愛盲時報 平成28年7月25日(月)第251号 ≪1.第69回全国盲人福祉大会 盛会に幕≫ 社会福祉法人 日本盲人会連合と一般社団法人 青森県視覚障害者福祉会の主催による第69回全国盲人福祉大会(青森大会)が、5月20日〜22日の3日間、青森県青森市のリンクステーションホール青森・ホテル青森で開催されました。 20日には理事会、評議員会、あはき協議会代議員会、スポーツ協議会代表者会議、ブロック長会議、21日は研修会「障害者差別解消法をどう生かすか〜施行後の課題」(弁護士・田中伸明(たなか のぶあき) 氏)、そして第53回全国盲人代表者会議が開かれました。 最終日の22日は全国から視覚障害者及び関係者約1100人が参加し、盛大に大会式典ならびに議事が執り行われました。 第1部の式典では青森県視覚障害者福祉会 佐々木(ささき) 秀勝(ひでかつ) 会長が地元主催者団体を代表して歓迎の挨拶を述べた後、日盲連 竹下(たけした) 義樹(よしき) 会長が主催者挨拶で、「今、私たちはまず熊本で苦しんでいる仲間のことを考えなければならない。5年前の東日本大震災の犠牲者は(障害のある人が)一般障害者福祉会佐々木秀勝会長の人の2倍を超えるという統計にもあるように、災害時において、視覚障害者を含む障害者が極めて危険にさらされることを繰り返し経験してきた。 今、熊本では村上芳継会長(社会福祉法人 熊本県視覚障がい者福祉協会)以下、多くが避難生活をしている。私たちは、熊本の仲間を励まして、東日本で復興半ばの仲間を励まし、ともに元の生活あるいは新たな生活が安定するまで、みんなで応援していこう」と呼びかけました。さらに、日盲連顕彰等受賞者に表彰状・感謝状が贈られた後、来賓から祝辞が述べられたほか、多数の関係者から祝電・メッセージが寄せられました。 第2部の大会議事では、平成27年度決議処理報告、平成28年度運動方針(追加項目も含め)を執行部の原案通り全会一致で可決しました。宣言・決議も全会一致で採択されました。 続いて次年度の大会開催地団体を代表して、公益財団法人 徳島県視覚障害者連合会 久米(くめ) 清美(きよみ) 会長が挨拶を行い、最後に 「リンゴの唄」を斉唱し、青森県視覚障害者福祉会 福井(ふくい)宏郷(ひろさと) 副会長の閉会のことばで3日間にわたる大会の幕を閉じました。 ≪2.【時事解説】〜5月20日開催 第 3回理事会 会長挨拶から〜≫ 全国盲人福祉大会初日の、第3回理事会の挨拶で竹下会長は、「岡山短期大学山口雪子(やまぐちゆきこ) 先生に対する不当な職務変更」と「熊本地震」について言及、これらの出来事を通して、日盲連の運動が試されようとしていると訴えました。 ここでは、この2つの出来事と日盲連の取り組みについて、詳しく解説していきます。 T.岡山短期大学 山口雪子先生に対する不当な職務変更について ■経緯・・・山口雪子先生は、1999年(平成11年)から岡山短期大学に採用され、2007年から幼児教育学科の准教授として、幼児環境教育を専門とする授業を担当してきました。 山口先生は目の難病のため次第に視力が低下し、印刷物の確認などの視覚支援が必要になり、学科の派遣事務員から自然な形で支援を受けていました。2014年に派遣事務員が辞めることになったことを契機に、短大側から退職を勧められたため、私費で補佐員をつけ、授業を継続してきました。しかし、短大側はその補佐員にはティーチングアシスタントとしての役割を認めませんでした。そのような中、今年2月、山口先生が授業中に飲食や無断退室する学生に気付かなかったとして、短大側は事務職への配置転換と研究室の明け渡しを求めてきました。 山口先生はこの不当な処分に対し、代理人弁護士を通して話し合いを行い、なるべく穏便に解決するように努めました。 しかし希望は叶わず、3月23日に短大を運営する学校法人を相手取り、地位確認と事務職への職務変更の撤回などを求める裁判を起こしました。あわせて4月から施行された改正障害者雇用促進法に基づき、岡山労働局に対して紛争解決を求めて斡旋申請をしました。 また、全国視覚障害教師の会 重田(しげた)雅敏(まさとし)代表など多くの有志が支援に立ち上がりました。日盲連 竹下会長も3月23日に談話を出し、同日東京で開かれた記者会見にも同席しました。 【竹下会長談話(抜粋)】 私は厚生労働大臣の諮問機関である労働政策審議会障害者雇用分科会委員として、改正障害者雇用促進法の法案策定にも関わってきました。その時の私の気持ちは、少なくとも目が見えなくなったら解雇されたり、職外しをされるというようなことはないようにしなければならないという強い思いがありました。 ところが、まさにこの4月から改正障害者雇用促進法だけでなく障害者差別解消法が施行されようとしているこの時、一人の視覚障害教員、山口雪子先生が視覚障害を理由に退職勧奨としか思えない処遇ないし職外しがされようとしていることは、誠に遺憾としか言いようがありません。大学側には、まず視覚障害についての理解が不足しているように思います。視覚障害を正しく理解した上で、お互いに建設的な立場で合理的配慮の提供の内容を検討すべきであり、必要があれば視覚障害の特性に精通した専門家の助言も得るべきであると考えます。 今回の経過を伺うと、山口先生は視覚障害を理由にいわれのないいじめをうけているとしか思えません。つまり、これは明らかに辞めさせるための学校経営者のいじめであり、これに抗して学内で一人で戦っている山口先生の気の毒な状況を思うとき、同じ視覚障害者として何をおいても救援しなければならないと考えます。無論、これは山口先生の個人的な雇用問題ではなく、全ての働く視覚障害者に起こりかねない人権問題だと考えるからです。 (平成28年3月23日) ■共生の教育を求め山口先生が文部科学省と懇談・・・5月30日には、全国視覚障害教師の会 重田代表と静岡県立大学 教授ほか、視覚障害を持つ大学教授・准教授5名を含む21名が文部科学省を訪れ文部科学大臣に対して大学・短期大学における障害者差別解消法に基づく運営と、関係者に対する人権教育の推進を求める要請を行いました。日盲連からは情報部長が、全国から寄せられた署名を携え参加しました。 石川(いしかわ) 准(じゅん) 、馳(はせ) 浩(ひろし) 工藤(くどう) 正一(しょういち) 要請に先立ち、文部科学省記者会見室で17名の報道関係者を集めて会見が開かれ、大胡田(おおごだ) 誠(まこと) 弁護士は記者との質疑の中で、「今回の山口先生に対する大学側の措置は、不当な差別にあたる」と指摘しました。 会見終了後は会議室に場を移し、高等教育局私学部企画官に対して約7000人分の署名が手渡されました。文部科学省側から「個別案件では裁判の成り行きを見なければならない面もあるが、人権尊重や障害者差別の禁止については国民的に確認されていることなので、しっかり取り組んでいきたい」とコメントが寄せられました。工藤情報部長も、日盲連という当事者団体の立場から意見を述べました。 最後に、文部科学大臣室を訪れ、大臣秘書に記者会見と要請行動の報告をし、大臣宛の要請書を手渡しました。 ■山口雪子さんを支える会結成・・・5月31日には、岡山地方裁判所で山口先生の初公判が開かれ、本人と弁護団から意見陳述が行われました。山口先生は、「授業は研究と一体でもっとも重要なもの。これからの保育士・幼稚園教師のためにも障害者差別は受け入れられない」と述べました。弁護団の水谷(みずたに) 賢(けん) 弁護士も、「障害のためにできないことを不適格と決め付け、それを理由に授業や研究室を取り上げることは、障害者差別であり、人格権侵害であり、差別解消法にも逆行し、短大の建学の理念にも反する」と訴えました。 同日、報告記者会見の後、世話人の呼びかけで、『豊かな共生社会を子どもたちへ… 山口雪子さんを支える会(略称:山口雪子さんを支える会)』(代表:岡山大学 新納(にいろ)泉(いずみ) 教授)が結成されました。 U.熊本地震における日盲連の取り組み 日盲連は、4月に熊本県・大分県を襲った大地震の被災者支援のため、4月18日に社会福祉法人 日本盲人福祉委員会とともに九州大地震被災視覚障害者支援対策本部(本部長:竹下義樹会長)を立ち上げ、九州盲人会連合会の現地対策本部(本部長:社会福祉法人 大分県盲人協会 衛藤(えとう)良憲(よしのり) 会長・副本部長:一般社団法人 長崎県視覚障害者協会 野口(のぐち)豊(ゆたか) 会長)と連携し、被災地の支援活動に取り組んでいます。 4月27日・28日には、日盲連 藤井(ふじい) 貢(みつぐ) 組織部長が熊本・大分の両県を訪問し、また、5月28日には竹下会長と藤井組織部長が熊本県を訪問、現地で支援活動を行っている熊本県視覚障がい者福祉協会の村上会長や関係者などと情報交換を行いました。 聞き取り調査では、福祉避難所などに避難していた視覚障害者が市営住宅や仮設住宅に入居し始めているものの、移住先での移動や買い物など生活環境に慣れるまでが困難・・・など多くの課題が浮き彫りとなり、竹下会長は「新たな環境で生活を行うためには歩行訓練士による生活訓練が円滑に行われる事が重要だ」と指摘し、実現出来るように「日盲連として調整を行っていく」ことを伝えました。 また、持参した支援物資(音声時計100台と見本用の白杖セット一式)と、株式会社アステムから寄贈された「テレビが聞ける」ラジオTRKO―01B 5台を同協会に提供、その後、視覚障害者が入居する福祉避難所を視察しました。 続いて、竹下会長は熊本市内で視覚障害者への支援活動を行っている出田眼科病院の出田(いでた)隆一(りゅういち) 院長と面談、また熊本障害フォーラムが主催する熊本県内の障害関係団体・自治体関係者が集まった会合に参加しました。 どちらも、関係団体が連携を行い、包括的に障害者を支援していくことが重要だという指摘があり、日盲連として推進している各地域内での支援ネットワーク作りの重要性が再認識されました。 『被災地の皆様へ』 日盲連 竹下義樹会長に思いを聞く −はじめに、今なお不安を抱えて生活をされている被災地の皆様にメッセージをお願いします。 竹下「熊本県・大分県にお住まいの方々が、地震の恐怖に怯えながら、まだ十分ではない支援の中で生活を送らざるをえないことにお見舞いを申し上げるとともに、一日も早く皆様の安心が得られるような対策を行政にもお願いし、日本盲人福祉委員会および日盲連としてもできる限りの視覚障害者への援助を実行していきたいと思います」 −今回の震災で、どのようなことを問題に感じていますか? 竹下「私は5年前の東日本大震災の時に、日本盲人福祉委員会も日盲連も、災害対策とか、災害時の要援護者支援とか、避難所における支援とか、徹底的に議論し調査し、マニュア ルを作ったはずです。そして、国にも自治体にも働きかけてきたはずです。でも、どうでしょう?熊本にそのことは活かされたでしょうか? 熊本の皆様を通してもう一度考え直し、自らができること、地域でできること、そして国や自治体にお願いすること、この3つをもっと丁寧に組み合わせ、災害対策をやることを肝に銘じたいと思っています」 −今後、どのような支援を考えていますか? 竹下「日本盲人福祉委員会や日本障害フォーラムと連携しながら、現地の視覚障害者だけではなく、すべての障害者(手帳所持者)に対して訪問を行おうとしています。 また、我々は東京にいて、被災者との関係では遠い感じを与えてしまう可能性があります。常に現地の支援者に動いて頂くことにはなりますが、我々としても定期的に現地に行きながら、その声を吸い上げながら、直ちに実行できるものを見つけ出したり、または役所・行政にお願いして直ちに実現して頂かなければならないものを見つけながら、それを形にしていくことをやっていきたいと思っています」 ≪3.【ご挨拶】副会長就任にあたり〜小川副会長・及川副会長・伊藤副会長〜≫ 本項はインターネット版音声雑誌「日盲連 声のひろば(http://nichimou.org/magazine-tape/voice/)」 5月号のインタビューを、抜粋してテキスト化したものです。デイジー・カセットテープでのご利用を希望される方は、日盲連点字図書館(電話:03−3200−6160)までお問い合わせ下さい。 ■小川(おがわ)幹雄(みきお)副会長 日盲連あはき協議会会長として、無資格者の撲滅運動や柔整師の保険不正請求問題などに取り組む。また、公益社団法人 島根県視覚障害者福祉協会会長を務める。 小川「私も長い間、日盲連にお世話になってきました。古い言葉かも分かりませんが、最後の奉公だと思って立候補いたしました。障害者権利条約を批准しまして、障害者差別解消法もできたわけですが、日本の歴史で言いますと、 江戸時代の士農工商の身分社会から四民平等の明治維新、そ して終戦後の新しい憲法下で男尊女卑から男女同権へ、こういう社会が変わっていった時期のように、障害者も障害があるから仕方がない・・・こういうことが多かったのですが、障害者が自分の持っている能力を十分に発揮して、意義ある豊かな人生を送れる、そういう社会になればと思っています」 ■及川(おいかわ)清隆(きよたか)副会長 社会福祉法人 岩手県視覚障害者福祉協会の理事長を務めつつ、東日本大震災被災地の声を背負い、さまざまな運動を展開。4月の副会長候補者選挙で再選を果たす。 及川「今回の熊本の地震災害ですけども、多くの被災された皆様にお見舞い申し上げたいと思いますし、過去5年の私たちの活動を踏まえた何か支援・・・って言ったらおこがましいのですが、何か力になればいいなと、今東北ブロックで組織しているプロジェクト委員会で検討中でございますので、今後支援に向けた具体化をしていきたいと考えております。私たち視覚障害者の防災、あるいは減災ということをしっかり根づかせていく活動を継続しなければならないと思っています」 ■伊藤(いとう)和男(かずお)副会長 千葉県立 千葉盲学校の校長を務めるなど、長らく教職に従事する。公益社団法人 千葉県視覚障害者福祉協会の会長職を務めるほか、特定非営利活動法人 全国視覚障害者情報提供施設協会(全視情協)の常任理事としても活躍。 伊藤「日盲連の活動は非常に重要なものだと思っています。日盲連の現時点での活動について、まったく不満はございません。私自身は日盲連に問題があったから役員になることを決めたわけではなくて、関東地区の団体長さんの強い要請があったので、それに応えなければということで今回出馬したということです。(教育問題について)日盲連で私自身が何をやるかと言うことは考えていませんが、教育で大事なのは本を読めるか読めないかということが、教科書や教材がきちんと与えられることが非常に大事だと思っていますから、そういうことについては関心を持っています」 ≪4.各関係府省庁へ陳情≫ 日本盲人会連合は6月22日、全国盲人福祉大会の決議処理に基づく要望事項をまとめ、関係各省庁(厚生労働省・経済産業省・国土交通省・金融庁・文部科学省・財務省・警察庁・人事院・内閣府・消費者庁・外務省)などに陳情を行いました。なお、JR各社・日本放送協会・日本民営鉄道協会などへは郵送で対応しました。また、総務省には後日訪問する予定です。 日盲連ホームページ上では、陳情書の全文を公開しています。どうぞご覧下さい。【URL】http://nichimou.org/all/news/secretariat-news/160624-jimu/ ≪5.【夏季休館のお知らせ】≫ 日本盲人福祉センターは下記期間、休館とさせて頂きます。なお、18日(木)は創立記念日となります。 期間:2016年8月13日(土) 〜18日(木) ご利用の皆様には、ご不便をおかけいたしますが、何卒ご了承下さいますようお願い申し上げます。