1ページ 第1章 はじめに 3ページ 1.報告書の発行によせて            私自身は、全盲であるため、弱視者(ロービジョン)の方の抱える問題や要求をあまり理解していませんでした。全盲と弱視を単純に比べて、全盲の方が重度であり、日常生活や社会生活に大きな困難を抱えていると思ってもいました。視覚障害者福祉の充実に取り組んできたという自負はありますが、実際には弱視者に対する問題は意識からも抜け落ちることが多かったのも事実です。  日本盲人会連合は、毎年のように運動方針の1つとして弱視問題を掲げてきましたが、十分な取り組みはできていませんでした。単発的に議論をしたり、関係機関に対する陳情項目のいくつかに弱視者に対する支援を含めてきた程度でしかありませんでした。  ようやく3年前から、継続的に弱視問題を考えるため、年間を通して弱視の方々にお集まりいただき、日頃から感じていることやそれぞれの工夫などを出してもらい、弱視問題を基本に立ち返って考えてみることにしました。弱視ゆえに抱えている問題は、全盲とは全く異質な形であって、個人差が大きく千差万別であることや、時には全盲に対する理解よりも弱視に対する理解の方が困難であり、本人自身でさえ、眼科医や周囲の人に自らの見え方、あるいはハンディを的確に説明しづらいことが多々あるということも分かりました。  そこで、日本盲人会連合として、弱視者に対する理解を広め、今後の取り組みを組織的に行うための出発点となる報告書の作成を行うことにしました。今後、この報告書を基礎として、日本盲人会連合の取り組みを継続的かつ系統的に行うための組織作りを考えたいと決意しています。  平成30年12月  社会福祉法人日本盲人会連合  会長 竹下 義樹 4ページ 2.報告書の目的                日本盲人会連合(以下、本連合)は、視覚障害者の生活が向上するための様々な働きかけを行う視覚障害者の全国組織になり、日本各地の視覚障害者からの要望を集約し、国や関係機関への働きかけを行っている。  その中で、ここ数年、弱視者からの要望が目立ち、制度の改善や見やすさの改善などの働きかけを行うことが増えてきている。特に、2020年の東京オリンピック・パラリンピックを前に、移動や情報のさらなるバリアフリー化を求める中では、弱視者からの切実な改善要望が多く、弱視者対策が本連合の最重要課題の1つとなっている。  しかし、弱視者は人によって見え方や行動が大きく異なることから、全ての弱視者の要望をまとめることが難しく、国や関係機関に対して明確な働きかけができないことがあった。また、本連合自体も、弱視者の多様性について十分に理解していない部分もあったことから、弱視者のことを深く理解する必要にも迫られていた。  そこで、本連合が弱視者のことをもっと深く理解し、弱視者の要望を国などへ的確に働きかけを行うために平成27年12月「弱視に関する懇談会」を開催することとなった。  懇談会では、開催ごとにテーマを設け、弱視者が日々感じている困り事や悩み、改善してほしい内容などを、自身の失敗談や成功例を交えて、自由に意見交換を行った。懇談会は、平成30年11月までに計15回開催し、様々な意見や要望を得ることができた。  そして、懇談会で得られた意見や要望をまとめたものが、本報告書になる。報告書においては、懇談会の開催を通して判明した2つの問題点を踏まえて、編纂を行った。  1点目は、弱視者の困り事は社会ではあまり理解をされてないことである。懇談会では、弱視者の見え方・行動が多種多様なことから、身の回りでその見え方や行動などが理解されず、結果的に困難な状況に陥っていることが指摘された。しかし、どの困難さも弱視者の見え方・行動が周りに理解されれば解決することが多く、弱視者の困り事への理解をどのように進めるかが課題となることが分かった。  2点目は、弱視者の見え方や行動が人によって大きく異なることから、弱視者という存在を分かりやすくまとめることができなかったため、結果的に弱視者の困り事を理解する環境が生まれなかったことである。それは、社会に対して弱視者という存在を上手に紹介できなかったことを意味している。そのため、弱視者の困り事などを分かりやすく整理して、情報発信をすることも課題であることが分かった。  本報告書では、懇談会を通して得られた弱視者の困り事などを整理し、弱視者という存在を分かりやすく紹介することで、前述した2点の問題点の解決を目指して編纂を行った。本報告書を通して、弱視者の困り事への理解がさらに進むことを切望する。 6ページ 3.報告書の構成               (1)各章について  @第2章 弱視者について   見え方や生活環境の異なる弱視者に対して、見え方や困り事に関する共通質問を行い、得られた回答を掲載した。  A第3章 弱視者の日常について   懇談会で意見交換された内容を「移動全般」「仕事」「生活(買い物・契約)」に分類し、困り事の実例とその改善策や要望を整理して掲載を行った。なお、改善策については、「ア 制度やルールを変えてほしいこと」「イ みんなに知ってほしいこと」「ウ 弱視者自身が注意したいこと」の3類型に整理した。   また、困り事を解決するために有効と思われる事例などは、コラムとして掲載を行った。 (2)本報告書の書体、文字サイズについて  本報告書は弱視者の見やすさに配慮して、懇談会で検討をした以下の掲載ルールに従って編集を行った。なお、この書体などが全ての弱視者にとって必ずしも読みやすいものとは断定できない  ・タイトル    ゴシック体、26又は20ポイント、太字  ・本文      ゴシック体、14ポイント、太字  ・数字      全角      ・アルファベット 略語は全角、略語以外は半角  ※備考 ゴシック体について     本報告書で用いたゴシック体は、懇談会に参加をした弱視当事者に数パターンの字体を確認していただいた結果、一番見やすいと判断された内容を採用した。 (3)墨字版以外の発行物について  本報告書は墨字版の他に、以下の内容を発行する予定となっている。それぞれの発行物は、完成後、本連合のホームページ(http://nichimou.org/)にて掲載を行う。  ・拡大文字版  ・点字版  ・テキスト版  ・デイジー版 7ページ 4.弱視者に係わる用語と背景         (1)弱視・弱視者・ロービジョン  弱視(ロービジョン)とは、視力が低くメガネやコンタクトレンズによる矯正ができない、視野が狭い(視野狭窄)・視野の中心が見えづらい(中心暗点)・まぶしいのが苦手(羞明)・暗いのが苦手(夜盲)のために日常生活や職場などで不便を感じる状態を指す言葉になる。また、弱視の状態にある人を弱視者(ロービジョン)と呼ぶ。  弱視者の見えづらさは千差万別で、一人の弱視者でも天候や時間帯、部屋の明るさ、本人の疲労などにより見えづらさが変わることもある。  なお、本報告書では、これらの状態の者を「弱視者」と記載する。 (2)弱視者の人数と割合  日本では身体障害者として認定されると身体障害者手帳が交付される。厚生労働省「平成28年生活のしづらさなどに関する調査(全国在宅障害児・者等実態調査)結果」(※1)によると、視覚障害者として手帳を交付されている人の数は31万2000人となっている。そのうち、全盲を含む最重度の1級の人は11万9000人、弱視者とされる2級〜6級の人は19万3000人で、少なくとも約62%が弱視者となっている。  また、日本眼科医会が2009年に発表した資料「視覚障害がもたらす社会損失額、8.8兆円!!」(※2)によると、良い方の目の矯正視力が0.1より高く0.5未満の人(この資料ではこれを「ロービジョン」と定義している)は144万9000人、0.1以下の人が18万8000人と推計されており、この資料においては約88%が「ロービジョン」ということになる。 (※1)出典情報 http://www.mhlw.go.jp/toukei/list/dl/seikatsu_chousa_c_h28.pdf (※2)出典情報 http://www.gankaikai.or.jp/press/20091115_socialcost.pdf