別紙2 令和2年(行コ)第11号 非認定処分取消請求控訴事件 控訴人 学校法人福寿会 被控訴人 国(処分行政庁 厚生労働大臣) 答弁書 令和2年10月13日 仙台高等裁判所第2民事部に係 御中 目次(ページ数は省略) 第1 控訴の趣旨に対する答弁 第2 被控訴人の主張 1 はじめに 2 憲法22条1項適合性に関する違憲審査基準について (1)あはき師法附則19条1項の憲法22条1項適合性の判断枠組み(違憲審査基準)は、明白性の基準によるべきであること (2)違憲審査基準に関する控訴人の主張には理由がないこと 3 あはき師法附則19条1項の立法目的が正当であること (1)あはき師法附則19条1項の立法目的 (2)あはき師法附則19条1項の立法事実は本件処分の時点においても存在しており、同項の立法目的の正当性が失われたとする控訴人の主張には理由がないこと 4 あはき師法附則19条1項による規制には必要性も合理性も認められること (1)あはき師法附則19条1項の規制は必要かつ合理的であること (2)あはき師法附則19条1項が処分の考慮要素として掲げるものはいずれも合理性を有すること (3)現在においても、視覚障害者の就業率は低水準であり、視覚障害者の有職者があん摩マッサージ指圧師の業務に依存していること (4)無資格者に関する控訴人の主張に理由がないこと (5)小括 第3 結語 第1 控訴の趣旨に対する答弁 1 本件控訴を棄却する 2 控訴費用は控訴人の負担とするとの判決を求める。 第2 被控訴人の主張 1 はじめに 被控訴人の事実上及び法律上の主張は、原審口頭弁論において主張したとおりであり、控訴人の請求を棄却した原判決は正当である。 これに対し、控訴人は、令和2年8月7日付け控訴理由書において、原判決の判断に誤りがある旨るる主張する。 しかしながら、いずれも原審における主張の繰り返しか、独自の見解に基づき原判決を批判するものにすぎず、それらに理由がないことは、原審における被控訴人の主張及び原判決の判示から明らかであるが、念のため、控訴理由書における控訴人の主張に対し、必要と認める範囲で反論する。 なお、略称等は、原審で被控訴人が提出した準備書面を「被告第1準備書面」の例により記載するほか、原判決の例による。 2 憲法22条1項適合性に関する違憲審査基準について (1)あはき師法附則19条1項の憲法22条1項適合性の判断枠組み(違憲審査基準)は、明白性の基準によるべきであること ア 積極的な社会経済政策の実施を目的として職業を許可制により規制する法令の合憲性判断は、明白性の基準によるべきであること 被告第6準備書面(4ないし7ページ)で述べたとおり、憲法22条1項は、狭義における職業選択の自由のみならず、職業活動の自由の保障をも包含しているものと解すべきであるが、職業の自由は、それ以外の憲法の保障する自由、殊にいわゆる精神的自由に比較して、公権力による規制の要請が強く、同項も、特に公共の福祉に反しない限り、という留保を付している。 もっとも、職業の自由に対する規制措置は事情に応じて各種各様の形をとるため、その憲法22条1項適合性を一律に論ずることはできず、具体的な規制措置ごとに、規制の目的、必要性、内容、これによって制限される職業の自由の性質、内容及び制限の程度を検討し、これらを比較考量した上で合憲性の見極めがなされなければならない。 ただし、その合憲性の司法審査に当たっては、規制の目的が公共の福祉に合致するものと認められる以上、そのための規制措置の具体的内容及び必要性と合理性については、立法府の判断がその合理的裁量の範囲にとどまる限り、立法政策上の問題としてこれを尊重すべきことになることはいうまでもない。 また、憲法は、国の責務として積極的な社会経済政策の実施を予定しているものということができ、個人の経済活動の自由に関する限り、個人の精神的自由等に関する場合と異なって、上記社会経済政策の実施の一手段として、これに一定の合理的措置を講ずることは、もともと、憲法が予定し、かつ、許容するところと解するのが相当であり、国は、積極的に、国民経済の健全な発達と国民生活の安定を期し、 もって社会経済全体の均衡のとれた調和的発展を図るために、立法により、個人の経済活動に対し、一定の規制措置を講ずることも、それが上記目的達成のために必要かつ合理的な範囲にとどまる限り、許されるべきである。 ただし、社会経済の分野において、法的規制措置を講ずる必要があるかどうか、その必要があるとしても、どのような対象について、どのような手段・態様の規制措置が適切妥当であるかは、主として立法政策の問題として、立法府の裁量的判断にまつほかない(最高裁判所昭和47年11月22日大法廷判決・刑集26巻9号586ページ参照)。 以上のことからすると、積極的な社会経済政策の実施を目的として職業を許可制により規制する法令の合憲性判断に当たっては、裁判所は、立法府の上記裁量的判断を尊重するのを建前とし、ただ、立法府がその裁量権を逸脱し、当該法的規制措置が著しく不合理であることの明白である場合に限って、 これを違憲として、その効力を否定することができるものと解すべきである(前掲最高裁判所昭和47年11月22日大法廷判決、最高裁判所平成4年12月15日第三小法廷判決・民集46巻9号2829ページ参照。いわゆる明白性の基準。)。 イ あはき師法附則19条1項に係る違憲審査基準についても、明白性の基準が妥当すること (ア)この点、あはき師法附則19条1項の趣旨は、晴眼者のあん摩マッサージ指圧師に係る学校等の新設又は生徒の定員の増加の抑制について定めることにより、視覚障害者のあん摩マッサージ指圧師の職域優先を図り、視覚障害者の生計の維持が著しく困難とならないようにし、もって社会的にも経済的にも弱い立場にある視覚障害者を保護しようとする点にある。このように、同項は、積極的な社会経済政策の実施を目的とするものである。 そして、このような目的を達成するため、どのような法的規制措置を講ずるかを決定するに当たっては、我が国における視覚障害者の人数及び雇用環境、あん摩マッサージ指圧師の人数及び就業状況並びに視覚障害に関する医療の状況等、多方面にわたる複雑多様な事項に関して、現在のみならずその将来予測も踏まえた高度の専門技術的な考察とそれに基づく政策的判断を必要とするものであるから、 こうした立法措置の定立については、これらの実態についての正確な資料を基礎とする立法府の政策的、技術的な判断に委ねるほかはなく、司法審査の在り方としても、そうした裁量的判断を前提としたものとならざるを得ない。 してみると、あはき師法附則19条1項が憲法22条1項に違反するか否かの審査基準についても、前記アの基準、すなわち、立法府がその裁量権を逸脱し、当該法的規制措置が著しく不合理であることの明白である場合に限って、これを違憲として、その効力を否定することができるとする基準が妥当するというべきである。 (イ)以上の点について、原判決は、「附則19条1項は、(中略)その目的は、視覚障害者のあん摩マッサージ指圧師の職域優先を図り、視覚障害者の生計の維持が著しく困難とならないようにし、もって視覚障害者を保護しようとする点」にあるとし、「かかる目的を達成するために、どのような法的規制措置を講ずるかに当たっては、我が国における視覚障害者の人数及び雇用環境、あん摩マッサージ指圧師の人数及び就職状況その他関連する多様な事項に関して、 正確な資料を基礎として高度な専門技術的な考察及びそれらに基づく政策的判断を必要とするものといえる。 そして、同項は、視覚障害者以外の者を対象とするあん摩マッサージ指圧師の養成施設等の設置及び定員の増加について一種の許可制を採用するものである。」とした上で、「附則19条1項による、視覚障害者以外の者を対象とするあん摩マッサージ指圧師の養成施設等を設置しようとする者及びあん摩マッサージ指圧師の資格を取得しようとする視覚障害者以外の者の職業選択の自由に対する制限については、 同項の規制が重要な公共の利益のために必要かつ合理的な措置であることについての立法府の判断が、その裁量権の範囲を逸脱し、著しく不合理であることが明白である場合に限り、憲法22条1項に違反するものと解すべきである。」と説示しており、被控訴人が主張するところと同様の判断枠組み、すなわち明白性の基準によるべきことを正当に判示している(原判決・34、35ページ)。 (2)違憲審査基準に関する控訴人の主張には理由がないこと 控訴人は、控訴理由書(2、3ページ)において、あはき師法附則19条1項の憲法22条1項適合性の判断枠組み(違憲審査基準)について主張する。その内容は、要するに、原判決及び被控訴人の主張がいわゆる規制目的二分論の見解に立つという理解を前提に、規制目的二分論の考え方を論難する点、規制が「極めて厳し」い点、あはき師法附則19条1項の規定ぶりが曖昧であるとする点及びあはき師法附則19条1項の立法から55年が経過した点などを指摘するものであって、総じて原審の主張を繰り返すものにすぎない。 しかるところ、控訴人の違憲審査基準に関する上記主張に理由がないことは、被告第6準備書面(8ないし14ページ)等で詳細に述べたとおりである。 以上によれば、控訴人の上記主張は、違憲審査基準に関する原判決の前記(1)イ(イ)の判断を覆すには至らない。 3 あはき師法附則19条1項の立法目的が正当であること (1)あはき師法附則19条1項の立法目的 前記2(1)イ(ア)及び被告第6準備書面(15ページ)等で述べたとおり、あはき師法附則19条1項の立法目的は、視覚障害者のあん摩マッサージ指圧師の職域を優先し、その生計の維持が著しく困難とならないようにし、もって社会的にも経済的にも弱い立場にある視覚障害者を保護するという点にある。 このような目的に正当性があることは論をまたない(なお、控訴人も、あはき師法附則19条1項の「立法時の目的の正当性自体については、争うものではない」としており(控訴理由書・8ページ)、上記の目的自体が正当であることに関しては争いがないと解される。)。 (2)あはき師法附則19条1項の立法事実は本件処分の時点においても存在しており、同項の立法目的の正当性が失われたとする控訴人の主張には理由がないこと ア あはき師法附則19条1項の立法事実が、立法時はもとより、現在においても存在していることについては、被告第2準備書面(16ないし24ページ)、被告第4準備書面(4ないし15ページ)及び被告第6準備書面(14、15ページ)で詳述したとおりである(原判決も、立法事実の存否という形での説示はしていないものの、後述するように、あはき師法附則19条1項の立法の目的に関する判断の中で、 立法目的は、現在においても、一応の合理性を認めることができる旨を述べているから(原判決・35ないし39ページ)、立法事実が現在においても存在していることを前提としているものと解される。)。 イ これに対し、控訴人は、「本条項(引用者注:あはき師法附則19条1項。以下同じ。)は、制定から55年を経た現在、目的の正当性を失っている。」と主張し、その理由として、「本条項について、仮に立法当時の状況において正当性が認められたとしても、55年が経過した現在においても、立法事実が存在し、その必要性、合理性が認められるかについて、被告(引用者注:被控訴人)において、主張、立証することができなければ、 職業選択の自由を事実上禁止する本条項の正当性は喪失したものと考えるのが相当である」り、「控訴人側において、目的の正当性等の存在について、それが疑わしい程度までに証明することができれば、被控訴人側において、それを覆すだけの証明ができなければ、正当性の存在について立法府に裁量を委ねる根拠を欠く」などと主張する(控訴理由書・4ないし7ページ)。 しかしながら、立法目的の正当性に関する事実の主張立証責任がいずれに属するのかという点はさておき、前記アのとおり、本件処分の時点において、あはき師法附則19条1項の立法事実が存在したことは優に認められる。 したがって、控訴人の上記主張は前提を欠くものであり、控訴人が指摘する「控訴人側において、目的の正当性等の存在について、それが疑わしい程度までに証明することができ」ている場合には当たらない。よって、控訴人の上記主張には、理由がない。 ウ(ア)また、前記アに関して、控訴人は、あはき師法附則19条1項の「当分の間」の意義に関して、「国が何の対策もしない場合や、何らかの対策をとったとしてもその効果はなく、視覚障害者の生計の維持が著しく困難となることが続くような場合には、社会通念上、一定の期間が経過すれば、『当分の間』は既に経過したと見なし、本条項は憲法に適合しなくなると考えるべきである。」と主張する(控訴理由書・10ページ)。 しかしながら、あはき師法附則19条1項の「当分の間」の意義に関しては、被告第2準備書面(24、25、31、32ページ)で述べたとおり、視覚障害者に関し、あん摩マッサージ指圧師以外の適職が見出されるか、又は視覚障害者に対する所得保障等の福祉対策が十分に行われるか、いずれにしても視覚障害者がその生計の維持をあん摩関係業務に依存する必要がなくなるまでの間をいうものと解されており(乙第42号証)、原判決もその旨を正当に判示している(原判決・36、37ページ)。 こうした理解を前提とすると、「視覚障害者の生計の維持が著しく困難となることが続くような場合」である以上、「視覚障害者がその生計の維持をあん摩関係業務に依存する必要がなくなる」状態には至っていないのであるから、依然としてあはき師法附則19条1項により視覚障害者の職域を保護する必要がある状態にあるというべきである。 そうした状態でありながら、一定の条件の下において「当分の間」が経過したとみなすという取扱いを認めるというのは、あはき師法附則19条1項の立法目的に逆行するものといわざるを得ず、同項が、このような取扱いをする余地を認めているとは到底解し難い。 してみると、控訴人の上記主張は、あはき師法附則19条1項の趣旨に反する独自の見解に立脚するものにすぎない。 このことをおくとしても、被控訴人は、被告第2準備書面(14ないし16ページ)等で述べ、また、原判決(25ないし28ページ)が認定するように、障害者の福祉等に関する法令の整備や無資格者の取締り等の所要の措置を講じているのであるから、控訴人がいうような「国が何の対策もしない場合や、何らかの対策をとったとしてもその効果はな」い場合には当たらない。 したがって、控訴人の上記主張には、理由がない。 (イ)その他、控訴人があはき師法附則19条1項の「当分の間」の意義に関して種々述べるところは、実質的に原審と同旨の主張の繰り返しであって、かかる主張に理由がないことは、原審における被控訴人の主張及び原判決の判示からも明らかである。 エ さらに、控訴人は、あはき師法附則19条1項の立法目的について、平成30年度までの統計資料を引用して、「数字で見る限りでは、平成3年をピークに視覚障害者の数は減少傾向であることは明らかである」と主張するところ、これは立法目的の正当性が失われたと主張するものと解される(控訴理由書・10、11ページ)。 しかしながら、視覚障害者の総数は、昭和55年に33万6000人となってから、平成18年に至るまで30万人台を割り込むことはなかった(原判決別紙2)。 そして、その後の視覚障害者の総数は、控訴理由書(11ページ)記載の数値を前提としても、平成25年度は31万6000人、平成30年度は31万2000人であって、平成18年の数値(31万人)から増減を繰り返しつつ、30万人台で推移している。 以上によれば、視覚障害者の総数はおおむね横ばいの傾向にあると評価すべきであって、これが「減少傾向である」とする控訴人の主張は当を得ないものといわざるを得ない。 さらに、そもそも、視覚障害者の総数が仮に減少傾向であるといえるとしても、視覚障害者の総数が減少傾向にあることそれ自体が直ちにあはき師法附則19条1項の立法目的の正当性を失わせる事情とはならない。 すなわち、前記のとおり、あはき師法附則19条1項の立法目的は社会的にも経済的にも弱い立場にある視覚障害者を保護するというものであるから、視覚障害者の総数の増減の傾向が立法目的の正当性の考慮要素の一つになり得ること自体は強くは否定しないが、それのみならず、視覚障害者の総数そのものにも照らして、同項の立法目的の正当性の存否を検討しなければならないというべきである。 しかるところ、上記のとおり、視覚障害者の総数は、昭和55年以来、約40年にわたって、30万人台という水準で推移しており、本件処分の当時においても、昭和39年頃の視覚障害者の総数と比較して約8万人多い視覚障害者がいるのであって、このことは、あはき師法附則19条1項によって保護されるべき対象となる視覚障害者の総数に著変がないことを端的に示している。 いずれにせよ、視覚障害者の数の推移をもってあはき師法附則19条1項の立法目的の正当性が失われた旨の控訴人の主張には理由がない。 オ 以上の次第で、あはき師法附則19条1項の立法事実は本件処分の時点においても存在しており、同項の立法目的の正当性が失われたとする控訴人の主張には、理由がない。 4 あはき師法附則19条1項による規制には必要性も合理性も認められること  (1)あはき師法附則19条1項の規制は必要かつ合理的であること 被告第6準備書面(17ないし20ページ)等で述べたとおり、前記の立法目的を達成する手段として、視覚障害者であるあん摩マッサージ指圧師の生計の維持が著しく困難とならないようにするため必要があると認めるときに、あん摩マッサージ指圧師に係る学校又は養成施設で視覚障害者以外の者を教育又は養成するものについての認定又は定員増加の承認をしないことができることとすることは、上記立法目的を達成する上で必要性が認められるのみならず、合理的な範囲にとどまっているといえる。 原判決も、「現在においても、あん摩マッサージ指圧師の職域優先を図り、視覚障害者を保護するとの目的を達成するために、視覚障害者以外の者であるあん摩マッサージ指圧師に係る養成施設等の設置又は定員の増加を抑制する必要性があるとする立法府の判断が、その裁量権の範囲を逸脱し、著しく不合理であるということはできない。」とし、かつ、あはき師法附則19条1項が採用している規制手段、処分に当たっての考慮要素の合理的関連性及び処分の適正さを担保する方策の合理性等を踏まえ、 「目的を達成する手段として、附則19条1項の規制を設けることが合理的であるとの立法府の判断が、その裁量権の範囲を逸脱し、著しく不合理であるということはできない。」と正当に結論づけているところである(原判決39ないし43ページ)。 (2)あはき師法附則19条1項が処分の考慮要素として掲げるものはいずれも合理性を有すること これに対し、控訴人は、あはき師法附則19条1項が「あん摩マツサージ指圧師の総数のうちに視覚障害者以外の者が占める割合、あん摩マツサージ指圧師に係る学校又は養成施設において教育し、又は養成している生徒の総数のうちに視覚障害者以外の者が占める割合その他の事情を勘案して」と規定している点について、これらを規制の「要件」と解した上で、視覚障害者のあはき関係業務就職者数が減少していることや、あん摩マッサージ指圧師の資格を取得するために進学する視覚障害者が減少していることによれば、あはき師法附則19条1項の規制は「異常な制度設計である」などと主張している(控訴理由書・11ないし13ページ)。 上記の主張の趣旨は判然としないが、要するに、あはき師法附則19条1項は規制手段として合理性を欠くと主張するものと解されるところ、これは実質において原審の主張の繰り返しにすぎないものといえるが、以下、必要な範囲で反論を加える。 すなわち、あはき師法附則19条1項は、社会的にも経済的にも弱い立場にある視覚障害者を保護するため、視覚障害者のあん摩マッサージ指圧師の職域を優先し、その生計の維持が著しく困難とならないようにするために規定されたものであるところ、「あん摩マツサージ指圧師の総数がうちに視覚障害者以外の者が占める割合」や「あん摩マツサージ指圧師に係る学校又は養成施設において教育し、又は養成している生徒の総数のうちに視覚障害者以外の者が占める割合」は、視覚障害者のあん摩マッサージ指圧師の職域の実態を把握する上で有意なものであるから、 「視覚障害者であるあん摩マツサージ指圧師の生計の維持が著しく困難とならないようにするため必要がある」かどうかを判断する上での考慮要素として、「あん摩マツサージ指圧師の総数のうちに視覚障害者以外の者が占める割合」や「あん摩マツサージ指圧師に係る学校又は養成施設において教育し、又は養成している生徒の総数のうちに視覚障害者以外の者が占める割合」を挙げることには合理的関連性があるといえる(被告第6準備書面18ページ等参照)。 原判決も、「あん摩マッサージ指圧師の総数のうちに視覚障害者以外の者が占める割合、あん摩マッサージ指圧師に係る養成施設等の生徒の総数のうちに視覚障害者以外の者が占める割合が、視覚障害者であるあん摩マッサージ指圧師の生計の維持と関連性を有することは明らかであるから、これらを勘案すべき事情として例示することは合理性を有する」として、同旨を正当に判示している(原判決・41、42ページ)。 なお、控訴人は、上記の考慮要素を「要件」と表現するが、原判決も的確に説示するとおり、あくまで「勘案すべき事情」であって、「要件」ではないから、控訴人の主張は、あはき師法附則19条1項の仕組みを正解しないものであるといえる。 以上のとおり、あはき師法附則19条1項が掲げる考慮要素について論難する点はいずれも理由がない。 (3)現在においても、視覚障害者の就業率は低水準であり、視覚障害者の有職者があん摩マッサージ指圧師の業務に依存していること 控訴人は、「視覚障害者であるあん摩マッサージ指圧師の生計の維持が著しく困難とならないようにするために必要がある」かどうかを判断するためには、視覚障害者のあん摩マッサージ指圧師業務に対する依存状況を検討する必要があるとした上で、視覚障害者の就業状況や年齢状況、収入状況等についてるる述べ、「以上のような状況から、本条項は、主として重度視覚障害者の高齢者の職としての依存度を満たすためだけに機能しているものであると思われる」と結論づける(控訴理由書・13ないし23ページ)。 以上の主張は、結局のところ、総じて原審における主張を繰り返すものか、単なる憶測又は意見を述べるものにすぎない。 そして、現在においても、視覚障害者の就業率は低水準であり、視覚障害者の有職者があん摩マッサージ指圧師の業務に依存していると認められることについては、被告第2準備書面(17ないし24ページ)、被告第4準備書面(4ないし8ページ)及び被告第6準備書面(14、15ページ)で述べたとおりである。 このことは、原判決も同旨を判示するところである(35ないし39ページ)。 したがって、控訴人の主張は前提を欠くものであって、理由がない。 (4)無資格者に関する控訴人の主張に理由がないこと 控訴人は、統計を引用して「増加した需要や売上高は無資格者へ流れており、有資格者の職域が浸食されている」とした上で、「これまで、無資格者の取り締まりはほとんどなされていないのであって、原判決の認定は間違っている。」と主張する(控訴理由書・24、25ページ)。 しかしながら、原判決(25ページ)が認定するとおり、厚生省又は厚生労働省は、通知を発して、都道府県や警察当局と連携して無免許のあん摩師等に対する指導の強化及び取締りを行ったほか、無免許で業としてあん摩マッサージ指圧等を行えば処罰の対象となる旨等を周知するなどしているのであって、無資格者の取締りをほとんど行っていないなどとする控訴人の主張は、事実誤認であって、理由がない。 なお、控訴人は、経済センサスにおいて「細分類7893 リラクゼーション業(手技を用いるもの)」が新設されたことは、「国にとっても無視できないほど、無資格者による事業が拡大したことを如実に示している」と主張する(控訴理由書・23、24ページ)。 しかしながら、上記細分類にいう「リラクゼーション業(手技を用いるもの)」とは、手技を用いて心身の緊張を弛緩させるための施術を行う事業所をいうものであり、例えば、心身の緊張を弛緩させるのみを目的としたボディケア、ハンドケア及びフットケア等がこれに該当するとされている(乙第80号証の1・498、499ページ)。 他方、あん摩マッサージ指圧師等の施術所については、「細分類 8351」に分類されるのである(乙第80号証の2・537ページ)。 以上からも明らかなように、細分類の「リラクゼーション」には、あん摩マッサージ指圧師の業務は含まれないのであるから、「リラクゼーション」の細分類が設けられたことが、「国にとっても無視できないほど、無資格者による事業が拡大したことを如実に示」すものとはいえない。 また、控訴人は、「むしろ、経済産業省は無資格業者が行うリラクゼーション業を推し進めており、(中略)無資格者が行うリラクゼーション業を擁護する回答を行っている」とする(控訴理由書・28ページ。なお、前後の文意からして、控訴人がいう「リラクゼーション業」とは、あん摩マッサージ指圧師の業務を指すものと解される。)。 しかしながら、控訴人も引用する答弁書(甲第87号証)には、「経済産業省は、あはき法を含む関係法令の遵守を前提として、リラクゼーション業を含む(中略)業務をつかさどっている」などと記載されているのであって(傍点引用者)、違法行為である無資格者によるあん摩マッサージ指圧師の業務を是認しているものではないから、控訴人の主張は明らかに誤りである。 このように、無資格者に関する控訴人の主張に理由がないことは明らかである。 (5)小括 以上の次第で、あはき師法附則19条1項による規制には必要性も合理性も認められる。 これに反する控訴人の主張は、いずれも理由がない。 第3 結語 以上見てきたとおり、あはき師法附則19条1項の憲法22条1項適合性については、明白性の基準により判断されるべきであるところ、立法目的は正当であって、現在においてもなおその正当性は失われていない。 そして、あはき師法附則19条1項による規制には、必要性も合理性も認められる。 そうすると、あはき師法附則19条1項を定め、これを維持するという立法府の判断がその裁量権を逸脱し、当該法的規制措置が著しく不合理であることが明白であるとはいえないことは明らかである。 したがって、あはき師法附則19条1項は、憲法22条1項に違反せず、合憲であって、本件処分は適法である。 原判決は、全体として被控訴人の原審における主張におおむね沿う認定判断をしており、本控訴答弁書で指摘したとおり、総じて正当な判断といえる。 よって、あはき師法附則19条1項が違憲であることを前提とする控訴人の主張には理由がないから、本件控訴は、速やかに棄却されるべきである。 以上