123ページ 第13章 防災・減災意識 ― これまでの各地の災害対策を踏まえてー 1.現状  2011年(平成23年)3月に発生した東日本大震災をはじめ、近年、日本では様々な自然災害が頻発している。特に、このような自然災害は「いつ、どこで」発生するかが分からないため、国や自治体は災害対策に力を入れ、各地域でも災害対策の意識が芽生えている。この流れにより、各地域では、災害時または防災・減災に向けた様々な取り組みが実施されている。  しかし、災害弱者と呼ばれている視覚障害者は、結果的にこれらの国や自治体、地域での取り組みから取り残されている現状がある。  東日本大震災を例に取れば、災害発生時の避難の困難さはもちろん、避難所では満足に支援を受けられなかった事例は多く、視覚障害者の災害対策の課題が浮き彫りになった。特に、視覚障害者の特性を理解しないがゆえに対応を誤るケースが多く、いかにして視覚障害者の障害特性を網羅した災害対策が作れるかが課題になっている。ただ、こうした先行事例があるにも関わらず、国や自治体の視覚障害者の災害対策が一向に進まないことは問題であり、引き続き、視覚障害者自身が防災対策の必要性を訴え、具体的な提案を行うことが求められている。  一方で、視覚障害者自身にも問題があるとも言われている。それは、一部の視覚障害者においては、災害は他人事と考えており、過去の教訓を学ばない者が多く、防災や減災意識が高まらないことである。それこそ、災害に遭った視覚障害者からの様々な情報は、災害から日々の生活を守るため、または災害時に生き抜くための重要なアイデアが含まれているにも関わらず、こういった情報が活用されていないことが多い。  つまり、視覚障害者自身が災害に対して意識が薄いことこそ一番の課題であり、視覚障害者の防災対策を遅らせている原因になっている。防災・減災に対する意識があれば、それが国や自治体への改善要望の原動力になる。この意識の欠如こそが改善すべき大きな課題となっている。 2.到達目標  まず、視覚障害者自身の防災・減災意識を高めるための対策が必要になる。その上で、視覚障害者に求められる防災対策などを、視覚障害者自身の視点で整理し、国や自治体、関係機関に対してその防災対策を提案する。災害時に支援を受ける者(視覚障害者)と支援を行う者(国や自治体、地域住民など)の両輪がかみ合うことが、真の防災対策である。 3.具体的方策 (1)短期  視覚障害者自身の防災・減災意識を高めるために以下の@Aの方策を実施する。そして、防災・減災意識が高まったところで、地域での具体的な運動の手助けにするため、BCDの方策を実施する。  @ 防災に関する情報保障の確立    視覚障害者は情報障害であり、国や自治体などから発信する防災・減災に関する有益な情報が受け取れていない。そのため、国や自治体などが作る情報(ハザードマップなど)の点字版・音声版の作成は必須になる。視覚障害者が求める媒体で情報が得られるように運動を行う必要がある。  A 視覚障害者に特化した情報の発信    視覚障害者に特化した災害時の困りごとを改善するためには、実際に起きた過去の事例を活用することが一番効果的である。それこそ、東日本大震災後に発行していた情報誌「語り継ぐ未来への友歩動」は、災害時の教訓を示す有効な教科書となった。このような情報を、全国の視覚障害者に確実に届けるため、情報誌の発行や、情報サイトの作成が必要である。  B 視覚障害者向け防災・減災コーディネーターの設置    地域で推進をしている防災や減災の取り組みは、視覚障害者自身が理解や参加できる方法で実施されていない。それこそ、防災訓練などを行っても、結果的に参加ができないことが多い。そのため、自治体などの防災・減災の取り組みに対して、視覚障害者が参加できるように各種調整を行うコーディネーターの存在が求められている。特に、このコーディネーターがいることで、実際に災害が発生した場合、地域で視覚障害者向けの支援を行う中核になることも期待できる。コーディネーターの育成から必要にはなるが、実現すべき方策になる。  C 視覚障害者向け災害対策の在り方の整理    視覚障害者の災害対策は、これまでも国や各地域での会議などで視覚障害当事者から要望を申し出ているが、意見を出す者の考え方や知識によって、大きく内容が異なっている。つまり、要望などに統一感がないため、日本全土で画一的な災害対策が実施されない傾向がある。そのため、視覚障害者の災害対策に必要となる指針を、視覚障害者自らが整理し、全国の視覚障害者に情報提供をする。そして、この情報を元に各地で運動を推し進める仕組みを作りたい。  D 視覚障害者災害対策基金の設立    災害は「いつ、どこで」発生するか分からないため、発生後に募金活動を行ったのでは、被害にあった視覚障害者への支援が遅れてしまう。そのため、災害時に迅速に対応する基金を設立し、支援を必要とする者への迅速な支援を行える体制が求められる。視覚障害当時者からの共助を求めつつも、対外的にも支援を求める基金を目指す。 (2)長期  @ 視覚障害者向け災害対策連絡会の設置    短期目標を永続的に実施するためには、その方策を具体的に推進すること、さらに実施内容の監視が必要になる。そのため、各地域で視覚障害者向け防災対策を行う当事者団体の代表者が集い、短期目標の永続的な実施を支える連絡会を設置する。特に、連絡会を作ることで、短期目標を支えていくことに加え、災害の記憶や教訓を後世に繋いでいく仕組みも組織的に盛り込んでいきたい。