99ページ 第9章 高齢者 100ページ 第1節 在宅介護 1.現状  わが国では、国民の高齢化が進んでいるため、医療機関などへの長期入院は許されず、在宅医療を中心とする方向性が進んでいる。このような背景があるため、介護の現場では、老老介護を上回る、障害者が高齢者を見守る「障老介護」、または障害者が高齢の障害者を見守る「障障介護」が行われている。この障老介護や障障介護は、肉体的にも精神的にも、そして金銭的にも大きな負担となり、高齢の視覚障害者にとっては大きな問題となっている。  一方で、現在の介護保険制度を利用して、住み慣れた地域で在宅介護を受けながら生活をすることは非常に大切であるが、一人暮らしの高齢の視覚障害者の場合、地域からの支えあいがない限り、実際には満足に暮らすことは難しく、支えあいの中でも課題が多い。例えば、民生委員の見守り活動などは、高齢の視覚障害者にとっても有益とされているが、視覚障害者に配慮した見守りが行われず、かえって不快な思いをすることもある。  障害の有無を問わず、介護を受ける・介護を行うことは、高齢者になれば当然避けることはできない課題である。そして、視覚障害者の場合、障害があるがゆえに、この問題をさらに複雑にしている。つまり、この複雑な問題の解決を図ることが、安心した在宅介護の実現のために必要とされている。 2.到達目標  全ての視覚障害者が安心して在宅介護を受けられることを目標に、視覚障害者を包括的に支える制度を確立させる。 3.具体的方策 (1)短期  高齢の視覚障害者が介護を受けること以上に、視覚障害者が介護を行うことは、行動面や意思疎通において困難な部分が多い。そのため、「障老介護」「障障介護」への支援は必須になり、様々な施策を確立させる必要がある。例えば、障障介護の場合、介護を受ける側、介護を行う側が効率的にショートステイやデイサービスを利用しながら、お互いの負担を軽減し、介護生活を楽しみながら過ごせるようにするなど、利用者本位な制度に改める必要がある。  また、支援者やケアマネージャーなどが視覚障害者の特性を理解しないことが多いため、その改善も必要となる。そのためには、支援者などの養成において、障害者理解の時間を盛り込むことなどを行う必要がある。 (2)長期  今後、団塊世代の介護が頂点となるため、介護を行う側のマンパワーが限界になると予測されており、今後は介護を行う人材の確保が重要になっている。そのため、外国人労働者の活用が求められているが、障害者の介護での活用は後回しにされている印象がある。在宅介護においては、外国人労働者による視覚障害者の支援を長期の視点で検討する必要がある。  また、マンパワーを補うものとして介護ロボットやICTの活用も進んでいる。これらは、介護を受ける側、介護を行う側である視覚障害者も利用できる内容になるべきである。そのため、視覚障害当事者が積極的にこれらの開発に意見を述べて、確実に視覚障害者が利用できる、また利用した際に不便のない内容にすることが求められる。 102ページ 第2節 老人ホーム 1.現状  視覚障害に特化した盲老人ホーム(盲養護老人ホームや盲特別養護老人ホーム)は、2008年の時点で80施設、5,000名弱が入所しており、高齢の視覚障害者にはなくてはならない存在である。  その一方で、一般向けの老人ホーム(特別養護老人ホーム、有料老人ホーム、グループホーム、ルームシェアなど)へ、高齢の視覚障害者が入居することも増えている。しかし、これらの一般の施設を全盲や弱視の視覚障害者が利用することは大変困難であり、改善を求める声が多い。例えば、施設内での移動においては、視覚障害者用誘導ブロックや音響案内が設置されてないなど、視覚障害者への配慮は乏しく、施設の職員にお願いしないと移動ができないことがある。この場合、施設の職員の手が空いていれば移動ができるが、大半の施設では人手が足りず、このようなお願いが後回しになってしまう。つまり、トイレに行きたくても行けない視覚障害者が多いとされている。この他にも、入居者や施設職員とのコミュニケーションが難しい、施設内の各種備品の利用が困難であるなど、高齢の視覚障害者が施設を利用すること自体が難しく、施設に入所したとしても、結果的に孤立してしまうことは大きな問題である。  また、その視覚障害者の収入や家族構成によって、入所時の補償金や毎月の利用料金で内容は大きく変わり、家族がいるとそもそも入所できないこともある。高齢の視覚障害者を介護することは、家族がいたとしても難しいことが多く、本人が施設への入所を希望するのであれば、その希望に従って施設に入所できるようになることが、本来の介護ではないだろうか。  高齢の視覚障害者は、家族関係、住宅環境、体調などを考慮すると、老人ホームへ入所することは平穏な老後を暮らすための重要な選択肢である。しかし、現実では、安心して入所ができない状況となっているため、高齢の視覚障害者は「平穏な老後がない」と言っても過言ではない。 2.到達目標  老人ホームは、本人の意思で希望する入居先を決められることを大前提に、視覚障害者が入所しても安心して老後を過ごせる制度、仕組みに変更を行う。 3.具体的方策 (1)短期  老人ホームへの入所は、本人の意思を第一に考えるべきであり、家族の有無、収入などで入所することの差異が生まれない制度に改める必要がある。  さらに、共生社会の時代において、施設における障害者理解や合理的配慮の提供が求められることを踏まえると、施設自体や施設の職員が障害者を理解する必要がある。視覚障害者においては、視覚障害特有の困難さがあることから、その障害特性を理解した上で、ハード面、ソフト面での支援が行えるよう、様々な施策の確立を求めていく。  また、一般の施設において、視覚障害者への支援が難しいのであれば、視覚障害者に特化した盲老人ホームを活用することも重要になる。これらの施設を増やす取り組み、さらに入所しやすくする取り組みも行っていく必要がある。 (2)長期  一般の老人ホームにおいては、障害者ではない入所者が、一緒に入所する障害者の入所者のことをいかに理解するかが課題となっている。しかし、世間一般での障害者理解が進まないことと同じで、このような高齢者に障害者理解を進めることはなかなか難しい。国が進める心のバリアフリーの取り組みを、このような高齢者を含む全世代を対象として、長期の視点で改善を図っていく必要がある。  一方で、施設側としては、障害者を受け入れやすくする試みを実施すると、必要以上に経費がかさむ現実もある。そのため、障害者を受け入れた場合、施設側の処遇改善も同時に実施しなくては、障害者が安心して入所できる施設とはならない。この点は、国民の理解を得ながら、同時に改善する必要がある。 104ページ 第3節 生きがい対策 1.現状  障害の有無を問わず、高齢になり、老後を楽しく過ごしていくことは重要なことである。それこそ、仕事や趣味などの充実を通して日々の生活を明るく過ごす者も多く、老後の生活の中で「生きがい」を見つけることは、高齢視覚障害者にとって大きな課題となっている。  例えば、高齢の視覚障害者の中では、体力づくりの一環でスポーツを生きがいの一つとして楽しむ者が多い。サウンドテーブルテニスなどの専門競技に参加する者から、名所などの散策、それこそ鉄道会社が開催する各種歩け歩け大会などの手軽なものなど、幅広くスポーツを楽しんでいる。  また、読書が好きな者は点字図書館やサピエ図書館で本を借りたり、対面朗読サービスを受けたりと、読書も生きがいの一つとされている。さらに、映画や美術鑑賞、歌や踊りといった芸術的なレクリエーションに積極的に参加する者もおり、文化・芸術活動を生きがいとしている者も少なくはない。  しかし、視覚障害の高齢者の中で、どれほどの者が「生きがい」を見つけているのだろうか。生きがいのある高齢視覚障害者は少数と言わざるを得ない。  それこそ、高齢の視覚障害者は、家の外への移動がそもそも難しく、また、自身の生きがいに繋がる情報を掴めない者が多い。そのため、視覚障害高齢者として生きがい対策を進めるためには、移動の保障や情報の入手が同時に求められている。また、趣味活動においては、周りや地域からの理解や支援を得ることも課題となっている。  高齢視覚障害者が、有意義な老後を過ごすためには、「生きがい」に出会う必要がある。その出会いに繋げるためにも、様々な改善が求められている。 2.到達目標  高齢視覚障害者に対する移動保障や情報保障を充実させ、地域の住民などからの理解や支援を求めることにより、高齢視覚障害者が「生きがい」に出会える環境を作り出す。 3.具体的方策 (1)短期  @ 一番の生きがいは、高齢になっても仕事が続けられることではないだろうか。例えば、定年のないあはき業にとっては経験が最大の利点であり、今現在、80歳を過ぎても治療をされている視覚障害あはき師が多い。そして、どの視覚障害あはき師も施術を行ったお客さんの笑顔に生きがいを感じている。そのため、高齢になっても仕事が続けられる支援を求めていくことが必要である。なお、この支援においては、一般就労の中途視覚障害者の支援についても留意する必要がある。  A 地域で視覚障害者の生きがい対策を充実させるには、地域での支援が重要である。そのためには、日ごろから地域住民と視覚障害者との間でコミュニケーションを取り、視覚障害者への理解を進める必要がある。  B 地域の視覚障害者団体においては、日ごろから横の付き合いを大切にし、高齢者ならではの行事を企画していきたい。地域の視覚障害者団体は、高齢の視覚障害者が「外に出る」ことを後押しする存在でありたい。 (2)長期  @ 地域の視覚障害者団体や社会福祉協議会、NPO法人などが連携し、地域のスポーツ教室や趣味・ゲームのサークルなどに、視覚障害者が日常的に参加できる環境を作っていく。