表紙 日本視覚障害者団体連合 弱視問題対策部会 弱視者の困り事 資料集 第2号 (令和2年3月発行)  【目次】  1 スマートフォンの活用 1ページ  2 男性ならでは、女性ならではの困り事 10ページ 【資料集について】 弱視者が日常生活を送る上で抱えている困り事、または困り事を解決できた成功例などについて、同部会の委員より寄せられた意見や事例、常任委員会の意見交換で寄せられた意見や事例を整理し、資料化を行う。 1ページ 1 スマートフォンの活用            ※注意 寄せられた意見を整理すると、スマートフォンを「画面を見て利用する」「音声を聞いて利用する」の2つの利用方法に分けられ、その利用方法を元にした意見が寄せられていた。そのため、本資料集では、できる限り「見る」「聞く」に分けて意見を整理した。 1.どのように利用しているか (1)利用方法  <見る>  ・矯正視力は0.1ぐらいなので、ルーペなどを使用すれば、普通にスマホを利用できます。ただ、まだ使いこなせていません。  ・なんとか画面が見えます。iPadをスマホ代わりに利用し、携帯電話も利用しています。iPadでは、連絡、情報収集、デイジー読書、音楽鑑賞、アラームなど、フル活用しています。  <聞く>  ・視力は左眼0.02ですので、画面のアプリが並んでいるのが見えるだけです。そのため、ボイスオーバーを使わなければ全く操作できません。スマホに変えて7年目ですが、今でもツルツルの画面に悩まされることがあります。  ・画面は殆ど見えません。メールの確認、日々のニュースの確認、各種検索、Radiko(ラジコ)、OCRでの紙文書の読み上げ、家族や会社との連絡でLINEを利用しています。 (2)スマートフォンの便利なところ  ・パソコンに比べて、どこでもいつでも立ち上げて検索できるのが便利。  ・SiriはAIスピーカーのように問い合わせると、回答してくれるので便利です。  ・時計代わりに使っています。傾けるだけで時間をしゃべってくれるので便利です。  ・耳から離して電話ができるのが便利です。また、重要な内容は会話を保存できます。  ・カメラ機能で、遠くのものを見るのが便利です。ガラケーよりも画像が鮮明で、ズームをしても見やすいです。 (3)スマートフォンの不便なところ  <見る>  ・画面に表示されている文字(フォント)を大きくしたり、読みやすい書体に変更することが難しい。また、一部の機種では変更できるようだが、その情報が不足している。  ・iPhoneは比較的文字を大きくしやすいが、それによって重要な表示が隠れてしまうことがある。  <聞く>  ・キー入力に時間がかかる。キー入力がもっと簡単にできると大変助かります。  ・間違った文字の削除に苦労しています。 (4)読み上げ方法  <聞く>  ・iOSでは、音声操作や読み上げの手段がSiri、Voice Over、読み上げコンテンツの3種類あり、すごく便利になってきている。ただ、アプリごとに相性の良い機能が異なり、効率の良い操作を覚えるのに時間がかかってしまう印象がある。  ・iPhoneのVoice Overで項目を順番に読み上げさせるとき、常識的に考えて有り得ない項目の配置になることがある。  ・読み上げコンテンツ機能を利用している。Voice Overよりも余計な読み上げが少なく、速度調節も簡単な点が使いやすいです。ただ、今のところホームボタンで起動できない点が使いにくいです。  ・LINEなどの一部のアプリは、ボタンの配列が音声読み上げのユーザーからすると分かりづらい並び方になっている。  ・どのアプリも、Voice Overなどを利用して読み上げをしているが、音声読み上げに対応していないもの、音声の読み上げが不十分なものが多い。下手したら、音声対応だけでインストールや初期設定ができないアプリもある。  ・iOSの最新版にバージョンアップしたら、例えばVoice Overと拡大表示が同時に使えないなど、視覚障害者に特化した機能が利用できなくなることがある。これは非常に困る。 2.スマホを利用し始める (1)使い方を覚える  ・使い始めて1年以上になりますが、なかなか覚えられません。まず、スマホを使いこなすことからで精一杯です。  ・視覚障害者のためのスマホ講座もある。ただ、お店に行って、いきなり店員さんに質問しても、視覚障害者向けの利用対応ができない。  ・何度かお店に相談に行ったが、あまり対応が良くなかった。こういったお店こそ、スマホ操作が得意な視覚障害当事者がスタッフとして働いていてほしい。  ・視覚障害者の中ではiPhoneのユーザーが多い。利用方法などの情報交換ができる点が大きい。そのため、初心者はiPhoneの方が良い。  ・年齢が60歳を超えていたが、少し年上の友人が、頑張っているのを見て、負けてはいられないと毎日ツルツルの画面に指を走らせました。そうすると次第に文字が書けるようになりました。 (2)2台持ち  ・「スマホに変えたら電話すらできなくなった」というケースをよく聞く。こういった人は、しばらくはガラケーとスマホの2台持ちの方が安全ではないか。  ・スマホに変えた時、文字入力が一番困るだろうと思い、ガラケーとの2台持ちにしました。最初の2か月くらいは、なかなか指が思うように動いてくれなかったので、2台持ちで正解だった。  ・iPod touchである程度慣れてから、iPhoneを購入する人もいる。 (3)アプリを入手する  ・大半のアプリがApp StoreやGoogle Playで普通に販売されている。検索でもヒットしやすく、カスタマーの評価もある。  ・アプリによっては、YouTubeに使用方法の紹介動画がある。  ・スマホユーザーのメーリングリストに参加しているお陰で、利用価値の高いアプリの情報を入手し、そのアプリをダウンロードしています。  ・視覚障害者の支援施設などでは、便利なアプリの一覧を公開している。    例:東京都障害者IT地域支援センター      https://www.tokyo-itcenter.com/700link/sm-iphon4.html 3.紙などを読み上げるアプリ (1)主な利用方法  ・これらのアプリのお陰で、人様に「これ読んで」などと言わなくても、書類の仕分けができるようになった。  ・ちょっとした工夫をすれば、自販機の飲み物など、読ませることもできます。  ・こういったアプリで、靴下の色、例えば紺色と黒色を見分けてもらう事ができるのはありがたい。  ・役所からの手紙など、個人情報が記載されている内容は、見てもらうわけにはいかない。  ・外出先では不審に思われないよう、白杖を必ず携帯し、安全な所から看板などを写しています。 (2)Be My Eyes(ビー・マイ・アイズ)  ・カメラで確認したいモノなどを撮影し、遠隔地にいるボランティアが読み上げなどをする。  ・利用時に会員登録が必要。  ・NHKラジオで紹介された。ラジオで実演した視覚障害者は便利に使っていた。  ・全盲で、スマホの操作が上手い人が、レシートを読んでもらっているところを見せてもらったことがある。非常にスムーズに利用して、ボランティアと会話していた。  ・ボランティアの手の空いていない時間には繋がりにくい。 (3)Tap Tap See(タップ・タップ・シー)  ・カメラで確認したいモノなどを撮影し、AIによる確認によって内容の読み上げなどをする。  ・利用登録なし。  ・精度はイマイチで、麦茶のペットボトルをサラダ油のボトルだと言ったり、洗剤と漂白剤の見分けがつかなかったりする。日本語で書かれた商品名などの識別は、まだ難しい。 (4)Envision AI(エンビジョン・エーアイ)  ・オランダで開発された、人工知能搭載アプリ。有料アプリ。  ・カメラで確認したいモノなどを撮影し、画像認識によって内容の読み上げなどをする。 (5)Seeing AI(シーイング・エーアイ)  ・カメラに写った活字を読み上げる機能(OCR)、色を識別して読み上げる機能、空間の明るさ暗さを音で知らせる機能、カメラに映った物体が何であるかを識別して音声で教えてくれる機能などがまとまったアプリ。  ・イメージは「しゃべるルーペ」「しゃべる単眼鏡」。  ・自動的にシャッターを切ってくれる。  ・通貨については上手く読み上げない場合がある。 4.お金の判別、入出金に役立つアプリ (1)言う吉くん  ・紙幣の判別を行うアプリ。反応速度が速い。 (2)ICカードリーダー  ・交通系ICカードの残金や利用経過を案内する。 (3)各銀行のアプリ  ・残高や入出金の管理をしている。引き落としなどがあったら、通知してくれるので便利です。  ・お金に関わることは、家族に代読などをしてもらいにくいので、なるべく自分で管理をしたい。 5.地図や位置を把握するアプリ (1)Blind Square(ブラインド・スクエア)  ・GPSとコンパスを利用した位置検索アプリ。有料アプリ。  ・現在地周辺の施設や交差点を音声で通知します。  ・60歳後半に入ると、地図を頼りに知らない所に行くことが不安になってきた。そのため、このアプリを利用している。 (2)Googleストリートビュー  <見る>  ・実際に道を歩いているように、景色として観られるので地図で見るよりわかりやすい。  ・初めての所へ行く前に、家で予習のように使っている。 (3)振動コンパス  ・スマホの上が北の方角に向くと振動で教えてくれる。  ・その他の方位も大活字で画面表示されるので見やすい。  ・駅やバス停などで、〇〇方面とか北口改札とか待ち合わせ場所を指定されたときに使っています。  ・今年は恵方巻の方角を調べるのに活用した。 (4)NaviLens(ナビレンズ)  ・四角形の中にカラフルな模様が描かれ、カメラで読み取ると情報を音声で読み上げてくれる。  ・QRコードの改良版のようなもので、カメラでピント合わせをする必要がない。  ・スペインの公共交通機関の各所には貼られている。  ・年齢が高く、スマホ操作が苦手な私でも、これは使えそうです。 6.映画や音楽、小説を楽しむアプリ (1)UDCast(ユー・ディー・キャスト)  ・音声ガイド付きで映画を観ることができます。映画館ではもちろんのこと、テレビ放送での映画にも対応しています。  ・最近の新作の日本映画にはほとんど対応しているとのこと。新作の「おかえり寅さん」も利用できた。  ・映画館で観たもの:「記憶にございません!」、「天気の子」  ・最近テレビで観たもの:「マスカレードホテル」、「カメラを止めるな!」、「君の膵臓を食べたい」 (2)ボイス オブ デイジー5  ・デイジー図書を聞いて読書をするためのアプリです。  ・本やCDを探すよりとても便利です。  ・ダウンロード操作や登録操作などは、見えにくいと不便に感じることがある。 7.連絡をするためのアプリ (1)LINE(ライン)  ・音声メッセージのやりとりも利用し、周囲との連絡に利用しています。 (2)Gmail(ジー・メイル)  ・到着したメールは音声で確認だけしている。返信する場合はPCから行っています。 (3)Skype(スカイプ)  ・仕事の打ち合わせなどで、現地に行くのが難しい場合、映像で参加する際などに使っています。 (4)FaceTime(フェイスタイム)  ・テレビ電話アプリ。Siriを使って起動もできるので、便利です。  ・本当は、自分の顔を映しあって利用するが、スマホを裏返せば周囲の状況が映るので、道に迷った時に道案内をしてもらったり、物を探したり、文書を読んでもらったりすることができるので便利です。知っている人からのサポートを受けられるので安心です。 8.生活に役立つアプリ (1)クックパッド  ・新しい料理のレシピを知るのには便利で、検索もしやすい。料理をするのが楽しくなった。  ・掲載されたレシピを元に、次の方法で調理を行っています。    @事前に概要を読んでおき、まずは材料をそろえる。食材を切り、下ごしらえもする。    A調理の段階で、改めてレシピを読み、調理方法を頭に記憶して、調理する。分からなくなったらスマホで再確認する。  ・料理系のアプリを活用できるようになり、料理の本は捨ててしまった。  ・調理中にスマホを触ると、スマホが汚れたりする。  ・点字のレシピ集も使っていたが、本当は点字の方が頭に入りやすい。ただ、アプリを利用して、最新の情報を知ることができる価値は大きい。 (2)初期機能でついているアラームアプリ  ・Siri機能をつかって、「○時に起こして」「○分後に起こして」「○月○日○時に起こして」のように、音声でアラームを設定しています。タイマーを止めることもできます。 (3)初期機能でついている「ヘルスケア」  ・時間ごとの歩数や前日の歩数、1週間の平均歩数を教えてくれるので便利です。 (4)その他  <見る>  ・アプリではないが、最近、商品の説明書のPDF版が、各メーカーのホームページに掲載してある。スマホやダブレットであれば、そのPDFを簡単に拡大(ズーム)できるので、墨字の説明書より確認しやすい。 9.スマホを利用しない理由  <見る>  ・私の視力は良い方が0.02です。現在は、タブレットを使用しています。活字使用ができるギリギリの視力なので、画面や文字が大きくなるタブレットで良いかなと思っています。スマホは、携帯のしやすさは魅力だが、文字を大きくしても、画面が小さいので文字が少ししか見えないのが難点です。また、音で確認するのは時間がかかりすぎる。  <聞く>  ・通勤時や外出時など、スマホは片手で操作するのに不便。また、声や音声で操作するのがバレてしまう。そのため、ガラホを利用している。  ・受話器から音声を聞きながら片手でテンキーを押してメールの読み書きをする方が操作しやすい。こういった操作感のあるスマホがあれば欲しい。 10.海外の動き  ・イギリスでは、YouTubeで視覚障害者向けにIT機器の操作方法などの説明をしている。更に、個別で分からないことは、Face Timeで1対1の説明をしている。日本でもYouTubeをはじめとした利用価値がある方法で、視覚障害者のIT化を進めるのはどうか。  ・アメリカの視覚障害者の当事者団体が、スマートフォンを利用できないとメーカーを訴えたら、対応が変わり、音声機能などを付けた経過がある。日本でも、視覚障害者の声を集めて、メーカーなどに訴えるのはどうか。 10ページ 2 男性ならでは、女性ならではの困り事       ※注意 寄せられた意見は、意見の発言者の性別(男性・女性)に分けて掲載する。 1.男女で入り口が分かれている構造 (1)トイレ、浴場、更衣室など  <男性>  ・駅や商業施設などで男子トイレと女子トイレの区別がつかず、誤って女子トイレに入りそうになったことがある。  ・トイレや旅先での浴場でどちらが男性用か分からないことがあり、困ります。浴場の場合はのれんの色や男という文字がどこかに書いてあることが多いのでまだよいが、トイレは男女のマークが区別しにくいところがある。  ・どちらのトイレか分からないときは、しばらく近くの適当な場所(誰かを待っているようなふりができる場所)で様子を見ていて、男性が入っていったら自分も入り、女性が入っていったら別の所に行くという安全策をとることも多い。  <女性>  ・慣れない環境でのトイレ探しは難しい。ホテルなどのエレガントな空間では、マークがピンクやブルーなどの淡い色で、バックがシルバーだったりして分かりづらい。人通りがないので思い切って入ったら、はずれのときもあった。  ・人間ドックを受けた時、病院の更衣室の表示が赤で「男性用更衣室」と書いてありました。私は色で判断してしまい、男性用更衣室のドアを開けてしまい、恥ずかしい思いをしたことがあった。 (2)女性専用車両  <男性>  ・女性専用車両に乗ってしまうことがある。鉄道会社の内規では障害者と介助者は女性専用車両に乗ってもよいことになっているが、やはり気が引けてしまう。 (3)工夫  <男性>  ・例えば、女性用のサインには、スカートをはいた人のマークを付けるなど、男性も女性も、わかりやすいマークで統一して、背景の色にも配慮していただき、マークが目立つようにしていただきたい。 2.トイレ内の設備  <女性>  ・トイレ内は白い壁が多く、白い設備や備品を見つけづらい。例えばハンドドライヤー、替えのトイレットペーパーなど。  ・個室内のエチケットボッックス(汚物入れ)が見つかりにくい。四隅を目指して探していますが、なかなか見つからないこともあります。  ・個室内の「流すボタン」などが、どこにあるのかが分かりづらい。 3.メイク  <女性>  ・アイメイクは苦手で、大きく見える鏡を使ってもうまくできません。最近では恥ずかしながら滅多に化粧もしていないです。  ・コンパクトの小さな鏡は、アップにすれば一部分だけ見える、全体を入れれば細部が見えないという状態なので、適当に塗っていました。今でもむらにならない程度に塗っていて、上手にできたときの感覚を再現するようにしている。  ・的が見えないので、アイシャドウとか、アイライン、マスカラは苦手です。  ・視覚障害者向けのメイクを体験しました。アイシャドウと頬紅を指先で塗る感じはつかめました。ただ、プロに自分に似合う色を選んでもらったら即購入し、継続して購入しないと、その方法を持続することが出来ないので、悩ましさも感じた。 4.出産  <女性>  ・遠目がきかないと、医師や看護師のネームプレートが見えなくて不便。担当した医師の名前が分からず、不安になる。  ・検診の時、胎児の超音波画像も、モニターが遠くて見えなかった。  ・体重を自分で量って自己申告する病院もあるが、目盛りが見えなくて、適当に申告してしまった。  ・初産のとき、分娩台に座ったが、視野が狭かったので、頭の上につかまるバーがあるのに気づかず、しばらくベッドの両脇を握っていた。看護師さんに教えてもらい、初めてバーに気付いた。  ・妊婦健診や乳幼児検診は、慣れない環境であり、しかも大きなおなかだったり、子供連れだったりするので、安全確保が大変でした。弱視で白杖を持っていない時代だったので、なおさら大変でした。 5.その他  <女性>  ・若い頃は弱視であることを周囲には伝えていなかった。そのため、職場での飲み会などで、出された料理がよく見えないので、積極的に取り分けようとはしなかった。何となく、気が利かないと思われていただろうなと感じた。  ・全盲になったら気が楽になった。人間ドックも白杖を持って行けば、親切に着替えのスペースまで案内してくれる。  ・この困り事は、異性も存在するメーリングリストだと、なかなか意見がでないのかもしれない。例えば女性だけのメーリングリストなどがあれば、貴重な意見が集まるかもしれない。