7ページ 第2章 調査に向けた論点整理 8ページ 1 視覚障害者とICTの現状 1.視覚障害者のニーズの変化  視覚による情報入手が困難または不可能である視覚障害のある人々(以下、「視覚障害者」とする。)にとって、文書等の書類を「読むこと」や「書くこと」は困難を伴う行為である。この困難さは、視覚障害者が日常生活または社会生活を送る上での障壁となっており、特に就労の場面においては、顕著に表れる。  例えば、多くの視覚障害者が就労するあはき業でも、施術に関するカルテの作成が、その困難さ故に大きな壁となることがあり、その改善や支援を求める声が大きい。特に、平成31年1月より、あはき療養費の受領委任制度が開始されたことに伴い、書類作成に対する支援を求める声が一段と高まってきている。この声の高まりは、全国の視覚障害当事者が会員となる日本視覚障害者団体連合(以下、「日視連」とする。)にも寄せられ、これらの支援に関する陳情を国へ提出してきている。その多くは人的な支援を求める内容であり、代筆・代読支援の利用、職場介助者の利用を求めている。この就労に関する支援は、あはき業だけではなく、全ての職種に該当し、ICTを活用したコミュニケーションの支援を通して視覚障害者の就労促進、雇用の安定を求める内容である。  一方で、視覚障害者自らの力で「読むこと」や「書くこと」の解決を求める声も大きい。例えば、就労のために必要なスキルを獲得するために、様々な職業訓練の充実を求める声があり、日視連からは、これらの声を反映した陳情を国へ提出してきている。この背景には、就労する上でパソコン等を利用した情報処理技術が必須となることから、パソコンの操作方法等のスキル習得が、職業自立の手段となっていることを認識しているからである。  さらに、近年は社会全体でデジタル化が加速し、社会生活を送る上でICTスキルの獲得が必須となり、視覚障害者自身にもそのスキルの獲得が求められている。しかしながら、この流れにおいて興味深いのは、従来は視覚障害者の環境改善を求めていたのに対し、近年は視覚障害者自身が自己啓発により変わることを求める内容に変化しつつあることだ。例えば、スマートフォンの利用について、日視連の陳情内容を見みると、近年は機器やシステムの改善を求める声が中心だったのに対し、令和2年度の陳情では機器利用技術の習得を求め訓練等の拡充を求める内容も要望している。障害者自身が自己啓発により自己実現する当事者の意識の変化は、国が目指す障害者自立が目指す本質的なエネルギーであり、このことが具現化されることが「障害のある人も普通に暮らし、地域の一員として共に生きる社会」の一つのあるべき姿であると考えられる。 【図2−01 日本視覚障害者団体連合 国への陳情内容(平成29年度〜令和2年度)】 1.就労関連 (1)視覚障害あはき師への支援 @令和2年 視覚障害を有する三療(あはき)自営業者に対しては、本年10月から開始される「雇用施策との連携による重度障害者等就労支援特別事業」に意思疎通支援事業の代筆・代読支援を含めた支援とすること。 A令和元年 三療(あはき)の療養費(受領委任)の手続きや事務作業を援助することを含め、視覚障害を有する三療(あはき)自営業者が、職場介助者に準じた援助が早急に受けられるよう制度化すること。 B平成30年 なし C平成29年 あはき療養費受領委任払いができるようにするとともに、視覚障害自営業者に職場介助者が配置されるよう要望する。 (2)就労支援 @令和2年 視覚障害者が希望した職業で安定して働き続けられるよう、人的支援、支援機器の導入、歩きやすい環境の整備等、更なる雇用環境の改善をすること。特に、昨今のテレワークの推進に伴い、本人認証、セキュリティ対策において、視覚障害者が取り残されないようにすること。 A令和元年 視覚障害のある個人事業主が、職場介助者を利用できるような制度を新設すること。 B平成30年 就労形態にかかわらず、全ての視覚障害者が職場介助者制度を利用できるよう要望する。 C平成29年 視覚障害を有する自営業者に対して、仕事上あるいは職務上の事務作業などを援助する支援員の派遣を、国または県で制度化されるよう要望する。 (3)職業訓練 @令和2年 一般雇用の推進のため、支援の基盤となる自立訓練事業所の充実を図るとともに、同訓練所の新規開設を推進すること。就労後のICT(情報通信技術)のスキルアップのための新たな研修制度を創設するとともに指導員を育成すること。 A令和元年 なし B平成30年 視覚障害者が居住する都道府県において、視覚障害者の希望に沿った職業訓練が受けられるよう要望する。 C平成29年 どこでもロービジョンケアが受けられる体制を整備するとともに、中途視覚障害者の自立のため、早期の相談、生活訓練、職業訓練が受けられる総合的な施策の確立を要望する。 2.ICT関連 (1)スマートフォン @令和2年 多くの視覚障害者が現在使用している3G携帯のサービスが終了することにあわせ、携帯電話会社が、視覚障害者に対して選び方とその使い方等を説明できるようにするため、職員の研修を実施するよう各社に働きかけること。 A令和元年 スマートフォンなどの情報端末を、視覚障害者も容易に活用できる仕様となるよう、国から各メーカーに指導すること。 B平成30年 スマートフォンなどの新たな情報端末を視覚障害者も容易に活用できるよう要望する。 C平成29年 スマートフォン等の新たな情報端末を、視覚障害者も容易に活用できるように開発することを要望する。 2.ICTスキル獲得の必要性  視覚障害者がICTスキルの獲得を求める背景を整理すると、大きく二つに分かれている。 (1)視覚障害の特性をカバーできること  まず、視覚障害を説明する際に「情報障害」と説明する専門家がいる。人間が様々な行動をするために必要とする情報は、視覚からの獲得が8〜9割と言われている。つまり、多くの視覚障害者は情報収集が困難で、そのため行動が制限されていることが情報障害と言われる所以である。  例えば、人が道を歩くことを考えると、足を機動的に動かすことに加え、目で周囲の状況を確認しながら歩いている。一方で、視覚障害者は、後者の安全確認が目で行えないため、健常者のような歩き方はできない。この場合、頭の中で地図を描いたり、白杖等を用いて歩くことで、道路の段差等の位置関係を「情報」として得ることができる。また、歩きながら周囲の音を聞くことで、付近の状況や位置関係を把握することもできる。つまり、視覚障害者は、目で見ること以外の方法で「情報」を入手しているのである。  そして、ICTスキルの獲得を求めている背景には、ICTスキルを活用すれば、本来は目で見ないと得られない情報を、その視覚障害者に合った方法で得られることが強く影響している。  例えば、パソコンの画面に表示された内容を、そのままでは読めない視覚障害者は多い。しかし、画面読み上げソフト(スクリーンリーダー)を使えば音声で読み上げてくれ、その内容を確認することができる。また、弱視の者だと、文字の大きさや色合いを変えれば画面が見えるだろう。  つまり、視覚障害者がICTスキルの獲得を求めている背景は、情報の獲得を通して視覚障害者の特性をカバーできることに他ならないのである。 【写真:パソコン画面の表示内容を音声で確認する視覚障害者】 (2)ICTの進歩に対する期待  令和2年度は、新型コロナウイルス感染症の流行により、人々の生活様式は一変し、その変化に最適化すべく様々な仕組みが変化した。特に、人と人との接触を避ける等の理由によって、様々なもののデジタル化が進み、社会のICT環境は大きく変化した。例えば、これまで対面で行われていた会議は、オンライン会議システムの利用が進み、もはや主流となっている。この限りでは、ICT全般が苦手とされる視覚障害者は、不利な状況に置かれつつある。  しかし、視覚障害者がICTスキルを身に付け、このオンライン会議システムが利用できるようになると、様々な面で有効であることが分かった。それこそ、前述したオンライン会議システムを利用すれば、単独での移動が難しい視覚障害者が、移動をせず容易に会議へ参加できる。これは地方に住む視覚障害者にとってはメリットがあり、徐々に利用する機会が増えている。このオンライン会議以外にも、昨今のICTの進歩により、視覚障害者にとって有益になった事例は少なくはない。教育の現場であれば、これまで授業の中で紙資料として配布されていたものが、オンラインでの授業を行うため、データでの資料提供が行われるようになり、そのデータを音声で確認できるようになったとの事例も報告されている。  つまり、一見すると視覚障害者にとって不利なICTの進歩は、ICTスキルを獲得できれば、視覚障害者の困難さを大きく改善できる存在であることが分かった。このような背景があることから、多くの視覚障害者はICTに関するアクセシビリティの向上、そしてICTスキルを学ぶための環境整備を求めているのである。 【写真:オンライン会議システムを活用した視覚障害者の会議の様子】 3.視覚障害者とパソコン利用  視覚による情報入手が困難な視覚障害者は、パソコン等を使用する際、画面に映し出された文字を目で読むことは難しく、文字を入力することも難しい。では、どのようにしてパソコンで文字を読んだり、入力したりしているのだろうか。 (1)視覚障害に特化した利用方法  まず、視覚障害者がパソコンを利用するためには、主に次の方法が用いられている。  @文字のサイズや色合いを、見やすい内容に調整する  A文字情報を音声で読み上げさせる  @は主に弱視の者が利用し、Aは主に全盲または全盲に近い者が利用している。それぞれ、専用のソフトやシステムがあり、既存のパソコン等にインストールして利用している。  ただし、これらを利用することは容易なことではない。例えば、@であれば、文字を大きくすればするほど、視覚情報として目に入ってくる文字数は減ることから、視点を変えずに読む等の専門技術の習得が必要になる。また、Aであれば、目で画面等の確認はせず、全てを音声で聞き分けながら入力や確認を行うことになる。それこそ、キーボードで入力した文字は、画面を見ずに音声で確認をする形になる。また、画面を見ることができればマウスで目的のファイルをクリックし、ファイルを立ち上げることができるが、そのマウスの操作ができないため、音声で一つ一つファイルを確認しながら選択する必要がある。この音声で確認する作業は、目で確認するよりも何倍も労力が必要になる。  つまり、視覚障害者がパソコンのスキルを獲得するためには、パソコン自体の操作方法の他に、視覚情報を補う入力や確認の操作方法を習得しなくてはならないのである。 【図2−02 視覚障害者がパソコンスキルを獲得するために必要な要素】 ●パソコン自体の操作方法 + 視覚情報を補う入力や確認の操作方法  →視覚障害者 パソコンが利用できる! (2)パソコンの操作方法の学び方  では、どのようにして視覚障害者はパソコンの操作方法を学ぶのだろうか。主に次の方法で学んでいる。  @独自に操作方法を調べ、独自に習得する  A視覚障害者の知人等に教わって、独自に習得する  B視覚障害者向けICT訓練やパソコン教室等で習得する  どの方法で習得したかは、その視覚障害者の見え方、住まい、年齢、職業等により大きく異なるが、主にこれらの方法でパソコンの操作方法を覚えた者が多い。  まず、@であれば、自身の周りに視覚障害者の支援を行う訓練機関等がなく、仕方がなく独自で覚えたという声を聞く。これは、視覚障害者が歩行するのに必要な白杖の利用方法の習得を、歩行訓練を教える訓練機関等が近隣にないため、見よう見まねで覚えたことと似ている。そのため、自己流になりやすく、効果的な習得方法とは言い切れない部分がある。  また、Aであれば、知人である視覚障害者が容易にパソコンを利用している姿を見て、操作方法を教えてもらうことが多い。ある意味で草の根での訓練とも言える。しかし、視覚障害者の中には、同じ視覚障害者との接点が少ない者も多く、特に中途視覚障害者はこの傾向が強い。つまり、全ての視覚障害者に開かれた習得方法とは言えない。  そこで重要になってくるのがBの「視覚障害者向けのICT訓練やパソコン教室等で習得する」である。  これらは、視覚障害者に特化したパソコンの操作方法を熟知した者が、その視覚障害者のニーズに応じて指導するものになる。例えば、視覚障害者向けの訓練施設で実施するもの、視覚障害当事者団体が定期的に開催するパソコン教室で実施するもの、ボランティアが自宅に訪問して実施するもの等、様々な方法で実施されている。これらの方法でパソコンの操作方法を学んだ視覚障害者の多くは、講習を受けたことに満足している者が多い。  しかし、Bの方法も、全国的にどれぐらい実施されているかは不明確となっており、ICT訓練等が実施されていない地域も存在する。そのため、この方法は、全国の視覚障害者が一様に利用できる方法にはなっていない。  これらをまとめると、視覚障害者がパソコンを学ぶための訓練や支援の体制の現状は、不十分と言わざるを得ない。 14ページ 2 視覚障害者の就労とICTの課題 1.あはき業の課題  あはき業は視覚障害者にとって日本古来の重要な職種であり、多くの者が就業している職種となる。しかし、近年では様々な理由で視覚障害者があはき業を営むことが難しくなってきている。その一つに「書類の作成」を挙げる者が多い。なぜ、この点を困難と感じるのだろうか。 (1)視覚障害あはき師の課題  まず、平成31年1月より、あはき療養費の受領委任制度が開始した。この制度は、いわゆる「健康保険」であはきの治療が受けられる制度になり、あはきの施術を受ける利用者にとっては経済的負担が減ることから、以前より利用者からのニーズが高い制度である。しかし、視覚障害あはき師にとっては、この制度を利用して治療を行うことは、売上等を確保するために必要と感じているにも関わらず、なかなか実施できない制度となっている。  その理由は、前述した「書類の作成」が大きいと言われている。実際に同制度を利用するためには、様々な書類を作成し、関係先にその書類を提出することになる。利用者にとってメリットはあるものの、書類作成が難しい視覚障害者にとっては負担である。そして、これらの書類は記入内容が多く、書式も複雑になっている。もし、記入した内容に誤りがあった場合は、申請書類の差し戻し(返戻)があり、入金の遅れが発生することもある。  一方で、このあはき業には、目が見える者(以下、「晴眼者」とする。)も従事しており、近年はこの晴眼者のあはき師が増えている。これらの者は、手書きやパソコン等で療養費の申請書類を作成しており、着実に業績を伸ばしている。その結果、視覚障害あはき師の職域を脅かす存在となり、いかにして視覚障害あはき師が、晴眼のあはき師と対等な仕事ができるかが課題となっている。特に、視覚障害あはき師に多い個人開業の者は、一人では書類作成ができないために療養費の取り扱いができず、利用客が晴眼のあはき師の施術所に流れていることが問題視されている。  つまり、視覚障害あはき師が自身の仕事を維持するためには、療養費の取り扱いを行うことが喫緊の課題となっている。 (2)視覚障害あはき師への職業的支援  視覚障害あはき師が、晴眼のあはき師と対等にあはきの仕事をするためには、どのような方法が必要になるのだろうか。大きく分けると次の方法が考えられる。  @人的な補助による支援を受ける  A自身で技術等を習得する  @については、現在でも様々な支援が行われている。例えば、療養費に関する書類作成であれば、代行業者等に依頼することがある。その業者等によって依頼方法は異なるが、書類作成に必要な情報をメールで送信し、業者等がその内容を元に書類を作成する方法が多い。ただし、代行業者に依頼すると、手数料が取られるため、その分の収益は減収となる。また、人的補助を福祉の制度で対応する試みも始まっている。令和2年10月からは「雇用施策との連携による重度障害者等就労支援特別事業」を地域自治体が実施する地域生活支援事業等で開始した。しかし、開始直後であること、制度自体が複雑であることから、実施自治体はごく僅かであり、個人開業の視覚障害あはき師がどれだけ活用できるかは未知数である。  このような背景があることから、Aの「自身で技術等を習得する」にも注目が集まりつつある。視覚障害あはき師の中では、あはきの技術向上に前向きな者も多く、あはき以外のことでも、前向きに技術等の習得を目指す者は多い。療養費の書類作成であれば、ある者は独学で書類作成の入力ソフトを学んだり、ある者はICT訓練等に通い、パソコンの操作方法を学んだりしている。しかし、勤務の間にこれらの操作方法を学ぶのは時間的に厳しく、ICT訓練等の機関等が近所にないこともあり、自身で技術等を習得することにも難しさがある。  一方で、視覚障害者があはき師になるためには、あはき師養成機関において、国家資格取得に向けた教育を受ける必要がある。このあはき師養成機関においては、様々な技術の指導を行う他に、近年のデジタル化の流れを受け、ICTに関する指導も行われている。しかし、あはき業の中で作成する専門的な書類の指導については、ほとんど実施されていないと言われている。  これらを整理すると、現在の視覚障害あはき師に対する職業的な支援は、様々な方法があるものの、どれも課題があるものになっている。 2.雇用全般の課題  近年、視覚障害者が就労する上で、ICTスキルを身に付けることは必須となっている。これは、視覚障害あはき師も含め、全ての就労する視覚障害者にとって必須のこととなっている。  しかし、実際にICTスキルを身に付けたとしても、視覚障害者は様々な要因によりこのスキルを上手く活用できないことが多い。その背景を、本事業の検討委員会において整理し、次ページの一覧表にまとめた。主に一般的な企業に勤めている者を想定した整理となっている。  まず、雇用の場面においては、大きく分けると、次の内容に困っている。  @雇用環境に関する内容  AICT関連のアクセシビリティに関する内容  これらにより、視覚障害者がICTスキルを発揮できない状況が生まれている。  @については、視覚障害者の特性の無理解によるもの、Aについては、画面読み上げソフトが利用できない等の問題が含まれており、近年では、Aの内容に困る者が多い。例えば、ここ最近、大企業を中心に独自の社内システム等が導入され、このシステムが画面読み上げソフトに対応していないことが問題となっている。このことにより、社内連絡が確認できない者もいる。なお、この問題は、企業等で事務職として働いている視覚障害者だけでなく、企業等にヘルスキーパーとして勤める視覚障害あはき師にも関わる問題となっている。  そして、この困り事を改善するためには、システム改修等を通して、これらの問題を一つ一つ解決していくことが必要になっている。しかし、様々な意見を整理すると、「視覚障害者自身が持っているICTスキルを向上させる訓練等が必要」といった意見も多い。特に、その視覚障害者の職場に合わせた訓練、日々進歩するICTに合わせた訓練等を望む者が多い。また、訓練を受けやすくするために、在職者訓練等の制度化を望む声もある。ただし、ICT訓練等は、その視覚障害者の個々の特性や、個々の仕事に合った訓練等を行うことが必要で、現状のICT訓練等では対応できないものもある。そのために、ICT訓練等に関係する様々な制度の改善が必要となっている。 【図2−03 視覚障害者の雇用の場面における課題と改善策(検討委員会まとめ)】 1.雇用環境 (1)課題 ・視覚障害者の障害特性が理解されていない。特に、視覚障害者がICTを活用して「出来ること・出来ないこと」が、職場から理解されていない。 ・墨字の書類を前提とした業務が多い。また、視覚障害者が書類作成を行うための訓練制度等がない。 (2)改善策 ・視覚障害者の特性を理解し、職員等から自発的な配慮を行うようにする。 ・視覚障害者向けの介助者制度や在職者訓練を普及させる。" 2.ICT関連のアクセシビリティ (1)課題 ・Excel等で作られた書面は、レイアウトの把握が難しく、正しく入力できたかどうかが分かりづらい。 ・書類によっては、入力内容の確認等を人にお願いする必要がある。 ・音声で読み上げることができないPDFファイルがある。 ・視覚障害者を雇用する会社の中には、画面読み上げソフト等を導入するための理解がなく、費用を捻出しない。 ※社内システム関連【※1】 ・社内システムは、視覚障害者が音声で確認できない方式になっていることが多い。 ・社内システムのシステム管理者は、画面読み上げソフト等を理解しておらず、視覚障害者が利用するための打開策が打ち出せない。 (2)改善策 ・書類の電子化により、音声読み上げ対応のものを増やしていく。 ・画面読み上げソフト等の必要性を理解し、社内システム等で利用できるようにする。  ↓ 【視覚障害者への訓練や支援】 ・訓練や支援を受ける視覚障害者の見え方やニーズ、雇用環境に合った訓練や支援を実施することが必要。 ・最新のICTの進化に合わせた訓練を実施することが必要になってきている。 ・視覚障害当事者自身が前向きになり、確実に訓練内容を習得することも必要。 3.その他 (1)課題 ・障害の受容ができない者もいて、訓練に結び付かないケースがある。 ・職場内の他職員とのコミュニケーション不足で、困っていることが理解されていない。本人から言わないケースもある。 (2)改善策 ・職務上の課題は、雇用先と当事者の間にジョブコーチが入ることで円滑に改善が図れる。 ・在職中の視覚障害者が受けられるICT訓練の制度を作るべき。 【※1】社内システム  大企業等で活用されている独自の事務処理システムのことを指す。シンクライアント等を用いて、受注管理、事務連絡等を行う。 3.ICT訓練等の課題  視覚障害者に対するICT訓練等は、現在どのような状況のもとで実施されているのだろうか。視覚障害者へのICT訓練等に携わっている本事業の検討委員の意見を整理し、次ページの一覧表にまとめた。  まず、ICT訓練等に関する効果を確認したところ、ICT訓練等により、視覚障害者は仕事を効率的に行うことができ、結果として視覚障害者の社会進出の促進に繋がっていることが分かった。特に、ICTの進歩が進んでいる現在においては、その必要性がさらに増大するとの意見もあった。  ただ、実際には様々な課題があることが分かり、これらの課題があることで、結果的に「視覚障害者の特性に合った訓練等が実施できていない」ことが分かった。また、訓練機関等では、改善するために様々な検討を行うものの、改善すべき内容が多岐にわたり、課題整理も追いつかない状況となっていることが分かった。特に、ICT訓練等に関しては、効果的な実施方法等が未整理であるため、これらの整理を行うことが先決になっている。  さらに、これらの現状確認とは別に、視覚障害あはき師に対するICT訓練等の実施状況を確認したところ、「多くの所が未実施ではないか」との指摘があった。上記の理由により、個々に特化した訓練等の実施は難しいようだが、なぜ未実施の所が多いのかは分からない。また、多くの委員からは、「視覚障害あはき師からのニーズは断片的には耳にするが、それが全国的にニーズがあるのかが不明確」との指摘があった。確かに、これらのニーズはここ数年で急激に必要性が増したため、ニーズの整理が追い付いていないのかもしれない。  これらの意見を整理すると、訓練の受け手となる視覚障害者と訓練を実施する訓練機関等のニーズが未整理となっていることが課題となっている。そして、ニーズの整理を行い、効果的なICT訓練等の実施方法を見出すことが必要になっている。 【図2−04 視覚障害者に対するICT訓練等の現状整理(検討委員会まとめ)】 1.効果 ●視覚障害者の社会進出の促進 ・ICT訓練等を受けることで、視覚障害者のQOLは向上し、自立に繋げることができる。 ・ICT訓練等を受けて仕事上で必要なスキルを身に付けると、書類作成や情報収集等ができるようになる。" 2.課題 ●利用面 ・視覚障害者向けのICT訓練等ができる訓練機関等が少ない。都市圏に集中している。 ・視覚障害者が、近隣の訓練機関等へ移動することが難しい。 ・ICT訓練等に対応できる職員等が少ない。指導者の養成や情報処理教員免許の取得が難しい。 ・視覚障害者の特性に合ったICT訓練等が実施できない。本来はマンツーマンの訓練が必要だが、制度の都合で集団訓練になってしまう。 ・訓練生がICT機器を確保する必要がある。 ●内容面 ・実施すべき訓練内容が多いことから、訓練の終了期間や到達点が設定しづらい。 ・社内システム等に対応したICT訓練等が実施できない。 ・健常者の教材は利用できず、視覚障害者向けの教材が少ない。 ・リモート指導が難しく、対面での指導が必要になってしまう。 ・視覚障害者の多様なニーズに対応するため、ICT訓練等の資質向上が求められている。近年は重複の視覚障害者の受講も増えている。" 3.改善策 ●訓練全般 ・個々の視覚障害者の特性・ニーズに合わせた指導を行う。 ・リモートでの訓練等、地方の視覚障害者がICT訓練等を受けやすい環境を作る。 ・在職中の視覚障害者が必要に応じてICT訓練等を受けられるようにする。 ・視覚障害者にとって気軽にICT訓練等が受けられる環境を作る。 ●内容面 ・訓練生が意欲的にICT訓練等に取り組める内容にする。 ・訓練教材を充実させる。 ・オンライン訓練を実施する。 ・現実の生活や仕事に見合ったICT訓練等を実施する。 ●視覚障害当事者 ・本人自体がやる気を出さないと、ICT訓練等の内容が身につかない。そのため、視覚障害者自身が、積極的に挑戦する姿勢が必要。 ●制度、理解 ・国や企業からの訓練費用の補助を実現する。 ・自治体や企業が、視覚障害者向けICT訓練等の重要性を理解する。 ・ICT機器を持つことで訓練生の習熟度が向上することから、日常生活用具給付制度の充実を図る。" 3.その他 ・ICT訓練等を行ったことで判明した課題等を、ハードやソフトにフィードバックすることが必要ではないか。 20ページ 3 調査の方向性 1.現状と課題の整理  まず、本章で整理した視覚障害者に対するICT訓練等の現状や課題は、次の通りになる。課題については、早期に解決を図る必要がある。 【視覚障害者(視覚障害あはき師)】  ●近年のICTの進歩は、視覚障害者にとっても利便性が高く、視覚障害者の中でもICTの利用を求める声が高まっている。  ●就労の場面では、ICTスキルの獲得が必須となっている。特に、視覚障害者あはき師がICTスキルを獲得することで、療養費の書類作成等を行える可能性があることから、視覚障害あはき師がいかにしてICTスキルを獲得するかが課題となっている。  ●ただし、ICTスキルを獲得するニーズは、近年になり急激に高まってきたものであり、特に視覚障害あはき師のニーズは未整理であることから、これらのニーズの整理が必要となっている。 【訓練機関等】  ●視覚障害者のニーズに応じて、様々な形でICTに関する訓練等を実施しているが、視覚障害者の多様なニーズに対応できていない部分がある。  ●視覚障害あはき師に対する書類作成のICT訓練等については、これらの者からのニーズは高いものの、現状のICT訓練等では対応できていない可能性が高い。  ●視覚障害者に対する効果的なICT訓練等を実施するためには、現状の課題整理を通して、視覚障害者からのニーズに対応するための訓練方法や訓練体制の整備が必要となっている。 2.調査の実施内容  ICT訓練等については、様々な課題がある。さらに不明確な点も多いことから、まずは課題や不明確な点の整理が必要になる。そのため、本事業では全国を対象とした実態調査を行うことにした。調査の実施内容は検討委員会で議論し、次の調査を実施することになった。 【調査の実施内容】  調査@ 視覚障害あはき師に対する調査       ・書面調査       ・ヒアリング調査  調査A 訓練機関等に対する調査       ・書面調査       ・ヒアリング調査  調査B あはき師養成機関に対する調査       ・書面調査  調査においては、ICT訓練等を求める様々な視覚障害者の中で、書類作成に困難さを抱える「視覚障害あはき師」を調査対象とすることで、調査の明確化を図った。そのため、訓練を実施する機関等への調査においては、あはき業の就労後と就労前を想定し、前者を調査A訓練機関等に対する調査、後者を調査Bあはき師養成機関に対する調査で確認することとした。  また、令和2年度は新型コロナウイルスの感染拡大の影響により、対面での調査が難しいことから、書面調査を中心に調査を進めた。そして、書面調査では得られなかった内容については、オンラインでのヒアリング等による追加調査を実施した。  以後、第3章から第5章ではそれぞれの調査結果を示し、第6章では調査結果の考察と分析を行う。さらに、第7章では調査結果のまとめを示した上で、提言と今後の課題を提起する。