135ページ 第16章 終わりにあたって − 今後の点検と運動推進のための委員会の設置に向けて − 1.2019年(平成31年)4月から改正バリアフリー法(高齢者、身体障害者の移動の円滑化を促進する法律)が施行され、これまで以上に社会のバリアフリー化ないしユニバーサルデザイン化が促進されると思われる。しかし、そうしたバリアフリー法の改正においても、視覚障害者の外出時における安全安心は十分には意識されておらず、視覚障害者にとっての安全対策が今後も大きな課題であることには変わりはない。総合的な街づくりの検討を行い、ITやAIを含む新技術をも取り入れた質の高い安全で安心できる移動環境を求めていくことが必要である。 2.わが国は、2018年(平成30年)4月に、マラケシュ条約の批准を国会で承認し、同年10月に同条約の締約国となった。そして、それに伴う国内法の整備としての著作権法などの改正が行われ、私たちが求めてきた読書バリアフリー法(仮称)も制定されようとしている。読書だけでなく情報保障は視覚障害者の永遠の課題である。今後は、デジタル情報のアクセシビリティ化、放送や通信における音声解説を標準化させ、さらにはIT、ICT及びAIをも含めた新技術による情報保障が権利として制度化されることが必要である。 3.障害者権利条約の批准によってインクルーシブ教育が求められているが、わが国においてはその内容を「インクルーシブ教育システム」という名で特別支援教育に取り込まれ、分離教育を前提とした教育制度が維持されようとしている。今後は、権利条約が求めている真のインクルーシブ教育ともいうべき、一般教育から分離ないし区別されることのない教育が初等から高等教育まで確立させることが必要である。 4.障害者雇用促進法に基づく法定雇用率が引き上げられてきたものの、視覚障害者の就労数は増えるどころか減少気味である。また、差別的処遇や合理的配慮の不提供は同法の改正、施行によっても遅々として進んでいない。他方、あはきにおいては、あはき法19条の合憲性をめぐる訴訟が提起され、今後の趨勢によっては視覚障害あはき師の業権擁護ないし職業的自立が大きく阻害される恐れもある。   視覚障害者にとっての真の職業選択の自由と職業的自立の確立を求めるための運動と施策の提案がこれまで以上に必要である。 5.障害者権利条約の批准とともに、障害者差別解消法が制定、施行されたが、障害に対する理解や差別の解消ははかばかしい進展を見せていない。差別の概念が国民に浸透し、合理的配慮の提供が「当たり前」となる社会を実現するためには、本連合を含む当事者団体の役割は大きい。2020年までに実施されようとしている障害者差別解消法の見直し作業を通じて、権利擁護ないし差別を含む人権救済システムの確立を目指すことが必要である。 6.今後は、本報告書で示したビジョンないしマスタープランを実現するための運動がどこまで進展したか、あるいは実現したかを点検するための委員会を設置し、必要に応じた運動方針を立案することもその任務としなければならない。