「視覚障害教育のあり方に関する実態調査」 ―― 報告書 ―― 社会福祉法人日本視覚障害者団体連合 ―― 目 次 ―― はじめに 第1章 事業概要 1.1 背景  1.2 調査の目的 1.3 調査の方法 第2章 調査の結果 2.1 委員会での議論の結果 2.2 シンポジウムの結果 2.3 ヒアリングの結果 第3章 調査結果から見えた課題 3.1 盲学校に対する実態調査結果の概要 3.2 保護者に対する実態調査結果の概要 3.3 解決すべき課題 3.4 まとめ おわりに 巻末資料 1.委員名簿 2.委員会の実施報告 3.全国の盲学校一覧(校名) 4.盲学校の現状 5.参考文献 6.参考ホームページ 7.「特別支援教育の変遷」 基調講演資料 はじめに 会長 竹下 義樹  日本の視覚障害教育は、140年の歴史を積み上げてきた。ところが、一方では、分離教育に対する批判やノーマライゼーションの理念の下で統合教育の有用性が強調され、今日においては視覚障害のある児童や生徒の統合教育は一般的なものとして定着し、他方では少子化も手伝って特別支援学校(視覚障害、以下盲学校)に学ぶ児童生徒が激減するに至っている。 さらには、障害者権利条約の批准に伴い、インクルーシブ教育という理念をどこまで取り入れるかが問われている。  視覚障害者の社会参加を推進し、共生社会(インクルーシブな社会)を実現するためには、視覚障害者自身の主体性や自己実現に向けた積極性が不可欠であることからすれば、当事者団体として改めて教育問題に取り組むことが本連合の差し迫った課題であると考え、本調査を実施することとした。  本連合は、統合教育を推進する立場に立ってきたが、決して「盲学校教育」を否定するものではない。 それどころか、わが国が築いてきた伝統を維持しさらに発展させることは、わが国の視覚障害のある児童や生徒にとって極めて有用であり、さらにはわが国における統合教育を進める見地に立ったとしても、盲学校教育の存在は必要不可欠であるとさえ考えている。 すなわち、わが国においては、統合教育と盲学校教育とがどのような連携や重なり合いによって発展していくべきかを考えることが重要であると考えている。 今回の調査によってわが国の盲学校教育の現状や課題を明らかにするとともに、今後盲学校が果たすべき役割、あるいは将来における盲学校のあり様を探るために、本調査がその一歩となるものと確信している。  本年8月には国連障害者権利委員会において日本の政府レポートが審査を受ける予定であり、わが国の実情、とりわけ障害児・者教育に対する同委員会としての所見や勧告が示されることになる。 日本障害フォーラム(JDF)は、同委員会にパラレルレポートを提出し、その中でわが国の障害児・者教育の問題点を指摘しており、それらを受けて、昨年9月25日にわが国政府に示された事前質問の中には、障害のある児童という項目がある。そのことからしても、本年8月の本審査においては、わが国の障害児・者教育に対しても、障害者権利条約24条に基づき、何らかの所見や勧告が示されるものと期待している。 そうした点からしても、本調査が今後のわが国における視覚障害教育を見直し、新たな取り組みを進めるうえでも大きな意義を持つものとなった。  本調査にご助成いただいた教職員共済生活協同組合と全国労働者共済生活協同組合連合会に深く感謝するとともに、1年近くにわたり精力的に調査研究に取り組み、本報告を取りまとめていただいた中野泰志先生をはじめ各委員の先生方に衷心よりお礼申し上げる。 第1章 事業概要 1.1 背景 1.1.1 インクルーシブ教育の流れ  1994年6月にスペインのサラマンカでユネスコとスペイン政府が開催した「特別なニーズ教育に関する世界会議」において採択された「サラマンカ声明」は世界のインクルーシブ教育の概念として広まり、特別支援教育やインクルーシブ教育を推進する上で重要な役割を果たした。  2006年12月には、障害者の人権及び基本的自由の享有を確保し、障害者の固有の尊厳の尊重を促進することを目的として、障害者の権利の実現のための措置等について定めた国際条約の「障害者の権利に関する条約」(以下:障害者権利条約)が国連総会において採択され、2008年5月に発効した。 この条約の第24条には教育に関する条項があり、締結国においてインクルーシブ教育を推進することが盛り込まれている。 各国教育制度の整備に取り組み、日本でも国内法の整備を進め、2014年1月に同条約を批准した。 1.1.2 日本におけるインクルーシブ教育システムの構築  2007年に、それまでの「場における教育」から「全ての学校種で一人一人のニーズに応じた適切な支援をいう教育」への転換を図る、「特殊教育」(special education)から「特別支援教育」(special needs education)への転換が行われた。  2012年の中央教育審議会初等中等教育分科会の「共生社会の形成に向けたインクルーシブ教育システム構築のための特別支援教育の推進(報告)」では、日本が今後、インクルーシブ教育に向かうことが提言された。  文部科学省(以下文科省とする)は、2013年度から「インクルーシブ教育システム構築事業」に取り組み、「合理的配慮」という新しい概念の普及・実践等が図られた。 同年8月の「学校教育法施行令の一部改正」により、これまでの学校教育法施行令第22条の3に該当する障害のある子供は、原則特別支援学校に就学するという仕組みが改められた。 1.1.3 インクルーシブ教育システムとは  文科省によればインクルーシブ教育システムとは、「障害のある者と障害のない者が可能な限り共に学ぶ仕組み」のことをいう。  日本のインクルーシブ教育システムは障害のある児童生徒がすべて通常の学校で学ぶことを意味しているのではなく、障害の状態(程度)、一人一人のニーズに応じて、「特別支援学校」、「特別支援学級」、「通級による指導」、「通常の学級」といった「多様な学びの場」が用意されているのが特徴である。  文科省はインクルーシブ教育システム構築に必要な要件と留意点について以下のように記している。 (出典:文科省 https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo3/044/attach/1321669.htm) インクルーシブ教育システムの構築に必要な要件 〇障害のある者が一般的な教育制度から排除されないこと 〇障害のある者に対する支援のために必要な教育環境が整備されること(基礎的環境整備) 〇障害のある子供が、他の子供と平等に「教育を受ける権利」を行使するため、個々に必要となる適当な変更・調整(合理的配慮)が提供されること   等  https://www.mext.go.jp/component/a_menu/other/detail/__icsFiles/afieldfile/2015/06/16/1358945_02.pdf インクルーシブ教育システムの留意点 〇インクルーシブ教育システムにおいては、同じ場で共に学ぶことを追求するとともに、個別の教育的ニーズのある幼児児童生徒に対して、自立と社会参加を見据えて、その時点で教育的ニーズに最も的確に応える指導を提供できる、多様で柔軟な仕組みを整備することが重要である。 〇小・中学校における通常の学級、通級による指導、特別支援学級、特別支援学校といった、連続性のある「多様な学びの場」を用意しておくことが必要である。 1.2 調査の目的  日本障害フォーラム(JDF)が、国連障害者権利委員会に提出したパラレルレポートでは、障害者権利条約の24条「教育」において、日本のインクルーシブ教育システムの課題を下記のように指摘している。 障害者権利条約のパラレルレポート(一部抜粋) ○通常学級からの障害児の排除、特別支援学校・学級在籍児童数の増加 (現状)  文科省の資料(どこの学校・学級に在籍しているかの推移)にあるとおり、義務教育課程の全児童生徒数は999万人で減少傾向にある中で、2016年(H28年5月)現在、特別支援学校には約7.1万人(0.71%)(H17年比で1.3倍)、特別支援学級には約21.8万人(2.18%)(H17年比で2.3倍)、通常学級の通級による指導に約9.8万人(0.98%)(H17年比で2.3倍)とされている。第24条がめざすインクルーシブ教育が推進されていない。 ○現状の背景として考えられる問題  ・原則インクルーシブ教育制度の不在  2013年9月の学校教育法施行令改定により、総合的判断による就学先の決定の仕組みとなった。法制度上、障害の種別や程度によって一律に特別支援学校・学級に措置される制度は無くなったとされるが、地域の通常学校・学級に通うことが原則になっていない。  ただ必ずしも、障害のある児童生徒が一律に地域の学校で障害のない児童生徒と一緒に学ぶことが適切だとは言えない。イタリア、スウェーデン、イギリス等の障害のある児童生徒が地域の学校で学ぶことを基本とし、教育環境を整備(人的支援・予算)している国々においては、インクルーシブ教育の中で、専門的な教育の担保に関して課題が多いと言われている。  障害のある児童生徒の学びやすい環境(合理的配慮や基礎的環境の整備)が十分に整えられること、人格の形成及び社会に出てからでも必要となる障害の専門的な教育が受けられること等を考えても、専門的な教育拠点として「盲学校」が学びの場として残り、さらに、専門的な知識や指導経験の豊富な教員が地域の学校に在籍する児童生徒、保護者、教員等へ教育に関する支援や指導を行うことは大きな意義がある。  そのことを踏まえ、視覚障害のある児童生徒の学びの場である盲学校の教育環境や教員の課題を明らかにすることを目的に調査をした。  なお、今回は学びの場を盲学校中心として調査をした。また、地域の特性からの課題もあるので、一律のアンケートではなく、研究調査委員が盲学校を訪問し、半構造化面接法を用いたヒアリング調査を行った。 1.3 調査の方法 1.3.1 調査の体制  学識経験者、視覚障害当事者、盲学校長・教員、保護者、教員養成大学等の有識者が集まり、委員会を開催し、「視覚障害のある児童生徒が、盲学校、弱視学級、通常の学級等、どこに通学していても、専門性の高い視覚障害教育が受けられる体制を確立すること」をテーマに議論をした。 1.3.2 調査の概要  委員会において、視覚障害のある児童生徒の学びに関する課題の何を明らかにすればよいかを議論し、明確にした。委員会での議論を踏まえ、シンポジウムで問題提唱及び課題の発掘、盲学校及び保護者のヒアリングを通じて課題の再確認をした。 1.3.3 ヒアリング調査  盲学校及び保護者のヒアリングを下記のとおり実施した。 (1)盲学校ヒアリング @東京都(3校)  日 時:2019年12月19日(木) 10:00〜12:00  場 所:文京盲学校  対象校:文京盲学校、葛飾盲学校、八王子盲学校 A広島県  日 時:2020年1月9日(木) 14:00〜16:00  場 所:広島中央特別支援学校  対象校:広島中央特別支援学校 B北海道(4校)  日 時:1月30日(木) 10:30〜12:00  場 所:札幌視覚支援学校  対象校:札幌視覚支援学校      函館盲学校、旭川盲学校、帯広盲学校は遠隔TVシステムで実施 C静岡県  日 時:2月3日(月) 13:00〜15:00  場 所:沼津視覚特別支援学校  対象校:沼津視覚特別支援学校 D埼玉県  日 時:2月4日(火) 10:30〜11:30  場 所:特別支援学校塙保己一学園(県立盲学校)  対象校:特別支援学校塙保己一学園(県立盲学校) E大阪府  日 時:2月7日(金) 13:00〜15:00  場 所:大阪府立大阪南視覚支援学校  対象校:大阪府立大阪南視覚支援学校 (2)保護者ヒアリング @全国盲学校PTA連合会  日 時:2019年11月7日(木) 13:00〜14:00  場 所:文京盲学校  対象者:東京都立盲学校4校に在籍する児童生徒の保護者 A親の会  メールによるヒアリングを実施。  実施期間:2020年3月1日(日)〜3月8日(日)  対 象 者:親の会に所属する保護者 第2章  調査の結果 2.1 委員会での議論の結果 2.1.1 日本のインクルーシブ教育システムにおける視覚障害教育  日本のインクルーシブ教育システムにおいて、視覚障害のある児童生徒がどのような場所で学んでいるのかを委員会で確認した。  諸外国のように障害のある児童生徒が地域の学校で学ぶことを基本としているわけではなく、障害の状態(程度)やニーズに応じて盲学校や地域の学校における「通常の学級」、「通級による指導」、「特別支援学級」、「特別支援学校(視覚障害)」を選択する連続性のある「多様な学びの場」が用意されていることがわかった。 表1 特別支援学校・特別支援学級・通級による指導の対象となる視覚障害の程度 教育の場 障害の程度 特別支援学校 (視覚障害)  両眼の視力がおおむね0.3未満のもの又は視力以外の視機能障害が高度のもののうち、拡大鏡等の使用によっても通常の文字、図形等の視覚による認識が不可能又は著しく困難な程度のもの(学校教育法施行令第22条の3) 特別支援学級 (弱視)  拡大鏡等の使用によっても通常の文字、図形等の視覚による認識が困難な程度のもの(25文科初第756号初等中等教育局通達) 通級による指導(弱視)  拡大鏡等の使用によっても通常の文字、図形等の視覚による認識が困難な程度の者で、通常の学級での学習におおむね参加でき、一部特別な指導を必要とするもの(25文科初第756号初等中等教育局通達) (文科省のホームページhttps://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/tokubetu/material/1340331.htmに基づいて作成)   2.1.2 視覚障害のある児童生徒の就学先の決定  上述のように、「通常の学級」、「通級による指導」、「特別支援学級」、「盲学校」において、就学の対象となる視覚障害の程度が定められているとともに、本人及び保護者の意見を可能な限り尊重し、教育的ニーズと必要な支援について合意形成を行うことを原則とし、障害の状態や必要となる支援の内容、教育学等の専門的見地といった総合的な観点を踏まえて市町村教育委員会が視覚障害のある児童生徒の就学先を決定していることがわかった。一方で、障害の程度に応じ、地域の弱視特別支援学級で学ぶことを選んでも求める専門的な教育を受けていない現状や保護者がどの学校を選ぶかの判断材料(情報)が行き届いていないのではないかということが問題提起された。 2.1.3 盲学校の役割  視覚障害のある児童生徒が地域の学校に在籍しても、専門性の高い視覚障害教育を受けられることが重要であることがわかった。その視覚障害教育を維持・発展させるためには伝統があり、指導技術や教材・教具が蓄積されている盲学校が必要であることの共通認識を持った。  また、盲学校においても、在籍する児童生徒の減少や、教員の人事異動等により、専門性の担保において課題があることが議論された。 盲学校に期待されるセンター的機能(地域の学校への支援等) 〇小・中学校等の教員への支援 〇特別支援教育等に関する相談・情報提供 〇障害のある幼児児童生徒への指導・支援 〇福祉、医療、労働などの関係機関等との連絡・調整 〇小・中学校等の教員に対する研修協力 〇障害のある幼児児童生徒への施設設備等の提供 (参考:視覚障害教育入門Q&A 編著:全国盲学長会) 2.1.4 調査研究委員会での論点  上述の内容を踏まえ、下記のような論点について意見交換し、課題について共通認識を持った。 なお、「理療科の教育」、「キャリア教育」、「盲学校での授業の詳細」等は重要であるものの本調査の範囲を絞るため取り扱わないことにした。 主な論点 〇視覚障害教育の維持・発展 〇盲学校における教科教育の充実 〇盲学校のセンター的機能(地域の学校への支援力)の向上の体制 〇乳幼児への早期の介入・支援及び保護者へのサポート体制   等 論点の議論で出された主な内容 盲学校 @学校の教育内容や取り組みを地域の学校や保護者にあまり知られていない、または正しく理解されていない。 A視覚障害教育の専門性の維持向上のための研修は各校で盛んに行われている。 B在籍する児童生徒の数が減少している。生徒が少ないため、集団学習の場が設けられない。在籍する児童生徒の数(学級数)によって教員の定数が決まるため、教員数も十分とは言えない。 Cセンター的機能を発揮するため、各校熱心に取り組まれている。 D地域の学校に在籍する児童生徒や教員への相談及び指導等にあたる支援と校内の授業の両立が難しい。地域の学校への支援の重要性もわかるが、視覚障害教育の専門性の高い教員が地域の学校への支援にまわり、盲学校での教育がおろそかになることではいけない。 E都道府県内に1校または数校と少ないため、支援する地域の学校の範囲(地理的)が広い。 F新任及び転任してきた教員が特別支援学校教諭免許状(視覚障害教育)を所持していることは少ない。 G盲学校に転任してから免許法認定講習を受講しようとしても学べる場が少ない。 H視覚障害に関する教育は専門性の高いものであるが、教員の人事異動等により専門性が担保されにくい状況がある。 I盲学校での指導を経験し、他の障害種別の特別支援学校及び地域の学校へ転任したら、原則盲学校には戻れない地域がある。視覚障害教育に携わりたいという意欲があり、専門性が高い教員でも視覚障害教育をずっと続けていけないことがある。 J他の障害種別の特別支援学校との併置または統合する動きが各都道府県において出ている。 K視覚障害生活訓練等指導者(以下、歩行訓練士)の専門職も校内に求められるものの、資格を取得している教員は少ない。また、資格を取得するための長期にわたる研修を受ける体制が確立されていない。                      L教科指導と視覚障害教育の専門性の両方を求められており、教科指導力についても高められる場が必要。 MICT教育などの取り組みでも地域の学校によって取り組みが異なる。 等 地域の学校(弱視学級等) @視覚障害教育を学んでいない教員が携わることが多く、視覚障害のある児童生徒にどのように指導して良いのかわからない。 A視覚障害のある児童生徒が少ないため専門性が担保されない。 B弱視に関する教育方法等をどこに相談して良いのかわからない教員がいる。 C盲学校から弱視の教育指導を受けても、担任がかわるサイクルが早いため、専門性が担保されない。 D生徒が見づらいことを言い出せないため、教員が困っていることに気がつかない。  等 保護者 @子供に視覚障害があると告知されてからどこに相談して良いのかわからない。医療機関も自治体の福祉課からも的確なアドバイスをもらえない。どこの学校に通わせて良いのか等の判断材料も少ない。 A子供の通学において同行援護や移動支援等の制度を利用できず、自分が付き添うため、会社を辞めた人、学校の近くに引っ越した人、盲学校に通わせたくてもあきらめた人等がいる。 B身体障害者手帳を取得しても受けられる福祉サービスがわからない。必要なものを適切に受けることができない。 C盲学校に在籍しながら地域の学校の生徒とも交流の機会を設けたいが機会は少ない。 D重複(知的・視覚等)があると、点字の学習をさせてほしいと思ってもさせてもらえないことがある。 等                                     2.2 シンポジウムの結果  本事業の委員会で議論した視覚障害教育の課題を検証するとともに、より多くの声を集めるため、「視覚障害教育の現状と課題に関するシンポジウム」を令和元年11月3日(日)すみだ産業会館で開催した。「特別支援教育の変遷」と題した基調講演とパネルディスカッションを行い、聴講者へアンケートも実施した。参加者は約80人であった。 2.2.1.橋井正喜委員(日視連常務理事) 挨拶  本調査事業の実施にご協力をいただいた助成団体や関係者の皆様にお礼を申し上げるとともに「視覚に障害のある児童生徒がどこに通学しても、専門性の高い視覚障害教育が受けられることは、非常に重要であると考えている。本連合として、教育に関する調査を実施することは初めてであるが、学識経験者、全国盲学校PTA連合会、盲学校長・教員や教員養成大学の先生等の様々な有識者の方々に協力していただき、問題解決に向けて議論をしてきた。本シンポジウムで皆様の意見を伺い課題を明らかにし、当事者団体としての運動につなげていきたい」と挨拶をした。 2.2.2 中野泰志先生より基調講演「特別支援教育の変遷」  パネルディスカッションに入る前に、パネラーやフロアーとの共通理解を得るために、「特別支援教育の変遷」について講演を行った。  2007年に特殊教育から特別支援教育へ制度がかわり、インクルーシブ教育システムが導入されたこと。  インクルーシブ教育システムの構築に必要な要件や、その仕組みについて報告するとともに、盲学校の現状について説明し、共通理解を図った。 2.2.3 パネルディスカッション (1)コーディネーター・パネリスト・コメンテーター(敬省略) ・コーディネーター  中野泰志  慶應義塾大学経済学部 教授 ・パネリスト  木村利男  全国盲学校長会 会長 東京都立文京盲学校 校長  片平考美  静岡県立静岡視覚特別支援学校 教諭        日本視覚障害者団体連合青年協議会 常任委員  長尾 博  元宮城教育大学 教授  内間香代子 全国盲学校PTA連合会 会長        東京都立文京盲学校PTA会長 ・コメンテーター 星加良司  東京大学大学院教育学研究科附属バリアフリー教育開発 研究センター 准教授 (2)パネリストからの問題提起 全国盲学校長会としての取り組み 木村利男氏  全国盲学校長会としてどのような活動をしているのか、学校現場がどうなっているのかを中心に発表した。 <盲学校の取り組み> @全国盲学校長会では魅力のある盲学校、選択される盲学校を目指して活動している。 A今年の7月に「第94回全日本盲学校教育研究大会」を京都で開き、そこでの研究主題が「視覚障害教育の専門性を共生社会の発展とともに」ということで、各分科会で柱を設定しながら議論を行った。こうした取り組みが教職員の専門性の維持向上につながっていると考えている。 B8月は体育的な全国大会の行事として、第3回全国盲学校フロアバレーボール大会を岩手で開催した。各地区で予選会を行い、熱戦が繰り広げられた。10月に文化的な全国大会の行事として、第88回全国盲学校弁論大会を文京盲学校で開催した。こちらも全国から集まった9人の学生が障害と向き合った体験や将来の夢等について熱弁をふるった。また、視覚障害者がいろいろな形で主張していることを知ってほしいという思いから、今年度中には弁論集を作成し、発行していきたいと考えている。 C我々は学習指導要領に基づいて指導を行っており、来年度から新学習指導要領が小学部から実施となり、その後中学部・高等部と続いていく。その中で「社会に開かれた教育課程」という文言があり、これは地域とともにある学校づくり、学校を核とした地域づくりを両輪としながら、そのつなぐものとして社会に開かれた教育課程を位置づける必要があるという考えである。これからの教育には今の社会に必要な知識を教えるだけではなく、次世代を切り開く力を育むことが求められており、より良い社会の実現に向けて社会をリードする学校教育を進めていくために、学校と社会が協働していくことが期待されている。各学校では学習指導の理念を踏まえて教育課程を編纂していく。 (課題) @幼児児童生徒の在籍者数の確保が課題である。昭和34年度に在籍者数のピークを迎え10,264人が盲学校に在籍していたが、平成31年度には2,616人となっている。幼・小・中学部で多少の増減があるが、概ね一定幅となっている。高等部本科においては減少幅が緩くなり本年度では増加に転じている。そうした中、専攻科での大幅な減少が続いており、平成27年度には936人在籍していたが本年度は694人となっている。 Aインクルーシブ教育システムにより、地域の普通校で盲学校の専門的な支援を受ける生徒も一定数いる。そのような生徒にどう盲学校の魅力を発信していくかが大切だと考え、先生方も研修等を含めて指導力を高めていきたいと考えている。また、重複障害の生徒も割合としては増えているので視覚障害の専門性だけではなく、知的障害を中心に他障害の専門性も含めたスキルアップも目指していきたい。 盲学校の教員として 片平考美氏  盲学校における教育の課題や地域の学校を支援する課題について視覚障害のある当事者の教員として発表した。 @盲学校に在籍する児童生徒数が減少したため、視覚障害者の生き方等のモデルが少なくなり、視覚障害者がどのように社会で生活しているのかを教師自身が深く知らないまま、指導に当たっている。それが盲学校における視覚障害教育の専門性の維持及び向上がうまくできていない理由として挙げられるのではないか。 A高い専門性が求められる盲学校には、現状の教員の人事異動制度が適していないのではないかと思う。地域によっては10年で3校も転勤しなければならないところもあり、長い経験を積まなければならないことを考えると、適しているとは言えない。また、県に1校しか盲学校がない地域では、盲学校に戻りたいと思っても戻れない現状もある。 B視覚障害の分野では学校数・生徒数が少ないことから研修の機会も地域の学校と比較すると少ないように思う。 C最低でも5年は視覚障害者教育の現場で研修を積んでもらう必要があると考えている。あとは、校内研修を充実させたり、一人ひとりが積極的な自己研修をする等は、教員側の努力でできることだと考えている。 D学校の教員数が少なく地域支援に携われる人がなかなかいない。 E視覚障害がある子供たちに適切な時期に適切な教育を受けることができる権利を保障する教育システムが各地域に必要ではないかと考えている。地域ごとに問題も違うので地域ごとの取り組みも必要になってくる。そうした活動の中から良い事例を集めて自分たちにあったシステムを作ることが重要となる。 F視覚障害のある教員が児童生徒たちのためにと思うことを率先して実践して盲学校で活躍していくことが大事だと考えている。また、当事者の教員の活動をサポートする体制も校内に必要だと思う。 G視覚障害のある教員は、職員研修の講師をすると積極的に声を上げ、目が見えにくいとはどういうことなのか、生活の工夫等を職員に伝えていってほしい。また、様々な分野で活躍する当事者の方にボランティアにきてもらい、盲学校の教育活動に積極的にかかわっていただきたいと考えている。晴眼の教員よりも在籍年数が長くなる当事者の教員が児童生徒及び教員に発信することも大切だと思う。 H当事者団体の事ではあるが、未来の人材を育成するということを当事者団体が目を向けてほしい。諸外国では奨学金を当事者団体が給付し、高学歴な子を輩出し、公的な場で、しっかりした立場での発言ができる視覚障害者を増やしていっているという事例もある。 教員養成の立場として 長尾博氏  教員を養成する立場から視覚障害教育の専門性の担保及び向上に関する課題を発表した。 @現在は特別支援学校の教諭免許状に一本化されており、4年間(教養課程の単位取得に2年ほどかかるので、実質2年)で、「視覚障害」、「聴覚障害」、「知的障害」、「肢体不自由」、「病弱」教育を含めた教諭免許状が取得できる教育大学がある。1つ1つの障害の領域の専門性を考えた時には明らかに時間不足であるし、各障害者教育をしっかり学べていない状況になっていると思う。現在の免許制度でいいのかと疑問を感じている。 A教育大学を卒業したら視覚障害教育の専門家になれるのかというとそうではなく、実際に視覚障害のある児童生徒を教える経験をしない限り専門家にはなれないと思う。では視覚障害のある児童生徒を専門的に教えているのはどこかというと盲学校しかない。地域の学校の弱視学級や通常の学級も視覚障害のある生徒を受け入れているが、担当している教員のほとんどが専門家ではなく、各学校が担当を決めているに過ぎない。盲学校なら応えられる保護者のニーズにも地域の学校では応えきれていない。 (参考:保護者の主なニーズ) ●担任の先生には点字の読み書きを覚えてほしい。 ●クラスで配布されるプリント類やテスト、副教材のワークなどは点字で与えてほしい。 ●音声でのパソコンやタブレットの使い方を教えてほしい。 ●視覚を用いない学習方法や概念形成を学習させてほしい。 ●障害を気にしないでストレスなくクラスに所属できるような学級作りをしてほしい。 B現在、通常の学級に通いたいという視覚障害のある生徒はたくさんいる。その一方で、盲学校は生徒減と言われている。このような問題の解決策として、地域の弱視学級や視覚障害者が通う通常校の担任を盲学校の教員が担当することを考えている。地域の学校の辞令をもらうことで生徒も盲学校の生徒としてカウントできる。盲学校の教師が最初から地域校にいき、生徒に教えることで専門性を生かすことができ、難しい問題にぶつかった場合も、一度盲学校に持ち帰って検討することができると思う。 保護者の立場として 内間香代子氏  保護者の立場から子供が専門性の高い視覚障害教育を受けるために必要な制度や支援等について課題を発表した。 @点字文章等の編集及び保存等をする「点字ディスプレイ」は、子供たちが学ぶ上でも有益な製品であり、必要としている。しかし、市区町村が実施している「日常生活用具給付等事業」で給付してもらえない現状がある。子供により良い視覚障害教育を受けさせるためにも1人ひとりに給付してもらいたい。保護者が自費で購入するには高額であり、なかなか手が届かない。 <給付してもらえない理由> ●給付対象品目に指定していない。 ●給付対象年齢を18歳以上または応相談としている。応相談と言っても実際に保護者が窓口に行っても対応してもらえない。盲学校の教員に同行してもらい、教育に必要な日常生活用具であることを説明してもらいようやく自治体の福祉課が給付を検討してもらえるようになる。 <例>  ある保護者が「点字ディスプレイ」を給付してもらえるようになったが、子供が3つ子(内2人が必要)だった。2人分の給付を申請したが、1人分しか対象とならないためもう1人は全額自己負担で買わなければならなくなった。そこで保護者は実際に子供が勉強しているところを市役所職員に見せて説明してやっと2人分給付してもらえることになった。常に保護者は市役所の窓口と戦っている。 A保護者が一番望んでいることは、質の高い視覚障害教育を子供に受けてもらうことである。しかし、視覚障害教育の専門家ではない教員があまりにも多いので困っている。 B知的障害と視覚障害の重複障害等でも点字等の視覚障害教育を施してほしいと望んでいる親も多くいる。 C4月になると教員の異動の季節になるので、異動してきた新しい教員がきちんと視覚障害教育ができるのか心配になる。また、自分の子供のことを一から説明し、理解してもらえるまで苦労する。そのため、盲学校には視覚障害教育の専門性を高めた教員を配置していただきたいと考えている。 (3)各委員の発表を受けてコメント  星加良司氏 @地域の学校において視覚障害のある児童生徒が専門性の高い視覚障害教育を受けられる環境にないことが多くある。盲学校による地域の支援が今後の課題になっていくと思う。 A共生社会を実現するためには従来の障害者がいかに社会に溶け込んでいくかだけではなく、障害のない人自身の考えや態度、意識をどうインクルーシブなものに変えていくか、制度に変えていくのかということをセットにしなければ、共生社会は実現しない。そのため、視覚障害者教育の専門の立場から、いかに今の社会が晴眼の人に向けた学校のシステム及び制度になっているのか、社会全体が排除的で歪んでいるのかをきちんと示し、それに対して、その在り方を変えていくための活動をどう展開していくのかを考えることが大切ではないか。 B地域の学校への支援を盲学校の教員の努力だけに頼るのには、筋が違うと考えている。だとすれば制度的な方向性として、どのような教育環境を整えていくのかについて文科省も含めて考えていく必要があると思う。 (4)会場での意見交換 会場  母子ともに視覚障害者の家庭で、学校までの送り迎えができない。そのため送迎を盲学校の関係者とともに自治体に頼んだが認められなかった。視覚障害のある児童生徒が盲学校にいきたいと希望しているのに、地域によって通学の支援に差が出ている現状がある。その問題を解決できるのは当事者団体しかないと思っている。 日視連  日視連は同行援護事業を子供たちにどのように広げていくかについても活動を展開していて、今のような問題があることも認識している。福祉の制度が通学にも使えるようになっていくことが重要になると考えている。盲学校だけではなく特別支援学級、通級による指導を受ける時にも同様の問題があるので、実現のためには色々なところが声を上げて、解決しなければならないと考えている。  地域の団体と一緒になって運動していかないと行政は動かないということをまず知ってもらいたい。今、視覚障害者で地域の団体に入っていない盲学校の教員もいる。自分たちの事だと考えて、次に続く視覚障害者のためだと思って団体に入ってほしい。 パネリスト  我々が毎年実施するアンケートでも通学の支援で同行援護や移動支援を利用したいと話題になる。しかし、日常生活用具と同様に大概18歳以上でなければ利用できない。例え、利用の許可が下りたとしても同行援護事業所のマンパワー不足で利用できないことが多い。通学にも同行援護や移動支援が利用できるようにしてほしい。 会場  現在は、昔と違って音声読み上げソフトや立体コピーがある。点字の教育にさえこだわらなければ、一般の学校に通い、勉強できるのではないかと思う。視覚障害教育を難しくし、専門性が求められるのは点字(点字教科書)である。また、晴眼者の生徒との違いからいじめられることにつながっていると思う。今から生まれてくる視覚障害者にとってこれからの人生、点字は必要不可欠なのか疑問に思う。 パネリスト  点字の指導が地域の学校で視覚障害のある生徒が学ぶことを難しくしている実態はあるのかも知れない。これからの時代は音声パソコンで打つ、読むのは音声で、難解なものもできるとも思っている。  しかし、物事をリアルにイメージできる人間に育てなければ、その人にとっての自由度が減ることになり、点字の学習は視覚障害者にとって必要だと思う。点字の読み書きをすることだけが、盲学校の目標と考えるのはどうかと思うが、ある程度読み書きができるようにならないとその人の自由度は上がらない。友達作りやコミュニケーション能力を培うために、地域の学校へ通わせるべきだというのもその通りだと思う。しかし、点字や歩行の訓練等が、視覚障害のある児童生徒のためになると理解している先生は地域には、ほとんどいないと言っても過言ではない。  私が支援した地域の学校に在籍する子供たちの多くは大なり小なりいじめを受けていた。この小なりの部分は嫌われているわけではないが、放っておかれるだとか、何となくよそよそしくされるだとかというもの。確かに周りの生徒とうまくやっている子もいるが、少ないように思う。理由としては、クラスの仲間づくりがうまくできないケースが多い。弱視の子に何が一番心配かと聞くと、「物を落とすこと」と答えた。彼にとっては消しゴム1つ落としたとしても悲劇で、手探りで探さなければならず、クラス中の視線が集まり、いやに目立ってしまう。そのため人と変わったことをしたがらず、中には落としたにもかかわらず、自分のものではないという子もいる。拡大文字と標準の文字のプリントを配っても、見えにくいのに標準サイズのプリントを受け取る子もいる。それだけクラスに軋轢があり、正直に見えないと言えず、心理的な軋轢を感じている子はたくさんいる。  また、そのことに担任が気付かない。そういうところを私は変えたいと思っている。 パネリスト  私自身、保育園・小学校と地域の学校に通い、5年生の時に漢字の画数が増え、文字が細かくなり見えづらくなった。ルーペを使えば見えることも分かっていたが、学校には持っていかなった。その後、盲学校に転校して仲間ができ、見えづらいことで苦労しているのは自分だけじゃないことを知った。通常の学級だと独りぼっちだったが、盲学校へ行き、勉強の仕方や生活における自分なりの工夫がわかった。地域の学校の体育はいつも見学で、「元気なのになぜ体育を休んでいるのか」と陰口を叩かれたが、盲学校で、生き方を学ぶことで、乗り越えることができた。  もう一つ大事なことは、日本盲人会連合も日本視覚障害者団体連合と名称を変更し、見えにくさで困っている人たちのことを考えていかなければいけない。 会場  子供が弱視で私立の中高一貫校に通っている。現在は高校1年生で、中学2年の時に発病したのだが、本人の希望で盲学校ではなく、引き続き私立の高校に通っている。勉強以外の学校行事や体育にも参加しており、交流関係についても概ね良好である。  学校側も子供の見えづらさについて話した時にiPadの利用を認めてくれて、大変理解してもらっていると思う。  今一番困っているのは勉強の問題で、晴眼だった時と比べて著しく成績が落ちてしまっている。弱視の方で成績のいい人もいると思うので、本人の努力次第と言えば、努力次第なのかも知れない。  学校の先生方にそのようなことでの配慮をお願いすると、盲学校で学んだ方がいいのではないかと言われると思う。今の学校に通いたいという本人の希望を優先し、家庭教師をつけてちゃんと勉強を追いつけるようにするべきなのか悩んでいる。  排除されているわけでもなく、受け入れてもらえないわけでもないけれども、友達との勉強についていけない子にどのように力になってもらえるのか。特別支援コーディネーターなんて言葉があるが本当の意味でのコーディネーターはいないのではないか。 パネリスト  意図的に排除されてはいないけれども結果的に排除されているのだと思う。授業の中でもiPad利用等は認めてもらっているということだが、それでも学習環境は十分ではないのだと思う。  視力が落ちたことで成績も落ちたのはどのような理由があるのか、どの辺が勉強しづらくなっているのかを考えた時、学校の教材の提供の仕方や教え方が晴眼者のみにしか伝わらないものになっているのだと思う。気づけばちょっとした工夫で何とかなる問題でも、気付いていないと問題となってしまうので、視覚障害教育の専門家もいる盲学校へ具体的に相談することを勧めする。 2.2.4.聴講者へのアンケート  より多くの声を集めるため、(1)視覚障害のある児童生徒の教育の課題(2)視覚障害のある児童生徒への教育に求められるもの(3)視覚障害のある児童生徒に関する意見・要望について記述式でアンケートを取った。アンケートは28人の回答を得た。 (1)視覚障害のある児童生徒の教育はどのような課題があると思うか。 @盲学校に在籍する児童生徒数の減少及び盲学校がセンター的機能をどう発揮させるか。 A特別支援教育コーディネーターが大事だと思う。 B教育とひとくくりにできない。初等・中等・高等の各段階でインクルーシブの意義は異なってくる。会場から出た点字の教育をしないという話は興味深い。 C盲学校在籍者数の減少傾向が止まらないこと。 D通常の学級等の周りの理解が必要。 E教員が転勤を一律で求められること。 F視覚障害教育の専門性の維持。 Gインクルーシブ教育へ向かう中での専門教育の在り方。専門性の高い教育は基本だと思う。 H視覚障害教育を専門的に学べる拠点(学校)の数が少ない。 I学校を選択するための情報提供量が不足していると思う。盲学校・地域の学校などのメリット・デメリットなど。 J教育者の育成。 K国が動くように考えていかなくてはならないと思う。本来受けるべきレベルの教育を十分に受けられないように感じている。そのため学校を卒業した後、障害を持たない子供に比べ等しい選択肢を持てないでいるように感じる。 L教員の専門性の向上を早急に可能にしてほしい。視覚障害教育に長く携わり色々な指導経験を積むことができるようにすること。専門性を身につけられる時間と機会を保証すること。5年やそこらで身につくものではない。管理職が教員を見極める力が必要だと思う。 M地域の学校に通うロービジョンの生徒の教育支援があまりにも手薄、主治医も保護者も見えにくさに気が付いておらず、介入がされていない。「どれくらいの数のロービジョンの生徒がいるのか」実数を把握されていないのが問題だと思う。 N○教員の専門性○児童生徒が配慮・要求できること○周囲の大人(先生・家族)が本人の学びやすい環境を作ること○理解啓発(専門性の高い先生や弱視学級担任が他の先生や通常級に在籍している。他の児童生徒へ)○通常の学級に通学する際に同行援護が利用できること。 O健常者と同等の教育機会が与えられていないと思う。 P教育を実践することによってのみ、教員は育つ。研修はあくまでそれを補完する力である。言葉での引継ぎのみでは教育の専門性は引き継げない。引き継ぐ人と引き継がれる人がともに現場で教育にあたることが不可欠である。長年月同一校勤務の長所短所とも重々分かってはいるが、少なくとも、視覚障害担当教員の在籍年数が理療科を除くと3年以内が半分以上という現状はひどすぎる。点字で学ぶ子、弱視用の手段で学ぶ子、他の障害も併せ持つ子それぞれが毎年入学してくるとは限らないのが地方の盲学校の現状である。せめて3年以内と4〜9年と10年以上が1/3ぐらいずつぐらいはほしい。 (2)視覚障害のある児童生徒への教育に求められるものは何だと思うか。 @自分から動きたい、触りたい、知りたいという意欲を育てること。 A人と喜びを共有したり、思いやったりする気持ち、先輩や先人に憧れる気持ちを育てること。 B意思を表明し、願いを訴える力を育てること。自分を知り、人に伝えることができること。 C「準じる」教科教育。 D基礎学力、主体性、社会とのつながり、概念形成。 Eできるなら普通科の生徒と同等の進学・進路を選ぶ自由、生き方を選ぶことのできる教育。いやな考え方だが、とびぬけた方が出ると世間の意見はさっと変化する。 Fハンディキャップを乗り越えることが大切なこと。 G人間には各々才能がある。ある程度のバリアは重要なこと。 H専門性の維持。 I専門的な教育が受けられる体制づくり。 J教育の広場(機会)を広げる事。 K個人・個人に合わせた教育が必要だと考える。 L弱視学級生徒にも見えないことを補う補助具やICT機器は最低限用意されているべきだと思う。 M社会に出たときに活躍できる力。 (3)視覚障害のある児童生徒に関しての意見・要望 @点訳ボランティアを地域でやっている。教員免状は所持していない。中途失明の講習を市から請け負っているが、仲間内の勉強でやっている。ボランティアが勉強する場があれば、そして小さなことでも学校の支援にかかわれたらいいのにと思う。 A日視連(当事者団体)で各学校の評価をしてはどうか。 B一般社会への対応、環境のありかた(作り方)。もっと細かい聞き取り調査をすべきと思う。 C東京都では弱視通級指導学級担任の専門性を高めるために各盲学校と連携して東京都弱視教育研究会で研鑽しているが、専門性がさらに高まるよう、勉強しニーズに答えていきたい。 D以前、長年月で転勤を促された時、どこの地域でもいい、地域の学校の弱視学級でも視覚障害教育に携わりたい。と希望したものの、希望はとおらなかった。本人の希望があれば、3年間など年限を区切って人事交流を行うのは可能ではないか。「盲学校籍で弱視学級を」は本当にすばらしい考えだと思った。「弱視学級あるけれど・・・」の話も残念ながらよく聞く話である。 E視覚障害のある教員が活躍すること、大賛成。私もかつてその恩恵を受けた。視覚障害のある先輩(教員)だから分かることや子供目線での共感が多くあり、何より職場の雰囲気が良くなった。晴眼の教員だから分かる保護者の気持や見て取れることもあり、お互いに認め合えて、ともに働く喜びを感じた。 Fもちろん、晴眼の盲学校教員も校内だけでなく、校外でも積極的につながっていく必要はあると思う。短い在籍年数でまじめに結果を出そうとするあまり、すぐ結果の出そうなことに注目し、マニュアル通りに指導しようとする風潮もあるのではと危惧している。 G保護者の話は耳が痛いことばかりだった。お母さんは「ただお母さんである」「笑顔で子供におかえりと言い、いってらっしゃいと送り出す」ことだけで十二分であるはずなのに、「戦う母」とおっしゃった状況は確かにあると感じ、教員の1人として、心苦しい。 保護者の方は担任に直接は言いにくいかも知れない、まして少人数のクラスではと思うと、PTA会長としてぜひ今後もいろいろな場で言い続けていっていただきたいと思う。 H点字教科書について  ただ、「打鍵文字で十分」「音声の教科書があれば良い」は、賛同するには材料が少ないと思う。音声化した教科書を与えれば万事OKなら、点字教科書編集作業の委員を招集することもなく、編成資料を作る必要もない。しかし、編成資料は欠点もあるものの、一定の「教科書の見方のマニュアル」としての役割を果たしている。言葉でいくら「教科書通りに教えるのではない」と言われても、具体例は大切である。視覚障害児を教える教員のほとんどは、視覚障害教育を受けてきた経験がない。学年対応の教科学習をするが数年に一度であることも多く、モデルが少ないためイメージしづらい。 (そして、点字表記法やレイアウトの仕方等の身近な実例でもある。)点字教科書編集作業はむしろ充実させてほしい。 I転勤が多くて引継ぎが難しいなら、転勤を少なくしてほしい。休み返上で短期間に仕上げざるを得ないなら、そうしなくて良いように、例えば1か月分、盲学校には講師をつけて、東京に派遣させるとか、じっくり検討できる体制をとってほしい。じっくり取り組めれば、それが教員研修にもなるはず。 Jどの教材をいつどの程度の比重で取り上げるのかが教育において、核になる経験は何なのか、過去どのように編集されてきたのか等について、ある程度以上の在籍年数と教科指導の経験のある教員や大学等の研究者たちが集まって検討すれば、全日盲研以上の研修になり、その先生たちが戻れば各校の専門性向上の役にも立つと思う。 2.3 ヒアリングの結果 2.3.1 盲学校ヒアリング  委員会及びシンポジウムを実施し、そこから浮かび上がった課題に関して盲学校に下記内容のヒアリングを行った。 T.盲学校の専門性の向上と地域支援 1.盲学校の専門性の向上と地域の学校への支援 (1)盲学校の専門性の向上と地域の学校への支援力の向上のための体制・仕組みをどのように構築すれば良いと思うか。 主な回答 @盲学校の専門性の向上 1.盲学校の専門性を向上させるには下記の条件が必要だと思う。 @教科学習ができる盲と弱視の児童生徒が校内にいること。  点字指導をしたことがない教員もいるので当事者の生徒が在籍していることが重要である。 A盲・弱視の当事者の教員が複数いること。 BICTに精通した教員がいること。 C一般校で教科教育の指導経験のある教員がいること。 D地域の視覚障害者の福祉団体及び施設等とつながりがある教員がいること。 E理療科の魅力を知っている教員がいること。 F中途視覚障害者のケア・支援ができる者がいること。 G地域の教育機関(学校・教育委員会)とつながりのある教員がいること。 2.専門性を向上させるため校内研修を充実させている。他の特別視覚支援学校からの転任や新任等の先生は、「新転任者研修」を年間10回ほど受講している。その主な内容は、「点字」・「歩行訓練」や「視覚障害者の理解」で視覚障害教育の基本を学んでいる。 3.新転任者はまず初級の点字講習を受ける。週1回、時間割に組み込んでいる。初級が終われば中級に進むカリキュラムを組んでいる。点字技能士の資格を有する教員が講師になっている。 4.「新転任者研修」、「専門研修」、「グループ研修」、3人1組でお互いの授業を見合う相互研鑽の研修がある。 5.小・中学部の生徒に対しベテランの教員と年数の若い教員と2人体制で取り組めるようにし、盲学校の専門性の維持・向上を図っている。 6.歩行訓練士の資格を有する教員が5人いるので、空き時間等を利用し「歩行指導研修」を実施している。校内から校外へアイマスクをつけての歩行体験を実施するとともにどういうところでどういう声かけをすれば子供たちの安全性を確保できるのか等について研修をしている。 7.盲学校の教育として外せない要素、「点字」、「歩行」、「ICT」の面で、それぞれの教員が何を学ぶ必要があるかを考えて、盲学校の在籍が長い教員・技能に長けている教員については、ペアリングやグループを組み、校内で伝達する仕組みを作って研修を行っている。 8.遠隔テレビシステムを活用して他の盲学校とも研修・協議をしている。 9.視覚障害教育と教科指導の両方の専門性が必要である。 10.昨年度から授業力の向上を目的に、各学部で研究会を設けている。大学の先生による講義や研修を実施している。 11.「重複」・「自立」・「幼児」の研究は行われている。教科の研究もあれば良いと思う。 12.転任してきて5年くらいではまだまだわからないことが多い。専門性を担保するために、視覚障害教育に熱意のある教員の転勤(人事)の確保に努め、機械的な転勤(人事異動)を盲学校には適用しない。 13.校内で学ぶ生徒に重複障害のある生徒が多くなったとしても、教科の教育は必要である。重複障害のある生徒の可能性を伸ばしたい。 14.教科指導は、研究部で今まで積み上げてきたものを情報共有している。教材や指導方法のデータベース化についてこれから考えていきたい。どういう教材があり、どういう使用をすれば子供たちに対して、効果があるのかをデータベース化して共有を図れないかと考えている。誰でもどこでも引き出せるようにしたい。動画があればなお良いと思う。 ワンポイントまとめ 〇盲学校の専門性の維持・向上を図るため、校内の研修を充実させている。 ・ベテランの教員と新任の教員が2人体制で学ぶことや、歩行訓練士の資格を所持している教員や点字の技能に長けている教員が講師を務め、「歩行」や「点字」についての研修を実施している。 ・お互いの授業を見学する相互研鑽型の研修も実施している。 コラム1:広島県の「授業の匠」認証制度  広島県では、小・中・高・特別支援で指導教諭がいる。指導教諭以外で、指導力の高い教員を広島県では「授業の匠」として認証している。指導教諭と授業の匠の教員等により、校内の指導力を担保している。 コラム2:北海道内での遠隔TVシステム  北海道内の4校(札幌、帯広、旭川、函館)は遠隔TVシステムでつながっている。 道内の盲学校に在籍する幼児児童生徒の教育活動における集団構成の確保の一助となるとともに、教員の研究会や会議等の専門性の確保のための連携においても大いに役立っている。 広い道内での移動時間及び旅費が削減される他、複数の教員が研修に参加できるようになっている。 主な回答 A地域の学校への支援力の向上 1.地域の学校へ支援する際、特別支援教育コーディネーターは欠かせない。ただ、特別支援教育コーディネーターは定数配置されているわけではなく、もともと配置されている教員の中から校長が指名して選出する。地域の学校へ支援する教員が定数配置されると体制が非常に強化できる。 2.特別支援教育コーディネーターの加配をしっかりつけてもらいたい。それも1人ではなくて、2人つけてもらいたいと思う。 3.特別支援教育コーディネーターが地域の学校へ支援に行く際の活動費(旅費)等の適切な予算措置を講じてほしい。 4.地域の学校へ支援するために、本校の先生の専門性を高めることに力をいれている。 5.地域の学校で弱視の児童生徒の担任をされる先生方に対しても盲学校独自の研修を実施するとともに、連絡会を用意して専門性の向上に努めている。今後も、発展していければと思う。ポイントになるのは、研修体制や地域支援体制を組むため適切な人員の配置を行うということだ。 6.本校は、年に2回サポート説明会を実施している。教育委員会や地域の小・中学校を対象に、地域支援活動等の説明や相談を行っている。 7.本校に在籍する生徒の学力に達しているのかを把握するため、地域支援のコーディネーターが訪問する際には校内で授業を受け持つ教員も同席する。実際に、小学校の授業の様子も見て、地域の小学校が教えているレベルを認識し、授業に役立ててもらう。 8.視覚障害教育の充実と課題解決を図るため、指導主事の確かな育成と地域の視覚障害児に対する指導の専門性の教育再生を目的とした小・中学校及び高等学校の学校訪問。圏域における盲学校の教育力や人材を生かした体制を構築する。 ※指導経験のある盲学校に所属する職員が指導主事の学校訪問指導の際にともに参加することによって、指導主事の視覚障害教育に係る指導力等の力量を向上させる。指導主事も視覚障害教育の関係者であれば、専門性の高い人がいるが、全員がそうであるとは限らないため。 9.公開研究授業を実施している。どの段階で、地域に通う生徒が盲学校へ転校すれば良いのか、地域の学校で継続して学べるかというような判断材料になる。 10. 公開授業や交流を通じて、視覚障害教育はやりがいがあると地域の小学校・中学校の教員に知ってもらい、盲学校へ異動を希望してくれたらいいと思う。 ワンポイントまとめ @地域の学校を支援する盲学校の教員(特別支援コーディネーター)が、定数配置されていない学校では、校内の教員から選出されている。地域の学校を支援する教員の定数配置が求められている。 A地域の学校において、視覚障害のある児童生徒の担任の教員に対しての研修も盲学校は実施している。 (2)盲学校に通う児童生徒数の減少や、地域に通う児童生徒への支援(ニーズの把握や範囲が広い等)の難しさ等、インクルーシブ教育システムの構築において盲学校が直面している課題はなにか。 主な回答 1.盲学校があまり知られていない現状がある。一般の方も保護者も、盲学校が盲の児童生徒のための学校という意識があるので、弱視(ロービジョン)への啓発について盲学校からも発信していかなくてはいけない。 2.盲学校というと盲の生徒が通うという誤解が、保護者や地域からもある。本校に通う生徒は3割が盲、7割が弱視である。そのあたりを知ってもらいたい。実際に授業を体験してもらうと、この学校だったら学びやすいと思ってくれるケースも多い。 3.保護者が盲学校のことを知らないケースもあるが、知っていても相談することをためらってしまう、またその生徒が在籍する学校側が盲学校へ相談することを止めてしまっているケースもある。 4.本校に在籍する生徒を増やすことも重要であるが、まずは、支援が必要な児童生徒を支援したいと思っている。教育委員会へ盲学校の活動(地域支援)を情報提供するとともに、相談を受けた方へ案内を送っている。十分に支援ができているとは思わないが、早くに情報を届けたい。早い段階から支援できていればと思う子も多い。 5.地域の小・中学校に通っている児童生徒の内、視覚障害のある児童生徒がどのくらい在籍しているかを確認したくても個人情報の壁があり、小・中学校から情報をもらえない。情報共有が進めば、盲学校からの支援も積極的にできるのではないか。 6.各圏域において、視覚障害教育の拠点校となる盲学校の支援が充実することにより、地域の学校に視覚障害のある児童生徒が在籍することが可能となる。しかし、盲学校の在籍者数が減少傾向となり、担当教員の指導経験の場面も少なくなり、盲学校に所属する教員の専門性が担保されにくい状況。地域支援を含めた教職員定数の見直しが必要だと思う。 7.学校は、在籍者数に応じて、教員定数が決まる。盲学校は、在籍者数を増やす努力をしながら、センター的機能として特別支援教育コーディネーターを派遣している。特別支援教育コーディネーターを校内の教員が担当しているため、校内授業の充実と地域支援との両立が難しい。地域支援にかかわる教員の定数化を求める。 8.校内で学ぶ児童生徒数が少なくなり、一方で地域の学校への支援が増えると、視覚障害教育の専門性の担保が難しくなることが懸念される。校内での授業の充実と地域支援のバランスをとるのが難しい。 9.限られた人員で地域支援を実施しているため、特別支援教育コーディネーターを酷使してしまっている。特別支援教育コーディネーターが疲弊している現状もあり、管理職が彼らのフィジカル・メンタルヘルスを、気をつけなければいけない。また、特別支援教育コーディネーターは、校内の教員と共有する時間が少なくなってしまうため、孤立しないようにフォローをする必要がある。 10.地域支援をする教員数を教職員定数法で定めるとともに、地域の学校等をまわる旅費を予算化してほしい。 11.盲学校に在籍する生徒数が減っている。また、その中で重複障害のある児童生徒の割合が増加している。 12.都道府県内に盲学校が1校または数校なので、地域支援する範囲が広い。 13.学校の授業を持たず、地域支援にあたる教育相談主任1名が加配されている。地域の学校との色々な連携はその教育相談主任がしている。実際の支援は、色々な教員に振り分けている。それが専門性の向上につながっている。 14.県には「公立学校教職員人事異動方針」があり、すべてのケースに当てはまるわけではないが、人事異動の対象になるサイクルは早いと思う。 15.盲学校を経験された先生をもう一度盲学校に戻すには、校長先生と教育委員会がやり取りをする。人事異動方針があるけれど、必要な人材はそれにかかわらず、交渉していく。 16.地域の学校に在籍している生徒にどういう教育内容が提供されていて、どういう形で一緒に学んでいるかをしっかり把握していないと、本当の意味での支援につながらない。 17.教育相談を担当しながら、授業も受け持っている。校内の授業を受け持つことで、授業力がつくこと、校内の様子も把握できることは良いこともあるが、なかなか外にでることができず、地域支援の面でもどかしさを感じる。 18.特別支援教育コーディネーターを活用して、視覚障害の専門性のある盲学校と地域の学校の通常の学級・弱視学級をどうつないでいくか。 19.月に1回、多くて2回の支援だと、十分に支援できていないようなジレンマを抱えながら指導をしている。 20.盲学校で校内研修をするなど地域の先生方への支援に取り組んできたが、支援をした先生方が1年ないし2年等でどんどん異動してしまう。どんなに支援しても地域の学校での視覚障害教育のノウハウが積み重なっていかない。 21.小・中・高の途中から盲学校へ転校してくる学生も少しずつ増えている。点字の学習に移行しなければいけない生徒は、地域の学校で学ぶことは難しいからだ。保護者も専門的な学習を受けた方が良いと感じるようになるが、そうなる前に盲学校にきて高等部まで一貫して教育を受けられればよりきめ細かい教育が受けられると思う。 22.中学校入学や高校入学の時期にあたり、人間関係に悩み盲学校に転校してくる生徒がいる。そこで初めて情報保障や自身の障害の状態を理解する生徒が度々見受けられる。当該生徒の文字指導、補助具の活用及び心のケアが必要。 23.教育委員会の担当者に特別支援教育に携わった人がいるかいないかで、盲学校の取り組みへの理解度や予算措置等が異なる。教育委員会に盲学校での教員経験者がいることは重要だと思う。 24.県内の聴覚障害者を対象とする特別支援学校は、通級指導教室を設置しているが、視覚の特別支援学校は通級指導教室を設置していない。 ワンポイントまとめ @盲学校の教育や地域の学校への支援の取り組みが、保護者や地域の学校の教員等に正しく知られていない現状がある。 A地域の学校を支援する盲学校の教員が定数配置されていない学校では、校内の授業と地域の学校への支援の両立が難しい現状がある。 また、盲学校は都道府県内に1校または数校しかないため、支援する範囲(移動距離・児童生徒の年齢等)が広い。 B盲学校の教員及び地域の学校で視覚障害のある児童生徒を担当している教員の頻繁な人事異動があり、視覚障害教育のノウハウ及び専門性が積み重なっていきにくい。 C「心のケア」、「情報保障」等の観点からも早い段階から視覚に関する教育の支援が必要であるものの、個人情報の壁や本人及び保護者の障害受容の過程から難しい現状がある。 コラム3:医療機関との連携の課題  大きな医療機関(国立、県立、医療大学付属)等は地域の中核となり、地域に住む視覚障害のある子供の情報を集約するとともに、盲学校との連携もしやすい。 しかし、そのような規模の医療機関がないと、視覚障害のある子供の状況を全体的に把握することが難しいとの意見があった。 また、国立病院内で盲学校の相談等の連携をとっているところもあった。早期発見には地域の実情による課題がある。 コラム4:子供の見えづらさに保護者が気付かない  地域の学校に通う網膜色素変性症の子供を支援した時のことであるが、保護者は黒板に書いてある字を読めるものだと思っていた。 しかし、子供に聞くと「見えてない」と言い、保護者は驚いていた。 子供は自分が見えづらくて困っていても保護者にも言わないことがある。 コラム5:あまり知られていない盲学校の取り組み  下記の盲学校の取り組みがあまり知られていない。 〇幼稚部等が3歳未満の乳幼児やその保護者への教育相談も行っていること。 〇小・中学部では、小・中学校と同じ教科等を視覚障害に配慮しながら学習するとともに、歩行の訓練や点字学習等の視覚障害に専門的な教育(自立活動)を行っていること。 〇地域の学校に通う児童生徒がその学び場で学習がしやすいように環境整備や指導方法等を提案すること。   等 (3)インクルーシブ教育システム構築のための特別支援教育が推進される中で、地域の小・中学校は、自校で学ぶ特別な支援を必要とする視覚障害のある児童生徒への指導力を向上させるためにどのような意識を持ち、態勢を組んでいるのか。(盲学校の校長のご存じの範囲でお答えください) 主な回答 1.特別支援教育パートナー・ティーチャーを派遣できている。直接子供たちを支援するわけではなく、担任教員などに学習指導の進め方や指導計画の作成などについて継続した支援を行い、小・中学校、高等学校の通常の学級や特別支援学級に在籍する発達障害を含む障害のある児童生徒に対する指導及び支援の充実を図っている。 2.地域の小・中学校の先生がどれだけ特別支援教育に関心を持っているかが、地域の学校で学ぶ視覚障害のある児童生徒への支援の大きな要素になる。 盲学校がいくら支援をしたいといっても、地域の学校から支援を求める声が少ないように思う。 3.地域の子供たちと盲学校がつながっていることが重要。そういう意味で指導主事がちゃんと視覚障害のことを理解していると、その生徒が弱視なのか発達障害なのかがわかり、早めに盲学校につないでくれる。 4.地域によっては教育委員会を通じて盲学校に支援を求めるしかない。地域の学校への支援がスムーズにいかない要因はそこにあるのではないか。 5.インクルーシブ教育をすすめる、1つの手段が、通級指導かとも思う。例えば盲学校による通級が、可能でなおかつ担当教員に加配が入ると良いと思う。 6.地域の小・中学校の教員にも、特別支援教育の考え方が根付いてきたように感じる。障害がある生徒に対応する意識が変わったように思う。 ワンポイントまとめ 〇盲学校へ支援を求めることにつながるかどうかは、地域の学校の視覚障害教育に対する理解度による部分が大きい。 コラム6:特別支援教育パートナー・ティーチャー  札幌市で派遣している特別支援教育パートナー・ティーチャーにおける教育相談を中心とした弱視特別支援学級設置校を支援する中でとらえると、特別支援教育に理解のある校長先生が在籍する設置校は、盲学校との連携を密にすることにより、下記のメリットがある。  ・当該学級担任の研修の機会を確保する。  ・校内チームを形成する 等 (4)児童生徒数を増やすためにどのような取り組みをしていますか。 主な回答 1.地域の小・中学校に通う児童生徒の保護者の多くは、盲学校に対して下記のようなイメージを持っている。教育相談や校内見学等をとおして、そのマイナスイメージを払拭している。 ○盲学校に相談や校内見学したら盲学校に入学しなくてはいけない。 ○盲の児童生徒しか校内で学んでいない。 ○教科の学習はせず、視覚障害教育(点字や歩行訓練)しかしていない 2.学校の授業風景等を保護者等に公開する際、午後は、医療・福祉等の関係者を対象とした学校公開と研修会を実施している。 3.保健センター等をまわって意見交換や講義を実施している。 4.夏休みに校内の全教員(職員)が3人1組になって理解推進のため地域をまわっている。 ・市町村の教育委員会 ⇒ 小・中学校の地域支援の理解 ・自治体の障害福祉課 ⇒ 乳幼児(幼稚部)教育相談等の理解 ・ハローワーク ⇒ 高等部の理解 5.校区内域全教育委員会や保健センターを校長先生・教頭先生を中心に訪問し、研修支援を行うなどの連携体制を構築した。校区内に視覚障害のある幼児が何人いるかも把握することができた。 その中で、本校に入学希望があり、幼稚部を2年ぶりに開設できる予定。 6.本県の聴覚の特別支援学校の教育相談は独立している。盲学校も地域支援部のように、独立性を考慮させ、相談業務や地域支援に専任できれば、より一層責任感が生まれるではないか。 7.今年度から特別支援学校に在籍している生徒が地域の小・中学校籍をもつ、交流籍(副籍)の制度が始まった。地域の学校の意識も変わると思う。 8.学校をいかにPRできるかも課題である。ホームページの他に学校のFacebookを始めた。盲学校では、ホームページと比較するとアクセス数は増えている。 なお、Facebookは個人での登録が必要で、校長先生が製作・管理している。 ワンポイントまとめ ○教育委員会や保健センターを周るとともに、公開授業等を実施することで盲学校の取り組みを理解してもらえ、在籍数が着実に増えている。 コラム7:沼津視覚特別支援学校の取り組み @教育委員会や自治体の担当者へはiPadで撮影した学校の授業風景等を見てもらい、イメージをつけてから説明している。○○市へ説明にいく場合は○○市に住んでいる生徒の様子を見せている。 地域の子がどれだけ頑張っているかを理解してくれる。 A市町村の研集会の講師を、盲学校で引き受けている。学校にあるiPad21台をもっていき、7人の教員で説明した。通級の先生の勉強会にも呼んでもらっている。 教育相談の際に保護者から「教科書がiPadで読めるので盲学校に通います」と言われたこともある。上記のような取り組みの成果で生徒数が増えた。 B学校のパンフレット「あいあいセンターぬまし」を作成し、教育相談機能を前面に出した。また、浜松と静岡の県内の3校で「あいあいセンター」の名称を使用するよう統一した。 それで「盲学校」=「センター的機能」というイメージを持ってもらうように心がけている。 コラム8:塙保己一学園の取り組み  埼玉県全域の特別支援学校の集まりで、本校の説明をしている(パンフレットの配布)。また、埼玉県が実施している「WIN−WINプロジェクト」に参加し、地域との連携を図っている。 (地元自治会や県内の様々な施設で、生徒が県民・市民に対してマッサージを行い、技術の向上と感謝の気持ちを学ぶ教育活動を推進もしている。) コラム9:同じクラスの児童生徒も理解してくれる  地域の学校で、グループに分かれて受ける授業があった。皆の真ん中に図鑑を置いて授業を受けるのだが、弱視の生徒は見えないため、顔を近づけていた。 そうしたところ他の生徒が嫌がってしまった。そこで、その図鑑をiPadで写真をとり、拡大して見せてた。その子も他の子と同じように図鑑を見ることができた。 周りの子も見えづらさを理解してくれた。また、他の生徒も図鑑を見ているだけではわからなかった細かい特徴が、iPadで拡大することで見えることができた。 コラム10:児童生徒の保護者  地域の学校で、定規のメモリが見えない等の困っている生徒がいることが分かった。 学校へ相談・支援に行った際に、工夫することで見えやすくなることを生徒が喜んでくれた。その生徒は「学校に視覚の学校の先生がきて教えてくれて見やすくなった」と親に言ってくれる。 そういう取り組みをしていくとおのずと保護者の意識も変わる。 2.専門性の担保に向けての取り組み (1)教員の専門性の向上(特別支援学校教諭免許状:視覚教育)  視覚障害教育を実施している学校(場)においては、視覚障害教育の専門性を持った教員が配置されること(免許保有率の増加と研修の充実)が求められている。 特別支援学校教諭免許状の保有率を増加するためにはどのようなことが必要だと思うか。 主な回答 1.特別支援学校教諭の免許状(視覚障害)を取得できる大学は、肢体不自由者と知的障害者の免許資格を取得できる大学と比較すると数は少ない。視覚障害を学べる大学を増やしてほしいと思う。 2.免許を持っていない教員は教育委員会が実施している「免許法認定講習(特別支援教育)」で学び、3年以内に免許を取得するよう取り組んでいる。 3.4月になり、異動があると免許の保有率が下がるのが悩ましい。  転任者が視覚障害の領域をもっているとは限らない。 4.本県に、視覚障害の領域を学べる教育大学はなく、新任から視覚障害教育の免許をもっている教員はほとんどいない。 5.県内の教育大学で、各障害別の認定講習がすべて開校されている。また、領域の追加はある程度早いサイクルで取得できる。 大学の卒業生もすべての障害種別の免状を保有していることが、高い水準の確保につながっている要因になっている。 6.地方で、地域の小・中学校から転任した教員は、当然免許を持っていないため、認定講習を受講して免許を取得してもらっている。 しかし免許を取得しても、他の学校へ異動してしまうため、いつまでたっても向上が図れない。 盲学校で専門性を身に付けて、もう一度盲学校にきてほしい教員については「視覚障害チーム(仮称)」の名簿に名前を登録し、人材リストを整えておいて、それを活用できればいいのかとも思う。 それによって免許の保有率の向上と指導力の向上が伴うのではないのか。 7.特別支援学校の教員の多くは、他種別の教員免状を取得するために努力している。これはいいことではあるが、免状を取得し、基礎知識があっても、その障害の教育に携わったことがない教員が多い。 免状を持っていることで専門性が高いと思われ、人事異動(配置)があるので、免状がある教員が必ずしも専門性が高いという認識は考えなければいけない。 8.新任・転任の教員には、認定講習を受講してもらっている。認定講習を自分の県では受けられないところがたくさんある。各地域で認定講習を受けられる体制が求められている。 9.団塊の世代の教員が大量退職し、新任の教員が増えてきている。教育大学で視覚障害の領域を学んできた教員は少ない。また、特別支援教育の免許状はもっていても、知的や病弱の領域だけ持っている人がほとんどである。ベテランの先生方の経験値や、専門的な知識を若い方に指導してくれている。視覚障害教育で言えばベースになるのが点字や白杖歩行であるが、その専門性も校内で高めていきたい。 10.3年以内に免許を取得するように教員の募集要項に記載されている。強制力はないが、それを基に校長が指導する。 11.視覚の免許を持っていない人も何人かいるが、あえて取得しないという教員がいる。それは、いずれ他の障害種別の特別支援学校で学びたいという理由からである。 ワンポイントまとめ @特別支援学校教諭の免状(視覚障害)を取得できる(学べる)教育大学が他の領域(知的・身体等)と比較すると少ない。 A新任・転任で視覚障害の領域の免状を所持していない際は、認定講習を受け免状を取得するが、地域によっては認定講習が実施されていない。 (2)視覚障害教育に関して学修を深めた大学院生や歩行指導研修を受け歩行訓練士の資格を有する方を学校現場に招き入れるために、積極的に動いているか。 主な回答 1.歩行訓練士の資格を有する教員もほしい。今の段階で、日本ライトハウスや国立障害者リハビリテーションセンターの歩行訓練士の養成研修に行って、復職が認められている制度は無いと思う。 そういう制度があれば、歩行訓練士の資格を有する教員も増えるのではないか。 2.県には歩行訓練士の資格を教員が取得できる仕組みはない。(研修参加への補助制度等)歩行訓練士の資格を取得してから教員になった人が県内に1人いる。 3.予算措置により、日本ライトハウスで歩行訓練の研修を受けることができる制度がある。現在、本校では2名の歩行訓練士の資格を有する教員が児童生徒の自立活動や職員の研修などでその専門性を発揮している。 4.歩行訓練士の養成研修を受けて、学校に戻ってきた先生はひと味もふた味も違う。教育委員会や盲学校としても、研修を終えた教員を招き入れるアクションがもっと必要。 5.歩行訓練士の訓練は日本ライトハウスで半年間かかるが、教員が少ないと研修に出しづらい。 6.歩行訓練について学べるのが、「国立障害者リハビリテーションセンター」と「日本ライトハウス」である。 「国立障害者リハビリテーションセンター」の養成課程に教員を通わせたいと思っても期間が2年間、また学費も高いので通わせることはできない。 日本ライトハウスのように、盲学校の教員も通わせやすいように授業を配慮してほしい。また、公立の盲学校の教員であれば、授業料を半額免除する等も考慮してほしい。 7.歩行訓練士の教員が各学部に1人いると安定すると思う。外部から、歩行訓練士を受け入れることも検討する。 8.歩行訓練士の資格を持つ教員の異動が決まれば、他の歩行訓練士資格を持っている人を戻すことを検討する。 9.日本ライトハウスでの歩行訓練士養成課程を受講する取り組みをしている。現時点で、校内に3〜4人いる体制を組んでいる。受講料は自己負担だが、それに見合うだけの6か月の出張旅費が県からでる。 10.歩行訓練士養成研修を受講するための財源的な支援が必要である。 11.歩行訓練士が校内にいるので、外部から招くことは考えていない。 12.先天性の視覚障害のある子供たちへの歩行訓練を学べることも今後重要だと思う。 13.外部の専門的なノウハウを持っている人に年に何度かきてもらう「多様な人材活用」・「社会人活用」という仕組みがある。歩行訓練士、視能訓練士、理学療法士、作業療法士等を外部から招いている。 14.歩行訓練士の資格を取得して、福祉の団体や施設に就職しても、歩行訓練に携われないケースが多いと聞く。盲学校に歩行訓練に携わるポストを用意してはどうか。 15.肢体不自由の教育現場で言えば、外部の専門家がかなり入ってきている。例えば理学療法士、作業療法士等の専門家が入って、教員を指導する仕組みができている。 視覚障害教育現場にもそのような取り組みを入れてほしいと思う。 16.点字技能士は、強制ではないが、試験を受けることを推奨している。現在校内に5〜6人いる。 ワンポイントまとめ @いくつかの県を除き、訓練士の養成研修体制は確立されていない。 A先天性の視覚障害のある子供たちへの歩行訓練のカリキュラムが求められている。 (3)教員としての基盤的な資質及び教科の専門性も必要とされている。専門的教育と教科の指導の両立をどのようにしていけば良いか。算数・国語等の教科の副教材の充実(ドリル等)を増やすためにはどうすれば良いと思うか。 主な回答 1.視覚障害教育の専門性と、教科の専門性の両方が重要であると思う。各校の人数が少なく、教科間の研究が少ないという課題はある。 2.地域の交流及び共同学習の相手校への授業参観を推進・実施。 3.地域の学校の教科の研修に参加させてもらっている。 4.交流している学校に普段から授業を見学する体制が必要。 5.教科別の研究会を実施している。 6.全校の授業参観を年に2回実施している。 7.公開授業週間を実施している。教員が他の学部に行って、授業の様子を見てコメントしている。 8.教科指導の専門性については、教務が中心となり、教科サークルを形成し、会議を入れない曜日を水曜日とし教材研究日を設定している。 9.視覚障害教育研究会において教科部会を設定し毎年研究会を実施している。 10.副教材を作成した後は、みんながサーバーにアクセスできるように管理されている。 11.校外の点訳ボランティアさんに点字の副教材の製作を依頼できる仕組みがある。 12.点訳団体や教科サークルでデータを作成している。 13.教科は、点訳事業部に点訳をしてもらう。点訳事業部に点訳をしてくれる先生がいる。 14.「読書バリアフリー法」の制定により、副教材を増やしていくことを主張していかなければいけない。 ワンポイントまとめ @教科の指導力向上のため地域の学校と研修を実施するとともに授業を見学するなど連携を図っている。 A校内で点字の副教材を作成し、そのデータを共有している。 コラム11:東京都の取り組み  来年度から「授業研究協力校」という制度ができる。盲学校はすべて対象で、地域の小・中学校、高校と連携して、それぞれ授業を担ったり教科指導の特質について合同で研究ができる。 コラム12:広島県での取り組み  学校事務アシスタントという非常勤の職員が2名いる。視覚障害の先生の点訳やアシスタントをしている。PDFファイルも、テキストにしてくれる。県が、障害者雇用の一環として非常勤として学校に配置してくれている。 コラム13:ドリルの課題  教育委員会が、各教科の基礎的な学習内容及び知識を身に付けるためのドリルを作成しているが、点字版、拡大文字版、音声版はない。 (4)組織の活性化のために人事異動は不可欠とされる体制の中で、視覚障害教育に係る専門性の高い教員が再び盲学校に異動する「リターン人事」の必要を各校長が教育委員会に訴えていることについて、教育委員会の説明はどのようなものか。 主な回答 1.各県に1校しかない地域は、隣接する県との人事交流があれば専門性を担保しやすいのではないか。 2.隣接する県と人事交流を実施している地域もある。 3.筑波大学附属視覚特別支援学校への人事交流を活性化させてもいいのかも知れない。交流を1回の異動とカウントし、地元に戻れるような仕組み(体制)を確立するのが良いのではないか。 4.弱視学級を置く小学校に3年間異動し、戻ってきた教員がいた。地域の学校で色々と学び、指導力が向上していたように思う。 5.学校長が教科等を踏まえて教育委員会と協議している。 6.新任の教員を2〜3人採用して、視覚障害教育を学んでもらい、他の盲学校に送りだすことを実施している。適正に疑問符がつく転任の教員については、盲学校は専門性が必要であり、難しい旨を伝え断っている。 7.特別支援学校の間で人事異動がある。地域の学校の弱視学級の先生との人事交流はない。 8.他校へ転任し、その後本校に戻ってくるリターン人事は認められている。 9.都道府県内に数校盲学校がある場合、視覚障害教育の専門性を担保するために人事交流が必要だと、教育委員会に訴えていく。 ワンポイントまとめ 〇視覚障害教育に熱意があり、専門性の高い教員が視覚障害教育に携わる仕組み(体制)、他県の盲学校との人事交流やリターン人事が求められている。 コラム14:大阪府の「特得(とくとく)システム」  教員が自主的に特技や得意分野を登録し、特技等を活かした異動を行う仕組み。このシステムを活用して、校長は必要な人材の確保に努めている。 (例)点字ができる。歩行訓練ができる等 コラム15:大阪府のTRy(トライ)システム  各学校がそれぞれの学校課題に応じて教員を公募し、それに応募した教員の中から必要な人材を確保する仕組み。 (5)視覚障害教育の経験者(盲学校、地域の学校の弱視学級担任等)が地域の学校で学ぶ視覚障害のある児童生徒の教育に携わる工夫や取り組みが行われているか。 主な回答 1.盲学校の教員が弱視学級の担任に異動することはあまりない。弱視学級で活躍した教員が盲学校へ転任したいということはあると思う。 2.3年間限定の交流人事がある。原則1人1回であるが2回交流した教員もいる。教科の専門性を高めるためには交流も必要と言える。 3.地域の学校の弱視学級の担当の先生は、弱視学級をもつのは初めてという先生が多い。どういう教育をするかを考えるところから始まる。 弱視学級の先生と生徒に一緒にきてもらったり、こちらからも伺って情報提供や環境整備をしたり指導方法を考えたりしている。 県内の視覚障害教育については、本校に相談するという体制を構築したいが、本校を知らない教員も多い。 4.本校の見学会にきてもらって体験してもらうことは可能。 5.教育相談会を校内だけでなく、他の市でも実施している。サテライト授業を実施している。 6.県内に弱視学級を設置している学校がない。 ワンポイントまとめ @地域の学校の弱視学級の担当の先生は、弱視学級は初めてという先生が多い。弱視の生徒の学ぶ環境の整備や指導方法については盲学校からの支援が必要。 A弱視の生徒への情報提供、環境整備、指導方法等を盲学校に相談していいということを知らない学校の教員もいる。 U.センター的機能を充実するための連携 3.盲学校が特別支援学校のセンター的機能等をさらに充実していくための施策や連携。 (1)福祉団体・医療機関・地域の学校とどのような連携が望ましいか。 主な回答 1.見えづらさを感じたら、まず眼科にいくので医療機関と連携し、早期にお子さんの教育の支援をしたい。 2.生後直後、3歳児健診、就学時に視覚障害があると認知された時点で、保護者との合意形成を図りながら、各機関と情報を共有することから始め、視覚障害者のデータバンクを構築するなど、社会全体で視覚障害者の所在を共有するとともに、保護者、本人の意向を大切にしながらも生涯の支援を明確に打ち出したい。 3.眼科医でも情報を提供してもらえない(つながらない)ところがある。連携を図っていきたい。 4.スマートサイトの活用で眼科医、福祉団体等との連携が取れるようになってきた。より一層連携を強化していきたい。 5.孤立しがちな保護者をつなげるよう連携が必要。サテライト教室等があればいい。 6.スクールソーシャルワーカーのような人が家庭支援を含めてできるといい。教育相談を担当するのが教員だけでは、相談に荷が重すぎることがある。 7.特別支援学校の小・中学部在籍の児童生徒が、居住地域の小・中学校に副次的な籍をもち、交流を通じて、居住地域とのつながりの維持・継続を図る制度(副籍)がある。 全国的に制度がないところもあるので、その制度が広がればいいと思う。 8.生徒への日常生活用具の給付等の相談や余暇活動、また自立活動で福祉団体と連携したい。 9.困った時に相談にのってもらえるような担当者同士のつながり。 ワンポイントまとめ ○医療機関・盲学校・当事者団体等の連携を強化し、孤立しがちな保護者を早期に福祉及び教育につなげることが求められている。 (2)国や都道府県からどのような支援があれば良いと思うか。(予算措置含む) 主な回答 1.盲学校のほとんどが各県1校ということを踏まえ、人事の体制を考えてほしい。 2.1県に1校しかない地方の盲学校への支援が必要であり、そのためにブロックでの部会(校長会のブロック)が充実することが必要である。そのための予算措置を含めた支援体制の確立が重要である。 3.ほとんどの特別支援学校が秋には、地域支援の旅費の予算を使いきってしまうため、拡充してほしい。また、全国で予算がついていないところには予算措置を講じてほしい。 4.地域支援に携わる教員の定数化及びその旅費等の拡充。 5.中学部及び高等部の進路にかかわる取り組み、就労にかかわる組織的な体制のため、人の配置や旅費等の措置。特殊教育から特別支援教育になり、特別支援教育で学ぶ子たちが増加しているにもかかわらず進路にかかわる予算措置は変わっていないことから、その対応が必要。 6.視覚障害の子供を早期に発見し、福祉と教育にどうつなげていくか、視覚障害児の早期支援に向けた保健・医療・福祉・教育の連携を国としても考えてほしい。 7.盲学校に通いたくても、自宅から遠いために通えない生徒もいる。同行援護等の福祉制度が通学でも利用できるようにしてほしい。 6.盲学校に通う児童生徒が安心・安全に通学できるような移動の支援が必要だと思う。同行援護が通学でも利用できればいいと思う。 8.小学部と同様、幼稚部も放課後デイサービスを利用できるようにしてもらいたい。 9.早期教育相談にも人員配置がされていないため、人員を配置してほしい。 10.盲学校の教員が歩行訓練の資格を取得しやすいようにする仕組みづくり。 11.専攻科等では視覚障害のある当事者の教員が多い。当事者の教員にアクセシブルな形(点字・テキスト等)で情報を伝えるために、フォローする事務担当者を配置してほしい。 12.幼稚園・保育園に籍をおきながら盲学校(幼稚部)で視覚障害に関する教育を受けられるようにしてほしい。 保育園では、週2〜3日盲学校へ通うのであれば、保育園に預ける必要がないのではという考えになってしまうが、そうではない。 ワンポイントまとめ @盲学校は都道府県内に1校または数校のため、他の盲学校との連携の強化が求められている。 A地域の学校への支援に携わる教員とその活動費(旅費)が求められている。 B同行援護や移動支援等の制度が通学でも利用できるように求められている。 コラム16:生徒の通学 祖母が片道1時間30分くらいかけて、バスで送り迎えをしている生徒もいた。家族の負担が大きいとともに、そのように祖母が通学できる家庭ばかりではない。 4.特別支援学校の整備・再編を計画  各自治体が今後、特別支援学校の整備・再編を計画(検討)する際に、視覚障害教育の専門性を担保するにはどのような形が望ましいと思うか。(併置校等の在り方) 主な回答 1.併置化されても、視覚障害教育部門として独立し、専門性を有した教員の配置をすれば専門性は担保しやすい。 2.総合化や併置化した時に学校の名称から、視覚障害教育を対象としているということが、わからなくなる。県内の特別支援学校として、どのように視覚障害教育をアピールしていくのかが課題になる。 3.校長・副校長・教頭の内、誰かが視覚障害教育を経験していないと難しい面がある(保護者の信頼を得るためにも)。 ワンポイントまとめ ○併置化されても、視覚障害教育部門として独立し、専門性を有した教員の配置をすれば専門性は担保しやすい。 5.早期教育支援 (1)視覚障害のある児童生徒の早期支援の課題はなにか。 主な回答 1.視覚障害児・者がどこに通っているのか等の情報をつかめない。調査しても、うまくつかめない。 2.保護者が視覚障害児に対する療育方法やそれに関する情報を取得することが難しい。 3.保健師の視覚障害への理解が不足している。 4.本校を知ってもらうことが必要だと思う。眼科医も地域の人たちも盲学校があることは知っている。ただし、盲学校がどのような授業をしているかは、知られていない。 盲学校の取り組みを情報発信していく必要がある。視能訓練士を養成する学校でもどんなことをやっているのか知らないので「見学させてください」と言われることがある。啓発活動にゴールはないように思う。 5.早期支援が必要だとわかっているが、早期支援に携わる教員が少ない。 6.教育相談(地域支援)に1人、加配がついている。しかし、少ない教員で授業も担当しているため、校内の授業も担当し、教育相談・地域支援に専念できない。 保健センターへ出張相談等でいった際には、授業を振替しなくてはいけないのがつらいところ。 7.本校には超早期相談担当者がいない。県内の他校にはいる。他校から本校に超早期相談担当が2週間に1回程度きてくれている。超早期相談担当者がいる学校では相談を手厚くできるが、本校では難しい。 超早期相談は重要であるため、人員を配置してほしい。 8.教育相談担当が、0歳〜2歳の早期教育相談をし、保護者との信頼関係を作っているのも大きい。そうして相談にのった子供が地域の小学校に通った後、中学校は盲学校を選んだ子もいる。 9.幼稚部に活気があり、早期相談されるお母さん同士がそれぞれに話す場を作っていることが重要。 ワンポイントまとめ 〇早い段階から保護者と盲学校がつながり、保護者の心の支えの場を提供する必要があるものの、個人情報の壁もあり、視覚障害児・者がどこに在住するのか等の情報をつかめない現状がある。 (2)保育園・幼稚園に籍を置きながら盲学校(幼稚部)でも視覚障害に関する専門的な指導を受けたいという保護者のニーズについてどのように考えるか。 主な回答 1.保護者特に母親が苦労してしまう。どのように育児して良いかわからないまま全部やってあげてしまう。そうすると盲の子で言えばボディーイメージが作れないまま盲学校にくるので学校でも苦労する。   早期から盲学校がサポートできるといい。 2.支援が必要な乳幼児を学校が把握することができない。学校に支援を求められたら受ける、受け身の体制になってしまっている。 3.乳幼児段階から盲学校がかかわると、保護者の盲学校への意識が変わり、ことあるごとに相談にきてくれる。早期の3歳以前の支援がとても重要である。   盲学校としても、早期教育がいかに大事なのかを説明できたらいいと思う。 4.情報保障の手立てやそれに伴う発達を促すかかわりのノウハウが盲学校にはある。地域の幼稚園においては同世代とともに集団行動することで人間関係の形成が得られる。   保護者にとっては、健常の育ちと視覚障害に起因する育ちにかかわる必要な支援から的確な障害理解や就学の場、将来的な子育てについて早い段階で意識することができる。 5.盲学校の幼稚部にきてほしい児童は多い。幼いころから視覚に関することを学んだり体感したりするとだいぶ違う。小・中学校等から転入してくる生徒で、もっと早く盲学校に入学していればと思うことも多い。   本当にもったいない。併行通園だと盲学校に軸足を置いてくれるのではないか。視覚障害教育の重要性をしっかり見てもらいたい。 6.月曜日〜木曜日まで個別、金曜日は集団保育を実施したい。保護者同士で意見交換をするなど、保護者への支援も必要である。 7.週3日〜4日盲学校に通ってほしいと思う。 8.将来的に盲学校の進学を考えている児童については、幼稚部に入って一緒に学ぶことは意味があると思う。 9.両方の良さを受けられることのメリットはあるが、一方でどちらも中途半端にならないようにしなければいけない。 ワンポイントまとめ 〇早期(3歳以前)の支援がとても重要であることが共通認識であるものの、保育園・幼稚園に籍を置きながら盲学校(幼稚部)でも視覚障害に関する専門的な指導を受ける体制が確立されていない。その体制づくりが求められている。 (3)視覚に障害のある児童生徒の保護者へどのような支援が必要だと思うか。貴校ではどのように取り組んでいるか。 主な回答 1.適切な情報提供による早期からの療育の充実と保護者の心理的サポート。本校ではこの目的のため0歳児から、教育相談で対応しているが、本校の存在及び教育相談を行っていること自体が当事者になかなか知られていないのが現状である。   PTA研修や教育相談者を含めた親子教室などで、子育てや将来についての相談などの情報交換の場を設定している。 2.聴覚の特別支援学校で教育相談を担当していた時は、自宅への訪問をしていた。今は、教育相談における家庭訪問を実施していない。 3.親同士がつながることが大切である。月に1回交流会を開いている。交流会には、教員だけでなくソーシャルワーカーも入ってほしい。 ワンポイントまとめ 〇教育相談を含めた親子教室、子育てや将来についての相談などの情報交換の場を学校に設定しているものの、盲学校の存在及び教育相談を行っていること自体が当事者になかなか知られていないのが現状である。 6.ICT化教育  Society5.0に対応した、特別支援教育のICT化(ICT機器(タブレット等)の活用、個別最適化した学習の推進など)について、視覚障害教育の観点からどのように考えるか。  その課題や良い点、盲学校として行っている取り組みを教えてほしい。 主な回答 1.教員がタブレット等を活用し、児童生徒に適切に教えることができるのか不安がある。できればICTの推進にかかわる指導員を盲学校に配置し、教員は授業に専念できる環境にしてほしい。   指導員制度があるものの、視覚障害教育にはなかなか配置されない。 2.視覚障害者の場合、タブレットを自分の使いやすいように設定をする。個人で持っているタブレット等の使用を希望する場合は、使用させてあげたい。   BYOD (Bring your own device)のための体制及び環境づくりも必要ではないか。 3.申請すれば個人のパソコンを持参し、学校のLANにつなげることができる盲学校がある。そういう取り組みが進むことが望まれる。 4.授業での、教員の私物のiPad等の使用を認めてほしい。 5.ICTへの環境整備が遅れている。LAN環境が整っている教室も限定されており、各教室でオンライン環境が整備されていない。 6.どの教室からもインターネットにつながる環境が整備されている盲学校もある。 7.すべての障害のある児童生徒とはいかないが、視覚障害のような感覚障害のある児童生徒には、タブレット等と音声読み上げソフトが日常生活用具として比較的短い期間で給付されることが重要。 8.教材もサーバーで共有されている。個人のパソコンの使用は認められるがその場合USBが利用できない等ある。 9.タブレット等を使用する際のルールも必要。便利である反面、ゲームや動画などを制限するルールが必要だと思う。 10.小・中・高等部で学ぶこと(連続性)がまだよくわからないように思う。小学部だと、パソコンに慣れることやローマ字入力ができることなどとして中学部へつなげたいと思っている。 11.AI導入により、情報伝達の入出力が音声で成立することから読み書きの手間がないなど、時短につながる。   このことから、読み書きの基礎・基本は学習として最低必要と考えるが、ICTを活用する能力を身につければ、点字や漢字の習得は一定の獲得で十分な時代となると考える。 12.児童生徒の生活や学習のQOLを高めるため、ICT活用は欠かせないと考えるが、ICT活用能力と基礎・基本的学習の獲得する時期を発達の段階を踏まえて、計画的、系統的にICT活用のリテラシーの育成及び情報モラルの獲得内容について検討する必要がある。 13.ICTは教員も楽しんで学んでいるので、本校としてはいい取り組みができている。それぞれの授業をより充実させるためにICTを活用している。 14.テレビ会議システムが安定して、早い速度で、他の学校とつながることが重要だと思う。旅費が削減されるし、気軽に遠隔地の方と意見交換ができる。県のネットワークのセキュリティーが強すぎて、途中で途切れてしまう。 15.ICT教育(デジタル教科書)で学びたくて盲学校にきた生徒もいる。 16.小学部では基本的には点字盤を使用して点字の学習をしているが、ブレイルメモも使用していきたい。日常生活用具として給付対象にしてほしい。 17.地域の小・中学校で学ぶ視覚障害のある生徒からICTに関する支援の要望があれば訪問したい。こちらから積極的に働きかけることは難しい。 18.すべての教育がICT化されてしまうことは、視覚障害教育からはよくないこともあると思う。 ワンポイントまとめ @インターネットのネットワーク環境の整備がまだ進んでいない学校があること。ネットワークの環境整備が求められている。 A自分の使用しやすいタブレット等の持ち込みまたは、使用しやすいようにタブレットを設定することが求められている。 7.当事者団体に求めること (1)視覚障害児童生徒への教育を進めて行く上で、当事者団体に求めることはなにか。 主な回答 1.国の会議(内閣府・文科省・国交省・厚労省)等の動きを盲学校とも共有してほしい。 2.視覚障害のある児童生徒の教育環境の向上のため、国や地方公共団体に働きかけてほしい。 3.生徒の必要な日常生活用具の給付の相談及び自治体への交渉。 4.通学路で必要なエスコートゾーン敷設や音響式信号機の設置等の陳情。 5.視覚障害を取り巻く国内外の動向や最新の話題、視覚障害者の文化・体育活動等についても今後も情報提供いただければと思う。   また教育的支援が必要な視覚障害のある方には盲学校に関する情報を提供していただくか、紹介してほしい。 6.当事者から、視覚障害のある児童生徒の保護者に、子供が活躍できる場やリーダーになれる学校であると伝えてほしい。 7.視覚障害当事者がどのように生きてきたのか、保護者とどうかかわってきたのか等を当事者として語ってほしい。 8.様々なメディアで、視覚障害者が頑張っていることを発信してもらい、一般の人の理解を変えてほしい。生徒もその保護者も、そういう取り組みを通じて励まされる。 9.キャリア教育の講師として、進路学習会等で体験談を話すこと、進学等にアドバイスをもらいたい。 10.職業体験先として、児童生徒を受け入れてほしい。また、視覚障害者がどのような仕事に就いているかなど紹介してほしい。 11.盲学校で学ぶことの良さや学ぶことの効果を伝えてほしい。 ワンポイントまとめ @視覚障害を取り巻く国内外の動向や最新の話題、視覚障害者の文化・体育活動等についても情報を提供することが求められている。 A当事者がどのように学び、生活してきたのか等の体験談や職業に対しアドバイスすることも求められている。 B生徒の必要な日常生活用具の給付の相談や、通学路で必要なエスコートゾーン敷設や音響式信号機の設置等を保護者とともに自治体への交渉することが求められている。 コラム17:沼津視覚特別支援学校で「ダイアログ・イン・ザ・ダーク」を開催  2020年1月20日〜22日、静岡県立沼津視覚特別支援学校にて、文科省「心のバリアフリープロジェクト」の一環としてダイアログ・イン・ザ・ダークを開催した。  障害の有無にかかわらずともに学びあうことで、相互理解につなげることを目的に開催し、アテンドに盲の方6人に協力していただいた。そのように活動している姿を見て、そのような仕事に就きたいという生徒もいた。 8.大学・研究機関に求めること  盲学校の教育力の向上に向け、大学及び研究機関に求めることはなにか。またどのような連携が必要だと思いうか。 主な回答 1.引き続き視覚障害教育について、研究してほしい。そして、その研究の成果を盲学校と連携していきたい。 2.教員が学べる機会を作ってほしい。 3.大学の研究成果を教育の現場に還元してほしい。 4.先進的な技術を教育現場で使用できるように発信してほしい。3Dプリンターを導入したが、プリントする資材が少ないという学校もある。そういう資材も提供してほしい。 5.教材や指導方法で、デジタル化できるものについてはデジタル化し、学校へ公開してほしい。授業内容も深まると思う。 6.認定講習を受ける機会も増やしてほしい。また、認定講習は中身の充実した研修にしてほしい。 7.教育大学を卒業した学生をぜひ盲学校の教員として迎えたい。学校見学やボランティア等の体験等で学生にきてもらう体制は各盲学校で整っていると思う。 8.様々な教育資産をデータベース化してほしい。いい教材は、共有したい。 9.実用的に、使えて勉強に役立つものが引き続き増えればと思う。 10.学校・医療機関・福祉等をつなぐスマートサイトでの連携。 11.大学で学ぶ学生に視覚障害教育のやりがいや意義を伝えてほしい。特別支援教育では教科の専門性はあまり必要がないと誤解している学生がいたら、その誤解を解いてほしい。 12.地域の小・中学校に視覚障害教育を知ってもらう働きかけをしてほしい。 ワンポイントまとめ @視覚障害教育について研究するとともに、その研究成果を盲学校や教育関係機関と連携することが求められている。 A認定講習を受ける機会を増やすことが求められている。 9.今後の展望  インクルーシブ教育システムが構築される中で、盲学校の役割はどのようにあるべきだと思うか。 主な回答 1.通常の小・中学校に在籍する弱視児童生徒に対しては、教育相談を通して児童生徒や保護者に、教員による支援などを行っている。   しかし、それに対する加配(人的配置)が十分ではない。インクルーシブ教育を推進しつつ盲学校及び視覚支援学校に在籍する児童生徒に高い教育を提供し、地域のセンター機能としての役割を果たすためにも、教員の増加は必要である。 2.教員の定数を増やすとともに専門性を向上させる。 3.特別支援教育が今後どうなっていくのか、今ターニングポイントを迎えていると思う。視覚障害教育の伝統が残っているのは盲学校であり、後世に伝えていくことが重要だと思う。 4.盲学校の中の授業・活動を充実させるとともに地域の学校に通う視覚障害のある生徒の支援を充実させる。 5.教育相談・地域支援に携わる教員を定数で決めてほしい。 6.地域の学校で、視覚障害の生徒がいる担任の先生に向けた勉強会を増やしていく。 7.地域支援をしていく上で、もう少し人的な補償を受けて、訪問授業をしてもいいのではないか。 8.インクルーシブ教育が進んだとしても、盲学校を減らさない。 9.PC技術を高める研修等についても予算措置を講じてほしい。 ワンポイントまとめ @地域の学校で学ぶ視覚障害のある児童生徒が視覚障害に関する教育や配慮を受けるためにも盲学校が存続することが求められている。 A盲学校内の授業の充実と地域の学校を支援するセンター機能としての役割を果たすためにも、教員の増加が必要。 2.3.2 全国盲学校PTA連合会ヒアリング  委員会及びシンポジウムを通して「学び場として盲学校を選んだ理由」、「盲学校を選んで良かったこと」、「視覚障害に関する専門的な教育を受けるための課題」をヒアリングした。 1.視覚特別支援学校(盲学校)を選んだ理由は、なにか。  (どちらか該当する方) (1)就学時(小学1年生)から盲学校を選んだ理由。 主な回答 1.幼稚部から盲学校に通っているため、小学部も盲学校に進むと思っていた。そのきっかけになったのは、主治医の勧めがあったからである。子供は、重複障害(肢体・知的・視覚)なので、どの学校に通うかを主治医に相談したところ盲学校を勧められた。 2.地域の幼稚園に通っていた。地域の小学校の弱視学級を勧められたが、私は、盲学校の方が良いと思い選んだ。 3.盲学校の幼稚部に入る前の教育相談において、「この子は視覚障害ベースだ」という先生の一言で盲学校を選んだ。教育相談の時は、盲学校とろう学校の両方に通っていた。幼稚部から盲学校に入り、たまにろう学校にいって耳の聞こえがどうなのか等を先生に診てもらっている。小学校に入ってからも1学期に1〜2回くらい、ろう学校の方で相談させてもらっている。 (2)地域の学校から転校してきた理由。 主な回答 1.以前住んでいたところは盲学校まで車で2時間くらいかかったので、子供たちには通えないと判断をし、肢体不自由の特別支援学校と弱視学級にそれぞれ通っていた。  東京に引っ越してきて、近くに盲学校があるなら盲学校に入りたいと思い選んだ。 2.子供は視覚・聴覚・知的の3つの障害がある。ろう学校では、目が見えにくく、知的障害のある子は手話がわからないため、入ってほしくないと言われてしまった。  本音を言えばろう学校に入りたかったが、一貫して拒否された。盲学校からも、聴覚障害の方が重いからろう学校にいってくれと言われた。本当に困り区の教育委員会へ相談にいった。  その後、知的障害の特別支援学校に転校し、そこで中学3年生まで5年間通ったのだが、知的障害の方には情報保障というものがほとんどなかった。現在は、盲学校へ通っている。 3.子供が小学生の時に、病気の後遺症で視覚に障害が出た。それまでは、地域の小学校に通っており、盲学校に関する情報がなかった。どこに相談していいかもわからなかった。  幼稚園の時から共に過ごした友達も多いので、変わらない環境で過ごしてほしいと思い、学校に支援級を作っていただきたいと要請した。しかし、前例がないということで支援級を作ってもらうことができなかった。  実際に、子供のためになる有益な情報をくれたのは、病院に併設されているロービジョン外来の先生からであった。低学年で盲になった子供について、盲学校にいきなさいとアドバイスをもらった。  子供にとって一番優先すべきことは何かを考え、盲学校を探しはじめた。ところが近くに盲学校がなかった。駅からスクールバスもなかった。  橋を渡ってすぐに東京都だったのだが、県外だったので通うことができなかった。盲学校に通うため、都内に引っ越しをした。 2.盲学校にお子さんを通わせてよかったこと。 主な回答 1.視覚障害に関する専門性も身に付くし、視覚障害に関する情報もいっぱい入ってくるので良かったと思う。 2.子供の将来や、進んでいく成長過程がわかる。小学校・中学校の上の学年の生徒さんを見ているとイメージが湧く。 3.障害種別で見ると視覚障害は少ないが、その少ない情報を盲学校だからこそ知りえることだと思う。また、宿舎生活ができることを本人も喜んでいる。 4.盲の子供が3人いる。上の子2人は学校を卒業して作業所で働いている。視覚に関しての日常生活で困ることがなくなったように思う。   先生方から専門的な教育を受けられたおかげだと思う。うちの場合、知的障害もあるので重複だが、知的障害の部分だけ配慮していただければ済む。盲学校に通わせてもらってありがたかったと思う。 5.子供は中途失明である。盲学校に入って良かったと思うことは再び文字を獲得することができたこと。  地域の学校に通っていたら集団の中で授業をただ聞いているだけになってしまっていたかも知れない。  急に目が見えなくなって親としても、いちいちすべてを口で説明しなければいけなかったが、視覚障害であるとこういう風に伝えたら本人にわかるという親の関わり方についてのコツがわかったような気がする。  盲学校に入って教えていただけることが多かったように思う。 ワンポイントまとめ 〇盲学校に通わせて良かったこととして、視覚に関する情報を取得できること。当事者の生徒や教員が校内にいることで、成長過程をイメージできること。  視覚障害に関する専門的な教育(点字等)が受けられること等が挙げられた。 3.専門性の高い教育を受けてもらうための課題と要望。 主な回答 1.専門性の高い教育を子供たちに受けさせるためには、視覚障害教育の専門の先生に長く盲学校に勤めていただきたいと思う。先生方が直ぐに異動になってしまう。 2.視覚障害教育に知識のない先生が転任してくると、目が見えない生徒たちに対しても、「こっち・あっち」とあいまいな指示をしている先生もいる。  点字ができない(知らない)先生もいる。子供に点字の勉強をさせたくて盲学校に通っているので、点字の教育はしっかり実施してほしい。 3.教科書はもらえるが、教科書を使って学んでいない。疑問を感じる。 4.盲の子供たちには教科書しかないことを初めて知った。普通の学校だと教科書をもっと詳しく教えるためにプリントやドリルがある。  なぜそれが盲の教科書使用者にはないのだろうと思う。各教科の資料等を点訳する際には、細かい基準があると聞く。それを知らないと、教科の先生がいくら教科の専門知識があっても点字のプリントを作成することができないではないかと思う。  なお、そのデータは蓄積していくことが望まれる。教材を作るルール等を把握していないせいで、十分に教えることができないということだと困る。  どこかで、ドリルやプリント等の点字データを作成してもらえるところがあればいい。 5.重複(知的と視覚)障害のお子さんが点字を学ぼうとしても教科書すらもらえない。「おかあさんと歌って遊ぼう」というような本をもらったりする。そういうお遊戯系は小学校に入ったら、あまりやらない。  それくらいだったら1年生の数学の教科書や国語の教科書などの点字があればと思う。きめ細かに出せる仕組みがあれば、重複障害の子に点字が教えられないということは一切なくなるのではないかと思う。 6.学校教育課程に入ると、小学生などの年代にふさわしい本があまりない。その子の読む能力にあった本がそもそもない。サピエ図書館にもっとアップしてもらいたい。3年生くらいの生徒に、「お風呂でちゃっぷちゃっぷ」というような幼児を対象にした本があっても嬉しくない。 7.通学の支援だが、子供を対象にした移動支援(同行援護)事業所は非常に少ない。また、通学の対象となるともっと少ない。現存の事業所等で子供たちへの支援を広げてくれたり、NPO法人等を立ち上げて通学支援をしてくれたり、そういう枠組みができればと思う。  視覚障害の場合は途中で視力が急激に落ちるということがあるので、急に今まで歩いていた道が歩けなくなる。そういうところももう少し知識が広がって、サービスが改善してくれたらと思う。 8.ICTの活用だが、iPadの利用で弱視の方はとても有効性があると思うが、盲の方はその恩恵を受けることがなかなかできない。どんどん情報の格差が広がってしまう恐れもある。   ICT教育を推進すると国は言っているが、盲学校でどういう風に進めていくのか心配である。 9.点字は著作権フリーなので、出版社の許可をとらずにどんどん作っていいはずである。ドリル等は出版社の関係なので、出版社が作らないとなかなかないとのこと。 10.重複障害があるからといっても子供の可能性を伸ばすような教科書を使ってほしい。地域の学校で使用する教科書を使ってほしい。重複障害だと、点字ができないだろうと墨字の変な教科書を渡される。  中学部に入ってもずっと同じ教科書だったりする。どんな子にも教科書を与えなければいけないという決まりがあるから与えているようにしか思えない。改善してほしい。 11.学校にいる間に一度も点字を学ばないということは、疑問を感じる。単一か重複障害かということは関係なくて、視覚障害であれば、点字を教える必要があると思う。  また、教育課程で教科書を配らないというのはおかしいと思う。少なくとも小学校1年生の算数と国語の教科書は、大事な内容が含まれているので誰にでも平等に配布されるべきである。 12.筑波大学付属視覚特別支援学校に通う重複障害のある生徒は、点字ができる人が多い。重複障害のある生徒に点字を教えるという考えを持った教員が増えてほしい。  学校は楽しみにくるところであって、必ずしも勉強をさせようとは思っていないと考えている先生もいる。 13.社会に出て活躍している視覚障害者はエリートと呼ばれる方々だ。世間ではそういう人たちが多いと誤解されているかも知れない。大人もそうだが、学習が難しい人に対してのサポートの場もほしい。 14.生徒のために模型(手で触る教材)を作って学習してくれる先生がいる。学校によって模型を作成するのが得意な先生と得意ではない先生がいる。得意な先生がいるところには、いい模型がある。他の学校でその模型を借りるなどして共有することはできないのか。 15.学校の先生もたくさん研修を受けてくれている。授業に反映してほしい。 16.小学校に上がる前に「あいうえお」の五十音を点字ができていたのだが、小学校に上がったら変な癖がついてしまうと全然点字をやらせてもらえなかった。点字の指導が本格的に始まったのが2年生2学期くらいから。今を思うと、最初から読み書きをしっかりやってもらえれば良かったと思う。教材もそうだが、やはり先生の熱意なのかと思う。 17.子供は手が動かせないので、定規を使用して点字を打つことが難しく、他の先生はこの子は点字ができないだろうと点字を教えてもらえなかった。しかし、担任の先生がすごく一生懸命で、その先生のおかげで子供に合わせて「ウルトラマン」の物語などをやってくれて興味を持って学べた。中学部に入ってからパソコンをやらせてもらえるようになって、キーボードに「あいうえお」を貼って、最初は「あいうえお」を探して、入力していた。今はローマ字で打てる。小さいうちから一生懸命にやってくれる先生に担当してもらえると色々とできるようになる。 18.地域の学校では年度のカリキュラムをこなさなければいけない。盲学校だと年度のカリキュラムをこなさくてもいいと思っている先生が多いように思う。  ずっと同じことをさせられている生徒が多い。できることもちょっと1回間違えただけで、できないからという風になってしまう。  算数でも、掛け算とか割り算をしていたが、次の年に先生がかわるとまた足し算から始まる。どんな子でも伸びる可能性があると先生ががんばる必要がある。  一定の量をこなさないとできない。そのチャンスをどうするか。先生にお願いして宿題をもらうこともある。子供たちの可能性を信じて親は学校に通わせている。 19.重複障害の子は結果がすぐに出ない。結果が出るまでに「無理」と先生が思ってしまうとだめ。もう少し長い目で見てほしい。 20.社会体験等でも、初めてのことなのでうまくいかないこともある。先生に「なんでそんなこともわからないの」と言われると、心を閉ざしてしまう子供もいる。温かく見守ってほしい。 21.聴覚障害、知的障害、視覚障害がそれぞれ少しずつあるとどこの学校に通わせていいかわかない。最初に相談にのってくれたのが兄弟の通っている盲学校の校長先生だった。    話が通じたから良かった。盲学校とか、ろう学校とか一つしか選べない。そういうところがどうにかならないか。本当は両方を希望する。 22.東京都内は相談員がきてくれるが、他の県では難しい。連携する仕組みがあればいい。知的障害と判断されてしまうと良くない。特別支援級(知的)に体験で行き、そこのベテランの先生が、知的障害ではないと判断してくれた。通級や他の道を選べたが、わかってくれる人はほとんどいない。 23.盲学校に個別の指導計画はあるが、保護者からの希望が反映されていないように思う。 24.盲学校の自立活動の時間を増やしてほしい。 25.通常校に通っていたが、いじめにあってしまい、盲学校へ転校しても生徒の気持ちが立ち直るのに時間がかかってしまう。    こんなになる前に盲学校にきてくれれば良かったのにと思う先生もいる。盲学校は視覚に障害のある生徒でも安心して通える学校。    盲学校への転校などを相談できる機関が必要だと思う。 26.地域の学校で学んだ人はコミュニケーションがとても上手で、なんでもできるように見えるが、自立面が意外とできていない人もいる。    自分でできることをあまりやらず、周りが助けてしまうからではないか。 27.毎年教員が変わるため保護者が先生に説明をしなければいけない。 28.できることが限られているので、音楽演奏会の時にいつもピアノの演奏だけ任されるとか、そういうことを繰り返しているうちに通常の学校に通うことが難しくなって、盲学校へ転校するというパターンが多いと聞く。 29.地域の学校に通った子供が視覚障害を理由に体育などができないとされ、二次的に精神的にまいってしまうこともあると聞く。 30.弱視の子供は、拡大教科書等の存在を知っている教員がいれば、地域の学校に通い続けることができると思う。 31.盲学校は特別支援学校になって、機能を活かしたセンター的役割を発揮する必要がある。 ワンポイントまとめ @重複障害がある子供たちもその子の可能性を伸ばすよう教科学習とともに点字等の専門的な教育を受けることが求められている。 A各盲学校で作成した副教材等を共有できる仕組みが求められている。 BICTの活用ですが、iPadの利用での生徒にはとても有効性があると思うが、盲の生徒も有効に活用できるように求められている。 C地域の学校で視覚障害のある生徒が学ぶためには、教員の理解が重要。 2.3.3 親の会ヒアリング  委員会、シンポジウム、盲学校へのヒアリングを通して、早期支援に関する課題を親の会へヒアリングを行った。 (1)親の会に入会して良かったこと。 主な回答 1.視覚障害児の親と、子育ての不安を打ち明けることができ、共感してつながれること。 2.同じ視覚障害のある子供のお母さんたちとたくさんお話しができ、悩み等、相談できとても良かったと思う。 3.情報交換や相談ができること。 4.盲学校の情報や、病院のこと。視覚障害にはこんなことがあるとか、昼夜逆転に悩むときに、光が見えない子は昼夜逆転になりやすいとか聞けたこと。同じような悩みを持つ方の話を聞けたこと。 5.多くの視覚障害児とその家族に出会えた事で、情報量が増え、早い段階で安心でき前向きになれた。レクリエーションが多く家族揃ってリフレッシュできている。 6.視覚障害のある子を持つ親としての悩みを共有できる人たちがいる。視覚障害教育をしている専門家に会えること。視覚障害児でも楽しめるイベントに参加できること。 7.親同士のコミュニケーションの場があることで、一般的な子の育児と悩みが異なり、他の場では話しづらい話題が気軽にできることでストレス解消になる。また有益な情報を得ることにつながり、子にとっても親にとっても有意義な事が沢山ある。 8.入会し、同じ境遇を経験してこられた先輩お母さん方のお話を伺って初めて、絶望していた精神状態から救われた。また実際に元気に遊んでいる子供たちと会い、それまで想像できなかった我が子の将来に希望を持つことができた。毎月のイベントも勉強になることばかりだし、前後の時間も皆さんとゆったりお話ができることが大変心強い。視覚障害教育の専門家や先生方との出会いも大変貴重でありがたい。グループLINEによるやりとりもほとんど読んでいるだけだが、参考になり心強い。 ワンポイントまとめ 〇視覚障害のある子を持つ親としての不安を打ち明けること、悩みを共有できる人たちがいる。視覚障害教育をしている専門家に会えること。が母親の心の支えになっている。 (2)直面している課題。 主な回答 1.今後の進路や親の死後の子の生活について不安を感じる。 2.遠方且つ家族の予定があるため、なかなか会の集まりに参加できない。 3.現在直面している課題としては、生後5か月頃の時点で、はっきり確定した障害は視覚障害のみだったので、情報収集や集まりの場への参加も視覚障害関係を中心に始めていたが、現時点では肢体不自由としての課題が大きくなってきている。療育センターの通園など、視覚障害関連以外での関わりの場での、私的な感想の限りではあるが、肢体不自由や自閉症などの課題に対する支援として、視覚に訴える支援方法が中心のように見える。視覚中心の支援の中で、実際に他の子との通園を1年2年と積み重ねていくと、重い肢体不自由の仲間たちが、見えている情報を頼りにして成長していく姿を目の当たりにさせられた。  声や音や触覚などの支援が全く無いわけではないが、 ・視覚に障害がある事を中心に据えている教育 ・視覚に関する支援を中心として、個別に視覚以外の支援を加えた教育では、当該児に対する影響に大きな差がある事を実感した2年間だった。 ワンポイントまとめ 〇今後、子供が学んでいく過程で不安を抱えている。 (3)視覚に障害のある児童及び保護者を孤立させないためにどのような体制が必要だと思うか。 主な回答 1.病院で告知を受けた段階から、親の団体もあることや、盲学校の教育相談は乳幼児でも相談できることを紹介してほしい。病院と行政も、「視覚障害児は数が少ないのでわかりません」という回答しか当時もらえず、とても辛かった。 2.私はたまたま市の担当の保健師さんが乳幼児相談の事を教えていただき早くからいくことができた。健診時に勧めてもらえたらいいのかなと思う。本当は眼科医から話しがあるといいなと思う。 3.地域の療育センターで、「視覚障害児は専門ではないので面倒を見ることができない」と言われてしまうことがある。(我が家の場合は、視覚に加えて心身に障害があるので通園できたが、視覚の療育はできないと言われた。)病院等で紹介される初めの窓口は療育センターのことが多いと思う。そこで拒否された時の保護者の困惑は計り知れない。盲学校は近くないことが多いので、ある程度療育センターで受け入れる体制があるといいと思う。 4.やはり、相談できる仲間がいること。病院や学校の先生からのアドバイス以外にもお母さんからの言葉ってすごく響き共感できるものがある。病院の先生や保健師さん(行政)、区役所の方とか、そういう方たちからも、親の会というのがあるということを紹介してほしい。 5.子供の障害が判った時点でワンストップかつ包括的にサポートができるような病院・自治体・学校などが連携した仕組みづくりが必要だと思う。 6.視覚障害がある子供とその家庭が孤立しないためには、やはり教育の段階で障害児と健常児を分けないこと。見え方やその子の性格もあるが、困難な中で学ぶことで、多くの健常者に見えにくい子がいることを知ってもらえると思う。これは、視覚障害児だけではなく、特別支援を必要とする子供たちが地域に出ていける受け皿があると良い。これまでは、分けて教育を受けてきているので、大人になってどうかかわっていいのかがわからない人が多いと思う。教育とその後の就職において、開かれた環境が増えることを期待している。 7.産院や眼科など、医療機関からの適切な情報提供がある事が望ましいと思う。 8.子供の視覚障害を告知された直後から数ヵ月間が一番辛く孤独で、専門的な支援が必要と感じていた。出産後産院にて多くの助産師さんが寄り添ってくださった。また、退院後も保健師さんが早くから定期的に訪問してくださったが、やはり専門的な情報は得られず、日常の不安感はなくならなかった。障害の告知後できるだけ早く、できたら当日や翌日に視覚障害教育に精通した方との継続的な面会や相談の機会が必要だと感じる。 また出産1、2か月後に小児科医の取り計らいで、NICUで毎日お会いしていた臨床心理士の方との面会の機会を頂いた。小児科診察の度に臨床心理士さんが待っていてくださり、個室で1時間以上じっくり対応してくださり、大変癒された。小児科医の転院に伴い、あまりお会いできなくなってしまったが、今でもこちらから予約をすればいつでも面会していただける状態で大変心強い。そのようなシステムがどの病院にもあると良いと思う。 ワンポイントまとめ 〇医療機関でお子さんに視覚障害があることの告知を受けた早い段階で、 「親の会」や、「盲学校の教育相談」につながり、保護者の不安を払拭することが重要であり、各機関の連携の強化が求められている。 (4)お子様を盲学校または地域の小学校のどちらに進学させたいと思っているか。その理由も教えてほしい。 主な回答 1.知的と自閉症も重度のため、盲学校に進学させたい。また、先天性緑内障のため、いつかは失明してしまうのではないかと思っているので、盲学校と主につながっていたい。 2.地域の学校への進学は考えていない。視覚障害の専門的な知識をもった先生がいるとは限らないからである。 3.盲学校に進学する事に決めた。しかし、肢体不自由としての課題も重いので、今後の成長を見ながら地域校への相談や連携も継続していく予定である。 4.重複クラスがある盲学校に決めている。盲学校はとても親切にしてくれるが、自宅からの距離が遠いのがやや不便に感じている。自治体の垣根を超えられればもっと近いところにもあるのにと思う時もある。 5.基本的には盲学校へ進学させたいが、地域の小学校に通う機会もあるといいなと思っている。いつ何をどのように教えたらいいのか、親や家族ではわからないため、専門の先生方に教えていただきたい。また、子供にとっても、より理解し共感しあえる友人を作る機会になるのではないかと考えている。とはいえ子供には広い世界を経験してほしいことと、地域の小学校の子供たちに視覚障害のある子供とかかわる機会を持ってもらえたらという願いから地域の小学校にも定期的に通えたらと思っている。 ワンポイントまとめ 〇視覚障害の専門的な教育を受けることができる盲学校へ進学したいというニーズが高い。一方で盲学校に通学しながら、地域の学校の生徒とも交流することが求められている。 (5)国や教育委員会等に今後どのようなことを望む(期待)か。(文部科学省、教育委員会、幼稚園・保育園・盲学校の幼稚部または小学部・地域の小学校・当事者団体等) 主な回答 1.(1)国   障害児の母親にとって、「小一の壁(就学)」は非常に厳しい状況にあるため、就学後もフルタイムの仕事が続けられるようにしてほしい。子供に障害があると分かった時点で仕事を辞めざるを得なかったお母さんが大勢いる。 (2)盲学校   視覚障害の単一障害への対応力だけでなく、視覚と肢体や知的、自閉症への対応力も高めてほしい。先天性の視覚障害は、胎児の発生初期に生じているせいなのか、脳機能に全く影響を受けていない子の方が少数な気がする。 2.保育園や幼稚園  保育園や幼稚園などに入園を希望する際、障害児を受け入れてくれる所(受け入れ枠)があるといいと思う。 3.希望したら、視覚障害専門の先生を(個別相談をしていなくても)、特別支援学校にも派遣して、本人を見ていただいたり、教師の指導をしたりしてほしい。 盲学校は、他の課題が大きい子供には遠い存在に感じる。でも、視覚障害に配慮した療育が受けられたら、自立活動やOT、ST、PTなどのリハビリもより良くなると思う。 4.インクルーシブ教育の拡充  盲学校の育児相談でもっと母親同士の交流の場がほしい。遠方のためにSNS等も活用してほしい。 5.盲学校  その時々の子供や親の要望を聞き入れ、柔軟に対応してもらいたい。盲学校の教育相談は、他の盲学校と被らない曜日で、午後電車など混雑していない時間帯に開催してもらえると、通いやすい。 ワンポイントまとめ @子供の就学後もフルタイムの仕事が続けられるようにしてほしい。子供に障害があると分かった時点で仕事を辞めざるを得なかったお母さんが大勢いる。保護者(特に母親)の生活・就労への影響が大きいことがわかった。 A子供の成長過程で変わる困りごとや要望を柔軟に聞いてもらえる体制が求められている。 (6)現在の制度についての不満や要望があるか。 @幼稚園・保育園・療育園と盲学校との併行通園等について 主な回答 1.盲学校と幼稚園は同じ文科省管轄なので、不可とのこと。保育園・子供園でなければ併用できず、ただでさえ受け入れてくれるところが少ないのにさらに選択の幅が狭くなってしまうので幼稚園でも併用できるようにしてほしい。 2.医療型通所事業(療育園)、特別支援私立幼稚園、就業により、放課後や長期休みでの利用が必要だったため、市内認可保育園の三重籍で2年間を過ごした。どの施設も子供の発達において、また子供を支える親への生活、精神的支援にとって欠く事のできない必要なものだった。また、親の就業支援として利用してきた一般の保育園利用は、受け入れてくれた保育園側の事情を察しても、「就業する親の権利だから」というだけでお願いできるものではなかった。子供への支援への具体的な計画を行うに当たり、療育園や盲学校との連携は欠かせず、それが無ければ、一般保育園での受け入れは大変な困難を伴う、むしろはっきり言ってしまえば、不可能だったと思っている。多重籍は個別支援の必要があって行っているもので税金の無駄使いでも親のワガママでもない。今後も柔軟に対応いただける支援を望む。 ワンポイントまとめ ○幼稚園に籍を置きながら盲学校にも通学するニーズがある。 A同行援護・移動支援について 主な回答 1.子供のために仕事を辞めた。盲学校の送迎があると時間と場所の制限があり、今後復帰するにしても難しい。また、子供と親がずっとべったりというのも、普通の成長とかけ離れている気がする。  通学や通勤、もしくは休日でも同行援護が使えるようにしてほしい。 2.横浜市は通学通所支援を独自に展開しているが、他の市町村でも通学にも使えるように、国の制度としてほしい。 3.就学前から通学に利用できるようにしてほしいと思う。 4.我が家の場合、就学で初めて認可される予定。未就学の通園通所に関しては、何度交渉を重ねても一切認められなかった。兄の発達支援が必要で、通級指導教室への送りと、遠方の盲学校への送りが重なってしまい、大変な苦労を強いられたが、それでも就学前の利用は認められなかった。就学前の早期教育こそが大変に重要な時期であり、この期間での移動支援が認められなかった事は今も大変不満に思っている。これから改善される事を望む。 ワンポイントまとめ 〇通学に同行援護や移動支援の制度が利用できるとともに、就学前の早期教育相談においても利用できることが求められている。 B生活や学習に必要な日常生活用具給付等事業について 主な回答 1.デジタル白杖など、良いものが沢山開発されているが、支給対象品や支給額がこまめに見直されていないと感じる。 2.年に何回まで等の給付要件がもっと柔軟になるべきと考える。あまり必要無い期間と立て続けに必要になる期間の差は成長の度合いに応じて、あって当然だと思う。 ワンポイントまとめ 〇日常生活用具の給付は、学齢期にも利用できるように見直しが求められている。 (7)盲学校の教育相談や盲学校にかかわれて良かった点がありましたら教えてほしい。 主な回答 1.生後6ヶ月から盲学校教育相談を受けられ、本当に救われた。先生や他のママと、視覚障害児である育児の悩み相談を笑いながらできるようになり、ようやく障害受容もできたというのが最も良かった点である。  自治体の保健師などはダウン症なら分かるけど、視覚障害はお手上げのようで、昼夜逆転や感覚過敏などの話をしても、健常児の発達段階に沿った話しかきけなかったため。 2.先生方も1つの事ができるまで毎日協力してくださっているので、できる事が増えた。悩みにも適切なアドバイスをしていただけるので盲学校に通って良かったと思う。 3.盲学校のではなく、視覚障害の専門の先生に見ていただいて良かった点だが、先生に見ていただき、療育センターにもきていただき、センターの先生方にも講義をして頂いたことがある。  その先生がかかわってくださって大きく変わったのは、子供自身の受け入れだ。例えば、療育センター等でよく「触る」学習があるが、うちの子は拒否が強かったのが、待ち方や触れるまでの段階の踏み方を踏まえると段々興味を持って触れられるようになった。  育って、恐怖心や嫌悪感があってはなかなか難しい、安心して活動に望めることが、成長につながるのだなと実感した。 4.触る絵本や教材、おもちゃ等を実際に見ることができ、家でも参考にすることができた。 5.有益な情報が得られた。精神的な安定が得られた。 6.見えない事を前提に取り組んでおられるので、他からは見えづらく評価のしづらい、児の「やる気」を引き出してくれていたと感じている。  コミュニケーション手段に乏しい我が子だが、車での送りの際、学校に近づくといつも喜ぶ姿が見られた。  外出先から帰宅する際、家に近づくと喜ぶので、坂の起伏や信号待ちのタイミングなどで、馴染みのある場所は把握しているようだ。 7.先生方が大変温かく、愛情を持って子供にも親にも接してくださるので、伺う度に癒され元気をいただいている。  また他の親御さんと情報交換をしたり励まし合ったりできる貴重な機会だと感じている。 8.盲学校の幼稚部1つで過ごしてきてたくさんの行事に参加でき、子供は自分でできる事が増えたので良かったと思う。 ワンポイントまとめ 〇盲学校でのアドバイスにより、保護者が精神的な安定が得られるとともに、子供の学ぶ意欲の向上や成長につながっている。 親の会の代表者に個別にご意見を伺った。 (1)活動内容  視覚障害児と兄弟姉妹を含めた家族の交流。  視覚障害に関する教育・福祉などの情報交換や勉強会の開催。 (2)視覚障害児を出産した母親の現状   「これから」に不安を抱きながらの新しい生活をスタートする。   視覚障害に限らず、障害児を出産した母親は誰しも「これからのこと」に不安を抱きながら退院する。  子供の将来像や「見え方」などの視覚に関する情報、どこに相談したら我が子の「視覚障害」のことがわかるのか病院では何も案内がなかった。  案内のないままに自宅に帰り、今まで視覚障害の知識をもたない母親や家族が産後のショックと子育ての不安を抱えながら新しい生活がスタートする。 (3)視覚障害に関する情報の取得  医療機関(産科・小児科・眼科)、行政(保健センター・福祉事務所など)、療育機関(療育センターなど)、教育機関(盲学校)の連携の欠如のため、インターネットの情報に依存している。  その後、定期的な通院や行政の乳幼児検診には出向くが、病院や行政からは盲学校の教育相談などの情報はほとんど提供されていない。  インターネット検索から親の会とつながる家族も少なくない。盲学校での教育相談を受けている場合でも、他の機関についての情報が乏しく、個人的に情報を探さなければならない現状がある。  盲学校の教育相談や親の会にたどり着くまで、数ヶ月から数年の間、保護者や家族の不安と視覚障害児への直接的なフォローがされないまま時間だけが過ぎていく。  病院、行政、療育センター等と盲学校とのつながりが必要であり、個人的に探さなくても良いシステムをつくることが課題だと思う。 (4)早期教育への要望  視覚障害児だけではなく、母親の相談・支援の重要性を理解してほしい。  就学前の視覚障害乳幼児は生活のほとんどに介助を必要とする。そのために、母親はつきっきりで子育てをしなければならないが、なかなかその苦労は理解してもらえない。  視覚からの情報が得られないことで、視覚障害児が何かを理解するために、触覚や聴覚からの情報をどれくらい繰り返し伝える必要があるのかが、あまり社会に周知されていないために母親の苦労は届きにくい。  障害児を育てる障害児育児や子育ての悩みを解消できるような支援の重要性を紹介してほしいと思う。 (5)親の会は保護者同士が集える場としての役割を担う  保護者同士のつながりから地域の社会資源に関する情報や福祉に関する情報を交換することができる。また、保護者同士の会話から見えない我が子は家族以外の他者の存在を意識するようになり、同年代の友達への関心や興味を自然に育んでいったと思う。  盲学校幼稚部や幼稚園・保育園に入学するまでの間、0歳から家族がつながる意味を親の会はこれからも大切にしていきたいと思っている。 (6)家庭への訪問相談・指導を保障してほしい。  現在、会のある県では過去に盲学校で家庭への訪問相談・指導はあったが、現在はない。  家庭でのかかわりや日常生活の基本的なことなど、子供が幼ければ幼いほどに、家庭の場での直接的な指導がもつ意味は大きいと思う。  また、共働きや母子家庭、兄弟姉妹の問題や、視覚障害児の健康状態などにより、たとえ盲学校での指導を必要としているにもかかわらず、「盲学校に通えないから視覚障害教育を受けることができない」という現状がある。  盲学校での教育を受けるために自動車免許をとり、仕事を辞め、兄弟姉妹を保育園に預け、家族みんなを巻き込んで早期教育を受けることが普通になりつつある。  移動支援などのサービスも視覚障害乳幼児はほとんど受けることができません。さらに、視覚障害だけではなく、他の障害をあわせもつ重複障害の子供たちは様々な理由から、「家庭の事情」という曖昧模糊とした理由から福祉サービスを受けることを認められず、より「通学困難」な状況にあり、必要な教育を受ける機会を奪われているという現状。  地域の幼稚園・保育園・学校や盲学校以外の他の特別支援学校に進学することで盲学校とのつながりがなくなり、必要な視覚障害教育を受けることがより難しくなっている。  盲学校に「通学」する以外でも受けることができる必要な視覚障害教育の機会を保障してほしい。 (7)盲学校への要望  盲学校には視覚障害教育の専門性を求めたい。盲学校に保護者は視覚障害教育の専門性を求めている。しかし、求めている私たちは素人である。私たちに判断を求められても返答ができないことがたくさんある。盲学校の教育の現場で、今やっていること・取り組んでいることの意味が明確に説明され、今やっていることが次に何につながるのかを説明されることによって、私たち保護者は子供に対して行われている教育への理解ができる。子供の成長を安心して見守ることができる。そのような理解が得られることで、保護者と先生との信頼関係を築くことができ、学校と家庭での教育の連帯感や統一性がでると思う。 (8)親の会としての取り組み  0歳からの視覚障害をもつお子さんまたは視覚障害をもったご家族の子育てのサポートや集いの場として活動している。 (9)親の会を運営していく上での課題  会のメンバーのお母さんが経理、ホームページ管理などを手伝っていただいており子育てや仕事の合間に行うため、細やかな事までできていないのが現状。  また、会の間にサポートしていただけるスタッフがなかなか確保できない。  財源の確保の問題や開催の回数から有償スタッフを雇う事ができず、現在無償ボランティアによるお手伝いがメインである。  障害児の育児経験がない方がほとんどなので、重複や重度の障害のお子さんの介助は難しく、ご家族も遠慮がちになってしまう。経験者や詳しい方のサポートが必要だとは思う。  また財源の確保が大変なため、活動の主な財源は助成金やご好意からの支援に頼っている。  安定的なサポートやイベントを提供するには毎回大変、サポートしていただいた盲学校職員さまや会のOBの方々にもお礼が十分にできない事が現状。  県の施設を使用し活動しているため、会員は県民に限られており、全国からまたは海外からも問い合わせがあるにもかかわらず、直接的なサポートはできていない。  お母さんたちのコミュニティのつながりとしてLINEグループなどで情報をやり取りしたり、会員以外でも参加できるようなイベントを開催して直接的なつながりをもち機会を作っているが、十分とは言えない。 第3章 調査結果から見えた課題  本調査研究では、視覚障害のある児童生徒が、盲学校、弱視学級、弱視通級指導教室、通常の学級等、どんな場で学んでいても、専門性の高い教育が受けられる体制を確立することを目的に、調査研究委員会、シンポジウム、パネルディスカッションに基づいて3つのヒアリング調査(全国各地の盲学校、全国盲学校PTA連合会、視覚障害児の親の会)を実施した。その結果、下記の主な実態と課題が明らかになった。  3.1 盲学校に対する実態調査結果の概要 3.1.1 盲学校の専門性と向上と地域支援 (1)盲学校の専門性の向上と地域の学校への支援力の向上のための取り組みと課題 【 実態1】  盲学校では専門性の維持・向上を図るため、校内の研修を充実させていることがわかった。  例えば、ベテランの教員と新任の教員が2人体制で学ぶことや、歩行訓練士の資格を所持している教員や点字の技能に長けている教員が講師を務め、「歩行」や「点字」についての研修を実施している盲学校やお互いの授業を見合う相互研鑽型の研修も実施している盲学校があることがわかった。 【実態2】  地域の学校を支援する盲学校の教員(特別支援コーディネーター)は、定数配置されていない学校が多く、校内の教員から捻出して対応しているという実態があることがわかった。 【実態3】  遠隔テレビシステムを活用して研修や会議等で連携している盲学校があることがわかった。遠隔テレビシステムを活用することにより移動時間及び旅費が削減されるとともに複数の教員が研修できるなど効果が大きいこともわかった。 【実態4】  地域の学校において、視覚障害のある児童生徒を担当する教員に対しての研修を実施している盲学校もあることがわかった。 【実態5】  盲学校の教員も「公立学校教職員人事方針」等により頻繁な人事異動があることがわかった。 【実態6】  特別支援学校教諭免許状(視覚障害領域)を学べる大学が少ない実態があることがわかった。 【実態7】  免許法認定講習(視覚障害教育領域)が県内で受講できない地域があることがわかった。 【実態8】  地域の弱視学級の担任の先生も1年ないし2年で異動してしまうことがあることがわかった。 <課題1>  視覚障害教育と教科教育の専門性を担保するための人事や研修制度の充実が求められていることがわかった。 <課題2>  地域の学校に在籍している児童生徒や担当教員を支援するためには、盲学校にセンター的機能を担う専任教員の定数配置及び活動費の予算措置が求められていることがわかった。 <課題3>  盲学校は都道府県内に1校または数校と少ないため支援する範囲(移動距離、児童生徒の年齢の幅)が広いことがわかった。 <課題4>  盲学校の教員の頻繁な人事異動によりその専門性が担保されにくい現状があることがわかった。また、県によっては他校へ転任後、盲学校に戻ることができず、視覚障害教育に携わることができない状況があることもわかった。 <課題5>  特別支援学校の教諭免許状(視覚障害教育)を所持している教員が盲学校に新任・転任してくることは少ないことがわかった。 <課題6>  免許法認定講習を開講していない地域もあり、地域差が生じている課題があることがわかった。 <課題7>  地域の学校においても人事異動が頻繁にあるため視覚障害教育のノウハウが積み重ねっていきにくいことがわかった。 (2)児童生徒を増やす取り組みと早期支援の課題 【 実態1】  市町村の教育委員会、自治体の障害福祉課、保健センター等を周り盲学校の理解推進を図っている盲学校があることがわかった。その結果、盲学校への入学希望も増えていることがわかった。 【実態2】  交流籍(副次籍)の制度を活用し、地域の学校との交流を図っている盲学校があることがわかった。 【実態3】  視覚に障害のある児童生徒を把握し支援するため医療機関及び当事者団体等との連携を図っていることがわかった。 【実態4】  盲学校は地域の学校に在籍する視覚障害のある児童生徒を見えやすいように工夫することや、iPad等の活用方法等を指導していることがわかった。 <課題1>  医療機関や保護者からの情報がなく、どこに支援の必要な視覚障害のある児童生徒がいるのかを盲学校が早期に把握することが難しいことがわかった。 <課題2>  盲学校の取り組みが、保護者や地域の学校から知られていないこと。また盲学校は盲の児童生徒を対象にしている学校という誤った認識があることがわかった。 <課題3>  早期支援が必要であるものの、早期支援に携わる教員の確保が難しいことがわかった。 (3)ICT教育 【実態1】  ICT教育は盲学校においても重要でありiPad等のタブレットを活用した教材等で学んでいることがわかった。 【実態2】  ICT教育(デジタル教科書)で学べるため盲学校に就学した児童生徒もいることがわかった。 <課題1>  インターネットにつながる教室が限られることやセキュリティーが強すぎてつながらない等のインターネット環境が十分でない盲学校もあることがわかった。 <課題2>  自分の利用しやすいように個人使用のタブレットを活用したくてもできない場合もあることがわかった。 3.2 保護者に対する実態調査結果の概要 3.2.1 全国盲学校PTA連合会に対する実態調査の結果 【 実態1】  盲学校に子供を通学させて保護者が良かったと思うことは、視覚障害に関する専門性(点字等)が身につくこと、視覚に関する情報が入ってくること、子供の成長過程や将来をイメージできること等だとわかった。 【実態2】  視覚障害教育(点字等)の教育とともに教科教育も子供に学んでほしいと思っている保護者が多いことがわかった。 【実態3】  教科の副教材や模型(手で触る教材)のいいものは、学校間で共有することを求めていることがわかった。 <課題1>  盲学校に在籍する重複障害(知的・視覚)のある児童生徒が、点字の学習指導や教科の学習を十分に受けることができていない現状もあることがわかった。 <課題2>  視覚障害のある児童生徒が学ぶ上で必要な「点字ディスプレイ」等が自治体の日常生活用具として給付してもらえない課題があることがわかった。 <課題3>  盲学校に在籍しながら集団での対人関係や社会性などを身につけるため、地域の学校の通常の学級との交流を求める声が多いもののその機会が少ないことがわかった。 <課題4>  盲学校への通学で同行援護が利用できずに子供の送り迎えのため母親の生活や就労に、通学が切実な影響を及ぼしていることがわかった。 3.2.2 視覚障害児の親の会に対する実態調査の結果 【実態1】  親の会に所属し、視覚障害のある子供をもつ親として不安を打ち明けるとともに悩みを共有できることが心の支えになっていることがわかった。 【実態2】  盲学校の教育相談や親の会があることを知るまでに数か月から数年間かかり、不安を募らせてしまう保護者もいることがわかった。 <課題1>  医療機関、行政、療育センター、盲学校、当事者団体等でつながりを強め、保護者をすぐに支援できる体制が求められていることがわかった。 <課題2>  子供が通学する際に同行援護や移動支援が受けられず、子供の送り迎えのために仕事を辞めざるを得ない保護者がいる。特に母親の生活や就労に、通学が切実な影響を及ぼしていることがわかった。 <課題3>  幼稚園や保育園に籍を置きながら、盲学校でも視覚障害に関する専門的な指導を受けたいという保護者のニーズがあるものの、必ずしも受けることができない現状があることがわかった。 3.3 解決すべき課題  以上の調査結果から、以下のような課題と今後考えていく必要性があることがわかった。 (1)早期介入・早期支援の必要性  保護者に対するヒアリングの結果、子供に視覚障害があると宣告を受けた保護者は図り知れない程のショックを受けるものの、どこに相談していいかわからずに子育てへの不安を募らせてしまうことがわかった。  それとともに盲学校での相談や保護者の会とつながることで、両親の心の支えになり、不安を軽減し心の安定を得られることもわかった。  また、盲学校に対するヒアリングの結果、視覚障害のある児童生徒及び保護者への早期支援が重要であるものの、盲学校において早期相談に携わる教員が少ないこと及び支援が必要な子供を盲学校が把握できない問題があることがわかった。  これらのヒアリングの結果から、視覚障害のある子供たちやその家族を支えるためには、親の会を含む当事者団体や専門機関である盲学校等につなげる仕組みを構築しなければならないことがわかった。  また、視覚障害のある子供たちを支援する盲学校には、早期介入・早期支援を担当できる専任教員や発達段階に応じた指導が可能な教室環境等の環境整備が必要不可欠であることがわかった。 (2)早期に視覚障害教育を受ける必要性  保護者及び盲学校に対するヒアリングの結果、幼稚園や保育園に籍を置きながら、盲学校でも視覚障害に関する専門的な指導を受けたいという保護者のニーズがあるものの、必ずしも受けることができない現状があることがわかった。  また視覚障害乳幼児は早い段階で、保有視力、触覚、聴覚の活用及び空間把握能力等を養うことが重要であることがわかった。  これらのヒアリングの結果から、早期に視覚に関する専門的な指導も受けられる体制の整備が必要であることがわかった。 (3)盲学校の取り組みの理解推進  保護者及び盲学校に対するヒアリングの結果、盲学校の教育相談、校内の授業、地域の学校に通う児童生徒への支援等の取り組みが保護者と地域の学校等に知られていないまたは正しく理解されていないことがわかった。  それとともに盲学校の教育内容や取り組みを正しく理解すると保護者や地域の学校からの相談や支援の要請、盲学校への入学(転学)希望も増えることがわかった。  これらのヒアリング結果から盲学校での教育内容や取り組みの理解推進の仕組みが必要だと考えられる。 (4)子供の送迎に利用できる制度の必要性  保護者に対するヒアリングの結果から、子供が通学する際に同行援護や移動支援等の制度が受けられず、子供の送り迎えのために仕事を辞めざるを得ない保護者がいる。  特に母親の生活や就労に、通学が切実な影響を及ぼしていることがわかった。そのヒアリング結果から、通学にも同行援護や移動支援が利用できる制度の拡充が必要不可欠であることがわかった。 (5)盲学校の教員数を増やす必要性  盲学校に対するヒアリングの結果から、すべての地域ではないものの、在籍する児童生徒数が減少している盲学校があることがわかった。  それにより、教員の数も減り、校内での専門的教育や専門性の担保及び地域の学校への支援との両立が難しくなる問題があることがわかった。  そのヒアリング結果から、授業の充実及び地域の学校への支援力向上のため、教員の定数配置が確保できる体制整備が急務であることがわかった。 (6)特別支援学校の教諭免許状(視覚障害教育)の保持率向上  盲学校に対するヒアリングの結果、特別支援学校の教諭免許状(視覚障害教育)を所持している教員が盲学校に新任・転任してくることは少ないことがわかった。  しかし、免状を所持していない教員は着任後、免許法認定講習を受講し、免状を取得していることもわかった。  一方で、講習を開講していない地域もあり、地域差が生じている。そのヒアリング結果から、どの地域(都道府県)においても免許法認定講習を受けられる体制の構築が必要不可欠であることがわかった。 (7)教員の人事異動に関する考慮の必要性  盲学校のヒアリングの結果、視覚障害教育は専門性の高い教育であるが、教員の人事異動によりその専門性が担保されにくい現状があることがわかった。  また、県によっては他校へ転任後、盲学校に戻ることができず、視覚障害教育に携わることができない状況があることもわかった。  また保護者のヒアリングの結果、視覚障害教育の専門性の高い教員に子供の教育に携わってほしいと願っていることがわかった。  それらの結果から、人事異動は組織の活性化において必要ではあるが、視覚障害教育に携わりたいという意欲がある教員や、専門性の高い教員が携わることができる体制が必要だとわかった。 (8)盲学校同士が連携するための体制整備の必要性  盲学校に対するヒアリングの結果、盲学校は視覚障害教育の専門拠点として重要な役割を果たしているものの都道府県内に1校または数校と少なく、専門性の維持・発展及び情報共有が難しいことがわかった。  その結果から、ブロック単位や全国での連携がより図れる体制(遠隔TVシステム等)作りのための予算や環境整備が必要不可欠だとわかった。 (9)歩行訓練等の専門性の担保  保護者に対するヒアリングの結果、専門性の高い歩行訓練を子供に受けてほしいというニーズが高いことがわかった。  盲学校に対するヒアリングの結果、歩行訓練士の養成研修を教員が受講しやすい体制になっていないことがわかった。  その結果から、どの地域においても歩行訓練士の養成研修を教員が受けやすくする体制を構築するとともにその支援(予算)等も必要だとわかった。 (10)盲学校間の教材の共有の必要性  盲学校に対するヒアリングの結果、各盲学校で作成した教科の副教材を蓄積するとともに各盲学校で共有したいとうニーズがあることがわかった。  また保護者のヒアリングの結果、いい教材は盲学校間で共有し、活用してほしいニーズがあることがわかった。それらの結果から全国の盲学校で教材を共有する仕組みも必要だとわかった。 (11)ICT教育環境の整備  盲学校に対するヒアリングの結果、ICT教育は重要であることがわかった。  一方で、インターネットにつながる教室が限られることやセキュリティーが強すぎてつながらない等のインターネット環境が十分でない盲学校もあることがわかった。  その結果、盲学校においてインターネット環境を整えるとともに利用しやすい環境を構築することが必要不可欠だとわかった。 (12)地域の学校の弱視学級の専門性の担保の必要性  調査研究委員会及びシンポジウムでの意見交換の結果、地域の学校の弱視学級の担任の教員に必ずしも視覚障害教育の専門性があるわけではないことがわかった。  弱視の生徒が学びやすい工夫や必要とする条件を整えるとともに、拡大読書器・単眼鏡・弱視レンズ等を有効活用するための指導も必要であり、教員に一定程度の知識や経験も必要であることがわかった。  また、盲学校に対するヒアリングの結果、地域の学校の弱視学級の担任が盲学校から指導方法を学んでも1年程度で担任がかわるため、そのノウハウが地域の学校で担保されにくいことがわかった。  その結果、盲学校として、地域の学校との連携を深め、より一層地域支援ができる体制づくりとそのための方策が必要不可欠だとわかった。  また、地域の学校の弱視学級においても視覚障害教育が担保できる体制づくりが必要だとわかった。 (13)地域の学校に通う児童生徒へのフォローの必要性  盲学校に対するヒアリングの結果、地域の学校の通常の学級に通う児童生徒が、両親や教員に自分の見えづらさを打ち明けることができず、両親や教員もその児童生徒の見えづらさに気が付かないことがあることがわかった。  また盲学校の支援によって、その子の心の安定や見えづらさを解消するための工夫ができることもわかった。  見えづらさを抱えている子供の心理的フォローや早い段階での学びやすい環境の構築のため、スクールソーシャルワーカー等と盲学校の連携が重要だと考えられる。 (14)重複障害のある児童生徒の視覚障害教育  保護者に対するヒアリングの結果、盲学校に在籍する重複障害(知的・視覚)のある児童生徒が、点字の学習指導や教科の学習を十分に受けることができていない現状もあることがわかった。  保護者は、子供の可能性を広げるため視覚障害の専門的な教育と教科指導の両方を受けられることを求めている。そのための校内の体制つくり及び指導計画が重要だとわかった。 (15)地域の学校に通う児童生徒との交流の必要性  保護者に対するヒアリング結果から、盲学校に通う児童生徒の保護者から集団での対人関係や社会性などを身につけるため、地域の学校の通常の学級との交流を求める声が多いもののその機会が少ないことがわかった。  盲学校に対するヒアリング結果から地域によっては、盲学校に籍を置きながら地域の学校にも籍を置く「副次的な籍」を持つことができる仕組みが構築されていることがわかった。  その結果から居住地域とのつながりの維持・継続を図るため、「副次的な籍」の仕組みが広がることも重要だと考えられる。 (16)教育に必要な日常生活用具の給付の必要性  保護者に対するヒアリング結果から、視覚障害のある児童生徒が学ぶ上で必要な「点字ディスプレイ」等が自治体の日常生活用具として給付されることを望んでいるものの給付されない問題があることがわかった。  その理由として、給付対象品目に指定されていない。指定されていたとしても18歳以上と年齢制限が設けられており、学齢期は対象外であること。また、1人1台必要であるにもかかわらず、1家庭で1台と制限されてしまっている課題があることがわかった。  その結果から学習に有益な日常生活用具は、年齢や居住地に関係することなく一律に給付されることが必要だと考えられる。 3.4 まとめ  ニルス・エリク・バンク?ミケルセン(Neils Erik Bank-Mikkelsen)がノーマライゼーションの概念を1953年に提唱してから間もなく70年近くの歳月が経過しようとしている。  「障害のある人一人ひとりの人権を認め、取り巻いている環境条件を変えることによって、生活状況を、障害のない人の生活と可能なかぎり同じにして、『共に生きる社会』を実現」することを目的としたノーマライゼーション運動は、「障害者の権利に関する宣言」(1975年12月第30回国連総会決議)、「特別なニーズ教育における原則、政策、実践に関するサラマンカ声明」(1994年6月「特別なニーズ教育に関する世界会議」採択)、「障害者の権利に関する条約」(2006年12月国連総会採択)を経て、教育のノーマライゼーションへとつながっていった。これら障害を巡る国際的な制度・政策等の影響を受け、日本でも、2007年には「特殊教育」から「特別支援教育」への転換が図られ、障害のある幼児児童生徒への教育制度が劇的に変化してきた。現在では、通常の学級、通級による指導(弱視通級指導教室)、特別支援学級(弱視特別支援学級)、特別支援学校(視覚障害特別支援学校)といった、連続性のある「多様な学びの場」が用意され、どこで学ぶかを決める際に、本人・保護者の意見が最大限に尊重されるようになった。しかし、最も大切なことは、視覚障害のある児童生徒が、盲学校、弱視学級、弱視通級指導教室、通常の学級等、どんな場で学んでいても、専門性の高い教育が受けられる体制を確立することである。  本調査研究では、視覚障害のある児童生徒が、どんな場で学んでいても、専門性の高い教育が受けられる体制を確立するための基礎的研究として、様々な立場の関係者から構成された調査研究委員会を結成し、シンポジウム、パネルディスカッション、ヒアリング調査(全国各地の盲学校、全国盲学校PTA連合会、視覚障害児の親の会)を実施しつつ、現状の把握と課題の整理を行った。その結果、インクルーシブ教育を実現する上でも、地域の視覚障害教育の専門性を維持するための拠点として、盲学校が果たす役割が大きいことを確認した。一方、盲学校が地域における視覚障害教育のセンター的機能を果たすためには、・・・等の課題を解決する必要があることがわかった。また、本調査研究を実施するにあたって実施したシンポジウム、パネルディスカッション、ヒアリング調査において、視覚障害当事者、保護者、教育関係者が一堂に会して対話することの重要性を再認識することができた。特に、各地域に出向いて実施したヒアリング調査では、学ぶ主体である視覚障害当事者と教える主体である教育関係者が対話を通して問題意識を共有し、現状や課題を確認し、解決方法について議論する取り組みが極めて重要であることがわかった。  本調査報告書が、今後、より多くの視覚障害当事者、保護者、教育関係者等で議論を行い、課題を共有し、解決方法を検討するための資料となることを期待する。 おわりに  中野 泰志  かつて盲学校で学んだ経験のある皆さんは、自分が受けてきた学校生活や教育をどのように感じておられるでしょうか? 点字や弱視レンズ等を使いこなせるようになったことに感謝している人もおられると思いますし、児童生徒数が多く、活気のある盲学校をイメージする人もおられると思いますし、寄宿舎での共同生活を懐かしく感じる人もおられると思います。一方、兄弟姉妹とは異なる学校に行かなければならないことに疑問を感じたり、視覚障害を克服するために展開された厳しい訓練を苦々しく感じたり、幼い時に寄宿舎に預けられ、家族と引き離されたことで切ない思いをしたことを思い出す人もいるかもしれません。  1950年代以降、日本では、障害のある子供たちに専門的な教育を提供するために、障害の程度に基づき、重度であれば「盲学校」、軽度であれば「弱視学級」や「通級指導教室」で学ぶことが奨励される、いわゆる「措置」に基づく「分離型」の「特殊教育」(special education)が展開されてきました。しかし、近年、日本における障害のある子供たちへの教育は大きく変化しつつあります。2007年に「特殊教育」から「特別支援教育」(special needs education)への転換が図られ、障害のある幼児児童生徒への教育の考え方が劇的に変化しました。また、2012年の中央教育審議会初等中等教育分科会の「共生社会の形成に向けたインクルーシフ?教育システム構築のための特別支援教育の推進(報告)」では、日本が今後、インクルーシブ教育に向かうことが提言され、2020年度からは新しい学習指導要領が実施されます。インクルーシフ?教育システムにおいては、同じ場で共に学ぶことを追求するとともに、個別の教育的ニーズのある幼児児童生徒に対して、自立と社会参加を見据えて、その時点で教育的ニーズに最も的確に応える指導を提供できる、多様で柔軟な仕組みを整備することが重要とされています。また、小・中学校における通常の学級、通級による指導(弱視通級指導教室)、特別支援学級(弱視特別支援学級)、特別支援学校(視覚障害特別支援学校)といった、連続性のある「多様な学びの場」が用意され、どこで学ぶかを決める際に、本人・保護者の意見が最大限に尊重されることになっています。  視覚障害があると盲学校や弱視学級に措置されていた時代から、多様な学びの場を選べる時代になったことは大きな教育改革であり、共生社会を実現する上で重要な第一歩がスタートしたと言えます。この教育改革には、1953年にデンマークのバンク?ミケルセンが提唱したノーマライゼーションの概念から展開された障害当事者運動や「私たちの事を私たち抜きで決めないで(Nothing About us without us)」を合言葉に「障害者権利条約」の採択に向けて展開された障害当事者運動が大きな影響を及ぼしています。もちろん、これら世界的な障害当事者運動には、日本視覚障害者団体連合も重要な役割を果たしてきたわけで、皆さんの声や活動等が教育を突き動かしたと言っても過言ではありません。その結果、通常の学級で学ぶ重度の視覚障害のある子供たちの数も増えてきているわけです。  インクルーシブ教育の理念は、共生社会を実現する上で、必要不可欠な考え方です。そのために、現在、日本で採用されている「多様な学びの場」から選択できる「インクルーシブ教育システム」をさらに発展させ、障害の有無や程度にかかわらず、希望すれば、誰もが同じ場で学ぶことができる制度を目指していくことは重要なことです。しかし、ここで留意しておきたいのは、これらの制度が実際に有効に機能しているかどうかです。どのような学びの場を選んでも、専門性の高い教育を受けることができなければ、意味がありません。例えば、点字での教育が必要な児童生徒が地域の通常の学級で適切な指導が受けることができるのでしょうか? また、最近、盲学校の幼児児童生徒数が減少しているという話を聞くけれども、盲学校はなくしてしまってもよいのでしょうか? インクルーシブ教育の理念を実現するためには、現在、学んでいる視覚障害のある子供たちの個別・具体的な実態を丁寧に把握し、一人ひとりの当事者が求める教育が実現できているかどうかを絶えず確認し続け、理想を阻んでいる課題を発見し、一つひとつ解決していく必要があります。そのためには、視覚障害のある子供たちだけでなく、保護者や視覚障害教育に携わる関係者の声も丁寧に聞き、一緒に課題を分析し、問題解決の方法を考え、アクションを起こしていく必要があります。  本調査研究事業では、当事者、保護者、教育関係者が集まり、未来を支える若き人材の人格や個性を形成する上で極めて重要な「教育」のあり方について議論することからスタートしました。立場の異なる関係者が集まり、視覚障害教育について語り合う機会を設定し、議論を繰り返しました。また、調査研究では、決められた質問に回答していただくというアンケート調査ではなく、全国各地に出向き、直接、対面し、問題意識を共有した上で、今後の視覚障害教育のあり方について対話をしながら、個別・具体的な実態・課題・解決に向けた方向性等を把握するという方法を用いました。本報告書には、対面で収集した実態や課題のみしか掲載できませんでしたが、地域を訪問し、対面で議論するという活動からは、多くの示唆を得ることができました。今後、多くの関係者で、この調査結果を共有し、視覚に障害のある子供たちにとっての教育のあり方について議論を重ね、提言を行っていきたいと思います。ぜひ、一人でも多くの関係者が、教育の問題に関心を持ち、視覚に障害のある子供たちが、それぞれの学びの場で、それぞれが求める専門性の高い教育を受けることができるシステムが実現できるように、一緒にアクションを起こしていただけると幸いです。 巻末資料 1.委員名簿(順不同・敬称略)◎委員長、〇副委員長 氏名 所属 中野 泰志◎ 慶應義塾大学経済学部 教授 長尾 博 宮城教育大学 元教授 小林 秀之 筑波大学 准教授 星加 良司 東京大学大学院教育学研究科附属バリアフリー教育開発 研究センター 准教授 木村 利男 全国盲学校長会 会長 東京都立文京盲学校 校長 大内 進 (独)国立特別支援教育総合研究所 名誉所員 矢野口 仁 松本大学教育学部教育学部教職センター 専門員 内間 香代子 全国盲学校PTA連合会 会長 文京盲学校PTA 会長 工藤 滋 筑波大学附属視覚支援学校 教諭・(理療科教員連盟) 氏間 和仁 広島大学大学院教育学研究科 准教授 片平 考美 静岡県立静岡視覚特別支援学校教諭・日視連青年協 竹下 義樹〇 (福)日本視覚障害者団体連合 会長 橋井 正喜 (福)日本視覚障害者団体連合 常務理事 佐々木 宗雅 (福)日本視覚障害者団体連合 組織部長 三宅 隆 (福)日本視覚障害者団体連合 情報部長 2.委員会の実施報告 第1回委員会 期日:平成31年3月27日(水) 場所:日本盲人福祉センター 第2回委員会 期日:平成31年4月26日(金) 場所:日本盲人福祉センター 第3回委員会 期日:令和元年8月25日(日) 場所:東京都障害者福祉会館 3.全国の盲学校一覧(校名) 1.北海道旭川盲学校 2.北海道帯広盲学校 3.北海道札幌視覚支援学校 4.北海道函館盲学校 5.青森県立盲学校 6.青森県立八戸盲学校 7.岩手県立盛岡視覚支援学校 8.秋田県立視覚支援学校 あきた総合支援エリア かがやきの丘 9.宮城県立視覚支援学校 10.山形県立山形盲学校 11.福島県立視覚支援学校 12.茨城県立盲学校 13.栃木県立盲学校 14.群馬県立盲学校 15.埼玉県立特別支援学校塙保己一学園 16.筑波大学附属視覚特別支援学校 17.東京都立文京盲学校 18.東京都立久我山青光学園 19.東京都立葛飾盲学校 20.東京都立八王子盲学校 21.千葉県立千葉盲学校 22.神奈川県立平塚盲学校 23.横浜市立盲特別支援学校 24.横浜訓盲学院 25.神奈川県立相模原中央支援学校 26.山梨県立盲学校 27.長野県松本盲学校 28.長野県長野盲学校 29.新潟県立新潟盲学校 30.富山県立富山視覚総合支援学校 31.石川県立盲学校 32.福井県立盲学校 33.静岡県立静岡視覚特別支援学校 34.静岡県立沼津視覚特別支援学校 35.静岡県立浜松視覚特別支援学校 36.愛知県立名古屋盲学校 37.愛知県立岡崎盲学校 38.岐阜県立岐阜盲学校 39.三重県立盲学校 40.滋賀県立盲学校 41.京都府立盲学校 42.和歌山県立和歌山盲学校 43.奈良県立盲学校 44.大阪府立大阪南視覚支援学校 45.大阪府立大阪北視覚支援学校 46.兵庫県立視覚特別支援学校 47.神戸市立盲学校 48.鳥取県立鳥取盲学校 49.島根県立盲学校 50.岡山県立岡山盲学校 51.広島県立広島中央特別支援学校 52.山口県立下関南総合支援学校 53.香川県立盲学校 54.愛媛県立松山盲学校 55.徳島県立徳島視覚支援学校 56.高知県立盲学校 57.福岡県立福岡視覚特別支援学校 58.福岡県立北九州視覚特別支援学校 59.福岡県立柳河特別支援学校 60.福岡県立福岡高等視覚特別支援学校 61.佐賀県立盲学校 62.熊本県立盲学校 63.長崎県立盲学校 64.大分県立盲学校 65.宮崎県立明星視覚支援学校 66.鹿児島県立鹿児島盲学校 67.沖縄県立沖縄盲学校 4.盲学校の現状(2018年)  全国盲学校  (視覚障害者に対する教育を行う特別支援学校)の学校数等 (1)学校数:67校1分校  ・国立1校 市立2校 私立1校 都道府県立63校  ・分校1校 京都府盲舞鶴分校は平成23年度から休校  ・1県1校の都道府県 37府県/47都道府県(79%) (2)スクールバス配置校:34校 (3)設置形態別学校数、校名  @高等部単独校:2校   東京都立文京盲学校、福岡県立福岡高等視覚特別支援学校  A幼・小・中学部校:8校 北海道旭川盲学校、北海道帯広盲学校、北海道函館盲学校、 東京都立葛飾盲学校、東京都立久我山青光学園、 神奈川県立相模原中央支援学校、福岡県立福岡視覚特別支援学校、 福岡県立柳河特別支援学校  B小・中学部校:1校   青森県立八戸盲学校  C盲・聾併置校:3校   青森県立八戸盲学校、奈良県立盲学校、徳島県立徳島視覚支援学校 (4)学部・学科別設置校数、校名  @学部別設置校数   幼稚部設置校:54校   小学部設置校:65校   中学部設置校:65校   高等部普通科設置校:55校  A職業学科別設置校数、校名  ア 理療教育を行っている盲学校:58校  ・本科保健理療科設置校:45校  ・専攻科理療科設置校:56校(うち鍼灸手技療法科2校)  ・専攻科保健理療科設置校:39校  イ 音楽教育を行っている盲学校:2校  ・本科音楽科設置校:2校   筑波大学附属視覚特別支援学校、京都府立盲学校  ・専攻科音楽科設置校:2校 同上  ウ 専攻科理学療法科設置校:2校   筑波大学附属視覚特別支援学校、大阪府立大阪南視覚支援学校  工 専修部柔道整復科設置校:1校  大阪府立大阪南視覚支援学校  オ 生活科設置校:5校  ・本科生活技能科:1校 福岡県立福岡高等視覚特別支援学校  ・本科総合生活科:1校 千葉県立千葉盲学校  ・専攻科生活科:1校 横浜訓盲学院  ・専攻科生活情報科:1校 秋田県立視覚支援学校(1年課程)  ・専攻科普通科:1校 京都府立盲学校(1年課程)  カ 理療研修科設置校:3校(いずれも1年課程)  ・専攻科研修科:1校 福岡県立福岡高等視覚特別支援学校  ・専攻科鍼灸手技療法研修科:1校 筑波大学附属視覚特別支援学校  ・専攻科研究部理療科:1校 京都府立盲学校 (5)名称の変更  「盲学校」等のまま変更なし:41校(61%)  「視覚特別支援学校」 「視覚支援学校」等:26校(39%) (6)複数の障害種に対応した学校:5校  ・東京都立久我山青光学園(視覚・知的)  ・神奈川県立相模原中央支援学校(視覚・聴覚・肢体・知的)  ・富山県立富山視覚総合支援学校(視覚・病弱(高普))  ・山口県立下関南総合支援学校(視覚・聴覚・肢体・知的・病弱)  ・福岡県立柳河特別支援学校(視覚・肢体・病弱) (1)参考文献 ○全国盲学校長会編著「視覚障害教育入門Q&A新訂版」  ジーアス教育新社、2018年 ○香川邦生編著「視覚障害教育に携わる方のために 五訂版」  慶応義塾大学出版会、2016年 ○猪平眞理編著「視覚に障害のある乳幼児の育ちを支える」  慶応義塾大学出版会、2018年 ○氏間和仁編著「見えにくい子どもへのサポートQ&A」  読書工房、2013年 ○独立行政法人国立特別支援教育総合研究所編著「特別支援教育の基礎・基本新訂版」  ジーアス教育新社、2015年 ○社会福祉法人日本盲人福祉委員会発行 「日本の視覚障害者2018年版」、2018年 ○社会福祉法人日本盲人会連合発行 「視覚障害者のための日常生活用具と補装具の給付及び貸与の実態調査事業報告書」、2017年 ○全国盲学校長会「2018年度全国盲学校調査」 (2)参考ホームページ ○文部科学省 共生社会の形成に向けたインクルーシブ教育システム構築のための特別支援教育の推進(報告) 概要 https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo3/044/attach/1321668.htm ○文部科学省  特別支援教育(リーフレット) https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/tokubetu/main/004.htm ○文部科学省  特別支援教育について (1)視覚障害教育 https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/tokubetu/004/001.htm ○文部科学省  特別支援教育の推進に関する調査研究協力者会議(第1回)  配付資料今後の特別支援教育の在り方について(最終報告)   第1章 特殊教育から特別支援教育へ https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/shotou/054/shiryo/attach/1361225.htm ○文部科学省 新しい時代の特別支援教育の在り方に関する有識者会議(第1回)  配付資料 日本の特別支援教育の状況について https://www.mext.go.jp/kaigisiryo/2019/09/__icsFiles/afieldfile/2019/09/24/1421554_3_1.pdf ○参考資料25:副次的な籍について https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo3/044/attach/1323330.htm ○独立行政法人国立特別支援教育総合研究所  インクルDB(インクルーシブ教育システム構築支援データベース) http://inclusive.nise.go.jp/ ○全国盲学校長会 「最近のあゆみ」 http://www.zentoku.jp/dantai/mou/index.html ○眼科学校保健 資料集 発行者公益社団法人日本眼科医会 https://www.gankaikai.or.jp/schoolhealth/3da61df5c0c07a1365092b83670e9395.pdf 視覚障害教育のあり方に関する実態調査 ― 報告書 ― 【発 行】2020年(令和2年)3月  社会福祉法人日本視覚障害者団体連合          〒169−8664          東京都新宿区西早稲田2−18−2          TEL 03−3200−0011          FAX 03−3200−7755