平成30年9月12日 中央省庁及び地方自治体等の「官公庁における障害者雇用率問題」について(声明) 社会福祉法人 日本盲人会連合  会長 竹下 義樹   今般中央省庁をはじめとした、立法府、司法、地方自治体の「官公庁における障害者雇用率問題」が発覚した。一連の不祥事は、国民の信頼を根底から揺るがすものであり、政府に対して深く反省を求めるとともに、法改正も視野に入れた障害者雇用施策を抜本的に見直し、障害者雇用に真剣に取り組むことを求める。  本連合は、かねてより厚生労働省の労働政策審議会障害者雇用分科会や各種の雇用研究会などにおいて、国家公務員をはじめとする公務部門で働く視覚障害労働者に対しても、民間企業と同様の支援が必要であるとして、制度設計の検討を繰り返し要望してきた。  かつては、視覚障害者は国家公務員採用試験から実質的に排除されていた。私たちは点字採用試験の実施を求めて10数年にわたる運動を展開し、1991年から点字受験が認められた。また、網膜色素変性症など、治る見込みのない目の病気は、病気休暇や休職を認めないという誤った解釈が横行していたが、私たちから是正要望を受けて人事院は、2007年、人事院規則を正しく解釈し運用するよう通知(「障害を有する職員が受けるリハビリテーションについて」)を発出した。在職中に中途で視覚障害者となっても、継続雇用を図り、必要なリハビリテーションを受けて職場復帰し、その人の持てる能力を十分発揮しながら働き続けることも重要である。  いずれにしても、障害者が国及び地方自治体などのあらゆる公務部門で働くことには大きな意義がある。特に、中央省庁における障害者雇用は、単に働く場を提供するに留まらず、国の施策に対して社会的弱者の視点を反映させるためにも必要である。  これまで私たちは公務部門における実雇用率は着実に伸びているとの政府発表を信じて疑わなかった。視覚障害者に限ってみれば雇用の厳しい実態はあっても、視覚障害者以外の障害者雇用は着実に進んでいると考えていただけに、今般の「官公庁等における障害者雇用率問題」には、驚きを通り越して怒りを禁じえない。本来、率先して法を厳守し、障害者の雇用施策を主導する立場である政府・行政機関が、障害者権利条約や障害者雇用促進法に反する違法行為を行ってきたことは、国の根幹を揺るがす大問題である。  そこで、私たちは二度とこのようなことが繰り返されず、障害者雇用を真に前進させるために、下記事項について提案する。 記 1 真相究明と防止策について  まず、政府は有識者・当事者を含む第三者委員会を設置して、すべての行政機関をはじめとした、立法、司法、地方自治体、独立行政法人の障害者雇用の実態を明らかにすべきである。そのうえで、徹底して原因究明を行い、早急に防止策を講ずると共に、厚生労働省のチェック機能を強化し、必要に応じて障害者雇用施策の見直しを行うべきである。  なお、2014年の独立行政法人労働者健康福祉機構(当時)の障害者雇用率問題において、第三者委員会報告書の再発防止策の教訓が生かされなかったことについても、併せて検証すべきである。 2 中央官庁における総合職・一般職の救済措置について  総合職・一般職において、健常者と同じ能力の障害者でも、採用側に法定雇用率を遵守する意図が有るか無いかで採否が違ってくることは十分に考えられる。換言すれば、「雇用率の水増し」が事実であれば、採用過程において違法な状態で競争させられていたとも言えるので、試験の特別措置を申し出た人(障害者)については、改めて現状を確認し、採用候補者名簿有効期限3年を経過した者も含めて、再度官庁訪問の機会を与えるなどの救済措置を検討すべきである。 3 「61調査」の統計の取り方について  毎年行われている6月1日現在における障害者雇用状況報告(「61調査」)は、身体、知的、精神、その他の障害者というように、身体障害者をひとくくりにしているが、少なくとも身体障害者については障害の部位別に統計を取るべきであり、障害等級、職種、配慮事項などについても報告を求めるべきである。このように障害の部位別に報告を求めることは、障害の態様に応じた施策を打ち出す上でも必要であり、「水増し」の抑制にもつながる。 4 雇用管理や労働環境整備について  官公庁は民間の模範たるべく率先垂範して障害者雇用に取り組むのは当然であるとして、民間企業より雇用率を高く設定されている。しかし、その結果は、雇用率達成至上主義に陥り、モデルとなるような雇用支援などに関する具体的取組は乏しかったことが、今般の水増し問題にも現れていると言える。雇用率達成は重要ではあるが、真に障害者雇用を促進し、障害者の職場定着を図るためには、雇用管理や労働環境整備に力を入れるべきであり、その担当責任者を明確にし、定期的に各省庁の当該責任者による情報交換会を開催するなどして、その内容を公表すべきである。 5 財源措置について  障害者の雇用にかかる財源として、民間企業には納付金や雇用保険財源が充てられているが、官公庁にはそのような財源措置がないため、「予算措置がない」などを根拠に必要な配慮が受けられず困っている視覚障害を持つ公務員が少なくない。官民問わず、合理的配慮やキャリアアップ、中途障害者のリハビリテーションは障害者雇用にとって重要で、そのためにも一定の財源が不可欠である。納付金などの財源が使えない官公庁には、それに代わる財源として、一般財源を投入するか、官公庁に働く障害者支援を目的とする基金制度を創設するなどして、官民格差解消を図るべきである。 6 障害者枠採用について  職員採用において、そもそも重度障害者は採用されにくい仕組みになっている。試験に合格すると、採用候補者名簿に登載されて、そこから選ばれて面接などを経て採用されていくが、「行政機関の職員の定員に関する法律」(総定員法)の下では、重度障害者はよほど特筆すべき能力がない限り、採用に至ることはないのが現実である。ちなみに、国家公務員はいわゆる総定員法により定員が決まっているので、特別な配慮が必要な重度障害者を採用したくないのが本音であろう。そのため、能力のある障害者を率先垂範して登用するためには、総定員に縛られない特別枠(障害者枠)が必要である。職場介助者の配置が必要な場合でも、介助者を総定員の枠外で採用することができる仕組が必要である。 7 行政中枢部に重度障害者を採用することについて  行政職においても、障害者枠を設けて重度障害者を積極的に採用すべきである。行政の中枢部にも一定の障害者がいなければ、社会的弱者の目線に立ち、ダイバーシティーに対応した行政はできない。国は今後法定雇用率を達成するために3000人超の障害者を早急に雇用する方針を立てた。そうであれば、このうち具体的に何人を総合職・一般職やそれに準ずる職種として採用し、直接政策に携わる職員とするのかをも明確に示すべきである。 8 チャレンジ雇用について  雇用率を達成する手段として、特定業務のチャレンジ雇用が実施されている。チャレンジ雇用は障害者を雇用する入り口を広げ、一緒に働くことを通して互いに理解し合う場として有効であるが、そうした本来の制度目的を離れ、単に雇用率の数合わせのために利用すべきではない。  ちなみに、チャレンジ雇用を進める場合、同制度は安定した身分保障のない有期雇用であるため、雇用終了後の再就職に向けて、雇用中の研修を充実させるとともに、雇用中の業務実績を的確に提示できるようにするなどの支援を強化すべきである。また、始まりはチャレンジ雇用であっても、本人の熱意、能力、適性を評価し、省庁内でステップアップしていく仕組みも必要である。 9 指導・チェック体制の強化について  点検・指導にあたっては、単に雇用率をチェックするだけでなく、採用方法、中途障害者の継続雇用と支援の内容、合理的配慮の実施状況、研修、広報・啓発などをトータルで行う必要がある。そのためのハローワークなどの関係職員についても、必要に応じて増員すべきである。     以 上