137ページ 第7章 まとめ 138ページ 1 調査結果の整理 1.視覚障害あはき師 (1)書類作成の困難さ  あはきの業務を行う上で重要な書類作成に困っている視覚障害あはき師は非常に多い。調査結果を整理すると、「個人開業」「全盲」「高齢」「ICTスキルが低い」という条件の者に困っている傾向が見られる。  ただし、これらの者以外にも困っている者は多い。例えば、正確さを求められるあはきの書類は、ICTスキルがある者でも作成することは難しい。また、援助者に依頼する等で現在は書類作成に困っていない者も、援助者が不在になれば書類作成が困難になる。さらに、企業に勤める者であれば、個人開業の者とは別角度の書類作成及びICTに関する困り事を抱えている。  つまり、多くの視覚障害あはき師は、あはきの業務で必要な書類作成に困っているのである。 (2)ICTスキルの活用  多くの視覚障害あはき師は、パソコン等のICT機器を仕事でも日常生活でも利用している。パソコン等を利用するためのICTスキルは、ICT訓練等や独学で覚えた者が多く、ICTスキルを身に付けたことで仕事の事務処理が向上する、日常生活が豊かになる等のメリットが生まれている。  しかし、あはきの業務で必要な書類作成においては、このICTスキルを生かすことは十分にできていない。主な理由は、これらの書類が正確さを必要とするため、視覚障害あはき師の平均的なICTスキルでは対応しきれない部分があるためである。そのため、メール等で代行業者に依頼する等、自身のICTスキルを工夫し、苦心しながらこれらの書類を作成している状況がうかがえる。  一方で、ICTスキルを有していないため、あはき業の業務範囲を狭めている視覚障害あはき師もいる。特に、高齢の者の中では、自身の周りでICT訓練等の実施機関等が不在なため、ICTスキルの獲得を諦めている者もいる。  つまり、様々な視覚障害あはき師がいる中で、あはき業のためにICTスキルを上手く活用できている者は少ない。 (3)ICT訓練等の利用と期待  現在のICT訓練等は、地域によって実施の有無、内容の違いがあり、全ての視覚障害あはき師はICT訓練等を満足に受けられる状況にはない。特に、視覚障害者の横の繋がりがない者は、ICT訓練等の実施機関等の情報がないため、それらの実施機関等に繋がらない傾向が強く、ICT訓練等を受けたくても受けられないことがある。  ただし、自身の業務に役立つのであれば、ICT訓練等を受けたいと思う視覚障害あはき師は非常に多く、このICT訓練等の活用に期待している。また、その者の都合に合わせた、身近な所でICT訓練等を受講したいと考える者も多い。  そのため、ICT訓練等は、視覚障害あはき師の期待とニーズに応えられる訓練等の体制整備が必要である。 (4)視覚障害あはき師の現状とニーズに連動したICT訓練等の必要性  視覚障害あはき師は、個々人でそれぞれの特性があり、ICTスキルの差は大きい。しかし、多くの者がICTスキルの獲得に期待している。大きく分けると、次の現状とニーズがあり、これらに連動したICT訓練等が必要である。また、ICTスキルの効果を最大限発揮するためには、必要に応じて、在宅や職場等で人的支援が受けられることも必要である。 @ICT活用のスタートラインに立つためのICT訓練等  高齢の視覚障害あはき師を中心にICTスキルを有していない者が多い。これらの者は、ICTスキルを獲得するまで丁寧な指導が必要で、遠方への移動が難しいため、地域レベルでICT訓練等が行われることを求めている。これらのICT訓練等を通して、基礎的なICTスキルを獲得し、ICT活用のスタートラインに立てるようになることが必要である。 AICTスキルの維持向上のための継続的な支援  基礎的なICTスキルを有した者であっても、日々のICTの進歩により困り事は発生している。一方で、あはきに関する重要書類は、制度の改正等により書式が変更されることもあり、今まで対応してきた作成方法が通用しなくなる可能性もある。そのため、このような変化に視覚障害あはき師が対応するために、ICT訓練等の中で、継続的な支援が行われることが必要である。その際はオンラインでの支援等が活用できる。 2.訓練機関等 (1)ICT訓練等の実施状況  視覚障害者の関係機関、リハビリテーション機関、パソコンサポート団体等を中心に、全国各地で様々な方法でICT訓練等が実施されている。どの機関も地域の視覚障害者のニーズに合わせ、訓練を希望する者とマンツーマンに近い形でICT訓練等を行う等、そのニーズに特化したICT訓練等を実施しており、視覚障害者のICTスキルの獲得に貢献している。  ただし、全国でどのくらいのICT訓練等が実施されているかは本調査では把握できず、ICT訓練等が未実施の地域も存在する可能性が高い。 (2)視覚障害あはき師のニーズへの対応  上記のICT訓練等の実施により、多くの視覚障害あはき師は、基礎的なICTスキルを獲得し、ICT活用のスタートラインに立つことができている。視覚障害者あはき師からの満足度も非常に高い。  しかし、あはきの重要な書類作成に関するICT訓練等については、そのニーズは届いているものの、あはきの書類作成に特化したICT訓練等の実施は少なく、視覚障害あはき師のニーズには応えきれていない。特に、これらの書類には専門的知識が必要であり、作成において正確さが求められることから、訓練機関等が実施に向けて前向きになれない部分がある。  しかし、あはきにおける書類作成のルールやノウハウが分かれば対応可能とする機関等は少なくはない。そのため、書類作成のためのICT訓練等を実施するための諸条件の整理が必要である。 (3)ICT訓練等の課題  視覚障害者のICT訓練等を充実させるためには、そのICT訓練等を担う人材の確保が必要になっている。特に、視覚障害者に直接指導を行う講師の養成には時間がかかるため、どのようにして講師を養成するかが喫緊の課題となっている。今後のICTの進歩による需要の増大に対応するためには、まずは、視覚障害者へパソコン等の操作方法を的確に指導できる人材を確保することが必要である。  そして、視覚障害者のニーズに柔軟な対応を行うため、オンラインでのICT訓練等の拡充も課題となっている。効率的な実施方法や制度面の整理を通して、オンラインを活用したICT訓練等を増やしていく必要がある。  さらに、これらの課題解決や整理を行うことで、各地域でICT訓練等が効率的に実施され、地域の視覚障害者が安心してICT訓練等を受けることが可能となる。特に、視覚障害者向けのICT訓練等が実施できる機関等は少なくないため、これらの課題解決や整理を通してノウハウを作り、そのノウハウを活用することで、新たな実施機関を増やすことも必要である。 3.あはき師養成機関 (1)ICT関連の指導の実施状況  あはき師の養成課程の中で、昨今の社会環境の変化に応じて、基礎的なICTスキルを確保するための指導を実施している。このことにより、視覚障害あはき師はICTスキルを獲得し、ICT活用のスタートラインに立つことができる。 (2)視覚障害あはき師のニーズへの対応  卒業した視覚障害あはき師を中心に、様々なICTに関する相談が届いている。しかし、現状では、(3)の課題等があり、全てには対応できておらず、課題の解決が必要になっている。ただし、多くの養成機関が前向きに対応するとの意向があることから、視覚障害あはき師へのICT関連の支援を担う機関の一つとして期待ができる。 (3)ICT関連の指導の課題  視覚障害者への指導を行う中で、個々人のスキルに差があるため、画一的な指導が難しい点が課題となっている。特に、ICT訓練等は、その視覚障害者のニーズに根差したマンツーマンに近い訓練が必要となるため、現状の指導方法では難しい側面がある。また、教育のカリキュラム自体が、視覚障害者のICT訓練等を明確に織り込んでいないことから、設備、人材、ノウハウが揃っていない部分もある。  視覚障害あはき師の養成課程も含め、現在の視覚障害児・者への教育の中に、ICT訓練等のカリキュラムを、明確に盛り込んでいく必要がある。特に、昨今のICTの進展に対応できる視覚障害児・者を育てるためには、基礎的なICTスキルの獲得が必要になっている。 142ページ 2 提言 1.調査結果のまとめ  本調査により、視覚障害あはき師を取り巻くICT訓練等の現状と課題が整理できた。不明確な部分はあるものの、全国の視覚障害あはき師は、あはきの業務を行う上で重要な書類作成に困っており、この書類作成を円滑に行うためにICT訓練等に期待していることが分かった。そして、このICT訓練等を実施する機関等は、全国各地で様々な方法でICT訓練等を実施しているが、全ての視覚障害あはき師のニーズには応えられていなく、これらの機関が持つ課題の解決が必要となっている。  一方で、新型コロナウイルス感染症の拡大以降、ICTスキルの獲得は必須となり、視覚障害あはき師にもICTスキルの獲得が求められている。自宅等で個人開業の者、企業等に勤める者等、具体的に必要なICTスキルは異なるが、今後はICT訓練等の需要はさらに高まっていくだろう。 2.提言  本調査事業は、視覚障害者にとって効果的なICT訓練等の実施方法の在り方と、地域でICT訓練等を受けるための効果的な支援方法の在り方を整理することを目的として、調査事業を実施した。この整理を通して、視覚障害あはき師を中心とした視覚障害者に対して、就労のために必要となる効果的なICT訓練等の実施を実現させたいと考えている。  そこで、上記の調査結果を踏まえて、次の提言を行う。この提言の実現を通して、効果的なICT訓練等の実現を期待する。 【提言1】  全国の視覚障害者がICTを活用するためのスタートラインに立つためには、基礎的な訓練の場を増やす必要があるのではないか。 (説明)  調査の結果、基礎的なICTスキルを獲得するためのICT訓練等は、全国の視覚障害者が、その者が住む地域で安定的に受けることができないことが分かった。特に、高齢の視覚障害者、ICTスキルがない者は、その者のニーズや習熟度に合わせた、手厚いICT訓練等が必要なことから、地域でのICT訓練等の実施は必須である。  そのため、「パソコン等の基本操作」「画面読み上げソフトや拡大ソフトの操作方法」「インターネットの操作方法」「メールの操作方法」等の初歩的な内容から、「文書作成の操作方法」「表計算の操作方法」等の書類作成に係わる内容程度までを指導するICT訓練等が、市区町村レベルの地域で実施されることが必要である。 【提言2】  ICTスキルを持った視覚障害者を継続的に支援する仕組みが必要ではないか。 (説明)  昨今のICTに関する進歩のスピードは速く、多くの視覚障害者はそのスピードに追い付けていない。一方で、ICTの進歩を上手く利用できれば、視覚障害者の就労上のスキルアップ等が期待できる。  そのため、ICT訓練等を受けた後に発生するICT関連の困り事に対応するため、視覚障害者に対する継続的な支援の仕組みが必要である。この仕組みにおいては、オンラインでのICT訓練等が活用できる可能性があることから、各ICT訓練等の制度において、オンラインでの指導に関する報酬設定を設ける等の改善が必要である。 【提言3】  提言1と提言2を踏まえ、あはきの業務における書類作成のためのICT訓練等は、あはきの専門機関や視覚障害当事者団体等が担うべきではないか。 (説明)  調査の結果、あはきに関する重要な書類は専門知識が必要であることと、正確さが求められることから、既存のICT訓練施設等では難しい部分があることが分かった。一方で、書類の書式変更等に対応するため、書類作成に関する継続的な支援も必要である。  そのため、あはき業または視覚障害者のことを理解しているあはきの専門機関や視覚障害当事者団体等が、視覚障害あはき師に対するICT訓練等の実施、継続的な支援を行うことが必要である。  ただし、書類作成に関する具体的な指導方法や注意点は未整理であることから、今後は指導方法等の整理が必要になる。 【提言4】  各地域で確実なICT訓練等を実施し、日々進歩するICTに対応できる講師等を確保するため、提言1と提言2を担う支援者の養成が必要ではないか。 (説明)  全国でICT訓練等は実施されているものの、全ての視覚障害者に行き届いていない。また、視覚障害あはき師であれば、その者の個別ニーズに対応することが求められ、支援をする側の質と量を高める必要がある。  そのため、ICT訓練等の支援者の質と量を高めるため、支援者の養成を行い、全国で有能な支援者の数を増やすことが必要である。この養成は、国の施策において実施すべきで、オンラインでの養成を含めて実現することが必要である。 145ページ 3 今後の課題 1.今後の課題について  視覚障害者が就労のために必要とする効果的なICT訓練等を実施するための提言は、前ページにおいてまとめを行った。しかし、ICTに関することは、ICT訓練等では対応できない内容も多く含んでいる。ここでは、ICT訓練等では対応できない内容を整理し、今後の課題として提起する。この課題を解決することで、視覚障害者のICT利用はさらに進むであろう。 2.あはき業に関する課題  今回の調査では、視覚障害あはき師が療養費支給申請書等の書類を、いかにして作成するのかがテーマだった。しかし、調査を進めると、そもそもこれらの書類自体に、視覚障害者が作成するためのアクセシビリティが備わっていないことも課題であることが分かった。これらの書類は、弱視の者にとっては読みづらく、全盲の者にとっては画面読み上げソフトを利用しても、入力が難しい。また、仮に記入や入力ができたとしても、印刷した書類が正しく記入されているかどうかを視覚障害あはき師が確認することは難しい。  そのため、視覚障害者でも記入や入力ができる書式に改めたり、簡易に作成できるデータ版の書類が必要ではないか。例えば、縦移動の入力方式、エラーチェック機能が付いていれば、視覚障害者でも書類作成が可能となる。さらに、ICTを活用し、オンラインで入力を行い、入力内容がそのまま書類として提出できる仕組みであれば、利便性が向上する。  このようなあはき業に関する課題解決も同時に行うことで、視覚障害あはき師はさらに活躍することができる。 3.視覚障害者の就労に関する課題  近年、障害者の就労を進めるため、雇用施策と福祉施策の連携が課題となっており、国において様々な検討が進められている。就労している多くの視覚障害者からは、自身の働きやすさの向上を求め、この連携に期待を寄せているが、多くの点で視覚障害者のニーズとかみ合わない部分があり、視覚障害者の就労において有効な制度にはなっていない。そのため、様々な課題の解決を通して、雇用施策と福祉施策の連携のさらなる強化を行う必要があるのではないか。  まず、通勤や職場等における支援については、令和2年10月から、@雇用施策として障害者雇用納付金制度に基づく助成金の拡充を図るとともに、A福祉施策として「雇用施策との連携による重度障害者等就労支援特別事業」を創設し、両者が一体となった新たな取り組みを開始した。このうち@は、長年課題であった通勤等への支援であり、Aは、個人開業の視覚障害あはき師の職場等における支援にも対応するものとなっている。しかし、これらはまだ実績が殆どないことから、就労する視覚障害者にとって使いやすい制度になるよう、引き続き必要な取り組みを実施していくことが求められている。  また、雇用と福祉の連携に関しては、その他にも連携が不十分な部分が多く、さらなる課題解決が必要になっている。例えば、障害者職業能力開発校等の職業能力開発施設は、その拠点が限られていることや、視覚障害者に対応する施設が少ないことが問題視されている。また、障害のある社員のスキルアップの機会を提供する場として、職業能力開発校等の在職者訓練(ハロートレーニング)等の既存の制度を活用することでも、視覚障害者に対応できる施設は限られている。本調査を実施した中でも、企業等に就労する視覚障害者への在職者訓練の実施数が少ないことや、企業と視覚障害者の間に入り、各種調整を行うジョブコーチが少ないこと等が指摘されている。特に、在職者訓練やジョブコーチを増やすことで、視覚障害者がICTスキル獲得のためのICT訓練等を受けやすくなる可能性が高くなることから、これらの課題解決も必要となっている。  さらに、今後、テレワーク等の働き方が今まで以上に一般的になっていくことを踏まえれば、働き方の変化に応じた教育・訓練の内容や方法を整備していく必要もある。そして、障害当事者の団体等によるピアサポートと連携し、職場に入って、問題解決に当たれるような仕組みも必要になっている。いずれにしても、雇用施策と福祉施策の連携を強化することで、これらの課題解決を行うことが必要である。この課題解決により、視覚障害者の就労環境はさらに向上するものと思われる。 4.ICT全般に関する課題  ICTの進歩は、社会全体を豊かにする一方で、その進歩について行けない者は置き去りとなり、その進歩の恩恵を享受することができない。そして、多くの視覚障害者は、この進歩について行けないことが多く、いかにしてICTの進歩に対応していくかが課題となっている。本調査でも、企業に勤める視覚障害あはき師から、社内システムが利用できない等、新たな問題が指摘されており、改めてICTの進歩の速さを痛感している。  しかし、これらのICTの進歩は、そもそも視覚障害者が利用するためのアクセシビリティが考慮されていないことが多く、この改善が課題となっている。つまり、様々なICTに係わる内容自体を改善しなくては、視覚障害者がICTを効果的に利用することはできないのである。  そのため、国が責任をもって視覚障害者のアクセシビリティを改善するための取り組みをすることが必要ではないか。その取り組みにおいては、アクセシビリティを改善すべき対象が多岐にわたることから、社会全体のデジタル化を省庁横断的に取り組むデジタル庁(令和3年9月創設予定)が、責任をもって対応すべきである。 164ページ おわりに  本事業は、(1)視覚障害者にとって効果的なICT訓練等の実施方法の在り方、及び(2)地域でICT訓練等を受けるための効果的な支援方法の在り方の二つの課題意識の上に調査を実施しました。これらの課題に取り組むために、視覚障害あはき師向けの調査、訓練(教育)機関を対象にした調査を実施しました。当事者調査では全国460名の皆様からの回答をいただきました。その中で、あはき業務の中で重要書類の作成で困っている者が173名(37.6%)、この中で156名(90.2%)の者が書類作成を自身で行えるようになりたいとの願いをお持ちであることが分かりました。さらにその思いは年代や見え方の違いはなく90%前後であることがとても印象深い結果でした。支援のアプローチにはいくつかの方法がありますが、自身が自立して「できる」ことを増やしていくことは、自己決定の機会を保障することであり、「障害のある人も地域で安心して暮らせる社会」の実現の上で重要な視点であると思われます。一方で、ICT訓練等を受けたと認識しておられる者は132名(28.7%)であり、訓練の機会が十分でないことをうかがわせる状況でした。また、ICT訓練等の重要書類作成への貢献については役に立ったと感じる者と、その選択肢以外の思いを持つ者が半々であり、実際のあはき業務と訓練内容の関係は限定的であると認識している回答者が多い様子でした。さらに、受講上の不満な点として、訓練等施設が遠いこと(空間の問題)と、仕事時間との兼ね合いの問題(時間の問題)が指摘されていました。しかし、ICT訓練等を受けた者の8割程度は、それによりパソコン操作が一人でできるようになったと考えており、教育効果の高さは十分に発揮されている様子もうかがえました。つまり、あはき師が自立して書類作成を行なうことを考えた場合、書類作成を一人で行いたいと考える者はとても多く、併せてパソコンの基本操作等のICT訓練等の教育効果も高いことから、あはき業に関する文書作成に特化した教育プログラムを空間と時間の問題を解決できる方法を採用し、手軽な手続きで利用できる学びの場の創造が重要であると考えられます。研修ニーズとして、電話やメールでの利用を望む回答者が314名(68.3%)であったことも大きなヒントになると思われます。  それでは、訓練等施設の状況はどうでしょうか。全国の視覚障害者に対する訓練や支援を実施する機関等に対するICT訓練等の状況を調査したところ、145件の回答が得られました。そのうちICT訓練等を実施している機関は90施設(62.1%)でした。訓練内容としては、パソコンの基本操作は94.4%の施設で実施しているものの、あはき業で活用する事務処理方法について実施している施設は14.4%にとどまっていました。この状況は視覚障害あはき師の養成機関65機関(回答数52機関)に実施した調査においても、88.5%の機関でICT関連の指導を実施していましたが、あはきの療養費等の指導を行なっている機関はとても少ないといった類似の状況がうかがえました。その理由として人員不足等の問題もあるようですが、もう一つ考えられることは、特に、あはき業の文書作成において、普段その実務に携わっている職員が不在であることも挙げられるように感じました。この内容を指導する場合、ICTに関する知識だけでは十分ではなく、あはきの知識や療養費等の書類の内容についての知識も必須です。従って、あはき業団体等と連携したサポート体制の構築の必要性が指摘できると考えられます。  少子化・高齢化が加速し、人口減少が現実となっている現在、情報提供や各種申請のデジタル化は、持続可能な社会の構築の上で欠かせません。ちょうど20年ほど前にも同じような「光の道」といった取り組みがあり、全国でパソコン講習会が開かれ、視覚障害者向けの講座も開かれましたが、残念ながら、現在ほど社会の側に変化はありませんでした。しかし、今回のデジタル化はそれとは違い、実現することが求められていると考えられます。そのことを考えた時、デジタル化による障壁が生じることのないように、システム設計の段階から様々な立場の方が携わり、公平なデジタル環境の実現の推進が必要であると考えられます。併せて、デジタル化は個別最適な環境構築を実現できるといった柔軟性という特徴もあります。デジタル化においても、障害者施策同様「Nothing about us without us」の精神が重要であると考えられます。また、視覚障害者は「あはき業」を含めて、公平に社会に参加するために、パソコンの知識と技能を身に付けることを望んでいることを本調査は明らかにしました。きっとそれは人間としての尊厳にも繋がる大切な当事者の意識の一つと言えるでしょう。システムだけでなく人の進化も重要のようです。今後、持続可能な社会、公平に参加できる社会の実現を、デジタル化とその訓練(学習)という切り口から推進していくことの重要性と実現の可能性を本調査は明らかにしたと考えております。