補装具費支給制度の 適切な理解と運用について 平成30年 厚生労働省 社会・援護局障害保健福祉部 福祉用具専門官/障害福祉専門官 秋山 仁 参考文献・URL ・補装具費支給事務ガイドブック(テクノエイド協会)  ※平成29年度厚生労働省障害者総合福祉推進事業成果物  http://www.techno-aids.or.jp/research/guidebook_180411.pdf ・補装具費支給判定基準マニュアル(国立障害者リハビリテーションセンター) http://www.rehab.go.jp/ri/kaihatsu/hosougukenkyu/doc/hantei_manual_koukaiban.pdf ・厚生労働省ホームページ(福祉用具) https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/shougaishahukushi/yogu/index.html 1 概要 (1)目的 ○障害者が日常生活を送る上で必要な移動等の確保や、就労場面における効率の向上を図る ○障害児が将来社会人として独立自活するための素地を育成助長する (2)実施主体 市町村 (3)対象者 補装具を必要とする障害者、障害児、難病患者等(政令に定める疾病に限る) (4)申請方法 障害者又は障害児の保護者が市町村長に申請し、身体障害者更生相談所等の判定又は意見に基づく市町村長の決定により、 「補装具」の購入等に要した費用の額(基準額)から利用者負担額を除した額(補装具費)の支給を受ける。 2 補装具とは 障害者等の身体機能を補完し、又は代替し、かつ、長期間にわたり継続して使用されるものその他の厚生労働省令で定める基準に該当するものとして、義肢、装具、車いすその他の厚生労働大臣が定めるもの。 (1)厚生労働省令で定める基準 次のいずれにも該当するもの。 @障害者等の身体機能を補完し、又は代替し、かつその身体への適合を図るように製作されたものであること。 A障害者等の身体に装着することにより、その日常生活において又は就労若しくは就学のために、同一の製品につき長期間に渡り継続して使用されるものであること。 B医師等による専門的な知識に基づく意見又は診断に基づき使用されることが必要とされるものであること。 (2)対象種目 @義肢(義手、義足) A装具(下肢装具、体幹装具、上肢装具) B座位保持装置 Cその他 ・視覚障害者の補装具・・・盲人安全つえ、義眼、眼鏡 ・聴覚障害者の補装具・・・補聴器 ・その他肢体不自由者の補装具・・・車椅子、電動車椅子、歩行器、歩行補助つえ ・重度障害者用意思伝達装置 ・身体障害児の補装具・・・座位保持椅子、起立保持具、排便補助具 3 費用負担 ○公費負担・・・国2分の1、都道府県4分の1、市町村4分の1 ○利用者負担・・・世帯の所得に応じて負担上限月額を設定。生活保護世帯、市町村民税非課税世帯は0円、一般(市町村民税課税世帯)は上限37200円。 【参考】日常生活用具(平成18年厚生労働省告示第529号) 用具の要件をすべて満たし、用具の用途及び形状のいずれかに該当するもの。 1 用具の要件  イ 障害者等が安全かつ容易に使用できるもので、実用性が認められるもの  ロ 障害者等の日常生活上の困難を改善し、自立を支援し、かつ、社会参加を促進すると認められるもの  ハ 用具の製作、改良又は開発に当たって障害に関する専門的な知識や技術を要するもので日常生活品として一般に普及していないもの 2 用具の用途及び形状  イ 介護・訓練支援用具・・・特殊寝台、特殊マットその他の障害者等の身体介護を支援する用具並びに障害児が訓練に用いるいす等のうち、障害者等及び介助者が容易に使用できるものであって、実用性のあるもの  ロ 自立生活支援用具・・・入浴補助用具、聴覚障害者用屋内信号装置その他の障害者等の入浴、食事、移動等の自立生活を支援する用具のうち、障害者等が容易に使用することができるものであって、実用性のあるもの  ハ 在宅療養等支援用具・・・電気式たん吸引器、盲人用体温計その他の障害者等の在宅療養等を支援する用具のうち、障害者等が容易に使用することができるものであって、実用性のあるもの  ニ 情報・意思疎通支援用具・・・点字器、人工喉頭その他の障害者等の情報収集、情報伝達、意思疎通等を支援する用具のうち、障害者等が容易に使用することができるものであって、実用性のあるもの  ホ 排泄管理支援用具・・・ストーマ装具その他の障害者等の排泄管理を支援する用具及び衛生用品のうち、障害者等が容易に使用することができるものであって、実用性のあるもの  ヘ 居宅生活動作補助用具・・・障害者等の居宅生活動作等を円滑にする用具であって、設置に小規模な住宅改修を伴うもの 4 申請について 補装具費の支給を希望する身体障害者は、市町村に、申請書、補装具費支給医師意見書、見積書等の必要書類を添えて申請する。 @申請者が市町村に必要書類を添えて申請 ※支給決定前に必要な書類  a 申請書   ○申請者の氏名、居住地、生年月日、個人番号及び連絡先(障害児の氏名、生年月日、個人番号及び当該障害児の保護者との続柄)   ○当該申請に係る補装具の種目、名称、製造事業者名及び販売事業者名又は修理事業者名   ○身体障害者手帳を所持している場合は、その番号   ○所得に関する情報  b 医師の意見書又は診断書  c 所得状況を証する書類(負担上限月額の算定用)  d 補装具の購入等に要する費用の見積り ※支給決定後に必要な書類  e 補装具の購入等に要した費用の領収証  f 補装具の購入等の完了後、障害者等の身体への適合の状態を確認できる書類等 A市町村が身体障害者更生相談所に判定依頼 B身体障害者更生相談所が判定 C市町村が支給決定 D申請者と補装具業者が契約、補装具の製作(身体障害者更生相談所が適宜指導・助言) E市町村、身体障害者更生相談所等による適合判定 F引渡し、申請者が補装具業者に全額支払い G申請者が市町村に補装具費の支給を請求 H市町村が申請者に補装具費を支給 ※補装具費支給意見書を作成する医師  ○専門医又は国立障害者リハビリテーションセンター学院で行う補装具関係の適合判定医師研修会を修了している医師。  ○上記と同等と認められる医師。(補装具費支給意見書により市町村が判断のうえ決定する場合)  ○難病患者等の場合は、上記医師に加え、都道府県が指定する難病医療拠点病院又は難病協力医療機関において難病治療に携わる医療を主として担当する医師であって、所属学会において認定された専門医 5 適合判定について ・市町村は、補装具費の支給に当たって、更生相談所、補装具費支給意見書を作成した医師等と連携を図り、適合判定(確認)を行う ・適合判定は、申請者、医師、PT、OT、PO、補装具業者、補装具担当職員等の立会いのもとに実施する。 ・適合判定の結果、申請者に適合しないと認められた場合や処方箋どおりに製作されていない場合等は、補装具業者に対し不備な箇所の改善を指示し、改善がなされた後に補装具の引渡しを行わせる 6 特例補装具について ・「身体障害者・児の障害の現症、生活環境その他真にやむを得ない事情により、告示に定められた補装具の種目に該当するものであって、別表に定める名称、型式、基本構造等によることができない補装具」として規定されている。 ・特例補装具費の支給の必要性及び当該補装具の購入又は修理に要する費用の額等については、更生相談所又は指定自立支援医療機関若しくは保健所の判定又は意見に基づき市町村が決定する。 ・なお、身体障害児に係る特例補装具費の支給に当たっては、市町村は必要に応じ、補装具の構造、機能等に関する技術的助言を更生相談所に求めることとされている。  7 支給対象となる補装具の個数や耐用年数の取扱い ・支給対象となる補装具の個数は、原則として1種目につき1個 ・障害の状況を勘案し、職業又は教育上等特に必要と認めた場合は、2個とすることができる ・耐用年数については、通常の装着等状態において当該補装具が修理不能となるまでの予想年数が示されたもの。 ・その実耐用年数には相当の長短が予想されるので、再支給の際には実情に沿うよう十分配慮すること  8 差額自己負担の取扱い ・その種目、名称、型式、基本構造等は支給要件を満たす必要がある。 ・ただし、希望するデザイン、素材等を選択することにより基準額を超える場合は、基準額との差額を本人が負担することとして支給の対象とすることは、差し支えない 9 介護保険による福祉用具貸与との適用関係 ・介護保険の対象となる身体障害者であって要介護状態又は要支援状態に該当するものが、介護保険の福祉用具と共通する補装具を希望する場合には、介護保険による福祉用具の貸与が優先する ・身体状況に適合させるため、オーダーメイド等により個別に製作する必要があると判断される者である場合には、更生相談所の判定等に基づき、本制度により補装具費を支給して差し支えない 10 借受けについて ・補装具は、身体障害者・児の身体状況に応じて個別に身体への適合を図るよう製作されたものを基本としていることから、購入することが原則である。 ・このため、補装具の借受けについては、障害者総合支援法において、「借受けによることが適当である場合」として、次の場合に限るとしている。  @身体の成長に伴い、補装具等の短期間での交換が必要であると認められる場合  A障害の進行により、補装具の短期間の利用が想定される場合  B補装具の購入に先立ち、複数の補装具等の比較検討が必要であると認められる場合 11 視覚障害者用の補装具 (1)盲人安全つえ  ○障害の状態・・・視力の低下、視野狭窄がある状態  ○基本要件・・・視力の低下や視野狭窄により、盲人安全つえがなければ歩行の安全を図れない者が対象  ○用具の解説   視覚障がいがある場合で、路面状態や障害物などを事前に察知することにより安全性を確保する目的として使用する。   杖先から地面の状況や突然の変化を探る情報提供の役割、障害物に先に当たるバンパーの役割、視覚に障がいがあることを周囲に理解させるシンボルとしての役割があります。あまり軽すぎると情報を感じ取りにくいので200g 程度が適当とされている。   道路交通法に携帯義務が規定されているほか、外装(色)についても、白色または黄色であることが道路交通法施行令で定められている。 @普通用 直杖、棒状になっており、一般的な長さは85 〜 140cm 程度。シャフトとは、杖の本体であり、現在はグラスファイバー、アルミ、ジェラルミン、カーボンなどが使用されている。石突きとは、指先と同様の機能を果たすもので、丈夫で滑りやすいことが重要で、通常ナイロンが素材として使用されている。摩耗が激しいため、半年くらいで交換されている。 ・繊維複合材料:3550円 耐用年数2年 ・木材:1650円 耐用年数2年 ・軽金属:2200円 耐用年数5年 【共通の基本構造】  ・石突・・・耐摩耗性合成樹脂又は高力アルミニウム合金  ・外装・・・白色又は黄色の塗装若しくは加工  ・形状・・・直式 A携帯用 持ち運びに便利で、旅行時等に利用する。 折りたたみ式は、数段に折りたたみ可能、本体の中にひもゴムまたはワイヤーを通してあり、バラバラにならないようになっている。 スライド式はアンテナロット式で数段に収納されており、先端部を引き伸ばして固定する。 ねじ式は引き伸ばしてねじるとそこで固定し、長さの調節が可能なものを言う。 ・繊維複合材料:4400円 耐用年数2年 ・木材:3700円 耐用年数2年 ・軽金属:3550円 耐用年数4年 【共通の基本構造】  ・石突及び外装・・・普通用と同じ  ・形状・・・折りたたみ式若しくはスライド式 B身体支持併用 主に身体を支えながら歩行すると共にシンボルケインとして使用される杖。持ち手にはT 字型グリップ、先端は滑り止めのゴム足などが付属されている。形態としては長さ調整が可能なものや、折りたたみが出来るものがある。 ・軽金属:3550円 耐用年数4年 【その他の基本構造】  ・石突・・・ゴム又は普通用と同じ  ・外装・・・普通用と同じ  ・形状・・・直式又は折りたたみ式若しくはスライド (2)義眼 ○障害の状態・・・無眼球や眼球萎縮又は角膜に白斑がある状態をいう。 ○基本要件・・・無眼球や眼球萎縮のため義眼を必要とする者で、義眼の装着により容姿の改善が図られる者。 @レディメイド 対象者:眼窩の状態がレディメイドに適する者 基本構造:主材料はプラスチックまたはガラス(レディメイド) 価格:17000円 Aオーダーメイド 対象者:眼窩の状態がレディメイドに適合しない者 基本構造:特殊加工を施した者 価格:87500円 ※耐用年数は2年 【留意点】  義眼は、眼球摘出後や眼球内容除去後の無眼球の場合だけでなく、眼球が残っている場合であっても眼球癆、眼球萎縮、先天性小眼球症、角膜白斑など様々な場合に必要となる。  医師の処方を確認の上支給の決定をする。  現在、レディメイドはほとんど作られず、オーダーメイドが主流。 (3)眼鏡 ○障害の状態・・・視力の低下、視野狭窄がある状態。 ○基本要件・・・視覚障害があり、眼鏡の使用により日常生活が改善される者が対象。 〇用具の種類…屈折異常や弱視等の視覚障害を補うほか、網膜色素変性症などの障害者の眼球保護に用いられる用具で、視覚障害者の障害の程度、状況により4種類に区分されている。 @矯正用 ・対象者、要件等…屈折異常もしくは無水晶体眼などで視力低下があり、矯正用にて視力が改善される者。 ・用具の解説…近視、遠視、乱視等、網膜で焦点が正しく結ばれない場合にレンズを用いて矯正を行うための眼鏡。焦点距離による度数に応じて分類される。 6D未満:17600円 ・6D以上10D未満:20200円 ・10D以上20D未満:24000円 ・20D以上:24000円 【備考】 価格はレンズ2枚1組のものとし、枠を含むものであること 乱視を含む場合は片眼又は両眼にかかわらず、4200円増しとすること 遮光用としての機能が必要な場合は、30000円とすること A遮光用 ・対象者、要件等…以下の要件を満たす者。 1)視覚障害により身体障害者手帳を取得していること 2)羞明を来していること 3)羞明の軽減に、遮光眼鏡の装用より優先される治療法がないこと 4)補装具費支給事務取扱指針に定める眼科医による選定、処方であること ※この際、下記項目を参照の上、遮光眼鏡の装用効果を確認すること。(意思表示できない場合、表情、行動の変化等から総合的に判断すること) ・まぶしさや白んだ感じが軽減する ・文字や物などが見やすくなる ・羞明によって生じる流涙等の不快感が軽減する ・暗転時に遮光眼鏡をはずすと暗順応が早くなる ※遮光用とは、羞明の軽減を目的として、可視光のうちの一部の透過を抑制するものであって、分光透過率曲線が公表されているものであること。 ※難病患者等に限り身体障害者手帳を要件としないものであり、それ以外は視覚障害により身体障害者手帳を取得していることが要件となる。 ・用具の解説…着色レンズを使用する。特定の光波長をカットするので、眩しさを感じない。羞明の軽減を目的として、可視光のうちの一部の透過を抑制するものであって、分光透過率曲線が公表されているものであること。網膜色素変性症の場合、徐々に視力低下が進行していくので、進行緩和の役割ももっている。前掛式は、矯正眼鏡と一体化して使う。 ・前掛式・・・21500円 Bコンタクトレンズ ・対象者、要件等…強度の屈折異常や角膜白斑などで視力低下があり、コンタクトレンズにて良好な視力が得られる者。 ・用具の解説・・・小型レンズを角膜の表面に装着して使用するもの ・プラスチック:15400円 耐用年数4年 【備考】 価格はレンズ1枚のものであること。 C弱視用 ・対象者、要件等…矯正用やコンタクトレンズで良好な視力を得られないが、弱視用により対象物を拡大して見ることで日常生活及び社会生活上その効果が見込まれる者。 ・掛けめがね式:36700円 耐用年数4年 ・ルーペを眼鏡に組込んだもの ・主に近用として使用され、遠用の適用は少ない。 【備考】  高倍率(3倍以上)の主鏡を必要とする場合は、21800円増しとする。 ・焦点調整式:17900円 耐用年数4年 ・手に持って使用するタイプ ・望遠鏡型で主に遠用に使用。 12 主なQ&A (1)盲人用安全つえの身体支持併用の支給には、肢体不自由(下肢の機能障害など)の身体障害者手帳が交付されている必要があるか。  A 身体支持用の盲人安全つえは、ニーズを踏まえ市場調査等を行った結果として取り入れたものであり、視覚障害であって、身体支持併用のつえの交付が必要と認められる場合、支給の対象と考えて差し支えない。 (2)視力障害を理由とした身体障害者手帳が交付されていない者に対し遮光用の機能のある矯正用の支給決定は可能か。  A 矯正用は屈折異常もしくは無水晶体眼などで視力低下(視力障害)等の視力障害を理由とする身体障害者手帳の交付を受けた者であって、矯正用にて視力が改善される者を対象に支給決定している。このため、それ以外の者に対して遮光用の機能がある矯正用を支給決定することは適当ではない。 (3)「眼鏡」に複数の構造があるが、1種目につき1個の支給という原則をどのように解釈すべきか。  A 「眼鏡」という種目の中には、矯正用、遮光用など、それぞれ構造が異なった種類を規定しており、その用途も異なっているため、個々の者の視覚障害の程度や生活環境等を踏まえ、「眼鏡」という種目の中で複数支給することは可能である。 (4)盲人安全つえについて、スペアを支給してほしい。  A 補装具費支給制度では、補装具の修理を行っている間などの当該補装具の代用品(いわゆる「スペア」)の支給は認めていない。一方、構造や用途が別であれば同一種目においても複数支給を認めることは可能である。この趣旨と障害者の生活状況を踏まえ、例えば、普通用と携帯用のそれぞれを支給する必要があるか判断することとなる。 (5)難病患者等で身体障害者手帳の交付を受けていない者に矯正用や遮光用の眼鏡の支給は可能か。  A 難病患者等による補装具費の申請については、全ての種目において可能であるが、補装具費支給意見書や身体障害者更生相談所等を通じ、個々の身体状況等に応じて必要性を判定した結果、支給されない場合もある。矯正用であれば、視力障害の認定そのものが、矯正視力(矯正眼鏡を付けた状態)で判断するものであることから、矯正眼鏡を使用しても身体障害者手帳の対象となる程度の者を対象と考えることが適当である。