37ページ 第2節 仕事、雇用 1.はじめに                  視覚障害者の職業は、従来は「あん摩マッサージ指圧、鍼、灸」といったイメージがあるが、現在は事務職として民間企業や公的機関に勤務している者など、様々な職種で働く者も増えてきている。  これらの企業などで働く者は、音声PCや拡大読書器、ルーペなどの視覚を補う補助具を使って業務を遂行し、社会の理解やITの発達により職域が徐々に広がる傾向にある。一方で、国が推し進める共生社会の実現から、障害者の雇用を後押しする流れもあり、障害者法定雇用率の引き上げなど、視覚障害者にとって働きやすい環境が徐々に進んでいるとも言われている。  しかし、社会全体では、視覚障害者の仕事や雇用が促進されていると言い難い状況にある。  例えば、障害者を採用する側の企業では、視覚障害者がどのようにしたら上手く働けるかを理解していないことも多く、結果的に視覚障害者を積極的に受け入れず、受け入れた後も視覚障害者が満足に働けない環境となっていることが多い。  特に、健常者として入社して、勤めている途中で視覚障害になる者(中途視覚障害者)は、仕事をすることの困難さを多く抱えている。これらの者は、これまで働いてきた経験を生かし、同じ会社に勤務することが有利であるにもかかわらず、会社側が視覚障害者の見え方や行動に理解がなく、その者が希望する訓練や機器の導入に前向きにならず、最悪は退職を強いることもある。また、当事者自身も、見えなくなった自分を、これまで働いてきた会社に当てはめることができず、結果的に仕事を諦めてしまうこともある。  このような状況がある中で、一番困っている視覚障害者は「弱視者」と言われている。それは、多種多様な見え方や行動があることから、その弱視者の困り事が理解されず、仕事をする上で全盲者以上に支援が受けられないことが大きいからである。  本節では、仕事をする弱視者の困り事を整理し、どのようにしたら弱視者が社会で安心して働くことができるかを提案する。 38ページ 2.第2節で紹介される設備や用語について   (1)視覚補助具  視覚を補うための道具になり、その弱視者の見え方や行動によって必要とする道具が異なっている。仕事で使う補助具は、勤務先で準備するのが一般的とされている。  @音声PC   使用するパソコンに、専用の画面読み上げソフトをインストールすることにより、パソコンの画面にある文字や入力操作を音声で確認することができる。このようなパソコンを音声PCと呼ぶ。視覚を使わなくてもパソコンの操作ができることから、全盲者だけでなく弱視者も利用している。  A画面拡大ソフト   文字を大きくしたり、色を変えたりして、使用する弱視者の見やすい状態に画面を変更する専用ソフト。  BOCRソフト   印刷物をスキャナーなどでパソコンに取り込み、取り込んだ画像から文字を読み取るソフト。読み取った文字は、画面読み上げソフトで読み上げさせる。  C拡大読書器   書類の文字を大きくモニターに映し出し、さらに白黒反転やコントラスト調整などを行うことで、文字などを見やすくする機械。目視をしながら文字を書くこともできる。  D視覚障害者用ルーペ(拡大鏡)   一般的なルーペよりも高倍率のものが多く、弱視者の見え方によって種類が分かれている。近年では電子ルーペと呼ばれる、拡大読書器より機能と価格を抑えた商品もある。  E遮光眼鏡   光が眩しいと感じる弱視者向けに作られた眼鏡。眩しいと感じる特定の光を効果的にカットし、それ以外の光を通すよう作られており、個人差があるがコントラストが向上し、見えやすくなる。  Fその他   一般で販売されているタブレット端末を利用する弱視者も増えている。例えば、カメラ機能や専用アプリを視覚補助具として活用する者が増えている。 (2)ジョブコーチ(職場適応援助者)  障害者の職場適応に向けて、その障害者と事業主に対して支援を行う者。障害者に対しては、職場の従業員との関わり方や、効率の良い作業の進め方などのアドバイスを行う。また、事業主に対しては、本人が力を発揮しやすい作業の提案や、障害特性を踏まえた仕事の教え方などのアドバイスを行う。 (3)産業医  従業員の健康管理のために、法律に基づき企業が選任した医師。従業員の健康相談に乗り、企業や従業員に助言をする。 (4)ロービジョンケア  視覚障害者に対して、保有視機能を最大限に活用するための方法の助言、仕事をしやすくするための情報を提供し、生活の質の向上を図ること。視覚障害者へのリハビリテーションを中心に、他機関との連携、白杖や音声パソコンなど様々な道具を使って視覚を補う方法などが含まれている。 (5)職場介助者  視覚障害者が業務遂行をするために、視覚を補うためのアシスタントをする者。独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構において職場介助者助成金制度がある。 (6)職業訓練  障害者が働くための技術を習得するための訓練。視覚障害者であれば、拡大読書器や音声PCなどの視覚補助具を使用するための訓練、さらにビジネスマナーなどの訓練もある。なお、ほとんどの訓練は費用もあまりかからずに受講ができる。働きながら受講できるものから、訓練施設に入所して長期間の訓練を要するもの、研修や休暇制度を利用するものまで様々である。本報告書53ページ記載の相談機関では、その者に適した訓練のアドバイスも行っている。 40ページ 第1項 民間企業などに就職をした弱視者 1.自己提案の必要性                      ●困っていること  周りの人に対して、自分の目の見え方や必要な支援を上手く伝えられない。 事例  弱視者においては、当事者自身が自分の見え方をきちんと表現できないことが多い。また、その当事者自身が、視覚を補う方法も知らないことも多く、受けるべき配慮を本人が把握してないことが多い。さらに、当事者はお願いすることに遠慮があり、どこまで依頼や主張をして良いか客観的判断がつかない。 ア 制度やルールを変えてほしいこと  弱視者の困り事を客観的に評価、助言、相談できる専門家が必要。例えば、視覚障害に詳しい産業医やジョブコーチなどの専門家に相談を行い、勤務先に対して一緒に支援方法の説明を行うことが効果的とされている。 イ みんなに知ってほしいこと  当事者は、自分からは言い出しにくいことも多いので、気付いたことがあれば思いやりのある声をかけてほしい。 ウ 弱視者自身が注意したいこと  周りの人に対して、自分から何をしたくて、何に困り、どうしてほしいのかを上手に伝えることが大切である。見えにくいことを自ら言わないと、周りから見えているものと思われることがあるので注意が必要。 41ページ 2.会社や同僚からの配慮・待遇                 ●困っていること  職場で障害者差別を受けている。 事例  障害者枠雇用者は、「黙ってそこにいれば」のような差別発言を受けることがある。また、障害者だからという理由で優しくしてくれる反面、難しい仕事を与えてくれないことがある。このような背景があり、結果的に部署の中にいても外に置かれてしまう。 イ みんなに知ってほしいこと  障害者の可能性を知ってもらう。全盲の弁護士など、社会の第一線で活躍している視覚障害者はたくさんいる。一方で、そういった者ばかりではなく、弱視者は時間をかけて仕事を習得する必要があることも知ってほしい。 ウ 弱視者自身が注意したいこと  実力を認めてもらえるように努力する。また、職場の同僚とのコミュニケーションを大切にして、力になれることを見つけて、積極的に協力することも大切である。 コラム 弱視者への手助けは何故進まないのか?  弱視者は困ったことがあれば、周りの同僚などから手助けをしてもらいたいと思っています。ただ、次のような背景などもあり、周りの同僚から手助けが受けられないようです。  @介助や配慮をするとお節介になると考えている節がある。  A視覚障害者に慣れてないので、どう手助けをしていいのか分からない。  これらを改善するためには「会話」が必要だと思います。些細なことでも会話をすることで相手のことが分かり、どのような手助けが必要かが分かると言われています。そのため、周りの同僚からの声かけ、また、弱視者からも積極的に声かけを行い、よい信頼関係を結ぶことが大切になります。 42ページ ●困っていること  一般職で入社した場合、集合研修において視覚障害に対する配慮が受けづらい。 事例  弱視者が研修に参加しても、その視覚を補うフォローがないため、研修自体についていけない。また、移動などを理由に研修自体に参加できないこともあるが、参加できないこと自体を補うフォローもない。 イ みんなに知ってほしいこと  社員研修など普段と違う環境の場合は、当事者と事前に打ち合わせた上で、その弱視者に見合った方法で必要な配慮を実施してほしい。例えば、配布書類をその弱視者が見やすい書類に変更したり、拡大読書器や音声PCの配置が必要になる。 ●困っていること  社内で合理的配慮が受けられないため、結果的に働ける内容に制限がかかっている。 事例  音声PCが利用できないことで、周辺業務の仕事しかできない。そのため、異動ができず、同じ部署に居続けることがある。 ア 制度やルールを変えてほしいこと  社内において、どの業務でも音声PCや画面拡大ソフト、拡大読書器などの弱視者に必要な支援機器を標準化し、さらには、人的支援(ヒューマンアシスト)も活用できるようにして、障害者の可能性を広げやすい環境を作ってほしい。 43ページ ●困っていること  病気の進行や仕事内容の変化により、専門的な訓練が必要になったが、なかなか訓練を受けることができない。 事例  音声PC訓練などは会社からの研修として受けたいが、研修として認められないケースが多い。一方で、当事者によっては、会社に知られることなく訓練を受けることを望んでいることもある。そのため、個人でも制度を利用して訓練を受けられるようにしてほしい。 ア 制度やルールを変えてほしいこと  会社から申し込む訓練は、研修扱いで参加できるようにする。また、個人でも公的制度を使い訓練を受けられるようにしてほしい。 コラム 弱視者が周りからの理解を得るには?  弱視者自身が「こうすれば見える」ということを提案することは、周りからの理解を得るために一番シンプルかつ効果的な方法とされています。そのため、弱視者でも仕事ができる環境、もしくはミスをしにくい仕組みなどを自分で作り、周りの人にお願いして協力してもらうことも大切になっています。  例@データの提供   紙で印刷された書類は見えにくいので、書類のデータで提供してもらうようにお願いした。データでもらえれば、パソコンを通して音声で確認ができる。  例A記入の工夫   書類の文字はゴシック体や太字にしてもらい、自分にとって見やすい文字にしてもらった。また、赤ペンで書くと見づらいので、書類の文字は黒マジックで書いてもらうこともお願いした。 44ページ 3.職場環境・設備                      ●困っていること  パソコンの画面が見づらくなったので、音声PCや画面拡大ソフトの導入を会社に要望したが断られてしまい、仕事ができなくなった。 事例  社内システムの更新時に、音声PCが使えるように社内システムの仕組みを変えてほしいとお願いしたが、巨額な費用がかかるので断られた。 ア 制度やルールを変えてほしいこと  音声PCや画面拡大ソフトなどが仕事で使えることは、視覚障害者の合理的配慮の基本なので、国の制度で解決を図ってほしい。また、システムメーカーは、販売するシステムなどに、音声PCや画面拡大ソフトが利用できるアクセシビリティを必ず組み込んでほしい。 ●困っていること  社内システムが一新したことで、今まで使えていた音声PCや画面拡大ソフトが使えなくってしまい、仕事ができなくなってしまった。 事例  現在の社内システムでは、シンクライアントを導入することが増えている。しかし、今まで使っていた音声PCなどが使えなくなるケースが増えており、困り事の相談が増えている。 ア 制度やルールを変えてほしいこと  国が社内システムなどのアクセシビリティの基準を作り、音声PCや画面拡大ソフトが利用できないシステムの開発を規制してほしい。 45ページ ●困っていること  職場の環境設備を整える際、視覚障害当事者の意見を聞いてもらえず、かえって仕事がしづらくなった。 事例  建物の改修などで職場環境を変更することになり、取り入れてほしいことを要望したが、意見は聞かれず、以前より仕事がしづらくなったケースがある。具体例としては、視覚障害者の社員がいるフロアーだけに点字ブロックが敷設され、その社員が他のフロアーに移動できなかったケースがあった。 ア 制度やルールを変えてほしいこと  様々な分野で、視覚障害者に対する合理的配慮の指針を作成し、発注者や業者がその合理的配慮の必要性を理解して、改修などを行うようにしてほしい。また、この仕組みが確立されるまでは、当事者に対して、計画段階で変更内容などを詳しく説明し、必要に応じて変更をするなどの配慮を行ってほしい。 イ みんなに知ってほしいこと  弱視者の見え方はそれぞれ違うことから、必要な支援方法もそれぞれ違う。そのため、必ず本人と相談して支援方法を決めてほしい。 【参考写真:音声PCを利用する視覚障害者】ヘッドフォンを使用し、入力内容などを音声で確認している。 46ページ 4.職場内の人的サポート                   ●困っていること  仕事での外出や出張の移動は、1人で移動できない場所もあり、とても不自由している。 事例  初めて行く場所への移動は不安になることが多い。そのため、1人で行くのに不安な場所へは、場合によっては、事前に休みの日などを利用して、同行援護を使って下見に行くこともある。また、小規模な会社の場合、周りの社員に同行をお願いしたいが、対応できる人がそもそもいないため、同行のお願いができないこともある。 ア 制度やルールを変えてほしいこと  仕事での移動において、同行援護を使えるようにしてほしい。 ●困っていること  職場介助者制度があるのに、実際は利用しにくい。 事例  職場介助者がいれば、書類の確認など、仕事の作業効率が良くなることが多い。ただ、社内において、自分だけが職場介助者を利用することに遠慮を感じてしまい、利用のお願いができなかったケースがある。 ア 制度やルールを変えてほしいこと  職場介助者制度をもっと利用しやすい制度にしてほしい。 ウ 弱視者自身が注意したいこと  職場介助者制度があることをもっと知る必要があり、積極的に利用する必要がある。 47ページ ●困っていること  視覚障害者に対応したジョブコーチが不足している。 事例  職場において、弱視者を含む視覚障害者が使いやすいPCやネットワーク環境を構築する際、視覚障害者がシステム担当と交渉して、根本的解決や改善を図ることは難しい。また、システム担当者の大半が、職場環境に合わせた音声PCや画面拡大ソフトの使い方が分からない。そのため、ジョブコーチが会社と当事者の間に入り、働く環境を整えるという重要な役割が期待されている。しかし、実際には的確なジョブコーチに出会えないことが多く、困難さが改善されない弱視者は大変多い。 ア 制度やルールを変えてほしいこと  国において、ジョブコーチが増えるような施策を実施してほしい。また、ジョブコーチの力量や考え方は当事者の仕事に大きな影響を与えるので、駆け込み寺的な相談窓口も必要になる。 コラム 視覚障害者の仕事「あはき師」について  視覚障害者の職業において特徴的なのは、「あん摩マッサージ指圧」「鍼(はり)」「灸(きゅう)」を生業にしている者が多いことです。これらの三つをまとめて「あはき」と呼んでおり、江戸時代から続く伝統的な職業になります。  あはき師になるには、専門機関で技術などを習得し、国家資格の取得が必要になります。そして、働く場としては、あはき専門の治療院や老人ホームなどの福祉施設、病院などに勤務したり、企業の従業員用マッサージルームにヘルスキーパーとして従事するなど、様々な形態で仕事を営んでいます。特に、あはきに従事している視覚障害者は、この仕事が「やりがいのある仕事」として誇りを持って従事する者が多く、視覚障害者にとって無くてはならない職業になります。  しかし、近年では、無資格のマッサージ業者の進出が増え、視覚障害者のあはき師を圧迫するなどの問題もあり、仕事をすることの厳しさが増している側面もあります。 48ページ 第2項 個人で仕事をしている弱視者 ●困っていること  雇用される立場から外れた個人事業主は、障害によるハンディを補う制度がない。そのため、障害者の起業の妨げの一つになっている。 事例  一般の事業者やあはきの自営業者などの事業主(経営者)は、職場介助者制度が利用できず、結果的に自己負担になっている。つまり、健常者よりも起業をすることに対して様々な負担が発生している。 ア 制度やルールを変えてほしいこと  視覚障害者の障害者事業主においても、仕事をしやすくするための様々な優遇制度がほしい。 ●困っていること  金融機関のサービスの一部は、弱視者にとって融通が効かないことがあり、困ることが多い。 事例  金融機関などでは、個人利用者への配慮は進んでいるが、個人事業主が利用するサービス(取引先への支払いなど)は配慮がないことが多く、弱視者を含む視覚障害者が困っている。 ア 制度やルールを変えてほしいこと  金融庁などから合理的配慮の徹底を指導してほしい。 49ページ 第3項 公的機関などに就職をした弱視者 ●困っていること  民間企業で使える様々な制度は公務員には利用できない。 事例  ジョブコーチ制度などは、公務員は使うことができない。また、様々な用具の貸し出し制度も民間企業向けの制度になっており、自分で必要なシステムや職場環境については別途交渉し、獲得しなければならない。しかし、職場の状況などを把握して、自ら必要な職場環境を説明することなどは大変難しく、制度利用を諦めてしまうことが多い。 ア 制度やルールを変えてほしいこと  公務員であっても、ジョブコーチ制度などを利用できるようにしてほしい。弱視者の職場定着を進める上で、とても重要なことである。 ●困っていること  公務員には職場介助者制度が整えられていない。 事例  公務員採用試験(障害者採用)においては、自力通勤、単独での業務遂行という条件が付与されており、仕事上の事務作業や移動などを単独で行うことが求められている。その点を補うために、職場介助者制度を利用したいところだが、公務員は適用外になっている。 ア 制度やルールを変えてほしいこと  公務員にも職場介助者制度を利用できるように、統一的な制度化をしてもらいたい。 ウ 弱視者自身が注意したいこと  自治体によっては、独自で事務補助や職場介助者を制度化しているところがある。それらの情報を視覚障害者団体や労働組合などから収集することが大切である。 50ページ 第4項 雇用の厳しい現状 ●困っていること  不当な扱いを受けた時に相談する場所が分からない。 事例  困った時の相談先として労働組合が有効だが、組合自体がなかったり、機能してない企業もあり、困った時の相談先がない。 ウ 弱視者自身が注意したいこと  外部の労働組合が力になってくれる場合もあるので、あきらめは禁物。また、視覚障害者の就労に強い外部の相談先もあり、有効な情報を持っているケースもある。本報告書53ページに掲載した相談機関などは有効なので、困ったことがあれば相談してほしい。 ●困っていること   重要な相談先の一つである産業医があまり機能していないケースが多く、結果的に相談ができない。 事例  視覚障害者であれば、目の状態が日々変化するので、相談先として社内にいる産業医はとても重要になっている。しかし、産業医自体が眼科医であることは少なく、眼のことをあまり知らないケースもあり、期待するアドバイスや解決策を講じてもらえない。 ア 制度やルールを変えてほしいこと  企業の産業医のほかに第三者的産業医がいると良い。産業医の指導がその視覚障害者の職場環境を良くも悪くもするので、第三者機関がほしい。 51ページ コラム 契約社員の雇い止めについて  契約社員として入社して5年を過ぎると契約期間がなくなり、継続して働ける法律(改正労働契約法)ができました。その一方で、入社5年になる前に契約を打ち切ること、いわゆる「雇い止め」をする企業が増えています。  仕事に誇りを持って従事すると、仕事のパフォーマンスをこれからもあげることや、職場の同僚との良好な人間関係があることで、5年を超えても働き続けたいと思うのは、誰でも同じです。ところが、それを避けるために5年を超える前に契約を打ち切る企業が出てきているのが実情です。  これは、弱視者を含む障害者にとっては、現実に起こっている問題です。そのため、弱視者自身も注意をする必要があります。  例えば、契約更新の面接の際に、盲導犬を使おうと思っていると相談したことをきっかけに、契約を打ち切った場合、障害者差別解消法に抵触し、更新拒絶は無効になる可能性があります。この場合は、弁護士など専門家に相談してみま  しょう。また、契約打ち切りの理由をよく確認することや、雇い止め理由書を提出してもらうことが大切になります。 52ページ 第5項 雇用を支える相談支援 ●困っていること  仕事を続ける上で便利な制度があることを知らなかった。また、周りの人も制度を知らず、制度を利用するまで時間がかかった。 事例  視覚障害者の生活を支えるための様々な制度や支援の情報を持ち、その情報などを視覚障害者へ紹介する施設などが少ないため、情報が周知されていない実情がある。また、視覚障害者自身が、相談やバックアップ、訓練してくれる施設を探すことは難しく、周りも知らないことが多いため、結果的に制度まで辿りつけないことが多い。 ア 制度やルールを変えてほしいこと  全ての視覚障害者に有効な情報を一元化し、必要な者に情報提供をする仕組みが求められている。特に、視覚障害者の就労に特化した機関は、全国各地に作られることが求められる。 ●困っていること  病院で「目は治らない」と言われた。これからの人生をどうやって歩んでいくかが分からなくなり、生きることが辛くなった。 事例  診療を受けている眼科によっては「眼はもう治りません」と診断するだけで、必要とされるロービジョンケアなどに繋げないケースが多い。このような体験をした弱視者の多くは、絶望し、孤立する恐れがある。 ア 制度やルールを変えてほしいこと  眼科医は、視覚障害になった患者をロービジョンケアに繋ぐことを徹底してほしい。特に、一部の地域ではワンストップサービスを実現するために、医療従事者や視覚障害者の専門機関などが集まったスマートサイト(ロービジョンネットワーク)が作られており、視覚障害者への情報提供手段・支援体制として有効とされている。 53ページ コラム 相談は悩み事解決の近道!  視覚障害者に係わる悩み事は多岐にわたります。それは、日々の生活の中での悩みや目の見え方など、人によって様々な悩みを抱えています。ただ、そのような悩みは、他の人に相談しづらいことが多いと言われています。  その一つは「仕事」に関する悩みです。仕事の悩みは、一般企業の中で働いている視覚障害者、特に職場で自らが視覚障害者であることを隠している弱視者には特に多いと言われています。なぜなら、悩み事を周りに打ち明けることは、自分に目の障害があることを伝えることになるので、目が悪いことを理由に、仕事に悪影響が出ると思い、中々言えない実情があるようです。そして、そのような悩みを抱えたまま、さらに目の状態が悪化したことで、自ら仕事を辞めてしまうケースもあるとも言われています。  では、どのように解決をしたら良いのでしょうか。その解決策の一つが「相談」になります。  例えば、相談先の一つとして、どのようにしたら仕事を辞めずにすむか、どうしたら仕事ができるのかをアドバイスしてくれる機関があります。その機関では、実際に同じ経験をした視覚障害者達が、同じ目線で相談にのり、解決策などを教えてくれます。弱視者の方で、もし仕事や日々の生活のことで悩みがあれば、次の機関への相談するのはいかがでしょうか。 【就労に関する相談機関】 社会福祉法人 日本盲人会連合 総合相談室 電話 03−3200−0011 認定NPO法人 タートル 電話 03−3351−3208