49ページ 第4章 情報保障  50ページ 第1節 代筆・代読支援 1.現状  視覚障害者が必要とするコミュニケーション支援において、最も必要とされているのは「代筆・代読」とされている。  2013年(平成25年)より、障害者総合支援法の地域生活支援事業において、意思疎通支援事業の一つとして、「代筆・代読支援」が位置付けられている。しかし、現実的には、視覚障害者のニーズの高さに反比例して、積極的な支援が実施されていない。本連合は、厚生労働省の平成30年度障害者総合福祉推進事業を受託し、「視覚障害者への代筆・代読支援に関する調査研究」(※1)として自治体の障害福祉サービスでの代筆・代読支援について調査を行った。調査の結果、意思疎通支援事業での実施率は1.4%であることが分かり、自治体が障害福祉サービスの中で代筆・代読支援を行うには、改善すべき課題が多いことが判明した。  一方で、日々の生活に目を向けると、金融機関での代筆・代読サービスは、金融庁からの指導により、多くの金融機関で実施されるようになったが、まだなお、一部の金融機関でサービスが受けられない事例が見られる。また、保険の契約などの場面でも、視覚障害者にとっては代筆・代読支援が必須であるにも関わらず、保険会社の担当者が対応しない事例がある。さらに、支払代金の決済などでは、視覚障害者もクレジットカードを使用するが、直筆によるサインが弱視者や全盲者には難しいため、クレジットカードが利用できないことがあり、代筆の利用や自署を必要としない方法が求められている。  これらのように、何かを書くこと・読むことが難しい視覚障害者は、健常者の視点で作られたルールに対応できず、結果的に利用できないサービスが大変多い。健常者と同じようにサービスを利用するためには、コミュニケーション支援の充実が求められ、特に代筆・代読の支援は早急に改善する必要がある。 2.到達目標  @ 視覚障害者が代筆・代読支援を必要とする時、いつでも支援が受けられるようなシステムを確立する。  A 代筆・代読支援を障害福祉サービスで受けられるようにする。  B 代筆の支援を受けなくても済むように、クレジットカード認証番号入力機器の普及とその機器のバリアフリー化を実現させる。 3.具体的方策 (1)短期  @ 各金融機関における代筆・代読支援を確実に実施させる。  A クレジットカード認証番号入力機器の普及と、その機器のバリアフリー化を促す。 (2)長期  @ 視覚障害者が代筆・代読支援を必要とする時、いつでも支援が受けられるよう、AIなどを活用したシステムを開発する。  A 代筆・代読支援が障害福祉サービスで受けられるよう、専門性の高いヘルパーを養成し、ヘルパーの利用について各機関に啓発する。 4.参考資料 (※1)平成30年度障害者総合福祉推進事業「視覚障害者への代筆・代読支援に関する調査研究」  平成31年4月、調査結果をまとめた報告書を日本盲人会連合のホームページ(http://nichimou.org/)に掲載予定。 52ページ 第2節 情報アクセス支援 1.現状  視覚障害者が情報にアクセスするためには、その視覚障害者が情報を理解できる媒体が必要となる。例えば、従来から利用されている点字や音声に加え、現在では拡大文字・テキストデータ・各種コード(音声コードなど)なども利用され、利用する視覚障害者によって必要とする媒体は異なっている。つまり、視覚障害者が情報にアクセスするためには、様々な媒体が用意され、その視覚障害者が希望する媒体を選択できる体制が望ましいとされている。  そのため、視覚障害者が円滑に情報にアクセスするための支援は必須になるのだが、その支援については不満足な状況となっている。  例えば、自治体や企業などが発信する情報は、本来は視覚障害者が求める媒体を用意すべきだが、その対応には格差があったり、そもそも配慮がなかったりして、視覚障害者が情報にアクセスできないことが多い。  また、テレビの緊急放送についても不満足な状況になっており、電子音は鳴るものの、文字情報しか表示されていないことが多い。第四次障害者基本計画には、「身体障害者の利便の増進に資する通信・放送身体障害者利用円滑化事業の推進に関する法律(平成5年法律第54号)」に基づく放送事業者への制作費助成、「視聴覚障害者向け放送普及行政の指針」が盛り込まれている。徐々にテレビの副音声、解説放送が増えているが、その実施は不十分である。  視覚障害者が情報にアクセスするためには、情報発信者が責任をもって支援を行うべきであり、早期の改善が求められる。 2.到達目標  @ 様々な情報が、視覚障害者個々人が希望する媒体(点字・音声・拡大文字・テキストデータ・各種コードなど)で入手できるようにする。  A 点字の普及率を高めるため、各都道府県における点字指導者数を増員させる。  B テレビの緊急放送の音声化や、音声、解説放送に関する法的整備を整える。 3.具体的方策 (1)短期  @ 自治体、各機関に対し、視覚障害者に必要な合理的配慮義務を果たす必要があることを啓発する。  A 点字の普及率を高めるため、本連合加盟団体を通じて、点字指導者の育成を進める。  B 視覚障害者対象のスマートフォン講習会を企画し、各種コードの読み取りが行えるアプリの利用スキルを向上させる。  C 各放送会社に対し、アナウンサーによる緊急放送を行うよう、働きかける。  D 解説放送制作費の助成増額を実現させる。 (2)長期  @ マイナンバー制度の中で個人のニーズを把握し、自治体・各機関が合理的配慮を行う基盤を作る。  A 点字の普及率を高めるため、視覚特別支援学校における点字指導者の人材を確保する。  B 各種コードの読み上げに特化した端末の開発に協力する。  C 文字放送の音声化技術の開発のため、放送業界や家電メーカーと本連合の間で研究体制を整える。  D 解説放送達成率の法的整備を実現させる。 4.課題   視覚障害者の若い世代と高齢世代の間では、新しい技術を使用できる者とできない者に格差が広がっている。スマートフォンの利用などがその代表例である。 54ページ 第3節 情報機器の発達 1.現状  ICT(情報通信技術)機器の登場は、視覚障害者が日常生活や社会参加を営む上で欠かせないものとなっている。また、ICTの進歩は目覚ましく、今まで不可能と思われていたことが、機器や技術を活用することで可能になってきている。  しかし、ICT機器を活用できる視覚障害者と、活用できない視覚障害者が存在してしまい、特に多様な情報にアクセスできるか否かで両者に新しい格差(情報格差:デジタル・デバイド)を生み出している。この格差を縮めるため、個々の視覚障害者のニーズに応じた形での機器の開発や情報発信が求められている。また、視覚障害者団体や視覚障害者情報提供施設、開発・販売メーカーによる各種機器を使うための学習会も必要とされている。  例えば、携帯電話は、もはや視覚障害者にとってはなくてはならないコミュニケーション機器の一つとなっている。2001年(平成13年)9月に販売されたドコモのらくらくホンUにメール読み上げ機能が付加され、その後、端末操作やメール作成、iモードなどネットへのアクセスと読み上げ機能が強化されていくにつれ、視覚障害者に携帯電話の普及が急速に広まっていった。そして、同じ頃、タッチスクリーンによる操作を伴うスマートフォンが登場し、2009年(平成21年)に発売されたiPhone 3GSでは、画面操作や表示される文字情報が標準搭載で音声読み上げを実現した。この機種を契機に、視覚障害者の中でのスマートフォンの利用が増え始めている。その後、スマートフォンの進化も目覚ましく、端末の高機能化、視覚障害者に対応したアプリの開発、音声読み上げに対応した一般向けアプリの増加も見られるようになり、視覚障害の利用者は徐々に拡大している。しかし、ボタン操作による物理的な操作性を必要とする視覚障害者もまだ多いことから、スマートフォンが利用できない視覚障害者が多く存在することも実情である。  一方で、交通系ICカードやプリペイドカードの登場は、交通機関の利用や買い物などの利便性を向上させ、視覚障害者の生活を豊かにしている。しかし、ほとんどのカードが同じ形や大きさとなっており、視覚障害者にとって判別が困難となっている。また、介助者と共に鉄道を利用する場合、それぞれの交通系ICカードで入場し、降車駅で駅係員などに障害者割引処理を依頼しなければならず、時間と手間がかかっている問題もある。なお、一部の地域では、障害当事者用と介助者用の特別割引用ICカードを発行し、一緒に利用することを条件として、割引料金がそれぞれのICカードから引かれるものが導入されている。  また、視覚障害者の生活に欠かせない家電製品には、操作ボタンに点字表示が付加されていたり、操作内容を読み上げたり、分かりやすい操作音で知らせるものなど、視覚障害者にも使いやすいものが増えてきている。ただし、製品に附属する取扱い説明書については、WEB上でも公開されるようになってきてはいるが、視覚障害者に配慮した形式で公開されることは少なく、テキスト情報の埋め込まれたPDFファイルないしテキスト形式での提供が望まれる。  ICT機器の発展が進むことで、人々の生活の質は向上してきている。しかし、視覚障害者を含め、多様な人たちが利用することを考慮しない発展は、新たなバリアを生み出すことになり、現にそのバリアの存在が散見されている。 2.到達目標  @ だれもが使用しやすい情報端末(フィーチャーフォン、スマートフォン)を普及させる。  A 視覚障害者に特化したパソコンソフトが適正価格で購入できるようにする。  B 視覚障害者のデジタルデバイドの解消と地方間格差の是正を実現させる。  C カードのJIS規格の遵守、点字カードの作成のJIS化を求める。  D ユーザビリティに配慮された家電製品を普及させる。  E ウェブサイト(PDFファイルを含む)のアクセシビリティを向上させる。  F 視覚障害者にとって使用しやすいバリアフリー製品、パソコンソフト、各種スマートフォンアプリの情報提供を義務付ける。 3.具体的方策 (1)短期  @ フィーチャーフォン販売継続を各通信事業者に要望する。  A 視覚障害者に特化したアプリケーションの開発に向けて、企業への助成金制度の新設などを関係省庁に対して要求する。  B デジタルデバイドの解消に向けて、地方での講習会に必要な人材を育成する。  C 各種交通系カードについては、JIS規格の遵守法令の整備、点字カードの作成のJIS化を行うよう要望する。  D 家電製品のユーザビリティ向上のため、本連合と各家電メーカーや共用品推進機構と情報交換を行う。  E 視覚障害者にとって使用しやすいバリアフリー製品、パソコンソフト、各種スマートフォンアプリの情報提供を充実させる。 (2)長期  @ AIを活用し、視覚障害者が利用しやすいスマートフォンの開発を要望する。  A 公的機関が有するホームページについては、ウェブアクセシビリティ(画像認証を含む)を遵守するための法的整備を要望する。 57ページ 第4節 読書保障 1.現状  読書するということは、生活の質の向上並びに社会参加する上で欠くことのできないものである。知識の向上や情報入手、円滑なコミュニケーションを図る観点からも重要なものである。  視覚障害者の読書環境として、主なものは、点字・音声・拡大文字がある。また、近年はテキストデータが含まれた電子書籍等による読書も利用されている。これらの点字・音声・拡大文字・テキストデータによる読書環境を充実するために、これまでは全国のボランティアによる支援が大きな役割を担っていた。また、全国の点字出版所が発行している点字出版図書を利用するために、墨字原本価格での購入補助が地域生活支援事業において実施されており、高価な点字出版図書が低価格で購入できる方法もある。  一方で、近年のICTの進歩により、視覚障害者の読書環境は確実に向上している。例えば、音訳図書のデジタル化によるカセットテープからデイジーフォーマット媒体への移行、点訳・音訳データのインターネットを介しての提供、電子書籍の音声読み上げなどにより、より早く、より容易に視覚障害者が読書を楽しむことができるようになってきている。また、出版社によっては、墨字書籍を購入後、書籍に添付された引換券を出版社に送ると、書籍のテキストデータを提供するサービスが実施されており、一般の書店で販売されている書籍を、視覚障害者が利用できるようにもなってきている。  しかし、日本国内では年間約7万数千タイトルの書籍が出版されている中で、点字・音声・拡大文字・テキストデータによる図書はごくわずかである。また、視覚障害者が読める点字などの図書になるためには時間がかかり、墨字の書籍を読む者よりも不合理なタイムラグが発生している。また、電子書籍は普及しているものの、音声読み上げに対応していなかったり、弱視者が書籍を見やすくする調整ができなかったりという問題などもある。  これらの問題を解決するため、近年、国内外で様々な動きが進展している。  国連の専門機関であるWIPO(世界知的所有権機関)は2013年(平成25年)、「盲人、視覚障害者その他の印刷物の判読に障害のある者が発行された著作物を利用する機会を促進するためのマラケシュ条約」を採択し、日本においても条約批准と批准に向けた著作権法の一部改正が2018年(平成30年)通常国会にて承認された。また、承認された改正著作権法第37条3項においては、視覚障害者や読字障害者に加え、上肢障害者といった直接印刷物の利用が困難な者のために録音図書の作成などを許諾なく行えるようになった。さらに付帯決議において「本法による改正後の著作権法第37条第3項に規定する視覚障害者等の読書機会の充実を図るためには、本法と併せて、同項により拡大図書やDAISY等の作成を行うことが認められる主体の拡大を行うとともに、当該視覚障害者等のためのインターネット上も含めた図書館サービス等の提供体制の強化、アクセシブルな電子書籍の販売等の促進その他の環境整備も重要であることに鑑み、その推進の在り方について検討を加え、法制上の措置その他の必要な措置を講ずること。」とされている。  これらの流れを踏まえ、視覚障害者が読書を通して、様々な考えや情報に触れることで見識を広め、コミュニケーションを促進するために、読書環境のさらなる支援や環境整備が必要となっている。本連合では、読書バリアフリー法(仮称)の成立を通して、必要な書籍などがより早く安定して供給される環境の構築を目指している。 2.到達目標  @ 読書バリアフリー法(仮称)の早期成立。  A 発行される書籍などが視覚障害者を含む読書困難者が容易に利用できるよう、発行者からのテキストデータでの提供、利便性の高い電子書籍を普及させる。  B 国会図書館をはじめ、公共図書館、大学や学校の図書館、サピエ図書館が連携し、総合的に視覚障害者が必要とする書籍などを容易に検索・利用できる環境を構築する。 3.具体的方策  (1)短期  @ 専門点訳・音訳ボランティア、テキストデイジー製作ボランティアの養成。  A テキストデータ製作ボランティアの養成。  B 電子書籍へのアクセス向上を促進させるための出版社・行政機関などへの啓発。  C 出版社からの読書困難者に対するテキストデータ提供サービスの一層の拡大を実現するため、出版社に対する視覚障害者に向けたテキストデータ提供を向上するための技術研修の実施。  D 電子書籍などのデジタルデータを視覚障害者が利用するための機器・ソフトの充実。  E 電子書籍などを利用するための視覚障害者の技術習得。  F 著作権者並びに出版社が損益を被らないための措置。 (2)長期  @ 読書バリアフリー法(仮称)が実現した後、視覚障害者を含む読書困難者、図書館、出版社、行政機関などが参加し、運用などについて協議する場を設置し、継続的な検討を行う。  A 視覚障害者など読書困難者のさらなる読書環境整備が推進するよう、技術情報の収集や可能性の検討を行う。 4.課題  視覚障害者自身が、出版物の全てを無料で利用するという意識に加え、購入するという意識を向上させること。