61ページ 第5章 外出保障  62ページ 第1節 同行援護・移動支援の利用と拡充 1.現状 (1)はじめに  ガイドヘルパー(付添者)による支援は、外出保障の中心をなす事業として発展してきた。1970年代に入ってわが国最初のガイドヘルパー派遣事業がスタートし、支援費制度を経て、2006年(平成18年)4月に施行された障害者自立支援法の時点では、いったん地域生活支援事業における移動支援として位置付けられたものの、2010年(平成22年)からは視覚障害者同行援護事業として自立支援給付に位置付けられ今日に至っている。今や視覚障害者の外出手段の中でも最も安全で、視覚障害者の外出の自由を保障する柱となっている。 (2)地域間格差  ところが、本来、自立支援給付(障害福祉サービス)として全国一律に実施されるべき制度であるにもかかわらず、実施主体が市町村に委ねられているため、未だ制度として確立されていない自治体が多く、あるいは制度として実施されていても、地域間格差がはなはだ大きい。また、公共交通機関が発達していない地域や中山間地域と都心部との利用実態にも大きな差が生じている。  問題点は以下の三つに整理できる。  @ 利用できる時間数(支給量)は、本来、当該利用者の生活実態やその必要性に対応することが明記され、支給量は制限されていないにもかかわらず、ほとんどの自治体では上限が定められている。多くの自治体は、同行援護事業に対する国庫負担基準額(約50時間)を根拠に、利用できる上限を50時間としているところが多いが、それ以下の時間設定をしている自治体も相当数に上っている。  A 同行援護事業を利用して外出できる範囲を制限している自治体ないし事業所が珍しくない。例えば、事業所所在の都道府県内とか、当該自治体の隣接の都道府県などという制限を設けている例が散見される。  B 公共交通機関が整備されていないために、ヘルパーが運転する自動車を利用しなければならない地域でも、自動車の利用に制限がある。国は、あくまでも同行援護事業においては基本的にヘルパーが運転する自動車の運転を認めず、仮にヘルパーが運転する自動車を利用した場合には、その時間帯を同行援護従事時間とは認めていない。 (3)事業所の不足  2017年(平成29年)の国の発表によれば、同行援護事業所として指定を受けた事業所数は1万に上るが、そのほとんどは都心部に集中しており、とりわけ介護保険事業を兼務している事業所が圧倒的に多い。そのため、同行援護従事者の資質の確保や地域の視覚障害者のニーズを十分に受け止めていない事業所も多い。また、都道府県によっては、同行援護事業の利用実績がほとんどゼロに近かったり、ごくわずかな利用人数・利用時間数にとどまっている地域も多い。従って、全国どこに居住していても一定の質を維持したガイドヘルパーを利用できる状況とはなっていない。 (4)ヘルパーの不足  同行援護事業所等連絡会の活動によって、移動支援従事者資質向上研修が毎年繰り返し全国で行われているが、慢性的にガイドヘルパーの人数が不足した状態が全国で続いている。そのため、視覚障害者が事業所にヘルパーの派遣を要請しても、ヘルパーが確保できないため、新規申し込みが受け付けられなかったり、利用時間数を制限されたり、外出予定日より相当早い時期からの申し込みを義務付けられるなど、外出という日常生活ないし社会生活の性質からはとうてい看過できない実態が続いている。  また、近年はヘルパーの高齢化が進み、60代以下のヘルパーの確保が極めて困難な状況も続いている。 2.到達目標  まず、早急に実現しなければならないのは、視覚障害者の日常生活や社会生活を豊かなものにするためには、一定以上の支給量を確保することが急務である。喫緊の目標としては、最低でも国庫負担基準の基礎となっている1ヶ月に50時間以上の支給量を全国一律のものとすることが必要である。その上で、特別のニーズに対応するための追加時間を実現させる取り組みを行うべきである。  また、利用できる範囲(距離制限)の撤廃、宿泊を伴う外出保障、外出目的(趣味や嗜好などの用務)による制限の撤廃も解決する必要がある。さらに、中山間地域をはじめとする公共交通機関が発達しないことにより自動車利用が不可欠な地域において、ヘルパーの運転による移動を制度的に保障することなどの課題も解決する必要がある。 3.具体的方策 (1)短期  全国的に50時間以上の支給量の確保、外泊を伴う利用の確立、養成研修の継続、ヘルパーを確保するための謝金の増額、自動車利用のシステム化。 (2)長期  本連合加盟団体による事業所の立ち上げ、同行援護事業所等連絡会の組織強化。 4.課題  @ 未だに同行援護事業所が未設置であったり、同行援護事業に特化した(あるいはそれを中心とする)事業所が存在しない地域において、視覚障害者のニーズを受け止めることのできる事業所を全都道府県に設置することを、検討する必要がある。そのためには、本連合加盟団体ないし情報提供施設などの事業を行っている法人と連携し、3〜5年を目途とした事業所設置ないし拡大のプログラムを立てるべきである。  A 支給量が極端に制限されていたり、家族に晴眼者がいることなどを理由に、利用そのものを認めていないような極端な事例や自治体に対しては、審査請求や訴訟をも視野に入れた取り組みを検討すべきである。  B 厚生労働省との間で現状の問題点を共有化し、全国に均霑(きんてん)するための通知などを協議することも重要である。  C ヘルパーが運転する自動車については、法律改正が必要なのか、それとも福祉タクシーを含めた別の手段を拡大するのかについての早急な検討が必要である。  D 通勤・通学における利用についても早急な解決が求められる。  E 日常生活を送る中で、同行援護が利用できない行為(趣味活動、礼拝、仕事など)が沢山ある。人間として活動をする上で必要な行為を制限することについての妥当性を検討する必要がある。  F 外出保障の根幹として「安心・安全」があり、その点を支える環境の大前提として「外出しようという意思が持てる環境があること(=同行援護の制度が充実していることなど)」が必要である。 65ページ 第2節 歩行訓練 1.現状  視覚障害者が自立した社会生活を送る上で必要となるものの一つが単独歩行である。移動手段として同行援護があるが、制度上、就労の場面で利用することができないため、単独歩行の獲得は必須のものとなる。また、中途視覚障害者の多くは歩行訓練を受けていないことが多く、自身で獲得した歩行方法により移動しているのが現状である。また、訓練を受けた者であっても、その後の自身の歩行能力や歩行方法などを確認している者は少なく、訓練を受けていない者と同様に、安全で確実な歩行ができていない場面も見受けられる。  では、歩行訓練を受けられる体制が整っているかというと、十分に整備されていないのが現状である。  まず、身体障害者手帳取得時に歩行訓練が受けられる施設などの情報を行政機関より満足に受けとれていないことが多く、福祉窓口から訓練機関への連携ができていない。  次に、訓練機関については、全ての地域で受けられるようには設置されておらず、設置されていても歩行訓練士の不足により、訓練を希望する者の依頼を受け入れられない状況にある。また、受け入れ体制が整っていても、訓練希望者ニーズに対応した訓練体制になっておらず、平日就労の者は訓練を受けるための休暇を取るなどしなければならず、訓練希望者にかかる負担も大きい。さらに、ほとんどの訓練が通所によるものが多く、訪問での訓練体制の充実が望まれる。  2018年(平成30年)の障害福祉サービス等報酬改定により、機能訓練事業所や非機能訓練事業所に加え、生活訓練事業所でも歩行訓練を受けられるようになった。しかし、歩行訓練を望む当事者への情報提供や医療機関・福祉事務所・当事者団体などによる地域連携もまだ不十分であったり、全ての事業所への歩行訓練士の配置、訓練施設に通所する際の同行援護の利用など、課題は山積している。 2.到達目標  居住地・時間を問わない訓練体制の充実が図られ、安全に安心して単独歩行ができる技術を習得するためのシステムの確立。 3.具体的方策  (1)短期  @ 歩行訓練士のさらなる養成と各施設への配置。  A 駅構内など必要とされる訓練場所の拡大。  B 医療機関・行政機関・訓練機関との連携と相談窓口の充実。 (2)長期  @ いつでもどこでも、利用者のニーズに合わせた訓練が受けられる体制の整備。 67ページ 第3節 盲導犬 1.現状  現在、盲導犬は全国で1,000頭前後が稼働していると言われている。視覚障害者にとっては、いつでも・どこでも安心して街を歩くための「最高の友」として盲導犬が利用されている。盲導犬を利用する視覚障害者の満足度は高く、盲導犬と共に生活をすることで、日々の生活に自信を持てるようになった者もおり、視覚障害者のQOLを高めている大切な存在とも言える。  しかし、盲導犬の稼働数はここ数年徐々に減少している。理由は様々だが、経済的・住宅的な事情、練習時間などの問題に加え、盲導犬自体の育成や訓練などにも問題があり、結果的に盲導犬を利用できない者、諦めなければならない者が多数存在している。それこそ、盲導犬を希望する視覚障害者は3,000人と言われているが、盲導犬を利用したくても利用できない視覚障害者を目の前にすると、その問題は使用者側の問題か、施設側の問題か、それらを支援する行政・法律の問題なのかをしっかりと考える必要がある。一方で、同行援護が便利になったことなど、視覚障害者の移動方法の変化により盲導犬の利用が頭打ちになっている部分もある。  盲導犬を利用するメリットである「いつでも1人で移動ができる」は、視覚障害者の外出にとって重要なことであり、今後の継続と発展が望まれる。そのためには、現状にある諸問題の解決が必要になっている。 2.到達目標  盲導犬を希望する全ての視覚障害者に貸与できるようなシステムなど、利用者が安心して盲導犬を利用できる制度や支援が必要である。 3.具体的方策 (1)短期  @ 現在、盲導犬の育成や利用者の訓練などは、多くは寄付金などの国民の善意で運営されている。そのため、安定的な事業を運営するために、事業費全般にわたり税金からの支援を求める。  A 盲導犬の訓練士などに対する国家資格制度の導入を求める。訓練士の待遇改善と就労の保証をすれば、盲導犬の育成が早まり、盲導犬を所持するまでの時間が短縮され、希望者が安全・安心に社会生活を送ることが可能になる。  B 現在は、訓練時間や訓練場所が制限されていて、利用者のニーズに見合わない部分がある。そのため、訓練場所を自宅付近にする、夜間の訓練、就労しながらの訓練など、利用者のニーズに見合った訓練を提供することを求める。  C 利用者にとっては、毎月の飼料代や医療費の負担が大きい。そのため、安心して盲導犬が利用できるように、これらの費用助成を求める。 (2)長期   科学の発達により高度な移動支援機器の出現が予想され、また、同行援護が今以上に利用しやすくなると、盲導犬の利用者数はさらに少なくなる可能性がある。しかし、盲導犬の価値は、移動だけではなく、例えば、中途視覚障害者からはアニマルセラピー的な価値も認められている。そのため、盲導犬の価値観を総合的に見直し、社会的に必要な存在であることを定義付ける必要がある。 69ページ 第4節 環境整備と新技術への可能性 1.現状  近年、バリアフリー法の改正などにより、駅や建物、道路などのバリアフリー化が大きく前進しているとされている。  しかし、駅ホームの安全対策は、ホームドアの設置が一部の駅にとどまっているため、不十分な状態が続いている。また、乗車券のICカード化が広がっており、一部の地域や鉄道事業者では「障害者用ICカード」が導入されているが、JRを含め全国的な広がりにはなっていないため、割引による乗車は不便な状態が続いている。  一方で、音響式信号機は一定の広がりを見せているが、弱視者のための信号機の設置が進んでいないし、夜間・早朝などは近隣への配慮から音声が停止されている地域が多い。視覚障害者が道路を横断する上で、信号の状態を把握することは重要であり、中でも音は最大の情報源である。近隣環境にも影響がないように音響案内を24時間稼働させ、視覚障害者が安全・確実に道路を横断できるような環境整備が必要である。なお、多様な点字ブロックの開発や音声ガイドによる誘導が試みられているが、それによってかえって視覚障害者の混乱を招いている事例もある。  また、近年、ICTの進歩による様々な新技術・新製品が研究開発されている。視覚障害者の外出保障においても、これらの進歩に大きな期待が寄せられている。  移動において重要となるのは、目的地までのルート探索と実際に移動する際の状況把握である。移動ルートの探索については、既存の技術や取り組みにより、インターネット上で提供されている情報を利用したり、乗り換え案内アプリにより交通機関を知るだけでなく、電車の乗車位置や遅延情報も入手することができるため、前もって移動の計画をすることができるようになってきた。しかし、提供されている情報はまだ十分でなかったり、複数のサイトに散らばっていたり、音声や画面表示調整でうまくアクセスできないものも存在するため、提供方法については改善する必要がある。また、交通機関の乗り換えにおいても、ルート情報が地図のみの提供に留まり、音声読み上げソフトでアクセスできないものもあるため、音声読み上げや画面表示調整でも利用できるものが必要である。なお、視覚障害者にも利用できる駅構内や施設案内は、移動時に同行する介助者に対して適切に説明できることにも繋がり、効率的な移動を実現させる。  さらに、スマートフォンのカメラ機能を利用して取得した画像情報から信号の状態を認識させたり、信号機から発信される電波を受信することで信号の状態を把握することなどの研究が進められている。他にも、移動をするための自動運転による自動車や移動支援ロボットの研究も進んでおり、今後の研究開発に期待が寄せられている。  これらのように、様々な技術の導入や研究が進められているが、視覚障害者の移動においては、安全性を十分に確保する視点での取り組みが最も重要である。特に、視覚障害者自身も日頃から移動に関する研究に感心を持つことも重要であり、新たな新技術については、研究の初期段階から議論に参加できるよう積極的に働きかけを行うことが求められる。 2.到達目標  外出保障(安全確保)をトータル的ないし総合的に検討し、現状の問題点を踏まえた上で、次世代の街づくりを提案する。  例えば、視覚障害者誘導用ブロックや音声案内が、駅から道路を経て目的場所まで連続性をもって整備されることや、端末による誘導や音声を利用した誘導は、視覚障害者誘導用ブロックとの複合利用によって安全性が高まるようにしなければならない。 3.具体的方策 (1)短期  @ 視覚障害の特性を反映させるため、バリアフリー法の改正を受けて市町村などの地域ごとに作られる対策に対して、当事者参加を図る。  A ハード面の整備と併せて、声かけや見守りといったソフト面での支援も充実させる。  B 新技術の研究に対しては、初期段階から視覚障害者も参加できるようにする。  C 視覚障害者向けの技術でなくても、研究開発されている技術情報について収集する。  D 歩行訓練の充実、盲導犬使用における制約の解消、同行援護(ガイドヘルパー)の利用の拡大などを並行して推進し、中途視覚障害者をはじめとする視覚障害者の外出の自由を拡大する。 (2)長期  @ 駅ホームにおける安全対策として、全ての駅ホームにホームドアや転落防止柵を設置する。未設置駅については、それに代わる安全策として、駅員の配置、転落検知マットの配置などを講じる。  A 新型ホームドアの整備においては、長さ、扉の位置や数の異なる車両に対応するため、様々なタイプのものが開発されている。新型ホームドアの開発においては、初期段階からの当事者参加が必要。また、どのタイプのホームドアがどの駅に設置されているかの情報を適切に当事者に提供する必要がある。  B 2018年(平成30年)より改正された公共交通機関における「移動等円滑化のために必要な旅客施設又は車両等の構造及び設備に関する基準を定める省令」において、全ての駅に内方線付点状ブロックを敷設することが義務化されたため、早急な整備を求める。  C 増加する無人駅化対策としては、労働組合との協力関係を持つことで、人員配置に繋げることができる。