令和2年(行コ)第30号 非認定処分取消請求控訴事件 控訴人 学校法人平成医療学園 被控訴人 国 判決要旨 1 事案の概要  本件は、学校法人である控訴人が、控訴人の運営する医療専門学校について、あん摩マツサージ指圧師、はり師、きゆう師等に関する法律(あはき師法)2条2項に基づき、視覚障害者以外の者を対象とするあん摩マッサージ指圧師養成施設の認定の申請をしたところ、厚生労働大臣が、視覚障害者であるあん摩マッサージ指圧師の生計の維持が著しく困難とならないようにするため必要があるとして、同法附則19条1項に基づき、上記認定をしない旨の処分をしたため、控訴人において、同項が憲法22条1項(職業選択の自由)、31条(適正手続の保障)等に違反して無効であるなどとして、同処分の取消しを求めた事案である。  原審は、控訴人の請求を棄却したため、控訴人が控訴した。 2 判決要旨 (1)主要な争点及びこれに対する当審における控訴人の主張の要旨  本件の主要な争点は、昭和39年の法改正によって制定されたあはき師法附則19条1項が、平成28年2月にされた本件処分時において、憲法22条1項に違反するか否かである。  控訴人は、当審において、前提となる違憲審査の基準に係る、あはき師法附則19条1項の目的の正当性、必要性、手段の相当性に係る原審の判断が、いずれも不当である旨主張した。 (2)当審の判断の要旨 ア 違憲審査基準について  当審は、原審が採用した違憲審査基準が本件の判断に適切であると判断し、原判決を引用した。  この基準は、憲法22条1項は、狭義における職業選択の自由のみならず、職業活動の自由の保障をも包含しているものと解すべきであり、これを規制する措置が憲法22条1項にいう公共の福祉のために要求されるものとして是認されるかどうかは、具体的な規制措置について、規制の目的、必要性、内容、これによって制限される職業の自由の性質、内容及び制限の程度を検討し、これらを比較考量した上で慎重に決定されなければならず、 一般に許可制は、単なる職業活動の内容及び態様に対する規制を超えて、狭義における職業選択の自由そのものに制約を課するもので、職業の自由に対する強力な制限であるから、その合憲性を肯定し得るためには、原則として、重要な公共の利益のために必要かつ合理的な措置であることを要するものというべきである (最高裁昭和43年(行ツ)第120号同50年4月30日大法廷判決・民集29巻4号572頁参照)が、憲法は、全体として、福祉国家的理想の下に、社会経済の均衡のとれた調和的発展を企図しており、その見地から、全ての国民にいわゆる生存権を保障する等、経済的劣位に立つ者に対する適切な保護政策を要請しており、職業選択の自由を含む個人の経済活動の自由に関する限り、社会経済政策の実施の一手段として、これに一定の合理的規制措置を講ずることは、もともと、憲法が予定しかつ、許容していることからすれば、社会経済政策上の積極的な目的のためにする個人の経済活動に対する法的規制措置については、その必要性に関する評価と判断の機能を備えた立法府の政策的技術的な裁量に委ねるほかはなく、裁判所は、基本的にはその裁量的判断を尊重せざるを得ない(最高裁昭和45年(あ)第23号同47年11月22日大法廷判決・刑集26巻9号586頁参照)というものである。 イ 立法目的の正当性、規制の必要性及び規制手段の合理性について  当審は、上記違憲審査基準に照らして、あはき師法附則19条1項の立法目的の正当性並びに同条項による規制の必要性及び規制手段の合理性について、要旨以下のとおり判断した。 (ア)立法目的の正当性について  控訴人は、あはき師法附則19条1項が、もはや目的の正当性を失っており、同条項にいう「当分の間」が経過している旨主張するが、 当審は、関係証拠等に基づく事実認定結果を踏まえ、同条項が制定されてから約50年が経過しているとしても、特に重度の視覚障害者を中心に、視覚障害者のあはき業に対する依存度は依然として高いというべきであるし、視覚障害者であるあん摩マッサージ指圧師の生計の維持が著しく困難な状況は、本件処分時においても継続していることから、 同条項の、視覚障害者であるあん摩マッサージ指圧師の職域を優先し、その生計の維持が著しく困難とならないようにすることで、視覚障害者を社会政策上保護するという立法の目的は、現在においても、依然として正当性を有しているというべきであり、同条項にいう「当分の間」が経過しているとはいえないので、控訴人の上記主張は採用できないと判断し、その余の説示については原判決を引用した。 (イ)規制の必要性について  当審は、規制の必要性があると判断し、説示については原判決を引用した。 (ウ)規制手段の合理性について  控訴人は、原審におけると同様、あはき師法附則19条1項による規制が不合理であると主張するが、当審は、関係証拠等に基づく事実認定結果を踏まえ、視覚障害者以外のあん摩マッサージ指圧師の数が増加して、その年収も増え、養成施設等の受験者数も大きく増加している背景事情の下では、 視覚障害者であるあん摩マッサージ指圧師の生計の維持が著しく困難とならないようにするための規制の必要性を判断するために勘案すべき事情として、あん摩マッサージ指圧師の総数のうち視覚障害者以外の者が占める割合やあん摩マッサージ指圧師にかかる養成施設等において教育し、又は養成している生徒の総数のうちに視覚障害者以外の者が占める割合を考慮しつつ、適切な抑制を図る必要があり、その判断のために、その時々の状況を反映させるという合理性があるので、控訴人の上記主張は採用できないと判断し、その余の説示については原判決を引用した。 (エ)結論  以上から、当審は、本件処分時においても、特に重度の視覚障害者を中心に、あはき業に対する依存度は依然として高く、かつ、生計の維持が著しく困難な状況が継続していたというべきであることから、 あはき師法附則19条1項は、その目的の正当性、必要性及び合理性を失っているとの控訴人の主張は採用できないと判断し、説示については、あはき師法附則19条1項が憲法22条1項に違反するということはできないとした原判決を引用した。 (3)その余の争点についての判断  その余の各憲法違反についての判断については、原判決のとおりであると判断して原判決を引用した。 (4)以上によれば、控訴人の請求は理由がなく、これを棄却した原判決は相当であって、本件控訴は理由がないから棄却すべきである。 (裁判長裁判官 北澤純一)