101ページ 第6章 考察・分析 102ページ 1 視覚障害あはき師に対する調査 1.回答者について (1)回答者の傾向 【図6−1−01 回答者の年齢】 @20代 6名 A30代 10名 B40代 48名 C50代 101名 D60代 179名 E70代以上 116名  視覚障害あはき師への書面調査は、全国から460名の回答が集まった。回答者の年代は60代が38.9%と最も多く、視覚障害者の年齢階層に見合った回答が得られた。また、70代以上の者からも多くの回答が集まったことから、あはき業が視覚障害者にとって年齢を重ねても続けられる仕事であることが示されている。  また、視覚障害の程度を確認すると、全盲の者からの回答が60.0%となった。点字での回答が20.0%であることを考慮すると、今回の書面調査は、視覚障害あはき師の中でも書類の作成が困難な者を中心に回答が集まったと考えられる。  なお、年齢を分析するにあたり、20代、30代、40代は回答数が少なかったことから、「20〜40代」として一つにまとめることにした。 (2)ICT機器の利用状況 【図6−1−02 ICT機器の利用状況】 @仕事とプライベートで利用している 48.5% A仕事で利用している 2.6% Bプライベートで利用している 20.9% Cそれほど利用していない 6.3% D利用していない 19.6% E無回答 2.2%  パソコン等のICT機器の利用状況を確認すると、仕事でもプライベートでも利用している者が多く、合計72.0%の者がICT機器を利用していた。この結果は、全盲と弱視で差はなく、今や視覚障害者にとってICT機器を使用することは、ごく日常的なことであることが示された。  しかし、この結果を裏返すと、合計25.9%の者がICT機器を利用していないことも示されている。特に、高齢になるほどICT機器を利用していない傾向が見え、70代以上では合計37.0%の者が「それほど利用してない」「利用していない」と答えている。書面調査の自由記述では、高齢のためにICTスキルの獲得が難しい旨の回答が多く寄せられていた。これらの結果を踏まえると、高齢を理由にICTスキルの獲得を諦めている傾向が読み取れる。もちろん、その者の体力や気力に関する影響もあるかもしれないが、その者の近くに頼れる存在がいないため、結果的に諦めてしまっていることがうかがえる。 2.あはき業について (1)あはき業の関わり方 【図6−1−03 あはき業の関わり方(複数回答)】 @自宅等で個人事業主として開業 69.1% A自身で会社組織を立ち上げて開業 2.0% Bあはき施術所等に勤務 12.8% C企業等にヘルスキーパーとして勤務 2.8% D施設等に機能訓練指導員として勤務 7.0% Eその他 12.2% F無回答 2.2%  あはき業の関わり方については、個人事業主でありながら施設等に機能訓練指導員として勤める等、一部の者はあはき業の関わり方を複数回答していた。ただし、多くの者は単一回答をしており、64.0%が個人開業の者であった。この個人開業の者を中心に回答が集まったことは、視覚障害あはき師の中でも書類の作成が困難な者を中心に回答が集まったことを裏付ける結果とも言える。  一方でヘルスキーパーや機能訓練指導員等の企業等に雇用されている視覚障害あはき師の回答は少なかった。これらの者については、書面調査では回答数が少ないため、現状やニーズが掴み切れなかった。そのため、ヘルスキーパーの視覚障害あはき師に対して、別途ヒアリング調査を行うこととなった。  なお、今回の調査では地域性の違いは分析の対象としなかった。あはき業への関わり方は、地域性によって異なる可能性があり、例えば、上記の企業等に勤めている者は、首都圏に住んでいる者の方が多いと思われる。しかし、この地域性を整理できるまで回答が集まらなかったことから、地域性の分析は行わなかった。この点は今後の検討課題となる。 (2)療養費の取り扱い 【図6−1−04 あはき業における療養費の取り扱い(ICT機器の利用状況別)】 A 全体 @取り扱っている 40.9% A取り扱っていない 54.8% B ICT利用あり @取り扱っている 44.1% A取り扱っていない 53.8% C ICT利用なし @取り扱っている 35.3% A取り扱っていない 61.3%  療養費の取り扱いについては、全体で40.9%の者が「取り扱っている」と回答した。ただし、あはき業の関わり方により差があり、ヘルスキーパーや機能訓練指導員として企業や施設に勤務する者は20%前後の取り扱い率になっている。  そして、この結果について検討委員から「取り扱い率が予想以上に高いと感じた」との指摘があった。つまり、以前と比べて視覚障害あはき師の中で療養費の取り扱いが増えた可能性があるようだ。例えば、ヒアリング調査では、都内の視覚障害あはき師が療養費の書類作成を代行業者に依頼しているとの回答があった。ただし、代行業者を利用するにも、最低限メールが送信できる程度の基礎的なICTスキルが必要とされ、「ICTスキルがない者では、代行の依頼は難しいこともある」との指摘もあった。  これらを整理すると、視覚障害あはき師がICTスキルを身に付けたことで、療養費の取り扱い率が増えた可能性はあるのかもしれない。療養費の取り扱いの有無を、ICT機器の利用状況別に確認すると、ICT利用がある者は44.1%の取り扱い率になり、数字上は利用率が上がっている。この結果だけで、ICTスキルを身に付ければ療養費の取り扱いが増えるとは言い切れないが、取り扱いを増やすための要因の一つになるのかもしれない。 (3)あはき業における重要な書類の作成方法 【図6−1−05 あはき業における重要な書類の作成方法(複数回答)(年代別)】 A パソコン @全体 32.6% A20〜40代 29.6% B50代 37.6% E60代 36.3% F70代〜 24.1% B 墨字 @全体 11.3% A20〜40代 12.5% B50代 13.8% E60代 10.6% F70代〜 9.4% C 点字 @全体 13.7% A20〜40代 9.3% B50代 3.9% E60代 16.2% F70代〜 20.6% D 他者 @全体 16.7% A20〜40代 23.4% B50代 13.8% E60代 13.4% F70代〜 20.6% E 作成なし @全体 18.9% A20〜40代 17.1% B50代 22.7% E60代 17.8% F70代〜 18.1% F その他 @全体 6.3% A20〜40代 9.3% B50代 8.9% E60代 4.4% F70代〜 5.1%  書類の作成方法については、回答者の特性によって大きく差異が出ることが予想できたことから、複数の調査結果とのクロス集計を行い、詳細な分析を行った。  まず、パソコンで作成する者が全体で32.6%となり、他の手段よりも多い結果になった。ただし、年代による差はあり、70代以上の者になるとパソコンで作成する者は24.1%に下がっている。なお、パソコンを利用しない者は「点字」「他者への指示」で作成している傾向が強かった。  さらに、年代別で気になるのは20〜40代のパソコン利用率が若干低い点だ。これは、あはき業の関わり方と連動し、企業に雇用されている者が他の年代より20〜40代の方が少し多い点が影響していると思われる。企業等に勤めている場合、その企業等の晴眼の職員等に、書類作成の依頼ができるだろう。そのためか、20〜40代は「他者への指示」が増えている。  一方で「作成なし」と答えた者は18.9%だった。この点は年代や視覚障害の程度、あはき業の関わり方等でクロス集計を行ったが明確な理由は分からなかった。回答者別の個別事情が深く影響しているのかもしれない。 (4)あはき業における書類作成の困り具合 【図6−1−06 あはきの業務の中で、重要な書類作成に困っているか】 @困っている 37.6% A困っていない 45.9% B分からない 12.6% C無回答 3.9%  視覚障害あはき師がどれほど書類作成に困っているかを確認したところ、全体で37.6%の者が「困っている」と回答した。一方で45.9%の者が「困っていない」と回答した。数字で比べると「困っていない」の方が多くなっている。この違いには何か背景があるのだろうか。複数の調査結果とのクロス集計を行い、詳細な分析を行った。 @誰が困っているのか  まず、年代別では高齢になるほど「困っている」の比率が増えており、20〜40代と70代を比べると約10%の乖離があった。そして、視覚障害の程度の違いでは、全盲の方が「困っている」と回答した。また、あはき業の関わり方の違いでは、企業に勤めている者より個人開業の者の方が「困っている」と回答した。さらに、書類の作成方法の違いでは、点字で作成する者の58.7%が「困っている」と回答した。  これらの結果を踏まえると、視覚障害あはき師の中で、書類作成に困っている者のイメージは、高齢で全盲、個人開業でICTスキルが低い者になる。 AICTスキルがあれば書類作成に困らないのか  まず、ICT機器の利用状況の違いでは、ICT機器を利用している者の方が「困っている」と回答した。また、療養費の取り扱いの違いでは、療養費を取り扱っている者の方が「困っている」と回答した。  書面調査を行う際は、ICT機器を利用していない者の方が書類作成における困り事が多いだろうと考えていたが、この結果を踏まえると、パソコンを業務で使用したり療養費を取り扱ったりする者の方が、困り事が多いようだ。確かに、書面調査の自由記述を確認すると、書類作成を行うにあたり「記入欄が小さく、書き込めない」「書類の記入欄が複雑で入力ができない」等の具体的な作業の困難さを挙げる者が多かった。また、視覚障害あはき師に対するヒアリングでは、具体的な事例紹介があり、視覚障害あはき師の業務範囲が広がるほど、困り事が増えていることが分かった。  つまり、あはき業の書類作成においては、たとえICTスキルがあったとしても、視覚障害あはき師には対応が難しい業務が多いことが示された。 B書類作成に困っていない者は本当に「困っていない」のか  書面調査では45.9%の者が、書類作成に「困っていない」と回答した。この回答者には、その理由も尋ねており、弱視であれば「自分で記入ができる」と回答し、全盲であれば「他者に依頼している」と回答する傾向が強かった。  しかし、この結果の取り扱い方は注意が必要だ。例えば、弱視の者であれば、今後見え方が変わっていく可能性はあり、もし視力が急激に低下して書類が見づらくなった場合、今までどおりに書類を作成することができるのだろうか。また、全盲で家族等に書類作成を依頼していた者が、何らかの理由で家族等からの支援が受けられなくなった場合、どのように対処するのだろうか。おそらく、環境が変わったこれらの弱視や全盲の者は、書類作成ができなくなるであろう。  つまり、視覚障害あはき師において「困っていない」と回答した者は、「困っている」の予備軍ではないだろうか。この点を注意した結果の整理が求められる。 (5)書類作成におけるICT訓練等への期待 【図6−1−07 書類作成に困っている場合、自分一人で書類を作れるようになりたいか】 @思う 90.2% A思わない 3.5% B分からない 4.6% C無回答 1.7%  2−(4)では、視覚障害あはき師の37.6%の者が書類作成に困っていることを紹介した。では、これらの者は書類作成の困り事を解決したいと考えているのだろうか。この37.6%の回答者(156名)には、追加で「自分一人で書類を作れるようになりたいか」との質問を行った。その結果、90.2%の者が「一人で作れるようになりたい」と回答した。この結果も、複数の調査結果とのクロス集計を行ったが、それぞれで大きな差異はなかった。つまり、書類作成が困難な全ての視覚障害あはき師は「自分一人で書類を作れるようになりたい」と考えていることが分かった。  ただし、何をもって「一人で書類作成を行えるようになるか」までは本調査では整理することができなかった。書類作成に関するニーズの高さは確認できたが、どのように対応すべきかは、さらなる整理が必要である。それこそ、書面調査の自由記述では、ICT訓練等に期待する声もあれば、人的な補助を求める声もあった。さらに、ヒアリング調査では、「書類作成は正確さが重要」との指摘があった。あはきに関する書類は複雑なものが多く、書類作成の正確さが重要視されるのは理解できる。そのため、「一人で書類作成を行える」ようになるためには、書類作成の正確さも担保されなくてはならない。 3.ICT訓練等について (1)ICT訓練等を受けた経験 【図6−1−08 CT訓練等を受けた経験】 @ある 28.7% Aない 38.7% B独自にパソコン等の操作方法を覚えた 29.6% C無回答 3.0%  書面調査では、全国の視覚障害あはき師がどのような形でICTスキルを身に付けたかを調べるために、ICT訓練等の経験の有無を確認した。その結果、ICT訓練等を受けたことが「ある」と回答した者は28.7%、「ない」と回答した者は38.7%、「独自にパソコン等の操作方法を覚えた」と回答した者は29.6%であった。  この結果も複数の調査結果とのクロス集計を行ったところ、年代の違いでは、年齢が高くなるほど訓練を受けてない者が増えていた。高齢の視覚障害あはき師は、若い頃はICT訓練等が普及していなかった可能性があり、ICTスキルを獲得する機会が他の年代よりも少なかったのかもしれない。また、視覚障害の程度の違いにも差があり、弱視の方がICT訓練等を受けたことがない者が多かった。これらの弱視の者は、画面等を見ながら独自に操作を覚えた可能性が高いと考えられる。つまり、どのようにしてICTスキルを獲得したかは、その者の個別事情によって大きく左右されるのである。  そこで、以降の4〜6では、上記の結果別に詳しい分析を行うことにした。 4.ICT訓練等を「受けたことがある」者について (1)ICT訓練等を受けた場所 【図6−1−09 ICT訓練等を受けた場所(複数回答)(ICT訓練等を受けた時期別)】 A あはきの養成機関 @全体 10.6% A就労前 25.0% B就労後 2.4% B 視覚障害者向け訓練を行う施設 @全体 29.5% A就労前 39.5% B就労後 24.3% C 就労支援を行う施設 @全体 7.6% A就労前 10.4% B就労後 6.9% D 地域の視覚障害者団体や情報提供施設 @全体 42.4% A就労前 35.4% B就労後 46.3% E パソコンサポート団体 @全体 37.1% A就労前 22.9% B就労後 45.1% F その他 @全体 12.9% A就労前 18.7% B就労後 9.7%  ICT訓練等を「受けたことがある」者には、まず、どのタイミングで訓練等を受けたかを確認した。その結果、あはき業に就労前が36.4%、就労後が62.1%となっていた。さらに、この就労前と就労後において、どこでICT訓練等を受けたかを確認したところ、就労前と後で大きな違いがあった。就労前は、あはきの養成機関や視覚障害者向けの訓練を行う施設でICT訓練等を受けた者が多かった。就労後は、地域の視覚障害者団体やパソコンサポート団体でICT訓練等を受けた者が多かった。  この結果は、ある意味でその者にとって「近い場所」でICT訓練等を受けた結果と言えるのかもしれない。就労前であれば、国家資格の取得を目指してあはきの養成機関に入るので、そこでICT訓練等を受けるのは当然だ。また、就労後は地域の視覚障害者団体やパソコンサポート団体と近づく機会が増える可能性は高い。調査の中では、これらの施設にどのような形で繋がったのかを確認しており、多くは「知人からの紹介」を挙げている。地域ならではの横の繋がりが影響しているのではないだろうか。つまり、その者のライフタイムに合わせて、その者にとって「近い場所」でICT訓練等が実施されていた可能性が高い。 (2)ICT訓練等の効果 【図6−1−10 ICT訓練等が重要な書類作成に役立っているか】 @役立った 44.7% A役立っていない 32.6% B分からない 20.5% C無回答 2.3%  あはき業では、施術管理録や療養費の支給申請書等、書類自体が複雑なものが多い。そこで、ICT訓練等がこれらの書類作成に役立ったかどうかを確認したところ、44.7%の者が「役立った」と回答している。ただし、32.6%の者が「役立っていない」、20.5%の者が「分からない」とも回答している。  まず、ICT訓練等のメリット・デメリットは別項目で確認しており、多くの者が「パソコン等の操作が一人で出来るようになった」「様々な情報を得られるようになった」「周りとのコミュニケーションに役立った」と回答している。ICT訓練等の効果が高いことは、この結果でも十分に示すことができる。  しかし、あはき業における重要書類の作成となると、役立ったと考える者の数は減っている。これは、2−(5)で示した「書類作成の正確さ」が背景にあると考えられる。つまり、あはき業における書類作成は、その者が獲得したICTスキルをもっても、書類自体が複雑であるため、対応が難しいのかもしれない。ヒアリングでは「療養費支給申請書を作成できたとしても、印刷したものが正しい書類になっているかどうかが分からない」との指摘があった。この限りでは、正しく書類を作るための仕組みが必要となっており、ICT訓練等を超えた部分での改善も求められている。 5.ICT訓練等を「受けたことがない」者について (1)ICT訓練等を受けていない理由 【図6−1−11 ICT訓練等を受けていない理由(複数回答)(年代別)】 A ICT訓練等を知らなかった @全体 33.7% A20〜40代 45.8% B50代 45.5% E60代 34.3% F70代〜 19.6% B 必要性を感じていない @全体 41.6% A20〜40代 45.8% B50代 30.3% E60代 35.7% F70代〜 54.9% C 時間や費用がない @全体 23.0% A20〜40代 25.0% B50代 24.2% E60代 27.1% F70代〜 9.8% D 周りに施設等がない @全体 24.2% A20〜40代 20.8% B50代 27.3% E60代 27.1% F70代〜 17.6% E その他 @全体 11.2% A20〜40代 0.0% B50代 9.1% E60代 14.3% F70代〜 11.8%  ICT訓練等を受けていない者には、受けていない理由を確認した。その結果、年代による差はあるものの、「ICT訓練等が行われていることを知らなかった」「ICT訓練等を受ける必要性を感じていない」が比較的多かった。  まず、「ICT訓練等が行われていることを知らなかった」と回答した者は、20〜40代と50代の者が多かった。背景を探ると、ICT訓練等が障害福祉の領域にあるため、あはきの仕事をしている者にはあまり耳に入らないことが原因のようだ。障害福祉に関する情報を、視覚障害あはき師に的確に届けることも課題と言える。  また、「ICT訓練等を受ける必要性を感じていない」と回答した者は、年代別では70代以上の者と20〜40代の者が多かった。特に比率が高かった70代以上の者については、ICTスキルを諦めていることと、他者からの支援があることを理由に挙げている。全盲の高齢者にとって、新たにICTスキルを獲得することはハードルが高いようで、自由記述ではICTスキルの獲得に対して否定的な意見が散見された。 (2)ICT訓練等への期待 【図6−1−12 あはきの業務に役立つのであれば、ICT訓練等を受けたいと思うか(年代別)】 A 思う @全体 50.6% A20〜40代 70.8% B50代 72.7% E60代 47.1% F70代〜 31.4% B 思わない @全体 25.3% A20〜40代 12.5% B50代 12.1% E60代 25.7% F70代〜 39.2% C 分からない @全体 19.7% A20〜40代 16.7% B50代 15.2% E60代 24.3% F70代〜 17.6% D 無回答 @全体 4.5% A20〜40代 0.0% B50代 0.0% E60代 2.9% F70代〜 11.8%  ICT訓練等を受けていない者には「仕事に役立つのであればICT訓練等を受けたいと思うか」との質問を行った。その結果、全体では50.6%の者が「受けたい」と回答した。ただし、この結果も年代の違いで大きな差があった。20〜40代と50代は、「受けたい」と思う割合が70%を超えていたのに対して、60代や70代では「受けたい」と思う割合が40%前後になり、「受けたくない」と回答する者が増える結果となっていた。  まず、パソコンサポート団体へのヒアリング調査では、若い世代が意欲的にICT訓練等を求めている旨の意見があった。どうやら、若い世代の視覚障害あはき師は、ICTスキルの獲得によって、自身のキャリアアップを狙っているようだ。  一方で、60代や70代の年齢が高い世代は、ICTスキルの獲得に前向きでないことが、改めて結果として示されている。高齢の視覚障害あはき師はICTスキルを身に付けなくてよいのだろうか。今回の調査では、ICTという存在に嫌悪感を示す者もいた。一方で、高齢でもICTスキルを獲得したことで、生活が豊かになったとの意見もあった。あはき業でICTスキルを活用する前に、高齢の視覚障害者にICTの良さを伝えること、気軽にICTに関する訓練等を受けられる環境を作ることも必要なのかもしれない。 6.「独自にパソコン等の操作方法を覚えた」者について (1)パソコン等の覚え方 【図6−1−13 操作方法の覚え方(複数回答)(視覚障害の程度別)】 A 説明書等を読んで独学で勉強した @全体 59.6% A全盲 54.3% B弱視 72.5% B 家族に教えてもらった @全体 25.0% A全盲 22.3% B弱視 27.5% C 友人に教えてもらった @全体 75.7% A全盲 76.6% B弱視 72.5% D メーリングリストで尋ねた @全体 28.7% A全盲 37.2% B弱視 10.0% E 電話等でメーカーに問い合わせた @全体 27.2% A全盲 30.9% B弱視 17.5% F ホームページを検索して調べた @全体 44.9% A全盲 42.6% B弱視 50.0% G その他 @全体 11.8% A全盲 11.7% B弱視 10.0%  独自にパソコン等の操作方法を覚えた者については、覚えた方法、理由、良かった点を確認している。覚えた理由については、仕事や生活で必要になったとの回答が多かった。また、覚えて良かった点は、4−(2)と同様に、仕事や生活に生かされていることを回答しており、改めてICT訓練等の効果を結果として示すことができた。  そして、これらの者がどのような方法でパソコン等の操作方法を覚えたかについては、「友人に教えてもらった」と回答した者が全体で75.7%、「独学で勉強した」と回答した者は全体で59.6%であった。なお、「独学で勉強した」の中では、弱視の方が独学で学ぶ比率が高かった。また、「友人に教えてもらった」は全盲と弱視であまり差はなく、年代でも差はなかった。  これらの結果を整理すると、視覚障害者に特化したICT訓練等が、視覚障害あはき師が住んでいる地域にないことから、仕方がなく別の方法で学んだ可能性が高い。このことは、地域性とも関わることなので、この結果だけで結論付けることはできないが、地域でのICT訓練等が不在であることが、この結果に結び付いている可能性は否定できない。 7.あはきに特化したICT訓練等について (1)あはきの書類作成に特化したICT訓練等への期待 【図6−1−14 あはきの書類作成に特化したICT訓練等を受講したいと思うか(年齢別)】 A 思う @全体 50.4% A20〜40代 68.8% B50代 55.4% E60代 50.8% F70代〜 35.3% B 思わない @全体 23.3% A20〜40代 10.9% B50代 13.9% E60代 33.4% F70代〜 39.7% C 分からない @全体 24.3% A20〜40代 20.3% B50代 28.7% E60代 24.0% F70代〜 23.3% D 無回答 @全体 2.0% A20〜40代 0.0% B50代 0.2% E60代 2.8% F70代〜 1.7%  本調査事業は、視覚障害あはき師の負担となっている様々な書類作成を、ICT訓練等で支援することができるかどうかが大きなテーマとなっている。そこで、改めてあはきの書類作成に特化したICT訓練等を受講したいと思うかを確認した。  その結果、全体で50.4%の者がICT訓練等を「受けたい」と回答している。ただし、これまでの結果でも示している通り、年代によって差は大きく、高齢になるほど訓練を受けたいと思わない者が増えている。  2−(4)では37.6%の者が「あはきに関する書類作成に困っている」と回答している。年齢や視覚障害の程度、あはき業の関わり方によって差はあるものの、約4割の視覚障害者が書類作成に困難さを抱えている。そして、約5割の者がICT訓練等によって書類作成の困難さを解決することを期待している。この結果は、改めて視覚障害あはき師の書類作成の困難さを示せたのと同時に、ICT訓練等にニーズがあることを示せた結果となっている。 (2)あはきの書類作成に困った時の支援への期待 【図6−1−15 あはきの書類作成に困った時に、電話やメール等で問い合わせ先があれば利用したいと思うか(年齢別)】 A 思う @全体 68.3% A20〜40代 0.0% B50代 0.1% E60代 2.8% F70代〜 2.6% B 思わない @全体 13.9% A20〜40代 0.0% B50代 0.1% E60代 2.8% F70代〜 2.6% C 分からない @全体 15.9% A20〜40代 0.0% B50代 0.1% E60代 2.8% F70代〜 2.6% D 無回答 @全体 2.0% A20〜40代 0.0% B50代 0.1% E60代 2.8% F70代〜 2.6%  あはきの書類作成に特化した設問では、検討委員会の委員からの指摘で「支援の必要性」についても確認を行った。  視覚障害者は、ICT訓練等でパソコン等の操作方法を一度覚えたら基礎的なことで困ることはあまりなく、むしろ、その後の予期せぬトラブル等で困ることが多い。この点を踏まえ、同委員より「これらの解決のため、継続的な支援が必要ではないか」との指摘があった。そこで、設問を「あはきに関する書類作成で困ったことがあった際、電話やメール等で問い合わせ先があれば利用したいか」として、この点の確認を行った。  その結果、全体で68.3%の者が「思う」と回答した。特に注目したいのは、他の調査結果と同じく、若い年代ほど相談したいとの結果が出ている。ヒアリング調査でも、「若い世代から、困り事の相談は多い」との指摘があった。高齢の世代よりもICTスキルを持っていると思われる世代の方が、このような支援を必要としているのは意外かもしれない。しかし、パソコン等を使えば使うほど、様々な困り事に遭遇することは理解できる。ICTスキルを身に付けた後の継続的な支援の必要性が示すことをできた。 (3)ICT訓練等に求める要素(移動に関する内容) 【図6−1−16 ICT訓練等を受けやすくするために必要だと思う内容「場所や移動方法」(複数回答)(年齢別)】 A 近所での訓練を実施する @全体 60.0% A20〜40代 65.6% B50代 61.4% E60代 63.1% F70代〜 50.9% B 訓練する場所を増やす @全体 39.3% A20〜40代 51.6% B50代 45.5% E60代 48.0% F70代〜 35.3% C 訓練場所への移動手段を確保する @全体 44.8% A20〜40代 42.2% B50代 44.6% E60代 40.8% F70代〜 31.0% D オンライン等の遠隔訓練の活用 @全体 46.3% A20〜40代 68.8% B50代 53.5% E60代 41.9% F70代〜 34.5%  ICT訓練等にニーズがあることは、本調査の様々な調査結果で示すことができた。では、どのようにしたらICT訓練等が受けやすくなるのだろうか。  まず、検討委員からは、視覚障害者が「移動」することに課題があるとの指摘があった。例えば、ICT訓練等を実施する機関が少ない現状では、多くの者が遠くから移動しなくてはならない。しかし、視覚障害者が一人で訓練機関等へ移動することは難しいだろう。そのため、ICT訓練等を受けやすくするためには移動の課題をどのようにして解決するかがポイントとなってくる。そこで、この点についての確認を行った。  その結果、全体では「近所での実施」が60.0%、「訓練場所への移動手段の確保」が44.8%、「訓練場所を増やす」が39.3%となり、訓練を行う場所への移動を解決することが求められていた。ヒアリング調査でも同様の意見があり、いかにして視覚障害あはき師が訓練等を受けやすい環境を作るかが重要になっている。  一方で、オンライン等の方法で遠隔訓練を求める声も若い世代を中心に多かった。この点は132ページで考察する。 (4)ICT訓練等に求める要素(受講方法に関する内容) 【図6−1−17 ICT訓練等を受けやすくするために必要だと思う内容「受講方法」(複数回答)(年齢別)】 A 希望する時間や日時で実施する @全体 62.2% A20〜40代 79.6% B50代 70.3% E60代 61.5% F70代〜 48.3% B 理解するまで、何度も実施する @全体 64.1% A20〜40代 71.9% B50代 62.4% E60代 67.0% F70代〜 56.9% C 申し込みを簡単にする @全体 45.7% A20〜40代 64.1% B50代 50.5% E60代 46.9% F70代〜 29.3% D 訓練費の費用補助を行う @全体 49.1% A20〜40代 57.8% B50代 55.4% E60代 54.2% F70代〜 31.0% E 機器の導入費の費用補助を行う @全体 48.7% A20〜40代 50.0% B50代 59.4% E60代 52.5% F70代〜 32.8%  検討委員からは、ICT訓練等を受けやすくするためには、「その者のライフスタイルや習熟度等に合わせて訓練等を行うことが重要である」との指摘があった。例えば、視覚障害あはき師の多くは仕事がない時間に訓練等を希望することが多い。また、パソコン等の操作方法は、人によって習熟度が違うことから、訓練の回数も人によって異なることが多い。  そこで、これらの個別ニーズの影響を探るため、受講方法に関する確認を行った。その結果、やはり自身のライフスタイルや習熟度等に合わせて訓練等を望む者が多く、「希望する時間や日時で実施する」は全体で62.2%、「理解するまで、何度も実施する」は64.1%の者が回答していた。この限りでは、訓練等を行う側が、いかにして利用者のニーズに対して柔軟な対応ができるかがポイントとなるだろう。  また、申し込み方法の簡素化、費用負担の軽減を求める声も高かった。実際にICTに関する受講料は、自己負担の場合は1時間2,000円前後を設定する所が多く、受講者にとっては負担である。この点は国の補助制度等を整える必要がある。 8.その他  視覚障害あはき師に対する調査は書面調査を中心に実施し、書面調査では分からなかった内容はヒアリング調査で補足を行った。ここでは、ヒアリング調査の結果を中心に、これまでの考察・分析において記載できなかった調査結果を紹介する。 (1)ICTの進歩に関するニーズ  視覚障害あはき師へのヒアリング調査の中では、急速に進歩するICTについて、率直な意見を伺った。その中で、近年、話題になっているマイナンバーカードを健康保険証として利用することに期待を寄せているとの意見があった。  療養費を取り扱う際、患者の健康保険証の内容を確認することは必須となっている。しかし、視覚障害あはき師には、この確認が難しい。そこで、マイナンバーカードのデータを読み取ることができれば、画面読み上げソフトを利用して音声での確認ができ、これにより健康保険証の確認ができると思われる。また、そのデータを申請書に転記できる可能性もある。  書面調査やヒアリング調査の結果では、あはきの書類作成には正確さが求められるため、自身のICTスキルを高めても書類作成を行うことには限界がある旨の意見があった。一方で、ICTの進歩は、思いもよらない新たなシステムを生み出している。そして、一部の視覚障害あはき師は、このような新たなシステム等に期待を寄せている。もしかすると、視覚障害あはき師がICTの進歩を活用することができれば、書類作成の正確さを高めることができるのかもしれない。 (2)企業等に勤める視覚障害あはき師の実態  書面調査は、個人開業の者からの回答が多く、企業等に勤める者の現状やニーズはあまり把握できなかった。特に、書面調査の結果を見る限りでは、企業に勤める視覚障害あはき師は、企業のスタッフ等が書類作成を行っているため、書類作成にそれほど困っていないと感じる部分があった。企業等に勤める視覚障害あはき師は、書類作成に困っていないのだろうか。そこで、企業等に勤める視覚障害あはき師の実態を探るため、ヘルスキーパーに対するヒアリングを実施した。  その結果、企業等に勤めていても、様々な書類作成に困っていることが分かった。正確にはパソコンでの入力処理に困っており、個人開業の視覚障害あはき師とは異なる困り事が確認できた。例えば、企業独自の社内システムが画面読み上げソフトに対応しない等の問題があった。この場合、日常的な社内連絡が確認できないこともあり、企業等に勤める者としては死活問題となっている。  現在の多くの企業等では、一人に一台のパソコンが支給され、その企業等に勤める視覚障害あはき師もパソコンの利用が必須となっている。また、最新のシステムを否応なしに利用せざるを得ない状況にもある。そのため、企業等に勤める視覚障害あはき師にも、個人開業のあはき師と同様にICTスキルが必要となっており、ICT訓練等が必要とされている。 (3)オンラインでのICT訓練等の可能性  新型コロナウイルスの影響によって普及したもの一つに、オンライン会議システムがある。ヘルスキーパーとのヒアリングの中では、「このシステムをICT訓練等で活用してほしい」との要望があった。このことを深く考えると、オンラインでのICT訓練等は、視覚障害あはき師にとってメリットがあるのかもしれない。  例えば、訓練等を行う場所への移動時間や手間を考えると、オンラインで訓練等が実施できれば、その移動時間や手間は軽減できる。特に、全盲のため一人では移動が難しい者にとっては、メリットが高い。また、基礎的なICTスキルを持つ者であれば、特定のソフトの使い方を教わることはオンラインでも十分に可能と思われる。実際にパソコンサポート団体では、オンラインで特定のソフトに関する講習会を実施している所もある。  あはき師として仕事を行う以上、仕事以外の時間は限られているだろう。そのため、ICT訓練等は、オンラインを活用する等、働く視覚障害あはき師のニーズに合わせた柔軟な方法が求められている。 122ページ 2 訓練機関等に対する調査 1.回答者について (1)回答者の事業内容 【図6−2−01 事業内容(複数回答)】 @障害福祉サービスの実施機関 52団体 A職業能力開発訓練事業の実施機関 9団体 B情報提供施設 72団体 C視覚障害当事者団体 45団体 Dパソコンサポート団体 9団体 Eその他 24団体  訓練機関等向けの書面調査は、視覚障害者向けにICT訓練等を実施していると思われる各種機関に依頼を行った。その結果、145団体より回答が集まった。  まず、回答者の事業内容については、複数の事業を実施している可能性があるため、複数回答で回答を求めた。その結果、情報提供施設が72団体、障害福祉サービスの実施機関が52団体、視覚障害当事者団体が45団体、職業能力開発訓練事業の実施機関は9団体、パソコンサポート団体は9団体との結果になった。  視覚障害者向けのICT訓練等は、実際には様々な方法で実施されている。例えば、障害福祉サービスの中だけでも、自立訓練(機能訓練)、自立訓練(生活訓練)、就労移行支援等で実施している。また、地域の自治体予算で実施しているもの、月1回程度の講習会形式で開催するもの、ボランティアが自宅に訪問し実施するもの等、様々な方法が確認できている。  そのため、本調査では、これらの事業内容を実施している団体単位で各調査結果を分析することにした。どのような団体が、どのようなICT訓練等を実施しているのかを、詳しく分類することは今後検討すべき課題とする。 (2)視覚障害者向けに実施している訓練等の内容 【図6−2−02 視覚障害者向けに実施している訓練や支援(複数回答)】 @歩行訓練 41.4% AICT訓練、ICT技術習得のための支援 62.1% B日常生活に関わる訓練や支援 41.4% Cロービジョンに関する訓練や支援 33.1% Dその他 36.6% E実施していない 17.2%  視覚障害者向けに実施している訓練等の内容を確認したところ、17.2%の団体は視覚障害者向けに訓練等を実施していなかった。今回の書面調査では、障害者職業能力開発校や障害者ITサポートセンターといった、障害者全般に幅広く支援を行っている機関にも調査を依頼した。この中には、視覚障害者の支援を行っていない団体も含まれていたようだ。なお、この分を差し引いた83.8%(120団体)は、視覚障害者向けの訓練や支援を行っていることになる。  そして、ICT訓練等の実施率は全体で62.0%となった。これは、ICT訓練等を実施していると思われる機関等に依頼をしたことから、他の訓練等よりも若干高い結果になったと考えられる。ただし、各事業内容別でも60%前後の実施率があったことから、全国の様々な訓練機関等では、ICT訓練等が実施されていることがうかがえる。  なお、パソコンサポート団体については、ICT訓練等の実施率が44.4%と低い結果となっている。地域に点在するパソコンサポート団体は、視覚障害者へのパソコン指導等を手広く行っていて、地域で重要な役割を担っていると考えられている。しかし、今回の書面調査では、これらの機関の回答数が少ないことから、この実施率が正しいとは言い切れない部分がある。そのため、このような点は、パソコンサポート団体へのヒアリング調査で確認を行った。 (3)訓練等の実施方法 【図6−2−03 視覚障害者向けに実施している訓練や支援の実施方法(複数回答)】 @入所する 15.0% A通所する 60.8% B希望者の自宅に訪問する 52.5% C特定の場所に集まって実施する 36.7% D電話やオンライン等で実施する 50.0% Eその他 11.7%  どのような方法で訓練や支援を実施しているかを確認したところ、全体では「通所する」が60.8%、「希望者の自宅に訪問する」が52.5%、「特定の場所に集まって実施する」が36.7%、「入所する」が15.0%との結果になった。  ただし、それぞれの実施方法は、事業内容によって大きく異なるものもある。例えば、障害福祉サービスの実施機関であれば、「入所する」が27.1%になり、その中で自立訓練(機能訓練)は47.4%となっている。一方で、実施率が高かった「通所する」と「希望者の自宅に訪問する」は、事業内容別でもほぼ同率だった。そのため、この通所と訪問は、現在のICT訓練等の実施方法として平均的な方法になるのかもしれない。  なお、「電話やオンライン等で実施する」が50.0%と高かったが、これは電話による相談が主のようで、オンラインでの訓練等を実施している所は少ないと思われる。ただし、オンラインでの訓練等は、実施している訓練機関等もあり、この書面調査だけでは実態が分からなかった。 (4)訓練等の希望者との繋がり方 【図6−2−04 訓練や支援の希望者との繋がり方(複数回答)】 @役所からの紹介 57.5% A医療機関からの紹介 56.7% B視覚障害当事者からの紹介 81.7% C視覚障害の関係機関からの紹介 79.2% D相談支援事業所からの紹介 52.5% Eその他 29.2%  訓練等の希望者との繋がり方を確認したところ、「視覚障害当事者からの紹介」が81.7%、当事者団体や情報提供施設等の「視覚障害の関係機関からの紹介」が79.2%となっていた。なお、この結果も事業内容によって差はあるものの、「視覚障害当事者からの紹介」と「視覚障害の関係機関からの紹介」はどれも同数に近かった。  ここで着目したいのが「口コミ(くちこみ)による紹介」である。視覚障害あはき師へのヒアリング、訓練機関等へのヒアリングでも、最も多い繋がり方は「口コミ」で、ある者は一番効果的な方法だと説明していた。なぜなら、実際にICT訓練等を受けた視覚障害者が、自身の生活や仕事で役立った経験等を口頭で伝えると、それを知らなかった他の視覚障害者には魅力的に感じ、自身も「挑戦しよう」という意欲が湧くことが多いからである。また、視覚障害者自身が様々な情報を得にくいことを踏まえると、同じ視覚障害者の経験談は大変価値のある情報となる。その意味では、ICT機関等への繋がり方が、このような結果になったことは十分に理解できる。  しかし、視覚障害あはき師への書面調査では、「ICT訓練等を知らなかった」と回答した者が33.7%もいた。もしかすると、このような者は、視覚障害者の口コミの輪に入れなったのかもしれない。このような輪に入れない視覚障害者もいるため、ICT訓練等に確実に繋がる方法も必要である。 2.視覚障害者向けICT訓練等の実施機関について (1)ICTに関する訓練等の実施内容 【図6−2−05 ICTに関する訓練や支援の実施内容(複数回答)】 @パソコン等の基本操作 94.4% A画面読み上げソフトや拡大ソフトの操作方法 91.1% Bインターネットの操作方法 88.9% Cメールの操作方法 86.7% D文書作成の操作方法 72.2% E表計算の操作方法 54.4% Fあはき業で活用する事務処理の方法 14.4% Gその他 21.1%  次に、視覚障害者向けのICT訓練等を実施している訓練機関等(120団体)に対して、詳細な実施状況の確認を行った。  まず、ICT訓練等の実施内容を確認した。これは、具体的にどのような操作を教えているのかを確認するもので、パソコン等の基本操作から表計算の操作方法まで、パソコンに関する操作の難易度を意識した質問を行った。その結果、初歩的な操作方法はどの機関も教えているが、Wordでの文章作成やExcelでの表計算になると実施率が落ちることが分かった。  なお、検討委員からは、「このようなパソコンの操作方法は、どこまでが視覚障害者が必ず覚える必要がある初歩の操作なのかが分りづらい」との指摘があった。この書面調査の結果に従うと、「パソコン等の基本操作」「画面読み上げソフトや拡大ソフトの操作方法」「インターネットの操作方法」「メールの操作方法」が初歩の操作になるのかもしれない。  さらに、この設問では「あはき業で活用する事務処理の方法」も確認したが、実施率は14.4%と極めて低かった。視覚障害あはき師に近いと思われる視覚障害者当事者団体でも実施率が低いことから、現時点では、視覚障害あはき師に特化したICT訓練等はあまり実施されていないことが分かった。 (2)ICTに関する訓練等の課題 【図6−2−06 ICTに関する訓練や支援の課題(複数回答)】 @人員が不足している 67.8% A教材が少ない 35.6% B移動が負担になっている 26.7% C訓練や支援を希望する者が少ない 21.1% Dニーズに合った対応ができない 18.9% E訓練や支援の時間が短い 16.7% Fその他 24.4%  実際の訓練等を行う上での課題を確認したところ、「人員が不足している」を回答した団体が67.8%で最も多かった。この人員不足は、事業内容別で確認してもほぼ同じような比率だったことから、ICT訓練等を実施している機関の共通の課題となっていることがうかがえる。  ただ、これらの訓練機関等には、別の設問で利用者のニーズに応えられた訓練や支援が実施できているのかを確認したところ、63.3%の団体が「実施できている」と回答している。さらに、別の設問では、この訓練や支援をさらに充実させたいかと確認したところ、92.2%の団体が「充実させたい」と回答している。これらの団体は、ICT訓練等への意欲も高く、訓練等を希望する視覚障害者からのニーズに対応できているのに、なぜ「人員が不足している」ことを課題に挙げたのか。この課題の背景には、ICT訓練等を教える「講師の不足」がポイントになる。パソコンサポート団体へのヒアリングを行った際、「視覚障害者にパソコン等の操作を教える講師は、様々な知識やノウハウが必要になるため、この講師を育てることが難しい」との指摘があった。実際には、少ない講師の数を上手く調整しながら、訓練等を行っている訓練機関等が多い。つまり、視覚障害者向けのICT訓練等を普及させるためには、実際に視覚障害者へICTスキルを教える講師の育成も必須であることが分かった。 3.視覚障害者向けICT訓練等の未実施機関について (1)ICTに関する訓練や支援の実施内容 【図6−2−07 ICTに関する訓練や支援を実施しない理由(複数回答)】 @人材がいない 50.9% A設備・備品がない 49.1% Bノウハウがない 45.5% C予算がない 45.5% D場所がない 20.0% E当事者のニーズがない 10.9% Fその他 23.6%  次に、視覚障害者向けのICT訓練等を実施していない訓練機関等(45団体)に対して、実施していない理由等を確認した。  まず、実施していない理由は、「人材がいない」と回答した団体が50.9%、「設備・備品がない」が49.1%、「ノウハウがない」が45.5%、「予算がない」が45.5%となっていた。また、これらの要素は、視覚障害者へのICT訓練等を行うために必要な要素としても挙げられていた。  回答した45団体は、様々な障害者への支援を行っているが、視覚障害者への支援は実施していない機関等が中心になる。そのため、視覚障害者の特性に見合った確実な支援が実施できないことが、回答に表れている。  なお、もしこれらの要件が揃った場合、視覚障害者向けのICT訓練等を実施してもよいかと確認したところ、36.4%の団体が「実施してもよい」と回答している。視覚障害者への支援を行える機関が少ない中で、この回答は貴重な回答だ。そのため、これらの機関等が視覚障害者の支援を行うためには、人材の確保に加え、支援方法の整理が必要だと思われる。そして、明確な支援方法があれば、設備・備品とノウハウが確保できるのではないだろうか。 4.視覚障害あはき師への訓練や支援について (1)視覚障害あはき師からの相談(書類作成) 【図6−2−08 視覚障害あはき師から、書類作成等のためにICTに関する訓練や支援を求められたことがあるか(ICT訓練等の実施有無別)】 A 全体 @ある 26.9% Aない 64.1% B ICT訓練等あり @ある 37.8% Aない 56.7% C ICT訓練等なし @ある 9.1% Aない 76.4%  次に、視覚障害あはき師への訓練等に関する質問を行った。まず、実際に視覚障害あはき師から書類作成のためにICT訓練等の相談があったかを確認したところ、全体では26.9%の団体が「ある」と回答した。さらに、ICT訓練等を実施している団体のみで確認したところ、37.8%の団体が「ある」と回答した。やはり、視覚障害あはき師は書類作成に困っており、ICT訓練等で書類の作成方法を獲得することを期待していた。  しかし、実際に訓練機関等に確認すると、様々な実態があることが分かった。ヒアリング調査では、パソコンサポート団体より、「視覚障害あはき師としてではなく、いち視覚障害者として受講する者が多いことから、視覚障害あはき師からの本当のニーズを掴み切れていない」との指摘があった。一方で、視覚障害あはき師の中でも、個人開業の者と企業等に勤める者では、ICT訓練等に求める内容が若干異なる。  そのため、今後、視覚障害あはき師へのICT訓練等を進めるためには、具体的なニーズの整理を行い、そのニーズに見合った訓練体制を確立することが必要となっている。 (2)視覚障害あはき師への訓練等の実施 【図6−2−09 あはきの療養費に関する書類の作成方法に関する訓練や支援は対応できるか(ICT訓練等の実施有無別)】 A 全体 @今すぐ対応可能 6.9% Aノウハウがあれば対応可能 27.6% B対応は難しい 49.0% C分からない 13.1% B ICT訓練等あり @今すぐ対応可能 10.0% Aノウハウがあれば対応可能 36.7% B対応は難しい 38.9% C分からない 11.1% C ICT訓練等なし @今すぐ対応可能 1.8% Aノウハウがあれば対応可能 12.7% B対応は難しい 65.5% C分からない 16.4%  視覚障害あはき師への訓練等に関する設問では、実際にICT訓練等が実施できるかどうかを確認した。その結果、合計34.5%の団体が「今すぐ対応可能」と「ノウハウがあれば対応可能」と回答した。  特に、実施可能とした団体の多くは「ノウハウ」を求めていた。書面調査の自由記述を確認すると、書類の具体的な作成方法やあはきにおける書類作成のルール等が分かれば対応できる旨の意見が目立っていた。つまり、あはきに関する書類作成のICT訓練等を実施するのであれば、具体的な訓練方法等の整理が必要になる。  しかし、全体で49.0%の団体が「対応が難しい」とも回答している。自由記述を確認すると、これまでの調査結果でも明らかになった人材不足が理由であったり、障害福祉サービスで実施する訓練機関等からは経済活動が伴う行為は教えられない旨が理由として挙げられていた。また、あはきに関する書類作成が正確性を求められる中で、ICT訓練等の訓練機関等がどこまで正確性を担保した対応ができるかを不安に感じている旨も確認できた。  視覚障害あはき師に特化したICT訓練を実施するためには、ノウハウの整理に加え、様々な課題整理も必要なのかもしれない。 5.その他  訓練機関等に対する調査は、書面調査を中心に実施し、書面調査では分からなかった内容はヒアリング調査で補足を行った。ここでは、ヒアリング調査の結果を中心に、これまでの考察・分析において記載できなかった調査結果を紹介する。 (1)視覚障害者のICTスキル  視覚障害者のICTスキルは、改めて個々人により大きく異なることが分かった。  ヒアリング調査を行った自立訓練(機能訓練)の実施機関とパソコンボランティア団体からは、「訓練等を開始した時点で、既にパソコンの基本操作を知っている等、それなりにICTスキルを持っている者が多い」との指摘があった。確かに、中途の視覚障害者であれば、視覚障害になる前にパソコンは利用していただろう。つまり、一定の視覚障害者は、ICTを活用するためのスタートラインに既に立っていることが多いことが分かった。  一方で、高齢の視覚障害者を中心に、基本的なICTスキルがないため、ICTを活用するためのスタートラインに立てない者が多いのも事実である。それこそ、携帯電話(フィーチャーフォン)が操作できない者もまだまだ多い。ヒアリングでは、このような者がICTスキルを身に付けるために、「地域レベルでの手厚い訓練等が必要」との指摘があった。 (2)視覚障害者への適切な実施方法  ヒアリングを行った両機関には、ICT訓練等の詳しい実施方法を確認した。その結果、両機関とも「訓練等を受ける視覚障害者の見え方・ニーズ等に合わせてマンツーマンに近い形で実施すること」を重要視していた。  まず、訓練等を希望する視覚障害者は、様々な見え方や年齢等によって主とする行動が異なる。それこそ、弱視であれば、画面を拡大してその者が見やすい状態でパソコン操作を行う。全盲であれば、画面読み上げソフトを用いて音声で確認しながらパソコン操作を行う。また、(1)で示した通り、訓練等の開始時点でのICTスキルは異なる。そのため、訓練等を求めるパソコン操作は、基本操作を学びたい者もいれば、仕事に特化した高度な内容を学びたい者もいて、その視覚障害者によって訓練等に求める内容が大きく異なっている。  そのため、両機関では訓練等の開始前に利用者にアセスメントを行い、実施する訓練等の内容を整理していた。その上で、ほぼマンツーマンに近い形で訓練等を行い、訓練等の進み具合によっては教える内容を柔軟に変更していた。  視覚障害者へのICT訓練等は、常に視覚障害者のニーズに寄り添いながら、実施することが大切であることが分かった。 (3)対面でのICT訓練等の重要性  ヒアリングを行った両機関は、教室等で利用者と向かい合いながら訓練等を行っており、この対面での訓練等のメリットを多く例示していた。例えば、訓練等を行いながら訓練を受ける者の希望内容を詳しく引き出していたり、一緒に訓練等を受けている別の者の訓練内容に刺激を受け、次の訓練に意欲的に取り組むことがある等、対面での訓練等は様々な効果がある。  特に、高齢の視覚障害者になるほど、基礎的なICTスキルがないことから、手取り足取りの丁寧な訓練等が必要になる。また、多くの視覚障害者は訓練等を受ける場所への移動が難しいことから、地域レベルでの柔軟な訓練等が必要だろう。 (4)オンラインでのICT訓練の可能性  視覚障害あはき師からは、オンラインでのICT訓練等を求める声があったが、訓練機関等からも同様の意見を確認することができた。  ヒアリングを行った両機関とも、新型コロナウイルスの感染拡大以降、対面での訓練等が難しくなったことから、必然的にオンラインでの訓練等を実施したところ、一定の効果があり、今後も実施していく旨の意見があった。確かに、人材不足が運営上の課題となる訓練機関等にとって、オンラインを活用することで移動時間がかからないことは、大きなメリットになるだろう。また、視覚障害当事者からニーズの高い、訓練後に発生した困り事への支援も、オンラインでの訓練等ができればニーズに応えることができるかもしれない。  しかし、オンラインでのICT訓練等を行うことは、まだまだ課題が多い。例えば障害福祉サービスでは報酬の対象になっていないことから、現状では実施が難しい。また、完全にオンラインに切り替えてしまうと、ICTスキルを一切持っていない視覚障害者が訓練等を受けることができなくなってしまう。今後は、これらの課題を解決しながら、ICT訓練等でのオンライン活用を進めていくべきだろう。 133ページ 3 あはき師養成機関に対する調査 1.あはき師養成課程の生徒への指導について (1)ICT関連の指導の実施状況 【図6−3−01 ICT関連の指導を実施しているか、あはきの業務で必要となる書類をパソコン等で作成する指導を実施しているか】 A ICT関連の指導 @実施している 88.5% A実施していない 11.5% B あはきの業務で必要となる書類をパソコン等で作成する指導 @実施している 67.3% A実施していない 32.7%  視覚障害あはき師への書面調査では、ICT訓練等を受けた時期を確認しており、その中で「あはき業に就労前」が36.4%との結果が示された。そのため、あはき業に就労前のICT訓練等を確認する必要があり、視覚障害者向けのあはき師養成機関に対する調査を実施した。調査は書面で実施し、あはき師の養成課程のある全国の盲学校(視覚特別支援学校)、あはき師養成の専門校に対して依頼を行い、52団体より回答があった。  まず、書面調査では養成課程の生徒向けにICT関連の指導を行っているかを確認したところ、88.5%の団体が指導を実施していた。また、あはきの業務で必要となる書類をパソコン等で作成する指導を行っているかを確認したところ、67.3%の団体が実施していた。  今やパソコン操作は日常生活や就労に欠かせないことから、これらの養成機関でも指導を行っていることが分かった。つまり、視覚障害あはき師がICTを活用するためのスタートラインに立つための訓練等を、あはき師養成機関も担っていることが示された。 (2)あはきの業務で必要となる書類の指導科目・作成内容 【図6−3−02 はきの業務で必要となる書類をパソコン等で作成する指導において、指導している書類名(複数回答)(自由記述を整理)】 @カルテ 88.2% A業務関連の書類 20.6% B学内のレポート作成 17.6% C広告等の宣伝材料 11.8% Dその他(履歴書等) 5.9%  前ページで「あはきの業務で必要となる書類をパソコン等で作成する指導を実施している」と回答した35団体には、追加でどのような方法で指導を行っているかを確認した。  まず、指導科目では「情報処理関連」が77.1%と多く、次に「臨床実習関連」が37.1%、「その他(社会科学概論、自立活動、医療情報、総合演習等)」が34.3%だった。  さらに、作成する書類の内容を確認したところ、「カルテ」が88.2%と最も多く、「業務関連の書類」「学内のレポート作成」「広告等の宣伝材料」が10〜20%の比率となっていた。  前ページで示した結果では、ICT関連の指導は、あはきの業務に関する内容になると実施率が下がっている。また、作成する書類の内容は「カルテ」が多く、療養費等の書類が該当すると思われる「業務関連の書類」の実施率は低かった。この限りでは、あはき業におけるICT活用の入り口まではしっかりと指導はできるが、業務に活用できる具体的な内容までの指導は難しいとの結果になる。  なお、「カルテ」の実施率が高いのは、ヘルスキーパー等として企業等に勤めると、カルテの入力をパソコンで行うことが多い点が影響しているようだ。近年の養成課程の卒業生は、企業等に就職することが増えているため、養成機関側でも指導内容に変化があったのかもしれない。 2.あはき師養成課程の卒業生について (1)パソコン等を用いた書類作成の訓練等の可能性 【図6−3−03 パソコン等を用いた書類作成に関する相談を受けた場合、入力方法等の指導や支援等を行うことは可能か】 @対応可能 36.5% Aノウハウがあれば対応可能 44.2% B対応は難しい 17.3% C無回答 1.9%  あはき師の養成機関には、卒業生からのICT関連の相談についても確認している。これは、視覚障害あはき師がICT訓練等を受けた時期を「就労後」と回答した者が62.1%だったことを踏まえ、「就労後に困ったことがあった場合、自身が卒業した養成機関に頼る可能性があるのではないか」と仮定したことからこの設問を設定した。  まず、あはき業の業務において必要となる書類作成に対応するため、ICT関連の訓練等の相談を受けたことはあるかどうかを確認したところ、32.2%の団体が「ある」と回答した。約3割の卒業生が相談を行っていることを踏まえると、多くの視覚障害あはき師が書類作成に困っていること、自分に身近な存在に頼る傾向があることを示すことができた。  さらに、このような相談を受けて、実際に訓練等ができるかどうかを確認したところ、「対応可能」は36.5%、「ノウハウがあれば対応可能」は44.2%となっていた。つまり、約8割の養成機関は、困っている視覚障害あはき師へのICT関連の訓練等が実施できることが分かった。視覚障害者へのICT訓練等を行う機関が少ない中、このような養成機関が対応できることは非常に価値がある。 3.視覚障害者全体について (1)ICT関連の訓練等の課題 【図6−3−04 ICT関連の指導や支援等を行う上で、難しい点や課題はあるか(複数回答)(自由記述を整理)】 @生徒のスキルの差 44.2% A時間がない 23.1% B教員の指導力不足 23.1% C設備が揃わない 17.3% D指導方法が未確立 13.5% E書類自体が難しい 9.6% Fその他(予算不足等) 13.5%  1−(1)では、88.5%の団体がICT関連の指導を実施していることが分かった。では、この指導についての課題はあるのだろうか。ここでは、視覚障害者全体として確認を行った。  その結果、44.2%の団体が「生徒のスキルの差」と回答した。この回答は、指導を受ける者によって見え方の違いやICTスキルに差があることが理由となっている。この差があることで、指導を受ける者それぞれで指導方法が異なり、画一的な指導はできない。特に、ある程度の人数を集団で指導しているため、ICTスキルに差があると、授業の進め方に遅れが生じる可能性がある。これらの養成機関はカリキュラムに沿って集団指導を行っているため、ICT関連の訓練機関等が実施しているようなマンツーマンの訓練等は難しいようだ。  また、各養成機関とも「時間がない」「教員の指導力不足」「設備が揃わない」「指導方法が未確立」と回答している。この背景には、現在の養成機関がICT関連の指導を行うことを前提にしたカリキュラムを組んでいないことが影響している。そのため、これらの課題が解決されておらず、ICT関連の指導が進まない要因にもなっている。どうやら、視覚障害者向けのあはき養成機関で、ICT関連の指導や訓練等を行うためには、カリキュラム自体の改正が、まずは必要なのかもしれない。