、人事のシステムで特に、日本で開発されたソフトがスクリーンリーダーに対応していない(アクセシブルになっていない)。 2.デジタル化が進む中で国や地方自治体等の行政に求めること (1)行政手続き @行政の手続き、Webサイト、PDFでの情報提供等はまだ、アクセシブルでない。アクセシビリティを確保していただきたい。 A各府省庁や地方自治体で働いている視覚障害者からの相談を受けることも多い。業務上のシステムにアクセスできない等の声が寄せられている。視覚障害者の働きやすい職場環境の整備などに率先して取り組んでいただきたい。 B自治体及び公共機関等においてICT機器等を導入する際には、アクセシビリティの高い製品を調達基準として義務付けていただきたい。アメリカのリハビリテーション法と同じように日本も取り組んでいただきたい。 C国がつくるアプリについては、開発の段階からアクセシビリティを考えていただきたい。視覚障害者が利用することを認識してほしい。 (2)ICTサポートセンター @ICT機器のサポートを受けることについても地域間で差がないようにしていただきたい。 AICTサポートセンターを設置したものの、視覚障害者の利用者がいない。または、視覚障害者がサポートを求めていても、ICTサポートセンターが設置されていない等の需要と供給がアンバランスのように思う。 BICTサポートセンターがどこに設置され、どのようなことを行っているのかの情報がほしい。 CICTサポートセンターが視覚障害者のICT関連の相談場所及び継続的なサポートを受けられる体制を整えていただきたい。 D視覚障害のICT機器等に対応できる相談員・担当者を配置していただきたい。 EICTサポートセンター間でも連携をとって情報交換をしていただきたい。 (3)日常生活用具の給付 @身体障害者手帳を取得した時、スクリーンリーダーの助成をしてもらいたかったが、等級が給付対象外であったため、給付されなかった。必要としている人に給付していただきたい。 (4)人材育成 @視覚障害者のICT機器の利用について、教える人を組織的に増やしていかなくてはいけないと思う。一定程度のスキルを教えられる人を増やしていただきたい。なお、その際は地域間で差が生じないくらい教えられる人が増えてほしい。 A教わる人もある程度のICTスキルがあるとオンラインでの講座ができる。しかし、オンラインでも講師1人に対して受講者数名ということはむかないように思う。 B教えられる人を育成するのとあわせて、教材の充実も考えていかなければいけない。 C国や自治体もICT機器を教える人を、ボランティアに頼りすぎてはいけない。ボランティアに支えられてきたことが悪いことではないものの、教える人を増やすには安定した生活が送れるような報酬をもらえることも必要だと思う。 DICT機器の操作方法等に詳しいのとあわせて、視覚障害者が困っていることを汲み取れることが求められる。 3.ICT機器のメーカーに求めること @ICT機器のメーカーは視覚障害者を積極的に採用してほしい。開発段階で視覚障害者のアクセシビリティについて考慮されない理由は、周りに視覚障害者がいないので、どのようなことに困っているかを理解していないからではないかと思う。 Aソフトウェアの改善もお願いしたい。視覚障害者側から、開発者へ要望が届けられる仕組みが重要だと思う。開発する最初の段階からアクセシビリティに視覚障害者の意見(要望)を入れていただくのが重要。 B視覚障害者の要望が、開発者に届いても、企業の中でコストに合わないと判断を企業の中でされてしまうと困る。そうならないためには、アクセシブルなものを各企業がつくらないといけないという枠組み、公共機関等ではアクセシビリティの確保がされていないものは調達しないという仕組みをつくらなければ、ICT機器やアプリのアクセシビリティが担保できない。 Cソフト・アプリケーションを販売するときに「これはスクリーンリーダーで使える」のような情報を提供していただけるような仕組みがあるといいと思う。購入してみないと使えるかわからないのではなく、事前情報がほしい。 D最近、テレワークが普及してきた関係で、企業もシンクライアントシステムを導入している。このシンクライアントシステムにスクリーンリーダーが対応しているのかの情報をスクリーンリーダーの開発企業・団体にお願いしたい。 E個人で企業等に要望を出すことは難しい。アクセシビリティを評価する機関や団体が必要なのではないか。 Fキャッシュレス決済がどんどん進んできている。その際には、利用できない人が一定数いること考慮して機器を開発してほしい。 Gメーカーに改善の要望を出す際には、高度な専門性を要求されると思う。開発されたアプリやシステムに問題があるのか。あるいは、スクリーンリーダー側が不十分なために問題なのかという判断は難しいように思う。 H一般の大学や専門学校等で、情報処理について学ぶ際には、アクセシビリティの確保の重要性等についても考えてほしい。また、情報処理等の試験においても、アクセシビリティを取り扱っていただきたい。 4.デジタル化においてICT機器を利用したくても利用できない人をなくすためにはどのようなことが必要か @医療機関において視覚障害であることを宣告された時、どこでICT関係のサポートを受けられるのかという情報が得られない。自分自身も苦労し、途方にくれてしまった。医療機関と福祉関係の連携を強め、早い段階での情報提供をしてほしい。 A就労の場面でICT機器を使うことは、専門的な訓練が必要である。一方で日常生活を向上させるという意味では、基礎的な訓練やサポートで十分なこともある。利用者がどのようなことを求めているのかによって訓練を受けられる環境が整っていることが望まれる。 B視覚障害者のICT機器のサポートができる人材の育成と当事者にも読める教材の充実が求められている。 CICT機器が、よりシンプルで簡単に扱えるものになればいいかと思う。 4 視覚障害者サポート団体・企業ヒアリング 結果      1.視覚障害者のICT機器のサポート体制の現状と課題 (1)サポートの人材 @サポートする人材の発掘と教育、そして雇用を継続するための資金の確保というのが課題である。 A多種多様のニーズがある。基本的な使い方を教えてほしいという要望の方もいれば、仕事で使用するソフトの使い方を教えることもある。 B視覚障害者のICT機器の選択、サポートでは、本当に幅広い商品知識と経験が必要。5年10年20年と経験を積み上げていくことが必要。技術もどんどん新しくなっていくので対応していくには苦労する。ただ、経験を積んでも辞めてしまう人がいるので人材を確保することは難しい。 CICT機器等の情報にアクセスできる人とできない人の情報格差が広がっているように思う。視覚障害者向けのICT研修会も少ない。 DICT機器について知識があることも重要だが、サポートの時に、利用者が何に困っていて、何を求めているのかを汲み取れる能力も必要不可欠だと思う。 (2)サポート活動 @パソコンサポートは、電話及びメールでのサポート、会社への来所、ご自宅への訪問を中心に行っている。最近は遠隔操作でサポートする機会も増えてきた。ただ、遠方の方で、遠隔操作での対応が難しい場合は機器を送ってもらい、設定した上で、送り返すこともある。サポート方法を利用者に合わせていて、多種多様だ。 A地域の視覚障害者の団体や点字図書館でサポートしてくれる機会も多くなったと思う。基本的なサポートを地域でしてもらい、専門的なサポートをこちらでできれば、サポートの対象者も増えると思う。 B以前サポートした方からの紹介、点字図書館、視覚障害者団体、社会福祉協議会等から紹介していただくことが多い。視覚障害に関係する新聞や広報紙等に、広告を掲載し、新規の利用者を集めている。 C以前は自治体から補助をもらい、サポートを実施していた。自治体からの補助がなくなったものの、サポ―ト料金を値上げすることもできないため、運営は厳しい。 D自治体の委託事業として、視覚障害者向けのICTの指導者を養成する講座を開催している。視覚障害者のサポートをする人を養成していくことも重要だと思う。 E特別支援学校(視覚障害)の生徒さん(保護者)からの相談も増えている。 2.デジタル化が進む中で国や地方自治体等の行政に求めること @事業を新しく始める時には自治体からの補助金や助成金は得やすい。事業の継続にも補助金や助成金等の支援の仕組みが必要であると思う。 A自治体が主催する障害者向けのパソコン講習会が少なくなっている。長期間そして継続的に自治体主催で進めていただきたい。 BICT機器本体や、スマートフォンを利用しやすくするための専用機器が日常生活用具の対象になっていない自治体が多い。ICT機器を利用する視覚障害者を増やすためにも、日常生活用具の給付品目に追加してほしい。 C視覚障害者が利用するパソコンは、利用目的よりもハイスペックのモデルを選ぶ必要がある。例えば、インターネットの閲覧やメールのみの使用だとしても、スクリーンリーダー等のソフトをインストールするため、機能が高いパソコンが求められる。その分、個人負担も大きいため、購入に関して何らかの補助が国や自治体から望まれる。 Dサポートを受けたいにも関わらず、経済的にサポートを受けることが難しい人もいる。自治体からサポートを受けた人の料金を補助する仕組みも求められる。 Eスクリーンリーダーを日常生活用具として自治体に申請する視覚障害者が多い。販売店として、申請書類の作成をサポートするが、全ての自治体において書式が異なり、手続きが複雑である。手続きを全国の自治体で共通書式にするなど、簡素化を図ってほしい。 Fスクリーンリーダー等の購入補助の価格が見直しされていない。物価の上昇や輸入コスト等に合わせて価格を見直ししてほしい。 3.ICT機器のメーカーに求めること @自社製品のアクセシビリティについてホームページ上で公開してほしい。キーボードのキーの配列や六点入力が可能かどうか。  音がどれくらいの音量で出せるのかがわからない。パソコンを選定する時に参考になる情報が少ない。 Aスマートフォンの利用者が少ないことは、スマートフォンが使いやすいものになっていないということではないか。スマートフォンを視覚障害者にも利用しやすいように物理ボタンがあるなど、機器そのもののアクセシビリティも考えていただきたい。 B開発段階から視覚障害者の要望や意見を聞いてほしい。 CパソコンのOSやWindowsの頻繁な更新によってソフトの対応がうまくいかないことがある。 DICT機器のアクセシビリティの確保とともに、Webサイトやアプリのアクセシビリティも高めてほしい。 4.デジタル化においてICT機器を利用したくても利用できない人をなくすためにはどのようなことが必要か @視覚障害者のICT機器の利用をサポートする場所が各地域にあることが必要だと思う。なお、そのサポートする場所は常設が望ましい。 A行政のICTに関する委託事業を継続的に実施してほしい。 BICT機器を継続的に使おうとすると、新しい事柄を学習しなくてはならない。サポートする側も最近の情報を入手することや、学習を続けていくことは難しい。ICT機器が使いやすいものになると、あわせて効率的に情報共有できるような仕組みが求められる。 5 スクリーンリーダー開発企業・団体ヒアリング 結果    1.製品開発等で新しいOSへの対応や開発資金等の課題 @Windows10〜11への変更は互換性もしっかり確保されていたので大きな負担はなかった。今後もOSを切り替える際には互換性を確保してほしい。 Aギガスクール構想で、Chromebookを使用することも増えてきている。今後Chromebookにおいても対応していくことが求められる。 B企業がスクリーンリーダーを導入しても、OS等の切り替えの時に更新をしない。各企業が新しいバージョンへの切り替えることも必要だと思う。 C複数のスクリーンリーダーを使用する方が多い。それぞれ得意としているところが違うのでどれも欠かせないものだと思う。それぞれがしっかりと役割分担して持続可能な形でないと、利用者は困ってしまうと思う。 2.どのように工夫してユーザーサポートを行っているか @ユーザーからお問い合わせがあった時には、その内容を記録し、スタッフ全員で情報を共有できるようにしている。また、その内容を商品開発等に活かしている。 Aユーザーには、初心者の方や、パソコンに詳しい人もいて、同じ質問をうけたとしてもどのように回答をすれば理解してもらえるのかが難しい。 B無料で利用できるスクリーンリーダーなので利用者の一人一人をきめ細かくサポートすることは難しい。その代わり、3か月に1回程度のシステムの更新をし、利用しやすい環境を整え、サポートが必要になる状況をできる限り減らしている。 C1か月に1回、Youtubeでユーザーに向けて情報を提供している。 3.企業がアクセシビリティを自己評価する日本版VPATについての課題 @多くの企業に視覚障害者のアクセシビリティについて意識してもらうにはいい仕組みだと思う。 Aスクリーンリーダー側というよりも、どちらかというとICT機器またはアプリのアクセシビリティの確保が必要だと思う。 B公共調達あるいは民間調達の際にも、アクセシビリティの要件・規格に準拠しているかどうかの判断基準になることが望ましい。アメリカでは、リハビリテーション法508条、欧州ではアクセシビリティ法がある。日本においてもICT機器の支援サービスの調達を公共機関に義務付ける法整備が必要なのではないか。 4.製品開発等で国や行政にもとめること @シンクライアントの実証実験の環境を整備するのに設備投資が必要。開発資金の補助をしてくれる制度があることが望ましい。 A開発元のコスト負担が非常に大きく、今後ユーザー数が減少してしまうと、事業が安定的に継続できなくなる不安がある。 B本団体のスクリーンリーダーの開発費は主に寄付である。毎年寄付の予算を組んでくれているボランティア団体や、利用者からの寄付がある。ただ、それだけでの運営は厳しい。 Cスクリーンリーダーは日常生活用具の「情報通信支援用具」として給付対象にしてくれている自治体が多い。一方でその給付額が変わっていない。給付額を全国的に増額してほしい。 Dウェブ、モバイルアプリ等のアクセシビリティをすすめていくことが必要となるが、関連する法律は理念に関するものばかりであり、具体的な政策を進めていく根拠となる法整備が望まれる。 5.デジタル化においてICT機器を利用したくても利用できない人をつくらない「誰も取り残さない」ための方策 @スクリーンリーダーは日常生活用具の給付対象となっているものの、パソコン等は指定されていない。視覚障害者の誰も取り残さないという取り組みであれば、パソコンも日常生活用具の給付対象とすることが必要ではないか。 A視覚障害者のための教材が不足しているように思う。定期的な講習会も開くことが重要ではないか。 6 日本版VPAT主管機関ヒアリング 結果                         日本版VPAT及び情報アクセシビリティ支援ナビの背景、取り組み等の説明をいただいた後、今後に向けて意見交換を行った。 1 取り組みの説明 1.日本版VPATの背景・目的 (1)日本版VPATとは  情報アクセシビリティ自己評価様式(通称:日本版VPAT(VPATはVoluntary Product Accessibility Templateの略) (2)背景 ・デジタル活用共生社会実現会議において、「情報アクセシビリティ基準適合に関する自己評価の仕組み」の導入が提言された。 ・本提言を受け、令和元年度より総務省において仕組みの構築に向けた調査事業を開始。A研究所が令和元年度(業界)・2年度(障害者団体)・3年度にわたって調査事業を受託し、検討を行っている。 ・令和元年度は業界団体と複数回の意見交換会を開催し、様式を策定。その後、令和2年度に障害者団体と複数回の意見交換を開催し、様式のブラッシュアップを実施した。 <補足>  アメリカでは、リハビリテーション法508条において、連邦政府が調達を行う際の情報アクセシビリティ対応が義務化されており、企業は508条の基準に自社製品がどの程度満たしているかを自己申告する必要がある。この自己申告のフォーマットのひとつとして民間事業者からなる団体であるITI(Information Technology Industry Council:米国情報技術工業協議会)が開発したテンプレートが「VPAT」であり、多くの米国企業がこのテンプレートを用いている。 (3)日本版VPATの目的 @日本版VPATは、各企業・公的機関等が自社のICT機器・サービスについてアクセシビリティ確保の状況を自己評価した結果を公表し、企業・公的機関や当事者が製品やサービスを選択する際の参考としていただく仕組み。 日本版VPATの導入により、ICT機器・サービスの情報アクセシビリティ確保を促進することを目的としている。 (ポイント)  自己評価、当事者が選定するツール、環境整備を進めている。 (4)日本版VPATの仕組み  日本版VPATは、「情報アクセシビリティ自己評価様式」と「様式作成時の技術基準」の2つの資料から構成される。 ・「情報アクセシビリティ自己評価様式」は、ICT機器・サービスの情報アクセシビリティへの適用に係る概要情報を記載したもの。配慮対象アクセスごとに、企業が自社の製品・サービスについて自己評価を行った結果をサマライズしたものである。 参考:配慮対象アクセスの項目  視力なしでの使用(全盲)、限られた視力での使用(弱視)、色知覚なしでの使用、聴力なしでの使用(全ろう)、限られた聴力での使用(難聴)、発話能力なしでの使用、限られた器用さ又は力での使用、限られた手の届く範囲での使用、光の点滅による影響の最小化(光感受性発作)  「様式作成時の技術基準」はJISx8341シリーズに沿った項目建てとなっており、それぞれのJISの項目についてどの配慮対象アクセスに該当するものであるかをマトリクスで表現している。  企業はまず「様式作成時の技術基準」に沿って自社製品・サービスを評価し、その結果を配慮対象アクセス毎に「情報アクセシビリティ自己評価様式」に記載する。 2.日本版VPATへのニーズ(業界団体と障害者団体から) (1)業界団体  公共調達に日本版VPATが適用されることで、情報アクセシビリティに配慮した製品・サービスの流通が促進されるとの意見があった。 (2)障害者団体  製品・サービスを選択する際に活用ができるとの意見があった。   3.日本版VPATの主な課題 (1)対象とする障害種別に関する課題  現状は、欧米の基準と合わせる形で対象とする障害種別(配慮対象アクセス)を設定しているが、複合障害や知的・精神障害等についても順次範囲の拡張を検討することが望まれる。 (2)技術基準としてJIS規格を用いることに関する課題  作成されて10年余りが経過しているJIS規格もあるため、技術革新に応じて見直す必要がある。  欧米でのアクセシビリティに係る規格等との整合をとる必要がある(「様式作成時の技術基準」では、米国508条やEN301549を技術基準として用いることも許容している)。 (3)運用、普及展開にあたっての課題  日本版VPATを作成するにあたっては、製品・サービスの詳細な知識と合わせて、アクセシビリティそのものに関する知識を有している必要がある。一方で企業ではアクセシビリティに関する認知度が十分であるといえない。そのため日本版VPATを普及するには、企業側の情報アクセシビリティへの理解の促進が望まれる。 また、公共調達への適用が望まれるため、調整を続けて行うことが望まれる。  そして、日本版VPATの公開にあたっては、公開方法に関して情報アクセシビリティや検索性への配慮が望まれる。 4.日本版VPATの今後の取組 @日本版VPATの公共調達への適用に向け、総務省とデジタル庁において調整中。また、公的機関における公共調達のフローにおける日本版VPATの適用方法案について整理を実施中。企業における情報アクセシビリティの取組を推進することを目的に、企業向けの普及啓発資料を作成。 A日本版VPATを実施している企業はまだ少ないので、どのように公開するかは決まっていない。 2 主な意見交換 内容 @日本版VPATを各企業がホームページで公開する際には、視覚障害者にも情報にアクセスしやすいようにしてほしい。 A企業の自己評価の際に、障害当事者を参画してほしい。 B日本では、各企業にアクセシビリティを法的に義務付けること、取り組まない企業に対して罰則規定を設けることは難しいと思う。デジタルガバメント推進ガイドライン等の取り組みにおいて、アクセシビリティが確保できるようにしてほしい。どのくらい、企業側が趣旨を理解してもらい、協力してくれるかがカギになると思う。 CJIS X 8341-3(高齢者・障害者等配慮設計指針−情報通信における機器、ソフトウェア及びサービス−第3部:ウェブコンテンツ)をモデルにしていることはいいが、自治体でも対応していないところが多い。実行力があるようにしてほしい。 7 情報アクセシビリティ支援ナビ主管機関ヒアリング 結果   情報アクセシビリティ支援ナビの背景、取り組み等の説明をいただいた後、今後に向けて意見交換を行った。 https://www.actnavi.jp/ 1 取り組みの説明 1.情報アクセシビリティ支援ナビの背景・目的  デジタル活用共生社会実現会議において、「障害当事者参加型技術開発の推進」の導入が提言される。  情報アクセシビリティに配慮したICT機器・サービスの製品・技術開発にあたっては、「障害者等の具体的なニーズを把握したい」一方で、「どのように情報収集すればよいか分からない」といった課題がある。  また、当事者や支援者にとっても、「自身の状況に対応しているICT機器・サービスであるかを購買前に知りたい」一方で、「どの情報源を見ると適切な情報を得られるか分からない」といった課題があった。  このような情報アクセシビリティに係る課題を解消し、当事者参加型技術開発を促進することを目的に「情報アクセシビリティ支援ナビ」は開発された。  現状、「ニーズデータベース」「シーズデータベース」「人材データベース」の3つのデータベースを有している。 @ニーズデータベース  障害者等の日常生活や、ICT機器・サービスの利用にあたってのニーズや困りごとに関する、障害者団体や研究機関等の調査レポートや、適切な配慮の事例を掲載。 Aシーズデータベース  障害者等の困りごとを解決する可能性のあるICT機器・サービスに関する情報を、配慮項目ごとに検索することができる。 B人材データベース  情報アクセシビリティや、情報アクセシビリティに配慮した製品・技術開発に見識をもつ専門家や、大学・研究機関、各種団体等を紹介。 2.今後の展開  昨年度(令和2年度)事業において、試験サイトを構築し、今年度9月から一般公開を行った。今年度、サイトのアクセシビリティ向上策を実施している。  また、今年度の調査事業において、データベースの機能拡充や情報の拡充、また当事者参加型技術開発を促進するためのコミュニティ機能等について、実装の可能性について検討を行っている。 2 主な意見交換 内容 @利用者の困りごとを投稿できるようにしてほしい。企業がアクセシビリティを検討する時にも役に立つと思う。 A○○機能はあるが、○○機能はないというようなアクセシビリティのネガティブな情報も掲載してほしい。実態にあっている情報の方が参考になる。 B視覚障害者のニーズと言ってもそれぞれ異なる。ニーズを決めつけてしまうことのないようにしてほしい。 Cアクセシビリティに取り組みたいという企業の参考になるようにしてほしい。 8 スマートフォン講習会受託団体ヒアリング 結果      総務省の「デジタル活用支援推進事業」を活用し、視覚障害者向けのスマートフォン講習会を実施した団体に取り組みをヒアリングした。 1.講習会の実施記録 (1)期間  令和3年11月23日・24日・30日の3日間 (2)対象者  視覚障害者5名(全盲3名、弱視2名) (3)内容  スマートフォンの基本操作(電話のかけ方を含む)  インターネットの使い方  SNSの使い方      等 2.工夫した点 @講習会で使用するスマートフォンはレンタルした。 A5名の受講者に対し、マンツーマンでサポートした。 Bサポートにあたる人は視覚障害当事者や障害特性を理解している人が担当した。 Cスマートフォンを各自持ち帰ってもらい、自宅でも試せるようにした。 3.講習会を実施しての感想 @講習会終了後に、スマートフォンに切り替える受講者もいたので、スマートフォンの基本を学べる講習会を開けたことはよかった。 A本事業の趣旨、申請方法等の際に、高齢者向けにプログラムされているような印象を受けた。視覚障害者団体も申請しやすく、実施しやすい講習になれば、各地域でもっと実施する場所がふえるのではないか。 9 ICTサポートセンターヒアリング 結果           障害のある人の情報バリアフリー化の推進に寄与するため、ITサービス拠点としての「障害者ITサポートセンター」を運営するとともに、パソコン教室を開催し、総合的なIT支援を行っている。その取り組みは、県内の3社事業体がそれぞれの強みをいかし、連携して行っている。 1.障害者ITサポートセンターではどのような取り組みをしているか  障害者ITサポートセンターでは以下のことを行っている。  〇ICT機器等の常設展示  〇ICT機器及びソフトウェアに関する助言  〇電話、メール等による相談  〇雇用事例の紹介・相談  〇パソコン教室の運営  〇パソコンボランティアの養成研修  〇出張サポート                 等 2.視覚障害者からどのようなサポートのニーズがあるか @電話での相談は、スマートフォンの購入相談や利用相談が増えている。 A相談やサポートの依頼は全体的に、高齢者で中途視覚障害者が多い。 Bこちらでは、視覚障害者に対する生活支援を行っている。歩行訓練で歩行訓練士が自宅に訪問した際に、ICT機器等を紹介し、その結果、パソコン教室に申し込まれた方もいる。 C県内の自治体から、紹介をしてもらうことも多い。 D県から受託しているパソコン教室は、1回2時間の16時間分8回行っている。遠方の方が来所して講習を受ける際には、ご本人の希望を聞いて、1日で4時間2回分の講座を受講してもらうことがある。 3.県内で遠方の方へのフォローをどのように行っているか @パソコン本体の初期設定、インターネット回線の初期設定については電話で詳細をお聞きし、どうしても自宅でないと設定ができない場合は同意を得て職員が訪問している。 AiPhoneの設定は、電話サポートで家族の方やヘルパーが設定してくれることもある。 BオンラインツールZoomでのサポート可能な方はオンラインで行っている。 4.他県のITサポートセンターとの連携 @就労等でのパソコン利用に関しては、東京四谷の日本視覚障害者職能開発センターを紹介する等の連携を図っている。 5.今後、デジタル化していく中で、ICT機器を利用したくても利用できない人をなくすためにどのような支援体制が必要だと思うか。また、ITサポートセンターの役割は。 @視覚障害者のICT機器の利用のサポートができるところが少ないので、ITサポートセンターが重要な役割を今後担うと思う。 A各都道府県でITサポートサポートセンターがあることが望ましい。また、各地域においてもサテライトのような拠点があり、視覚障害者が地域でサポートを受けられる体制が必要だと思う。 B県がITサポートセンター運営し、政令指定都市及び中核市のエリアもサポートしている。そのあたりも考慮した補助が必要に思う。 第4章 提言 提 言  調査結果から見えてきた現状と課題を踏まえると、視覚障害者がICT技術を円滑に活用できるようにするためには以下のことが求められる。 1 アクセシビリティの確保・改善の促進 (1)視覚障害者のニーズを反映したICT機器等の開発  製品やサービスの開発・提供業者がアクセシビリティを理解し、障害当事者やその支援団体の要望を受け取るとともに、それを開発・改善に反映させる。特に、開発段階からアクセシビリティに配慮することが求められる。  そのためには、障害当事者やその支援団体の要望を検証・精査し、より適正な要望に集約するための仕組みを設ける。たとえば、障害者相談事業にICTの専門的知見及び視覚障害の特性を理解した人材を配置するとともに、その専門的人材が連携できる協議の場を設けることが必要である。 (2)視覚障害者の専用の製品(オーファンテクノロジー)の開発・研究に対する支援  視覚障害者のICT活用に不可欠なスクリーンリーダーなどの専用の製品は、利用者が限定されている機器のため、利益が出にくい製品である。利用者が限定される製品においてもその重要性を理解し、開発及び事業が継続されるよう公的な助成を行うことが必要である。 (3)視覚障害者が利用しやすい仕組みの検討  視覚障害者にとって困難な事例として、ATMなどにおけるタッチパネル方式の操作、ネットバンキングなどにおける画像認証やワンタイムパスワードの処理等の認証システムの操作、QRコードの読み取りを前提とした手続き、PDFの読み取りなどが多く上げられており、視覚障害者が利用しやすい方式にすることが求められる。 2 アクセシビリティに関する基準の順守と実効性の向上  公共調達に際して、日本版VPATなどのアクセシビリティ基準を順守していないものは調達しないという制度を導入する。  また、製品やサービスがどの程度アクセシビリティを順守しているかを情報公開し、個人・団体が購入する際に容易に参照できるようにすることが必要である。 3 サポート体制の充実  ICT機器を利用したくてもできない人、ICT機器を利用している人にはトラブルに直面した際にタイムリーなサポート等、様々な場面及びニーズに応えるサポート支援の内容として次の3種類が考えられる。 @指導支援  視覚障害者のスキル向上に関する支援(訓練、講座、研修等) A単発支援  トラブル解決や初期設定等の手助け B代行支援  視覚障害者がICTを活用できない場合に代行  支援の種類によって支援者に求められるスキルが異なること、現実には3種類の支援が複合的に必要とされる場合があることに留意する必要があるが、人的支援に関連して求められる事柄を挙げると次のとおり。 (1)視覚障害者への情報提供  どこでどのような支援を受けられるかを多くの視覚障害者に情報提供する。SNSを活用する一方で、ICT機器を使っていない視覚障害者にも情報が伝わるよう工夫する(眼科医療段階、あるいは障害者手帳交付時に情報を提供するなど)。 (2)ICTサポートセンターの運営  ICTサポートセンターの設置は増加傾向にあるものの、政令指定都市・中核市においては少ない。多くの自治体で障害者ICTサポート総合推進事業が実施されるよう図るとともに、事業において視覚障害者のサポートを充実させる。 (3)人材の育成及び配置  必要なノウハウを修得した支援者を育成・配置する(ボランティアに頼らない公的資金に基づく支援者の育成・配置を含む)。 (4)公的助成の充実  ICTサポートの支援事業が円滑かつ継続的に行われるよう財政面等の公的助成を更に充実する。 (5)身近な地域での研修を受けられる体制  身近なところで支援を受けられるようにするため、歩行訓練や同行援護の事業において、あるいは地域の図書館やスマートフォンの相談窓口において視覚障害者のICT支援が可能となるよう図る。 (6)サポートへの補助  支援者(就労支援を担うジョブコーチを含む)が都市部に偏在する実態を踏まえて、支援者が広域で活動できるようにするための財政的支援、あるいは、電話やオンラインによる相談・支援を促進する。  視覚障害者が支援を受けるため遠方に出向いたりリモートの支援を受ける場合、交通費や通信費を公的に助成する。  また、視覚障害者用の有料サポートを受ける場合の費用を公的に助成する(晴眼者であれば発生しない負担を補助)。 (7)人的サポート  視覚障害者には困難をともなう買い物におけるセルフレジや無人店舗について、代行支援を受けられるよう人員を配置する。  また、行政手続きや決済手続きのデジタル化が進展すると、代行支援の支援者にもICTのスキルが求められる。 4 ICT機器等の購入に対する経済的支援  デジタル化において「誰も取り残さない」ためにはICT機器がいきわたることが重要である。  そこで、日常生活用具給付制度の充実・改善として次の事柄が求められる。 〇給付対象品目が地域によって異なるが、どこに住んでいても同じ支援を受けられるよう改める。 〇新たに開発されたICT機器・ソフトウェアを迅速に対象品目に加える。 〇給付の上限額を価格変動等に応じて見直し、視覚障害者の経済的負担を軽減する。 〇視覚障害者は専用のソフトウェアなどを導入することから高性能・高価格な機器が必要となるため、パソコンやスマートフォン本体も給付対象に加えて経済的負担を軽減する。 〇給付を受ける際の手続き(書類の確認・記入)を簡素化するとともに、給付までの期間を短縮する。  また、ICT機器を日常生活用具の給付品目として認定することが難しい場合、ICTサポートセンター等でレンタルできる仕組みを構築するべきである。  そのほか、視覚障害者の雇用を継続するため、ICT機器・ソフトウェアの初期導入だけでなく更新に対しても、助成金を弾力的に支給するよう制度の見直しが求められる。 5 関係者の連携と情報の共有・発信  視覚障害者個人または関係団体がメーリングリストやSNSを活用して情報を共有し、新たな技術の取り込みやトラブル解決を図るとともに、そのノウハウを発信する。  医療・教育・福祉・就労の各関係者が連携できる場(地域自立支援協議会やそれを支える個別支援会議等)において、視覚障害者のICT活用に関しても情報の共有を図り、相談支援を含む個別支援の充実につなげる。 6 視覚障害者に配慮した取り組み  本調査で、ICT機器の利用をしたくない・利用を考えていない人も一定数いることが明らかになった。  社会がデジタル化していく上で、「誰も取り残さない」のであれば、すべての情報や手続きをデジタルにするのではなく、視覚障害者に配慮した点字版、音声版、拡大文字版等で情報提供に努めるとともに、手続き等は人的サポートを受ける体制を構築する必要がある。