社会福祉法人日本視覚障害者団体連合 令和5年度事業報告書 (自令和5年4月1日 至令和6年3月31日) 第1 組織・団体活動 1.横断的課題に対する取り組み (1)国連障害者権利委員会による日本政府に対する総括所見  令和4年10月、国連障害者権利委員会から日本政府に示された総括所見では、わが国の現状に対する問題点が懸念事項として指摘されるとともに、解決すべき事項が勧告事項として指摘されている。この指摘は、わが国の視覚障害者自身も重く受け止め、総括所見を踏まえた対応を検討することが必要である。そこで本年度は総括所見に関連する活動を強めた。  まず、将来ビジョン推進委員会では、総括所見の中で視覚障害者の生活に大きく関わる地域生活、教育、就労について、総括所見に基づいた本連合が進むべき方向性を検討した。その結果「総括所見に関する検討 中間報告書」を取りまとめることができた。今後は本報告書で示した方向性を具体化させるための実践的な取り組みを進めていく。  また、総括所見を障害者全体でどのように捉え、国に対してどのように障害関係の諸施策の充実を求めていくかは、JDF(日本障害フォーラム)において議論を行っている。本年度は、JDF内でより具体的な議論を行うため、令和5年7月に政策委員会を立ち上げ、本連合は同委員会に対して代表者3名を派遣し、その中の1名が同委員会の委員長を務めることになった。そして、本年度の同委員会では、総括所見のJDF仮訳の検討、総括所見の解説本の作成、総括所見の意義を広めるための地域フォーラムの開催等を行った。  なお、同委員会では、総括所見の懸念事項や勧告事項をわが国の障害関係の諸施策に強く反映させるために障害者基本法の改正が必要との意見で一致したことから、同法の改正に向けた議論も開始した。そのため、視覚障害者が考える障害者基本法の改正点を整理するため、本連合は「障害者基本法の改正に向けた意見懇談会」を開催し、その結果、「障害者基本法の改正に向けた検討(中間とりまとめ)」を令和6年3月に取りまとめた。次年度は、この中間とりまとめを本連合の意見として表明し、同委員会での議論を進めていく。また、同懇談会は検討作業を継続し、最終報告書の取りまとめを行う。 (2)情報アクセシビリティの更なる推進  視覚障害者にとって情報保障はあらゆる分野において重要なテーマであり、永久の課題である。日常生活における移動、買い物、通院等のいかなる場面においても情報アクセシビリティが確保されていることが必須であり、教育、就労、娯楽を含む文化芸術活動、スポーツ等の社会参加においても必須なものである。そのため、障害者情報アクセシビリティ・コミュニケーション施策推進法の基本理念にある「できるだけ同一時点で、できるだけ同じ内容の情報を得られるようにする」ことの実現を目指した要望活動を関係府省庁や関係機関に対して行った。また、併せて国が進めている「誰一人取り残さないデジタル化」を視覚障害者との関係も含められるよう、機器やソフトの開発過程の段階から視覚障害者を念頭においたユニバーサルデザイン化を図り、ICTを含めた機器のアクセシビリティが確保されることを本年度も求めてきた。  本年度中にこの目的を十分達成できたとは言えなかったが、一部の取り組みについては進展もあった。以下にその内容を記載する。 ①ウェブ関連のバリアフリー化  国の行政機関が政令や省令等を定めようとする際に広く一般から意見を募るパブリックコメントについては、ICTを使って意見提出する方法がウェブフォームのみとされていることが多い。しかし、ウェブフォームのアクセシビリティが確保されていないこともあり、視覚障害者が意見を提出する手段として電子メールの利用が求められていた。一方、本年度は、内閣府や関係省庁が改正障害者差別解消法に基づく対応要領、対応指針のパブリックコメントを実施することから、パブリックコメントにおける意見の提出方法を早期に改める必要があった。そこで、国が行うパブリックコメントに関して電子メールでの回答を受け付けるよう、令和5年5月に内閣府大臣政務官に対して要望書を提出した。その結果、内閣府で実施するパブリックコメントについては、情報アクセシビリティの確保の観点から電子メールでも意見を受け付けられるようにするとの回答を得られた。さらに、ほかの関係省庁が実施するパブリックコメントにおいても同様の取り扱いをするよう徹底するとの回答も得られた。  一方、法務省において刑事裁判手続きのIT化が進められており、視覚障害者も同等に諸手続きを行えるのかが課題となっていた。そこで、本連合として意見をまとめるべく検討会議を行い、令和5年4月に同省で開催された「刑事裁判手続IT化に関するヒアリング」において、視覚障害者も円滑にIT化された刑事裁判手続きを行うための意見を述べた。 ②ICT機器のバリアフリー化  スーパーやコンビニ等で進んでいるセルフレジの設置、また、飲食店等で進んでいるタッチパネルによる注文端末の設置に対して、本年度も視覚障害者も利用できる機器への対応や人的対応による配慮の実現を国や関係機関に働きかけた。しかし、具体的な進展を実感することはできなかったため、今後はより具体的な提案を取りまとめ、引き続き国や関係機関に働きかけることが必要である。  一方で、金融機関においても店舗の無人化が進んでいる。そのため、本年度も金融庁において実施された金融機関との意見交換で、点字ブロックの敷設例等の好事例を含めたハード面の整備促進、ソフト面の充実を求めた。具体的な進展は見いだせていないが、今後も店舗の廃止や無人化が進んでいく中で、継続して働きかけていくことが必要である。 (3)日視連加盟団体の組織強化に関する取り組み  本連合は加盟団体全体の組織強化を目指し、加盟団体支援プロジェクト委員会が中心となり、様々な取り組みを進めている。本年度は、加盟団体の事業化を進めることを中心に取り組んだ。  まず、令和5年10月に本連合加盟団体の中で法人格がない団体が集まり、これらの団体の課題等を議論する意見交換会を開催した。その結果、それぞれの団体には個別の事情があり法人格の取得が難しいことが分かったが、事業化を踏まえた法人格の取得を目指すのであれば本委員会が支援することを確認した。  また、組織の立て直しを含めた事業化を目指している山形県視覚障害者福祉協会に対しては、同委員会が令和5年12月に山形県を訪問し、組織再構築に向けた協議を行った。協議の結果、同協会は事務所移転等によるコスト軽減を図りながら、次年度より複数の事業を新たに開始することを確認した。事業化を通して団体の活動費の確保及び会員の獲得を目指していく。なお、同委員会が山形県を訪問した際、本連合会長の講演会を同協会が開催し、会場参加及びオンライン参加により、県内外より多くの視覚障害者及び関係者が集まった。  また、視覚障害に関する人権啓発の講演会に講師を派遣することが加盟団体の事業に繋がることから、同委員会では講師養成の在り方について議論を行った。その結果、加盟団体向けに講師養成のための研修会を開催することを確認し、本年度は研修会で使用するテキストの検討を行った。なお、研修会は次年度に開催する。  さらに、本年度は本連合の5協議会の組織強化を目指すため、令和6年3月に執行部と各協議会の代表者が集まる意見交換会を開催した。その結果、各協議会の活動を進める上で様々な課題があり、その課題が日視連全体に関わる横断的な課題であることが分かった。意見交換会は次年度も開催し、課題の解決に向けた議論を深めていく。  しかし、このような取り組みを通して加盟団体の組織強化を進めたものの、令和6年3月末に高知県視覚障害者協会が本連合から退会した。同協会に対しては、昨年度より組織強化のための支援を行っていたにも関わらずこのような事態になったことは、極めて残念である。本連合は、引き続き加盟団体全体の組織強化を図りながら、全国の視覚障害者の思いを代弁する組織を目指していく。 2.主要課題に対する取り組み (1)情報保障 ①マイナンバーカードに関する取り組み  まず、昨年度に引き続き、マイナンバーカードに一体化された健康保険証(以下、マイナ保険証)を視覚障害者が利用することを踏まえ、端末機器のアクセシビリティを確保すること、そのアクセシビリティが確保されていないのであれば人的支援を必ず用意すること等を国や関係する国会議員等に強く求めた。このことは、あはき業に従事する視覚障害者にも関わるため、今後も強く求めていく。  また、令和5年10月に開催した第2回全国団体長会議においてマイナンバーカードに関する研修会を開催した。研修会では、厚生労働省と総務省の担当者を講師として招聘し、マイナ保険証の利用に関する現状を確認するとともに、マイナ保険証を利用する場合と視覚障害あはき師が読み取りする場合の両面を踏まえた意見交換を行った。  なお、療養費を取り扱う視覚障害あはき師のオンライン資格確認に関する具体的な取り組みは「(4)就労問題 ②あはき」に記載する。 ②放送分野における解説放送等の普及を求める取り組み  本連合は、長年にわたり総務省や各放送事業者に対して、テレビ放送における解説放送の充実、ニュース速報等の字幕テロップの音声化を求めてきた。その結果、昨年度、総務省において、各放送事業者に対する解説放送付与の目標値等を定めた「放送分野における情報アクセシビリティに関する指針」の中間見直しが行われ、令和5年10月に改訂された指針が公表された。その中で、解説放送付与番組の目標値を上げさせることはできなかったが、「大規模災害時等にチャイム音とともに緊急・臨時に文字スーパーを送出する場合、できる限り読み上げる等により音声で伝えるよう努めるものとする」に加え、「平時において、視聴者の生命・安全に関係する情報をチャイム音とともに緊急・臨時に文字スーパーとして送出する場合についても、できる限り読み上げる等により音声で伝えるよう努めるものとする」という文言を追加させることができた。  しかし、外国語やプライバシー保護のための変声によるインタビュー等に付与されている字幕テロップの音声化は一部の情報番組で行われるようにはなったが、ほとんどの番組では実現されなかった。引き続き、障害者情報アクセシビリティ・コミュニケーション施策推進法の基本理念に基づく要望を具体的なニーズとともに示していく必要がある。 ③視覚障害者向け選挙公報の制度的保障を求める取り組み  令和5年4月に統一地方選挙が実施され、各地域の選挙管理委員会からの依頼に基づいて、点字・音声・拡大文字版の選挙のお知らせが発行された。現状では、地方選挙のうち、法的に公報(墨字)の製作が義務化されている都道府県の知事及び政令指定都市の市長の選挙については、この選挙のお知らせが発行されている地域が多い。しかし、同地域の都道府県議会議員選挙や政令指定都市の市議会議員選挙においては、この選挙のお知らせが未発行の地域もあり、発行している地域でも郵便の土曜日配達の休止によって投票日に間に合わないところもあったと思われる。まして、一般市町村長や同議会議員選挙については、製作そのものが困難であり、選挙のお知らせの製作は一部の地域に留まっている。今後も制度的な改善を求めていきたい。  なお、本連合は、国政選挙及び知事選挙において、全ての視覚障害の有権者に対して、希望する点字・音声・拡大文字による選挙公報の配布が公職選挙法上の制度として位置付けられるよう強く求めており、本年度も総務省に対して陳情を行ったが、その後の具体的な動きは見られなかった。 ④読書バリアフリー法に基づく読書環境の改善  読書バリアフリー法に基づく国の基本計画が策定され、都道府県による基本計画の策定が進められている。しかし、厚生労働省の調査によると、令和4年2月1日時点で基本計画を策定した自治体(都道府県・政令指定都市・中核市)は13件に留まっている。本連合の加盟団体の働きかけ等によって検討の場が設けられた自治体が増えつつあるが、一刻も早く全ての都道府県で基本計画が策定されなければならない。そのため、本年度も加盟団体と協力し、全ての都道府県が基本計画を策定するよう働きかけた。  また、日本ロービジョン学会、日本眼科学会、日本眼科医会、日本視能訓練士協会の4団体が、全国の自治体に提出した「日常生活用具(視覚障害者用拡大読書器)給付基準額の引き上げに関する要望」に協力し、全国で拡大読書器の給付基準額を増額させるため、本連合の加盟団体から地域の自治体に対して同様の要望活動を行うことを令和6年3月に開始した。読書バリアフリー法第14条に示されている「地方公共団体は、視覚障害者等の読書環境の整備を推進するため、端末機器等及びこれに関する情報の入手支援をする」を基に要望活動を進めており、次年度以降も継続して進めていく。 ⑤点訳や音訳を支えるための取り組み  点訳・音訳活動の多くは、それぞれの講習会を受講したボランティアによって担われてきた。現状は、そのボランティアも高齢化しており、講習会を開催しても、新たなボランティアが得にくい状況である。このような状況を踏まえて、ボランティアの点訳・音訳活動を支えていくこと、さらにはボランティアの負担を軽減していくことが必要である。例えば、活字本のテキストデータを出版社や公共図書館等から提供してもらえるシステムの構築によって、点訳活動を支えることが可能となる。また、音声データは記憶容量が大きいことから、インターネットの大容量送信サービス等の利用により、音訳活動を支えることが可能となる。本年度は、経済産業省及び出版社との協議を重ね、読みやすい電子書籍・テキストデータの提供について、本連合の意見を伝え、前向きに取り組んでいくことを確認した。  一方で、人材育成が停滞している点訳者・音訳者等を増員することも喫緊の課題となっていることから、増員のために必要な施策の拡充や財源の確保等を国や自治体に求めた。人材の確保については、これまでのようなボランティアにのみ依拠するのではなく、専門性を高め、有償化をも視野に入れた制度作りを求めていくことが必要である。さらに、ニーズが高い専門分野や教育現場における点訳・音訳活動を補うためには、最新技術を活用した機器類の開発が必要であり、こうした機器類は、視覚障害当事者が使いやすいものであることが必須である。これらの諸課題について、今後も国や業界に支援や配慮を求めていく。 (2)地域におけるリハビリテーション・システムの普及に向けた取り組み ①中途視覚障害者に対する支援  わが国における視覚障害者の総数は、身体障害者手帳の交付数から見る限り約32万人とされており、その数は10年以上に渡り変動していない。これに対し視覚障害の児童・生徒数は減少していることから、中途視覚障害者が増えていることが分かる。それだけに、中途視覚障害者を対象とする歩行訓練やスマホ研修等の視覚障害リハビリテーションが重要となっている。本連合は、日本眼科医会や日本ロービジョン学会と連携し、中途視覚障害者が福祉制度や視覚障害リハビリテーションに結びつくための仕組みづくりを進めるとともに、本連合としてもイギリスの視覚喪失アドバイザー(ECLO)を学び、わが国における「早期相談支援体制」の相談員の養成を試みることとした。これらの活動は、各加盟団体を通じて各地域での活動として定着することが必要であることから、引き続き早期相談支援体制の創設ないし確立に向けて取り組みを継続することになる。 ②ECLOをモデルとした相談支援の実現  本年度は生活協同組合の社会福祉活動等助成事業の助成金を受け、眼科医療の段階から早期相談支援に当たる専門家が担うべき役割等を整理するため「視覚障害者の早期相談支援のためのリンクワーカー育成に係るガイドライン作成事業」を実施した。本事業では、英国を訪問し、早期相談支援を担っているECLOや関連の機関・団体への聞き取り調査を実施し、それを参考にしつつ日本で同様の相談支援を実現する上での留意点を踏まえ「視覚障害リンクワーカーの手引き」を作成した。今後はこの手引きを基に養成研修を実施し、リンクワーカーが活動できる機会の確保を図る。 ③眼科医との連携  上記の取り組み以外にも、本年度は眼科医との連携を更に深めることを目指し、日本眼科医会が進める取り組み等に協力した。まず、同会は6月10日を記念日「こどもの目の日」に制定したことから、本連合はその記念日の周知啓発に協力した。また、本年度も令和5年8月に同会役員との懇談会を開催し、諸問題に関する意見交換を行った。さらに、令和5年11月には、同会が主催する全国会長会議に本連合の代表者が参加し、医療と福祉の連携を訴えた。 (3)外出保障 ①同行援護の更なる充実 ア 視覚障害者ガイドヘルパーの日の制定  同行援護制度の理解と従事するガイドヘルパーを確保することを目的とした記念日「視覚障害者ガイドヘルパーの日」を制定するため、本年度は同行援護事業所等連絡会と共に準備を進めた。その結果、一般社団法人日本記念日協会より12月3日を同記念日とすることが認定された。そして、同記念日の制定を全国に広めるために、令和5年12月3日に記念式典を開催し、終了後には高田馬場駅前で街頭アピール活動を行った。なお、記念式典はYouTubeによるライブ配信も行い、全国の視覚障害当事者及び同行援護関係者が視聴した。また、同記念日の趣旨に賛同した本連合の加盟団体においては、それぞれの団体が宣伝用ティッシュ及びチラシの配布等を行った。次年度以降も同行援護事業所等連絡会、そして全国の加盟団体と共に同記念日の周知に努めていく。 イ 未解決課題の早期解決  本年度も未解決課題の早期解決を求め、国に対する要望活動を強めた。まず、令和6年4月に障害福祉サービスの報酬改定が行われることから、厚生労働省は関係団体ヒアリングを令和5年7月に開催した。ヒアリングには本連合の代表者が参加し、同行援護の報酬の増額等を強く求めた。特に、現在の同行援護が長時間の利用になるほど報酬単価が下がることを踏まえ、現在の報酬単価に併せて、短時間よりも長時間の単価を厚くした報酬単価も設定し、選択できるようにすることを求めたが、令和6年4月の報酬改定で実現させることはできなかった。なお、ガイドヘルパーが運転する自動車の利用を制度として認めさせること等、同行援護に関する多くの未解決課題の解消に向け、国に対して要望活動を行ったものの、本年度中に解決することはできなかった。引き続き、国等に対する要求活動を行う。 ウ 同行援護従業者養成研修カリキュラムの改訂  昨年度、厚生労働省が同行援護従業者養成研修カリキュラムを改訂する見通しを示したことから、本年度はその改訂に向けた具体的な作業が行われ、本連合はその作業に協力した。まず、同カリキュラムを改訂するためには告示の改正が必要であるため、厚生労働省と詳細部分の協議を行った。その結果、令和5年10月に告示の改正が行われ、改訂後の同カリキュラムは令和7年4月より適用されることになった。また、改訂後の同カリキュラムに準じたテキストが必要となることから、その編集作業に協力した。 ②鉄道の更なるバリアフリー化  視覚障害者が安全に安心して鉄道を利用できるよう、本年度もハード面とソフト面でのバリアフリー化に向けた要望活動を強めた。特に、鉄道駅における無人化は、全国の視覚障害者の鉄道利用にとって深刻な課題である。また、駅の無人化と併せてみどりの窓口等は減少・縮小し、オペレーターと対話しながら切符等を購入する自動券売機が設置されてきている。そうした中にあっても、視覚障害者が不便を感じることなく切符等を購入し、安心して鉄道を利用できるよう、国や鉄道事業者等に強く働きかけた。  また、全日本ろうあ連盟、全日本難聴者・中途失聴者団体連合会、全国盲ろう者協会と本連合の4団体は、国土交通大臣に対して「無人化された駅を視聴覚障害者も安全安心に利用できることを求める要望」を令和5年11月に提出した。国土交通大臣との面談では、駅の無人化が進む中であっても視聴覚障害者が安全に安心して鉄道駅を利用できるようにすることを強く訴えた。  しかし、これらの取り組みを進めたものの、無人化や省人化に伴う視覚障害者に関する対策が十分講じられたとは言い難く、今後も省人化等が進んでも視覚障害者に配慮した具体策を講じることを国や鉄道事業者等に働きかけていくことが必要である。また、令和5年3月から都市部の鉄道事業者においてバリアフリー整備に係る費用を補うための料金値上げが実施されたことを踏まえ、引き続き値上げ分が確実に安全対策等に支出されるよう監視していくことが必要である。 ③道路交通の更なるバリアフリー化  本連合はこれまで、音響式信号機の設置や点字ブロックの敷設等、道路移動に関するバリアフリーに向けた働きかけを行ってきた。特に令和3年と令和4年に発生した踏切における視覚障害者の死亡事故により、踏切における安全対策が不十分であったことを改めて意識し、必要な対策を早急に講じるための要望活動を強めた。  まず、令和5年5月に奈良県橿原市で開催した第76回全国視覚障害者福祉大会(奈良大会)において「踏切と横断歩道の安全を考えるシンポジウム」を開催し、必要な安全対策を求めるための奈良宣言を採択した。また、国土交通省において「道路の移動等円滑化に関するガイドライン」を改訂するための検討が行われた際、本連合から代表者を派遣し、必要な対策について意見を述べた。さらに、ガイドラインに盛り込むべき標準的な踏切内誘導表示の示し方に関する実証実験にも協力した。その結果、令和6年1月に踏切に関する標準的な整備内容を追加した改訂ガイドラインが公表された。今後は、本ガイドラインに盛り込まれた整備内容を全国の道路管理者並びに鉄道事業者に周知し、広げることが必要である。  一方、道路の安全対策では、24時間いつでも安全に安心して道路を横断できるよう、音響式信号機の更なる設置並びに稼働時間の延長、エスコートゾーンの設置、歩車道境界の必要な段差の設置等を国や地方自治体等に継続的に働きかけた。  さらに、スマホ等を利用したナビアプリ等が増えているものの、利用に関する安全性等が未整理であることを踏まえ、その利用方法について本連合としての方針を取りまとめるため、視覚障害利用者、ネクストビジョン、日本歩行訓練士会、弁護士、有識者による「スマホ等を利用した移動について考える懇談会」を開始した。次年度も継続して開催し、一定の方向性を示すことを目指していく。 ④調査事業への協力  公共交通機関や道路に留まらず建物や公園等、視覚障害者が移動するあらゆる場面においてバリアフリー化が図られることは、今や必須のことと言える。そのため本年度は、これらの場面ごとの検討や調査において、視覚障害者の意見を反映すべく、様々な働きかけを行った。  まず、環境省が管轄する国立公園におけるバリアフリー整備を進めるため、高知県の国立公園で行われた実地調査に本連合の代表者を派遣した。その結果、障害当事者参画によるバリアフリー整備計画を策定するための方法等を整理した報告書が取りまとめられた。また、観光庁が制作する「ホテルスタッフ向け研修動画」について、視覚障害者に関わる箇所の監修を行った。  さらに、国以外の機関からの協力要請にも対応し、本年度もトヨタ・モビリティ基金が行うモータースポーツ観戦やその会場移動に伴う、新技術を利用した実証実験に協力した。また、新秩父宮ラグビー場の建設に向けた基本設計段階でのユニバーサルデザイン・ワークショップに対して、本連合の代表者を派遣し、観戦や会場内移動について意見を述べた。 (4)就労問題 ①一般就労 ア 視覚障害者の雇用拡大・就労継続を目指した取り組み  本連合は厚生労働省の労働政策審議会障害者雇用分科会に対して引き続き委員を派遣し、国の施策に対して視覚障害者のニーズを反映させることを強く求めた。特に、就労する視覚障害者が力を最大限発揮できる環境を作るためには、視覚障害者にも対応できるジョブコーチの養成と配置、能力開発及び向上、業務の切り出しや再設定が重要であることから、それらの重要性を同分科会等で積極的に訴え、広域をカバーできる支援体制の構築等を提案した。なお、本年度の同分科会では、昨年度から引き続いて新たな障害者雇用率の設定、除外率の引き下げ、令和6年度の新設助成金及び既存助成金の拡充等の重要施策の議論が行われた。  また、厚生労働省は本年度より「卓越した技能者(現代の名工)」に「第22部門 障害がある技能者」を新設したことから、本連合はソフトウェア開発技術者であり、世界初の日本語スクリーンリーダーを開発した齋藤正夫氏を推薦し、同氏が現代の名工に選出された。このことは多くのマスコミが取り上げ、同氏の功績、視覚障害者の就労に関すること、スクリーンリーダーの重要性等を社会に周知することができた。 イ 重度障害者等就労支援特別事業の更なる拡充  厚生労働省が推進する「雇用施策との連携による重度障害者等就労支援特別事業」は、令和5年10月31日現在、実施要綱作成済が67自治体、実施準備中が10自治体、合計77自治体となり、同事業を実施する自治体は着実に増えているが、全国の自治体数から見ればまだ少ない状況にある。そこで本連合は、全国の自治体が同事業を実施するため、実施自治体の情報を収集するとともに、令和5年11月に137の政令指定都市・中核市等に対してアンケート調査を実施した。そして、これから同事業の実施を目指す加盟団体の会員等に対して調査結果等の情報を提供し、結果的に新たな実施自治体を増やすことができた。 ウ 視覚障害者の就労に関する会議・イベント等の開催  視覚障害の公務員の雇用実態を情報収集するため、令和6年2月に第3回視覚障害者公務員交流会を開催し、主催者及び支援者を含む41人が参加した。なお、現役公務員等に対しては「職場満足度アンケート調査」を行い、その集計・分析結果を参加者にフィードバックした。次年度以降は、これらの情報を元にした関係行政当局との懇談会を開催する予定である。  また、本年度もNEXT VISIONとの連携により「第5回神戸発、視覚障害者雇用の未来を考えるフォーラム」を令和5年11月23日に開催した。しかし、昨年度立ち上げた「就労懇談会」は、本年度は視覚障害者の雇用に関する情報の分析作業等を行う予定だったが、実施することができなかった。 ②あはき  療養費を取り扱う視覚障害あはき師によるオンライン資格確認については、担当省庁によるヒアリングや意見交換を通じて、音声読み上げ機能を含む視覚障害あはき師が操作可能なシステムの提供を求めた。また、ウェブサービスによる実証実験において、本連合の代表者が参加し、システムの改善を求めた。次年度以降においても、引き続き課題の解決を求めていく。  また、あはき広告ガイドラインの検討については、令和5年2月に開催された「あん摩マッサージ指圧師、はり師、きゅう師及び柔道整復師等の広告に関する検討会(第9回)」において、あはきの施術所の名称について提供する業態名+治療院が認められる等の大きな進展がみられたが、本年度は検討会の開催はなく、広告ガイドライン自体の検討は次年度以降に持ち越された。  なお、本連合は令和5年3月に「あはきと理療科教育の未来を考える懇談会」を立ち上げ、本年度も視覚障害あはき師の現状を分析し、視覚障害者にとってあはき業が魅力あるものとなるためにはどうすればよいかを議論した。次年度には政策提言に向けた取りまとめを行う。  さらに、視覚障害あはき師の職域を開拓し、卒後研修を含めた若手視覚障害あはき師の資質向上を行うため、本連合は視覚障害あはき師のための研修機能も備えた就労移行支援事業所の開設を目指している。本年度は準備室を立ち上げ、場所の特定や資金計画を立てる等の準備を進めた。 (5)教育問題  昨年度、GIGAスクール構想が進展する中で視覚障害児童・生徒が抱える課題を洗い出すため、専門家を交えて意見交換を行い、個々のニーズに合った端末の貸与、ICT活用を進めるための指導体制、デジタル教材の整備、保護者等への支援を含む学外での各種支援等に課題があることを確認した。そこで、本年度中にGIGA教育支援プロジェクトを立ち上げ、それら課題の解決策を検討する予定だったが、同プロジェクトを立ち上げることはできなかった。今後は将来ビジョン推進委員会と連携しながら検討を進めることとする。  そのほか、学校教育においてプログラミング教育が広まりつつある中で、盲学校(視覚特別支援学校等)での実践例が少ないことから、東北学院大学と連携し、視覚障害児童・生徒6名に対してプログラミング講座を計5回実施した。また、新たな講座の手法に関して本連合と東北学院大学との間で実証的検討を行った。引き続き講座を実施しながら、関連の知識・ノウハウを整理し、効果的なプログラミング教育の拡充に繋げていく。 (6)災害・防災対策  わが国は、頻繁に地震による大災害に見舞われ、台風を含めた豪雨による災害も経験している。国は、その都度、自治体に対し、減災のための備えや避難計画等を立てるよう指導しているが、視覚障害者にとっては大きな変化は見られない。  令和6年1月1日には、震度7を記録する能登半島地震が発生し、奥能登を中心に多くの人が避難生活を余儀なくされている。しかし、視覚障害者を含む障害者が災害地域でどのような避難生活を余儀なくされているかは十分には把握されておらず、その結果として個々の被災障害者に対する援助や復旧・復興のための支援についての検討は進んでいない。本連合は、日本盲人福祉委員会と連携し、現地調査を開始するとともに、被災視覚障害者支援のために義援金の募集を直ちに開始した。また、JDF(日本障害フォーラム)と共に、能登半島の中心である七尾市に支援本部を立ち上げるべく準備を進めてきた。今後は、日本盲人福祉委員会の災害対策支援本部を通して個々の視覚障害者に対する支援を行うとともに、JDFの一員として障害者の救済活動を行うことになる。 (7)文化・芸術、スポーツ ①第60回全国音楽演奏会の開催  本連合は、様々な取り組みを通して視覚障害者の文化・芸術活動の推進を図ってきた。その中では、音楽家協議会が福祉大会に併せて毎年開催する演奏会が大きな役目を果たしている。本年度はこの演奏会が第60回の節目の年となるため、東京都盲人福祉協会の協力を得て、令和6年3月に「第60回全国音楽演奏会」として記念演奏会を開催した。開催にあたっては、邦楽の演奏者に留まらず、洋楽の演奏者も出演し、視覚障害者による音楽活動の素晴らしさを内外にアピールすることができた。 ②ブラインドスポーツの幅広い周知  近年、パラスポーツという名称が一般化し、多くの障害者がこれらのスポーツを楽しむようになった。一方で、日本で従来楽しまれている視覚障害者のためのスポーツ(ブラインドスポーツ)は、認知度が低いこと、支援者が少ないことが課題となっている。そのため、本連合のスポーツ協議会が中心となり、ブラインドスポーツの幅広い周知活動を行い、ブラインドスポーツを楽しむ視覚障害児・者と支援者を増やす取り組みを進めた。  本年度はブラインドスポーツを経験したことがない視覚障害児・者が、これらのスポーツを体験する機会を全国で増やすことを目指し、ブラインドスポーツ体験会のデモ開催等を行った。デモ開催によって得られた効果的な開催方法を踏まえ、次年度以降、全国でこの体験会が開催できるように取り組みを進める。  また、本連合と同協議会は、日本大学スポーツ科学部が行う研究事業「視覚障がい者の身体活動促進がもたらす社会参加の向上とQOLへの効果」に協力した。その結果、同学部は「視覚障害者のための健康づくりリーフレット」を令和6年1月にとりまとめたことから、全国の視覚障害者への周知を行った。  なお、同協議会は、YouTubeによる動画配信に力を入れ、様々なブラインドスポーツ、視覚障害者の健康づくり・体力強化を目的としたエクササイズ等の紹介を行っている。ただし、公開した動画の再生回数が伸びないことが課題となっていることから、次年度は本連合が協力し、公開した動画の周知活動を行っていく。 3.ライフステージごとの取り組み (1)視覚障害児及び子育て  国はこども家庭庁を令和5年4月に設置し、同年6月に障害児支援部会を設置した。これまで障害児に対する支援は障害者施策の中で検討されることが多く、特に視覚障害児に対する支援、また子育てをする視覚障害者に対する支援はあまり議論が行われなかった。また、本連合自身も視覚障害児に対する支援を求める活動は少なかった。そのため、同部会が設置されたことを契機とし、本連合は視覚障害児及び子育てをする視覚障害者に対する支援の充実を求める活動を強めた。  まず、同部会に対して代表者を派遣し、視覚障害児への支援、視覚障害者を含む子育てをする親への支援を求める提案等を行った。そして、本年度の同部会では、児童発達支援及び放課後等デイサービスのガイドラインの改訂の検討、令和6年度報酬改定の検討を行ったことから、視覚障害児へのサービス提供を行う事業所の声を基に、視覚障害児の特性を踏まえたサービス提供体制の実現や報酬単価の設定を求めた。 (2)視覚障害青年  本連合では、会員数の減少や高齢化が進む一方で若い会員が増えないこと、さらには次世代リーダーの育成が進んでいないことが喫緊の課題となっている。そのため、青年協議会の活動に加え、近年は本連合の活動の中で視覚障害青年が活躍する場を増やす取り組みを進めている。  まず、令和5年6月に本連合の役員改選が行われ、青年協議会の代表者が理事に就任した。同理事の就任により、本連合の5協議会との意見交換会を開催する等、これまでにない取り組みを実施することができた。また、将来ビジョン推進委員会には、視覚障害青年が多く参加し、総括所見に関する議論を行っている。その中では、参加する視覚障害青年の提案により、本委員会のほかに小委員会を設け、テーマごとの詳細な議論を行った。また、同委員会では、平成30年3月に策定した「わが国の視覚障害者の将来 ~将来ビジョン検討委員会 報告書~」の改訂作業も進めている。改訂においては、参加する視覚障害青年の意見等を踏まえ、本連合の将来ビジョンに未来ある視覚障害青年の諸問題を解決するための方針を盛り込んでいく。  なお、青年協議会においては、オンラインを活用した会議や研修会の開催、X(旧Twitter)を活用した情報発信に努めている。特に、Xを活用した情報発信は、本連合の枠を超え、全国の視覚障害者に対して様々な情報を届けている。このことは、新たな視覚障害青年の会員を呼び込むためにも重要な取り組みである。本連合はこの取り組みに引き続き協力を行う。 (3)視覚障害女性  近年、視覚障害女性に対する複合差別が浮き彫りになっており、様々な困り事があっても周りに相談できない視覚障害女性が存在している。そこで、令和5年3月、本連合の総合相談室内に女性相談員による女性専用の相談を受ける体制を設けた。本年度は、この相談体制を継続し、計4回の集中相談を開催する等、全国の視覚障害女性から差別に関する相談、さらに子育て、親の介護、自身の将来等の相談に対応した。  また、女性協議会の要望である入院中の視覚障害者が居宅介護等のヘルパーを利用できるようにすることは、厚生労働省の令和5年度障害者総合福祉推進事業「重度訪問介護以外の訪問系サービスに係る入院中のコミュニケーション支援のニーズ把握等に関する調査研究」において実態調査を行うことになった。そのため、入院中の視覚障害者が居宅介護等のヘルパーを利用できるようにするため、本連合の代表者が検討委員会に参加し、調査に対する具体的な提案等を行った。  しかし、事業計画に掲げていた安全対策の取り組みは、目標としていた視覚障害者向けの防犯機器の開発、同機器を日常生活用具に指定することは実現できなかった。このことは女性協議会と議論しながら、次年度以降も実現に向けて取り組んでいく。 (4)高齢者  視覚障害者の高齢化率は非常に高く、65歳以上は7割を超えているものと思われる。その中には、一人暮らしの高齢者や中途視覚障害者も数多く含まれている。そうした高齢視覚障害者が日常生活においてどのような困難を抱えているかや、生きがいのためにどのような社会参加を求めているか等の実態把握が必要である。しかし、残念ながら本年度もそうした取り組みに着手することはできなかった。中途視覚障害者に対する支援は高齢者に対する支援と重なる部分はあるが、高齢視覚障害者に特化した実態把握と支援をどのようにして取り組むかを早急に検討しなければならない。 (5)弱視者(ロービジョン)  弱視者(ロービジョン)に関する取り組みは、本年度も引き続き、弱視部会を中心に進めてきた。まず、弱視者(ロービジョン)の困り事を整理するため、同部会のメーリングリストやオンライン意見交換会等を通して情報を収集し、集まった情報を資料化した。本年度は警察庁の交通担当者、弁護士を招聘し、道路移動や横断に関する研修会を開催し、その内容を委員総会報告書に取りまとめた。  また、これまでに公表したリーフレットや資料集を基に、新たな情報発信方法として動画作成について検討を開始した。まず本年度はリーフレット「見えにくいことははずかしいことではありません!」を基とした動画作成の検討を行った。本年度中の完成には至らなかったが、次年度の早い時期での完成を目指す。 4.国内及び海外の関係団体との相互交流、協力に関する事業 (1)府省庁や関係機関への協力  内閣府、厚生労働省、国土交通省、文部科学省、こども家庭庁等の関係府省庁の審議会等に代表者を派遣し、視覚障害者の立場から意見を述べ、要望の実現に努めた。また、全国の交通事業者83社局が実施する「声かけ・サポート」運動の周知活動に協力した。 (2)国際交流  日本盲人福祉委員会を通してWBU(世界盲人連合)及びWBUAP(世界盲人連合アジア太平洋地域協議会)に代表者を派遣し、世界の視覚障害者と交流し、福祉に関する情報収集、各種活動を行った。本年度は、令和5年9月にベトナムで開催された第16回WBUAPマッサージセミナー、同年11月にタイで開催されたWBUAP中期総会に本連合の代表者が参加した。なお、WBUAP中期総会については、開催内容を広く周知するため、参加者による報告会の開催を企画し、令和6年4月に開催すべく準備を進めた。 (3)障害者団体及び福祉関係団体との連携  視覚障害者の福祉向上のため、ほかの障害者団体や福祉関係団体と連携して活動した。  まず、様々な障害者団体が集うJDF(日本障害フォーラム)に対して、3役会議、幹事会、代表者会議、政策委員会、災害総合支援本部等に本連合の役員を派遣し、JDFの活動に広く協力した。なお、政策委員会は本連合の組織部が事務局を担うことになった。  また、全日本ろうあ連盟、全日本難聴者・中途失聴者団体連合会、全国盲ろう者協会との間で「情報コミュニケーション4団体連絡会」を引き続き開催し、視覚障害者及び聴覚障害者に関わる共通の課題について議論を行った。  さらに、全国社会福祉協議会の障害関係団体連絡協議会、日本身体障害者団体連合会の中央障害者社会参加推進協議会、あはき等法推進協議会、鍼灸マッサージ保険推進協議会、障害者の文化芸術活動を推進する全国ネットワーク、障害者放送協議会等に参加し、参加する団体との連携を深めた。  なお、本年度は、日本盲人福祉委員会と東京都盲人福祉協会と共に、本連合の笹川𠮷彦名誉会長の卒寿を祝う会を令和5年11月17日に開催した。 5.全国視覚障害者福祉大会の開催  本年度の全国大会「第76回全国視覚障害者福祉大会(奈良大会)」は、奈良県視覚障害者福祉協会の協力のもと、令和5年5月21日・22日に奈良県橿原市で開催した。  本年度の全国大会は、新型コロナウイルス感染症の5類感染症移行後の開催ではあったものの、全国の加盟団体の参加状況等を踏まえハイブリッド開催とした。しかし、これまでの全国大会の参加状況に戻すことを目指し、加盟団体に対して協力要請を行った結果、昨年度以上に会場参加者を増やすことができた。  また、大会初日に開催した「踏切と横断歩道の安全を考えるシンポジウム」は、開催内容が奈良県内及び全国のマスコミに大きく取り上げられた。その結果、国土交通省が進めていた「道路の移動等円滑化に関するガイドライン」の改訂を後押しする機運を高めることができた。なお、本大会初日のシンポジウム、2日目の全国大会(大会式典・大会議事)はYouTubeによるライブ配信を行い、本大会に参加できなかった全国の会員や関係者の多くが視聴している。 6.各種会議等の開催  (1)評議員会  定時 6月27日 日本視覚障害者センター、オンライン  臨時 3月15日 書面開催 (2)評議員選任・解任委員会  第1回 6月23日 日本視覚障害者センター  第2回 3月 6日 日本視覚障害者センター (3)全国団体長会議  第1回 5月21日 DAIWA ROYAL HOTEL THE KASHIHARA、            オンライン  第2回10月13日 日本視覚障害者センター、オンライン  第3回 2月14日 日本視覚障害者センター、オンライン (4)令和5年度団体提出議案に関する分科会  生活 4月12日 日本視覚障害者センター、オンライン  バリアフリー 4月13日 日本視覚障害者センター、オンライン  職業 4月14日 日本視覚障害者センター、オンライン (5)理事会  第1回 4月21日 日本視覚障害者センター、オンライン  第2回 6月 8日 日本視覚障害者センター、オンライン  第3回 6月15日 書面開催  第4回 6月27日 日本視覚障害者センター、オンライン  第5回 8月 2日 日本視覚障害者センター、オンライン  第6回12月 8日 日本視覚障害者センター、オンライン  第7回 2月28日 書面開催  第8回 3月25日 日本視覚障害者センター、オンライン (6)監事監査  監事監査 6月 8日 日本視覚障害者センター、オンライン  中間監査11月15日 日本視覚障害者センター、オンライン (7)厚生労働省 指導監査  11月9日・10日 日本視覚障害者センター (8)正副会長会議  第1回 4月11日 日本視覚障害者センター、オンライン  第2回 6月 5日 日本視覚障害者センター、オンライン  第3回 8月 2日 日本視覚障害者センター、オンライン  第4回11月14日 日本視覚障害者センター、オンライン  第5回 1月18日 日本視覚障害者センター、オンライン  第6回 3月 8日 日本視覚障害者センター、オンライン 7.各協議会の活動 (1)あはき協議会 ①代議員会   第1回 7月 1日 日本視覚障害者センター、オンライン ②常任委員会  第1回 3月 1日 日本視覚障害者センター、オンライン ③全国委員会  第1回12月20日 書面開催  第2回 3月22日 日本視覚障害者センター、オンライン (2)青年協議会 ①常任委員会  第1回 4月27日 オンライン  第2回 8月 7日 オンライン  第3回 9月17日 TKP札幌ビジネスセンター赤れんが前  第4回 2月 8日 オンライン  第5回 3月17日 ホテル時の栖 ②ブロック推進委員会  第1回 4月27日 オンライン  第2回 8月29日 オンライン ③社会対策研修会  第1回11月19日 オンライン ④第69回全国視覚障害青年研修大会(札幌市大会)  期日 9月17日~18日  会場 TKP札幌ビジネスセンター赤れんが前、オンライン (3)女性協議会 ①常任委員会  第1回 4月 8日 電話会議  第2回 7月 1日 日本視覚障害者センター  第3回 8月26日 電話会議  第4回 8月30日 藤沢市民会館  第5回 9月30日 電話会議  第6回11月19日 電話会議  第7回 3月 9日 電話会議  第8回 3月23日 電話会議 ②全国委員会  第1回 8月30日 藤沢市民会館  第2回 3月 9日 電話会議 ③全国代表者会議  第1回 8月30日 藤沢市民会館 ④第69回全国視覚障害女性研修大会 関東ブロック(神奈川大会)  期日 8月30日~8月31日  場所 藤沢市民会館 (4)音楽家協議会 ①正副会長会議  第1回 7月20日 神戸市視覚障害者福祉協会  第2回 3月17日 ホテルグランドヒル市ヶ谷 ②常任委員会  第1回 7月20日 神戸市視覚障害者福祉協会  第2回 3月17日 ホテルグランドヒル市ヶ谷 ③第60回全国音楽演奏会  期日 3月16日  場所 なかのZERO 小ホール ④第61回音楽家協議会福祉大会  期日 3月17日  場所 ホテルグランドヒル市ヶ谷 (5)スポーツ協議会 ①常任委員会  第1回 4月15日 神奈川ライトハウス、オンライン  第2回 6月 8日 オンライン  第3回 6月17日 神奈川ライトハウス、オンライン  第4回 9月 2日 福島県点字図書館  第5回11月 9日 オンライン  第6回 2月27日 オンライン  第7回 3月23日 神奈川ライトハウス ②幹事会  第1回 4月16日 神奈川ライトハウス、オンライン ③代表者会議  第1回 6月17日 神奈川ライトハウス、オンライン ④研修会  期日 1月27日  会場 福島県点字図書館、オンライン 第2 日本視覚障害者センターとしての事業の実施  本年度、日本視覚障害者センター(以下、「センター」という)では、厚生労働省や東京都からの委託や補助事業のほか、民間団体や企業等の補助を活用し、次の事業を実施した。点字図書館の運営、点字出版や録音製作、各種広報誌等による情報提供並びに更生相談等の事業を通じ、全国の視覚障害者に対して第二種社会福祉事業や公益事業等の事業をほぼ当初の予定どおり実施することができた。 1.情報提供・広報活動 (1)情報部  点字JBニュース、情報メール、電話ナビゲーション、愛盲時報、点字日本、日視連アワー、声のひろば等を活用して本連合の活動、全国の加盟団体の活動、国の施策等を紹介した。また、これらの媒体を通じ時々の情勢に応じた本連合の考えも表明し、視覚障害への理解と啓発に努めた。その他、提供した情報を蓄積・管理し、問い合わせに応じて必要な情報を提供した。  なお、厚生労働省の補助事業の日刊点字新聞「点字JBニュース」は、本年度は第7626号から第7866号まで計240回発行した。掲載記事は2,418本で、そのうち本連合が提供する情報を含む福祉関係記事を514本提供した。さらに、点字JBニュースの実施機関への実施状況及び課題に関する調査を実施した。  また、選挙関係では、和歌山県衆議院補欠選挙及び都道府県知事選挙(埼玉県知事・秋田県知事)の拡大文字版の選挙公報(選挙のお知らせ)を提供した。 (2)点字出版所  厚生労働省委託広報誌「点字厚生」(年6回・計15万部)、「ワールド・ナウ」(年2回・計600部)を製作した。また、全国の各自治体広報誌(8自治体・4,895部)、議会報(7自治体・786部)についても予定通り製作した。  4月の統一地方選挙では、港区、狛江市、越谷市の選挙公報及び案内(計180部)を製作した。その他、前橋市の市長選挙及び議会補欠選挙公報及び案内(計180部)を製作した。  さらに、本連合及び関連団体の会議資料や調査報告書を製作し、鉄道会社の運賃表や触知案内板の監修を行った。また、東京電子自治体共同運営電子調達サービスの事務対応を行い、講習会、研修会の講師依頼、行政や企業からのヒアリングやモニターの依頼に対応した。  なお、点字製作に係る機材のメンテナンス及び修理を行った。 (3)録音製作所  定期刊行物として毎月1回「日視連アワー」(137部)を製作したほか、隔月で「声の広報・厚生」(1,900部)を製作した。また、加盟団体向けに全国団体長会議の研修会における音源の音声デイジー・CD化や本連合会長による中央情勢報告を収録したCDを製作し、情報提供に努めた。  令和5年4月の統一地方選挙では、4自治体・5種の音声版選挙公報を製作した。自治体委託の音声版広報誌は16自治体から委託を受け26種を製作した。公共空間案内用音声を含む年間製作数は、マスター製作数1,254、コピー数23,531に及んだ。  なお、スタジオ等音響機器の修繕・刷新については、新規機材の調査・検討を進めた。 (4)点字図書館  次の定期刊行物及び図書の提供を行った。 ①定期刊行物  定期刊行物の録音版の貸出・利用者数は、「声の広報・厚生」(年6回)は1,346人、「日視連アワー」(年12回)は7,064人、「日視連声のひろば」(年6回)は2,065人、「点字図書館ニュース」(年4回)は2,528人であった。なお、「点字図書館ニュース」は点字版1,413人、墨字版616人に配布した。 ②自館製作図書  点字図書は31タイトル、113巻、音声デイジー図書は25タイトル、170時間2分、テキストデイジー図書は19タイトルを製作した。 ③郵送による図書の貸出・利用者数  点字図書は1,747タイトル、4,279巻、1,250人、音声デイジー図書は18,473タイトル、13,646人であった。 ④図書のコンテンツ利用数  点字図書は350タイトル、延べ1,208人、音声デイジー図書は2,230タイトル、延べ14,105人、テキストデイジー図書は115タイトル、延べ1,283人であった。 2.相談事業  昨年度に引き続きオンライン面談を取り入れ、日々の生活相談を始め、法律、眼科、聞こえにくさ相談等の相談を受けた。また、視覚障害女性の相談会を4回実施することができ、相談件数は64件に上った。さらに、5年ぶりに公務員交流会も実施し、改めて視覚障害公務員の要求実現の運動の必要性を認識した。NEXT VISIONとの連携を含め、当初の事業計画は概ね達成し、多くの人に喜ばれた。  本年度の相談件数は、病気健康等1,041件、修学・就労136件、年金・社会保険460件、移動等291件、その他(法律含む)175件の合計2,103件であった。 3.養成講習会の開催  東京都の委託事業である養成講習会は、点訳奉仕員指導者養成講習会を全20回、5名、音訳奉仕員指導者養成講習会を全25回、11名、専門点訳奉仕員養成講習会を各10回(計30回)開催した。なお、専門点訳奉仕員養成講習会の内訳は英語5名、理数4名、楽譜1名であった。  また、令和6年3月12日に点訳奉仕員指導者養成講習会修了者研修会(16名)、令和6年3月14日に音訳奉仕員指導者養成講習会修了者研修会(58名)を開催した。 4.ボランティアの育成  本年度は音訳勉強会(音声技術)を全1回開催し、計8名が受講した。 5.調査研究事業 (1)生活協同組合 社会福祉活動等助成事業  本年度は「視覚障害者の早期相談支援のためのリンクワーカー育成に係るガイドライン作成事業(略称:日本版エクロガイドライン作成事業)」を行った。英国で医療機関を拠点に患者とその家族らに対して、早期介入・早期支援を行っているECLO(Eye Clinic Liaison Officer)の活動を学ぶため、令和5年8月に学識経験者や眼科医の専門家と共に現地調査を行った。また、調査委員会を4回開催し、日本での導入に向けた手引き(案)の検討に努めた。 (2)調査協力  日本大学スポーツ科学部が行う視覚障害者の身体活動促進に関する研究「視覚障がい者の身体活動促進がもたらす社会参加の向上とQOLへの効果」に協力した。  また、東北学院大学と共同で、都内の盲学校に通う生徒を対象にプログラミングの概念を学ぶプログラミング講座を行った。本年度で2回目の取り組みとなり、6名の生徒とその保護者が参加した。 6.弱視(ロービジョン)の利用者を対象とした商品の企画販売  弱視(ロービジョン)の利用者の利便性向上のため、当事者の意見を取り入れながら弱視者用バインダー用紙の作成、見えやすい白黒定規を新商品として販売した。 7.地域公益活動  新宿区内社会福祉法人連絡会と協働して、令和5年8月と12月にフードパントリーを実施し、センター職員、ボランティアや近隣の住民から食品を集めて、食の支援が必要な子育て世帯に提供した。  また、地域住民との交流、本連合の活動の紹介を目的とした「日視連フェスティバル2023」を令和5年10月21日に開催した。開催当日の来場者は91名であった。 8.センター組織再編  今後の新規事業の実施に向けて、令和5年度東京都サービス管理責任者更新研修を3名が受講し、令和11年3月31日までのサービス管理責任者資格の更新を行った。また、新規事業準備室では類似施設の見学研修を行い、運営上の参考にした。さらに、「あはきと理療科教育の未来を考える懇談会」と連携し、新規事業実施に向けたアンケート調査を実施することができた。  なお、現行のセンター内組織の再編については、2回の部長会議を実施し、センター内の現状把握と今後に向けた意見交換を行った。結論には至らなかったが、新規事業の開設が組織再編の契機となることから、引き続き効率的で能率的な運用が図れるよう、意見交換を継続していく。 9.施設等の整備  センター内のネットワーク環境の安定化を図るため、LAN回線の契約の変更を検討した。その結果、次年度にIPv4からIPv6へ変更を行う予定となった。 10.文化・芸術活動 (1)全国視覚障害者将棋大会  第45回全国視覚障害者将棋大会を、令和5年11月18日~19日に日本視覚障害者センターで開催した。S級10名、A級8名、B級12名、C級5名の合計35名が参加した。そのうち、3名が初出場であった。各級の対局を行うことで参加者の親睦を深めるとともに、入賞のほかに特別賞を設ける等、参加者に楽しんでもらえる大会運営に努めた。 (2)全国視覚障害者文芸大会  第49回全国視覚障害者文芸大会は、全国から短歌52人(154首)、俳句58人(173句)、川柳65人(191句)、随想・随筆11人(11作品)の応募があった。入賞作品には、日視連会長賞のほか、短歌の第1位に厚生労働大臣賞、俳句の第1位に文部科学大臣賞、川柳の第1位にNHK会長賞、随想・随筆の第1位に東京都知事賞がそれぞれ贈られた。なお、文芸大会作品集のコンテンツ利用数は、点字版が延べ23、音声デイジー版が延べ701であった。 11.防災対策  総合避難訓練を令和5年8月17日に実施し、実際の避難の際に支障が無いように取り組んだ。本年度は避難訓練を各階で分けずに、4年ぶりに全体で避難訓練を実施することができた。 12.職員研修 (1)内部研修 ・新採用職員研修 5月1日、5月14日、9月1日、9月15日 ・新人職員点字教室(読み方教室) 4月~5月、全6回 ・新人職員点字教室(基礎編) 5月~8月、全8回 ・職員点字教室(実践編) 5月~2月、全10回 ・点字出版所新人職員点字教室 9月~11月、全17回 (2)外部研修 ・全視情協新任管理者研修会・通常総会、施設長研修会 6月13日~14日 ・全視情協サピエ研修会 7月6日~7日 ・日本視覚障害者職能加発センター見学研修 7月4日 ・関東甲信越地区朗読録音奉仕者感謝の集い 9月6日 ・社会福祉法人監査研修会 9月8日 ・日本失明者協会見学研修 9月15日 ・日本点字図書館見学 10月4日 ・全視情協全国大会 10月10日、11日 ・関東地区点字図書館協議会秋期研修会 10月26日 ・日盲社協全国盲人福祉施設大会 11月9日 ・全視情協単独研修会目録研修会 1月25日 ・全視情協単独研修会電子書籍研修会 2月2日 ・公正採用人件啓発推進研修会 2月6日 ・新宿区内社会福祉法人連絡会第3回オンラインサロン 2月26日 ・日本ライトハウス情報文化センター見学 3月6日 13.健康管理・レクリエーション  年に1回の定期健康診断及びインフルエンザ予防接種の補助を行った。また、職員の親睦を図るため、忘年会を行った。 14.各種会議、委員会 (1)業務運営会議の開催 毎月第2火曜日(8月を除く)  4月11日、 5月 9日、 6月13日、 7月11日、  9月12日、10月10日、11月14日、12月12日、  1月 9日、 2月13日、 3月12日 (2)部長会議の開催  1月 5日、 2月 1日 15.その他 (1)厚生労働省指導監査  令和5年11月9日~10日に厚生労働省指導監査が行われた。指摘事項等の措置対応を図り、令和6年3月29日に文書にて回答した。 (2)点字考案200年記念事業  令和5年11月29日~12月2日にアメリカ・フロリダで開催された「Getting In Touch With Literacy」へ関係職員を派遣した。また、令和5年11月3日に「第3回点字考案200年記念事業記念講演会inサイトワールド2023」をすみだ産業会館9階会議室及びオンラインで開催した。当日は「Getting In Touch With Literacy」の事前発表、「日本における中途失明者、児童・生徒に対する点字指導のあり方を考える」の講演を行った。 16.参考 令和5年度職員体制 ・総務部 正職員4名 ・事業部 正職員5名、嘱託1名、パート1名 ・組織部 正職員4名 ・情報部(総合相談室含む) 正職員4名、嘱託2名、パート1名 ・情報ステーション 正職員19名、嘱託1名、パート2名   うち点字図書館 正職員4名、嘱託1名、パート1名   うち点字出版(校正室含む) 正職員10名、パート1名   うち録音製作 正職員5名 ・出向 正職員2名(日盲委2名) ・合計 正職員38名、嘱託4名、パート4名 ここまで