表紙 日本視覚障害者団体連合 弱視部会 弱視者の困り事 資料集 第5号 (令和4年8月発行) 【テーマ】 ・オンライン会議における困り事や活用事例 ・金融機関における困り事や活用事例 【目次】 T はじめに 1ページ  1.資料集について 2ページ  2.出典情報 2ページ U オンライン会議における困り事や活用事例 3ページ  1.オンライン会議の利用方法 4ページ  2.オンライン会議の良い点 4ページ  3.オンライン会議で困ること 5ページ  4.オンライン会議の操作等で困ること 5ページ  5.オンライン会議に参加するための課題と対応事例 8ページ  6.オンライン会議を主催すること 10ページ V 金融機関における困り事や活用事例 13ぺージ  1.窓口での代筆拒否 14ページ  2.残高の確認 16ページ  3.ATMの利用 17ページ  4.テレフォンバンキング、ネットバンキング 19ページ  5.投資や証券 20ページ W 参考資料 21ページ  A オンライン会議を便利に利用するための各種情報 22ページ  B 地方銀行における視覚障害者向けの取り組み実例 29ページ  C 金融庁監督局「主要行等向けの総合的な監督指針」 31ページ 1ページ T はじめに 2ページ 1.資料集について  弱視者(ロービジョン)が日常生活を送る上で抱えている困り事は大変多いと言われている。そこで、本資料集は、これらの困り事の整理を目的とし、本連合の弱視部会の委員より寄せられた情報を整理して掲載している。  第5号のテーマは「オンライン会議」「金融機関」に関する困り事や活用事例になる。オンライン会議は、近年のデジタル化社会の進展により急速に普及したものの、弱視者(ロービジョン)にとっては課題が多く、安心して利用できる環境にはなっていない。また、金融機関では、視覚障害者に対する代筆の支援が徹底されておらず、代筆を依頼したくても依頼できない弱視者(ロービジョン)は多い。  本資料集では、これらの困り事等を中心に整理を行い、困り事の解決が含まれた活用事例等も掲載している。本資料の発行を通して、全国の弱視者(ロービジョン)の困り事の解決を進めていきたい。 2ページ 2.出典情報  本資料集に掲載した情報は、下記の期間に収集した情報になる。そのため、機器やシステムの変化、社会情勢の変化等によって、掲載した困り事や活用事例が視覚障害者の実情に見合わない場合がある。 (1)オンライン会議における困り事や活用事例  @メーリングリスト   募集期間 令和3年12月1日〜12月15日  Aオンライン意見交換会   開催日 令和3年12月18日 (2)金融機関における困り事や活用事例  @メーリングリスト   募集期間 令和4年5月18日〜6月1日  Aオンライン意見交換会   開催日 令和4年6月4日 3ページ U オンライン会議における困り事や活用事例 4ページ 1.オンライン会議の利用方法 (1)仕事 ・職場でオンライン会議システムを導入したため、今は仕事で利用している。覚えるまで大変だったが、周りからのサポートがあり、今は何とか利用できている。 (2)趣味や団体活動 ・自分が所属している団体の活動や自分の趣味の活動でオンライン会議を活用している。例えば、仕事に関する悩み相談の場だったり、囲碁サロン等で利用している。 ・所属する団体の会議等で活用している。働いている人が多いので、好きな時間に、好きな場所から集まれることは大変良いと思う。視覚障害者にとってメリットのあるツールだと思う。 4ページ 2.オンライン会議の良い点 (1)移動の手間や時間の有効活用 ・オンライン会議は、会議室の予約が必要なく、移動の手間がないので、視覚障害者にとっては時間的・空間的な制約から解放される点が大変良いと思う。例えば、何らかのイベントを開催する際、今までは開催地域の人のみを対象にしていたが、オンラインであれば対象地域を限定せずに開催することができる。このメリットは、就労の場でも活用できるだろう。 ・オンライン会議を活用したことで会議の時間的な制約がなくなり、夜の時間帯に開催できるようになったのは助かる。また、今まで移動することが難しく、なかなか会議に参加できなかった人が、簡単に会議に参加できるようになったことも大きい。 (2)電話参加 ・Zoomは電話でも参加ができるので、パソコン操作が苦手な人もオンライン会議に参加できる。この点は大変良いと思う。 5ページ 3.オンライン会議で困ること (1)見ることが前提の会議 ・見ることを前提とした会議等をオンライン会議で開催することは、視覚障害者にとっては大変困ることだ。それこそ、画面共有で資料を映しても、多くの視覚障害者はその資料を見ることができないので、会議の中で置いてきぼりになってしまう。 ・Zoomを利用した飲み会に参加したことがあるが、周りの表情が分からず、あまり楽しめなかった。 (2)長時間音声を聞くこと ・オンライン会議では、参加者の通信環境やパソコン周りの環境によって、その人の声が聞き取りにくいことがある。そのため、視覚障害の参加者は、人の声を集中して聞くことになるので、疲れてしまうことがある。 5ページ 4.オンライン会議の操作等で困ること (1)画面認証 ・自分が所属する視覚障害当事者の団体でZoomの有償アカウントを取得した際、オンラインから申し込みをしたが、見ることが必要な認証があり、困ってしまった。結果的に画面が見える人に助けてもらったが、こういった認証は、音声で確認できる方法にしてほしい。 ・自分がZoomの有償アカウントを取得した際は、代替手段として音声で読み上げた単語を入力するもので対応できた。ただ、英単語を読み上げるものなので、英語に強くないといけないと思った。 (2)録音機能 ・Zoomには録音機能があるが、主催者側で録音を開始すると、参加者側の画面に録音の同意を求める確認画面が出てきて、これに了承しないとミュートを解除できないため、会議で発言できないことがあった。これは、音声だけで確認しているユーザーには分かりにくい動作だ。 (3)操作のショートカット ・視覚障害者がオンライン会議に参加するためには、操作のショートカットを覚えることが大切だと思う。これを覚えれば、会議参加に困ることは少なくなるだろう。ネットで検索すると色々な紹介ページがあるのでこれらを活用するのも良いと思う。 ・私はショートカットの操作を覚えるのに色々と苦労した。例えば、自分ではショートカットで操作したつもりが、実際には操作されていないことがあった。それこそ、自分ではマイクをオンにしたつもりが、マイクがオフになっていて、そのことに気付かずに話していたことがあった。 (4)チャット ・仕事でオンライン会議に出席していると、オンライン上の会話の裏で、参加者がチャットでやりとりをしていて、そのチャットの内容を理解しながらでないと会議に参加できないことがある。視覚障害者がオンタイムでチャットの内容を把握するのは難しいので、大変困っている。 ・私の場合、チャットのやりとりがあると、チャットの理解どころか、オンライン会議内の発言が聞き取りにくくなる時が多い。そのため、そのようなオンライン会議では、チャットの読み上げをなくすためにスクリーンリーダーを一時的にオフにすることがある。 (5)バーチャル背景 ・在宅でオンライン会議に参加していると、自分の後ろがどうなっているかや、自分の顔がちゃんと映っているか等が気になる。私は、実際に映っている内容が見えなくて、部屋自体もどうなっているか分かっていない時があるので、他の参加者にどのように見られているかが不安になることがある。そのため、会議によってはバーチャル背景を使うことがある。 ・バーチャル背景を使っているが、どのように映っているのかが分からないので、他の参加者に聞くことがある。また、ノートパソコンだと、使う度にモニターの角度が変わってしまうので、なかなか顔の位置を合わせるのが難しい。なお、カメラをオンにすると通信回線に負担がかかり安定しないとの話を聞くので、カメラをオフにして参加することも多い。そうなると、顔の位置を気にしなくても良い。 ・バーチャル背景を利用する際は、しっかりと顔が映り、背景も問題ない位置を予め自室等に作っておき、その位置でオンライン会議に参加することが多い。 (6)ブレイクアウト・ルーム ・Zoomのブレイクアウト・ルームは、大人数の参加者を数人に分けることができるので、参加者との個別の会話がしやすかった。視覚障害者は、画面を見て誰が参加しているか分からないので、誰が参加しているのかが分かるぐらいの人数の方が、オンライン会議に参加しやすい時がある。 ・ブレイクアウト・ルームは、振り分けられた参加者側で、ブレイクアウト・ルームに入室することを同意する選択をしないといけない。そのため、振り分けられたことに気付かずに、数十分取り残された人がいた。主催者側から視覚障害の参加者に、事前の説明が必要だと思う。 (7)バージョンアップ、その他 ・以前利用していたオンライン会議用アプリは、アプリのバージョンが変わったら、スクリーンリーダーでの読み上げができなくなり、私の周りではこのアプリを使う人がいなくなった。視覚障害者にとって、これらのオンライン会議用アプリが音声で確認できるかどうかは大変重要なことだ。 ・あるオンライン会議用アプリの操作方法が知りたくて、先日、2019年ぐらいに出たマニュアルを読んだ。ただ、現在のアプリの内容と異なっていて、スクリーンリーダーを利用して操作しようとすると、音声読み上げをしない操作があった。また、実際のシステムの改定のスピードに公開されている説明書やマニュアルの改訂が追い付いていないこともあるようだ。これらの点を踏まえると、操作内容やショートカットの操作等はあまり変えないでほしい。 ・自分のパソコンでTeamsをブラウザかアプリで立ち上げ、別の日にパソコンを起動させると、勝手にTeamsの機能が立ち上がることがあり困っている。また、Teams自体、起動に時間がかかるようで、他の操作をしようとするとTeamsの方が優先され、他の操作ができないこともある。今のところの解決策はTeamsが完全に起動するまで数分待つことしかないようだ。 8ページ 5.オンライン会議に参加するための課題と対応事例 (1)課題 ・初めてオンライン会議を使う視覚障害者には、接続のテスト、マイクのオン・オフや挙手の方法等、操作の練習をサポートする必要がある。手間はかかるが、だんだんと操作を覚えてもらうしかない。 ・オンライン会議に参加できない人への支援は非常に重要だと思う。ただ、オンラインで繋がっている限り、どうしても支援を受ける側・行う側の双方が離れていることが多いので、支援すること自体が難しい部分もある。 ・離れた視覚障害者にオンライン会議の参加方法を教えることもあるが、相手の操作環境がバラバラなので困ることがある。遠隔の人にはリモート操作で支援ができるかもしれないが、そもそもリモート操作の設定まで辿り着けない人もいる。 (2)対応事例 ・仕事においてオンライン会議システムを利用することになり、最初は自宅で通信環境を安定させることができるかどうかが不安だった。特に、自分が使っているスクリーンリーダーでオンライン会議のシステムが操作できるかどうかが不安だった。そこで、会社のシステム部門の担当者からサポートを受け、何とか利用できるようになった。 ・現在、リモートで仕事をしているが、会社が使用しているオンライン会議のシステムは、視覚障害者には操作が難しい部分がある。そのため、自分が操作で困った場合は、Zoomの画面共有の機能の一つである「リモート操作」を使い、会社のシステム担当の人に、私にはできない操作を代わりに操作してもらうことがある。これは便利だと思う。 ・遠隔で講習をする際、iPhoneの「FaceTime」を使い、相手のパソコン等の画面を写してもらい、困っていることの解決方法を教えてあげたことがある。私も弱視者(ロービジョン)だが、画面を確認することができれば、解決策を詳細に教えることができる。 ・私の知る限りでは、ZoomやTeamsを「iPhone」または「iPad」で操作すると、音声読み上げをしっかりとしてくれる。仕事で使うとなると、会社との交渉が必要かもしれないが、これらを通信端末として活用するのは、視覚障害者にとってメリットがある。 10ページ 6.オンライン会議を主催すること (1)ホストになるための課題と工夫 ・オンライン会議は、参加者側の通信環境や設備が揃わないといけないが、これはホスト側にも同じことが言える。私自身、オンライン会議を主催することになった時は、カメラやマイクといった必要な機器を準備すること、さらに、Zoomに関する様々な設定をすることが大変だった。 ・高齢者やICTが苦手な人の中では、オンライン会議を使えない人がまだまだ多いので、オンラインでイベントを開催しようと思っても、これらの人に開催案内を出しても大丈夫なのか、迷うことがある。そのため、現時点では会場参加とオンライン参加のハイブリッド方式でイベントを開催している。 ・オンライン会議の参加者は、ある人はパソコンから、ある人はスマートフォンからといったように、参加者によって参加方法が異なっている。そのため、主催者として準備することが多くなり、参加方法の把握、参加するために必要な対処方法を考えるのが大変だった。視覚障害の参加者には、事前にその環境にあった注意点等を教える必要があり、個別対応に近い時もあった。 ・視覚障害者がオンライン会議のホストになることは、かなり大変なことだと思っている。例えば、マイクやカメラがオンになっているか等の参加者の状況を把握できること、参加者がトラブルがあった時に対処方法を説明できるだけの知識を持っていること等が壁になっている。ただ、オンライン会議を立ち上げる際の設定等がそこまで難しくなければ、視覚障害者でもホストができるかもしれない。 ・簡単な身内レベルの会議をするのであれば、Zoomだと簡単にできる。例えば、設定で「ホスト」と「待機室」を無しにして、参加者には所定の時間に集まるようにすれば、ホストがいなくてもオンライン会議が開催できる。ただ、この方法だと、誰でも入れてしまう可能性があり、そこは注意しないといけない。 ・視覚障害者の中でも、ホストになってオンライン会議を立ち上げたいと思う人は多いだろう。そこで、ホストになるための講習会やマニュアルがあると良いと思う。ただ、視覚障害者がホストのことを覚えようとすると、対面レベルでの講習が必要かもしれない。 (2)会議で賛否を確認すること ・地元の団体でオンライン会議を開こうとしたが、オンライン会議に参加できない人がいて、結局、電話会議を行うことになった。ただ、実際に電話会議を開いて思ったのは、賛否を数えることが難しいことだった。視覚障害者の場合、この賛否の確認は、電話会議でもオンライン会議でも同じ難しさがあると思う。 ・賛否を問う方法は、電話からだと、ホスト等が名前を呼びかけて出席者が賛否を発言する方法が確実だと思う。特に、視覚障害者だけのオンライン会議または電話会議だと、誰が参加しているか分からない時があるので、声を出して確認する方法が確実ではないか。 ・以前のオンライン会議では、オンライン参加の人でカメラがオンにできる人は手を振って意思表示をしてもらい、カメラが付いてない人や電話参加の人は、画面では確認ができないため、一人一人問いかけて答えてもらう方法をとった。ただ、この方法だと、誰かが画面を見て確認する必要がある。 13ページ V 金融機関における困り事や活用事例 14ページ 1.窓口での代筆拒否 (1)実際の体験談 ・地元のある銀行で代筆のお願いをしたら、「代筆はやってはいない。時間がかかる。」と言われ、自分で書くことになった。銀行側から指図され、細かい部分まで書かされ、とても時間がかかった。やっと書き終えたと思ったら、他の書類にも記入を求められ、仕方がないので、自宅に帰って拡大読書器を使って記入することにした。そして、再度銀行へ行ったら、キャッシュカードを受け取るにはもう一つ記入が必要と言われた。しょうがないので通帳にだけ入金してもらった。結局、窓口の行員からは、代筆等の手助けは一切受けられなかった。 ・後日、このことはおかしいと思ったので、勇気を出して本店の苦情係へ電話し、行員の不愉快な対応や代筆拒否のこと等を話した。ただ、対応者は「どなたかが同行してのご来店ですよね。その同行者に書いてもらえなかったのですか。」と逆に質問をしてきた。どうやら、対応者は、視覚障害者はいつもヘルパー等が同行していると思っているようだ。このことに対して、私からは「多くの銀行では代筆サービスを内規で定めているらしいですが、こちらの銀行にはそういった内規がないのですね。」と尋ねたところ、「調べて、折り返し電話します。」との回答があった。苦情係は代筆を知らない様子で、窓口の行員に代筆のことを指導していない一端がここでも伺えた。なお、数分後、対応者から電話があり、「一人の行員が記入し、もう一人の行員が立ち会って確認するとなっていました。こちらの誤りです。すみませんでした。」と謝ってくれた。 ・私は、視覚障害当事者の団体に入会していたので、周りの仲間から代筆に関するアドバイスがあり、銀行に対して申し入れをすることができた。ただ、銀行で代筆ができることを知らない視覚障害者は、銀行側の対応を信じてしまい、泣き寝入りしてしまうだろう。銀行側にはしっかりと対応してほしいと思う。 (2)代筆を実施するために必要なこと @視覚障害の理解 ・代筆を拒否された時、銀行の窓口担当者から「代筆ができるヘルパーや家族はいないのか。」と尋ねられた。悔しかったが、仕方がないので泣きながら書類を書いた。もしかしたら、銀行側は「全盲の人は困っているけど、弱視(ロービジョン)の人はそれほど困っていない」といった偏見があるのかもしれない。銀行側には、様々な見え方の視覚障害者がいることを理解してほしい。 A職員等への周知徹底 ・窓口での代筆拒否の事例を見ていると、新人の窓口担当者等が対応している銀行ほど、代筆の拒否が多いようだ。きっと、このような人の場合、その人の想像の域で代筆がダメだと判断するのだろう。このようなことを踏まえると、視覚障害者への代筆が可能なことを、銀行の行員に対して繰り返し周知することが必要だ。 ・重要なのは、各金融機関が障害者対応をしていることを自らが発信し、このことを金融機関全体で意識することだと思う。そうすることで、末端の窓口の担当者等が障害者対応のことを確実に意識するようになるだろう。 ・私の地元の団体宛に、ある視覚障害者から銀行で代筆が受けられなかった旨の相談があった。その結果、昨年、私たちの団体から地元の銀行協会宛に、視覚障害者の対応に関する調査を依頼した。地元の銀行協会は丁寧に回答をくれ、代筆については「全ての金融機関で可能となっているが、窓口担当者への周知が不充分なことが懸念されるので、再度対応の徹底を図りたい。また、具体的な対応方法は金融機関によって異なるので、事前の問い合わせが必要。」との回答があった。私たち自身も、銀行側の対応や内情を知らなかった部分があり、こういった情報を基に、銀行側にお願いするのが良いと思った。 B内規等の公開 ・代筆が可能な旨は、金融庁のホームページに「主要行等向けの総合的な監督指針」に掲載されている。かなりのボリュームがあるものだが、各銀行はこの監督指針を基に内規を作り、代筆の対応をしている。ただ、実際に代筆の拒否の実例があることを踏まえると、その内規が窓口で徹底されていないことが伺える。 ・私も代筆のお願いを拒否されたことがあるが、代筆が可能という内規があることは知らなかった。もしかしたら、銀行の窓口で代筆を拒否されても、すぐにこちらから代筆を可能とする内規があることを示せば、銀行側の対応が変わるかもしれない。そのため、銀行のホームページ等に代筆が可能なことを示した案内等を掲載してほしい。特に、銀行の窓口で困ったら、スマートフォンで検索してすぐに提示できるよう、ホームページの分かりやすい位置に掲載してほしい。 16ページ 2.残高の確認 (1)点字の利用明細 ・地元の銀行では、点字明細の発行サービスが行われている。1ヶ月遅れになったり、点字のマス開けが多少間違っていても、1ヶ月分のお金の出入りと残高が自分で確認できるので助かっている。 ・銀行によって点字明細の発行の有無、発行ペース、どこまでの情報を載せているかは違っている。そのため、こういったサービスがあることを知らない視覚障害者は多い。 ・地元の銀行では、以前、他の人の点字明細を別の人に送ったことがあったそうだ。こちらからお願いしていることなので、なかなか言えないことだが、個人情報があるのでしっかりと対応してほしい。 (2)拡大文字等の利用明細 ・これだけ点字明細を利用している人がいるのであれば、弱視者(ロービジョン)向けの拡大文字版の明細があっても良いのではないか。 ・拡大読書器を使って通帳を読んでいるが、銀行の通帳は印字が薄く、拡大読書器では読むことができないことがある。もっと濃い文字で印字してほしい。 ・私はデータで見たいから、明細をメールで送ってくれるサービスがあると良いと思う。もちろん、ネットバンキングやアプリから見れるのかもしれないが、これらは入力が難しいため、私の中で面倒くささがあり、少しハードルを感じている。 17ページ 3.ATMの利用 (1)入力 ・ATMで一番困るのは「振込」で、自分で入力ができないので、ほとんど妻に頼んで振り込んでもらっている。視覚障害者でも振り込める機能が付いたATMがあれば、ぜひ、全国で広めてほしい。 ・ATMの振り込みで一番困るのは、振込先を入力することだ。そもそも、弱視者(ロービジョン)にとって入力することは大変なことで、画面に目を近づけると自分の髪や鼻がタッチパネルに当たって誤った入力をすることがある。また、入力に時間がかかるので、気付いたら元の画面に戻ってしまうこともある。こういったことがあるので、振込先を記憶してくれる銀行、または専用カードがあると便利だ。ただ、銀行によっては2〜3件しか登録できなかったり、半年で登録内容が消滅してしまうものもある。こういった仕組みは、もっと便利になってほしい。 ・今のATMは、暗証番号の入力を間違えると、数字の配列が変わり、どこにどの数字があるか分からなくなってしまう。セキュリティーの観点から必要なことかもしれないが、弱視者(ロービジョン)にとっては困ることだ。 ・銀行によっては、ATMの操作を手伝ってくれるが、金額の入力だけは手伝ってくれない。セキュリティーの観点からこの入力を手伝ってくれないことは理解できるが、入力ができなくて困ることが多々ある。 (2)画面の見やすさ ・ATMの液晶画面の見やすさをもっと考えてほしい。私の経験では、銀行によってATMの画面の文字の大きさや色合いが異なり、文字が大きい銀行があれば、逆に文字が小さい銀行もある。弱視者(ロービジョン)としては、自分にとって見やすいサイズ・色合いに変えられるものだと助かる。 ・一部の銀行のATMは、背景がグレー、文字が黒というものもある。見やすさを考えた画面設定にしてほしい。 ・最近の自治体のホームページでは、自分で文字の大きさや色を変えられるものもある。ATMでも、こういった機能があると助かる。 (3)音声での確認(受話器を利用した操作) ・ATMに備え付けられている受話器で「引き出し」と「通帳記帳」を利用している。「預入」は行ったことがないが、受話器があれば多分操作ができると思う。 ・普段は受話器を使ってATMを利用しているが、「新しい貯金通帳の発行ボタン」はどこにあるのか分からないので困っている。以前は窓口で無料で発行してもらえたが、今後は有料になるような話を聞いたので、このボタンの位置が分かると助かる。 ・ATMの受話器を使えば、視覚障害者でも振り込みを除いた音声操作ができたり、入力した内容の音声確認ができることは、視覚障害者の中であまり知られていない。そのため、視覚障害者への周知が必要かもしれない。なお、こういった操作を覚えると、視覚障害者が「自分でもATMの操作ができる」と自信が付くだろうから、QOLの向上にも役立つはずだ。 ・以前、別の弱視者(ロービジョン)から、どうやったらATMの操作ができるかの相談を受けたことがある。そこで、受話器で入力した内容を音声で確認できることを教えると、大変喜んでくれた。こういったことは、銀行側からも伝えるべきだと思う。 ・一時期、ATMのデモ機を地元の視覚障害当事者団体の事務所に置いてもらったことがある。受話器を使った音声入力を練習するのに都合が良かった。盲学校の生徒も練習に来たことがある。 (4)その他 ・銀行によっては、両替は窓口だと手数料がかかるので、行員がATM等の機械で両替の操作を手伝ってくれる。一人ではATMの操作ができないので助かっている。 ・ATMでの振込ができないため、郵便局の窓口で振り込みをお願いしている。以前はATMの値段で振り込んでくれたが、対応者が違うと同じ値段で振り込んでくれなかった。なお、こういった職員対応は、地方の小さな郵便局ほど、対応してくれないことが多いと感じる。 19ページ 4.テレフォンバンキング、ネットバンキング (1)テレフォンバンキング ・自宅にいながら振り込み等ができるテレフォンバンキングは、視覚障害者にとっては有効なものだ。ただ、ここ最近、ネットでの振り込みが一般化したり、銀行側のサービス縮小等の影響で、テレフォンバンキングを止めてしまったところもある。視覚障害者にとっては、むしろマイナスなことかもしれない。 (2)ネットバンキング ・銀行のネットバンキング用のアプリは音声確認ができるものもあり、視覚障害者にとって便利な存在になりつつある。ただ、銀行によっては音声で確認できないアプリがあり、これらは改善が必要だと思う。 ・どの銀行のネットバンキングが視覚障害者にとって使いやすいのかが分からない。この銀行の画面は見やすい、指紋や顔だけで認証できる、振込先の登録が多くできる等の色々な情報があり、よく分からない。 ・銀行によってネットバンキングのサービス、アプリの内容は異なっている。例えば、ある銀行では入出金があるとメールで教えてくれるものもある。また、ログインが視覚障害者にとって難しいとよく聞くが、顔認証が可能なものもある。私たち自身で、どの銀行のアプリが視覚障害者にとって便利なのかを整理しておく必要があるのかもしれない。 ・ネット通販大手のサイトでは、個人認証を音声で確認できるので、銀行のアプリでもこういった音声認証を増やしてほしい。 20ページ 5.投資や証券 ・自分ではいろいろな情報を上手く確認できないこと、亡き父から「危ないから投資はしないように」と言われたことから、投資には手を出していない。 ・株の売買の操作を音声で聞いていると、「売」「買」はどちらも「ばい」と読み上げるので、どっちの操作をしているのかが分からない。ただ、今はネットで投資をすることは一般的なことなので、視覚障害者が置いてきぼりにならないようにしないといけない。 21ページ W 参考資料 22ページ A オンライン会議を便利に利用するための各種情報    以下には、本資料集「U オンライン会議における困り事や活用事例」に掲載した困り事を踏まえ、視覚障害者がオンライン会議を便利に利用するため、有効な情報を掲載する。  なお、これらの情報は、オンライン会議用のアプリ等がバージョンアップされた場合、掲載された方法が利用できない可能性がある。 1.視覚障害のある学生のためのアクセシブルなオンライン講義  本部会の常任委員である中野泰志(慶応義塾大学・教授)、氏間和仁(広島大学・准教授)等が参加する「視覚障害学生のオンライン授業を支援する会」では、下記のURLにて、視覚障害のある学生がスクリーンリーダーを活用してZoomやTeamsを使用する方法等を発信している。これらの情報は、視覚障害のある学生だけではなく、全ての視覚障害者が活用できる情報となっている。 (1)ホームページ https://psylab.hc.keio.ac.jp/AOL4SVI/ (2)スクリーンリーダーでZoomを使うための詳細マニュアル https://psylab.hc.keio.ac.jp/AOL4SVI/screen_reader_zoom_manual.html (3)スクリーンリーダーでのTeamsの操作方法 https://psylab.hc.keio.ac.jp/AOL4SVI/screen_reader_Teams.html 2.Microsoft Teamsの公式サポート  Microsoft Teamsは、視覚障害者がスクリーンリーダーを使用する際の利用方法を公式サポートに掲載している。代表的な情報のURLは下記になる。 (1)Microsoft Teamsでスクリーンリーダーを使用した基本的なタスク https://support.microsoft.com/ja-jp/office/microsoft-teams-%E3%81%A7%E3%82%B9%E3%82%AF%E3%83%AA%E3%83%BC%E3%83%B3-%E3%83%AA%E3%83%BC%E3%83%80%E3%83%BC%E3%82%92%E4%BD%BF%E7%94%A8%E3%81%97%E3%81%9F%E5%9F%BA%E6%9C%AC%E7%9A%84%E3%81%AA%E3%82%BF%E3%82%B9%E3%82%AF-538a8741-f21b-4b04-b575-9df70ed4105d (2)Microsoft Teamsでスクリーンリーダーを使用して会議に参加する https://support.microsoft.com/ja-jp/topic/microsoft-teams-%E3%81%A7%E3%82%B9%E3%82%AF%E3%83%AA%E3%83%BC%E3%83%B3-%E3%83%AA%E3%83%BC%E3%83%80%E3%83%BC%E3%82%92%E4%BD%BF%E7%94%A8%E3%81%97%E3%81%A6%E4%BC%9A%E8%AD%B0%E3%81%AB%E5%8F%82%E5%8A%A0%E3%81%99%E3%82%8B-7f176bc8-68a8-4984-b9b3-ae907a8eaa69 3.Microsoft Teamsの常駐プログラムの解除方法  Microsoft Teamsは、アプリをインストールすると、ユーザーが気付かない内に常駐プログラムとなることがある。そのため、スクリーンリーダーを使っている場合、突然、Teamsの操作が優先され、ユーザーが行っていた操作ができなくなってしまうことがあり、音声で操作を確認している視覚障害者にとっては混乱の原因になっている。この困り事については、本資料集の8ページに掲載している。  そこで、本部会の常任委員である岸本将志(合同会社フロッグワークス・代表)が、スクリーンリーダーを使用している視覚障害者が、Teamsの常駐プログラムを解除する方法を整理した。詳細は下記に掲載する。 (1)動作環境  最新版のWindows 10(バージョン21H2)が稼働するパソコンで、PC-Talkerがインストールされている場合を例に説明します。  なお、Windows 11(バージョン21H2)の場合は、以下で説明する『PC設定』の構造が異なりますので、項目を分けて説明します。 (2)Windows 10にて、Microsoft Teamsがパソコン起動時に立ち上がらないよう設定する手順  @Windowsキーを1回押して「マイスタートメニュー」を開きます。  A下矢印キーを数回押して『設定』項目を探します。見つけたらEnterキーを1回押します。  B下矢印キーを押して『PC設定』項目を探します。見つけたらEnterキーを1回押します。  CTabキーを1回押します。  D下矢印キーを数回押して『アプリ』項目を探します。見つけたらEnterキーを1回押します。  ETabキーを1回押します。  F下矢印キーを数回押して『アプリ』項目を探します。見つけたらEnterキーを1回押します。  Gアプリの名前が読み上げられますので、Tabキーを数回押して『Microsoft Teams』と読み上げられるところを探します。   ※『Microsoft Teams』が出てくるまでかなりの数の項目をTabキーで飛ばす必要があります。  H見つけたらSpaceキーを1回押します。『チェック、なし』と読み上げられたら、次回からTeamsは勝手に立ち上がらなくなります。   ※パソコンによっては、『Microsoft Teams』が複数表示されることがあります。この場合は全ての項目に対し上記の操作を行って『チェックなし』の状態にしてください。  IAltキーを押しながらF4キーを1回押して、設定画面を閉じます。  以上で設定作業は完了します。  PC-TalkerではなくNVDAをお使いの場合は、Windowsキーを1回押してスタート画面を開き、『設定』画面に入ってください。 (3)Windows 11にて、Microsoft Teamsがパソコン起動時に立ち上がらないよう設定する手順  @Windowsキーを1回押して「マイスタートメニュー」を開きます。  A下矢印キーを数回押して『設定』項目を探します。見つけたらEnterキーを1回押します。  B下矢印キーを押して『PC設定』項目を探します。見つけたらEnterキーを1回押します。  C『ナビゲーションを開く』と読み上げられた場合、Enterキーを押す。  D下矢印キーを数回押して『アプリ』項目を探します。見つけたらEnterキーを1回押します。  E下矢印キーを数回押して『スタートアップ』項目を探します。見つけたらEnterキーを1回押します。   ※もし上記の操作で見つからない場合は、Tabキーを2回押してから下矢印キーを数回押し、『スタートアップ』項目を探します。見つけたらEnterキーを押すのは同じです。  Fアプリの名前が読み上げられますので、Tabキーを数回押して『Microsoft Teams』と読み上げられるところを探します。   ※『Microsoft Teams』が出てくるまでかなりの数の項目をTabキーで飛ばす必要があります。  G見つけたらSpaceキーを1回押します。『チェック、なし』と読み上げられたら、次回からTeamsは勝手に立ち上がらなくなります。   ※パソコンによっては、『Microsoft Teams』が複数表示されることがあります。この場合は全ての項目に対し上記の操作を行って『チェックなし』の状態にしてください。  HAltキーを押しながらF4キーを1回押して、設定画面を閉じます。  以上で設定作業は完了します。  PC-TalkerではなくNVDAをお使いの場合は、Windowsキーを1回押してスタート画面を開き、『設定』もしくは『setting』と入力し、Enterキーを1回押してください。その後の手順は、上記のC以降と同じです。  上記の手順を実行することで、パソコンを立ち上げてもMicrosoft Teamsは立ち上がらなくなります。ただしその場合、ミーティングの予定時刻が近づいてきてもお知らせされたり、相手がTeamsで呼び出してきても反応しない(音が鳴らない)ことがあります。  これを防ぐためには、ミーティングがある日だけ下記の手順でTeamsを起動させておく必要があります。 (4)Microsoft Teamsを手動で立ち上げる手順  以下の手順はWindows10と11で共通です。  @Windowsキーを1回押して「マイスタートメニュー」を開きます。  A上矢印キーを1回押して、『すべてのプログラム』を探します。見つけたら、Enterキーを1回押します。  B下矢印キーを用いて『Microsoft Teams』を探します。見つけたらEnterキーを1回押します。  CMicrosoft Teamsの画面が表示されるまで待機します。表示されたら、Microsoftアカウントとパスワードを入力し、『サインイン』項目を選択します。   ※自動的にサインインされた場合は、そのままトップ画面が表示されるのを待ちます。  Dトップ画面が表示されたら、Altキーを押しながらF4キーを1回押します。  EMicrosoft Teamsの画面が閉じます。しかし、バックグラウンドで常駐しています(タスクバーにTeamsのアイコンがあります)ので、通知や着信音が来たときには反応します。  以上で手順は完了です。PC-TalkerではなくNVDAをお使いの場合は、以下の手順でMicrosoft Teamsアプリの項目を探し、実行してください。 【Windows 10でNVDAをお使いの場合】  @Windowsキーを1回押してスタート画面を開きます。  A下矢印キーを数十回押して『Microsoft Teams』項目を探します。見つかったらEnterキーを1回押してください。 【Windows 11でNVDAをお使いの場合】  @Windowsキーを1回押してスタート画面を開きます。  ATabキーを数回押して、『すべてのアプリ』項目を探します。見つかったら、Enterキーを1回押します。  B下矢印キーを数十回押して『Microsoft Teams』項目を探します。見つかったらEnterキーを1回押してください。  Windows 10と11ともに、それ以降の操作は上記の手順C以降と同じです。 29ページ B 地方銀行における視覚障害者向けの取り組み実例    以下には、15ページで紹介した地方の銀行協会からの解答と、調査元の視覚障害当事者団体のコメントを掲載する。なお、該当の銀行協会及び視覚障害当事者団体の所在地は非公開とする。 1.銀行協会からの回答 ・代筆については全ての金融機関で可能となっているが、窓口担当者への周知が不十分なことが懸念されるので、再度対応の徹底を図りたい。また、具体的な対応方法は金融機関によって異なるので、事前の問い合わせが必要。 ・ATMについては、県内544台中540台が音声ガイド対応。 ・入口からATMまでの誘導ブロックは156店舗中62店舗(39.7%)で設置。 ・入口の音声案内装置は1店舗及び店舗外ATM2箇所のみ設置。 ・点字による預金取引明細表は9金融機関中4機関(44.4%)で対応。 ・テレフォンバンクサービスは9金融機関中6機関(66.6%)で対応。 ・インターネットバンキングの音声認証対応は9金融機関中2機関。 2.回答に対する視覚障害当事者団体からのコメント ・県内においては、私たちにとって最も重要な代筆が、全ての金融機関で対応できることになっている。具体的な対応の仕方は各金融機関で異なるようだが、お願いする際には、この結果を踏まえて窓口でお願いすれば良いと思う。 ・音声ガイド付きATMの設置率の高さも予想以上だった。このATMは、視覚障害者が単独でお金の出し入れができる装置であり、本会としても活用の促進を図っていく必要がある。 ・入口からATMまでの視覚障害者誘導用ブロックの設置率が低いので、設置要望を続けていきたい。 ・テレフォンバンクサービスが9機関中6機関で行われているというのも朗報だった。家にいながらにして振り込みや残高確認ができるというのは視覚障害者には大変ありがたいサービスだ。 ・点字による預金取引明細表も9機関中4機関で対応となっている。通帳の残高はもちろん、年金の振込額、電気料やガス料の支払額等、入金・出金の詳細が分かるので、大変便利なサービスだ。点字使用者にはお勧めなサービス。 ・銀行協会の立場として具体的な金融機関名は公表できないので、サービス利用に当たっては各金融機関に問い合わせてほしいとのことだった。 31ページ C 金融庁監督局「主要行等向けの総合的な監督指針」   以下には、16ページで紹介した「主要行等向けの総合的な監督指針」の該当箇所を掲載する。  全国の銀行等は、この監督指針に従って、視覚障害者向けの代筆の内規等を作成していると言われている。金融庁のホームページに掲載されているだけに、全国の銀行等で、この監督指針で示した対応が実施されることを期待したい。 1.出典URL 金融庁ホームページ https://www.fsa.go.jp/common/law/guide/city/index.html 2.該当箇所(抜粋) III 主要行等監督上の評価項目 III−6 利用者ニーズに応じた多様で良質な金融商品・サービスの提供 III−6−4 障がい者等に配慮した金融サービスの提供 III−6−4−1 意義  障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律(平成25年法律第65号)により、事業者には、障害者に対する不当な差別的取扱いの禁止及び合理的配慮の努力義務が課せられており、これを遵守する必要がある。  また、銀行は、成年後見制度等の対象でなく意思表示を行う能力がありながら、視覚・聴覚や身体機能の障がいのために銀行取引における事務手続き等を単独で行うことが困難な者(以下「障がい者等」という。)に対しても、視覚や聴覚に障がいのない者等と同等のサービスを提供するよう配慮する必要がある。  このため、各銀行においては、障がい者等に関する法令等を遵守するとともに、平成22年8月26日付で金融庁監督局長が金融機関業界団体等に対して発出した要請文「視覚障がい者に配慮した取組みの積極的な推進について」に示された「視覚障がい者対応ATMの増設」や「複数の行員の立会いによる視覚障がい者への代筆及び代読の規定化並びに円滑な実施」など、視覚障がい者からの要望等を踏まえた取組みを積極的に推進するよう努めることが重要と考えられる。 III−6−4−2 主な着眼点 (1)総論 @「金融庁所管事業分野における障害を理由とする差別の解消の推進に関する対応指針」(平成28年告示第3号。以下「障害者差別解消対応指針告示」という。)の各規定に基づき、適切に対応しているか。 A自行の店舗若しくは設備又は取引に係る手続きにおいて、障がい者等の金融取引の利便性を向上させるよう努めているか。また、銀行の店舗若しくは設備の新設又は新しい手続きの導入の場合に、必要に応じて、障がい者等に配慮した仕様を検討しているか。 B銀行が、障がい者等に配慮した取組みを推進するにあたっては、国及び地方自治体などにおける障がい者支援に係る施策を確認し、必要に応じて、銀行のサービスにおいても利用するなどしているか。 C障がい者等から銀行に対し、意見(相談、苦情を含む。)があった場合、それらを踏まえた取組みを行うよう努めているか。また、障がい者等からの意見を完全に実現できない場合であっても、代替策を検討するなどしているか。 (2)業務運営態勢等 @自筆が困難な障がい者等への代筆について  障がい者等のうち自筆が困難な者(以下、「自筆困難者」という。)から、口頭で預金口座開設等の預金取引や融資取引の申込みがあった場合、以下に示す自筆困難者の保護を図ったうえで、代筆を可能とする旨の社内規則を整備し、十分な対応をしているか。  なお、自筆困難者からの当該申込みは「口頭による意思表示」に当たると考えられるため、取引関係書類への代筆は、当該申込みに係る意思表示の範囲内に限られることに留意する必要がある。 イ.預金取引の場合 a.自筆困難者が、預金取引に関して意思表示した内容を次に掲げる者に代筆を依頼した場合、依頼を受けた者による代筆が可能であることを定めているか。 i)自筆困難者と同行した者(注1、注2、注3) ii)銀行の職員(複数の職員が確認するものとする。) (注1)自筆困難者が来行せず、当該者からの依頼を受けたとする者のみが銀行に訪れた場合、自筆困難者本人に対して、当該来行者への代理権授与の意思や取引意思を確認することとしているか。 (注2)自筆困難者が単独で銀行に訪れた場合は、上記 i )の者との再度来行を求めるのではなく、銀行の職員が代筆することとしているか。 (注3)自筆困難者が、例えばヘルパー等の同行者に、代筆を依頼する意思がない場合、当該同行者へ代筆を依頼するよう求めるのではなく、銀行の職員が代筆することとしているか。 b.上記a.の社内規則等に、少なくとも以下のことを代筆の際の手続きとして定められているか。 i)自筆困難者の意思表示の内容を記録として残すこと。 ii)親族や同行者が代筆した場合は、銀行の職員が複数で代筆内容を確認し、確認した事実を記録として残すこと。 iii)銀行の職員が代筆した場合は、複数の職員が確認したうえで、その確認をしたという事実を記録として残すこと。 ロ.融資取引の場合  自筆困難者が、融資取引に関して意思表示した内容について、推定相続人や第三者保証提供者など返済義務を承継する可能性のある者(自筆困難者と同行した者に限る。以下「同行推定相続人等」という。)に代筆を依頼した場合、当該依頼を受けた者による代筆が可能とすることを定めているか。  その際、少なくとも以下のことを社内規則に定めているか。 i)自筆困難者の意思表示の内容を記録として残すこと。 ii)同行推定相続人等が代筆した場合は、銀行の職員が複数で代筆内容を確認し、確認した事実を記録として残すこと。 iii)同行推定相続人等以外の者による代筆を認める場合、複数の職員が立ち会い確認したうえで、その確認をしたという事実を記録として残すこと(注)。 (注)同行推定相続人等がいない場合であっても、そのことのみをもって融資を謝絶すると、自筆困難者の自立した日常生活及び社会生活の確保を困難にさせるおそれがある。このため、銀行は、自筆困難者の日常生活や社会生活を確保する観点から、公証人制度の利用や弁護士の立会いを求めるなどの解決策を検討することが重要と考えられる。また、当該対応策による融資の際は、銀行の本部や地域本部等の権限のある役席者が確認する態勢を設けるなど、後において、債務の存否を争うようなトラブルが発生しないよう留意する必要があると考えられる。 A視覚に障がいがある者への代読について  視覚に障がいがある者から要請がある場合は、銀行の職員が、当該者に係る取引関係書類を代読する規定を整備しているか。その際、個人情報の漏洩を防ぐとともに、複数の職員が代読内容を確認し、その確認をしたという事実を記録として残すこととしているか。 B本人特定事項の確認について  本人確認書類として障がい者手帳が利用されている場合は、本監督指針「III−3−3−3顧客等に関する情報管理態勢」を参照する。 C情報発信について  障がい者等に配慮した取組みを行っている店舗や全盲の利用者も単独で利用できる機能を付加したATM(以下「対応ATM」という。)等の場所や内容(音声誘導システムの有無などを含む。)について、銀行が、障がい者等の視覚・聴覚等で認識されるよう、情報発信に努めているか。 また、障がい者等に配慮した取組みを行っている場合、その事例をCSR(本監督指針「III−7企業の社会的責任(CSR)についての情報開示等」を参照のこと)事例として積極的に公表することが望ましい。 D相談苦情対応について  本監督指針「III−3−5−2苦情等対処に関する内部管理態勢の確立」を参照することとする。  特に、障がい者等から、自立した日常生活及び社会生活を確保することに係る業務に関わる相談苦情等を受けた場合、その改善に向けた検討や取組みを行うよう努めているか。 E研修等について  銀行として、障がい者等に配慮した取組みのために整備した態勢の実効性を確保するため、顧客対応を行う全職員に対し、障がい者等に配慮した態勢について研修その他の方策(マニュアル等の配布を含む。)により周知しているか。 (3)店舗・設備等 @銀行の店舗や設備が、障がい者等に利用されやすい仕様となるように配慮しているか。なお、当該店舗が建物賃借や借地関係にある物件である場合も、障がい者等から要望がある場合は、当該物件の賃貸人や地権者にも協力を仰ぐよう努めているか。 A個々の営業店においても、必要に応じて、障がい者等の金融取引の利便性を向上させるよう努めているか。 B特に、視覚障がい者への対応については、例えば、以下のことに努めているか。 イ.対応ATM(振込みが可能なものや暗証番号の変更が可能なものが望ましい。)並びに画面のコントラスト及び文字が拡大できるもの(大きな画面で、タッチパネルでないものが望ましい。)の設置に配慮しているか。 ロ.店舗入口から当該対応ATMまで、視覚障がい者を誘導するブロック(以下「点字ブロック」という。)を敷くなどの配慮を行っているか(当該店舗が建物賃借や借地関係にある物件である場合は、視覚障がい者からの要望に応じ、所有者等にも配慮を求めるよう努めているか。)。なお、点字ブロックの設置が、車椅子等の移動の障害になる場合も想定して、点字ブロックの敷設方法や通路の確保、銀行の職員等による誘導などを工夫する配慮が必要である。 ハ.いわゆるコンビニエンスストアなど預金取扱金融機関でない者が設置、保有するATMを、銀行が利用する場合に、対応ATMが設置されているかを、定期的に情報入手しているか。特に、視覚障がい者からの要望がある場合は、対応ATMの設置を当該設置または保有する者に、適宜、情報提供するよう努めているか。 ニ.店舗前の道路に敷設された点字ブロックから店舗入口まで、点字ブロックを敷くなどの配慮を行っているか。敷設できない場合は、音声誘導システムの設置を推進するなど、視覚障がい者が一人で来店できるよう配慮しているか。また、道路管理者に銀行店舗へ誘導するための点字ブロック敷設を働きかけるよう努めているか。なお、点字ブロックの設置が、車椅子等の移動の障害になる場合も想定して、点字ブロックの敷設方法や通路の確保、銀行の職員等による誘導などを工夫する配慮が必要である。 ホ.インターネットバンキングやテレフォンバンキング等を行う場合、視覚障がい者が利用できるようなシステムを構築するなどの配慮を行っているか。 ヘ.キャッシュカードや預金通帳、取引記録を視覚障がい者にも認識できるように提供するよう努めているか。 III−6−4−3 監督手法・対応  障害者差別解消対応指針告示に基づく取組み及び障がい者等に配慮した取組み並びにこれらの取組みを補完する相談苦情処理機能が構築され機能しているかどうかは、顧客保護及び利用者利便の観点も含め、銀行の健全かつ適切な業務運営の基本に関わることから、関係する内部管理態勢は高い実効性が求められる。  当局としては、障がい者等から銀行に対する意見が寄せられた場合、当該銀行に伝え、内部管理態勢の整備状況を確認する。  また、銀行の内部管理態勢の整備状況に疑義が生じた場合には、必要に応じ、報告(法第24条に基づく報告を含む。)を求めて検証する。当該整備状況に問題が認められる場合には改善を促す。 裏表紙 【発行】 社会福祉法人日本視覚障害者団体連合 弱視部会 〒169−8664 東京都新宿区西早稲田2−18−2 TEL 03−3200−0011(内線:6) FAX 03−3200−7755 メール jim@jfb.jp URL http://nichimou.org/