107ページ 第10章 女性 108ページ 第1節 複合差別 1.現状  ここでいう複合差別とは、視覚障害女性が障害者差別と女性差別を重複して受ける掛け算的な困難をいう。  雇用、教育、暴力など、社会の様々な場で有効な施策が求められているが、障害者施策には性別に着目した視点がなく、女性施策では障害者が想定されていない。時に施策の間をたらい回しにされることもあり、複雑化した問題の解決はより難しくなる。  性別役割分業観が未だ根付く社会の中で、家事や育児、介護の責任や負担が女性に過度に求められ、女性自身も周囲もそれを当然視するため、問題に気づきにくい状態にある。 2.到達目標  視覚障害女性が社会の様々な場に参画し、性別にかかわらず、多様な生き方が尊重される社会となるよう、制度や意識の改革を進める。  障害のない者と同等な水準で医療・福祉・保健、DV相談やシェルターなどの社会サービスを容易に利用できるようにする。 3.具体的方策 (1)短期  @ 内部的な取り組みとしては、複合差別を理解するための研修の機会を設け、意思決定にかかわる役員の女性比率を引き上げる。  A 社会的運動としては、障害者福祉にかかわる職員に対し複合差別への理解を促す研修を、女性相談にかかわる職員に対しては障害への理解と支援の在り方に関する研修の機会が設けられるよう働きかける。講師には複合差別に取り組んできた視覚障害の女性が担当できるよう推薦する。 (2)長期  @ 国や自治体の審議会などの障害者枠に女性委員を積極的に登用する。  A 複合差別に関する内部研修を全国的・定期的に実施する。  B 障害者及び女性福祉に携わる職員に対する複合差別の研修を定期的に開催できるよう、各自治体へ働きかける。 4.課題  女性差別は障害者差別に比べ可視化されにくく、画一的な女性役割を求められ、苦しくても個人の問題と捉えがちで、当事者も困難を訴えにくい傾向がある。そのため、個人的な経験を語る中で気づくことも多く、障害女性が安心して話ができる集いの開催など、複合差別を視点に加えたエンパワメントの機会を増やすことが重要である。 110ページ 第2節 セクシャルハラスメント 1.現状  視覚障害を持つ女性の多くは、セクシャルハラスメントの被害を受けやすいと言われている。  例えば、電車や公共の場所における痴漢行為、マッサージの施術中におこる男性客からのセクシャルハラスメントなどである。 2.到達目標  視覚障害を持つ女性が、セクシャルハラスメントの被害を受けず、尊厳をもって生きることのできる社会を実現する。 3.具体的方策 (1)短期  @ 警察とも連携し、視覚障害者にもできる護身術や、デジカメなどのIT機器による加害者情報の取得など、痴漢行為に対する自衛策を研究し、女性会員に対する研修を行う。  A 本連合の総合相談室と連携し、女性が対応する「視覚障害者のセクシャルハラスメント110番」などの電話窓口を設置し、気軽に相談を行うことができる体制を整備する。 (2)長期  @ 視覚障害者のセクシャルハラスメントで問題となるのが、加害者を特定することの困難性である。民間企業などとも協力し、視覚障害者が常に携帯できる小型ビデオカメラなどの開発を促進し、仮にセクシャルハラスメントの被害を受けたとしても、泣き寝入りしなくても済むような機器の開発を促進する。 111ページ 第3節 子育て支援 1.現状  全盲あるいは強度弱視夫婦でも、健やかな子育てを行い、親の義務を果たしている両親は大変多い。一般的な認識において、視覚障害者が子育てを行っている様子は簡単には理解されにくいであろう。  晴眼者であっても子育ては、精神的にも、経済的にもストレスとなり、大きな環境変化をもたらすものであるが、子育ては、ライフステージにおいて、両親が自ら成長し、幸せを成就させる貴重な体験となる。  視覚障害は情報障害とも言われるように、文字処理や環境の把握及び突然の環境変化の認識に大きな障壁がある。このような特性により、子育てにおいては、子供の見守りがほとんどできず、その方策として聴覚や触覚、時に嗅覚も導入して子供の様子を認識している。しかし、これらの方策にも限界があり、結果的に親族のみならず、周囲のサポートや社会資源を友好的に活用しなければならないのが現状である。  また、片親が晴眼者である場合や両親の視覚障害の程度、家族構成、子供の年齢や状況など、様々な家族の在り方が存在するため、統一的・画一的な支援方法だけでは十分なサポートとはならない。  従って、自助を促すような方策に加えて、個別的な共助や公助を整える必要がある。 2.到達目標  視覚障害者であっても、本人が望むような子育てを安心してできるような社会を作り出すことが必要である。子育てを通じて視覚障害者とその家族が、地域や社会と繋がり、社会の構成員として存在することにより、人生の充実感や満足感を味わえるような社会の実現を目指したい。 3.具体的方策 (1)短期  @ 視覚障害者の子育てに関する実態調査を行い、問題点の明確化を図る。その際、視覚障害者によって育てられた子供からの視点も含めて調査する。  A 視覚障害者の親の会を支持し、組織強化を図る。  B 社会に対して、視覚障害者が子育てを含めた社会生活を行っていることの理解・啓発を促進する。  C 子供の病気やけがに対応するため、24時間体制で速やかに医師、看護師、保健師などに容易に相談できるような制度を構築する。  D 保育園、幼稚園の送迎にガイドヘルパーが利用できるように制度の拡充を図る。  E 子供が義務教育を修了するまでの期間、両親として子供に関わるような内容であってもホームヘルパーの利用ができるような制度の拡充を図る。 (2)長期  @ 子供の急な病気やけがなどに対し、速やかに医師、看護師、保健師などを派遣する。また、これらの者を、適切な機関への移送に対するガイドになるような制度も構築する。  A 個別的に妊娠時期を含めて、保健師の定期的な訪問支援を受けられるような制度を構築するとともに、子育て時期を含めて、24時間体制でいつでも相談や支援が受けられるような体制を整備する。  B 医師、看護師、保健師、教師などを教育する機関では、視覚障害者に対する支援方法を身につけるような内容を必須科目として設置する。 4.課題  @ 拡充した制度や新規制度の利用に際し、過剰な利用者負担が発生しないように予算化しなければならない。  A 障害福祉サービス全般にいえることであるが、特に子育て支援の場合は、それぞれのプライバシーに深く関わることが予測されるため、プライバシー保護の法制度の観点を考える必要がある。