第3章 まとめ  第3章 まとめ  1 ガイドヘルパーによる移動支援について  従来、ガイドヘルプ事業は、ホームヘルパー制度の一環として、国が定めた一定の研修を終了した者によって行われてきたところである。今回調査によると、介護方法や守秘義務の遵守等基本的事項について、多くの問題が提起された。これら解決には、時間を要するものであるが、障害者の自立への努力、ガイドヘルパーの職業人としての倫理観を自覚し、相互理解と協調が必要と思われる。以下、基本的事項について述べる。  (1)ガイドヘルパー利用による移動の利点について  視覚障害者のガイドヘルプには、安全性(安心感)、能率性、見た目の自然さ、視覚障害者・ガイドヘルパー双方にとっての歩きやすさ、の四つが求められる。独り歩きに馴れている視覚障害者でも、初めての場所に独りで行くことはいろいろと不安や困難があるが、ガイドヘルパーと外出すると、安全で能率的な移動ができ、新幹線のグリーン車や飛行機のファーストクラスに乗っているように快適だといわれる。  また、適時、的確な情報提供を受けることにより、短時間に多くの用事を済ますことができたり、二人で歩く事により歩行速度を速めることもでき、時間を節約することもできる。他にも独り歩きの時のような緊張感(常に聞き耳をたてて周囲を気にしたり、立ち止まって挨拶をすると向いていた方向が判らなくなってしまう等)を持つ事なく、歩きながら会話ができるぐらいのリラックス感を持つなどの精神面のおける利点が多い。  このように、ガイドヘルプには視覚障害者が円滑な生活を送る上で不可欠な役割が期待されており、ガイドヘルパーには、視覚障害者の利用目的を十分把握し、その目的達成を支援していくための技能、ノウハウを活用していくことが求められている。  ガイドヘルパー制度を利用するということは、ガイドヘルパーとの出会いの場でもあり、共に歩くという他者とのコミュニケーションの場でもある。  (2)移動支援(介助)と、介護との違いについて  健康な障害者に対する移動支援は、病人や高齢者に対する介護とは異なる。障害者本人ができること、できないこと、どんな支援(手助け)が必要かをよく話し合い、十二分に把握してガイドをすることが重要である。  失明後間もない視覚障害者の中には、手引きされることに慣れていない人もいる。どうすれば安全か、必要に応じて話し合い、知らない場合は教えていくことも、社会参加を促進する上で必要なことである。  ガイドを始める前に、その人が慣れているガイドの方法を聞き取り、もしその方法に問題があれば話し合い、二人にとって安全かつ効率的な方法でガイドを行うことが重要である。  (3)目的地までの経路について  視覚障害者が、あらかじめ、できる限りの情報を入手し、下調べをすることも社会参加のためには必要なことともいえるが、単独歩行の経験がない人や要領よく説明できない人もいることから、初めて行く場所については、あらかじめ、経路や方法を相談し、ガイドヘルパー自ら下調べをする必要がある。  (4)ガイド中の交通費  ガイドヘルプ中の交通費は、原則として、ヘルパーの分も利用者である視覚障害者が負担する。馴れた経路の方が安心という利用者もいれば、新しい経路を覚えたい、お金がかかっても時間を節約したいという利用者もいる。経路や方法については、あらかじめよく話し合って決めることが必要である。  (注)平成18年10月から市町村実施事業となるため、負担方法が変わる事も考えられる。  (5)待ち合わせ場所について  視覚障害者は看板や大時計などは見えないので、改札口を出た所、ポストの前等、体感できる場所を待ち合わせ場所に決めることが、すれ違いや時間のロスを防ぐために有効である。このため、待ち合わせ場所の決定は、利用者側にある。  (6)ガイドヘルパーの指名について  従来、担当ガイドヘルパーは、行政または事業者が、その都度「だれが行くか」を決定し、派遣を行ってきた。その中では、利用者から、「これまでの人がよかったのに変えられてしまった」という声が当然上がってきていた。なにより、介助とはごくプライベートな性格のものであって、そうした「行政・委託事業者などの都合で派遣される見ず知らずの人」に簡単に依頼できるものではないという人権的な問題がある。派遣側の事情はあるにしても、複数のヘルパーを候補に挙げておき、利用者の意向を聞くことも必要であろう。  (7)守秘義務の遵守について  視覚障害者が介助を受ける場合、何を食べ、どこに行き、だれと会い、という生活行動や、果ては暗証番号や趣味嗜好、預金残高、全てのことを介助者にさらすことになる。その意味で、ガイドヘルパーと視覚障害者の間には、単に介助する側とこれを受ける側という関係以上の深い信頼関係が必要になる。したがって、ガイドヘルパーが職務を通じて知った利用者のプライバシーについて守秘義務を負うのは当然であるが、実際、プライバシーが流出した事例はアンケート調査結果からも多数みられる。意図的かどうかは別として、ガイドヘルパーが利用者との会話の中で、他の利用者や他のガイドヘルパーのことを話題にしていることは事実であり、そうしたことにより他の利用者の個人情報を漏らしたり、名誉を傷つけるようなことにもなるのである。  このように、ガイドヘルパーは、利用者の個人情報を十分把握することにより、その目的を達成できるが、その職務遂行は利用者との信頼関係に基礎をおくものである。その意味で、守秘義務の遵守は絶対不可決の条件であって、利用者の基本的人権を尊重する趣旨からも、行政や事業者による研修の実施が強く求められる。  (8)ガイドヘルプ制度の問題と課題  ガイドヘルパー制度は、1982(昭和57)年、心身障害者家庭奉仕員(ホームヘルパー)派遣制度として発足した。しかし、この制度では視覚障害者の外出を保障するのには不十分であった。1988(昭和63)年、家庭奉仕員派遣制度の中に「ガイドヘルパーを含む」こととされた。この時点からガイドヘルパー派遣制度は、国の補助事業として、各自治体の事業となった。この制度の内容は、実施主体は、区市町村。派遣対象は、18歳以上の1〜2級の重度視覚障害者。派遣内容は、外出時の付き添い。費用負担は利用者の所得に応じて。その他細部は、実施主体に委ねられた。  本事業が全国的に展開されるようになったことは、視覚障害者にとって朗報であったが、問題も多かった。その一つは、実施主体によってその内容に格差が生じていることであった。例えば、文化活動、レクリェーション活動、日常生活の買い物などにも利用できない自治体がほとんどであった。また、利用回数、利用時間などについても市町村による格差が生じ、今日と同様の課題を抱えていた。  1988(昭和63)年以降、全国で実施されているガイドヘルパー制度を、ネットワーク化して、全国各地へ出かけるときに利用しやすくするような仕組みづくりが行われた。  1990(平成2)年には、身体障害者福祉法の中に「明るいくらし促進事業」が規定され、移動支援については「ガイドヘルパーネットワーク事業」がメニューとして位置付けられ、都道府県・指定都市間を移動する場合に、その目的地において必要となるガイドヘルパーが確保されることとなった。  その後、このメニュー事業は、障害者の社会参加推進を総合的かつ効果的に推進するために、2003(平成15)年5月「障害者社会参加総合推進事業」として統合・再編された。これに伴い、ガイドヘルパーネットワーク事業も移動支援事業の「指定居宅介護事業者情報提供事業」と改められた。  2005(平成17)年10月、新たに障害者自立支援法が制定され、2006(平成18)年10月から「ガイドヘルパー事業」は、地域生活支援事業として市町村が実施することとなった。厚生労働省によれば、ガイドヘルパー事業は、市町村の地域特性を尊重することを主眼に、市町村の判断で実施されることが最良であるためであるとされている。しかしこの改正によって、実施主体の財政事情によっては事業事態が実施されない。あるいは利用時間の縮小、利用制限などが設けられるなど市町村格差が生じることが懸念される。また、ガイドヘルパーの資格や質についても市町村に委ねられることから、現在実施されているガイドヘルパー養成研修事業も任意実施となり、ガイドヘルパー養成研修の未受講者やホームヘルパーの資格のない者がガイドヘルパーとなることも考えられ、移動支援の安全性の確保についても危惧されるところである。  さらに、障害者自立支援法では、ガイドヘルプが二種類に大別されることになった。一つは介護給付費の「行動援護」、もう一つは地域生活支援事業の「移動支援」である。視覚障害者のガイドヘルプは「移動支援」として実施されることとなった。障害者自立支援法では、障害が重い人へのサービスから予算を割り当てるため、介護が必要な障害者に対するサービスは国の義務的経費、介助が必要な者は、市町村単独事業として位置づけられ裁量的経費で運営されるものである。支援費制度で一定レベルのサービスが提供されるようになってきたところに、財政事情が厳しい市町村では、視覚障害者のガイドヘルプ事業が縮小されたり、社会的資源の活用という名目で、安価なボランティアに依存する所が出てくる可能性も十分ある。  2 車両による移動支援について  (1)ガイドと自家用自動車の運行について  従来、ガイドヘルプ事業は、車いす利用者、視覚障害者及び知的障害者が外出する際にガイドヘルパーを派遣し、自立を支援するものとして重要な役割を果たしてきた。この事業では、電車、バス等公共交通機関を利用することを原則としながらも、事実上は、障害者の利便を考慮して、ヘルパーの自家用自動車を使用して運用されるのが大半であった。ところが、支援費制度への移行を前にして、自家用自動車の利用は支援費の対象とすることができない旨の見解が国から示された。その理由としては、自家用自動車の有償運送は道路運送法に抵触する恐れがあることや、事故の際の対応が困難であることのためであった。  しかし、障害者の社会参加を促し、その前提となる外出を合理的な方法で支援することは、障害者福祉事業の中でも重要な支援策の一つである。国、地方公共団体は、公共交通機関の利用が困難な障害者、交通の利便が芳しくない地域においては、外出に支障を来さないための移動手段を整備拡充することが望まれる。  (2)通院患者の移送サービスについて  慢性病や腎不全による人工透析を受けている者のように定期的に通院する者にとっては、軽度な者は、公共の交通機関を利用できるが、移動困難な者は、自宅からバス停や駅まで徒歩、交通機関の乗り換え等の行程が苦痛なのでタクシーを利用するケースが多い。この場合、徒歩の部分のみをタクシー利用ではなく、自宅から直接病院まで利用することとなるので、通院費用も多くなる。また、朝や雨天時には他の利用者が多くなるため、その確保が難しくなる。このことは、通院に関する公的負担がない中、生活の質を落とす原因ともなっている。  重度の透析患者の中には、入院する必要はないのに、対応できる移動支援がないため、やむなく社会的入院をしている者もいる。費用の増加に加え、本当に入院が必要な患者が入院できない事態を招いている。  移動困難な視覚障害者や高齢者、通院患者等の生命を守るための通院の移動手段を保障する整備が求められるところである。