企画展《映画で知ろう!!視覚障害者のこと》 大居張博士(おおいばりはかせ)「大居張じゃ、えっへん」 アシ子(あしこ)「アシ子です、えっへん」 大居張博士「昨年から今年にかけて、視覚障害にスポットを当てた映画が何本か上映されているな。最近はという、映画を音声解説つきで楽しむことができるスマホのアプリが登場したことによって、目が見えない人でも気軽に映画を楽しむことができるようになったんじゃ!」 アシ子「見える人も見えない人も、同じ映画館で同じ映画を一緒に楽しむことができるなんて夢のような話ですね!」 大居張博士「叶わぬ夢などないということじゃよ、アシ子君(キリッ!)」 アシ子「このブースでは、視覚障害に関係する映画を紹介するのですか?」 大居張博士「そのとーりじゃ!鋭いな、アシ子君」 アシ子「タイトルにひねりがないので助かります」 大居張博士「『ちょき』『光』『もうろうをいきる』の3本の作品をご紹介しよう!はじめは、『ちょき』じゃ。ちなみに、この『ちょき』だけはUDCastに対応してないので注意が必要じゃ」 アシ子「チョキって、グー、チョキ、パーのチョキですか?」 大居張博士「美容師が使用するハサミの音から、ヒロインがつけたニックネームじゃよ。ちょきちょきちょっきん」 アシ子「どんなストーリーですか?」 大居張博士「盲学校に通う少女と、40代のおじさんのピュアなラブストーリーじゃ」 アシ子「不純な匂いしかしませんが…」 大居張博士「ピュアじゃ!!」 アシ子「それでは、さっそくストーリーを紹介しましょう」 ■映画『ちょき』、穏やかに過ぎゆく時間の中で。 小さな街の小さな美容室。 盲目の少女と美容師のおじさんの、ていねいで、いとおしい、小さな恋の話。  監督・脚本:金井純一  出演:増田璃子・吉沢悠・藤井武美・和泉ちぬ・広澤草・芳本美代子・小松政夫 ポットを片手に、おじさんが一人、レトロな街並みを行きます。 一画にある美容室の前に足を止めると、コートのポケットから鍵を取り出しました。看板には、“HATANO”の文字。 妻を五年前に亡くした彼のもとに、かかってきた一本の電話。視力を失った少女との10年ぶりの再会が、おじさんの小さな恋の始まりでした。 STORY(映画『ちょき』公式サイト:http://choki-movie.com/から) 自然豊かな和歌山市の商店街にある美容室“HATANO”。 レコードとコーヒーが好きな波多野直人は美容師を、 妻・京子は美容室の二階で書道教室をしていた。 7歳の瀬戸サキは、その書道教室に通っていた問題児だが、 京子はサキを自分の娘のように可愛がっていた。 直人と京子の間に子供はいなかった。 時は経ち十年後、一本の電話がかかってくる。 それは十年前のある事件以来会っていなかったサキだった。 彼女は視力を完全に失っていた。 直人も最愛の妻・京子を五年前に亡くしていた。 空白の十年間に何があったのか。 サキの想いを知り、直人はある大きな決意をする・・・。 大居張博士「『ちょき』の舞台は和歌山県じゃ。わかやまじゃんじゃん横丁・和歌浦天満宮・マリーナシティや和歌山盲学校、そして交わされる会話は和歌山弁と、まさに和歌山の魅力がぎゅーっと凝縮されている、THE和歌山!な映画じゃ!サウンドはアコースティックギターがメインになっておる。抑えめな音色が、素朴な味わいを生んで、石段を叩く石突の音・風や波の音・鳥のさえずりなどを自然と際立たせ、日常にある音さえも、まるでBGMの一部のように聴かせてくれるぞ」 アシ子「先生、意外と詩人ですね。映画で多用されがちなBGMによる扇情的な演出、劇的な展開や重い描写もなくて、作品全体を“穏やかさ”が包み込みんでいますよね」 大居張博士「うむ。この作品にとって、障害はあくまで要素であり、メインに描かれているのは人と人の交流じゃ。主演の増田璃子さんの囁くような話し方や、美容師役の吉沢悠さんとのテンポのよい会話が深い味わいを生み、ゆったりとした時の流れを感じることができるはずじゃ」 アシ子「忙しない現代社会にお疲れ気味な人にはピッタリの作品ですね」 大居張博士「ピュアだしの!」 ☆『ちょき』をめぐる言葉1(舞台挨拶から) (増田さんへの質問)-盲目の少女を演じる上で難しかった点・苦労した点はありますか?  増田さん「目線とかまばたきとかそういうところに一番苦労したのですけど、もしも全盲の方が近くにいらっしゃる方は分かると思うのですけど、実際にお話をすると目が合っているように感じるというのか、雰囲気で感じ取る・・・そういうところがあって。  でも、もしかしたら映像で観たら分かりにくいかなぁと思って、私なりに考えて目線を少し外すようにして、そんなところでちょっと苦戦しました」 (吉沢さんへの質問)-美容師役で苦労した点はありますか?  吉沢さん「監督が全まかせというのか、美容師の講習もクランクインの3日前だったので、ちょっと心配になって2週間前くらいから個人的に美容師さんと理容師さんに教わりました。その間に何度か指を切ったりしまして・・・。撮影に入ってからも毛先だけですが、女優さん3人くらい髪の毛切ったので、やっていて本当に良かったなと思います(笑)。  映画の中で、美容師のおじさんというくだりがあるので、美容師に見えなかったら困るなと思って、そこら辺は苦労しましたね」 (監督への質問)-盲目の少女と美容師のおじさんという組み合わせで映画を作りたいと思った理由は何でしょうか?  金井監督「髪を、目の見えない方が切るときにどうしているのかなって、思ったのが一番最初です。目が見えていても美容師さんに髪を切ってもらうのは信頼関係があると思うので、さらに目が見えないとなるとかなり美容師さん任せになる面があるのではないかなと思って、過去に映画で使われていないかなと思ってGoogleで検索して、なかったので絶対映画化しようと思いました」 (以後、皆様への質問)-実際に撮影をしてみて何かエピソードはありましたか?  金井監督「和歌山で撮るとなったときに、和歌山に盲学校がありまして、増田さんと一緒に行って盲学校の生徒さんと直接話をしたり、学校をお借りしてロケもできました。(増田さんも)役作りで研究していたと思うのですが、本物の学校に行って生徒さんと話して、その役のきっかけを掴むというのは一番大きかったかなと思います」 -金井監督は吉沢さんと初タッグでしたが、実際に撮影してみていかがでしたか?  金井監督「雰囲気が優しい方で、任せちゃいけない方もたまにいらっしゃるのですが(笑)、吉沢さんは本当にお任せしたいなって思いました。  撮影中は完全にちょきさんとサキと思って見ていたのですけど、変な話なんですけど、1年経って舞台挨拶で和歌山に行ったときに吉沢さんとして会うわけじゃないですか・・・すごい格好いいなと思ってしまって、ビックリしたんですよね(笑)。ふと初めて、吉沢さんと会った気がして」  吉沢さん「ありがとうございます(笑)。それで思い出したのですけど、最初監督とお会いしたときは、このちょきさんの設定50代だったんです。僕でいいんですか、この役みたいな?  監督はこう柔らかい方なので、たまに現場に入ると豹変される監督もいらっしゃるので、滅茶苦茶怖い人だったらどうしようと思ったのですけど、ずっとこういう感じの柔らかい人で現場でやりやすかったですね」 アシ子「この映画は、日盲連とのコラボ企画が実現しましたよね!」 大居張博士「うむ!昨年の12月15日に開催された音声ガイド付き上映会で、上映終了後にトークショーが行われたのじゃ。今TVでひっぱりだこの大胡田誠弁護士、特定非営利活動法人 視覚障害者パソコンアシストネットワーク(SPAN)理事 上田喬子さんが登壇したんじゃよ」 アシ子「上田さんは着物姿でしたね」 大居張博士「着付けは自分で行ったようじゃ。着物、ええのぉ」 ☆『ちょき』をめぐる言葉2(トークショーから) ―BGMにアコースティックギターを採用した理由  金井純一監督「映画を撮ったときに、触れたことを感じる楽器、手を、弾いている人を感じる楽器ということでギターがいいかなと」 ―目が見える相手との恋愛で「壁」を感じますか?  大胡田誠弁護士「最初は不便があるのだけど、だんだんお互いのやり方が分かってきて、意外と見える見えないというのは壁ではなくて、そこを歩み寄れる2人がいるかどうかが重要なんだなぁと、何となく思うので」 アシ子「大胡田先生の恋バナを聞くことができた貴重なトークショーでしたよね」 大居張博士「女子のハートをわしづかみ!」 ■映画は広い世界を生きている~映画『光』、音声ガイドの世界を照らす~ -やがて見えなくなるあなたが沢山のものを見せてくれた-  監督・脚本:河瀨直美  出演:永瀬正敏 水崎綾女  神野三鈴 小市慢太郎 早織 大塚千弘/大西信満 白川和子/藤竜也  製作:『光』製作委員会  配給:キノフィルムズ アシ子「きました!映画『光』!!」 大居張博士「話題になった作品なので、ご存じの方も多いことじゃろう。音声ガイドが脚光を浴びて、音声ガイドナレーション講座の受講希望者もかなり増えたようじゃ。CINEMA Chupki TABATA(シネマ・チュプキ・タバタ)代表の平塚千穂子さんも驚いていたの」 アシ子「さっそくストーリーをご紹介します」  映画の音声ガイドの制作に関わる尾崎美佐子(水崎綾女)は、視覚障害者を迎えてのモニター上映会で弱視の男性 中森雅哉(永瀬正敏)と出会います。  かつては天才カメラマンと称賛を浴びていた雅哉は、愛機のローライフレックスを大切に抱え、ファインダーを覗き込みシャッターを切ります。わずかに残った視力を頼りに。  出会った当初は雅哉の無愛想な態度に苛立つ美佐子でしたが、彼が過去に撮影した夕日の写真を見て心を突き動かされます。  衝突を繰り返しながらも歩み寄る二人、しかし雅哉の目は少しずつ、そして確実に光を失っていきます。  言葉でイメージを伝えるということは、どういうことなのか。雅哉と過ごす時間の中で、美佐子の何かが変わりはじめます。 アシ子「シティ・ライツの会員の田中正子さんも出演されていましたよね」 大居張博士「”映画は広い世界を生きている”は名言じゃな!」  「映画は広い世界を生きている」、本作に出演したバリアフリー映画鑑賞推進団体シティ・ライツ会員で全盲の田中正子さんの台詞です。  視覚障害者は映画をどのように観ているのかについて、田中さんは「いつの間にか映画の世界にいて、同じ空気を吸っている」と、とても綺麗に表現しています。 そして音声ガイドについては、「大きな世界を、言葉が小さくしてしまうほど残念なことはない」と質の重要性を訴えています。 アシ子「必要以上の説明は、かえって押しつけがましくなるということですよね。永瀬正敏さんの” 今回のガイド、今のままなら邪魔なだけです”も名言ですよね」 大居張博士「当事者を迎えての音声ガイドモニター上映会で、水崎綾女さん演じる美佐子と永瀬正敏さん演じる雅哉が出会うシーンじゃな」 アシ子「第一印象は最悪でしたね。作品を通して、言葉でイメージを伝えることの難しさに行き詰まる女性と、世間に評価されながらも失われていく視力に苦悩するカメラマンの姿が描かれます」 大居張博士「最初は反発する2人。しか~し!いつか2人は~♪」 アシ子「いつか2人は~♪」 大居張博士・アシ子「ララララララ~♪」  永瀬さんが河瀨監督の作品に出演するのは、前作に続き2度目です。  今作では、弱視という難しい役に挑戦した永瀬さん。撮影の前に徹底的な役作りを行いました。複数の当事者から話を聞き、嘘偽ることなくそのまま役に投影したため、雅哉について「多くの人に作ってもらった」という意識を強く持っているようです。  河瀨監督の現場は、演じるのではなく役を生きるという独特なもので、永瀬さんは慣れるのに時間がかかったと笑います。役に徹するというよりも、もはや雅哉自身となった永瀬さん。失明するシーンでは絶望から2週間ほぼ食事を摂らず、結果的に10キロ近くも体重を落としたというエピソードは有名です。 アシ子「クランクアップした後も、しばらく雅哉が抜けずに苦労されたそうです」 大居張博士「永瀬さんは、シティ・ライツの準会員にもなっているようじゃ」 アシ子「とてもいい方ですよね!」  それでは、失明するカメラマンの姿を通して河瀨監督は何を伝えようとしたのでしょうか。  『光』-映画のタイトルですが、ここにヒントがありそうです。 とてもシンプルですが、河瀨監督は「勇気を出してつけた」と容易な決断ではなかったと述懐しました。 永瀬さんは「失わざるをえなかった、それでも抱えていた闇を捨てたとき、光はそばにあるのだということを描きたかったのだと思う」と、監督の胸の内を推し量ります。 アシ子「ラストの”光”は、胸に迫るものがありますよね!」 大居張博士「劇中映画『その砂の行方』も製作されておるぞ。こちらは16分ほどの短編作品じゃ」 ■映画『もうろうをいきる』が伝えたもの~指で奏でる人と人のつながりの記録~  ぼくが光と音を失ったとき  そこには言葉がなかった  そして世界がなかった  ぼくは闇と静寂の中でただ一人  言葉をなくして座っていた  ぼくの指にきみの指が触れたとき  そこに言葉が生まれた  言葉は光を放ちメロディーを呼び戻した   ※引用:福島智著『ぼくの命は言葉とともにある』(致知出版社) アシ子「盲ろう者というのは、視力と聴力に障害がある方のことですよね?」 大居張博士「この作品は、盲ろう者7人のありのままの日常を撮影したドキュメンタリー映画じゃ。東京大学先端科学技術研究センター教授で、自身も全盲ろうの福島智さんが出演しておるぞ!」 アシ子「監督の西原孝至さんは、33歳!そういえば、『ちょき』の金井監督は34歳ですね。どちらの作品にも独特な繊細さを感じます」 大居張博士「若いとはまことに素晴らしきことなり(遠い目)」  この映画の撮影にかかわるまで盲ろうの世界を知らなかったという西原監督は、コミュニケーションの豊かさに驚いたといいます。「盲ろうの人たちが日々どのように生活をされているのか、丁寧に撮影していけばいい映画になると思った」と述べています。 撮影を開始した昨年の7月に、相模原市緑区の障害者施設「津久井やまゆり園」で、元職員により入所者19人が殺害、27人が負傷する事件が起こりました。  元職員の価値観に反感を抱いた西原監督は、「生きているだけでいいんだと、生きていること自体を祝福するような映画にしよう」と決意したといいます。 大居張博士「7人の盲ろう者のそれぞれの生き方が、本人の生活や会話のやりとりを通して伝わってくるのぉ。コミュニケーションとは何か?その根本を問いかける、静かながらも生きる意志の力強さを感じられる作品になっておるぞ」 アシ子「盲ろうのご夫婦の話がほんわかしますね」  福島智さんは、川口智子さん(弱視・先天性ろう)のエピソードが印象に残ったといいます。川口さんが、「ろう者はみんな、私はろうとして生まれてよかったってよく聞くけど、私は生まれ変わったら聞こえる人になりたい」と手話で伝えるシーンです。 福島さんは、障害とともに生きることを次のように述べています。 「障害者番組などで、障害者が"障害をもつことで人生が豊かになった"と言ったりします。3割は本当でも、7割は嘘だと思います。障害は災害と同じようなもので、自然にふりかかってきたどうしようもない辛い経験です。見えなくて聞こえないことがハッピーだということは、まずありえないわけですよね。大事なことは、辛い経験をする中でどう生きるかだと思っています」 アシ子「福島先生だからこそ説得力を持つ、素敵なコメントですね!」  津久井やまゆり園の事件発生から1年が過ぎ、被告(元職員)と新聞社との書簡のやりとりが公開されました。しかしながら、被告の考え方は「意思疎通がとれない障害者は生きていてもしかたがない」など逮捕時のものと依然変わりはありません。  福島さんは、本作が「相模原の事件へのアンチテーゼのメッセージをもっている」と述べています。 5人目の盲ろう者として、本編に出演したのは貝島麗奈さんでした。貝島さんは、生後まもなく病気で盲ろうとなり、あわせて発作を伴うてんかんを患っているため、一般的な意思の疎通は困難な状態です。現在は、父と母と妹の4人で暮らしています。  妹の優紀さんは「(姉が)私のことを妹と思っているか分からないけど、姉妹というよりは、一緒に生きているって感じがありますね」「自分たちのペースで、一緒に楽しく過ごせる時間が作れたらいいなと思います」とインタビューに答えています。優紀さんはバリアフリーに関心を持ち、現在大学でデザインを学んでいます。 アシ子「いいお話ですね~!」 大居張博士「人のつながり方は、人それぞれ、ということじゃ」  映画『もうろうをいきる』、スクリーンに映し出されているのは「盲ろう」という障害とともに生きる人々が、指などでコミュニケーションを取りながら、周囲の人々とつながろうとする姿です。  生きるということはどういうことか ――――― 人とのつながりなくしては生きていくことができない私たちに、映画は静かに語りかけてきます。 アシ子「これで3本の映画、すべてのご紹介が終わりました。いかがでしたか?」 大居張博士「『ちょき』は上映が終了しているので、今から観るのは少し難しいかもしれんな。光は12月6日にDVDが発売、『もうろうをいきる』はまだまだ上映が行われておるぞ。要チェックじゃ!」 アシ子「さて、企画展《映画で知ろう!!視覚障害者のこと》、いかがでしたか?最後までお付き合いいただき、ありがとうございました!」 大居張博士「ご苦労であった!」 アシ子「そういえば博士、あまり威張っていませんでしたね」 大居張博士「設定を忘れていたのじゃ、えっへん」 アシ子「それでは皆様、ほかのフロアもイベント盛りだくさんですので、どうぞごゆっくりとお楽しみください」 大居張博士「さらばじゃ!」 企画展《映画で知ろう!!視覚障害者のこと》  2017年10月21日 発行 編集:社会福祉法人 日本盲人会連合 情報部 電話:03-3200-6169 E-mail:jouhou@jfb.jp 発行:社会福祉法人 日本盲人会連合 〒169-8664東京都新宿区西早稲田2-18-2 電話:03-3200-0011(代表) FAX:03-3200-7755 WEB:http://nichimou.org/