27ページ 第2章 職業と所得保障  28ページ 第1節 あはき 1.現状  あはき業は依然として視覚障害者の職業的(経済的)自立の重要な一分野である。  1960年代までは、あはき業者の60パーセントが視覚障害者であったが、現在、この割合は20パーセント程度にまで低下している。また、視覚障害者のあはき業者の年収は、それ以外のあはき業者の年収約636万円の半分以下の約290万円である。今後も、あはき業の分野では、視覚障害者以外のあはき業者との競争がいっそう激化することが予想される。また、無免許者の横行もあはき営業の妨げの要因になっている。 2.到達目標  本連合が視覚障害あはき師の資質の向上、職域の拡大、就労環境の整備などの諸課題に取り組み、全ての視覚障害あはき師がやりがいを持って職業生活を送るためのバックアップを行う機関となるべきである。併せて、視覚障害あはき師へのフォローアップ制度を、国や関係機関に働きかけて確立させる。 3.具体的方策 (1)短期  @ あはき業にとって無資格業者の問題は大きな壁となっている。しかし、無資格業者の跋扈を押しとどめることは、現実問題として極めて困難である。権益の防御ばかりに固執し、守りを固めるだけでは視覚障害あはき師の未来はない。もっと攻めの姿勢を打ち立てていく。  A 外部の研究者などと連携し、あはき業者の現状を整理した上で、どうすれば健常者の業者との競争に勝ち抜けるのか、あはき業で十分な収入を確保するために行うべきノウハウはどのようなものなのかを分析し、情報発信をしていく。現にあはき業で高収入を得ている視覚障害あはき師も存在するので、その手法をより多くの視覚障害あはき師に伝えていくことが求められる。  B 視覚障害あはき師に対し、効果的な広告や宣伝の方法、経営理念の作成とそれを実践する方法、マーケティングの手法などを教える研修プログラムを実施する。  C 視覚障害あはき師への合理的配慮として代筆・代読支援、往療補助者の制度化を図る。  D 資質向上のための研修会は、視覚障害あはき師が容易に理解でき、実質的な研修にする必要がある。そのため、視覚障害者団体が研修の開催に加わっていく。 (2)長期  @ 障害者雇用促進法の障害者別の雇用率を明らかにして、機能訓練指導員やヘルスキーパーなどの視覚障害あはき師の雇用を促進する。  A 就労継続支援施設の定員を見直して、視覚障害あはき師の就労継続支援が受けられやすくする。 4.課題  視覚障害あはき師の現状は、仕事をしている本人のやる気が昔より減ってきている状況がある。また、あはき師を目指す視覚障害者も減少してきている。  そのため、あはき業の魅力を再認識するために、様々な方策を打ち立てることが急務となっている。特に、職業環境を整えることによって収入を増やし、あはきを志す視覚障害者を増やすことは急ぎたい。  また、国などが無免許者を取り締まれないこと自体にも問題がある。そのためには、あはき関係団体と連携して、無免許者の横行による犠牲者を救うための訴訟を起こすことも必要とされる。 30ページ 第2節 音楽家 1.現状 (1)歴史的背景  鎖国をしていた江戸時代、当道制度によって前節のあはきと同様に、音楽も大きな発展を遂げてきた。検校(けんぎょう)や勾当(こうとう)、別当(べっとう)などと呼ばれた視覚障害者たちは、ある者は三絃の弾き歌いの曲を作り、そしてある者はその曲に箏で第2旋律の細やかな節(ふし)を付けるなどした。彼らはそれを楽譜を用いることなく、全て「口伝え」という形で伝承していき、それらは、古典作品として現在でも演奏されている。  その後、明治時代になると、当道制度は廃止され、晴眼者も、箏や三絃を弾くことが許され、音楽人口が増えると同時に楽譜の手段も用いられるようになった。その頃に登場したのが、「春の海」の作などで知られる視覚障害の大作曲家「宮城道雄」である。明治期以降は、西洋音楽の道に進む視覚障害者も徐々に現れるようになり、器楽や声楽の道で大成する者も増加した。 (2)邦楽に関する現状  戦後、邦楽の愛好家の数は減少し続けている。戦中・戦後の頃に箏や三絃は花嫁修業の一つとして学んでいた世代が高齢化したことが大きな理由になる。この影響により、弟子の数も減り、箏曲中心の演奏会の数も減っている。また、古典作品が必要とされる演奏の現場も少なくなっている。  一方で、視覚障害者は楽器を演奏しながら楽譜を読むことができないことから、様々な楽曲を臨機応変に演奏することが求められる現場では、健常者と肩を並べていくことが難しいとされている。このような背景もあり、視覚障害者で音楽家を目指す者が少なくなってきている。最近では、視覚障害者が音楽以外の職に就け、その幅も広がっていることも大きく、視覚特別支援学校から音楽を専攻する音楽科がなくなり続けている。現在では、東京・京都の2校になっており、このような流れも、音楽家を志望する子供の機会を大きく減らしていると言われている。 (3)西洋音楽に関する現状  西洋音楽を生業とするためには、器楽にしても声楽にしても、必要な時に、必要な楽譜が入手できる環境が整えられなければならないが、未だその環境の整備は十分ではない。  多くの場合、視覚障害音楽家は、必要な楽譜をその都度ボランティアに依頼して点訳してもらい、演奏会までに何とか最小限の楽譜を確保している状態である。これは、複雑な点字楽譜を点訳できるボランティアの数が十分ではないこと、また、全国的な点字楽譜のデータベースの不存在などが原因である。  さらに、演奏会会場までの移動や楽器運搬などにおいては、晴眼者のサポートが必要だが、現在、視覚障害者自身の費用負担でアシスタントを確保しなければならないことも課題となっている。 2.到達目標 (1)邦楽の視点からの目標  「さくらさくら」も知らない子供たちがいると聞く。日本に生まれた者であるならば、日本伝統音楽である邦楽の「音色、響き、間(ま)」は全ての者に愛着を持ってほしい。今一度、邦楽の魅力を世間に広めるために、視覚障害の邦楽家を幅広く活躍させる。 (2)西洋音楽の視点からの目標  視覚障害を持つ音楽家が、いつでも必要な楽譜を確保できるように環境整備が求められる。点字楽譜は、楽曲の性質や楽器の種類、演奏者の好みにより、点訳方法を柔軟に調整する必要があり、自動点訳になじみにくい。そのため、点訳者の確保と、点字楽譜資産の蓄積が重要となる。  また、公費による演奏会や教授先への移動補助制度の確立も求める。 3.具体的方策  (1)短期  @ 邦楽の視点   箏などの邦楽器は、サイズが大きく、持ち運びが困難である。そのため、ピアノなどのように「音楽家が行く所には必ず箏がある」という状況を作る必要がある。例えば、個人が使用していたが今は使われていない楽器を、このような場所へ常備することを進めたい。  A 西洋音楽の視点   全国の点字図書館などと連携し、複雑な点字楽譜に対応できる専門点訳者の養成、全国的な点字楽譜のデータベースの構築、点訳グループのネットワーク化を行う。 (2)長期  @ 邦楽の視点   音楽を長く愛されるものにするには、楽器に触れる子供たちの数を増やすことが必要である。特に、本物に触れて、本物を聴くことは大切で、子供たちに体と耳で体験する機会を増やすことが効果的とされている。そのため、視覚障害の音楽家が主催するアウトリーチ(出前コンサート)やワークショップなどを定期的に開催し、長期の視点で子供たちを育てていきたい。また、これらのアウトリーチやワークショップを開催するには、当然ながら伝える側の「技術の向上」が不可欠であることも留意したい。   さらに、視覚障害の音楽家を育成することにおいて、視覚障害者には視覚障害者による指導が重要である。点字の楽譜、そして弾き方のニュアンスなどは、晴眼者の指導者から視覚障害者の生徒に対しては伝わりにくいことが多い。そのため、優秀な視覚障害の音楽家を輩出するためにも、指導体制の検討も必要である。  A 西洋音楽の視点   音楽家として経済活動を伴う演奏活動を行う中で、公費で支援者を利用できるようにしたい。また、移動や音楽の演奏以外の雑務においては、健常者の支援を受けやすくするための制度的補償を確立したい。 33ページ 第3節 様々な一般職の開拓とその支援 1.現状  視覚障害者の就労の現状は、いわゆるあはき業への依存傾向が高いものの、近年のICTの発展は視覚障害者の職域を拡大させ、重度視覚障害者が事務的職種で働くことを容易にし、中途視覚障害となっても、それらの技術を駆使することができれば継続雇用が可能となった。また、改正障害者雇用促進法により、合理的配慮が義務化されたことも追い風となっている。これらの流れにより、様々な分野で視覚障害者も働けるようになってきた。  しかし、ハローワークの就職状況では、視覚障害者の雇用は減少傾向で推移している。また、全体の障害者雇用支援策は増えても、視覚障害者が実際に利用できるようにはなっていない。さらに、目が見えないイコール仕事ができないという偏見が依然根強く、せっかく就職しても仕事を与えられず、いわば「飼い殺し」にされる事例も見られる。特に、2018年(平成30年)に発覚した中央省庁をはじめとする障害者雇用の水増し問題は、本来、障害者雇用を率先垂範すべき国が障害者雇用をないがしろにしてきた象徴的な事件として、障害者の雇用の在るべき姿を問いただしている。  視覚障害者が仕事をすることは、様々な面において容易ではない。しかし、視覚障害の特性である情報障害に対する正しい理解、視覚障害の進行に対応した就労技術習得や職務再設計などに対する適切な支援があれば、視覚障害者だからこそできる仕事を確立させることができ、健常者と変わらずに仕事ができる。そのことにより、視覚障害者の就労可能性は無限に拡大する。  つまり、現状から脱却するためには、視覚障害者が適切な支援を受けることを実現させ、さらに、視覚障害があってもできる仕事を開拓し、視覚障害者を社会になくてはならない存在に押し上げることこそが求められる。 2.到達目標 (1)雇用に関する支援の必須化  視覚障害者が働くために必要とする支援を、差別なく受けられるよう、制度面や運用面での改善を進める。以下の改善を通して、支援が必須化され、視覚障害者の能力が確実に発揮できる下地を作る。 【改善すべき内容】  @ 雇用における合理的配慮の徹底。  A 職業訓練、歩行訓練を受ける機会の確保。  B 誰でも職場介助者を利用できる制度の確立。  C 視覚障害者の雇用を後押しするジョブコーチ、産業医、職業訓練指導員の配置。  D 全国各地でのロービジョンケアネットワークの構築。 (2)視覚障害があってもできる仕事の開拓  視覚障害があってもできる仕事を開拓し、社会に提案をする。このことにより、視覚障害者の職域を拡大させ、視覚障害者の真の社会的自立を促していく。 3.具体的方策  支援の必須化と職域の拡大を広げるため、本連合は国への要求活動を行うとともに、視覚障害者の一般就労の先導役となる必要がある。そのためには、以下の具体的方策を実施すべきである。 (1)短期  全国の視覚障害者の就労を総合的に支援する体制がないことを踏まえると、本連合がその役割を担うべきである。そのため、本連合が就労に関する支援体制を強化し、視覚障害者の一般就労の先導を果たすべきである。特に、これらの取り組みに若者が結集できるようにし、在職中に中途で視覚障害者となっても、仕事を辞めないで働き続けられることを意識した活動を行う必要がある。 【具体的な方策】  @ 相談体制の強化。  A 加盟団体をはじめ、眼科医や他の支援団体との連携を構築。  B 情報の集約と発信。  C 一般就職をしている視覚障害者の情報交換の基盤を構築。  D 働く視覚障害者に対する理解・啓発などの試みの実施。 (2)長期  短期の方策により、視覚障害者の職域を広げつつ、自信をもって働いている視覚障害者を組織化し、その経験やノウハウを共有・発信できる専門機関を創設する。その機関がもつ経験やノウハウを原動力に、働く視覚障害者を拡大させていく。 35ページ 第4節 障害年金(障害者年金) 1.現状  現行の障害基礎年金は、それのみでは視覚障害者の最低生活を支えるものとはなっておらず、様々な要因による無年金者も多数存在する。基礎年金以外にも様々な諸手当があり、自治体独自の手当も散見されるが、それらが基礎年金と相まって、全ての視覚障害者にとって健康で文化的な最低限度の生活を保障するものとはなっていない。 2.到達目標  稼働能力の低下ないし喪失後の生活を安定させるための年金・手当制度の確立。 3.具体的方策 (1)短期  特別障害者手当の要件を緩和し、視覚障害のみでも支給対象となるようにする。 (2)長期  無年金者をなくし、最低年金制度を創設する。障害基礎年金額の増額が実現しないのであれば、最低生活を保障するための各種手当て制度を見直し、基礎年金と併せて健康で文化的な生活が保障されるようにする。 36ページ 第5節 生活保護 1.現状  2015年(平成27年)におけるわが国の生活保護受給者の約18%は障害者ないし障害者世帯である。また、国民一般の中で生活保護受給率は約1.7%であるのに対し、障害者の中に占める生活保護受給率は約11%程度になり、その受給率は一般の約6.4倍を超える現状である。また、現行制度においては、障害者加算及び重度加算が設けられており、そうした加算制度によって障害者の生活の質が確保されているのである。 2.到達目標  生活保護を必要としている全ての視覚障害者が生活保護を利用できるようにする。 3.具体的方策 (1)短期  生活保護に関する相談窓口において、視覚障害者の実態を踏まえた相談ができる体制を作る。  そして、現在、生活保護制度の見直しが進められており、老齢加算が廃止され、母子加算も引き下げられている。そうした中にあっても障害者加算・重度加算制度を維持する。 (2)長期  生活保護の受給要件を緩和し、車の保有を認め、一定額の預貯金があっても生活保護が利用できるようにする。