平成27年度コンテンツ産業強化対策支援事業 映画上映に関するバリアフリー対応に向けた障害者の視聴環境の在り方に関する調査事業 報告書 平成28年3月 株式会社 新通コム 【目次】 はじめに 1.本調査事業について 1−1 背景 1−2 目的 1−3 内容 2.映画館におけるバリアフリー上映調査の実施 2−1 調査実施場所・実施日 2−2 調査対象 2−3 調査方法 2−4 調査結果 2−4−1 調査対象者数 2−4−2 主な回答内容 2−4−3 まとめ 3.有識者会議 3−1 会議概要 3−2 議事概要 4.まとめ はじめに 我が国の映画、アニメ、音楽、ゲームなどのコンテンツは、「クールジャパン」として海外からも高く評価されており、コンテンツ産業は今後の成長を見込める有望な産業である。国内のみならず、世界中の多くの人々がこれらの日本のコンテンツを楽しんでいる。映画もこのような日本の魅力的なコンテンツの一つであり、多くの人々が映画館での鑑賞を楽しんでいる一方で、「聞こえない」「聞こえにくい」「見えない」「見えにくい」といった障害を持つ人々は、映画のバリアフリー対応が十分に整備されていないため、映画館での映画鑑賞を十分に楽しめていないのが現状である。 そのような中、平成28年4月1日から障害者差別解消法が施行される。映画の視聴環境についても同法にかかる措置の対象とされており、障害を持つ人でも映画の視聴を可能とするべく事業者の努力により字幕付与率は年々高まっているものの、映画館等のインフラや音声ガイドなどのバリアフリー対策を含め、必ずしも十分に整備されておらず、障害者向けの上映は限られた場所、限られた日時で実施されるに留まっているのが現状である。 本事業の実施を通じ、近い将来、障害を持つ人々が、家族や友人、知人などと共に、いつ、どの映画館でも観たい作品を観ることが出来るような視聴環境の整備が促進されることが望ましいと思われる。 ここに「映画上映に関するバリアフリー対応に向けた障害者の視聴環境の在り方」について報告する。 1.本調査事業について 1-1 背景 平成16年の国連総会において、障害者権利条約が採択されたことを受け、わが国においても、平成26年1月に批准した。本条約に定められている障害者の捉え方や、我が国が目指すべき社会の姿を新たに明記するとともに、障害者施策の推進を図るため、目的を明確化する観点から、平成23年に障害者基本法の改正が行われ、本改正を踏まえ、平成25年に障害者施策の基本原則が見直された。また、総合的かつ計画的な推進を図るため、平成25年度から平成29年度までの概ね5年間に講ずべき障害者施策の基本的方向について、障害者基本計画が策定された。 さらに、平成25年6月には障害者差別解消法が制定され、平成28年4月1日から施行される。これら一連の関連法の成立に伴い、障害者関連法における「合理的配慮」として、障害者の文化的生活の享受についても、障害者のための環境整備等適切な措置をとることとされている。映画の視聴環境についても障害者差別解消法にかかる措置の対象とされているが、これまで我が国において邦画のバリアフリー対応はなかなか進んでこなかった。 視覚障害者が映画を鑑賞するためには、音声ガイド(※1)が必要となる。現在、音声ガイド付きの映画を上映する手法として主流となっているのが、FM波で音声ガイドを送信する仕組みである。ボランティア団体等がFM送信機材と貸出し用ラジオを上映館に持ち込み、音声ガイドをFM波で送信する。視覚障害者はラジオでFM波を受信し、イヤホンから流れる音声ガイドを聴く。映画本編のセリフと音声ガイドが被らないよう、上映中は常時オペレーターがチェックしている。このように専用機材やオペレーターが必要となるので、現在は、限られた日時・場所で音声ガイドデータが付与された作品のみの上映が実施されている状況である。 聴覚障害者が映画を鑑賞するためには、日本語字幕ガイド(※2)が必要となる。現在、日本語字幕ガイド付きの映画を上映する手法として主流となっているのが、スクリーンに日本語字幕を投影する方法である。この場合、健常者にとっては不要な情報が投影されることになるので、積極的に取り組む劇場は多くはなく、限られた日時・場所で日本語字幕ガイドデータが付与された作品のみの上映が実施されている状況である。 事業者の努力もあり、日本語字幕ガイド付与率は年々高まっているものの、音声ガイドの付与率は依然として低く、また、映画館のインフラ等を含め、映画のバリアフリー対応は必ずしも十分に整備されていないのが現状である。 また、昨年度実施したバリアフリー上映に関する海外事例調査や国内のニーズ調査等を踏まえ、有識者会議において、障害者と健常者の同時鑑賞を実現するため通常営業時間中の映画館におけるバリアフリー上映の実証実験の実施や、バリアフリー上映の促進に向けた指針が必要であるとの方針が出された。 (※1)音声ガイドとは、視覚障害者向けに、映像作品の「画」が伝えている情報を言葉で説明するナレーション。 (※2)日本語字幕ガイドとは、聴覚障害者向けに、映像作品の「音」が伝えている情報を文字にして表示するもの。 1-2 目的 国内における映画のバリアフリー対策の現状や、昨年度実施した有識者会議において出された方針を踏まえ、今年度事業においては、映画館で通常の作品上映と同時にバリアフリー上映(音声ガイド及び日本語字幕ガイドを付与した作品の上映)を実施し、障害者の映画視聴に関してどのような環境的制約があるか、また、障害者に対して事業者としてどのような対応が必要であるか等について調査を行うこととする。 1-3 内容 (A)映画館におけるバリアフリー上映の実施 通常営業中の映画館を利用してバリアフリー映画の上映を実施する。上映を通じて、障害者の視聴環境のニーズや映画館(興行事業者)のバリアフリー対応、視聴技術等にかかる論点について、障害者及び興行事業者へのアンケートとヒアリング等により調査を行う。 なお、本調査事業においては、視聴覚障害者と健常者の同時鑑賞が可能な環境を創出するため、アプリ「UDCast(※3)」とメガネ型端末や携帯機器(スマートフォン、タブレット端末等)を利用することにより、音声ガイドと日本語字幕ガイドを提供した。この「UDCast」を利用した手法を、前述した旧来のバリアフリー上映手法と比較して、本調査報告書においては「新システム」と呼称することとする。 (B)障害者に対する適切な視聴環境の在り方に関する検討 映画製作会社・映画館(興行事業者)・障害者団体・有識者等により構成された有識者会議を開催し、(A)のバリアフリー上映の実施結果を踏まえ、平成28年4月の障害者差別解消法の施行に向けて障害者にとって適切な視聴環境の在り方、環境整備に関する留意点について検討を行う。 (C)映画上映に関するバリアフリー対応に向けた障害者の視聴環境の在り方に関する指針の作成 映画館でのバリアフリー上映の催促に向けて、事業者の果たすべき役割、映画館における視聴技術(機器等)の利用方法等をまとめた指針を策定し、映画配給会社・映画館(興行会社)、障害当事者等に幅広く周知を行う。 (※3) 「UDCast」とは、セカンドスクリーン(スマートフォンやタブレット端末等)の専用アプリを利用した言語バリアフリー化サービス。音声を解析する「フィンガープリント」又は、人間の耳に聞こえない「音声電子透かし」を映画のマスター音声に埋め込むことで、スマートフォン等のマイクで時間情報を認識し、音声ガイドや日本語字幕ガイド等のデータを映画本編と完全同期して表示することが可能。 2.映画館におけるバリアフリー上映調査の実施  通常営業中の映画館において計3回にわたり、通常の映画上映と同時にバリアフリー上映を実施した。視聴覚障害者と健常者の同時映画鑑賞にあたってどのような環境的制約があるのか等について調査するため、会場において、来場者及び映画館スタッフに対して、アンケート調査を実施した。 2−1 調査実施場所・実施日 通常営業中の映画館において計3回にわたり、通常の映画上映と同時にバリアフリー上映を実施し、会場においてアンケート調査を実施した。調査実施場所及び実施日は以下のとおり。 <第1回> 実施日…平成27年9月12日(土)・9月15日(火) 実施場所…MOVIXさいたま(埼玉県さいたま市大宮区吉敷町4丁目267番2号コクーンシティ コクーンT 2F) 上映作品…「アンフェア the end」「天空の蜂」 <第2回> 実施日…平成27年10月12日(月・祝)・10月13日(火) 実施場所…TOHOシネマズ日本橋(東京都中央区日本橋室町2-3-1 コレド室町2 3F) 上映作品…「バクマン。」「図書館戦争 THE LAST MISSION」 <第3回> 実施日…平成27年11月8日(日)・11月9日(月) 実施場所…T・ジョイ大泉(東京都練馬区東大泉2-34-1 オズスタジオシティ4階) 上映作品…「グラスホッパー」「起終点駅 ターミナル」 2−2 調査対象 2−1に記載の3会場の来場客及び映画館スタッフを調査対象とした。具体的には以下の4類型を対象とした。 @視覚障害者(調査実施日に来場した全ての視覚障害者を対象とした。) A聴覚障害者(調査実施日に来場した全ての聴覚障害者を対象とした。) B映画館スタッフ(調査実施日に現場対応を担当したスタッフを対象とした。) C一般来場者(調査実施日に来場した一般客のうちから、なるべく障害者の座席付近の方を対象者として抽出した。) 2−3 調査方法 2−2@〜Cを対象に、以下の方法により調査を実施した。 @視覚障害者…調査員による聞き取り。 A聴覚障害者…アンケート用紙に自記式で回答。詳細な部分については手話通訳者による確認を実施。 B映画館スタッフ…アンケート用紙に自記式で回答。 C一般来場者…アンケート用紙に自記式で回答。 2−4 調査結果 2−4−1 調査対象者数 調査対象者数は表1のとおり。さらに詳細な属性は以下のとおり。 表1 全調査実施日を通した調査対象者数 <視覚障害者> 参加人数/54名(3会場計) 男女別人数/男性:25名 女性:29名 年代別/30代(1名)、40代(21名)、50代(18名)、60代(10名)、70代(4名) 会場別/MOVIXさいたま(19名)、TOHOシネマズ日本橋(18名)、T・ジョイ大泉(17名) 作品別/アンフェア(8名)、天空の蜂(11名)、バクマン。(4名)、図書館戦争(14名)、グラスホッパー(11名)、ターミナル(6名) <聴覚障害者> 参加人数/108名(3会場計) 男女別人数/男性:33名 女性:75名 年代別/10代(9名)、20代(15名)、30代(18名)、40代(32名)、50代(19名)、60代(8名)、70代(7名) 会場別/MOVIXさいたま(35名)、TOHOシネマズ日本橋(48名)、T・ジョイ大泉(25名) 作品別/アンフェア(16名)、天空の蜂(19名)、バクマン。(16名)、図書館戦争(32名)、グラスホッパー(12名)、ターミナル(13名) <映画館スタッフ> 参加人数/53名(3会場計) 会場別/MOVIXさいたま(24名)、TOHOシネマズ日本橋(16名)、T・ジョイ大泉(13名) <一般来場者> 参加人数/224名(3会場計) 男女別人数/男性:80名 女性:144名 年代別/10代(17名)、20代(38名)、30代(28名)、40代(45名)、50代(51名)、60代(32名)、70代(11名)、80代(2名) 職業/学生(24名)、会社員(101名)、公務員(12名)、自営業(12名)、専業主婦(41名)、無職(16名)、その他(18名) 会場別/MOVIXさいたま(84名)、TOHOシネマズ日本橋(73名)、T・ジョイ大泉(67名) 作品別/アンフェア(38名)、天空の蜂(46名)、バクマン。(31名)、図書館戦争(42名)、グラスホッパー(31名)、ターミナル(36名) 2−4−2 主な回答内容 アンケート調査の結果、主な回答内容は以下のとおり。 <視覚障害者> ○音声ガイド付き日本映画の鑑賞経験 鑑賞したことがある…96.3%、 鑑賞したことがない…3.7% ○過去1年間に音声ガイド付き日本映画を鑑賞したことがあるか。 月に1回程度…42.3%、 2〜3ヶ月に1回程度…28.8%、 半年に1回程度…11.5%、 1年に1回程度…5.8%、 なし…11.5% ○観たい映画に音声ガイドがついていなくて、映画鑑賞を諦めたことがあるか。 諦めたことがある…53.7%、 諦めたことはない…46.3% ○上映作品や上映時間を調べる際、映画館が提供するサービスとして利用するものは何か。 劇場のホームページを利用…57.4%、電話での24時間自動音声案内を利用…29.6% さらに自由回答意見として、「ホームページが音声操作対応になっておらず、チケット購入が難しい」「ホームページが分かりにくい」という回答が見られた。 ○チケットの購入方法について。 「映画館の窓口にて自分で購入」及び「映画館の窓口にて同行者が購入」が合わせて77.8%を占めた。ホームページから予約したいのだが操作が難しく、結局劇場窓口にきて購入された方が多く見られた。 ○映画館スタッフの対応について。 劇場の入り口から座席までの各所での案内に関しては、ほぼ問題が無かったという回答が多く見られた。 ○携帯機器の使い心地について。 「使いやすかった」「まあまあ使いやすかった」と回答した方が98.2%を占めた。 ○新システム導入による映画鑑賞機会の増減について。 今後、今回のような「音声ガイド付き映画の上映システム」が導入された場合、劇場での映画鑑賞の機会は増えるかという問いに対して、98.1%の方が、劇場での映画鑑賞の機会が増えると回答。? <聴覚障害者> ○日本語字幕ガイド付き日本映画の鑑賞経験 鑑賞したことがある…84.0%、 鑑賞したことがない…16.0% ○過去1年間に日本語字幕ガイド付き日本映画を鑑賞したことがあるか。 月に1回程度…19.1%、 2〜3ヶ月に1回程度…12.4%、 半年に1回程度…22.5%、 1年に1回程度…25.8%、 なし…20.2% ○観たい映画に日本語字幕ガイドがついていなくて、映画鑑賞を諦めたことがあるか。 諦めたことがある…85.2%、 諦めたことはない…14.8% ○上映作品や上映時間を調べる際、映画館が提供するサービスとして利用するものは何か。 劇場のホームページを利用…94.4% また、自由回答意見として、「日本語字幕ガイド付き上映作品の告知をしてほしい」という回答が見られた。 ○映画館スタッフの対応について。 劇場の入り口から座席までの各所での案内に関しては、ほぼ問題無かったという回答が多く見られた。 ○メガネ型端末の使い心地 「使いやすかった」「まあまあ使いやすかった」と回答した方が62.0%を占めた。軽量化を望む意見も見られた。 ○新システム導入による映画鑑賞機会の増減について。 今後、今回のような「日本語字幕ガイド付き映画の上映システム」が導入された場合、劇場での映画鑑賞の機会は増えるかという問いに対して、89.8%の方が劇場での映画鑑賞の機会が増えると回答。 <映画館スタッフ> ○来場時の対応について。 視覚・聴覚障害者の方がチケット購入から座席に座るまでの案内について、「スムーズに出来た」という回答が大半であった。他方で、「経験不足により上手くコミュニケーションがとれなかった」等の回答も一部見られた。 ○機器の貸出し時の対応について。 視覚障害者の方に対して28人中4人のスタッフが、また聴覚障害者の方に対して27人中6人のスタッフが「スムーズに出来なかった」と回答。理由としては、「事前の準備不足」や「メガネ型端末の使用方法の説明が難しい」という回答が見られた。 ○機器自体の故障・トラブルなどについて。 視覚障害者向けバリアフリー上映で利用した携帯機器の故障・トラブルについては、ほぼ無かったという回答。 聴覚障害者向けバリアフリー上映で利用したメガネ型端末の故障・トラブルについては、33人中13人のスタッフが、トラブルが発生したと回答。トラブルの具体的な内容は、「字幕と映画本編が同期されず、字幕の表示が遅れた」や「機器が熱を持つ」などがあった。 ○機器のメンテナンスについて。 30人中24人のスタッフがマニュアル通りにメンテナンスが出来たと回答。他方で「充電所要時間の認識不足」や「機器の台数不足」により十分に対応出来なかったとの回答も見られた。 ○通常営業日に障害者が予告なく来館することへの懸念について。 通常営業日に障害者が予告なしに来館することに対する懸念の有無について、48人中35人のスタッフが「懸念事項がある」と回答。「混雑時に障害者に対して十分な対応が出来るか不安、スタッフの人数が足りるか不安」といった回答が見られた。このような意見がある中で、「障害者の方にも映画を楽しんでいただきたいので、頑張る」「そのためにスタッフの意識改善や十分なシミュレーションが必要」との前向きな意見も多く見られた。 <一般来場者> ○障害者の方の来場認知について。 一般来場者のうち、49.6%の方が視聴覚障害者の来場に「気付いた」と回答。そのうち、「気付いたけれども、特に行動等で気にはならなかった」という意見が大半を占め、さほど気にならずに映画を鑑賞していた模様。 ○障害者差別解消法の認知について。 80.8%の方が「知らなかった」と回答。 ○バリアフリー上映に対する意見について。 「積極的に実施していくべき」「すべての人が楽しめる環境づくりが進んでいることを知って、嬉しく思った」等、肯定的な意見が多数見られた。 2−4−3 まとめ 現在、視覚障害者や聴覚障害者において「積極的に映画館に出かけて映画鑑賞をしたい」と思われる方は、障害者全体からみると決して多くはないかもしれない。映画館で映画を鑑賞する意欲はあっても、鑑賞を希望する上映作品に「音声ガイド」や「日本語字幕ガイド」が付与されていなかったり、劇場のホームページが音声操作に対応していなかったりという環境要因が原因となっているものと考えられる。本アンケート調査にご協力をいただいた障害者の方からも、「映画鑑賞に対する意欲」が窺える一方で、前述した要因が原因となり「映画鑑賞を諦めてきた」方が多く見受けられた。 このような現状の中で、障害者と健常者の同時映画鑑賞を実現するシステムを利用してバリアフリー上映を実施したところ、各種機器の使い勝手や劇場での対応等については多少の不満点が挙げられ、指摘事項について改善を行う必要があるが、約9割の対象者が当該システムの導入により「映画鑑賞に行く機会が増える」と回答している。 また、映画館のスタッフへの要望も視覚、聴覚障害者それぞれから多々挙げられており、当該システム導入にあたり、機器の準備や説明及び館内サービス等、要望事項への対応が求められている。劇場側は、バリアフリー上映の実施について前向きな姿勢を示している一方で、追加オペレーションによる受け入れ体制の構築や、それに費やすコストの問題等の不安が窺えたことは、今後の重要な懸案事項である。 一般来場者の方々は、障害者支援の観点から当該システムの導入について全体的に肯定的であったが、劇場内での機器利用や障害者に同伴している補助犬について懸念を示している意見も一部有り、一般来場者に対する事前のバリアフリー上映告知やさらなる啓蒙活動が必要であると思われる。 3.有識者会議 3−1 会議概要 【日時】 平成28年2月4日(木) 14:00〜16:00 【場所】 経済産業省 別館3階(312室) 【委員】 大河内直之/東京大学先端科学技術研究センター 特任研究員 華頂 尚隆/一般社団法人 日本映画製作者連盟 事務局長 西田 順一/東宝株式会社 映像本部 映画営業部 映画営業管理室マネージャー 会田 郁雄/全国興行生活衛生同業組合連合会 顧問 工藤 正一/社会福祉法人 日本盲人会連合 情報部部長 小出真一郎/一般財団法人 全日本ろうあ連盟 教育・文化委員会委員長 新谷 友良/一般社団法人 全日本難聴者・中途失聴者団体連合会 理事長 小高 公聡/NPO法人 シネマ・アクセス・パートナーズ 理事長 宇野 和博/弱視者問題研究会 教育問題担当本部役員 岡本 敏幸/株式会社松竹マルチプレックスシアターズ MOVIXさいたま 総支配人 山口 結登/TOHOシネマズ株式会社 TOHOシネマズ日本橋 支配人 花田 尚謙/株式会社ティ・ジョイ T・ジョイ大泉 サイトマネージャー 山上徹二郎/NPO法人メディア・アクセス・サポートセンター 理事長 【オブザーバー】 平井 淳生/経済産業省 商務情報政策局 文化情報関連産業課 課長 川又 竹男/厚生労働省 障害保健福祉部 企画課 課長 加藤  敬 /文化庁 文化部 芸術文化課 課長 【議題】 (1)映画館におけるバリアフリー映画上映の実施に係る調査報告について (2)映画館における運用マニュアル及び障害者のための利用ガイドラインについて (3)映画館におけるバリアフリー映画上映の実施における課題・問題点等について (4)平成28年度以降の映画のバリアフリー上映に関する対応について 3−2 議事概要 (1)映画館におけるバリアフリー映画上映の実施に係る調査報告について 計3回にわたり実施したバリアフリー上映及び会場で実施したアンケート調査結果について報告した。詳細については2.映画館におけるバリアフリー上映調査の実施を参照されたい。 (2)映画館における運用マニュアル及び障害者のための利用ガイドラインについて 映画館でのバリアフリー上映の催促に向けて、事業者の果たすべき役割、映画館における視聴技術(機器等)の利用方法等をまとめた指針を策定し、これを報告した。 映画館(興行事業者、主に劇場係員)向けの《バリアフリー映画上映「映画館用マニュアル」》では、視聴覚障害者への対応方法や、バリアフリー上映に利用する機器(携帯機器、メガネ型端末等)の仕組み、操作方法、トラブルシューティング等についてまとめた。 視聴覚障害者向けの《視覚障害者向け「スマホで聴く音声ガイド」ご利用ガイド》及び《聴覚障害者向け「メガネで見る字幕ガイド」ご利用ガイド》では、バリアフリー上映に利用する機器の操作方法等についてまとめた。 (3)映画館におけるバリアフリー映画上映の実施における課題・問題点等について 上記(1)及び(2)の報告を踏まえ、映画館におけるバリアフリー映画上映の実施における課題・問題点等について議論した。概要は以下のとおり。 <映画館関係者からの見解> ○障害者を招いて事前研修を実施することや、教育支援プログラムを作る必要性がある。 ○従業員の大半がアルバイトスタッフで構成される中、障害者への接客に対する理解を深めるためには時間が必要。 <バリアフリー上映システム開発者からの見解> ○アンケート調査結果からも分かるように、メガネ型端末等の普及により視聴覚障害者の映画鑑賞の機会も増えていくと予想される。 ○視覚障害者が自身のスマートフォン等を劇場に持ち込み、音声ガイド付き映画を鑑賞することについてはハードルが低いと感じたが、聴覚障害者が利用することとなるメガネ型端末については更なる開発・改良が必要であると認識している。 (4)平成28年度以降の映画のバリアフリー上映に関する対応について 障害者差別解消法が平成28年4月1日から施行されることを踏まえ、平成28年度以降の映画のバリアフリー上映に関する対応について議論した。概要は以下のとおり。 <映画業界団体からの見解> ○新システム(音声電子透かし技術とフィンガープリント技術を利用したハイブリット型) をデジタルシネマパッケージに組み込む工程について、これまで経験したことのない作業であることに加え、映画会社及び作品によってポストプロダクションの工程が異なっているため、この作業工程を一本化する必要がある。多くの映画製作者とすべての作品を対象とする場合、製作配給の実務担当者への説明会を実施し、理解を求めることが必要。 ○邦画への日本語字幕付与率は元々高いが、音声ガイドはあまり制作されてこなかったため、音声ガイド制作費用の捻出が課題となる。 ○新システムが深く浸透しスタンダードとなるには、時間的猶予が必要であると予想される。 ○全国の映画館は今後も増加傾向にあり、過当競争に加えデジタル化への設備投資など、経済的には非常に厳しい状況に置かれている。 ○新システム導入は、製作配給サイドにはバリアフリーデータ製作といった永続的な経費負担がかかるものの、映画館サイドには人的なオペレーションが求められるのみで、経済的な負担がないといった点が支持されている。 ○日本語字幕ガイドの付与率は高いが対応するメガネ型端末の普及はこれからである。対して、音声ガイド対応機器の普及は比較的容易ではあるが、音声ガイド自体の付与率が低いといったことが現状と言える。本格的運用の開始を目指す上で、製作配給・映画館以外の関係者の方々に対し、当事者意識を持った前向きな取り組みの検討を要望する。 ○今後、新システムに対応した映画作品には適合マークを表示する方向で検討しており、映画館のホームページや広告に記載することを想定している。 <映画配給関係者からの見解> ○日本語字幕・音声ガイドの製作をする際、権利者・製作委員会の許諾を受け、取り扱いや管理が慎重に行われている中で、今後、製作本数が増えていくと仮定した場合、製作会社と製作委員会の理解と協力が必須である。 ○日本語字幕や音声ガイドを制作するための追加の費用負担は厳しい状況に置かれているため、費用援助等がある場合は希望する。 ○現在、旧来の方式でバリアフリー上映を実施しているのは、日本語字幕ガイド付き上映が60〜70サイト/年、音声ガイド付き上映が5〜8サイト/年。旧来の方式から新システムに移行していくことにより、この現状から脱却し、全国300劇場での公開が期待できる。配給会社として、製作会社と映画館との橋渡し役となり、より多くの人々が映画を楽しめるよう、前向きに取り組んでいきたいと考えている。? <視覚障害者団体からの見解> ○インターネットを使いこなせる視覚障害者は少なく、ホームページから情報を得ることはまだまだ困難である。 ○視覚障害者におけるスマートフォン普及率は低いため、レンタル対応などにより、スマートフォンを持っていない視覚障害者でもバリアフリー映画を鑑賞できる環境整備が求められる。 <聴覚障害者団体からの見解> ○新システムの導入に喜びの感想も聞く反面、現在のメガネ型端末は重いなどの感想もある。長時間装着するため、さらなる開発・改良を加え軽量化等を進めていただきたい。 ○メガネ型端末を障害者自身が個人で所有して劇場に持ち込むのは、難しいと感じた。 ○現状では、映画館で日本語字幕ガイド付き作品を鑑賞する際、バリアフリー上映を実施している映画館の場所や実施日を見つけるのが大変だと多数の方が感じている。それゆえ、便利な場所で自由度の高い鑑賞を望んでいる。 4. まとめ デジタル技術の革新により開発された新システムを利用することで、障害者自らが持ち込んだ機器で、日本語字幕ガイド及び音声ガイドが付与された作品であれば、いつでもどこでも鑑賞できる環境の構築が期待される。これは、映画を製作する製作配給サイドと、映画を上映する映画館サイドの両輪の民間努力によって、はじめて達成される。 アンケート調査及び有識者会議における議論の結果を考察すると、障害者の映画の十分な視聴環境を実現するためには、次の2つの課題を解決する必要がある。 @劇場側の受入れ体勢の強化  スタッフの教育支援プログラムの必要性と受け入れ時のスタッフ増員、障害者対応の事前教育など、費用的・時間的負担の効率的な解決が求められる。また、スタッフの教育支援に関しては実習講義を含む一定のプログラムを確立する必要性も考えられる。 A新システムに対応する機器の普及 携帯機器やメガネ型端末は、今後、各メーカー間の競合などによりさらなる技術革新が見込める一方、視聴覚障害者に普及するまでには多少なり時間がかかることが予想される。 また、新システムによりバリアフリー上映をスタートする際は、新システム対応機器の説明だけでなく、上映情報へのアクセスなど利便性の高い広報も一考するべきである。 聴覚障害者が利用することとなるメガネ型端末は、現在の価格が高額であり、重量や使い心地の面でも改善余地が多く、一般的な普及には至ってはいない。字幕ガイドに関しては、当事者所有のメガネ型端末を利用して鑑賞することが前提となるが、初期は、端末の技術革新の過程期間とし、特段の措置として、映画館や障害者団体で機器のレンタルを行うことも検討していくことが必要となる。ただし、全国の映画館でのレンタル用メガネ型端末の購入が現実的ではなく、障害者団体からの機器の貸し出しなど映画館のカバレッジを漸次拡大するような方策を広く検討することが現実的だろう。 初期における機器不足の問題は、新システム導入の重要検討課題であり、早期の対応が求められる。 視覚障害者が利用することとなるスマートフォンなどの携帯機器の普及については、一般的には比較的容易に入手可能な機器であるため、当事者所有の携帯機器を使用して新システムの音声ガイドの利用を促進する方向性が妥当であると言える。しかし、現状の音声ガイド付与作品は、日本語字幕ガイド付与作品数と比較すると少なく、付与率を高めることが重要である。既存の文化庁からの助成を効率的に運用しつつ、企業努力を持って付与率を高めるべきである。 障害者の映画の十分な視聴環境を実現するためには、以上の課題に対して暫時検討し、対応していくことが望ましい。 具体的には、興行事業者においては全社的な研修プログラムを導入し、本調査事業において作成したマニュアルを活用しつつ、映画館スタッフの育成に取り組む必要がある。また、新システムの本格的運用開始時期については、機器の普及状況等を考慮して、視覚障害者向け音声ガイドの稼働を先行し、日本語字幕ガイドの本格導入については、メガネ型端末の技術革新を注視しながら進めていくことが望ましいと考える。