視覚障害にかかわる相談の特徴と傾向  記録データに基づく集計・事例 令和4年(2022年)12月 社会福祉法人日本視覚障害者団体連合 本事業は、社会福祉法人日本盲人福祉委員会の福祉助成により実施されたものである。 目次 1.事業の概略 1−1 事業の目的と背景 (1)総合相談室の設置 (2)本事業の目的と背景 1−2 事業の実施期間 1−3 相談記録の整理の方法等 (1)整理の対象期間 (2)整理した相談記録件数 (3)整理するための項目 1−4 相談区分(分類) 2.相談区分別に見た特徴・傾向 2−1 大項目による分類における特徴・傾向 2−2 小項目による分類における特徴・傾向 (1)社会福祉に関する相談 (2)生活相談 (3)就労相談 (4)移動の安全に関する相談 (5)情報コミュニケーション相談 (6)健康相談 (7)法律相談 (8)保育・教育相談 (9)マスコミ等からの相談 (10)提言(要望) 3.相談の事例 3−1 同行援護にかかわる相談事例 (1)利用時間の制限(視覚障害者から) (2)習い事にかかわる利用制限&改善された例(視覚障害者から) (3)通院および院内の支援(視覚障害者から) (4)地域でガイドヘルパー不足(視覚障害者から) (5)自動車の利用(視覚障害者から) (6)金融機関窓口での処理代行(ガイドヘルパーから) 3−2 居宅介護関連の相談事例(介護保険との関連を含む) (1)支援の内容の制限に納得ができない(視覚障害者から) (2)同居家族がいる場合の支援(同居家族から) 3−3 各種分野における相談事例 (1)生活相談:屋根瓦の塗り替えの確認(視覚障害者から) (2)生活相談:通帳や薬の管理(中途視覚障害者から) (3)就労相談:差別的扱い(視覚障害者から) (4)情報、コミュニケーション相談:携帯電話の選び方(視覚障害者から) 4.おわりに 1.事業の概略 1−1 事業の目的と背景 (1)総合相談室の設置  日本視覚障害者団体連合(以下「日視連」)では、相談支援事業の強化を図るため、2016(平成28)年8月に総合相談室を開設した。  総合相談室では、厚生労働省委託による「全国盲人相談事業」を始め、総合相談(眼科・法律・厚生相談)、定例法律相談、聞こえにくさ相談を実施するとともに、日々の来館・電話・電子メール・手紙での通常の相談に加え、週1回、専門家の協力を得て、水曜日にICT相談、木曜日に同行援護に関する相談を実施している。 (2)本事業の目的と背景  日視連には、全国各地の視覚障害者から日々相談事が寄せられている。その数は年間約2,000件以上にのぼっており、視覚障害者の悩みも時代の変化やデジタル化の推進に伴い多様化している。  日視連では、視覚障害当事者の相談員や専門的知見を有する相談員がそれぞれの得意分野を生かし、寄せられた相談に合った対応をしているところであるが、相談内容の変化や多様化を踏まえると、過去の相談記録を整理・集計してその傾向や特徴を把握するとともに、典型的な事例を示して共有することにより、今後の相談が更に適切なものとなるよう取り組むことが求められる。  そこで、今般、過去の相談記録を整理し、集計・事例抽出を行うことにより相談の一層の適正化を図るための素材を作成することとした。  これまで一定の書式に従って相談を記録してきたところであるが、必ずしも集計に適した形ではなく、また、相談員によって記録の仕方に多少の違いがあることから、相談内容の特徴や傾向をみるための集計および事例抽出のための検索を行いやすくするため、相談記録データを厳選して専門の事業者にデータの整理を依頼した。 1−2 事業の実施期間  令和4年4月1日〜12月31日 1−3 相談記録の整理の方法等 (1)整理の対象期間  相談記録データのうち、令和元年から令和3年末まで(2019年5月?2021年12月)のデータを厳選して整理した。 (2)整理した相談記録件数  総数2,775件 (3)整理するための項目 主に次のような項目によって分類・整理を行った。 @相談の内容、相談年月日、相談者の属性 A相談方法(電話、メール、面談等) B対応者名、対応(回答)の内容、参考情報(対応者が調べたこと等) C相談区分(大項目とそれに付随する小項目で分類)    1−4 相談区分(分類)  相談区分(分類)は大項目が11項目で、各大項目に小項目が付随する。具体的には下のとおり。 1.健康相談                            (1)眼科(手術、予後) (2)眼科以外の病気 (3)ロービジョンケア (4)聞こえにくさ (5)中途失明全般 (6)その他 2.生活相談 (1)地域生活(回覧物、通院・買い物、不動産契約等) (2)金融機関の窓口対応 (3)消費者トラブル (4)テレビ・ラジオ (5)読書(点字、録音) (6)文化・スポーツ (7)旅行(ホテル、ガイド等含む) (8)ボランティア(点訳・音訳・その他) (9)マイナンバー (10)違法広告・無資格者 (11)点字の普及(広報紙等含む) (12)生命保険・損害保険 (13)その他 3.移動の安全(街づくり・道路・交通) (1)歩行訓練・白杖 (2)盲導犬 (3)視覚障害者用誘導ブロック(点字ブロック) (4)エスコートゾーン (5)音響信号機 (6)交通機関(電車・バス、駅ホームからの転落防止・旅客サービス、静音車対策) (7)トラブル・事故 (8)その他 4.社会福祉(各種制度・年金・社会保険) (1)身体障害者手帳 (2)補装具・日常生活用具、点字図書価格差保障等 (3)移動支援・同行援護・家事援助等 (4)自立訓練(機能訓練)・就労移行支援・就労継続支援 (5)介護保険・65歳問題 (6)高齢者施設(特養ホーム、デイサービス等) (7)障害年金 (8)高額医療費 (9)生活保護 (10)成年後見制度 (11)その他 5.保育・教育相談    (1)子育て (2)就学 (3)入学試験・進学・進路 (4)インクルーシブ教育 (5)その他 6.就労相談 (1)あはき就業 (2)一般就業 (3)職場復帰・雇用継続・転職 (4)職業訓練 (5)合理的配慮・雇用差別 (6)資格試験・資格取得、採用試験 (7)その他 7.情報コミュニケーション相談 (1)ウェブ・アクセシビリティ (2)視覚障害者用情報支援機器 (3)携帯電話・スマホ (4)パソコン・タブレット (5)視覚障害者への接し方 (6)その他 8.法律相談(顧問弁護士の相談は除く) (1)相続 (2)離婚 (3)成年後見人 (4)虐待防止法 (5)差別解消法 (6)雇用促進法 (7)その他 9.マスコミ等からの相談 10.提言(要望) 11.その他 2.相談区分別に見た特徴・傾向  以下では、相談区分別に相談件数をみた結果を件数の多い順に示す。  なお、1件の相談に複数の内容が含まれることが少なくないが、概要を把握するため各々の相談の主要な内容に着目して分類した。 2−1 大項目による分類における特徴・傾向  大項目(11項目)により相談件数を分類すると次のとおり。  件数の多い順に示す。 表1 相談区分(大項目)により分類した相談件数   度数(件)構成比(%)の順 社会福祉 806(29.0) 生活相談 582(21.0) 就労相談 362(13.0) 移動の安全 253(9.1) 情報コミュニケーション相談 230(8.3) 健康相談 185(6.7) マスコミ等からの相談 161(5.8) 法律相談 63(2.3) 保育・教育相談 19(0.7) 提言 8(0.3) その他 99(3.6) 不明 7(0.3) 総数 2,775(100.0) @「社会福祉」が約3割、「生活相談」が約2割で、この二つで5割を占める。この二つは小項目の個数がそれぞれ11、13と多く、扱う内容の幅が広い。ちなみに、他の相談区分(大項目)は、小項目の個数が5〜8個。 A「就労相談」が1割台で、他は1割未満という状況。 B最も多い「社会福祉」が29.0%であることを考えると、突出して多いとまではいえず、相談内容が比較的分散しているといえる。 C「その他」の代表的なものをあげると下のとおり。 ○視覚障害者の人数等データに関する問合せ ○企業から、開発中の製品・サービスに対して意見を聴きたい ○視覚障害者と交流をしたい ○外国人視覚障害者の支援状況を知りたい ○点字ブロックや視覚障害者の不便さについて児童・生徒からの取材 ○晴眼者から、白杖に付けるSOSのマークについて教えて欲しい ○点字出版を事業として営むことについて情報が欲しい ○ショッピングセンターでの視覚障害者サポートをどうしたらいいか Dなお、新型コロナ感染症に何らかの形で言及した相談の件数は、全体を通して439件あった。総数2,775件に占める割合は15.8%となる。    2−2 小項目による分類における特徴・傾向  以下では、大項目ごとにその小項目別の相談件数を示して、その特徴・傾向をみる。 (1)社会福祉に関する相談  社会福祉における相談の件数を小項目により分類すると下のとおり。件数の多い順に示す。 表2 社会福祉に関する相談区分(小項目)の相談件数 度数(件)構成比(%)の順 移動支援・同行援護・家事援助等 509(63.2) 障害年金 74(9.2) 介護保険・65歳問題 44(5.5) 高齢者施設 41(5.1) 身体障害者手帳 32(4.0) 補装具・日常生活用具等 31(3.8) 自立訓練 7(0.9) 成年後見制度 3(0.4) 生活保護 3(0.4) 高額医療費 0(0.0) その他 62(7.7) 総数 806(100.0) @「移動支援・同行援護・家事援助等」が63.2%を占め、突出して多い。その中でも移動支援・同行援護に関するものが大半を占める。 ○何らかの形で移動支援や同行援護に言及した相談が80.0%(407件/509件)。 ○何らかの形で家事援助に言及した相談は16.7%(85件/509件)。 A次に多いのが「障害年金」で9.2%。 Bそれに続くのが高齢者関係で、「介護保険・65歳問題」(5.5%)、「高齢者施設」(5.1%)を合わせると1割を超える。 C「その他」が7.7%と比較的多いが、代表的なものをあげると次のとおり。 ○意思疎通支援の代筆・代読支援について ○眼球使用困難症の制度的扱い ○難病指定について ○障害者相談員とのトラブル ○役所の窓口対応に関する苦情・トラブル ○障害支援区分の最新マニュアルについて ○国民年金や厚生年金について ○コロナ関連の給付金に係る手続き ○コロナ失業、生活不安、家賃補助 ○重度障害者等就労支援推進事業 ○ITサポートセンター ○生活保護に係る不便さ(希望の医療機関で受診できず困っている等) (2)生活相談  生活相談における相談の件数を小項目により分類すると下のとおり。  件数の多い順に示す。 表3 生活相談に関する相談区分(小項目)の相談件数   度数(件) 構成比(%)の順 地域生活 161(27.7) 金融機関の窓口対応 27(4.6) テレビ・ラジオ 22(3.8) 点字の普及 22(3.8) ボランティア 19(3.3) 読書 16(2.7) 文化・スポーツ 16(2.7) マイナンバー 14(2.4) 生命保険・損害保険 13(2.2) 消費者トラブル 8(1.4) 違法広告・無資格者 5(0.9) 旅行 2(0.3) 不明 3(0.5) その他 254(43.6) 総数 582(100.0) @最も多いのが「地域生活(回覧物、通院・買い物、不動産契約等)」で27.7%。次に多い「金融機関の窓口対応」(4.6%)を大きく引き離しているが、突出して多いとまではいえない。 A「地域生活」以外はいずれも5%以下で、相談内容が分散しているといえる。 B「地域生活」の代表的なものは次のとおり。 ○グループホームでの問題(入所者同士または世話人との関係等) ○施設入所生活(人間関係、生活管理方法への苦情等) ○母子家庭の生活にかかわる困難 ○買い物のときの不便さ(タッチパネル方式の決済システム等) ○顧客サービスに不満 ○金銭管理とそれに関連するトラブル、税金の確定申告 ○家族問題(親子関係、離婚した場合の生活設計等) ○コロナ感染の不安、感染したらどう行動すればよいか ○引越し、家の立て替えや修繕等 ○防災 C「その他」ではコロナ関係が非常に多い。コロナ関係では主に次のような内容。 ○コロナ感染予防対策 ○ワクチンの接種に関する問題(予約券送付、接種会場での対応等) ○感染してしまった場合の問題 ○音声パルスオキシメーターの必要性 ○ソーシャルディスタンス ○緊急事態宣言 ○特別定額給付金、持続化給付金 ○アルコール消毒液が手に入らない ○通行人からの声掛けが激減 ○ストレスで家族関係のトラブル(夫婦喧嘩等) D「その他」のうちコロナ関係以外のものは主に次のとおり。 ○視覚障害者の使いやすいクレジットカードについて ○家電製品の視覚障害者への配慮の要望 ○障害者であることを知らせる手段について ○情報提供支援の在り方について ○近隣の住宅建設の騒音による精神的苦痛 ○弱視の悩み ○LGBT:家族の虐待から逃げたい ○晴眼者から、近所の視覚障害者の生活を支えてあげるには (3)就労相談  就労相談における相談の件数を小項目により分類すると下のとおり。  件数の多い順に示す。 表4 就労相談に関する相談区分(小項目)の相談件数   度数(件)構成比(%)の順 あはき就業 105(29.0) 職場復帰・雇用継続・転職 75(20.7) 合理的配慮・雇用差別 46(12.7) 資格試験・資格取得・採用試験 33(9.1) 一般就業 25(6.9) 職業訓練 15(4.1) その他 63(17.4) 総数 362(100.0) @最多は「あはき就業」で29.0%。相談内容としてはコロナ関連が多かった。 ○コロナの影響による自営業またはヘルスキーパーの仕事減・離職 ○コロナ禍の苦境を支える各種給付制度等について ○あはき師の国家資格について(取得するための方法、学べる機関) ○治療院の経営相談、特に集客について ○あはき受領委任払い請求事務代行 ○無資格者問題 ○ヘルスキーパーの求人情報 A次に多いのが「職場復帰・雇用継続・転職」で20.7%。 B「合理的配慮・雇用差別」も12.7%を占めている。主に次のような内容。 ○中途視覚障害や障害重度化にともなうパワハラ・虐待相談 ○テレワークや構内LANを利用するための合理的配慮を受けられない ○昇進試験や能力テストでの差別的取り扱い ○障害を理解してもらうための方法 ○不当解雇のおそれ ○公務員の分限免職問題 C「その他」が比較的多いが、その主な内容は次のとおり。 ○盲学校に進学した場合の失業手当について(受給するためには) ○雇用に関する助成金について(教えてほしい、要望したい) ○勤務先の就労条件・処遇に納得できない(福祉的就労の場合を含む) ○視覚障害者の就労に関するアンケート調査への協力依頼 ○身体障害者の部位別職業紹介状況に関する質問 ○障害者の就職状況を教えてほしい (4)移動の安全に関する相談  移動の安全に関して相談件数を小項目により分類すると下のとおり。  件数の多い順に示す。 表5 移動の安全に関する相談区分(小項目)の相談件数 度数(件) 構成比(%)の順 点字ブロック 87(34.4) 歩行訓練・白杖 38(15.0) 交通機関 37(14.6) トラブル・事故 22(8.7) 音響信号機 22(8.7) エスコートゾーン 4(1.6) 盲導犬 3(1.2) その他 36(14.2) 不明 4(1.6) 総数 253(100.0) @「点字ブロック」が最多で34.4%。その主な内容には次のものがある。 ○点字ブロックに関する規定・敷設方法等を教えてほしい ○ブロック上に物を置いているとか破損している等の問題の指摘(晴眼 者からの指摘も少なくない) ○晴眼者から、ブロックが危険(つまずく、すべる、自転車で転倒等) A「交通機関」(14.6%)の主な内容は次のとおり。 ○プラットホーム警備員廃止について ○障害者が駅員に案内を依頼したときのアナウンスについて ○転落防止のための声掛けについて ○ICカード専用自動改札機について ○バス運転手への苦情 ○地方でのバスの路線停止について ○安全上の理由により単独での乗船を断られた ○電気自動車の静音化対策について B「トラブル・事故」の主な内容としては次のとおり。 ○駅ホーム転落事故について(情報がほしい、意見を述べたい) ○横断歩道で交通事故(全治2週間のけが:経験談) ○エスカレーターの事故について(晴眼の研究者から危険性の指摘・意見) ○歩道を走る自転車事故に巻き込まれないために ○歩きスマホの人と接触事故 ○すれちがいに通行人から因縁をつけられた ○晴眼者から、白杖につまずいて転倒   (5)情報コミュニケーション相談  情報コミュニケーション相談における相談の件数を小項目により分類すると下のとおり。件数の多い順に示す。 表6 情報コミュニケーション相談に関する相談区分(小項目)の相談件数   度数(件)構成比(%)の順 携帯電話・スマホ 78(33.9) パソコン・タブレット 48(20.9) ウェブ・アクセシビリティ 34(14.8) 視覚障害者用情報支援機器 20(8.7) 視覚障害者への接し方 8(3.5) その他 36(15.7) 不明 6(2.6) 総数 230(100.0) @最多は「携帯電話・スマホ」(33.9%)。  使い方のほか、ガラケーからの切り替え(機種の選択)などの相談もある。 A「その他」の代表的な内容は次のとおり。 ○災害と情報保障 ○キャッシュレス化(電子マネー、クレジットカード、スマホ決済)の使いにくさ ○選挙公報のデータ公開について ○ツイッターの代理投稿など情報発信の手助けサービスもほしい (6)健康相談  健康相談における相談の件数を小項目により分類すると下のとおり。  件数の多い順に示す。 表7 健康相談に関する相談区分(小項目)の相談件数 度数(件)構成比(%)の順 ロービジョンケア 50(27.0) 中途失明全般 39(21.1) 眼科 37(20.0) 眼科以外の病気 17(9.2) 聞こえにくさ 5(2.7) その他 36(19.5) 不明 1(0.5) 総数 185(100.0) @相談件数の多い「ロービジョンケア」(27.0%)、「中途失明全般」(21.1%)、「眼科」(20.0%)がいずれも20%台で、あまり偏りがなく分散しているといえる。 A「その他」は、コロナ感染症にかかわる不安以外では主に次のとおり。 ○眼球使用困難症について ○眼瞼痙攣について ○体調不良への対応の仕方 ○患者の会を教えてほしい ○精神的問題を抱える家族(視覚障害者)の保護入院 ○統合失調症の治療の副作用で眼瞼下垂 (7)法律相談  法律相談における相談の件数を小項目により分類すると下のとおり。  件数の多い順に示す。 表8 法律相談に関する相談区分(小項目)の相談件数 度数(件)構成比(%)の順 相続 10(15.9) 成年後見人 3(4.8) 虐待防止法 2(3.2) 差別解消法 1(1.6) 離婚 1(1.6) 雇用促進法 0(0.0) その他 45(71.4) 不明 1(1.6) 総数 63(100.0) @相談件数は「相続」(15.9%)、「成年後見人」(4.8%)、虐待防止法(3.2%)となっている。 A「その他」は71.4%で代表的な内容をあげると次のとおり。 ○親子間での裁判のもつれ、弁護士の紹介希望 ○有価証券の契約書の代筆の効果 ○不正請求の返還の消滅時効について ○著作権について ○結婚詐欺について ○ネット被害対応について ○雇用契約・労働法に関する相談(不当解雇を含む) ○歩行中に逮捕・勾留(身体拘束)、日視連意見書で釈放 ○土地の埋め戻し問題、農地改良事務所に対する訴訟を検討 ○介護認定で法律相談を希望    (8)保育・教育相談  保育・教育相談における相談の件数を小項目により分類すると下のとおり。  件数の多い順に示す。 表9 保育・教育相談に関する相談区分(小項目)の相談件数 度数(件)構成比(%)の順 就学 7(36.8) 子育て 1(5.3) 入学試験・進学・進路 1(5.3) インクルーシブ教育 0(0.0) その他 10(52.6) 総数 19(100.0) @保育・教育相談は総数で19件と少ない。相談のニーズは少なくないと考えられるが、この分野に関する日視連の立ち位置をどのようにするか検討する必要があるかもしれない。 A相談の代表的な内容は次のとおり。 ○盲学校における問題(授業の在り方、寄宿舎生活を含む人間関係等) ○中途視覚障害者の盲学校入学について ○学齢期前の幼い子どもに関する保護者の不安 ○大学受験用の参考書について ○視覚障害者の教育の現状について教えてほしい    (9)マスコミ等からの相談  マスコミ等からの相談では小項目を設けていない。取材協力の依頼、データ・情報に関する問い合わせ、日視連の意見に関する問い合わせ、視覚障害者が登場する映画・テレビドラマについて意見を聞きたいなど多様だが、相談の代表的な内容は次のとおり。 @コロナ感染症に関するもの ○ワクチン摂取に関する現状・課題の取材 ○コロナ禍における視覚障害者の不便さについて取材協力依頼 ○感染した視覚障害者の声を聞きたい ○コロナ禍における解雇・失業、生活実態 ○コロナ禍における同行援護の実態と課題 ○コロナ禍におけるヘルスキーパーの現状と課題 ○コロナ問題とテレワークについて ○コロナ関係相談件数を教えてほしい A番組や出版物に関する意見の要請 ○絵本の監修協力依頼 ○バリアフリー絵本について意見がほしい ○ロービジョンに関する番組の取材 ○映画制作ヒアリングへの協力依頼、映画の俳優指導 ○音響信号機に関する番組制作、説明文の確認 ○網膜色素変性症を取り扱う番組放送について Bデータ・情報に関する問い合わせ ○公務員の雇用率に関する水増し問題 ○障害者活躍推進計画など ○視覚障害者の解雇事例を知りたい ○雇用施策との連携による重度障害者等就労支援特別事業について ○点字ブロック普及の歴史 ○点字ブロックの国際的な普及状況等について教えてほしい ○視覚障害者の横断歩道等での歩行上の安全について ○歩行訓練士の人数について ○歩車分離式信号機での事故の統計について ○外出を支援するスマホアプリについて ○高度化PICSについての意見を聞きたい ○白杖に付けるSOSマークについて普及状況や視覚障害者の捉え方を教えてほしい ○観光地におけるユニバーサルツーリズム ○視覚障害のある人でも自由に楽しめる美術館の環境整備について ○視覚障害に関する差別用語について ○視覚障害者が紛失物を探索する場合について教えてほしい ○視覚障害者の交通事故について情報提供してほしい ○視覚障害者の地方議員の数など ○視覚障害者の方にとって使いやすいトイレ ○視覚障害者の投票について ○弱視者が買い物で困ること ○障害者の差別、トラブルなどについて ○障害年金 眼の障害(認定基準改訂について) (10)提言(要望)  提言(総数8件)には小項目を設けていない。内容としては次のものが あった。 ○政府のデジタル化に対する視覚障害者からの問題要望 ○選挙の投票券を郵送する際に封筒に点字でのしるしを付けてほしい ○視覚障害者に使いやすくなるようマイナンバーカードを改善してほしい ○消費税のインボイスに関して要望(あはき自営業者に不利にならないよう) ○視覚障害に関する啓発に取り組んでほしい(ICT指導者のノウハウ不足、病院職員の不十分な対応等の改善になるよう)    3.相談の事例  以下、相談の具体的な内容を知る参考材料として、数が比較的多い同行援護等の社会福祉の分野を中心に事例を示す。  なお、相談者の個人情報保護の観点から、記録データを一部修正して提示する。    3−1 同行援護にかかわる相談事例  「社会福祉」の相談の中で大半を占めるのが同行援護関係である。  同行援護制度について情報がほしいという声のほか、利用時間や利用要件の規定が弾力的でないため使いにくいこと、地域によってガイドヘルパーが不足しており支援を受けられないことなどの指摘があり、改善を求める声も少なからずあった。 (1)利用時間の制限(視覚障害者から) <相談内容>  県内の市町村において同行援護の支給時間を1ヶ月24時間に制限するようになってきた。時間数を増やすにはどの様にしたらよいでしょうか。 (対応)  同行援護制度では、視覚障害者の支援計画に基づき外出するのに必要な時間を提供することになっております。それなのに24時間の制限を設定するのは自治体が独自で行っていることと思います。  24時間の制限を突破するためには、当事者が相談支援専門員と話し合い、必要な時間数を織り込んだ支援計画を立ててもらいます。その支援計画をもって自治体の担当窓口に行きましょう。窓口で24時間以上は認められないと言われたら認められない根拠を示してもらいましょう。その根拠をもって不服申し立て委員会に臨みましょう。  それと並行して、視覚障害者福祉協会と自治体との話し合いの場で、同行援護の支給時間を支援計画に基づいて支給するよう自治体に要請しましょう。 (2)習い事にかかわる利用制限&改善された例(視覚障害者から) <相談内容>  視覚障害者福祉協会が開催する習い事には同行援護を認めてもらえるが、それ以外の習い事で同行援護が認められない。認められない根拠を示してほしいと言っているが返事はもらえておりません。認めてもらうためにはどのようにしたらいいのでしょうか。 (対応)  根拠を求めたのは正解です。根拠が示されないのであれば示されないのを理由に認めてもらえるように交渉されたらよいかと思います。これからも視覚障害者福祉協会が一丸となって市側と話し合いを持っていくことが大切かと思います。 (その後の経過)  習い事での同行援護が認めてもらえることになりました。    (3)通院および院内の支援(視覚障害者から) <相談内容>  病院に通院したいと言ったら通院等介助で行ってほしいと言われてしまった。通院等介助なので院内には入れないと言われてしまった。私としては、院内の付き添いもしてほしいのですがどのようにしたらよいでしょうか。 (対応)  通院等介助は、通院だけにしか使えない制度です。ですから病院の行き帰りに用事を足したいと言い、同行援護で出かけたいと言いましょう。同行援護でしたら院内における情報提供、安全誘導、代読代筆もしてもらえるので是非、同行援護で対応してもらいましょう。 ※病院内での支援は病院のスタッフが行うことになっているため、ガイドヘルパーは行えないと自治体や事業所から言われてしまうとの相談もある。担当者への周知・啓発が必要といえる。 (4)地域でガイドヘルパー不足(視覚障害者から) <相談内容>  同行援護で通院をしたかったがヘルパー不足のため通院等介助で出かけた。病院の入り口にあるATMでお金をおろそうと思ったが、病院の中に入らないとATMがないためヘルパーさんが中に入ってきてくれない。大変な思いをしてお金をおろしたのですが、同行援護でしたらこんなに大変な思いはしなかったと思うのですが、もっと同行援護を使えるようにはならないでしょうか。 (対応)  同行援護は国の個別給付の制度です。どの地域でも等しく支援を受けられるべきものです。しかし、ヘルパーさんを増やすための養成研修を行うなどは、地域で行わなければならないのが現状です。地元の視覚障害者福祉協会等と力を合わせてヘルパーさんが増えるように取り組む必要があります。 (5)自動車の利用(視覚障害者から) <相談内容>  ヘルパーさんが運転する車での同行援護が認められるようになるための運動はしているのでしょうか。 (対応)  ヘルパーさんが車を運転して行う同行援護に関しては、日視連としても要望を続けております。しかし、現段階では、いつから可能になるかは残念ながら言えません。   (6)金融機関窓口での処理代行(ガイドヘルパーから) <相談内容>  同行援護で、中途失明で点字を読めない方に銀行のATM操作を頼まれたので、銀行員にお願いしたところ、なぜ同行援護の一環としてやってもらえないのかといわれた。 (対応)  事業所としては、金銭トラブルにつながるようなことは避けたいところです。しかし、銀行員に行ってもらうとなると待ち時間が長くなり利用者に とっては、苦痛となる可能性があります。ですから利用者が希望されるのであればATMの操作を行ってあげてください。その際、取引明細を利用者さんに渡すことを忘れないでください。 3−2 居宅介護関連の相談事例(介護保険との関連を含む)  居宅介護(家事援助等)の支援内容について制限を受けて困るとの相談のほか、障害者福祉と介護保険の両方にある居宅介護というメニューの相違からくる困りごともある。 (1)支援の内容の制限に納得できない(視覚障害者から) <相談内容>  居宅介護で靴下合わせ、子供の音楽の本読み、掃除などは、居宅介護の範囲外と相談支援専門員に言われてしまった。障害支援区分が3とか4になれば認められるのでしょうか。 (対応)  視覚障害者の情報不足を補うための居宅介護です。子供の教科書の代読、靴下の色合わせ、室内を清潔に保つための掃除、これらが居宅介護の対象外になる理由がわかりません。  相談員に、視覚障害者は情報障害者ということを理解してもらい、居宅介護を有効活用できるよう相談員を説得してみてください。  もし理解してもらえないようでしたら相談員を変えるのも検討した方がよいと思います。 ※相談員やケアマネジャーの中には、視覚障害者に対する理解が不足している人がいるのが実情(高齢者を主に対象としている)。障害理解の啓発が必要といえる。 (2)同居家族がいる場合の支援(同居家族から) <相談内容>  82歳男性の視覚障害者の場合について、居宅介護を受けたいのだが同居親族がいると受けられないのでしょうか。 (対応)  健常者の同居親族がいると受けられません。しかし、その同居親族が仕事や学校などで一定時間留守にする時間があればその間の居宅介護は受けられます。 3−3 各種分野における相談事例  相談の内容は多岐にわたるが、紙面の都合上、象徴的なものに絞って示す。 (1)生活相談:屋根瓦の塗り替えの確認(視覚障害者から) <相談内容>  風水害の影響で、屋根瓦を塗り替えるように民生委員から言われて、そのようにしようと考えているという全盲の夫婦からの相談。塗り替え終わった後の確認ができないのでどうしたらよいだろうか。知人、友人にも頼める人は誰もいないので困っている。 (対応)  建築家の団体が、住宅診断等の無料相談活動をしていると思う。そのような案内は、市の広報紙に載っていると思うので、市役所に相談してみるよう助言。その上で、この手の悪徳業者がいるので要注意。また、複数の業者から見積書を取ることは最低限必要。 (2)生活相談:通帳や薬の管理(中途視覚障害者から) <相談内容>  視力低下があり点字も使えないので、通帳の管理や薬の管理が難しいが、どのようにしたら良いでしょうか。 (対応)  通帳に関しては、なるべく預金口座を絞り込む、しまっておくところは一か所に決めて他のところにしまわない。通帳の内容をわかるようにするには、点字以外でしたらタッチボイスが使えると思います。タッチボイスであれば音声で管理ができます。薬の管理もタッチボイスで行ったらいかがでしょうか。 <参考 タッチボイスとは>  タッチ式ボイスレコーダー「タッチボイス」は、ペンの形をした録音再生装置です。特殊印刷されたシールにペンの先端をあて、ボタンを押しながら録音すると、ペンでシールに触れるたびに録音した音声を聞くことができます。 https://www.sgv.co.jp/prd/voice/touch_voice.html (3)就労相談:差別的扱い(視覚障害者から) <相談内容>  地方公務員、昇進試験での差別的取り扱い。地方自治体の視覚障害の公務員から、視覚障害を理由に、昇進試験を受けさせないという相談があった。不当な差別だと思うが、このような場合、どこに訴えられるか。 (対応)  国家公務員なら人事院公平審査局に公平委員会がある。地方自治体でも、人事委員会の中に公平委員会があるので、そこに訴えることになる。 (4)情報、コミュニケーション相談:携帯電話の選び方(視覚障害者から) <相談内容>  これまでガラケーの携帯電話を便利に使ってきた。なかなか手放せない。しかし、世の中ではスマートフォンの利用が増えており視覚障害者にとっても便利だと聞く。ガラケーの今後の行方はどうなると考えるか。いきなりガラケーからスマートフォンに切り替えるのは不安。2台を持つことについてどう考えるか。 (対応)  メーカーはガラケーの製造停止や修理サポートの縮小の傾向。通信会社でもスマートフォンへの切り替えを推奨するキャンペーンをやっている。ガラケーのサポートが先細りである傾向は否めない。とはいえ、単純に電話をかけたり、メールの送受信を行う点では視覚障害者にとってスマートフォンが便利。スマートフォンを使いこなしている視覚障害者でもガラケーを持ち続けている人はいる。経済的に許すなら両方を持つのは有効な方法と考える。2台持っておいてスマートフォンの便利な機能に慣れるようにしてはどうかと助言。ご本人もその方向で進めたいとのことで納得された様子。 4.おわりに  今回、相談の特徴・傾向を数量的に示すことができたのは一つの成果である。同行援護に関する相談が多いことが確認できた。その背景には、それが視覚障害者の社会参加を支える重要な支援制度であること、また、制度的に利用しにくい点があり改善が求められること、制度的には問題がなくても運用担当者の適切とはいえない判断で利用が抑制されてしまうケースがあることなどがあると考えられる。  同行援護にかかわるそうした課題は、他の制度についてもいえるものである。相談件数が多くなくても、重要な要素を含む相談は少なくない。  それら相談のエッセンスを見極めることにより、福祉施策をより有効なものに改善する参考材料が得られるとともに、日視連の相談の在り方をブラッシュアップするための検討材料も得られるものである。同時に、相談の記録の在り方=より整理しやすく参照しやすい形を模索する良い機会となった。  その意味で、今回、相談の記録データを整理し、集計・事例の抽出を行うことができたのは有意義であった。そうした機会を与えてくれた日本盲人福祉委員会の福祉助成金支給に謝意を申し上げる。