93ページ 第8章 医療・健康 94ページ 第1節 医療を受ける機会の保障 1.現状  視覚障害者が診療機関から受診を拒否されることは稀であるが、盲導犬ユーザーの場合、院内ないし診察室に盲導犬を同伴することを拒否されることがある。また、受診のための移動保障は十分とはいえない状況もある。  一方で、情報提供の観点では、受診時における必要にして十分な情報保障や、市販薬などの点字表示などはほとんど実施されていない。処方薬に対し、まれには点字表示を付けてくれる場合もあるが、常に表示してくれる状況ではない。  さらに、子育て中の視覚障害者には、子供の受診時における支援もほとんどないし、視覚障害者の入院時における支援のうち、外出保障は実現したものの、病室における支援は未だ不十分なままである。  視覚障害者にとって、医療機関は身近な存在であるべきだが、依然として利用を阻害する高い壁が存在している。 2.到達目標  @ 診療情報や薬剤(市販薬を含む)に関する情報保障(点字表示、薬剤の効能や副作用などの点字化、音声化、拡大文字化)を拡大する。  A 院内での移動、治療及び入院生活における安全安心を実現する。 3.具体的方策 (1)短期  @ 入院時の代筆・代読支援が制度化されたものの、未だほとんどの自治体では実施されていないため、全国で入院時に代筆・代読支援が受けられるようにする。  A 診療従事者による移動支援や治療に対する説明が的確に受けられるようにするために、医療関係者への研修を徹底させる。  B 処方薬や市販薬のパッケージなどに点字を表示し、希望をすれば説明書の点字版・音声版・拡大文字版を添付または別途送付してもらえるようにする。  C 緊急時でも受診のための移動支援が受けられる制度を検討する。 (2)長期  @ 今後はAIやインターネットを活用した医療が具体化されることが予想されるので、視覚障害者が自宅で診察が受けられるような体制を検討する。  A iPS細胞などを用いた先端医療による視力の保全や回復などが受けられる医療保障を実現する。 96ページ 第2節 健康増進 1.現状  視覚障害者は移動が困難であることから、各種スポーツ施設の利用が難しいとされている。そのため、視覚障害スポーツ以外を単独で行うことは困難であり、運動不足に陥りやすい傾向にある。  また、食品のカロリー表示の確認も困難であるため、肥満に陥りやすい傾向もある。 2.到達目標  @ スポーツ施設のバリアフリー化を推進。  A 視覚障害スポーツの啓発。  B 視覚障害者の健康増進意識の定着。 3.具体的方策 (1)短期  @ スポーツ施設のバリアフリー化を要望する。  A 本連合のスポーツ協議会を中心に、当事者と社会への視覚障害スポーツの啓発を行う。  B 食品のカロリー、賞味期限(消費期限)が容易に確認できるバーコードの整備を要望する。  C 加盟団体の視覚障害者BMI指数のアンケートや健康意識に関する調査を行う。  D 運動不足となりがちな視覚障害者の体力維持増進のためのレクリエーションの提供やサークルの結成を働きかける。 (2)長期  @ これまでの障害者スポーツに加えて、タンデム・ダイビング・マラソンなどの新スポーツ(ユニバーサルスポーツ・アダプテッドスポーツ)の分野において、スポーツボランティアの育成を行う。 97ページ 第3節 視覚障害予防 1.現状  高度成長期以来、生活習慣病である糖尿病の増加に伴う糖尿病網膜症の増加に加え、超高齢化による緑内障と加齢黄斑変性の増加が近年著しく、視覚障害者に占める中高年の割合が非常に増加している。また、網膜色素変性のような遺伝性網膜疾患も、治療法の開発も研究段階に留まっているため、相変わらず視覚障害の主要な原因となっている。このように、高齢者での視覚障害受障者と視覚障害者の高齢化が著しく、視覚障害者の健康管理が、以前にも増して重要になっている。  糖尿病と緑内障の早期診断・早期治療については、以前より繰り返し啓発活動が眼科医療で続けられているが、未だに重症例での発見が後を絶たない。また、治療には自己管理が不可欠であるがその教育が十分できていないという問題もある。これは、眼科医や行政から情報などを発信するだけでは不十分であることを意味し、視覚障害当事者からの社会啓発がより重みのある情報となり、有効であると思われる。そのため、本連合から社会啓発することで、一般の健診率を向上させ、かつ、眼科患者への啓発を促進する必要がある。  一方で、医学の進歩による新生児死亡率の低下から、逆に増加傾向にあった未熟児網膜症は、この10年で減少傾向に転じたものの未だに存在し、また、先天眼疾患の有病率は変化していないため、地域の幼稚園・保育園・学校へ通学する弱視の幼児・児童が一定数存在する。そのため、視覚障害の障害特性を踏まえつつ、教育の中での健康管理についてもこれまで同様に推進していかなければならない。 2.到達目標  健康診断や人間ドックを受ける者の割合を上げ、糖尿病と緑内障の早期発見を促す。さらに、視覚障害者の障害理解とともに、成人病予防を促進する。 3.具体的方策 (1)短期  @ 本連合からの情報発信と分かるポスターを作成し、全国の眼科施設(約8,500ヶ所)に配布する。高齢化に伴う視覚障害に関する社会啓発を進め、国民の眼科健康診断への参加を促す。  A 視覚障害者への一般健康診断への参加を呼びかけるとともに、生活習慣指導の受診を促す。  B 医療施設職員への視覚障害啓発を進め、視覚に障害があっても受診しやすい環境づくりを促す。  C 保育園・幼稚園・学校職員への視覚障害啓発をさらに行い、障害児童・生徒に対する健康教育を進め、障害理解を促す。 (2)長期  @ 教員養成を担う大学教育学部において、視覚障害者に関する障害理解と健康保持に対する教育の機会を増やす。 4.課題  具体的方策を実施するためには、以下の課題を解決する必要がある。  @ ポスターのデザイン。  A ポスター作成配布にかかる費用の捻出。  B ポスター配布ルートの獲得。  C 配布後、実際に外来待合に掲示させるための工夫。  D 視覚障害者への一般健康診断受診促進方法。  E 医療機関側で受診しやすい環境づくりを推進させる工夫。  F 学校職員に対する視覚障害啓発の方法。  G 大学教育学部教育カリキュラムへの導入法。