73ページ 第6章 地域生活 74ページ 第1節 住宅 1.現状  現状では、視覚障害者の住宅確保について特段の支援制度がなく、視覚障害者、特に盲導犬使用者が賃貸住宅を確保することは著しく困難な状況にある。  また、視覚障害者が支援を受けながら地域で生活したいと思い、グループホームに入居することを求めたとしても、そもそも視覚障害に対応できるグループホームが少ない。さらに、65歳を過ぎてから視覚障害を負った場合、障害者総合支援法が適用されず、グループホームに入居することができない。 2.到達目標  視覚障害があっても、自己の望む場所で、適正な家賃で住宅を確保できる社会を実現させる。  グループホームなど、支援を受けながら社会で自立したいと望む視覚障害者のために、制度や社会的資源を整備する。 3.具体的方策 (1)短期  @ 公営住宅への視覚障害者の優先的入居を可能にする法整備を求める。  A マンションなどの管理規則について、障害者の入居を断ってはいけないこと、盲導犬を拒絶してはいけないことなどを盛り込む抜本的な変更を求める。  B 65歳を超えて視覚障害者になった場合もグループホームなどへの入所を可能にする法改正を求める。 (2)長期  @ 本連合や本連合加盟団体がグループホームを建設し、会員が優先的にこれを利用できるような仕組みについて検討する。 75ページ 第2節 結婚 1.現状  わが国では、社会全体において未婚の男女が増えてきている。そして、視覚障害を持つ男女の婚姻率も高いとは言えない。  一方で、男女共同参画社会と言われるが、家庭生活となると女性が担う負担が大きいのも現状である。 2.到達目標  到達目標を数値化することは難しいが、視覚障害という個性を理解してもらうための取り組みとして、個人のセールスポイントや特技などを積極的にアピールすることが重要である。また、あくまでも恋愛は個人の問題であるが、視覚障害ということを理解してもらうために、積極的に他者との交流を図ることが望ましい。 3.具体的方策 (1)短期  人を好きになる、または好意を持ってもらうためには自らの趣味や特技を披露することも大切であり、教育、文化、スポーツ、趣味娯楽など、外に向けた発信が出会いのきっかけとなる。そのため、本連合が主催する様々な事業やイベントに、一般の方への参加を促すような方策が必要である。  また、テレビ番組やインターネット配信番組などで視覚障害を持つ夫婦のリアルな生活を放送し、多くの国民に現状を知ってもらう工夫も必要である。  さらに、日常生活上必要な掃除や洗濯、調理や子育てなどに関する体験を伴う訓練の機会を提供することが重要で、これらは夫婦の共同作業という認識で向き合うことが肝要である。 (2)長期  誤った理解などからくる偏見や差別は短期に解決するものではなく、時間をかけてじっくりと取り組む必要がある。特に、本連合加盟団体は、地域に根ざした視覚障害者理解に繋がる継続的な活動を推進することが求められる。 4.課題  そもそも、結婚というのは個人的なことが大きなウェートを占めている。併せて、家族や兄弟、親戚という関係も決して無視できるものではない。また、出産という大切な役割を担う女性が直面する妊娠・出産・育児に係る本人または赤ちゃんへの身体的または精神的な面については、あらゆるケア、さらには健康管理や医療などにおいても視覚障害に配慮した指導や助言の体制が必要となっており、これらの整備は重要な課題である。なお、これらは一元的に考えるのではなく、個別の状況に応じた柔軟な対応を第一にすべきである。 77ページ 第3節 地元社会との繋がり 1.現状  視覚障害児は、小学校入学あたりから、視覚特別支援学校に入学・入寮するため、地域との関わりが非常に少なくなる。寄宿舎生活ではなく、通学している場合であっても、視覚特別支援学校自体が近くにないことなどから、同年齢児との繋がりが絶たれる環境に陥る。  また、視覚特別支援学校を卒業した者は、余暇活動や地域の協力活動などを通し、一部の健常者との繋がりを持つことがある。他方、中途視覚障害者の場合は、地域との関わりに一時的に分断されることもあるが、自分の障害を受容し、同居家族や自宅周辺住民の障害理解が進めば、地域との繋がりが持ちやすくなるとされている。しかし、視覚障害者は、地域生活においては、回覧板を回したり、地域の自治会活動や防災訓練、地区のレクリエーション、盆踊り、町ぐるみ大清掃などへの参画ができない状況にあり、なかなか地元社会と繋がらない傾向にある。  また、地域での様々な障害者との交流に目を向けると、障害者団体は障害別に組織されているが、地域ごとの障害者組織は必ずしもあるわけではなく、それぞれの障害から他障害への理解は進んでいない。そのため、視覚障害者は、同一の障害者のグループ内で交流する場合が多く、生活の場である地域の各種団体との交流が不十分になっている。 2.到達目標  視覚障害児は、地域で生活することにより、地域の同年齢児と交流を持ち、周囲との相互理解を図ることが必要である。  また、成人をした視覚障害者は、様々な支援の確立と地域からの理解を生み出し、自治会などの地域活動への参加を通して、地元社会との繋がりを作る。 3.具体的方策 (1)短期  視覚障害者が自治体活動を行うのに必要な移動の支援、代筆・代読の支援、金銭管理などの処理の補助が受けられるようにする。これにより、積極的に自治体活動に参画することができ、さらに、地域との交流を深めれば相互理解を図ることもできる。  また、災害時の避難や避難所での生活は、地域社会との繋がりがないと実現しない。そのため、地元の人に視覚障害者を理解してもらうための取り組みを行う。 (2)長期  都道府県や政令指定都市の本連合加盟団体において、自治会や町内会、老人クラブ、女性会などの地域団体と懇談し、当該地域に居住する視覚障害者への理解を後押しさせる。 79ページ 第4節 一人暮らし   1.現状  現在、国民全体の未婚化と高齢化の流れを受け、視覚障害者の単身世帯が増加し、併せて高齢化が進んでいる。  単身世帯では、地域社会との関係が希薄になる傾向にあり、一定の人間関係を維持しつつ、QOLを確保することが課題となっている。 2.到達目標  単身の視覚障害者であっても、その者が望む人間関係を維持し、日常生活に困らず、生きがいをもって暮らすことのできる社会制度を実現する。 3.具体的方策 (1)短期  単身の視覚障害者が、どのような困難を抱えているのかについて、実態を調査する。  各地域の当事者団体が、民生委員などと連携し、単身の視覚障害者の情報を収集するとともに、積極的な声かけや支援制度の紹介などを行い、社会との接点を持たない孤独な視覚障害者をなくす。 (2)長期  単身の視覚障害者が、個人のプライバシーを守りつつ、支援を受けながら生活できるグループホームなどを各地に建設する可能性を検討する。 4.課題  昨今の個人情報保護の意識の高まりを受け、地域の当事者団体が、行政を通じて単身の視覚障害者の情報を把握することが困難な状況にある。これを改善するためには、各団体が、日常的に行政や民生委員との繋がりを持ち、行政担当者や各民生委員と個人のレベルで信頼関係を醸成しておく必要がある。 80ページ 第5節 消費生活 1.現状  生活必需品、あるいは自分の生活を豊かにしてくれる様々な品物を選び、購入し、それを使用することは、日常生活の最も基本的な活動の一つである。  以下では、店舗での買い物の問題、インターネットショッピングの問題、クレジットカードの問題に分け、現状を概観する。 (1)店舗での買い物について  従来の小規模店舗型の対面販売では、視覚障害者は店員とのコミュニケーションを図りつつ、品物を選定し、現金で決済し、必要に応じてその場で購入した商品の使用法を教えてもらうことで、比較的容易に買い物を行うことができた。  しかし、近年の店舗の無人化や大規模化により、視覚障害者の店舗での買い物は困難になりつつある。  例えば、以下のような問題がある。  @ 一部で導入されつつある無人店舗やセルフレジでは、視覚障害者が単独で商品を購入することができない。  A 視覚障害者が大規模な店舗に買い物に行った場合、店舗内を移動しつつ目的の商品を探すことが困難である。また、どこに店員がいるのかが分からず、店員にサポートを依頼することも困難である。 (2)インターネットショッピングについて  ICTの発展に伴い、品物の選び方や決済手段など、買い物の全ての段階で様相が変わってきている。この変化により、自宅にいながらにして様々な買い物ができるようになるなど、視覚障害者の利便性が高まった側面があるが、かえって視覚障害者の買い物が困難になった面があることも否めない。  例えば、以下のような問題がある。  @ ホームページ上に掲載された商品の写真が見えなければ希望の品物を選ぶことが難しい。  A 複雑なホームページから目的の品物を探すことが困難な場合がある。  B 家電製品の設置方法や使い方などを購入時に説明してもらうことができない。  C インターネット上に掲載された家電製品などの説明書は、画像のみのPDFファイルのために音声ブラウザで読み上げることができない場合がある。  また、ネットショッピングで購入した商品を受け取るために、近年では宅配ボックスの活用が進んでいるが、宅配ボックスの暗証番号の入力がタッチパネルになっているなど、視覚障害者には利用困難なものが多い。つまり、宅配ボックスがネットショッピングを行おうとする視覚障害者の新たなバリアとなりつつある。 (3)クレジットカードについて  クレジットカードなどのように、本人確認手段として署名を必要とする決済手段は、長らく視覚障害者にとって高いバリアであり続けている。  例えば次のような問題がある。  @ カード申込み時に名前を自署できないことで、視覚障害者がクレジットカードを契約することができない場合がある。  A 品物の購入時、加盟店での名前の自署を求められ、これができないことでカードを使えないという場合がある。 2.到達目標  @ 視覚障害があっても、全ての店舗で快適に買い物ができるようにする。  A 視覚障害があっても、全てのインターネットショッピングにアクセスできるようにする。  B 自らの氏名を自署できない視覚障害者でもクレジットカードを用いた買い物ができるようにする。 3.具体的方策 (1)短期  @ セルフレジや無人コンビニなどの問題について、本連合の女性協議会などと連携して具体的な事例を収集し、経済産業省、消費者庁、業界団体などに対して、視覚障害者も単独で商品購入ができる仕組みづくりを求める。  A 視覚障害者がアクセスしにくいインターネットショッピングのホームページの情報を収集し、同ホームページの運営会社などに改善を申し入れる。  B 金融庁や業界団体に対し、視覚障害者のクレジットカード利用について、署名を自署できなくともカード契約が締結でき、商品購入に際しても必ずしも署名を必要としない本人確認の方法の実現を求め、積極的な働きかけを行う。 (2)長期  @ 全てのインターネット上のホームページについて、視覚障害者のアクセシビリティーを確保することを法的義務とする包括的な情報バリアフリー法の制定を目指す。 83ページ 第6節 家庭生活 1.現状  視覚障害者が家庭での家事などをこなすために、家庭生活訓練や日常生活訓練が活用されている。しかし、男性や仕事をしている視覚障害者は、これらの中期的訓練が受けにくい。  また、居宅介護の家事援助なども家庭生活を支える上で重要な支援となっているが、同居者に健常者がいると家事援助が受けられなかったり、受けられたとしても1回あたりの算定時間が短いことが多い。 2.到達目標  視覚に障害があっても、男女にかかわらず、自立のためには家事全般の技術を身につけることが必要である。視覚障害者でも使いやすい機器が開発され、家事がしやすくなることも大切である。  また、家事援助は、希望する全ての視覚障害者が利用できる制度にする必要がある。 3.具体的方策 (1)短期  @ 同居者に健常者がいても、子育て中であったり、高齢者である場合などには、家事援助が受けられるようにする。また、1回あたりの時間を2時間以上にしてもらう。  A 男性、または勤務している者でも家庭生活訓練が受けられるようにする。  B 新しい機器を開発する際には、視覚障害当事者の意見も取り入れてもらう。 (2)長期  @ 家事援助がいつでも希望する時に受けられるようにする。  A 普段の掃除だけでなく、大掃除にも家事援助が使え、家の中以外(屋敷内やベランダなど)の掃除なども家事援助でできるようにする。 84ページ 第7節 社会貢献活動 1.現状  視覚障害者が個人としてボランティア活動に参加したり、地域団体(自治会や町内会など)に参加し、可能な活動を行っている者もいるが、本連合あるいは本連合加盟団体などによる社会貢献活動は十分には検討されてこなかった。一部の団体が、地域が必要とする活動の一翼を担ったり、あはきや音楽活動などを通じて活動している例が見られる程度である。 2.到達目標  本連合あるいは本連合加盟団体がどのような社会貢献活動が可能であるかを検討し、各団体や会員に提案する。 3.具体的方策 (1)短期  団体及び会員に対しアンケートなどを行って、社会貢献活動に対する意識調査を行うとともに、具体的提案を検討する委員会を立ち上げる。 (2)長期  検討委員会でまとめた具体案や行動提案を実施に移す。