23ページ  第3章 調査@ 視覚障害あはき師に対する調査 24ページ 1−1 書面調査 調査概要 1.調査目的  視覚障害あはき師の業務内容、ICTスキルの有無、ICT訓練等に対するニーズ等の把握を行うために実施した。 2.調査対象  全国の視覚障害あはき師 800名 3.調査方法  ・調査票の配布によるアンケート調査。  ・全国の視覚障害当事者団体及びあはき業界団体に依頼し、 会員等に対して調査票を配布した。なお、依頼先には、人口比に応じて調査票の配布数を調整した。  ・調査票は158ページの墨字版の他に、点字版、テキスト  版を配布した。調査対象者は回答しやすい方法を選択し、郵送またはメール送信で回答を提出した。   4.調査期間  令和2年11月20日〜12月18日 5.回収率  57.5%(460名/800名) 6.回答の傾向  ・全国から人口比に応じた回答が得られた。  ・男性からの回答が多く、回答者の性別は偏りがある。   7.調査結果の掲載方法  ・一部の調査結果は、調査票とは異なる順番で掲載する。また、設問名と選択肢の一部は改題を行った上で掲載している。  ・一部の調査結果には、「第6章 考察・分析」で用いたクロス集計の結果を掲載する。 25ページ 1−2 書面調査 結果 1.回答者に関する質問 (1)年齢 @20代 6名 1.3% A30代 10名 2.2% B40代 48名 10.4% C50代 101名 22.0% D60代 179名 38.9% E70代以上 116名 25.2% F無回答 0名 0.0% 全体 460名 100.0% (2)性別 @男性 376名 81.7% A女性 84名 18.3% Bその他 0名 0.0% C無回答 0名 0.0% 全体 460名 100.0% (3)視覚障害の程度 @全盲 276名 60.0% A弱視 180名 39.1% B盲ろう 1名 0.2% Cその他 1名 0.2% D無回答 2名 0.5% 全体 460名 100.0% (4)ICT機器の利用状況 @仕事とプライベートで利用している 223名 48.5% A仕事で利用している 12名 2.6% Bプライベートで利用している 96名 20.9% Cそれほど利用していない 29名 6.3% D利用していない 90名 19.6% E無回答 10名 2.2% 全体 460名 100.0% (5)回答方法 @郵送(墨字) 209名 45.4% A郵送(点字) 92名 20.0% Bメール 159名 34.6% C無回答 0名 0.0% 全体 460名 100.0% 2.あはき業に関する質問 (1)あはき業の関わり方(複数回答) @自宅等で個人事業主として開業 318名 69.1% A自身で会社組織を立ち上げて開業 9名 2.0% Bあはき施術所等に勤務 59名 12.8% C企業等にヘルスキーパーとして勤務 13名 2.8% D施設等に機能訓練指導員として勤務 32名 7.0% Eその他【※1】 56名 12.2% F無回答 10名 2.2% 全体 460名 100.0% 【※1】病院勤務、訪問マッサージ、休業中 等 (2)あはき業における療養費の取り扱い @取り扱っている 188名 40.9% A取り扱っていない 252名 54.8% B分からない 7名 1.5% C無回答 13名 2.8% 全体 460名 100.0% (3)あはき業における重要な書類の作成方法(複数回答) @パソコンで作成 150名 32.6% A墨字で作成 52名 11.3% B点字で作成 63名 13.7% C他者に口頭で指示して作成【※1】 77名 16.7% D作成していない 87名 18.9% Eその他【※2】 29名 6.3% F無回答 6名 1.3% 全体 460名 100.0% 【※1】後日、墨字書類の作成を他者に依頼することも含む 【※2】家族が作成、代行先に依頼、会社が作成 等 (4)あはきの業務の中で、重要な書類作成に困っているか @困っている 173名 37.6% A困っていない 211名 45.9% B分からない 58名 12.6% C無回答 18名 3.9% 全体 460名 100.0% (5)書類作成に困っている主な理由(自由記述を整理)  @記入や入力が難しい  ・書類の字が小さくて読めない。  ・記入欄が小さく、書き込めない。  ・書類の記入欄が複雑で入力ができない。  ・視覚障害者に使いやすいソフトがない。  ・画面読み上げソフトで正しく読まないものがある。  ・押印が正しく押せたかどうか不安。  ・患者さんの前で綺麗に記入ができない。  A他者への依頼が難しい  ・書類が複雑なため、他者にお願いしづらい。  ・他者にお願いしたとしても、書類が正しく書けたかどうか 確認できない。  Bその他  ・記入を間違えると返戻されてしまう。  ・書類自体の内容が頻繁に変更される。 (6)書類作成に困っていない主な理由(自由記述を整理)  @自身で作成ができる  ・拡大読書器やルーペを利用すれば作成できる。  ・画面読み上げソフトで記入ができる。  A他者への依頼で対応できる  ・家族に書いてもらえる。  ・勤め先の職員等に書いてもらえる。  ・代行業者に依頼している。  Bその他  ・書類を作ること自体を諦めたため、困っていない。 (7)書類作成に困っている場合、自分一人で書類を作れるようになりたいか 【対象:4−(4)「@困っている」を選択した回答者 173名】 @思う 156名 90.2% A思わない 6名 3.5% B分からない 8名 4.6% C無回答 3名 1.7% 全体 173名 100.0% 3.ICT訓練等に関する質問 (1)ICT訓練等を受けた経験 @ある 132名 28.7% Aない 178名 38.7% B独自にパソコン等の操作方法を覚えた 136名 29.6% C無回答 14名 3.0% 全体 460名 100.0% 4.ICT訓練等を「受けたことがある」回答者への質問 【対象:3−(1)「@ある」を選択した回答者 132名】 (1)ICT訓練等を受けた時期 @あはき業に就労前 48名 36.4% Aあはき業に就労後 82名 62.1% B無回答 2名 1.5% 全体 132名 100.0% (2)ICT訓練等を受けた場所(複数回答) @あはきの養成機関 14名 10.6% A視覚障害者向け訓練を行う施設 39名 29.5% B就労支援を行う施設 10名 7.6% C地域の視覚障害者団体や情報提供施設 56名 42.4% Dパソコンサポート団体 49名 37.1% Eその他【※1】 17名 12.9% F無回答 1名 0.8% 全体 132名 100.0% 【※1】歩行訓練士、機器の購入先 等 (3)訓練機関等への繋がり方(複数回答) @先生や講師等からの紹介 30名 22.7% A勤め先からの指示 1名 0.8% B病院からの紹介 5名 3.8% C役所からの紹介 10名 7.6% D知人からの紹介 75名 56.8% E自分から探した 37名 28.0% Fその他【※1】 12名 9.1% G無回答 1名 0.8% 全体 132名 100.0% 【※1】視覚障害当事者団体、市町村の広報 等 (4)ICT訓練等が重要な書類作成に役立っているか @役立った 59名 44.7% A役立っていない 43名 32.6% B分からない 27名 20.5% C無回答 3名 2.3% 全体 132名 100.0% (5)ICT訓練等を受けて良かった点(複数回答) @パソコン等の操作が一人で出来るようになった 100名 75.8% A仕事でパソコン等のICT機器を生かせるようになった 51名 38.6% B様々な情報を得られるようになった 87名 65.9% C周りとのコミュニケーションに役立った 77名 58.3% D特になし 12名 9.1% Eその他【※1】 4名 3.0% F無回答 4名 3.0% 全体 132名 100.0% 【※1】特定の操作が覚えられた 等 (6)ICT訓練等を受けて不満だった点(複数回答) @近くでICT訓練等を受けることができなかった 39名 29.5% A仕事の合間等、自分の希望する時間に訓練が受けられなかった 27名 20.5% B求めていた訓練内容を受けることができなかった 17名 12.9% C手続きに時間と手間がかかった 6名 4.5% Dお金の負担が大きかった(訓練費、機器の購入等) 23名 17.4% E特になし 54名 40.9% Fその他【※1】 3名 2.3% G無回答 7名 5.3% 全体 132名 100.0% 【※1】就職に繋がらなかった、就職後は教えてくれない、待ち時間が長い 等 5.ICT訓練等を「受けたことがない」回答者への質問 【対象:3−(1)「Aない」を選択した回答者 178名】 (1)ICT訓練等を受けていない理由(複数回答) @ICT訓練等を知らなかった 60名 33.7% A必要性を感じていない 74名 41.6% B時間や費用がない 41名 23.0% C周りに施設等がない 43名 24.2% Dその他【※1】 20名 11.2% E無回答 9名 5.1% 全体 178名 100.0% 【※1】家族や支援者がいる、高齢で難しい 等 (2)あはきの業務に役立つのであれば、ICT訓練等を受けたいと思うか @思う 90名 50.6% A思わない 45名 25.3% B分からない 35名 19.7% C無回答 8名 4.5% 全体 178名 100.0% 6.「独自にパソコン等の操作方法を覚えた」回答者への質問 【対象:3−(1)「B独自にパソコン等の操作方法を覚えた」を選択した回答者 136名】 (1)操作方法の覚え方(複数回答) @説明書等を読んで独学で勉強した 81名 59.6% A家族に教えてもらった 34名 25.0% B友人に教えてもらった 103名 75.7% Cメーリングリストで尋ねた 39名 28.7% D電話等でメーカーに問い合わせた 37名 27.2% Eホームページを検索して調べた 61名 44.9% Fその他【※1】 16名 11.8% G無回答 1名 0.7% 全体 136名 100.0% 【※1】視覚障害者になる前に習得した、パソコンサークルに加入して覚えた 等 (2)操作方法を覚えた理由(複数回答) @生活において必要になったから 100名 73.5% A仕事において必要になったから 83名 61.0% B近くで教えてくれる所がなかったから 24名 17.6% C友人や同僚等から勧められたから 44名 32.4% Dその他【※1】 23名 16.9% E無回答 3名 2.2% 全体 136名 100.0% 【※1】趣味として学んだ 等 (3)操作方法を覚えてよかった点(複数回答) @操作が一人で出来るようになった 118名 86.8% A仕事で生かせるようになった 91名 66.9% B様々な情報を得られるようになった 126名9 2.6% Cコミュニケーションに役立った 109名 80.1% D特になし 1名 0.7% Eその他【※1】 7名 5.1% F無回答 1名 0.7% 全体 136名 100.0% 【※1】他の人に教えられるようになった 等 7.あはきに特化したICT訓練等に関する質問 (1)あはきの書類作成に特化したICT訓練等を受講したいと思うか @思う 232名 50.4% A思わない 107名 23.3% B分からない 112名 24.3% C無回答 9名 2.0% 全体 460名 100.0% (2)あはきの書類作成に困った時に、電話やメール等で問い合わせ先があれば利用したいと思うか @思う 314名 68.3% A思わない 64名 13.9% B分からない 73名 15.9% C無回答 9名 2.0% 全体 460名 100.0% (3)ICT訓練等を受けやすくするために必要だと思う内容「場所や移動方法」(複数回答) @近所での訓練を実施する 276名 60.0% A訓練する場所を増やす 181名 39.3% B訓練場所への移動手段を確保する 206名 44.8% Cオンライン等の遠隔訓練の活用 213名 46.3% D分からない 68名 14.8% Eその他【※1】 17名 3.7% F無回答 14名 3.0% 全体 460名 100.0% 【※1】自宅や職場への出張 等 (4)ICT訓練等を受けやすくするために必要だと思う内容「受講方法」(複数回答) @希望する時間や日時で実施する 286名 62.2% A理解するまで、何度も実施する 295名 64.1% B申し込みを簡単にする 210名 45.7% C訓練費の費用補助を行う 226名 49.1% D機器の導入費の費用補助を行う 224名 48.7% E分からない 61名 13.3% Fその他【※1】 9名 2.0% G無回答 17名 3.7% 全体 460名 100.0% 【※1】対象者要件の緩和、動画の配信 等 8.アンケートに寄せられた主な意見(自由記述を整理) (1)年齢や障害度合いに関する意見  @高齢者  ・10年前にこのアンケートを実施してほしかった。今の私は歳を取りすぎてしまい、ICTにはついて行けない。  ・高齢となり仕事も少なく、あと数年で廃業の予定です。今さらICTを勉強して保険治療を行うつもりはありません。  A全盲  ・全盲の者が健常者と同等に書類処理ができるように、点字 での書類作成を認めてほしい。また、行政からアシスタントの派遣の補助を認めてほしい。  ・全盲でも使いやすいソフトを作ってほしい。また、実際に  使うソフトで指導してほしい。  B弱視  ・今現在は視力があり、何とかパソコン等が使えているが、  視力がなくなった時のことを考えると、仕事の事務処理ができるのかが心配。  ・様々な書類を見ていると、文字の大きさであったり、色であったり、見づらいものが多い。健常者の業者とのバランスでこういう書類になったのかもしれないが、業界全体で視覚障害者の業者がいることを理解すべきだと思う。 (2)あはき業に関する意見  @業務で使用する書類  ・様々な書類の書式が複雑で、視覚障害者には取り扱いにくい。公の書類の申請はやはり最終的に晴眼者の力を借りることになるのを痛感している。  ・文字を入力しやすいように書体、フォント、コントラスト等に配慮したものを作ってほしい。  A療養費  ・療養費の取り扱いは視覚障害者にとってはほとんど不可能 に近いと思う。同意書等の作成は視力が必要。自由診療しかできない。  ・保険請求の書類作成に行き詰まった時は、何らかの方法で助けてもらえないか。  B業務上の支援  ・業務上、視力を必要とすることが多いので、晴眼者のアシスタントが必要だと思う。  ・自分が作った書類を確認してくれる人や機関を作ってもら いたい。誤字や枠内に文字が正しく入っているか分からないし、印刷した時に罫線が正しいのかどうかが不安。 (3)ICT訓練等に関する意見  @訓練全般  ・ICT訓練を受けるチャンスがほしい。  ・訓練で発生した費用は補助してほしい。  ・晴眼のお客様へのコミュニケーション講座等があれば実施 してほしい。  ・ICTは大嫌いなので、訓練を受けたいと思わない。  A支援やサポート  ・パソコン等で操作方法に行き詰まったとき、何らかの方法で助けてもらえないか。  ・長きに渡り、県内のパソコンボランティアに相談して、助けてもらっている。ただ、自分が住んでいる所でお願いできたらよいと思っている。  Bあはき師の養成での訓練や支援  ・盲学校(視覚特別支援学校)やあはき師養成の専門校での教育段階で、こういったICTに関するカリキュラムに含めることが必要ではないか。 (4)ICT全般に関する意見  @ファイル形式  ・国や自治体から届く書類はPDFファイルが多く、読めな くて苦労している。WordファイルかTXTファイルにしてもらえれば、パソコンで読めるようになるので助かる。  Aあはき業に関する書類作成ソフト  ・視覚障害者が申請書に記入ができるよう、分かりやすいアプリケーションを開発してほしい。  ・申請用ソフトを開発する時には、Excelのような表記入ではなく、項目ごとに箇条書きで記入ができるようにしてほしい。 49ページ 2−1 ヒアリング調査 調査概要 1.調査目的  書面調査の調査結果の一部が不明確な調査対象に対して、その詳細等を確認するため、ヒアリング調査を実施した。 2.調査対象 (1)個人開業の視覚障害あはき師 (2)ヘルスキーパーの視覚障害あはき師 3.調査方法  ・調査員からの口頭でのヒアリング。 4.調査日、実施方法 (1)個人開業の視覚障害あはき師   日時 令和3年2月18日   実施方法 会議室において対面方式で実施 (2)ヘルスキーパーの視覚障害あはき師   日時 令和3年3月13日   実施方法 オンライン上で実施 5.調査結果の掲載方法  対象者への調査を実施する理由を整理した上で、ヒアリング内容と回答を整理し、項目ごとに掲載する。 50ページ 2−2 ヒアリング調査(個人開業) 結果 1.調査の実施理由  全国の視覚障害あはき師を対象にした書面調査では、多くの回答が寄せられ、様々な調査結果が得られた。  調査結果を整理すると、個人事業主として自宅等であはきの施術所を開業する者からの回答数が多く、全体の約7割を占めていた。様々なあはきの業態がある中で、このような個人開業の者からの回答が多かったことは、それだけ個人開業の者にとって、今回の書面調査の主眼点の一つである「書類作成」に困難さがあることを裏付けるものであった。  しかし、書面調査を行った結果、個人開業の視覚障害あはき師からの回答には、どのような背景があるのかまでは分からなかった。例えば、ICTスキルの獲得方法、あはき業でのICTスキルの活用方法等は確認できなかった。また、調査結果のクロス集計を行うと、全盲と弱視、年齢、ICTスキルの差といった回答者の個人特性の違いにより、調査結果に差異が発生していた。  そのため、これらを明らかにするために、個人特性が違う個人開業の視覚障害あはき師2名に対して、ヒアリング調査を行った。 2.調査対象者 (1)A氏  基本情報:東京都在住、全盲、50代  あはき業の関わり方:自宅に施術所を開設、訪問診療あり、療養費の取り扱いあり  ICTスキル:中級レベル(Excelの操作可能) (2)B氏  基本情報:東京都在住、手動弁(中途障害)、70代  あはき業の関わり方:自宅に施術所を開設、訪問診療あり、療養費の取り扱いあり  ICTスキル:初級〜中級レベル(Excelの操作可能) 3.ヒアリング内容と回答 (1)ICTスキルの獲得方法 @パソコン操作の習得方法 AA氏 ・最初は独学で覚えた。 ・その後、当事者団体のパソコン教室に通い、マンツーマンの訓練を10回程度受けた。ここで詳しい内容を覚えることができた。 B氏 ・まず、地元のパソコンボランティアにお願いし、土日を中心に操作方法の基礎を教えてもらった。 ・その後、就労系の専門施設に通い、詳しい内容を教わった。 A習得方法の評価 A氏 ・パソコン教室では、教えてもらいたい内容を相談し、その内容を的確に教えてもらえた。 ・仕事の合間に通えたのが特に助かった。 B氏 ・60代で習い始めたので、習得まで時間がかかったが、ある程度は満足している。教えてくださった皆さんに感謝している。 (2)ICT関連での困り事 @困っている内容 A氏 ・最近は、オンライン上で申し込みをする時の画像認証に困っている。 B氏 ・困ることが多く、操作ができないことは諦めている。 A困っている内容の解決方法 A氏 ・家族がいる時は、画面を見てもらい、助けてもらっている。 ・利用しているインターネット・プロバイダーの有料の電話サポートがあり、これを活用している。遠隔でパソコンの設定を変えてもらうことがあり、非常に助かっている。 B氏 ・知り合いにICT関連に詳しい人がいて、よく相談している。すぐには対応できないこともあるが、そこまで気にならない。 (3)あはきの業務内容 @記録の作成方法 A氏 ・メモ帳やExcelを使い、自己流でカルテ・売り上げ・予約等を記録し、管理している。 ・これらはベタ打ちレベルだが、自分では分かるので困ることはない。 B氏 ・Excelで売り上げを管理している。ベタ打ちレベルだが、シートを使い分けて、上手く工夫している。 ・専用ソフトを使ったことがあるが、使いづらかった。 A業務上で困っている内容 A氏 ・日常業務レベルのことは、一人で何とか対応している。 ・業務でパソコンを利用する中で、凄く困ることは少ないと思う。 ・紙でやりとりする書類は困ることが多く、領収証の発行と捺印には困っている。 B氏 ・日常業務は何とか一人で対応できている。 ・出張先でお客さんに領収証を渡す場合、その場では書けないので、お客さんに了解頂いた上で、次回の施術の際に渡すことがある。 (4)療養費 @療養費を取り扱う理由 A氏 ・定期的な予約が入り、売り上げが確保しやすい。 ・療養費を扱うと、ある意味で国からお墨付きをもらっていることになり、無資格者対策にもなると思っている。 B氏 ・自治体のマッサージ券を利用する高齢者は、保険があることで依頼をしてくれるケースが多く、それで療養費に対応している。 A申請書等の作成方法 A氏 ・所属する当事者団体に入力代行を依頼し、書類を作成してもらっている。 ・メールで必要な情報をベタ打ちして送信するだけなので、そこまで手間ではない。 ・代行を依頼するのであれば、最低でもメールが使えないと厳しいかもしれない。 B氏 ・入力代行に依頼しており、これには助かっている。 ・複雑な療養費の書類を、自分の力で作れるとは思えないので、確実な書類が作れるのであれば、手数料を払うことはそこまで負担ではないと考えている。 (5)業務におけるICT利用 @パソコンを利用した書類作成 A氏 ・自分で療養費の申請書類等が作れるのであれば、その分は収入になるので、魅力と言えば魅力。 B氏 ・自分で書類が作れたら良いこともあるだろう。ただ、療養費の書類は、誤りがあると戻ってきてしまうので、確実な書類が作れるかどうかが不安。 A情報収集や情報発信での活用 A氏 ・PDFファイル等は読めないものが多いので、読めるようになると嬉しい。 ・宣伝は、どこまで効果があるかが分からない。以前、ホームページを開設していたが、あまり効果がなかった。 B氏 ・ICTを活用して様々な情報が得られるのは良いと思う。 ・宣伝等の情報発信までになると、今の仕事で手一杯なので、そこまで手が回らないのが現状。 B新たなシステムの活用 A氏 ・マイナンバーカードを健康保険証として利用できることは、興味がある。お客さんから提出された保険証は読めないので、データで読み取ることができたら助かる。 B氏 ・Aさんと同じく、マイナンバーカードの健康保険証としての利用は興味がある。自分が使っているExcelに転記できると嬉しい。 C視覚障害あはき師が利用しやすい入力ソフト【※1】 A氏 ・Excelであれば、縦移動だけで入力できる方法だと分かりやすい。 ・ただ、入力はできても、本当に申請に耐えうる書面になっているかは、自分では分からない。この点が心配です。 B氏 ・縦移動の入力は分かりやすい。試作版のExcelは、初めて使用しても、私でも理解できた。説明と入力欄が交互になっているのが分かりやすい。  【※1】162ページに掲載したExcel版「療養費支給申請書(入力補助シート付)」を用いて、両氏にパソコンでの書類作成のデモテストを実施した。上記の回答は、デモテスト終了後に求めた感想になる。 4.まとめ (1)個人特性の違い  ・年齢の違いにより、あはき業に関する考え方、ICTスキルに対する考え方や習熟度は多少の差があった。そのため、若年層と比べると高齢層は、ICTスキルの獲得に前向きになれない傾向があることが読み取れた。  ・障害の程度(全盲と弱視)の差は、それぞれで困り事の内容が異なるものの、同レベルで困っていることが分かった。  ・ICTスキルが高いほど、あはき業で可能となる業務の幅は広がる可能性はある。しかし、作成した書類の確認等のように、ICTスキルがあっても越えられない作業もある。 (2)ICTと視覚障害あはき師  ・視覚障害あはき師は、まず、パソコン等を利用するためのスタートラインに立つことが大切で、このレベルまで学べる環境が必要になっている。  ・ある程度のICTスキルを身に付けた後は、自身の創意工夫や周りからの支援を受けることで、あはき業の業務に役立てることができる。  ・その者が持つICTスキルで対応できないことは、外部的な支援が必要となり、電話やオンラインも活用できる。  ・ICTスキルを持つことで、新たなシステムが利用でき、視覚障害あはき師の仕事の幅は広がる可能性がある。 55ページ 2−3 ヒアリング調査(ヘルスキーパー) 結果 1.調査の実施理由  検討委員会の議論の中で、視覚障害あはき師の養成に携わる委員より、「近年は、あはきの国家資格の取得後、個人開業を目指す者よりも企業等に雇用される形態を求める者が多い」との指摘があった。そのため、本調査では、企業等に勤める視覚障害あはき師の実態を整理することも念頭に置いている。  しかし、全国の視覚障害あはき師を対象にした書面調査では、個人開業の視覚障害あはき師から多くの回答が集まった一方で、企業等に勤める視覚障害あはき師からの回答は少数となっていた。特に、近年、視覚障害あはき師の就労先として注目されているヘルスキーパー【※1】は、書面調査の回答率が2.8%(13名)であったことから、調査結果には不明確な部分が多かった。例えば、これらの者は療養費の申請書類を作成することは少ないが、勤務をする上でICTスキルを活用することは必要だと思われる。しかし、これらの者に、ICTに関するどのようなニーズがあるかは、書面調査では確認できなかった。  また、新型コロナウイルスの影響はヘルスキーパーにも及んでおり、書面調査の自由記述では、出勤ができない等の悩みが寄せられていた。一方で、個人開業の視覚障害あはき師からも、新型コロナウイルスの影響による売り上げ減少が厳しい旨の意見があり、あはき業の維持のためにICTスキルの獲得を考える者もいた。新型コロナウイルスの影響は、確実に視覚障害あはき師の生活を脅かしている。しかし、書面調査では、新型コロナウイルスの影響についての設問を設けていないため、新型コロナウイルスの影響は整理できていない。  そのため、個人開業の視覚障害あはき師とは異なるニーズ、さらには新型コロナウイルスの影響を確認するため、視覚障害のヘルスキーパーに対してヒアリングを行った。 【※1】ヘルスキーパー(企業内理療師)  産業・労働衛生分野に理療の技術を活用するもので、理療の国家資格を持つものが、企業等に雇用されその従業員等を対象にして施術等を行う者の呼称になる。理療の施術やセルフケア指導、健康への助言を通じて業務中に生じた疲労やその他の症状を取り除き、業務の能率向上と従業員の健康増進に役立てる事を目的としている。  出典:日本視覚障害ヘルスキーパー協会 https://healthkeeper-jp.com/about 2.調査対象者 (1)C氏  基本情報:神奈川県在住、弱視、40代  あはき業の関わり方:企業に勤めるヘルスキーパー  ICTスキル:上級レベル(パソコン関連の講師が可能) 3.ヒアリング内容と回答 (1)ヘルスキーパーの就労状況 @基本情報 ・全国では、約400人がヘルスキーパーとして働いていると言われている。 ・ヘルスキーパーとして働く人は30代〜40代が中心となっている。中途の人や40代より上の人も働いている。 ・大都市圏を中心にヘルスキーパーを雇用する企業が増えていて、全国で200社程度が採用していると思われる。 ・採用する企業はIT系の会社が多い。働いている人の多くがパソコン作業をしており、その疲労を癒すことが目的となっている。 Aあはきの施術方法 ・企業内の一室に施術所を設け、その企業の社員に対して施術を行っている。 ・あはきの中ではあん摩マッサージ指圧が中心で、はりときゅうは必要に応じて実施している。 ・福利厚生の一環であるため、その企業の社員は安価な値段で治療を受けることができる。費用は企業によって異なるが、1回500円ぐらいの所が多い。施術を受けた人は、みんな喜んでいる。 (2)ヘルスキーパーの業務内容 @業務体制 ・基本的にはあはきに関する業務が中心で、稀に他の業務と兼任している場合がある。事務の手伝いをしたり、社内報で健康関連の記事を書いたりする実例がある。 ・勤める企業の雇用条件で勤務しており、イメージは9時〜5時の仕事になる。 ・その企業によって人数は異なるが、一つの施術所には2名以上のヘルスキーパーが働いている。多い所では5名の所もある。 ・晴眼等の支援者が入ることはあまりなく、自分でできることは自分で対応している。 Aパソコン等の利用 ・カルテ、予約管理、日報、売り上げ等はパソコンで入力して作成している。弱視の人だと手書きの人もいる。 ・今の多くの企業は、パソコンは一人一台支給されることが大前提になっている。そして、社内連絡は、メールや社内システムを介して届けられる。そのためヘルスキーパーの仕事をする以上に、その企業で働くためにはパソコンを操作できることが必須となっている。 Bパソコン操作の習得方法 ・ここ最近の人は、盲学校(視覚特別支援学校)の授業で習う、または独学で覚える人が多い。 (3)ICT関連の困り事 @社内システム ・近年、社内システムをベースにパソコン業務を行う企業が多く、それらが音声対応していないことに困っている。例えば、社内での連絡であれば、今まではメールが主だったが、社内システムの中のチャットで連絡が来ることがある。このチャットを画面読み上げソフトでは読み上げてくれないことがある。 ・ヘルスキーパーが扱っている情報を考えると、実は社員の健康という個人情報を扱っていることになる。そのため、情報管理のセキュリティーレベルは高く、社内システムの中で管理することも多い。 ・社内システムについては、社内の担当者等に改善の要望を出すこともあるが、あまり対応してくれない。そのため、他社に勤めるヘルスキーパーの仲間同士で情報交換を行い、改善策の共有を図ることもある。 (4)ICT訓練等の必要性 @在職者訓練 ・社内システム等の新しいシステムが出てきているので、それらを覚えるためのICT関連の訓練や支援があると助かる。 ・企業に勤めている視覚障害者にとって、その訓練場所まで移動するのは大変だ。また、通っている間は施術所を閉じる必要があり、なかなか通うのは難しい。 ・勤め先が研修として訓練を行ってくれるのであれば、安心して訓練が受けられる。 ・自分の仕事の状況や空き時間に合わせて、オンラインで研修が受けられたら良いと思う。 (5)新型コロナウイルスの影響 @勤務状況 ・テレワークの推進をしている企業では、連動して出社する人が減るので、社内に人がいない状況になっている。そのため、施術所の廃止や一時停止、施術する患者数を制限している所がある。 ・この問題は、ヘルスキーパー業界全体に強く影響している。しかし、このようなコロナ対応は、社会全体で行うべきことでもあるので、ある意味で仕方がないことだとも理解している。 ・このような状況が続くと、今後自分の仕事がどうなるか、不安になってしまう。雇用が継続されるのか、この会社で仕事ができるのか、人によって不安は色々あると思うが、多くの視覚障害のヘルスキーパーは不安になっていると思う。 A配置転換、転職等 ・上記の勤務状況が影響し、配置転換になった人もいる。弱視の人が事務職に移ったという事例を聞いたことがある。 ・企業側も障害者雇用率の維持があるので、視覚障害のヘルスキーパーがその会社で働けるように、様々な工夫をしている所もある。テレワークになったのであれば、あはき以外の仕事ができるように、オンラインでの健康相談を業務にした所もある。 ・視覚障害のヘルスキーパーの場合、あはき以外の仕事を担当したとしても、その仕事ができない場合もある。そのため、新たな仕事ができず、退職してしまった人もいる。 ・退職しても別の企業にヘルスキーパーとして転職できる保証はない。そのため、悩みながらその企業に残る者もいると思う。 Bその他 ・ヘルスキーパーという業態の転換点に立っているのかもしれない。自分達自身も、色々と考えて、ヘルスキーパーの価値を見出し、今まで導入がなかった企業への提案等を行うことが必要かもしれない。 4.まとめ (1)企業で働く視覚障害あはき師(ヘルスキーパー)の実態とニーズ  ・個人開業の視覚障害あはき師とは異なる書類作成や事務処 理の困り事がある。  ・個人開業の視覚障害あはき師以上にICTスキルは必要と され、就労する上で必須の技術となっている。  ・企業に勤めるが故に、最新のシステム等と対峙する必要が あり、ICTに関する訓練や支援が必要となっている。  ・ICTスキルを身に付けるための研修等に対して、前向きな企業は少ない。また、移動等の制約があることから、通所型の訓練や支援は不向きとなっている。  ・基礎的なICTスキルは有している者が多いことから、オンライン等を利用した訓練や支援のニーズが高い。 (2)新型コロナウイルスの影響  ・視覚障害のヘルスキーパーにとっては、テレワーク等の推進により、その業態の根幹を揺るがすほどの影響が出ており、ヘルスキーパーとしての業務ができない者もいる。  ・ICTスキルを獲得することで、その企業内において、あはきに関連する仕事の幅を広げられる可能性はある。