表紙 「見えづらい・見えにくい人のくらし」 弱視に関する懇談会 報告書 社会福祉法人 日本視覚障害者団体連合 ●注意 本文中の団体名の記載について  本書は、平成30年(2018年)12月に発行した報告書のテキスト版になります。  なお、発行元の団体名は、令和元年(2019年)10月1日に、社会福祉法人日本盲人会連合から「社会福祉法人日本視覚障害者団体連合」に改名しました。そのため、本書の本文における団体名は旧団体名で記載されています。予めご了承ください。 目次                           第1章 はじめに 1ページ 1.報告書の発行によせて 3ページ 2.報告書の目的 4ページ 3.報告書の構成 6ページ 4.弱視者に係わる用語と背景 7ページ 第2章 弱視者について 9ページ 1.わたしの見え方 11ページ 2.私の日常生活 14ページ 第3章 弱視者の日常 17ページ 第1節 移動全般 19ページ  第1項 信号機、道路 22ページ  第2項 電車・駅 25ページ  第3項 鉄道駅の安全対策 30ページ  第4項 視覚障害者の歩行 33ページ 第2節 仕事、雇用 37ページ  第1項 民間企業などに就職をした弱視者 40ページ  第2項 個人で仕事をしている弱視者 48ページ  第3項 公的機関などに就職をした弱視者 49ページ  第4項 雇用の厳しい現状 50ページ  第5項 雇用を支える相談支援 52ページ 第3節 生活(買い物、契約) 55ページ  第1項 店舗での買い物 58ページ  第2項 飲食店 64ページ  第3項 自動販売機 66ページ  第4項 洋服関連 67ページ  第5項 インターネットでの買い物 70ページ  第6項 銀行 71ページ  第7項 生命保険 75ページ  第8項 契約行為 76ページ 第4章 さいごに 77ページ 第5章 シンポジウム 85ページ 弱視に関する懇談会について 92ページ 1ページ 第1章 はじめに 3ページ 1.報告書の発行によせて            私自身は、全盲であるため、弱視者(ロービジョン)の方の抱える問題や要求をあまり理解していませんでした。全盲と弱視を単純に比べて、全盲の方が重度であり、日常生活や社会生活に大きな困難を抱えていると思ってもいました。視覚障害者福祉の充実に取り組んできたという自負はありますが、実際には弱視者に対する問題は意識からも抜け落ちることが多かったのも事実です。  日本盲人会連合は、毎年のように運動方針の1つとして弱視問題を掲げてきましたが、十分な取り組みはできていませんでした。単発的に議論をしたり、関係機関に対する陳情項目のいくつかに弱視者に対する支援を含めてきた程度でしかありませんでした。  ようやく3年前から、継続的に弱視問題を考えるため、年間を通して弱視の方々にお集まりいただき、日頃から感じていることやそれぞれの工夫などを出してもらい、弱視問題を基本に立ち返って考えてみることにしました。弱視ゆえに抱えている問題は、全盲とは全く異質な形であって、個人差が大きく千差万別であることや、時には全盲に対する理解よりも弱視に対する理解の方が困難であり、本人自身でさえ、眼科医や周囲の人に自らの見え方、あるいはハンディを的確に説明しづらいことが多々あるということも分かりました。  そこで、日本盲人会連合として、弱視者に対する理解を広め、今後の取り組みを組織的に行うための出発点となる報告書の作成を行うことにしました。今後、この報告書を基礎として、日本盲人会連合の取り組みを継続的かつ系統的に行うための組織作りを考えたいと決意しています。  平成30年12月  社会福祉法人日本盲人会連合  会長 竹下 義樹 4ページ 2.報告書の目的                日本盲人会連合(以下、本連合)は、視覚障害者の生活が向上するための様々な働きかけを行う視覚障害者の全国組織になり、日本各地の視覚障害者からの要望を集約し、国や関係機関への働きかけを行っている。  その中で、ここ数年、弱視者からの要望が目立ち、制度の改善や見やすさの改善などの働きかけを行うことが増えてきている。特に、2020年の東京オリンピック・パラリンピックを前に、移動や情報のさらなるバリアフリー化を求める中では、弱視者からの切実な改善要望が多く、弱視者対策が本連合の最重要課題の1つとなっている。  しかし、弱視者は人によって見え方や行動が大きく異なることから、全ての弱視者の要望をまとめることが難しく、国や関係機関に対して明確な働きかけができないことがあった。また、本連合自体も、弱視者の多様性について十分に理解していない部分もあったことから、弱視者のことを深く理解する必要にも迫られていた。  そこで、本連合が弱視者のことをもっと深く理解し、弱視者の要望を国などへ的確に働きかけを行うために平成27年12月「弱視に関する懇談会」を開催することとなった。  懇談会では、開催ごとにテーマを設け、弱視者が日々感じている困り事や悩み、改善してほしい内容などを、自身の失敗談や成功例を交えて、自由に意見交換を行った。懇談会は、平成30年11月までに計15回開催し、様々な意見や要望を得ることができた。  そして、懇談会で得られた意見や要望をまとめたものが、本報告書になる。報告書においては、懇談会の開催を通して判明した2つの問題点を踏まえて、編纂を行った。  1点目は、弱視者の困り事は社会ではあまり理解をされてないことである。懇談会では、弱視者の見え方・行動が多種多様なことから、身の回りでその見え方や行動などが理解されず、結果的に困難な状況に陥っていることが指摘された。しかし、どの困難さも弱視者の見え方・行動が周りに理解されれば解決することが多く、弱視者の困り事への理解をどのように進めるかが課題となることが分かった。  2点目は、弱視者の見え方や行動が人によって大きく異なることから、弱視者という存在を分かりやすくまとめることができなかったため、結果的に弱視者の困り事を理解する環境が生まれなかったことである。それは、社会に対して弱視者という存在を上手に紹介できなかったことを意味している。そのため、弱視者の困り事などを分かりやすく整理して、情報発信をすることも課題であることが分かった。  本報告書では、懇談会を通して得られた弱視者の困り事などを整理し、弱視者という存在を分かりやすく紹介することで、前述した2点の問題点の解決を目指して編纂を行った。本報告書を通して、弱視者の困り事への理解がさらに進むことを切望する。 6ページ 3.報告書の構成               (1)各章について  @第2章 弱視者について   見え方や生活環境の異なる弱視者に対して、見え方や困り事に関する共通質問を行い、得られた回答を掲載した。  A第3章 弱視者の日常について   懇談会で意見交換された内容を「移動全般」「仕事」「生活(買い物・契約)」に分類し、困り事の実例とその改善策や要望を整理して掲載を行った。なお、改善策については、「ア 制度やルールを変えてほしいこと」「イ みんなに知ってほしいこと」「ウ 弱視者自身が注意したいこと」の3類型に整理した。   また、困り事を解決するために有効と思われる事例などは、コラムとして掲載を行った。 (2)本報告書の書体、文字サイズについて  本報告書は弱視者の見やすさに配慮して、懇談会で検討をした以下の掲載ルールに従って編集を行った。なお、この書体などが全ての弱視者にとって必ずしも読みやすいものとは断定できない  ・タイトル    ゴシック体、26又は20ポイント、太字  ・本文      ゴシック体、14ポイント、太字  ・数字      全角      ・アルファベット 略語は全角、略語以外は半角  ※備考 ゴシック体について     本報告書で用いたゴシック体は、懇談会に参加をした弱視当事者に数パターンの字体を確認していただいた結果、一番見やすいと判断された内容を採用した。 (3)墨字版以外の発行物について  本報告書は墨字版の他に、以下の内容を発行する予定となっている。それぞれの発行物は、完成後、本連合のホームページ(http://nichimou.org/)にて掲載を行う。  ・拡大文字版  ・点字版  ・テキスト版  ・デイジー版 7ページ 4.弱視者に係わる用語と背景         (1)弱視・弱視者・ロービジョン  弱視(ロービジョン)とは、視力が低くメガネやコンタクトレンズによる矯正ができない、視野が狭い(視野狭窄)・視野の中心が見えづらい(中心暗点)・まぶしいのが苦手(羞明)・暗いのが苦手(夜盲)のために日常生活や職場などで不便を感じる状態を指す言葉になる。また、弱視の状態にある人を弱視者(ロービジョン)と呼ぶ。  弱視者の見えづらさは千差万別で、一人の弱視者でも天候や時間帯、部屋の明るさ、本人の疲労などにより見えづらさが変わることもある。  なお、本報告書では、これらの状態の者を「弱視者」と記載する。 (2)弱視者の人数と割合  日本では身体障害者として認定されると身体障害者手帳が交付される。厚生労働省「平成28年生活のしづらさなどに関する調査(全国在宅障害児・者等実態調査)結果」(※1)によると、視覚障害者として手帳を交付されている人の数は31万2000人となっている。そのうち、全盲を含む最重度の1級の人は11万9000人、弱視者とされる2級〜6級の人は19万3000人で、少なくとも約62%が弱視者となっている。  また、日本眼科医会が2009年に発表した資料「視覚障害がもたらす社会損失額、8.8兆円!!」(※2)によると、良い方の目の矯正視力が0.1より高く0.5未満の人(この資料ではこれを「ロービジョン」と定義している)は144万9000人、0.1以下の人が18万8000人と推計されており、この資料においては約88%が「ロービジョン」ということになる。 (※1)出典情報 http://www.mhlw.go.jp/toukei/list/dl/seikatsu_chousa_c_h28.pdf (※2)出典情報 http://www.gankaikai.or.jp/press/20091115_socialcost.pdf 9ページ 第2章 弱視者について 11ページ 弱視者の見え方・行動は千差万別 人によって見え方・行動の仕方が違います!  弱視者は、人によって見え方が大きく異なり、ある人にとって見えやすいものが、ある人にとっては見づらいことがある。また、見え方が違うことから、日常生活での行動や困り事も大きく異なると言われており、まさに弱視者の見え方・行動は千差万別である。  本章では、生活に困っている5名の弱視者の見え方や行動を通して、弱視者がどのような存在なのかを紹介する。 1.私の見え方                (1)今の見え方はこうです 【Aさん】  ・全体的に白っぽくぼやけています  ・まぶしいのが苦手です 【Bさん】  ・薄暗い所の方が見やすいです  ・目頭より目じりの方にあるものが見つけやすいです 【Cさん】  ・視野が狭く、筒を覗いて見ている感じです  ・霞みがあり、視力が低く、暗い所が苦手です 【Dさん】  ・進行性で徐々に視力が低下している  ・現在は中心が見えにくく、周辺の視野は残っている 【Eさん】  ・発症後、比較的落ち着いているが、辞書や新聞は目を近づけても見えません  ・さらに、老眼が始まってから、ピントを合わせるのに少しだけ時間を要しています (2)こういう時が見にくいです 【Aさん】  ・よく晴れた日や夕方の西日がきつい時などは見づらいです  ・商品の商品名や値段の文字が小さいと読めません 【Bさん】  ・昼間や明るい所だと見えにくいです  ・自分の正面から近づいて来る人などは見えにくいです 【Cさん】  ・階段の境目はコントラストがないと見えづらいです  ・暗い所から外に出て、急に明るくなると見えづらいです 【Dさん】  ・品物が多く並んでいる店や人が多くいる場所は、目当てのものを探せません  ・商品などで、自分の見やすい位置に近づけることができないと商品名が読めません 【Eさん】  ・黒い文字に比べると青い文字や赤い文字は見づらいです  ・駅の高い位置の路線図、料金表、時刻表は見づらいです (3)こうすると見やすくなります 【Aさん】  ・帽子や手で日差しや照明を隠すと見やすくなります  ・パソコンやスマートフォンの画面は、色を反転し、画面を拡大すると見やすくなります 【Bさん】  ・拡大読書器で白黒反転させると見えやすくなります  ・自分の周りを暗くすると見えやすくなります 【Cさん】  ・サングラスや遮光眼鏡をかけると少し見やすくなります  ・暗い所で携帯電話のカメラを通して見ると、見えやすくなることがあります 【Dさん】  ・スマートフォンとタブレットの拡大機能やカメラ機能、アプリを活用して見やすくしています  ・見たいものに目を近づけると、見えやすくなります 【Eさん】  ・黒い背景で白い文字に変換すると、見えやすくなります  ・明朝体をゴシック体に変換すると、多少、見えやすくなることがあります Aさんは「この文字」(注意:MS明朝26ポイント)が読みやすい。 Cさんは「この文字」(注意:MSゴシック14ポイント・白黒反転)が読みやすい。 Eさんは「この文字」(注意:MSゴシック36ポイント・白黒反転)が読みやすい。 同じ弱視者の中でも、読みやすい文字の大きさや色は異なります。 つまり、弱視者の見え方は「千差万別」です。 14ページ 2.私の日常生活               (1)移動をする時にこれに困ります 【Aさん】  ・電車やバスの行先・時刻表が見づらくて困ります  ・自転車を避けるのが苦手です 【Bさん】  ・明るい場所にある明るい色の柱・壁・床などが見えにくい  ・白杖を持たずに歩いた時、人にぶつかってしまい、トラブルになったことがある 【Cさん】  ・知らない所に行く時、建物など目的地が分かりにくい  ・交差点で信号があるのかないのかが分からない 【Dさん】  ・慣れない駅では、バスやタクシー乗り場が探せない  ・バスの行先表示が見えないため、アナウンスを頼らないと目的のバスに乗れない 【Eさん】  ・昼間の信号は少し見づらいので、周りの人の動きを見て判断している  ・タッチ式券売機では目を近づけて見るため、鼻や指が別のボタンに触れてしまう (2)仕事ではこれに困ります 【Aさん】  ・書類の決められた枠に記入するのが難しいです  ・出張の際の移動には時間がかかってしまう 【Bさん】  ・明るい場所で何かを見たりする作業や移動が困る  ・廊下などですれ違った人が誰だか分からない 【Cさん】  ・事前に資料をもらわないと、会議などで配られた書類やプロジェクターの文字などが読めない  ・外出による移動や視覚を使った判断業務が難しい 【Dさん】  ・講演会や懇親会に参加すると、自分の座る位置や会場の配置が分からず困惑する  ・相手の顔が見えないため、思いがけない所で知り合いに合っても気付かないことがある 【Eさん】  ・透明な飲料水をお酌するのが、どの位注いだか分からない  ・廊下で知り合いと気付かずに無視してしまい、知り合いを不快にさせたことがある (3)買い物ではこれに困ります 【Aさん】  ・パンや総菜などのトングで取る商品は苦手です  ・バイキングや回転ずしなどセルフサービスは苦手です 【Bさん】  ・レジに並ぶ際に自分が並びたい待機列が分からない  ・会計時にお金の判別に時間がかかるので、列の後ろの人が気になる 【Cさん】  ・介助を受けたい時に店員さんが見つけられないことがある  ・お店のどこに置いてあるのかが分からない商品は探すことができない 【Dさん】  ・お店でおすすめ商品や新商品に気が付かない  ・ポイントカードが多くなると、どの店のものか分からなくなる 【Eさん】  ・値札を見る際、生鮮食品に顔を近づけることが少し恥ずかしい  ・レシートをルーペでじっくり見ると、周りからは疑っているように思われてしまう Aさんは、書類の文字が見えづらかったので「部屋を明るくしてください」とお願いしました。 そうしたら、同席をしていたBさんは、途端に書類が見づらくなり、困ってしまった。 Cさんは、銀行までは一人で歩いて行けるが、銀行の申込書類の枠が見えなくて、記入ができませんでした。 Dさんは、銀行まで一人では歩いて行けないが、目を近づければ書類を見ることができました。 Cさんは、Dさんにお願いをして銀行までついて来てもらい、Cさんの代わりにDさんが書類を記入しました。 それぞれ見え方が違うDさんとEさんが、一緒に駅に向かいました。 前から来る人を避けながら改札までは来ることができましたが、改札前で二人の目の前を横切った人はDさんにも、Eさんにも見えず、ぶつかってしまいました。 見え方が違うと弱視者が「できること・できないこと」が異なります。 つまり、弱視者の行動も「千差万別」です。 17ページ 第3章 弱視者の日常 19ページ 第1節 移動全般 1.はじめに                  視覚障害者にとって、大きな困り事の1つは「移動」である。  視覚障害者は、目視での確認ができないまたは確認がしづらいため、移動の様々な場面で困ることが多く、移動をしやすくするための改善を求める声は多い。一方で、移動に関するバリアフリーは着実に進展しており、ハード面でのバリアフリー化、周りからの声かけなどのソフト面での支援が増えており、少しずつ移動での困り事は改善され始めている。  しかし、弱視者においてはこのバリアフリー化の恩恵を十分に受けられず、実は困っていることが多いと言われている。  例えば、弱視者は見え方の個人差が大きいため、「何が一番見えやすいか」は人によって大きく異なっている。バリアフリー化を受けて、駅で行先を示す看板や時刻表などが設置されるようになったが、弱視者においては、その看板が見えやすい者もいれば、逆に見えにくいと感じる者もいる。また、周りの人からのサポートについては、一部の弱視者は白杖を持たないことがあるため、周りから視覚障害者と認識されず、お願いをしても理解されないことがある。  このようなことがあるため、弱視者は自分から周りの人にお願いができず、結果的にその困り事を抱えてしまうことがある。  弱視者は、自分にとって見えやすい環境であれば1人で移動することができるが、見えにくい環境では途端に移動ができなくなってしまう。つまり、移動をすることの困難さが弱視者それぞれによって異なることから、ハード面・ソフト面での支援を多様化せざるをえない。しかし、現在の支援には、弱視者の多様性は考慮されておらず、結果として弱視者の困難さだけが残されてしまう。  この困難さを除去するためには、社会全体が弱視者の行動や困り事を理解し、その困り事に対する積極的な支援が必要である。  そこで本節では、弱視者が移動において「困っていること」を紹介し、どのようなことを改善してほしいのかを提案する。 20ページ 2.第1節で紹介される設備や用語について   (1)音響式信号機  交差点で、メロディーや鳥の鳴き声(ぴよぴよ、かっこうなど)が流れる信号機を利用したことがあるだろうか。これらの音の出る信号機は「音響式信号機」と呼ばれている。音が鳴っている間は信号が青であることを意味し、音が鳴っていない間は赤信号を意味している。視覚障害者はこの音を頼りに横断歩道を渡るため非常に大切な存在である。 (2)点字ブロック(視覚障害者誘導用ブロック)  点字ブロックは、正式には「視覚障害者誘導用ブロック」と呼ばれている。これは、視覚障害者が安全に移動をするための重要な「道」になり、道路だけではなく、駅や施設などの様々な所に敷設されている。また、近年では横断歩道に敷設された点字ブロック(エスコートゾーン)も増えてきている。  なお、点字ブロックには大きく3つの種類がある。視覚障害者の誘導を目的とした線状ブロック、注意喚起を目的とした点状ブロック、そして主に駅ホームの端に敷設されている内方線付き点状ブロックの3種類になる。 (3)白杖(はくじょう)  白杖は、正式には「盲人安全つえ」と呼ばれている。視覚障害者が白杖を使う理由としては、杖先での安全確認があり、例えば、階段を下りる時は、階段の深さや位置を確認するなど、自分の進む方向の安全を確認するために利用をしている。また、白杖を持つことで周りから視覚障害者と認知されることも機能の1つである。  なお、移動方法や白杖の使い方により、白杖の種類は大きく異なっており、視覚障害者は自分に合った白杖を選んで利用をしている。例えば、安心して歩きたい場合には直杖と呼ばれる1本の棒状の杖を使い、外出頻度が高い場合は折りたたみ可能な白杖を使う者が多い。また、足元や障害物の確認は特に必要ではないが、周囲に視覚障害があることを伝えたい場合には細身で軽いシンボルケーンを利用する者もいる。さらに、体を支えながら歩行をする者向けの白杖(身体支持併用杖)もあり、視覚障害者のニーズや用途に合わせて様々な種類がある。 (4)歩行訓練  視覚障害者は、目から得られる情報を収集しながら歩くことが困難である。そのため、音や匂いや日差しなど、目で確認する以外の感覚を駆使して情報を収集し、安全確認や方向確認をしながら歩行している。  ただし、こういった歩行は1人では修得が難しいことから、歩行訓練と呼ばれる訓練を受ける者も多い。歩行訓練は、専門の訓練士が、その者の見え方や特性、要望を考慮した上で、最適な移動方法や移動技術を指導している。 (5)スマートサイト(ロービジョンネットワーク)  視覚に障害を負うと、様々な支援や訓練などが必要になるが、視覚障害に関する情報はなかなか入手が難しいため、支援や訓練などに辿りつかないことがある。そのため、視覚障害者に必要とされる支援や訓練などに関する情報を集めたインターネットの情報サイトやチラシが活用されている。これらはスマートサイトと呼び、ワンストップで情報が集められることから活用が進んでいる。  なお、近年では、この考えがさらに進み、地域の眼科医や福祉団体、訓練機関などが連携し、地域での視覚障害者支援をワンストップで行うことを目的とした地域組織が作られている。これらの組織もスマートサイトと呼ばれ、ロービジョンネットワークとも呼ばれている。 22ページ 第1項 信号機、道路 1.信号機                            ●困っていること  信号機の表示が見づらい時がある。 事例  信号機の表示は、信号機の高さや表示位置などによって見づらいことがある。また、時間帯や天候、電光看板など周囲の環境、当事者の視力や見え方によっても、その見やすさは変化する。 ア 制度やルールを変えてほしいこと  近年、弱視者の見やすさに考慮して、低い位置に設置された補助信号機も増えてきている。設置においては、弱視者の意見を考慮した上で見やすさを意識した信号機の設置を進めてほしい。  また、普段から使っているスマートフォーンなどを用いて信号の色を確認できる仕組みがあれば利用をしたい。 【参考写真 低い位置に設置された補助信号機】目を近づけて見ることができる 23ページ 2.交通弱者用の音声・音響案内                ●困っていること  信号機の音声・音響案内は、情報の伝え方が不十分・不適切なことがあり、不安や危険を感じることがある。 事例  信号機の音声・音響案内は弱視者も適宜利用している。しかし、「ぴよぴよ」や「かっこう」の音だけでは、青信号があとどのくらい続くのか分からなくて困ることがある。このような音声・音響式信号機は、弱視者にとっては情報が不十分な場合もあり、弱視者は不安や危険を感じながら移動をしている。 ア 制度やルールを変えてほしいこと  現在の信号の色と、それがどのくらい続くのかを伝えるような信号機にしてほしい。 ●困っていること  近隣住民の苦情などにより、夜間帯は音声・音響案内が利用できなくなっている。 事例  多くの自治体では、近隣住民の苦情などにより、夜間帯の音声・音響式信号機の音が鳴らないように設定されている。しかし、夜間帯の人が少ない状況では、弱視者は信号が青か赤かを周りの人に聞くことが難しくなり、勘に頼って横断歩道を渡ってしまうことがある。 イ みんなに知ってほしいこと  地域において、視覚障害者が生活を送る上で音声・音響案内が重要なことをもっと知ってほしい。そのため、地域の商店街や町内会などが連携して、周知をしてもらいたい。 24ページ 3.点字ブロック、道路を歩くこと                ●困っていること  一部の点字ブロックは、摩耗によって色が落ちていたり壊れていることがあり、不便や危険を感じながら利用をしている。 事例  弱視者も点字ブロックを適宜利用しており、初めて訪れる場所では非常に頼りにしている。特に、弱視者の場合は、点字ブロックの突起だけでなく「色」も重要な手掛かりにしている。しかし、摩耗による退色や破損によって点字ブロックが見づらくなることがあり、弱視者は不安や危険を感じている。さらに、ここ最近は、周囲の景観に合わせた色の点字ブロックが敷設されることもあるが、これらは大変見づらいものが多く、困ることが多い。 ア 制度やルールを変えてほしいこと  当事者の意見を踏まえた上で点字ブロックの色を決めてほしい。また、摩耗したら必ず補修を行ってほしい。 ウ 弱視者自身が注意したいこと  点字ブロックの敷設や補修は、地元の警察などに対して当事者の指摘や要望がないと実施しないことが多い。そのため、当事者側から要望を積極的に訴える必要がある。 コラム ともに歩く「同行援護」  同行援護は、外出や買い物、通院などに不便を感じている視覚障害者に対して、移動中や外出先での視覚情報の提供や誘導、代読・代筆などを含む必要な援護を行うサービスであり、視覚障害者が外出する際の強い味方です。  視力が落ちてくるとまずは外出することが怖くなると言われています。ただ、同行援護を利用することでこれまでと同じように外出を楽しむことができます。なお、同行援護の利用は自治体によって条件が異なりますので、詳しくはお住いの市町村や同行援護の事業所へお問い合わせください。 25ページ 第2項 電車・駅 1.案内表示                           ●困っていること  古い駅では依然として案内表示が見づらい。 事例  新しい駅の案内表示は、黒背景に白文字に表示するなどの見やすさが考慮され、掲示位置も目線の高さを意識した位置になっている。これはとても使いやすい。しかし、古い駅や乗降人数の少ない駅ではこうした改良が遅れており、案内表示が見づらい状況が続いている。 ア 制度やルールを変えてほしいこと  国や鉄道会社は、古い駅や乗降人数の少ない駅についても、案内表示の見やすさや掲示位置について検討し、高齢者や訪日外国人などの意見も集約した上でさらなる改善を進めてほしい。 ●困っていること  地下鉄のホームで行先案内を探すのに時間がかかり、電車に乗れないことがあった。 事例  弱視者が電車を利用する際、行き先や電車の種類(各駅停車・快速・急行など)、時刻表を確認することに時間がかかり、困ることが多い。一方で、一部の駅のホームドアには、電車の種類や行き先を示した電光掲示板が試験的に設置されているものもある。これは、弱視者にも見やすい表示や掲示位置になっており、便利に活用している弱視者もいる。 ア 制度やルールを変えてほしいこと  国や鉄道会社は、電車の種類や行先などの表示について、高齢者や訪日外国人などの意見も集約した上でさらなる改善を進めてほしい。 26ページ 2.音声・音響案内                     ●困っていること  駅構内の音声・音響案内の音が小さかったり、反響して聞き取りづらいことがある。 事例  弱視者は、その本人の視力や見え方、周囲の明るさや混雑状況などによって、駅構内での案内表示が見づらいことがある。そのため、弱視者も音声・音響案内を頼りにしているが、音量や音質、反響などによって聞き取りづらいことがある。 ア 制度やルールを変えてほしいこと  鉄道会社は、音声案内の音量、音質、内容、タイミングなどを、全ての利用者が確認しやすい内容に改善してほしい。 コラム 駅員介助で不安を解消  見えづらくなると、「駅のホームを一人で歩くのは不安」や「乗り換えのルートがよく分からない」など、駅を利用することに様々な困り事が発生します。  このような時は駅員さんに「介助」をお願いしてみましょう。例えば、「△△駅で乗り換えて★★駅まで行きたいのですが」とお願いすると、駅員さんに誘導をしてもらえます。また、降りる駅にも連絡してくれてホームから改札まで案内もしてくれます。必要な援助を適切に受けることで不安を解消し、安心して移動ができるようになります。困ったことがあれば、改札の駅員さんに声をかけてみましょう。 27ページ 3.駅の無人化                         ●困っていること  ホームドアの設置が進む一方で、一部の駅では駅員や有人改札が減っていて困る。 事例  自分が乗る電車を確認したい時や駅構内で迷った時などは、駅員のサポートが非常に頼りになる。しかし、駅員や有人改札が減っていて、サポートを依頼できないことがある。ハード面での安全対策が進んでも、駅員による声かけやサポートの重要性は変わらない。 ア 制度やルールを変えてほしいこと  駅員や有人改札は減らさないでほしい。 ●困っていること  駅員の呼び出しボタンが使いづらい。 事例  無人の改札などでは、駅員を呼び出すボタンや装置があるが、その設置場所や使用方法が分からないことがある。また、呼び出した後も、駅員の説明や指示が不十分でよく分からないことがある。 ア 制度やルールを変えてほしいこと  呼び出しボタンの位置が分かるように、ボタンの見やすさを向上させ、音声案内を付与するなどの改善を行ってほしい。また、応対する駅員には、視覚障害者への情報提示の仕方(クロックポジションなど)について学ぶ機会を持ってほしい。 28ページ ●困っていること  駅に関する情報をICTなどで対応することが増えてきている。しかし、視覚障害者向けのアクセシビリティが十分確保されていないため、実際には利用ができないことが多い。 事例  無人駅などの駅員がいない駅を初めて利用する際、あらかじめ駅構内図や乗車位置などの情報を、鉄道会社のウェブサイトから入手して活用していることがある。しかし、ウェブサイトのアクセシビリティが不十分なために、音声読み上げや文字の拡大をしても、ページの移動が出来ず、弱視者が目的のページに辿りつけないことがある。 ア 制度やルールを変えてほしいこと  鉄道会社のウェブサイトや、乗換案内アプリなどのアクセシビリティ向上を進めてほしい。 29ページ 4.駅の設備                          ●困っていること  駅の改札では、役割が違う改札(ICカード専用など)が混在しており、改札の直前にならないと違いが分からず、スムーズに改札を通ることができない。 事例  駅の改札機は、ICカード専用・入口専用・出口専用など役割が違う改札が並んでおり、改札のすぐ近くまで行かないと区別できない。そのため、改札のすぐ近くまで行って、自分が通りたい改札機とは違う改札機だった場合は、隣の改札機へ確認しながら移動をしなければならない。その際、周りの人への迷惑になっているのではないかと不安な気持ちになる。 ア 制度やルールを変えてほしいこと  ICカード専用改札、入口専用・出口専用改札など役割の違う改札に対して、改札機そのものの色を変える、入口専用と出口専用でタッチした際の音を変えるなど、利用者が判別しやすい内容にしてほしい。 ●困っていること  階段の始まりや境目が分からず、踏み外したりつまずいたりすることがある。 事例  弱視者の視力や見え方、周囲の明るさや混雑状況によって、駅構内の階段の段差が見えづらいことがある。そのため、階段の始まりと終わりが分からずに階段を踏み外してしまい、転倒してしまうこともある。 ア 制度やルールを変えてほしいこと  階段の段鼻に色づけを行うことは、階段の始まりや境目を判別しやすくなるので、普及を進めてほしい。なお、配色は周囲の色とのコントラスト比によって決めてほしい。 30ページ 第3項 鉄道駅の安全対策 1.駅ホームでの危険体験について               ●困っていること  ホームの内側は人が多く、目視で安全確認が難しくなるので、つい人がいないホームの端を歩いてしまう。 事例  駅ホームの内側には多くの乗客がいたり、ベンチや自動販売機、ごみ箱、売店などが点在している。そのため、弱視者は、これらの人や障害物にぶつからないようにするため、ホーム端を歩くことがあり、実際に危険な思いをした弱視者も存在する。 ア 制度やルールを変えてほしいこと  ホームドアの設置やホーム端を見やすくする塗装、内方線付き点状ブロックの整備など、ホーム上の安全対策をさらに進めてほしい。 ●困っていること  駅ホームを歩く時、ホームドアがあると思い込んでしまうことがあり、怖い思いをした。 事例  初めて利用した駅で、ホームドアがあると思い込んでしまい、危うく落ちそうになった。また、ホームの片側にのみホームドアが設置されている駅では、両側にホームドアがあると思い込んでしまうことがある。なお、一部の駅では、片側にのみホームドアが設置されていることをアナウンスしていて助かっている。 ア 制度やルールを変えてほしいこと  ホームドアの設置状況について構内アナウンスを行い、さらに、ウェブサイトなどでも周知をしてほしい。 31ページ ●困っていること  ホームの際(きわ)が目視で確認できない駅が多い。 事例  駅ホームの中央付近には乗客やベンチなどがあるため、必然的にホーム端を歩くことが多くなっている。その場合、ホームの端を目で見て認識することになるが、見づらいホーム端が多く、不安や危険を感じている。なお、一部の駅では、ホームの端が確認しやすい色で塗装されており、助かっている。 ア 制度やルールを変えてほしいこと  ホーム端にも、階段の段鼻と同じ考えで色を付けてほしい。暗い駅ほど効果がある。また、内方線付き点状ブロックについては、摩耗や汚れにより、地面との色が見分けづらい時があるため、運用方法を改善してほしい。 【参考写真 見やすい段鼻】 階段の段鼻には黄色の塗装が施されている。地面の色との対比(コントラスト)が生まれ、弱視者は目視しやすくなる。 32ページ 2.視覚障害者への声かけ・誘導について                    ●困っていること  駅員や一般客からの声のかけ方や誘導方法が適切でないことがあるため、不快な思いをすることもある。しかし、声をかけてくれた人のことを思うと注意することができない。 事例  駅構内で移動などに困っている視覚障害者に対して、声をかけてもらい、誘導してもらえることが増えている。これは大変助かっているが、無言で肩をたたかれたり、腕や白杖を引っ張られたりして怖い思いをすることがある。 ア 制度やルールを変えてほしいこと  車両内の液晶画面で、視覚障害者の声かけ方法や誘導方法を手短に紹介するのはどうか。見ている乗客が大変多いので、自然と誘導方法を身につけてくれるのではないか。 ウ 弱視者自身が注意したいこと  誘導の仕方が違う場合は、誘導が終わった後に「ありがとう」の言葉と共に誘導方法を紹介したリーフレットを渡して、もっと誘導が上手くなってもらう啓発をしたらどうか。 ●困っていること  弱視者は、自分から声を上げて助けを求めることに抵抗を感じる者が多い。 事例  弱視者の多くは人に支援依頼することに慣れていない。周囲の目を気にしたり、障害に対する受容ができていないために、自分が困っていることを上手く伝えられないことが多い。 ウ 弱視者自身が注意したいこと  助けを求めることで安全に移動することができる。困ったことがあれば、恥ずかしがらずに助けを求めよう。 33ページ 第4項 視覚障害者の歩行 1.白杖での歩行                       ●困っていること  白杖=全盲というイメージが社会全体に根付いている。弱視者も白杖を使うということがなかなか理解されていない。 事例  白杖を使用している弱視者が電車内などでスマートフォンを操作していると、「あの人、本当は見えているんじゃないの?」などと疑われることがある。 イ みんなに知ってほしいこと  弱視者も白杖を持って歩行していることを広く知ってほしい。 ●困っていること  白杖を持たないで歩行する弱視者は、トラブルや事故に巻き込まれることがある。 事例  弱視者の中には、「弱視であることが発覚すると仕事に支障がある」「周りの人からの偏見が気になる」などの理由で白杖を持たない者もいる。しかし、白杖を持たないで歩行をしたことで安全確認が不十分となり、周囲の人に気付いてもらえず人と接触するなどのトラブルや事故に遭遇することがある。 ウ 弱視者自身が注意したいこと  白杖を持つと、足元や周囲の障害物を確認できたり、視覚障害者であることを周りの人に知らせて様々なサポートを受けることができる。また、視覚障害者が白杖を持たないことにリスクがあることを知ってほしい。例えば、交通事故にあった時、白杖を持っているのと持っていないのとでは、事故の判断や保険金の支給額に違いが生じる場合がある。弱視者も安全が第一。少しずつでも白杖を持って歩くことができるようにしたい。 34ページ 2.歩行訓練など                         ●困っていること  自己流で歩行をしているため、歩くことに不安がある。 事例  視覚障害者が安全に歩く方法を身につけるためには、歩行訓練を受けることが有効とされている。  しかし、弱視者の中には、歩行訓練という制度そのものを知らない者もいて、結果的に自己流で歩いていることがある。この背景には、歩行訓練に関する情報が多く発信されていないこと、弱視者がその情報に上手く辿りつけないことなどがあり、弱視者が歩行訓練に容易に繋がることが求められている。 ア 制度やルールを変えてほしいこと  医療と福祉をつなぐ眼科医や自治体には、視覚障害者に対して歩行訓練があることを積極的に案内してほしい。また、視覚障害者への支援に有効性があるとされるスマートサイトを活用し、困っている弱視者へ情報が届くようにしてほしい。 コラム 歩行訓練で自信がついた!  歩行訓練とは、白杖を使った歩行の仕方、電車・バスなどの利用方法、今の視力を生かした歩き方などについて指導するものになります。  病気の進行などによって視力が落ちてきた弱視者は、それまで自己流で歩いていたため、歩くことに不便や不安を抱えています。しかし、歩行訓練を受けて白杖の正しい使い方や安全確認の方法を知ることで、安全な歩行手段が得られ、自信をもって歩けるようになると言われています。  また、歩行訓練によって歩くことに自信がつくと、パソコン訓練などの他の訓練にも意欲的に取り組むようになるなどの例があり、生活そのものへのモチベーションが上がるとされています。歩行訓練は視覚障害者を勇気づける訓練とも言えます。 35ページ ●困っていること  地域で視覚障害者に係わる団体や機関がどこにあるか分からず、視覚障害者の生活を豊かにする有益な情報が得られなかった。 事例  地域によっては、視覚障害者協会や点字図書館などがあり、視覚障害者に対して有益なサービスの提供や情報発信などを行っている。  しかし、弱視者はこれらの団体や機関が地域にあることを知らないため、自治体の福祉サービスに関する情報など、視覚障害者にとって有益な情報が得られないケースがある。 ア 制度やルールを変えてほしいこと  視覚障害者自らが情報を入手するのは難しいため、これらの団体や機関が積極的に情報発信を行う必要がある。また、視覚障害者への支援に有効性があるとされるスマートサイトを活用し、困っている弱視者へ情報が届くようにしてほしい。 コラム 視覚障害者の頼れる団体「日本盲人会連合」  日本盲人会連合(通称:日盲連)は、全国の視覚障害当事者を主体とする61団体により構成され、視覚障害者福祉の向上を目指し、組織的な活動を展開している社会福祉法人です。  以下のホームページでは、視覚障害者に便利な様々な情報、全国の加盟団体の情報が掲載されています。ご活用ください。 37ページ 第2節 仕事、雇用 1.はじめに                  視覚障害者の職業は、従来は「あん摩マッサージ指圧、鍼、灸」といったイメージがあるが、現在は事務職として民間企業や公的機関に勤務している者など、様々な職種で働く者も増えてきている。  これらの企業などで働く者は、音声PCや拡大読書器、ルーペなどの視覚を補う補助具を使って業務を遂行し、社会の理解やITの発達により職域が徐々に広がる傾向にある。一方で、国が推し進める共生社会の実現から、障害者の雇用を後押しする流れもあり、障害者法定雇用率の引き上げなど、視覚障害者にとって働きやすい環境が徐々に進んでいるとも言われている。  しかし、社会全体では、視覚障害者の仕事や雇用が促進されていると言い難い状況にある。  例えば、障害者を採用する側の企業では、視覚障害者がどのようにしたら上手く働けるかを理解していないことも多く、結果的に視覚障害者を積極的に受け入れず、受け入れた後も視覚障害者が満足に働けない環境となっていることが多い。  特に、健常者として入社して、勤めている途中で視覚障害になる者(中途視覚障害者)は、仕事をすることの困難さを多く抱えている。これらの者は、これまで働いてきた経験を生かし、同じ会社に勤務することが有利であるにもかかわらず、会社側が視覚障害者の見え方や行動に理解がなく、その者が希望する訓練や機器の導入に前向きにならず、最悪は退職を強いることもある。また、当事者自身も、見えなくなった自分を、これまで働いてきた会社に当てはめることができず、結果的に仕事を諦めてしまうこともある。  このような状況がある中で、一番困っている視覚障害者は「弱視者」と言われている。それは、多種多様な見え方や行動があることから、その弱視者の困り事が理解されず、仕事をする上で全盲者以上に支援が受けられないことが大きいからである。  本節では、仕事をする弱視者の困り事を整理し、どのようにしたら弱視者が社会で安心して働くことができるかを提案する。 38ページ 2.第2節で紹介される設備や用語について   (1)視覚補助具  視覚を補うための道具になり、その弱視者の見え方や行動によって必要とする道具が異なっている。仕事で使う補助具は、勤務先で準備するのが一般的とされている。  @音声PC   使用するパソコンに、専用の画面読み上げソフトをインストールすることにより、パソコンの画面にある文字や入力操作を音声で確認することができる。このようなパソコンを音声PCと呼ぶ。視覚を使わなくてもパソコンの操作ができることから、全盲者だけでなく弱視者も利用している。  A画面拡大ソフト   文字を大きくしたり、色を変えたりして、使用する弱視者の見やすい状態に画面を変更する専用ソフト。  BOCRソフト   印刷物をスキャナーなどでパソコンに取り込み、取り込んだ画像から文字を読み取るソフト。読み取った文字は、画面読み上げソフトで読み上げさせる。  C拡大読書器   書類の文字を大きくモニターに映し出し、さらに白黒反転やコントラスト調整などを行うことで、文字などを見やすくする機械。目視をしながら文字を書くこともできる。  D視覚障害者用ルーペ(拡大鏡)   一般的なルーペよりも高倍率のものが多く、弱視者の見え方によって種類が分かれている。近年では電子ルーペと呼ばれる、拡大読書器より機能と価格を抑えた商品もある。  E遮光眼鏡   光が眩しいと感じる弱視者向けに作られた眼鏡。眩しいと感じる特定の光を効果的にカットし、それ以外の光を通すよう作られており、個人差があるがコントラストが向上し、見えやすくなる。  Fその他   一般で販売されているタブレット端末を利用する弱視者も増えている。例えば、カメラ機能や専用アプリを視覚補助具として活用する者が増えている。 (2)ジョブコーチ(職場適応援助者)  障害者の職場適応に向けて、その障害者と事業主に対して支援を行う者。障害者に対しては、職場の従業員との関わり方や、効率の良い作業の進め方などのアドバイスを行う。また、事業主に対しては、本人が力を発揮しやすい作業の提案や、障害特性を踏まえた仕事の教え方などのアドバイスを行う。 (3)産業医  従業員の健康管理のために、法律に基づき企業が選任した医師。従業員の健康相談に乗り、企業や従業員に助言をする。 (4)ロービジョンケア  視覚障害者に対して、保有視機能を最大限に活用するための方法の助言、仕事をしやすくするための情報を提供し、生活の質の向上を図ること。視覚障害者へのリハビリテーションを中心に、他機関との連携、白杖や音声パソコンなど様々な道具を使って視覚を補う方法などが含まれている。 (5)職場介助者  視覚障害者が業務遂行をするために、視覚を補うためのアシスタントをする者。独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構において職場介助者助成金制度がある。 (6)職業訓練  障害者が働くための技術を習得するための訓練。視覚障害者であれば、拡大読書器や音声PCなどの視覚補助具を使用するための訓練、さらにビジネスマナーなどの訓練もある。なお、ほとんどの訓練は費用もあまりかからずに受講ができる。働きながら受講できるものから、訓練施設に入所して長期間の訓練を要するもの、研修や休暇制度を利用するものまで様々である。本報告書53ページ記載の相談機関では、その者に適した訓練のアドバイスも行っている。 40ページ 第1項 民間企業などに就職をした弱視者 1.自己提案の必要性                      ●困っていること  周りの人に対して、自分の目の見え方や必要な支援を上手く伝えられない。 事例  弱視者においては、当事者自身が自分の見え方をきちんと表現できないことが多い。また、その当事者自身が、視覚を補う方法も知らないことも多く、受けるべき配慮を本人が把握してないことが多い。さらに、当事者はお願いすることに遠慮があり、どこまで依頼や主張をして良いか客観的判断がつかない。 ア 制度やルールを変えてほしいこと  弱視者の困り事を客観的に評価、助言、相談できる専門家が必要。例えば、視覚障害に詳しい産業医やジョブコーチなどの専門家に相談を行い、勤務先に対して一緒に支援方法の説明を行うことが効果的とされている。 イ みんなに知ってほしいこと  当事者は、自分からは言い出しにくいことも多いので、気付いたことがあれば思いやりのある声をかけてほしい。 ウ 弱視者自身が注意したいこと  周りの人に対して、自分から何をしたくて、何に困り、どうしてほしいのかを上手に伝えることが大切である。見えにくいことを自ら言わないと、周りから見えているものと思われることがあるので注意が必要。 41ページ 2.会社や同僚からの配慮・待遇                 ●困っていること  職場で障害者差別を受けている。 事例  障害者枠雇用者は、「黙ってそこにいれば」のような差別発言を受けることがある。また、障害者だからという理由で優しくしてくれる反面、難しい仕事を与えてくれないことがある。このような背景があり、結果的に部署の中にいても外に置かれてしまう。 イ みんなに知ってほしいこと  障害者の可能性を知ってもらう。全盲の弁護士など、社会の第一線で活躍している視覚障害者はたくさんいる。一方で、そういった者ばかりではなく、弱視者は時間をかけて仕事を習得する必要があることも知ってほしい。 ウ 弱視者自身が注意したいこと  実力を認めてもらえるように努力する。また、職場の同僚とのコミュニケーションを大切にして、力になれることを見つけて、積極的に協力することも大切である。 コラム 弱視者への手助けは何故進まないのか?  弱視者は困ったことがあれば、周りの同僚などから手助けをしてもらいたいと思っています。ただ、次のような背景などもあり、周りの同僚から手助けが受けられないようです。  @介助や配慮をするとお節介になると考えている節がある。  A視覚障害者に慣れてないので、どう手助けをしていいのか分からない。  これらを改善するためには「会話」が必要だと思います。些細なことでも会話をすることで相手のことが分かり、どのような手助けが必要かが分かると言われています。そのため、周りの同僚からの声かけ、また、弱視者からも積極的に声かけを行い、よい信頼関係を結ぶことが大切になります。 42ページ ●困っていること  一般職で入社した場合、集合研修において視覚障害に対する配慮が受けづらい。 事例  弱視者が研修に参加しても、その視覚を補うフォローがないため、研修自体についていけない。また、移動などを理由に研修自体に参加できないこともあるが、参加できないこと自体を補うフォローもない。 イ みんなに知ってほしいこと  社員研修など普段と違う環境の場合は、当事者と事前に打ち合わせた上で、その弱視者に見合った方法で必要な配慮を実施してほしい。例えば、配布書類をその弱視者が見やすい書類に変更したり、拡大読書器や音声PCの配置が必要になる。 ●困っていること  社内で合理的配慮が受けられないため、結果的に働ける内容に制限がかかっている。 事例  音声PCが利用できないことで、周辺業務の仕事しかできない。そのため、異動ができず、同じ部署に居続けることがある。 ア 制度やルールを変えてほしいこと  社内において、どの業務でも音声PCや画面拡大ソフト、拡大読書器などの弱視者に必要な支援機器を標準化し、さらには、人的支援(ヒューマンアシスト)も活用できるようにして、障害者の可能性を広げやすい環境を作ってほしい。 43ページ ●困っていること  病気の進行や仕事内容の変化により、専門的な訓練が必要になったが、なかなか訓練を受けることができない。 事例  音声PC訓練などは会社からの研修として受けたいが、研修として認められないケースが多い。一方で、当事者によっては、会社に知られることなく訓練を受けることを望んでいることもある。そのため、個人でも制度を利用して訓練を受けられるようにしてほしい。 ア 制度やルールを変えてほしいこと  会社から申し込む訓練は、研修扱いで参加できるようにする。また、個人でも公的制度を使い訓練を受けられるようにしてほしい。 コラム 弱視者が周りからの理解を得るには?  弱視者自身が「こうすれば見える」ということを提案することは、周りからの理解を得るために一番シンプルかつ効果的な方法とされています。そのため、弱視者でも仕事ができる環境、もしくはミスをしにくい仕組みなどを自分で作り、周りの人にお願いして協力してもらうことも大切になっています。  例@データの提供   紙で印刷された書類は見えにくいので、書類のデータで提供してもらうようにお願いした。データでもらえれば、パソコンを通して音声で確認ができる。  例A記入の工夫   書類の文字はゴシック体や太字にしてもらい、自分にとって見やすい文字にしてもらった。また、赤ペンで書くと見づらいので、書類の文字は黒マジックで書いてもらうこともお願いした。 44ページ 3.職場環境・設備                      ●困っていること  パソコンの画面が見づらくなったので、音声PCや画面拡大ソフトの導入を会社に要望したが断られてしまい、仕事ができなくなった。 事例  社内システムの更新時に、音声PCが使えるように社内システムの仕組みを変えてほしいとお願いしたが、巨額な費用がかかるので断られた。 ア 制度やルールを変えてほしいこと  音声PCや画面拡大ソフトなどが仕事で使えることは、視覚障害者の合理的配慮の基本なので、国の制度で解決を図ってほしい。また、システムメーカーは、販売するシステムなどに、音声PCや画面拡大ソフトが利用できるアクセシビリティを必ず組み込んでほしい。 ●困っていること  社内システムが一新したことで、今まで使えていた音声PCや画面拡大ソフトが使えなくってしまい、仕事ができなくなってしまった。 事例  現在の社内システムでは、シンクライアントを導入することが増えている。しかし、今まで使っていた音声PCなどが使えなくなるケースが増えており、困り事の相談が増えている。 ア 制度やルールを変えてほしいこと  国が社内システムなどのアクセシビリティの基準を作り、音声PCや画面拡大ソフトが利用できないシステムの開発を規制してほしい。 45ページ ●困っていること  職場の環境設備を整える際、視覚障害当事者の意見を聞いてもらえず、かえって仕事がしづらくなった。 事例  建物の改修などで職場環境を変更することになり、取り入れてほしいことを要望したが、意見は聞かれず、以前より仕事がしづらくなったケースがある。具体例としては、視覚障害者の社員がいるフロアーだけに点字ブロックが敷設され、その社員が他のフロアーに移動できなかったケースがあった。 ア 制度やルールを変えてほしいこと  様々な分野で、視覚障害者に対する合理的配慮の指針を作成し、発注者や業者がその合理的配慮の必要性を理解して、改修などを行うようにしてほしい。また、この仕組みが確立されるまでは、当事者に対して、計画段階で変更内容などを詳しく説明し、必要に応じて変更をするなどの配慮を行ってほしい。 イ みんなに知ってほしいこと  弱視者の見え方はそれぞれ違うことから、必要な支援方法もそれぞれ違う。そのため、必ず本人と相談して支援方法を決めてほしい。 【参考写真:音声PCを利用する視覚障害者】ヘッドフォンを使用し、入力内容などを音声で確認している。 46ページ 4.職場内の人的サポート                   ●困っていること  仕事での外出や出張の移動は、1人で移動できない場所もあり、とても不自由している。 事例  初めて行く場所への移動は不安になることが多い。そのため、1人で行くのに不安な場所へは、場合によっては、事前に休みの日などを利用して、同行援護を使って下見に行くこともある。また、小規模な会社の場合、周りの社員に同行をお願いしたいが、対応できる人がそもそもいないため、同行のお願いができないこともある。 ア 制度やルールを変えてほしいこと  仕事での移動において、同行援護を使えるようにしてほしい。 ●困っていること  職場介助者制度があるのに、実際は利用しにくい。 事例  職場介助者がいれば、書類の確認など、仕事の作業効率が良くなることが多い。ただ、社内において、自分だけが職場介助者を利用することに遠慮を感じてしまい、利用のお願いができなかったケースがある。 ア 制度やルールを変えてほしいこと  職場介助者制度をもっと利用しやすい制度にしてほしい。 ウ 弱視者自身が注意したいこと  職場介助者制度があることをもっと知る必要があり、積極的に利用する必要がある。 47ページ ●困っていること  視覚障害者に対応したジョブコーチが不足している。 事例  職場において、弱視者を含む視覚障害者が使いやすいPCやネットワーク環境を構築する際、視覚障害者がシステム担当と交渉して、根本的解決や改善を図ることは難しい。また、システム担当者の大半が、職場環境に合わせた音声PCや画面拡大ソフトの使い方が分からない。そのため、ジョブコーチが会社と当事者の間に入り、働く環境を整えるという重要な役割が期待されている。しかし、実際には的確なジョブコーチに出会えないことが多く、困難さが改善されない弱視者は大変多い。 ア 制度やルールを変えてほしいこと  国において、ジョブコーチが増えるような施策を実施してほしい。また、ジョブコーチの力量や考え方は当事者の仕事に大きな影響を与えるので、駆け込み寺的な相談窓口も必要になる。 コラム 視覚障害者の仕事「あはき師」について  視覚障害者の職業において特徴的なのは、「あん摩マッサージ指圧」「鍼(はり)」「灸(きゅう)」を生業にしている者が多いことです。これらの三つをまとめて「あはき」と呼んでおり、江戸時代から続く伝統的な職業になります。  あはき師になるには、専門機関で技術などを習得し、国家資格の取得が必要になります。そして、働く場としては、あはき専門の治療院や老人ホームなどの福祉施設、病院などに勤務したり、企業の従業員用マッサージルームにヘルスキーパーとして従事するなど、様々な形態で仕事を営んでいます。特に、あはきに従事している視覚障害者は、この仕事が「やりがいのある仕事」として誇りを持って従事する者が多く、視覚障害者にとって無くてはならない職業になります。  しかし、近年では、無資格のマッサージ業者の進出が増え、視覚障害者のあはき師を圧迫するなどの問題もあり、仕事をすることの厳しさが増している側面もあります。 48ページ 第2項 個人で仕事をしている弱視者 ●困っていること  雇用される立場から外れた個人事業主は、障害によるハンディを補う制度がない。そのため、障害者の起業の妨げの一つになっている。 事例  一般の事業者やあはきの自営業者などの事業主(経営者)は、職場介助者制度が利用できず、結果的に自己負担になっている。つまり、健常者よりも起業をすることに対して様々な負担が発生している。 ア 制度やルールを変えてほしいこと  視覚障害者の障害者事業主においても、仕事をしやすくするための様々な優遇制度がほしい。 ●困っていること  金融機関のサービスの一部は、弱視者にとって融通が効かないことがあり、困ることが多い。 事例  金融機関などでは、個人利用者への配慮は進んでいるが、個人事業主が利用するサービス(取引先への支払いなど)は配慮がないことが多く、弱視者を含む視覚障害者が困っている。 ア 制度やルールを変えてほしいこと  金融庁などから合理的配慮の徹底を指導してほしい。 49ページ 第3項 公的機関などに就職をした弱視者 ●困っていること  民間企業で使える様々な制度は公務員には利用できない。 事例  ジョブコーチ制度などは、公務員は使うことができない。また、様々な用具の貸し出し制度も民間企業向けの制度になっており、自分で必要なシステムや職場環境については別途交渉し、獲得しなければならない。しかし、職場の状況などを把握して、自ら必要な職場環境を説明することなどは大変難しく、制度利用を諦めてしまうことが多い。 ア 制度やルールを変えてほしいこと  公務員であっても、ジョブコーチ制度などを利用できるようにしてほしい。弱視者の職場定着を進める上で、とても重要なことである。 ●困っていること  公務員には職場介助者制度が整えられていない。 事例  公務員採用試験(障害者採用)においては、自力通勤、単独での業務遂行という条件が付与されており、仕事上の事務作業や移動などを単独で行うことが求められている。その点を補うために、職場介助者制度を利用したいところだが、公務員は適用外になっている。 ア 制度やルールを変えてほしいこと  公務員にも職場介助者制度を利用できるように、統一的な制度化をしてもらいたい。 ウ 弱視者自身が注意したいこと  自治体によっては、独自で事務補助や職場介助者を制度化しているところがある。それらの情報を視覚障害者団体や労働組合などから収集することが大切である。 50ページ 第4項 雇用の厳しい現状 ●困っていること  不当な扱いを受けた時に相談する場所が分からない。 事例  困った時の相談先として労働組合が有効だが、組合自体がなかったり、機能してない企業もあり、困った時の相談先がない。 ウ 弱視者自身が注意したいこと  外部の労働組合が力になってくれる場合もあるので、あきらめは禁物。また、視覚障害者の就労に強い外部の相談先もあり、有効な情報を持っているケースもある。本報告書53ページに掲載した相談機関などは有効なので、困ったことがあれば相談してほしい。 ●困っていること   重要な相談先の一つである産業医があまり機能していないケースが多く、結果的に相談ができない。 事例  視覚障害者であれば、目の状態が日々変化するので、相談先として社内にいる産業医はとても重要になっている。しかし、産業医自体が眼科医であることは少なく、眼のことをあまり知らないケースもあり、期待するアドバイスや解決策を講じてもらえない。 ア 制度やルールを変えてほしいこと  企業の産業医のほかに第三者的産業医がいると良い。産業医の指導がその視覚障害者の職場環境を良くも悪くもするので、第三者機関がほしい。 51ページ コラム 契約社員の雇い止めについて  契約社員として入社して5年を過ぎると契約期間がなくなり、継続して働ける法律(改正労働契約法)ができました。その一方で、入社5年になる前に契約を打ち切ること、いわゆる「雇い止め」をする企業が増えています。  仕事に誇りを持って従事すると、仕事のパフォーマンスをこれからもあげることや、職場の同僚との良好な人間関係があることで、5年を超えても働き続けたいと思うのは、誰でも同じです。ところが、それを避けるために5年を超える前に契約を打ち切る企業が出てきているのが実情です。  これは、弱視者を含む障害者にとっては、現実に起こっている問題です。そのため、弱視者自身も注意をする必要があります。  例えば、契約更新の面接の際に、盲導犬を使おうと思っていると相談したことをきっかけに、契約を打ち切った場合、障害者差別解消法に抵触し、更新拒絶は無効になる可能性があります。この場合は、弁護士など専門家に相談してみま  しょう。また、契約打ち切りの理由をよく確認することや、雇い止め理由書を提出してもらうことが大切になります。 52ページ 第5項 雇用を支える相談支援 ●困っていること  仕事を続ける上で便利な制度があることを知らなかった。また、周りの人も制度を知らず、制度を利用するまで時間がかかった。 事例  視覚障害者の生活を支えるための様々な制度や支援の情報を持ち、その情報などを視覚障害者へ紹介する施設などが少ないため、情報が周知されていない実情がある。また、視覚障害者自身が、相談やバックアップ、訓練してくれる施設を探すことは難しく、周りも知らないことが多いため、結果的に制度まで辿りつけないことが多い。 ア 制度やルールを変えてほしいこと  全ての視覚障害者に有効な情報を一元化し、必要な者に情報提供をする仕組みが求められている。特に、視覚障害者の就労に特化した機関は、全国各地に作られることが求められる。 ●困っていること  病院で「目は治らない」と言われた。これからの人生をどうやって歩んでいくかが分からなくなり、生きることが辛くなった。 事例  診療を受けている眼科によっては「眼はもう治りません」と診断するだけで、必要とされるロービジョンケアなどに繋げないケースが多い。このような体験をした弱視者の多くは、絶望し、孤立する恐れがある。 ア 制度やルールを変えてほしいこと  眼科医は、視覚障害になった患者をロービジョンケアに繋ぐことを徹底してほしい。特に、一部の地域ではワンストップサービスを実現するために、医療従事者や視覚障害者の専門機関などが集まったスマートサイト(ロービジョンネットワーク)が作られており、視覚障害者への情報提供手段・支援体制として有効とされている。 53ページ コラム 相談は悩み事解決の近道!  視覚障害者に係わる悩み事は多岐にわたります。それは、日々の生活の中での悩みや目の見え方など、人によって様々な悩みを抱えています。ただ、そのような悩みは、他の人に相談しづらいことが多いと言われています。  その一つは「仕事」に関する悩みです。仕事の悩みは、一般企業の中で働いている視覚障害者、特に職場で自らが視覚障害者であることを隠している弱視者には特に多いと言われています。なぜなら、悩み事を周りに打ち明けることは、自分に目の障害があることを伝えることになるので、目が悪いことを理由に、仕事に悪影響が出ると思い、中々言えない実情があるようです。そして、そのような悩みを抱えたまま、さらに目の状態が悪化したことで、自ら仕事を辞めてしまうケースもあるとも言われています。  では、どのように解決をしたら良いのでしょうか。その解決策の一つが「相談」になります。  例えば、相談先の一つとして、どのようにしたら仕事を辞めずにすむか、どうしたら仕事ができるのかをアドバイスしてくれる機関があります。その機関では、実際に同じ経験をした視覚障害者達が、同じ目線で相談にのり、解決策などを教えてくれます。弱視者の方で、もし仕事や日々の生活のことで悩みがあれば、次の機関への相談するのはいかがでしょうか。 【就労に関する相談機関】 社会福祉法人 日本盲人会連合 総合相談室 電話 03−3200−0011 認定NPO法人 タートル 電話 03−3351−3208 55ページ 第3節 生活(買い物、契約) 1.はじめに                  日常生活の中でも、弱視者は多くの不便さを抱えており、懇談会を通して、様々な困り事が判明した。  例えば、店舗での買い物を一つとっても、様々な困り事がある。それこそ、商品を探したり値段や賞味期限などを確認することは難しく、店内の明るさや陳列の仕方によってはさらに見づらくなることがある。また、近年増え始めているセルフレジや飲食店の食券券売機、注文用の電子端末などの新たな設備については、画面が見づらかったり、操作方法が分からないなどの問題があり、不便さを訴える弱視者が多い。さらに、店舗での買い物においては、こうした困り事を解決するため、店員の積極的で柔軟な対応が望まれるが、そもそも店員を見つけづらかったり、不適切な対応をされることもあり、困り事を抱えながら生活をする弱視者は多いとされている。  一方、インターネットでの買い物は、自分が必要としている商品をじっくり探すことができ、なおかつ自宅まで配送してくれることから、弱視者の中でも利用する者が増えている。しかし、ショッピングサイトで商品を検索する際の検索ボックスが見づらかったり、購入手続きの途中で画像認証を求められたりと、弱視者特有の困り事が多く、さらなる改善が望まれている。  さらに、懇談会では、契約行為に関する困り事も多く寄せられた。例えば、銀行口座の開設やローンの契約、生命保険などの契約では、書類への記入がそもそも難しく、書くこと・読むことに困っている弱視者が多かった。そのため、少し見えている弱視者でも、行員などに代読・代筆をお願いするのだが、実際には対応してもらえないケースもあり、こちらもさらなる改善が望まれる。  このように、日常生活で弱視者が困っていることは多岐にわたっている。  本節では、日常生活の中でも特に身近で重要な買い物と契約における弱視者の困り事を紹介し、それらを解決するための方法を提案する。 56ページ 2.第3節で紹介される設備や用語について   (1)画像認証・パズル認証  ショッピングサイトやネット決済サービスなどにおいて、不正アクセス防止のために、ログイン時や決済時に視覚に依存する認証方法。画像認証ではゆがんだ文字を読み取って入力することが求められる。パズル認証では、イラストの中の男の子にメガネのアイコンを重ねるなどの操作が求められる。いずれも弱視者には難しい操作になる。 (2)代読・代筆  書面などを読むことができない者、記入することができない者が、自らの意思で他者に依頼し、他者が代わりに書面などを読み上げたり、記入をしたりする行為。視覚障害者においては、日常的な書類から、銀行などの契約書類や利用規約、約款など、様々な用途での利用が求められている。  なお、銀行関連では、金融庁より、金融機関関係団体などに対して「視覚障がい者に配慮した取り組みの積極的な推進について(要請)」(※1)という文書を送付し、この中で視覚障害者に対して代読・代筆を金融機関が規定化し、実施していくことを強く求めている。 (※1)出典情報 http://www.fsa.go.jp/news/22/ginkou/20100826-1/01.pdf 57ページ コラム「日常生活用具給付等事業」「補装具費支給制度」の活用  「視力が落ちて文字の読み書きが難しくなってきた。好きな読書を続けたい」  「今まで使っていた体温計が使えなくなって困っている」  「時計が見づらくなってきた。見やすい時計や音声で時間を知らせてくれる時計はないかな?」  こんなことで困っている場合は「日常生活用具給付等事業」「補装具費支給制度」を活用してみてください。  視覚障害者が使用する機器や製品は一般的に流通しているものが少なく、どうしても高価になってしまいます。そこで購入費を補助する仕組みがこれらの事業や制度になり、障害福祉サービスの1つになります。日常生活用具の給付品目や条件は自治体によって異なりますが、拡大読書器、音声体温計、音声時計・触読時計、音声体重計、血圧計、デイジー機器や点字ディスプレイなど、視覚障害者の生活を助ける便利な用具が対象になっています。また、補装具として白杖や眼鏡、義眼が給付されます。  「こんな製品はないかな」と思ったら、専門の販売店や地域の視覚障害者団体、又はお住いの市区町村の障害福祉担当部署に問い合わせ下さい。  ●専門の販売店の一例 社会福祉法人 日本盲人会連合 用具購買所 電話:03−3200−6422 58ページ 第1項 店舗での買い物 1.店員の対応                          ●困っていること  スーパーなどでは店員が少なくて困る。また、目視では店員と利用客の区別がつきづらい。 事例  商品の場所や値段などが分からない時、弱視者も店員に聞くことがあるが、スーパーなど小売店の店員が少なくて見つけられないことがある。また、店員と利用客の区別がつきづらく、声をかけづらいこともある。なお、一部の家電量販店やコンビニのように、目立つユニフォームを着ているお店では、弱視者が店員を見つけやすくなることがある。 ア 制度やルールを変えてほしいこと  店員を増やすとともに、見やすいユニフォームやエプロンなどを着用することによって、店員を認識しやすくしてほしい。また、「いらっしゃいませ」などの声かけを積極的にしてほしい。 59ページ ●困っていること  サポートをお願いした店員から、自分の見え方や行動に見合ったサポートが受けられない。 事例  弱視者の場合、本人の視力や見え方の個人差が大きい。また、店内の照明や時間帯などによっても見え方が変わってくる。そのためハード面での対応やマニュアルによる画一的な対応にはどうしても限界がある。そこで、店員からの積極的な声かけやサポートが重要となる。しかし、店員自体が弱視者の支援方法を理解していなかったり、弱視者は「少しは見える=少しはできる」という先入観から、弱視者にとって満足なサポートが実施されないことが多い。 ア 制度やルールを変えてほしいこと  店員からの積極的かつ柔軟な声かけやサポートをさらに充実させてほしい。また、弱視者を含めた多様な利用客を想定した接遇研修なども充実させてほしい。 ウ 弱視者自身が注意したいこと  困ったことがあれば、恥ずかしがらずに「値札が読めないので、この商品の値段を教えてもらえますか?」「〇〇はどちらにありますか?」など聞くことが大切。店員や周りの人に聞くことによって、大半の困りごとが解決します。 60ページ 2.設備関連  ●困っていること  セルフレジの画面が見づらく、操作方法が分かりづらい。 事例  近年、スーパーなどではセルフレジの導入が増えており、コンビニエンスストアでも導入が進んでいる。しかし、弱視者からは、セルフレジの画面が見づらいことや、操作方法の分かりづらさについての不満が多い。さらに、セルフレジの普及によって店員が減ることも懸念される。弱視者も商品の位置や価格、商品情報などを店員に聞くことがあるため、店員が減ることはとても困る。 ア 制度やルールを変えてほしいこと  セルフレジの画面のアクセシビリティ向上、操作方法の分かりやすさの向上を進めてほしい。  また、セルフレジの普及に伴い、店員を削減することのないようにしてほしい。 ●困っていること  呼び出しボタンで店員を呼びたいが、使えないことが多い。 事例  スーパーやショッピングモールなどの入口には呼び出しボタンを設置している店舗があるが、その近くに買い物カートや商品などが置かれていて、呼び出しボタンまで辿りつけないことがある。 ア 制度やルールを変えてほしいこと  呼び出しボタンの前にはカートや商品を置かないように店内のルールを改善してほしい。 イ みんなに知ってほしいこと  弱視者もスーパーやショッピングモールを利用すること、呼び出しボタンそのものの存在などを広く知ってもらい、呼び出しボタンの前にカートなどを置かないようにしてほしい。 61ページ 3.商品探し  ●困っていること  新商品の陳列などにより商品の置き場所が変わるのが困る。 事例  いつも買う商品は場所を覚えておき、その記憶を頼りに買い物をしている弱視者は多い。そのため、棚卸や新商品の陳列などで商品の場所が変わってしまうと、探している商品の場所が分からず、困ってしまう。このことは、弱視者だけでなく一般の利用者にとっても分かりづらい。 ア 制度やルールを変えてほしいこと  商品の位置が変わっていることの周知や新たな陳列を誰にでも見やすくする配慮がほしい。特に、弱視者にとっては、店内放送や店員さんの声かけなどがあると安心をする。 ●困っていること  パンや総菜、生鮮食品など、商品によっては取りづらいものがある。 事例  弱視者の場合、商品に目を近づけたりルーペで確認することがあるが、商品の種類によっては見づらかったり、取りづらいものがある。特に、パンや総菜など、直接トングで取る商品はとても困る。また、生鮮食品などは周囲の目や食中毒への不安などから、目を近づけて見ることに抵抗を感じる。 ア 制度やルールを変えてほしいこと  お店の店員に商品を取ってもらうことや商品内容の読み上げなど、店員からのサポートを積極的に行ってほしい。 62ページ 4.値札                            ●困っていること  商品の値札や賞味期限などの商品情報が見づらくて困る。 事例  最近のスーパーでは、商品の値札がデジタル表示になっているため、暗くて見づらいことがある。また、商品の定価とは別に値引きシールが貼られていることがあるが、そのシールが貼られていることが分からなかったり、値引きの内容を見間違えることがある。さらに、目を近づければ値札を見ることができるが、周りから変に思われてしまうと思うと不安を感じる。 ア 制度やルールを変えてほしいこと  値札などの商品情報や店内掲示について、見やすさの改善を行ってほしい。 イ みんなに知ってほしいこと  弱視者もスーパーやショッピングモールを利用すること、目を近づけて値札や商品情報を見ていることなどを広く知ってもらい、自然なサポートを行ってほしい。 63ページ 5.クレジットカードでの決済                 ●困っていること  決済時のサインをどこに書いていいのかが分かりづらい。 事例  クレジットカードで決済しようとする際、サインを求められることがある。この場合、弱視者にとっては、署名欄の線がハッキリしないことや、署名欄自体が小さいことがあるため、どこに、どのくらいの大きさでサインをすればいいのかが分かりづらい。 ア 制度やルールを変えてほしいこと  サインする場所を太枠で囲む、あるいは店員が分かりやすく場所を伝えるなどの改善をしてほしい。 ウ 弱視者自身が注意したいこと  店員に対して「どちらにサインすればよいですか?」と聞くことで解決できることがある。また、サインガイドなどのグッズを活用することで、サインがしやすくなるので、利用方法を習得しておくことも大切である。 【参考写真:サインガイド】サインをする場所に置くと、サインをする場所が分かりやすくなり、サインがしやすくなる道具。 64ページ 第2項 飲食店 ●困っていること  タッチパネル式の端末から商品を注文するお店が増えているが、画面が見づらく、操作方法が分かりづらい。 事例  居酒屋や回転ずし店などを中心にタッチパネル式の端末で注文する飲食店が増えている。しかし端末の画面が見づらかったり、操作方法が分かりづらいなど、弱視者にとっては注文しづらくなっている。また、このようなお店では店員の数が少ないことが多く、店員に直接注文すること自体も難しい場合がある。 ア 制度やルールを変えてほしいこと  注文端末の見やすさ、操作性を改善してほしい。例えば通常の白背景・黒文字の画面に加えて、色を反転した黒背景・白文字の表示モードを設ける、または文字サイズを拡大できるようにするなどのアクセシビリティ機能の実装を検討してほしい。  さらに、スマートフォンから注文できる仕組みなど、ITを活用した注文システムについても検討が望まれる。 65ページ ●困っていること  食券を先に買う場合、操作が分かりづらいため、店員さんにお願いすることもある。ただ、混んでいる場合はお願いしづらい。 事例  食券の券売機は、ボタンが見づらかったり、操作方法が分かりづらいことがある。特に、タッチパネル式の券売機は使いづらいことが多い。そのため、自分の後ろにお客さんが並んでいる時などは焦ってしまうことが多い。また、どうしても券売機の操作が分からない時は店員さんにサポートをお願いするが、お昼時など混んでいる時間帯はお願いしづらい。  これらのことが心理的なハードルとなって、食券制の飲食店の利用そのものを躊躇する場合もある。 ア 制度やルールを変えてほしいこと  券売機の見やすさ、操作性を改善してほしい。また、スマートフォンから注文できる仕組みなどITを活用した注文システムについても検討が望まれる。こうしたシステムがあれば、自分の見やすい文字の色や大きさで事前にメニューを確認できるのでとても助かる。 イ みんなに知ってほしいこと  弱視者も飲食店を利用すること、目を近づけて券売機を使っていることなどを広く知ってほしい。そして、弱視者に対して自然なサポートを行ってほしい。 66ページ 第3項 自動販売機 ●困っていること  自動販売機の商品は見づらく、判別がしづらい。 事例  自動販売機の商品名や値段などは見づらく、買いたい商品がどこにあるのか分かりづらい。また、欲しい商品と似たパッケージの別の商品を誤って買ってしまうこともある。さらに、比較的新しい自動販売機の中にはタッチパネル式のものがあるが、目を近づけたりルーペで確認しようとした時、誤って他のボタンに触れてしまうこともある。 ア 制度やルールを変えてほしいこと  自動販売機の見やすさ、操作性を改善してほしい。また、スマートフォンから購入できる仕組みなどITを活用したシステムについても検討が望まれる。 イ みんなに知ってほしいこと  弱視者も自動販売機を利用すること、目を近づけて商品を確認していることなどを広く知ってもらい、自然なサポートを行ってほしい。 ●困っていること  自動販売機は、商品の場所が定期的に変わるので困る。 事例  いつも買う商品は場所を覚えているが、定期的な入れ替えで商品の場所が変わってしまうことがあり、気付かずに別の商品を買ってしまうことがある。 ア 制度やルールを変えてほしいこと  水は左上と決めるなど、商品の場所を固定してほしい。特に水については、災害発生直後の飲料用、薬の服用などにも必要であるため、合理的配慮の観点からも場所の固定が必要になる。 67ページ 第4項 洋服関連 ●困っていること  洋服のサイズや色の表示は、ブランド・販売店ごとにばらつきがあり、見づらいものが多い。 事例  洋服を購入する際、サイズや色・柄、洗濯方法などを確認するが、これらの情報が記載されたタグの表記方法はブランドや販売店によって異なっている。そのため、いくつものタグをすべて確認しなければならず困ることがある。 ア 制度やルールを変えてほしいこと  サイズや色・柄、素材、洗濯方法など洋服の購入に必要な情報は分かりやすく表示してほしい。 ●困っていること  どの服が似合うのかが分からないので、店員さんに聞いてしまうことが多い。また、「カジュアル」なのか「フォーマル」なのか、服のTPOが分かりづらい。 事例  細かい柄や色合いが分からないので、どの服とどの服が似合うのか、似合わないのかの判断がしづらい。 ア 制度やルールを変えてほしいこと  店員から分かりやすい説明や提案をしてほしい。 ウ 弱視者自身が注意したいこと  当事者同士で洋服のTPOやスタイリングについて情報共有する場があるとよい。 68ページ ●困っていること  洋服店でウィンドウショッピングをすることができない。 事例  欲しいものを決めて買いに行くことはできるが、店内を歩きながらのウィンドウショッピングは難しい。店員にサポートをお願いすることはできるが、何か買わないと申し訳ないような気持ちになる。 ア 制度やルールを変えてほしいこと  一部の大手デパートではコンシェルジュサービスを提供している。このように気軽にウィンドウショッピングができるサービスを普及させてほしい。 ウ 弱視者自身が注意したいこと  店員と仲良くなるとサポートを受けやすかったり、適度に見守ってくれるようになる。また、商品を買わなくても気兼ねなくウィンドウショッピングがしやすくなる。 ●困っていること  洋服を購入した後、色の組み合わせなどのコーディネートを覚えたり管理をすることが大変。 事例  細かい柄や色合いが見えづらくなると、どの服とどの服が似合うのかの判断がしづらくなり、持っている服でも、上手くコーディネートをすることができなくなる。 ア 制度やルールを変えてほしいこと  持っている洋服を管理したり、コーディネートを提案してくれるアプリや仕組みを開発してほしい。 ウ 弱視者自身が注意したいこと  購入した洋服を色の濃い順に並べて管理する、タグの一部を切るなどのちょっとした工夫で洋服の管理がしやすくなる。また、色を識別して教えてくれるグッズやアプリもある。 69ページ コラム 洋服のコーディネートに役立つツール 洋服の色を知るツールやコーディネートを提案するアプリを使うと、今までよりもおしゃれが楽しくなることがあります。代表的なものを紹介します。 1.色を判別するツール (1)音声色彩判別装置「カラリーノ」  https://rabbit-tokyo.co.jp/caretec#colorino  色を知りたいものの表面に本体を当て、読み取りボタンを押すと、センサーが色を測定して音声で教えてくれる。 (2)さわって色が分かるタグ「いろポチ」  https://iropochi.jimdo.com/  色の相関関係を表した「色相環(しきそうかん)」を基本に、ポチポチと穴で洋服やバッグの色を識別するタグ。 2.便利なアプリ (1)洋服のコーディネートを支援するアプリ「FCSユーザアプリLite」  http://connectdot.jp/FashionCoordinateTag/  持っている服の色や柄、触って分かる特徴などを登録できる。また、洋服のコーディネートを保存したり、その時の感想や家族・友人の評判などをメモとして保存できる。別売りのICタグを使用することで、登録した洋服の情報を簡単に呼び出すことができる。 70ページ 第5項 インターネットでの買い物 ●困っていること  ネットで商品を購入する際、決済時に画像認証があり、弱視者はその画像を見て入力することできず困っている。 事例  ショッピングサイトやネット決済サービスなどにおいて、不正アクセス防止のために、ログイン時や決済時に画像認証やパズル認証といった視覚に依存する認証を求められることが増えている。このような認証では、ゆがんだ文字を読み取ったり、アイコンをドラック&ドロップするなど弱視者には難しい操作が必要となっている。  一方で、視覚障害者に対してこうした認証の代わりに電話などの方法で認証を行っているサイトもあり、これは助かっているという声も報告されている。 ア 制度やルールを変えてほしいこと   視覚に依存しない認証の仕組みを開発・普及してほしい。また、電話など代替手段も併せて提供してほしい。 ●困っていること  ネットショップにおいて、検索で欲しいものを見つけることが難しく、困っている。 事例  ショッピングサイトなどで商品を探す際、サイト内検索を使うことがあるが、検索のためのテキストボックスが小さかったり、商品カテゴリーの選択が難しかったりして、目的のものを見つけるのに大変なことがある。 ア 制度やルールを変えてほしいこと  検索のための入力をしやすくする、商品の絞り込みをしやすくするなど、ショッピングサイトのアクセシビリティ、ユーザビリティ向上に向けた取り組みをさらに充実させてほしい。 71ページ 第6項 銀行 1.店舗 ●困っていること  行員や警備員にサポートしてもらうことが多いが、誘導やサポートが不適切で困ることがある。 事例  銀行では書類の記入やATMの操作など、弱視者にとって負担となることが多い。そのため、行員や警備員にサポートをお願いすることがあるが、誘導やサポートが不十分・不適切で不快な思いをすることがある。 ア 制度やルールを変えてほしいこと  銀行内での誘導やサポート方法について、行員や警備員への研修などをさらに充実させてほしい。 ●困っていること  お金を借りるなどの契約行為では書類が多く、記入が大変。 事例  ローンの契約などにおいて、契約書の文字が細かくて読みづらかったり、書類への記入事項が多く、目への負担が大きい。 ア 制度やルールを変えてほしいこと  記入用紙のレイアウトや枠線を工夫することにより、書類を見やすく、記入しやすくしてほしい。この点は、高齢者などの意見も踏まえて改善を進めてほしい。 72ページ 2.ネットバンク                        ●困っていること  ネットバンクは残高照会や振込などには便利だが、お金を借りることなどの契約については、結局、紙の書類が必要となり、不便を感じている。 事例  カードローンや住宅ローンの契約などを行う際、最初の申し込みは銀行ウェブサイトから行うことができるが、その後、契約書やその他書類が郵送され、記入を求められることが多い。ウェブ上ですべての申し込みが完了できればとても助かる。 ア 制度やルールを変えてほしいこと  一部の銀行では、カードローンの申し込みなどをインターネット上から行えるので、これをもっと普及させてほしい。また、同時に、ネットバンキングサービス全体のアクセシビリティ向上についても継続して取り組んでほしい。 73ページ 3.代読・代筆                         ●困っていること  銀行で代読・代筆を希望すると、希望する内容ほど対応してくれないことが多く、困っている。 事例  口座を作る時やお金を預ける時は銀行の行員が代筆などを丁寧に対応してくれるが、お金の引き出しやローンの契約では代筆を全く行ってくれないことが多い。   ア 制度やルールを変えてほしいこと  全国の金融機関に対して、金融庁から代読や代筆に関する通達が出されており、原則的には対応することになっているので、これを確実に進めてほしい。 ウ 弱視者自身が注意したいこと  どんな場合に、どこまで代読・代筆が可能なのかを学び、正しい知識を持って交渉することが大切である。なお、簡易裁判所に申し出ることで認められるケースがある。この点は視覚障害当事者にはあまり知られていない。 74ページ 4.ATM                          ●困っていること  タッチパネル式のATMは操作が難しい。 事例  タッチパネル式のATMは、画面が見づらかったり、操作方法が分かりづらい機種がある。特に誤った操作をした場合、元の画面に戻る方法が分からずに混乱をしてしまう。  また、受話器とプッシュボタンのついたユニバーサルデザインのATMが普及しつつある。これは嬉しいことだが、残高照会や引き出しはできるものの振込はできない。そのため、窓口で振り込みを依頼することになるが、必要以上の手数料がかかってしまう。 ア 制度やルールを変えてほしいこと  タッチパネル式ATMについて、文字色と背景色の組み合わせを変更したり、文字サイズを調整できるようにするなど、アクセシビリティの改善を進めてほしい。 ウ 弱視者自身が注意したいこと  受話器付きのATMの普及が進んでいる。こうしたユニバーサルデザインのATMの操作方法を学び、活用することで、自ら金銭管理を行うことができるようになる。 75ページ 第7項 生命保険 ●困っていること  保険契約を断られたり、不利な契約を結ばされたことがある。 事例  弱視の場合、進行性の病気と判断されることがあり、契約を断られたケースがある。この場合、同じ内容の契約で、全盲の者は進行性ではないと判断され、契約できた事例もある。また、契約はできても、目に関する手術などについては支払がされない保険契約になっていることもあり、不平等に感じることもある。  ア 制度やルールを変えてほしいこと  弱視でも保険契約できるように、保険会社には弱視への理解を深めてほしい。 ウ 弱視者自身が注意したいこと  保険の契約は事前相談が大切。もし、障害の状況などを報告しなかった場合、告知義務違反になることがある。 ●困っていること  契約の際、タブレットを用いた書類記入が難しい。 事例  保険契約の際の記入やサインを外交員が持っているタブレット端末で行うことが増えている。端末が見づらかったり、操作方法が分からないため、外交員に代理で操作してもらったことがあるが、本当に良かったのかと不安が残る。 ア 制度やルールを変えてほしいこと  タブレット端末や専用アプリのアクセシビリティを改善して、弱視者でも契約手続きができるようにしてほしい。 ウ 弱視者自身が注意したいこと  保険外交員による代筆や代理入力について、保険会社と弱視者の双方が、どこまで支援ができるかを理解しておく必要がある。 76ページ 第8項 契約行為 ●困っていること  契約書の記載欄のレイアウトが分かりづらく、記入ができない。 事例  契約書の記入欄のレイアウトが複雑で、さらに、枠線の色が薄かったり枠線自体が細かったりして、見づらい内容が多い。そのため、どこに何を記入すればよいのか分かりづらいことがある。 ア 制度やルールを変えてほしいこと  契約書の記載欄のレイアウトを見すくするだけで、自署ができる弱視者は確実に増える。そのため、各種申込用紙や契約書類などは、記入する欄の枠線を太くしたり、記入欄自体を目立つ場所に配置するなどの改善を図ってほしい。 77ページ 第4章 さいごに 79ページ 弱視者からのお願い 1つの行動が弱視者の助けになります!  第2章、第3章で紹介をしたとおり、弱視者の見え方、行動、そして困り事は人によって大きく異なっている。そして、これらの困り事のために、数多くの弱視者が不便さを抱えながら日常生活を送っている。  21世紀になり、障害者権利条約が発効され、共生社会が求められている現在、この弱視者の困り事などを理解し、弱視者が不自由なく生活を送れるようになることが、社会全体の大きな課題と言える。  本報告書の最後は、少しでも弱視者の生活が豊かになるためにも、改善すべき点をとりまとめた。  これらのお願いは、決して難しいことではない。是非、社会全体でこれらの「弱視者からのお願い」を実現してほしい。 コラム 障害者権利条約と共生社会について  従来、障害とは、個人の心身の機能の欠陥だと考えられてきた。しかし、日本が平成26年1月に批准した障害者権利条約では、障害とは、多様な人の存在を想定せずに作られた社会の側の不備であり、障害は個人にあるのではなく、社会の側にあるのだと理解されている。  障害は、個人のリハビリや訓練のみでは乗り越えられない。社会の側が変わらなければ、根本的な問題は解決しないというわけである。  近年、わが国でも、社会が抱える障害を取り除くため、障害者差別解消法、バリアフリー法などの法整備が進められている。しかし、制度を運用するのは「人」である。まず、国民一人一人が、自分の心の中に「障害」がないか改めて考えてみること、それが、だれもが住みやすい共生社会を実現するための第一歩である。 80ページ 1.制度やルールを変えてほしいこと       共生社会やバリアフリーという考え方が進み、近年では、様々な法律や制度に対して、障害者が生活しやすくなるための変更や改善が盛り込まれるようになった。国の動きでは、平成28年2月に「ユニバーサルデザイン2020行動計画」が示され、国全体での真のバリアフリー社会の実現に向けて動き始めている。  しかし、弱視者が暮らしやすくなるための改善は、まだまだ道半ばと言わざるを得ない。  本報告書の第3章では、様々な困り事を紹介した。これらの困り事の一つ一つは小さなことではあるが、制度やルールが変われば、困り事は改善され、弱視者の暮らしが豊かになるものと信じている。  制度やルールといった道筋がなければ、正しい方向へ進むのは難しい。そのため、以下の「お願い」は必ず実現させてほしい。 (1)見えにくいことを補助する仕組みやアイデアを、どのようなものにも必ず含ませ、弱視者が選択して使えるようにしてほしい。   一部のスマートフォンでは、商品を購入した時点から画面読み上げ機能が最初から入っており、使う者の選択で音声を出す・出さないが選べるようになっている。また、紙で印刷された書類は見えづらいが、その書類のデータ版があれば、自分で見やすい色や文字の大きさにして見ることができる。弱視者が「自分が見やすい方法」を選択できる仕組みが予め組み込まれていることこそ、真のユニバーサルデザインと言える。 (2)弱視者が「見づらい・使いづらい」ことは、実は他の障害者・健常者も「見づらい・使いづらい」可能性がある。そのため、弱視者の意見を聞いた上で、制度やルールを決めてほしい。   駅の改札口において、改札近くで初めてICカードのみの改札だと気付くことは、弱視者だけではなく一般の利用者でも間違うことが多い。また、セルフレジなどのタッチパネル式の端末は、機械操作が苦手な者なら誰でも戸惑うことが多い。弱視者が「見えやすい・使いやすい」ことに基準を合わせると、全ての人にとって見えやすく、使いやすいものになる。 81ページ 2.みんなに知ってほしいこと          近年の社会では、共生社会の考え方が浸透し、健常者と障害者が一緒に生活することが一般的になりつつある。特に、この共生社会の進展においては、障害に対する理解が重要とされ、様々な啓発活動などにより障害への理解が高まり、共生社会が広まっている背景がある。  しかし、弱視者においては、その障害特性や困り事が多様であることから、その困り事などは理解されにくく、困難を抱えながら生活をしている者が大変多い。そのため、多くの弱視者は、安心して生活をするために、自分の困り事を周りに理解してもらい、困り事に対する支援が簡単に受けられるようになることを望んでいる。  弱視者の見え方や行動、そして困り事は千差万別であることから、その全てを理解することは難しい。ただ、以下の「お願い」は、弱視者の困り事を理解する上で、社会全体で必ず知ってもらいたいことになる。是非、この「お願い」を理解して、困っている弱視者がいれば手を差し伸べてほしい。 (1)弱視者が「見えづらい」ことを不思議に思わないでほしい。   スーパーやコンビニなどで商品を目に近づけて見るのは、弱視者が、商品の値段や賞味期限などを自分にとって見えやすい方法で確認するためである。また、「書類の文字を太く書いて下さい」や「赤いペンを使わないで下さい」とお願いするのは、弱視者が自分にとって見えやすい文字を提案するためである。色々な「見え方」、そして色々な「行動」があることを知ってほしい。 (2)困っている弱視者がいたら、「どうしたら見えやすくなるか」「どうしたら困らないか」を一緒に確認してほしい。   例えば、夕方にパン屋に訪れた弱視者が、今日は夕日が目に入るので見えづらいと相談され、店員が欲しいパンを取り、レジまで一緒に運んだという事例があった。弱視者でなくても、困っていることがあれば、周りに相談して、解決しようと思うのは当たり前のことである。ただ、弱視者は自分の困り事が周りに理解されないかもしれないという不安から、なかなか相談ができないことが多い。そのため、その困り事を不思議に思わず、一緒に考えて行動をすることが大切である。 82ページ 3.弱視者自身が注意したいこと         弱視者の中には、その者の社会的な状況から弱視であることを隠して、健常者として生活している者も多いとされている。懇談会では、この原因の1つとして、社会において弱視者の困り事が理解されていない点が指摘された。しかし、この点と同時に、弱視であることを隠すことは、本人にとって実は良い方向に進まないことも指摘された。つまり、困り事などを周りに真剣に理解してもらうためには、自らが弱視者であることや困っていることを意思表示することこそが必要になる。  自分が弱視者であることを話すのは勇気のいることではあるが、今の社会はそれを受け止めてくれる。是非、弱視者自身も勇気を出して行動してほしい。 (1)弱視であることを恥ずかしがらず、自分が見えづらいこと、お願いしたいことは周りに伝えてみる。   弱視者は、自分が障害を持っていることを知られたくないと思う者も多く、視覚障害者のシンボルとなる「白杖」を持つことに抵抗を感じる者が多い。そのため、周りから視覚障害者と認知されず、結果的に困ることが多いとされている。ある弱視者が、白杖を持つようになったら、声をかけてもらえたり、困った時の相談がしやすくなった、との事例も報告されている。周りに理解してもらうためには、自分から行動を起こすことも大切である。 (2)困ったことがあったら、まずは相談。自分の中にこもらず、周りの力を借りることが自立への近道。   弱視で見えづらくなり、生活しづらくなったが、視覚障害者の団体に入ったら、同じ境遇や同じ悩みを持つ仲間と出会い、悩みが和らぎ、どうやったら上手く生活できるかのアイデアをもらった、という例がある。1人で悩むのではなく、周りの力を借りることは自立への近道である。また、相談をすることで、心の平静も得られることもあり、前向きに進むための大切な行動とも言える。 83ページ 4.一番のお願い                これまで紹介した困り事を解決することで、少しでも弱視者が「私は弱視です」と言える環境になることこそが、本報告書の一番の「お願い」である。  現在の弱視者は、「目が見えづらい」ということについて、周りに知られることを恐れ、弱視であることを隠して暮らしている者が大変多い。なぜなら、弱視であることを知られると、差別を受けたり、偏見を持たれると思っているためである。そして、実際に弱視であることが周囲に知られたために、差別や偏見を受けたケースも大変多い。  目が見えづらい、見えにくいことは誰にでも起こり得ることである。つまり、誰もが弱視者になる可能性がある。  弱視者の見え方や行動、そして困り事が少しでも理解されることは、健常者も障害者も共に生活できる「共生社会」に近づくための重要な手立てではないだろうか。是非、弱視者の困り事を理解し、共生社会の実現に向けて1歩を踏み出してほしい。 84ページ 5.今後の検討課題               これまでの懇談会、そして本報告書の編集を行う中で、弱視者に係わる問題は他にもあることが分かった。  その1つは、弱視の子供の早期発見と適切な支援である。この問題は、視覚障害リハビリテーションの専門家から指摘があり、子供は自発的に「見えない」と言えないため、親などが弱視であることに気付く必要があるとされているが、気付くまでに時間がかかることが多い。もし、子供が弱視であることに早く気付けば、早期に適切な療育や教育の支援が受けられ、その子の将来を支えることにつながる。そのため、いかにして弱視の子供を早期に発見し、適切な支援を与えることができるかが課題となっている。  また、一部の弱視者においては、身体障害者手帳の基準に見合わないことから障害認定がされず、必要な支援が受けられていないことが分かった。例えば、障害認定が受けられれば、同行援護などの自治体からの障害福祉サービスが利用できるが、認定を受けていないが故に、希望してもサービスが利用できないという事例が報告されている。他にも、大学入試や資格試験における試験時間の延長が認められないなどの事例もあり、社会の基準と弱視者の現実との間にあるギャップを、いかにして埋めていくかは大きな課題である。  一方で、弱視者自身に目を向けると、障害者と健常者の狭間で悩む者も多く、これらの弱視者は、自身のアイデンティティーが分からず、精神面で大きな不安を抱えていることが分かった。特に、弱視であることを隠して生活している者ほど、社会からの孤立感は大きく、弱視者の心理的ケアも重要になっている。  この他にも、医療現場での困り事、読み書きや読書の困り事、女性や高齢者ならではの困り事など、様々な問題があることが判明している。これらの問題についても、弱視者が安心して暮らすためには、早急な解決が求められている。  本連合では、引き続き、弱視に関する問題を調査・研究し、弱視者の生活環境が向上するよう、活動を継続していく。  特に、弱視者の問題を解決するには、多くの事例や意見を集め、弱視者自らが解決策を示すことが重要である。そのためには、弱視者が集まれる組織の構築も必要と考えている。 85ページ 第5章 シンポジウム 87ページ 1.開催概要                  本連合は昭和23年8月に大阪府下二色の浜で結成し、平成30年は結成70周年を迎える年となった。そして、この結成70周年を契機に、本連合のこれまでの歴史を振り返りながら、今後の視覚障害者運動の将来を考える催しとして、結成の地である大阪において記念式典及び記念シンポジウムを開催する運びとなった。  当日は、全国より約200名の参加者が集い、盛大な催しとなった。記念シンポジウムに先立ち開催を行った記念式典では、関係者による挨拶、感謝状の贈呈、広瀬浩二郎准教授(国立民族学博物館グローバル現象研究部)による記念講演を行った。そして、記念シンポジウムは2部構成での開催になり、前半は本連合が目指す将来ビジョンについてのシンポジウム、後半は本報告書を題材とした弱視者に関するシンポジウムを開催した。両シンポジウムとも、これまで本連合では集中して取り扱うことがなかった題材であることから、参加者からの注目は高く、熱気に満ちたシンポジウムとなった。 【開催詳細】 開催名 日盲連結成70周年記念式典・記念シンポジウム 日時 平成30年8月18日(土)12時30分〜17時00分 会場 大阪府大阪市 メルパルク大阪 主催 社会福祉法人日本盲人会連合 ●シンポジウム2(15時30分〜17時00分)  「弱視者(ロービジョン)の抱える困難と社会の変革を目指して」  司会:江見 英一(関東ブロック協議会青年部 会長)  基調報告:伊敷 政英(弱視に関する懇談会 委員)  コーディネーター:中野 泰志(慶應義塾大学経済学部 教授)  パネリスト:石原 純子(弱視に関する懇談会 委員)         神田 信 (弱視に関する懇談会 委員)         橋あい子(大阪府視覚障害者福祉協会 会長)         野村 茂樹(奥野総合法律事務所 弁護士) 88ページ 【参考写真 会場の様子】 【参考写真 会場の様子】 【参考写真 主催者挨拶:会長 竹下義樹】 【参考写真 感謝状の贈呈】アートコーポレーション株式会社様、株式会社ダノックス様に贈呈。  【参考写真 記念講演:広瀬浩二郎】「障害者イメージの改変」として、持論を交えた熱い講演が行われた。 【参考写真 会場の様子】 90ページ 2.シンポジウムについて            弱視者を題材としたシンポジウムでは、「弱視者(ロービジョン)の抱える困難と社会の変革を目指して」として、本報告書の基調報告と弱視当事者によるパネルディスカッションを行った。  基調報告では、弱視に関する懇談会委員である伊敷政英より、本報告書の意義や紹介内容について報告を行った。報告の中では、弱視者の困り事がもっと世間一般に理解され、弱視者が暮らしやすい社会になることが大切であると指摘した。  パネルディスカッションでは、本報告書で示された「弱視者の困り事」をテーマに、コーディネーターを努めた中野泰志教授(慶應義塾大学経済学部)の進行のもと、各パネリストからの報告や提案が行われた。各パネリストからは、自身が体験した失敗談や成功例などが紹介され、弱視者の暮らしを豊かにするための要望なども提案された。  参加者からは「弱視者の困り事をこれまで理解していなかったので、今回のシンポジウムが大変勉強になった」との意見が多く、本報告書で示した弱視者の困り事をまとめ、分かりやすく紹介することの重要性をシンポジウムを通して実証することができた。 【参考写真 基調報告:伊敷政英】    【参考写真 コーディネーター:中野泰志】 【参考写真 パネリスト:石原純子】子育てでの困り事や化粧の悩みなどを紹介する。       【参考写真 パネリスト:神田信】障害の受容をすることの難しさについて紹介する。 【参考写真 パネリスト:橋あい子】学生時代の体験や弱視者であることを隠した体験を紹介する。   【参考写真 パネリスト:野村茂樹】試験での合理的配慮を求めた経緯について紹介をする。 92ページ 弱視に関する懇談会について (1)参加者一覧(順不同、敬称略)  竹下 義樹(日本盲人会連合 会長)  中野 泰志(慶應義塾大学 経済学部 教授)  吉野由美子(視覚障害リハビリテーション協会 会長)  伊敷 政英  石原 純子  江見 英一  大胡田 誠  神田  信  工藤 正一  染谷 雄一  藤井  貢  堀口 実樹  御園 政光  三宅  隆 (2)開催履歴  第 1回 平成27年12月12日  第 2回 平成28年 2月20日  第 3回 平成28年 4月16日  第 4回 平成28年 7月30日  第 5回 平成28年10月29日  第 6回 平成29年 1月14日  第 7回 平成29年 4月22日  第 8回 平成29年 7月 1日  第 9回 平成29年10月28日  第10回 平成30年 1月28日  第11回 平成30年 3月21日  第12回 平成30年 4月22日  第13回 平成30年 6月23日  第14回 平成30年 8月 4日  第15回 平成30年11月 3日 裏表紙 【発行】 2020年(令和2年)2月 社会福祉法人日本視覚障害者団体連合 〒169−8664      東京都新宿区西早稲田2−18−2 TEL 03−3200−0011 FAX 03−3200−7755