表紙 わが国の視覚障害者の将来 〜将来ビジョン検討委員会 報告書〜 社会福祉法人 日本盲人会連合 2019年(平成31年)3月 目 次 はじめに 1ページ 1 報告書の発行によせて 3ページ 2 報告書について 4ページ 第1編 わが国の視覚障害者と日盲連 5ページ 第1章 わが国の視覚障害者 7ページ 第2章 視覚障害者に係わる法律 12ページ 第3章 日本盲人会連合(日盲連) 16ページ 第2編 各分野における将来ビジョン 21ページ 第1章 政治への参加 23ページ  第1節 選挙権を中心とした参政権の保障 24ページ  第2節 被選挙権を含む政治活動の保障 26ページ 第2章 職業と所得保障 27ページ  第1節 あはき 28ページ  第2節 音楽家 30ページ  第3節 様々な一般職の開拓とその支援 33ページ  第4節 障害年金(障害者年金) 35ページ  第5節 生活保護 36ページ 第3章 教育・リハビリテーション 37ページ  第1節 視覚障害者の教育 38ページ  第2節 高等教育 42ページ  第3節 障害児の保育 44ページ  第4節 中途視覚障害者の教育・リハビリテーション 46ページ 第4章 情報保障 49ページ  第1節 代筆・代読支援 50ページ  第2節 情報アクセス支援 52ページ  第3節 情報機器の発達 54ページ  第4節 読書保障 57ページ 第5章 外出保障 61ページ  第1節 同行援護・移動支援の利用と拡充 62ページ  第2節 歩行訓練 65ページ  第3節 盲導犬 67ページ  第4節 環境整備と新技術への可能性 69ページ 第6章 地域生活 73ページ  第1節 住宅 74ページ  第2節 結婚 75ページ  第3節 地元社会との繋がり 77ページ  第4節 一人暮らし 79ページ  第5節 消費生活 80ページ  第6節 家庭生活 83ページ  第7節 社会貢献活動 84ページ 第7章 権利擁護 85ページ  第1節 裁判を受ける権利 86ページ  第2節 成年後見制度の利用 87ページ  第3節 契約の締結 89ページ  第4節 虐待や差別を受けた場合の救済 90ページ  第5節 防犯 91ページ 第8章 医療・健康 93ページ  第1節 医療を受ける機会の保障 94ページ  第2節 健康増進 96ページ  第3節 視覚障害予防 97ページ 第9章 高齢者 99ページ  第1節 在宅介護 100ページ  第2節 老人ホーム 102ページ  第3節 生きがい対策 104ページ 第10章 女性 107ページ  第1節 複合差別 108ページ  第2節 セクシャルハラスメント 110ページ  第3節 子育て支援 111ページ 第11章 生活支援用具・共用品 113ページ  第1節 日常生活用具・補装具 114ページ  第2節 一般商品のユニバーサルデザイン 115ページ 第12章 余暇活動 117ページ  第1節 スポーツ 118ページ  第2節 文化・芸術 120ページ  第3節 旅行 122ページ 第13章 防災・減災意識 125ページ 第14章 障害の理解と啓発 129ページ 第15章 国際交流 133ページ 第16章 終わりにあたって 137ページ 資料集 141ページ 1 日本盲人会連合について 143ページ 2 結成70周年記念シンポジウム 148ページ 3 委員名簿、執筆者名簿 152ページ 4 将来ビジョン検討委員会 開催履歴 153ページ 1ページ はじめに  3ページ 1 報告書の発行によせて − 将来ビジョン検討委員会の設置と本報告書の目的 −  日本盲人会連合(以下、本連合)は、1948年(昭和23年)8月に結成され、70年間にわたり団結力を強化し、視覚障害福祉の先導役を務めてきました。これまで、毎年の全国盲人福祉大会の開催を通して各地の声を集約し、国や関係団体に対して問題解決のための陳情活動を行ってきました。私たちの声が政治を動かし、国の制度を発展させ、視覚障害者の自立と社会参加を一歩ずつ前進させてきました。  しかし、長年にわたり繰り返し陳情をしても、未だ実現していない課題も数多く残っています。時には、陳情活動が無意味ではないかという声や要求項目に優劣をつけるべきではないかなどの声もあります。ただし、大会に寄せられた声は、どれも重要なものばかりで、視覚障害者にとっての永久の課題である「安全安心の実現」と「情報保障」を求めており、おろそかにできないものばかりです。  そこで、本連合では、2013年(平成25年)に将来ビジョン検討委員会を立ち上げ、原点に立ち返り、視覚障害者を取り巻く現状や課題を総合的・系統的に整理し、分析することにしました。そして、約5年間にわたる議論を重ねた結果、結成70周年の記念事業として、私たちが目指す社会を実現するためのマスタープランともいうべきビジョンを提示した報告書を作成しました。報告書の本編にあたる「第2編 各分野における将来ビジョン」では、私たちの関わりのある全分野を全16章に分け、現状、そして目指すべき到達目標と具体的方策を整理し、本連合の活動におけるマスタープランとして位置付けた内容になっております。  今後、本連合は、報告書で示した課題をどのような手法で実現するかを問われることになります。もちろん、この報告書で示したビジョンは決して固定的なものではありません。認識の相違や時代の変遷に即して修正すべきものは修正するとともに、追加すべき課題があればそれを追加し、より鮮度の高いマスタープランにしていかなければなりません。その結果、来たるべき結成80周年記念の年には、どのような社会が実現しているかが問われることになります。10年を一つの単位として、どこまで達成できるかを点検し、その実現を目指し、運動を展開していきたいと思います。 2019年(平成31年)3月 社会福祉法人日本盲人会連合 会長 竹下 義樹 4ページ 2 報告書について 1.報告書の書体、文字サイズについて  報告書は弱視者の見やすさに配慮して、以下の掲載ルールに従って編集を行った。なお、この書体などが全ての弱視者にとって必ず読みやすいものとは断定ない。  ・タイトル    ゴシック体、26または20ポイント、太字  ・本文      ゴシック体、14ポイント、太字  ・数字      全角      ・アルファベット 略語は全角、略語以外は半角 2.報告書で使用する文言について  報告書では、複数の文言がある名称・事柄は、一部の例外を除き以下の文言に統一して掲載を行った。  ・本連合    本文中において日本盲人会連合(日盲連)とするもの。  ・弱視者    視機能が弱く、矯正もできないが全盲ではない視覚障害にある者。ロービジョンとも呼ばれている。  ・視覚特別支援学校    視覚障害者への教育に特化した学校。盲学校、視覚支援学校とも呼ばれている。  ・一般校    地域に点在する一般的な学校で、通常学級と呼ぶこともある。視覚特別支援学校と異なる学校であることを表すため、報告書ではこの文言とする。 3.墨字版以外の発行物について  報告書は墨字版の他に、以下の内容を発行する予定となっている。それぞれの発行物は、完成後、本連合のホームページ(http://nichimou.org/)にて掲載を行う。  ・テキスト版  ・点字版  ・デイジー版  ・拡大文字版 5ページ 第1編 わが国の視覚障害者と日盲連 7ページ 第1章 わが国の視覚障害者 1.視覚障害の定義  わが国では、身体障害者福祉法に基づき1級から6級の障害認定を受け、身体障害者手帳の交付を受けた者を視覚障害者としている。視覚障害は、視力障害と視野障害に分けられる。視力等級は、最も適正なレンズを装着して測定した矯正視力によって判定する。例えば最も軽い6級の視力障害は、良い方の眼の矯正視力が0.3以上0.6以下で他眼の矯正視力が0.02以下となっている。視野測定には、ゴールドマン視野計ないしは自動視野計のうちいずれかを用いる。ゴールドマン視野計は視野の角度を求めるもの、自動視野計では両眼開放エスターマンテストと10−2プログラムの双方で測定し、視認できた点数を数える。例えば4級の場合、前者では周辺視野角度の総和が左右眼それぞれ80度以下となる。もう一つでは、両眼開放視認点数が70点以下となっている。  現在、身体障害者手帳を所持している視覚障害者は、31万2千人とされている(※1)。一方、日本眼科医会は、アメリカの視覚障害の基準である良い方の目の視力が0.5未満の者は、わが国には164万人はいると推計している(※2)。このように、実際には目の不自由さを感じている者が大変多いと考えられている。 2.全盲と弱視(ロービジョン)  全盲とは、全く物が見えず光も感じない状態である。それ以外の状態が弱視である。全盲ではなくとも、それに近い状態であれば社会生活を送るにはとても不自由である。弱視は、眼疾患などにより視力などが回復しないほどの障害を受け、日常生活などに支障をきたしている状態である。  全盲者・弱視者の不自由さを軽減するために、歩行などのリハビリテーションを受けやすくする方策が必要である。生活地域で受けたい時に受けられることが理想であるが、現実は必ずしもそうではない。生活地域の近くに視覚障害リハビリテーションが可能な機関や人材は多くない(※3)。この状況は、障害者権利条約が求めている居住地域での早期リハビリテーションと違いがあるため、解消する必要がある。 3.見え具合  まず、弱視者の見え方にはいろいろある。視力障害は、矯正眼鏡を用いても低視力の状態である。視野障害は、見えている範囲である視野に障害を来した状態である。視野障害には、求心性視野狭窄、中心暗点など見え方に違いがある。眼球には、眼底に中心窩という視力が最も高い部位がある。周囲から視野が欠損していき中心窩のあたりが保たれている状態が求心性視野狭窄で、比較的視力は高い。一方、中心暗点は中心窩のあたりが障害された状態で、周辺視野はある程度保たれているが視力は低い。周辺視野での物の認識がある程度可能なため大きな物については比較的分かりやすい。慣れた道などは歩けるが、低視力のため文字を読むには大きく拡大する必要がある。  なお、多くの晴眼者は「視覚障害者は全盲」と捉えている傾向がある。2016年(平成28年)の厚生労働省の調査(※1)では1級の視覚障害者は38.1%になる。仮に身体障害者手帳1級の者を全盲だとすると、それ以外の等級は約61.9%であるため全盲者は少ない。全盲者は少なく弱視者が多いこと、そして、その見え方も様々であることを晴眼者に周知する必要がある。  また、弱視者のニーズを明確にし、それを公表し、社会にアピールすることも必要である。本連合がまとめた「弱視に関する懇談会・報告書」(※4)や当事者団体がまとめている資料の収集、あるいは本連合が行った調査研究の結果などを基にした集大成も試みられるべきである。  さらに、視覚障害者の中では、身体障害者手帳に該当せずとも見えづらさを感じている者も多い。先述したように日本眼科医会の調査結果では、アメリカの視覚障害の基準である良い方の目の視力が0.5未満の者は、わが国には164万人はいると推計している(※2)。さらに、片眼や眼球使用困難者、羞明、色覚障害などを有している者も存在している。見えづらさによる不自由さを来している者たちのニーズの把握や支援の在り方も検討されるべきである。 4.中途視覚障害者  現在、日本は超高齢社会となっている。視覚障害者の場合、68.9%が65歳以上である(※5)。他の身体障害者も同様に60%代後半から70%代後半である。身体障害者の場合は、高齢者の割合が非常に高いことが分かる。以上から、中途視覚障害者が多く、高齢時での受障が予想される。  視覚障害は情報障害とも言われている。そのため、中途視覚障害者に対する情報保障が最重要課題である。視覚障害者がどのような自立生活を送っているかを知り、現に存在するリハビリテーションや支援策などの福祉制度、相談機関での相談業務など確実に提供することが必要不可欠である。本連合の2016年(平成28年)の調査結果(※6)によっても、中途視覚障害者が5年以上にわたって福祉制度(補装具や日常生活用具など)を知らなかったと述べている。特に高齢中途視覚障害者の場合は、情報が行き届いていない可能性が高い。情報提供の方策の検討をすべきである。  また、眼科医療との連携強化も課題である。日本各地で眼科医が中心となり、日本版のスマートサイトが作成されている。それには、相談窓口や訓練施設などの情報が書かれている。眼科医は視覚障害の患者にそのパンフレットを渡し、患者はそこに書かれた窓口に直接連絡を取って相談するというものであり、現在、多くの都道府県で実施されている。スマートサイト(ロービジョンケアネットワーク)が進展し、窓口への相談が増えると、日常生活用具や補装具、リハビリテーションなどの情報不足が解消に向かうであろう。眼科医療との連携も強化すべきである。 5.重複障害者  視覚障害者の中には、他の障害も併せ持つ者もいる。施設などを利用している視覚障害者のうち、高齢者施設以外の施設では知的障害が最多で、高齢者施設では聴覚障害であった(※7)。視覚障害と聴覚障害のある盲ろう者に関する全国調査(※8)では、盲ろう者数は13,952人であった。障害程度別の割合は、高い順に視覚障害の1級が28.0%、2級が27.3%、聴覚障害は6級が34.9%、2級が22.2%となっていた。これらの調査によると外出時の安全性、外来者を知らせるチャイムや電話の音に気づきにくいなど日常生活面での不自由さ、選挙立候補者について情報が得にくいなど権利面でも不自由さを感じている者もいた。  これらの視覚障害と他の障害を併せ持つ者については、重複障害者一般を論ずるのではなく、視覚障害を伴う重複障害者に特有なニーズの把握が必要である。聴覚障害や知的障害などのある者が、情報入手の中心をなす視覚に障害をもつことによって生ずる発達の困難さ、日常生活及び社会生活における困難さ、重複障害の発生順によるニーズの違いなど、具体的な調査が必要である。 6.視覚障害の社会モデル  わが国においては、一定の視力障害や視野障害のある者を身体障害者福祉法に基づく視覚障害者と認定している。しかし、前述のように、視覚障害によって日常生活や社会生活に支障のある者は、手帳交付の対象者に限定されるものではない。アメリカのように自動車免許の取得が不可とされている良い方の視力が0.5未満の者、片眼の者、羞明や眼球使用困難者など特別なニーズのある者についてその症状や社会生活・日常生活、就労などにおける困難さを調査し、その結果により視覚障害者としての位置付けや判定基準を検討すべきである。それにより障害者権利条約の視点に立って障害者を定義づけることができ、社会の在り方を検討する上でも、このような枠組みを法的制度によって明確にすることが必要である。  そのためには、医学的な根拠と社会生活・日常生活などにおける困難さを加味したものをベースに、福祉サービス提供の基となる視覚障害の認定基準が作成されるべきである。その際は、WHO基準を参考にするほか、国際基準となっているFVS(※9)などが検討されるべきである。  さらには、上述のように、各年代別視覚障害者や重複障害者の日常生活ないし社会生活などの状況調査を行い、結果により対策を検討すべきであろう。 7.参考資料 (※1)厚生労働省社会・援護局障害保健福祉部「平成28年生活のしづらさなどに関する調査(全国在宅障害児・者等実態調査)結果」 2018年(平成30年) https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/seikatsu_chousa_h28.html. (※2)公益社団法人日本眼科医会「日本における視覚障害の社会的コスト」 2009年(平成21年) https://www.gankaikai.or.jp/info/kenkyu/2006-2008kenkyu.pdf (※3)社会福祉法人日本ライトハウス養成部「視覚障害者の生活訓練実施機関の現状」 2018年(平成30年) http://www.lighthouse.or.jp/yosei/yoseibu.html#kikan. (※4)社会福祉法人日本盲人会連合「見えづらい・見えにくい人のくらし 弱視に関する懇談会 報告書」 2018年(平成30年) http://nichimou.org/all/news/secretariat-news/190122-jimu/ (※5)(※1)の資料を基に算出をした。 (※6)社会福祉法人日本盲人会連合「読み書きが困難な弱視(ロービジョン)者の支援の在り方に関する調査研究事業」 2016年(平成28年) http://nichimou.org/all/news/secretariat-news/170327-jimu/ (※7)中西勉、清水朋美、林知茂、遠藤律子「全国の障害者支援施設等を利用している視覚障害者の眼疾患や視機能について」 2017年(平成29年) http://www.rehab.go.jp/achievements/japanese/34th/19.pdf. (※8)全国盲ろう者協会「厚生労働省 平成24年度障害者総合福祉推進事業 盲ろう者に関する実態調査報告書」 2013年(平成25年) http://www.jdba.or.jp/db/report/h24/h24-mourou-singleyears-zittai.pdf. (※9)FVS:Functional Vision Scoreの略。米国医学会が推奨する視覚障害の評価法。視力と視野を統合してスコア化ができ、QOLと関連づけた評価ができるとされている。 12ページ 第2章 視覚障害者に係わる法律 1.現状  視覚障害者に密接に関係する法律としては、以下のようなものを挙げることができる。まずは法律の現状を概観する。 (1)障害者権利条約  日本は2014年(平成26年)に障害者権利条約を批准し、世界で141番目の締約国となった。  この条約では、障害者の人権及び基本的自由の保障、個人の尊重を目的とし、締約国が講ずべき様々な施策が定められている。 (2)障害者基本法  この法律は、障害者の自立及び社会参加の支援などの施策の基本的理念、国及び地方公共団体の責務、施策の基本となる事項を定める法律である。  近年の改正では、2011年(平成23年)に、社会モデルに立脚し障害者の範囲が拡大され、合理的配慮の義務付けの規定が盛り込まれた。 (3)障害者差別解消法  障害の有無によって分け隔てられることなく、相互に人格と個性を尊重し合いながら共生することのできる社会を実現することを目的に、行政機関及び民間事業者に対して障害を理由とする不当な差別的取り扱いを禁止し、障害者に対する合理的配慮提供義務を定めた法律。2016年(平成28年)4月に施行された。  もっとも、規定の文言上、間接差別を十分に規制できないのではないかとの疑問が投げかけられており、さらに、民間事業者の合理的配慮が努力義務とされていることから、実効性に疑問があるとされている。さらに、実際に差別などが起こった場合の相談体制、紛争解決の仕組みが未整備であり、法施行後も、差別を受けても泣き寝入りを強いられるケースが少なくない。 (4)障害者虐待防止法  障害者に対する虐待を、身体的虐待、精神的虐待、性的虐待、ネグレクト、経済的虐待と分けて定義し、家族、擁護者、福祉施設職員、障害者の雇い主に対して虐待を禁止する法律。2012年(平成24年)10月に施行された。同法では、市町村虐待防止センター、都道府県権利擁護センターの設置が義務付けられ、相談、権利擁護に当たるとされている。  課題としては、学校及び病院という最も虐待が起こりやすい構造にある場が同法の対象外とされていることである。 (5)障害者雇用促進法  従来、法定雇用率制度、納付金制度、特例子会社制度による障害者雇用の拡大を図るというのが同法の主要な内容であったが、2016年(平成28年)4月より、雇用における障害者への差別禁止、事業者による合理的配慮提供の義務付けの規定が盛り込まれた。  課題は、法定雇用率制度が、単なる数合わせになってしまい、実際に雇用されたとしても、やりがいをもって働けていない視覚障害者が少なくないこと、雇用主に合理的配慮の考えが浸透しておらず、適切な配慮を受けられない視覚障害者が少なくないことである。 (6)身体障害者福祉法  身体障害者手帳の交付など、身体障害者に対する福祉制度の基本となる法律。  課題としては、現在の視力や視野を基準に視覚障害を認定する方法では障害等級に該当しないが、瞼のけいれんなどにより、実生活で大きな支障を感じている眼科疾患の患者がおり、これらの者が福祉サービスの基本となる障害者手帳を取得できないことがある。 (7)障害者総合支援法  同行援護や家事援助など、障害者の福祉サービス給付の根拠となる法律。  課題は、いわゆる65歳問題(65歳を過ぎると居宅介護のサービスの切り下げが起こったり、自己負担の増加が起こるという問題)、同行援護のサービス時間数の不足、サービス提供事業者が都市部に偏在しており地方では自分の望むサービスが十分に受けられないことなどがある。 (8)バリアフリー新法  交通機関や不特定多数の者が使用する建物のバリアフリー化を促進することを定めた法律。具体的な基準は同法に基づいて作成されるガイドラインで規定されている。  課題としては、バリアフリー新法に該当しない小規模な駅のバリアフリーが遅れていることがある。また、あくまで行政法規であるため、同法を根拠に、視覚障害者が行政や事業者に対し個別の交差点などに視覚障害者誘導用ブロック、音響式信号機、エスコートゾーンの設置を要求することはできないことも課題である。 (9)身体障害者補助犬法  行政機関や事業者に対し、盲導犬などの補助犬の交通機関や宿泊施設、飲食店などへの同伴を拒んではならないと定めた法律。  しかし、依然として飲食店などにおける入店拒否は後を絶たず、法律の実効性に疑問が投げかけられている。 (10)マラケシュ条約(著作権法の改正)  この条約は、2013年(平成25年)にWIPO(世界知的所有権機関)で採択され、日本は2018年(平成30年)4月に国会で承認し、10月1日から締約国になった。同条約は、点訳・音訳、テキストデータ化などを著作権者に無許諾で行えるよう権利制限規定を設けること、点訳図書などを国境を超えてやりとりする制度を整備することなどを求める条約である。わが国では、同年5月の著作権法の改正によって視覚障害者以外の読書困難者にも電子図書が利用できるようになった。  しかし、サピエ図書館、公共図書館、国会図書館、学校図書館などのネットワーク化は不十分であったり、出版図書のテキストデータなどの利用、さらにはそのテキストデータによって点訳、音訳、拡大文字化などの拡大も求められている。そのため、本連合では、これらの課題を解決するために読書バリアフリー法(仮称)の制定を求める運動を行っている。 2.法律のあるべき姿  「Nothing us without us.(私たち抜きに私たちのことを決めるな)」や障害者に対するあらゆる差別の禁止など、障害者権利条約の理念を国政の隅々にまで行き渡らせる必要がある。  そのため、視覚障害者が尊厳をもって生活できるように、法制度を整備するよう運動を行うことが求められる。上述した各法律の課題について、新たな立法や法律改正を含め、次のように積極的な社会的政治的運動を行うべきである。 (1)短期の方策  障害者権利条約の完全履行を実現するため、視覚障害者の視点から、現在、JDF(日本障害フォーラム)が中心となって進めている政府報告書に対するパラレルレポート作成に積極的に関与する。  また、現在、政府の各審議会などに本連合の役員が出席しているが、本連合として、政策全般にわたる理解を深め、政策提案ができる常設的なシンクタンクを設置するべきである。 (2)長期の方策  いわゆるパリ原則に則った政府から独立した国内人権機関の設置を求め、国会議員などに働きかけを行う。 16ページ 第3章 日本盲人会連合(日盲連) 1.日本盲人会連合の歩み  日本盲人会連合(以下、本連合)は、「盲人の文化的、経済的向上と社会的地位の躍進を図り、進んで平和日本建設のため、真に人道的使命に立脚し、社会公共のために寄与せん」とする理想を掲げ、1948年(昭和23年)8月18日に結成した。結成大会は、大阪府下、南海電鉄沿線二色の浜(にしきのはま)の海浜砂丘に立つ大阪府海洋道場において開催し、全国9地域の盲人団体と盲人施設の代表70余人が集い、本連合が結成された。初代会長に大会発起人代表を努めた岩橋武夫氏が就任し、本部事務所を大阪のライトハウス内に置いた。  以降、1955年(昭和30年)に鳥居篤治郎氏、1963年(昭和38年)に金成甚五郎氏、1972年(昭和47年)に高尾正徳氏、1980年(昭和55年)に村谷昌弘氏、2000年(平成12年)に笹川吉彦氏が会長に選任され、2012年(平成24年)より竹下義樹氏が7代目会長を努めている。  結成大会で決められた定款は、6章35条からなり、その組織は各都道府県の盲人団体と盲人施設などが加入できるものとし、目的は、本連合を組織する各団体間の連絡融和を図り、盲人文化の向上と盲人福祉の達成に貢献することとし、社団法人化を目標とした。  当時の本連合は、社会福祉施設も会員として加入していた。しかし、視覚障害者自身の団体と視覚障害者のための援護団体とはその性格が異なることから、それぞれが分離・独立して発展した方が視覚障害者の福祉拡充に良いと判断され、1953年(昭和28年)に日本盲人社会福祉施設協議会(以下、日盲社協)が本連合から分離し独立した。  1964年(昭和39年)、本部事務局を大阪から東京に移し、当時の東京ヘレン・ケラー会館の事務所を借りた。その後、1966年(昭和41年)に、旧日本盲人福祉センターがあった国鉄東京鉄道管理局職員宿舎「銀嶺荘」の買収を前提とした賃貸契約を結び、建物の内部改造工事に着手。3月に竣工し、点字出版事業、更生相談事業、盲人用具斡旋販売事業を開始した。そして、1970年(昭和45年)に建物取り壊しと旧日本盲人福祉センター建設に着手し、建設計画を決議してから8年が経った翌1971年(昭和46年)5月に地下1階地上3階建ての施設が竣工落成した。  また、1966年(昭和41年)6月に、本連合は厚生大臣から障害者団体として初めての法人格取得となる社会福祉法人の認可を受け、名実ともに任意団体から法人格を持った団体に脱皮し、今日の基礎を築いた。  旧センター落成から30余年が経過した2003年(平成15年)、事業の発展により施設は狭隘となり、建物の老朽化も進み耐震性にも問題があったことから、2004年(平成16年)からセンター移転の検討が始まり、2007年(平成19年)8月より建設着手、2008年(平成20年)5月に旧センターの2倍の敷地に、1.5倍の鉄筋3階建ての現日本盲人福祉センターが完成し、視覚障害児・者の新たな福祉活動の拠点として存在している。  本連合の歩みを振り返ると、視覚障害者の自立と社会参加の向上のための活動が中心であり、1949年(昭和24年)の身体障害者福祉法成立、1964年(昭和39年)のあん摩マツサージ指圧師、はり師、きゆう師等に関する法律の改正、1986年(昭和61年)の障害基礎年金制度実施、1993年(平成5年)の国連アジア太平洋障害者の10年の実施などを実現させてきた。また、交通問題、災害対策、雇用問題をはじめとする諸問題にも積極的に取り組んできた。そして、現在も、全国61の都道府県・政令指定都市の視覚障害者団体、青年、女性、あはき、音楽家、スポーツの協議会と連携し、新たな課題解決も含め、視覚障害者の自立と社会参加の向上のために活動を続けている。 2.日本盲人会連合の役割  本連合は、都道府県または政令指定都市に点在する61の視覚障害当事者団体により構成され、視覚障害者福祉の向上を目指し、組織的な活動を展開している。各団体には、地域の視覚障害者が会員として入会し、地域で福祉向上のための活動を行っている。そして、地域では解決できない諸問題などについては、中央機関にあたる本連合に意見や要望が寄せられ、全国の視覚障害者の総意により国などへの要求活動を行っている。つまり、日本盲人会連合、日本盲人会連合加盟団体、日本盲人会連合会員が一体となることで、本連合の運動が成立している。 (1)日本盲人会連合本体の役割と機能  @ 全国の視覚障害者運動の中心としての活動     ・国や関係機関への陳情、検討会などへの参加     ・声明や要望書などの発出  A 視覚障害者の中央機関としての活動     ・情報発信機関     ・シンクタンク、調査・研究機関     ・サービス提供機関     ・相談機関 (2)日本盲人会連合加盟団体の役割と機能  @ 地域での運動(地域の視覚障害者の拠点としての役割)  A 地域での情報発信  B 地域でのサービス提供  C 地域内での関連機関との連携  D 日本盲人会連合との連携 (3)日本盲人会連合会員の役割  @ 団体活動への参加  A 意欲的な社会参加  B 互助の精神(相互の支えあいと仲間づくり) 3.日本盲人会連合の課題 (1)組織力強化  本連合は、1948年(昭和23年)に結成以来、47都道府県・政令指定都市に結成された視覚障害者団体をその傘下に加え、最大時で加盟団体所属会員は5万人と称されるほどのわが国を代表する視覚障害者団体(視覚障害者のナショナルセンター)に成長してきた。ところが、近年は加盟団体に所属する会員が激減し、概ね身体障害者手帳の交付を受けている視覚障害者の約1割を組織できているにすぎない状態となっている。  今後は、どのような働きかけによって若手の視覚障害者を会員として招くことができるかを検討するとともに、弱視者の会員を迎えるための工夫が必要である。また、中途視覚障害者や高齢視覚障害者をもターゲットとした会員拡大を検討することも必要である。そのことは、「ひとりぼっちの視覚障害者」をなくしていく運動であると同時に、私たちの声を社会に反映させるためには必要不可欠な取り組みである。  併せて、運動を支えるための財源を確保するためにも、地域の視覚障害者が求める福祉事業を自らが実践し、財源の確保にも努力しなければならない。さらに、視覚障害者の自立や医療の充実を目指す団体などとの連携を広め、視覚障害者運動全体の先導的役割を担う組織に発展していくことが求められている。 (2)団体名の在り方  本連合は、結成以来、日本盲人会連合(日盲連)の名称で活動してきた。その結果、「日盲連」の名称は社会的に認知され、行政や政界においても障害者団体の中心的存在として、大きな位置付けを受けている。  他方、差別用語が厳しく指摘されるようになる中で、「盲(めくら)」を含む単語がほとんど使われなくなったことや、全盲以外の視覚障害者をも包含する名称が一般的に使用されるようになり、今日においては「盲人」の名称はほとんど使われなくなっている。本連合の61加盟団体の中では、多くの団体が名称を変更し、現在、団体名に「盲人」の名称を用いている団体は4団体、残る57団体は「視覚障害」または「視力障害」の名称を用いている。  そうした流れを受けて、加盟団体から本連合に対して名称変更の声が頻繁に申し立てられるようになり、2007年(平成19年)から2011年(平成23年)にかけて改名検討委員会を設置して検討を行った。さらに、2013年(平成25年)の第66回全国盲人福祉大会(福井大会)の代表者会議においては、名称変更が決議されるに至っている。  2018年(平成30年)は、本連合の結成70周年の節目の年である。時代の変化や弱視者などの組織化をも念頭に置いた名称の変更を検討することが必要となっている。そこで、可及的速やかに名称変更に関する結論を出し、新名称を決定することが必要である。 21ページ 第2編 各分野における将来ビジョン 23ページ 第1章 政治への参加 24ページ 第1節 選挙権を中心とした参政権の保障 1.現状  わが国では、世界に先駆けて1925年(大正14年)より国政選挙での点字投票が認められてきた。  しかし、それからほぼ1世紀を経た今でも、投票行動の前提となる選挙公報の情報保障には以下の課題が残っている。  @ 現在、国政選挙などでは点字や音声媒体による「選挙のお知らせ」が配布されているが、あくまでもこれは民間の点字出版所などが作成した雑誌を、選挙管理委員会が選挙啓発用に任意で購入し、視覚障害者などに提供するもので、未だに、点字や音声による選挙情報の提供について、一切の法的な裏付けがないこと。  A 点字や音声による「選挙のお知らせ」や、投票所に置かれる候補者名簿の点字版が完成するのが投票日直前のため、期日前投票に間に合わないこと。  B インターネット上に掲載された選挙公報が、視覚障害者には全く読めない画像のみのPDFファイルであること。  C 市町村の首長や議会議員選挙では、点字や音声による選挙公報が提供されないケースが大半であること。  さらに、視覚障害者が投票所に行き、実際に投票を行う際の問題として以下の課題が指摘されている。  D 投票所が駅やバス停から遠く、場所が分かりにくい。また、バリアフリーが不十分であること。  E 投票所に行く際に同行援護を使ってしまうと、サービス時間数の上限の関係で、その他の日常生活に支障が生じること。  F 代理投票は、投票所の職員に依頼しなければいけないが、規模の小さな自治体では投票所職員も顔見知りということがある。このような場合、投票の秘密が十分に守られないのではないかとの懸念があること。 2.到達目標  視覚障害があっても、候補者や政党に関する十分な情報を得た上で投票できる条件を整備する。さらに、投票所へのアクセスについて、視覚障害ゆえの不便をなくす。 3.具体的方策 (1)短期  選挙投票日の同行援護の利用は、通常のサービス支給時間とは別に保障されるよう制度改正を働きかける。  選挙管理委員会のホームページに掲載される選挙公報は、現在の書類を単にスキャンした画像のみのPDFファイルではなく、テキスト情報の埋め込まれたPDFファイルないしテキスト形式など、視覚障害者にも読むことができる形式を掲載するよう働きかける。 (2)長期  点字や音声による選挙情報の提供を行政の法的義務とすべく、公職選挙法の改正を含めた提言を行う。  現在議論されているインターネット投票の制度の導入に際し、視覚障害者が不利を被ることのないよう、選挙前の情報提供の方法や投票に用いられるホームページのアクセシビリティーに十分に配慮するよう働きかけを行う。 26ページ 第2節 被選挙権を含む政治活動の保障 1.現状  視覚障害者の望む政策を実現し、生活の向上を達成するためには、国会議員をはじめとする各段階の議会議員に視覚障害者ないしその関係者が議席を持つことが重要である。  海外では、イギリスのブランケット大臣、アメリカのパターソンニューヨーク州知事など、視覚障害を持つ政治家は必ずしも珍しくはないが、わが国では、旧民主党の堀利和議員以来、視覚障害を持つ国会議員は不在である。 2.到達目標  視覚障害があっても政治家を志し、実際に議会議員として活躍できる社会の実現を目指す。 3.具体的方策 (1)短期  本連合として、視覚障害を持つ現役議員ないし議員を志す者を積極的に支援し、視覚障害者に関する政策の実現に協力してくれるよう働きかける。 (2)長期  視覚障害者が候補者として選挙に出馬する場合、この者を人的・経済的に支援できるよう、社会福祉法人とは別に政治活動を目的とする団体を作り、積極的な資金集めなどができる仕組みを作る。 4.課題  視覚障害者の福祉の増進や政策の実現のためには政治家との協力関係が不可欠である。しかし、本連合会員にはそれぞれの政治信条がある。そのため、本連合が組織として特定の政党や候補者を支援することについては、異なる意見を持つ会員の存在にも配慮した慎重な姿勢が求められることも忘れてはならない。 27ページ 第2章 職業と所得保障  28ページ 第1節 あはき 1.現状  あはき業は依然として視覚障害者の職業的(経済的)自立の重要な一分野である。  1960年代までは、あはき業者の60パーセントが視覚障害者であったが、現在、この割合は20パーセント程度にまで低下している。また、視覚障害者のあはき業者の年収は、それ以外のあはき業者の年収約636万円の半分以下の約290万円である。今後も、あはき業の分野では、視覚障害者以外のあはき業者との競争がいっそう激化することが予想される。また、無免許者の横行もあはき営業の妨げの要因になっている。 2.到達目標  本連合が視覚障害あはき師の資質の向上、職域の拡大、就労環境の整備などの諸課題に取り組み、全ての視覚障害あはき師がやりがいを持って職業生活を送るためのバックアップを行う機関となるべきである。併せて、視覚障害あはき師へのフォローアップ制度を、国や関係機関に働きかけて確立させる。 3.具体的方策 (1)短期  @ あはき業にとって無資格業者の問題は大きな壁となっている。しかし、無資格業者の跋扈を押しとどめることは、現実問題として極めて困難である。権益の防御ばかりに固執し、守りを固めるだけでは視覚障害あはき師の未来はない。もっと攻めの姿勢を打ち立てていく。  A 外部の研究者などと連携し、あはき業者の現状を整理した上で、どうすれば健常者の業者との競争に勝ち抜けるのか、あはき業で十分な収入を確保するために行うべきノウハウはどのようなものなのかを分析し、情報発信をしていく。現にあはき業で高収入を得ている視覚障害あはき師も存在するので、その手法をより多くの視覚障害あはき師に伝えていくことが求められる。  B 視覚障害あはき師に対し、効果的な広告や宣伝の方法、経営理念の作成とそれを実践する方法、マーケティングの手法などを教える研修プログラムを実施する。  C 視覚障害あはき師への合理的配慮として代筆・代読支援、往療補助者の制度化を図る。  D 資質向上のための研修会は、視覚障害あはき師が容易に理解でき、実質的な研修にする必要がある。そのため、視覚障害者団体が研修の開催に加わっていく。 (2)長期  @ 障害者雇用促進法の障害者別の雇用率を明らかにして、機能訓練指導員やヘルスキーパーなどの視覚障害あはき師の雇用を促進する。  A 就労継続支援施設の定員を見直して、視覚障害あはき師の就労継続支援が受けられやすくする。 4.課題  視覚障害あはき師の現状は、仕事をしている本人のやる気が昔より減ってきている状況がある。また、あはき師を目指す視覚障害者も減少してきている。  そのため、あはき業の魅力を再認識するために、様々な方策を打ち立てることが急務となっている。特に、職業環境を整えることによって収入を増やし、あはきを志す視覚障害者を増やすことは急ぎたい。  また、国などが無免許者を取り締まれないこと自体にも問題がある。そのためには、あはき関係団体と連携して、無免許者の横行による犠牲者を救うための訴訟を起こすことも必要とされる。 30ページ 第2節 音楽家 1.現状 (1)歴史的背景  鎖国をしていた江戸時代、当道制度によって前節のあはきと同様に、音楽も大きな発展を遂げてきた。検校(けんぎょう)や勾当(こうとう)、別当(べっとう)などと呼ばれた視覚障害者たちは、ある者は三絃の弾き歌いの曲を作り、そしてある者はその曲に箏で第2旋律の細やかな節(ふし)を付けるなどした。彼らはそれを楽譜を用いることなく、全て「口伝え」という形で伝承していき、それらは、古典作品として現在でも演奏されている。  その後、明治時代になると、当道制度は廃止され、晴眼者も、箏や三絃を弾くことが許され、音楽人口が増えると同時に楽譜の手段も用いられるようになった。その頃に登場したのが、「春の海」の作などで知られる視覚障害の大作曲家「宮城道雄」である。明治期以降は、西洋音楽の道に進む視覚障害者も徐々に現れるようになり、器楽や声楽の道で大成する者も増加した。 (2)邦楽に関する現状  戦後、邦楽の愛好家の数は減少し続けている。戦中・戦後の頃に箏や三絃は花嫁修業の一つとして学んでいた世代が高齢化したことが大きな理由になる。この影響により、弟子の数も減り、箏曲中心の演奏会の数も減っている。また、古典作品を必要とされる演奏の現場も少なくなっている。  一方で、視覚障害者は楽器を演奏しながら楽譜を読むことができないことから、様々な楽曲を臨機応変に演奏することが求められる現場では、健常者と肩を並べていくことが難しいとされている。このような背景もあり、視覚障害者で音楽家を目指す者が少なくなってきている。最近では、視覚障害者が音楽以外の職に就け、その幅も広がっていることも大きく、視覚特別支援学校から音楽を専攻する音楽科がなくなり続けている。現在では、東京・京都の2校になっており、このような流れも、音楽家を志望する子供の機会を大きく減らしていると言われている。 (3)西洋音楽に関する現状  西洋音楽を生業とするためには、器楽にしても声楽にしても、必要な時に、必要な楽譜が入手できる環境が整えられなければならないが、未だその環境の整備は十分ではない。  多くの場合、視覚障害音楽家は、必要な楽譜をその都度ボランティアに依頼して点訳してもらい、演奏会までに何とか最小限の楽譜を確保している状態である。これには、複雑な点字楽譜を点訳できるボランティアの数が十分ではないこと、また、全国的な点字楽譜のデータベースの不存在などが原因である。  さらに、演奏会会場までの移動や楽器運搬などにおいては、晴眼者のサポートが必要だが、現在、視覚障害者自身の費用負担でアシスタントを確保しなければならないことも課題となっている。 2.到達目標 (1)邦楽の視点からの目標  「さくらさくら」も知らない子供たちがいると聞く。日本に生まれた者であるならば、日本伝統音楽である邦楽の「音色、響き、間(ま)」は全ての者に愛着を持ってほしい。今一度、邦楽の魅力を世間に広めるために、視覚障害の邦楽家を幅広く活躍させる。 (2)西洋音楽の視点からの目標  視覚障害を持つ音楽家が、いつでも必要な楽譜を確保できるように環境整備が求められる。点字楽譜は、楽曲の性質や楽器の種類、演奏者の好みにより、点訳方法を柔軟に調整する必要があり、自動点訳になじみにくい。そのため、点訳者の確保と、点字楽譜資産の蓄積が重要となる。  また、公費による演奏会や教授先への移動補助制度の確立も求める。 3.具体的方策  (1)短期  @ 邦楽の視点   箏などの邦楽器は、サイズが大きく、持ち運びが困難である。そのため、ピアノなどのように「音楽家が行く所には必ず箏がある」という状況を作る必要がある。例えば、個人が使用していたが今は使われていない楽器を、このような場所へ常備することを進めたい。  A 西洋音楽の視点   全国の点字図書館などと連携し、複雑な点字楽譜に対応できる専門点訳者の養成、全国的な点字楽譜のデータベースの構築、点訳グループのネットワーク化を行う。 (2)長期  @ 邦楽の視点   音楽を長く愛されるものにするには、楽器に触れる子供たちの数を増やすことが必要である。特に、本物に触れて、本物を聴くことは大切で、子供たちに体と耳で体験する機会を増やすことが効果的とされている。そのため、視覚障害の音楽家が主催するアウトリーチ(出前コンサート)やワークショップなどを定期的に開催し、長期の視点で子供たちを育てていきたい。また、これらのアウトリーチやワークショップを開催するには、当然ながら伝える側の「技術の向上」が不可欠であることも留意したい。   さらに、視覚障害の音楽家を育成することにおいて、視覚障害者には視覚障害者による指導が重要である。点字の楽譜、そして弾き方のニュアンスなどは、晴眼者の指導者から視覚障害者の生徒に対しては伝わりにくいことが多い。そのため、優秀な視覚障害の音楽家を輩出するためにも、指導体制の検討も必要である。  A 西洋音楽の視点   音楽家として経済活動を伴う演奏活動を行う中で、公費で支援者を利用できるようにしたい。また、移動や音楽の演奏以外の雑務においては、健常者の支援を受けやすくするための制度的補償を確立したい。 33ページ 第3節 様々な一般職の開拓とその支援 1.現状  視覚障害者の就労の現状は、いわゆるあはき業への依存傾向が高いものの、近年のICTの発展は視覚障害者の職域を拡大させ、重度視覚障害者が事務的職種で働くことを容易にし、中途視覚障害となっても、それらの技術を駆使することができれば継続雇用が可能となった。また、改正障害者雇用促進法により、合理的配慮が義務化されたことも追い風となっている。これらの流れにより、様々な分野で視覚障害者も働けるようになってきた。  しかし、ハローワークの就職状況では、視覚障害者の雇用は減少傾向で推移している。また、全体の障害者雇用支援策は増えても、視覚障害者が実際に利用できるようにはなっていない。さらに、目が見えないイコール仕事ができないという偏見が依然根強く、せっかく就職しても仕事を与えられず、いわば「飼い殺し」にされる事例も見られる。特に、2018年(平成30年)に発覚した中央省庁をはじめとする障害者雇用の水増し問題は、本来、障害者雇用を率先垂範すべき国が障害者雇用をないがしろにしてきた象徴的な事件として、障害者の雇用の在るべき姿を問いただしている。  視覚障害者が仕事をすることは、様々な面において容易ではない。しかし、視覚障害の特性である情報障害に対する正しい理解、視覚障害の進行に対応した就労技術習得や職務再設計などに対する適切な支援があれば、視覚障害者だからこそできる仕事を確立させることができ、健常者と変わらずに仕事ができる。そのことにより、視覚障害者の就労可能性は無限に拡大する。  つまり、現状から脱却するためには、視覚障害者が適切な支援を受けることを実現させ、さらに、視覚障害があってもできる仕事を開拓し、視覚障害者が社会になくてはならない存在に押し上げることこそが求められる。 2.到達目標 (1)雇用に関する支援の必須化  視覚障害者が働くために必要とする支援を、差別なく受けられるよう、制度面や運用面での改善を進める。以下の改善を通して、支援が必須化され、視覚障害者の能力が確実に発揮できる下地を作る。 【改善すべき内容】  @ 雇用における合理的配慮の徹底。  A 職業訓練、歩行訓練を受ける機会の確保。  B 誰でも職場介助者が利用できる制度の確立。  C 視覚障害者の雇用を後押しするジョブコーチ、産業医、職業訓練指導員の配置。  D 全国各地でのロービジョンケアネットワークの構築。 (2)視覚障害があってもできる仕事の開拓  視覚障害があってもできる仕事を開拓し、社会に提案をする。このことにより、視覚障害者の職域を拡大させ、視覚障害者の真の社会的自立を促していく。 3.具体的方策  支援の必須化と職域の拡大を広げるため、本連合は国への要求活動を行うとともに、視覚障害者の一般就労の先導役となる必要がある。そのためには、以下の具体的方策を実施すべきである。 (1)短期  全国の視覚障害者の就労を総合的に支援する体制がないことを踏まえると、本連合がその役割を担うべきである。そのため、本連合が就労に関する支援体制を強化し、視覚障害者の一般就労の先導を果たすべきである。特に、これらの取り組みに若者が結集できるようにし、在職中に中途で視覚障害者となっても、仕事を辞めないで働き続けられることを意識した活動を行う必要がある。 【具体的な方策】  @ 相談体制の強化。  A 加盟団体をはじめ、眼科医や他の支援団体との連携を構築。  B 情報の集約と発信。  C 一般就職をしている視覚障害者の情報交換の基盤を構築。  D 働く視覚障害者に対する理解・啓発などの試みの実施。 (2)長期  短期の方策により、視覚障害者の職域を広げつつ、自信をもって働いている視覚障害者を組織化し、その経験やノウハウを共有・発信できる専門機関を創設する。その機関がもつ経験やノウハウを原動力に、働く視覚障害者を拡大させていく。 35ページ 第4節 障害年金(障害者年金) 1.現状  現行の障害基礎年金は、それのみでは視覚障害者の最低生活を支えるものとはなっておらず、様々な要因による無年金者も多数存在する。基礎年金以外にも様々な諸手当があり、自治体独自の手当も散見されるが、それらが基礎年金と相まって、全ての視覚障害者にとって健康で文化的な最低限度の生活を保障するものとはなっていない。 2.到達目標  稼働能力の低下ないし喪失後の生活を安定させるための年金・手当制度の確立。 3.具体的方策 (1)短期  特別障害者手当の要件を緩和し、視覚障害のみでも支給対象となるようにする。 (2)長期  無年金者をなくし、最低年金制度を創設する。障害基礎年金額の増額が実現しないのであれば、最低生活を保障するための各種手当て制度を見直し、基礎年金と併せて健康で文化的な生活が保障されるようにする。 36ページ 第5節 生活保護 1.現状  2015年(平成27年)におけるわが国の生活保護受給者の約18%は障害者ないし障害者世帯である。また、国民一般の中で生活保護受給率は約1.7%であるのに対し、障害者の中に占める生活保護受給率は約11%程度になり、その受給率は一般の約6.4倍を超える現状である。また、現行制度においては、障害者加算及び重度加算が設けられており、そうした加算制度によって障害者の生活の質が確保されているのである。 2.到達目標  生活保護を必要としている全ての視覚障害者が生活保護を利用できるようにする。 3.具体的方策 (1)短期  生活保護に関する相談窓口において、視覚障害者の実態を踏まえた相談ができる体制を作る。  そして、現在、生活保護制度の見直しが進められており、老齢加算が廃止され、母子加算も引き下げられている。そうした中にあっても障害者加算・重度加算制度を維持する。 (2)長期  生活保護の受給要件を緩和し、車の保有を認め、一定額の預貯金があっても生活保護が利用できるようにする。 37ページ 第3章 教育・リハビリテーション 38ページ 第1節 視覚障害者の教育 1.現状  日本の盲学校(視覚特別支援学校)は、1878年(明治11年)に先達の熱い思いにより、京都盲唖院(現京都府立盲学校)が創設されてから、各地に盲学校が設立され、140年にわたり、日本の視覚障害者に希望と光を与え続けてきた。1959年(昭和34年)には全国77校の盲学校が存在し、1万人を越える在籍者であったが、その後、徐々に生徒減少が始まり、2017年(平成29年)は全国65校、在籍数は2731人で、ピーク時の3割弱となっている。この65校の中で、在籍者数が100人を越える学校は3校に留まり、30校が30人未満の小規模校となっている。さらに4校が一桁の在籍者数である。  このような状況における「盲学校教育」は、すでに公教育としての教育機能を十分行えない状態にあると思われる。少数のために、社会性が身につきにくく、集団の中で培われる競争心も高まりにくいなどの問題が指摘されている。  上記のような幼児・児童・生徒数の減少の原因には、いくつもの要因が複雑に関わっているが、主に以下の3点が重要と考えられる。  @ 急速な少子化の進展  A 医学の進歩による視覚障害児の発生率の低下  B インクルーシブ教育の進展  @については、国全体の政策によるものであり、ここでは論じないこととする。Aについては、医学の進歩は誰もが望んでいることであり、先天的な視覚障害者や学齢児や中途の視覚障害者そのものが減じたり、新たな治療法により、視覚障害を改善できることは、望ましい限りである。Bについては、以下でこの10年の動きを中心に考えてみたい。  この進展の大きな潮流の原点は、2006年(平成18年)の「障害者権利条約」の採択である。わが国もこの条約に署名するとともに、国内法の整備を進め、2014年(平成26年)には条約に批准した。この間、特に、2011年(平成23年)の障害者基本法の改正が、障害者教育の大きな転換となった。  この改正障害者基本法第16条においては、障害者の教育に関する規定(※1)が置かれているところであり、障害のある児童生徒などの就学に関する手続については、これらの規定を踏まえて対応する必要があること、特に、改正後の学校教育法施行令第18条の2に基づく意見の聴取は、市町村の教育委員会において、当該視覚障害者などが認定特別支援学校就学者に当たるかどうかを判断する前に十分な時間的余裕をもって行うものとし、保護者の意見については、可能な限りその意向を尊重しなければならないことが定められている。  これにより、就学先決定においては、保護者の意見を最大に尊重することとなり、地元の学校で通常学級に所属する場合や弱視特別支援学級を設置し通学する場合が増加している。多様な学びの場が確保され、インクルーシブ教育が進展することは、本連合としても運動方針に掲げているところである。  しかし、インクルーシブ教育の進展の中で、視覚障害者に求められる教育の本質について、深く考えられたことはあるのだろうか。  インクルーシブ教育の制度設計がなされ、実施されたのは、ここ10年程度である。それ以前から視覚障害児の地域学校への希望は根強く、障害当事者とその家族そして支援者が各地の教育委員会に訴え、通常の学校で学ぶ例が首都圏・関西地区などを中心に広がっている。しかし、障害者権利条約の理念や改正障害者基本法に基づく障害者の就学に係わり、インクルーシブ教育の制度設計がなされたものの、その教育環境や質は十分ではない。また、インクルーシブ教育を受けた児童・生徒の進路についても十分な支援がなされているとは限らない。特に教育の質を担保する教師の専門性がどの程度発揮できているか甚だ疑問である。このような教師の専門性を補うために、一部の視覚特別支援学校においては、インクルーシブ教育を受けている視覚障害学生を支えるための支援を行う所も出てきている。 2.到達目標  視覚特別支援学校か地元地域の学校へ入学するのかの決定権は、視覚障害児・者とその親にあるべきである。どちらに就学しても、平等に教育の質を担保しつつ、様々な支援(点字教科書・介助教員など)が受けられるようになることが必要である。 3.具体的方策 (1)短期  @ 本連合内に「インクルーシブ教育推進会議(仮称)」を設置する。  A 視覚特別支援学校に関する実態調査を行う。  B 全国視覚障害児童・生徒用教科書点訳連絡会と連携し、インクルーシブ教育を受けている視覚障害児・者を把握する。  C インクルーシブ教育を受けている視覚障害児・者のネットワークを構築する。  D インクルーシブ教育を受けた者の実態把握を行う。  E ネット回線やICTを活用した遠隔授業に関する調査及び研究を行う。  F 視覚障害に携わる教員の資質及び処遇に関する研究を行う。 (2)長期  現在の視覚特別支援学校を一新し、都道府県あるいは地方単位で「視覚障害教育支援センター校(仮称)」を設置する。地域における視覚障害の拠点校として、高い専門性のもと、在籍する視覚障害児・者の教育、視覚障害あはき師の育成と卒後研修、地域におけるインクルーシブ教育の支援を行う。 【主な機能】  @ 在籍する幼児・児童・生徒の教育  A あはき教育  B あはき師の卒後研修  C あはきに関する調査・研究  D 視覚障害に関する理解啓発、情報発信  E 教育相談の実施  F 一般校や視覚特別支援学校の幼児・児童・生徒・学生及び教師に対する支援  G 視覚障害児・者を養育する保護者の支援  H 視覚障害者の就労支援  I 視覚障害教育に関する研究及び研修の実施 4.課題  @ 視覚障害児・者のインクルーシブ教育には地域格差が生まれている。全国統一の教育システムの実施が必要である。  A 現在までの盲学校で培われてきた、視覚障害教育の専門性を効果的に発揮する方策について、関係者間の合意形成をどのように図っていくか。 5.参考資料 (※1)障害者基本法(抄) (教育) 第16条 国及び地方公共団体は、障害者が、その年齢及び能力に応じ、かつ、その特性を踏まえた十分な教育が受けられるようにするため、可能な限り障害者である児童及び生徒が障害者でない児童及び生徒と共に教育を受けられるよう配慮しつつ、教育の内容及び方法の改善及び充実を図るなど、必要な施策を講じなければならない。 2 国及び地方公共団体は、前項の目的を達成するため、障害者である児童及び生徒並びにその保護者に対し十分な情報の提供を行うとともに、可能な限りその意向を尊重しなければならない。 3 国及び地方公共団体は、障害者である児童及び生徒と障害者でない児童及び生徒との交流及び共同学習を積極的に進めることによって、その相互理解を促進しなければならない。 4 国及び地方公共団体は、障害者の教育に関し、調査及び研究並びに人材の確保及び資質の向上、適切な教材などの提供、学校施設の整備、その他の環境の整備を促進しなければならない。 42ページ 第2節 高等教育 1.現状  近年、視覚障害者の大学進学は大幅に進んでいる。多くの視覚障害者が高等教育を望んでおり、多種多様な学部・学科に進学している。  一方、大学側においても、視覚障害者を受け入れる様々な制度を整えて、視覚障害学生が他の学生と同等に勉学に勤しむことができるように支援している。一例としては、大学内に障害学生支援センターを設置し、視覚障害の学生からの様々な相談・要望に応えている。また、紙ベースでのやり取りではなく、電子データやメールなどでの意思疎通や課題の提出なども実施している。さらに、設備面では、学内での安全な移動の保障として、視覚障害者誘導用ブロックの敷設や誘導チャイムの設置、教室名の点字表示などを整備している。  他方、学外においても、独立行政法人日本学生支援機構が2006年(平成18年)10月に開始した「障害学生修学支援ネットワーク」の相談事業で、大学・短大・高専(以下、大学など)における障害支援担当者からの相談に応じる仕組みを構築している。事業の内容としては、全国の各地域ブロックに積極的な取り組みを行なっている大学などを拠点校として、該当地域ブロックの大学などを中心に障害学生を受け入れる際の相談などを受け付けている。 2.到達目標  視覚障害者の受験については、その視覚障害当事者の生まれ育った所で平等に受験勉強ができ、大学受験はもちろん、受験準備校への入学も保証されることが求められる。  また、在学中は、視覚障害者が授業を受けるために必要とされる点字教材の用意、介助教員の配置、音声パソコンの整備などを保証し、健常者の学生と平等に大学生活を受けられることも必要である。 3.具体的方策 (1)短期  高等教育・大学進学を希望する視覚障害者を把握するネットワークづくりを急ぐ。特に、地域の一般校で学んでいる視覚障害者の進学者の情報を収集することが必要である。 (2)長期  視覚障害者が在籍している、あるいは在籍したことがある大学の障害学生支援センターとの連携を探っていくことが重要である。 4.課題  @ 視覚障害者の中で、地域の一般校で学んでいる生徒の高等教育希望者の把握が今の時点では困難である。  A 卒業後に向けた視覚障害者の就労相談体制を構築することも必要である。 44ページ 第3節 障害児の保育 1.現状  全国には、視覚障害児の教育を保障するため、各都道府県に視覚特別支援学校が設置されている。しかし、全国でも65校しかなく、ほとんどの県には1校しか設置されていない。  また、視覚特別支援学校には、必要に応じて3歳児から5歳児の視覚障害児に対し幼稚部を設置して幼児教育を行うことができる。しかし、幼稚部在籍の子供は非常に少なく、設置されていない地域も多い。子供の少ない理由としては、以下の背景などがある。  @ 家から盲学校が遠く、送迎ができない  A 幼児期には健常児と一緒の保育の場を保障したい  B 視覚特別支援学校に行っても子供が少なく、集団が保障されない  C 居住する県に幼稚部がない  さらに、指導者においては、集団が保障されにくく、専門性の担保が難しい面があったり、地域の保育園・幼稚園で過ごす視覚障害児を抱える園の先生が相談できる機関が少ない面もある。  一方で、3歳児未満の視覚障害児に対しては、教育相談という形で必要に応じて視覚特別支援学校で支援されているが、そのための経費も充分には保障されておらず、その頻度や形態は学校により様々である。また、視覚特別支援学校へのハードルが高く、相談に行けない弱視の子供を持つ保護者は少なくない。眼科医の診断や視力検査の結果だけでは、子供に対して視覚的な支援が必要なのかどうか分からない保護者も多く、幼児期には専門機関に繋がらないケースも多い。 2.到達目標  視覚障害乳幼児やその家族・地域に対する支援を充実させる。全国どこに生まれても、安心して暮らすことのできる社会を作るために、視覚障害乳幼児の保育環境やその保護者への支援を充実させていく。 3.具体的方策 (1)短期  視覚障害乳幼児やその家族・地域に対する支援の大切さを、広く発信していく。例えば、京都ライトハウスあいあい教室では、毎月発行する「あいあい通信」(※1)をホームページに掲載している。 (2)長期  視覚障害乳幼児や家族の現状を全国的に調査し、その支援方法について模索していく。 4.課題  京都ライトハウスあいあい教室のように、視覚障害や視覚に不安のある子供を対象にした親子教室の存在は、全国的にも数少ない存在ではあるが、その実践を高め、全国へ発信していくことも進めていきたい。  視覚障害乳幼児の保育については、全国的にもまだまだ手探りであり、確立されていないことが多い。それこそ、教育を受けるための家族の負担は大きく、家族の転居、母子が家族と離れて視覚特別支援学校の近くで暮らすなど、結果的に母親が仕事を続けられない場合も多い。また、地域に友だちがいない、あるいは視覚障害児同士の友だちがいない、夏休みなどの長期休暇の過ごし方に不安があるなど、今なお多くの保護者が不安を抱えながら暮らしている現状がある。  そのため、それが少しでも軽減でき安心につなげられるような、制度の充実と地域社会の理解、指導者の専門性の向上を進めていく必要がある。 5.参考資料 (※1)京都ライトハウスあいあい教室「あいあい通信」 http://www.kyoto-lighthouse.or.jp/services/read/id/2 46ページ 第4節 中途視覚障害者の教育・リハビリテーション 1.現状  近年における日本の障害者に関する法制度の改正や整備に伴い、障害福祉サービスの制度や枠組みは大きく変化してきている。この結果、障害者に対する支援は、総合的で多面的なサービスが求められている。  一方で、視覚障害者自身に目を向けると、中途視覚障害者においては高齢化や視覚障害以外の障害を併せ持つ者が増加している。これにより、視覚障害リハビリテーション(以下、視覚リハ)のニーズは、「自立した生活」を目指すものから「生活の充実」を図るものへと変化している。  訓練機関で実施される支援内容も、これまでのトータルな生活(自立)訓練よりも、むしろパソコンなどの単一の訓練を望む傾向にあり、かつ、短期間での訓練や訪問の形態での訓練を望んでいる。特に、パソコンなどに対する受講ニーズは高く、現職復帰を含めた一般就労に直結するため、その手段としてICT訓練が主流になっている。  また、視覚リハを実施する場所は、自立訓練(機能訓練)サービス事業所にて実施するものが主流であるが、現状は、都市部に集中しており地域による偏りが大きい現状がある。 2.到達目標  @ 視覚リハの主要科目である歩行訓練の制度化を図り、全ての都道府県で受講できる体制を構築する。  A 今後、視覚リハが「住み慣れた地域」を主体として展開され、医療、教育、福祉、就労分野、それぞれ連携のもとで視覚障害当事者が安心・安全に視覚リハを受講できる体制を構築する。  B 全ての眼科機関でロービジョンケアが受けられる体制整備を行う。 3.具体的方策 (1)短期  本連合が2016年(平成28年)度及び2017年(平成29年)度に実施した歩行訓練に関する調査結果(※1)(※2)などから問題の所在を明らかにして、視覚障害当事者が視覚リハを受講しやすくするため、次のような政策的な提言を行う。  @ 視覚リハの内容や提供体制に関すること。  A 歩行訓練の制度化に関すること。  B 専門スタッフ(歩行訓練士、ロービジョンケア)の育成に関すること。  C 相談支援におけるネットワーク体制の強化に関すること。 (2)長期  医療、教育、福祉、就労など、それぞれの分野で強固な連携が図られ、地域での視覚障害に関するあらゆる相談支援や視覚リハが実施できる体制を構築する。 4.参考資料 (※1)2016年(平成28年)度の調査結果  厚生労働省平成28年度障害者総合福祉推進事業「視覚障害者のニーズに対応した機能訓練事業所の効果的・効率的な運営の在り方に関する調査研究」  http://nichimou.org/all/news/secretariat-news/170406-jimu/ (※2)2017年(平成29年)度の調査結果  厚生労働省平成29年度障害者総合福祉推進事業「視覚障害者が日常生活を送る上で必要な支援に関する調査研究」  http://nichimou.org/all/news/secretariat-news/180409-jimu/ 49ページ 第4章 情報保障  50ページ 第1節 代筆・代読支援 1.現状  視覚障害者が必要とするコミュニケーション支援において、最も必要とされているのは「代筆・代読」とされている。  2013年(平成25年)より、障害者総合支援法の地域生活支援事業において、意思疎通支援事業の一つとして、「代筆・代読支援」が位置付けられている。しかし、現実的には、視覚障害者のニーズの高さに反比例して、積極的な支援が実施されていない。本連合は、厚生労働省の平成30年度障害者総合福祉推進事業を受託し、「視覚障害者への代筆・代読支援に関する調査研究」(※1)として自治体の障害福祉サービスでの代筆・代読支援について調査を行った。調査の結果、意思疎通支援事業での実施率は1.4%であることが分かり、自治体が障害福祉サービスの中で代筆・代読支援を行うには、改善すべき課題が多いことが判明した。  一方で、日々の生活に目を向けると、金融機関での代筆・代読サービスは、金融庁からの指導により、多くの金融機関で実施されるようになったが、まだなお、一部の金融機関でサービスが受けられない事例が見られる。また、保険の契約などの場面でも、視覚障害者にとっては代筆・代読支援が必須であるにも関わらず、保険会社の担当者が対応しない事例がある。さらに、支払代金の決済などでは、視覚障害者もクレジットカードを使用するが、直筆によるサインが弱視者や全盲者には難しいため、クレジットカードが利用できないことがあり、代筆の利用や自署を必要としない方法が求められている。  これらのように、何かを書くこと・読むことが難しい視覚障害者は、健常者の視点で作られたルールに対応できず、結果的に利用できないサービスが大変多い。健常者と同じようにサービスを利用するためには、コミュニケーション支援の充実が求められ、特に代筆・代読の支援は早急に改善する必要がある。 2.到達目標  @ 視覚障害者が代筆・代読支援を必要とする時、いつでも支援が受けられるようなシステムを確立する。  A 代筆・代読支援を障害福祉サービスで受けられるようにする。  B 代筆の支援を受けなくても済むように、クレジットカード認証番号入力機器の普及とその機器のバリアフリー化を実現させる。 3.具体的方策 (1)短期  @ 各金融機関における代筆・代読支援を確実に実施させる。  A クレジットカード認証番号入力機器の普及と、その機器のバリアフリー化を促す。 (2)長期  @ 視覚障害者が代筆・代読支援を必要とする時、いつでも支援が受けられるよう、AIなどを活用したシステムを開発する。  A 代筆・代読支援が障害福祉サービスで受けられるよう、専門性の高いヘルパーを養成し、ヘルパーの利用について各機関に啓発する。 4.参考資料 (※1)平成30年度障害者総合福祉推進事業「視覚障害者への代筆・代読支援に関する調査研究」  平成31年4月、調査結果をまとめた報告書を日本盲人会連合のホームページ(http://nichimou.org/)に掲載予定。 52ページ 第2節 情報アクセス支援 1.現状  視覚障害者が情報にアクセスするためには、その視覚障害者が情報を理解できる媒体が必要となる。例えば、従来から利用されている点字や音声に加え、現在では拡大文字・テキストデータ・各種コード(音声コードなど)なども利用され、利用する視覚障害者によって必要とする媒体は異なっている。つまり、視覚障害者が情報にアクセスするためには、様々な媒体が用意され、その視覚障害者が希望する媒体を選択できる体制が望ましいとされている。  そのため、視覚障害者が円滑に情報にアクセスするための支援は必須になるのだが、その支援については不満足な状況となっている。  例えば、自治体や企業などが発信する情報は、本来は視覚障害者が求める媒体を用意すべきだが、その対応には格差があったり、そもそも配慮がなかったりして、視覚障害者が情報にアクセスできないことが多い。  また、テレビの緊急放送についても不満足な状況になっており、電子音は鳴るものの、文字情報しか表示されていないことが多い。第四次障害者基本計画には、「身体障害者の利便の増進に資する通信・放送身体障害者利用円滑化事業の推進に関する法律(平成5年法律第54号)」に基づく放送事業者への制作費助成、「視聴覚障害者向け放送普及行政の指針」が盛り込まれている。徐々にテレビの副音声、解説放送が増えているが、その実施は不十分である。  視覚障害者が情報にアクセスするためには、情報発信者が責任をもって支援を行うべきであり、早期の改善が求められる。 2.到達目標  @ 様々な情報が、視覚障害者個々人が希望する媒体(点字・音声・拡大文字・テキストデータ・各種コードなど)で入手できるようにする。  A 点字の普及率を高めるため、各都道府県における点字指導者数を増員させる。  B テレビの緊急放送の音声化や、音声、解説放送に関する法的整備を整える。 3.具体的方策 (1)短期  @ 自治体、各機関に対し、視覚障害者に必要な合理的配慮義務を果たす必要があることを啓発する。  A 点字の普及率を高めるため、本連合加盟団体を通じて、点字指導者の育成を進める。  B 視覚障害者対象のスマートフォン講習会を企画し、各種コードの読み取りが行えるアプリの利用スキルを向上させる。  C 各放送会社に対し、アナウンサーによる緊急放送を行うよう、働きかける。  D 解説放送制作費の助成増額を実現させる。 (2)長期  @ マイナンバー制度の中で個人のニーズを把握し、自治体・各機関が合理的配慮を行う基盤を行う。  A 点字の普及率を高めるため、視覚特別支援学校における点字指導者の人材を確保する。  B 各種コードの読み上げに特化した端末の開発に協力する。  C 文字放送の音声化技術の開発のため、放送業界や家電メーカーと本連合の間で研究体制を整える。  D 解説放送達成率の法的整備を実現させる。 4.課題   視覚障害者の若い世代と高齢世代の間では、新しい技術を使用できる者とできない者に格差が広がっている。スマートフォンの利用などがその代表例である。 54ページ 第3節 情報機器の発達 1.現状  ICT(情報通信技術)機器の登場は、視覚障害者が日常生活や社会参加を営む上で欠かせないものとなっている。また、ICTの進歩は目覚ましく、今まで不可能と思われていたことが、機器や技術を活用することで可能になってきている。  しかし、ICT機器を活用できる視覚障害者と、活用できない視覚障害者が存在してしまい、特に多様な情報にアクセスできるか否かで両者に新しい格差(情報格差:デジタル・デバイド)を生み出している。この格差を縮めるため、個々の視覚障害者のニーズに応じた形での機器の開発や情報発信が求められている。また、視覚障害者団体や視覚障害者情報提供施設、開発・販売メーカーによる各種機器を使うための学習会も必要とされている。  例えば、携帯電話は、もはや視覚障害者にとってはなくてはならないコミュニケーション機器の一つとなっている。2001年(平成13年)9月に販売されたドコモのらくらくホンUにメール読み上げ機能が付加され、その後、端末操作やメール作成、iモードなどネットへのアクセスと読み上げ機能が強化されていくにつれ、視覚障害者に携帯電話の普及が急速に広まっていった。そして、同じ頃、タッチスクリーンによる操作を伴うスマートフォンが登場し、2009年(平成21年)に発売されたiPhone 3GSでは、画面操作や表示される文字情報が標準搭載で音声読み上げを実現した。この機種を契機に、視覚障害者の中でのスマートフォンの利用が増え始めている。その後、スマートフォンの進化も目覚ましく、端末の高機能化、視覚障害者に対応したアプリの開発、音声読み上げに対応した一般向けアプリの増加も見られるようになり、視覚障害の利用者は徐々に拡大している。しかし、ボタン操作による物理的な操作性を必要とする視覚障害者もまだ多いことから、スマートフォンが利用できない視覚障害者が多く存在することも実情である。  一方で、交通系ICカードやプリペイドカードの登場は、交通機関の利用や買い物などの利便性を向上させ、視覚障害者の生活を豊かにしている。しかし、ほとんどのカードが同じ形や大きさとなっており、視覚障害者にとって判別が困難となっている。また、介助者と共に鉄道を利用する場合、それぞれの交通系ICカードで入場し、降車駅で駅係員などに障害者割引処理を依頼しなければならず、時間と手間がかかっている問題もある。なお、一部の地域では、障害当事者用と介助者用の特別割引用ICカードを発行し、一緒に利用することを条件として、割引料金がそれぞれのICカードから引かれるものが導入されている。  また、視覚障害者の生活に欠かせない家電製品には、操作ボタンに点字表示が付加されていたり、操作内容を読み上げたり、分かりやすい操作音で知らせるものなど、視覚障害者にも使いやすいものが増えてきている。ただし、製品に附属する取扱い説明書については、WEB上でも公開されるようになってきてはいるが、視覚障害者に配慮した形式で公開されることは少なく、テキスト情報の埋め込まれたPDFファイルないしテキスト形式での提供が望まれる。  ICT機器の発展が進むことで、人々の生活の質は向上してきている。しかし、視覚障害者を含め、多様な人たちが利用することを考慮しない発展は、新たなバリアを生み出すことになり、現にそのバリアの存在が散見されている。 2.到達目標  @ だれもが使用しやすい情報端末(フィーチャーフォン、スマートフォン)を普及させる。  A 視覚障害者に特化したパソコンソフトが適正価格で購入できるようにする。  B 視覚障害者のデジタルデバイドの解消と地方間格差の是正を実現させる。  C カードのJIS規格の遵守、点字カードの作成のJIS化を求める。  D ユーザビリティに配慮された家電製品を普及させる。  E ウェブサイト(PDFファイルを含む)のアクセシビリティを向上させる。  F 視覚障害者にとって使用しやすいバリアフリー製品、パソコンソフト、各種スマートフォンアプリの情報提供を義務づける。 3.具体的方策 (1)短期  @ フィーチャーフォン販売継続を各通信事業者に要望する。  A 視覚障害者に特化したアプリケーションの開発に向けて、企業への助成金制度の新設などを関係省庁に対して要求する。  B デジタルデバイドの解消に向けて、地方での講習会に必要な人材を育成する。  C 各種交通系カードについては、JIS規格の遵守法令の整備、点字カードの作成のJIS化を行うよう要望する。  D 家電製品のユーザビリティ向上のため、本連合と各家電メーカーや共用品推進機構と情報交換を行う。  E 視覚障害者にとって使用しやすいバリアフリー製品、パソコンソフト、各種スマートフォンアプリの情報提供を充実させる。 (2)長期  @ AIを活用し、視覚障害者が利用しやすいスマートフォンの開発を要望する。  A 公的機関が有するホームページについては、ウェブアクセシビリティ(画像認証を含む)を遵守するための法的整備を要望する。 57ページ 第4節 読書保障 1.現状  読書するということは、生活の質の向上並びに社会参加する上で欠くことのできないものである。知識の向上や情報入手、円滑なコミュニケーションを図る観点からも重要なものである。  視覚障害者の読書環境として、主なものは、点字・音声・拡大文字がある。また、近年はテキストデータが含まれた電子書籍等による読書も利用されている。これらの点字・音声・拡大文字・テキストデータによる読書環境を充実するために、これまでは全国のボランティアによる支援が大きな役割を担っていた。また、全国の点字出版所が発行している点字出版図書を利用するために、墨字原本価格での購入補助が地域生活支援事業において実施されており、高価な点字出版図書が低価格で購入できる方法もある。  一方で、近年のICTの進歩により、視覚障害者の読書環境は確実に向上している。例えば、音訳図書のデジタル化によるカセットテープからデイジーフォーマット媒体への移行、点訳・音訳データのインターネットを介しての提供、電子書籍の音声読み上げなどにより、より早く、より容易に視覚障害者が読書を楽しむことができるようになってきている。また、出版社によっては、墨字書籍を購入後、書籍に添付された引換券を出版社に送ると、書籍のテキストデータを提供するサービスが実施されており、一般の書店で販売されている書籍を、視覚障害者が利用できるようにもなってきている。  しかし、日本国内では年間約7万数千タイトルの書籍が出版されている中で、点字・音声・拡大文字・テキストデータによる図書はごくわずかである。また、視覚障害者が読める点字などの図書になるためには時間がかかり、墨字の書籍を読む者よりも不合理なタイムラグが発生している。また、電子書籍は普及しているものの、音声読み上げに対応していなかったり、弱視者が書籍を見やすくする調整ができなかったりという問題などもある。  これらの問題を解決するため、近年、国内外で様々な動きが進展している。  国連の専門機関であるWIPO(世界知的所有権機関)は2013年(平成25年)、「盲人、視覚障害者その他の印刷物の判読に障害のある者が発行された著作物を利用する機会を促進するためのマラケシュ条約」を採択し、日本においても条約批准と批准に向けた著作権法の一部改正が2018年(平成30年)通常国会にて承認された。また、承認された改正著作権法第37条3項においては、視覚障害者や読字障害者に加え、上肢障害者といった直接印刷物の利用が困難な者のために録音図書の作成などを許諾なく行えるようになった。さらに付帯決議において「本法による改正後の著作権法第37条第3項に規定する視覚障害者等の読書機会の充実を図るためには、本法と併せて、同項により拡大図書やDAISY等の作成を行うことが認められる主体の拡大を行うとともに、当該視覚障害者等のためのインターネット上も含めた図書館サービス等の提供体制の強化、アクセシブルな電子書籍の販売等の促進その他の環境整備も重要であることに鑑み、その推進の在り方について検討を加え、法制上の措置その他の必要な措置を講ずること。」とされている。  これらの流れを踏まえ、視覚障害者が読書を通して、様々な考えや情報に触れることで見識を広め、コミュニケーションを促進するために、読書環境の更なる支援や環境整備が必要となっている。本連合では、読書バリアフリー法(仮称)の成立を通して、必要な書籍などがより早く安定して供給される環境の構築を目指している。 2.到達目標  @ 読書バリアフリー法(仮称)の早期成立。  A 発行される書籍などが視覚障害者を含む読書困難者が容易に利用できるよう、発行者からのテキストデータでの提供、利便性の高い電子書籍を普及させる。  B 国会図書館をはじめ、公共図書館、大学や学校の図書館、サピエ図書館が連携し、総合的に視覚障害者が必要とする書籍などを容易に検索・利用できる環境を構築する。 3.具体的方策  (1)短期  @ 専門点訳・音訳ボランティア、テキストデイジー製作ボランティアの養成。  A テキストデータ製作ボランティアの養成。  B 電子書籍へのアクセス向上を促進させるための出版社・行政機関などへの啓発。  C 出版社からの読書困難者に対するテキストデータ提供サービスの一層の拡大を実現するため、出版社に対する視覚障害者に向けたテキストデータ提供を向上するための技術研修の実施。  D 電子書籍などのデジタルデータを視覚障害者が利用するための機器・ソフトの充実。  E 電子書籍などを利用するための視覚障害者の技術習得。  F 著作権者並びに出版社が損益を被らないための措置。 (2)長期  @ 読書バリアフリー法(仮称)が実現した後、視覚障害者を含む読書困難者、図書館、出版社、行政機関などが参加し、運用などについて協議する場を設置し、継続的な検討を行う。  A 視覚障害者など読書困難者のさらなる読書環境整備が推進するよう、技術情報の収集や可能性の検討を行う。 4.課題  視覚障害者自身が、出版物の全てを無料で利用するという意識に加え、購入するという意識を向上させること。 61ページ 第5章 外出保障  62ページ 第1節 同行援護・移動支援の利用と拡充 1.現状 (1)はじめに  ガイドヘルパー(付添者)による支援は、外出保障の中心をなす事業として発展してきた。1970年代に入ってわが国最初のガイドヘルパー派遣事業がスタートし、支援費制度を経て、2006年(平成18年)4月に施行された障害者自立支援法の時点では、いったん地域生活支援事業における移動支援として位置付けられたものの、2010年(平成22年)からは視覚障害者同行援護事業として自立支援給付に位置付けられ今日に至っている。今や視覚障害者の外出手段の中でも最も安全で、視覚障害者の外出の自由を保障する柱となっている。 (2)地域間格差  ところが、本来、自立支援給付(障害福祉サービス)として全国一律に実施されるべき制度であるにもかかわらず、実施主体が市町村に委ねられているため、未だ制度として確立されていない自治体が多く、あるいは制度として実施されていても、地域間格差がはなはだ大きい。また、公共交通機関が発達していない地域や中山間地域と都心部との利用実態にも大きな差が生じている。  問題点は以下の三つに整理できる。  @ 利用できる時間数(支給量)は、本来、当該利用者の生活実態やその必要性に対応することが明記され、支給量は制限されていないにもかかわらず、ほとんどの自治体では上限が定められている。多くの自治体は、同行援護事業に対する国庫負担基準額(約50時間)を根拠に、利用できる上限を50時間としているところが多いが、それ以下の時間設定をしている自治体も相当数に上っている。  A 同行援護事業を利用して外出できる範囲を制限している自治体ないし事業所が珍しくない。例えば、事業所所在の都道府県内とか、当該自治体の隣接の都道府県などという制限を設けている例が散見される。  B 公共交通機関が整備されていないために、ヘルパーが運転する自動車を利用しなければならない地域でも、自動車の利用に制限がある。国は、あくまでも同行援護事業においては基本的にヘルパーが運転する自動車の運転を認めず、仮にヘルパーが運転する自動車を利用した場合には、その時間帯を同行援護従事時間とは認めていない。 (3)事業所の不足  2017年(平成29年)の国の発表によれば、同行援護事業所として指定を受けた事業所数は1万に上るが、そのほとんどは都心部に集中しており、とりわけ介護保険事業を兼務している事業所が圧倒的に多い。そのため、同行援護従事者の資質の確保や地域の視覚障害者のニーズを十分に受け止めていない事業所も多い。また、都道府県によっては、同行援護事業の利用実績がほとんどゼロに近かったり、ごくわずかな利用人数・利用時間数にとどまっている地域も多い。従って、全国どこに居住していても一定の質を維持したガイドヘルパーを利用できる状況とはなっていない。 (4)ヘルパーの不足  同行援護事業所等連絡会の活動によって、移動支援従事者資質向上研修が毎年繰り返し全国で行われているが、慢性的にガイドヘルパーの人数が不足した状態が全国で続いている。そのため、視覚障害者が事業所にヘルパーの派遣を要請しても、ヘルパーが確保できないため、新規申し込みが受け付けられなかったり、利用時間数を制限されたり、外出予定日より相当早い時期からの申し込みを義務付けられるなど、外出という日常生活ないし社会生活の性質からはとうてい看過できない実態が続いている。  また、近年はヘルパーの高齢化が進み、60代以下のヘルパーの確保が極めて困難な状況も続いている。 2.到達目標  まず、早急に実現しなければならないのは、視覚障害者の日常生活や社会生活を豊かなものにするためには、一定以上の支給量を確保することが急務である。喫緊の目標としては、最低でも国庫負担基準の基礎となっている1ヶ月に50時間以上の支給量を全国一律のものとすることが必要である。その上で、特別のニーズに対応するための追加時間を実現させる取り組みを行うべきである。  また、利用できる範囲(距離制限)の撤廃、宿泊を伴う外出保障、外出目的(趣味や嗜好などの用務)による制限の撤廃も解決する必要がある。さらに、中山間地域をはじめとする公共交通機関が発達しないことにより自動車利用が不可欠な地域において、ヘルパーの運転による移動を制度的に保障することなどの課題も解決する必要がある。 3.具体的方策 (1)短期  全国的に50時間以上の支給量の確保、外泊を伴う利用の確立、養成研修の継続、ヘルパーを確保するための謝金の増額、自動車利用のシステム化。 (2)長期  本連合加盟団体による事業所の立ち上げ、同行援護事業所等連絡会の組織強化。 4.課題  @ 未だに同行援護事業所が未設置であったり、同行援護事業に特化した(あるいはそれを中心とする)事業所が存在しない地域において、視覚障害者のニーズを受け止めることのできる事業所を全都道府県に設置することを、検討する必要がある。そのためには、本連合加盟団体ないし情報提供施設などの事業を行っている法人と連携し、3〜5年を目途とした事業所設置ないし拡大のプログラムを立てるべきである。  A 支給量が極端に制限されていたり、家族に晴眼者がいることなどを理由に、利用そのものを認めていないような極端な事例や自治体に対しては、審査請求や訴訟をも視野に入れた取り組みを検討すべきである。  B 厚生労働省との間で現状の問題点を共有化し、全国に均霑(きんてん)するための通知などを協議することも重要である。  C ヘルパーが運転する自動車については、法律改正が必要なのか、それとも福祉タクシーを含めた別の手段を拡大するのかについての早急な検討が必要である。  D 通勤・通学における利用についても早急な解決が求められる。  E 日常生活を送る中で、同行援護が利用できない行為(趣味活動、礼拝、仕事など)が沢山ある。人間として活動をする上で必要な行為を制限することについての妥当性を検討する必要がある。  F 外出保障の根幹として「安心・安全」があり、その点を支える環境の大前提として「外出しようという意思が持てる環境があること(=同行援護の制度が充実していることなど)」が必要である。 65ページ 第2節 歩行訓練 1.現状  視覚障害者が自立した社会生活を送る上で必要となるものの一つが単独歩行である。移動手段として同行援護があるが、制度上、就労の場面で利用することができないため、単独歩行の獲得は必須のものとなる。また、中途視覚障害者の多くは歩行訓練を受けていないことが多く、自身で獲得した歩行方法により移動しているのが現状である。また、訓練を受けた者であっても、その後の自身の歩行能力や歩行方法などを確認している者は少なく、訓練を受けていない者と同様に、安全で確実な歩行ができていない場面も見受けられる。  では、歩行訓練を受けられる体制が整っているかというと、十分に整備されていないのが現状である。  まず、身体障害者手帳取得時に歩行訓練を受けられる施設などの情報を行政機関より満足に受けられていないことが多く、福祉窓口から訓練機関への連携ができていない。  次に、訓練機関については、全ての地域で受けられるようには設置されておらず、設置されていても歩行訓練士の不足により、訓練を希望する者の依頼を受け入れられない状況にある。また、受け入れ体制が整っていても、訓練希望者ニーズに対応した訓練体制になっておらず、平日就労の者は訓練を受けるための休暇を取るなどしなければならず、訓練希望者にかかる負担も大きい。さらに、ほとんどの訓練が通所によるものが多く、訪問での訓練体制の充実が望まれる。  2018年(平成30年)の障害福祉サービス等報酬改定により、機能訓練事業所や非機能訓練事業所に加え、生活訓練事業所でも歩行訓練を受けられるようになった。しかし、歩行訓練を望む当事者への情報提供や医療機関・福祉事務所・当事者団体などによる地域連携もまだ不十分であったり、全ての事業所への歩行訓練士の配置、訓練施設に通所する際の同行援護の利用など、課題は山積している。 2.到達目標  居住地・時間を問わない訓練体制の充実が図られ、安全に安心して単独歩行ができる技術を習得するためのシステムの確立。 3.具体的方策  (1)短期  @ 歩行訓練士の更なる養成と各施設への配置。  A 駅構内など必要とされる訓練場所の拡大。  B 医療機関・行政機関・訓練機関との連携と相談窓口の充実。 (2)長期  @ いつでもどこでも、利用者のニーズに合わせた訓練が受けられる体制の整備。 67ページ 第3節 盲導犬 1.現状  現在、盲導犬は全国で1,000頭前後が稼働していると言われている。視覚障害者にとっては、いつでも・どこでも安心して街を歩くための「最高の友」として盲導犬が利用されている。盲導犬を利用する視覚障害者の満足度は高く、盲導犬と共に生活をすることで、日々の生活に自信を持てるようになった者もおり、視覚障害者のQOLを高めている大切な存在ともいえる。  しかし、盲導犬の稼働数はここ数年徐々に減少している。理由は様々だが、経済的・住宅的な事情、練習時間などの問題に加え、盲導犬自体の育成や訓練などにも問題があり、結果的に盲導犬を利用できない者、諦めなければならない者が多数存在している。それこそ、盲導犬を希望する視覚障害者は3,000人と言われているが、盲導犬を利用したくても利用できない視覚障害者を目の前にすると、その問題は使用者側の問題か、施設側の問題か、それらを支援する行政・法律の問題なのかをしっかりと考える必要がある。一方で、同行援護が便利になったことなど、視覚障害者の移動方法の変化により盲導犬の利用が頭打ちになっている部分もある。  盲導犬を利用するメリットである「いつでも1人で移動ができる」は、視覚障害者の外出にとって重要なことであり、今後の継続と発展が望まれる。そのためには、現状にある諸問題の解決が必要になっている。 2.到達目標  盲導犬を希望する全ての視覚障害者に貸与できるようなシステムなど、利用者が安心して盲導犬を利用できる制度や支援が必要である。 3.具体的方策 (1)短期  @ 現在、盲導犬の育成や利用者の訓練などは、多くは寄付金などの国民の善意で運営されている。そのため、安定的な事業を運営するために、事業費全般にわたり税金からの支援を求める。  A 盲導犬の訓練士などに対する国家資格制度の導入を求める。訓練士の待遇改善と就労の保証をすれば、盲導犬の育成が早まり、盲導犬を所持するまでの時間が短縮され、希望者が安全・安心に社会生活を送ることが可能になる。  B 現在は、訓練時間や訓練場所が制限されていて、利用者のニーズに見合わない部分がある。そのため、訓練場所を自宅付近にする、夜間の訓練、就労しながらの訓練など、利用者のニーズに見合った訓練を提供することを求める。  C 利用者にとっては、毎月の飼料代や医療費の負担が大きい。そのため、安心して盲導犬が利用できるように、これらの費用助成を求める。 (2)長期   科学の発達により高度な移動支援機器の出現が予想され、また、同行援護が今以上に利用しやすくなると、盲導犬の利用者数はさらに少なくなる可能性がある。しかし、盲導犬の価値は、移動だけではなく、例えば、中途視覚障害者からはアニマルセラピー的な価値も認められている。そのため、盲導犬の価値観を総合的に見直し、社会的に必要な存在であることを定義づける必要がある。 69ページ 第4節 環境整備と新技術への可能性 1.現状  近年、バリアフリー法の改正などにより、駅や建物、道路などのバリアフリー化が大きく前進しているとされている。  しかし、駅ホームの安全対策は、ホームドアの設置が一部の駅にとどまっているため、不十分な状態が続いている。また、乗車券のICカード化が広がっており、一部の地域や鉄道事業者では「障害者用ICカード」が導入されているが、JRを含め全国的な広がりにはなっていないため、割引による乗車は不便な状態が続いている。  一方で、音響式信号機は一定の広がりを見せているが、弱視者のための信号機の設置が進んでいないし、夜間・早朝などは近隣への配慮から音声が停止されている地域が多い。視覚障害者が道路を横断する上で、信号の状態を把握することは重要であり、中でも音は最大の情報源である。近隣環境にも影響がないように音響案内を24時間稼働させ、視覚障害者が安全・確実に道路を横断できるような環境整備が必要である。なお、多様な点字ブロックの開発や音声ガイドによる誘導が試みられているが、それによってかえって視覚障害者の混乱を招いている事例もある。  また、近年、ICTの進歩による様々な新技術・新製品が研究開発されている。視覚障害者の外出保障においても、これらの進歩に大きな期待が寄せられている。  移動において重要となるのは、目的地までのルート探索と実際に移動する際の状況把握である。移動ルートの探索については、既存の技術や取り組みにより、インターネット上で提供されている情報を利用したり、乗り換え案内アプリにより交通機関を知るだけでなく、電車の乗車位置や遅延情報も入手することができるため、前もって移動の計画をすることができるようになってきた。しかし、提供されている情報はまだ十分でなかったり、複数のサイトに散らばっていたり、音声や画面表示調整でうまくアクセスできないものも存在するため、提供方法については改善する必要がある。また、交通機関の乗り換えにおいても、ルート情報が地図のみの提供に留まり、音声読み上げソフトでアクセスできないものもあるため、音声読み上げや画面表示調整でも利用できるものが必要である。なお、視覚障害者にも利用できる駅構内や施設案内は、移動時に同行する介助者に対して適切に説明できることにもつながり、効率的な移動を実現させる。  さらに、スマートフォンのカメラ機能を利用して取得した画像情報から信号の状態を認識させたり、信号機から発信される電波を受信することで信号の状態を把握することなどの研究が進められている。他にも、移動をするための自動運転による自動車や移動支援ロボットの研究も進んでおり、今後の研究開発に期待が寄せられている。  これらのように、様々な技術の導入や研究が進められているが、視覚障害者の移動においては、安全性を十分に確保する視点での取り組みが最も重要である。特に、視覚障害者自身も日頃から移動に関する研究に感心を持つことも重要であり、新たな新技術については、研究の初期段階から議論に参加できるよう積極的に働きかけを行うことが求められる。 2.到達目標  外出保障(安全確保)をトータル的ないし総合的に検討し、現状の問題点を踏まえた上で、次世代の街づくりを提案する。  例えば、視覚障害者誘導用ブロックや音声案内が、駅から道路を経て目的場所まで連続性をもって整備されることや、端末による誘導や音声を利用した誘導は、視覚障害者誘導用ブロックとの複合利用によって安全性が高まるようにしなければならない。 3.具体的方策 (1)短期  @ 視覚障害の特性を反映させるため、バリアフリー法の改正を受けて市町村などの地域ごとに作られる対策に対して、当事者参加を図る。  A ハード面の整備と併せて、声かけや見守りといったソフト面での支援も充実させる。  B 新技術の研究に対しては、初期段階から視覚障害者も参加できるようにする。  C 視覚障害者向けの技術でなくても、研究開発されている技術情報について収集する。  D 歩行訓練の充実、盲導犬使用における制約の解消、同行援護(ガイドヘルパー)の利用の拡大などを並行して推進し、中途視覚障害者をはじめとする視覚障害者の外出の自由を拡大する。 (2)長期  @ 駅ホームにおける安全対策として、全ての駅ホームにホームドアや転落防止柵を設置する。未設置駅については、それに代わる安全策として、駅員の配置、転落検知マットの配置などを講じる。  A 新型ホームドアの整備においては、長さ、扉の位置や数の異なる車両に対応するため、様々なタイプのものが開発されている。新型ホームドアの開発においては、初期段階からの当事者参加が必要。また、どのタイプのホームドアがどの駅に設置されているかの情報を適切に当事者に提供する必要がある。  B 2018年(平成30年)より改正された公共交通機関における「移動等円滑化のために必要な旅客施設又は車両等の構造及び設備に関する基準を定める省令」において、全ての駅に内方線付点状ブロックを敷設することが義務化されたため、早急な整備を求める。  C 増加する無人駅化対策としては、労働組合との協力関係を持つことで、人員配置につなげることができる。 73ページ 第6章 地域生活 74ページ 第1節 住宅 1.現状  現状では、視覚障害者の住宅確保について特段の支援制度がなく、視覚障害者、特に盲導犬使用者が賃貸住宅を確保することは著しく困難な状況にある。  また、視覚障害者が支援を受けながら地域で生活したいと思い、グループホームに入居することを求めたとしても、そもそも視覚障害に対応できるグループホームが少ない。さらに、65歳を過ぎてから視覚障害を負った場合、障害者総合支援法が適用されず、グループホームに入居することができない。 2.到達目標  視覚障害があっても、自己の望む場所で、適正な家賃で住宅を確保できる社会を実現させる。  グループホームなど、支援を受けながら社会で自立したいと望む視覚障害者のために、制度や社会的資源を整備する。 3.具体的方策 (1)短期  @ 公営住宅への視覚障害者の優先的入居を可能にする法整備を求める。  A マンションなどの管理規則について、障害者の入居を断ってはいけないこと、盲導犬を拒絶してはいけないことなどを盛り込む抜本的な変更を求める。  B 65歳を超えて視覚障害者になった場合もグループホームなどへの入所を可能にする法改正を求める。 (2)長期  @ 本連合や本連合加盟団体がグループホームを建設し、会員が優先的にこれを利用できるような仕組みについて検討する。 75ページ 第2節 結婚 1.現状  わが国では、社会全体において未婚の男女が増えてきている。そして、視覚障害を持つ男女の婚姻率も高いとは言えない。  一方で、男女共同参画社会といわれるが、家庭生活となると女性が担う負担が大きいのも現状である。 2.到達目標  到達目標を数値化することは難しいが、視覚障害という個性を理解してもらうための取り組みとして、個人のセールスポイントや特技などを積極的にアピールすることが重要である。また、あくまでも恋愛は個人の問題であるが、視覚障害ということを理解してもらうために、積極的に他者との交流を図ることが望ましい。 3.具体的方策 (1)短期  人を好きになる、または好意を持ってもらうためには自らの趣味や特技を披露することも大切であり、教育、文化、スポーツ、趣味娯楽など、外に向けた発信が出会いのきっかけとなる。そのため、本連合が主催する様々な事業やイベントに、一般の方への参加を促すような方策が必要である。  また、テレビ番組やインターネット配信番組などで視覚障害を持つ夫婦のリアルな生活を放送し、多くの国民に現状を知ってもらう工夫も必要である。  さらに、日常生活上必要な掃除や洗濯、調理や子育てなどに関する体験を伴う訓練の機会を提供することが重要で、これらは夫婦の共同作業という認識で向き合うことが肝要である。 (2)長期  誤った理解などからくる偏見や差別は短期に解決するものではなく、時間をかけてじっくりと取り組む必要がある。特に、本連合加盟団体は、地域に根ざした視覚障害者理解につながる継続的な活動を推進することが求められる。 4.課題  そもそも、結婚というのは個人的なことが大きなウェートを占めている。併せて、家族や兄弟、親戚という関係も決して無視できるものではない。また、出産という大切な役割を担う女性が直面する妊娠・出産・育児に係る本人または赤ちゃんへの身体的または精神的については、あらゆるケア、さらには健康管理や医療などにおいても視覚障害に配慮した指導や助言の体制が必要となっており、これらの整備は重要な課題である。なお、これらは一元的に考えるのではなく、個別の状況に応じた柔軟な対応を第一にすべきである。 77ページ 第3節 地元社会との繋がり 1.現状  視覚障害児は、小学校入学あたりから、視覚特別支援学校に入学・入寮するため、地域との関わりが非常に少なくなる。寄宿舎生活ではなく、通学している場合であっても、視覚特別支援学校自体が近くにないことなどから、同年齢児との繋がりが絶たれる環境に陥る。  また、視覚特別支援学校を卒業した者は、余暇活動や地域の協力活動などを通し、一部の健常者との繋がりを持つことがある。他方、中途視覚障害者の場合は、地域との関わりに一時的に分断されることもあるが、自分の障害を受容し、同居家族や自宅周辺住民の障害理解が進めば、地域との繋がりが持ちやすくなるとされている。しかし、視覚障害者は、地域生活においては、回覧板を回したり、地域の自治会活動や防災訓練、地区のレクリエーション、盆踊り、町ぐるみ大清掃などへの参画ができない状況にあり、なかなか地元社会と繋がらない傾向にある。  また、地域での様々な障害者との交流に目を向けると、障害者団体は障害別に組織されているが、地域ごとの障害者組織は必ずしもあるわけではなく、それぞれの障害から他障害への理解は進んでいない。そのため、視覚障害者は、同一の障害者のグループ内で交流する場合が多く、生活の場である地域の各種団体との交流が不十分になっている。 2.到達目標  視覚障害児は、地域で生活することにより、地域の同年齢児と交流を持ち、周囲との相互理解を図ることが必要である。  また、成人をした視覚障害者は、様々な支援の確立と地域からの理解を生み出し、自治会などの地域活動への参加を通して、地元社会との繋がりを作る。 3.具体的方策 (1)短期  視覚障害者が自治体活動を行うのに必要な移動の支援、代筆・代読の支援、金銭管理などの処理の補助が受けられるようにする。これにより、積極的に自治体活動に参画することができ、さらに、地域との交流を深めれば相互理解を図ることもできる。  また、災害時の避難や避難所での生活は、地域社会との繋がりがないと実現しない。そのため、地元の人に視覚障害者を理解してもらうための取り組みを行う。 (2)長期  都道府県や政令指定都市の本連合加盟団体において、自治会や町内会、老人クラブ、女性会などの地域団体と懇談し、当該地域に居住する視覚障害者への理解を後押しさせる。 79ページ 第4節 一人暮らし   1.現状  現在、国民全体の未婚化と高齢化の流れを受け、視覚障害者の単身世帯が増加し、併せて高齢化が進んでいる。  単身世帯では、地域社会との関係が希薄になる傾向にあり、一定の人間関係を維持しつつ、QOLを確保することが課題となっている。 2.到達目標  単身の視覚障害者であっても、その者が望む人間関係を維持し、日常生活に困らず、生きがいをもって暮らすことのできる社会制度を実現する。 3.具体的方策 (1)短期  単身の視覚障害者が、どのような困難を抱えているのかについて、実態を調査する。  各地域の当事者団体が、民生委員などと連携し、単身の視覚障害者の情報を収集するとともに、積極的な声かけや支援制度の紹介などを行い、社会との接点を持たない孤独な視覚障害者をなくす。 (2)長期  単身の視覚障害者が、個人のプライバシーを守りつつ、支援を受けながら生活できるグループホームなどを各地に建設する可能性を検討する。 4.課題  昨今の個人情報保護の意識の高まりを受け、地域の当事者団体が、行政を通じて単身の視覚障害者の情報を把握することが困難な状況にある。これを改善するためには、各団体が、日常的に行政や民生委員との繋がりを持ち、行政担当者や各民生委員と個人のレベルで信頼関係を醸成しておく必要がある。 80ページ 第5節 消費生活 1.現状  生活必需品、あるいは自分の生活を豊かにしてくれる様々な品物を選び、購入し、それを使用することは、日常生活の最も基本的な活動の一つである。  以下では、店舗での買い物の問題、インターネットショッピングの問題、クレジットカードの問題に分け、現状を概観する。 (1)店舗での買い物について  従来の小規模店舗型の対面販売では、視覚障害者は店員とのコミュニケーションを図りつつ、品物を選定し、現金で決済し、必要に応じてその場で購入した商品の使用法を教えてもらうことで、比較的容易に買い物を行うことができた。  しかし、近年の店舗の無人化や大規模化により、視覚障害者の店舗での買い物は困難になりつつある。  例えば、以下のような問題がある。  @ 一部で導入されつつある無人店舗やセルフレジでは、視覚障害者が単独で商品を購入することができない。  A 視覚障害者が大規模な店舗に買い物に行った場合、店舗内を移動しつつ目的の商品を探すことが困難である。また、どこに店員がいるのかが分からず、店員にサポートを依頼することも困難である。 (2)インターネットショッピングについて  ICTの発展に伴い、品物の選び方や決済手段など、買い物の全ての段階で様相が変わってきている。この変化により、自宅にいながらにして様々な買い物ができるようになるなど、視覚障害者の利便性が高まった側面があるが、かえって視覚障害者の買い物が困難になった面があることも否めない。  例えば、以下のような問題がある。  @ ホームページ上に掲載された商品の写真が見えなければ希望の品物を選ぶことが難しい。  A 複雑なホームページから目的の品物を探すことが困難な場合がある。  B 家電製品の設置方法や使い方などを購入時に説明してもらうことができない。  C インターネット上に掲載された家電製品などの説明書は、画像のみのPDFファイルのために音声ブラウザで読み上げることができない場合がある。  また、ネットショッピングで購入した商品を受け取るために、近年では宅配ボックスの活用が進んでいるが、宅配ボックスの暗証番号の入力がタッチパネルになっているなど、視覚障害者には利用困難なものが多い。つまり、宅配ボックスがネットショッピングを行おうとする視覚障害者の新たなバリアとなりつつある。 (3)クレジットカードについて  クレジットカードなどのように、本人確認手段として署名を必要とする決済手段は、長らく視覚障害者にとって高いバリアであり続けている。  例えば次のような問題がある。  @ カード申込み時に名前を自署できないことで、視覚障害者がクレジットカードを契約することができない場合がある。  A 品物の購入時、加盟店での名前の自署を求められ、これができないことでカードを使えないという場合がある。 2.到達目標  @ 視覚障害があっても、全ての店舗で快適に買い物ができるようにする。  A 視覚障害があっても、全てのインターネットショッピングにアクセスできるようにする。  B 自らの氏名を自署できない視覚障害者でもクレジットカードを用いた買い物ができるようにする。 3.具体的方策 (1)短期  @ セルフレジや無人コンビニなどの問題について、本連合の女性協議会などと連携して具体的な事例を収集し、経済産業省、消費者庁、業界団体などに対して、視覚障害者も単独で商品購入ができる仕組みづくりを求める。  A 視覚障害者がアクセスしにくいインターネットショッピングのホームページの情報を収集し、同ホームページの運営会社などに改善を申し入れる。  B 金融庁や業界団体に対し、視覚障害者のクレジットカード利用について、署名を自署できなくともカード契約が締結でき、商品購入に際しても必ずしも署名を必要としない本人確認の方法の実現を求め、積極的な働きかけを行う。 (2)長期  @ 全てのインターネット上のホームページについて、視覚障害者のアクセシビリティーを確保することを法的義務とする包括的な情報バリアフリー法の制定を目指す。 83ページ 第6節 家庭生活 1.現状  視覚障害者が家庭での家事などをこなすために、家庭生活訓練や日常生活訓練が活用されている。しかし、男性や仕事をしている視覚障害者は、これらの中期的訓練が受けにくい。  また、居宅介護の家事援助なども家庭生活を支える上で重要な支援となっているが、同居者に健常者がいると家事援助が受けられなかったり、受けられたとしても1回あたりの算定時間が短いことが多い。 2.到達目標  視覚に障害があっても、男女にかかわらず、自立のためには家事全般の技術を身につけることが必要である。視覚障害者でも使いやすい機器が開発され、家事がしやすくなることも大切である。  また、家事援助は、希望する全ての視覚障害者が利用できる制度にする必要がある。 3.具体的方策 (1)短期  @ 同居者に健常者がいても、子育て中であったり、高齢者である場合などには、家事援助が受けられるようにする。また、1回あたりの時間を2時間以上にしてもらう。  A 男性、または勤務している者でも家庭生活訓練が受けられるようにする。  B 新しい機器を開発する際には、視覚障害当事者の意見も取り入れてもらう。 (2)長期  @ 家事援助がいつでも希望する時に受けられるようにする。  A 普段の掃除だけでなく、大掃除にも家事援助が使え、家の中以外(屋敷内やベランダなど)の掃除なども家事援助でできるようにする。 84ページ 第7節 社会貢献活動 1.現状  視覚障害者が個人としてボランティア活動に参加したり、地域団体(自治会や町内会など)に参加し、可能な活動を行っている者もいるが、本連合あるいは本連合加盟団体などによる社会貢献活動は十分には検討されてこなかった。一部の団体が、地域が必要とする活動の一翼を担ったり、あはきや音楽活動などを通じて活動している例が見られる程度である。 2.到達目標  本連合あるいは本連合加盟団体がどのような社会貢献活動が可能であるかを検討し、各団体や会員に提案する。 3.具体的方策 (1)短期  団体及び会員に対しアンケートなどを行って、社会貢献活動に対する意識調査を行うとともに、具体的提案を検討する委員会を立ち上げる。 (2)長期  検討委員会でまとめた具体案や行動提案を実施に移す。 85ページ 第7章 権利擁護 86ページ 第1節 裁判を受ける権利 1.現状  裁判においては、多くの手続きが墨字文書のやり取りによって進められる。そのため、視覚障害者が原告・被告などの裁判当事者ないし証人などの裁判関係者になった場合には、文書の点訳・音訳など、適切な合理的配慮が必要である。また、視覚障害者が裁判員になって裁判に関与することもあるが、裁判員として適正な判断を行うためには裁判資料などの情報保障が不可欠である。  しかし、現行の民事訴訟法、刑事訴訟法、裁判員法には、障害を持った当事者や関係者に対する情報保障の規定がほとんどない。わずかに、聴覚障害を持つ者に、通訳を介したり筆記でやり取りをすることなどが認められている程度である。 2.到達目標  裁判という重要な手続きにおいては、視覚障害があっても、自らの望む方法で情報を発信し、情報を受けられる制度の整備が必要である。  裁判所の責任と費用において、裁判資料の点訳・音訳・テキストデータ化などが行われ、視覚障害があっても、裁判において情報の授受において不利が生じないようにしなければならない。 3.具体的な方策 (1)短期  聴覚障害や盲ろう者の団体などと連携し、裁判においていかなる合理的配慮が必要なのかを研究する。 (2)長期  民事訴訟法、刑事訴訟法、裁判員法などの関連法規に、裁判所の義務として、障害を持つ当事者や関係者に対する合理的配慮を明記する法改正を目指す。 87ページ 第2節 成年後見制度の利用 1.現状  わが国では、高齢化社会を見据え、2016年(平成28年)に成年後見制度の利用の促進に関する法律(平成28年法律第29号)が制定され、今後は成年後見制度の利用がますます増加することが見込まれる。  視覚障害者についても、@成年後見人に就任する場合、A成年被後見人となる場合の両面にわたり、制度を利用する機会が増加することが考えられる。その際には、視覚障害があることが、制度を利用する際の障壁にならないようにする必要がある。  また、今後、任意後見契約制度の利用が増加することも考えられることから、この場合においても、上記@Aの両面にわたり、視覚障害があることが、制度を利用する際の障壁にならないようにする必要がある。  なお、成年後見制度を利用する場合、家庭裁判所における手続きが必要となるが、この場合の課題については、前節を参照されたい。 2.到達目標  @ 視覚障害者が成年後見人に就任する場合、適切な援助者の配置が必要となるが、この援助者の配置にかかる費用については、国が負担すべきである。    そして、成年後見人の選任権を有する裁判所に対して、視覚障害者が成年後見人の業務を行なう場合、援助者の配置があれば、視覚障害が障壁とならないことについての理解を十分に図る必要がある。  A 視覚障害者が被後見人となる場合、視覚障害者及びその家族が、安心して成年後見制度を利用することができるように、家庭裁判所における手続きや、選任された成年後見人とのコミュニケーションの場面において、視覚障害の程度に応じた合理的配慮が提供される必要がある。  B 視覚障害者が任意後見契約を利用する場合、任意後見契約上、任意後見受任者としての立場、本人としての立場の双方で関わることが考えられる。    任意後見受任者としての立場となる場合、前記@に準じることになるが、援助者の費用については、原則として、本人との合意に基づき本人の財産から拠出することになろう。ただ、合理的配慮の提供の観点からすれば、国に対し、援助者に関する費用負担制度の創設を求めることも必要となると考えられる。また、任意後見監督人とのコミュニケーションを十分に図るためにも、任意後見監督人に対して、視覚障害の特性の理解がはかられる必要がある。    他方、本人としての立場となる場合、前記Aに準じることになる。    なお、任意後見契約を締結する際には、公証役場における手続きが必要となるため、公証人及び公証役場職員の視覚障害特性に関する理解が必要となる。 3.具体的な方策 (1)短期  以下の者より、成年後見制度及び任意後見契約制度を利用するに際し、困った点や改善を希望する点についての意見を出してもらい、問題点を整理する。  @ 成年後見人として活動している視覚障害者(任意後見契約に基づき就任している場合を含む)。  A 成年後見制度の利用を検討している視覚障害者やその家族、あるいは、既に被後見人の立場にある視覚障害者やその家族。  B 任意後見契約制度を利用した視覚障害者やその家族。 (2)長期  前記のとおり整理した問題点を踏まえ、市民後見人候補者や弁護士・司法書士などの専門職、成年後見人に就任しようとする者、公証人、公証役場の職員、任意後見監督人に就任しようとする者に対して、研修などを通じて、視覚障害者に対して提供が必用となる合理的配慮を周知する。 89ページ 第3節 契約の締結 1.現状  視覚障害者は、自筆での署名ができない、重要事項説明書を読めないなどの理由で、クレジットカードの作成、各種保険契約、住宅ローン契約など、様々な場面で契約の締結を拒絶されることがある。  また、契約締結に際し、視覚障害者単独での手続きを拒否し、健常者の家族や親族を連れてくるように求められることもある。 2.到達目標  視覚障害があっても、自らの意思のみに基づいて、追加の費用負担なく様々な契約手続きを行うことのできる社会を実現させる。 3.具体的な方策 (1)短期  本来、契約は当事者間の意思の合致のみで成立するので、署名は契約締結の必要条件ではないはずである。しかし現状では、契約当事者の本人確認及び本人の意思の確認のための最も簡便な方法として、多くの契約場面で署名の自署が求められている。つまり、署名以外の方法で契約当事者の本人確認と意思の確認ができるのであれば、署名を自署できない視覚障害者も有効に契約を締結できるはずである。  そのため、障害者本人にとって利用しやすい契約関係書類の代読、契約書への署名の代筆を公的に支援する制度の実現を求めて働きかけを行う。この制度の実現に向けては、一方で、その者の意思に従った契約を結ぶことができること、他方でそのものの意思によらない契約締結(なりすましなど)を防止することの視点が必要である。  また、ICTの発展により、顔認証などの生態認証が契約場面に導入される場合、それが視覚障害者にとって利用しやすいものとなるよう、経済産業省や業界団体に働きかけを行う必要がある。 (2)長期  視覚障害者が契約を締結するに際し、必要に応じ、公費で、弁護士、司法書士、公証人などの法律実務に精通した専門家の支援を受けられる制度を実現する。 90ページ 第4節 虐待や差別を受けた場合の救済 1.現状  視覚障害を理由に虐待やハラスメントを受けたり、差別を受けた場合、適切な相談窓口がないために泣き寝入りを強いられる視覚障害者は依然として多い。  しかし、本来、このような困難や不便の声の受け皿となるべき視覚障害当事者団体には、相談を受け、適切な紛争解決を行うノウハウが十分ではない。 2.到達目標  本連合をはじめとする視覚障害当事者団体が、差別や虐待などの相談を受け、解決に向けた助力ができる仕組みづくりを行う。 3.具体的方策 (1)短期  本連合において既に設置されている「金融機関110番」のように、「差別解消法110番」、「障害者虐待110番」など、身近な問題を相談できる窓口を設置する。  そして、そこに寄せられた相談のうち、必要があると判断したものについては、本連合として抗議文や要請文を送る、電話や訪問などで改善策を話し合うなどの解決に向けて支援を行う。個々の問題に対しても組織として積極的に動き、会員にとって本連合が「使える存在」、「頼りになる存在」になることを目指す。 (2)長期  視覚障害者全体への影響が大きく、波及効果を期待できるような事例については、本連合が金銭的なバックアップを行って裁判を起こすことができる仕組みを作る。  例えば、アメリカの全米盲人連合(NFB)は、団体として積極的に訴訟支援を行っている。視覚障害者に対応していない電子書籍端末(アマゾン社のキンドル)の導入を決めたアリゾナ大学に対し、ADA法に違反するとして全米盲人連合が訴訟を提起した。この訴訟がきっかけとなり、その電子書籍端末を開発しているアマゾン社は、当該端末に視覚障害者向けの読み上げ機能を搭載することになった。  当事者団体の訴訟支援の方策については、このような海外の先進的な例を研究し、本連合がどのような取り組みを行うことができるか検討する。 91ページ 第5節 防犯 1.現状  視覚障害者が地域で安心して暮らすためには、住居の安全や、移動の安全が確保される必要がある。しかし、核家族化が進んだ現在の社会状況にあっては、地域社会における連携の意識が希薄化し、他者に対して無関心となる傾向が強い。その結果、地域で生活する視覚障害者が日常生活を送る上で孤立を深める場合も多い。  また、視覚障害者が犯罪の被害に遭遇した場合、視覚から得られるはずの犯人特定情報などの関連情報が得られないため、被害回復が図られない危険性も大きい。犯罪防止・被害回復のための支援器具の普及は急務である。 2.到達目標  視覚障害者が地域社会において安心して暮らせるようにするため、住居の安全、移動の安全を確保する目的で、市町村及び町内会などと連携したネットワーク体制を構築する。  また、視覚障害者が犯罪に遭遇した場合、犯人特定情報などの関連情報を得るための支援器具(例:車載カメラなど)の開発・普及が求められる。  そして、視覚障害者自身も、日常的に防犯の意識を持ち、自らを守る術を持つようにしなければならない。 3.具体的な方策 (1)短期  災害時要援護者名簿などを利用して、視覚障害者が希望する場合には、市町村役場、地元の警察、町内会や民生委員とのネットワークの構築を試みる。ただし、この場合には、視覚障害者のプライバシー保護についても留意する必要がある。  また、各都道府県警察とも連携し、視覚障害者向けの防犯教室や啓発活動を実施する。 (2)長期  視覚障害者が被害にあった場合に直ちに救助を求めることができるようにするため、警察などへの直通緊急通報ボタン(携帯用)などの器具を検討し、普及させることを検討すべきである。  また、視覚障害者が犯罪に遭遇した場合に備えて、犯人特定情報などの関連情報を取得するための器具を開発・普及させ、被害回復がはかられるようにすべきである。 93ページ 第8章 医療・健康 94ページ 第1節 医療を受ける機会の保障 1.現状  視覚障害者が診療機関から受診を拒否されることは稀であるが、盲導犬ユーザーの場合、院内ないし診察室に盲導犬を同伴することを拒否されることがある。また、受診のための移動保障は十分とはいえない状況もある。  一方で、情報提供の観点では、受診時における必要にして十分な情報保障や、市販薬などの点字表示などはほとんど実施されていない。処方薬に対し、まれには点字表示を付けてくれる場合もあるが、常に表示してくれる状況ではない。  さらに、子育て中の視覚障害者には、子供の受診時における支援もほとんどないし、視覚障害者の入院時における支援のうち、外出保障は実現したものの、病室における支援は未だ不十分なままである。  視覚障害者にとって、医療機関は身近な存在であるべきだが、依然として利用を阻害する高い壁が存在している。 2.到達目標  @ 診療情報や薬剤(市販薬を含む)に関する情報保障(点字表示、薬剤の効能や副作用などの点字化、音声化、拡大文字化)を拡大する。  A 院内での移動、治療及び入院生活における安全安心を実現する。 3.具体的方策 (1)短期  @ 入院時の代筆・代読支援が制度化されたものの、未だほとんどの自治体では実施されていないため、全国で入院時に代筆・代読支援が受けられるようにする。  A 診療従事者による移動支援や治療に対する説明が的確に受けられるようにするために、医療関係者への研修を徹底させる。  B 処方薬や市販薬のパッケージなどに点字を表示し、希望をすれば説明書の点字版・音声版・拡大文字版を添付または別途送付してもらえるようにする。  C 緊急時でも受診のための移動支援が受けられる制度を検討する。 (2)長期  @ 今後はAIやインターネットを活用した医療が具体化されることが予想されるので、視覚障害者が自宅で診察が受けられるような体制を検討する。  A IPS細胞などを用いた先端医療による視力の保全や回復などが受けられる医療保障を実現する。 96ページ 第2節 健康増進 1.現状  視覚障害者は移動が困難であることから、各種スポーツ施設の利用が難しいとされている。そのため、視覚障害スポーツ以外を単独で行うことは困難であり、運動不足に陥りやすい傾向にある。  また、食品のカロリー表示の確認も困難であるため、肥満に陥りやすい傾向もある。 2.到達目標  @ スポーツ施設のバリアフリー化を推進。  A 視覚障害スポーツの啓発。  B 視覚障害者の健康増進意識の定着。 3.具体的方策 (1)短期  @ スポーツ施設のバリアフリー化を要望する。  A 本連合のスポーツ協議会を中心に、当事者と社会への視覚障害スポーツの啓発を行う。  B 食品のカロリー、賞味期限(消費期限)が容易に確認できるバーコードの整備を要望する。  C 加盟団体の視覚障害者BMI指数のアンケートや健康意識に関する調査を行う。  D 運動不足となりがちな視覚障害者の体力維持増進のためのレクリエーションの提供やサークルの結成を働きかける。 (2)長期  @ これまでの障害者スポーツに加えて、タンデム・ダイビング・マラソンなどの新スポーツ(ユニバーサルスポーツ・アダプテッドスポーツ)の分野において、スポーツボランティアの育成を行う。 97ページ 第3節 視覚障害予防 1.現状  高度成長期以来、生活習慣病である糖尿病の増加に伴う糖尿病網膜症の増加に加え、超高齢化による緑内障と加齢黄斑変性の増加が近年著しく、視覚障害者に占める中高年の割合が非常に増加している。また、網膜色素変性のような遺伝性網膜疾患も、治療法の開発も研究段階に留まっているため、相変わらず視覚障害の主要な原因となっている。このように、高齢者での視覚障害受障者と視覚障害者の高齢化が著しく、視覚障害者の健康管理が、以前にも増して重要になっている。  糖尿病と緑内障の早期診断・早期治療については、以前より繰り返し啓発活動が眼科医療で続けられているが、未だに重症例での発見が後を絶たない。また、治療には自己管理が不可欠であるがその教育が十分できていないという問題もある。これは、眼科医や行政から情報などを発信するだけでは不十分であることを意味し、視覚障害当事者からの社会啓発がより重みのある情報となり、有効であると思われる。そのため、本連合から社会啓発することで、一般の健診率を向上させ、かつ、眼科患者への啓発を促進する必要がある。  一方で、医学の進歩による新生児死亡率の低下から、逆に増加傾向にあった未熟児網膜症は、この10年で減少傾向に転じたものの未だに存在し、また、先天眼疾患の有病率は変化していないため、地域の幼稚園・保育園・学校へ通学する弱視の幼児・児童が一定数存在する。そのため、視覚障害の障害特性を踏まえつつ、教育の中での健康管理についてもこれまで同様に推進していかなければならない。 2.到達目標  健康診断や人間ドックを受ける者の割合を上げ、糖尿病と緑内障の早期発見を促す。さらに、視覚障害者の障害理解とともに、成人病予防を促進する。 3.具体的方策 (1)短期  @ 本連合からの情報発信と分かるポスターを作成し、全国の眼科施設(約8,500ヶ所)に配布する。高齢化に伴う視覚障害に関する社会啓発を進め、国民の眼科健康診断への参加を促す。  A 視覚障害者への一般健康診断への参加を呼びかけるとともに、生活習慣指導の受診を促す。  B 医療施設職員への視覚障害啓発を進め、視覚に障害があっても受診しやすい環境づくりを促す。  C 保育園・幼稚園・学校職員への視覚障害啓発をさらに行い、障害児童・生徒に対する健康教育を進め、障害理解を促す。 (2)長期  @ 教員養成を担う大学教育学部において、視覚障害者に関する障害理解と健康保持に対する教育の機会を増やす。 4.課題  具体的方策を実施するためには、以下の課題を解決する必要がある。  @ ポスターのデザイン。  A ポスター作成配布にかかる費用の捻出。  B ポスター配布ルートの獲得。  C 配布後、実際に外来待合に掲示させるための工夫。  D 視覚障害者への一般健康診断受診促進方法。  E 医療機関側で受診しやすい環境づくりを推進させる工夫。  F 学校職員に対する視覚障害啓発の方法。  G 大学教育学部教育カリキュラムへの導入法。 99ページ 第9章 高齢者 100ページ 第1節 在宅介護 1.現状  わが国では、国民の高齢化が進んでいるため、医療機関などへの長期入院は許されず、在宅医療を中心とする方向性が進んでいる。このような背景があるため、介護の現場では、老老介護を上回る、障害者が高齢者を見守る「障老介護」、または障害者が高齢の障害者を見守る「障障介護」が行われている。この障老介護や障障介護は、肉体的にも精神的にも、そして金銭的にも大きな負担となり、高齢の視覚障害者にとっては大きな問題となっている。  一方で、現在の介護保険制度を利用して、住み慣れた地域で在宅介護を受けながら生活をすることは非常に大切であるが、一人暮らしの高齢の視覚障害者の場合、地域からの支えあいがない限り、実際には満足に暮らすことは難しく、支えあいの中でも課題が多い。例えば、民生委員の見守り活動などは、高齢の視覚障害者にとっても有益とされているが、視覚障害者に配慮した見守りが行われず、かえって不快な思いをすることもある。  障害の有無を問わず、介護を受ける・介護を行うことは、高齢者になれば当然避けることはできない課題である。そして、視覚障害者の場合、障害があるがゆえに、この問題を更に複雑にしている。つまり、この複雑な問題の解決を図ることが、安心した在宅介護の実現のために必要とされている。 2.到達目標  全ての視覚障害者が安心して在宅介護を受けられることを目標に、視覚障害者を包括的に支える制度を確立させる。 3.具体的方策 (1)短期  高齢の視覚障害者が介護を受けること以上に、視覚障害者が介護を行うことは、行動面や意思疎通において困難な部分が多い。そのため、「障老介護」「障障介護」への支援は必須になり、様々な施策を確立させる必要がある。例えば、障障介護の場合、介護を受ける側、介護を行う側が効率的にショートステイやデイサービスを利用しながら、お互いの負担を軽減し、介護生活を楽しみながら過ごせるようにするなど、利用者本位な制度に改める必要がある。  また、支援者やケアマネージャーなどが視覚障害者の特性を理解しないことが多いため、その改善も必要となる。そのためには、支援者などの養成において、障害者理解の時間を盛り込むことなどを行う必要がある。 (2)長期  今後、団塊世代の介護が頂点となるため、介護を行う側のマンパワーが限界になると予測されており、今後は介護を行う人材の確保が重要になっている。そのため、外国人労働者の活用が求められているが、障害者の介護での活用は後回しにされている印象がある。在宅介護においては、外国人労働者による視覚障害者の支援を長期の視点で検討する必要がある。  また、マンパワーを補うものとして介護ロボットやICTの活用も進んでいる。これらは、介護を受ける側、介護を行う側である視覚障害者も利用できる内容になるべきである。そのため、視覚障害当事者が積極的にこれらの開発に意見を述べて、確実に視覚障害者が利用できる、また利用した際に不便のない内容にすることが求められる。 102ページ 第2節 老人ホーム 1.現状  視覚障害に特化した盲老人ホーム(盲養護老人ホームや盲特別養護老人ホーム)は、2008年の時点で80施設、5,000名弱が入所しており、高齢の視覚障害者にはなくてはならない存在である。  その一方で、一般向けの老人ホーム(特別養護老人ホーム、有料老人ホーム、グループホーム、ルームシェアなど)へ、高齢の視覚障害者が入居することも増えている。しかし、これらの一般の施設を全盲や弱視の視覚障害者が利用することは大変困難であり、改善を求める声が多い。例えば、施設内での移動においては、視覚障害者用誘導ブロックや音響案内が設置されてないなど、視覚障害者への配慮は乏しく、施設の職員にお願いしないと移動ができないことがある。この場合、施設の職員の手が空いていれば移動ができるが、大半の施設では人手が足りず、このようなお願いが後回しになってしまう。つまり、トイレに行きたくても行けない視覚障害者が多いとされている。この他にも、入居者や施設職員とのコミュニケーションが難しい、施設内の各種備品の利用が困難であるなど、高齢の視覚障害者が施設を利用すること自体が難しく、施設に入所したとしても、結果的に孤立してしまうことは大きな問題である。  また、その視覚障害者の収入や家族構成によって、入所時の補償金や毎月の利用料金で内容は大きく変わり、家族がいるとそもそも入所できないこともある。高齢の視覚障害者を介護することは、家族がいたとしても難しいことが多く、本人が施設への入所を希望するのであれば、その希望に従って施設に入所できるようになることが、本来の介護ではないだろうか。  高齢の視覚障害者は、家族関係、住宅環境、体調などを考慮すると、老人ホームへ入所することは平穏な老後を暮らすための重要な選択肢である。しかし、現実では、安心して入所ができない状況となっているため、高齢の視覚障害者は「平穏な老後がない」と言っても過言ではない。 2.到達目標  老人ホームは、本人の意思で希望する入居先を決められることを大前提に、視覚障害者が入所しても安心して老後を過ごせる制度、仕組みに変更を行う。 3.具体的方策 (1)短期  老人ホームへの入所は、本人の意思を第一に考えるべきであり、家族の有無、収入などで入所することの差異が生まれない制度に改める必要がある。  さらに、共生社会の時代において、施設における障害者理解や合理的配慮の提供が求められることを踏まえると、施設自体や施設の職員が障害者を理解する必要がある。視覚障害者においては、視覚障害特有の困難さがあることから、その障害特性を理解した上で、ハード面、ソフト面での支援が行えるよう、様々な施策の確立を求めていく。  また、一般の施設において、視覚障害者への支援が難しいのであれば、視覚障害者に特化した盲老人ホームを活用することも重要になる。これらの施設を増やす取り組み、さらに入所しやすくする取り組みも行っていく必要がある。 (2)長期  一般の老人ホームにおいては、障害者ではない入所者が、一緒に入所する障害者の入所者のことをいかに理解するかが課題となっている。しかし、世間一般での障害者理解が進まないことと同じで、このような高齢者に障害者理解を進めることはなかなか難しい。国が進める心のバリアフリーの取り組みを、このような高齢者を含む全世代を対象として、長期の視点で改善を図っていく必要がある。  一方で、施設側としては、障害者を受け入れやすくする試みを実施すると、必要以上に経費がかさむ現実もある。そのため、障害者を受け入れた場合、施設側の処遇改善も同時に実施しなくては、障害者が安心して入所できる施設とはならない。この点は、国民の理解を得ながら、同時に改善する必要がある。 104ページ 第3節 生きがい対策 1.現状  障害の有無を問わず、高齢になり、老後を楽しく過ごしていくことは重要なことである。それこそ、仕事や趣味などの充実を通して日々の生活を明るく過ごす者も多く、老後の生活の中で「生きがい」を見つけることは、高齢視覚障害者にとって大きな課題となっている。  例えば、高齢の視覚障害者の中では、体力づくりの一環でスポーツを生きがいの一つとして楽しむ者が多い。サウンドテーブルテニスなどの専門競技に参加する者から、名所などの散策、それこそ鉄道会社が開催する各種歩け歩け大会などの手軽なものなど、幅広くスポーツを楽しんでいる。  また、読書が好きな者は点字図書館やサピエ図書館で本を借りたり、対面朗読サービスを受けたりと、読書も生きがいの一つとされている。さらに、映画や美術鑑賞、歌や踊りといった芸術的なレクリエーションに積極的に参加する者もおり、文化・芸術活動を生きがいとしている者も少なくはない。  しかし、視覚障害の高齢者の中で、どれほどの者が「生きがい」を見つけているのだろうか。生きがいのある高齢視覚障害者は少数と言わざるを得ない。  それこそ、高齢の視覚障害者は、家の外への移動がそもそも難しく、また、自身の生きがいに繋がる情報を掴めない者が多い。そのため、視覚障害高齢者として生きがい対策を進めるためには、移動の保障や情報の入手が同時に求められている。また、趣味活動においては、周りや地域からの理解や支援を得ることも課題となっている。  高齢視覚障害者が、有意義な老後を過ごすためには、「生きがい」に出会う必要がある。その出会いにつなげるためにも、様々な改善が求められている。 2.到達目標  高齢視覚障害者に対する移動保障や情報保障を充実させ、地域の住民などからの理解や支援を求めることにより、高齢視覚障害者が「生きがい」に出会える環境を作り出す。 3.具体的方策 (1)短期  @ 一番の生きがいは、高齢なっても仕事が続けられることではないだろうか。例えば、定年のないあはき業にとっては経験が最大の利点であり、今現在、80歳を過ぎても治療をされている視覚障害あはき師が多い。そして、どの視覚障害あはき師も施術を行ったお客さんの笑顔に生きがいを感じている。そのため、高齢になっても仕事が続けられる支援を求めていくことが必要である。なお、この支援においては、一般就労の中途視覚障害者の支援についても留意する必要がある。  A 地域で視覚障害者の生きがい対策を充実させるには、地域での支援が重要である。そのためには、日ごろから地域住民と視覚障害者との間でコミュニケーションを取り、視覚障害者への理解を進める必要がある。  B 地域の視覚障害者団体においては、日ごろから横の付き合いを大切にし、高齢者ならではの行事を企画していきたい。地域の視覚障害者団体は、高齢の視覚障害者が「外に出る」ことを後押しする存在でありたい。 (2)長期  @ 地域の視覚障害者団体や社会福祉協議会、NPO法人などが連携し、地域のスポーツ教室や趣味・ゲームのサークルなどに、視覚障害者が日常的に参加できる環境を作っていく。 107ページ 第10章 女性 108ページ 第1節 複合差別 1.現状  ここでいう複合差別とは、視覚障害女性が障害者差別と女性差別を重複して受ける掛け算的な困難をいう。  雇用、教育、暴力など、社会の様々な場で有効な施策が求められているが、障害者施策には性別に着目した視点がなく、女性施策では障害者が想定されていない。時に施策の間をたらい回しにされることもあり、複雑化した問題の解決はより難しくなる。  性別役割分業観が未だ根付く社会の中で、家事や育児、介護の責任や負担が女性に過度に求められ、女性自身も周囲もそれを当然視するため、問題に気づきにくい状態にある。 2.到達目標  視覚障害女性が社会の様々な場に参画し、性別にかかわらず、多様な生き方が尊重される社会となるよう、制度や意識の改革を進める。  障害のない者と同等な水準で医療・福祉・保健、DV相談やシェルターなどの社会サービスを容易に利用できるようにする。 3.具体的方策 (1)短期  @ 内部的な取り組みとしては、複合差別を理解するための研修の機会を設け、意思決定にかかわる役員の女性比率を引き上げる。  A 社会的運動としては、障害者福祉にかかわる職員に対し複合差別への理解を促す研修を、女性相談にかかわる職員に対しては障害への理解と支援の在り方に関する研修の機会が設けられるよう働きかける。講師には複合差別に取り組んできた視覚障害の女性が担当できるよう推薦する。 (2)長期  @ 国や自治体の審議会などの障害者枠に女性委員を積極的に登用する。  A 複合差別に関する内部研修を全国的・定期的に実施する。  B 障害者及び女性福祉に携わる職員に対する複合差別の研修を定期的に開催できるよう、各自治体へ働きかける。 4.課題  女性差別は障害者差別に比べ可視化されにくく、画一的な女性役割を求められ、苦しくても個人の問題と捉えがちで、当事者も困難を訴えにくい傾向がある。そのため、個人的な経験を語る中で気づくことも多く、障害女性が安心して話ができる集いの開催など、複合差別を視点に加えたエンパワメントの機会を増やすことが重要である。 110ページ 第2節 セクシャルハラスメント 1.現状  視覚障害を持つ女性の多くは、セクシャルハラスメントの被害を受けやすいと言われている。  例えば、電車や公共の場所における痴漢行為、マッサージの施術中におこる男性客からのセクシャルハラスメントなどである。 2.到達目標  視覚障害を持つ女性が、セクシャルハラスメントの被害を受けず、尊厳をもって生きることのできる社会を実現する。 3.具体的方策 (1)短期  @ 警察とも連携し、視覚障害者にもできる護身術や、デジカメなどのIT機器による加害者情報の取得など、痴漢行為に対する自衛策を研究し、女性会員に対する研修を行う。  A 本連合の総合相談室と連携し、女性が対応する「視覚障害者のセクシャルハラスメント110番」などの電話窓口を設置し、気軽に相談を行うことができる体制を整備する。 (2)長期  @ 視覚障害者のセクシャルハラスメントで問題となるのが、加害者を特定することの困難性である。民間企業などとも協力し、視覚障害者が常に携帯できる小型ビデオカメラなどの開発を促進し、仮にセクシャルハラスメントの被害を受けたとしても、泣き寝入りしなくても済むような機器の開発を促進する。 111ページ 第3節 子育て支援 1.現状  全盲あるいは強度弱視夫婦でも、健やかな子育てを行い、親の義務を果たしている両親は大変多い。一般的な認識において、視覚障害者が子育てを行っている様子は簡単には理解されにくいであろう。  晴眼者であっても子育ては、精神的にも、経済的にもストレスとなり、大きな環境変化をもたらすものであるが、子育ては、ライフステージにおいて、両親が自ら成長し、幸せを成就させる貴重な体験となる。  視覚障害は情報障害ともいわれるように、文字処理や環境の把握及び突然の環境変化の認識に大きな障壁がある。このような特性により、子育てにおいては、子供の見守りがほとんどできず、その方策として聴覚や触覚、時に嗅覚も導入して子供の様子を認識している。しかし、これらの方策にも限界があり、結果的に親族のみならず、周囲のサポートや社会資源を友好的に活用しなければならないのが現状である。  また、片親が晴眼者である場合や両親の視覚障害の程度、家族構成、子供の年齢や状況など、様々な家族の在り方が存在するため、統一的・画一的な支援方法だけでは十分なサポートとはならない。  従って、自助を促すような方策に加えて、個別的な共助や公助を整える必要がある。 2.到達目標  視覚障害者であっても、本人が望むような子育てを安心してできるような社会を作り出すことが必要である。子育てを通じて視覚障害者とその家族が、地域や社会と繋がり、社会の構成員として存在することにより、人生の充実感や満足感を味わえるような社会の実現を目指したい。 3.具体的な方策 (1)短期  @ 視覚障害者の子育てに関する実態調査を行い、問題点の明確化を図る。その際、視覚障害者によって育てられた子供からの視点も含めて調査する。  A 視覚障害者の親の会を支持し、組織強化を図る。  B 社会に対して、視覚障害者が子育てを含めた社会生活を行っていることの理解・啓発を促進する。  C 子供の病気やけがに対応するため、24時間体制で速やかに医師、看護師、保健師などに容易に相談できるような制度を構築する。  D 保育園、幼稚園の送迎にガイドヘルパーが利用できるように制度の拡充を図る。  E 子供が義務教育を終了するまでの期間、両親として子供に関わるような内容であってもホームヘルパーの利用ができるような制度の拡充を図る。 (2)長期  @ 子供の急な病気やけがなどに対し、速やかに医師、看護師、保健師などを派遣する。また、これらの者を、適切な機関への移送に対するガイドになるような制度も構築する。  A 個別的に妊娠時期を含めて、保健師の定期的な訪問支援を受けられるような制度を構築するとともに、子育て時期を含めて、24時間体制でいつでも相談や支援が受けられるような体制を整備する。  B 医師、看護師、保健師、教師などを教育する機関では、視覚障害者に対する支援方法を身につけるような内容を必須科目として設置する。 4.課題  @ 拡充した制度や新規制度の利用に際し、過剰な利用者負担が発生しないように予算化しなければならない。  A 障害福祉サービス全般にいえることであるが、特に子育て支援の場合は、それぞれのプライバシーに深く関わることが予測されるため、プライバシー保護の法制度の観点を考える必要がある。 113ページ 第11章 生活支援用具・共用品 114ページ 第1節 日常生活用具・補装具 1.現状  視覚障害者にとっての補装具は白杖、義眼、弱視眼鏡の3種であり、日常生活用具は全国の市町村において、ある程度共通した品目が指定されているが、地域間格差は広がる傾向にある。また、補装具や日常生活用具の指定価格(基準額)は実態と合わなくなっている。 2.到達目標  日常生活用具の地域間格差をなくすこと。視覚障害者の生活実態やニーズに即した日常生活用具が指定され、不合理な給付要件を撤廃させること。 3.具体的方策 (1)短期  @ 本連合が実施している補装具・日常生活用具研修会を全国で定期的に開催し、自治体職員、業者及び当事者が正しい認識を持つようにする。  A 補装具・日常生活用具の購入相談や、それらの用具の使用方法の相談に特化した相談窓口の設置を目指す。 (2)長期  @ 日常生活用具の品目や支給要件の地域間格差を是正するための仕組みを作る。  A 補装具・日常生活用具の価格の改定、耐用年数の短縮、OA機器のバージョンアップに伴う再支給などを求め、実態に即した制度に改定させる。  B 補装具と日常生活用具の峻別の見直しを求め、区別をなくし、全国共通の補助機器(福祉用具)制度とする。 115ページ 第2節 一般商品のユニバーサルデザイン 1.現状  1993年(平成5年)より、視覚障害者の日常生活における不便さ調査が共用品推進機構などで行われ、その調査で明らかになった課題は、視覚障害当事者、業界団体、研究機関などが連携し、一般製品を視覚障害者が使えるようにするため、34種類の日本工業規格(JIS)が作られた。その結果、家電製品、情報機器、設備機器、移動機器、文具、玩具、その他の製品をはじめ、各種パッケージなどは、視覚障害者でも利用しやすいものが増えてきた。  しかし、共用品になったのはまだ一部の製品やパッケージに限られている。また、開発された共用品の情報が、視覚障害者に届かず、その結果、需要があるにも関わらず、廃版になったり、次のバージョンで視覚障害者への工夫がなくなっているケースがある。 2.到達目標  日常生活、非日常生活、緊急時などあらゆる場面で使用する製品や設備機器の全てが、初めから視覚障害者が使用・利用できる共用品になること。さらに、その製品情報を視覚障害者が容易に入手できる状況になっていること。 3.具体的方策 (1)短期  @ 情報入手    それぞれの共用品が、視覚障害者のためにどのような工夫がされているかを、アクセシビリティに考慮された共用品データベースで検索できるようにする。共用品データベースと並行して、実際の共用品を身近で触って確認できるように身近な場所での展示会を全国キャラバンのような形で、日盲連加盟団体、視覚特別支援学校、各地のイベント並びに共用品推進機構などと連携して行う。  A 製品開発    民間や公的機関が新製品並びに改良を行う場合、効率良く、かつ、的確にアドバイスを行える仕組みを構築する。製品などに対するニーズを常時受け付ける仕組みを設け、適宜、関係する企業、業界団体、公的機関に伝え、民間及び公的機関に改善を促す。  B 表彰制度    視覚障害者が使える共用品が継続して供給されるために、視覚障害者のニーズに適合している製品や設備機器に対して、表彰する仕組みを本連合内に設ける。 (2)長期  @ 後追いから先回りへ    今までは、販売された製品などに対して、使いづらいと指摘する流れであったが、初めから視覚障害者が使える製品になっているようにする仕組みを構築する。そのためには、共用品関連の日本工業規格(JIS)などを使って、民間・公的機関が共用品を作りやすくするためのガイドラインを作成する。さらに、アドバイス機関も設置して、予め新しい製品が共用品になっており、その情報が視覚障害者に的確に届く仕組みを構築する。 4.課題  @ 他の障害当事者団体との連携。  A 多くの業界団体との連携。  B 他国の共用品情報機関との連携。  C 各種仕組みの実施と継続。 117ページ 第12章 余暇活動 118ページ 第1節 スポーツ 1.現状   視覚障害者スポーツの社会における認知度は、まだまだ低いと思われる。特殊な器具や用具が必要な競技では、限定された場所でしかスポーツができない。また、ランニングなどの一人で取り組むスポーツは、かなりの困難が伴う。さらに、視覚障害ゆえに競技役員(審判員など)を務めることは困難である。 2.到達目標  @ 視覚障害者スポーツ人口の拡大(仲間づくり)。  A 視覚障害者スポーツ情報のまとめサイトの整備。  B 一般のスポーツ施設において、視覚障害者の利用を想定した職員研修の実施。  C スポーツ施設周囲の交通アクセスの整備。 3.具体的方策 (1)短期  @ 視覚障害者スポーツの積極的な情報発信のための仕組みづくりが重要で、個々の競技団体の組織化が進んでいる現在、本連合として視覚障害者スポーツの総合的なポータルサイトを作り、社会と各競技団体との橋渡し役を担う。  A ウォーキングやスイミングなど、個人で取り組める運動を促進するため、各自治体で実施されている「歩こう会」などへの参加体験手記を募って公開する。 (2)長期  @ 本連合加盟団体と地元の大学などが提携して「視覚障害者がスポーツを楽しむためのサポートチーム」を創設する。 4.課題  @ 東京2020オリンピック・パラリンピックの気運が盛り上がっている一方、国内には長きにわたって視覚特別支援学校で実施されてきた球技(グランドソフトボール)があり、これらを含めた視覚障害者スポーツの啓発に向けた取り組みが望まれる。  A 視覚障害者スポーツの最大の弱点は、視覚障害ゆえに競技審判ができないことである。このことを社会にアピールし、競技体験会を通じて審判員の養成につなげる工夫が必要である。  B 子育て中の女性がスポーツをするための環境整備が望まれる。 120ページ 第2節 文化・芸術 1.現状  時にアートは、言葉や文字とは違う形で、新たな世界観・人間観の形成を促す。また、想像力(イマジネーション)と創造力(クリエイティヴィティ)によって「目に見えない世界」を表現するのがアートであるともされている。視覚障害者にとっての「文化・芸術活動」とは何を意味することになるかについては、ようやく議論が始まり、深められつつあるところである。  一般的には、趣味を共通する仲間によるサークル活動にはじまり、様々なボランティア活動もまた文化活動の一つであるし、専門家による指導や専門的知識の会得を目的とする活動も含まれることになる。本連合は、これまでも文芸大会や音楽家協議会による邦楽演奏会を行ってきたが、近年広がりつつある触察や聴覚を利用したアートの鑑賞や二次元ないし三次元の世界を楽しむ活動は不十分であった。  国は、これまでにも芸術活動への支援として、ボランティア団体ないしは芸術活動を支援する団体に対し、助成金を提供してきた。2018年(平成30年)には「障害者による文化芸術活動の推進に関する法律」が施行された。今後は、東京2020オリンピック・パラリンピックをも絡めて、そうした法律や制度に基づく障害者の参画型の文化・芸術活動が広がるものと思われる。 2.到達目標  @ 視覚障害者であっても参加や鑑賞ができる文化・芸術に関する情報を、全ての視覚障害者に提供されるようにする。  A 個々の視覚障害者が持つ趣味や嗜好を深めたり、広げるための場や支援者をいつでも得られるようにする。  B 視覚障害者の参加や鑑賞を前提とするユニバーサル・ミュージアムを増やす。 3.具体的方策 (1)短期  @ 各地域においてどのようなニーズがあり、どのような活動が行われているかを調査する。  A 様々な文化・芸術活動に関する情報を収集し、本連合加盟団体や会員に情報を提供する。  B 美術作品の制作・鑑賞ができるワークショップを開催したり、視覚障害者による作品や視覚障害者が企画した展覧会を実施する。  C 地域の博物館・美術館との連携事業を企画する。 (2)長期  @ 視覚障害者または視覚障害者を主体としたグループの文化・芸術活動をリードする人材の育成と必要となる費用を支援する。  A 地域の盲人史を発掘・編纂する。  B 弱視者を含む視覚障害者を「触常者化」するプロジェクトを立ち上げる。 122ページ 第3節 旅行 1.現状  旅行は人生において、大きく生活の質を高めるとともに、新たな学びとなり、人として経験値を養うことのできるものである。このことは視覚障害者においても同様である。さらに、絵や写真を見てあらゆる物を知ることが困難な視覚障害者にとっては、実際の場所を訪れ、触れたり、体感することは晴眼者よりも重要なことである。  公益財団法人日本生産性本部余暇創研の「レジャー白書2018」(※1)によると、様々な余暇活動がある中で、国内観光旅行を挙げる者が多く、旅行は2011年(平成23年)以来7年連続の首位となっている。このように多くの国民が旅行を楽しんでいる現状を考えると、視覚障害者にもそのニーズはかなりあるものと推察される。  このようなニーズを叶えるものとして、バリアフリー旅行を専門とした旅行会社の専門部署や、障害者の旅行を支援するNPO法人などが存在する。しかし、これらの会社や団体のような動きはまだ一部であり、もっと利用しやすい状況にならないといけない。  旅行は、衣食住に直接かかわる行為ではないことから軽視される傾向があるが、人間らしく文化的で教養を高めるためには、なくてはならないものと思われる。  旅行という行為は、大変多くの要素を包含しているため、部分的な環境改善や単発的な人的支援のみでは、真の意味での「ユニバーサルな旅行」とはならない。旅行という行為を始めるための「動機づけ」から障壁がある。つまり、「どこかに行ってみたい」と思うには、そのことを何らかの方法で知らなければ「行きたい」という感情は生まれにくい。動機づけを引き起こすための事前情報が少ないことが障壁となっているのである。仮に、「○○に行きたい」と思っても、実際には、どのように、誰と、安全に行けばよいのか、多くのことを調べなければならない。すなわち「単独で行くのか、盲導犬を利用するのか、ガイドヘルパーを利用するのか、友人と行くのか、家族と行くのか」「交通機関の利用はどうすればよいのか」「宿泊はどうすればよいのか」「目的地では自分の望むようなことが可能であるか」「経費はどの程度必要になるのか」など、多くの要素を考えなければならない。そして、これらは全て安全にあるいは安価に運ばなければならない。  旅行が全ての視覚障害者にとって、ストレスなく、実施できれば、本当の社会全体がユニバーサルな世界になっているであろう。 2.到達目標  視覚障害者がいつでも、どこにでも、誰とでも旅行を楽しむ社会を実現する。 3.具体的方策 (1)短期   @ 旅行に行くための情報収集を目的としたパソコン、タブレット、スマートフォンなどの視覚障害者向けIT研修会を各地で開催する。  A 旅行を楽しんでいる当事者の経験談を収集する。  B 全国的に切れ目がなく、24時間体制でガイドヘルパーを利用できる方法について検討する。  C 宿泊業者向けの「視覚障害者対応プログラム」を作成し、施行する。  D 資料館、博物館、動物園、水族館、科学館などに働きかけ、館内案内図やリーフレットの点字化や拡大版を作成する。 (2)長期  @ 旅行会社、公共交通機関、公的施設、宿泊業者などの従業者が、視覚障害者に対する介助法や情報提供の方法を身につける。 4.課題  現在、交通機関の利用において、介助者を伴う場合は、当事者と介助者の両者が割引の適応を受けている。宿泊や各施設の入場料については、どのように考えるとよいのか。また、介助者を伴う飲食代はどのように考えるのがよいのか。社会の理解を含めた検討が必要ではないだろうか。 5.参考資料 (※1)「レジャー白書2018」 https://activity.jpc-net.jp/detail/srv/activity001540.html 125ページ 第13章 防災・減災意識 ― これまでの各地の災害対策を踏まえてー 1.現状  2011年(平成23年)3月に発生した東日本大震災をはじめ、近年、日本では様々な自然災害が頻発している。特に、このような自然災害は「いつ、どこで」発生するかが分からないため、国や自治体は災害対策に力を入れ、各地域でも災害対策の意識が芽生えている。この流れにより、各地域では、災害時または防災・減災に向けた様々な取り組みが実施されている。  しかし、災害弱者と呼ばれている視覚障害者は、結果的にこれらの国や自治体、地域での取り組みから取り残されている現状がある。  東日本大震災を例に取れば、災害発生時の避難の困難さはもちろん、避難所では満足に支援を受けられなかった事例は多く、視覚障害者の災害対策の課題が浮き彫りになった。特に、視覚障害者の特性を理解しないがゆえに対応を誤るケースが多く、いかにして視覚障害者の障害特性を網羅した災害対策が作れるかが課題になっている。ただ、こうした先行事例があるにも関わらず、国や自治体の視覚障害者の災害対策が一向に進まないことは問題であり、引き続き、視覚障害者自身が防災対策の必要性を訴え、具体的な提案を行うことが求められている。  一方で、視覚障害者自身にも問題があるとも言われている。それは、一部の視覚障害者においては、災害は他人事と考えており、過去の教訓を学ばない者が多く、防災や減災意識が高まらないことである。それこそ、災害に遭った視覚障害者からの様々な情報は、災害から日々の生活を守るため、または災害時に生き抜くための重要なアイデアが含まれているにも関わらず、こういった情報が活用されていないことが多い。  つまり、視覚障害者自身が災害に対して意識が薄いことこそ一番の課題であり、視覚障害者の防災対策を遅らせている原因になっている。防災・減災に対する意識があれば、それが国や自治体への改善要望の原動力になる。この意識の欠如こそが改善すべき大きな課題となっている。 2.到達目標  まず、視覚障害者自身の防災・減災意識を高めるための対策が必要になる。その上で、視覚障害者に求められる防災対策などを、視覚障害者自身の視点で整理し、国や自治体、関係機関に対してその防災対策を提案する。災害時に支援を受ける者(視覚障害者)と支援を行う者(国や自治体、地域住民など)の両輪がかみ合うことが、真の防災対策である。 3.具体的方策 (1)短期  視覚障害者自身の防災・減災意識を高めるために以下の@Aの方策を実施する。そして、防災・減災意識が高まったところで、地域での具体的な運動の手助けにするため、BCDの方策を実施する。  @ 防災に関する情報保障の確立    視覚障害者は情報障害であり、国や自治体などから発信する防災・減災に関する有益な情報が受け取れていない。そのため、国や自治体などが作る情報(ハザードマップなど)の点字版・音声版の作成は必須になる。視覚障害者が求める媒体で情報が得られるように運動を行う必要がある。  A 視覚障害者に特化した情報の発信    視覚障害者に特化した災害時の困りごとを改善するためには、実際に起きた過去の事例を活用することが一番効果的である。それこそ、東日本大震災後に発行していた情報誌「語り継ぐ未来への友歩動」は、災害時の教訓を示す有効な教科書となった。このような情報を、全国の視覚障害者に確実に届けるため、情報誌の発行や、情報サイトの作成が必要である。  B 視覚障害者向け防災・減災コーディネーターの設置    地域で推進をしている防災や減災の取り組みは、視覚障害者自身が理解や参加できる方法で実施されていない。それこそ、防災訓練などを行っても、結果的に参加ができないことが多い。そのため、自治体などの防災・減災の取り組みに対して、視覚障害者が参加できるように各種調整を行うコーディネーターの存在が求められている。特に、このコーディネーターがいることで、実際に災害が発生した場合、地域で視覚障害者向けの支援を行う中核になることも期待できる。コーディネーターの育成から必要にはなるが、実現すべき方策になる。  C 視覚障害者向け災害対策の在り方の整理    視覚障害者の災害対策は、これまでも国や各地域での会議などで視覚障害当事者から要望を申し出ているが、意見を出す者の考え方や知識によって、大きく内容が異なっている。つまり、要望などに統一感がないため、日本全土で画一的な災害対策が実施されない傾向がある。そのため、視覚障害者の災害対策に必要となる指針を、視覚障害者自らが整理し、全国の視覚障害者に情報提供をする。そして、この情報を元に各地で運動を推し進める仕組みを作りたい。  D 視覚障害者災害対策基金の設立    災害は「いつ、どこで」発生するか分からないため、発生後に募金活動を行ったのでは、被害にあった視覚障害者への支援が遅れてしまう。そのため、災害時に迅速に対応する基金を設立し、支援を必要とする者への迅速な支援を行える体制が求められる。視覚障害当時者からの共助を求めつつも、対外的にも支援を求める基金を目指す。 (2)長期  @ 視覚障害者向け災害対策連絡会の設置    短期目標を永続的に実施するためには、その方策を具体的に推進すること、更に実施内容の監視が必要になる。そのため、各地域で視覚障害者向け防災対策を行う当事者団体の代表者が集い、短期目標の永続的な実施を支える連絡会を設置する。特に、連絡会を作ることで、短期目標を支えていくことに加え、災害の記憶や教訓を後世に繋いでいく仕組みも組織的に盛り込んでいきたい。 129ページ 第14章 障害の理解と啓発 1.現状  障害者権利条約の設立に伴い、国内法の整備が進み、法的な枠組みが整いつつある。これらの動きに同調して、社会全体は障害者に対する理解が進んでいるように見られ、日常的にも障害者を差別するような言動はほとんど聞かれなくなっている。また、様々なメディアにも障害者が取り上げられることが増え、身近に障害者の存在を意識するように変わっている。さらに、小学校や中学校などにおける「総合的な学習の時間」に様々な障害者を理解するような授業が取り扱われるようになっている。  しかし、現在の社会では、障害や障害者を「知る」という段階にはある程度達しているように思われるが、「理解」という段階、そして、その先にある「支援」という段階にはまだ達していないように思われる。  例えば、障害者は社会的には少数派であるため、障害者一人の状態が、あたかもその障害を代表するような誤解を招くことがある。具体的には、「視覚障害者は、みんな白杖か盲導犬を使用している」とひとくくりに思われたり、「補聴器を使用している聴覚障害者は話すことができない」というように、それぞれの障害者について、出会った障害者が全て同様の障害であるように誤解されていることがよくある。また、はじめに出会った障害者がその障害像をイメージすることもあり、「視覚障害者は、挨拶ができない」「不潔な服装をしている」などの誤ったイメージを喚起させてしまうこともある。  つまり、障害や障害者を「知る」という段階で、このような誤解を生みださないようにすることが、視覚障害者の理解や啓発を進める上で解決すべき課題の一つになっている。 2.到達目標  障害当事者やその家族が、地域社会の中で、自分らしく生活し、自分の障害を意識することなく生活できるような社会を実現させる。 3.具体的方策 (1)短期  @ 視覚障害者の啓発用リーフレットやガイドブックの収集    福祉・教育・医療・労働・民間など様々な団体を対象に、理解啓発活動や事業を行っているが、その実態が把握できていない。このような活動を把握し、障害者について、どのように伝えているかを調べることが重要である。実態把握のためには、各種団体や個人において、作成されたガイドブックやリーフレットを収集し分析することが必要である。  A 視覚障害啓発プログラムの作成    様々な方々に対して視覚障害当事者が啓発を行う場合、どの視覚障害者が啓発を行っても同一内容で進めることができるように啓発プログラムを作成することが必要である。この啓発プログラムは共通性の高い基本的なものとし、実際には、啓発内容を紹介する視覚障害者の経験に基づくことを加えて紹介することが望ましい。 (2)長期  @ 学校教育の充実    義務教育段階において、障害者理解に関する内容を必須のものとして取り上げる。  A 民間や公共施設の研修の充実    新人研修や初任者研修などに障害者理解に関する内容を必須のものとして取り入れる。  B 理解啓発プログラムアドバイザーの新設    様々な場面で啓発に関する研修会を企画する際の講師を支援したり、研修内容に関するアドバイスを行う。  C 視覚障害当事者の意識の高揚    視覚障害個人が、社会から見られているという意識を持ちつつ、生活することが必要である。誤った障害理解を進めないためにも、個人が意識しなければならない。 4.課題  @ 個人や社会の意識を変えるには、かなりの時間がかかることが予測される。  A 理解啓発の客観的な尺度が難しい。そのため、理解啓発活動の成果を判断しにくい。 133ページ 第15章 国際交流 1.現状  本連合における国際交流活動は、2003年(平成15年)5月に設置された国際委員会を中心に行われてきた。ただし、ほとんどの事業活動は、社会福祉法人日本盲人福祉委員会(以下、日盲委)との連携・協力で実施しており、海外との連絡調整は日盲委が中心となって行っている。 【主な活動】  @ 諸外国の視覚障害者団体との訪問交流。  A 海外からの視察団の受け入れ。  B WBU(世界盲人連合)及びWBUAP(世界盲人連合アジア太平洋地域協議会)の会議参加に伴う代表選出、会議参加の準備打ち合わせ。 2.到達目標  @ 国際交流は、視覚障害者が広い視野を持ち、世界の動きを速やかに知るために必要である。また、わが国が蓄積してきた経験や優れた制度を世界に発信し、発展途上国などへの支援を行うことも必要である。  A 本連合の主要事業の一つに位置付けられるような自主プログラムを組めるように、組織体制と予算を確保すること。  B 「ワールド・ナウ」を、国際委員会の活動成果を報告する場として位置付け、国内への発信力を強化するとともに、本連合の活動の国際的な発信に努力すること。 3.具体的方策 (1)短期  @ リーダーの世代交代に向けた取り組みとして、WBU、WBUAPの青年フォーラムなどへの代表の派遣を進める。  A 海外からの視察団を受け入れるとともに、海外への視察団の派遣(スポーツ、芸術、雇用事情の視察など)を主催する。  B 視覚障害者の教育や雇用などをテーマとする国際会議を開催する。 (2)長期  @ より多くの視覚障害者に国際交流の機会を提供できるよう、本連合の国内外における情報発信力を高めること。  A 途上国の視覚障害者の支援にかかるプログラムを開発し、政府・民間資金を活用して、それらの事業を展開していくこと。 4.課題  @ 日盲委の活動との差異を明確にし、連携協力の在り方について検討すること。 137ページ 第16章 終わりにあたって − 今後の点検と運動推進のための委員会の設置に向けて − 1.2019年(平成31年)4月から改正バリアフリー法(高齢者、身体障害者の移動の円滑化を促進する法律)が施行され、これまで以上に社会のバリアフリー化ないしユニバーサルデザイン化が促進されると思われる。しかし、そうしたバリアフリー法の改正においても、視覚障害者の外出時における安全安心は十分には意識されておらず、視覚障害者にとっての安全対策が今後も大きな課題であることには変わりはない。総合的な街づくりの検討を行い、ITやAIを含む新技術をも取り入れた質の高い安全で安心できる移動環境を求めていくことが必要である。 2.わが国は、2018年(平成30年)4月に、マラケシュ条約の批准を国会で承認し、同年10月に同条約の締約国となった。そして、それに伴う国内法の整備としての著作権法などの改正が行われ、私たちが求めてきた読書バリアフリー法(仮称)も制定されようとしている。読書だけでなく情報保障は視覚障害者の永遠の課題である。今後は、デジタル情報のアクセシビリティ化、放送や通信における音声解説を標準化させ、さらにはIT、ICT及びAIをも含めた新技術による情報保障が権利として制度化されることが必要である。 3.障害者権利条約の批准によってインクルーシブ教育が求められているが、わが国においてはその内容を「インクルーシブ教育システム」という名で特別支援教育に取り込まれ、分離教育を前提とした教育制度が維持されようとしている。今後は、権利条約が求めている真のインクルーシブ教育ともいうべき、一般教育から分離ないし区別されることのない教育が初等から高等教育まで確立させることが必要である。 4.障害者雇用促進法に基づく法定雇用率が引き上げられてきたものの、視覚障害者の就労数は増えるどころか減少気味である。また、差別的処遇や合理的配慮の不提供は同法の改正、施行によっても遅々として進んでいない。他方、あはきにおいては、あはき法19条の合憲性をめぐる訴訟が提起され、今後の趨勢によっては視覚障害あはき師の業権擁護ないし職業的自立が大きく阻害される恐れもある。   視覚障害者にとっての真の職業選択の自由と職業的自立の確立を求めるための運動と施策の提案がこれまで以上に必要である。 5.障害者権利条約の批准とともに、障害者差別解消法が制定、施行されたが、障害に対する理解や差別の解消ははかばかしい進展を見せていない。差別の概念が国民に浸透し、合理的配慮の提供が「当たり前」となる社会を実現するためには、本連合を含む当事者団体の役割は大きい。2020年までに実施されようとしている障害者差別解消法の見直し作業を通じて、権利擁護ないし差別を含む人権救済システムの確立を目指すことが必要である。 6.今後は、本報告書で示したビジョンないしマスタープランを実現するための運動がどこまで進展したか、あるいは実現したかを点検するための委員会を設置し、必要に応じた運動方針を立案することもその任務としなければならない。 141ページ 資料集 143ページ 1 日本盲人会連合について 1.目的  日本盲人会連合は、視覚障害者自身の手で「自立と社会参加」を実現しようと組織された視覚障害者の全国組織になる。1948年(昭和23年)に結成された、都道府県・政令指定都市における61の視覚障害者団体の連合体で、国や地方自治体の視覚障害者政策(人権、福祉、教育、職業、環境問題など)の立案・決定に際し、視覚障害者のニーズを反映させるため、陳情や要求運動を行っている。 2.沿革  1948年(昭和23年)   視覚障害者の全国組織、日本盲人会連合を結成   第1回全国盲人福祉大会開催(大阪府貝塚市)   ヘレン・ケラー女史招請(2回目)  1954年(昭和29年)   第1回全国盲婦人大会開催(大阪府大阪市)  1955年(昭和30年)   第1回アジア盲人福祉会議開催(東京都/12ヶ国750名)   第1回全国盲青年大会開催(兵庫県明石市)  1956年(昭和31年)   ヘレン・ケラー女史招請(3回目)  1964年(昭和39年)   本部事務局を大阪から東京に移転  1966年(昭和41年)   社会福祉法人認可   点字出版事業、更生相談事業、盲人用具斡旋販売事業開始  1967年(昭和42年)   加盟団体への連絡、助成事業開始   国際盲人連盟(IFB、のちの世界盲人連合(WBU))へ加盟  1971年(昭和46年)   日本盲人福祉センターが新宿区諏訪町に竣工落成   点字図書館開設  1972年(昭和47年)   月刊点字情報誌「点字日本」発行開始  1973年(昭和48年)   録音製作事業開始  1977年(昭和52年)   第1回全国盲人将棋大会開催(広島県広島市)  1984年(昭和59年)   月刊録音版情報誌「日盲連アワー」発行開始  1986年(昭和61年)   日本視覚障害者柔道連盟結成及び第1回大会開催(東京都)  1988年(昭和63年)   結成40周年記念第41回全国盲人福祉大会開催(大阪府)   日本盲人会連合記念碑の設置(大阪府貝塚市)  1991年(平成3年)   日刊「点字JBニュース」事業開始   第2回世界盲人連合東アジア太平洋地域会議開催(東京都)  1993年(平成5年)   第2回WBUAPマッサージセミナー開催(茨城県つくば市)  1998年(平成10年)   結成50周年記念第51回全国盲人福祉大会開催(東京都)  2008年(平成20年)   日本盲人福祉センターが移転、新宿区西早稲田に竣工落成   新日本盲人福祉センター落成・結成60周年記念第61回全国盲人福祉大会開催(東京都)  2009年(平成21年)   ルイ・ブライユ生誕200年・石川倉次生誕150年記念点字ビッグイベント開催(東京都)  2014年(平成26年)   第60回記念全国盲女性研修大会開催(東京都)  2016年(平成28年)   総合相談室開設   第40回記念全国盲人将棋大会開催(東京都)  2017年(平成29年)   日韓伝統音楽交流事業「日韓伝統音楽の調べ」開催(大阪府大阪市、愛知県名古屋市、東京都)  2018年(平成30年)   結成70周年記念第71回全国盲人福祉大会開催(東京都)   結成70周年記念式典・記念シンポジウム、記念碑訪問開催(大阪府大阪市、大阪府貝塚市) 3.加盟団体、協議会 (1)加盟団体名簿 2019年(平成31年)3月現在 本部 (福)日本盲人会連合 竹下 義樹 北海道 (一社)北海道視覚障害者福祉連合会 島 信一朗 札幌市 (公社)札幌市視覚障害者福祉協会 近藤 久江 青森県 (一社)青森県視覚障害者福祉会 佐々木 秀勝 岩手県 (福)岩手県視覚障害者福祉協会 及川 清隆 秋田県 (一社)秋田県視覚障害者福祉協会 武田 利実 宮城県 (公財)宮城県視覚障害者福祉協会 柿沼 正良 仙台市 仙台市視覚障害者福祉協会 高橋 秀信 山形県 (特)山形県視覚障害者福祉協会 竹田 昭博 福島県 (公社)福島県視覚障がい者福祉協会 阿曽 幸夫 茨城県 (福)茨城県視覚障害者協会 坂場 篤視 栃木県 (一社)栃木県視覚障害者福祉協会 須藤 平八郎 群馬県 (公社)群馬県視覚障害者福祉協会 木村 功 埼玉県 (公社)埼玉県視覚障害者福祉協会 田口 茂 さいたま市 (特)さいたま市視覚障害者福祉協会 山ア 道子 東京都 (公社)東京都盲人福祉協会 笹川 吉彦 千葉県 (福)千葉県視覚障害者福祉協会 伊藤 和男 千葉市 (特)千葉市視覚障害者協会 大石 千恵 神奈川県 (特)神奈川県視覚障害者福祉協会 鈴木 孝幸 横浜市 (特)横浜市視覚障害者福祉協会 岩屋 芳夫 川崎市 (特)川崎市視覚障害者福祉協会 高橋 吉四郎 相模原市 相模原市視覚障害者協会 八代 義男 山梨県 (一社)山梨県視覚障がい者福祉協会 堀口 俊二 新潟県 (福)新潟県視覚障害者福祉協会 松永 秀夫 長野県 (福)長野県視覚障害者福祉協会 中山 吉泰 富山県 (福)富山県視覚障害者協会 塘添 誠次 石川県 (福)石川県視覚障害者協会 米島 芳文 福井県 (福)福井県視覚障害者福祉協会 小山  尊 静岡県 (公社)静岡県視覚障害者協会 須藤 正起 愛知県 (福)愛知県盲人福祉連合会 金子 芳博 名古屋市 名古屋市視覚障害者協会 田中 伸明 岐阜県 (一社)岐阜県視覚障害者福祉協会 清水 和弘 三重県 (福)三重県視覚障害者協会 内田 順朗 滋賀県 (福)滋賀県視覚障害者福祉協会 大橋 博 京都府 (公社)京都府視覚障害者協会 田尻 彰 大阪府 (一財)大阪府視覚障害者福祉協会 高橋 あい子 大阪市 (一社)大阪市視覚障害者福祉協会 山野 一美 堺市 (特)堺市視覚障害者福祉協会 外山 龍子 奈良県 (一社)奈良県視覚障害者福祉協会 辰已 寿啓 和歌山県 和歌山県視覚障害者福祉協会 宮本 克二 兵庫県 (福)兵庫県視覚障害者福祉協会 田中 環 神戸市 (一社)神戸市視覚障害者福祉協会 福井 照久 岡山県 (福)岡山県視覚障害者協会 片岡 美佐子 鳥取県 (公社)鳥取県視覚障害者福祉協会 市川 正明 島根県 (公社)島根県視覚障害者福祉協会 小川 幹雄 広島県 (福)広島県視覚障害者団体連合会 前川 昭夫 広島市 (公社)広島市視覚障害者福祉協会 寺中 久美子 山口県 (一社)山口県視覚障害者団体連合会 舛尾 政美 香川県 (公財)香川県視覚障害者福祉協会 藤田 正志 徳島県 (公財)徳島県視覚障害者連合会 久米 清美 愛媛県 (公財)愛媛県視覚障害者協会 楠本 光男 高知県 高知県視覚障害者協会 恒石 道男 福岡県 (福)福岡県盲人協会 池田 精治 福岡市 (一社)福岡市視覚障害者福祉協会 小山田 稔 北九州市 (特)北九州市視覚障害者自立推進協会 あいず 野村 秀紀 佐賀県 (一社)佐賀県視覚障害者団体連合会 森 きみ子 長崎県 (一社)長崎県視覚障害者協会 野口 豊 大分県 (福)大分県盲人協会 衛藤 良憲 熊本県 (福)熊本県視覚障がい者福祉協会・団体 村上 芳継 宮崎県 (公財)宮崎県視覚障害者福祉協会 小島 義久 鹿児島県 (一社)鹿児島県視覚障害者団体連合会 小山 義方 沖縄県 (福)沖縄県視覚障害者福祉協会 知花 光英 (2)協議会名簿 2019年(平成31年)3月現在 あはき あん摩マッサージ指圧師、はり師、きゅう師協議会 小川 幹雄 青年 青年協議会 伊藤 丈人 女性 女性協議会 前田 美智子 音楽 音楽家協議会 富田 清邦 スポーツ スポーツ協議会 濱野 昌幸 148ページ 2 結成70周年記念シンポジウム 1.開催概要  本連合は1948年(昭和23年)8月に大阪府下・二色の浜(にしきのはま)で結成し、2018年(平成30年)は結成70周年を迎える年となった。そして、この結成70周年を契機に、本連合のこれまでの歴史を振り返りながら、今後の視覚障害者運動の将来を考える催しとして、結成の地である大阪において記念式典及び記念シンポジウムを開催する運びとなった。  当日は、全国より約200名の参加者が集い、盛大な催しとなった。記念シンポジウムに先立ち開催を行った記念式典では、関係者による挨拶、感謝状の贈呈、広瀬浩二郎准教授(国立民族学博物館グローバル現象研究部)による記念講演を行った。そして、記念シンポジウムは2部構成での開催になり、前半は本報告書を題材とした将来ビジョンに関するシンポジウム、後半は弱視者を題材にしたシンポジウムを開催した。両シンポジウムとも、これまで本連合では集中して取り扱うことがなかった題材であることから、参加者からの注目は高く、熱気に満ちたシンポジウムとなった。  開催名 日盲連結成70周年記念式典・記念シンポジウム  日時 2018年(平成30年)8月18日(土)         12時30分〜17時00分  会場 大阪府大阪市 メルパルク大阪  主催 社会福祉法人日本盲人会連合 ●「日盲連が目指す将来ビジョン」   司会:江見 英一(関東ブロック協議会青年部 会長)   コーディネーター:橋井 正喜(日本盲人会連合 常務理事)   コメンテーター:広瀬浩二郎(国立民族学博物館グローバル現象研究部 准教授)   パネリスト:舟崎 驕@(将来ビジョン検討委員会 委員)         前田美智子(将来ビジョン検討委員会 委員)         小山 義方(鹿児島県視覚障害者団体連合会 会長)         片岡美佐子(岡山県視覚障害者協会 会長) 2.将来ビジョンに関するシンポジウム  シンポジウムの前半にあたる「日盲連が目指す将来ビジョン」は、本報告書の検討内容を中心に、視覚障害者の現状と将来を議論する内容となった。  シンポジウムの冒頭、竹下会長から将来ビジョン検討委員会についての趣旨説明が行われた。今後、視覚障害者の要望を叶えるためには、視覚障害者を取り巻く現状や課題を総合的・系統的に整理と分析を行い、視覚障害者が目指す社会を実現するためのマスタープランが求められていることを指摘し、視覚障害者の現状と将来を考えることの重要性を示した。  その後、コーディネーターを努める橋井正喜常務理事の進行のもと、各パネリストからは、それぞれの経験を基に視覚障害者の現状と理想的な将来について報告が行われた。子育て、地域との関わり方、団体活動、災害の対応などについて報告があり、会場からは共感する声も上がっていた。コメンテーターを務めた広瀬准教授からは、このシンポジウムのまとめとして「夢を叶えるために回覧板を回そう。僕たちが立ち上がれば、そこに仲間の輪がひろがる。」とのコメントがあり、社会参加に向けて視覚障害者自らが立ち上がり、そして活動を行う必要性が指摘された。 パネリスト:舟崎隆 全盲夫婦での子育てや障害者差別の変化などを紹介する。    パネリスト:前田美智子 結婚後の仕事や子育ての難しさなどを紹介する。 パネリスト:小山義方 学生時代の受験での苦労話や施設の立ち上げなどを紹介する。  パネリスト:片岡美佐子 地元で発生した災害に対する団体としての行動を紹介する。 152ページ 3 委員名簿、執筆者名簿 1.将来ビジョン検討委員会 委員(順不同)  竹下義樹   日本盲人会連合 会長  橋井正喜   日本盲人会連合 常務理事  大橋由昌   日本盲人会連合 元・情報部長  藤井 貢   日本盲人会連合 元・組織部長  三宅 隆   日本盲人会連合 情報部長  前田美智子  日本盲人会連合女性協議会 会長  西村秀樹   日本盲人会連合青年協議会 元・会長  舟崎 隆   日本盲人会連合青年協議会 元・会長  前田茂伸   日本盲人会連合青年協議会 元・会長  大胡田誠   日本盲人会連合青年協議会 元・会長  江見英一   関東ブロック協議会青年部 会長 2.協力執筆者(順不同、敬称略)  小川幹雄   日本盲人会連合 副会長  及川清隆   日本盲人会連合 副会長  後藤英信   日本盲人会連合 常務理事  逢坂 忠   日本盲人会連合 事業部長  工藤正一   日本盲人会連合 総合相談室長  澤村祐司   日本盲人会連合音楽家協議会  指田忠司   日本盲人福祉委員会 常務理事  田中伸明   名古屋市視覚障害者協会 会長  岩間 緑   名古屋市視覚障害者協会 賛助会員  佐々木貞子  DPI女性障害者ネットワーク  中西 勉   国立障害者リハビリテーションセンター         自立支援局第一自立訓練部視覚機能訓練課 機能訓練専門職           (病院 リハビリテーション部ロービジョン訓練 生活訓練専門職)  仲泊 聡   理化学研究所 上級研究員  広瀬浩二郎  国立民族学博物館グローバル現象研究部 准教授  古川千鶴   京都ライトハウスあいあい教室 所長  星川安之   共用品推進機構 専務理事 153ページ 4 将来ビジョン検討委員会 開催履歴  第 1回 2013年(平成25年) 2月 9日  第 2回 2013年(平成25年) 6月 1日  第 3回 2013年(平成25年) 8月11日  第 4回 2013年(平成25年)11月23日  第 5回 2014年(平成26年) 1月26日  第 6回 2014年(平成26年) 3月29日  第 7回 2014年(平成26年) 7月 6日  第 8回 2014年(平成26年)12月13日  第 9回 2015年(平成27年) 2月15日  第10回 2015年(平成27年) 4月11日  第11回 2015年(平成27年) 7月11日  第12回 2015年(平成27年) 8月29日  第13回 2015年(平成27年)10月18日  第14回 2016年(平成28年) 1月11日  第15回 2016年(平成28年) 4月10日  第16回 2016年(平成28年) 7月 9日  第17回 2016年(平成28年)10月 1日  第18回 2016年(平成28年)12月 3日  第19回 2017年(平成29年) 7月29日  第20回 2017年(平成29年)10月15日  第21回 2017年(平成29年)12月16日  第22回 2018年(平成30年) 1月27日  第23回 2018年(平成30年) 3月21日  第24回 2018年(平成30年) 4月21日  第25回 2018年(平成30年) 6月18日  第26回 2018年(平成30年) 7月23日  第27回 2018年(平成30年)10月13日  第28回 2018年(平成30年)12月15日  第29回 2019年(平成31年) 3月16日 裏表紙 発行               社会福祉法人日本盲人会連合  〒169−8664       東京都新宿区西早稲田2−18−2 TEL 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