61ページ 第4章 調査A 訓練機関等に対する調査 62ページ 1−1 書面調査 調査概要 1.調査目的  視覚障害者に対する訓練や支援を実施する機関等に対して、実施状況やICT訓練等に対するニーズの把握を行うために実施した。 2.調査対象  視覚障害者に対する訓練や支援を実施する機関等 350団体 3.調査方法  ・調査票の配布によるアンケート調査。  ・依頼先は、地域性と対象機関の事業内容等を整理し、検討委員会で選定を行った対象に配布を行った。  ・調査票は160ページの墨字版の他に、希望者にはテキスト版を配布した。調査対象者は回答しやすい方法を選択し、郵送またはメール送信で回答を提出した。  ・あはきの業務において使用する書類を知らない回答者がい ることを想定し、162ページの療養費支給申請書を参考資料として添付した。 4.調査期間  令和2年11月10日〜11月30日 5.回収率  41.4%(145団体/350団体) 6.回答の傾向  ・全国から人口比に応じた回答が得られた。  ・調査対象において、パソコンサポート団体からの回答は想定数より少なかった。 7.調査結果の掲載方法  ・一部の調査結果は、調査票とは異なる順番で掲載する。また、設問名と選択肢の一部は改題を行った上で掲載している。  ・一部の調査結果には、「第6章 考察・分析」で用いたクロス集計の結果を掲載する。 63ページ 1−2 書面調査 調査結果 1.回答者に関する質問 (1)事業内容(複数回答) @障害福祉サービスの実施機関 52団体 35.9% A職業能力開発訓練事業の実施機関 9団体 6.2% B情報提供施設 72団体 49.7% C視覚障害当事者団体 45団体 31.0% Dパソコンサポート団体 9団体 6.2% Eその他【※1】 24団体 16.6% F無回答 0団体 0.0% 全体 145団体 100.0% 【※1】盲導犬育成事業の実施機関、自治体委託事業の実施機関 等 (2)視覚障害者向けに実施している訓練や支援の内容(複数回答) @歩行訓練 60団体 41.4% AICT訓練、ICT技術習得のための支援 90団体 62.1% B日常生活に関わる訓練や支援 60団体 41.4% Cロービジョンに関する訓練や支援 48団体 33.1% Dその他【※1】 53団体 36.6% E実施していない 25団体 17.2% F無回答 0団体 0.0% 全体 145団体 100.0% 【※1】点字の訓練や指導、読書に関する訓練や支援 等 (3)視覚障害者向けに実施している訓練や支援の実施方法(複数回答)【対象:1−(2) 選択肢@〜Dを選択した回答者 120団体】 @入所する 18団体 15.0% A通所する 73団体 60.8% B希望者の自宅に訪問する 63団体 52.5% C特定の場所に集まって実施する 44団体 36.7% D電話やオンライン等で実施する 60団体 50.0% Eその他【※1】 14団体 11.7% F無回答 1団体 0.8% 全体 120団体 100.0% 【※1】メールでの相談対応、講師の派遣 等 (4)訓練や支援の希望者との繋がり方(複数回答)【対象:1−(2) 選択肢@〜Dを選択した回答者 120団体】 @役所からの紹介 69団体 57.5% A医療機関からの紹介 68団体 56.7% B視覚障害当事者からの紹介 98団体 81.7% C視覚障害の関係機関からの紹介 95団体 79.2% D相談支援事業所からの紹介 63団体 52.5% Eその他【※1】 35団体 29.2% F無回答 1団体  0.8% 全体 120団体 100.0% 【※1】本人から直接申し込み、教育機関、ハローワーク 等 2.「視覚障害者向けICT訓練等の実施機関」への質問【対象:1−(2) 選択肢Aを選択した回答者 90団体】 (1)ICTに関する訓練や支援の実施内容(複数回答) @パソコン等の基本操作 85団体 94.4% A画面読み上げソフトや拡大ソフトの操作方法 82団体 91.1% Bインターネットの操作方法 80団体 88.9% Cメールの操作方法 78団体 86.7% D文書作成の操作方法 65団体 72.2% E表計算の操作方法 49団体 54.4% Fあはき業で活用する事務処理の方法 13団体 14.4% Gその他【※1】 19団体 21.1% H無回答 1団体1.1% 全体 90団体 100.0% 【※1】点字ディスプレイの操作方法、プレゼンテーションソフトの操作方法、オンライン会議用ソフトの操作方法 等 (2)受講生のニーズに見合った訓練や支援が実施できているか @実施できている 57団体 63.3% A実施できていない 11団体 12.2% B分からない 21団体 23.3% C無回答 1団体 1.1% 全体 90団体 100.0% (3)ICTに関する訓練や支援の課題(複数回答) @人員が不足している 61団体 67.8% A教材が少ない 32団体 35.6% B移動が負担になっている 24団体 26.7% C訓練や支援を希望する者が少ない 19団体 21.1% Dニーズに合った対応ができない 17団体 18.9% E訓練や支援の時間が短い 15団体 16.7% Fその他【※1】 22団体 24.4% G無回答 3団体 3.3% 全体 90団体 100.0% 【※1】機材購入の予算不足、自治体からの予算不足、支援者の技能不足 等 (4)ICTに関する訓練や支援をさらに充実させたいか @充実させたい 83団体 92.2% A充実させたくない 0団体 0.0% B分からない 5団体 5.6% C無回答 2団体 2.2% 全体 90団体 100.0% 3.「視覚障害者向けICT訓練等の未実施機関」への質問【対象:1−(2) 選択肢Aを選択しなかった回答者 55団体】 (1)ICTに関する訓練や支援を実施しない理由(複数回答) @人材がいない 28団体 50.9% A設備・備品がない 27団体 49.1% Bノウハウがない 25団体 45.5% C予算がない 25団体 45.5% D場所がない 11団体 20.0% E当事者のニーズがない 6団体 10.9% Fその他【※1】 13団体 23.6% G無回答 9団体 16.4% 全体 55団体 100.0% 【※1】業務内容に含まれていない、近隣の他の団体が実施している 等 (2)ICTに関する訓練や支援を実施するために必要な要素(複数回答) @人材を整える 37団体 67.3% A設備・備品を整える 36団体 65.5% Bノウハウを整える 34団体 61.8% C予算を確保する 34団体 61.8% D場所を確保する 15団体 27.3% E当事者ニーズを顕在化させる 15団体 27.3% Fその他【※1】 3団体 5.5% G無回答 12団体 21.8% 全体 55団体 100.0% 【※1】施設の方針変更 等 (3)ICTに関する訓練や支援を実施するために必要な要素が揃えば、訓練や支援を実施するか @実施してもよい 20団体 36.4% A実施しない 5団体 9.1% B分からない 19団体 34.5% C無回答 11団体 20.0% 全体 55団体 100.0% 4.視覚障害あはき師への訓練や支援に関する質問 (1)視覚障害あはき師から、書類作成等のためにICTに関する訓練や支援を求められたことがあるか @ある 39団体 26.9% Aない 93団体 64.1% B分からない 8団体 5.5% C無回答 5団体 3.4% 全体 145団体 100.0% (2)あはきの療養費に関する書類の作成方法に関する訓練や支援は対応できるか @今すぐ対応可能 10団体 6.9% Aノウハウがあれば対応可能 40団体 27.6% B対応は難しい 71団体 49.0% C分からない 19団体 13.1% D無回答 5団体 3.4% 全体 145団体 100.0% 【主な回答理由】 A ICT訓練等の実施機関 90団体 @今すぐ対応可能 ・Excelであれば、既に訓練を実施しているので対応可能。 ・利用者が求めるのであれば、それに応えるのは視覚リハの理念だと思う。 Aノウハウがあれば対応可能 ・書類の書式や詳しい仕組みが分かれば、今の講師でも教えることはできる。 ・あはき業のことを詳しく理解できれば、対応ができそう。 B対応は難しい ・初歩的なICT訓練のみしか実施していないため難しい。 ・専門的な書類の作成方法を教えられる講師がいない。 ・経済活動が伴う行為は教えることができない。 C分からない ・視覚障害当事者からのニーズが分からないため判断ができない。 B ICT訓練等の未実施機関 55団体 @今すぐ対応可能 ・回答無し Aノウハウがあれば対応可能 ・回答無し B対応は難しい ・視覚障害者向けのICT訓練に対応できる講師がいない。 ・現在の事業が多忙なため、この事業のために人材等が用意できない。 ・専門的な書類の作成の訓練となると、実際に確実な書類が作れるかどうかは、担保できない。本人のスキルの差に大きく影響すると思われる。 C分からない ・視覚障害当事者からのニーズが分からないため判断ができない。 5.アンケートに寄せられた主な意見(自由記述を整理) (1)視覚障害の利用者に関する意見  @訓練内容の課題  ・視覚障害者に言葉だけで訓練内容を伝えることは難しい。 その結果、訓練生がなかなか訓練内容を理解してくれない。  ・高齢の視覚障害者は、しっかりと覚えるまで時間がかかる 者が多い。  ・個別訓練になることが多く、当施設にとっては負担になっ ている。  ・ユーザーそれぞれでパソコンの設定が異なるため、教える たびに設定を変えないといけない。  A当事者ニーズの課題  ・当事者ニーズが顕在化されていないため、事業として実施 してよいのかどうか分からない。 (2)訓練機関等に関する意見  @人材関連の課題  ・ICTの領域は変化のスピードが早いので、小規模な団体では対応できる講師が揃えられない。  ・対応できるボランティアが高齢化していて、今のままでは対応は難しい。  A設備の課題  ・公共交通機関が乏しい所に施設があるため、視覚障害者が移動できない。  ・予算がないため、パソコンや専用ソフト等の設備を揃えることが難しい。  B運営の課題  ・主たる事業で手いっぱいのため、新しいことに取り組む余裕がない。  ・土日や夜に訓練を行ってほしいと言う要望があるが、こちらの施設では対応できない。 (3)新型コロナウイルスに関する意見  @人材関連の課題  ・コロナ以降、高齢のボランティアからの協力は得られにくくなった。感染の不安から外に出ることを控えているのが原因のようだ。  A設備の課題  ・研修会等を開催する際、会場の人数制限があり、多数の受講者を集めるのが困難になった。また、広い会場は少なく、会場確保が難しい。  ・オンラインでの訓練や支援を行うために、必要な機材、ノウハウ、人材の準備に対して補助がない。  B訓練方法の課題  ・視覚障害者の横について実技指導をすることがあり、指導方法に苦慮している。  ・視覚障害者への訓練はどうしても密接を伴う。そのため、オンライン授業が活用できないかを検討している。  ・職業訓練の一環で、企業見学や職場実習ができなくなっている。訓練生の就職活動が遅れないか心配している。 82ページ 2−1 ヒアリング調査 調査概要 1.調査目的  書面調査での調査結果の一部が不明確な調査対象に対して、その詳細等を確認するため、ヒアリング調査を実施した。 2.調査対象 (1)障害福祉サービスの実施機関 (2)パソコンサポート団体 3.調査方法  ・調査員からの口頭でのヒアリング。   4.調査日、実施方法 (1)障害福祉サービスの実施機関   日時 令和3年2月23日   実施方法 会議室において対面方式で実施 (2)パソコンサポート団体   日時 令和3年3月23日   実施方法 オンライン上で実施 5.調査結果の掲載方法  対象者への調査を実施する理由を整理した上で、ヒアリング内容と回答を整理し、項目ごとに掲載する。 83ページ 2−2 ヒアリング調査(障害福祉サービス) 結果 1.調査の実施理由  全国で視覚障害者向けの訓練や支援を実施している機関等を対象にした書面調査の結果、様々な回答が寄せられ、視覚障害者へのICTに関する訓練や支援は、実施内容や訓練頻度、方法等に違いが生じていることが分かった。  その中で、障害福祉サービスの実施機関は、視覚障害者向けのICT訓練等を比較的安定した形で実施しているICT訓練機関等の一つであることが分かった。検討委員会の委員からは、「障害福祉サービスは国の給付制度に基づくものであることから、利用者が安定的に訓練等を受けるために存在する」との指摘があった。実際の回答を見ると、ICT訓練等の実施率は比較的高く、安定的に実施していることが読み取れた。また、自由記述を見ると、視覚障害リハビリテーションの考えに基づいて事業を実施している機関では、ICT訓練等に対して積極的で、視覚障害あはき師への訓練等についても前向きな姿勢が読み取れた。  しかし、書面調査であったため、障害福祉サービスの実施機関が、具体的にどのような訓練や支援を行っているのかは分からなかった。また、訓練や支援を行う上で課題となっている内容の詳細までは、書面調査では判明していない。  そのため、これらを明らかにするために、視覚障害者に対するICT訓練を実施している障害福祉サービスの実施機関に対して、ヒアリング調査を行った。 2.調査対象者 (1)D団体  所在地:埼玉県  事業内容:自立訓練(機能訓練)の実施機関  備考:その他に自立訓練(生活訓練)、就労移行支援、就労移行支援(養成施設)等を併設している多機能型施設である。 3.ヒアリング内容と回答 (1)自立訓練(機能訓練)の実施内容 @概要 ・訓練を希望する視覚障害者の持てる力を最大限に生かし、より充実した生活を送れるようにすることを目的に訓練を実施している。 ・ICT訓練の他に、歩行訓練、日常生活訓練、点字訓練、ロービジョン訓練等を実施している。 A実施方法 ・主に入所と通所で訓練を行っている。入所施設も完備している。 ・利用者にアセスメントを行った上で支援計画書を作り、その利用者に合った訓練を実施している。 ・近隣への訪問訓練も行っているが、令和2年度は新型コロナウイルスの影響で実施できなかった。 B訓練を受ける視覚障害者 ・中途の視覚障害者が多く、平均年齢は50歳前後となる。ただし、年齢層は幅広く、近年の実績では10代〜80代の視覚障害者が利用している。 ・全盲と弱視の割合は半々になっている。 ・平均利用期間は約5.4か月になる。 C繋がり方 ・利用者からの口コミ、病院からの紹介が多い。 (2)ICT訓練の実施内容 @概要 ・利用者の希望に沿った内容で訓練を実施している。 ・専用の部屋を用意し、ほぼマンツーマンに近い形で訓練を実施している。 ・講師は、非常勤のICT専門の担当者2名が対応している。 A指導内容 ・利用者から希望があるものは全て対応するようにしている。初歩的な内容から上級者向けの内容まで対応している。 ・初歩は文字入力で、これを覚えてから希望に沿った訓練を実施することが多い。進度によっては、希望があればホームページの作り方等を教えている。 ・利用者の様子を見ながら、講師から他の課題を提案することもある。 B設備 ・利用者の要望に応えるため、パソコン、タブレット、スマートフォン、各種ソフトを用意している。 ・ICT専用の部屋があるので、利用者が来ればすぐに訓練が実施できる。 C人材 ・講師の数は揃っている。利用者に寄り添いながら訓練を行っており、利用者からの評判も良い。 ・ただ、視覚障害者への指導はマンパワーが重要なので、もう1名講師がいたら、もっときめの細かい指導ができると思うこともある。 Dその他 ・ICT訓練は、訓練を受けてすぐに身に付きやすい内容が多いことから、本人の成功体験に繋がりやすく、本人のやる気を引き起こす効果がある。 ・周りに別の利用者がいると、その利用者の訓練内容を要望するケースがある。これは「あの人ができるのであれば、自分も挑戦してみたい」という理由が主で、ある意味で相乗効果のようなものだと思う。施設で実施する訓練ならではのメリットになっている。 (3)書面調査では分からなかった内容 @個別的なニーズへの対応 ・利用者ごとに見え方や行動、そしてニーズに差があるのは当たり前だと考えている。そのため、その利用者の希望に合わせて訓練内容を変えることが基本だと思う。 ・上記の考えがあるので、視覚障害者の訓練はマンツーマンが効果的だと思っている。集団訓練はなじまない部分がある。 AICTの進歩への対応 ・利用者から最新のソフト等の使い方を求める要望は結構ある。例えば、ここ最近だと、Zoom等のオンライン会議用ソフトの使い方を教えている。 ・最新のものを教えるためには、講師も新しいことを学ばなくてはならない。そのため、講師が自発的に講習会に行くこともある。 B訓練後の支援の対応 ・修了生の中には、ICT関連で分からないことがあると支援を求める者もいる。電話等で相談を受け、場合によっては訪問することもある。 ・ICT訓練を受けた後の困り事への支援は必要だと思う。ICTは絶えず進歩しているので、その進歩に合わせるためには必要だろう。 C視覚障害あはき師への書類作成の指導 ・ほかの部署で視覚障害者向けのあはき師の養成を行っているため、ICT訓練の中では書類作成の指導は行っていない。 D視覚障害あはき師が利用しやすい入力ソフト【※1】 ・縦移動で入力する方法は、教える側にとっても分かりやすいと感じた。 ・今の時代であれば、オンライン上でブラウザ入力・エラーチェックができ、そのまま申請ができたら良いと思う。  【※1】162ページに掲載したExcel版「療養費支給申請書(入力補助シート付)」を用いて、ICT訓練の講師にパソコンでの書類作成のデモテストを実施した。上記の回答は、デモテスト終了後に求めた感想になる。 (4)新型コロナウイルスの影響 @訓練への影響 ・安全対策として、利用者同士が接触しないように、訓練の時間をずらすことがある。利用者同士の交流も大切だが、こればかりは仕方がない。 ・新型コロナウイルスの影響により、様々なものが変わってしまい、困っている視覚障害者は多いと思う。ただ、視覚障害者がICTスキルを身に付けることで、その変化に対応できる可能性はある。そのため、この状況をチャンスと捉え、視覚障害者が安心してICTを学べる環境を作ることが大切だと思う。 Aオンライン訓練 ・利用者が施設に来られないこともあるので、Zoomを活用した訓練を実施している。これは移動の手間が省ける等の効果があり、訓練を行う側、受ける側の双方にメリットがある。 ・オンライン訓練は、今後もっと活用できると考えている。例えば、訓練を受けた利用者が地元に戻った後、何か困ったことがあれば、オンライン訓練として支援ができるかもしれない。 ・現状の障害福祉サービスでは、オンライン訓練には報酬上の点数が付かないので、このオンライン訓練に点数が付くと助かる。 4.まとめ (1)ICT訓練等の在り方  ・訓練を受ける視覚障害者の見え方・ニーズ等に合わせてマンツーマンに近い形で実施することが求められている。  ・専門機関でのICT訓練の効果は高く、入所等の集中型の訓練になると、効果はさらに高くなる。 (2)ICT訓練後の支援の在り方  ・ICTスキルを身に付けた後も、視覚障害者への継続的な支援は必要になっている。  ・オンライン訓練等を活用できれば、ICTに関する継続的な支援が実現できる可能性がある。そのためには、制度面の整備が必要になる。 88ページ 2−3 ヒアリング調査(パソコンサポート団体) 結果 1.調査の実施理由  書面調査を実施した中では、パソコンサポート団体からの回答は、他の事業内容を実施する機関等よりも回収率が低かった。調査票の配布先については、検討委員会の委員からの情報を整理して依頼先を選定したものの、想定していた数は回収できなかった。同委員からは、「これらの団体は、常設の事務所がない団体やボランティアを中心に、月に数回だけ開催する団体も多く、調査票が届いたものの回答する余裕がなかった可能性がある」との指摘があった。  一方で、調査を進める中で、パソコンサポート団体を通してICTスキルを学んだ者が多いことが分かった。視覚障害あはき師への書面調査では、ICT訓練を受けた先として、37.1%の者がこれらの団体を利用した結果が出ている。また、視覚障害あはき師へのヒアリング調査でも、調査対象の一人は、これらの団体からパソコンの操作方法を教わったと回答している。この限りでは、視覚障害者にとってパソコンサポート団体はICTスキルを獲得するための重要な拠点となっている。  しかし、これらの団体は各地で様々な方法により、視覚障害者にパソコン関連の指導や支援を行っていることから、平均的な姿が整理されていない。例えば、前述したボランティアを中心に、月に数回だけ開催する団体もある一方で、常設の教室や事務所を設けて積極的に活動している団体もあり、どのような団体がパソコンサポート団体なのかが分かりにくい。また、視覚障害者に対して、ICTスキルを学ぶための指導や支援を行っていることは分かるが、どのような方法で実施しているかも整理されていない。  そのため、これらの不明確な点を明らかにするため、パソコンサポート団体に対して、ヒアリング調査を行った。 2.調査対象者 (1)E団体  所在地:東京都  事業内容:パソコンサポート団体  備考:常設の教室と事務所を併設している。 3.ヒアリング内容と回答 (1)主な実施内容 @概要 ・視覚障害者向けパソコン講座の開催を中心に活動している。個人利用者からの依頼の他に、企業の在職者訓練の依頼にも対応している。 ・インストラクター養成講座も実施している。 ・ICTに関する簡単な相談は、メールや電話で無料で対応している。 A実施方法 ・講座は基本的には事務所内の教室で実施している。ここ最近は、Zoomを使ったオンライン講習にも力を入れている。 ・利用者からの依頼を聞いた上で、オーダーメイド型のマンツーマン指導が多い。利用者が希望する内容をしっかりと教えられるように指導している。 ・夜間や土日には、特定のテーマに絞ったワンポイント講座を開催している。働いている視覚障害者向けの内容が多く、集中型の連続講座も開催している。 B指導を受ける視覚障害者 ・様々な視覚障害者から依頼がある。年間では150人〜200人程度を指導している。 ・これまでは所在地周辺の利用者が多かったが、オンライン講習を開始したことで、地方からの利用者も増えている。 C費用 ・基本は1時間2,200円を頂いている。集中型コースだと3日間で約2万円前後のものもある。 ・公的な支援がないため、やはり、このくらいの金額がかかってしまう。ただ、利用者の皆さんは、教えたことは必死に覚えようとしているので、費用を出してくれる。私たちも、頂いた費用の分は、しっかりと指導できるように努力している。 D繋がり方 ・利用者からの紹介が多い。 ・ここ最近はメールで流す情報やホームページに掲載した情報から利用に繋がることも多い。 (2)視覚障害者向けのパソコン講座の実施内容 @指導内容 ・視覚障害者の場合、利用者によって見え方やニーズが違い、使うソフトやシステムも違う。そのため、画一的な指導はできないと考え、オーダーメイド型の指導を実施しており、結果的にマンツーマン指導が多くなっている。 ・利用者のニーズに応じた指導が重要で、講座の中では、教える内容をその場で変えることもある。利用者のニーズに合わせて柔軟に対応することが大切だと思う。 ・顔を見ながら授業を行うことで、その利用者とのコミュニケーションが生まれ、他の内容の指導に繋がったり、その利用者のやる気を起こしたりすることができる。 A設備 ・助成金を頂いており、このお金で備品を揃えている。大変助かっている。 ・パソコン本体等のハード面よりも、ソフト代の方が負担になっている。その受講生の環境に合わせたソフトを使う必要があり、例えば、画面読み上げソフトは何種類もあるので、数種類用意することになる。 B人材 ・講師は視覚障害者4名、晴眼者2名で対応している。 ・晴眼者の講師は、弱視の利用者への指導を担当することが多い。弱視の利用者の場合は、画面を見る作業があるため、視覚障害者の講師では対応できない。 ・人材不足は常に感じている。特に、視覚障害者にパソコンを教える講師は、様々な知識やノウハウが必要になるため、教えられる人材に育てることが大変で、結果的に講師不足になっている。 CICTの進歩への対応 ・利用者から相談を受けて、新しいシステムやアプリがあることを初めて知るぐらいで、日々、講師も勉強している。 D受講する視覚障害者の特徴 ・年齢によって習熟度の違いは多少ある。 ・弱視の場合、音声と見ることを併用している人への指導は難しいと感じる。 ・昔と比べると、いわゆる「初心者」は減ったように思う。昔はパソコンの購入レベルからの相談だったが、今はある程度基礎力が備わっている人が多い。 ・Zoom等のオンライン会議用ソフトは、利用方法から教えてほしいという依頼は少なく、簡単な指導だけで使える人が多い。もし、使えない人がいたら電話で指導する等の工夫をして対応している。 (3)就労している視覚障害者への指導 @在職者訓練 ・開始前に本人や企業と面談を行い、オーダーメイド型の訓練を実施している。オフィスアプリや最新のシステム等も教えている。 ・東京都の事業なので、都内に在住・通勤の人が対象。平日の昼間に研修として実施している。 ・今年に入り、ヘルスキーパーからの依頼が多い。おそらく、新型コロナウイルスの影響で、その企業でヘルスキーパーの仕事が減少したため、事務職等に配置転換するために依頼があるようだ。 ・まだまだ真剣に視覚障害者の就労を考える企業は少なく、もっと企業にこの訓練を活用してほしいと思っている。 A就労している視覚障害者からの相談 ・実践的な内容を指導してほしいと依頼があり、プレゼン用資料作成方法等の講座が人気になっている。 ・日中は仕事をしているためか、依頼は土日や夜に多い。 ・オンライン講座の利用は、就労中の視覚障害者が多い。 B社内システム関連 ・コロナ以降、テレワークをする視覚障害者から、社内システムに関する相談が寄せられることが多い。ただ、その社内システム自体が、画面読み上げソフトとマッチするかどうかの問題が強く、アドバイスはするが、結局はそのシステムの問題になってしまう。講座として対応しようにも、その職場と同じ環境は作れないので、パソコン講座の中で解決するのは難しい。 ・こういった社内システムの解決等をするためには、もっと視覚障害に特化したジョブコーチが必要だと思う。 C視覚障害あはき師からの相談 ・利用者には、どのような仕事に就いているかを聞いていないので、どの位の視覚障害あはき師が利用しているかは分からない。 ・あはきの書類に関する支援の依頼はあまり多くない。 ・コロナ以降は、ヘルスキーパー個人からの相談が増えている。将来に対する不安があるのか、土日に自主的に依頼する人もいる。 (4)講師の養成、情報提供 @インストラクター養成講座 ・視覚障害者のICT利用を全国で広めるためには、まずは教える講師を増やすことが必要だと思い、約20年前から開催している。 ・令和2年度は新型コロナウイルスの影響で開催できなかった。例年は年間6回程度開催し、20人〜30人ぐらいの人が受講している。 ・訓練施設、情報提供施設、パソコンサポート団体等の職員や担当者が受講している。晴眼者が中心だが視覚障害者も受講している。 ・時間をかけてこの講座を実施したことで、地方の視覚障害者から相談があれば、その地方で訓練や指導ができる所を紹介することができるようになった。 ・こういった支援者を育てるためには、国からの支援制度があっても良いと思う。 A情報提供活動 ・@の講座と同じく、視覚障害者のICT利用を全国で広めるために、視覚障害者のICT利用に関する様々な情報をホームページ等で発信している。現在は、視覚障害者用ソフトウェア一覧等を公開している。 ・これらの情報は、視覚障害当事者に加え、その視覚障害者を雇っている企業に伝えたいと思っている。そのため、啓発動画等を作成し、ホームページで公開している。 (5)他のパソコンサポート団体の活動状況 @活動実態 ・知っている範囲だと、全国で200ぐらいの団体があると思う。 ・活動方法は様々で、日常業務として受けられる所は半分ぐらいだと思う。半分は、週末のみや月1〜2回とか、ボランティアとして限定的に行っている所も多い。 A地域での支援 ・オンラインの方法が普及はしてきたが、地域の視覚障害者への支援は、地域で担うことが大切だと思う。 ・視覚障害者の中には、未だに携帯電話が使えない人もいて、ICTのスタートラインに立てない人も多い。そのような人には、地域で触れ合いながらパソコンを教える環境がないといけない。オンラインの良さもあるが、オンライン一辺倒になってはならず、地域での支援も必要だ。 ・大切なのは、その視覚障害者に合った支援の方法が「選べること」だと思う。そのため、全ての視覚障害者に対応できるよう、支援の幅は広い方が良いと思う。 (6)その他 @新型コロナウイルスの影響 ・対面での授業の回数が極端に減った。そのため、オンライン講座を本格的に実施するようになった。 Aオンライン講座の活用 ・オンラインでの講座を開催するようになり、全国の人と繋がれるようになった。パソコン操作を教えてくれる団体等がない地域の人達にとっては、こういった方法は喜ばれている。 ・オンラインであれば、視覚障害者へのパソコン指導を行う講師の養成もできると考えている。デジタル化が進む現在、視覚障害者が取り残されないためにも、このような養成を通して、指導者の確保も必要になっている。 B国や制度への要望 ・働く視覚障害者にとって、在職者訓練とジョブコーチは車の両輪だと思っている。在職者訓練でスキルを高め、ジョブコーチが社内システム等の利用方法を支援することが大切だろう。そのため、これらに携わる者のスキルを高めることが必要だと思う。今の時代であればオンラインでも対応ができるだろう。ぜひ、これらに携わる者への公的な支援を実施してほしい。 4.まとめ (1)ICT関連の視覚障害者からのニーズ  ・様々な視覚障害者からニーズがあり、特に就労している視覚障害者は、自身の仕事に必要なICTスキルの獲得を求めている。  ・利用者の希望内容は多岐にわたり、内容面と条件面で大きく分かれている。 (2)ICT訓練等の在り方  ・指導を受ける視覚障害者の見え方・希望内容等に合わせて、マンツーマンに近い形で実施することが求められている。特に、利用者の希望内容に柔軟な対応が求められている。  ・これらのニーズを補完する方策の一つに、オンラインの活用が挙げられる。ただし、全ての視覚障害者に活用できるものではないことを、留意する必要がある。 (3)視覚障害者へのICTに関する支援者の養成  ・全国の視覚障害者に、ICTに関する訓練や指導を行うためには、ICTを教える支援者の確保が求められている。特に、高齢者等のICTを苦手とする視覚障害者を支援するためには、地域レベルでの支援が必要であることから、地域で活動できる支援者の確保が求められている。