表紙 厚生労働省令和2年度障害者総合福祉推進事業 視覚障害者の就労のために効果的なICT訓練の実施に向けた調査研究事業 報告書(テキスト版) 令和3年(2021年)3月 社会福祉法人 日本視覚障害者団体連合 ※テキスト版について 1.目次 目次ページには、各章内の節のページ番号を追加で掲載する 2.第3章〜第5章の調査結果 クロス集計の結果は割愛する 3.資料A 調査票 テキスト版では割愛する 目次 ※テキスト版のみ、各章内の節のページ番号を掲載する はじめに 1ページ 第1章 事業概要 3ページ 1 事業の概要 4ページ 2 本報告書で使用する用語について 6ページ 第2章 調査に向けた論点整理 7ページ 1 視覚障害者とICTの現状 8ページ 2 視覚障害者の就労とICTの課題 14ページ 3 調査の方向性 20ページ 第3章 調査@ 視覚障害あはき師に対する調査 23ページ 1−1 書面調査 調査概要 24ページ 1−2 書面調査 結果 25ページ 2−1 ヒアリング調査 調査概要 50ページ 2−2 ヒアリング調査(個人開業) 結果 51ページ 2−3 ヒアリング調査(ヘルスキーパー) 結果 56ページ 第4章 調査A 訓練機関等に対する調査 61ページ 1−1 書面調査 調査概要 62ページ 1−2 書面調査 調査結果 63ページ 2−1 ヒアリング調査 調査概要 82ページ 2−2 ヒアリング調査(障害福祉サービス) 結果 83ページ 2−3 ヒアリング調査(パソコンサポート団体) 結果 88ページ 第5章 調査B あはき師養成機関に対する調査 95ページ 1 書面調査 調査概要 96ページ 2 書面調査 結果 97ページ 第6章 考察・分析 101ページ 1 視覚障害あはき師に対する調査 102ページ 2 訓練機関等に対する調査 122ページ 3 あはき師養成機関に対する調査 133ページ 第7章 まとめ 137ページ 1 調査結果の整理 138ページ 2 提言 142ページ 3 今後の課題 145ページ 資料@ ICT訓練等の実施機関の紹介 149ページ 1 自立訓練(機能訓練/視覚)の施設 150ページ 2 就労支援の施設 152ページ 3 パソコンサポート団体 154ページ 資料A 調査票、関連資料 157ページ 1 視覚障害あはき師向け書面調査 調査票 158ページ 2 訓練機関等向け書面調査 調査票 160ページ 3 あはき師養成機関向け書面調査 調査票 161ページ 4 療養費支給申請書(入力補助シート付) 162ページ おわりに 164ページ 【報告書について】 1.本報告書の書体、文字サイズ  弱視者の見やすさに配慮して、次の掲載ルールを基本に編集を行った。なお、この書体等が全ての弱視者にとって必ずしも読みやすいものとは断定できない。  ・タイトル        ゴシック体、20ポイント、太字  ・本文          ゴシック体、14ポイント、太字  ・その他(注釈、引用等) ゴシック体、10ポイント、太字  ・特定文字        数字:全角(ページ番号、表とグラフは半角)               アルファベット:全角(URL等は半角) 2.データ版の公開  本報告書のデータ版は、本連合のホームページに掲載を行う。墨字版(PDF版)の他に、テキスト版、点字版、デイジー版を掲載する予定となっている。   日本視覚障害者団体連合 ホームページURL http://nichimou.org/ 3.視覚障害者に関する名称の統一  視覚障害の状態を表現するための用語には様々な種類があるが、本報告書では全盲、弱視、盲ろうという用語を用いる。 1ページ はじめに  ICTをはじめとするデジタル機器は、社会の基礎的なツールとして普及しています。そして、国もさらなるデジタル化を推進するため、「デジタル庁」を創設しようとしています。そうした中にあって、視覚障害者のICTをはじめとするデジタル機器の活用状況は十分に向上しているとは言い難い状況があります。とりわけ、視覚障害を有するあん摩マッサージ指圧師、はり師、きゅう師、つまり「あはき師」の中で、ICTを使いこなしている者はごく僅かでしかありません。  視覚障害者の職域は、一方ではICTの進歩によって広がっているものの、他方ではあはき業のように、ICTの普及が職域を狭めかねない状況になっているといった懸念があります。ICTは、あはき業を取り巻く環境の変化を的確に把握したり、資質向上に必要な学習教材等の資料を獲得する上で必要不可欠となっています。さらに健康保険を適用してあはき業を営むためにも、極めて有用です。あはき業は、これまでも視覚障害者の職業的自立の中心でしたが、そのことはこれからも変わることはありません。それどころか、ICTを十分に活用し健康保険を取扱うことによって、あはき業を魅力的な職域として発展させることが必要です。  そうした強い思いから、令和2年度障害者総合福祉推進事業として、視覚障害者のICT利用に関する現状、とりわけ視覚障害を有するあはき業者にとってのICTの活用に関する現状や課題を調査することにしました。この調査を通じて見えてきた問題点、あるいは解決すべき課題を今後どのように克服するかについても考えていくことが、本調査の目的であり、本連合としての願いであります。  新型コロナウイルスの感染拡大という困難な中にあって、本調査にご協力いただいた全ての皆様、氏間和仁委員長をはじめとする各委員のご尽力により、当初の目標を達成できたことに心から感謝申し上げます。本連合としては、本調査で明らかとなった課題を解決するために必要な施策を関係方面に提言するとともに、引き続き本調査の結果を踏まえたさらなる調査研究を継続する所存です。 3ページ 第1章 事業概要 4ページ 1 事業の概要 1.事業名  厚生労働省令和2年度障害者総合福祉推進事業  「視覚障害者の就労のために効果的なICT訓練の実施に向けた調査研究」 2.事業の目的  視覚障害者が就労する上で、情報処理や通信技術(ICT)を習得・活用することが今や必須とされている。一般事務職、公務員等と同様に、多くの視覚障害者が就いているあん摩マッサージ指圧、はり、きゅうの職種においても、ICTを使用した事務処理スキルが必要とされている。ただし、これらのスキルの習得には様々な課題があり、多くの視覚障害者は満足に訓練や支援を受けられていない現状がある。そこで、視覚障害者にとって効果的なICT訓練等が受講できる体制の充実を図ることを最終的な目的とし、本事業を実施する。特に、次の論点を整理するため調査等を実施し、効果的なICT訓練等の在り方を検討する。   論点@ 視覚障害者にとって効果的なICT訓練等の実施方法の在り方   論点A 地域でICT訓練等を受けるための効果的な支援方法の在り方 3.事業内容 (1)検討委員会の設置  上記論点の課題整理を行うために検討委員会を設置し、次の事項について検討を行う。  @ICT訓練等に関わる現状整理  A調査の実施内容  B調査結果のまとめ (2)調査の実施  検討委員会の検討内容に基づき、次の方法で調査を実施する。  @書面調査  Aヒアリング調査 (3)報告書の作成  調査の結果と検討委員会での意見を踏まえ、本調査のとりまとめとして報告書を作成する。なお、報告書の作成後は、全国の視覚障害関係団体や関係機関等に報告書を配布し、調査結果の周知を行う。 4.検討委員会の概要 (1)委員名簿(順不同・敬称略)  氏間 和仁  広島大学大学院人間社会科学研究科 准教授【委員長】  竹下 義樹  社会福祉法人日本視覚障害者団体連合 会長【副委員長】  下山 敬寛  国立障害者リハビリテーションセンター 自立支援局第1自立訓練部 視覚機能訓練課長  田中 秀樹  東京都立文京盲学校専攻科 主幹教諭  平瀬 芳美  国立障害者リハビリテーションセンター 自立支援局函館視力障害センター 教官  古村 法尾  公益社団法人東京都盲人福祉協会三療部 部長  柳田 友和  社会福祉法人日本視覚障害者職能開発センター 主任職業指導員  山賀 信行  特定非営利活動法人スラッシュ 副理事長 (2)開催日程 第1回 期日:令和2年8月7日 場所:日本視覚障害者センター、オンライン 議事:ICT訓練等と就労に関する課題整理、調査に向けた検討 第2回 期日:令和2年9月18日 場所:日本視覚障害者センター、オンライン 議事:書面調査の検討 第3回 期日:令和3年1月15日 場所:日本視覚障害者センター、オンライン 議事:書面調査の結果の検討、追加調査の検討 第4回 期日:令和3年3月5日 場所:日本視覚障害者センター、オンライン 議事:調査結果のとりまとめの検討、報告書の検討 6ページ 2 本報告書で使用する用語について 1.ICT訓練  本報告書では、視覚障害者がパソコン等のICTを利用して、文書作成や情報収集のための操作方法を指導することを「ICT訓練」とした。主に、画面読み上げソフト(スクリーンリーダー)を使用した操作方法、文字を拡大して見やすい画面環境での操作方法、各種ソフト等の使用方法の指導が中心となり、視覚障害者のニーズに合わせた幅広い指導が実施されている。  なお、本報告書では、訓練機関とは別に視覚特別支援学校等の教育機関及び視覚障害者のパソコン利用を総合的に支援する機関等も多いことから、これらの機関を総称して「ICT訓練機関等」と記載した。また、ICTに関する訓練や指導は「ICT訓練等」とまとめる形で記載した。 2.あはき  国家資格である「あん摩マッサージ指圧」「はり」「きゅう」の3つを総称する呼び名が「あはき」になる。本報告書では、この総称に統一して記載した。なお、これらは「三療」や「理療」と総称することもある。  あはきは視覚障害者にとって日本古来の重要な職種であり、現在も視覚障害者の多くが従事する職種である。多くの視覚障害者は、あはきの知識及び技術を専門機関(あはき師養成機関)で習得し、国家資格を取得後、様々な形であはき業に従事している。例えば、自宅等に施術所を開業する、施術所に勤務するといった方法に加え、近年では老人介護施設に機能訓練指導員として勤務する、企業等の職員向け施術所にヘルスキーパーとして勤務する等の形態がある。 3.療養費  あはきの施術に対する料金の支払いには、全身マッサージ1時間で5000円のような実費によるものと、健康保険によるものがある。この健康保険による支払いは、医療費同様、1割から3割の自己負担分と自己負担分以外の療養費に分かれている。療養費は、国民が納めている健康保険料等から支払われている。また、療養費の請求には、患者ごとに「療養費支給申請書」や「一部負担金明細書」等の書類作成が必要となる。なお、「療養費支給申請書」の見本は162ページに掲載する。 7ページ 第2章 調査に向けた論点整理 8ページ 1 視覚障害者とICTの現状 1.視覚障害者のニーズの変化  視覚による情報入手が困難または不可能である視覚障害のある人々(以下、「視覚障害者」とする。)にとって、文書等の書類を「読むこと」や「書くこと」は困難を伴う行為である。この困難さは、視覚障害者が日常生活または社会生活を送る上での障壁となっており、特に就労の場面においては、顕著に表れる。  例えば、多くの視覚障害者が就労するあはき業でも、施術に関するカルテの作成が、その困難さ故に大きな壁となることがあり、その改善や支援を求める声が大きい。特に、平成31年1月より、あはき療養費の受領委任制度が開始されたことに伴い、書類作成に対する支援を求める声が一段と高まってきている。この声の高まりは、全国の視覚障害当事者が会員となる日本視覚障害者団体連合(以下、「日視連」とする。)にも寄せられ、これらの支援に関する陳情を国へ提出してきている。その多くは人的な支援を求める内容であり、代筆・代読支援の利用、職場介助者の利用を求めている。この就労に関する支援は、あはき業だけではなく、全ての職種に該当し、ICTを活用したコミュニケーションの支援を通して視覚障害者の就労促進、雇用の安定を求める内容である。  一方で、視覚障害者自らの力で「読むこと」や「書くこと」の解決を求める声も大きい。例えば、就労のために必要なスキルを獲得するために、様々な職業訓練の充実を求める声があり、日視連からは、これらの声を反映した陳情を国へ提出してきている。この背景には、就労する上でパソコン等を利用した情報処理技術が必須となることから、パソコンの操作方法等のスキル習得が、職業自立の手段となっていることを認識しているからである。  さらに、近年は社会全体でデジタル化が加速し、社会生活を送る上でICTスキルの獲得が必須となり、視覚障害者自身にもそのスキルの獲得が求められている。しかしながら、この流れにおいて興味深いのは、従来は視覚障害者の環境改善を求めていたのに対し、近年は視覚障害者自身が自己啓発により変わることを求める内容に変化しつつあることだ。例えば、スマートフォンの利用について、日視連の陳情内容を見みると、近年は機器やシステムの改善を求める声が中心だったのに対し、令和2年度の陳情では機器利用技術の習得を求め訓練等の拡充を求める内容も要望している。障害者自身が自己啓発により自己実現する当事者の意識の変化は、国が目指す障害者自立が目指す本質的なエネルギーであり、このことが具現化されることが「障害のある人も普通に暮らし、地域の一員として共に生きる社会」の一つのあるべき姿であると考えられる。 【図2−01 日本視覚障害者団体連合 国への陳情内容(平成29年度〜令和2年度)】 1.就労関連 (1)視覚障害あはき師への支援 @令和2年 視覚障害を有する三療(あはき)自営業者に対しては、本年10月から開始される「雇用施策との連携による重度障害者等就労支援特別事業」に意思疎通支援事業の代筆・代読支援を含めた支援とすること。 A令和元年 三療(あはき)の療養費(受領委任)の手続きや事務作業を援助することを含め、視覚障害を有する三療(あはき)自営業者が、職場介助者に準じた援助が早急に受けられるよう制度化すること。 B平成30年 なし C平成29年 あはき療養費受領委任払いができるようにするとともに、視覚障害自営業者に職場介助者が配置されるよう要望する。 (2)就労支援 @令和2年 視覚障害者が希望した職業で安定して働き続けられるよう、人的支援、支援機器の導入、歩きやすい環境の整備等、更なる雇用環境の改善をすること。特に、昨今のテレワークの推進に伴い、本人認証、セキュリティ対策において、視覚障害者が取り残されないようにすること。 A令和元年 視覚障害のある個人事業主が、職場介助者を利用できるような制度を新設すること。 B平成30年 就労形態にかかわらず、全ての視覚障害者が職場介助者制度を利用できるよう要望する。 C平成29年 視覚障害を有する自営業者に対して、仕事上あるいは職務上の事務作業などを援助する支援員の派遣を、国または県で制度化されるよう要望する。 (3)職業訓練 @令和2年 一般雇用の推進のため、支援の基盤となる自立訓練事業所の充実を図るとともに、同訓練所の新規開設を推進すること。就労後のICT(情報通信技術)のスキルアップのための新たな研修制度を創設するとともに指導員を育成すること。 A令和元年 なし B平成30年 視覚障害者が居住する都道府県において、視覚障害者の希望に沿った職業訓練が受けられるよう要望する。 C平成29年 どこでもロービジョンケアが受けられる体制を整備するとともに、中途視覚障害者の自立のため、早期の相談、生活訓練、職業訓練が受けられる総合的な施策の確立を要望する。 2.ICT関連 (1)スマートフォン @令和2年 多くの視覚障害者が現在使用している3G携帯のサービスが終了することにあわせ、携帯電話会社が、視覚障害者に対して選び方とその使い方等を説明できるようにするため、職員の研修を実施するよう各社に働きかけること。 A令和元年 スマートフォンなどの情報端末を、視覚障害者も容易に活用できる仕様となるよう、国から各メーカーに指導すること。 B平成30年 スマートフォンなどの新たな情報端末を視覚障害者も容易に活用できるよう要望する。 C平成29年 スマートフォン等の新たな情報端末を、視覚障害者も容易に活用できるように開発することを要望する。 2.ICTスキル獲得の必要性  視覚障害者がICTスキルの獲得を求める背景を整理すると、大きく二つに分かれている。 (1)視覚障害の特性をカバーできること  まず、視覚障害を説明する際に「情報障害」と説明する専門家がいる。人間が様々な行動をするために必要とする情報は、視覚からの獲得が8〜9割と言われている。つまり、多くの視覚障害者は情報収集が困難で、そのため行動が制限されていることが情報障害と言われる所以である。  例えば、人が道を歩くことを考えると、足を機動的に動かすことに加え、目で周囲の状況を確認しながら歩いている。一方で、視覚障害者は、後者の安全確認が目で行えないため、健常者のような歩き方はできない。この場合、頭の中で地図を描いたり、白杖等を用いて歩くことで、道路の段差等の位置関係を「情報」として得ることができる。また、歩きながら周囲の音を聞くことで、付近の状況や位置関係を把握することもできる。つまり、視覚障害者は、目で見ること以外の方法で「情報」を入手しているのである。  そして、ICTスキルの獲得を求めている背景には、ICTスキルを活用すれば、本来は目で見ないと得られない情報を、その視覚障害者に合った方法で得られることが強く影響している。  例えば、パソコンの画面に表示された内容を、そのままでは読めない視覚障害者は多い。しかし、画面読み上げソフト(スクリーンリーダー)を使えば音声で読み上げてくれ、その内容を確認することができる。また、弱視の者だと、文字の大きさや色合いを変えれば画面が見えるだろう。  つまり、視覚障害者がICTスキルの獲得を求めている背景は、情報の獲得を通して視覚障害者の特性をカバーできることに他ならないのである。 【写真:パソコン画面の表示内容を音声で確認する視覚障害者】 (2)ICTの進歩に対する期待  令和2年度は、新型コロナウイルス感染症の流行により、人々の生活様式は一変し、その変化に最適化すべく様々な仕組みが変化した。特に、人と人との接触を避ける等の理由によって、様々なもののデジタル化が進み、社会のICT環境は大きく変化した。例えば、これまで対面で行われていた会議は、オンライン会議システムの利用が進み、もはや主流となっている。この限りでは、ICT全般が苦手とされる視覚障害者は、不利な状況に置かれつつある。  しかし、視覚障害者がICTスキルを身に付け、このオンライン会議システムが利用できるようになると、様々な面で有効であることが分かった。それこそ、前述したオンライン会議システムを利用すれば、単独での移動が難しい視覚障害者が、移動をせず容易に会議へ参加できる。これは地方に住む視覚障害者にとってはメリットがあり、徐々に利用する機会が増えている。このオンライン会議以外にも、昨今のICTの進歩により、視覚障害者にとって有益になった事例は少なくはない。教育の現場であれば、これまで授業の中で紙資料として配布されていたものが、オンラインでの授業を行うため、データでの資料提供が行われるようになり、そのデータを音声で確認できるようになったとの事例も報告されている。  つまり、一見すると視覚障害者にとって不利なICTの進歩は、ICTスキルを獲得できれば、視覚障害者の困難さを大きく改善できる存在であることが分かった。このような背景があることから、多くの視覚障害者はICTに関するアクセシビリティの向上、そしてICTスキルを学ぶための環境整備を求めているのである。 【写真:オンライン会議システムを活用した視覚障害者の会議の様子】 3.視覚障害者とパソコン利用  視覚による情報入手が困難な視覚障害者は、パソコン等を使用する際、画面に映し出された文字を目で読むことは難しく、文字を入力することも難しい。では、どのようにしてパソコンで文字を読んだり、入力したりしているのだろうか。 (1)視覚障害に特化した利用方法  まず、視覚障害者がパソコンを利用するためには、主に次の方法が用いられている。  @文字のサイズや色合いを、見やすい内容に調整する  A文字情報を音声で読み上げさせる  @は主に弱視の者が利用し、Aは主に全盲または全盲に近い者が利用している。それぞれ、専用のソフトやシステムがあり、既存のパソコン等にインストールして利用している。  ただし、これらを利用することは容易なことではない。例えば、@であれば、文字を大きくすればするほど、視覚情報として目に入ってくる文字数は減ることから、視点を変えずに読む等の専門技術の習得が必要になる。また、Aであれば、目で画面等の確認はせず、全てを音声で聞き分けながら入力や確認を行うことになる。それこそ、キーボードで入力した文字は、画面を見ずに音声で確認をする形になる。また、画面を見ることができればマウスで目的のファイルをクリックし、ファイルを立ち上げることができるが、そのマウスの操作ができないため、音声で一つ一つファイルを確認しながら選択する必要がある。この音声で確認する作業は、目で確認するよりも何倍も労力が必要になる。  つまり、視覚障害者がパソコンのスキルを獲得するためには、パソコン自体の操作方法の他に、視覚情報を補う入力や確認の操作方法を習得しなくてはならないのである。 【図2−02 視覚障害者がパソコンスキルを獲得するために必要な要素】 ●パソコン自体の操作方法 + 視覚情報を補う入力や確認の操作方法  →視覚障害者 パソコンが利用できる! (2)パソコンの操作方法の学び方  では、どのようにして視覚障害者はパソコンの操作方法を学ぶのだろうか。主に次の方法で学んでいる。  @独自に操作方法を調べ、独自に習得する  A視覚障害者の知人等に教わって、独自に習得する  B視覚障害者向けICT訓練やパソコン教室等で習得する  どの方法で習得したかは、その視覚障害者の見え方、住まい、年齢、職業等により大きく異なるが、主にこれらの方法でパソコンの操作方法を覚えた者が多い。  まず、@であれば、自身の周りに視覚障害者の支援を行う訓練機関等がなく、仕方がなく独自で覚えたという声を聞く。これは、視覚障害者が歩行するのに必要な白杖の利用方法の習得を、歩行訓練を教える訓練機関等が近隣にないため、見よう見まねで覚えたことと似ている。そのため、自己流になりやすく、効果的な習得方法とは言い切れない部分がある。  また、Aであれば、知人である視覚障害者が容易にパソコンを利用している姿を見て、操作方法を教えてもらうことが多い。ある意味で草の根での訓練とも言える。しかし、視覚障害者の中には、同じ視覚障害者との接点が少ない者も多く、特に中途視覚障害者はこの傾向が強い。つまり、全ての視覚障害者に開かれた習得方法とは言えない。  そこで重要になってくるのがBの「視覚障害者向けのICT訓練やパソコン教室等で習得する」である。  これらは、視覚障害者に特化したパソコンの操作方法を熟知した者が、その視覚障害者のニーズに応じて指導するものになる。例えば、視覚障害者向けの訓練施設で実施するもの、視覚障害当事者団体が定期的に開催するパソコン教室で実施するもの、ボランティアが自宅に訪問して実施するもの等、様々な方法で実施されている。これらの方法でパソコンの操作方法を学んだ視覚障害者の多くは、講習を受けたことに満足している者が多い。  しかし、Bの方法も、全国的にどれぐらい実施されているかは不明確となっており、ICT訓練等が実施されていない地域も存在する。そのため、この方法は、全国の視覚障害者が一様に利用できる方法にはなっていない。  これらをまとめると、視覚障害者がパソコンを学ぶための訓練や支援の体制の現状は、不十分と言わざるを得ない。 14ページ 2 視覚障害者の就労とICTの課題 1.あはき業の課題  あはき業は視覚障害者にとって日本古来の重要な職種であり、多くの者が就業している職種となる。しかし、近年では様々な理由で視覚障害者があはき業を営むことが難しくなってきている。その一つに「書類の作成」を挙げる者が多い。なぜ、この点を困難と感じるのだろうか。 (1)視覚障害あはき師の課題  まず、平成31年1月より、あはき療養費の受領委任制度が開始した。この制度は、いわゆる「健康保険」であはきの治療が受けられる制度になり、あはきの施術を受ける利用者にとっては経済的負担が減ることから、以前より利用者からのニーズが高い制度である。しかし、視覚障害あはき師にとっては、この制度を利用して治療を行うことは、売上等を確保するために必要と感じているにも関わらず、なかなか実施できない制度となっている。  その理由は、前述した「書類の作成」が大きいと言われている。実際に同制度を利用するためには、様々な書類を作成し、関係先にその書類を提出することになる。利用者にとってメリットはあるものの、書類作成が難しい視覚障害者にとっては負担である。そして、これらの書類は記入内容が多く、書式も複雑になっている。もし、記入した内容に誤りがあった場合は、申請書類の差し戻し(返戻)があり、入金の遅れが発生することもある。  一方で、このあはき業には、目が見える者(以下、「晴眼者」とする。)も従事しており、近年はこの晴眼者のあはき師が増えている。これらの者は、手書きやパソコン等で療養費の申請書類を作成しており、着実に業績を伸ばしている。その結果、視覚障害あはき師の職域を脅かす存在となり、いかにして視覚障害あはき師が、晴眼のあはき師と対等な仕事ができるかが課題となっている。特に、視覚障害あはき師に多い個人開業の者は、一人では書類作成ができないために療養費の取り扱いができず、利用客が晴眼のあはき師の施術所に流れていることが問題視されている。  つまり、視覚障害あはき師が自身の仕事を維持するためには、療養費の取り扱いを行うことが喫緊の課題となっている。 (2)視覚障害あはき師への職業的支援  視覚障害あはき師が、晴眼のあはき師と対等にあはきの仕事をするためには、どのような方法が必要になるのだろうか。大きく分けると次の方法が考えられる。  @人的な補助による支援を受ける  A自身で技術等を習得する  @については、現在でも様々な支援が行われている。例えば、療養費に関する書類作成であれば、代行業者等に依頼することがある。その業者等によって依頼方法は異なるが、書類作成に必要な情報をメールで送信し、業者等がその内容を元に書類を作成する方法が多い。ただし、代行業者に依頼すると、手数料が取られるため、その分の収益は減収となる。また、人的補助を福祉の制度で対応する試みも始まっている。令和2年10月からは「雇用施策との連携による重度障害者等就労支援特別事業」を地域自治体が実施する地域生活支援事業等で開始した。しかし、開始直後であること、制度自体が複雑であることから、実施自治体はごく僅かであり、個人開業の視覚障害あはき師がどれだけ活用できるかは未知数である。  このような背景があることから、Aの「自身で技術等を習得する」にも注目が集まりつつある。視覚障害あはき師の中では、あはきの技術向上に前向きな者も多く、あはき以外のことでも、前向きに技術等の習得を目指す者は多い。療養費の書類作成であれば、ある者は独学で書類作成の入力ソフトを学んだり、ある者はICT訓練等に通い、パソコンの操作方法を学んだりしている。しかし、勤務の間にこれらの操作方法を学ぶのは時間的に厳しく、ICT訓練等の機関等が近所にないこともあり、自身で技術等を習得することにも難しさがある。  一方で、視覚障害者があはき師になるためには、あはき師養成機関において、国家資格取得に向けた教育を受ける必要がある。このあはき師養成機関においては、様々な技術の指導を行う他に、近年のデジタル化の流れを受け、ICTに関する指導も行われている。しかし、あはき業の中で作成する専門的な書類の指導については、ほとんど実施されていないと言われている。  これらを整理すると、現在の視覚障害あはき師に対する職業的な支援は、様々な方法があるものの、どれも課題があるものになっている。 2.雇用全般の課題  近年、視覚障害者が就労する上で、ICTスキルを身に付けることは必須となっている。これは、視覚障害あはき師も含め、全ての就労する視覚障害者にとって必須のこととなっている。  しかし、実際にICTスキルを身に付けたとしても、視覚障害者は様々な要因によりこのスキルを上手く活用できないことが多い。その背景を、本事業の検討委員会において整理し、次ページの一覧表にまとめた。主に一般的な企業に勤めている者を想定した整理となっている。  まず、雇用の場面においては、大きく分けると、次の内容に困っている。  @雇用環境に関する内容  AICT関連のアクセシビリティに関する内容  これらにより、視覚障害者がICTスキルを発揮できない状況が生まれている。  @については、視覚障害者の特性の無理解によるもの、Aについては、画面読み上げソフトが利用できない等の問題が含まれており、近年では、Aの内容に困る者が多い。例えば、ここ最近、大企業を中心に独自の社内システム等が導入され、このシステムが画面読み上げソフトに対応していないことが問題となっている。このことにより、社内連絡が確認できない者もいる。なお、この問題は、企業等で事務職として働いている視覚障害者だけでなく、企業等にヘルスキーパーとして勤める視覚障害あはき師にも関わる問題となっている。  そして、この困り事を改善するためには、システム改修等を通して、これらの問題を一つ一つ解決していくことが必要になっている。しかし、様々な意見を整理すると、「視覚障害者自身が持っているICTスキルを向上させる訓練等が必要」といった意見も多い。特に、その視覚障害者の職場に合わせた訓練、日々進歩するICTに合わせた訓練等を望む者が多い。また、訓練を受けやすくするために、在職者訓練等の制度化を望む声もある。ただし、ICT訓練等は、その視覚障害者の個々の特性や、個々の仕事に合った訓練等を行うことが必要で、現状のICT訓練等では対応できないものもある。そのために、ICT訓練等に関係する様々な制度の改善が必要となっている。 【図2−03 視覚障害者の雇用の場面における課題と改善策(検討委員会まとめ)】 1.雇用環境 (1)課題 ・視覚障害者の障害特性が理解されていない。特に、視覚障害者がICTを活用して「出来ること・出来ないこと」が、職場から理解されていない。 ・墨字の書類を前提とした業務が多い。また、視覚障害者が書類作成を行うための訓練制度等がない。 (2)改善策 ・視覚障害者の特性を理解し、職員等から自発的な配慮を行うようにする。 ・視覚障害者向けの介助者制度や在職者訓練を普及させる。" 2.ICT関連のアクセシビリティ (1)課題 ・Excel等で作られた書面は、レイアウトの把握が難しく、正しく入力できたかどうかが分かりづらい。 ・書類によっては、入力内容の確認等を人にお願いする必要がある。 ・音声で読み上げることができないPDFファイルがある。 ・視覚障害者を雇用する会社の中には、画面読み上げソフト等を導入するための理解がなく、費用を捻出しない。 ※社内システム関連【※1】 ・社内システムは、視覚障害者が音声で確認できない方式になっていることが多い。 ・社内システムのシステム管理者は、画面読み上げソフト等を理解しておらず、視覚障害者が利用するための打開策が打ち出せない。 (2)改善策 ・書類の電子化により、音声読み上げ対応のものを増やしていく。 ・画面読み上げソフト等の必要性を理解し、社内システム等で利用できるようにする。  ↓ 【視覚障害者への訓練や支援】 ・訓練や支援を受ける視覚障害者の見え方やニーズ、雇用環境に合った訓練や支援を実施することが必要。 ・最新のICTの進化に合わせた訓練を実施することが必要になってきている。 ・視覚障害当事者自身が前向きになり、確実に訓練内容を習得することも必要。 3.その他 (1)課題 ・障害の受容ができない者もいて、訓練に結び付かないケースがある。 ・職場内の他職員とのコミュニケーション不足で、困っていることが理解されていない。本人から言わないケースもある。 (2)改善策 ・職務上の課題は、雇用先と当事者の間にジョブコーチが入ることで円滑に改善が図れる。 ・在職中の視覚障害者が受けられるICT訓練の制度を作るべき。 【※1】社内システム  大企業等で活用されている独自の事務処理システムのことを指す。シンクライアント等を用いて、受注管理、事務連絡等を行う。 3.ICT訓練等の課題  視覚障害者に対するICT訓練等は、現在どのような状況のもとで実施されているのだろうか。視覚障害者へのICT訓練等に携わっている本事業の検討委員の意見を整理し、次ページの一覧表にまとめた。  まず、ICT訓練等に関する効果を確認したところ、ICT訓練等により、視覚障害者は仕事を効率的に行うことができ、結果として視覚障害者の社会進出の促進に繋がっていることが分かった。特に、ICTの進歩が進んでいる現在においては、その必要性がさらに増大するとの意見もあった。  ただ、実際には様々な課題があることが分かり、これらの課題があることで、結果的に「視覚障害者の特性に合った訓練等が実施できていない」ことが分かった。また、訓練機関等では、改善するために様々な検討を行うものの、改善すべき内容が多岐にわたり、課題整理も追いつかない状況となっていることが分かった。特に、ICT訓練等に関しては、効果的な実施方法等が未整理であるため、これらの整理を行うことが先決になっている。  さらに、これらの現状確認とは別に、視覚障害あはき師に対するICT訓練等の実施状況を確認したところ、「多くの所が未実施ではないか」との指摘があった。上記の理由により、個々に特化した訓練等の実施は難しいようだが、なぜ未実施の所が多いのかは分からない。また、多くの委員からは、「視覚障害あはき師からのニーズは断片的には耳にするが、それが全国的にニーズがあるのかが不明確」との指摘があった。確かに、これらのニーズはここ数年で急激に必要性が増したため、ニーズの整理が追い付いていないのかもしれない。  これらの意見を整理すると、訓練の受け手となる視覚障害者と訓練を実施する訓練機関等のニーズが未整理となっていることが課題となっている。そして、ニーズの整理を行い、効果的なICT訓練等の実施方法を見出すことが必要になっている。 【図2−04 視覚障害者に対するICT訓練等の現状整理(検討委員会まとめ)】 1.効果 ●視覚障害者の社会進出の促進 ・ICT訓練等を受けることで、視覚障害者のQOLは向上し、自立に繋げることができる。 ・ICT訓練等を受けて仕事上で必要なスキルを身に付けると、書類作成や情報収集等ができるようになる。" 2.課題 ●利用面 ・視覚障害者向けのICT訓練等ができる訓練機関等が少ない。都市圏に集中している。 ・視覚障害者が、近隣の訓練機関等へ移動することが難しい。 ・ICT訓練等に対応できる職員等が少ない。指導者の養成や情報処理教員免許の取得が難しい。 ・視覚障害者の特性に合ったICT訓練等が実施できない。本来はマンツーマンの訓練が必要だが、制度の都合で集団訓練になってしまう。 ・訓練生がICT機器を確保する必要がある。 ●内容面 ・実施すべき訓練内容が多いことから、訓練の終了期間や到達点が設定しづらい。 ・社内システム等に対応したICT訓練等が実施できない。 ・健常者の教材は利用できず、視覚障害者向けの教材が少ない。 ・リモート指導が難しく、対面での指導が必要になってしまう。 ・視覚障害者の多様なニーズに対応するため、ICT訓練等の資質向上が求められている。近年は重複の視覚障害者の受講も増えている。" 3.改善策 ●訓練全般 ・個々の視覚障害者の特性・ニーズに合わせた指導を行う。 ・リモートでの訓練等、地方の視覚障害者がICT訓練等を受けやすい環境を作る。 ・在職中の視覚障害者が必要に応じてICT訓練等を受けられるようにする。 ・視覚障害者にとって気軽にICT訓練等が受けられる環境を作る。 ●内容面 ・訓練生が意欲的にICT訓練等に取り組める内容にする。 ・訓練教材を充実させる。 ・オンライン訓練を実施する。 ・現実の生活や仕事に見合ったICT訓練等を実施する。 ●視覚障害当事者 ・本人自体がやる気を出さないと、ICT訓練等の内容が身につかない。そのため、視覚障害者自身が、積極的に挑戦する姿勢が必要。 ●制度、理解 ・国や企業からの訓練費用の補助を実現する。 ・自治体や企業が、視覚障害者向けICT訓練等の重要性を理解する。 ・ICT機器を持つことで訓練生の習熟度が向上することから、日常生活用具給付制度の充実を図る。" 3.その他 ・ICT訓練等を行ったことで判明した課題等を、ハードやソフトにフィードバックすることが必要ではないか。 20ページ 3 調査の方向性 1.現状と課題の整理  まず、本章で整理した視覚障害者に対するICT訓練等の現状や課題は、次の通りになる。課題については、早期に解決を図る必要がある。 【視覚障害者(視覚障害あはき師)】  ●近年のICTの進歩は、視覚障害者にとっても利便性が高く、視覚障害者の中でもICTの利用を求める声が高まっている。  ●就労の場面では、ICTスキルの獲得が必須となっている。特に、視覚障害者あはき師がICTスキルを獲得することで、療養費の書類作成等を行える可能性があることから、視覚障害あはき師がいかにしてICTスキルを獲得するかが課題となっている。  ●ただし、ICTスキルを獲得するニーズは、近年になり急激に高まってきたものであり、特に視覚障害あはき師のニーズは未整理であることから、これらのニーズの整理が必要となっている。 【訓練機関等】  ●視覚障害者のニーズに応じて、様々な形でICTに関する訓練等を実施しているが、視覚障害者の多様なニーズに対応できていない部分がある。  ●視覚障害あはき師に対する書類作成のICT訓練等については、これらの者からのニーズは高いものの、現状のICT訓練等では対応できていない可能性が高い。  ●視覚障害者に対する効果的なICT訓練等を実施するためには、現状の課題整理を通して、視覚障害者からのニーズに対応するための訓練方法や訓練体制の整備が必要となっている。 2.調査の実施内容  ICT訓練等については、様々な課題がある。さらに不明確な点も多いことから、まずは課題や不明確な点の整理が必要になる。そのため、本事業では全国を対象とした実態調査を行うことにした。調査の実施内容は検討委員会で議論し、次の調査を実施することになった。 【調査の実施内容】  調査@ 視覚障害あはき師に対する調査       ・書面調査       ・ヒアリング調査  調査A 訓練機関等に対する調査       ・書面調査       ・ヒアリング調査  調査B あはき師養成機関に対する調査       ・書面調査  調査においては、ICT訓練等を求める様々な視覚障害者の中で、書類作成に困難さを抱える「視覚障害あはき師」を調査対象とすることで、調査の明確化を図った。そのため、訓練を実施する機関等への調査においては、あはき業の就労後と就労前を想定し、前者を調査A訓練機関等に対する調査、後者を調査Bあはき師養成機関に対する調査で確認することとした。  また、令和2年度は新型コロナウイルスの感染拡大の影響により、対面での調査が難しいことから、書面調査を中心に調査を進めた。そして、書面調査では得られなかった内容については、オンラインでのヒアリング等による追加調査を実施した。  以後、第3章から第5章ではそれぞれの調査結果を示し、第6章では調査結果の考察と分析を行う。さらに、第7章では調査結果のまとめを示した上で、提言と今後の課題を提起する。 23ページ  第3章 調査@ 視覚障害あはき師に対する調査 24ページ 1−1 書面調査 調査概要 1.調査目的  視覚障害あはき師の業務内容、ICTスキルの有無、ICT訓練等に対するニーズ等の把握を行うために実施した。 2.調査対象  全国の視覚障害あはき師 800名 3.調査方法  ・調査票の配布によるアンケート調査。  ・全国の視覚障害当事者団体及びあはき業界団体に依頼し、 会員等に対して調査票を配布した。なお、依頼先には、人口比に応じて調査票の配布数を調整した。  ・調査票は158ページの墨字版の他に、点字版、テキスト  版を配布した。調査対象者は回答しやすい方法を選択し、郵送またはメール送信で回答を提出した。   4.調査期間  令和2年11月20日〜12月18日 5.回収率  57.5%(460名/800名) 6.回答の傾向  ・全国から人口比に応じた回答が得られた。  ・男性からの回答が多く、回答者の性別は偏りがある。   7.調査結果の掲載方法  ・一部の調査結果は、調査票とは異なる順番で掲載する。また、設問名と選択肢の一部は改題を行った上で掲載している。  ・一部の調査結果には、「第6章 考察・分析」で用いたクロス集計の結果を掲載する。 25ページ 1−2 書面調査 結果 1.回答者に関する質問 (1)年齢 @20代 6名 1.3% A30代 10名 2.2% B40代 48名 10.4% C50代 101名 22.0% D60代 179名 38.9% E70代以上 116名 25.2% F無回答 0名 0.0% 全体 460名 100.0% (2)性別 @男性 376名 81.7% A女性 84名 18.3% Bその他 0名 0.0% C無回答 0名 0.0% 全体 460名 100.0% (3)視覚障害の程度 @全盲 276名 60.0% A弱視 180名 39.1% B盲ろう 1名 0.2% Cその他 1名 0.2% D無回答 2名 0.5% 全体 460名 100.0% (4)ICT機器の利用状況 @仕事とプライベートで利用している 223名 48.5% A仕事で利用している 12名 2.6% Bプライベートで利用している 96名 20.9% Cそれほど利用していない 29名 6.3% D利用していない 90名 19.6% E無回答 10名 2.2% 全体 460名 100.0% (5)回答方法 @郵送(墨字) 209名 45.4% A郵送(点字) 92名 20.0% Bメール 159名 34.6% C無回答 0名 0.0% 全体 460名 100.0% 2.あはき業に関する質問 (1)あはき業の関わり方(複数回答) @自宅等で個人事業主として開業 318名 69.1% A自身で会社組織を立ち上げて開業 9名 2.0% Bあはき施術所等に勤務 59名 12.8% C企業等にヘルスキーパーとして勤務 13名 2.8% D施設等に機能訓練指導員として勤務 32名 7.0% Eその他【※1】 56名 12.2% F無回答 10名 2.2% 全体 460名 100.0% 【※1】病院勤務、訪問マッサージ、休業中 等 (2)あはき業における療養費の取り扱い @取り扱っている 188名 40.9% A取り扱っていない 252名 54.8% B分からない 7名 1.5% C無回答 13名 2.8% 全体 460名 100.0% (3)あはき業における重要な書類の作成方法(複数回答) @パソコンで作成 150名 32.6% A墨字で作成 52名 11.3% B点字で作成 63名 13.7% C他者に口頭で指示して作成【※1】 77名 16.7% D作成していない 87名 18.9% Eその他【※2】 29名 6.3% F無回答 6名 1.3% 全体 460名 100.0% 【※1】後日、墨字書類の作成を他者に依頼することも含む 【※2】家族が作成、代行先に依頼、会社が作成 等 (4)あはきの業務の中で、重要な書類作成に困っているか @困っている 173名 37.6% A困っていない 211名 45.9% B分からない 58名 12.6% C無回答 18名 3.9% 全体 460名 100.0% (5)書類作成に困っている主な理由(自由記述を整理)  @記入や入力が難しい  ・書類の字が小さくて読めない。  ・記入欄が小さく、書き込めない。  ・書類の記入欄が複雑で入力ができない。  ・視覚障害者に使いやすいソフトがない。  ・画面読み上げソフトで正しく読まないものがある。  ・押印が正しく押せたかどうか不安。  ・患者さんの前で綺麗に記入ができない。  A他者への依頼が難しい  ・書類が複雑なため、他者にお願いしづらい。  ・他者にお願いしたとしても、書類が正しく書けたかどうか 確認できない。  Bその他  ・記入を間違えると返戻されてしまう。  ・書類自体の内容が頻繁に変更される。 (6)書類作成に困っていない主な理由(自由記述を整理)  @自身で作成ができる  ・拡大読書器やルーペを利用すれば作成できる。  ・画面読み上げソフトで記入ができる。  A他者への依頼で対応できる  ・家族に書いてもらえる。  ・勤め先の職員等に書いてもらえる。  ・代行業者に依頼している。  Bその他  ・書類を作ること自体を諦めたため、困っていない。 (7)書類作成に困っている場合、自分一人で書類を作れるようになりたいか 【対象:4−(4)「@困っている」を選択した回答者 173名】 @思う 156名 90.2% A思わない 6名 3.5% B分からない 8名 4.6% C無回答 3名 1.7% 全体 173名 100.0% 3.ICT訓練等に関する質問 (1)ICT訓練等を受けた経験 @ある 132名 28.7% Aない 178名 38.7% B独自にパソコン等の操作方法を覚えた 136名 29.6% C無回答 14名 3.0% 全体 460名 100.0% 4.ICT訓練等を「受けたことがある」回答者への質問 【対象:3−(1)「@ある」を選択した回答者 132名】 (1)ICT訓練等を受けた時期 @あはき業に就労前 48名 36.4% Aあはき業に就労後 82名 62.1% B無回答 2名 1.5% 全体 132名 100.0% (2)ICT訓練等を受けた場所(複数回答) @あはきの養成機関 14名 10.6% A視覚障害者向け訓練を行う施設 39名 29.5% B就労支援を行う施設 10名 7.6% C地域の視覚障害者団体や情報提供施設 56名 42.4% Dパソコンサポート団体 49名 37.1% Eその他【※1】 17名 12.9% F無回答 1名 0.8% 全体 132名 100.0% 【※1】歩行訓練士、機器の購入先 等 (3)訓練機関等への繋がり方(複数回答) @先生や講師等からの紹介 30名 22.7% A勤め先からの指示 1名 0.8% B病院からの紹介 5名 3.8% C役所からの紹介 10名 7.6% D知人からの紹介 75名 56.8% E自分から探した 37名 28.0% Fその他【※1】 12名 9.1% G無回答 1名 0.8% 全体 132名 100.0% 【※1】視覚障害当事者団体、市町村の広報 等 (4)ICT訓練等が重要な書類作成に役立っているか @役立った 59名 44.7% A役立っていない 43名 32.6% B分からない 27名 20.5% C無回答 3名 2.3% 全体 132名 100.0% (5)ICT訓練等を受けて良かった点(複数回答) @パソコン等の操作が一人で出来るようになった 100名 75.8% A仕事でパソコン等のICT機器を生かせるようになった 51名 38.6% B様々な情報を得られるようになった 87名 65.9% C周りとのコミュニケーションに役立った 77名 58.3% D特になし 12名 9.1% Eその他【※1】 4名 3.0% F無回答 4名 3.0% 全体 132名 100.0% 【※1】特定の操作が覚えられた 等 (6)ICT訓練等を受けて不満だった点(複数回答) @近くでICT訓練等を受けることができなかった 39名 29.5% A仕事の合間等、自分の希望する時間に訓練が受けられなかった 27名 20.5% B求めていた訓練内容を受けることができなかった 17名 12.9% C手続きに時間と手間がかかった 6名 4.5% Dお金の負担が大きかった(訓練費、機器の購入等) 23名 17.4% E特になし 54名 40.9% Fその他【※1】 3名 2.3% G無回答 7名 5.3% 全体 132名 100.0% 【※1】就職に繋がらなかった、就職後は教えてくれない、待ち時間が長い 等 5.ICT訓練等を「受けたことがない」回答者への質問 【対象:3−(1)「Aない」を選択した回答者 178名】 (1)ICT訓練等を受けていない理由(複数回答) @ICT訓練等を知らなかった 60名 33.7% A必要性を感じていない 74名 41.6% B時間や費用がない 41名 23.0% C周りに施設等がない 43名 24.2% Dその他【※1】 20名 11.2% E無回答 9名 5.1% 全体 178名 100.0% 【※1】家族や支援者がいる、高齢で難しい 等 (2)あはきの業務に役立つのであれば、ICT訓練等を受けたいと思うか @思う 90名 50.6% A思わない 45名 25.3% B分からない 35名 19.7% C無回答 8名 4.5% 全体 178名 100.0% 6.「独自にパソコン等の操作方法を覚えた」回答者への質問 【対象:3−(1)「B独自にパソコン等の操作方法を覚えた」を選択した回答者 136名】 (1)操作方法の覚え方(複数回答) @説明書等を読んで独学で勉強した 81名 59.6% A家族に教えてもらった 34名 25.0% B友人に教えてもらった 103名 75.7% Cメーリングリストで尋ねた 39名 28.7% D電話等でメーカーに問い合わせた 37名 27.2% Eホームページを検索して調べた 61名 44.9% Fその他【※1】 16名 11.8% G無回答 1名 0.7% 全体 136名 100.0% 【※1】視覚障害者になる前に習得した、パソコンサークルに加入して覚えた 等 (2)操作方法を覚えた理由(複数回答) @生活において必要になったから 100名 73.5% A仕事において必要になったから 83名 61.0% B近くで教えてくれる所がなかったから 24名 17.6% C友人や同僚等から勧められたから 44名 32.4% Dその他【※1】 23名 16.9% E無回答 3名 2.2% 全体 136名 100.0% 【※1】趣味として学んだ 等 (3)操作方法を覚えてよかった点(複数回答) @操作が一人で出来るようになった 118名 86.8% A仕事で生かせるようになった 91名 66.9% B様々な情報を得られるようになった 126名9 2.6% Cコミュニケーションに役立った 109名 80.1% D特になし 1名 0.7% Eその他【※1】 7名 5.1% F無回答 1名 0.7% 全体 136名 100.0% 【※1】他の人に教えられるようになった 等 7.あはきに特化したICT訓練等に関する質問 (1)あはきの書類作成に特化したICT訓練等を受講したいと思うか @思う 232名 50.4% A思わない 107名 23.3% B分からない 112名 24.3% C無回答 9名 2.0% 全体 460名 100.0% (2)あはきの書類作成に困った時に、電話やメール等で問い合わせ先があれば利用したいと思うか @思う 314名 68.3% A思わない 64名 13.9% B分からない 73名 15.9% C無回答 9名 2.0% 全体 460名 100.0% (3)ICT訓練等を受けやすくするために必要だと思う内容「場所や移動方法」(複数回答) @近所での訓練を実施する 276名 60.0% A訓練する場所を増やす 181名 39.3% B訓練場所への移動手段を確保する 206名 44.8% Cオンライン等の遠隔訓練の活用 213名 46.3% D分からない 68名 14.8% Eその他【※1】 17名 3.7% F無回答 14名 3.0% 全体 460名 100.0% 【※1】自宅や職場への出張 等 (4)ICT訓練等を受けやすくするために必要だと思う内容「受講方法」(複数回答) @希望する時間や日時で実施する 286名 62.2% A理解するまで、何度も実施する 295名 64.1% B申し込みを簡単にする 210名 45.7% C訓練費の費用補助を行う 226名 49.1% D機器の導入費の費用補助を行う 224名 48.7% E分からない 61名 13.3% Fその他【※1】 9名 2.0% G無回答 17名 3.7% 全体 460名 100.0% 【※1】対象者要件の緩和、動画の配信 等 8.アンケートに寄せられた主な意見(自由記述を整理) (1)年齢や障害度合いに関する意見  @高齢者  ・10年前にこのアンケートを実施してほしかった。今の私は歳を取りすぎてしまい、ICTにはついて行けない。  ・高齢となり仕事も少なく、あと数年で廃業の予定です。今さらICTを勉強して保険治療を行うつもりはありません。  A全盲  ・全盲の者が健常者と同等に書類処理ができるように、点字 での書類作成を認めてほしい。また、行政からアシスタントの派遣の補助を認めてほしい。  ・全盲でも使いやすいソフトを作ってほしい。また、実際に  使うソフトで指導してほしい。  B弱視  ・今現在は視力があり、何とかパソコン等が使えているが、  視力がなくなった時のことを考えると、仕事の事務処理ができるのかが心配。  ・様々な書類を見ていると、文字の大きさであったり、色であったり、見づらいものが多い。健常者の業者とのバランスでこういう書類になったのかもしれないが、業界全体で視覚障害者の業者がいることを理解すべきだと思う。 (2)あはき業に関する意見  @業務で使用する書類  ・様々な書類の書式が複雑で、視覚障害者には取り扱いにくい。公の書類の申請はやはり最終的に晴眼者の力を借りることになるのを痛感している。  ・文字を入力しやすいように書体、フォント、コントラスト等に配慮したものを作ってほしい。  A療養費  ・療養費の取り扱いは視覚障害者にとってはほとんど不可能 に近いと思う。同意書等の作成は視力が必要。自由診療しかできない。  ・保険請求の書類作成に行き詰まった時は、何らかの方法で助けてもらえないか。  B業務上の支援  ・業務上、視力を必要とすることが多いので、晴眼者のアシスタントが必要だと思う。  ・自分が作った書類を確認してくれる人や機関を作ってもら いたい。誤字や枠内に文字が正しく入っているか分からないし、印刷した時に罫線が正しいのかどうかが不安。 (3)ICT訓練等に関する意見  @訓練全般  ・ICT訓練を受けるチャンスがほしい。  ・訓練で発生した費用は補助してほしい。  ・晴眼のお客様へのコミュニケーション講座等があれば実施 してほしい。  ・ICTは大嫌いなので、訓練を受けたいと思わない。  A支援やサポート  ・パソコン等で操作方法に行き詰まったとき、何らかの方法で助けてもらえないか。  ・長きに渡り、県内のパソコンボランティアに相談して、助けてもらっている。ただ、自分が住んでいる所でお願いできたらよいと思っている。  Bあはき師の養成での訓練や支援  ・盲学校(視覚特別支援学校)やあはき師養成の専門校での教育段階で、こういったICTに関するカリキュラムに含めることが必要ではないか。 (4)ICT全般に関する意見  @ファイル形式  ・国や自治体から届く書類はPDFファイルが多く、読めな くて苦労している。WordファイルかTXTファイルにしてもらえれば、パソコンで読めるようになるので助かる。  Aあはき業に関する書類作成ソフト  ・視覚障害者が申請書に記入ができるよう、分かりやすいアプリケーションを開発してほしい。  ・申請用ソフトを開発する時には、Excelのような表記入ではなく、項目ごとに箇条書きで記入ができるようにしてほしい。 49ページ 2−1 ヒアリング調査 調査概要 1.調査目的  書面調査の調査結果の一部が不明確な調査対象に対して、その詳細等を確認するため、ヒアリング調査を実施した。 2.調査対象 (1)個人開業の視覚障害あはき師 (2)ヘルスキーパーの視覚障害あはき師 3.調査方法  ・調査員からの口頭でのヒアリング。 4.調査日、実施方法 (1)個人開業の視覚障害あはき師   日時 令和3年2月18日   実施方法 会議室において対面方式で実施 (2)ヘルスキーパーの視覚障害あはき師   日時 令和3年3月13日   実施方法 オンライン上で実施 5.調査結果の掲載方法  対象者への調査を実施する理由を整理した上で、ヒアリング内容と回答を整理し、項目ごとに掲載する。 50ページ 2−2 ヒアリング調査(個人開業) 結果 1.調査の実施理由  全国の視覚障害あはき師を対象にした書面調査では、多くの回答が寄せられ、様々な調査結果が得られた。  調査結果を整理すると、個人事業主として自宅等であはきの施術所を開業する者からの回答数が多く、全体の約7割を占めていた。様々なあはきの業態がある中で、このような個人開業の者からの回答が多かったことは、それだけ個人開業の者にとって、今回の書面調査の主眼点の一つである「書類作成」に困難さがあることを裏付けるものであった。  しかし、書面調査を行った結果、個人開業の視覚障害あはき師からの回答には、どのような背景があるのかまでは分からなかった。例えば、ICTスキルの獲得方法、あはき業でのICTスキルの活用方法等は確認できなかった。また、調査結果のクロス集計を行うと、全盲と弱視、年齢、ICTスキルの差といった回答者の個人特性の違いにより、調査結果に差異が発生していた。  そのため、これらを明らかにするために、個人特性が違う個人開業の視覚障害あはき師2名に対して、ヒアリング調査を行った。 2.調査対象者 (1)A氏  基本情報:東京都在住、全盲、50代  あはき業の関わり方:自宅に施術所を開設、訪問診療あり、療養費の取り扱いあり  ICTスキル:中級レベル(Excelの操作可能) (2)B氏  基本情報:東京都在住、手動弁(中途障害)、70代  あはき業の関わり方:自宅に施術所を開設、訪問診療あり、療養費の取り扱いあり  ICTスキル:初級〜中級レベル(Excelの操作可能) 3.ヒアリング内容と回答 (1)ICTスキルの獲得方法 @パソコン操作の習得方法 AA氏 ・最初は独学で覚えた。 ・その後、当事者団体のパソコン教室に通い、マンツーマンの訓練を10回程度受けた。ここで詳しい内容を覚えることができた。 B氏 ・まず、地元のパソコンボランティアにお願いし、土日を中心に操作方法の基礎を教えてもらった。 ・その後、就労系の専門施設に通い、詳しい内容を教わった。 A習得方法の評価 A氏 ・パソコン教室では、教えてもらいたい内容を相談し、その内容を的確に教えてもらえた。 ・仕事の合間に通えたのが特に助かった。 B氏 ・60代で習い始めたので、習得まで時間がかかったが、ある程度は満足している。教えてくださった皆さんに感謝している。 (2)ICT関連での困り事 @困っている内容 A氏 ・最近は、オンライン上で申し込みをする時の画像認証に困っている。 B氏 ・困ることが多く、操作ができないことは諦めている。 A困っている内容の解決方法 A氏 ・家族がいる時は、画面を見てもらい、助けてもらっている。 ・利用しているインターネット・プロバイダーの有料の電話サポートがあり、これを活用している。遠隔でパソコンの設定を変えてもらうことがあり、非常に助かっている。 B氏 ・知り合いにICT関連に詳しい人がいて、よく相談している。すぐには対応できないこともあるが、そこまで気にならない。 (3)あはきの業務内容 @記録の作成方法 A氏 ・メモ帳やExcelを使い、自己流でカルテ・売り上げ・予約等を記録し、管理している。 ・これらはベタ打ちレベルだが、自分では分かるので困ることはない。 B氏 ・Excelで売り上げを管理している。ベタ打ちレベルだが、シートを使い分けて、上手く工夫している。 ・専用ソフトを使ったことがあるが、使いづらかった。 A業務上で困っている内容 A氏 ・日常業務レベルのことは、一人で何とか対応している。 ・業務でパソコンを利用する中で、凄く困ることは少ないと思う。 ・紙でやりとりする書類は困ることが多く、領収証の発行と捺印には困っている。 B氏 ・日常業務は何とか一人で対応できている。 ・出張先でお客さんに領収証を渡す場合、その場では書けないので、お客さんに了解頂いた上で、次回の施術の際に渡すことがある。 (4)療養費 @療養費を取り扱う理由 A氏 ・定期的な予約が入り、売り上げが確保しやすい。 ・療養費を扱うと、ある意味で国からお墨付きをもらっていることになり、無資格者対策にもなると思っている。 B氏 ・自治体のマッサージ券を利用する高齢者は、保険があることで依頼をしてくれるケースが多く、それで療養費に対応している。 A申請書等の作成方法 A氏 ・所属する当事者団体に入力代行を依頼し、書類を作成してもらっている。 ・メールで必要な情報をベタ打ちして送信するだけなので、そこまで手間ではない。 ・代行を依頼するのであれば、最低でもメールが使えないと厳しいかもしれない。 B氏 ・入力代行に依頼しており、これには助かっている。 ・複雑な療養費の書類を、自分の力で作れるとは思えないので、確実な書類が作れるのであれば、手数料を払うことはそこまで負担ではないと考えている。 (5)業務におけるICT利用 @パソコンを利用した書類作成 A氏 ・自分で療養費の申請書類等が作れるのであれば、その分は収入になるので、魅力と言えば魅力。 B氏 ・自分で書類が作れたら良いこともあるだろう。ただ、療養費の書類は、誤りがあると戻ってきてしまうので、確実な書類が作れるかどうかが不安。 A情報収集や情報発信での活用 A氏 ・PDFファイル等は読めないものが多いので、読めるようになると嬉しい。 ・宣伝は、どこまで効果があるかが分からない。以前、ホームページを開設していたが、あまり効果がなかった。 B氏 ・ICTを活用して様々な情報が得られるのは良いと思う。 ・宣伝等の情報発信までになると、今の仕事で手一杯なので、そこまで手が回らないのが現状。 B新たなシステムの活用 A氏 ・マイナンバーカードを健康保険証として利用できることは、興味がある。お客さんから提出された保険証は読めないので、データで読み取ることができたら助かる。 B氏 ・Aさんと同じく、マイナンバーカードの健康保険証としての利用は興味がある。自分が使っているExcelに転記できると嬉しい。 C視覚障害あはき師が利用しやすい入力ソフト【※1】 A氏 ・Excelであれば、縦移動だけで入力できる方法だと分かりやすい。 ・ただ、入力はできても、本当に申請に耐えうる書面になっているかは、自分では分からない。この点が心配です。 B氏 ・縦移動の入力は分かりやすい。試作版のExcelは、初めて使用しても、私でも理解できた。説明と入力欄が交互になっているのが分かりやすい。  【※1】162ページに掲載したExcel版「療養費支給申請書(入力補助シート付)」を用いて、両氏にパソコンでの書類作成のデモテストを実施した。上記の回答は、デモテスト終了後に求めた感想になる。 4.まとめ (1)個人特性の違い  ・年齢の違いにより、あはき業に関する考え方、ICTスキルに対する考え方や習熟度は多少の差があった。そのため、若年層と比べると高齢層は、ICTスキルの獲得に前向きになれない傾向があることが読み取れた。  ・障害の程度(全盲と弱視)の差は、それぞれで困り事の内容が異なるものの、同レベルで困っていることが分かった。  ・ICTスキルが高いほど、あはき業で可能となる業務の幅は広がる可能性はある。しかし、作成した書類の確認等のように、ICTスキルがあっても越えられない作業もある。 (2)ICTと視覚障害あはき師  ・視覚障害あはき師は、まず、パソコン等を利用するためのスタートラインに立つことが大切で、このレベルまで学べる環境が必要になっている。  ・ある程度のICTスキルを身に付けた後は、自身の創意工夫や周りからの支援を受けることで、あはき業の業務に役立てることができる。  ・その者が持つICTスキルで対応できないことは、外部的な支援が必要となり、電話やオンラインも活用できる。  ・ICTスキルを持つことで、新たなシステムが利用でき、視覚障害あはき師の仕事の幅は広がる可能性がある。 55ページ 2−3 ヒアリング調査(ヘルスキーパー) 結果 1.調査の実施理由  検討委員会の議論の中で、視覚障害あはき師の養成に携わる委員より、「近年は、あはきの国家資格の取得後、個人開業を目指す者よりも企業等に雇用される形態を求める者が多い」との指摘があった。そのため、本調査では、企業等に勤める視覚障害あはき師の実態を整理することも念頭に置いている。  しかし、全国の視覚障害あはき師を対象にした書面調査では、個人開業の視覚障害あはき師から多くの回答が集まった一方で、企業等に勤める視覚障害あはき師からの回答は少数となっていた。特に、近年、視覚障害あはき師の就労先として注目されているヘルスキーパー【※1】は、書面調査の回答率が2.8%(13名)であったことから、調査結果には不明確な部分が多かった。例えば、これらの者は療養費の申請書類を作成することは少ないが、勤務をする上でICTスキルを活用することは必要だと思われる。しかし、これらの者に、ICTに関するどのようなニーズがあるかは、書面調査では確認できなかった。  また、新型コロナウイルスの影響はヘルスキーパーにも及んでおり、書面調査の自由記述では、出勤ができない等の悩みが寄せられていた。一方で、個人開業の視覚障害あはき師からも、新型コロナウイルスの影響による売り上げ減少が厳しい旨の意見があり、あはき業の維持のためにICTスキルの獲得を考える者もいた。新型コロナウイルスの影響は、確実に視覚障害あはき師の生活を脅かしている。しかし、書面調査では、新型コロナウイルスの影響についての設問を設けていないため、新型コロナウイルスの影響は整理できていない。  そのため、個人開業の視覚障害あはき師とは異なるニーズ、さらには新型コロナウイルスの影響を確認するため、視覚障害のヘルスキーパーに対してヒアリングを行った。 【※1】ヘルスキーパー(企業内理療師)  産業・労働衛生分野に理療の技術を活用するもので、理療の国家資格を持つものが、企業等に雇用されその従業員等を対象にして施術等を行う者の呼称になる。理療の施術やセルフケア指導、健康への助言を通じて業務中に生じた疲労やその他の症状を取り除き、業務の能率向上と従業員の健康増進に役立てる事を目的としている。  出典:日本視覚障害ヘルスキーパー協会 https://healthkeeper-jp.com/about 2.調査対象者 (1)C氏  基本情報:神奈川県在住、弱視、40代  あはき業の関わり方:企業に勤めるヘルスキーパー  ICTスキル:上級レベル(パソコン関連の講師が可能) 3.ヒアリング内容と回答 (1)ヘルスキーパーの就労状況 @基本情報 ・全国では、約400人がヘルスキーパーとして働いていると言われている。 ・ヘルスキーパーとして働く人は30代〜40代が中心となっている。中途の人や40代より上の人も働いている。 ・大都市圏を中心にヘルスキーパーを雇用する企業が増えていて、全国で200社程度が採用していると思われる。 ・採用する企業はIT系の会社が多い。働いている人の多くがパソコン作業をしており、その疲労を癒すことが目的となっている。 Aあはきの施術方法 ・企業内の一室に施術所を設け、その企業の社員に対して施術を行っている。 ・あはきの中ではあん摩マッサージ指圧が中心で、はりときゅうは必要に応じて実施している。 ・福利厚生の一環であるため、その企業の社員は安価な値段で治療を受けることができる。費用は企業によって異なるが、1回500円ぐらいの所が多い。施術を受けた人は、みんな喜んでいる。 (2)ヘルスキーパーの業務内容 @業務体制 ・基本的にはあはきに関する業務が中心で、稀に他の業務と兼任している場合がある。事務の手伝いをしたり、社内報で健康関連の記事を書いたりする実例がある。 ・勤める企業の雇用条件で勤務しており、イメージは9時〜5時の仕事になる。 ・その企業によって人数は異なるが、一つの施術所には2名以上のヘルスキーパーが働いている。多い所では5名の所もある。 ・晴眼等の支援者が入ることはあまりなく、自分でできることは自分で対応している。 Aパソコン等の利用 ・カルテ、予約管理、日報、売り上げ等はパソコンで入力して作成している。弱視の人だと手書きの人もいる。 ・今の多くの企業は、パソコンは一人一台支給されることが大前提になっている。そして、社内連絡は、メールや社内システムを介して届けられる。そのためヘルスキーパーの仕事をする以上に、その企業で働くためにはパソコンを操作できることが必須となっている。 Bパソコン操作の習得方法 ・ここ最近の人は、盲学校(視覚特別支援学校)の授業で習う、または独学で覚える人が多い。 (3)ICT関連の困り事 @社内システム ・近年、社内システムをベースにパソコン業務を行う企業が多く、それらが音声対応していないことに困っている。例えば、社内での連絡であれば、今まではメールが主だったが、社内システムの中のチャットで連絡が来ることがある。このチャットを画面読み上げソフトでは読み上げてくれないことがある。 ・ヘルスキーパーが扱っている情報を考えると、実は社員の健康という個人情報を扱っていることになる。そのため、情報管理のセキュリティーレベルは高く、社内システムの中で管理することも多い。 ・社内システムについては、社内の担当者等に改善の要望を出すこともあるが、あまり対応してくれない。そのため、他社に勤めるヘルスキーパーの仲間同士で情報交換を行い、改善策の共有を図ることもある。 (4)ICT訓練等の必要性 @在職者訓練 ・社内システム等の新しいシステムが出てきているので、それらを覚えるためのICT関連の訓練や支援があると助かる。 ・企業に勤めている視覚障害者にとって、その訓練場所まで移動するのは大変だ。また、通っている間は施術所を閉じる必要があり、なかなか通うのは難しい。 ・勤め先が研修として訓練を行ってくれるのであれば、安心して訓練が受けられる。 ・自分の仕事の状況や空き時間に合わせて、オンラインで研修が受けられたら良いと思う。 (5)新型コロナウイルスの影響 @勤務状況 ・テレワークの推進をしている企業では、連動して出社する人が減るので、社内に人がいない状況になっている。そのため、施術所の廃止や一時停止、施術する患者数を制限している所がある。 ・この問題は、ヘルスキーパー業界全体に強く影響している。しかし、このようなコロナ対応は、社会全体で行うべきことでもあるので、ある意味で仕方がないことだとも理解している。 ・このような状況が続くと、今後自分の仕事がどうなるか、不安になってしまう。雇用が継続されるのか、この会社で仕事ができるのか、人によって不安は色々あると思うが、多くの視覚障害のヘルスキーパーは不安になっていると思う。 A配置転換、転職等 ・上記の勤務状況が影響し、配置転換になった人もいる。弱視の人が事務職に移ったという事例を聞いたことがある。 ・企業側も障害者雇用率の維持があるので、視覚障害のヘルスキーパーがその会社で働けるように、様々な工夫をしている所もある。テレワークになったのであれば、あはき以外の仕事ができるように、オンラインでの健康相談を業務にした所もある。 ・視覚障害のヘルスキーパーの場合、あはき以外の仕事を担当したとしても、その仕事ができない場合もある。そのため、新たな仕事ができず、退職してしまった人もいる。 ・退職しても別の企業にヘルスキーパーとして転職できる保証はない。そのため、悩みながらその企業に残る者もいると思う。 Bその他 ・ヘルスキーパーという業態の転換点に立っているのかもしれない。自分達自身も、色々と考えて、ヘルスキーパーの価値を見出し、今まで導入がなかった企業への提案等を行うことが必要かもしれない。 4.まとめ (1)企業で働く視覚障害あはき師(ヘルスキーパー)の実態とニーズ  ・個人開業の視覚障害あはき師とは異なる書類作成や事務処 理の困り事がある。  ・個人開業の視覚障害あはき師以上にICTスキルは必要と され、就労する上で必須の技術となっている。  ・企業に勤めるが故に、最新のシステム等と対峙する必要が あり、ICTに関する訓練や支援が必要となっている。  ・ICTスキルを身に付けるための研修等に対して、前向きな企業は少ない。また、移動等の制約があることから、通所型の訓練や支援は不向きとなっている。  ・基礎的なICTスキルは有している者が多いことから、オンライン等を利用した訓練や支援のニーズが高い。 (2)新型コロナウイルスの影響  ・視覚障害のヘルスキーパーにとっては、テレワーク等の推進により、その業態の根幹を揺るがすほどの影響が出ており、ヘルスキーパーとしての業務ができない者もいる。  ・ICTスキルを獲得することで、その企業内において、あはきに関連する仕事の幅を広げられる可能性はある。 61ページ 第4章 調査A 訓練機関等に対する調査 62ページ 1−1 書面調査 調査概要 1.調査目的  視覚障害者に対する訓練や支援を実施する機関等に対して、実施状況やICT訓練等に対するニーズの把握を行うために実施した。 2.調査対象  視覚障害者に対する訓練や支援を実施する機関等 350団体 3.調査方法  ・調査票の配布によるアンケート調査。  ・依頼先は、地域性と対象機関の事業内容等を整理し、検討委員会で選定を行った対象に配布を行った。  ・調査票は160ページの墨字版の他に、希望者にはテキスト版を配布した。調査対象者は回答しやすい方法を選択し、郵送またはメール送信で回答を提出した。  ・あはきの業務において使用する書類を知らない回答者がい ることを想定し、162ページの療養費支給申請書を参考資料として添付した。 4.調査期間  令和2年11月10日〜11月30日 5.回収率  41.4%(145団体/350団体) 6.回答の傾向  ・全国から人口比に応じた回答が得られた。  ・調査対象において、パソコンサポート団体からの回答は想定数より少なかった。 7.調査結果の掲載方法  ・一部の調査結果は、調査票とは異なる順番で掲載する。また、設問名と選択肢の一部は改題を行った上で掲載している。  ・一部の調査結果には、「第6章 考察・分析」で用いたクロス集計の結果を掲載する。 63ページ 1−2 書面調査 調査結果 1.回答者に関する質問 (1)事業内容(複数回答) @障害福祉サービスの実施機関 52団体 35.9% A職業能力開発訓練事業の実施機関 9団体 6.2% B情報提供施設 72団体 49.7% C視覚障害当事者団体 45団体 31.0% Dパソコンサポート団体 9団体 6.2% Eその他【※1】 24団体 16.6% F無回答 0団体 0.0% 全体 145団体 100.0% 【※1】盲導犬育成事業の実施機関、自治体委託事業の実施機関 等 (2)視覚障害者向けに実施している訓練や支援の内容(複数回答) @歩行訓練 60団体 41.4% AICT訓練、ICT技術習得のための支援 90団体 62.1% B日常生活に関わる訓練や支援 60団体 41.4% Cロービジョンに関する訓練や支援 48団体 33.1% Dその他【※1】 53団体 36.6% E実施していない 25団体 17.2% F無回答 0団体 0.0% 全体 145団体 100.0% 【※1】点字の訓練や指導、読書に関する訓練や支援 等 (3)視覚障害者向けに実施している訓練や支援の実施方法(複数回答)【対象:1−(2) 選択肢@〜Dを選択した回答者 120団体】 @入所する 18団体 15.0% A通所する 73団体 60.8% B希望者の自宅に訪問する 63団体 52.5% C特定の場所に集まって実施する 44団体 36.7% D電話やオンライン等で実施する 60団体 50.0% Eその他【※1】 14団体 11.7% F無回答 1団体 0.8% 全体 120団体 100.0% 【※1】メールでの相談対応、講師の派遣 等 (4)訓練や支援の希望者との繋がり方(複数回答)【対象:1−(2) 選択肢@〜Dを選択した回答者 120団体】 @役所からの紹介 69団体 57.5% A医療機関からの紹介 68団体 56.7% B視覚障害当事者からの紹介 98団体 81.7% C視覚障害の関係機関からの紹介 95団体 79.2% D相談支援事業所からの紹介 63団体 52.5% Eその他【※1】 35団体 29.2% F無回答 1団体  0.8% 全体 120団体 100.0% 【※1】本人から直接申し込み、教育機関、ハローワーク 等 2.「視覚障害者向けICT訓練等の実施機関」への質問【対象:1−(2) 選択肢Aを選択した回答者 90団体】 (1)ICTに関する訓練や支援の実施内容(複数回答) @パソコン等の基本操作 85団体 94.4% A画面読み上げソフトや拡大ソフトの操作方法 82団体 91.1% Bインターネットの操作方法 80団体 88.9% Cメールの操作方法 78団体 86.7% D文書作成の操作方法 65団体 72.2% E表計算の操作方法 49団体 54.4% Fあはき業で活用する事務処理の方法 13団体 14.4% Gその他【※1】 19団体 21.1% H無回答 1団体1.1% 全体 90団体 100.0% 【※1】点字ディスプレイの操作方法、プレゼンテーションソフトの操作方法、オンライン会議用ソフトの操作方法 等 (2)受講生のニーズに見合った訓練や支援が実施できているか @実施できている 57団体 63.3% A実施できていない 11団体 12.2% B分からない 21団体 23.3% C無回答 1団体 1.1% 全体 90団体 100.0% (3)ICTに関する訓練や支援の課題(複数回答) @人員が不足している 61団体 67.8% A教材が少ない 32団体 35.6% B移動が負担になっている 24団体 26.7% C訓練や支援を希望する者が少ない 19団体 21.1% Dニーズに合った対応ができない 17団体 18.9% E訓練や支援の時間が短い 15団体 16.7% Fその他【※1】 22団体 24.4% G無回答 3団体 3.3% 全体 90団体 100.0% 【※1】機材購入の予算不足、自治体からの予算不足、支援者の技能不足 等 (4)ICTに関する訓練や支援をさらに充実させたいか @充実させたい 83団体 92.2% A充実させたくない 0団体 0.0% B分からない 5団体 5.6% C無回答 2団体 2.2% 全体 90団体 100.0% 3.「視覚障害者向けICT訓練等の未実施機関」への質問【対象:1−(2) 選択肢Aを選択しなかった回答者 55団体】 (1)ICTに関する訓練や支援を実施しない理由(複数回答) @人材がいない 28団体 50.9% A設備・備品がない 27団体 49.1% Bノウハウがない 25団体 45.5% C予算がない 25団体 45.5% D場所がない 11団体 20.0% E当事者のニーズがない 6団体 10.9% Fその他【※1】 13団体 23.6% G無回答 9団体 16.4% 全体 55団体 100.0% 【※1】業務内容に含まれていない、近隣の他の団体が実施している 等 (2)ICTに関する訓練や支援を実施するために必要な要素(複数回答) @人材を整える 37団体 67.3% A設備・備品を整える 36団体 65.5% Bノウハウを整える 34団体 61.8% C予算を確保する 34団体 61.8% D場所を確保する 15団体 27.3% E当事者ニーズを顕在化させる 15団体 27.3% Fその他【※1】 3団体 5.5% G無回答 12団体 21.8% 全体 55団体 100.0% 【※1】施設の方針変更 等 (3)ICTに関する訓練や支援を実施するために必要な要素が揃えば、訓練や支援を実施するか @実施してもよい 20団体 36.4% A実施しない 5団体 9.1% B分からない 19団体 34.5% C無回答 11団体 20.0% 全体 55団体 100.0% 4.視覚障害あはき師への訓練や支援に関する質問 (1)視覚障害あはき師から、書類作成等のためにICTに関する訓練や支援を求められたことがあるか @ある 39団体 26.9% Aない 93団体 64.1% B分からない 8団体 5.5% C無回答 5団体 3.4% 全体 145団体 100.0% (2)あはきの療養費に関する書類の作成方法に関する訓練や支援は対応できるか @今すぐ対応可能 10団体 6.9% Aノウハウがあれば対応可能 40団体 27.6% B対応は難しい 71団体 49.0% C分からない 19団体 13.1% D無回答 5団体 3.4% 全体 145団体 100.0% 【主な回答理由】 A ICT訓練等の実施機関 90団体 @今すぐ対応可能 ・Excelであれば、既に訓練を実施しているので対応可能。 ・利用者が求めるのであれば、それに応えるのは視覚リハの理念だと思う。 Aノウハウがあれば対応可能 ・書類の書式や詳しい仕組みが分かれば、今の講師でも教えることはできる。 ・あはき業のことを詳しく理解できれば、対応ができそう。 B対応は難しい ・初歩的なICT訓練のみしか実施していないため難しい。 ・専門的な書類の作成方法を教えられる講師がいない。 ・経済活動が伴う行為は教えることができない。 C分からない ・視覚障害当事者からのニーズが分からないため判断ができない。 B ICT訓練等の未実施機関 55団体 @今すぐ対応可能 ・回答無し Aノウハウがあれば対応可能 ・回答無し B対応は難しい ・視覚障害者向けのICT訓練に対応できる講師がいない。 ・現在の事業が多忙なため、この事業のために人材等が用意できない。 ・専門的な書類の作成の訓練となると、実際に確実な書類が作れるかどうかは、担保できない。本人のスキルの差に大きく影響すると思われる。 C分からない ・視覚障害当事者からのニーズが分からないため判断ができない。 5.アンケートに寄せられた主な意見(自由記述を整理) (1)視覚障害の利用者に関する意見  @訓練内容の課題  ・視覚障害者に言葉だけで訓練内容を伝えることは難しい。 その結果、訓練生がなかなか訓練内容を理解してくれない。  ・高齢の視覚障害者は、しっかりと覚えるまで時間がかかる 者が多い。  ・個別訓練になることが多く、当施設にとっては負担になっ ている。  ・ユーザーそれぞれでパソコンの設定が異なるため、教える たびに設定を変えないといけない。  A当事者ニーズの課題  ・当事者ニーズが顕在化されていないため、事業として実施 してよいのかどうか分からない。 (2)訓練機関等に関する意見  @人材関連の課題  ・ICTの領域は変化のスピードが早いので、小規模な団体では対応できる講師が揃えられない。  ・対応できるボランティアが高齢化していて、今のままでは対応は難しい。  A設備の課題  ・公共交通機関が乏しい所に施設があるため、視覚障害者が移動できない。  ・予算がないため、パソコンや専用ソフト等の設備を揃えることが難しい。  B運営の課題  ・主たる事業で手いっぱいのため、新しいことに取り組む余裕がない。  ・土日や夜に訓練を行ってほしいと言う要望があるが、こちらの施設では対応できない。 (3)新型コロナウイルスに関する意見  @人材関連の課題  ・コロナ以降、高齢のボランティアからの協力は得られにくくなった。感染の不安から外に出ることを控えているのが原因のようだ。  A設備の課題  ・研修会等を開催する際、会場の人数制限があり、多数の受講者を集めるのが困難になった。また、広い会場は少なく、会場確保が難しい。  ・オンラインでの訓練や支援を行うために、必要な機材、ノウハウ、人材の準備に対して補助がない。  B訓練方法の課題  ・視覚障害者の横について実技指導をすることがあり、指導方法に苦慮している。  ・視覚障害者への訓練はどうしても密接を伴う。そのため、オンライン授業が活用できないかを検討している。  ・職業訓練の一環で、企業見学や職場実習ができなくなっている。訓練生の就職活動が遅れないか心配している。 82ページ 2−1 ヒアリング調査 調査概要 1.調査目的  書面調査での調査結果の一部が不明確な調査対象に対して、その詳細等を確認するため、ヒアリング調査を実施した。 2.調査対象 (1)障害福祉サービスの実施機関 (2)パソコンサポート団体 3.調査方法  ・調査員からの口頭でのヒアリング。   4.調査日、実施方法 (1)障害福祉サービスの実施機関   日時 令和3年2月23日   実施方法 会議室において対面方式で実施 (2)パソコンサポート団体   日時 令和3年3月23日   実施方法 オンライン上で実施 5.調査結果の掲載方法  対象者への調査を実施する理由を整理した上で、ヒアリング内容と回答を整理し、項目ごとに掲載する。 83ページ 2−2 ヒアリング調査(障害福祉サービス) 結果 1.調査の実施理由  全国で視覚障害者向けの訓練や支援を実施している機関等を対象にした書面調査の結果、様々な回答が寄せられ、視覚障害者へのICTに関する訓練や支援は、実施内容や訓練頻度、方法等に違いが生じていることが分かった。  その中で、障害福祉サービスの実施機関は、視覚障害者向けのICT訓練等を比較的安定した形で実施しているICT訓練機関等の一つであることが分かった。検討委員会の委員からは、「障害福祉サービスは国の給付制度に基づくものであることから、利用者が安定的に訓練等を受けるために存在する」との指摘があった。実際の回答を見ると、ICT訓練等の実施率は比較的高く、安定的に実施していることが読み取れた。また、自由記述を見ると、視覚障害リハビリテーションの考えに基づいて事業を実施している機関では、ICT訓練等に対して積極的で、視覚障害あはき師への訓練等についても前向きな姿勢が読み取れた。  しかし、書面調査であったため、障害福祉サービスの実施機関が、具体的にどのような訓練や支援を行っているのかは分からなかった。また、訓練や支援を行う上で課題となっている内容の詳細までは、書面調査では判明していない。  そのため、これらを明らかにするために、視覚障害者に対するICT訓練を実施している障害福祉サービスの実施機関に対して、ヒアリング調査を行った。 2.調査対象者 (1)D団体  所在地:埼玉県  事業内容:自立訓練(機能訓練)の実施機関  備考:その他に自立訓練(生活訓練)、就労移行支援、就労移行支援(養成施設)等を併設している多機能型施設である。 3.ヒアリング内容と回答 (1)自立訓練(機能訓練)の実施内容 @概要 ・訓練を希望する視覚障害者の持てる力を最大限に生かし、より充実した生活を送れるようにすることを目的に訓練を実施している。 ・ICT訓練の他に、歩行訓練、日常生活訓練、点字訓練、ロービジョン訓練等を実施している。 A実施方法 ・主に入所と通所で訓練を行っている。入所施設も完備している。 ・利用者にアセスメントを行った上で支援計画書を作り、その利用者に合った訓練を実施している。 ・近隣への訪問訓練も行っているが、令和2年度は新型コロナウイルスの影響で実施できなかった。 B訓練を受ける視覚障害者 ・中途の視覚障害者が多く、平均年齢は50歳前後となる。ただし、年齢層は幅広く、近年の実績では10代〜80代の視覚障害者が利用している。 ・全盲と弱視の割合は半々になっている。 ・平均利用期間は約5.4か月になる。 C繋がり方 ・利用者からの口コミ、病院からの紹介が多い。 (2)ICT訓練の実施内容 @概要 ・利用者の希望に沿った内容で訓練を実施している。 ・専用の部屋を用意し、ほぼマンツーマンに近い形で訓練を実施している。 ・講師は、非常勤のICT専門の担当者2名が対応している。 A指導内容 ・利用者から希望があるものは全て対応するようにしている。初歩的な内容から上級者向けの内容まで対応している。 ・初歩は文字入力で、これを覚えてから希望に沿った訓練を実施することが多い。進度によっては、希望があればホームページの作り方等を教えている。 ・利用者の様子を見ながら、講師から他の課題を提案することもある。 B設備 ・利用者の要望に応えるため、パソコン、タブレット、スマートフォン、各種ソフトを用意している。 ・ICT専用の部屋があるので、利用者が来ればすぐに訓練が実施できる。 C人材 ・講師の数は揃っている。利用者に寄り添いながら訓練を行っており、利用者からの評判も良い。 ・ただ、視覚障害者への指導はマンパワーが重要なので、もう1名講師がいたら、もっときめの細かい指導ができると思うこともある。 Dその他 ・ICT訓練は、訓練を受けてすぐに身に付きやすい内容が多いことから、本人の成功体験に繋がりやすく、本人のやる気を引き起こす効果がある。 ・周りに別の利用者がいると、その利用者の訓練内容を要望するケースがある。これは「あの人ができるのであれば、自分も挑戦してみたい」という理由が主で、ある意味で相乗効果のようなものだと思う。施設で実施する訓練ならではのメリットになっている。 (3)書面調査では分からなかった内容 @個別的なニーズへの対応 ・利用者ごとに見え方や行動、そしてニーズに差があるのは当たり前だと考えている。そのため、その利用者の希望に合わせて訓練内容を変えることが基本だと思う。 ・上記の考えがあるので、視覚障害者の訓練はマンツーマンが効果的だと思っている。集団訓練はなじまない部分がある。 AICTの進歩への対応 ・利用者から最新のソフト等の使い方を求める要望は結構ある。例えば、ここ最近だと、Zoom等のオンライン会議用ソフトの使い方を教えている。 ・最新のものを教えるためには、講師も新しいことを学ばなくてはならない。そのため、講師が自発的に講習会に行くこともある。 B訓練後の支援の対応 ・修了生の中には、ICT関連で分からないことがあると支援を求める者もいる。電話等で相談を受け、場合によっては訪問することもある。 ・ICT訓練を受けた後の困り事への支援は必要だと思う。ICTは絶えず進歩しているので、その進歩に合わせるためには必要だろう。 C視覚障害あはき師への書類作成の指導 ・ほかの部署で視覚障害者向けのあはき師の養成を行っているため、ICT訓練の中では書類作成の指導は行っていない。 D視覚障害あはき師が利用しやすい入力ソフト【※1】 ・縦移動で入力する方法は、教える側にとっても分かりやすいと感じた。 ・今の時代であれば、オンライン上でブラウザ入力・エラーチェックができ、そのまま申請ができたら良いと思う。  【※1】162ページに掲載したExcel版「療養費支給申請書(入力補助シート付)」を用いて、ICT訓練の講師にパソコンでの書類作成のデモテストを実施した。上記の回答は、デモテスト終了後に求めた感想になる。 (4)新型コロナウイルスの影響 @訓練への影響 ・安全対策として、利用者同士が接触しないように、訓練の時間をずらすことがある。利用者同士の交流も大切だが、こればかりは仕方がない。 ・新型コロナウイルスの影響により、様々なものが変わってしまい、困っている視覚障害者は多いと思う。ただ、視覚障害者がICTスキルを身に付けることで、その変化に対応できる可能性はある。そのため、この状況をチャンスと捉え、視覚障害者が安心してICTを学べる環境を作ることが大切だと思う。 Aオンライン訓練 ・利用者が施設に来られないこともあるので、Zoomを活用した訓練を実施している。これは移動の手間が省ける等の効果があり、訓練を行う側、受ける側の双方にメリットがある。 ・オンライン訓練は、今後もっと活用できると考えている。例えば、訓練を受けた利用者が地元に戻った後、何か困ったことがあれば、オンライン訓練として支援ができるかもしれない。 ・現状の障害福祉サービスでは、オンライン訓練には報酬上の点数が付かないので、このオンライン訓練に点数が付くと助かる。 4.まとめ (1)ICT訓練等の在り方  ・訓練を受ける視覚障害者の見え方・ニーズ等に合わせてマンツーマンに近い形で実施することが求められている。  ・専門機関でのICT訓練の効果は高く、入所等の集中型の訓練になると、効果はさらに高くなる。 (2)ICT訓練後の支援の在り方  ・ICTスキルを身に付けた後も、視覚障害者への継続的な支援は必要になっている。  ・オンライン訓練等を活用できれば、ICTに関する継続的な支援が実現できる可能性がある。そのためには、制度面の整備が必要になる。 88ページ 2−3 ヒアリング調査(パソコンサポート団体) 結果 1.調査の実施理由  書面調査を実施した中では、パソコンサポート団体からの回答は、他の事業内容を実施する機関等よりも回収率が低かった。調査票の配布先については、検討委員会の委員からの情報を整理して依頼先を選定したものの、想定していた数は回収できなかった。同委員からは、「これらの団体は、常設の事務所がない団体やボランティアを中心に、月に数回だけ開催する団体も多く、調査票が届いたものの回答する余裕がなかった可能性がある」との指摘があった。  一方で、調査を進める中で、パソコンサポート団体を通してICTスキルを学んだ者が多いことが分かった。視覚障害あはき師への書面調査では、ICT訓練を受けた先として、37.1%の者がこれらの団体を利用した結果が出ている。また、視覚障害あはき師へのヒアリング調査でも、調査対象の一人は、これらの団体からパソコンの操作方法を教わったと回答している。この限りでは、視覚障害者にとってパソコンサポート団体はICTスキルを獲得するための重要な拠点となっている。  しかし、これらの団体は各地で様々な方法により、視覚障害者にパソコン関連の指導や支援を行っていることから、平均的な姿が整理されていない。例えば、前述したボランティアを中心に、月に数回だけ開催する団体もある一方で、常設の教室や事務所を設けて積極的に活動している団体もあり、どのような団体がパソコンサポート団体なのかが分かりにくい。また、視覚障害者に対して、ICTスキルを学ぶための指導や支援を行っていることは分かるが、どのような方法で実施しているかも整理されていない。  そのため、これらの不明確な点を明らかにするため、パソコンサポート団体に対して、ヒアリング調査を行った。 2.調査対象者 (1)E団体  所在地:東京都  事業内容:パソコンサポート団体  備考:常設の教室と事務所を併設している。 3.ヒアリング内容と回答 (1)主な実施内容 @概要 ・視覚障害者向けパソコン講座の開催を中心に活動している。個人利用者からの依頼の他に、企業の在職者訓練の依頼にも対応している。 ・インストラクター養成講座も実施している。 ・ICTに関する簡単な相談は、メールや電話で無料で対応している。 A実施方法 ・講座は基本的には事務所内の教室で実施している。ここ最近は、Zoomを使ったオンライン講習にも力を入れている。 ・利用者からの依頼を聞いた上で、オーダーメイド型のマンツーマン指導が多い。利用者が希望する内容をしっかりと教えられるように指導している。 ・夜間や土日には、特定のテーマに絞ったワンポイント講座を開催している。働いている視覚障害者向けの内容が多く、集中型の連続講座も開催している。 B指導を受ける視覚障害者 ・様々な視覚障害者から依頼がある。年間では150人〜200人程度を指導している。 ・これまでは所在地周辺の利用者が多かったが、オンライン講習を開始したことで、地方からの利用者も増えている。 C費用 ・基本は1時間2,200円を頂いている。集中型コースだと3日間で約2万円前後のものもある。 ・公的な支援がないため、やはり、このくらいの金額がかかってしまう。ただ、利用者の皆さんは、教えたことは必死に覚えようとしているので、費用を出してくれる。私たちも、頂いた費用の分は、しっかりと指導できるように努力している。 D繋がり方 ・利用者からの紹介が多い。 ・ここ最近はメールで流す情報やホームページに掲載した情報から利用に繋がることも多い。 (2)視覚障害者向けのパソコン講座の実施内容 @指導内容 ・視覚障害者の場合、利用者によって見え方やニーズが違い、使うソフトやシステムも違う。そのため、画一的な指導はできないと考え、オーダーメイド型の指導を実施しており、結果的にマンツーマン指導が多くなっている。 ・利用者のニーズに応じた指導が重要で、講座の中では、教える内容をその場で変えることもある。利用者のニーズに合わせて柔軟に対応することが大切だと思う。 ・顔を見ながら授業を行うことで、その利用者とのコミュニケーションが生まれ、他の内容の指導に繋がったり、その利用者のやる気を起こしたりすることができる。 A設備 ・助成金を頂いており、このお金で備品を揃えている。大変助かっている。 ・パソコン本体等のハード面よりも、ソフト代の方が負担になっている。その受講生の環境に合わせたソフトを使う必要があり、例えば、画面読み上げソフトは何種類もあるので、数種類用意することになる。 B人材 ・講師は視覚障害者4名、晴眼者2名で対応している。 ・晴眼者の講師は、弱視の利用者への指導を担当することが多い。弱視の利用者の場合は、画面を見る作業があるため、視覚障害者の講師では対応できない。 ・人材不足は常に感じている。特に、視覚障害者にパソコンを教える講師は、様々な知識やノウハウが必要になるため、教えられる人材に育てることが大変で、結果的に講師不足になっている。 CICTの進歩への対応 ・利用者から相談を受けて、新しいシステムやアプリがあることを初めて知るぐらいで、日々、講師も勉強している。 D受講する視覚障害者の特徴 ・年齢によって習熟度の違いは多少ある。 ・弱視の場合、音声と見ることを併用している人への指導は難しいと感じる。 ・昔と比べると、いわゆる「初心者」は減ったように思う。昔はパソコンの購入レベルからの相談だったが、今はある程度基礎力が備わっている人が多い。 ・Zoom等のオンライン会議用ソフトは、利用方法から教えてほしいという依頼は少なく、簡単な指導だけで使える人が多い。もし、使えない人がいたら電話で指導する等の工夫をして対応している。 (3)就労している視覚障害者への指導 @在職者訓練 ・開始前に本人や企業と面談を行い、オーダーメイド型の訓練を実施している。オフィスアプリや最新のシステム等も教えている。 ・東京都の事業なので、都内に在住・通勤の人が対象。平日の昼間に研修として実施している。 ・今年に入り、ヘルスキーパーからの依頼が多い。おそらく、新型コロナウイルスの影響で、その企業でヘルスキーパーの仕事が減少したため、事務職等に配置転換するために依頼があるようだ。 ・まだまだ真剣に視覚障害者の就労を考える企業は少なく、もっと企業にこの訓練を活用してほしいと思っている。 A就労している視覚障害者からの相談 ・実践的な内容を指導してほしいと依頼があり、プレゼン用資料作成方法等の講座が人気になっている。 ・日中は仕事をしているためか、依頼は土日や夜に多い。 ・オンライン講座の利用は、就労中の視覚障害者が多い。 B社内システム関連 ・コロナ以降、テレワークをする視覚障害者から、社内システムに関する相談が寄せられることが多い。ただ、その社内システム自体が、画面読み上げソフトとマッチするかどうかの問題が強く、アドバイスはするが、結局はそのシステムの問題になってしまう。講座として対応しようにも、その職場と同じ環境は作れないので、パソコン講座の中で解決するのは難しい。 ・こういった社内システムの解決等をするためには、もっと視覚障害に特化したジョブコーチが必要だと思う。 C視覚障害あはき師からの相談 ・利用者には、どのような仕事に就いているかを聞いていないので、どの位の視覚障害あはき師が利用しているかは分からない。 ・あはきの書類に関する支援の依頼はあまり多くない。 ・コロナ以降は、ヘルスキーパー個人からの相談が増えている。将来に対する不安があるのか、土日に自主的に依頼する人もいる。 (4)講師の養成、情報提供 @インストラクター養成講座 ・視覚障害者のICT利用を全国で広めるためには、まずは教える講師を増やすことが必要だと思い、約20年前から開催している。 ・令和2年度は新型コロナウイルスの影響で開催できなかった。例年は年間6回程度開催し、20人〜30人ぐらいの人が受講している。 ・訓練施設、情報提供施設、パソコンサポート団体等の職員や担当者が受講している。晴眼者が中心だが視覚障害者も受講している。 ・時間をかけてこの講座を実施したことで、地方の視覚障害者から相談があれば、その地方で訓練や指導ができる所を紹介することができるようになった。 ・こういった支援者を育てるためには、国からの支援制度があっても良いと思う。 A情報提供活動 ・@の講座と同じく、視覚障害者のICT利用を全国で広めるために、視覚障害者のICT利用に関する様々な情報をホームページ等で発信している。現在は、視覚障害者用ソフトウェア一覧等を公開している。 ・これらの情報は、視覚障害当事者に加え、その視覚障害者を雇っている企業に伝えたいと思っている。そのため、啓発動画等を作成し、ホームページで公開している。 (5)他のパソコンサポート団体の活動状況 @活動実態 ・知っている範囲だと、全国で200ぐらいの団体があると思う。 ・活動方法は様々で、日常業務として受けられる所は半分ぐらいだと思う。半分は、週末のみや月1〜2回とか、ボランティアとして限定的に行っている所も多い。 A地域での支援 ・オンラインの方法が普及はしてきたが、地域の視覚障害者への支援は、地域で担うことが大切だと思う。 ・視覚障害者の中には、未だに携帯電話が使えない人もいて、ICTのスタートラインに立てない人も多い。そのような人には、地域で触れ合いながらパソコンを教える環境がないといけない。オンラインの良さもあるが、オンライン一辺倒になってはならず、地域での支援も必要だ。 ・大切なのは、その視覚障害者に合った支援の方法が「選べること」だと思う。そのため、全ての視覚障害者に対応できるよう、支援の幅は広い方が良いと思う。 (6)その他 @新型コロナウイルスの影響 ・対面での授業の回数が極端に減った。そのため、オンライン講座を本格的に実施するようになった。 Aオンライン講座の活用 ・オンラインでの講座を開催するようになり、全国の人と繋がれるようになった。パソコン操作を教えてくれる団体等がない地域の人達にとっては、こういった方法は喜ばれている。 ・オンラインであれば、視覚障害者へのパソコン指導を行う講師の養成もできると考えている。デジタル化が進む現在、視覚障害者が取り残されないためにも、このような養成を通して、指導者の確保も必要になっている。 B国や制度への要望 ・働く視覚障害者にとって、在職者訓練とジョブコーチは車の両輪だと思っている。在職者訓練でスキルを高め、ジョブコーチが社内システム等の利用方法を支援することが大切だろう。そのため、これらに携わる者のスキルを高めることが必要だと思う。今の時代であればオンラインでも対応ができるだろう。ぜひ、これらに携わる者への公的な支援を実施してほしい。 4.まとめ (1)ICT関連の視覚障害者からのニーズ  ・様々な視覚障害者からニーズがあり、特に就労している視覚障害者は、自身の仕事に必要なICTスキルの獲得を求めている。  ・利用者の希望内容は多岐にわたり、内容面と条件面で大きく分かれている。 (2)ICT訓練等の在り方  ・指導を受ける視覚障害者の見え方・希望内容等に合わせて、マンツーマンに近い形で実施することが求められている。特に、利用者の希望内容に柔軟な対応が求められている。  ・これらのニーズを補完する方策の一つに、オンラインの活用が挙げられる。ただし、全ての視覚障害者に活用できるものではないことを、留意する必要がある。 (3)視覚障害者へのICTに関する支援者の養成  ・全国の視覚障害者に、ICTに関する訓練や指導を行うためには、ICTを教える支援者の確保が求められている。特に、高齢者等のICTを苦手とする視覚障害者を支援するためには、地域レベルでの支援が必要であることから、地域で活動できる支援者の確保が求められている。 95ページ 第5章 調査B あはき師養成機関に対する調査 96ページ 1 書面調査 調査概要 1.調査目的  視覚障害あはき師の養成機関に対して、ICT関連の指導の現状とニーズを把握するために実施した。 2.調査対象  視覚障害あはき師の養成を行う機関【※1】 65団体   【※1】主に盲学校(視覚特別支援学校)とあはき師養成の専門校を対象とする。なお、盲学校(視覚特別支援学校)については、あはきの養成課程がある学校のみを対象とした。 3.調査方法  ・調査票の配布によるアンケート調査。  ・調査票は161ページの墨字版の他に、希望者にはテキス ト版を配布した。調査対象者は回答しやすい方法を選択し、郵送またはメール送信で回答を提出した。  ・あはきの業務において使用する書類を知らない回答者がい ることを想定し、162ページの療養費支給申請書を参考資料として添付した。   4.調査期間  令和3年1月22日〜2月10日 5.回収率  80.0%(52団体/65団体) 6.回答の傾向  ・全国から平均的に回答が得られた。   7.調査結果の掲載方法  ・設問名と選択肢の一部は改題を行った上で掲載している。  ・一部の調査結果には、「第6章 考察・分析」で用いたクロス集計の結果を掲載する。 97ページ 2 書面調査 結果 1.あはき師養成課程の生徒への指導に関する質問 (1)ICT関連の指導を実施しているか @実施している 46団体 88.5% A実施していない 6団体 11.5% B無回答 0団体 0.0% 全体 52団体 100.0% (2)あはきの業務で必要となる書類をパソコン等で作成する指導を実施しているか @実施している 35団体 67.3% A実施していない 7団体 32.7% B無回答 0団体 0.0% 全体 52団体 100.0% (3)あはきの業務で必要となる書類をパソコン等で作成する指導を実施している科目名はなにか(複数回答)(自由記述を整理)【対象:1−(2) 選択肢@を選択した回答者 35団体】 @情報処理関連 27団体 77.1% A臨床実習関連 13団体 37.1% Bその他【※1】 12団体 34.2% C無回答 17団体 32.7% 全体 35団 体100.0% 【※1】社会科学概論、自立活動、医療情報、総合演習 等 (4)あはきの業務で必要となる書類を、パソコン等で作成する指導において、指導している書類の内容はなにか(複数回答)(自由記述を整理)【対象:1−(2) 選択肢@を選択した回答者 35団体】 @カルテ 30団体 88.2% A業務関連の書類 7団体 20.6% B学内のレポート作成 6団体 17.6% C広告等の宣伝材料 4団体 11.8% Dその他【※1】 2団体 5.9% E無回答 18団体 34.6% 全体 35団体 100.0%  【※1】履歴書 等 2.あはき師養成課程の卒業生に関する質問 (1)あはき業の業務において、必要となる書類作成に対応するため、ICT関連の指導や支援等の相談を受けたことはあるか @ある 17団体 32.2% Aない 35団体 67.3% B無回答 0団体 0.0% 全体 52団体 100.0% (2)パソコン等を用いた書類作成に関する相談を受けた場合、入力方法等の指導や支援等を行うことは可能か @対応可能 19団体 36.5% Aノウハウがあれば対応可能 23団体 44.2% B対応は難しい 9団体 17.3% C無回答 1団体 1.9% 全体 52団体 100.0% 3.視覚障害の生徒の全体に関する質問 (1)ICT関連の指導や支援等を行う上で、難しい点や課題はあるか(複数回答)(自由記述を整理) @生徒のスキルの差 23団体 44.2% A時間がない 12団体 23.1% B教員の指導力不足 12団体 23.1% C設備が揃わない 9団体 17.3% D指導方法が未確立 7団体 13.5% E書類自体が難しい 5団体 9.6% Fその他【※1】 7団体 13.5% G無回答 5団体 9.6% 全体 52団体 100.0% 【※1】予算不足 等 101ページ 第6章 考察・分析 102ページ 1 視覚障害あはき師に対する調査 1.回答者について (1)回答者の傾向 【図6−1−01 回答者の年齢】 @20代 6名 A30代 10名 B40代 48名 C50代 101名 D60代 179名 E70代以上 116名  視覚障害あはき師への書面調査は、全国から460名の回答が集まった。回答者の年代は60代が38.9%と最も多く、視覚障害者の年齢階層に見合った回答が得られた。また、70代以上の者からも多くの回答が集まったことから、あはき業が視覚障害者にとって年齢を重ねても続けられる仕事であることが示されている。  また、視覚障害の程度を確認すると、全盲の者からの回答が60.0%となった。点字での回答が20.0%であることを考慮すると、今回の書面調査は、視覚障害あはき師の中でも書類の作成が困難な者を中心に回答が集まったと考えられる。  なお、年齢を分析するにあたり、20代、30代、40代は回答数が少なかったことから、「20〜40代」として一つにまとめることにした。 (2)ICT機器の利用状況 【図6−1−02 ICT機器の利用状況】 @仕事とプライベートで利用している 48.5% A仕事で利用している 2.6% Bプライベートで利用している 20.9% Cそれほど利用していない 6.3% D利用していない 19.6% E無回答 2.2%  パソコン等のICT機器の利用状況を確認すると、仕事でもプライベートでも利用している者が多く、合計72.0%の者がICT機器を利用していた。この結果は、全盲と弱視で差はなく、今や視覚障害者にとってICT機器を使用することは、ごく日常的なことであることが示された。  しかし、この結果を裏返すと、合計25.9%の者がICT機器を利用していないことも示されている。特に、高齢になるほどICT機器を利用していない傾向が見え、70代以上では合計37.0%の者が「それほど利用してない」「利用していない」と答えている。書面調査の自由記述では、高齢のためにICTスキルの獲得が難しい旨の回答が多く寄せられていた。これらの結果を踏まえると、高齢を理由にICTスキルの獲得を諦めている傾向が読み取れる。もちろん、その者の体力や気力に関する影響もあるかもしれないが、その者の近くに頼れる存在がいないため、結果的に諦めてしまっていることがうかがえる。 2.あはき業について (1)あはき業の関わり方 【図6−1−03 あはき業の関わり方(複数回答)】 @自宅等で個人事業主として開業 69.1% A自身で会社組織を立ち上げて開業 2.0% Bあはき施術所等に勤務 12.8% C企業等にヘルスキーパーとして勤務 2.8% D施設等に機能訓練指導員として勤務 7.0% Eその他 12.2% F無回答 2.2%  あはき業の関わり方については、個人事業主でありながら施設等に機能訓練指導員として勤める等、一部の者はあはき業の関わり方を複数回答していた。ただし、多くの者は単一回答をしており、64.0%が個人開業の者であった。この個人開業の者を中心に回答が集まったことは、視覚障害あはき師の中でも書類の作成が困難な者を中心に回答が集まったことを裏付ける結果とも言える。  一方でヘルスキーパーや機能訓練指導員等の企業等に雇用されている視覚障害あはき師の回答は少なかった。これらの者については、書面調査では回答数が少ないため、現状やニーズが掴み切れなかった。そのため、ヘルスキーパーの視覚障害あはき師に対して、別途ヒアリング調査を行うこととなった。  なお、今回の調査では地域性の違いは分析の対象としなかった。あはき業への関わり方は、地域性によって異なる可能性があり、例えば、上記の企業等に勤めている者は、首都圏に住んでいる者の方が多いと思われる。しかし、この地域性を整理できるまで回答が集まらなかったことから、地域性の分析は行わなかった。この点は今後の検討課題となる。 (2)療養費の取り扱い 【図6−1−04 あはき業における療養費の取り扱い(ICT機器の利用状況別)】 A 全体 @取り扱っている 40.9% A取り扱っていない 54.8% B ICT利用あり @取り扱っている 44.1% A取り扱っていない 53.8% C ICT利用なし @取り扱っている 35.3% A取り扱っていない 61.3%  療養費の取り扱いについては、全体で40.9%の者が「取り扱っている」と回答した。ただし、あはき業の関わり方により差があり、ヘルスキーパーや機能訓練指導員として企業や施設に勤務する者は20%前後の取り扱い率になっている。  そして、この結果について検討委員から「取り扱い率が予想以上に高いと感じた」との指摘があった。つまり、以前と比べて視覚障害あはき師の中で療養費の取り扱いが増えた可能性があるようだ。例えば、ヒアリング調査では、都内の視覚障害あはき師が療養費の書類作成を代行業者に依頼しているとの回答があった。ただし、代行業者を利用するにも、最低限メールが送信できる程度の基礎的なICTスキルが必要とされ、「ICTスキルがない者では、代行の依頼は難しいこともある」との指摘もあった。  これらを整理すると、視覚障害あはき師がICTスキルを身に付けたことで、療養費の取り扱い率が増えた可能性はあるのかもしれない。療養費の取り扱いの有無を、ICT機器の利用状況別に確認すると、ICT利用がある者は44.1%の取り扱い率になり、数字上は利用率が上がっている。この結果だけで、ICTスキルを身に付ければ療養費の取り扱いが増えるとは言い切れないが、取り扱いを増やすための要因の一つになるのかもしれない。 (3)あはき業における重要な書類の作成方法 【図6−1−05 あはき業における重要な書類の作成方法(複数回答)(年代別)】 A パソコン @全体 32.6% A20〜40代 29.6% B50代 37.6% E60代 36.3% F70代〜 24.1% B 墨字 @全体 11.3% A20〜40代 12.5% B50代 13.8% E60代 10.6% F70代〜 9.4% C 点字 @全体 13.7% A20〜40代 9.3% B50代 3.9% E60代 16.2% F70代〜 20.6% D 他者 @全体 16.7% A20〜40代 23.4% B50代 13.8% E60代 13.4% F70代〜 20.6% E 作成なし @全体 18.9% A20〜40代 17.1% B50代 22.7% E60代 17.8% F70代〜 18.1% F その他 @全体 6.3% A20〜40代 9.3% B50代 8.9% E60代 4.4% F70代〜 5.1%  書類の作成方法については、回答者の特性によって大きく差異が出ることが予想できたことから、複数の調査結果とのクロス集計を行い、詳細な分析を行った。  まず、パソコンで作成する者が全体で32.6%となり、他の手段よりも多い結果になった。ただし、年代による差はあり、70代以上の者になるとパソコンで作成する者は24.1%に下がっている。なお、パソコンを利用しない者は「点字」「他者への指示」で作成している傾向が強かった。  さらに、年代別で気になるのは20〜40代のパソコン利用率が若干低い点だ。これは、あはき業の関わり方と連動し、企業に雇用されている者が他の年代より20〜40代の方が少し多い点が影響していると思われる。企業等に勤めている場合、その企業等の晴眼の職員等に、書類作成の依頼ができるだろう。そのためか、20〜40代は「他者への指示」が増えている。  一方で「作成なし」と答えた者は18.9%だった。この点は年代や視覚障害の程度、あはき業の関わり方等でクロス集計を行ったが明確な理由は分からなかった。回答者別の個別事情が深く影響しているのかもしれない。 (4)あはき業における書類作成の困り具合 【図6−1−06 あはきの業務の中で、重要な書類作成に困っているか】 @困っている 37.6% A困っていない 45.9% B分からない 12.6% C無回答 3.9%  視覚障害あはき師がどれほど書類作成に困っているかを確認したところ、全体で37.6%の者が「困っている」と回答した。一方で45.9%の者が「困っていない」と回答した。数字で比べると「困っていない」の方が多くなっている。この違いには何か背景があるのだろうか。複数の調査結果とのクロス集計を行い、詳細な分析を行った。 @誰が困っているのか  まず、年代別では高齢になるほど「困っている」の比率が増えており、20〜40代と70代を比べると約10%の乖離があった。そして、視覚障害の程度の違いでは、全盲の方が「困っている」と回答した。また、あはき業の関わり方の違いでは、企業に勤めている者より個人開業の者の方が「困っている」と回答した。さらに、書類の作成方法の違いでは、点字で作成する者の58.7%が「困っている」と回答した。  これらの結果を踏まえると、視覚障害あはき師の中で、書類作成に困っている者のイメージは、高齢で全盲、個人開業でICTスキルが低い者になる。 AICTスキルがあれば書類作成に困らないのか  まず、ICT機器の利用状況の違いでは、ICT機器を利用している者の方が「困っている」と回答した。また、療養費の取り扱いの違いでは、療養費を取り扱っている者の方が「困っている」と回答した。  書面調査を行う際は、ICT機器を利用していない者の方が書類作成における困り事が多いだろうと考えていたが、この結果を踏まえると、パソコンを業務で使用したり療養費を取り扱ったりする者の方が、困り事が多いようだ。確かに、書面調査の自由記述を確認すると、書類作成を行うにあたり「記入欄が小さく、書き込めない」「書類の記入欄が複雑で入力ができない」等の具体的な作業の困難さを挙げる者が多かった。また、視覚障害あはき師に対するヒアリングでは、具体的な事例紹介があり、視覚障害あはき師の業務範囲が広がるほど、困り事が増えていることが分かった。  つまり、あはき業の書類作成においては、たとえICTスキルがあったとしても、視覚障害あはき師には対応が難しい業務が多いことが示された。 B書類作成に困っていない者は本当に「困っていない」のか  書面調査では45.9%の者が、書類作成に「困っていない」と回答した。この回答者には、その理由も尋ねており、弱視であれば「自分で記入ができる」と回答し、全盲であれば「他者に依頼している」と回答する傾向が強かった。  しかし、この結果の取り扱い方は注意が必要だ。例えば、弱視の者であれば、今後見え方が変わっていく可能性はあり、もし視力が急激に低下して書類が見づらくなった場合、今までどおりに書類を作成することができるのだろうか。また、全盲で家族等に書類作成を依頼していた者が、何らかの理由で家族等からの支援が受けられなくなった場合、どのように対処するのだろうか。おそらく、環境が変わったこれらの弱視や全盲の者は、書類作成ができなくなるであろう。  つまり、視覚障害あはき師において「困っていない」と回答した者は、「困っている」の予備軍ではないだろうか。この点を注意した結果の整理が求められる。 (5)書類作成におけるICT訓練等への期待 【図6−1−07 書類作成に困っている場合、自分一人で書類を作れるようになりたいか】 @思う 90.2% A思わない 3.5% B分からない 4.6% C無回答 1.7%  2−(4)では、視覚障害あはき師の37.6%の者が書類作成に困っていることを紹介した。では、これらの者は書類作成の困り事を解決したいと考えているのだろうか。この37.6%の回答者(156名)には、追加で「自分一人で書類を作れるようになりたいか」との質問を行った。その結果、90.2%の者が「一人で作れるようになりたい」と回答した。この結果も、複数の調査結果とのクロス集計を行ったが、それぞれで大きな差異はなかった。つまり、書類作成が困難な全ての視覚障害あはき師は「自分一人で書類を作れるようになりたい」と考えていることが分かった。  ただし、何をもって「一人で書類作成を行えるようになるか」までは本調査では整理することができなかった。書類作成に関するニーズの高さは確認できたが、どのように対応すべきかは、さらなる整理が必要である。それこそ、書面調査の自由記述では、ICT訓練等に期待する声もあれば、人的な補助を求める声もあった。さらに、ヒアリング調査では、「書類作成は正確さが重要」との指摘があった。あはきに関する書類は複雑なものが多く、書類作成の正確さが重要視されるのは理解できる。そのため、「一人で書類作成を行える」ようになるためには、書類作成の正確さも担保されなくてはならない。 3.ICT訓練等について (1)ICT訓練等を受けた経験 【図6−1−08 CT訓練等を受けた経験】 @ある 28.7% Aない 38.7% B独自にパソコン等の操作方法を覚えた 29.6% C無回答 3.0%  書面調査では、全国の視覚障害あはき師がどのような形でICTスキルを身に付けたかを調べるために、ICT訓練等の経験の有無を確認した。その結果、ICT訓練等を受けたことが「ある」と回答した者は28.7%、「ない」と回答した者は38.7%、「独自にパソコン等の操作方法を覚えた」と回答した者は29.6%であった。  この結果も複数の調査結果とのクロス集計を行ったところ、年代の違いでは、年齢が高くなるほど訓練を受けてない者が増えていた。高齢の視覚障害あはき師は、若い頃はICT訓練等が普及していなかった可能性があり、ICTスキルを獲得する機会が他の年代よりも少なかったのかもしれない。また、視覚障害の程度の違いにも差があり、弱視の方がICT訓練等を受けたことがない者が多かった。これらの弱視の者は、画面等を見ながら独自に操作を覚えた可能性が高いと考えられる。つまり、どのようにしてICTスキルを獲得したかは、その者の個別事情によって大きく左右されるのである。  そこで、以降の4〜6では、上記の結果別に詳しい分析を行うことにした。 4.ICT訓練等を「受けたことがある」者について (1)ICT訓練等を受けた場所 【図6−1−09 ICT訓練等を受けた場所(複数回答)(ICT訓練等を受けた時期別)】 A あはきの養成機関 @全体 10.6% A就労前 25.0% B就労後 2.4% B 視覚障害者向け訓練を行う施設 @全体 29.5% A就労前 39.5% B就労後 24.3% C 就労支援を行う施設 @全体 7.6% A就労前 10.4% B就労後 6.9% D 地域の視覚障害者団体や情報提供施設 @全体 42.4% A就労前 35.4% B就労後 46.3% E パソコンサポート団体 @全体 37.1% A就労前 22.9% B就労後 45.1% F その他 @全体 12.9% A就労前 18.7% B就労後 9.7%  ICT訓練等を「受けたことがある」者には、まず、どのタイミングで訓練等を受けたかを確認した。その結果、あはき業に就労前が36.4%、就労後が62.1%となっていた。さらに、この就労前と就労後において、どこでICT訓練等を受けたかを確認したところ、就労前と後で大きな違いがあった。就労前は、あはきの養成機関や視覚障害者向けの訓練を行う施設でICT訓練等を受けた者が多かった。就労後は、地域の視覚障害者団体やパソコンサポート団体でICT訓練等を受けた者が多かった。  この結果は、ある意味でその者にとって「近い場所」でICT訓練等を受けた結果と言えるのかもしれない。就労前であれば、国家資格の取得を目指してあはきの養成機関に入るので、そこでICT訓練等を受けるのは当然だ。また、就労後は地域の視覚障害者団体やパソコンサポート団体と近づく機会が増える可能性は高い。調査の中では、これらの施設にどのような形で繋がったのかを確認しており、多くは「知人からの紹介」を挙げている。地域ならではの横の繋がりが影響しているのではないだろうか。つまり、その者のライフタイムに合わせて、その者にとって「近い場所」でICT訓練等が実施されていた可能性が高い。 (2)ICT訓練等の効果 【図6−1−10 ICT訓練等が重要な書類作成に役立っているか】 @役立った 44.7% A役立っていない 32.6% B分からない 20.5% C無回答 2.3%  あはき業では、施術管理録や療養費の支給申請書等、書類自体が複雑なものが多い。そこで、ICT訓練等がこれらの書類作成に役立ったかどうかを確認したところ、44.7%の者が「役立った」と回答している。ただし、32.6%の者が「役立っていない」、20.5%の者が「分からない」とも回答している。  まず、ICT訓練等のメリット・デメリットは別項目で確認しており、多くの者が「パソコン等の操作が一人で出来るようになった」「様々な情報を得られるようになった」「周りとのコミュニケーションに役立った」と回答している。ICT訓練等の効果が高いことは、この結果でも十分に示すことができる。  しかし、あはき業における重要書類の作成となると、役立ったと考える者の数は減っている。これは、2−(5)で示した「書類作成の正確さ」が背景にあると考えられる。つまり、あはき業における書類作成は、その者が獲得したICTスキルをもっても、書類自体が複雑であるため、対応が難しいのかもしれない。ヒアリングでは「療養費支給申請書を作成できたとしても、印刷したものが正しい書類になっているかどうかが分からない」との指摘があった。この限りでは、正しく書類を作るための仕組みが必要となっており、ICT訓練等を超えた部分での改善も求められている。 5.ICT訓練等を「受けたことがない」者について (1)ICT訓練等を受けていない理由 【図6−1−11 ICT訓練等を受けていない理由(複数回答)(年代別)】 A ICT訓練等を知らなかった @全体 33.7% A20〜40代 45.8% B50代 45.5% E60代 34.3% F70代〜 19.6% B 必要性を感じていない @全体 41.6% A20〜40代 45.8% B50代 30.3% E60代 35.7% F70代〜 54.9% C 時間や費用がない @全体 23.0% A20〜40代 25.0% B50代 24.2% E60代 27.1% F70代〜 9.8% D 周りに施設等がない @全体 24.2% A20〜40代 20.8% B50代 27.3% E60代 27.1% F70代〜 17.6% E その他 @全体 11.2% A20〜40代 0.0% B50代 9.1% E60代 14.3% F70代〜 11.8%  ICT訓練等を受けていない者には、受けていない理由を確認した。その結果、年代による差はあるものの、「ICT訓練等が行われていることを知らなかった」「ICT訓練等を受ける必要性を感じていない」が比較的多かった。  まず、「ICT訓練等が行われていることを知らなかった」と回答した者は、20〜40代と50代の者が多かった。背景を探ると、ICT訓練等が障害福祉の領域にあるため、あはきの仕事をしている者にはあまり耳に入らないことが原因のようだ。障害福祉に関する情報を、視覚障害あはき師に的確に届けることも課題と言える。  また、「ICT訓練等を受ける必要性を感じていない」と回答した者は、年代別では70代以上の者と20〜40代の者が多かった。特に比率が高かった70代以上の者については、ICTスキルを諦めていることと、他者からの支援があることを理由に挙げている。全盲の高齢者にとって、新たにICTスキルを獲得することはハードルが高いようで、自由記述ではICTスキルの獲得に対して否定的な意見が散見された。 (2)ICT訓練等への期待 【図6−1−12 あはきの業務に役立つのであれば、ICT訓練等を受けたいと思うか(年代別)】 A 思う @全体 50.6% A20〜40代 70.8% B50代 72.7% E60代 47.1% F70代〜 31.4% B 思わない @全体 25.3% A20〜40代 12.5% B50代 12.1% E60代 25.7% F70代〜 39.2% C 分からない @全体 19.7% A20〜40代 16.7% B50代 15.2% E60代 24.3% F70代〜 17.6% D 無回答 @全体 4.5% A20〜40代 0.0% B50代 0.0% E60代 2.9% F70代〜 11.8%  ICT訓練等を受けていない者には「仕事に役立つのであればICT訓練等を受けたいと思うか」との質問を行った。その結果、全体では50.6%の者が「受けたい」と回答した。ただし、この結果も年代の違いで大きな差があった。20〜40代と50代は、「受けたい」と思う割合が70%を超えていたのに対して、60代や70代では「受けたい」と思う割合が40%前後になり、「受けたくない」と回答する者が増える結果となっていた。  まず、パソコンサポート団体へのヒアリング調査では、若い世代が意欲的にICT訓練等を求めている旨の意見があった。どうやら、若い世代の視覚障害あはき師は、ICTスキルの獲得によって、自身のキャリアアップを狙っているようだ。  一方で、60代や70代の年齢が高い世代は、ICTスキルの獲得に前向きでないことが、改めて結果として示されている。高齢の視覚障害あはき師はICTスキルを身に付けなくてよいのだろうか。今回の調査では、ICTという存在に嫌悪感を示す者もいた。一方で、高齢でもICTスキルを獲得したことで、生活が豊かになったとの意見もあった。あはき業でICTスキルを活用する前に、高齢の視覚障害者にICTの良さを伝えること、気軽にICTに関する訓練等を受けられる環境を作ることも必要なのかもしれない。 6.「独自にパソコン等の操作方法を覚えた」者について (1)パソコン等の覚え方 【図6−1−13 操作方法の覚え方(複数回答)(視覚障害の程度別)】 A 説明書等を読んで独学で勉強した @全体 59.6% A全盲 54.3% B弱視 72.5% B 家族に教えてもらった @全体 25.0% A全盲 22.3% B弱視 27.5% C 友人に教えてもらった @全体 75.7% A全盲 76.6% B弱視 72.5% D メーリングリストで尋ねた @全体 28.7% A全盲 37.2% B弱視 10.0% E 電話等でメーカーに問い合わせた @全体 27.2% A全盲 30.9% B弱視 17.5% F ホームページを検索して調べた @全体 44.9% A全盲 42.6% B弱視 50.0% G その他 @全体 11.8% A全盲 11.7% B弱視 10.0%  独自にパソコン等の操作方法を覚えた者については、覚えた方法、理由、良かった点を確認している。覚えた理由については、仕事や生活で必要になったとの回答が多かった。また、覚えて良かった点は、4−(2)と同様に、仕事や生活に生かされていることを回答しており、改めてICT訓練等の効果を結果として示すことができた。  そして、これらの者がどのような方法でパソコン等の操作方法を覚えたかについては、「友人に教えてもらった」と回答した者が全体で75.7%、「独学で勉強した」と回答した者は全体で59.6%であった。なお、「独学で勉強した」の中では、弱視の方が独学で学ぶ比率が高かった。また、「友人に教えてもらった」は全盲と弱視であまり差はなく、年代でも差はなかった。  これらの結果を整理すると、視覚障害者に特化したICT訓練等が、視覚障害あはき師が住んでいる地域にないことから、仕方がなく別の方法で学んだ可能性が高い。このことは、地域性とも関わることなので、この結果だけで結論付けることはできないが、地域でのICT訓練等が不在であることが、この結果に結び付いている可能性は否定できない。 7.あはきに特化したICT訓練等について (1)あはきの書類作成に特化したICT訓練等への期待 【図6−1−14 あはきの書類作成に特化したICT訓練等を受講したいと思うか(年齢別)】 A 思う @全体 50.4% A20〜40代 68.8% B50代 55.4% E60代 50.8% F70代〜 35.3% B 思わない @全体 23.3% A20〜40代 10.9% B50代 13.9% E60代 33.4% F70代〜 39.7% C 分からない @全体 24.3% A20〜40代 20.3% B50代 28.7% E60代 24.0% F70代〜 23.3% D 無回答 @全体 2.0% A20〜40代 0.0% B50代 0.2% E60代 2.8% F70代〜 1.7%  本調査事業は、視覚障害あはき師の負担となっている様々な書類作成を、ICT訓練等で支援することができるかどうかが大きなテーマとなっている。そこで、改めてあはきの書類作成に特化したICT訓練等を受講したいと思うかを確認した。  その結果、全体で50.4%の者がICT訓練等を「受けたい」と回答している。ただし、これまでの結果でも示している通り、年代によって差は大きく、高齢になるほど訓練を受けたいと思わない者が増えている。  2−(4)では37.6%の者が「あはきに関する書類作成に困っている」と回答している。年齢や視覚障害の程度、あはき業の関わり方によって差はあるものの、約4割の視覚障害者が書類作成に困難さを抱えている。そして、約5割の者がICT訓練等によって書類作成の困難さを解決することを期待している。この結果は、改めて視覚障害あはき師の書類作成の困難さを示せたのと同時に、ICT訓練等にニーズがあることを示せた結果となっている。 (2)あはきの書類作成に困った時の支援への期待 【図6−1−15 あはきの書類作成に困った時に、電話やメール等で問い合わせ先があれば利用したいと思うか(年齢別)】 A 思う @全体 68.3% A20〜40代 0.0% B50代 0.1% E60代 2.8% F70代〜 2.6% B 思わない @全体 13.9% A20〜40代 0.0% B50代 0.1% E60代 2.8% F70代〜 2.6% C 分からない @全体 15.9% A20〜40代 0.0% B50代 0.1% E60代 2.8% F70代〜 2.6% D 無回答 @全体 2.0% A20〜40代 0.0% B50代 0.1% E60代 2.8% F70代〜 2.6%  あはきの書類作成に特化した設問では、検討委員会の委員からの指摘で「支援の必要性」についても確認を行った。  視覚障害者は、ICT訓練等でパソコン等の操作方法を一度覚えたら基礎的なことで困ることはあまりなく、むしろ、その後の予期せぬトラブル等で困ることが多い。この点を踏まえ、同委員より「これらの解決のため、継続的な支援が必要ではないか」との指摘があった。そこで、設問を「あはきに関する書類作成で困ったことがあった際、電話やメール等で問い合わせ先があれば利用したいか」として、この点の確認を行った。  その結果、全体で68.3%の者が「思う」と回答した。特に注目したいのは、他の調査結果と同じく、若い年代ほど相談したいとの結果が出ている。ヒアリング調査でも、「若い世代から、困り事の相談は多い」との指摘があった。高齢の世代よりもICTスキルを持っていると思われる世代の方が、このような支援を必要としているのは意外かもしれない。しかし、パソコン等を使えば使うほど、様々な困り事に遭遇することは理解できる。ICTスキルを身に付けた後の継続的な支援の必要性が示すことをできた。 (3)ICT訓練等に求める要素(移動に関する内容) 【図6−1−16 ICT訓練等を受けやすくするために必要だと思う内容「場所や移動方法」(複数回答)(年齢別)】 A 近所での訓練を実施する @全体 60.0% A20〜40代 65.6% B50代 61.4% E60代 63.1% F70代〜 50.9% B 訓練する場所を増やす @全体 39.3% A20〜40代 51.6% B50代 45.5% E60代 48.0% F70代〜 35.3% C 訓練場所への移動手段を確保する @全体 44.8% A20〜40代 42.2% B50代 44.6% E60代 40.8% F70代〜 31.0% D オンライン等の遠隔訓練の活用 @全体 46.3% A20〜40代 68.8% B50代 53.5% E60代 41.9% F70代〜 34.5%  ICT訓練等にニーズがあることは、本調査の様々な調査結果で示すことができた。では、どのようにしたらICT訓練等が受けやすくなるのだろうか。  まず、検討委員からは、視覚障害者が「移動」することに課題があるとの指摘があった。例えば、ICT訓練等を実施する機関が少ない現状では、多くの者が遠くから移動しなくてはならない。しかし、視覚障害者が一人で訓練機関等へ移動することは難しいだろう。そのため、ICT訓練等を受けやすくするためには移動の課題をどのようにして解決するかがポイントとなってくる。そこで、この点についての確認を行った。  その結果、全体では「近所での実施」が60.0%、「訓練場所への移動手段の確保」が44.8%、「訓練場所を増やす」が39.3%となり、訓練を行う場所への移動を解決することが求められていた。ヒアリング調査でも同様の意見があり、いかにして視覚障害あはき師が訓練等を受けやすい環境を作るかが重要になっている。  一方で、オンライン等の方法で遠隔訓練を求める声も若い世代を中心に多かった。この点は132ページで考察する。 (4)ICT訓練等に求める要素(受講方法に関する内容) 【図6−1−17 ICT訓練等を受けやすくするために必要だと思う内容「受講方法」(複数回答)(年齢別)】 A 希望する時間や日時で実施する @全体 62.2% A20〜40代 79.6% B50代 70.3% E60代 61.5% F70代〜 48.3% B 理解するまで、何度も実施する @全体 64.1% A20〜40代 71.9% B50代 62.4% E60代 67.0% F70代〜 56.9% C 申し込みを簡単にする @全体 45.7% A20〜40代 64.1% B50代 50.5% E60代 46.9% F70代〜 29.3% D 訓練費の費用補助を行う @全体 49.1% A20〜40代 57.8% B50代 55.4% E60代 54.2% F70代〜 31.0% E 機器の導入費の費用補助を行う @全体 48.7% A20〜40代 50.0% B50代 59.4% E60代 52.5% F70代〜 32.8%  検討委員からは、ICT訓練等を受けやすくするためには、「その者のライフスタイルや習熟度等に合わせて訓練等を行うことが重要である」との指摘があった。例えば、視覚障害あはき師の多くは仕事がない時間に訓練等を希望することが多い。また、パソコン等の操作方法は、人によって習熟度が違うことから、訓練の回数も人によって異なることが多い。  そこで、これらの個別ニーズの影響を探るため、受講方法に関する確認を行った。その結果、やはり自身のライフスタイルや習熟度等に合わせて訓練等を望む者が多く、「希望する時間や日時で実施する」は全体で62.2%、「理解するまで、何度も実施する」は64.1%の者が回答していた。この限りでは、訓練等を行う側が、いかにして利用者のニーズに対して柔軟な対応ができるかがポイントとなるだろう。  また、申し込み方法の簡素化、費用負担の軽減を求める声も高かった。実際にICTに関する受講料は、自己負担の場合は1時間2,000円前後を設定する所が多く、受講者にとっては負担である。この点は国の補助制度等を整える必要がある。 8.その他  視覚障害あはき師に対する調査は書面調査を中心に実施し、書面調査では分からなかった内容はヒアリング調査で補足を行った。ここでは、ヒアリング調査の結果を中心に、これまでの考察・分析において記載できなかった調査結果を紹介する。 (1)ICTの進歩に関するニーズ  視覚障害あはき師へのヒアリング調査の中では、急速に進歩するICTについて、率直な意見を伺った。その中で、近年、話題になっているマイナンバーカードを健康保険証として利用することに期待を寄せているとの意見があった。  療養費を取り扱う際、患者の健康保険証の内容を確認することは必須となっている。しかし、視覚障害あはき師には、この確認が難しい。そこで、マイナンバーカードのデータを読み取ることができれば、画面読み上げソフトを利用して音声での確認ができ、これにより健康保険証の確認ができると思われる。また、そのデータを申請書に転記できる可能性もある。  書面調査やヒアリング調査の結果では、あはきの書類作成には正確さが求められるため、自身のICTスキルを高めても書類作成を行うことには限界がある旨の意見があった。一方で、ICTの進歩は、思いもよらない新たなシステムを生み出している。そして、一部の視覚障害あはき師は、このような新たなシステム等に期待を寄せている。もしかすると、視覚障害あはき師がICTの進歩を活用することができれば、書類作成の正確さを高めることができるのかもしれない。 (2)企業等に勤める視覚障害あはき師の実態  書面調査は、個人開業の者からの回答が多く、企業等に勤める者の現状やニーズはあまり把握できなかった。特に、書面調査の結果を見る限りでは、企業に勤める視覚障害あはき師は、企業のスタッフ等が書類作成を行っているため、書類作成にそれほど困っていないと感じる部分があった。企業等に勤める視覚障害あはき師は、書類作成に困っていないのだろうか。そこで、企業等に勤める視覚障害あはき師の実態を探るため、ヘルスキーパーに対するヒアリングを実施した。  その結果、企業等に勤めていても、様々な書類作成に困っていることが分かった。正確にはパソコンでの入力処理に困っており、個人開業の視覚障害あはき師とは異なる困り事が確認できた。例えば、企業独自の社内システムが画面読み上げソフトに対応しない等の問題があった。この場合、日常的な社内連絡が確認できないこともあり、企業等に勤める者としては死活問題となっている。  現在の多くの企業等では、一人に一台のパソコンが支給され、その企業等に勤める視覚障害あはき師もパソコンの利用が必須となっている。また、最新のシステムを否応なしに利用せざるを得ない状況にもある。そのため、企業等に勤める視覚障害あはき師にも、個人開業のあはき師と同様にICTスキルが必要となっており、ICT訓練等が必要とされている。 (3)オンラインでのICT訓練等の可能性  新型コロナウイルスの影響によって普及したもの一つに、オンライン会議システムがある。ヘルスキーパーとのヒアリングの中では、「このシステムをICT訓練等で活用してほしい」との要望があった。このことを深く考えると、オンラインでのICT訓練等は、視覚障害あはき師にとってメリットがあるのかもしれない。  例えば、訓練等を行う場所への移動時間や手間を考えると、オンラインで訓練等が実施できれば、その移動時間や手間は軽減できる。特に、全盲のため一人では移動が難しい者にとっては、メリットが高い。また、基礎的なICTスキルを持つ者であれば、特定のソフトの使い方を教わることはオンラインでも十分に可能と思われる。実際にパソコンサポート団体では、オンラインで特定のソフトに関する講習会を実施している所もある。  あはき師として仕事を行う以上、仕事以外の時間は限られているだろう。そのため、ICT訓練等は、オンラインを活用する等、働く視覚障害あはき師のニーズに合わせた柔軟な方法が求められている。 122ページ 2 訓練機関等に対する調査 1.回答者について (1)回答者の事業内容 【図6−2−01 事業内容(複数回答)】 @障害福祉サービスの実施機関 52団体 A職業能力開発訓練事業の実施機関 9団体 B情報提供施設 72団体 C視覚障害当事者団体 45団体 Dパソコンサポート団体 9団体 Eその他 24団体  訓練機関等向けの書面調査は、視覚障害者向けにICT訓練等を実施していると思われる各種機関に依頼を行った。その結果、145団体より回答が集まった。  まず、回答者の事業内容については、複数の事業を実施している可能性があるため、複数回答で回答を求めた。その結果、情報提供施設が72団体、障害福祉サービスの実施機関が52団体、視覚障害当事者団体が45団体、職業能力開発訓練事業の実施機関は9団体、パソコンサポート団体は9団体との結果になった。  視覚障害者向けのICT訓練等は、実際には様々な方法で実施されている。例えば、障害福祉サービスの中だけでも、自立訓練(機能訓練)、自立訓練(生活訓練)、就労移行支援等で実施している。また、地域の自治体予算で実施しているもの、月1回程度の講習会形式で開催するもの、ボランティアが自宅に訪問し実施するもの等、様々な方法が確認できている。  そのため、本調査では、これらの事業内容を実施している団体単位で各調査結果を分析することにした。どのような団体が、どのようなICT訓練等を実施しているのかを、詳しく分類することは今後検討すべき課題とする。 (2)視覚障害者向けに実施している訓練等の内容 【図6−2−02 視覚障害者向けに実施している訓練や支援(複数回答)】 @歩行訓練 41.4% AICT訓練、ICT技術習得のための支援 62.1% B日常生活に関わる訓練や支援 41.4% Cロービジョンに関する訓練や支援 33.1% Dその他 36.6% E実施していない 17.2%  視覚障害者向けに実施している訓練等の内容を確認したところ、17.2%の団体は視覚障害者向けに訓練等を実施していなかった。今回の書面調査では、障害者職業能力開発校や障害者ITサポートセンターといった、障害者全般に幅広く支援を行っている機関にも調査を依頼した。この中には、視覚障害者の支援を行っていない団体も含まれていたようだ。なお、この分を差し引いた83.8%(120団体)は、視覚障害者向けの訓練や支援を行っていることになる。  そして、ICT訓練等の実施率は全体で62.0%となった。これは、ICT訓練等を実施していると思われる機関等に依頼をしたことから、他の訓練等よりも若干高い結果になったと考えられる。ただし、各事業内容別でも60%前後の実施率があったことから、全国の様々な訓練機関等では、ICT訓練等が実施されていることがうかがえる。  なお、パソコンサポート団体については、ICT訓練等の実施率が44.4%と低い結果となっている。地域に点在するパソコンサポート団体は、視覚障害者へのパソコン指導等を手広く行っていて、地域で重要な役割を担っていると考えられている。しかし、今回の書面調査では、これらの機関の回答数が少ないことから、この実施率が正しいとは言い切れない部分がある。そのため、このような点は、パソコンサポート団体へのヒアリング調査で確認を行った。 (3)訓練等の実施方法 【図6−2−03 視覚障害者向けに実施している訓練や支援の実施方法(複数回答)】 @入所する 15.0% A通所する 60.8% B希望者の自宅に訪問する 52.5% C特定の場所に集まって実施する 36.7% D電話やオンライン等で実施する 50.0% Eその他 11.7%  どのような方法で訓練や支援を実施しているかを確認したところ、全体では「通所する」が60.8%、「希望者の自宅に訪問する」が52.5%、「特定の場所に集まって実施する」が36.7%、「入所する」が15.0%との結果になった。  ただし、それぞれの実施方法は、事業内容によって大きく異なるものもある。例えば、障害福祉サービスの実施機関であれば、「入所する」が27.1%になり、その中で自立訓練(機能訓練)は47.4%となっている。一方で、実施率が高かった「通所する」と「希望者の自宅に訪問する」は、事業内容別でもほぼ同率だった。そのため、この通所と訪問は、現在のICT訓練等の実施方法として平均的な方法になるのかもしれない。  なお、「電話やオンライン等で実施する」が50.0%と高かったが、これは電話による相談が主のようで、オンラインでの訓練等を実施している所は少ないと思われる。ただし、オンラインでの訓練等は、実施している訓練機関等もあり、この書面調査だけでは実態が分からなかった。 (4)訓練等の希望者との繋がり方 【図6−2−04 訓練や支援の希望者との繋がり方(複数回答)】 @役所からの紹介 57.5% A医療機関からの紹介 56.7% B視覚障害当事者からの紹介 81.7% C視覚障害の関係機関からの紹介 79.2% D相談支援事業所からの紹介 52.5% Eその他 29.2%  訓練等の希望者との繋がり方を確認したところ、「視覚障害当事者からの紹介」が81.7%、当事者団体や情報提供施設等の「視覚障害の関係機関からの紹介」が79.2%となっていた。なお、この結果も事業内容によって差はあるものの、「視覚障害当事者からの紹介」と「視覚障害の関係機関からの紹介」はどれも同数に近かった。  ここで着目したいのが「口コミ(くちこみ)による紹介」である。視覚障害あはき師へのヒアリング、訓練機関等へのヒアリングでも、最も多い繋がり方は「口コミ」で、ある者は一番効果的な方法だと説明していた。なぜなら、実際にICT訓練等を受けた視覚障害者が、自身の生活や仕事で役立った経験等を口頭で伝えると、それを知らなかった他の視覚障害者には魅力的に感じ、自身も「挑戦しよう」という意欲が湧くことが多いからである。また、視覚障害者自身が様々な情報を得にくいことを踏まえると、同じ視覚障害者の経験談は大変価値のある情報となる。その意味では、ICT機関等への繋がり方が、このような結果になったことは十分に理解できる。  しかし、視覚障害あはき師への書面調査では、「ICT訓練等を知らなかった」と回答した者が33.7%もいた。もしかすると、このような者は、視覚障害者の口コミの輪に入れなったのかもしれない。このような輪に入れない視覚障害者もいるため、ICT訓練等に確実に繋がる方法も必要である。 2.視覚障害者向けICT訓練等の実施機関について (1)ICTに関する訓練等の実施内容 【図6−2−05 ICTに関する訓練や支援の実施内容(複数回答)】 @パソコン等の基本操作 94.4% A画面読み上げソフトや拡大ソフトの操作方法 91.1% Bインターネットの操作方法 88.9% Cメールの操作方法 86.7% D文書作成の操作方法 72.2% E表計算の操作方法 54.4% Fあはき業で活用する事務処理の方法 14.4% Gその他 21.1%  次に、視覚障害者向けのICT訓練等を実施している訓練機関等(120団体)に対して、詳細な実施状況の確認を行った。  まず、ICT訓練等の実施内容を確認した。これは、具体的にどのような操作を教えているのかを確認するもので、パソコン等の基本操作から表計算の操作方法まで、パソコンに関する操作の難易度を意識した質問を行った。その結果、初歩的な操作方法はどの機関も教えているが、Wordでの文章作成やExcelでの表計算になると実施率が落ちることが分かった。  なお、検討委員からは、「このようなパソコンの操作方法は、どこまでが視覚障害者が必ず覚える必要がある初歩の操作なのかが分りづらい」との指摘があった。この書面調査の結果に従うと、「パソコン等の基本操作」「画面読み上げソフトや拡大ソフトの操作方法」「インターネットの操作方法」「メールの操作方法」が初歩の操作になるのかもしれない。  さらに、この設問では「あはき業で活用する事務処理の方法」も確認したが、実施率は14.4%と極めて低かった。視覚障害あはき師に近いと思われる視覚障害者当事者団体でも実施率が低いことから、現時点では、視覚障害あはき師に特化したICT訓練等はあまり実施されていないことが分かった。 (2)ICTに関する訓練等の課題 【図6−2−06 ICTに関する訓練や支援の課題(複数回答)】 @人員が不足している 67.8% A教材が少ない 35.6% B移動が負担になっている 26.7% C訓練や支援を希望する者が少ない 21.1% Dニーズに合った対応ができない 18.9% E訓練や支援の時間が短い 16.7% Fその他 24.4%  実際の訓練等を行う上での課題を確認したところ、「人員が不足している」を回答した団体が67.8%で最も多かった。この人員不足は、事業内容別で確認してもほぼ同じような比率だったことから、ICT訓練等を実施している機関の共通の課題となっていることがうかがえる。  ただ、これらの訓練機関等には、別の設問で利用者のニーズに応えられた訓練や支援が実施できているのかを確認したところ、63.3%の団体が「実施できている」と回答している。さらに、別の設問では、この訓練や支援をさらに充実させたいかと確認したところ、92.2%の団体が「充実させたい」と回答している。これらの団体は、ICT訓練等への意欲も高く、訓練等を希望する視覚障害者からのニーズに対応できているのに、なぜ「人員が不足している」ことを課題に挙げたのか。この課題の背景には、ICT訓練等を教える「講師の不足」がポイントになる。パソコンサポート団体へのヒアリングを行った際、「視覚障害者にパソコン等の操作を教える講師は、様々な知識やノウハウが必要になるため、この講師を育てることが難しい」との指摘があった。実際には、少ない講師の数を上手く調整しながら、訓練等を行っている訓練機関等が多い。つまり、視覚障害者向けのICT訓練等を普及させるためには、実際に視覚障害者へICTスキルを教える講師の育成も必須であることが分かった。 3.視覚障害者向けICT訓練等の未実施機関について (1)ICTに関する訓練や支援の実施内容 【図6−2−07 ICTに関する訓練や支援を実施しない理由(複数回答)】 @人材がいない 50.9% A設備・備品がない 49.1% Bノウハウがない 45.5% C予算がない 45.5% D場所がない 20.0% E当事者のニーズがない 10.9% Fその他 23.6%  次に、視覚障害者向けのICT訓練等を実施していない訓練機関等(45団体)に対して、実施していない理由等を確認した。  まず、実施していない理由は、「人材がいない」と回答した団体が50.9%、「設備・備品がない」が49.1%、「ノウハウがない」が45.5%、「予算がない」が45.5%となっていた。また、これらの要素は、視覚障害者へのICT訓練等を行うために必要な要素としても挙げられていた。  回答した45団体は、様々な障害者への支援を行っているが、視覚障害者への支援は実施していない機関等が中心になる。そのため、視覚障害者の特性に見合った確実な支援が実施できないことが、回答に表れている。  なお、もしこれらの要件が揃った場合、視覚障害者向けのICT訓練等を実施してもよいかと確認したところ、36.4%の団体が「実施してもよい」と回答している。視覚障害者への支援を行える機関が少ない中で、この回答は貴重な回答だ。そのため、これらの機関等が視覚障害者の支援を行うためには、人材の確保に加え、支援方法の整理が必要だと思われる。そして、明確な支援方法があれば、設備・備品とノウハウが確保できるのではないだろうか。 4.視覚障害あはき師への訓練や支援について (1)視覚障害あはき師からの相談(書類作成) 【図6−2−08 視覚障害あはき師から、書類作成等のためにICTに関する訓練や支援を求められたことがあるか(ICT訓練等の実施有無別)】 A 全体 @ある 26.9% Aない 64.1% B ICT訓練等あり @ある 37.8% Aない 56.7% C ICT訓練等なし @ある 9.1% Aない 76.4%  次に、視覚障害あはき師への訓練等に関する質問を行った。まず、実際に視覚障害あはき師から書類作成のためにICT訓練等の相談があったかを確認したところ、全体では26.9%の団体が「ある」と回答した。さらに、ICT訓練等を実施している団体のみで確認したところ、37.8%の団体が「ある」と回答した。やはり、視覚障害あはき師は書類作成に困っており、ICT訓練等で書類の作成方法を獲得することを期待していた。  しかし、実際に訓練機関等に確認すると、様々な実態があることが分かった。ヒアリング調査では、パソコンサポート団体より、「視覚障害あはき師としてではなく、いち視覚障害者として受講する者が多いことから、視覚障害あはき師からの本当のニーズを掴み切れていない」との指摘があった。一方で、視覚障害あはき師の中でも、個人開業の者と企業等に勤める者では、ICT訓練等に求める内容が若干異なる。  そのため、今後、視覚障害あはき師へのICT訓練等を進めるためには、具体的なニーズの整理を行い、そのニーズに見合った訓練体制を確立することが必要となっている。 (2)視覚障害あはき師への訓練等の実施 【図6−2−09 あはきの療養費に関する書類の作成方法に関する訓練や支援は対応できるか(ICT訓練等の実施有無別)】 A 全体 @今すぐ対応可能 6.9% Aノウハウがあれば対応可能 27.6% B対応は難しい 49.0% C分からない 13.1% B ICT訓練等あり @今すぐ対応可能 10.0% Aノウハウがあれば対応可能 36.7% B対応は難しい 38.9% C分からない 11.1% C ICT訓練等なし @今すぐ対応可能 1.8% Aノウハウがあれば対応可能 12.7% B対応は難しい 65.5% C分からない 16.4%  視覚障害あはき師への訓練等に関する設問では、実際にICT訓練等が実施できるかどうかを確認した。その結果、合計34.5%の団体が「今すぐ対応可能」と「ノウハウがあれば対応可能」と回答した。  特に、実施可能とした団体の多くは「ノウハウ」を求めていた。書面調査の自由記述を確認すると、書類の具体的な作成方法やあはきにおける書類作成のルール等が分かれば対応できる旨の意見が目立っていた。つまり、あはきに関する書類作成のICT訓練等を実施するのであれば、具体的な訓練方法等の整理が必要になる。  しかし、全体で49.0%の団体が「対応が難しい」とも回答している。自由記述を確認すると、これまでの調査結果でも明らかになった人材不足が理由であったり、障害福祉サービスで実施する訓練機関等からは経済活動が伴う行為は教えられない旨が理由として挙げられていた。また、あはきに関する書類作成が正確性を求められる中で、ICT訓練等の訓練機関等がどこまで正確性を担保した対応ができるかを不安に感じている旨も確認できた。  視覚障害あはき師に特化したICT訓練を実施するためには、ノウハウの整理に加え、様々な課題整理も必要なのかもしれない。 5.その他  訓練機関等に対する調査は、書面調査を中心に実施し、書面調査では分からなかった内容はヒアリング調査で補足を行った。ここでは、ヒアリング調査の結果を中心に、これまでの考察・分析において記載できなかった調査結果を紹介する。 (1)視覚障害者のICTスキル  視覚障害者のICTスキルは、改めて個々人により大きく異なることが分かった。  ヒアリング調査を行った自立訓練(機能訓練)の実施機関とパソコンボランティア団体からは、「訓練等を開始した時点で、既にパソコンの基本操作を知っている等、それなりにICTスキルを持っている者が多い」との指摘があった。確かに、中途の視覚障害者であれば、視覚障害になる前にパソコンは利用していただろう。つまり、一定の視覚障害者は、ICTを活用するためのスタートラインに既に立っていることが多いことが分かった。  一方で、高齢の視覚障害者を中心に、基本的なICTスキルがないため、ICTを活用するためのスタートラインに立てない者が多いのも事実である。それこそ、携帯電話(フィーチャーフォン)が操作できない者もまだまだ多い。ヒアリングでは、このような者がICTスキルを身に付けるために、「地域レベルでの手厚い訓練等が必要」との指摘があった。 (2)視覚障害者への適切な実施方法  ヒアリングを行った両機関には、ICT訓練等の詳しい実施方法を確認した。その結果、両機関とも「訓練等を受ける視覚障害者の見え方・ニーズ等に合わせてマンツーマンに近い形で実施すること」を重要視していた。  まず、訓練等を希望する視覚障害者は、様々な見え方や年齢等によって主とする行動が異なる。それこそ、弱視であれば、画面を拡大してその者が見やすい状態でパソコン操作を行う。全盲であれば、画面読み上げソフトを用いて音声で確認しながらパソコン操作を行う。また、(1)で示した通り、訓練等の開始時点でのICTスキルは異なる。そのため、訓練等を求めるパソコン操作は、基本操作を学びたい者もいれば、仕事に特化した高度な内容を学びたい者もいて、その視覚障害者によって訓練等に求める内容が大きく異なっている。  そのため、両機関では訓練等の開始前に利用者にアセスメントを行い、実施する訓練等の内容を整理していた。その上で、ほぼマンツーマンに近い形で訓練等を行い、訓練等の進み具合によっては教える内容を柔軟に変更していた。  視覚障害者へのICT訓練等は、常に視覚障害者のニーズに寄り添いながら、実施することが大切であることが分かった。 (3)対面でのICT訓練等の重要性  ヒアリングを行った両機関は、教室等で利用者と向かい合いながら訓練等を行っており、この対面での訓練等のメリットを多く例示していた。例えば、訓練等を行いながら訓練を受ける者の希望内容を詳しく引き出していたり、一緒に訓練等を受けている別の者の訓練内容に刺激を受け、次の訓練に意欲的に取り組むことがある等、対面での訓練等は様々な効果がある。  特に、高齢の視覚障害者になるほど、基礎的なICTスキルがないことから、手取り足取りの丁寧な訓練等が必要になる。また、多くの視覚障害者は訓練等を受ける場所への移動が難しいことから、地域レベルでの柔軟な訓練等が必要だろう。 (4)オンラインでのICT訓練の可能性  視覚障害あはき師からは、オンラインでのICT訓練等を求める声があったが、訓練機関等からも同様の意見を確認することができた。  ヒアリングを行った両機関とも、新型コロナウイルスの感染拡大以降、対面での訓練等が難しくなったことから、必然的にオンラインでの訓練等を実施したところ、一定の効果があり、今後も実施していく旨の意見があった。確かに、人材不足が運営上の課題となる訓練機関等にとって、オンラインを活用することで移動時間がかからないことは、大きなメリットになるだろう。また、視覚障害当事者からニーズの高い、訓練後に発生した困り事への支援も、オンラインでの訓練等ができればニーズに応えることができるかもしれない。  しかし、オンラインでのICT訓練等を行うことは、まだまだ課題が多い。例えば障害福祉サービスでは報酬の対象になっていないことから、現状では実施が難しい。また、完全にオンラインに切り替えてしまうと、ICTスキルを一切持っていない視覚障害者が訓練等を受けることができなくなってしまう。今後は、これらの課題を解決しながら、ICT訓練等でのオンライン活用を進めていくべきだろう。 133ページ 3 あはき師養成機関に対する調査 1.あはき師養成課程の生徒への指導について (1)ICT関連の指導の実施状況 【図6−3−01 ICT関連の指導を実施しているか、あはきの業務で必要となる書類をパソコン等で作成する指導を実施しているか】 A ICT関連の指導 @実施している 88.5% A実施していない 11.5% B あはきの業務で必要となる書類をパソコン等で作成する指導 @実施している 67.3% A実施していない 32.7%  視覚障害あはき師への書面調査では、ICT訓練等を受けた時期を確認しており、その中で「あはき業に就労前」が36.4%との結果が示された。そのため、あはき業に就労前のICT訓練等を確認する必要があり、視覚障害者向けのあはき師養成機関に対する調査を実施した。調査は書面で実施し、あはき師の養成課程のある全国の盲学校(視覚特別支援学校)、あはき師養成の専門校に対して依頼を行い、52団体より回答があった。  まず、書面調査では養成課程の生徒向けにICT関連の指導を行っているかを確認したところ、88.5%の団体が指導を実施していた。また、あはきの業務で必要となる書類をパソコン等で作成する指導を行っているかを確認したところ、67.3%の団体が実施していた。  今やパソコン操作は日常生活や就労に欠かせないことから、これらの養成機関でも指導を行っていることが分かった。つまり、視覚障害あはき師がICTを活用するためのスタートラインに立つための訓練等を、あはき師養成機関も担っていることが示された。 (2)あはきの業務で必要となる書類の指導科目・作成内容 【図6−3−02 はきの業務で必要となる書類をパソコン等で作成する指導において、指導している書類名(複数回答)(自由記述を整理)】 @カルテ 88.2% A業務関連の書類 20.6% B学内のレポート作成 17.6% C広告等の宣伝材料 11.8% Dその他(履歴書等) 5.9%  前ページで「あはきの業務で必要となる書類をパソコン等で作成する指導を実施している」と回答した35団体には、追加でどのような方法で指導を行っているかを確認した。  まず、指導科目では「情報処理関連」が77.1%と多く、次に「臨床実習関連」が37.1%、「その他(社会科学概論、自立活動、医療情報、総合演習等)」が34.3%だった。  さらに、作成する書類の内容を確認したところ、「カルテ」が88.2%と最も多く、「業務関連の書類」「学内のレポート作成」「広告等の宣伝材料」が10〜20%の比率となっていた。  前ページで示した結果では、ICT関連の指導は、あはきの業務に関する内容になると実施率が下がっている。また、作成する書類の内容は「カルテ」が多く、療養費等の書類が該当すると思われる「業務関連の書類」の実施率は低かった。この限りでは、あはき業におけるICT活用の入り口まではしっかりと指導はできるが、業務に活用できる具体的な内容までの指導は難しいとの結果になる。  なお、「カルテ」の実施率が高いのは、ヘルスキーパー等として企業等に勤めると、カルテの入力をパソコンで行うことが多い点が影響しているようだ。近年の養成課程の卒業生は、企業等に就職することが増えているため、養成機関側でも指導内容に変化があったのかもしれない。 2.あはき師養成課程の卒業生について (1)パソコン等を用いた書類作成の訓練等の可能性 【図6−3−03 パソコン等を用いた書類作成に関する相談を受けた場合、入力方法等の指導や支援等を行うことは可能か】 @対応可能 36.5% Aノウハウがあれば対応可能 44.2% B対応は難しい 17.3% C無回答 1.9%  あはき師の養成機関には、卒業生からのICT関連の相談についても確認している。これは、視覚障害あはき師がICT訓練等を受けた時期を「就労後」と回答した者が62.1%だったことを踏まえ、「就労後に困ったことがあった場合、自身が卒業した養成機関に頼る可能性があるのではないか」と仮定したことからこの設問を設定した。  まず、あはき業の業務において必要となる書類作成に対応するため、ICT関連の訓練等の相談を受けたことはあるかどうかを確認したところ、32.2%の団体が「ある」と回答した。約3割の卒業生が相談を行っていることを踏まえると、多くの視覚障害あはき師が書類作成に困っていること、自分に身近な存在に頼る傾向があることを示すことができた。  さらに、このような相談を受けて、実際に訓練等ができるかどうかを確認したところ、「対応可能」は36.5%、「ノウハウがあれば対応可能」は44.2%となっていた。つまり、約8割の養成機関は、困っている視覚障害あはき師へのICT関連の訓練等が実施できることが分かった。視覚障害者へのICT訓練等を行う機関が少ない中、このような養成機関が対応できることは非常に価値がある。 3.視覚障害者全体について (1)ICT関連の訓練等の課題 【図6−3−04 ICT関連の指導や支援等を行う上で、難しい点や課題はあるか(複数回答)(自由記述を整理)】 @生徒のスキルの差 44.2% A時間がない 23.1% B教員の指導力不足 23.1% C設備が揃わない 17.3% D指導方法が未確立 13.5% E書類自体が難しい 9.6% Fその他(予算不足等) 13.5%  1−(1)では、88.5%の団体がICT関連の指導を実施していることが分かった。では、この指導についての課題はあるのだろうか。ここでは、視覚障害者全体として確認を行った。  その結果、44.2%の団体が「生徒のスキルの差」と回答した。この回答は、指導を受ける者によって見え方の違いやICTスキルに差があることが理由となっている。この差があることで、指導を受ける者それぞれで指導方法が異なり、画一的な指導はできない。特に、ある程度の人数を集団で指導しているため、ICTスキルに差があると、授業の進め方に遅れが生じる可能性がある。これらの養成機関はカリキュラムに沿って集団指導を行っているため、ICT関連の訓練機関等が実施しているようなマンツーマンの訓練等は難しいようだ。  また、各養成機関とも「時間がない」「教員の指導力不足」「設備が揃わない」「指導方法が未確立」と回答している。この背景には、現在の養成機関がICT関連の指導を行うことを前提にしたカリキュラムを組んでいないことが影響している。そのため、これらの課題が解決されておらず、ICT関連の指導が進まない要因にもなっている。どうやら、視覚障害者向けのあはき養成機関で、ICT関連の指導や訓練等を行うためには、カリキュラム自体の改正が、まずは必要なのかもしれない。 137ページ 第7章 まとめ 138ページ 1 調査結果の整理 1.視覚障害あはき師 (1)書類作成の困難さ  あはきの業務を行う上で重要な書類作成に困っている視覚障害あはき師は非常に多い。調査結果を整理すると、「個人開業」「全盲」「高齢」「ICTスキルが低い」という条件の者に困っている傾向が見られる。  ただし、これらの者以外にも困っている者は多い。例えば、正確さを求められるあはきの書類は、ICTスキルがある者でも作成することは難しい。また、援助者に依頼する等で現在は書類作成に困っていない者も、援助者が不在になれば書類作成が困難になる。さらに、企業に勤める者であれば、個人開業の者とは別角度の書類作成及びICTに関する困り事を抱えている。  つまり、多くの視覚障害あはき師は、あはきの業務で必要な書類作成に困っているのである。 (2)ICTスキルの活用  多くの視覚障害あはき師は、パソコン等のICT機器を仕事でも日常生活でも利用している。パソコン等を利用するためのICTスキルは、ICT訓練等や独学で覚えた者が多く、ICTスキルを身に付けたことで仕事の事務処理が向上する、日常生活が豊かになる等のメリットが生まれている。  しかし、あはきの業務で必要な書類作成においては、このICTスキルを生かすことは十分にできていない。主な理由は、これらの書類が正確さを必要とするため、視覚障害あはき師の平均的なICTスキルでは対応しきれない部分があるためである。そのため、メール等で代行業者に依頼する等、自身のICTスキルを工夫し、苦心しながらこれらの書類を作成している状況がうかがえる。  一方で、ICTスキルを有していないため、あはき業の業務範囲を狭めている視覚障害あはき師もいる。特に、高齢の者の中では、自身の周りでICT訓練等の実施機関等が不在なため、ICTスキルの獲得を諦めている者もいる。  つまり、様々な視覚障害あはき師がいる中で、あはき業のためにICTスキルを上手く活用できている者は少ない。 (3)ICT訓練等の利用と期待  現在のICT訓練等は、地域によって実施の有無、内容の違いがあり、全ての視覚障害あはき師はICT訓練等を満足に受けられる状況にはない。特に、視覚障害者の横の繋がりがない者は、ICT訓練等の実施機関等の情報がないため、それらの実施機関等に繋がらない傾向が強く、ICT訓練等を受けたくても受けられないことがある。  ただし、自身の業務に役立つのであれば、ICT訓練等を受けたいと思う視覚障害あはき師は非常に多く、このICT訓練等の活用に期待している。また、その者の都合に合わせた、身近な所でICT訓練等を受講したいと考える者も多い。  そのため、ICT訓練等は、視覚障害あはき師の期待とニーズに応えられる訓練等の体制整備が必要である。 (4)視覚障害あはき師の現状とニーズに連動したICT訓練等の必要性  視覚障害あはき師は、個々人でそれぞれの特性があり、ICTスキルの差は大きい。しかし、多くの者がICTスキルの獲得に期待している。大きく分けると、次の現状とニーズがあり、これらに連動したICT訓練等が必要である。また、ICTスキルの効果を最大限発揮するためには、必要に応じて、在宅や職場等で人的支援が受けられることも必要である。 @ICT活用のスタートラインに立つためのICT訓練等  高齢の視覚障害あはき師を中心にICTスキルを有していない者が多い。これらの者は、ICTスキルを獲得するまで丁寧な指導が必要で、遠方への移動が難しいため、地域レベルでICT訓練等が行われることを求めている。これらのICT訓練等を通して、基礎的なICTスキルを獲得し、ICT活用のスタートラインに立てるようになることが必要である。 AICTスキルの維持向上のための継続的な支援  基礎的なICTスキルを有した者であっても、日々のICTの進歩により困り事は発生している。一方で、あはきに関する重要書類は、制度の改正等により書式が変更されることもあり、今まで対応してきた作成方法が通用しなくなる可能性もある。そのため、このような変化に視覚障害あはき師が対応するために、ICT訓練等の中で、継続的な支援が行われることが必要である。その際はオンラインでの支援等が活用できる。 2.訓練機関等 (1)ICT訓練等の実施状況  視覚障害者の関係機関、リハビリテーション機関、パソコンサポート団体等を中心に、全国各地で様々な方法でICT訓練等が実施されている。どの機関も地域の視覚障害者のニーズに合わせ、訓練を希望する者とマンツーマンに近い形でICT訓練等を行う等、そのニーズに特化したICT訓練等を実施しており、視覚障害者のICTスキルの獲得に貢献している。  ただし、全国でどのくらいのICT訓練等が実施されているかは本調査では把握できず、ICT訓練等が未実施の地域も存在する可能性が高い。 (2)視覚障害あはき師のニーズへの対応  上記のICT訓練等の実施により、多くの視覚障害あはき師は、基礎的なICTスキルを獲得し、ICT活用のスタートラインに立つことができている。視覚障害者あはき師からの満足度も非常に高い。  しかし、あはきの重要な書類作成に関するICT訓練等については、そのニーズは届いているものの、あはきの書類作成に特化したICT訓練等の実施は少なく、視覚障害あはき師のニーズには応えきれていない。特に、これらの書類には専門的知識が必要であり、作成において正確さが求められることから、訓練機関等が実施に向けて前向きになれない部分がある。  しかし、あはきにおける書類作成のルールやノウハウが分かれば対応可能とする機関等は少なくはない。そのため、書類作成のためのICT訓練等を実施するための諸条件の整理が必要である。 (3)ICT訓練等の課題  視覚障害者のICT訓練等を充実させるためには、そのICT訓練等を担う人材の確保が必要になっている。特に、視覚障害者に直接指導を行う講師の養成には時間がかかるため、どのようにして講師を養成するかが喫緊の課題となっている。今後のICTの進歩による需要の増大に対応するためには、まずは、視覚障害者へパソコン等の操作方法を的確に指導できる人材を確保することが必要である。  そして、視覚障害者のニーズに柔軟な対応を行うため、オンラインでのICT訓練等の拡充も課題となっている。効率的な実施方法や制度面の整理を通して、オンラインを活用したICT訓練等を増やしていく必要がある。  さらに、これらの課題解決や整理を行うことで、各地域でICT訓練等が効率的に実施され、地域の視覚障害者が安心してICT訓練等を受けることが可能となる。特に、視覚障害者向けのICT訓練等が実施できる機関等は少なくないため、これらの課題解決や整理を通してノウハウを作り、そのノウハウを活用することで、新たな実施機関を増やすことも必要である。 3.あはき師養成機関 (1)ICT関連の指導の実施状況  あはき師の養成課程の中で、昨今の社会環境の変化に応じて、基礎的なICTスキルを確保するための指導を実施している。このことにより、視覚障害あはき師はICTスキルを獲得し、ICT活用のスタートラインに立つことができる。 (2)視覚障害あはき師のニーズへの対応  卒業した視覚障害あはき師を中心に、様々なICTに関する相談が届いている。しかし、現状では、(3)の課題等があり、全てには対応できておらず、課題の解決が必要になっている。ただし、多くの養成機関が前向きに対応するとの意向があることから、視覚障害あはき師へのICT関連の支援を担う機関の一つとして期待ができる。 (3)ICT関連の指導の課題  視覚障害者への指導を行う中で、個々人のスキルに差があるため、画一的な指導が難しい点が課題となっている。特に、ICT訓練等は、その視覚障害者のニーズに根差したマンツーマンに近い訓練が必要となるため、現状の指導方法では難しい側面がある。また、教育のカリキュラム自体が、視覚障害者のICT訓練等を明確に織り込んでいないことから、設備、人材、ノウハウが揃っていない部分もある。  視覚障害あはき師の養成課程も含め、現在の視覚障害児・者への教育の中に、ICT訓練等のカリキュラムを、明確に盛り込んでいく必要がある。特に、昨今のICTの進展に対応できる視覚障害児・者を育てるためには、基礎的なICTスキルの獲得が必要になっている。 142ページ 2 提言 1.調査結果のまとめ  本調査により、視覚障害あはき師を取り巻くICT訓練等の現状と課題が整理できた。不明確な部分はあるものの、全国の視覚障害あはき師は、あはきの業務を行う上で重要な書類作成に困っており、この書類作成を円滑に行うためにICT訓練等に期待していることが分かった。そして、このICT訓練等を実施する機関等は、全国各地で様々な方法でICT訓練等を実施しているが、全ての視覚障害あはき師のニーズには応えられていなく、これらの機関が持つ課題の解決が必要となっている。  一方で、新型コロナウイルス感染症の拡大以降、ICTスキルの獲得は必須となり、視覚障害あはき師にもICTスキルの獲得が求められている。自宅等で個人開業の者、企業等に勤める者等、具体的に必要なICTスキルは異なるが、今後はICT訓練等の需要はさらに高まっていくだろう。 2.提言  本調査事業は、視覚障害者にとって効果的なICT訓練等の実施方法の在り方と、地域でICT訓練等を受けるための効果的な支援方法の在り方を整理することを目的として、調査事業を実施した。この整理を通して、視覚障害あはき師を中心とした視覚障害者に対して、就労のために必要となる効果的なICT訓練等の実施を実現させたいと考えている。  そこで、上記の調査結果を踏まえて、次の提言を行う。この提言の実現を通して、効果的なICT訓練等の実現を期待する。 【提言1】  全国の視覚障害者がICTを活用するためのスタートラインに立つためには、基礎的な訓練の場を増やす必要があるのではないか。 (説明)  調査の結果、基礎的なICTスキルを獲得するためのICT訓練等は、全国の視覚障害者が、その者が住む地域で安定的に受けることができないことが分かった。特に、高齢の視覚障害者、ICTスキルがない者は、その者のニーズや習熟度に合わせた、手厚いICT訓練等が必要なことから、地域でのICT訓練等の実施は必須である。  そのため、「パソコン等の基本操作」「画面読み上げソフトや拡大ソフトの操作方法」「インターネットの操作方法」「メールの操作方法」等の初歩的な内容から、「文書作成の操作方法」「表計算の操作方法」等の書類作成に係わる内容程度までを指導するICT訓練等が、市区町村レベルの地域で実施されることが必要である。 【提言2】  ICTスキルを持った視覚障害者を継続的に支援する仕組みが必要ではないか。 (説明)  昨今のICTに関する進歩のスピードは速く、多くの視覚障害者はそのスピードに追い付けていない。一方で、ICTの進歩を上手く利用できれば、視覚障害者の就労上のスキルアップ等が期待できる。  そのため、ICT訓練等を受けた後に発生するICT関連の困り事に対応するため、視覚障害者に対する継続的な支援の仕組みが必要である。この仕組みにおいては、オンラインでのICT訓練等が活用できる可能性があることから、各ICT訓練等の制度において、オンラインでの指導に関する報酬設定を設ける等の改善が必要である。 【提言3】  提言1と提言2を踏まえ、あはきの業務における書類作成のためのICT訓練等は、あはきの専門機関や視覚障害当事者団体等が担うべきではないか。 (説明)  調査の結果、あはきに関する重要な書類は専門知識が必要であることと、正確さが求められることから、既存のICT訓練施設等では難しい部分があることが分かった。一方で、書類の書式変更等に対応するため、書類作成に関する継続的な支援も必要である。  そのため、あはき業または視覚障害者のことを理解しているあはきの専門機関や視覚障害当事者団体等が、視覚障害あはき師に対するICT訓練等の実施、継続的な支援を行うことが必要である。  ただし、書類作成に関する具体的な指導方法や注意点は未整理であることから、今後は指導方法等の整理が必要になる。 【提言4】  各地域で確実なICT訓練等を実施し、日々進歩するICTに対応できる講師等を確保するため、提言1と提言2を担う支援者の養成が必要ではないか。 (説明)  全国でICT訓練等は実施されているものの、全ての視覚障害者に行き届いていない。また、視覚障害あはき師であれば、その者の個別ニーズに対応することが求められ、支援をする側の質と量を高める必要がある。  そのため、ICT訓練等の支援者の質と量を高めるため、支援者の養成を行い、全国で有能な支援者の数を増やすことが必要である。この養成は、国の施策において実施すべきで、オンラインでの養成を含めて実現することが必要である。 145ページ 3 今後の課題 1.今後の課題について  視覚障害者が就労のために必要とする効果的なICT訓練等を実施するための提言は、前ページにおいてまとめを行った。しかし、ICTに関することは、ICT訓練等では対応できない内容も多く含んでいる。ここでは、ICT訓練等では対応できない内容を整理し、今後の課題として提起する。この課題を解決することで、視覚障害者のICT利用はさらに進むであろう。 2.あはき業に関する課題  今回の調査では、視覚障害あはき師が療養費支給申請書等の書類を、いかにして作成するのかがテーマだった。しかし、調査を進めると、そもそもこれらの書類自体に、視覚障害者が作成するためのアクセシビリティが備わっていないことも課題であることが分かった。これらの書類は、弱視の者にとっては読みづらく、全盲の者にとっては画面読み上げソフトを利用しても、入力が難しい。また、仮に記入や入力ができたとしても、印刷した書類が正しく記入されているかどうかを視覚障害あはき師が確認することは難しい。  そのため、視覚障害者でも記入や入力ができる書式に改めたり、簡易に作成できるデータ版の書類が必要ではないか。例えば、縦移動の入力方式、エラーチェック機能が付いていれば、視覚障害者でも書類作成が可能となる。さらに、ICTを活用し、オンラインで入力を行い、入力内容がそのまま書類として提出できる仕組みであれば、利便性が向上する。  このようなあはき業に関する課題解決も同時に行うことで、視覚障害あはき師はさらに活躍することができる。 3.視覚障害者の就労に関する課題  近年、障害者の就労を進めるため、雇用施策と福祉施策の連携が課題となっており、国において様々な検討が進められている。就労している多くの視覚障害者からは、自身の働きやすさの向上を求め、この連携に期待を寄せているが、多くの点で視覚障害者のニーズとかみ合わない部分があり、視覚障害者の就労において有効な制度にはなっていない。そのため、様々な課題の解決を通して、雇用施策と福祉施策の連携のさらなる強化を行う必要があるのではないか。  まず、通勤や職場等における支援については、令和2年10月から、@雇用施策として障害者雇用納付金制度に基づく助成金の拡充を図るとともに、A福祉施策として「雇用施策との連携による重度障害者等就労支援特別事業」を創設し、両者が一体となった新たな取り組みを開始した。このうち@は、長年課題であった通勤等への支援であり、Aは、個人開業の視覚障害あはき師の職場等における支援にも対応するものとなっている。しかし、これらはまだ実績が殆どないことから、就労する視覚障害者にとって使いやすい制度になるよう、引き続き必要な取り組みを実施していくことが求められている。  また、雇用と福祉の連携に関しては、その他にも連携が不十分な部分が多く、さらなる課題解決が必要になっている。例えば、障害者職業能力開発校等の職業能力開発施設は、その拠点が限られていることや、視覚障害者に対応する施設が少ないことが問題視されている。また、障害のある社員のスキルアップの機会を提供する場として、職業能力開発校等の在職者訓練(ハロートレーニング)等の既存の制度を活用することでも、視覚障害者に対応できる施設は限られている。本調査を実施した中でも、企業等に就労する視覚障害者への在職者訓練の実施数が少ないことや、企業と視覚障害者の間に入り、各種調整を行うジョブコーチが少ないこと等が指摘されている。特に、在職者訓練やジョブコーチを増やすことで、視覚障害者がICTスキル獲得のためのICT訓練等を受けやすくなる可能性が高くなることから、これらの課題解決も必要となっている。  さらに、今後、テレワーク等の働き方が今まで以上に一般的になっていくことを踏まえれば、働き方の変化に応じた教育・訓練の内容や方法を整備していく必要もある。そして、障害当事者の団体等によるピアサポートと連携し、職場に入って、問題解決に当たれるような仕組みも必要になっている。いずれにしても、雇用施策と福祉施策の連携を強化することで、これらの課題解決を行うことが必要である。この課題解決により、視覚障害者の就労環境はさらに向上するものと思われる。 4.ICT全般に関する課題  ICTの進歩は、社会全体を豊かにする一方で、その進歩について行けない者は置き去りとなり、その進歩の恩恵を享受することができない。そして、多くの視覚障害者は、この進歩について行けないことが多く、いかにしてICTの進歩に対応していくかが課題となっている。本調査でも、企業に勤める視覚障害あはき師から、社内システムが利用できない等、新たな問題が指摘されており、改めてICTの進歩の速さを痛感している。  しかし、これらのICTの進歩は、そもそも視覚障害者が利用するためのアクセシビリティが考慮されていないことが多く、この改善が課題となっている。つまり、様々なICTに係わる内容自体を改善しなくては、視覚障害者がICTを効果的に利用することはできないのである。  そのため、国が責任をもって視覚障害者のアクセシビリティを改善するための取り組みをすることが必要ではないか。その取り組みにおいては、アクセシビリティを改善すべき対象が多岐にわたることから、社会全体のデジタル化を省庁横断的に取り組むデジタル庁(令和3年9月創設予定)が、責任をもって対応すべきである。 149ページ 資料@ ICT訓練等の実施機関の紹介  視覚障害者向けにパソコンの操作方法等の訓練や支援を行う機関は、全国各地に点在し、視覚障害者のニーズに応じて、様々な形で訓練や支援を実施している。  ここでは、視覚障害者向けに訓練や支援を実施する機関の一例を紹介する。 150ページ 1 自立訓練(機能訓練/視覚)の施設 1.施設概要 (1)施設名  国立障害者リハビリテーションセンター自立支援局 (2)所在地  〒359−8555 埼玉県所沢市並木4−1 (3)連絡先  担当 総合相談支援部総合相談課  電話 04−2995−3100(代表)  FAX 04−2992−4525(直通)  メール rehab-soudan@mhlw.go.jp (4)ホームページ  http://www.rehab.go.jp 2.実施内容  自立訓練(機能訓練/視覚)では、主に視覚に障害のある方を対象に、地域や家庭等で持てる力を最大限に生かし、より充実した社会生活を送れるよう、歩行訓練、パソコン・点字等のコミュニケーション訓練、日常生活訓練、ロービジョン訓練等を行います。訓練内容・期間については、利用される方それぞれの必要性、ご意向等を踏まえて設定します。パソコン訓練、歩行訓練の内容は次の説明(1)(2)の通りです。また、訓練の他、社会福祉制度の紹介や利用される方の生活支援、家族支援等、担当ケースワーカーが相談支援を行います。  なお、見学・相談や利用申込み手続きについては、上記総合相談課までお問い合わせください。 (1)パソコン訓練の内容  パソコン訓練では画面を見ながら操作する代わりに、画面読み上げソフトを使用し、パソコン操作ができるよう訓練します。また、見えづらい方には画面の拡大縮小機能等を使って、パソコン操作の訓練も行います。昨今のニーズに応じて、パソコン訓練では「iPhone」「AIスピーカー」「Zoom」等のオンライン会議用ソフトの訓練にも対応しています。 (2)歩行訓練の内容  屋内・外を安全に歩行できるよう、建物内の移動方法や移動の介助を受ける方法、「白杖」という白い杖の基本操作技術を訓練します。また、電車やバス等の公共交通機関の利用方法も訓練します。 3.利用者  主に視覚に障害のある方で、施設利用について市区町村から「障害福祉サービス受給者証」の交付を受けた方がご利用いただけます。 4.利用料金  障害者総合支援法に定められた基準に基づいて、ご利用の障害福祉サービス費と食費・光熱水費をご負担いただきます。なお、所得に応じて軽減される場合がありますので、市区町村窓口へご相談ください。 【写真1:歩行訓練の様子】 【写真2:パソコン訓練の様子】 152ページ 2 就労支援の施設 1.施設概要 (1)施設名  社会福祉法人日本視覚障害者職能開発センター (2)所在地  〒160−0003 東京都新宿区四谷本塩町2−5 (3)連絡先  電話 03−3341−0900  FAX 03―3341−0967  メール shokunou@jvdcb.jp (4)ホームページ  https://www.jvdcb.jp/ 2.実施内容  当センターは、一人でも多くの視覚障害者の「働きたい、働き続けたい」を実現することを目的に、視覚障害に特化した就労支援を行う専門機関です。当センターの就労支援は、就労移行支援、就労定着支援、就労継続支援B型、職能開発訓練の4つの事業を実施しています。これらの内、ICT訓練を実施している3つの事業をご紹介します。それぞれの事業についての詳細をお知りになりたい方は、上記までお問い合わせください。 (1)就労移行支援  基礎コース、応用コース、ビジネス・ワークコース、速記コースの4コースを用意しています。  基礎コースでは、8か月(約80時間)をかけて、音声パソコン初心者の方へ段階的な訓練を実施します。電源の入れ方やキーの位置の説明から始まり、タッチタイピングによる文字入力、Windowsの基礎的な操作、WordやExcelの基本操作、ウェブサイト閲覧や電子メールの基本を習得することができます。  応用コースでは、6か月(約400時間)をかけて、より高度な職業訓練を行います。具体的には、WordやExcel等の高度な使い方、Outlookを利用したスケジュールやタスクの管理、PowerPointによるプレゼンテーション、日商PC検定対策講座等があります。また、これらの実技訓練に加えて、秘書検定講座、英会話、就職活動のための情報アクセシビリティ講座等の講義も実施しています。  なお、令和2年度に就労移行支援を利用された方の内、27名の方が就職または内定を得る等の結果が出ています。 (2)就労定着支援事業  仕事を継続する上での課題や日常生活での様々なご相談に応じています。具体的には、システムが入れ替わり音声ソフトでの利用方法が分からないので職場に来て支援してほしい、最新のWindowsに対応した操作を教えてほしい等、様々な希望にできる限り応じられるような支援を目指しています。  また、月に一度、利用者が参加できるミーティングを実施しています。ミーティングには平均して10名が参加し、定期的に相談の機会を得ることで、職場での悩みを解決する助けになっている等、利用者から好評を得ています。 (3)職能開発訓練事業  東京障害者職業能力開発校からOA実務科の運営委託を受けて実施しています。OA実務科の利用料は無料で、訓練期間中は条件により訓練手当が支給されます。定員は5名、期間は1年間(1,400時間)で、視覚障害者が一般企業等へ就職することを目的とし、パソコン技術と事務業務に必要な知識の講習を行っています。当センターの訓練の中で最も期間が長く、学科や実技を含めた幅広い内容を習得することができます。 【写真1:施設の外観】 【写真2:OA実務科の授業】 154ページ 3 パソコンサポート団体 1.施設概要 (1)施設名  特定非営利活動法人スラッシュ (2)所在地  〒167−0051 東京都杉並区荻窪5−16−7−101 (3)連絡先  電話 03−5397−0644  FAX 03―5397−0644  メール slash101@me.point.ne.jp (4)ホームページ  http://www4.point.ne.jp/slash/ 2.実施内容  当団体は「誰にでも分かりやすく」をモットーに、視覚に障害のある方にパソコン・スマートフォン・タブレット・その他関連機器の使用方法等をご案内しています。一人でも多くの視覚に障害のある方がICT機器等を使うことで、より豊かな生活が実現することを願っています。  なお、火曜日を除く午前10時〜午後5時が営業時間となり、講習は予約制になります。 (1)初心者向けのパソコン講習  パソコンやタブレット等を使えるようになりたいと思っている方、何から始めたらよいか分からない方等を対象に、講師と1対1の対面形式、またはリモート形式の授業を行います。授業の内容は受講者の要望によって、各種ソフトの使い方やインストール方法、インターネットの利用方法、さらには各種携帯電話・スマートフォン・タブレットの使用方法等、様々な内容を懇切丁寧に対応しています。 (2)電話によるサポート  パソコンや周辺機器に関するご質問・ご相談を無料にて受け付けています。 (3)パソコン等の購入の相談対応  お一人でパソコンを始めるにあたり、機器を購入されるのが難しい方を対象に、よりスムーズなご購入ができるよう、ご相談に応じています。 (4)インストールの代行  OSのインストールをはじめ、各種アプリケーションソフトのインストールを代行します。 3.利用者  視覚に障害のある方。身体障害者手帳の有無に関わらずご利用可能です。 4.利用料金 (1)利用会費  6,000円(4月から翌年3月までを有効期間とします。)   ※利用会費の納入は必須ではありませんが、活動の継続のためご協力いただけますと幸いです。 (2)授業料  1時間 1,500円(非会員の場合は2,000円)  30分 1,000円(非会員の場合は1,500円) (3)その他  出張料 5,000円+交通費  パソコン等の初期設定 7,000円 等 【写真1:支援の様子】 【写真2:支援の様子】 157ページ 資料A 調査票、関連資料 158ページ 1 視覚障害あはき師向け書面調査 調査票 ※テキスト版では割愛する。墨字版では使用した調査票を画像で掲載している。 160ページ   2 訓練機関等向け書面調査 調査票 ※テキスト版では割愛する。墨字版では使用した調査票を画像で掲載している。 161ページ 3 あはき師養成機関向け書面調査 調査票 ※テキスト版では割愛する。墨字版では使用した調査票を画像で掲載している。 162ページ 4 療養費支給申請書(入力補助シート付) 【写真1:療養費支給申請書(見本)】 【写真2:Excelの入力補助シート】 1.療養費支給申請書(入力補助シート付)について  本ページに掲載する申請書は、Excelをベースに作られたもので、本調査検討委員会の委員が視覚障害あはき師の声を受け、試作したものである。  まず、この申請書は、以前より視覚障害あはき師がデータ入力をすることが難しいとされており、いかにしてデータ入力をするかが課題となっていた。そこで、本調査事業では、データ入力をするための訓練や支援に着目し、各種調査を実施した。しかし、入力側のアクセシビリティの確保も重要であることから、この試作版の申請書を作成した。具体的には、Excelの転記機能を活用した入力補助シートを付け、この入力補助シート上で入力すると、左ページの療養費支給申請書に転記される仕組みを考案した。その際、この入力補助シートは、縦移動で進むことにより「入力内容の説明」「入力欄」を交互に繰り返す仕組みにしたことで、視覚障害あはき師が入力内容を確認しながら、効率的に入力できる方式を採用している。  なお、本事業では、ヒアリング調査において、対象者へのテスト用のソフトとして使用した。 164ページ おわりに  本事業は、(1)視覚障害者にとって効果的なICT訓練等の実施方法の在り方、及び(2)地域でICT訓練等を受けるための効果的な支援方法の在り方の二つの課題意識の上に調査を実施しました。これらの課題に取り組むために、視覚障害あはき師向けの調査、訓練(教育)機関を対象にした調査を実施しました。当事者調査では全国460名の皆様からの回答をいただきました。その中で、あはき業務の中で重要書類の作成で困っている者が173名(37.6%)、この中で156名(90.2%)の者が書類作成を自身で行えるようになりたいとの願いをお持ちであることが分かりました。さらにその思いは年代や見え方の違いはなく90%前後であることがとても印象深い結果でした。支援のアプローチにはいくつかの方法がありますが、自身が自立して「できる」ことを増やしていくことは、自己決定の機会を保障することであり、「障害のある人も地域で安心して暮らせる社会」の実現の上で重要な視点であると思われます。一方で、ICT訓練等を受けたと認識しておられる者は132名(28.7%)であり、訓練の機会が十分でないことをうかがわせる状況でした。また、ICT訓練等の重要書類作成への貢献については役に立ったと感じる者と、その選択肢以外の思いを持つ者が半々であり、実際のあはき業務と訓練内容の関係は限定的であると認識している回答者が多い様子でした。さらに、受講上の不満な点として、訓練等施設が遠いこと(空間の問題)と、仕事時間との兼ね合いの問題(時間の問題)が指摘されていました。しかし、ICT訓練等を受けた者の8割程度は、それによりパソコン操作が一人でできるようになったと考えており、教育効果の高さは十分に発揮されている様子もうかがえました。つまり、あはき師が自立して書類作成を行なうことを考えた場合、書類作成を一人で行いたいと考える者はとても多く、併せてパソコンの基本操作等のICT訓練等の教育効果も高いことから、あはき業に関する文書作成に特化した教育プログラムを空間と時間の問題を解決できる方法を採用し、手軽な手続きで利用できる学びの場の創造が重要であると考えられます。研修ニーズとして、電話やメールでの利用を望む回答者が314名(68.3%)であったことも大きなヒントになると思われます。  それでは、訓練等施設の状況はどうでしょうか。全国の視覚障害者に対する訓練や支援を実施する機関等に対するICT訓練等の状況を調査したところ、145件の回答が得られました。そのうちICT訓練等を実施している機関は90施設(62.1%)でした。訓練内容としては、パソコンの基本操作は94.4%の施設で実施しているものの、あはき業で活用する事務処理方法について実施している施設は14.4%にとどまっていました。この状況は視覚障害あはき師の養成機関65機関(回答数52機関)に実施した調査においても、88.5%の機関でICT関連の指導を実施していましたが、あはきの療養費等の指導を行なっている機関はとても少ないといった類似の状況がうかがえました。その理由として人員不足等の問題もあるようですが、もう一つ考えられることは、特に、あはき業の文書作成において、普段その実務に携わっている職員が不在であることも挙げられるように感じました。この内容を指導する場合、ICTに関する知識だけでは十分ではなく、あはきの知識や療養費等の書類の内容についての知識も必須です。従って、あはき業団体等と連携したサポート体制の構築の必要性が指摘できると考えられます。  少子化・高齢化が加速し、人口減少が現実となっている現在、情報提供や各種申請のデジタル化は、持続可能な社会の構築の上で欠かせません。ちょうど20年ほど前にも同じような「光の道」といった取り組みがあり、全国でパソコン講習会が開かれ、視覚障害者向けの講座も開かれましたが、残念ながら、現在ほど社会の側に変化はありませんでした。しかし、今回のデジタル化はそれとは違い、実現することが求められていると考えられます。そのことを考えた時、デジタル化による障壁が生じることのないように、システム設計の段階から様々な立場の方が携わり、公平なデジタル環境の実現の推進が必要であると考えられます。併せて、デジタル化は個別最適な環境構築を実現できるといった柔軟性という特徴もあります。デジタル化においても、障害者施策同様「Nothing about us without us」の精神が重要であると考えられます。また、視覚障害者は「あはき業」を含めて、公平に社会に参加するために、パソコンの知識と技能を身に付けることを望んでいることを本調査は明らかにしました。きっとそれは人間としての尊厳にも繋がる大切な当事者の意識の一つと言えるでしょう。システムだけでなく人の進化も重要のようです。今後、持続可能な社会、公平に参加できる社会の実現を、デジタル化とその訓練(学習)という切り口から推進していくことの重要性と実現の可能性を本調査は明らかにしたと考えております。 裏表紙 【発行】 社会福祉法人日本視覚障害者団体連合 〒169−8664 東京都新宿区西早稲田2−18−2 TEL 03−3200−0011 FAX 03−3200−7755 メール jim@jfb.jp URL http://nichimou.org/